星輝子「ロックお礼参り」 (28)

 
ライブの始まる直前、舞台袖に立ってあわただしく動くスタッフを眺める。音響、照明、マイクに楽器。ぎりぎりのギリギリまで確認している。リハーサルだってもう何回もやったのに。会場をちらりと覗くとまだ何もしていないのに何百何千とペンライトが真っ赤に輝いている。まったく、トモダチはいつもせっかちだ。嬉しいけど、その、せ、急かされているみたいで、き、緊張しちゃうな…… 楽しみにしてくれているトモダチみんなに応えてあげなくちゃな。

 なに、もう準備はいいかって?フヒ、いつでも、いけるぞ……まだ時間はあるけどね……
ここ、暑いだろう、親友?最初に会ったときから思ってたけど、そんなにカッチリとスーツ着てて息苦しくないのか……?

 最初、最初かぁ。わ、私みたいのを、よくアイドルにしようと思ったよな……こんな、ジメジメした日陰者を……アイドルらしさどころか、一般人がふだん出してるレベルのオーラも無かった、と思う…
 なのに、そのまんまの私を宣材写真にしちゃって…… え?最初はキノコと可愛さで売ろうとしてた……?き、聞いてないぞ、それ……!じゃ、じゃあ、もしかして、わ、私がキュート路線で行く可能性もあったのか……?む、無理無理……!さ、さすがに今でも、そういうの似合わないと思うし…… 初めてのライブよりもすべるぞ……

 
ちょ、ちょうどメタル路線で行こう!って決めたあとのライブだったろ……?しかもデビューだから、新人アイドル集めた小っちゃいライブの、そのまた前座に出たときのヤツだ…… アイドルを見に来たのに、ゴリゴリのメタルやったら、そりゃみんな乗る乗らない以前にビックリする、よな…… で、でも私は、あの、ヒャッハーなライブが、親友と話し合って決めた、やりたいライブが出来て、最高に気持ちよかったぞ?


 あ、あの後、調べるなって言われたけど、気になってネットの掲示板見ちゃったんだ……
フヒ、初耳だろ、そうだろう?い、言ってなかったもんな……おあいこだ……
 ね、ネットの評価って、厳しいんだな……あのとき出てた新人アイドル、みんな悪口言われててな……その中でも私は、ひどかったぞ…… 
 「アイドルらしくない」 「こいつみたいな変な路線アイドルが売れるか」 「事務所は何を考えてんだ」
って具合にな…… ちょっとだけ、涙が出たぞ……

 
悲しいとかつらいとかもたぶんあったんだけど、一番おっきい理由は「悔しさ」だ。わ、私自身が文句言われてるのよりも、メタルと、アイドルとしての路線と、事務所の人が悪く言われてるほうが多くて……
本当に、本当に悔しかった。わ、私と、親友が、「これが良い!」って、決めて、胸張って見せたものがほとんど拒絶されてた……!良いとか、悪いとか以前に、ちゃんと見ようとしないで「これはない」って一蹴されるばっかりだった……!トレーナーさんにレッスンしてもらって、必死に汗だくになってれ、練習して、ライブのために親友はあっちこっちに頭下げたのに…… ろくに見てもらえてすらなかった!
今思い返しても悔しいし、腹が立つぜぇ……!リア充を見たときとは違う、もっとでっかい怒りが、あのときから渦巻いてるんだ……!


で、でもな……バカにされっぱなしってわけじゃなかったぞ…… ちょっとだけ、本当にちょっとだけなんだけど…… 「よかった」って声もあったんだ…… その人も叩かれたんだけど…… ネットの中とはいえ、私を叩く空気に逆らって、『届いたぞ!』って、声を上げてくれたんだ……!応えなくちゃあウソだよな……!こ、こんな、日陰者で、キモイ私でも……え?そんなことないって?あ、ありがと…… って、話の途中だぞ……

えっと、キャラじゃないってわかってるけど、あのときから本当に、なんていうのかな……茜ちゃんみたいな…… そう、燃えたんだ。

 私のメタルを聴きに来てくれるトモダチに応えるためにレッスンも頑張った…… ボーカルレッスンだけじゃなくて、演技もダンスも…… ま、まだちょっと、ビジュアルレッスンは苦手だけどな…… 相手をエリンギとか、シイタケに見立ててなんとか…… うん、レッスン、頑張ったんだぞ、親友……!あんな恰好とライブのテンションだけど……あ、アイドル、だからな……!う、うわ、頭ガシガシしないでくれ…!フヒー……!


 ……ん、何?緊張してると思って持ってきたものがある?……いや、見せてくれ……親友が持ってきてくれたものだ……きっと力になるはず…… 

 こ、これ、ファンレター……?は、箱で持ってきたのか!?すごい量だな……ぜ、全部私宛だ…… フ、フヒ、フヒヒヒヒッ……!へ、変な声出ちゃうな…… うん、会場いっぱいの人とファンレターの山見れば、怖いものなしだ……!あそこにもしかしたら、誰かとトモダチになりたいボッチとか、周りから浮いてる変なヤツとかいるかもしれない…… わ、私には、よくわかる……そ、そういうヤツだからな…… だ、だけど、声を出して、知らせてやるんだ……!仲間が、トモダチが、繋ぐ糸が呼んでいるってなァ!

 プロデューサー、これだけファンレターがあるってことは、変な手紙も混ざってなかった……? そ、それもちょっと見せてくれないかな…… だ、大丈夫……見るだけ、見るだけ……ね?
こ、これか……まぁ、予想してたくらいの数かな……ああ、やっぱり、認められないとか、嫌われてるのを突きつけられると、悔しいな…… あのときの怒りが湧きたってくるんだ……!いいシャウトが出来そうだ……!メタルにこういう感情は付き物だからな……!




だ、だからこそ、やってやる……!



そろそろ出番だね…… ああ、行ってくるぜ親友……!


 舞台袖を出て幕の上がってないステージに立つ。もうバックバンドも準備万全だ。会場の熱気どこまでも上がっていく。鼓動が早まる。血が滾る。私の小さな体に熱いものがブーツの先から尖らせたネイルまで隅々に行きわたる。悪くない感覚だ。
 ライブ前のアナウンスが終わり、照明が落ちる。荒々しいギターサウンド、地鳴りのようなべ―ス、体と空気がドラムの音で震えている。今、幕がゆっくりと上がっていく。舞台袖の隙間から見えた赤い光は、真正面に立つとまるっきり赤い海だ。幕が上がりきる前から赤い海は吼えっぱなしだ。スピーカーからの爆音を背負い、歓声を上げる大津波の前に陣取る。今すぐにでも叫び出したい衝動に駆られる。まだ、まだだ。掻き立てられた鼓動を一度だけ抑え目を閉じる。


 初めてのライブ。やめろ、売れない、興味が無いと言ってきた人。かすかな応援。激しいレッスン。山のようなファンレター。まだ見ぬボッチたち。親友であるプロデューサー。怒り哀しみ友情喜び楽しさ努力悔しさ感謝、いろんなことが一気に脳内を駆け巡る。
 

 


それじゃあ、まとめて返事をしてやろうじゃないか。


私とPのやり方にケチつけた連中に

応援してくれる大勢のトモダチに

レッスンしてくれたトレーナーさんに

作曲家さんに

ライブスタッフさんに

いつも隣にいてくれる親友に!


オトコノコもオンナノコもキノコノコもタケノコも

全部、全部、全部に!見せてやる、タガ外して!!

息を吸い込み、目を見開き、抑えていた鼓動と熱が加速する。

スポットライトが私を照らし、スタンドマイクに手をかける。

始めようか、今までため込んでいたもの全部をシャウトにこめて――


「ヒィヤッハァァァァアアアアアアアアアアーーーーーーーーー!!!!」

「お礼参りに来てやったぜェェェェェーーーーーーー!!!!!!!」

                        


好きなバンドの好きな曲名を使って好きなアイドルの話を書こうとしたらこうなりました。

明日のライブ楽しんできます

なぜRに立てたか知らんが楽しんでおいでー

何故普通にいいSSなのにこっちで立てちゃったのか

ネットの言葉真に受けちゃう輝子ちゃんおバカ可愛い

今恨みを晴らしに行く



キノコのロックっぷり好き

ライブ最高でした。
いまさらですが、スレ立てるとこ間違えてました。本当にごめんなさい。

いつr18になるのかと不思議に思っちゃったじゃないか
いい輝子ssだった

プロデューサー兼ハラペコの俺になんてタイムリーな…
Starlight Casting1位おめでとう!

輝子のPへのお礼参り逆レイプものかと思ったら違ったけどよかったわ

乙、ホルモンかな?

予襲復讐もやれそうね

Rに来たと言う事は346はデスレコードと戦争か。しかし、どんな事でも世界を滅ぼせるほどの憎しみを抱えられる魔王には及ばない。

ぱい

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