二宮飛鳥「ときに、文香さん」
二宮飛鳥「ときに、文香さん」 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1479478880/)
の後編です
読んでいないと理解不能な描写が多々あるので
一度目を通す事を強くお勧めします
※キャラ崩壊・百合表現・グロテスクな描写があります
苦手な方はご注意下さい
また、主にオカルトにおいて多分な独自設定・独自解釈を含みます
SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1486133957
《14:42 346 production》
文香「・・・・・・」ウトウト
飛鳥「読書中に船をこぐなんて珍しい 昨日は遅かったのかい?」
文香「はい、実は昨晩一睡も・・・ふわぁ」
飛鳥「一睡も、って・・・どこか悪いんじゃないのか」
文香「いえ・・・そんなことは」
飛鳥「熱はどうかな」スッ
文香「あっ」
飛鳥「・・・文香さん」
文香「はい」
飛鳥「本当に昨晩だけなんだね?」
文香「・・・はい」
飛鳥「未だ嘗て見たことないレベルで充血しているんだが」
文香「そんなに、酷いのですか・・・?」
飛鳥「まとまったオフが取れたから、と事務所のディスプレイに連日連夜囓りついてゲームしてた紗南もここまでじゃあなかったね」
文香「『あーるてぃーえー』・・・と、言ったでしょうか」
飛鳥「ボクも詳しいワケじゃないが、5.6時間プレイしっぱなしって事もあるらしい」
文香「しかしあの後、仁奈ちゃんと一悶着あったように記憶しているのですが・・・」
飛鳥「・・・選りにも選って、極めて視界の取れない虚無僧の気持ちになっていた仁奈が電源コードを蹴飛ばしてね」
文香「なるほど・・・だからあのような、絶望的な顔をされていたのですね・・・」
飛鳥「・・・話を戻そうか 何か心当たりは無いのかい?」
文香「いえ、見当もつきません・・・」
飛鳥「ふむ」
文香「ただ、昨夜川島さんからこの本を受け取って、帰宅して読み始めてから・・・」
飛鳥「どう考えてもソレだよ」
文香「ようやく先ほど三割がた読み終えたのですが・・・母国語でないとはいえ、こうも苦戦するとは思わず・・・」
飛鳥「・・・川島さんに訳してもらったと、ボクはそう記憶しているが」
文香「はい・・・フランス語の原著を英訳していただきました」
飛鳥「さっきまでソコにいた似非パリジェンヌに見つからなくて幸いだったね・・・」
文香「フレデリカさん、血が入っているだけの方ですからね・・・あ」ポタ
飛鳥「文香さん・・・涙するまでに彼女を憐れんで・・・?」
文香「い、いえ違うんです・・・急に涙が」
飛鳥「なんて、冗談だよ 恐らく眼精疲労だろう」
飛鳥「そちらは後で清良さんにでも診てもらうとして」ヒョイ
文香「・・・何を、するのですか」
飛鳥「自覚しているかどうかは分からないが・・・貴女は寝不足で事務所に来ることはあっても、人の話を遮ってまで書に耽るようなコトは決して無かった・・・違うかな」
文香「・・・そんな事はありません 飛鳥さん、それをこちらに」
飛鳥「冷静さを欠いたね・・・そうして食い下がることが何よりの証左だと気付かないのかい?」
文香「・・・! それは・・・っ」
飛鳥「今日の貴女は異常だよ、だからボクは文香さんからコレを遠ざけたいと思う・・・異論はないね?」
文香「・・・ふぅ」
文香「そう、ですね・・・すみません、どうかしていたようです」
飛鳥「なに、捻くれているボクでも仲間の身を案じるコトくらいできるさ」
飛鳥「それに推測に過ぎないが、この本への執着と眼の元凶は十中八九コレだ・・・であれば、然るべき専門家に協力を仰ぐのが道理だろう?」
文香「と、言いますと・・・?」
飛鳥「日本土着の神仏なら歌鈴さんなんだが・・・この問題は海を越えているからね」
文香「つまり、ここにヘレンさんを」
飛鳥「・・・惚ける余裕が出てきたのは喜ぶべきかな」ポパピプペ
♪~(着信アリのアレ)
飛鳥「着信音?何故部屋の---」
「・・・・・・わっ!!」バッ
飛鳥「にゃあああっ!?」
「飛鳥くん、みくちゃんみたい・・・だね」
白坂小梅「ふふ・・・び、びっくりした・・・?」
飛鳥「ン゛ン゛ッ・・・いるならいると言ってくれないか、小梅」
小梅「今度はナナちゃんみたい・・・えへへ」
飛鳥「おっと、今日何人目かの聞く耳持たないタイプだね?」
小梅「ご、ごめんなさい・・・飛鳥くん」
《同時刻 関東某所》
安部菜々「へっぶしょい!!」
高垣楓「あら菜々ちゃん、風邪ですか?」
菜々「い、いえ・・・」ズビビ
菜々「折角お二人とオフを合わせた温泉旅行なんですから、体調管理は万全ですよ!」ブイッ
川島瑞樹「じゃあ、朝から温泉入って湯冷めしちゃったのかしら」
菜々「まっさか~そんな子供みたいに! ナナたちもういい年じゃないですか」
瑞樹「・・・菜々ちゃん?私たちだからいいけど、事務所では気をつけてね」
菜々「はっ、はいぃ・・・」
楓「お二人とオフを合わせてお風呂・・・菜々ちゃん、中々やりますね」
菜々「あ゛っ さっきのは違うんです事故というか何というか・・・」
瑞樹「伊集院デカ長に報告ね、わかるわ」
菜々「あぁ~ダジャレGメン懐かしいですねぇ・・・毎回ハガキ送ってましたよ」
楓「あの番組私以外にも女性リスナーいたんですね・・・」
瑞樹「ラッパーザキバチョフさんとかリスナーもセンスあったわよねぇ~」
菜々「アッ・・・ソレワタシデス・・・」
瑞樹「うっそあれ菜々ちゃんだったの!?」
楓「世間は狭いですねぇ」
瑞樹「狭いわ」
菜々「あ、あはは・・・」
《同時刻 346 production》
飛鳥「・・・すまない、こっちの話だ」
文香「その『飛鳥くん』というのは・・・?」
飛鳥「あ~・・・その、えっとだね・・・」
文香「普段言い澱んだり逡巡することのない飛鳥さんが狼狽えています小梅ちゃん速やかに続きを早くハリーハリー」
飛鳥「お得意の三点リーダーはどこへやったんだい?」
小梅「えっと・・・仲間内での、飛鳥ちゃんの呼び方です しょ、輝子ちゃんに幸子ちゃん・・・乃々ちゃんとか・・・ら、蘭子ちゃんも・・・」
文香「そう、なんですか・・・?飛鳥くん」
飛鳥「順応が早すぎる」
文香「いえ・・・・・・・・・決して・・・・・そんなことは・・・・・・・・・・・・・」
飛鳥「ほらもうさっきの反動が来てるじゃないか」
文香「菜々さんは翌々日に来る、と言っていましたね・・・」
飛鳥「やめてやりなよ」
小梅「菜々ちゃんの腰には一時期・・・首に痣がある赤ちゃんが、しがみついてて」
飛鳥「それ本人に言ってないだろうね?」
小梅「う、うん 私が視たのは・・・暗い洞窟の中で、菜々ちゃんの腕から取り上げられたその子が」
飛鳥「待ってくれないか、小梅」
小梅「・・・どうしたの?」
飛鳥「言ってはなんだが・・・ボクはその類の話、あまり得意じゃないんだ」
小梅「えっ・・・!?」
飛鳥「なんだいその反応」
小梅「い、一週間くらい前に『飛鳥ちゃんホラーとか大好きだからたくさん教えたげてね♪』って周子さんが・・・」
飛鳥「・・・ボクが彼女に一体何をしたって言うんだ」
文香「何もしないというのも、時として摩擦を生むものです・・・勉強になりましたね、飛鳥くん」
飛鳥「的外れな教示を有難う、文香さん」
飛鳥「・・・まぁ、その話はまた今度お願いするよ 小梅」
小梅「で、でも実はこれ・・・怖い話じゃなくて、いい話なんだけど・・・」
小梅「うん・・・うん・・・あの子も、そう言ってる・・・えへ」
飛鳥「折に触れキミが口にする『あの子』というのは超自我的な機能の喩えなのかい?」
小梅「弔辞、が・・・?」
飛鳥「不吉」
文香「イド・自我・超自我・・・オーストリアの精神分析学者、ジークムント=フロイトによって提唱された・・・精神構造を3つに分けた概念ですね」
小梅「いど・・・井戸? 貞子ちゃんの話?」
飛鳥「友人か何かみたいなフランクさだね」
文香「・・・・・・」スッパサッ
小梅「(カチューシャを外して、後ろ髪を前に・・・!?)」
飛鳥「ツッコまないよ」
文香「・・・・・・・・・・・・・大将、やってる?」ファサ
飛鳥「えぇ・・・」
文香「フレデリカさんに、ご指南いただきました・・・」
飛鳥「貴女は一体ドコに向かってるんだ」
小梅「ふ、文香さん・・・すごい眼、してる、ね・・・!」キラキラ
飛鳥「・・・そうだった ありがとう、小梅」
小梅「どう、いたしまして・・・? えへへ」
飛鳥「ボクが呼ぶ前に部屋にいたんだろ 先刻の話は聞こえていたかい?」
小梅「じょ、成仏できない霊たちが・・・芳乃ちゃんのところに集まってるって話?」
飛鳥「歌鈴さん面目丸潰れじゃないか」
小梅「でも2割くらいは、クラリスさんに相談に行くらしい、よ・・・」
飛鳥「ココ、本当にアイドル事務所にしておいていいのか・・・?」
小梅「く、クラリスさんが・・・いつも眼を閉じてるのはね」
飛鳥「今日のキミは絶好調だね」
小梅「その方が、よく視えるからなんだって・・・」
飛鳥「・・・そろそろ、本題に入らせて貰っても?」
小梅「あぅ ご、ごめんなさい・・・文香さんの本、だっけ」
飛鳥「そう、キミが適任だと思った」
小梅「でもこれ・・・英語、なんだね」
飛鳥「・・・なるほど、失念していた 語学に堪能な千夏さんあたりに---」
小梅「えと、タイトルは・・・ざ、かるつ・・・っ!?」ハッ
飛鳥「お願いしようか---」
小梅「(こ、これって・・・!)」
飛鳥「埼玉の唯の写真でも掴ませれば喜んで---小梅?」
小梅「ひゃ、ひゃいっ!?」
文香「可愛い(どうかされましたか?)」
小梅「あ、な、なんでもない・・・です」
飛鳥「認識できているボクが言うのもなんだがソレはどう表現してるんだい」
小梅「あの・・・私、こういう文献にく、詳しい友達いるから・・・大丈夫、だよ?」
飛鳥「ん、そうなのか オカルト界隈には顔が広いってトコかな」
小梅「そんな感じ・・・です」
飛鳥「で、だ 具体的な内容なんだが---」
《15:12 346 production》
小梅「---うん、うん・・・分かった がんばるね」
飛鳥「文香さんの眼が一過性のモノであれば蒸しタオルでも乗せておけばいいんだが、そうでない場合が怖いからな」
小梅「わ、私たち・・・アイドル、だもんね」
飛鳥「その通り、ステージで眼を血走らせて歌うアイドル・・・なんてのは、些か刺激的に過ぎる」
小梅「私は、それも魅力的かなって・・・思うけど・・・」
飛鳥「キミなら案外、パフォーマンスとして遣って退けるんじゃないか?」
小梅「そ、そうかな・・・えへへ」
飛鳥「可愛いなキミは」ナデナデ
小梅「あぅ」
飛鳥「充血とまでは行かずとも、カラーコンタクトなんか良いんじゃないか」
小梅「こ、コンタクト入れたことなくて・・・ちょっと怖い、かも」
飛鳥「オフで見かけた時メガネをしていたようだけど、アレは変装で?」
小梅「うん・・・私、眼は良い方だから」
小梅「そ、それにあのメガネ・・・プロデューサーが初めてくれたプレゼント、なんだ」
飛鳥「へぇ、彼が 意外だね」
小梅「まだデビュー前だったのに、おかしなプロデューサーだよね・・・♪」
飛鳥「全くだ・・・っと、少し話しすぎたか」
文香「・・・・・・」クゥクゥ
小梅「寝ちゃってる、ね」
飛鳥「フフ、無理もない 一晩中魔道書とにらめっこだ」
小梅「・・・原典は今、日本にないはず・・・つまり昨日の川島さんは」ボソ
飛鳥「小梅」
小梅「は、はいっ」
飛鳥「『好奇心は猫をも殺す』」
小梅「・・・!」ビクッ
飛鳥「・・・決して、間抜けな猫になってくれるなよ」ニコ
小梅「! うん・・・っ」パァア
飛鳥「長々と悪かったね 時間、大丈夫かい?」
小梅「だ、大丈夫・・・さっき丁度、レッスン終わったところだったから・・・」
飛鳥「そうか ん、その袖じゃ持ちにくいかな」
小梅「う、ううん、それも大丈夫・・・ん、しょ」
小梅「それと、飛鳥くん 代わりに、っていうわけじゃないんだけど・・・」
飛鳥「何だい」
小梅「文香さんの方の解読が終わったら、その・・・ちょっと借りたくて」
飛鳥「・・・本当にボクの話聞いてたのか?」
小梅「う、だめかな・・・?」ウルウル
飛鳥「・・・労働には、それに見合った対価が与えられねばなるまい」
飛鳥「それはキミとボクのような関係に於いても変わらない・・・そうだろう?小梅」
小梅「じゃ、じゃあ・・・」
飛鳥「程々にね これでも柄になく信頼なんて抱いてる数少ない一人なんだ、失望させないでくれよ?」プイ
小梅「えへへ・・・飛鳥くん?」
飛鳥「フン、ボクの気が変わらない内に早く行った方が---」
小梅「だーいすきっ」ぎゅっ
飛鳥「だ・・・!? 馬鹿かキミはっ!?」
小梅「あ、間違えちゃった・・・♪ ありがとうっ」
飛鳥「一体どこをどうしたらそんなヒューマンエラーを・・・はぁ」
飛鳥「と、とにかく! 何か進展があれば連絡してくれ」
小梅「はーいっ」トテトテ
飛鳥「・・・あ、魔道書で両手が---」
ガチャ バタン
飛鳥「---塞がっているのにどうやって閉めたのかは、考えない方が良さそうだ」
飛鳥「(・・・この判断が誤りでなければいいんだが)」
文香「・・・・・・」スヤァ
飛鳥「渦中の姫君は夢の中、か」サラ
文香「ん・・・」
飛鳥「おっと」
飛鳥「・・・目の前で安心して寝ていられる程度の信頼は勝ち得ている、と そう捉えておくのが吉かな」
飛鳥「(フフ、ただの生理現象に理由なんか求めてる)」
飛鳥「ボクもココに来て随分と毒されてしまったみたいだね」
飛鳥「天才娘の言を借りるなら、化学反応。 もう・・・後戻りの出来ない」
飛鳥「(時間が可逆であったなら、或いは・・・こんな感慨を抱くことも無いのかも知れないな)」
飛鳥「尤も、ヒトとしては喜ばしい方を向いてるんだろうけれど」
飛鳥「(それにしても安らかな寝顔・・・こちらまで微睡んでしまいそうになる)」
飛鳥「一種の魔力とでも言おうか、欠伸が伝播するように・・・ふぁ」
飛鳥「(・・・? 文香さんの口が動いて・・・寝言か)」
文香「-----」ブツブツ
飛鳥「ココはひとつ、ご拝聴願おうじゃないか」ヨロ
飛鳥「(寝言は魂の言葉、なんて迷信もあったかな・・・文香さんはどんな)」
文香「v歹hニopNm弋gj丐tmpjg夭mjpデ7tロ襾」ブツブツブツブツ
飛鳥「」ドサッ
飛鳥「・・・Zzz」スゥ
文香「o?ypt叉>gj%kl茘t、jgt阿pjgt、8g豈、ml・・・・・」スヤァ
《19:24》
文香「------♪ ~~♪」
飛鳥「・・・ん」パチ
文香「あ、おはようございます 飛鳥さん」
飛鳥「文香さ、ん・・・ッ!?」バッ
ゴチン
文香「あう」
飛鳥「い~~~ッ!!」ゴロゴロ
文香「・・・そんなに転がると、服を汚しますよ」
飛鳥「何故文香さんは平気なんだい・・・!?」
文香「読書をしていると、しばしば塀や電柱にぶつかってしまうので・・・それが原因かも知れません」
飛鳥「徒歩での移動中に読書は如何なモノかと思うがね・・・」サスサス
文香「どうしても続きが気になるので、仕方ありませんね」フンス
飛鳥「イヤにふてぶてしい」
飛鳥「・・・それはともかく、非常に訊きにくいコトなんだが」
文香「はい」
飛鳥「ボクはどのくらいの間・・・文香さんの膝を占領していたのかな」
文香「今が大体、七時半なので・・・大体4時間ほどでしょうか」
飛鳥「よっ・・・!?」
飛鳥「・・・迷惑だったろう、すまなかった」
文香「いえ、私も今し方起きたところですので」
飛鳥「デートの待ち合わせじゃないんだから」
文香「それに、責任の一端は私にもありますし」
飛鳥「・・・それは、どういう」
文香「私は、その・・・直近に読んだ本の内容を、寝言で諳んじることがあるようでして・・・」
飛鳥「ほう」
文香「そういう場合、私は決まって・・・夢の中でも本を読んでいるんです」
飛鳥「寝ても醒めてもそうなんだね、文香さんは」
文香「はい、恥ずかしながら・・・それで、先ほどまで読んでいたのは件の魔道書だったんです」
飛鳥「・・・うん?」
文香「少し話は逸れますが・・・飛鳥さん、レム睡眠をご存知ですか?」
飛鳥「Rapid Eye Movementのイニシャルを取ってレム睡眠、だったかな」
文香「流石です レム睡眠は所謂浅い眠りのことで、急速眼球運動が見られる事からアメリカはシカゴ大学のユージン・アセリンスキーとナサニエル・クレイトマンらの研究によって1953年に発見・・・RapidEyeMovementの頭文字から命名されました」
文香「一般に、人間は睡眠深度の波形を90分から120分を1周期としてレム睡眠・ノンレム睡眠を繰り返す、と言われています」
飛鳥「ふむ」
文香「次に両者の役割ですが・・・青の二宮さん早かった!」
飛鳥「唐突にバラエティ然としてきたね」
文香「思いの外楽しく・・・胸の高鳴りが抑えられません」
飛鳥「ソレが今日一番の仏頂面貼り付けてする発言かい?」
文香「6・・・5、43210! ・・・時間切れです」
飛鳥「理不尽」
文香「・・・疾く、お答え下さい」プク
飛鳥「膨れるくらいなら早押し形式のままで良かったんじゃないかな・・・全く」
飛鳥「睡眠自体の機能は確か・・・身体の休息と覚醒時に得た情報の整理、だったかな それだけでは無いんだろうけど」
文香「ブラボー!おお・・・ブラボー!!」
飛鳥「文香さん、案外マンガにも手を出してるんだね・・・」
文香「基本的にお勧めされたものには一通り目を通すようにしていますので・・・」
飛鳥「流石は濫読家、といったトコロか」
文香「ブライト・ブルー本来のスピードをお見せしよう・・・!」スッ
飛鳥「果たしてカチューシャひとつでそこまで変わるモノかな」
文香「・・・飛鳥くんのえっち」
飛鳥「どういう思考回路してたらそんな返しが出てくるんだい!?」
文香「ふふ 冗談です」
飛鳥「文香さんのそのフレーズに対する信頼はどこから来るんだ」
文香「話を戻しますね」ムスッ
飛鳥「明言までして逸らしたのは貴女だったハズなのになんなんだいその態度」
文香「身体は眠っていても脳、神経が起きている状態ということは、ある程度の刺激を受容するということでもあります」
飛鳥「・・・して、先の話とはどう繋がるんだい」
文香「飛鳥さん、『慌てる乞食は貰いが少ない』と言いまして」
飛鳥「気が逸ったのは謝るがワードチョイス些か尖りすぎてはいないか?」
文香「続けてよろしいですか?」
飛鳥「・・・いい加減ボクの方がおかしいんじゃないかと思えてきたよ」
文香「夢の中で、ソファに腰かけ件の魔道書を読んでいた私は・・・隣で眠そうにして座っている飛鳥さんに気付きまして」
飛鳥「ほう」
文香「今日は私事で散々振り回して申し訳なく感じたので・・・」
飛鳥「自覚してアレなら尚のこと性質が悪いんじゃないかな」
文香「ゆっくり眠れるように魔法をかけて差し上げようと思いまして」
飛鳥「途端に思考がメルヘンだね」
文香「ゆ、夢の内容というのは得てして理解不能であったり突拍子もないものが多いはずです…特別私がどうこう、というわけでは…///」カァア
飛鳥「フフ、そういうコトにしておこうか・・・続けてくれ」
文香「と、とにかく…寝かせてあげたい、と考えた私はですね…」
飛鳥(こうしていれば可愛らしいヒトにしか見えないんだがね・・・5つも年下に可愛らしい、なんて評されていると知ったら、またそんな顔を見せてくれるだろうか)クスッ
文香「丁度本に載っていた呪文を」
飛鳥「はいストップ」
文香「…なんでしょう」
飛鳥「あの魔道書に載っていた呪文を?」
文香「はい」
飛鳥「ボクに?」
文香「はい」
飛鳥「・・・・・・可能であれば聴きたくなかったんだが、ソレの内容を掻い摘まんで教えてくれないか」
文香「件の魔道書、Cults of the Ghouls…屍食教典儀とでも訳しましょうか」
文香「主に執筆以前のヨーロッパにおけるカニバリズムとそれが持つ宗教的、民俗的意味…儀式の手順やそれに依って持たらされるであろう恩恵が詳らかに記してある、というのが本書の概略になります」
飛鳥「…頭が痛くなってきた」
文香「呪文が効きすぎたのでしょうか」
飛鳥「ッ、そうだ呪文! 聴かせてくれ、過失と謂えども文香さんには語る義務があるハズだ…!」
文香「…私は先ほど、〔意識の剥奪〕という呪文を」
飛鳥「なるほど、その言い回しには惹かれるモノがある…が、ボク自身がその標的だったかと思うとゾッとしないね」
文香「はい…こちら、強制的に対象の精神力を削り取って昏睡させる術ですので」
飛鳥「そんな物騒な呪いをメルヘン呼ばわりされて赤面してたのかい?」
文香「用法・用量を守れば、決して危険な代物ではないのですが…」
飛鳥「製薬会社のCMじゃあないんだぞ…!」
飛鳥「そもそも、昨日受け取った本をそこまで熟読できているのか?」
文香「偽島さんに付箋を貼っていただいた箇所は、一通り憶えていますが…」
飛鳥「理解りやすさを重視するコト自体は咎めないけれどね…その呼び名はもう少しどうにかした方がいいんじゃないかな」
文香「飛鳥さん、呼称や代名詞というものは相手に伝わればそれでいいんですよ」
飛鳥「おおよそ読書家が口にしていいセリフではないね・・・」
《19:38》
文香「…ひとつ、言い忘れていた事がありました」
飛鳥「いいだろう…ここまで来たらトコトン付き合おうじゃないか」
文香「最初に魔道書の話になった時、私が偽島さんに頼まれ事をしたと…そう言ったのを憶えていますでしょうか」
飛鳥「ああ・・・今の今まで全く触れられないモノだから忘れかけていたよ」
文香「流石です、飛鳥さん」
飛鳥「さっき同じセリフを言われた時とは随分ニュアンスが違うね!?」
文香「頼まれ事は全部で三つ…」
飛鳥「拓海さんなら手が出ているトコロだよ」
文香「ひとつめは、一両日中に付箋貼付部の内容を把握する事」
飛鳥「仕事で使う…そう言い含められていたならこれは仕方ないね」
文香「ふたつ…今日、事務所でひとつめを継続して行う事」
飛鳥「オフなのに事務所にいたのはそういうワケだったのか」
文香「いえ、予定のないお休みの日は事務所で本を読んでいる事が多いので…こちらも快くお受けしました」
飛鳥「とすると、偽島さんはそれも織り込み済みだったってコトになるね」
文香「はい、恐らくは…そして三つめですが、」
飛鳥「ああ」
文香「『然るべき時が来ればわかるわ』…との事で、その時は教えていただけませんでした」
飛鳥「…して、その然るべき時はいつ貴女に?」
文香「私が一発芸の折に外したカチューシャから、この便箋折りのメッセージカードが落ちまして…」スッ
飛鳥「便箋折りなんて絶妙に川島さんのキャラを捉えている辺りに苛立ちを覚えるよ…どれ」ピラ
飛鳥「『白坂小梅に魔道書を譲渡せよ』……ッ?!」
文香「はい、それに加え-----」
飛鳥「貴女はコレを読んで尚、小梅の手にCGが渡る事を許したのか!?」グイッ
文香「あ、飛鳥さん落ち着いて…隅に描かれている紋様を見て下さい…っ!」
飛鳥「ッ…すまない、少し熱くなりすぎた」パッ
文香「ケホッ…いえ、非は私にありますから…ここです」ピッ
飛鳥「これは…アルファベット、では無さそうだが」
文香「ゲルマン諸語の表記に用いられた、ルーン文字です…今は何の効力もありませんが、便箋が初めて開かれたタイミングで発動するよう設計されていたらしく…」
飛鳥「…文香さんも意識を奪われた、と?」
文香「ええ・・・飛鳥さんに私が行使したものとは、多少アプローチが異なるようでしたが」コクン
文香「魔道書の儀式の項には『夢見の冠は瞳を啓く』といった記述がありました」
文香「前後の文脈から推察して広義に解釈するなら…感受性の拡充、鋭敏化…魔道の世界では双方向の交信、或いは高位の存在からの一方的な受信を可能にする物、として認識されているのかも知れません…」
飛鳥「そうなると、こちらも偽島さんの恣意的な操作が働いている可能性がある…いや、確実にそうなんだろうね」
文香「私の動きを封じつつ、小梅ちゃんに魔道書を渡してから飛鳥さんをも昏睡させる…概ね、そのような筋書きではないかと」
飛鳥「であるなら、目下最大の問題は…」
文香「偽島さんの目的…ですね」
飛鳥「ああ、それが分からないコトには対策の立てようがない…情報を整理しながら動こう 行くよ、文香さん」グイッ
文香「え、あの、どこに…?」
ガチャ バタン
ゴソ…
「こちらリス…鳥は飛び立った 繰り返す、鳥は飛び立った…オーバーですけど」ブツッ
《20:07 346production エントランス≫
『おかけになった番号は、現在電波が届かない所にあるか…』ピッ
飛鳥「…チッ 小梅には繋がらないか、当然と言えば当然だが」
文香「何か、邪魔立てされたくない事情があるのでしょうか…?」
飛鳥「文香さん、小梅の行き先を掴む為ボクらはこれから女子寮に向かう…だがその前に」ポパピプペ
prrrr prrrrrrrブツッ
飛鳥「もしもし、ボクだ」
『おお、我が友飛鳥! 如何用か』
飛鳥「少しね 今は寮の部屋に?」
『ウム、花園にて両の翼に暫しの休息を与えん』
飛鳥「それは何より、急ぎの用なんだ 隣の小梅は帰って来ているかい?」
『む、小梅? 先刻の旅立ちから、未だ我が耳に凱歌は届いていないが…』
飛鳥(一度戻って来ている…というコトは)
飛鳥「蘭子、繋いだままでいい 小梅の部屋の様子を見て来てくれないか」
『へぇっ!? い、いくら飛鳥くんの頼みでもそれは…』
飛鳥「謗りなら後でボクが幾らでも受ける・・・・・・お願いだ」
『でも…』
飛鳥「それにボクの推測が正しければ、小梅もソレを望んでいるハズだ」
『・・・小梅ちゃんが?』
飛鳥「頼まれてくれるかい?」
『・・・・・・よかろう!』
飛鳥「ありがとう、恩に着るよ」
『ナァーハッハッハ! この程度、造作もなき事よ!』
文香「あの、飛鳥さん…」
飛鳥「なんだい文香さん」
文香「小梅ちゃんの部屋には…ホラーグッズやDVDが、山と置いてあるように記憶しているのですが」
飛鳥「…祈ろう」スッスッ
文香(十字を・・・)
『いざ、彼の地に赴かん!』パタパタ
飛鳥(世間に逆行してフィーチャーフォンを使い続けていたのが功を奏したね…)
ガチャ
『開いてる…!?』
飛鳥「ビンゴ」パチン
文香「・・・・・・」パスッ パスッ
飛鳥「出来ないなら無理にしなくても」
飛鳥「それと蘭子、ドアは少し開けておいてくれ」
『ウム…あれ、電気が点きっぱなしですよ?』
飛鳥「フフ・・・都には悪いが、明日から探偵事務所でも開こうかな」
『・・・同胞よ、説明を所望す!』
飛鳥「ボクらは小梅とその部屋に歓迎されてるってコトさ 蘭子、書き置きかメモのようなモノはないかい?」
『書簡・・・極寒の供物が檻に磔にされている、コレか』
文香「・・・蘭子さんは、今何と」
飛鳥「冷蔵庫に貼られていたと」
文香「なるほど・・・何か解読する上でコツのようなものが?」
飛鳥「ボクの中で何か、確固たるメソッドがあるワケじゃないんだ」
文香「では、どういう事なのでしょう・・・」
飛鳥「そうだな、喩えるなら・・・ラム肉にしか出せない風味や柔らかさ、とでも言おうか」
文香「ラム肉、ですか?」
飛鳥「ああ・・・1歳未満の、歯の足らない仔羊からしか得られないモノがソレだ」
飛鳥「同様に、と言うと些か強引かも知れないが・・・思春期で14才のボクら二人も、そういった期間の限られた価値に囚われている」
飛鳥「なればこそ、ボクは彼女にシンパシィを感じずにはいられないんだ 多少ベクトルが違っていたとしても、ね」
文香「・・・総括すると、お二人は仲がよろしいのですね」ニコ
飛鳥「解釈は自由さ」フッ
『あの、飛鳥くん・・・?』
飛鳥「あぁすまない 蘭子、紙にはなんと?」
『コホン・・・
飛鳥くんへ
文香さんの件、解読終わりました
あんまり酷くならないみたい 良かった・・・
まとめたらメールします
追伸
約束通り本借りるね
次会う時には返します
小梅より
・・・そう記されているわ』
飛鳥「・・・驚いたな」
文香「ええ、小梅ちゃんの真似がこんなに上手いなんて」
飛鳥「頼むからもう少し場の雰囲気を汲んでくれ・・・」
飛鳥「約束を守って本当に終わらせたのか、ボクらを謀っているのかはともかく・・・
このスタンスを示す為だけに幾らでも人目のある寮の自室に戻るだろうか?」
文香「・・・飛鳥さん、これは」
『ん、裏にも何かーーーーー』ペラ
飛鳥「文香さん?心当たりでも、」
『あ、レ・・・・・・?』ドサッゴッ
飛鳥「・・・・・・・・・・・蘭子?」
飛鳥「おいッ、どうした蘭子!?」
文香「・・・・・・! 飛鳥さん、急ぎましょう!」
飛鳥「文香さん!? 一体何がっ」
文香「状況を鑑みるに、私が便箋のルーンを目にした時と同じかと、ただ・・・」
飛鳥「ただ?」
文香「魔道書には〔意識の剥奪〕とは比べ物にならない程・・・危険な呪文も」
飛鳥「・・・・・・結論を急いてこのザマか」
文香「飛鳥さん、蘭子さんにかけ直して携帯を鳴らして下さい・・・寮生の誰かが気付いてくれる事を祈りましょう」
飛鳥「ああ、理解ってる・・・クソッ もうすぐ女子寮だ、走るぞ!」ダッ
文香「はいっ!」
《20:21 346production 女子寮》
文香「はい、はい・・・社員証はこちらに・・・」
飛鳥(無事でいてくれ・・・!)prrrrr
ブツッ
飛鳥「!? ・・・もしもし」
『も、もしもし・・・? 蘭子ちゃんなら、寝ちゃってるぞ・・・フヒ』
飛鳥「輝子さん? 蘭子は無事か!?」
『お、おう? 大丈夫だと思うけど・・・』
飛鳥「・・・今は小梅の部屋に?」
『うん・・・それにしても、なんでここで寝てるんだ?』
飛鳥「説明は顔を合わせてからにしよう・・・少しその場で待っていてくれ」ブツッ
《20:25 女子寮 小梅の部屋》
ガチャ
飛鳥「お邪魔するよ」
星輝子「や、やぁ・・・いらっしゃい・・・別に私の部屋じゃないけどな」
飛鳥「・・・ベッドに、寝かせておいてくれたのか」
輝子「床で寝るのは確かにキモチイイけど、どこか痛めたらマズイと思って・・・
ら、蘭子ちゃんが軽くて、助かった フヒヒ」
飛鳥「ハァ・・・もういいよ、文香さん」
文香「分かりました」スッ
輝子「文香さんもいたのか・・・その手に持ってる四角いの、なんだ?」
文香「鈍器です」
輝子「フヒィッ!? ・・・あ、よく見たら本、みたいだな」
文香「ばれてしまいましたか」
飛鳥「・・・文香さん、ボクは貴女に殿をお願いしたハズだが?」
文香「何か武器を、との事でしたが・・・なにぶん急な話でこれしか用意できず・・・申し訳ありません」
輝子「フヒ・・・近くで見てもタダの本にしか見えない・・・スゴい厚さだけど」
文香「本は本でも・・・これは護身用です」
輝子「護身用の、本・・・!?」
飛鳥「基本的にその二語が結びつくコトは無いと思うんだが」
文香「はい、見開き側の角を立ち読み防止テープで補強した後二重にシュリンク、
その上からグリップとして機能するようダクトテープを巻いてあります」
飛鳥「この風体でよく本だと分かったね、輝子さん」
輝子「せ、背表紙が見えたからな・・・」
輝子「・・・ん、なんで文香さんは鈍器構えてたんだ?」
飛鳥「キミがボクらに害なす者だった場合の、予防線だよ」
輝子「どゆこと・・・?」
文香「私達は輝子さんが敵である、もしくは貴女が輝子さんに扮した闖入者かも知れない・・・そう疑っています 今もなお」
輝子「おいおい・・・冗談キツいぜ」
飛鳥「いいや、ミステリィやサスペンスではまず第一発見者から疑うのは定石なのさ・・・とは言え、先ほどからのやり取りで
ほぼ嫌疑は晴れているようなモノだけどね」
輝子「お、脅かさないでくれ・・・」
飛鳥「フフ、すまなかった」
飛鳥「ところで輝子さん、床にメモが落ちていなかったかい」
輝子「ん、小梅ちゃんからのメッセージだろ? テーブルの上にあるぞ・・・フヒ」
飛鳥「・・・ソレ、裏も読んだのか?」
輝子「え、裏にも何か書いてあったのか・・・」
飛鳥「ああ、まだならいいんだ・・・借りるよ」スッ
文香「飛鳥さん!? 何を-----」
飛鳥(ままよ)ピラッ
飛鳥「・・・異常なし、か」
飛鳥(便箋のルーンは二文字・・・コレは一文字 共通するのは、アルファベットの"I"に似ているコレか)
飛鳥「文香さん、このルーンはどういへぶッ」
輝子「本を顔面に・・・!?」
飛鳥「ちっ・・・血迷ったか文香さん!?」
文香「それはこちらの台詞です!」
文香「今、自分が何をしたか分かっているのですか・・・?」
飛鳥「理解っているさ この上なく明瞭に、ね」
輝子「は、話が見えないんだけど・・・?」
飛鳥「貴女の考えているコトも大方の予想はつく・・・無用な危険を冒すべきではないと、そう言いたいんだろう」
文香「では何故っ」
飛鳥「蘭子を巻き込んだのが、ボクだからだよ」
文香「・・・!」
飛鳥「文香さん 貴女はさっきの通話を聴いて、自分と同じかソレ以上に厄介な状況に蘭子が置かれているのではないか、と危惧した そうだね」
文香「・・・えぇ」
飛鳥「そしてその現状を確かめる方法はひとつ・・・『ルーンの確認』だ」
飛鳥「ソレさえしてしまえば、効力が一度のみであるかに加え紋様を検めるコトも出来る・・・・・・ボクにはソレが出来た、だからそうした」
飛鳥「それだけのコトさ」
文香「本当にそれだけですか?」
飛鳥「ああ 危険を冒さずに何かを得ようだなんて、烏滸がましいにも程がある」
文香「先ほど『結論を急いてこのザマか』、そう仰いましたね? 今の飛鳥さんと、先ほどのあなた・・・一体何が違うと言うのでしょうか」
飛鳥「・・・それは、」
文香「ここで倒れてもいい、と・・・そう思ったのですね」
飛鳥「!・・・ああ、そうだ 遅かれ早かれ誰かがやらねばならなかった であれば、魔道書の知識を持っている文香さんよりも・・・
ただ逸るしか能の無いボクが行動不能になる方が、遥かに合理的だ そうは思わないか?」
文香「あなたはまだそんな事を・・・っ!」グイッ
飛鳥「ぐ・・・ッ!」バタン
輝子「マウント・・・!?ふ、文香さん、暴力は・・・」
文香「輝子さんは静かにしていて下さい!!」
輝子「あ、ハイ・・・」シュン
文香「いいですか、飛鳥さん・・・蘭子ちゃんを巻き込んでしまったご自分を責める気持ちは分かります」
飛鳥「・・・・・・」
文香「しかし私達は今、目指すべき場所すら分からない霧中にいるのです・・・闇雲にひた走ったところで時間を無駄にするだけ、違いますか?」
飛鳥「・・・なら、」
飛鳥「なら一体どうしろと言うんだ!」
飛鳥「結果論でしかないが・・・あの時、蘭子を部屋に向かわせる必要は無かった メモだって、在り処だけ確認させれば、決して読ませる必要は無かったんだ・・・」
飛鳥「ボクは蘭子を危険に晒してしまった、無用な危険に!」
文香「飛鳥、さん・・・」
飛鳥「そこで今、安らかに眠っているように見えるが・・・エスパーでもないボクらが、頭やカラダの中身まで見通すコトは出来ない」
飛鳥「・・・ここに着くまでの短い時間で散々考えたよ」
飛鳥「もし、外面を見ただけでは理解らないような、致命的な何かが奪われてしまっていたなら」
飛鳥「それをボクも、供に背負うべきなんじゃないか、って・・・」
文香「・・・飛鳥さん 杞憂ではありましたが、もし仮に蘭子ちゃんの身が危なかったとして・・・飛鳥さんがそうする事を、彼女が望むとお考えですか?」
飛鳥「そんなコト、本人に訊いたって理解らないさ」
文香「いいえ、分かるはずです・・・あなたになら」
飛鳥「・・・・・・」
文香「だって・・・そうでしょう」ポタ
文香「最初にあなたを巻き込んだのは、私なんですよ・・・?」ポロポロ
飛鳥「・・・ッ」ガバッ
文香「あ・・・」
飛鳥「気付いてあげられなくて・・・ごめん」ギュッ
文香「飛鳥、さん」
飛鳥「仲間の為と嘯いて、己の事しか見えていなかったボクの責任だ」
文香「え、あの・・・///」カァア
飛鳥「たとえ、息遣いを感じるような距離で視線を交わしたとて・・・何も理解りはしないが」スッ
輝子(涙を指で・・・!?)
飛鳥「コトバなんかに逃げなければ、温もりに身を委ねる事も出来る・・・」サスサス
飛鳥「ボクは此処にいるよ、文香さん」ボソ
文香「・・・ご、」
輝子(ご・・・?)
文香「誤魔化されませんよ・・・っ」プイ
飛鳥「はは、手厳しいな」
文香「でも・・・許して差し上げます」ぽふ
飛鳥「・・・ああ」ニコ
輝子(今なら良いシャウトが出来そうだゼェ・・・!)
《20:48》
飛鳥「そろそろ、落ち着いたかい」
文香「はい・・・お見苦しいところを、とは言っても」
文香「飛鳥さんを戒めていたはずの私が逆に慰められている現状には・・・些か承服しかねますが」ジト
飛鳥「・・・取り急ぎ、情報の整理から始めようか」
文香「・・・そうですね」ハァ
飛鳥「まず順を追って、『ボクらがココに来た理由』からだ」
文香「小梅ちゃんの捜索、及び足跡の確認ですね」
飛鳥「結果として蘭子が魔手にかかり、不幸中の幸いでしかないが眠らされているだけだと理解った」
飛鳥「文香さん、このルーンは貴女に行使された二文字・・・そのひとつに相違ないかな?」
文香「はい、これは"I"(イス)・・・氷、停滞、安定・・・そして休眠を意味します 英語のiceにあたるルーンですね」
飛鳥「成る程、それで眠ってしまうと・・・もう一方は?」
文香「そちらは"R"(ライド)、旅、移動、意思の伝達などの意味が籠められています」
飛鳥「つまり、貴女が夢見心地に魔術を使ったのは・・・」
文香「こちらの影響、でしょうね」
飛鳥「・・・次、『小梅がココに来た理由』だ」
文香「メモ書きと部屋の片付け、でしょうか」
飛鳥「もうひとつ、ルーンの罠もだね」
文香「飛鳥さん・・・まさか、小梅ちゃんを疑っているのですか?」
飛鳥「まさか、だって? フン、ボクだって小梅を疑いたくはないさ」
飛鳥「けれどね 探しやすいよう片付けられた部屋、メモ、ルーン文字・・・少し状況が整いすぎてるんじゃないかな」
文香「・・・そこです」
飛鳥「ん?」
文香「ルーン文字・・・見比べていただければ分かるかと思いますが、筆跡とインクの具合が全く同一なんですよ」ピラ
飛鳥「・・・ダメだ ソレだけでは弱いよ、文香さん ほぼ一画の記号をそうまで言い張る剛毅さは認めても良いけれどね」
飛鳥「"まさか"、貴女が情に絆されるタイプだとは思わなかった」
文香「つい先ほどまでの飛鳥くんにも聴かせて差し上げたい金言ですね」
飛鳥「グッ・・・」
文香「それに・・・こんな稚拙な論拠が通るとは、私も思っていません この部屋、いくらメモを見つけやすくするとはいっても・・・片付き過ぎてはいませんか?」
飛鳥「ほう・・・?」
文香「少し失礼して押入れを覗かせていただきましたが・・・いつもならラックに収まっているDVDのパッケージは疎か、棚の上に並んでいる小物類・・・ただのひとつも見つかりませんでした」
飛鳥「・・・一体、どこに」
輝子「あ、それなら私の部屋にあるけど・・・」
文香「それはまたどうして?」
輝子「そろそろ、幸子ちゃんが海外ロケから帰ってくるからな・・・週末に、またホラー鑑賞会やろうって前、話してて」
輝子「その時のために私の部屋にビデオとか小物、置いてあるんだ・・・フヒ」
飛鳥「なるほど」
文香「輝子さん、教えて下さってありがとうございます」ペコ
輝子「ああいや、そんな・・・」
飛鳥「・・・まあいい で、だ それをしてどんな論を展開してくれるのかな?」
文香「私が示すのは、小梅ちゃんが『飛鳥さんよりも先に蘭子ちゃんが部屋に来る』事を予見していた可能性です」
飛鳥「フム」
文香「まず、輝子さん」
輝子「お、おう?」
文香「鑑賞会は今週末で間違いありませんか?」
輝子「あ、うん・・・細かいところはこれからだけど」
文香「ありがとうございます 飛鳥さん、魔道書を手に入れてこれから何かをしよう、というタイミングの小梅ちゃんが・・・まだ予定を詰めてすらいない鑑賞会の準備を始めるのは、余りに不自然ではありませんか?」
飛鳥「・・・そうかも知れない 小梅は事務所の同年代の中では比較的落ち着いているとはいえ、ことオカルトに関しては・・・つまり、らしくないね」
文香「私も、同意見です この行動には別の意図があると見て間違いないでしょう」
飛鳥「・・・それは?」
文香「蘭子ちゃんへの配慮と・・・偽島さんの誘導です」
飛鳥「前者は、理解った・・・蘭子が怯えてその足を止めないようにオカルトグッズを退避させたと、そう言いたいんだろう」
文香「仰る通りです」
飛鳥「だが後者は・・・説明を どうして今、その名前が出てくる?」
文香「はい・・・前者を納得いただけたようなので、仮説を前提とした話になりますが・・・」
飛鳥「構わないよ」
文香「蘭子ちゃんが来ると分かっていながら小梅ちゃんは、メモの宛名を"飛鳥くんへ"のままにしていました・・・何故だか分かりますか?」
飛鳥「元々アレはボクらへのメッセージなワケだが・・・最初に手に取るのが蘭子で、小梅がソレを予見していたとするなら・・・」
文香「偽島さんは既に二度、私と飛鳥への魔術攻撃に成功しています 加えて今回の蘭子ちゃん・・・そのどちらにも、共通したトリガーがありましたね」
飛鳥「・・・メモ、そしてルーン文字」
文香「そうです・・・これらの証拠から、偽島さんは文書とルーン文字を好んで用いる魔術士と分かります」
飛鳥「ちょっと待った」
文香「なんでしょう」
飛鳥「ボクらは昼過ぎから、便宜的に偽島さんと呼称してはいるが・・・彼女が偽者だという確証がそもそも無いんじゃないか」
文香「・・・それはこの事件の犯人が川島さん本人だ、という事でしょうか」
飛鳥「その可能性が無いとは、とても断言できない・・・現状ある情報の中では、だが」
輝子「か、川島さんだったら・・・昨日早くから楓さん菜々ちゃんと温泉旅行、だったような・・・」
飛鳥「ソレは確かかい?」
輝子「うん・・・親友の机の下、色んな情報が集まる・・・フヒ」
飛鳥「となると、昨夜川島さん本人が事務所にいる道理は無い・・・」
文香「輝子さんには先ほどからお世話になってばかりですね・・・今度何かお礼をさせて下さい」ナデナデ
輝子「じゃ、じゃあ、勢いで買ったはいいものの難しくて読めなかった、キノコの学術書があるんだけど・・・一緒に読んでくれないか・・・?」
文香「はい 喜んで」ニコ
輝子「フヒヒ・・・棚からボタニカルきのこってヤツだな」
飛鳥「茸は菌類では無かったか?」
輝子「おお・・・幸子ちゃんから教わった『ツッコミ待ち』、初めてできたぞ」
飛鳥「輝子さん、いつの間にソッチ側に・・・」
文香「さて、偽島さんに話を戻しましょうか・・・結論から言うと、偽島さんは他者の姿をほぼ完全に模倣する術を持っている・・・私はそう考えます」
飛鳥「ソレもあの魔道書に載っていたのか?」
文香「ご推察の通りです 詳細は省きますが、屍食鬼・・・グールは人を拐かしてその数を増やす事があります 〔意識の剥奪〕同様、その為に使われていたものではないでしょうか」
飛鳥「・・・あまり深く考えない方が、頭に良さそうだ」
文香「はい、それが賢明かと・・・偽島さんは口調と服装を除く、顔・スタイル・声色・仕草・・・ほとんど全てが川島さんそのものでした あの方が本人でないなら、この説が最も有力でしょう」
飛鳥「ご丁寧にソコだけ外してくれたコトを考えると、向こうは相当文香さんに気付いて欲しかったと見える」
文香「実際、そうなのでしょう 彼女はわざと疑わせて、私達が翻弄される様をどこかで見て嘲笑っている・・・そんな気がするのです」
飛鳥「イヤに不明瞭な物言いじゃないか」
文香「こればかりは勘としか言いようがありませんので ただ・・・」
飛鳥「ただ?」
文香「小梅ちゃんが、一矢報いてくれました」
飛鳥「小梅の行動理由がそこに繋がるのか」
文香「・・・偽島さんは飛鳥さんと私が状況を理解してすぐに小梅ちゃんを探しに行くだろう、そう考えたと思います」
飛鳥「当たり前だ 小梅の、延いては事務所の危機に発展仕兼ねない」
文香「はい・・・そして何らかの方法で小梅ちゃんの居場所を捕捉し寮から出てきたタイミングを見計らって部屋に侵入、罠を仕掛けて脱出・・・こんなところでしょうか」
飛鳥「色々とツッコミ所はあるが、寮への侵入方法はどうしたんだろうね」
文香「入ってきた時のことなので、憶えているとは思いますが・・・基本的に346プロダクション女子寮では、寮生でない者の立ち入りはたとえアイドルであっても・・・社員証の提示と書類の記入が求められます」
飛鳥「確かにアレは地味に時間がかかって困る 特にさっきのように急を要する時なんかは」
文香「偽島さんにはそこまでの時間と社員証がなかったと思うので、寮生の・・・恐らく年少組の誰かに扮して小梅ちゃんの部屋に侵入し、」
飛鳥「・・・! 小梅がボク宛のメモを残したのは」
文香「偽島さんは"飛鳥さん宛のメモ"に罠を仕掛けました 尤も、必ずしも最初に手に取るのが飛鳥さんとは限りませんが・・・私たち二人のどちらかが罠にかかれば御の字、そう考えていたんだと思います」
文香「もしそうなっていたなら、探索の中止を余儀なくされたでしょうから・・・」
飛鳥「だが、最悪の事態は回避された・・・蘭子の存在によって」
文香「そしてそれを予見した、小梅ちゃんのお陰でもあります」
飛鳥「・・・ボクはまだ、ソコが腑に落ちていないんだ」
飛鳥「先に来るのを知っていながら、効力が未知数の魔術の矛先を蘭子に誘導する・・・小梅にそんなコトが出来て当たり前なら、それこそアチラ側と見て間違いないだろう」
文香「これも推測になりますが・・・小梅ちゃんは、偽島さんの正体を知っていたのではないでしょうか」
飛鳥「何・・・?」
文香「私は彼女が来てすぐに眠ってしまったので、分かりませんでしたが・・・何かそういった素振りを見せてはいませんでしたか?」
飛鳥「ん・・・言われてみれば、」
《小梅「原典は今、日本にないはず・・・つまり、昨日の川島さんは」》
飛鳥「・・・あった 識っていたんだ、小梅は」
文香「であれば、簡単な話です 小梅ちゃんは、偽島さんが私達を傷つけない事を知っていた----それが一体何に起因するものかは分かりませんが----だから蘭子ちゃんに誘導するという、暴挙とも取れるような策を打つことが出来た・・・つまりは、そういう事です」
飛鳥「・・・詰まるところ、貴女は小梅の疑いを晴らせていないんじゃないか?」
文香「時には本質にばかり囚われず・・・全容を検める事も大事ですよ、飛鳥さん」
文香「現時点で、小梅ちゃんの立場は中立です・・・彼女の為したい事を邪魔されたくないがゆえに身を隠しているその一方で、私達が偽島さんの思い通りにならないよう・・・ある程度妨害してくれています」
文香「しかしながら、彼女があちら側と手を組むことは絶対にありません・・・私にはそう感じるのです」
飛鳥「・・・・・・」
文香「そうですね・・・もっと、シンプルに行きましょう 小梅ちゃんは少なからず、私達を想って動いてくれてます・・・それだけで彼女は仲間ですし、その事実の前では彼女の思惑など関係ありません」
文香「そして仲間の為なら茨の道を往き、想いに報いる覚悟が・・・私にはあります あなたはどうですか?飛鳥さん」
飛鳥「・・・・・・ボクは、」
文香「もし、曖昧な現状を是としないのであれば・・・ここで」
飛鳥「ここで引き下がるくらいなら!」
文香「・・・・!」
飛鳥「・・・初めから、文香さんを女子寮に連れてなど来るものか」
飛鳥「それに、魔導書を目にした小梅を見ていたのは他でもない、ボクだけだ この事態は十二分に予測出来た・・・」
飛鳥「最早驕りも慢心も、一片たりとも在りはしない」
文香「・・・飛鳥さんなら、そう言って下さると思っていました」ニコ
飛鳥「言ってくれるね、文香さん・・・そうと決まれば時間を浪費するワケにはいかないな、早速動こうか」ニッ
文香「飛鳥さん、乗り気になっている所非常に申し上げにくいのですが」
飛鳥「なんだい」
文香「現状、目的地が判明していません」
飛鳥「・・・・・・」
文香「・・・輝子さんの意見を、聞きましょうか」
輝子「フヒィッ!? む、無茶ぶりすぎる・・・」
飛鳥「ハァ・・・幾ら輝子さんでも、そう都合よく情報を持っているワケないだろう」
輝子「確かに、私は小梅ちゃんが今・・・どこにいるのか知らない」
飛鳥「それ見たコトか」
輝子「で、でも・・・ビデオを預かった後、どこへ向かったかなら・・・知ってる」
飛鳥「・・・・・・」
文香「・・・それ見たことか」ボソッ
飛鳥「チッ」ギュム
文香「いひゃいでふあふかはん」
輝子(二人ともカワイイ)
飛鳥「・・・すまない で、小梅はどこへ?」
輝子「そ、その前に一つ・・・お願いがあるんだ」
飛鳥「・・・聴こうか」
輝子「詳しい状況はよく、分かってないけど・・・小梅ちゃんは今、悪い小梅ちゃんかもしれないんだよな・・・?」
飛鳥「そうだね・・・ソレが内に秘めてきたモノなのか、今回の件で生じたモノなのかはまだ、理解りかねるが」
輝子「もしだぞ? もし、そうなっちゃってたら・・・まず私と幸子ちゃんのところに、連れてきてくれないか」
飛鳥「理解った」
輝子「そうだよな、やっぱ・・・ええっ?」
飛鳥「どうした?」
輝子「り、理由とか訊かないのか・・・?」
飛鳥「訊いて欲しければ、そうするが」
輝子「いや・・・そういうわけじゃないけど」
飛鳥「なら、ボクから言うべきことは何も無いな・・・文香さん?」
文香「はい・・・学術書、楽しみにしていますね」ニコ
輝子「文香さん、飛鳥ちゃん・・・あ、ありがとう・・・フヒヒ」
輝子「・・・私に荷物を預けた後、小梅ちゃんが向かったのは-----」
輝子「あ・・・蘭子ちゃんは、私が部屋まで運んでおくからな」
飛鳥「そうだな 出来れば起きるまで一緒にいて、落ち着かせてやってくれ」
飛鳥「・・・終わったら二人には全て説明しよう ボクが謝っていたと伝えてくれると、助かるかな」
文香「もう、大丈夫だとは思いますが・・・今夜は部屋から出ない方が安全かと思われます 施錠もお忘れなく」
輝子「うん・・・わかった」
飛鳥「今日は本当に世話になった 後日改めて礼をさせてもらうよ」
輝子「楽しみにしてる・・・フヒ じゃあ小梅ちゃんのこと、頼んだぞ・・・!」
飛鳥「ああ、任された」
文香「行って参ります」
バタン
輝子「・・・行ったかな もしもし・・・? こっちは終わったぞ」
輝子「あ、蘭子ちゃん もう起きて、平気・・・」
神崎蘭子「・・・・・・っはぁ~~~~緊張した~~///」ドキドキ
文香「・・・すいません、ここで降ろしてください」
バタン ブーン・・・
飛鳥「事務所からタクシーで30分・・・ようやく着いたか」
文香「飛鳥さんが場所を覚えていてくれて、助かりました」
飛鳥「別段大きな家には見えないんだがな・・・」
《21:07 女子寮 小梅の部屋》
輝子「小梅ちゃんが向かったのは・・・第2レッスンルームだ」
飛鳥「小梅のレッスンは、既に終わっていたはずだが?」
輝子「誰かと待ち合わせしてる、って・・・誰かまでは聞かなかったけど」
文香「・・・飛鳥さん、本日のスケジュール表を覚えていますか」
飛鳥「あの時間の第2レッスンルームは確か・・・」
文香「午前終わりと午後初め、2コマ連続で・・・LiPPSの皆さんが利用しています」
飛鳥「・・・ボクにはもう、一人しか思いつかないんだが」
文香「私もです」
飛鳥「文香さん、確認したいことがある」
文香「はい」
飛鳥「アイツの持っていたモノは"本当に小瓶だったのか"?
文香「いいえ・・・私はあの時、気を遣ってそう言いましたが・・・間違いなくプラスチック製でした」
飛鳥「決まりだね」
《21:42 都内某所》
飛鳥「・・・ここだ」
文香「家の中に人がいる気配はありませんね」
飛鳥「ガレージは・・・あった 開けるよ?」
文香「・・・はい」
ガララッ
飛鳥「・・・無い、何も」
文香「逐次几帳面に片付けるイメージとは・・・彼女は少し、かけ離れていますが」
飛鳥「実験は地下に完全移行したのか・・・? 動かさなければ乱れようもない」
文香「・・・絨毯やソファーの下は一通り検めましたが、何も無いようですね」
飛鳥「ハッチでない、となると・・・壁か」
文香「・・・外観には突出した部分が見受けられなかったので、家と隣り合った壁・・・でしょうか」
飛鳥「この、お誂え向きの本棚なんかどうだい どれ・・・月刊○ー?」
文香「・・・珍しい」
飛鳥「確かにアイツが斯様な本を読むような人間には見えないが」
文香「いえ、ム○ではなく・・・本棚の方です 横の床・・・分かりますか?」
飛鳥「・・・床が一部、沈み込んでいる?」
文香「恐らくは・・・やはり、開きましたね」カパッ
飛鳥「埋め込み式のレールにキャスター・・・! という事は、」グッ
ガラガラ・・・
飛鳥「・・・些か、お約束過ぎやしないか」
文香「一流の悲劇より三流の喜劇を、という言葉もありますが」
飛鳥「ニュアンスが一周回って適っている気すらしてくるね・・・」
文香「飛鳥さん、ドアに張り紙が」
飛鳥「『Calm Down♡』、だとさ」
文香「これは、come downとかけているのでしょうか・・・?」
飛鳥「・・・なるほど、あまり気負わずに進もうか 警戒は緩めずにね」
文香「そう、ですね」
飛鳥「ん、階段が暗いな・・・降りるよ文香さん、手を」スッ
文香「・・・・・・っ」
飛鳥「・・・文香さん?」
文香「・・・はい、ありがとうございます」ギュッ
飛鳥「フフ、何か気になることでも?」
文香「いえ、今この瞬間から鷺沢の墓に入るまで手を洗えない・・・その覚悟を決めるのに、時間が必要だったものですから」
飛鳥「ヒトをアイドルか何かみたいに・・・あと婿を取る気なのか?」
文香「飛鳥さん、騒動のせいでお忘れかも知れませんが・・・私達はSISのエージェントなどではなく、歴としたアイドルです」
飛鳥「婿入りの方はスルーか・・・ん、コレは・・・?」
カツカツカツ・・・
《21:55 地下研究所》
飛鳥「・・・っと、研究所に着いたか」
文香「ここは・・・ロビーのようですね」
飛鳥「どれ、案内板でも探すとしようか」
『その必要はないんじゃないかにゃー』
文香「・・・飛鳥さん!向こうのスピーカーです」
飛鳥「ハロー、天才娘 顔も出さずに随分な歓迎じゃないか」
『Good evening♪ ホントーならちゃんとお迎えしたかったんだけど、さっきまでちょこっとだけ忙しくてね」
文香「小梅ちゃんは、ここにいるんですね・・・志希さん」
『あれ、文香ちゃんが言ったんだよ? "慌てる乞食は貰いが少ない"、って』
文香「・・・!? どうしてそれを、」
『今大事なのは、そんなことじゃないでしょ・・・でも良かったね、今日はご機嫌志希ちゃんだから~出血大サービス!』
『---いるよ、小梅ちゃん この地下のドコかに」
飛鳥「案外、ケチくさい所もあったんだな」
『ノンノン・・・これは駆け引きだよ、カ・ケ・ヒ・キ♪ understand?』
『場所が分かったら私の言うこと聴かないで探しちゃうでしょ』
飛鳥「ハン、先だって言われて聴くヤツがこの世にどれだけいるっていうんだ」
『そうだねぇ・・・"小梅ちゃんは預かった"って言ったら、どう?』
飛鳥「・・・・・・ッ!!」
------バキンッ!!
『ザーーーーーーー』
にゅっ
スピーカー②『あ~・・・ガレージのドアに挟んでおいたバール、持ってきちゃったんだ』
『案外、乱暴なトコロもあったんだな・・・にゃは[ザーーー]』バキンッ
飛鳥「・・・もう一つ、行くかい?」
スピーカー③『言いながら壊してたら世話ないねー』にゅっ
『第一、話せなくて困るのはキミ達の方なんじゃない?』
飛鳥「お前が本当に小梅を監禁してるって? 起きている間にするのは寝言とは言わないんだ、知っていたか」
『ホントーにあたしがやらない、って・・・そう思うの?』
文香「志希さん、小梅ちゃんもあなたもまた仲間だと・・・私はそう思います」
『・・・そーゆー盲目さは好きだよ よしっ、じゃあ奥で話そっか!』
ガチャ
飛鳥「・・・ドアか?」
『左奥の突き当たりだから 待ってるよ~』ブツッ
飛鳥「どうする、文香さん」
文香「・・・・・・是非も無し、です」
《22:05 地下研究所 応接室》
飛鳥「・・・開けるよ」
「どうぞー♪」
飛鳥「・・・・・・」
ギィッ
一ノ瀬志希「二人とも、いらっしゃーい」パタパタ
文香「・・・お邪魔します」
志希「おっ礼儀正しい」
飛鳥「日がな一日暖炉を眺めているのが似合う安楽椅子だな、志希」
志希「普通のオフィスチェアーじゃ、この体には合わなかったのだよ」クルッ
飛鳥「・・・・・・お前、本当に」
飛鳥(腰から別れた肢体・・・足を束ねただけでは成し得ない、長くしなやかな尾 そして・・・鱗)
飛鳥「やはり・・・フレデリカの夢物語では、無かったんだな」
文香「あ、飛鳥さん・・・?志希さんの、あの姿は・・・あれではまるで、ギリシア神話に登場する・・・ら、ラミアのようで、」
飛鳥「まさしく、志希はそのラミアだ いや・・・そうなった、と言った方が的確かな」
飛鳥(鼓動が速い、思考が白んでいく・・・予想できていたにも関わらず、平静を保つので精一杯か)
文香「・・・きゅう」パタッ
飛鳥「お、っと」ギュッ
志希「あらら、文香ちゃんには刺激が強すぎたかにゃー?」
飛鳥「なまじ知見がある分思い至ってしまうんだろう・・・元々精神的にもギリギリだった、仕方ないな」
飛鳥「申し訳ないが文香は休憩中だ 話なら、ボクが聞こう」
志希「ふーん・・・そういうこと」
飛鳥「それとも、バールでそのささくれを一枚一枚剥がされる方がお好みかい?」
志希「やーん♪飛鳥くんのえっちっ」
飛鳥「・・・・・・」ブンッブンッ
志希「ジョーダン、冗談だってばっ」
飛鳥「まず一つ・・・簡単な質問に答えてもらおうか」
志希「あたしはいいけど。信じられるの?」
飛鳥「その類の問答に意味なんて無いのは、キミが一番よく理解ってるんじゃないか?」
志希「ソレもそうだ どうぞー」
飛鳥「・・・お前の味方は誰だ?」
志希「ぷっ、あははははははははっ!!」
飛鳥「おいおい、遂に壊れたのか」
志希「いひひひっあーだめ、お腹痛い・・・よりにもよってソレ~?」
飛鳥「大事なコトなんだよ・・・少なくともボク達にとっては、ね」
飛鳥「要は志希 お前が偽島さんサイドか小梅サイドか、というだけの話さ」
志希「そーゆーことなら言わせてもらうけど、あたしは偽島さんなんて知らなーい」
飛鳥「小梅を監禁しているワケでは、無いんだな」
志希「小梅ちゃん側とも言ってないよ? まぁ、概ねその通りだけど」
飛鳥「ことリスクマネジメントに於いては、最早眉唾と言うべきでは無いな・・・『あの子』や他の霊魂に懐かれている小梅は、一流だ 自ずから牙城に飛び込むような真似をしないだろう」
飛鳥「ソレにしても、キミと小梅が繋がっているとはな 今朝の時点では夢にも思わなかった」
志希「そこはギブアンドテイクかにゃー 小梅ちゃんはあたしが欲しいモノを持っていた、あたしにはソレに贖うだけの知識と探究心があった・・・協力関係を築くにはそれだけでジューブンっ」
飛鳥「・・・その身体を見た後に何故キミが魔道書なんか、なんて訊くのは無粋かな?」
志希「そそ、ご名答~私の目的はコレを直すこと」ベシベシ
志希「一時的に引っ込める薬は作れたんだけど完全には直せなくてね」
飛鳥「なるほど、あの容器はソレか」
志希「あはー・・・バレちゃってたか」
飛鳥「フフ、僕だけの力じゃないけどね」サラッ
文香「ぅ・・ん・・・・」スヤ
志希「・・・飛鳥ちゃんってば、意外にロマンチスト?」
飛鳥「キミほどではないさ、志希」
飛鳥「・・・待て」
志希「んー?」
飛鳥「ギブアンドテイクと、そう言ったな」
志希「言ったね」
飛鳥「ボク達二人は小梅の目的を結局のトコロを掴めていないんだ」
志希「そうみたいだねぇ」
飛鳥「キミが協力できて、あの魔導書が無くてはならない・・・一体小梅は何を為そうとしている?」
志希「あたしの専門分野じゃなかったけど、やってみるもんだね」
飛鳥「化学の範疇でない・・・」
志希「そ、なかなか興味深い結果が得られたんだよ?」
飛鳥「勿体ぶるじゃないか、らしくもない」
志希「今夜はご機嫌しきちゃんだからねー、無駄な演出に尺稼ぎだってしちゃうのだ♪ もいっこ、CM挟むね?」
飛鳥「今日はやけにバラエティに触発されたアイドルと出会うなぁ」
志希「さぁてお立会い! 気になる答えはCMの---」
・・・ギィッ
飛鳥「---ッ、誰だ!?」
小梅?「・・・・・・」ヒョコ
飛鳥「・・・昼ぶりだね、小梅 体感としては3日は会っていないように感じるが」
小梅?「・・・・・・」トテトテ
飛鳥「手術衣・・・? 志希、ココにはこんな服しか置いてないのか?」
志希「あー出てきちゃったかー・・・ 飛鳥ちゃん、その子は」
小梅「・・ア・・・ゥ・・・♪」ギュッ
飛鳥「おっと・・・ソレは、昼間にやっただろ ほら、キミには訊かなきゃならないことが沢山・・・?」グイッ
(何だ・・・? 何かがおかしい、何も不自然なことなんてないはずなのに・・・)
(いや、何を言っているんだボクは・・・今日は朝から不自然なコトしか起きていないじゃないか)
(魔導書、偽島さん、情緒不安定なフレデリカと志希・・・コレはいつも通り)
(姿を消した小梅、ルーンの魔術トラップ、女子寮と蘭子・・・)
(プラスチックだった小瓶、地下研究所、ようやく姿を見せた小梅・・・小梅?)
飛鳥「・・・小梅、ボクの記憶を疑わないなら」
小梅?「・・・・・・?」キョトン
飛鳥「キミの前髪は右眼を隠していたんじゃなかったか?」
何か得心したような表情で鼓を打った後、顔の右半分を手で覆った彼女は
「おい・・・? 何をして、」
そのまま、
ぎゅっ ぐりん
おもむろにその右眼を掴んで、捻った
「・・・は?」
ブチブチと、空気の波がボクの鼓膜で小気味いい音の体を為す
血の気がサッと引くと同時に
---これが視神経の千切れる音か
そう考えている冷静な自分がいて、おかげで意識を手放さずに済んだ
「や、ッめろ・・・小梅やめろ、おい!!」ガッ
「・・・・・・・♪」ニコニコ
我に返って咄嗟に彼女の右腕を掴んだが、右眼の事を想うと抜き差しならない現状に気が付く
よく見ると、ライブパフォーマンス用に尖らせたネイルが上の瞼を根元から突き破っている
こうなってはもう手詰まりというもので
血や何かの粘液がリノリウムの床に彩りを添えながら
脱力したボクの手指をすり抜けるように
ずるり
何の逡巡もなく、握られた手が眼窩から引き抜かれた
中指と薬指の間から顔を出す、白い管のようなものが見える
床へ尻餅をついたボクが見上げる彼女の口元は
まだ、笑っていた
唐突に小梅が、目線を合わせるような形でボクの正面へとしゃがみ込む
最早そこに視線は存在せず、ただひたすらに暗闇を湛えるだけのモノに成り下がっていた
今まで混み合っていた脳の処理が追いついて鉄臭い匂いが鼻腔をつく
反射的に顔を顰める表情筋を他所に、
ボクの視線と小梅の深淵との直線上に彼女の右手が割り込んで
小指から親指に向け順々に花開いていく
薬指が開いて 視神経が見えた
中指が開いて 痙攣する眼筋が見えた
親指が開いて まだ生きている澄んだ瞳が見えた
華奢な血管の浮き出た、その持ち主と同じくらい病的に青白い眼球が
やはりそこにはあった
先ほどから痙攣していた眼筋がひときわ大きく震えて
偶然か、はたまた彼女からの最後の指令を遂行しようとしたのか。
クルリと向きを変えた瞳の中心が ボクの眼の最奥を射貫いた
プツン
《23:52 地下研究所 応接室》
文香「・・・~~♪」
飛鳥「・・・・・・エラく牧歌的な存在証明もあったモノだね、文香さん」パチ
文香「おはようございます、飛鳥さん・・・今回はぶつけませんでしたね」
飛鳥「額でキスする代わりに、この心地良さに身を委ねてみるのもイイかな・・・そう思ったんだ」
文香「そうですか・・・私なんかの膝で良ければ、お使い下さい」
飛鳥「徒に自身を卑下するモノじゃない、ファンからすればこの光景は垂涎ものだろうさ」
文香「そういう、ものなのでしょうか・・・?」
飛鳥「男性ファンはボクを、女性ファンは貴女を自己と同一視する・・・そういうものなんだよ」
飛鳥「・・・それにしても、上手いじゃないか お互い現役アイドルのボクらが評し評されるには、些か軽薄な表現かも知れないが」
文香「歌っている本人に言われると、少し気恥ずかしいものがありますね・・・最近はクローネの皆さん、主に唯さんがカラオケに連れて行ってくださるので・・・そこで練習しました」
飛鳥「にしては、BPMが足りなかったようだが?」
文香「あの場でならリズムに乗ることもできるのですが・・・諳で歌うとなると、」
飛鳥「歌いやすいテンポになってしまう、と」
文香「恥ずかしながら・・・」
飛鳥「・・・体調は、大丈夫そうだね」
文香「ええ、飛鳥さんも」
文香「・・・・・・・・・あの、」
飛鳥「そうだ、ボクの曲をカバーしてみるというのはどうだろう 丁度、シンデレラプロジェクトの面々がやっていたように」
文香「え・・・あぁ、そうですね そうなると飛鳥さんもプロジェクト・クローネに加入することになってしまいますが・・・」
飛鳥「ああ、ソレはまずいな・・・そんな話になったら、尻馬に乗ってアイツも・・・っ」
文香「・・・飛鳥さん?」
飛鳥「あいつは・・・志希は、どこに?」
文香「・・・私が目を覚ました時には、既にこの部屋から姿を消していました」
飛鳥「じゃあ・・・こ、小梅は、」
文香「その説明をする前に三つほど・・・謝らなければならない事があります」
飛鳥「・・・・・・は?」
文香「ひとつ 飛鳥さん、貴女は一度も『魔術』を目にしていません」
飛鳥「おい、待て」
文香「ふたつ、『偽島さん』などという人物は存在しません」
飛鳥「何を言って、」
文香「みっつ 私はただの一言も----」スッ
パチンッ
文香「フィンガースナップが出来ないとは言ってません」
ガチャッ
「「「飛鳥ちゃん誕生日おめでとーっ!」」」クラッカーパーン
飛鳥「!!?」
志希「Happy birthday to you~♪」
フレデリカ「はっぴばーすでーとぅーゆー♪」
小梅「ハッピーバースデイディア 飛鳥ちゃーん・・・っ」
文香「ハッピーバースデートゥー・・・」
しきフレ「ゆ~♪」上ハモ
小梅「ユー・・・!」主旋律
文香「You・・・」下ハモ
飛鳥「・・・・・・・・・」
志希「surprise♪ にゃははははは」
飛鳥「・・・・・・・・・」
小梅「飛鳥くん、ビックリしてくれた・・・?」
飛鳥「・・・・・・・・・」ナデリ
小梅「えへへ・・・」
フレデリカ「ほらほら、特製のブッシュドノエルだよ~♪ 吹き消して吹き消してっ」
飛鳥「・・・・・・・・・」フーッ
フレデリカ「わーお!綺麗に全部消せたねーエライエライ♪」
文香「飛鳥さん・・・」
飛鳥「・・・・・・・・・」クルッ
看板[ドッキリ大成功!]
飛鳥「・・・・・・・・・」
文香「これも・・・カラーコンタクトです」スッ
飛鳥「・・・・・・・・・」
志希「あたし達プレゼンツ!」
フレデリカ「とび~っきりの♪」
小梅「ひ、非日常・・・!」
文香「楽しんで、いただけましたか?」
飛鳥「・・・か、」
小梅「か・・・?」
飛鳥「勘弁してくれ・・・・」ドサッ
フレデリカ「ニノミヤ選手崩れ落ちたーっ!」
志希「飛鳥ちゃん、寝てる場合じゃないよー? 上でみんな待ってるんだから」
飛鳥「・・・皆?」
小梅「こ、今回のお誕生日ドッキリに協力してくれた人たち・・・全員いる、よ・・・?」
文香「ユニットで言うとLiPPS、CAERULA、アンダーザデスク・・・個人では他にも沢山の方にご協力いただきました」
小梅「今度は・・・幸子ちゃんも一緒に、やりたいな」
飛鳥「来年もやるつもりなのか・・・」
フレデリカ「え、アスカちゃんもしかして」
小梅「楽しく、なかった・・・?」
飛鳥「グッ・・・誰が脚本を書いたのか知らないが」
文香「私ですが」
飛鳥「絶妙に総評が言い辛くなるタイミングで名乗らないでくれないか!?」
飛鳥「・・・兎も角、今になって考えると局所局所のディレクションから、キミ達を嗅ぎ分けるコトも難しくは無かっただろう 翻弄されるばかりで気が回らなかった此方の完敗だ・・・ボク自身不得手な演出も多々あり、寿命が縮んだのも一度や二度じゃない」
志希「3回くらいかな?」コショコショ
フレデリカ「いえマドモアゼル、あの言い方だと4回はくだりませんわよ」
飛鳥「・・・賑やかしであろうフレデリカは置いておくとして、だ」
フレデリカ「あ、ひどーい! ありすちゃんと二人で頑張ってケーキ作ったのに~」
文香「イチゴを前面に押し出すことなくちゃんとロールしている・・・ありすちゃん、まこと大きくなり申した」ホロリ
飛鳥「自分で言うのもなんだが、主賓そっちのけで割り込むのはどうなんだい?」
志希「飛鳥ちゃん飛鳥ちゃんっ この香水、別で持ってきたプレゼントなんだけど今使う? 使って?」
飛鳥「自由か?」
小梅「みんな・・・楽しそう、だね・・・」
小梅?「・・・・・・・♪」コクン
《00:22 地下研究所》
速水奏「全く、なかなか来ないから降りて来てみたら・・・」
城ヶ崎美嘉「飛鳥ちゃん少しくらい荒れるかと思ってたケド、いつも通りじゃん? ちょっと安心」
塩見周子「美嘉ちゃんはそもそもドッキリ知らなかったけどね」
美嘉「ちょっ、情報止めてたの周子ちゃんでしょ!?」
周子「演技派なのに肝心なとこでポンコツだからなーウチのカリスマ」
奏「周子、意地悪言わないの」
周子「ほいほい それにしても、飛鳥ちゃんも晴れて14歳かぁ」
美嘉「14才・・・14?」
奏「美嘉? ダメよ」
美嘉「・・・え、奏ちゃん 何のこと?」
奏「無意識・・・・・・騒ぎになる前に矯正した方がいいかしら」
周子「奏ちゃん目据わりすぎー あたしが他の娘と仕事した後の紗枝はんみたいになってるから」
奏「そんな事言って大丈夫?」
周子「平気平気、いくら紗枝はんでもここまで」ブブ
美嘉「・・・メール、来てるけど」
周子「・・・・・・うん」カパッ
周子「『いけずやわぁ うちがいつそないな顔しはりましたやろか』・・・」
美嘉「うわぁ」
奏「自業自得ね」
周子「帰りたくないなぁ・・・」
周子「そうだかな、じゃない美嘉ちゃん!」
美嘉「ダメ」
周子「まだ何も言ってないやん」
美嘉「どうせ『今日一日匿って!』とかそんなんでしょ」
周子「うっそ美嘉ちゃんエスパー・・・?」
美嘉「アタシにもユッコちゃんにも失礼じゃない?」
奏「私の所なら別に構わないけど」
周子「あー・・・奏ちゃんはちょっとね」
奏「なあに?」
周子「寝てる間にキスマーク付けてきたりしそうで」
美嘉「きっ、キス・・・!?」
奏「あら、そんな事しないわよ」
周子「ほんま?」
奏「ええ 起きてる時にするもの♪」
周子「結局するんかーい」
奏「こんな会話をすると紗枝に悪いわね」
周子「あ゛っ」
美嘉「ていうか二人とも、降りてきた目的忘れてるんじゃ・・・」
奏「フフ、ごめんなさい・・・飛鳥!」
飛鳥「ちょっ、志希! ボクのエクステを嗅・・・奏? 助けてくれないかッ!?」
奏「全く・・・周子、頼んだわ」
周子「あいよっ・・・オラオラどけどけ~4代目様のお通りじゃー!」
美嘉「何その解決法!?」
フレデリカ「あっ塩見パイセンお疲れサマっス!」
志希「ッス」
フレデリカ「お荷物持ちやしょうか・・・噫、生八つ橋っスね」
志希「ッス」
フレデリカ「は~~イイ餡使ってらっしゃる~!」モムモム
志希「ッフ」モキュモキュ
美嘉「・・・フレちゃんの負担大きくない?」
飛鳥「助かったよ・・・アレ、どうなってるんだい」
文香「ビジュアルレッスンの一環、でしょうか・・・」
飛鳥「ボクにはコメディアンのネタ合わせにしか見えないけれど」
奏「二人とも? もう聴いてると思うけど、上で皆がお待ちかねよ」
飛鳥「ああ、そうだったね・・・アイツらは?」
奏「飽きたら来るわ」
飛鳥「・・・リーダーも大変だな 奏」
奏「代わってくれる?」
飛鳥「御免こうむるね」
奏「あら、残念」
飛鳥「まあでも、騒がしいのはボクの趣味じゃないが・・・偶にはこういうのも悪くない」
奏「飛鳥? 今日ぐらいは、素直な言葉を・・・本心を聴かせてくれてもいいんじゃないかしら」
飛鳥「ん、そうだな・・・」
飛鳥「色々あったが・・・今日は楽しかったよ、ありがとう」ニコッ
バシャッ
奏「文香、こんな感じでいいかしら」
飛鳥「ドコから出したんだいそのカメラ」
文香「ええ、大丈夫です・・・まつ毛の1本1本まで綺麗に撮れています」
飛鳥「おい」
奏「音声の方は?」
文香「今、確認します」ニュッ
飛鳥「ドコに仕舞ってたんだいそのマイク」
文香「・・・はい、バッチリです」
奏「お疲れ様」スタスタ
周子「てっしゅーこー」パンパン
フレデリカ「お先に失礼しまッス」
志希「ッス」
美嘉「もうほとんど比奈さんじゃんそれ」
飛鳥「・・・貴女は行かないのかい? 美嘉さん」
美嘉「アタシはエスコート任されてるの★」
飛鳥「なるほどね」
美嘉「・・・そろそろ、大丈夫かな 上がろっか」
飛鳥「頼むよ」
《00:45 一ノ瀬邸 玄関》
美嘉「さ、飛鳥ちゃんどうぞ」
飛鳥「ああ・・・・・・また血塗れの小梅が飛び出してきたりしたら確実にボクの心臓は止まってしまうわけワケだが、その辺り大丈夫だろうね・・・?」ジト
美嘉「血まみれの小梅ちゃん・・・? 何の事か分からないけど、早く早く!」
飛鳥「理解らない? そんなハズは・・・美嘉さん、押さないでくれないか!」
美嘉「ほーら、行くよ? せーのっ」
ガチャッ
橘ありす「改めましてっ」
『飛鳥ちゃん、誕生日おめでとー!』
おしまい
読んでくれた方、ありがとうございます
そしてお疲れ様でした
飛鳥くんの誕生日祝うつもりが気付いたらこの有様ですよ
処女作なんで許して下さい
次があれば小梅か奏あたり書きたいなぁ
よきところでHTML依頼出します
めちゃくちゃ良かった面白かったよ
おつ
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