【艦これ】北方海域の怪 (53)

SS初投稿です

書き溜めあり

話の内容はオリジナルではなく元ネタがあります

登場する一部艦娘の三人称や口調などはイメージですのでキャラ崩壊注意


そしてSSの内容には艦娘の轟沈描写を含むのでご注意ください

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1478972111

―― ……い、……! ――


―― おい……お……!――


「――おい、おい! しっかりしなさい!」


「…………う……ぁ」


不知火「しっかりしなさい!沈みたいのですか!」

電「不知火……さん……?」

不知火「気付きましたか、なら早く立ってください。敵が来ます」


電(そうだ……ここは…………戦場、なのです)



電(電たち――扶桑さんを旗艦とした艦隊は、北方海域での偵察任務に就いていたのです)

電(敵艦隊との遭遇はほとんどない。あっても極小規模の交戦程度のはずの、この任務の途中……電たちは、空母を含む深海棲艦の艦隊と遭遇してしまったのです)

電(こちらも戦艦と軽空母がいるとはいえ多勢に無勢。それも、精鋭艦隊でも苦戦するような敵艦隊を前に、電たちは必死で逃げ、撤退を試みる他ありませんでした)

電(なんとか敵本隊を振り切ったのも束の間。電たちは敵が放った追撃の艦載機に襲われて……)




扶桑「皆しっかりして……。不知火、被害状況は?」

不知火「残存艦は5隻……。内、私は小破。飛鷹さんと電が中破。雷が大破。もう1人は……」

扶桑「……っ、仕方…ありません……。飛鷹、周辺の索敵は?」

飛鷹「最後の索敵の情報では、敵艦隊は南から迫っているわ。でも飛行甲板破損で、もう艦載機の発着艦が出来ないわ」

扶桑「私も搭載機を全て失っていますから、新たな索敵は諦めるしかないわね……」

不知火「現状の戦力では任務の継続はおろか敵艦隊の迎撃も海域からの離脱も不可能です。至急、鎮守府に救援要請を」

扶桑「それが……先の交戦で電探と通信機を破壊されて……救援の要請はおろか、鎮守府への連絡すら不可能なの」

飛鷹「そ、そんな……」

扶桑「……とにかく、まずは一刻も早くこの場所から移動して、敵の追撃から逃れなければ……」


不知火「しかし、移動するとしても、どこへ?」

扶桑「ここから北に数キロ進んだ先に小さな島があるはずなの。そこには連絡用の古い小屋があって、そこなら通信機器もあるかもしれないわ」

飛鷹「でも、こんな吹雪の中を索敵も電探もなしで進むなんて……!」

扶桑「しかしそれしか方法はありません。ぐずぐずしていれば、敵の追撃に追いつかれ全滅してしまう」

扶桑「私が先頭に立って北を目指します。皆さん異論はあるかもしれませんが、従ってください。これは旗艦命令です」

飛鷹「……わかったわ」

不知火「了解しました」

扶桑「今言った通り先頭は私が。その後に単縦陣で続いて、私の後ろには飛鷹。次に電ちゃん。電ちゃんは大破している雷ちゃんを曳航して。殿は不知火にお願いするわ」

電「わ、わかりましたなのです!」

不知火「殿の大任……期待に応えて見せます」

扶桑「では、航行を再開します。私に続いて」




電「雷……しっかりしてください」

雷「大丈夫よ……こんな傷、大したこと……」


電(強がっていても声は消えそうなくらい弱々しい……。大破した雷の身体はボロボロで、特に足は…直視できないくらいに痛々しくて、とても自力で動くことは出来なさそうです……)


電「雷……あの時、電のことを庇って……ごめんなさい」

雷「……ふふっ、当たり前でしょ……雷は、お姉ちゃん、なんだ……から」

電「絶対に、生きて帰るのです。雷も、電も……!」

雷「ええ……私も…電も、帰りを待ってる人が、居るんだから……」




扶桑「どんどん吹雪がひどくなっていく……もう、ほとんど視界が……」

飛鷹「ねぇ、まだ島は見えないの……本当に方角が合って……そもそも、本当にそんな島と小屋なんてあるの!?」

扶桑「以前山城と北方での任務で来たときに確認したから間違いはないわ。それに、方角だって……合っているはず」

飛鷹「本当かしら……。それに敵の追手だって、どこまで迫っているか……」

扶桑「……」

電「で、でも……この吹雪なら、敵も艦載機を放つことは出来ないですし、目的地にさえ、辿りつければ……」

飛鷹「もう残りの燃料も少ないわ……。このままじゃ、敵に遭わなくても燃料切れで全滅よ」

扶桑「……」

電「……」

不知火「……! 8時の方向に艦影! あれは……敵です!」

扶桑「!?」

電「そ、そんな……」

飛鷹「どうするのよ! 今の私たちじゃ、とても防ぎきれないわ!」

扶桑「四の五の言っている暇はありません! 私が最後尾について敵を防ぎます。不知火、私に代わって先頭に立ち、全速力で真っすぐ北を目指しなさい!」

不知火「了解!」

飛鷹「電! もっと速度を上げて! でないと追いつかれるわよ!」

電「で、でも……雷を曳航してるのでこれ以上は無理なのです!」

飛鷹「くっ……私も手を貸すわ。だから急ぎなさい!」

電「は、はいなのです!」

扶桑「敵艦発砲! くるわよ、急いで!」

飛鷹「くうっ……!」

電(神様……どうか、どうか電たちをお守りくださいなのです……!)

――――
―――
――



電「はぁ……はぁ……はっ…ぁ」

不知火「なんとか振り切れましたか……」

飛鷹「でも……燃料も体力も、限界よ」

扶桑「みんな無事ですか!」

電「扶桑さん……! はい、皆無事なのです」

扶桑「よかった……。なんとか敵の追撃は撒けました。ですが……」

不知火「扶桑さんも大破……。これではもう次は……」

扶桑「……不知火。引き続き先頭に立って北へ。最後尾はこのまま私が守ります」

不知火「……了解」

電「雷、大丈夫ですか?」

雷「大、丈夫……よ。……足手まとい、で……ごめんね」

電「そんなことないのです! 絶対に、二人揃って鎮守府に帰るのです!」

雷「…………」

――――
―――
――



電「うっ……はぁ…………はぁ……くぅっ!」

飛鷹「あなた……もう燃料も限界じゃない」

電「平気、なのです……。電は、まだ……っ」

不知火「…………」

不知火「扶桑さん」

扶桑「なに、不知火。島を見つけた?」

不知火「いえ、そうではなく。雷のことでお話が」

電「……っ?」

扶桑「なに?」


不知火「雷は……ここで放棄するべきです」

電「!?」

扶桑「……どういう事? 不知火」

不知火「私を含め、全艦の燃料も体力も既に限界点に達しています。最早、負傷した艦の曳航を続けることは不可能かと」

電「そんなっ! 電はまだ大丈夫なのです!」

不知火「黙りなさい。先ほどからあなたの速力はどんどん落ちています。飛鷹さんも、もう限界です」

飛鷹「……」

電「なら、電ひとりで……曳航するから、大丈夫なので――」

不知火「そういう問題ではありません。このまま彼女を抱えていては、我々全員が全滅することになります」

電「……でも、だからってそんな……」

不知火「無論、これは不知火の一意見に過ぎません。最終的な判断は、旗艦である扶桑さんに決めて頂きたい」

扶桑「…………」

扶桑「電ちゃん……雷ちゃんの曳航を解いて」


電「!? そんな……扶桑さん!」

扶桑「不知火の言う通り。このままでは艦隊が全滅してしまいます……。やむを得ません」

電「嫌です! 雷は電が連れていきます! 敵がきたときは……電ごと見捨ててくれて構いません! だから、どうか……」

扶桑「……これは命令よ。電ちゃん」

電「嫌です! 嫌です嫌です嫌です……いや、なのですっ」

扶桑「…………」

不知火「…………」

飛鷹「! 後方5時、艦影よ!」


全員「!?」

扶桑「もう議論の余地はないわ……不知火、曳航を解いて」

不知火「……承知しました」


ガチャン


雷「う……ぁ……」

電「いやッ! 雷……雷ぃぃ!!」

飛鷹「敵が来るわ! 早く出発して!!」

扶桑「行って不知火! 殿は私が務めます!」

不知火「はっ。飛鷹さん、電を連れてください」

飛鷹「わかったわ!」

電「いや!離してください!雷……雷ぃぃぃぃぃぃぃ!!!」




雷「うぅ……ぁ…………沈……む……」

雷「い……やぁ……沈みたく、な…………たすけ………た………す……」

雷「――――」


――――
―――
――



電「……ぐすっ……うぅぅ」

飛鷹「…………」

不知火「…………」

扶桑「……なんとか……戦闘は回避できたわね」

不知火「はい。ですが……」

電「ううぅ……ごめんなさい…ごめんなさい……っ」

扶桑「……あなた達は気にしないで。あなた達は命令に従っただけ。この艦隊での責任は全て旗艦の私にあるわ。彼女を見捨てた罪も、咎も……全て私が背負います」

不知火「…………」

飛鷹「…………本当に、連絡用の小屋がある島なんて、あるの……」

扶桑「…………」

不知火「……! あれは……!?」

扶桑「っ! 敵!?」

不知火「違います。あれは……島? ……小島だ、小屋のようなものもあります!」

飛鷹「どこっ!? 見えない……何も見えないわ!」

扶桑「いいえ、見えるわ……あそこに、小島と……そこに建つ、小さな小屋が……!」

【小島 古びた連絡小屋】


飛鷹「やった……辿りつけた……!これで助かるわ!!」

不知火「っ、早く連絡を。通信機……通信機はどこに」

扶桑「暗くて……何も見えないわ」

電「……なにも無いのです。通信機も……なにも」

扶桑「そん、な……」

飛鷹「嘘でしょ……あなた、あるって……あるって言ったじゃない!!」

扶桑「わ、私は……連絡用の小屋があるって事しか……。まさか、なにも無いなんて……」

飛鷹「ふ、ふざけるなぁっ!!」ガッ

扶桑「ぐぅっ!?」

不知火「やめろ! 飛鷹さんっ……!落ち着いて!」

電「やめてください!喧嘩は……こんな時に喧嘩なんて……っ!」

飛鷹「はぁ…はぁ…はぁ……」

扶桑「うぅ……げほっ、げほっ」

不知火「とにかく……。猛吹雪の海上を彷徨い続けるという事態は避けられました。それにここなら、敵の目もかわせるはず」

扶桑「そうね……前向きに、前向きに考えましょう。ここなら、この猛吹雪もしのげるわ」

飛鷹「…………寒い」

不知火「なにか暖を……火を焚けないでしょうか?」

電「見てください。真ん中の柱……これ、柱じゃなくて、ストーブじゃ……」

飛鷹「!?」

扶桑「本当だわ……ストーブよ!」

不知火「何か火を、火の点くものは……!」

飛鷹「艤装の中に廃油があるわ。これを燃やせれば!」

扶桑「着火も艤装で出来るわ。私のは壊れてしまっているから……不知火、出来る?」

不知火「お任せを」


バチン! ジュボッ…パチパチ


飛鷹「ああ……暖かい」

扶桑「これで、なんとか寒さはしのげそうね」

不知火「しかし、これからどうするか……」

扶桑「とにかく、今の私たちでは海域の突破も離脱も不可能です。ここに来るまでで弾薬も燃料もほぼ使い切ってしまったもの」

不知火「不知火も同意件です。ここは無暗に動かず、ここで救助隊の到着を待つべきです」

飛鷹「外もこの猛吹雪じゃ、ね……。救助隊は来てくれるかしら」

電「大丈夫なのです。司令官さんならきっと……助けにきてくれるのです」

扶桑「私たちが消息を絶ったことで、既に鎮守府でも捜索の準備に動いているはずだわ」

不知火「それならば早ければ今夜にも。遅くとも明日には救助隊が来るはずです」

扶桑「そうね。だから問題は、救助が来るまで私たちが持ち堪えられるか。ということね……」

飛鷹「…………」

不知火「…………」

電「…………」

扶桑「大丈夫よ。非常用の携帯食料も少量だけどあるわ。これを皆で分けて、なんとか乗り切りましょう」

電「そうなのです! こういう時こそ、皆で力を合わせて頑張るのです!」

飛鷹「……ふふっ。そうね、頑張りましょう」

不知火「ひとつ気になるのは、我々を追っている深海棲艦が、ここを突き止めないか。ですね」

扶桑・飛鷹・電「…………」

不知火「……え」

不知火「あ、あの……不知火は、何か妙なことを……?」アタフタ

扶桑「いいえ。不知火の心配は尤もよ。現状、私たちにとって最も恐れるべきは、深海棲艦の襲撃に遭った場合よ……」

飛鷹「……」

扶桑「弾薬も燃料も、私たちの体力も既に限界。次に敵の襲撃を受ければ……間違いなく私たちは全滅するわ」

電「……っ!」

扶桑「……でも、心配はいらないわ。おそらくだけど……ここに深海棲艦は来ないだろうから」

不知火「どういう根拠があって、そう?」

扶桑「そもそも、こんな深海棲艦がうろついている海域に、どうして連絡施設があるのだと思う?」

電「そう言われてみれば……」

飛鷹「確かに、おかしいわね」

扶桑「前に提督からお聞きしたのだけれど、この海域の一部にはどういう訳か深海棲艦を寄せ付けない領域が存在するそうなの。その領域というのがこの小島周辺なのよ」

不知火「だから、ここに連絡施設が作られている……と?」

扶桑「ええ。以前は北方の監視連絡所として観測班の人が出入りしていたらしいけど、いつの頃からか使われなくなったそうよ」

扶桑「もちろん、絶対に安全って保証はないけれど……」

飛鷹「どちらにせよ、私たちにはここにいる以外に選択肢はないんだから……来ないことを祈りましょう」

扶桑「そうね……」


――
―――
――――


飛鷹「……ね、ねぇ。少し、寒くなってきてない……?」

不知火「……」

電「そういえば……最初に比べて寒くなってる気がするのです」

扶桑「たぶん身体が暖に慣れてしまったせいよ。もう少し火を強めましょう……」

飛鷹「……まだ寒いわ」

扶桑「我慢して。これでもう目いっぱいなんだから……」

電「……不知火さん?」

不知火「……っ、ああ……何か?」

扶桑「不知火! 寝てはいけないわ。暖があるとはいえ、こんな状況で寝たら死んでしまうわ」

不知火「っ、大丈夫です……不知火は、寝たりなど……」ウトウト

扶桑「まずいわね……どうにかして皆が寝ないようにしなければ」

電「じ、じゃあ……お話しするのはどうでしょう? 話せば、きっと気も紛れて、眠気を抑えられるのです」

扶桑「そうね。そうしましょう」

飛鷹「……話って言っても、何を話すのよ?」

電「なんでもいいのです。鎮守府のこととか、楽しかった出来事とか!他には、姉妹の……思い出……とか」

飛鷹「……?」

扶桑「っ!」

電「姉妹……そうです。電は……姉妹を、雷を…………見捨てッ!」ブルブル

扶桑「電ちゃん!」

電「ああ……ごめんなさい…ごめんなさいごめんなさい……許して、雷……許して…あぁ…ああああああぁあぁ!!」

扶桑「電! しっかりして! 落ち着いて……っ!」

電「ああぁ……ああぁぁぁ……ごめんなさい、雷……ごめんなさい」ガクガク

――――
―――
――



扶桑「落ち着いた、電ちゃん?」

電「扶桑さん……すみません。もう、大丈夫なのです」

扶桑「あなたが気に病むことはないわ。全て私の責任なんだから……なんて言っても、無理よね。ごめんなさい……」

電「…………」

飛鷹「……」

不知火「……」

扶桑「……こんな話を知ってるかしら。昔、同じような猛吹雪の中で、遠征中のある艦隊が遭難して、2人の艦娘が生き残ったの……」

扶桑「1人は無傷だったけど……もう1人は足に重傷を負い、止む無く2人は近くの島に上陸し、野営を張って救助を待つことにしたの」

飛鷹「…………」

扶桑「無傷の艦娘は日に数回、辺りの様子を見てくると言ってテントを出た……。でも本当は、怪我をした艦娘の目を盗んで、隠していた食料を食べていたの。テントの外で…その娘の分まで、ね」

不知火「…………」

扶桑「遭難してから数日が経ち、怪我をした艦娘は、日に日に衰弱していったわ……彼女には食料を与えていなかったのだから当然ね」

扶桑「そしてついに……怪我をした艦娘は息絶えた」

電「…………」

扶桑「その娘の死体はテントの外……降り積もった雪の山の中に埋めたわ。雪が多すぎて、地面まで掘り進めることができなかったからよ」

扶桑「これは生き残るため、仕方のないことだった……。生き残った艦娘は必死で自分にそう言い聞かせた。しかし次の日から、彼女の周りで異変が起こり始めた……」

扶桑「朝になり目覚めると……埋めたはずの艦娘の死体が……隣に横たわっていたの」

不知火「……っ!?」

扶桑「驚いた艦娘は埋め直した……何度も、何度も……。けれど決まって朝になると、その死体はまるで雪の中から這い出してきたかのように、隣に横たわっていた……」

飛鷹「もういいわ、止めてよ……っ!」

不知火「ど…どど、どうして……今、そんな話を……?」

扶桑「……ごめんなさい。怖がらせるつもりはなかったの。ただ、こういう時には変なことで争わず、皆で助け合いましょうって、言おうと思ったのだけど……どうしてこんな話したのかしら」

飛鷹・不知火・電「…………」

扶桑「この話には、まだ続きがあるのだけど……話すのはやめておきましょう」

電「結構なのです……」

――――
―――
――



扶桑「みんな、そろそろ寝ましょうか」

飛鷹「……は?」

不知火「……寝たら死ぬとおっしゃったのは、扶桑さんでは?」

扶桑「寝るから死ぬ、という訳じゃないわ。寝ると体温が下がって失神してしまうの。でも短時間の睡眠なら死ぬことはないし、むしろ無駄な体力の消耗を抑えられるわ」

電「でも、一度寝てしまったら誰も起きないと思うのです……」

不知火「交代で起こす。というのは?」

扶桑「そうね。5分交代はどう? 1人が起きていて3人が寝る。5分おきに1人を起こし、起こした者は寝る……。それを順番に繰り返しましょう」

不知火「では、この小屋の隅を使いましょう。それぞれの隅に1人ずつ座って、起こした人は起こされた人が居た場所で眠る。……如何でしょう?」

扶桑「それでいきましょう。順番は時計回りに……私から不知火、飛鷹、電、そしてまた私……という順にしましょう。10回私を起こす番が来たところで、一度全員を起こす。それでどう?」

飛鷹「ならこれを使って。この時計なら時間を設定して音を鳴らせるから」

扶桑「ありがたく使わせてもらうわ。これはあなたの?」

飛鷹「ええ。隼鷹と一緒に改装されたとき、お揃いで買った懐中時計よ……」

電「……」

扶桑「大切に使うわ。……必ず、皆で生きて帰りましょう……!」

――――
―――
――



不知火「…………」

飛鷹「…………」

電「…………」


扶桑「……山城。必ず生きて帰るからね……。……提督」

~♪

扶桑「……時間ね」


扶桑「不知火……起きて」

不知火「……んぅ……ん…………はっ!」

扶桑「交代よ」

不知火「……はい」



扶桑「…………」

飛鷹「…………」

電「…………」


不知火「…………」

~♪

不知火「時間ですね」


不知火「飛鷹さん……交代です」

飛鷹「んんっ……もう?」

不知火「はい。ですので、はやくお退きを」

飛鷹「はいはい……」



扶桑「…………」

不知火「…………」

電「…………」


飛鷹「隼鷹は大丈夫かしら……今日もお酒を飲み過ぎてなきゃいいけど」

飛鷹「私がいないとダメなんだから……まったく、あの娘は……」

飛鷹「それとも、今頃私を心配して、探してくれてるのかしらね……」

~♪

飛鷹「交代ね」



扶桑「…………」

不知火「…………」

飛鷹「…………」


電「…………」


雷『元気ないわねー。そんなんじゃ駄目よぉ!』

雷『もーっと私に頼っていいのよ』

雷『……ふふっ、当たり前でしょ……雷は、お姉ちゃん、なんだ……から』

雷『私も…電も、帰りを待ってる人が、居るんだから……』


電「……っ!雷ぃ……」


雷『おめでとう! 電!!』

電『雷……。ありがとうなのです……でも、雷も司令官さんのこと……』

雷『……いいのよ。司令官には私より、電のほうがお似合いよ』

電『……雷』

雷『だから、ちゃあんと胸を張りなさい! 今日からあなたは、司令官のお嫁さんなんだから!』


電「……っ、雷……電を、許して……なのです」



~♪




扶桑「……!」

扶桑「みんな……みんな起きて、起きて!」


不知火「んむぅ……」

飛鷹「うぅ……」

電「眠い……のです」


扶桑「あっという間に10回ね……。皆、平気?」

不知火「……」

隼鷹「こんなんで……いつまで持つのよ」

電「……」

扶桑「頑張るのよ……。今、食料を配るわ。少しだけど食べて、頑張って……」

不知火「……」モグ…モグ

飛鷹「……」モグモグ

扶桑「……」モグモグ

電「……」モグ…モグ…


電「…………」


電「!?」ゾワッ


不知火「……どうしました。電?」

飛鷹「……?」

扶桑「……?」

電「も……っ、も……!」ブルブル


電「もう1人……いるのです……!」

飛鷹「え?」

電「もう1人……もう、1人……っ!」

扶桑「お、落ち着いて! もう1人……? どういう意味?」

電「あ……あぁ…………ぁ……この小屋には……電たち、以外に……もう1人……」

不知火「な……何を言って……ここには、不知火たち4人しか……」

飛鷹「そ、そうよ……どういうことなのか、説明して!」

電「そもそも……無理だったんです……この方法は、出来るはず…ないのです……」ガクガク

扶桑「……どういう事?」

電「………………」ブルブル

●    ●



●    ●


扶桑「……?」

電「……」スッ スッ


●●    



●    ●


飛鷹「……」


●    



●    ●


不知火「……」

電「……」スッ


●    



●   ●●


扶桑「……!?」

飛鷹「……ぁ、あぁ……」


●    ●



●    ●


電「……5人、いないと……この方法では、最初の人を…起こせないのです」ブルブル


扶桑・不知火・飛鷹「!?」ゾクッ

飛鷹「5人、いた……?」

不知火「そんな……そんな、馬鹿な!?」

電「電は……一体だれを、起こしたのです……?」

扶桑「じゃ、じゃあ……私は…私は………誰に起こされたって言うの!?」ガクガク

飛鷹「ひっ……ひぃっ」

不知火「……せいじゃない。不知火の……落ち度じゃない……」ブツブツ

扶桑「誰なの……誰なのよぉ!!」

――――
―――
――



扶桑「…………」

飛鷹「…………」

不知火「…………」ブツブツ

電「……」ガクガク


飛鷹「駄目……もう、耐えられない……耐えられないわ」

不知火「……」ブツブツ

扶桑「こ、今度は……移動しなければいいのよ。起こしたら、自分のいた場所に戻る……これでいきましょう」

電「……もう……いやなのです」

扶桑「頑張って……。頑張らないと……みんな、お終いよ……」

不知火「悪くない……不知火は、悪くない……悪くない……」ブツブツ

飛鷹「……寝るわ」

電「いやなのです……いやなのです……」

――――
―――
――



扶桑「…………」

飛鷹「…………」

不知火「…………」

電「……」







?「――――」


――――
―――
――



~♪


扶桑「……ぅっ。みんな起きて。起きて……!」


飛鷹「……うぅ」

電「……ぁ」

扶桑「みんな無事? ちゃんと起きてる?」


不知火「……」


飛鷹「ちょっと……早く起きなさいよ」ユサユサ

飛鷹「……え」


不知火「」


飛鷹「ちょっと……何よ、その傷……!?」

扶桑「……! 不知火!?」

電「ひっ!?」

不知火「」


扶桑「首を……絞められた跡があるわ。……っ!?」

飛鷹「……どうしたのよ?」

扶桑「……し、死後硬直が……起きてるわ」

飛鷹「えっ」


扶桑「不知火は……2時間以上前に……死んでる」


飛鷹・電「!?」

扶桑「だ、誰が、誰が私を起こしたのよ……っ!?」

電「もういや、いやなのですっ!!」

飛鷹「お、落ち着いて……!」

扶桑「ぁはは……もうだめなのね……ふふ……あはははは」フラフラ

飛鷹「!? ちょっと、あなた何を!」

扶桑「ふふ……あなたたちも食べておいた方がいいわよ……食べれるうちに……うふふ、あははははは」モグモグ

飛鷹「なに馬鹿なこと……っ! それはみんなの食料よ! し、しっかりしなさいよッ!」

扶桑「うっ!?」ビクンッ

飛鷹「ち、ちょっと! どうしたの!?」

扶桑「あぁ……ぅあぁ……寒いわ……寒い…寒い……身体の、感覚が……寒いぃぃ」ブルブル

電「これは報いなのです……雷を見捨てた…電たちへの……」ガクガク

飛鷹「嘘でしょ……みんな、しっかりしなさいよ! こんなところで……死んでたまるもんですか!!」

――――
―――
――



飛鷹「…………」

電「…………」


扶桑「…………」


扶桑「っ!」ガバッ


扶桑「私は寝ない……寝ないわ。寝るものですか……絶対に……生きて」


フッ


扶桑「!?」

扶桑「誰……そこに居るのは……だれ?」



?「――――」



扶桑「えっ」

――――
―――
――



電「電たちは……殺されても、仕方ないのです……」



扶桑「」



電「……何をしているのです?」

飛鷹「思い出したのよ。これ……青葉から北方の記録映像を撮ってきてくれ、って渡されてたビデオカメラ」

飛鷹「これで記録するのよ……。ここで起きることを全て、私たちが、最後まで生き残ったことを、記録するのよ!」

電「……記録」

飛鷹「そうよ! 私たちは生きている。帰ったら隼鷹に見せてやるわ。私たちが生きているって……驚かしてやるんだから!」


ビデオカメラ『REC●』


飛鷹「生きてるわ……私たちは、生きてるのよ!」

電「……生きてる。生きて……」

――――
―――
――



電「…………んぅ」

飛鷹「…………」

電「……飛鷹さん? 起きて――」

飛鷹「」グラッ

電「ひぃっ!?」

飛鷹「」ドシャ

電「ひ……飛鷹、さん……?」

電「あぁ……そんな、背中に……大きな穴が……ッ!」

電「……こ、これは……間違いないのです、これは電や……雷が使っていた主砲の……!」

電「やっぱり……雷なのですね。次は……電の番、なのですね……」

電「いいのです……来てください……雷。覚悟は、出来ているのです」

電「…………ぁ」


ビデオカメラ『REC●』


電「……このカメラ。もしかしたら、さっきの映像が、撮れているかもしれないのです」

電「…………」



飛鷹『……』

?『――――』



電「!?」



?『――――』チャキッ


ドンッ!


飛鷹『ギャッ――』



電「ひぃぃっ!!」ガシャンッ

電「許して!許して許して!!ごめんなさい!ごめんなさ――っ!?」

電「あ……あぁ……ああぁぁっ!」

電「うぁ……あぁぁ……違う」


不知火『ぐっ……ぁッ!』


電「あ……あぁ……違うのです……」


扶桑『ぎゃ……ぁ!』


電「電じゃない…………電じゃない……殺したのは……」


飛鷹『ギャッ――』


電「…………」




電?「雷?」



――――
―――
――



長門「誰か!誰か生存者はいないのか!?」

古鷹「長門さん!向こうに生存者です!」

長門「なにっ!?」


大井「しっかりして! いったい……いったい、なにがあったの!?」

北上「こんな……酷すぎるよ」


不知火「」

扶桑「」

飛鷹「」


長門「これは……いったい、どういう事なんだ。何が起こったんだ……!?」

古鷹「わかりません……。私たちが来たときには、何も無い海の上に浮かぶ3人の遺体と……あの子だけが」

祥鳳「いえ、もう1人いました。ここから少し離れた場所で……もう1人。指輪をはめた子の遺体が……」


大井「あなたの名前は……名前は!?」

「わたし……? わたし、は……」



「ワタシ……ハ…………」





「……話の続きをしましょう」

「テントで生き残った艦娘は怖くなって、持っていたビデオカメラをセットしたの……」

「翌朝になり。死体はまた、隣に横たわっていた……」

「その娘はビデオを再生してみたの……すると、そこに映っていたのは……死体を掘り、テントの中へと運ぶ、その艦娘自身の姿だった……」


以上で終わりです

話の元ネタは、世にも奇妙な物語の「雪山」というホラーです
世にも奇妙な物語の中でも傑作と名高い話の1つで、私も初めてみたときの衝撃と恐怖は今でも鮮明に覚えています

このSSでは拙作ゆえ、恐怖感が演出できたかはわかりませんが、
興味があるという方は是非一度元ネタとなったドラマをご覧になってみてください

乙なのです

どうでもいいけど、最初に沈んだのは誰だ?

­

乙なのです

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