最近ループものって見ないから書いてみる(20)


人間界よりも遥かに闇に覆われた魔界。

その中心にそびえる魔王城で勇者と魔王は対面する。長く苦しかった旅を終え、ようやくここまでたどり着いたのだ。

しかし何度もループをする俺にとっては、コイツとはもう何十回も対峙しているのだ。実力は最初でこそ拮抗していたんだが、今ではもう大きな差がついてしまっていた。

…きっとこの闘いを終えても、また俺は数ヶ月前の旅立ちの日までループしてしまうんだろう。

仲間達は皆志半ばで死んだ。これは毎回のことだった。コイツの同族たちの手にかかってしまったのだ。


魔王「フハハハ!勇者よ、よくぞここまでたどり着いたな。歓迎してやろう」

魔王「旅は辛かったか?貴様の仲間も全てやられてしまったようだな。たった一人で、この魔王たる儂に挑むとは愚かな奴よ」

勇者「…ふん」

…いつも通りだ。やはりコイツは自分の力を過信してるようだな。
お前なんか片手であしらうこともできるんだよ。俺を舐めているような口ぶりだが、その態度をすぐに改めさせてやる。

俺と違ってループをしない仲間達はレベルも低く、正直なところ足手まといか捨て駒にしか思えなくなった。
俺は仲間達が窮地に陥っても、それを助けるような行動もとらなかった。元から少々冷酷な性格だと自覚はあったのだが、ループするようになってから更にそれは拍車をかけた。ループすればどうせみんな元通りだし…。


魔王「勇者よ、仲間が恋しいだろう…この儂の手で貴様も葬り去ってやる。いくぞ!」


たしか前回は瞬殺してしまったっけ。
今回は手加減して少し遊んでやろうか。


魔王「火炎魔法!」


辺り一面が魔界の地獄の炎に包まれる。こんなのを常人がうければたちまち消し炭になってしまうだろう。


魔王「ふははは!消し炭となったか?この程度か、勇者よ!」


燃え盛る炎を片手で振り払いながら姿を現した。伝説の勇者の武具を纏っているおかげでダメージはほぼ無いようだ。ちょっと服が焦げたくらいか。


勇者「それはこっちの台詞だ。…この程度か?魔王よ」

魔王「ほう、小手調べとはいえ無傷とはな。さすがに一筋縄ではいかんようだ」

勇者「御託はいらん。全力でかかってこいよ」

魔王「…調子にのるなよ、小僧…」



魔王「雷撃魔法!」

眩しい光を放ちながら極大の稲妻が襲いかかる。
でもこのくらいなら避けるまでもないかな。腰の勇者の剣を横一線に振り抜くと、バシュッと放電するように稲妻は消滅した。


魔王「ぬぅ…氷塊魔法!風刃魔法!水流魔法ォ!」


恐らく旅の間で戦ったモンスターで、これほどの魔力を持った相手はいなかったであろうと思う。十分に高レベルの魔法を連発し、魔王の間を様々な魔法が荒れ狂う。
その全てを剣で斬り払い、防具で打ち消してゆく。


勇者「どうした、もう終わりか!」

魔王「…やるな勇者よ。貴様は、やはり人間とは思えぬ力を持っている」

魔王「しかし、これならばどうだ!」



ガバッと両手を大きく広げ、掌に闇のエネルギーを溜める。…全く、わざとらしい程大層な構えだ。
長い黒髪が背でなびき、魔族の証である額の一本角も鈍く光を放ちだす。

これは…魔の王である者だけが使える強力な魔法だ。
伝説の防具を纏っているとはいえ、それなりのダメージを負うかもな。だが間違っても死ぬなんてことはないだろう。この程度の魔力を受ければ、どの位のダメージなのか試してみるのもいいと俺は思う。


勇者「来い!」

魔王「暗黒魔法ォォ!」

勇者「ッ…」


巨大な闇のエネルギーが辺りの空間を収縮させる。そしてそれは着弾と共に大爆発を起こした。
俺とコイツの戦場となった無駄に広い魔王の間は半分以上吹き飛んで、魔界の薄暗い空が見える程開放的な空間となった。

轟音の余韻が響き、しばし辺りは静寂する。


魔王「…クックック…どうだ?魔王のみが使える暗黒魔法の威力は」

魔王「冥土の土産にはなりそうか?クックック…」



ガラ…ガラ……崩れて覆い被さっていた瓦礫を押し退ける音で静寂が破られた。

勇者「…そうだな、なかなかの威力だった。冥土に行くときは是非手土産にしたいもんだよ」

服をぱんぱんっと数度はたく。防具は壊れていた。胸や腕などに多少の手傷を負っている。
俺はかなり力を抜いていたはずだったが…成る程、こんくらいのダメージとなったか。

勇者「…さて、覚悟はいいか。そろそろ俺の番だ」

魔王「貴様…」

ゆらりと勇者の剣を構える。
一瞬の間をおいて、一足飛びで背後に回り込む。人間ではあり得ない程の速さだった。
しかしそれでも俺は満足いかない。これではまだまだレベルを上げる余地はありそうだ。


勇者「はぁ!」


黒髪に覆われて隠れているであろう背中を袈裟懸けに斬りつける。刃は深くめり込んだが貫通とまではいっていない。
…これもまた実力不足ということだ。そうだな、ここで一刀両断できれば合格ということにしようか。



魔王「ごぁ…!」

勇者「魔族の血は総じて青いと思ってたんだがな。お前の血は赤いのか」


再び地面を強く蹴り、残像を残す程の速度で正面に回り込む。剣を振り抜き胸を斬り裂いた。
間髪入れずに今度は左側に回り、左腕を斬り飛ばす。


魔王「ヌ…グオォォ…!」

勇者「はあぁーーー!!」


常人には目で捉えることもできないだろう速さで剣を振るいまくっている。角を斬り飛ばし、脇腹を斬り裂き、肩にも腕にも足にも斬撃が浴びせられた。
傷口からはおびただしい量の赤い血が吹き出して、辺り一面を染め上げた。


魔王「ウゴァーーー!」



ナマスみたいに斬り刻まれ、真っ赤に染まった身体が膝をついた。首ははうなだれ、切られて短くなってしまった黒髪が顔を覆った。
ザンギリになってしまったヘアースタイルは間抜けだ。魔王の威厳というやつが少々薄れて見えると俺は思う。


勇者「はぁ、はぁ…見たか。これが勇者の力だ。俺はこの長い長い旅で何度も死にかけたし大きな試練をいくつも乗り越えてきたんだ。…この城で椅子にふんぞり返って座っていただけのお前と違ってな!」

魔王「…」

勇者「次の一撃で終わりにしてやる。…そうだな、最後に何か言いたいことがあれば聞いてやろうか?」


俺にとってはそんなものがある訳がない。どうせこの闘いに勝っても負けてもまたループするんだ。もしも言い残した言葉があるとすれば、次の週で言えばいい。

全く、この無限ループはいつまで続くんだろう。そもそもなんで俺だけがこんな目にあうんだ?初めの方こそコイツには苦しめられたし、何度も殺された。その度に記憶やレベルを引き継いだまま同じ時間に戻される。今となってはたった一人でコイツもその同族たちも全てまとめて斬り裂けるくらい強くなったのだが。

しかし、それももううんざりだ。俺はもう強さなんかいらない。このループを抜け出したい。それが叶わないのならせめて変化が欲しい。マンネリ化した人生に、何か予想外な言葉だけでもいいから聞きたいのだ。


魔王「…勇者よ…まさかたった一人でこの儂を倒すとはな…」

魔王「…では、最後に貴様に問いたい。何故貴様は闘うのだ?それ程の強さがあれば、金も地位も名誉も欲しいものが手に入るのではないか?」

魔王「この儂を倒したところで、貴様は何を得られるというのだ?」

勇者「…」

魔王「そうだ、勇者よ。この儂と手を組もうではないか。儂と貴様が手を組めば世界など容易く支配できる」

魔王「そして世界の半分を…いや、全てを貴様にくれてやろう。どうだ、悪い話ではないはずだ」

勇者「…」


俺が欲しいのは世界なんかじゃない。このループを抜け出す方法なんだ。誰が支配し、もし自分以外の全てが滅びるなんてことになろうと構わない。

俺とコイツが手を組めばどうなるのかは興味がある。もしかしたら闘いが終わっていないと見なされてループが起こらないかもしれない。

…だがそれはできない。産まれ持った『勇者』という使命がそれを許さないのだ。魔王は倒すもの、という使命感に抗うことはできなくなっているのだろう。


…だが…

もしここで…


この誘いにのるようなことがあれば………


勇者「断る」

魔王「…」

勇者「俺は勇者だ。この世界と、この世界に生きる人々を守ることが俺の望みなんだ…」

勇者「お前を倒せば、世界が守られるというなら何も迷うことはない!」


…やっぱり駄目みたいだ。勇者の使命というやつには抗えない。分かっていたことだったけど…。


勇者「…そして、無念の中で命を落としていった仲間たちのためにも…お前を倒すことで仇を討つ!」


手に持った勇者の剣を高く掲げる。


勇者「永遠に眠れ!魔王ーーー!」





魔王「……くだらん」



俺は降り下ろされたのろい剣を親指と人差し指で受け止める。少し力を加えればヒビが入り、あっけなく砕けた。


勇者「!?」

魔王「何回同じ問答をしても、お前はそんなつまらん返答しかしない。…まぁ同一人物なんだから当然なのかもな」

勇者「な…何を言っ……?」


よっこらせ、と何事も無かったかのように立ち上がってみせる。コイツにいいように斬り刻まれた身体も、一瞬にして再生させた。
折った刀身を投げ捨て、勇者の顔を見下してみる。現実を受け入れられず呆然としている。
コイツのこんな表情を今まで何度も見たが、この瞬間だけは悪くない気分になれる。


勇者「ば…馬鹿な…あれだけ…大量の血を流して、さすがに無事でいられるはずがないじゃないか…!」

魔王「…ああ、あれか。あれは俺の血じゃない。お前の同族共の血だ。少々集めてマントの下に忍ばせておいた」

勇者「な…!?」

魔王「くくく…お前、自分で言ってただろ。魔族の血は青いはずだってな。ホレ」


俺は人差し指の爪で自分の首筋を切ってみせる。
ぷつり、と流れる血は青かった。



勇者「…っ…」

魔王「はっはっは!お前ってほんっと間抜けだよな。何度やってもこんな手にひっかかるんだからさ」

勇者「さっきから…何を言ってるんだ…?俺とお前は、初めて闘うじゃないか…」

魔王「あー、いいよ、知らなくて。どうせ知っても次の週では知らないんだから」

勇者「?…わけが、分からない」

魔王「まぁそんなことより、お前さっき、こんな事も言ってたよな」

魔王「冥土の土産には暗黒魔法がいいって」


俺は再び掌に闇のエネルギーを溜める。さっきみたいな大袈裟なポーズはとらず、片手でボール遊びをするように。
だが溜まっていくエネルギーはさっきの数倍、十倍、百倍、千倍と膨れ上がる。この世の全てを飲み込むようなエネルギーを片手の掌に凝縮させた。


勇者「あ…あ……」

魔王「…さて、勇者。一応もう一回聞いておこうか」


俺は掌を勇者の顔面の前に向けた


魔王「俺と手を組まないか?世界の全てをお前にくれてやる」







勇者「ごっ…!ごどわ゛る゛!!!!俺は勇者だ!!世界を守るのが俺の使m」

魔王「ですよねー」


闇魔法を放つと、勇者は塵も残さず消滅した。


俺は上を見上げる。壊れた魔王城からは、夜空が見える。
魔界は昼も夜も暗い。人間界と違って太陽というものは上がらない世界なのだ。
しかし月や星は上がるので、昼よりも夜の方がいくらか明るくなる。


魔王「……ふう」


ため息がもれた。
このまま何も起こらなければいいのに。

今回もはるばるやってきたあの勇者を、この手で倒した。まあ特に苦労することもなく。
アイツをおだててみたり、絶望させてみたり…色んなパターンを試して殺してみたがもう飽きてしまった。

これから世界がどうなるのかを知りたい。勇者という希望を失った人間は、このまま魔族に支配されるのか?それともまた新しい勇者が現れて、この魔王を打ち倒し平和を勝ち取るのか?

未来の勇者は、話にならない程弱いかもしれないし、この俺が足元にも及ばない程強い可能性だってある。

男かもしれない。女かもしれない。もしかしたらもう勇者など現れなくなり、窮地に立たされた人間達が結束し魔界に攻め立ててくるかも。そうなれば結束力の弱い魔族は滅ぼされるか?それとも返り討ちにするかもしれない。

…「この先」を想像すればわくわくしてくる。予想外のことが起こる未来がくる、というのは素晴らしいことだというのを実感した。
どうなったって良い。とにかくループを抜け出して、未来を見たい。

だが、俺の願いも虚しく視界がぼやけてきた。

ああ、また戻るのか…

だんだんと暗闇が広がっていき、やがて目の前が真っ暗になっていった。


いつの間にか目を閉じていた。
何故か、気付かないうちに閉じていた。

でもこれもすっかりと慣れた体験で、またため息をついた。

ゆっくりと目を開ける。俺は玉座に座っていた。目の前には死んだはずの側近がいて、俺に何かを報告している。


側近「………に…って、……実験……成功……ました」

側近「…我が軍は、いつでも人間界を侵攻できま……魔王様?聞いておられますか?」

魔王「…あぁ、聞いてるよ」


何度も、何度も聞いたよ。

そしてこの後、お前は「ずいぶん長い間ボーッとしておられでましたが、私の話が退屈でしたでしょうか?でも我慢してください。あなた様は魔王なのですから。我ら魔族を率いて憎き人間を支配するお方なのですから」と言うんだよな。


側近「ずいぶん長い間ボーッとしておられてましたが、私の話が退屈でしたでしょうか?でも我慢してください。あなた様は魔王なのですから。我ら魔族を率いて憎き人間を支配するお方なのですから」


もう一度、深くため息をつく。

足を組み、不貞腐れたように頬杖をつく。
俺が憎いのは人間でも世界でもない。俺をこのクソみたいなループに閉じ込めやがった奴だ。



おわり。

たまには魔王がループしてもいいじゃない


まんまと騙された悔しい

気づいたら視点が切り替わってた
乙です!

乙!
なるほどこれは騙された。読み直すと視点があれ側だと良くわかる

>>1

いいもん読めた!

初歩的な叙述トリックでもこのスレタイとテンプレ世界観だとこうも騙されるか
なんか貶してるみたいだが本当に素晴らしいと思ってる乙

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