北上「箱庭」 (21)

とりあえず過去作

提督「日ごろ言えないことをあいつらに言ってやる!」

提督「龍驤さんと」

【艦これ】扶桑「山城!麻雀を打つわよ!」

【安価】扶桑「山城!アイドルになるわよ!」【艦これ】

提督「ふむ、パンツの日か・・・」

【安価】提督「添い寝屋、営業中です」

【安価】提督「添い寝屋、はじめました」

【艦これ】貞子VS伽椰子VS山城

山城「海の底から」扶桑「目蓋の裏へ」

提督「山城がグレた」


今回は北上様の地の文ありです。
やまなしおちなし。面白くもありません。ご了承ください。


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どちらの声が暗闇に漏れたのかもわからない。
提督の動きに合わせて世界が動く。
静かに揺らぐ世界に、私の鼓動が卑しく、規則的に響く。
一瞬の生の充実を感じていた。
提督に愛されながら、私は生きているのだと実感していたのだった。
提督の動きが止まり、行為の終わりを告げる。

特に何かを話すでもなく、提督の腕に抱かれて天井を見つめる。
月に照らされた室内は、ぼやけた輪郭で存在していた。

「じゃ、お風呂入ってくるね~」

戯けた調子であたしが喋る。

「うん、おやすみ」

提督もどうやらあたしをここに留めておくつもりはないようだ。
辺りに散らばった服を拾い集める。

「なあ、北上・・・」

提督があたしに声をかける。

「ん~?どした~?」

「・・・いや、なんでもない。おやすみ」

そういって提督は今度こそ最後と、布団に潜る。
あたしも特に何があるわけでもない。さっさと着替えてお風呂に行こう。
時計の秒針が進む音に急かされて、服を着て部屋を出る。
明かりが消えた廊下を進み、風呂場に入る。
この時間に風呂を使う人はほとんどいない。
さっき着た服をもう一度脱ぐことにちょっとだけ不満を持ちながら、風呂場に入っていく。

「うん、誰もいないね~」

がらんとした風呂場。栓は抜かれてお湯も張られていない。

「とりあえずシャワーで済ませるか・・・」

独り言が多いなぁ。
そんなことを思いながら鏡の前、シャワーの蛇口を捻る。

「おっとっと・・・」

冷たいままのシャワーに間抜けな声を上げながら、鏡の前の自分を眺める。
首元に紫色の小さなタトゥー。

「提督・・・やってくれたなぁ・・・」

後で大井っちに見られたらどうなることやら・・・。

「ま、なんとかなるか」

全身を水が伝う感覚に身を委ねながら、目を閉じる。

「うん、よし」

そろそろ出よう。大井っちがきっと待ってるから。

あたしは、私がわからなかった。
戦っている私。
抱かれている私。
眠っている私。
どの私も、あたしと同じ存在だとは思えなかった。
私は、いったい何なのだろう?
深海棲艦と戦うための存在?
提督に愛されるための存在?
大井っちといるための存在?
答えは出ない。
意思のない人形が如く、私は提督に愛され、大井っちに抱かれ、そして眠りにつくのだ。

「意思がないわけじゃぁ、ないんだろうけどねぇ・・・」

答えは、出ない。

「北上さん!こんな時間までどこに行ってたんですか?」

部屋に入って早々大井っちが私に詰め寄る。

「ちょっとお外を散歩してきただけだよ~。大井っちは心配性だなぁ~」

とりあえず雑に誤魔化す。
大井っちは大体これで認めてくれるのだ。
いや、多分賢い大井っちのことだ、きっと気付いているのだろう。
ただ、見ないふりをしているだけ。
私が提督に抱かれていると言うことを。

「そうですか~!それじゃ、今日は一緒に寝ましょう?」

そういってベッドに私を誘う。

「ん~いいよ~」

もちろん、あたしは断らない。
だって、大井っちも大切な人だから。
布団に潜りこむ。

「北上さん・・・」

そういって大井っちは私を抱きしめる。
大井っちの吐息が私の顔に掛かる。

「大井っち、電気・・・」

「今日は北上さんの顔が見たいんです・・・」

そういって大井っちは私に口付けをした。
甘く、啄むような口付け。
提督の貪るようなそれとは違う、慈愛に満ちたそれ。
そんな口付けを私は受け取る。
大井っちの手が服に伸び、私の身体を曝け出す。
そして、大井っちの表情が曇る。

「北上さん・・・」

大井っちは、見ない振りをしたのだった。
ああ、やっぱり。
こうして、夜は更けていく。

「はあ~、人生って難しいねぇ~」

「姉さんがそんなに悩んでるようには見えないけど」

今日は出撃。
昨晩大井っちの寵愛を一身に受けた結果、寝不足だったのは言うまでもない。
ああ、しんどいなぁ。おっさんになった気分だよー。

「いやいや~、あたしだって悩みごとの一つや二つくらいあるもんだよ~?」

「まあ、悩みごとが無い人生ってのは退屈しそうだけどな」

隣で一緒に出撃する木曾が相槌を打ってくれる。
今日はこっちの雷巡コンビで出撃だ。

「木曾っちにも悩みがあんの~」

「無くはないけど・・・姉さんの悩みは?」

「明日雨だったらやだな~とか」

「軽いなぁ・・・」

まあ、あたしの悩みなんて軽くて小さいものですよ。
吹けば飛ぶほどに。

「木曾っちは~?」

「んー、昼飯何にするかなぁ、とか」

そう言って二人で噴き出す。

「いやー悩み事って難しいねぇ~」

「悩みごとが難しいってなんだよ!」

そんな益体のないことをのんびりとお話しながら、出撃する場所に向かう。

「ねぇ、あたしってどんな奴かな?」

そんなあたしの問いかけに困った顔をする木曾っち。

「んー、飄々としてて掴みどころがなくて・・・強い?」

強い、かぁ・・・。戦場でのことを言ってるのかな?それとも人間として?
人間?んふふ、人間ではないか。

「まあ、木曾っちの意見は然るべき機関に通させてもらうよ」

「大井姉さんのことじゃないだろうな・・・」

やれやれと言わんばかりに頭を抱える木曾っち。
その船長っぽい見た目に似合わない動作に、思わず笑ってしまう。

「まあ、姉さんが元気出たみたいよかったよ。なんかいつもと様子が違ったからさ」

そういって木曾っちも笑ったのだった。
あら、いつも通りのあたしだったと思ってたもんだけど。
存外、自分より他人の方が自分を理解しているものなのかもしれない。
なるほど、色々人に聞いてみるのもいいかもしれないなぁ。
まあ、とりあえず今は目の前お仕事を片付けちゃいますかー。

戦場は好きだった。
真っ青な海に真っ青な空。
どこまでも続いていきそうで。
自由を感じることができた。
誰にも、何にも縛られない。
あたしにとって、戦場がそんな場所だった。

「しかし、二人で出撃って珍しいこともあるもんだよねー」

隣であたりを窺う木曾っちに話しかける。

「海域が海域だから、二人で問題ないって判断じゃないのか?」

「まあ、あたしとしては戦えればなんでもいいけどねー」

そんなのんびりとした会話をしながらも、どんどんと敵陣深くに潜りこんでいく。

「あ、敵艦隊の反応あるねー。始末しとこっか」

そう言って10時の方向へ向かう。木曾っちもあたしに賛同したのか、単に戦いたいだけなのか、何も言わずについてくる。
見慣れた深海棲艦の姿だ。

「悪いねぇ、別に恨みがあるってわけじゃないんだけどさ、ちょっと遊ぼうよ?」

魚雷を放つ。
水面を走るその姿に一種の快感を覚えてしまうのは、艦娘の性かな。

「木曾―、適当に援護よろしくー」

そう木曾に告げて、最高速度で走り出す。
敵さんもようやくこちらに気付いたみたいで、砲撃が飛んでくる。

「やっぱ戦闘はこうでないと、ねー!」

砲弾を避けながらこちらも単装砲で弾幕を張る。
単装砲って、侘び寂びよねぇ~。
開幕にぶっ放した魚雷が命中し、敵空母が沈んでいくのが見える。
うーん、魚雷様様だね。
木曾は周りの駆逐艦、軽巡を相手しているようだった。
あの子の練度なら相手にもならないだろう。

「戦艦みたいに射程が長くないのは欠点かもねー」

単装砲を装備させろと注文を付けてるのはあたしなんだけど。
そういって敵旗艦と思しき戦艦に接近する。
轟音。
けれど、その砲弾はあたしには当たらない。

「残念だったね、ばいばい」

互いの表情まで認識できる距離に近づいて、単装砲を構える。
敵戦艦の顔が恐怖で歪んでいるように見えた。
ああ、まったくもう。
引き金を、引く。

「もう、そんな人間みたいな顔するのやめてよ。やり辛いじゃんか」

「後ろっ!」
木曾からの通信で後ろを振り向く。
敵軽巡の砲がこちらを向いているのが見えた瞬間、轟音と共に、世界が反転した。

「んー残念、あたしの後ろを取ったのは褒めてあげるけど。50点かなー」

股の間から覗いた世界は、どうやらそんなに代わり映えのないものだったらしい。
世界をひっくり返すのは簡単だけれど、どうやら簡単にひっくり返すことのできる世界はひっくり返してもそんなに変わらないらしい。
そのひっくり返った世界のまま、単装砲で敵をぶち抜く。

「んー、こんなもんかな」

「こっちも終わったぜ。お疲れさん」

木曾も残敵を掃討し終えたのか、こっちに向かってきているようだ。

「戦い足りないしもうちょっと索敵してく?」

「いや、そろそろ時間だし引き上げないとダメだろ」

そんなあたしの呑気な提案をあっさりと却下する妹だった。
この海域も完全に制覇したわけではない。
いつどこから強敵が出てきても不思議ではないのだ。

「まぁ、そうねぇ・・・のんびり帰りますか~」

鎮守府に向かって舵を切ることにした。
ああ、さらば我が自由。お元気で。

木曾っちに姉としての意地で間宮を奢ることになった。
お給料は大して変わらないのに。
まあ一人で間宮の甘味を食べるよりはマシかなー、なんて。

「お、二人ともお疲れクマ」

二人でのんびりしてると、語尾が特徴的な球磨型の長女が現れた。
相変わらず髪の毛がモサモサだ。

「おー、球磨姉も間宮さん?」

「そんなとこクマー、あと木曾、提督に呼ばれてるの忘れてるクマ?」

「あっ!やべっ」

球磨姉の言葉を聞いて、慌てて団子を頬張る木曾っち。

「無理して食べなくても球磨にくれていいクマよ?」

「せっかく奢ってもらったものを人にあげるかよ!ごちそうさま!」

急いで店を出る木曾っち。そんなに焦らなくてもいいのにねぇ。
残されたあたしと球磨姉。

「ねー、ここの支払い任せていいかなー?」

とりあえず球磨姉に甘えてみる。

「自分で木曾に奢ったんだから自分で払えクマ」

そう言ってパフェを頼みながら素気無く断る球磨姉。
間宮さんが頼まれたパフェを運んでくる。
おいしそうだなぁ。あたしもパフェ頼めばよかったかも。
ちなみにあたしが頼んだのはわらびもち。侘び寂びだねぇ。

「じゃあさ、あたしの相談に乗ってよー」

「ん?北上にも悩みがあるクマ?」

木曾っちといい球磨姉といい、あたしはそんなに悩みがなさそうに見えるのか。
うーん、あたしだって悩みの一つや二つくらいあるもんだよ、たぶん。

「・・・じゃあここの支払いは北上持ちクマー。あとで部屋に来るクマよ」

あたしのアンニュイな表情を見て何かを悟ったのか、そんな交換条件を持ち出してくる。
妹にたかる姉ってどうなのさ。
まあいいけどね。お金がないわけじゃないし。
それよりも、球磨姉があたしを察してくれて、相談に乗ってくれたのがうれしかった。
軽巡最古参の球磨姉だ。あたしに構って時間を浪費するくらいよりも、後進の育成のほうが本来は優先されて当然だろうに。

「仕事は大丈夫なの?」

一応、気遣っておく。球磨姉が無理してるのも申し訳ないし。

「パフェの奢りでなんとかできる範囲クマー」

お仕事のできる意外に優秀な球磨ちゃんだねぇ。
うーん、これが姉の度量って奴かなぁ?あたしには無理そうだ。
あたしにできるのはちょっと間宮を奢るくらい。
いい姉を持ったもんだ。

球磨型の部屋の前。
まあ、球磨型の部屋と言っても球磨姉多摩姉木曾っちの3人なんだけど。
あたしと大井っちは別部屋だ。
何故か?大井っちがわけてほしかったんだって。
理由は、まあ、ねぇ・・・。
とりあえずノック。

「どうぞクマー」

球磨姉ののんびりとした声が中から聞こえる。
木製の扉を開くと、見慣れた光景が広がっていた。

「この部屋も久々だねぇ」

畳とちゃぶ台が侘び寂びだよねぇ。
球磨姉はどうやらお茶を淹れてくれているようだ。

「お茶菓子持ってきてないんだけどある~?」

返事の前に大体お菓子が置いてあるゾーンを漁るあたし。
まるで実家に帰ってきた気分だ。
お、カステラ発見。いいねぇ、痺れるねぇ。

「あ、カステラは多摩のだから後が怖いクマよ?」

・・・やめとこう。
しょうがない、お菓子はあきらめよう。
そもそも目的がお茶を飲むことじゃないからねー。
ちゃぶ台の前に座って球磨姉を待つ。
のんびり待っていたら、球磨姉がお盆にお茶を淹れて持ってきてくれた。
お茶請けに濡れおかきまで用意して。
球磨姉、濡れおかき好きだったなぁ。

「濡れおかきいただきまーす」

「たんと召し上がれクマー」

のんびりお茶を啜りながら、濡れおかきを口に運ぶ。
うん、おいしい。地味に。

「濡れおかきを食べるのはいいけど、相談って何クマ?」

そういって球磨姉が切り込んだ。
球磨姉は間合いの取り方が上手だから、一緒にいて楽なんだよねぇ。
そしてその球磨姉が切り出したと言うことは、あたしが話しにくい内容だと察してくれたんだろう。

「んー、相談っていうかなんていうか・・・」

あたしってなんなんだろう?なんて聞いたら笑われちゃうかなー。
うん、こう聞いてみよう。

「あたしってさ、どんな奴に見える?」

「・・・それって相談クマ?」

怪訝そうな顔でこっちを見る球磨姉。
いやあ、実はそうなんですよ。

「そうクマねぇ・・・正直、わからんクマ。能天気に日常生活を過ごしてるかと思えば、戦場では鬼神に見えるし、かと思えば大井とイチャイチャするし・・・本当に訳分からん奴クマ」

ひどい言われようだ。
というか鬼神って。褒められてる?

「というか鬼神って言われても、流石に球磨姉には勝てないよ~」

「いや、お前が本気で球磨と戦ったら球磨に勝てるクマよ」

球磨姉は私の言葉にそう返したのだった。
あたしが戦場で見ていた球磨姉の背中ほど、頼りがいのあるものはなかったんだけどなぁ。

「寄る年波には勝てんクマ」

「そんな歳じゃないでしょ」

そういってケタケタ笑う二人。
ひとしきり笑ったと、姿勢を崩した球磨姉が、一言。

「北上、お前が何を考えてるかお姉ちゃんさっぱりわからんクマ。戦場でも、今の質問もそうクマ。見てるこっちが戦慄するような戦いをしたかと思えば、戦闘が終わると何事もなかったかのようにのんびりしてるクマ。のんびりしてると思えば急にこんな質問を投げかけてくる、本当に球磨にはわからんクマ。・・・これで北上の質問に対する答えになってるクマ?」

球磨姉にもあたしがよくわかんないのかぁ・・・。
そりゃそうか、自分自身でもよくわかってないんだもん。
じゃあ、と立ち上がろうと思った時、ふと質問したくなった。

「それじゃあ、なんで球磨姉はあたしに良くしてくれてるの?」

球磨姉は、ちょっと照れくさそうに、ぶっきらぼうながらこう言ってくれた。

「それが、家族ってもんクマ」

ちょっぴり照れ屋で、素敵なお姉ちゃんとお話したあと、一人自室で考え事をしていた。
あたし、かぁ。
球磨姉に言われた通り、わけのわからない奴だよ、まったくー。
出ない答えに対してぐるぐると思考を巡らせていると、ノックが響いた。

「はーい、空いてますよ~」

大井っちはまだ帰ってくるには早いし、そもそも大井っちならノックしないし、誰だろう?

「失礼するにゃ。お土産持ってきたにゃ」

「多摩姉やっほー、お土産ってなーにー?」

のそのそと起き上がるあたし。

「カステラにゃ。球磨が『北上が食べたそうにしてたクマ』って言ってたから持ってきたにゃ」

多摩姉は優しいなぁ。
そして球磨姉も。
球磨姉も多摩姉も、あたしを心配してくれているのだ。

「じゃあ紅茶淹れるから一緒に食べよー、座って座ってー」

そういって多摩姉を椅子に座らせる。
うちの部屋は多摩姉たちの部屋と違って洋風なのだった。紅茶も似合うお洒落な部屋。大井っちがわざわざ用意してくれたらしい。妖精さんに頼んで。ううむ、拘りですねぇ。
多摩姉を座らせて紅茶を準備するあたし。淹れ方がよくわからないのでとりあえずパックで。女子力皆無って奴かな?

「・・・まあ紅茶なんて北上が淹れられるなんて思ってないニャ」

こいつは手厳しい。

「そもそもそんなに長居するつもりもないニャ。カステラ一切れ食べたら帰るニャ」

「それじゃあ北上様が紅茶一杯分の猶予を追加してあげよう~」

なんとか淹れた紅茶を多摩姉に差し出す。一応あたしの分も淹れてみた。
まあ、紅茶は金剛さんの領分だ。あたしが紅茶キャラになってもねぇ。

「・・・うん、誰が淹れても美味しくなる紅茶パックは素晴らしいニャ」

さいですか。
なんとなく無言になってしまう。

「悩んでるらしいけど、悩む必要なんてないニャ」

「その心は?」

「下手の考え休むに似たり、にゃ」

おおう、随分と直球で厳しいこと言われたねぇ~。
あたしの顔を見て多摩姉がクスクス笑いだす。

「冗談ニャ。まあ、悩んだところで結局なるようになるニャ。人生なんて往々にしてそんなもんニャ」

なるようになる、ねぇ・・・。
流されるように生きているあたしにとっては痛い言葉だ。

「悩みなんてのは時間が経ってしまえば、『ああ、あの頃はこんなことで悩んでたんだなぁ』と思える日が来るものニャ。悩んでる時期は辛いかもしれないけど、振り返ってみれば存外大したことなかったりするニャ」

「そんなものかねぇ・・・」

「そんなものニャ」

猫って悩みがなさそうだもんね。

「失礼なこと考えてるニャ?」

「・・・考えてないですよー」

それならいいニャ、といって紅茶を飲み干す多摩姉。

「それじゃあお暇するニャ。悩みすぎるニャよ」

そういって出ていこうとする多摩姉。
その後ろ姿に、思わず声をかけてしまう。

「あのさ、ほんとの自分って何だと思う?」

多摩姉は振り向かずに、こう答えてくれた。

「そんなもん、自分に聞けニャ」

そんな多摩姉の言葉を、あたしは左胸の内側で反芻していた。
自分のことは自分で理解してあげないとね。
となると、何をすればいいんだろう?

「下手の考え休むに似たり、かぁ・・・」

多摩姉、流石あたしの姉だよ。この状況、まさにその通りだよ!
そこであたしの悩みについて状況を整理してみる。
ああ、そうなんだ。
たぶん、きっとそう。
あたしは、きっと求められるがまま、北上を演じてきたんだ。
提督の求める北上を、大井っちの求める北上を。
そしてあたしは、そんな私を、嫌がっていたのだ。
提督や大井っちのことではなく、あたし自身を。

「気付いてみればなんのことはないもんだねー、まったく」

よし、それじゃあどうしようかな?
スーパー北上様の、これからの人生に。

「わかった、受理しよう」

数日後、あたしは執務室にいた。
退官願を提督に渡すためだ。
あれからあたしは、球磨姉に手伝ってもらって、退官するための手続きを行っていた。引き継ぎや編成などの問題もあったけど、球磨姉は何も言わずに手伝ってくれた。

「どーせ北上のことだからひょっこり戻ってくるニャ」

とは多摩姉の言。まあ、確かにその通りかもしれない。
なんとなくだけど、あたしも結局戻ってくるような気がしてならない。
ちなみに、木曾っちは仕事が増えることに対して文句を言ってくれた。
大井っちには、まだ伝えていない。そして、これからも。
伝えたら、止められるだろうから。

「球磨から引き継ぎに関しての書類等も貰っている。まあ、機密事項だけ漏らさないように。私から伝える必要があるのはこれだけだ」

「わかってますよー」

「それと、もちろん再び入隊、というのも可能だ。・・・私としては北上がその選択をしてくれることを望んでいるよ」

「それもまあ、わかってますよー」

提督の、少し寂し気な表情が胸にチクリとする。
ごめんねぇ。
でもさ、あたしが決めたことなんだ。他でもない、あたし自身が。

「・・・なあ、北上。どうして辞めるんだ?」

これは提督として、というよりも、体を重ねた一人の男として、聞いているのだろう。

「まあ、自分探しの旅ってところかな?」

「・・・俺は北上のことが好きだった。愛していた。だが、結局俺はお前のことを少しも理解してやれなかった・・・別の世界を見ているかのようなお前を・・・。なあ・・・お前はどこに行くんだ?」

提督の独白に、あたしは答える。
あたし自身の言葉で。

「さあ?ここじゃない、どこかに、かな」

執務室を後にして、本土との連絡便に乗り込む。
見送りは、誰もいない。あたしの希望だ。
ここで手に入れたあれやこれやを、全て置いて、出ていこう。
船に乗り込む、一歩を踏み出した。
エンジンがかかり、船が動き出す。
ありがとう、そしてさようなら。お元気で。
きっといつかまた会えるよね。
そんな寂寞とした思いで離れていく鎮守府を見ていると、走る人影が見えた。

「ああ、まったくもう、ここぞという時を外さないなぁ・・・」

よく見なくてもわかる。大井っちだ。

「―み―さ―!」

よく聞こえないけど、きっと大井っちは涙で顔がボロボロだろう。
だってあたしもそうだから。
もう、そんな顔するのやめてよ。離れ辛いじゃんか。
あたしの為に叫んでくれる大井っちに向かって、あたしは精一杯手を振る。

「大井っちー!またねー!」

聞こえないだろうけど、大きな声で。
涙を拭うと、大井っちが手を振ってくれてるのが見えた。
ありがとう、大井っち。
大丈夫、きっとまた会えるからさ。

鎮守府が、見えなくなった。
ここにいるのは、他の誰でもない、あたしだ。
重雷装巡洋艦でもない、誰のものでもない、たった一人のあたし。
そして、これからあたしは、あたしを探す。
きっとどこかにある、あたしのカケラを集めながら。
ここからあたしが始まるんだ。
北上様が、スーパー北上様になる、第一歩。

「それじゃあ、いっちょやっちゃいましょー!」


終了です。

天野月子さんの箱庭をイメージして書きました。

https://www.youtube.com/watch?v=Gxg01TKFOdk


私の頭の中の北上様は物凄く動くので書きやすいのですが、きっとみなさんのイメージする北上様とも違うものになっているだろうなぁ、と思いました。

最近の悩みは大鳳が出ないこととゴルフのドライバーを買い替えるかどうかということです。
いいドライバーがありましたらお教えください。

乙!

おつおつ

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