杏奈「誰よりも貴女の側で」 (61)
動物園
百合子「わー! かわいー!」
うん、とっても可愛いよね
百合子「この子も…… 目が私を呼んでる…… 『わたしを愛して』って」
ウサギさんの目って不思議だよね、杏奈たち人間とは全然違うんだもん
百合子「もしかして…… 別の次元に居る私の同位体はウサギ達に囲まれ幸せに暮らしていて、しかしその生活は突如現れた狩人に脅かされ……」
杏奈「百合子さん」
百合子「『そんだけ居るんだから一匹ぐらいいいだろ!』 『ダメ! この子たちは私の大切な家族なんだから!』」
杏奈「百合子さん」
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百合子「教えてラクシーヌ! 貴女は私のことを今でも恨んでいるの!?」
百合子さんはウサギさんと同じくらい目をキラキラさせて、ウサギさんに喋りかけている
こうなったら誰にも百合子さんを止めることは出来なくて、百合子さんの世界から杏奈は消えちゃう
百合子さん、どうして杏奈と一緒にここに来るの? 杏奈を独りにするのに……
それに……
百合子「ラクシーヌ……」
そのウサギさん、男の子だよ……
杏奈「今日も…… 楽しそうだったね、百合子さん」
百合子「うん! アニマルセラピーってほんとにあるんだね! 私あの子たちに会うためなら、お仕事も勉強もいくらでも頑張れるよ!」
杏奈たちが居たのは動物園の中、ウサギさんとのふれあいコーナー
最近百合子さんはウサギさんと遊ぶのがとっても楽しいらしくて、放課後に二人で遊びに行く時はいつもここに来ている
百合子さんの言う通りウサギさんはとっても可愛くて、元々好きだったウサギさんがもっと好きになれた
でも最近は少し、少しだけ苦手かも……
杏奈「百合子さんは、家でウサギさんを飼わないの?」
百合子「うーん、お母さんが動物ダメらしくて…… こんなに可愛いのになぁ……」
杏奈「そっか……」
少し、安心した…… もし、百合子さんが家でウサギさんに会えるようになったら、きっと今この 二人での時間も無くなっちゃう
百合子「でも諦めないよ! 私とウサギは次元を越えた絆で繋がっているんだから!」
杏奈「そっか……」
次元を越えた絆…… それは今すぐ側に居る杏奈より大事なものなのかな……
次の日 事務所
百合子「……」
未来「百合子っ!」
百合子「わっ、もうびっくりしたなぁ 何、未来?」
未来「さっきから後ろで呼んでたのに全然反応しないんだもんー」
百合子「ごめんごめん、本に熱中してて……」
未来「何? その本」
百合子「ウサギについての本だよ! 私は別の次元ではたくさんのウサギを駆るラビットマスターだったの!」
未来「別の次元? 何それ?」
百合子「ふふふ、そんなことも知らないの未来」
百合子「この世界はね、単一の次元に見えてすぐ側に別の世界線が展開されているの!」
未来「おぉ……!」
百合子「そのことは普通は意識なんてされないんだけど、ふとしたきっかけで別の次元と繋がることが希にあってね、例えば初めて行った場所なのに何故か懐かしい気持ちになる経験したことない?」
未来「ある! あるあるある!」
百合子「それは別の次元の自分の記憶が教えてくれているんだよ!」
未来「そ、そうだったんだ…… !」
未来「それじゃあわたしの別の次元の姿ってなんなの? そっちでもアイドル!?」
百合子「うーん…… 流石にそこまでは……」
未来「え~ わたしも別次元の記憶欲しい~!」
静香「未来、こんなとこに居たの」
未来「あっ! 静香ちゃん! 聞いてこの世界には別の次元っていうのがあってね!」
静香「…… また百合子に変なこと刷り込まれたの?」
百合子「変なことじゃないよ! 事実私は同位体の記憶とリンクしかけていて……」
静香「それより、未来明日小テストがあるって言ってなかった?」
未来「あ………………忘れてたぁ!」
静香「別次元どころか2時間前の記憶も無いじゃない!」
未来「め、メメントモメント……」
静香「ほら、教科書広げて 教えてあげるから」
未来「そうだ! こういう時は別次元に居る天才なわたしと繋がれば……」
静香「あんまりふざけてると教えないわよ」
未来「ごめんごめんって~」
百合子「あはは…… もしかしたら別の次元では静香は未来のお母さんだったのかもね……」
静香「何よそれ!」
未来「そっか! だから静香ちゃんはこんなに優しいんだ! これからはお母さんって呼ぶね」
静香「やめて!」
百合子「そういえば、杏奈ちゃんどこに居るか知ってる?」
静香「いつもみたいに向こうで一人でゲームしてたわよ」
未来「あれ? よく考えたら二人で一緒に居ないの珍しい? いつも一緒にゲームしてるのに」
百合子「あー確かに…… 最近杏奈ちゃん誘ってくれない気がする……」
未来「もしかして何かあった?」
百合子「うーん…… でも二人でお出掛けはよくしてるし……」
未来「そっかー」
百合子「一人でやるゲームにはまってるんじゃないかな、ノベルゲームとか」
静香「まぁいつも一緒ってわけにもいかないわよね」
静香「未来もいつまでも私に頼ってないで、いつかは自立するのよ」
未来「えぇっ! 静香ちゃん何処かに行っちゃうの!? そんなのやだよー!」
静香「い、行かないから! 離してってば!」
百合子(最近は杏奈ちゃんから遊びに誘われることがないなー…… それに遊びに行くのもいっつも私が行きたい動物園だし……)
百合子(もしかしたら杏奈ちゃん動物園に飽きてて、ほんとはゲームがしたかったのかも…… ちょっと私がワガママだったかな……)
百合子(うん! 明日は杏奈ちゃんの行きたいところに行ってあげよう! それでごめんなさいって謝ろう!)
百合子(ふふっ、杏奈ちゃんの楽しそうな顔を想像したら楽しくなってきちゃった)
杏奈 自室
杏奈「……」
今日、事務所で百合子さんに話しかけようとしたら、百合子さんはまたウサギさんの本を読んでいた
声をかけてみたけどやっぱり反応はなくて、無理やり誘おうとして…… 少し怖くなった
『今は本に集中してるからまた後でね』って言われるのが『ちょっと最近ゲーム飽きちゃってるから』って言われるのが
杏奈「……」
『杏奈ちゃんと遊ぶよりもっと楽しいことがあるの!』
杏奈「っ!?」
嘘…… だよね……? 百合子さんは杏奈の一番の親友で…… 二人はずっと一緒なんだよね……?
もうそれからは考えるのも怖くなった
百合子さんの一番は杏奈じゃなくなって、杏奈がどんどん小さくなって、百合子さんはそのまま杏奈を忘れていくの……
杏奈の一番は百合子さんなのに…… 百合子さんの一番は……
やだ…… 一番になりたい
一番近くで…… 一番長く…… 一番に想われて、愛されたい……
別の次元の百合子さんが兎飼いならそこでの杏奈はウサギさんがいい、ずっと近くで愛されて、その縁はこの世界でも続いてて
杏奈は……
杏奈「百合子さんのウサギさんになりたい……」
そう呟くと、急に瞼が重くなって そのまま意識は途絶えた……
次の日
朝、それは輝かしくそして素晴らしきもの
生命は朝の日差しを浴びることにより永く暗い悲しみの夜の終わりを知り、喜びの詩を歌う
しかし、一部の者にとってはそうではない
夜は己の不安を増大させる時もあるが、果たしてそれだけだろうか? 静寂の闇は時に若者に自分自身を見つめ直す時間を与える賢者の時となる
私も例外ではない、夜には数々の本を読み耽り、私の脳には数々の叡知が刻まれて
めざまし「ジリリリリリリ」
うぅ…… 朝だよぉ…… 昨日夜更かししたから眠いよぉ~
私は必死の思いで目覚めしくんの叫びを止め、体を起こす いつもと変わらない私の部屋……
に一人の来客が居た
ウサギ「……」
百合子「……」
私の部屋には見知らぬウサギがこれまた見知らぬケージの中から私を見つめている その瞳はまっすぐ私を見つめ私は視線を逸らすことが出来ない……
百合子「えっと…… 君は誰……」
ウサギ「ふすー」
ウサギは返事 のような物をした、どうやら私を魔法少女にするために魔法界から訪れた不思議な妖精という線は無くなったみたいだ
百合子(イヤイヤイヤおかしい! おかしいよね!?)
百合子(私昨日までウサギ飼いたい~ って思ってたけどほんとに飼ってなかったよね…… まさかサプライズプレゼント? いやママは反対だったし……)
母「百合子! いつまで寝てるの!」
百合子「あっ! ごめん~」
百合子「……」
百合子「ねぇママ、ママって動物嫌いなんじゃなかったっけ?」
母「えっ? そうだけど」
百合子「じゃあなんでウサギが……」
母「なんでって…… 百合子が小学生の頃どうしても飼いたい飼いたいって聞かないから飼い始めたんでしょ?」
百合子「えっ……」
私の頭は、昨日詰め込んだ知識と合わせてオーバーヒートを起こしそうだった……
放課後
取り合えず授業中に必死に考えたところ、あのウサギは『何かしらの使命を持ってこの世界へ来たウサギ型生命体』という結論にたどり着いた
そして頭がオーバーヒートを起こしたとしてこれだけは忘れない、杏奈ちゃんを遊びに誘おう
スマホを取り出し、杏奈ちゃんにメッセージを送……
百合子(あれ…… 杏奈ちゃんの連絡先が無い……?)
間違って消してしまったのか、そう考えて他のアプリを開いたけどその何処にも『望月杏奈』の文字は無かった、杏奈ちゃんの携帯番号やアドレスを直接入力しても繋がらず……
流石に不審に思ったけど、取り合えず私は事務所へ向かった
百合子(確か今日は杏奈ちゃんの学校は早く終わる日、学校が終わった後杏奈ちゃんは多分ここに来るはず……)
事務所
百合子「あっ! 未来!」
未来「ん、おはよ百合子 どうしたのそんな焦って」
百合子「杏奈ちゃん来てない!? さっきから連絡取れなくて……」
未来「あんな…… って誰?」
百合子「もう! こんな時に記憶喪失になってる場合じゃないから! 望月杏奈ちゃんだよ!」
未来のいつものおとぼけに少し苛立って、つい語気が強くなってしまう
そうだよ、これは未来のいつものおとぼけなんだよ……
静香「どうしたの百合子?」
百合子「静香!」
静香が来てくれた! 未来と違って静香ならきっと…… !
百合子「杏奈ちゃん知らない? 未来がさっきから変なことばっかり言って……」
静香「えっと、杏奈って誰? また妄想?」
百合子「っ!?」
違う! 違う! そうじゃなくて……
星梨花「二人とも忘れちゃったんですか?」
百合子「星梨花ちゃん!」
良かった…… 星梨花ちゃんは杏奈ちゃんのことを知ってるんだ……
星梨花「『杏奈ちゃん』って言ったら百合子さんの飼っているウサギさんですよ」
百合子「えっ……」
未来「あぁ! そう言えばよく自慢してたね!」
静香「えっと、つまりペットが行方不明になったからそんな慌ててたってこと……」
百合子「違う…… そうじゃない……」
今日が始まってからフル回転を続ける私の脳はここで一つの質問を思い付く、私の抱いている謎を解き明かすためのキーとなるそれを
百合子「ねぇ…… ここの事務所って何人のアイドルが居るっけ……?」
未来「えー? 流石にそれはわたしでも忘れないよ~」
未来「『49』人に決まってるでしょ?」
一旦切ります。前に投稿したあんゆりウサギのSSと大体同じ話です。
おつ
なんで49人なの?って言われてもファンを加えて50になるからって理屈で押し通せそう
イチャイチャかと思ったら不思議な話だ
一旦乙です
>>1
七尾百合子(15) Vi
http://i.imgur.com/MeJaqUS.jpg
http://i.imgur.com/cOBTJeA.jpg
望月杏奈(14) Vo
http://i.imgur.com/Thke1G4.jpg
http://imgur.com/7VbruEz.jpg
>>5
春日未来(14) Vo
http://i.imgur.com/bTFxAAD.jpg
http://i.imgur.com/vahU53m.jpg
>>7
最上静香(14) Vo
http://i.imgur.com/xwths3z.jpg
http://i.imgur.com/G0J4G8h.jpg
>>18
箱崎星梨花(13) Vo
http://i.imgur.com/SW0wYid.jpg
http://i.imgur.com/pqyoGkJ.jpg
それから私は事務所の中、ありとあらゆる書類を漁って『彼女』を探した…… けど
百合子「居ない……」
杏奈ちゃんの存在は何処にも見つけられなかった……
静香「だ、大丈夫…… 百合子?」
百合子「ねぇこれって嘘なのどっきりなの!? それにしては手が込みすぎてるけどさぁ!」
百合子「もういいでしょ!? 十分だよね、杏奈ちゃんを出してよ! 今日遊ぼうって思ってたんだよ? 最近少し変な感じだったから今日はめいいっぱい遊ぼうって!」
静香「ちょっと百合子落ち着いて! いつもの妄想じゃないことは解ったからっ!」
百合子「妄想じゃ……ない……」
じゃあ杏奈ちゃんが居なくなったのは……
現実……?
未来「えっと…… つまりどういうこと?」
静香「百合子だけがその『望月杏奈』って娘のことを知ってるのよね……」
百合子「うん……」
星梨花「わたし達と同じ事務所にそんな娘居ないはずですけど……」
未来「もしかして百合子以外の世界中全員が記憶喪失に!」
静香「今は大事な話だから少し黙ってて!」
百合子「記憶喪失……」
私の脳が限界を越えて更なる回転を行う…… もしかして……
百合子「ねぇ、昨日話した『別次元』の話覚えてる?」
未来「ううん全く」
静香「いつもの妄想だと思って聞き流してたわ」
百合子「えぇー!?」
がっかりするところだけど、寧ろこれで確信が持てた! 『この世界』でも昨日の私は同じように別次元の話を二人にしていた、ということは
百合子「ここは私の元居た世界の平行世界 『杏奈ちゃんが居ない世界』なんだよ!」
未来「平行?」
星梨花「世界?」
百合子「何らかの要因で私は平行世界へ混線してしまって…… それなら元の世界に戻る方法は……」
普段からSFモノを読んでて良かった! きっとこの世界から抜けだすためには……
百合子「ねぇ星梨花ちゃん、私の飼ってるウサギの名前って『杏奈』ちゃんなんだよね?」
星梨花「はい、そのはずです」
百合子「ありがと!」
きっと突然現れたあのウサギが何らかの鍵なんだ!
未来「ねぇ静香ちゃん 世界は分かったけど『平行』ってなんだっけ」
静香「嘘でしょ未来!?」
百合子 自室
百合子「ねぇ! 君は何か喋れないの!?」
このウサギはきっと特別なウサギ、何か言葉を話すくらい……
ウサギ「……」
百合子「そうか、こういうのは心で念じるんだ」
百合子(聞こえていますか? 私の声が)
百合子(聞こえているなら何か返事を……)
ウサギ「……」
百合子(無理か……)
その後も私が思い付く限りの方法でウサギとコミュニケーションを図ってみたけど、ウサギは何も答えてくれなかった…… けど
次の日
朝、私の部屋には変わらずに見知らぬウサギが鎮座していて、スマホの連絡先に杏奈ちゃんは居なかった……
やっぱり元の世界に戻るためには待つだけじゃダメなんだ、何かしらのフラグを成立させないと
ウサギとコミュニケーションを取る作戦は失敗に終わった、だけど私にはまだ奥の手がある!
私はウサギを連れて公演の予定の無い、空いた劇場へと向かった
シアター
百合子「準備オッケー?」
未来「大丈夫! いつでも歌えるよー」
静香「ねぇ百合子、本当はこんなことしたらダメなんだからね?」
百合子「わかってる、でもこれは私が元の世界に戻るためなの、協力お願い!」
私が今からやるのは劇場を借りた私のソロライブ、お客さんはウサギ1羽だけの超プライベートなもの
こういう非日常的SFが起きた時、解決の糸口になるのは大抵個人のスキルが関係している、私のスキルといえばやっぱりアイドル!
だから私の全力ライブをあのウサギに見せてあげればきっと何か不思議なことが起こって元の世界に帰れるはず……!
百合子「♪~」
静香「で、これは何なの?」
星梨花「あのウサギさんに百合子さんの歌を聞かせたら元の世界に戻れるらしいです」
未来「ねぇ、もし百合子が元の世界に戻ったら今居る百合子は居なくなっちゃうの?」
星梨花「うーん…… そういうわけじゃないみたいですけど……」
静香「多分百合子本人もよくわかってないんじゃないかしら?」
百合子「……なりたい私へと」
百合子(よし、これで混線した時空は元に……)
百合子「……」
ウサギ「……」
百合子「ダメか……」
百合子「未来! 次の曲お願い!」
未来「オッケー!」
百合子「今日は私の持ち歌全部聞かせちゃうからね!」
ウサギ「……」
その後、私の持ち歌全てに加えて、静香や星梨花ちゃんを呼んでユニット曲も歌い、更に持ち歌以外の曲を歌ってみたけど、ウサギは無反応
百合子「……イマジネーションガール」
ウサギ「……」
百合子「はぁ…… この曲でもダメか」
ウサギならもしかしてこの曲で、と思ったんだけど……
百合子「こうなったら先輩たちの曲も含めて全曲ローラー作戦するしか……」
静香「いったい何時間かける気なのよ!」
未来「百合子さっきから歌いっぱなしだし、少し休んだ方がいいよ~」
星梨花「これだけやってダメなら、何か別の方法を考えた方が……」
百合子「う~ん……」
歌の持つ力で奇跡が! っていうのは定番なんだけどなぁ……
百合子 自室
百合子「はぁ…… どうしたらいいんだろ……」
自分のベッドへ転がり、ケージからまっすぐ私を見つめるウサギへ視線を返しながらひとりごちる
最初、杏奈ちゃんが居なくなったことに気付いた時はとても驚いて焦って、どうしたらいいかわからなかった
少し落ち着いて、私の得意なSFに自分が巻き込まれたってわかった時は、杏奈ちゃんには悪いけど少しわくわくして自分の手で解決してやろう って思った
でも、結局私の思い付く限りの方法を試しても事態は解決出来ず、私はとてつもない疲労感と虚無感に包まれていた
ベッドに沈み込む体、重くなる瞼、うん明日は休みだし杏奈ちゃんの問題は取り合えず先延ばしにして今日のところは……
百合子「……」
先延ばしにして、いつか解決出来るのかな……
こんな非日常的事態は果たして時間が解決してくれるようなものなのだろうか
もし時間が解決するとして、それは何日後? 何週間後? 何年後?
私は元に戻るその時まで杏奈ちゃんと会えないままなの……?
百合子「はぁ…… 杏奈ちゃん……」
私が彼女の名前を呟いた瞬間、急にウサギが跳ねる
ウサギ「ふすー!」
百合子「えっ!?」
突然のウサギの行動に驚き振り向くと、ウサギは既に落ち着きを取り戻していた
百合子「そっか…… 君の名前も『杏奈』ちゃんなんだよね……」
ウサギ「ふす~」
私が彼女と同じ、ウサギの名前を呼んであげるとウサギは少し喜んだみたいだった
このウサギに何かすることが元に戻るためのフラグだと信じて色々してきたけど、よく考えたら落ち着いてコミュニケーションを取ることを忘れていた
せっかくこんな可愛いウサギが居るんだから、杏奈ちゃんの代わり……にはならないけど少し癒されよう
百合子「少し、お話しよっか?」
ウサギ「ぴょんっぴょんっ」
百合子「えーっと……」
ウサギ「……」
百合子「話って何すればいいのかな……?」
残念ながら私はウサギ語は話せないし、このウサギも残念ながらテレパシーは使えないみたいだし……
百合子「うーん…… まずはご飯を食べさせてみようかな?」
私はケージからウサギを出してご飯をあげ…… ようとしたけど……
百合子「ほら、ご飯だよ~」
ウサギ「つーん……」
百合子「あれ……?」
ウサギとの接し方の本はさんざん読んだし、動物園でも実践したのだから間違ってないはず…… なのに私の差し出したご飯に全く関心を示さない…… どうして?
百合子「えーっと…… 杏奈ちゃ~ん?」
ウサギ「ふすふすふす」
百合子「あっ、食べてくれた~」
私の手の上のご飯をもぐもぐと食べるウサギの姿はとってもキュートで、ついニヤケちゃう
百合子「杏奈ちゃ~ん」
ウサギの名を呼びながらもう片方の手で軽く額をなでなでしてあげる、ウサギもなんだか嬉しそう
百合子「やっぱり名前で呼ばれると嬉しいの?」
ウサギ「ふすふす」
相変わらずのウサギ語での返答、だけど何となく肯定してるよう
百合子「……」
でも…… このウサギのことを名前で呼ぶのはやっぱり抵抗がある……
百合子「君の名前はね、私のとっても大切な親友の名前と同じなんだよ」
ウサギ「……」
百合子「その親友…… 杏奈ちゃんには今会えなくて……」
百合子「……!」
その時、一つ天啓に打たれた
消えた杏奈ちゃん…… 現れたウサギ…… そしてそのウサギの名前は……
百合子「君は…… 『杏奈ちゃん』なの……?」
ウサギ「……」
彼女は私の言葉に何の反応も示さず輝く瞳で見つめ返すだけ、だけどそのまっすぐな瞳は幾千の言葉より確かなものを伝えてくれた
ヒトがウサギになるなんてトンデモSFだけど、今まで散々驚いてきたしもうこんなことじゃ驚かない
貴女が何の因果かウサギに姿を変えられたなら私がその呪いを解いてあげる!
百合子「ねぇ杏奈ちゃん、どうしてウサギになっちゃったの?」
ウサギ「……」
百合子「悪い魔術師に変化の魔法をかけられたとか、最新のゲノム研究により
ウサギ「ふるふる」
百合子「あ、違うんだ……」
ウサギ「とてとて」
ウサギ「すりすり」
百合子「ひゃっ」
杏奈ちゃんは私の側に寄ってきたと思ったら脚に体を擦り付けてきた、杏奈ちゃんの軟らかな毛並みがちょっとくすぐったい
百合子「よっ、と……」
杏奈ちゃんともっと近くで話すために、抱き抱えて胸元に寄せる
百合子「ねぇ杏奈ちゃん」
ウサギ「……」
百合子「最近は私が行きたい動物園ばっかり行ってたから、今度は杏奈ちゃんの行きたい所に行こうって思ってたんだよ?」
ウサギ「……」
百合子「どこか行きたい所ある? 杏奈ちゃん」
ウサギ「……」
百合子「黙ったままじゃわからないよ……」
ウサギ「…… ふす」
百合子「えっと、有名なクレープ屋さんとか!」
ウサギ「……」
百合子「そうだ! もうすぐ大きなゲームの展示会イベントがあるんだよ、そこに一緒に……」
ウサギ「ふす~」
百合子「うぅん…… ウサギの言葉じゃわかんないよ~」
百合子「…… ねぇ杏奈ちゃん」
百合子「杏奈ちゃんは…… 怒ってるの?」
ウサギ「……」
無反応
百合子「最近は出掛ける場所動物園ばっかりで、私のしたいことばっかりやってきて」
ウサギ「……」
また無反応
百合子「それで杏奈ちゃんは怒って、私を困らせるためにウサギになっちゃったの?」
ウサギ「ぴくっ」
あっ、少し反応した
百合子「杏奈ちゃんは私を困らせるために……?」
ウサギ「ふるふるふるふるふるふる」
百合子「わわっ、暴れちゃダメだよ!」
杏奈ちゃんは私の腕の中でこれ以上無いくらい暴れて、私の言葉を否定しているようだった
百合子「怒っている訳じゃ、ないんだ……」
ウサギ「……」
また無反応に戻った
百合子「…… 言葉にしてくれなきゃわからないよ」
ウサギ「ぴくっ」
百合子「私、杏奈ちゃんと親友だから 言葉を話せなくても意思疏通出来るかもっ! て思ったけど無理みたい」
百合子「言ってくれなきゃ……」
百合子「……」
百合子「そっか、最近の私 杏奈ちゃんの方を向いて無かったね」
ウサギ「……」
百合子「ごめんね杏奈ちゃん、私 杏奈ちゃんが喋れる時も、杏奈ちゃんの話全然聞いてなかったんだね……」
ウサギ「……」
百合子「ごめんね……杏奈ちゃん、ごめんね……」
百合子「お願い杏奈ちゃん元に戻って! ちゃんと杏奈ちゃんに謝って、お話して、今度は杏奈ちゃんの行きたいところに二人で行きたいの!」
その時。突然杏奈ちゃんの体が白く光って、眩さに目を瞑った私はその光に飲まれて……
眩さが収まり目を開けると、そこは私の部屋でなく夕暮れの町並みが広がっていた
そして私の隣には……
杏奈「どうしたの、百合子さん? いきなり、立ち止まって……」
百合子「あ、杏奈ちゃん…… !」
杏奈ちゃんが居る! 杏奈ちゃんがっ……
百合子「杏奈ちゃんっ!」
杏奈「ゆ、百合子さん!?」
私は杏奈ちゃんの存在を確かめるように、強く、強く杏奈ちゃんをぎゅっと抱き締めた ……離さないよ杏奈ちゃん!
杏奈「ゆ、百合子さん…… は、恥ずかしい……」
百合子「あっ…… ご、ごめんっ!」
杏奈ちゃんの言葉で我に返った私はスマホを起動させ、杏奈ちゃんの連絡先が登録されていることを確認すると同時に日付を見た
うん、間違いない時間が巻き戻ってる、もう今さら原理とか考える必要なんて無い、私は今時空の分岐点に立ってて、ここでの私の行動が杏奈ちゃんのこの先を決めるんだ!
杏奈「百合子さん…… ?」
百合子「え、何?」
杏奈「怖い顔、してたから…… その……」
百合子「あ、いや、えっと……」
あぁもう、これじゃあ杏奈ちゃんとの距離がますます広がっちゃう…… えっとどうしたら……
そうだ! まずは謝らないと!
百合子「杏奈ちゃんごめん!」
杏奈「え……?」
百合子「この前からずっと私が行きたい動物園ばっかり行ってて、つまらなかったから怒ってたんだよね?」
杏奈「…… 違う」
百合子「え?」
杏奈「杏奈、百合子さんと動物園行くの…… 楽しかった、よ」
杏奈「でも……」
そう言ったきり、杏奈ちゃんは視線を落として黙りこくってしまった
百合子「ねぇ杏奈ちゃん、もし何か思ってることがあるなら、しっかりと声に出して欲しいな」
百合子「私熱中しちゃうと周りが見えなくなっちゃうから、杏奈ちゃんのこと見えてない時、沢山あったと思う」
百合子「だからさ、そういう時はちゃんと言葉に出して伝えて? 私ちゃんと聞くようにするから」
杏奈「百合子さん……」
杏奈「じゃあ…… 言うね…… ?」
百合子「うん……」
杏奈「杏奈…… 百合子さんが、ウサギさんのことばかり見てるのが…… イヤ、だった……」
杏奈「二人で出掛けているのに、百合子さんは杏奈を独りにするの……」
杏奈「杏奈は…… 百合子さんのこと、一番に思ってて…… 百合子さんは違うの?」
杏奈「杏奈は、百合子さんのことが、いちばん…… 大事…… だよ?」
百合子「杏奈ちゃん……」
杏奈「百合子、さん…… は?」
百合子「私も…… 杏奈ちゃんのこと大事だよ」
百合子「私、集中したらそれそれのことしか考えられなくて、そのせいで杏奈ちゃんのこと見失っちゃって…… ごめんね……」
百合子「でもこれからは…… 杏奈ちゃんが居なくなったりしないように、私ずっと杏奈ちゃんのこと見てるから」
杏奈「……?」
杏奈「杏奈は、居なくなったりしないよ……?」
百合子「あ、うん…… そうだね、そうだよね!」
杏奈「百合子さんの、側…… 一番近くにずっと居る…… よ?」
百合子「ねぇ、明日の放課後って暇?」
杏奈「うん…… 大丈夫」
百合子「それならさ、また二人で遊びに行こう? 今度は杏奈ちゃんの行きたいところで!」
杏奈「本当……?」
百合子「うんっ!」
杏奈「それなら…… 杏奈の行きたいところは……」
次の日 百合子自室
百合子「うん! いいよ杏奈ちゃん!」
杏奈「百合子さん! サポートよろしくね!」
百合子「超協力プレーで!」
杏奈「クリアだよっ!」
杏奈ちゃんがウサギになっていたこと、それは本当に起こっていたことなのか、私の長い長い夢だったのか、それは結局わからないままだった
家に帰ったらウサギもケージも無くなっていて、ママに聞いても『ウサギを飼っていたことなんて無い』とのこと
不思議なことばっかりで、ファンタジー小説の中に迷いこんでしまったかのような体験だったけど……
今私の隣に杏奈ちゃんが居てくれること、それが一番本当で大切なこと、それでいいんだって思う
杏奈「ふー……」
百合子「少し休憩する?」
杏奈「うん……」
百合子「でも本当に良かったの? お出掛けしないで私の家でゲームなんて」
杏奈「うん、杏奈…… 百合子さんとゲーム、したかった」
百合子「でもゲームなら事務所で」
杏奈「ここがいい」
百合子「…… そっか」
杏奈「杏奈、昨日夢 見たの」
百合子「夢?」
杏奈「杏奈がウサギさんになって、百合子さんのペットになる夢」
えっ!? それって……
百合子「で…… その続きは……」
杏奈「すぐに、覚めちゃった」
百合子「そ、そう……」
杏奈「…… でも、楽しくない」
百合子「?」
杏奈「ウサギさんになったら、百合子さんと話せなくて、ゲームも出来ない……」
杏奈「だから…… 杏奈は杏奈がいい……」
百合子「……」
百合子「うん、私も杏奈ちゃんは杏奈ちゃんのままで居て欲しいな」
杏奈「少し……眠い……」
そう言って杏奈ちゃんは私の肩にコテンと頭を乗せてきた
百合子「寝不足なの?」
杏奈「うん……」
杏奈「楽しくない、夢見たから……」
百合子「そっか……」
杏奈「百合子さんの近くだと…… 安心、だよ?」
百合子「そ、そっか…… 照れちゃうな……」
杏奈「杏奈、時々不安になるから…… 百合子さん、杏奈をずっと、安心させて?」
百合子「うん…… 大人になっても一番の親友で、ずっとずっと、杏奈ちゃんの一番近くに居てあげるね!」
杏奈「……」
杏奈「ありがとう」
おしまい
百合子ちゃん誕生日おめでとうございます。
読んでくれた人ありがとうございました。
乙
あんゆりは正義
尊い
あんゆりは癒し
乙
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