モバP「精神安定装置?」 (50)
モバマスSSです。
モバP「平行世界体感装置?」の続きです。
短めです。
SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1456273465
晶葉「P、こっちへ来てくれ」
P「ん? また新しいものでも作ったのか?」
晶葉「ああ。今回は安全機構のついた完成品だ。とはいえ、まだ臨床試験はしていないがな」
P「前の平行世界体感装置の時も、何か知らんがこんなに遅い時間だったよな?」
晶葉「まあ、Pを自由に使える時間となると、必然的に夜になってしまうからな。さあ、私の研究室についたな」
P「お邪魔しまーっす」ガチャ
P「相変わらず散らかってるなあ」
晶葉「居心地が良いように物を配置してあるんだ。あまり動かさないようにな」
晶葉「さて」
晶葉「今回私が作ったもの。それは――」
晶葉「精神安定装置だ」
P「精神安定装置?」
P「なんか、メガネみたいな形してるけど……」
晶葉「うむ。今はコンタクト型にできるよう改良中だ」
P「でも、精神安定装置って……なんか聞くからに危険な香りがするんだけど」
P「俺、前みたいに平行世界に行ったりするの、嫌だぞ?」
晶葉「ああ、その辺は大丈夫だ。被検体はPではない。うちのアイドル達だ」
P「了承しかねるぞ」
晶葉「危険はない。効果は確かに精神に現れるが、前回のように記憶領域や精神領域に直接働きかける装置ではない」
晶葉「私だって、日々進化しているんだぞ」フフン
晶葉「この眼鏡をかけていると、自分の信頼している人が視界の隅に現れて、自分のことを見守ってくれているように感じられるんだ。どうだ?」
P「でもな……」
晶葉「私のことが信用できないか」
P「そういうわけじゃないけど……もしものことがあったらと思うと、どうしても首を縦に振れん」
晶葉「……わかった」
晶葉「原理を説明してやる。安全なのは間違いない。なぜなら、これは人間に普段から起こっている現象を応用したものだからな」
P「俺達が?」
晶葉「そう、人間が。たとえば、これを見てほしい」カタカタ ッターン
P「……なんだこれ」
晶葉「Pよ、何に見える?」
P「点が三つ、逆三角形の頂点の位置に配置されているように見えるけど」
晶葉「説明ご苦労。人の顔に見えないか? 目と、口」
P「ああ、言われてみれば確かに」
晶葉「人は、三つの点が集まった図形を見ると、人の顔と判断するようにできているんだ。シミュラクラ現象と呼ばれている」
P「そういえば、前に幸子が一人で真夜中の廃墟に心霊ロケに行ったとき、壁に顔が見えるとか言ってた気が」
晶葉「そう、木目や汚れさえも、点が三つあればそれは人の顔に見えてしまう……あんまりアイドルをいじめるんじゃないぞ?」
P「埋め合わせはしたさ」
P「で、そのシミュークラクラ現象がどうしたって?」
晶葉「シミュラクラ現象だ。まあこれは、発明の要素の一つに過ぎない。さらにP、カクテルパーティ効果という現象を知っているか?」
P「ああ、それは知ってるぞ。人が喋ってて騒がしい場所でも、自分の名前だけは切り抜いたみたいにはっきり聞こえる、ってやつだ」
晶葉「そう。実はそれは、視覚においても成立する。自分の見知った顔が群衆の中にあると、吸い寄せられるように目が動くだろう、そういうふうにな。人は、自分の知っているものに対して、敏感に反応できるんだ」
P「なるほど。あんまりそれは経験ないけど」
晶葉「……まあそれはいい。この装置は、シミュラクラ現象とカクテルパーティ効果を併用した代物なんだ」
晶葉「まず、自分が見守っていてほしい人の顔を機械にインプットさせる。例えば今回ならPの顔をな、はい、チーズ」カシャ
P「おっ……思わず笑顔になっちまった」
晶葉「うむ、アイドル顔負けの笑顔だ。私がプロデューサーなら、思わずスカウトするかもしれない」
晶葉「さて、こうしてやると、装置はPの顔の構成要素を分解し、普段の生活パターンの中で観測できる成分にまで簡略化するんだ」
P「あれれ、いきなりわかんなくなったぞ」
晶葉「要するにだな。三つの点があると顔に見える。でもそれは、誰の顔とか言うわけじゃないだろう。顔という概念が見えるだけだ」
晶葉「私はその顔という概念に、個人の顔のパターンを組み込んだんだ」
P「三つの点をみたら、俺の顔が浮かぶようにしたってことか?」
晶葉「それに近い。三つの点というわけにはいかないが、普段の風景の中でもよく見られる、十程度の点と線にPの顔をパターン化することで、風景の中にPの顔が現れるようにした」
P「なるほど。でも、今のところ俺の顔を簡単にしただけだよな? 俺の像は見えないと思うんだけど」
晶葉「ああ。まだ不完全だ。ここからが本題なのだが、この眼鏡は、顔のパターンが視界上に現れたとき、その点と線を僅かにマーキングし、強調するんだ」
晶葉「そうすると、使用者はその強調されたパターンからPの顔を連想し、Pがそこにいると錯覚する。これがカクテルパーティ効果の応用だ」
P「なるほどな。普段起こりうる現象の応用か……確かにそれなら安全かな」
晶葉「だろう!?」バッ
P「でも……そんなんで精神を安定化できるのか?」
晶葉「見知った顔に見守っていてもらえるというのは、緊張した人間を落ち着かせることができるとは思わないか?」
P「それなら、メガネにその人の顔が直接現れるようにした方が良いんじゃないのか? わざわざ脳にありもしないものを錯覚させるより、そっちの方が簡単な気がするけど」
晶葉「むむ……確かに、そうなんだが」
晶葉「試したい理論だったからな、それを作ったまでだ!」
P「なるほどな、そういうものなのか」
晶葉「科学者とはそういうものなのだ、Pよ」
P「で、誰に使うんだ、これ?」
晶葉「そうだな、精神安定を謳ってはいるが……一度、使ってみたい相手がいる」
P「で、アイドルが出社するまで待ってるわけだけど」
P「なあ、晶葉、ほんとに大丈夫なんだよな、この装置?」
晶葉「もちろん。成功か失敗、二つに一つだ。成功すれば万々歳、失敗しても単に機能しないだけだから心配はいらない。では私は、草葉の陰から見守っているとしよう」
P「とはいえなぁ……上手く付けさせられるかな、俺。とりあえず、もうすぐ来るはず……」
?「おはよー」
P「おお、おはよう杏、来たな……なんか今日もやる気なさそうだな」
杏「いつものことじゃん?」
P「今日は朝からクイズ番組の収録だろ、頑張ってくれよ」
P「いつも手を抜いて答えてるだろ?」
杏「番組を盛り上げてる、って言ってよ」
P「だからって、答えのフリップにぐっちゃぐちゃの字で答えるのはどうよ」
杏「あってるんだからいいじゃーん。Pが見に来てくれるんなら、杏、頑張っちゃってもいいよ?」
P「ん?」ピク
P「これはもしかしていい流れか?」ボソッ
杏「何か言った?」
P「ああ、いや、なんでも……俺がスタジオに見に行ったら、頑張れるんだな?」
杏「ぐ……。あ、これからずっと見に来てくれたら、ってことだからね」
P「よし、いいだろう」
杏「え」
P「とりあえず杏、今日はこの眼鏡をつけて番組に臨んでくれ。俺からの餞別だ」
杏「眼鏡?」
P「ああ。賢く見えるだろ?」
杏「むしろ馬鹿っぽいデザインだけど」
<シツレイナ!
杏「今何か聞こえなかった?」
P「……気のせいだろ」
P「ああ、そうだ。この眼鏡、度は入ってないけど、もし気分が悪くなったり体に不調を感じたら、外してくれて構わないからな」
杏「なにそれ……まあいいや、じゃあ今日はよろしく頼むよ」
――――
P「さて」
晶葉「どうだった、被験者――もとい杏の様子は」
P「ぶっちゃけるとな」
P「晶葉、お前は凄い」
P「あんな仕事する杏は見たことないって、迎えに行った時にカメラさんが」
晶葉「よかった、装置は問題なく動作したということだな」
P「杏は17歳だから、あまり収録見ててやれないからな、なにか思うところがあったのかもしれない」
晶葉「……見守る、というのはそれほど誰かの背中を押すものなのだということだ。人は、一人では生きていけないからな……」
P「……晶葉?」
晶葉「いや、なんでもない。ところで、装置のことについて彼女は何か感想を言っていたか?」
P「ああ……探しても見つからないけど、思いがけない拍子にちらっと見えるから、ちょっと変な感じがした、っていうのと……」
晶葉「ふむふむ」メモメモ
P「いつもおんなじ表情で立ってただけだったよね、って」
晶葉「他には何かあるか?」
P「いや、これだけだったな」
晶葉「なるほど。前者は、単純なシミュラクラ現象だから仕方あるまい。だが、後者の方は改善の余地があるな」
晶葉「とはいえ、その程度の問題は既に検証済みだ。やはり私に抜かりは――いや、驕るのは良くないな」
晶葉「さて、僭越ながらPよ。実は新しいタイプの精神安定装置ができている。精神安定装置改だ。コンタクト型デバイスになり、さらには動画のように、ぬるぬる動く映像さえも投影できるようになった」
晶葉「明日は違うアイドルで試したい。斡旋、よろしく頼む」
P「昨日の今日でもう改ができたのかよ……晶葉、ちゃんと寝てるか?」アキレー
晶葉「充分とは言えないが、最低限の睡眠はとっている。それに、これも貰えたしな」スタドリポイッ
P「ちひろさん、アイドルにも売ってたのかよ……」
晶葉「アイドルは92%引きらしい」
P「」
晶葉「とにかく、明日頼むからな。私には、時間がないんだ……」
P「……晶葉?」
P「最近何か無理してるんじゃないか? 俺でよければ話、聞くぞ」
晶葉「……そうか、聞いてくれるのか。では、甘えようか」
晶葉「私には恩師がいるんだ。もうあまり長くはないが」
P「……病気、なのか?」
晶葉「いいや……老衰だ。とても聡明な人だ。今の私の要素の半分は、その人が作ってくれたといってもいいかもしれない。私をプロデュースしてくれている君には申し訳ないけどな」
晶葉「私は見せたいんだ。私の発明は、たくさんの人を幸せにできると。ただのわがままなんだがね」
P「なるほどな、だからこういう発明を……」
P「でも、急ぎすぎるのも問題だ。身体を壊しては元も子もないぞ」
晶葉「ふふ、そうだな。Pらしい言葉だ。……話を聞いてもらうだけで随分と楽になるものだな。今日は久しぶりに早く眠るとするよ。ありがとう、明日、頼んだぞ」
P「ああ、任せておけ」
―――
P「被験者は、無作為に抽出するために一番に事務所に来た人ってことだったけど」
P「誰が来るのかなぁ」ソワソワ
?「おはよう」
P「お、加蓮おはようさん……あれ、今日加蓮は休みじゃなかったか?」
加蓮「うん、ちょっと忘れ物しちゃってね~」ゴソゴソ
P「へえ、そっか」
P「……」
P「なあ、加蓮。今から少し時間あるか?」
加蓮「えっ、私? うん、空いてるよ。どうしたの?」
P「コンタクトって入れたことあるか?」
加蓮「うん、カラコンなんかもたまに入れるしね」
P「これをつけてみてほしいんだ。もし体に不調が出たりしたら、すぐ外してくれていいんだけど」
加蓮「なになに? コンタクトの新製品?」ズイ
P「新製品……まあそんなものかな」
加蓮「じゃあ、ちょっとつけてくるね」ガチャ バタン
P「ふう……何とかなったかな」
晶葉「つけてもらえたみたいだな。加蓮は身体が弱いらしいが……そういう人にもどういう影響が出るのかを知るいい機会かもしれん」
P「見てたんだな」
晶葉「そりゃあ、自分の発明品の行く末は見届けたいじゃないか」
P「そんなこと言うなら、自分で渡せばいいじゃないか……」
晶葉「私が渡したら、みんな警戒してしまうだろう。こういう仕事はPにこそふさわしいんだ」
P「警戒されるってわかってるのかよ……そういえば、昨日返したメガネの方はどうしたんだ?」
晶葉「あれか? あれは破棄した。理論さえ検証すれば、モノ自体はもう必要ないからな」
P「へえ、そういうもんなのか……って、あれ?」
晶葉「どうしたP、窓の外なんか見て……」
P「いや、見ろよ、外……加蓮が歩いてる」
晶葉「確かに。私の発明品を持って逃亡を図ったか……?」
晶葉「いや、待て。加蓮、誰かと二人で並んで歩いているみたいに、喋りながら歩いてるぞ」
P「本当だ……これも精神安定装置の影響か?」
晶葉「そうだろうな。改では、単純なシミュラクラ現象ではなく連続的に続く映像としてPの姿を錯覚できるようになっている。とはいえ、音声機能はつけていないから、加蓮の独り言のようなものが続いているのだろうが」
P「プロダクションの外に行っちゃったよ……」
晶葉「まあ荷物は事務所に置いてある。戻ってきたときに感想を聞ければ、私は問題ない」
――
加蓮「ただいまー」
P「おう、加蓮。俺もちょうど今日の現場の仕事が終わったところだ」ショルイトントン
P「コンタクト、まだつけてるのか?」
加蓮「うん、このコンタクト、ほんとすごいね。ほんとにPが横にいるみたいだった」
P「何か違和感はなかったか?」
加蓮「うーん……声が聞こえないのと……」
加蓮「触れないのがちょっと残念かな」
P「おいおい、触ったりはさすがに駄目だろ。つーか、触れてたらなんかいろいろアウトだろ」
加蓮「え? アウトって何? 何想像したの?」ニヤニヤ
P「な、何でもない」
加蓮「もったいぶらずにぃ……あっ、そうだ。P、これ、しばらく借りててもいいよね?」
P「えっ、でも」
加蓮「こんな楽しいもの、手放すわけないじゃん?」エヘヘ
P「守りたいなあ、この笑顔……」
晶葉「……で、コンタクトは回収できなかったのか」
P「いやあ、すまんなあ。加蓮の笑顔を見てると、つい」
晶葉「まあ、あれは危険な代物でもないし、操作を誤るということもない。しばらく様子を見てもいいかもしれない」
晶葉「よっぽどのことがない限りは、何も起こらないはずだ……」
P「また事務所で1日の始まりを迎えてしまった……」カタカタ…チュンチュン
P「どんだけ仕事すればいいんだろうなぁ」
P「そういや、晶葉もずっと研究室に籠ってるみたいだけど、よく体調崩さないよな。そういうところは見習わないと」ッターン
杏「おはよー」
?「おはようございます」
P「おはよう……お、まゆか」
まゆ「ええ、あなたの、まゆですよ」ズイッ
P「あなたのって……わ、まゆ、顔が近い!」
P「どうしたんだ、いきなり顔を近付けたりして……」
まゆ「…………」
まゆ「いえ、何でもありません」ニコッ
P「お、おう」
加蓮「おはよう」ボー
P「お、加蓮……加蓮?」
杏「なんか焦点定まってなくない?」
まゆ「……」
加蓮「あ、プロデューサー……昨日の夜は、楽しかったね」ボー
P「昨日? 何言ってるんだ?」
まゆ「加蓮ちゃん……?」ユラ…
P「昨日の夜って、俺ずっと事務所にいたぞ」
加蓮「Pこそ何言ってるの? 夜、ずっと私の家で私のこと愛してくれたでしょ」
P「あ、愛する……!?」
まゆ「加蓮ちゃん」ギロッ
まゆ「そのコンタクト、昨日もいれてましたよね」
P「コンタクト……? もしかして加蓮、昨日からずっと……てかまゆお前それ見えんの? 覚えてんの?」
まゆ「Pさんは何か御存知みたいですねぇ……おおかた、Pさんの姿の見えるコンタクトを、晶葉ちゃんが造ったんでしょうか」
P「な、なんでわかるんだ……」ボソリ
まゆ「わかりますよぉ、そのくらいのことは」
まゆ「加蓮ちゃん、ちょっとあちらまで来てください」ガシッ
加蓮「え? ちょっと……あ、Pも、来てくれるんだね、良かった……」ボー
P「いや、俺は動いてないけど……」
ガチャ バタン
P「……加蓮の無事を祈るしか俺にはできない……ッ」
杏「ねえ、P」
杏「Pの見えるコンタクトってさ、もしかして杏のかけてたメガネにも関係あるの?」
P「ん? ああ」
杏「……」
杏「じゃあもうお仕事頑張らなくていいよね」
P「……」
杏「……」クテン
P「飴やるから」
杏「わーい」
<チョッメニユビハイッテル! イレテルンデスヨォウフフ
P「……どうだ、加蓮。調子は戻ったか?」
加蓮「コンタクトのせいじゃないと思うけど、目が少し痛い」
P「まゆの奴、人のコンタクトレンズを取るとかやべえな。発想がやべえな」
晶葉「そういうカラーコンタクトでも入れてるんじゃないかってくらい目が濁っていたな」
加蓮「でも、ずっとつけてても良いくらい、面白いコンタクトだったよ。今度は声とかも付くようにしてほしいかも」
晶葉「それは……できない」
晶葉「Pの姿しか見えないだけでも、君は現実と錯覚の境を見失いかけていた。極度の眠気も原因の一つだろうが……」
加蓮「えー? でも体調が万全な時なら、Pの姿と声をミックスしたやつでも大丈夫じゃない?」
晶葉「駄目だ!」
加蓮「っ」ビクッ
P「晶葉?」
晶葉「ぁ、ああ、すまない……全てを体感できるようにすることは、とても危険なことなんだ。使用者の心に憑りつき、蝕んでしまうことがあるからな……」
P「あのときのことを……」
加蓮「何か、あったんだね。でも、聞かないでおくよ」
加蓮「……確かに私も、あっという間に虜になっちゃったしね。でも、本物のPのほうがいいもんね」ニコッ
晶葉「……ああ、そうだろう」フフ
――
まゆ「さて」
まゆ「晶葉ちゃん」
まゆ「こんなものを造っているのなら、どうしてまゆに一言言ってくださらなかったんですか?」
晶葉「ど、どうしてそんなことを言う必要がゴニョゴニョ……」
まゆ「毎晩、こんなに遅くまでPさんを付き合わせていたんですか」
晶葉「そ、それは」
P「まあ、落ち着くんだ、まゆ。俺が毎晩事務所に残ってるのは、俺が決めたことだ」
まゆ「……」
まゆ「晶葉ちゃん。造ったのは、この1つだけですか? 精神安定装置改。精神安定装置の方は破棄したって言ってましたけど……もしかして、精神安定装置改々なんて作ってないですよね?」
晶葉「つ、造っていない」メソラシー
まゆ「……」
まゆ「精神安定装置のせいで、まゆの精神は震度10くらいですよぉ……っ」ゴゴゴ
晶葉「震度は0から7までゴニョゴニョ」
まゆ「本当に、造ってないんですね?」
晶葉「……」
まゆ「出してください」
P「晶葉、あるのか?」
晶葉「……ないといえば嘘になる」
まゆ「晶葉ちゃん」
まゆ「言い値で買いますよ」
晶葉「」
P「」
まゆ「聞こえませんでしたか? 希望のお値段で、買うと言っているんです」
晶葉「……金は要らん。そのかわり、これをつけてくれ」
P「晶葉……この眼鏡って、初代精神安定装置じゃ……?」
晶葉「いいや、改×2だ」
まゆ「感想を言えばいいんですか?」スチャッ
晶葉「ああ、そうだ。率直に言ってくれて構わない」
まゆ「……」
まゆ「…………」
まゆ「Pさんが、ビーチでまゆのことを手招きしているのが見えました。見えたというか……変な感じですが、見えている、気がしました」
まゆ「……本物と遜色ない景色だったと思います」
晶葉「そうか、ではこれも成功だな。持っていってくれて構わない」
P「晶葉、いいのか?」
晶葉「ああ。理論さえ完成できれば、今の私は満足だ。あいにく、この精神安定装置を必要としている人はいないし、私はただ自分の仮説を検証できたことで自分の目的は達成された。貰っていく人がいるのなら、それを引き止める理由はない」
晶葉「私は、作ることができたという結果さえ得られれば、それだけであの人への証明になると思っている」
P「そっか……」
まゆ「……ではこれも貰っておきますねぇ」
まゆ「それでは、まゆはそろそろお暇します……」テクテク
P「ああ、まゆ。気をつけてな。お休み」
まゆ「はい、おやすみなさい。……最後に、晶葉ちゃん」
晶葉「どうした?」
まゆ「まゆにとっては、本物以外は全部、偽物なんですよ。おふざけも大概にしておいてくださいねぇ」
晶葉「っ!」
まゆ「どういう意味か、晶葉ちゃんならわかりますよね、うふ」ガチャ バタン
P「……どういう意味だ?」
晶葉「ん、あぁ……」メソラシー
晶葉「以前私が、ロボアイドル――ロボドルを造ろうとしたことを覚えているか?」
P「そうだっけ? 覚えてないな」
晶葉「今回の精神安定装置シリーズでは、ロボドルのようにヒトの代替品を作ってはいないが、それに代わりうる、幻覚のようなものを作り出してしまった」
晶葉「その意味を、よく考えろということだろう」ゴソゴソ
晶葉「さて、精神安定装置は完成した。精神が安定したかどうかはともかくとして、理論としてシミュラクラ現象とカクテルパーティ効果の併用による幻視は成功した。その事実さえあればいい。この一連の発明はもう終わりだ。夜も更けた。Pよ、もう休みたまえ」
P「もう一つ、訊いてもいいか?」
晶葉「構わないぞ」
P「いったいどれだけ、発明品を造るつもりなんだ?」
P「その……大切な人が亡くなってしまうまで、ずっとこうやって毎日何かを作り続けるのか?」
晶葉「……それでは不満か?」
P「俺はな、晶葉の身体が心配なんだ。晶葉のやってることが発明だけならまだしも、アイドルとしての仕事もこなしてる。いつか体に不調をきたしてもおかしくない」
晶葉「心配してくれるのか?」フフン
P「当たり前だ。俺は身体を大切にしてほしいし、きっと向こうもそう思ってる」
晶葉「P、案ずることはない。私は試しているんだ。もう間もなく逝ってしまうだろう人の示した、論理の可能性を。その人は残した。幾つもの発見の可能性をな。それを実現したいんだ。あと3つだ。あと3つ、造らなければならないものが残っている」
晶葉「もっとも、その可能性を使って何を作るかは、私の独断で決めているのだがな。今回の場合、装置の名前は精神安定装置だが、理論さえ検証できれば装置の名前は何でもよかったといえるな。どこでもPとかでも良かった」
P「ふは、なんだよそれ」
P「それにしても、あと3つ、か」
P「じゃあさ、それさえできれば、きちんと毎日休んで身体を大切にするって、約束してくれるか?」
晶葉「良いのか?」
P「……ああ。晶葉の恩師は、俺の恩師みたいなもんだ。その人のおかげで今の晶葉があるんだって、言ってただろ。だから、協力するよ」
晶葉「P……なんだか見直したぞ」
P「今までなんだと思われてたんだ、俺」
晶葉「正直ちょっと頼りない奴だとは思っていたが……そんなことはなさそうだな。約束しよう。私一人の身体ではないわけだしな。さて、質問は以上か? なら、もう休むといい」
P「そうだな。晶葉もな」
晶葉「ああ、そうする」
晶葉「……お休み、Pよ」
P「お休み、晶葉」
――ガチャ バタン
終
以上で、精神安定装置の話は終わりです。
平行世界体感装置のような話だと思って読んでくださった方、申し訳ございません。
この話は、次作の『モバP「トリップ装置?」』に続きます。
もしよろしければ、そちらの方でもよろしくお願いします。
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