伊織「仲間と共に、歩む道」 (38)

初のSSです。

宜しくお願いします!

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「お嬢様、到着致しました」
「新堂、ご苦労様」

765プロのある雑居ビルに到着。
今日は、プロデューサーに呼び出されて来たのだけれど、
わざわざ呼び出すなんて一体何の用なの?

入口のドアを開け、一歩一歩階段を上っていく。
私はいつも、事務所へと続くこの階段を上りながらイメージして気持ちを高ぶらせてるの。



———トップアイドルへの階段。

「おはよう…ってアレ?」

「おはよう伊織ちゃん、一番乗りね」

「おはよう小鳥…一番乗り?他に誰か来るの?」

「えっと…プロデューサーさんと…後は亜美ちゃん真美ちゃんだけかしら…予定表はこんな感じで真っ白だけど…他に誰か来るかも?」


本当真っ白な予定表、清清しいくらいの白。
全く…ウチのプロデューサー共はどんな営業かけてればこんな真っ白な予定表になるのよ?
それにしても、呼び出されているのが私と亜美と真美?

「おはよう!」

「あ、プロデューサーさん!おはようございます!」

「おはよ」

「お、伊織お嬢様!御早い御着きで!」

「何言ってるのよ!アンタが遅いのよ!」

「あはは…」


全く!自分で呼び出しておいて、この伊織ちゃんを待たせるなんて失礼しちゃうわ!


「「おっはよ〜!」」


ドアが開き、亜美と真美の鬱陶しいくらいの大きな声が事務所内に響く。


「おはよう、亜美ちゃん!真美ちゃん!」

「おはよ、朝からよくそんな大きい声が出るわねアンタ達…」

「おー?いおりん!今日も相変わらずツンツンオーラ全開ですねぇ♪」

「もしかして〜?もしかしての日?」

「っ!…朝から喧嘩売るなんていい度胸じゃない?」ピクピク

「うわ!お嬢様がお怒りだぁ!」

「逃げろ〜!」


もう本当にうるさいっ!


「亜美、真美、おはよう!よーし、三人揃ったな!」


「今日は三人に来てもらったのは、新しい仕事の話だ」

「お仕事ぉ!?ねぇ!どんなどんな?」ズズイッ

「んっふっふ〜ついに新ユニットの結成ですかな?」

「ちょっと二人とも!落ち着いて聞きなさいよ!」


身を乗り出し、詰め寄る亜美真美。
そりゃあ新しい仕事の話はワクワクするけど。


「はは…新ユニットは違うけどな…でも!チャンスかもしれないぞ!ミニライブだ!」

「「おぉー!」」


ミニライブ!まぁいつも大した仕事持ってこない割に少しはマシな仕事を取ってきたじゃない!
トップアイドルになる為のチャンスが、何処に転がってるか分からないもの!


「うん、場所もまぁまぁ集客出来そうな所じゃない!このスーパーアイドル伊織ちゃんの本領発揮ね!」

「いおりん!亜美と真美もいる事もお忘れなく〜」

「共に成功させようではありませんか!いおりん隊長!」

「にひひっ♪分かってるわよ!そんな事」


高ぶるテンション。
期待と不安が入り混じるけど…


期待の方が遥かに大きい!


「気合十分だな!イベントの日までそれほど時間も無い、明日から早速レッスン開始だ!」

「「アイアイサ〜!」」

「この伊織ちゃんに任せておきなさい!」


次の日から、ダンスレッスン開始。
亜美と真美と連携を取りながら、振付の確認。

二人共、気合入ったダンス。
私も負けていられないわ。

数日のダンスレッスンと歌のレッスンを経て、
私達のパフォーマンスは完成度を高めていく。


絶対イベントを成功させる——


その一心で、私はレッスンに励んでいたの。


この先起こる事も予想出来ずに。

——ダンススタジオ。

「よーし!今日はここまでにしよう!」

「ふ〜!やっと終わったよ〜」

「も〜真美もクタクタで動けない〜」

「まだよ…もっと…もっと上手く踊れると思うわ」

「でもな伊織、三人共かなりダンスも完成度高まってるし、歌もちゃんと声が出ていて申し分無いと思うが…」


もっと出来る、まだまだ高みを目指せる。
そんな気がしていたし、ここで頑張らなくちゃいけないとも思ったわ。


「いおりん、戦士には休息も必要ですぞ〜」

「そうそう、亜美の言う通り!それに果報は寝て待てとも言うし〜」


「真美…使い方完っ全に間違ってるわよっ!」


この時、私は目の前の成功しか見えていなかった。


——だから、トラブルは起こってしまった。


イベントの日も迫り、三人の息も合ってきて最後の調整という所まで来た。
通しのダンス練習。

三人にも疲れの色が見えていた。


ワンツースリーフォー

「…う…うわわっ!」ドサッ

「真美!」


亜美が駆け寄る。


「真美!大丈夫!?」

「いっててて…」

「ちょっと真美、足、見せなさい!」


真美は足を捻ってしまった様だった。


私のわがままでダンスの練習量を上げていて、
体力の限界を超えた練習も連日続いていた。


だって、イベントの日も間近だし、ここで手は抜けないと思ったの。

「真美ぃ…」

「へへっ…とんだドジを踏んじまったようだぜ…」

「真美、痛むか?…ちょっと足、動かすぞ」

「っつ!」

「うーん…捻挫か…ちょっと酷そうだな…真美、今から病院へ行くぞ!」


真美が病院へ行く事になり、今日の練習はこれ以上出来なくなったわ。


「ダンスはちょっとお預けだけど〜当日までには治すから!そんなに心配しなくても大丈夫っしょ!」


真美はこう言ったけど診察の結果、捻挫は思った以上に酷かったみたい。

ダンスの練習はトレーナーを代役に立てて、最後の調整。

三人で出来る、歌の練習に時間を多く充てたわ。


——事務所。

中へ入ろうとした時、誰かが話す声が聞こえた。


「プロデューサー、どうなんです?真美の具合は」

「イベント当日までに治すのは難しいな…」

「どうします?誰か代役立てますか?」

「いや…律子、それは彼女達が納得しない、それに——」



「このミニライブはあの三人じゃなきゃダメなんだ」



「プロデューサー…」

「この三人の練習をずっと見てきて、本当に一生懸命やってきたんだ!

どうしてもこの三人で成功させてやりたい」

「当日まで真美の状態が少しでも良くなる様にサポートするしかないですね…」


バタン

「?」

「…誰かいた?」


屋上に吹きすさぶ風は、私を責めるかの様に強く、吹いていた。



私のせいで、こんな事になってしまった。



私が練習量を増やそうって言わなければ良かったの?

私が頑張ろうとしなければ良かったの?

私がトップアイドルを目指さなければ良かったの?



このくらい頑張らなくちゃトップアイドルとして成功する訳ないじゃない!



…全て空回りじゃないのよっ。



私の独り善がり。



「伊織」


後ろで声がする。


「…何よ」


振り返って、プロデューサーの顔を見たら


涙が止まらなかった。


「…責任を感じてるのか?」

「…当たり前じゃないのよ。私が練習量を増やしてって頼んで、真美達の負担を強くしちゃったんだもの!」


涙声で、ホントカッコ悪い。


悔しかった。

ミニライブを成功させたい気持ち。

それが成功出来ないかもしれない要因を作っちゃった。


「お前のせいじゃない、伊織」

「何でよ…何で責めないのよ…」

「責めたって何も変わらない…それにちゃんと一生懸命やってきたんだ、今は真美の回復を祈ろう…」


言う通り、祈るしかなかった。


残りの練習時間は出来る限り、亜美と二人で
真美のサポートに徹した。

そして、ミニライブ当日———


ミニライブは、小さなライブスタジオで行われる。
5、60人程で一杯になる小さな会場で、チケットは完売。

成功の準備は整っていたけど…
真美の足は本調子に戻らなかった。

不安要素を抱えたままのイベント当日。


「真美、足の具合はどうだ?」

「大丈夫だよ兄ちゃん!ちゃんと出来るよ!」

「亜美もがっちりサポートするからね!」


亜美が真美の足を心配そうに見つめる。
テーピングが痛々しかった。


「本当に大丈夫なの真美?無理せずにこの伊織ちゃんに頼りなさいよねっ!」

こんな表現でしか気遣えないけど、本当に心配してるのよ?





「いおりん、ありがとね」





——ありがとうの言葉が…辛い。




ファンの皆がライブ会場に入ってくる。
小さなライブ会場はあっという間にたくさんの人で満員になっちゃった。

律子達も相当、宣伝を頑張ってくれたって聞いた。
その結果は今、目の前に広がる満員のライブ会場を見ればわかるわ。


いつもなら飛び跳ねるくらい嬉しいのに…。


開始の時間が迫り、最終ミーティング。

「よし、いよいよミニライブスタートだ、準備はいいか?」

「うん、兄ちゃん!任せといて!」

「真美も大丈夫!」

「いけるわ」

その時、控え室のドアが開いた。


「失礼しまーす!あ、プロデューサー!」

「失礼します!」

「お!伊織達がいたぞー!」

「律子!春香!響!」


律子と春香と響が応援に来てくれた。
他の皆も来たかったみたいだけど、色々仕事のスケジュールが合わなかったみたい。


先日まで真っ白のスケジュール表だったのに、今回のミニライブが決まって
プロデューサー達も頑張ったみたいね。


「真美!大丈夫なのかー?ものすごい心配だぞー!」

「ひびきーん、大丈夫だよ〜ちょっと捻ったぐらいだし!」

「本当?結構、包帯がいっぱい巻いてあるよ?酷いんじゃないの?」

「はるるんも心配し過ぎだよ〜、これぐらい巻いてないと取れちゃうからさ!」


真美には春香と響の心配ラッシュ。


「伊織と亜美、真美のサポート大丈夫?」

「心配症だな〜りっちゃんは〜大丈夫だよん!」

「出来る限りこっちでサポートはするわ」

「ここまで来たら二人にしか頼れない…二人共、お願いね!」


自分の口から出る言葉に、力が無いのは自覚出来た。


そしてミニライブが始まる。


まず三人での挨拶。
姿を見せると、ファンの大歓声。


「みんな〜!久しぶり〜元気してた〜?」


真美の元気な第一声。


「今日は最後まで、楽しんでいってね〜!」


亜美も続く。


「み、みんな〜!今日は本当にありがとう!みんなのアイドル水瀬伊織ちゃんよ!」


明らかに不安の入り混じった声が出ちゃった…
気持ちを切り替えて、笑顔を振りまく。


「いおりん、緊張してるの〜?顔が引きつってるよ〜ん?」ワハハハハ


真美のフォロー。
会場は爆笑に包まれた。

自分でも笑顔が強張ってるのを感じる。

三人での挨拶が終わり、一度舞台から捌けた。


「いおりん、真美大丈夫だからさ!心配しすぎはよくないっしょ!」

「し、心配なんかしてないわよ!ちょっと緊張しちゃってるだけよ!」


強がりの言葉しか出ない。
どうなってるの?今日の私。


「真美もあー言ってるし、大丈夫だよ!いおりん!」

「亜美まで…もう!わかってるわよ!」


次は三人で、歌いながらのパフォーマンス。

「いくわよ!」

「「おっけ〜!」」


曲のイントロ。
舞台袖からステージへ走る!


「…っつ!」


後ろから真美の痛そうな声が聞こえた…気がした。


歌が始まる。


私のソロパート。


後ろで亜美と真美が、ダンスパフォーマンスで観客を盛り上げる。


真美もちゃんと動けてる。


続けて亜美のパート。


真美と私で、観客に笑顔を振りまき会場も雰囲気はイイ感じ。


その時、気付く。


真美の尋常じゃない、額の汗。


会場の熱気のせいじゃない。


激しいダンスによる物じゃない。


絶対に無理をしている。


容易に想像出来た事態だった。


間もなく真美のパート。


———!


明らかに声が出ていない。


痛みを堪えた、苦しい声。


亜美も心配そうな顔に変わる。


最前列のファンが、少し疑問の顔をする。


まずいわ…これじゃ、最後まで真美が持たないじゃない!


真美は苦しみながらも、最初の曲を終えた。


「真美!大丈夫か!?」


舞台袖に捌け、真美の足にすぐアイシングを施す。
真美の苦しそうな様子は舞台袖で見ていたプロデューサーにも伝わっていた。


「へへ…思ったより上手く出来ないね」


痛みを堪えながら踊るのは相当体力を消耗する。
真美は痛々しく声を発した。


「真美、大丈夫!?」


亜美も心配そうに声をかける。


「真美!」


か細い声で真美が言う。


「…いおりん、ごめんね」


今にも泣きそうな声で、言ってくれたごめんの言葉。


謝らなくちゃならないのは、私のほうでしょ?


「何言ってるのよ真美、しっかりしなさいよ!」


どうしてこんな時も、強がりな言葉がでちゃうのかな。


真美もこんなに辛そうで…ライブ成功出来ないかもしれない…


でも、嫌。


ここで終わりになんて出来ない!


真美だって、痛いけど、苦しいけど、こんなにも頑張ってる!
亜美だって、真美が苦しんでるのを間近で見て辛いのに、頑張ってサポートしてる!


私だって、もっともっと頑張れる!


この私を誰だと思ってるのよ!


未来に羽ばたく、スーパーアイドル!


『水瀬伊織』なんだから!!


真美の足のケアをする時間が少し必要だったから、
サプライズゲストとしてステージに登場した、
春香と響のトークで時間稼ぎ。


応急処置をしながら、ライブ構成の変更。
頭をフル回転させて、対策を練る。


絶対、三人でこのミニライブ成功させてやるわ!


「亜美、お願い。私と一緒にダンスパート増やして動いてくれる?」

「伊織…大丈夫なのか?」


「アンタも、このままじゃ真美が厳しい状況だって事ぐらい判るでしょ!?

真美の負担を出来るだけ軽くして私達が動く!」


「いおりん!亜美、頑張るよ!バンバン動いて会場盛り上げちゃうからね〜!」

「真美も…出来る限り動いて頑張るよ!」

「ありがとう、亜美!真美も無理だけはしないでよっ!」


春香と響が時間をトークで持たせてくれたお陰で、真美のケアも充分に出来た。
そして、また私達三人がステージに立つ。


三人でのステージ。
二曲目以降も、真美の激しいと思われるダンスパートを二人で分担し、クリア。


ソロでのライブも、問題無く終える事が出来た。


そしてミニライブも最後の曲。


「真美、大丈夫?」

「問題ないよん!」


問題ない筈ないけど、よく頑張ってる。


「亜美、もうちょっとだけど頑張って!」

「いおりん!まかせてよ!」


亜美にも相当負担を掛けている、もう少しだから…頑張ってね。


「二人共、これで最後の曲だから全力で歌いきるわよ!」

「「うん!」」




——ひとりでは出来ないこと、仲間となら出来ること。



最後の曲も、三人で最高のパフォーマンスをファンの皆に届ける事が出来た。


「私、真美を病院へ連れて行きますので!」


ライブが終わり、控え室に戻ると律子はそう言って、すぐに真美を病院へ連れて行った。


「亜美、何とかライブ、成功出来たわよね?」

「もう大大大成功っしょ!」

「二人ともお疲れ様!本当に素晴らしいライブだったよ!」


プロデューサーのお疲れ様も、今は心地良く聞こえる。


「当たり前でしょ?この伊織ちゃんに任せておけば、大成功間違い無しなんだから!」

「いおりん、それにしては、最初もうこの世の終わりだ〜!みたいな顔してたよ?」

「うるさいわねっ!こうやってライブも成功したんだからいいでしょ!」

「ははは、まったくだな!でも今回は伊織に助けられたな、ありがとな!」

「にひひっ♪」


色々大変だったミニライブは、何とか無事に終わる事が出来たわ。

真美の捻挫も、ライブ後は安静にしていた甲斐もあって、すぐに良くなったし。

ミニライブの評判も、上々だったみたい!


今回のミニライブは、本当に皆の力が無かったら成功出来なかったと思う。


応援に来てくれた、律子と春香と響。


練習した事以上に動いてくれた亜美。


捻挫で辛かったのに、出来る限りの動きをしてくれた真美。


そして、私が罪悪感で落ち込んでる時に励ましてくれたプロデューサー。


私はこの素晴らしい仲間と共にトップアイドルへの道を歩んでいく。


だから…普段はライバルだけど、今日は言わせて。





「みんな!いつも一緒に居てくれて、ありがとう!」





おわり。

初のSSで非常に緊張しましたが、今の全力を出し切れました。

また機会にお目に掛かれればと思います。
ありがとうございました。

よかったよ乙

素晴らしい。おつ。

乙!次回作も楽しみにしています

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