森久保「私と幸子さんが少しの間活動休止した話ですけど……」 (110)

細かいけどスレタイがおかしいと思ったのでたてなおし。


森久保が主人公の地の文ありSSです。

ちょっと暗いところがありますが、全体的にはそんなに暗くない(予定)です。
また、最初に痛々しいシーンがありますが、表現は抑えめにしてあります。

書きだめじゃなく書いたら投下のスタイルで、亀更新になると思いますがあしからず……

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1466252580

はよ

遅くてすまんな……



「…………」


「…………」


 誰も言葉を発そうとはしない。全く静かな空間が出来上がってしまっている。
 この空間に居心地悪さを感じているし、何より遣る瀬無さを一番感じているのは私だ。がから私は全く言葉を発せない。


「…………こんな時にこんなこと言うのも悪いが、お前たちはプロの人気アイドルなんだ。だから自分の仕事はきっちりこなさなければならない。以前と変わりなくだ」

「それは……わかってますけどっ……!」



 静寂を破ったプロデューサーの発言はあまりにも現実的で、聞きたくないものだった。それを聞いてまゆさんは怒りを抑え込むように小さな声を出す。そして発言したその姿、それは自分を無理にでも納得させているように見えた。

さっそく誤字だよ泣きたい……

がから私は→だから私は



「まゆ……乃々……これから多分、マスコミとかにこの事故の話を聞かれると思う。嫌なら、すぐ逃げるようにしてくれ。なるべく俺は二人と一緒に行動するようにするけど、一人のときは頼む」

「はい……わかりました」


 まゆさんは会話をしているのにも関わらず、私は何も言わない。


「乃々も…………いいか?」


 無言でただ首を縦に振る。肯定や了解の意志を示す頷きというよりは取り敢えず頷いておいただけなのだけれど。




「……乃々ちゃん、少しお話をしましょう? プロデューサーさん、少し離れていていただけますか?」

「ん、あぁ……わかった」


 プロデューサーが離れ、退室していく。私はそれをそれとなく眺めていた。いつも見ていたプロデューサーの背中はいつもと変わっていないのに、何故だか小さく見えた。


「……乃々ちゃん、大丈夫ですか?」

「…………まぁ、はい」

 まゆさんの表情が悲しそうな、苦しそうな感じになる。ただ、それをどうにかすることができない。


「乃々さん……確かにお仕事をするのならしっかりこなさないといけません。でも、お仕事が辛いのなら無理しなくても……」



 要は一時的に活動休止することを勧めているのだろう。



「…………そうですね」

「乃々さん……しいばらく、お休みしましょう。プロデューサーさんには私がお話しますから」

「…………はい」



 力なく、私は返事をする。さっきから取り敢えず肯定しているが、まぁこれでよかっただろう。

 結局、私はそこからしばらく活動を休止した。事務所の皆は私と幸子さんのことに関しての話を何度もマスコミに迫られたらしい。本当に申し訳ないことをしてしまった。



 一応、私と幸子さんに何があったのか、簡単に説明をしておきたい。




 ある日、私と幸子さんの二人で仕事があった。その日の仕事はいつも通り、幸子さんがいじられて私がそれに巻き込まれて。そんな感じのトークを展開した。



 そして仕事終わり、私と幸子さんは歩いて事務所に向かっていた。時刻はおよそ昼過ぎ、午後一時頃だったと思う。人通りはまぁまぁある通りの横断歩道のところで信号待ちをしていた私と幸子さん。私は携帯をいじっていて、幸子さんは行き交う車を眺めていた。
 すると、いきなり「乃々さんっ!」と叫ぶ幸子さんの声が聞こえたと同時に強い力で押され、少し飛ばされ背中とお尻を打った。



 わけがわからないが、本能的に危険なのだと理解した瞬間。目の前で幸子さんが倒れた。正確には『車に腰の少し下あたりに当たられ、そのまま車のボンネットへ倒れこむように乗った』のだ。ボンネットに乗る瞬間に頭を打ったように見え、しかもフロントガラスにぶつかりガラスが破れた。



 ガラスが破れた後もその車は数メートルだけ走った。その間に幸子さんは振り落とされ、うつぶせで倒れていた。


 走って駆け寄り、自分の持っている知識を総動員してどうすればいいのかを一瞬で判断することができた。アイドルをやっていなかったら、昔の自分だったら慌ててどうすればいいかわからなく泣いていただろう。今思えば、随分私も昔から変わっていたようだ。

 私は救急車を呼び、プロデューサーに電話をした。一方的に「幸子さんが事故にあって大変で……救急車を呼びましたけど……えっと……」みたいな感じで電話した。それと居場所をプロデューサーに伝えて電話は終了した。

 それから、私は幸子さんの体に触れないように気をつけながらガラスの刺さり具合や出血、それから最初にぶつかった腰のあたりを確認した。
 最初にぶつかった腰のあたりは出血はないが、ちらりと見えた皮膚は酷い色をしていた。またガラスの破片は首には刺さっておらず、即死ということはないと判断した。ただ頭には刺さっており、出血はあまりにも酷いということではなかったが、結構な量出血していた。



 それらを確認している間に、プロデューサーが救急車よりも早く駆けつけた。その時に、この事故現場が事務所から近いのだと思い出した。
 幸子さんの姿を確認したプロデューサーは下を向き強く唇を噛むと、小さな声で「救急車を待とう」とだけ言った。


 そして救急車が到着し、そのままプロデューサーと私は病院までいき、数時間待って幸子さんの状態を聞いた。お医者さん曰く、
「ガラス片は幸運にも少ししか刺さっておらず、それに関しては問題ありません。ただ左脚の股関節付近が軽度の粉砕骨折です。まぁそれは二週間足らずで治ります。ただ、脳震盪を起こして意識がありません。数時間で意識は戻るのですが、意識が戻ってから自己前後の記憶がはっきりしていなかったり、めまいやふらつき。それから頭痛などが起こり得ます。脳震盪のほうは重症なので、頭痛は数カ月続く可能性が高いです。特に運動に伴っての頭痛ですね。輿水さんは、アイドルの方ですよね。もし頭痛が酷ければダンスなどは厳しいです。それと、輿水さんの体を張ったスタイルも、頭痛などの症状が完治してからもしばらくは控えていただきたいです」



 と、確かこんな感じだった。およそ半年はほぼ確実に体を張って仕事はできないそうだ。




 そうして幸子さんの症状について聞いた後、プロデューサーと一緒に事務所へ戻ると心配そうにしているまゆさんがいた。それで事情の説明をまゆさんにして、さっきの場面に至り、私も活動を休止した。





 こうして私と幸子さんが活動を休止して五日。私は一度も家から出なかった。ちょうど夏休みでだから、学校の出席日数には影響しない。

 活動を休止してから、プロデューサーが毎日家に来た。しかしまだ一度も出ていない。おそらく、今日も来るだろう。


 そう思った矢先、チャイムが鳴る。時刻的におそらく昼休みの間に来たのだろう。しかしいつもチャイムが聞こえても無視していた。親が部屋に来ても「帰ってもらって」と言ってプロデューサーを家にはあげなかった。ただ、今日は親が家にいなかった。だからそのまま居留守を続ければよかったのだ。なのに、それなのに私は何故か玄関に向かって歩を進める。


「……はい」

「っ、乃々! よかった、出てくれた……今日は親御さんいないのか?」

「出かけてます……それで、何の用ですか……?」


 少し、言い方がきついだろうか。そう思ったがプロデューサーは大人だ、落ち込んだりはせず私の心配をしている。


「いやまぁ、取り敢えず顔が見たくてな。体調とかは大丈夫か?」



「……熱は平熱、咳とかも特にないですけど」

「……腹痛や頭痛はないか?」

「ちょっと、胃と頭が」


 およそストレスやらなんやの精神的なものによる胃痛頭痛だろう。プロデューサーもそれを心配しての質問だったと思う。


「そうか……まぁ、無理せずまずは休んでくれ。乃々がまたアイドルをやれる、やりたいって思えるようになったら事務所にまた来てくれ。幸子と乃々がいないと俺の担当がおとなしい子ばっかでつまんなくてさ」

「……もりくぼも比較的おとなしいと思いますけど」

「いやまぁ、乃々は大人しいけど、仕事から逃げようとしたり隠れたりイベントを提供してくれるからなぁ」

「…………確かに」



 自分はもしかしたら大人しくないのだろうか。思い返せば仕事から逃げるってなかなか厄介な事だ。



「あぁ、そうだ。病院から幸子のお見舞いはもう許可出たって。これ部屋番号な」


 小さな紙をプロデューサーが差し出す。小さく会釈しながら私はそれを受け取る。


「……プロデューサーはもうお見舞いに行ったんですか?」

「いや、まだだ。今日は仕事が多くて、面会できる時間に間に合いそうにないんだ。病院はここから近いし、できたら乃々に行って欲しいんだが……」


 引き籠り状態の私によくそんなことを頼むなぁ、と思ったがよくよく思えば、これはプロデューサーさんの気遣いなのかもしれない。プロデューサーよりも私のほうが幸子さんと話をする相手に適していて、かつ二人で乗り越えてほしいとか、そんな感じの。


「……まぁ、いけたら行きますけど……期待しないでください」

「おう。それじゃ時間もやばいし、じゃあな!」

「はい」



 走っていくプロデューサーに小さく手を振る。それに応えてプロデューサーは大きく手を振った。



 プロデューサーが見えなくなったら家の中に入り玄関を閉めた。その後、少しの間家の中を低徊してからプロデューサーに渡された小さな紙に目を落とす。『三階本館東病棟個人部屋B312号病室』と書いてある。病院はすぐそこ、徒歩五分程度の近場だ。




「……まぁ、行くだけなら」



 結局、私は病院へ行った。仮にも活動休止しているアイドルだ、変装しなければならない。といっても怪しまれてはいけないので、白の少し大きめなマスクをし、おしゃれっぽい帽子をかぶる。それから髪はつむじの少し下あたりでまとめて、帽子の中に隠す。




 意外と人が多かったため、おどおどしながら歩を進めることとなった。

 しかし、少し地図などを見ても東病棟がどこでB312号病室もわからない。こうなると、頑張ってどうにか聞くしかない。すぐそこの病院の人らしき人に話しかける。



「あ、あの……東病棟のB312号病室に行きたいんですけど……」

「B312、ですか? あぁ、その病室どこにあるのか地図とか見てもわかりにくいですよね。案内しますので、どうぞ」

「あ、ありがとうございます……」



 さっきほどではないが、おどおどしながらその親切な病院の人についていく。何度も道を曲がり、結構奥のほうへ進んでいく。


「はい、ここです」

「あ、ありがとうございました……」


病院の人にお礼をし、その幸子さんのいる病室の扉の前で深呼吸する。そしてその瞬間、一つ不安なことが頭に浮かぶ。


 もしかしたら、幸子さんが精神を病んでいるかもしれない。もしかしたらうつ病だったりするのかもしれない、ということ…………でもそうなら、私が幸子さんを助けてあげる。プロデューサーはきっと、幸子さんが精神を病む可能性があるとわかったうえで私に行ってほしいと頼んだのだろう。それなら、その期待に応えなければならない。





 そして、幸子さんと二人一緒にまたアイドル活動をするんだ。
 そう心に決め、もう一呼吸おいて扉を開ける。



「あれ、お見舞いの方ですか? おめでとうございます、一番乗りですよ!」



 ……どうやら、さっきの心配と決意は八割方無意味だったようだ。いつも通りの幸子さんで私は安心する。



「……幸子さん、私ですけど」

「あれ、乃々さんじゃないですか。活動休止中でしょう?」


 頭に傷を覆う包帯の類のものがついているが、事故の前と変わらない可愛い顔で幸子さんは首を傾げる。自称可愛い、なんてのは幸子さんが自ら可愛い可愛いと自称しているからだが、実際のところ可愛い。


「もう知ってるんですね……まぁ、ここ家から近いですし」

「そうなんですか。それにしてもよく目の前で私の怪我を見たのに平気でしたね……精神とか病んでません?」

「それはもりくぼのセリフだと思うんですけど……まぁ確かに少し精神やられてますけど……休めば多分平気ですから」

「そうですか。でも頭とか痛いときあるんじゃないですか?」


 図星をつかれ、力なく、まぁそうですけど。と返答する。



「そうですよね……いやーでも、自分の頭の傷なんて見えませんからね。ぶつかったとこの骨折も案外軽いようですし、脳震盪に関しても記憶は消えてないですし。めまいとか頭痛はまぁ……あるんですけどね」



「……大丈夫ですか? もりくぼにできることがあるならしますけど……?」


 すると幸子さんは顎に手を当て、まさに考えているというような感じの仕草をとる。数秒経って、何か思いついたのであろう表情に変わったので、少し身構える。



「そうですね…………では早く元気になってください! そしてボクの分までいじられてきてください!」

「えっ、いじられ……?」

「そうです! それなら乃々さんも鍛えられますし病室でボクが退屈せずに済みますし元気もらえますし! 一石三鳥ですよ!!」



 なかなかの超絶理論で驚くが、一応部屋に入る前に『二人でまたアイドル活動をする』と決意したのだ。断るわけにはいかない。



「うぅ……が、がんばりますけど…………あんまり期待し過ぎないでください」

「すっごい期待してますからねー。あ、ところでその変装上手ですね。ていうかもう帽子とか脱いだらどうです?」

「えっ、あ……確かに」


 幸子さんが元気だったことへの喜びと、幸子さんの発言への驚きと、その他いろいろが混ざり合って変装していたのを忘れていた。マスクと帽子を脱ぎ、いつも通りの髪型に戻す。
「あぁ、まさに乃々さんって感じの乃々さんですね」

「もりくぼはもりくぼなんですけど……」

風呂なんでいったん落ち

風呂あがってからも書きたい

風呂で書け

なーんか一回トリップついてないけどまぁいいや

風呂で書けと言われたので携帯端末を使用して風呂からお送りするけどめっちゃ時間かかります

無理しなくてもいいのよ?



「まぁ……幸子さんは元気そうでなによりです」

「まぁ完全に元気ってわけじゃないんですけどね……乃々さんもまだ体調が悪いようですし無理しないでくださいね」

「そのつもりですけど…………」

「そうとわかったら早く家に帰って休んだ方がいいんじゃないですか?」


全くその通り。家で休むのが普通だ。でも私はそうじゃない。今のは私は家で休んでも休んだ気にならないんだ。


「親が家に今いなくて……家にいるよりここにいるほうがいいです」

「そうですか? それなら可愛いボクに存分に癒されるといいですよ」


 あぁ、そうさせてもらおうかな……なんて、少し調子に乗ってしまいそうだ。幸子さんの方が容態は悪いわけだから、どちらかというと幸子さんを私が支えなければ。



「あの、乃々さん?」

「な、なんですか?」


 突然、幸子さんの雰囲気が変わる。いつものように自分を褒めたりアピールしたりする感じでなく、なんというか例えるなら、そう。舞台のセットについて話し合いをしている時のプロデューサーのような。

 と、言ってもあまり伝わらないだろう。とにかく、突然真面目な感じの雰囲気に変わる。


「乃々さん…………もっとボクを堪能したらどうです? 今なら独り占めですよ???」

「…………え?」


 素っ頓狂な声が出る。そんなの当たり前だ、あんなに真面目な雰囲気からこんな発言が出たら誰だって変な声を出してしまう。

「しかもボクは今身動きできないんですよ? すき放題堪能出来るシチュエーションが出来上がっているんですよ?? 乃々さん???」

「ふっ、ふふっ……なんですか、それ」

「なっ、笑うとこじゃありませんよ!? 堪能しないんですか!?」

 幸子さんなりに私を励ましてくれたのか、それともただいつもの調子で話しているだけなのか。


 どちらかはわからないけれど、ただ私の気持ちを明るくしてくれたことにかわりはない。

「もう今ので満足に堪能しましたから……えっと、その、頑張ってくださいね。幸子さん」

「いっ、いきなり真面目な感じの発言ですね……え、えぇまぁ頑張りますよ」



 それから数時間、ずっと幸子さんと話していた。今まで私達が一緒にしてきた仕事の話や、幸子さんがいじられてきた話や、もしそれを私がされたら……とか。とにかく色々な話をして、あっという間に時間が過ぎた。



「ん、乃々さん。そろそろお時間もあれですし帰ったほうがいいんじゃないですか? 親御さんの帰ってくる時間までには帰った方がいいですよ」

「え? あ、もうこんな時間ですか……それじゃあ、もりくぼは帰りますね」

「ええ、また来てくださいね」

「……また、来ます」



 そう言ってドアを開けて部屋を出て、そして扉を閉じる。

 幸子さんのほうが私よりも心の方はやはり強かった。私よりずっと元気だったのだ。まだ私は体調も良くないし、仕事を今すぐにやろうとは思えないけれど……早く元気にならなければ。



 …………あぁ、そういえばここからどうやって戻ればいいのか。来た道を覚えていない。どうしよう。




 全く申し訳ない、そっとさっき閉めた扉をまた開く。


「乃々さん、お早い二度目のお見舞いですね」

「……その、ここから出口ってどうやっていけばいいんですか」

「あぁ、迷いますよねここ。それはそうですね、このわかりやすい地図をあげますよ」


 そう言うと幸子さんは私に地図を手渡した。その地図を見るが……さっきよりはわかりやすいが、完璧にはわからない。


「自信ないですけど……これでどうにか帰ります」

「そうですか……それで余計に迷わないでくださいね?」

「が、頑張りますけど……」


 そう言って、本日二度目の退室。その後は地図のおかげでなんとか進むことが出来た。

 ……これでもう部屋に戻ってくる心配ありませんね。
 あぁ、一度誰かと一緒にいる楽しさを知ってしまうと独りでいるのが辛いです。こんな生活がしばらく続くのは多分精神にくるでしょうけど……頑張らなきゃですよね。
 あぁ、でも何故こんな事になってしまったんでしょう? 私は何も悪行など行っているわけでもないのに…………っと、いけませんね、こんなネガティブな思考を働かせては……ボクもまだまだです。

 …………何故でしょう、目と頬が熱いですね。あぁもう、ボクにこんなのは似合いませんから! そんな暗いのはボクのイメージとは全く別ですし!

 ……無理に自分を励ますのも、場合によっては辛いですね……あぁ、涙が止まってくれない。
 こんなならいっそ、一度泣いてしまいましょう。
 どうせ、誰も知りやしません。私が一人泣くのを。

最悪なミスがありますねぇ……

>>30 私が→ボクが

なんかいい文がぱったりと思いつかなくなったので多分今日はこれで終わりかなぁ……

今度からは投下する前にちゃんと誤字確認しますね…………

おつ

やっていきますよーぅ
誤字には気をつけたい……



「はい、幸子さんはいつも通りの幸子さんでしたけど……特に変わりなく」

「そうか、それならよかった」


 翌日、また家に来たプロデューサーと話をする。しかし上手く会話を繋げられないのは、自分が口下手なのか精神が弱っているのか……まぁわからないけど。

「それで、乃々は調子どうなんだ?」


 まるで心の中を読んでいたかのようなタイミングで質問をとばしてきた。出会った時から常常思っていたが、この人は一体何者なのか。
 私をアイドルにしたり休まず仕事してたり、てかこの人いつ休んでるんだろうか。こうして考えるとプロデューサーって謎だらけなのだ。

 余計なことを考えてしまっていた。まず今は質問に答えなければならないのだ。


「え、えっと……頭痛とか腹痛は依然変わりなく…………精神的には、まだちょっとお仕事とかできるか不安です……頑張りたいんですけど……」



「えっ…………?」


 突然、プロデューサーが間の抜けた顔をする。何だろうか、何かおかしなことを言った覚えはないが……?


「乃々、お前が頑張るって言うなんて……やっぱ精神的にやられてるのか!?」

「ちょ、ちょっとそれ失礼だと思いますけど! 別に、今までももりくぼは頑張ってきましたし」

「いやヤケクソって感じじゃなかったか?」

「さっ、最初はヤケクソでダンスとかやってましたけど……自主練とかしたり、トークとか頑張ってしてましたし」

「そうか……乃々もだいぶ成長したんだなぁ……」


 そう言うとプロデューサーが目元を袖で拭う動作をする。その目は少し赤かった。
 疲れ目?? いやまさか泣いたなんてことはないだろう。きっと疲れ目だ…………いや、もう涙を流している。

 やはり掴めない人だ、いきなり泣き出したり心を読んだかのように質問してきたり……ちょっとおそろしい。

 とはいえ泣いているプロデューサーを放っておくわけにはいかない。


「えっ、ちょっと泣かないでください……今活動休止している私こそ泣くべきだと思うんですけど……」

「いやなんか、乃々が成長したって理解したら、同時に申し訳なさが心に込み上げてきて…………なんであの日二人を迎えに行かず歩いて戻ってこさせようとしたのかなって…………」



「あぁ、いやそのっ……すまん。いきなり泣かれても困るよな……反省なら一人でやれって話だよな」

「……プロデューサー」


 まだそれでも少し泣いているプロデューサーは、消え入りそうな声で返事をした。
 この人だって辛い、それは当然だ。プロデューサーだから平気なんてことはない、プロデューサーも同じ人間だ。


「えっと……もりくぼは頑張って早くお仕事に戻ります。だからそれまでは、もりくぼと幸子さんの分まで他の皆に力を入れていてください」

「……っあぁ、わかった。全く、まさか乃々がこんなに精神的に成長しているなんて……やっぱり精神がやられて逆に大人になったのか??」

「ちょっ……もうそれいいんですけど! というか幸子さんのお見舞い、ちゃんと行ってくださいね」

「あぁ、行くつもりだよ」


 こうして、プロデューサーと話をして、後は家の中で引き篭もって……とにかく暇だけどお腹と頭の痛い日々を過ごした。

 それである日、確か活動休止から一ヶ月程経った頃。全く腹痛も頭痛もない日が二日続いた。そろそろ大丈夫かな……と思い、プロデューサーに話してみた。


「えっと……頭痛とか腹痛も完全にない感じですし……もりくぼはもう活動再開してもいいと思うんですけど……」


 そしてプロデューサーはそれを承諾した。

 こうして、私の活動再開が決まり、最初の仕事も決定した。
 最初にあまり不慣れな仕事やきつい仕事は避けるようにしてくれたのか、その決まった仕事はラジオの収録だった。しかも生放送ではない。


 かなり気を使ってくれているみたいだった。ちなみにラジオはもちろんゲストとしての登場。

 そのラジオは日野さんと鷺沢さんのラジオ。収録現場に行っても特に今まで通りくらいの緊張しかしない。これなら、大丈夫かもしれない。



「本日はよろしくお願いしますね、乃々さんっ!!」

「私も、よろしくお願いします」

「はっ、はい……お願いします……」

「乃々さんっ声が小さいですよ~っ! もっと元気を出してっ!」

「むっ、無理言わないでください……」

「ぬぅ……腹筋が足りないのでしょうか……」

「そっ、そういう問題じゃないんですけど!?」


 やっぱり運動が得意なだけあって、気力もかなりあるらしい……これで三十分収録はなかなか堪える……いつもこの人とラジオをやっているなんて鷺沢さんってすごい。


「えっと…………まぁ何とかなりますから」

「信じますけど……信じきれません……」

「私も最初は無理だと思いましたから、多分大丈夫です」

「今のセリフ、日野さんが聞いたらショック受けると思いますよ……」



「さぁ~始まりましたよ本日のラジオ!! タイトルは忘れたので本日のラジオということにしますが!!」

「冒頭から走ってますね茜さん。オープニングトークどころか最早タイトルからやばいですよ」

「何とかなりますっ! なんせ本日はゲスト回ですからね!」

「えっ、もう紹介しちゃうんですか? 早いんじゃ……」

「どうなんですかスタッフさん…………おっけー? よしっ、おっけーだそうですので、紹介しましょうっ! 森久保乃々さんですっ」

「はっ、はい……もりくぼ、ですけど……」

「はい、ということで今回のゲスト……森久保乃々さんです」

「えっと、お久しぶりです……」

「確かにお久しぶりですね! ラジオの収録でご一緒するのは初めてですが」

「えっと……茜さん、コーナーとかもうやります?」

「そうですね、やっていきましょう! それでは本日のコーナーはこちらですっ!!」




 そんなこんなで、私の活動再開後の初仕事は難なく終わった。ちなみに、この頃には幸子さんの骨折も大分良くなり、 頭の傷はもう平気とのことだった。頭痛やめまいに関してはまだ辛いらしいけれど。



「最近、乃々さん結構活動できてるじゃないですか。どうです、ボクの分までいじられてますか?」

「日野さんに振り回されたりはしましたけど……皆気をつかうのであまり体を張る仕事とかそういうのはまだ……ですけど」


 あのラジオから二週間程経つ。あのラジオ後も、何度か日野さんとの仕事があった。ただし運動系はほぼ無し、トークがメインの仕事ばかりだった。
 やはり気をつかわれている、ということだろう。だとしても精神的にはかなりきつい。日野さんつよい。


「むぅ、いじられはまだですか……でもまぁ無理しないでくださいよ? またお身体の調子が悪くなるかもしれませんし」

「それはまぁ、無理せずいこうと思ってますけど」

「それなら大丈夫です。後五ヶ月程は、ボクの分まで耐え抜いてくださいねー」


 はっきり言って、幸子さんと同じぐらいのいじられを受けたら耐えられる気はしない……というか無理。
 だってバンジーとか絶対無理だ。あんなのやったら即失神、病院のお世話になる。


「うぅ…………改めて思うと幸子さんって、すごいんですね……」

「あっ、改めて思わなければすごいと思わないんですか!?」

「いやまぁ……でもすごいですよ…………すごい……」

「想像しただけで辛いって感じの態度ですね!? そんなに嫌ですか!?」

「バ、バンジーとかむーりぃー……」

「多分いずれ乃々さんもバンジー経験しますから……ボク十回以上やってますし」


 バンジー十回…………いや、死ぬ。確実に死ぬ。バンジー十回やるくらいなら日野さんとランニングした方がマシ…………いやいい勝負か。



「まぁ、とにかく頑張ってくださいね? 応援してますから」



 それから数日、仕事を更にいくつかこなし、大分調子も戻ってきた。
 今日は街歩き番組の収録。本日のお相手もまた茜さん。どうやら私と茜さんのコンビを気に入った人が多いらしい……振り回される私を見るのが楽しいんだろうけど。


「今日もよろしくお願いします、乃々さんっ!!」

「よろしくお願いします……茜さん」


 大分茜さんと仲も良くなった……が振り回されるのは変わらない。
 幸子さんとの仕事に比べればまぁ……いじられたりしてるわけじゃないから少々楽ではある。



「さて街歩きなんちゃらですっ! タイトル忘れましたけどもうカメラ回ってますし諦めましょう!! ところで乃々さん、本日はなんか美味しい物が食べれます。美味しいもの!!!」

「いきなりですね……その美味しいものってなんですか……」

「はい! 全くわかりませんっ! 概要どころか食べ物としてのジャンルとかそういうのすら知らされてないので!!!」

「まさかすっごく辛いのとかじゃないですよね……こわいんですけど」

「大・丈・夫です! 辛くても食べれますっ!」

「食べれればいいって話じゃないと思うんですけど!?」

「大丈夫ですよ~、そこまで酷いことしませんって番組スタッフさんでも」

「信じませんけど……番組スタッ…………」

「……? 乃々さん?」

 目の前に、十字路が見えた。あの、あの時の事故現場と同じ、人通りがある程度あって横断歩道と信号、数や配置までほぼ同じ……そう感じた。


 そう思った瞬間、私を突き飛ばした直後の幸子さん、車に当たられボンネットに頭を打ちつけた幸子さん、ガラスが破れて頭に刺さった幸子さん、振り落とされる幸子さん、倒れて動かない幸子さん、全てが頭の中で鮮明なまま襲い掛かってくる。
 そして、頭を握り潰されるような痛みと、胃を鷲掴みにされるような痛みが襲い、視界が狭まる。

 体から力がおおよそ抜け、立っていられない。倒れて地面にぶつかる少し前に、意識は消えた。

一旦ここまで

時間があればまた書きますよーぅ

おつ
待ってる

ちょっと遅くなりましたけどやってきますよーぅ



 その後、私が目覚めたのは知らない場所だった。木陰で寝ていたのだ、おそらく近くの公園で撮影中断して私を休ませていたのだろう。


「……乃々さん、目が覚めました? だ、大丈夫ですか?? もしかして私……何か無理させたりしちゃいましたか?」


 木の次に目に入ったのは茜さんだった。こんなに慌てていて、かつ不安そうな茜さんを見たのは初めてだ。



 あぁ、どうやら私はまだ……あの事故を乗り越えられていなかったらしい。よくよく思い出せば、あの時目に入った十字路は事故現場にそこまで酷似していたわけじゃない。それなのにそっくりなように感じてしまい……十字路を見ただけでこのザマだ。


「茜さんは何も悪くないですよ……ちょっと、思い出してしまって」

「やっぱり……まだお休みしたほうがいいんじゃないですか……?」

「そこは……プロデューサーとお話して決めますけど……」

「……無理、しないでくださいね?」



 あぁ、茜さんをこんなに不安にさせてしまうなんて。全く情けない。
 駄目だ、頭が妙に痛む。腹痛は引き篭もりの時と同じくらいだが……頭痛は全くおかしい。



 大丈夫だと思っていた。頭痛も腹痛も消えてきっと精神的なものも平気になったのだと思っていたのだ。

 そうして活動を再開して仕事も上手くいっていた。茜さんとも仲良くなれたし、トークだってしっかりこなしていくことが出来たのだ。だから、平気なのだと勘違いしていた。



 私はあの事故から逃げ切ることはできない。『十字路』というただそれだけ、たった一つの鍵だけで私の精神は開いて、そして負けてしまう。そんな精神なのだから。




 こんなことだと幸子さんに顔向けできない……一緒にまた仕事をするとか、支えてあげるだなんて思っていたが…………まず自分のことすらどうにかできてないのだ。人の心配より前に、自分の心配をしなければならないというのに……だ。







 私は…………私にとってのあの事故をどうにかできるのだろうか。






 私のせいで撮影内容も変更、茜さんや番組スタッフさんたちのスケジュールにまで迷惑をかけてしまったのだ。
 そうして仕事のできる状態でない私は、プロデューサーが迎えに来てくれることになった。そうして到着したプロデューサーの車に乗り、家まで送ってもらう。

「乃々…………もう一度、落ち着こう」

「…………はい」

「落ち着くまで、ゆっくり休んでくれ」



「…………はいっ」



 辛さと情けなさが交差し、涙がこぼれてきた。歯を食いしばり、涙を出さぬよう耐えようとするが、その意思を無視して涙は流れる。




 涙の雫が落ちて、自分の服を濡らす。この涙は何故出てきているのか、何故私は泣きたくないのにこの涙は勝手に溢れ出るのか。






 この溢れる涙が伝える全てを、理解しなければならない。そうしなければ、自分はあの事故に一生囚われたままになるだろう。




 家に到着し、すぐに部屋に篭る。親にはプロデューサーが事情を説明してくれるらしい。



 こうして部屋に入ってからも、色々な思いが行き交う。辛さ、悲しさ、恐ろしさ、申し訳なさ、悩ましさ……きりがなかった。


「もりくぼは…………アイドルがしたい…………そのためにはあの事故をっ……ぁ、あっ…………」

 いろいろと一人で考えていて、あと少しで何かわかるかもしれない。そんな時に頭痛が襲う。しかも特に酷い頭痛がだ。


 無理に考えようとしたりして、結局私は疲れきってしまった。知らぬ間に、自分の意思に反して眠ってしまったようだ。
 目が覚めた時には目が少し腫れていて、頭痛や腹痛は以前のようにまた現れていた。




 取り敢えず、外を歩けそうなら幸子さんの所へは行こう。少なくとも、そこに何かはある。何かきっと、答えでなくとも大切な……重要なものがきっと。


 と思ったが、容態はなかなか良くならない。少し無理をしてでも行ったほうがいいだろうか…………っ、あぁ、また頭痛だ。これもまた酷い、思考を放棄したくなるくらいだ。




 …………頭痛がある程度マシになった。
 やっぱり、少し無理をしてでも幸子さんに会いに行くべきだろう。

 少しばかり重い体を引きずりながら、以前と同じように変装をして部屋から出る。親にはかなり心配されたが、無理をして容態が良くなったふりをしてどうにか誤魔化した。



 いつもよりゆっくり歩きながら、自分の意思を再確認する。
 幸子さんは私にとって一つの支えだ。そして幸子さんにとって、私が支えであっていたい。


 一度、私は幸子さんを支えて二人でまた活動すると決意したのだ。決意したことは絶対に揺るがせはしない。私は幸子さんの支えになり、そしてあの事故を乗り越える。絶対に……絶対にだ。

今回はここまでということで

二時から三時の間に作業の息抜きにちょっと書くかも

作業終わったしこんな時間だけど書いてきますよーぅ



 正直、病院にお見舞いに行くというのに、逆にお見舞いされる側くらいに体調が良くなかった。驚くほど体調が悪くて、すれ違った看護師さんとかに心配されるんじゃないかとか思いながら幸子さんの病室へ向かった。


 もう何度か来ているため、最初は迷宮だったが慣れた。幸子さんの病室へは簡単にたどり着くことが出来る。

 死ぬんじゃないかと思いながら数分歩き続け、やっとの思いで目の前に扉。
 ノックをすれば、返事をしてくれるだろうか……まぁ一応ノックしようかな……無言でこのザマの私が入っていったら驚くだろうし。
 軽く、三回ほど扉に曲げた指の関節を当てる。


「…………はーい、お見舞いの方ですか?」

 少し遅れて、幸子さんの返事がきた。私はそれを聞き取るとゆっくりと扉を開け入室。私の姿を見た瞬間、幸子さんは驚いた表情になる。


「のっ、乃々さんマスク付けててもわかるくらい顔色悪いですね!? 姿勢も悪いですし!」

「顔色は仕方ないことですけど…………姿勢はまぁ、お腹が痛くて」

「お見舞いに来たんですか!? 診察してもらいに来たんですか!?」


 やっぱり言われた。まぁこれは傍から見ても幸子さんより私の方が酷い有り様だから仕方ないことではあるけれど。

「お、お見舞いですけど……」

「いや、どう見ても病人じゃないですか……そんな無理してこなくても」

「……幸子さんに会ったら、元気になるかもしれないと思ったんですけど」

「そんな違法な薬物みたいな効果がボクに」

「……少し良くなった気はしますけど……微妙な気も」

「どっちなんですか……まぁ、ボクと一緒でよければゆっくり休んでくださいね。なんかもうボクより重症っぽいですし」

「なんか……ごめんなさい……」



 そこからは、幸子さんとの他愛のない会話が続いた。幸子さんがひたすらに暇だって話、私の活動休止二度目の話、茜さんに振り回された話、色々あった。
 茜さんの話をしたら幸子さんは「いやまぁ体力的にはキツいでしょうねぇ……あんな体力オバケみたいな人と一緒は」とか言いながら、その後にでも一緒に仕事してみたい、だなんて言ったりもしていた。やっぱり、この人はいじられるの天才なのだろう。


 そしてそんな会話の中、幸子さんが突然真面目な顔になった。まぁ……多分真面目な顔でしょうもない話をするのだろうけれど。

「……ところで乃々さん、ボクって実は男だったんですよ」

「そんなわかりやすい嘘、具合の悪い森久保でもわかりますけど……あぁでも体調良くなってます……」

「なっ、ボクにドラッグ的な効果が!?」

「いや……もりくぼの頭痛腹痛は精神的なものが原因っぽいので……安心とかしたら治まる感じだと思うんですけど……まぁつまり幸子さんと一緒にいて安心したんです」


 少し恥ずかしいようなセリフを言ってしまい、目を合わせにくい。そっと覗き込むように幸子さんの顔を見ると…………すごく赤かった。耳まで真っ赤だ。

「ちょっ、乃々さん不意打ちは卑怯ですよ! 全く、あと少しで完治目前の骨折した部分を動かしちゃうくらい驚きましたよ……」



 あぁ、そうだった。幸子さんはふとしたときに褒められると弱い。いつも褒めて褒めてと言っているが、こういうときにはすっごく照れる。そこも可愛らしいけれど。


「ふふっ……幸子さん、照れすぎだと思いますけどっ……」

「わっ、笑うとこじゃありませんよ! 全くもう、ボクを褒めるならもっとこう、露骨にですね」

「まぁ、そんな幸子さんは可愛いですけど……」

「ちょっ……っぁぁ、いつの間にか乃々さんまでボクを上手くいじれるようになってしまっていますね……トーク力鍛え過ぎですよ」

「森久保だってお仕事頑張ってますから……当然ですけど……」



「まぁ、でも幸子さんと一緒にいると安心するっていうのは本当のことですけど……」

「そ、そうですか? まぁボクは包容力もありますからね、よくよく考えればそのくらい当然のことでしたね!」

「いつもの幸子さんですね……まさに幸子さんって感じです」

「ボクはいつでもボクですよ…………って、この会話の逆のパターン、最初のお見舞いのときにしましたねぇ」


 思い返せば、そんなこともあった。あれからもう一月は経つのだ、時の流れは早い。
 確か骨折に関しては数ヶ月、めまいや頭痛とかは半年は安静にしてれば再発とかはない、みたいな感じだったが……体調的にはどうなのだろうか。


「あの……幸子さんの今の体調ってどんな感じか教えてくれますか……?」

「いいですよ。骨折はさっきも言いましたけど完治目前、めまいや頭痛は大分減りましたね。もうベッドから出て動き回るのも普通にできますし、おおよそ平気ですよ。ボクとしては、乃々さんのほうが心配です」


 事故のことを思い出してしまい、体の調子が悪くなる。これはやはり解決しなければならない。私があの事故を乗り越えるのだ。でも、はっきり言って一人では難し過ぎる。だから、誰かの力が必要だ。

「…………そ、それに関してなんですけど……ちょっとお話を聞いてくれますか……?」

「……いいですよ」

undefined

今回はここまで

昼過ぎには書きたいなーと思ってる

なんか大事なシーンがundefinedってなってて、調べても前例すら出てこないので書き直します

書いて投下のスタイルだからつらい



「その……もりくぼがまた体調を崩して活動休止をしたって話ですけど…………その、体調を崩した理由が………………えっと、十字路が目に入って、それであの事故の時の幸子さんを思い出してしまって…………辛くて、耐えられなくて…………」

「……何が、嫌なんですか? 具体的には何が辛かったんですか?」

「目の前で、幸子さんが傷ついたり、倒れて動かなくなってしまっているのを見るのが耐えられなくて…………でも頭では事故のことは乗り越えなきゃいけないってわかってるんですけど…………頭でわかってて、もっ…………心が、それに、追いつか、なくって…………」


 気付いたら、私は泣いてしまっていた。涙を堪えることすらできない、その事実さえも辛かった。




 すると、幸子さんは私を優しく抱き寄せた。幸子さんの服を涙で濡らしてしまうと思ったが、私はそのまま顔を胸のあたりに抱き寄せられた。


「乃々さんは優しいですね……ボクが傷ついてるのが辛くて泣いているなんて。でも、あのときボクが乃々さんを助けようとした結果がこれなんです。確かに痛かったですし辛かったですけど……そうなるかもしれないって覚悟はしてたんですよ………………」


 そこで、幸子さんの言葉が止まり、私を抱きしめる力が少し強くなる。
 小刻みに幸子さんの体が震えているのが、私の体に伝わる。



「あぁ、でもボクもまだまだですね…………乃々さんを助けるつもりだったのにっ…………結局っ、乃々さんを苦しめ、てっ…………ぅあぁ、ぁっ……ぅ……泣くのすら、耐えら、ないです、しっ…………」

 このとき、ようやく私は理解した。私は幸子さんを支えるどころか、逆に支えてもらいっぱなしだったのだ。
 そして、何より私が幸子さんを苦しめていた。私が一人で勝手に苦しんで追い込まれて……そのせいで幸子さんも辛くて。
 一人で辛いとか苦しいだなんて思っていた自分が情けない。


「幸子さんっ……ごめん、なさい……!」

「ぐすっ……全くもう、謝ることじゃないですよ…………」

これで今回のやるつもりだった分終わりです

ちょっとハプニング(?)のせいで寝る時間が……

さて、やってきますよーぅ



 流れるこの涙は、溢れた感情。
 あぁ、いっそこのまま素直にすべて打ち明けられたらもしかしたら楽かもしれないけれど……きっと、溜めこむべきことだってあるのだ。何でも吐き出せばいいってわけではない。


「……ごめんさないね、乃々さん。泣いちゃって」

「…………最初に泣いたのはっ、もりくぼです、し」

「まだ泣きたいなら…………泣いていてもいいんですよ」


 別になんてことない、普通の一言だ。ただ一言「泣いてもいい」、そう言われただけ。そう言われただけなのに私の感情は溢れ出てくる。




 そのまま、一体何分の間泣いていたのだろうか。かなり長い時間が過ぎたということだけはわかる。日も結構落ちてきている。


「…………乃々さん、ボクもう少しで退院できるんです。活動再開とかはまだ厳しいですけど、でも事務所に顔を出したりするくらいはできるようになりますから」



 その言葉に、私はただ泣きながら頷くことしかできない。でも……嬉しかった。活動再開はまだにしても、この独りぼっちの空間から幸子さんが解放されるのが。



その後、どうにか私は泣きやんで、それから落ち着くことが出来た。やはり私はまだ心が人に比べて弱いのだと実感する。


「乃々さん、大丈夫ですか? だいぶ楽になりました?」

「はい……ありがとうございます……」

「その……我が儘言っちゃいますけど…………無理せず、そして絶対に調子を戻してくださいね。それで、二人でまたお仕事しましょう」


 私がいつしか決意したことと全く同じことを、幸子さんが私に伝える。

 けれど……私tぽ幸子さんが全く同じ思いだったって言うのは、あえて言わないでおこう。これは、私一人の幸せな秘め事だ。





 しかしもう時間が時間だった。あまり遅くなっても親が心配するし、私はもう帰ることになった。


「それじゃあ、また来ます……から……」

「えぇ、待ってますよ。もしかしたらもうお見舞いとかする暇もなく退院かもしれませんけどね!」

http://i.imgur.com/y3Ageom.jpg


 ――――ああ遂に、独りきりのこの部屋から抜け出すことが出来ます。会いたいときに皆さんに合うことが出来るようになりますね。

 もうこの入院生活の間で人生の涙の五割以上流した気分です…………でもまぁ、一番辛いのはボクじゃなく乃々さんですよね。


 あのときの、あの事故のときのボクの判断は最善だったんでしょうか? あのまま乃々さんが事故にあいボクが助かる……のは論外。二人とも事故……だなんて最悪ですよね。でもボクも乃々さん二人とも助かる手段だなんて、どんなに考えても思いつきません。
 もしかしたら、助かる方法は無かったのかもしれませんね。そういえば、そんな感じの内容が書いてある本を読んだことがありました。確かカミュという作家の異邦人、でしたっけ…………まぁどうでもいいんですけど。


 とにかく、早く乃々さんと仕事がしたいですね。その他の皆とも………………あー、早く体良くなりませんかねえ?

一旦ここまでにしますかねぃ

あ、誤字とかあったら容赦なく言ってくださいー
しないよう注意はしてるんですけど……あったらお願いします

あぁミスありましたね……

>>68
私tぽ幸子さんが→私と幸子さんが

それじゃやってきますよーぅ



 それから五日経って、幸子さんは退院した。



 今日でもう退院から一週間。私も幸子さんもまだ活動休止しているが、一緒に事務所へ顔を出したりしている。
 事務所の皆は事故の前となんら変わらずに接してくれた。


 本日はもう事務所に顔を出し、幸子さんのめまいがまだ少し残っているので早めに帰ってきたところだ。

 最近は幸子さんと連絡をとって暇を潰している。
 しかしその会話の内容はしょうもないものだし、大体は最後「早く元気になりたいですね」で終わるのが常だった。



「それで、乃々さんは体調の方どうです? ボクのほうはもう大分良くなりましたよ」

「もりくぼも頭痛とか腹痛はほとんど無いですけど……」

「そうですか、よかった」

「あの……半年は安静にしてるようにお医者さんが言ってたんですけど……頭痛とかは運動するとあるんですか」

「まぁ、ちょいちょいありますかね。でもそこまで酷くないですし、その話をお医者さんにしたら半年も休まなくてもいいかもねって言ってましたよ」



 これは今日の会話の内容の一部だ。どうやら幸子さんの容態はかなり良いらしい。


 しかし……もしかしたら幸子さんも、私のように何かがきっかけでまた一気に崩れてしまうかもしれない。私はあのお見舞いで泣きじゃくった日以降、ある程度平気になっていた。十字路やあの事故の時と同じ種類の車を見ると少し体調が悪くなる、程度には。



「なんか……今の状態じゃ、あの事故を乗り越えたっていうよりは引き摺ってでも前に進んでるって感じが……」



 実際そうか、引き摺っているようなものだ。
 



 引き摺ってでも前に進むのもいいかもしれない。引き摺るっていうか、背負って進む、の方がいいか。まぁとにかくそうして生きていくのもいいかもしれない。


 そんなことを思って、それからそのまま惰性で一月が経過する。私はおおよそ平気になり、幸子さんは事務所に行って、いけそうだからダンスを踊ったら頭痛もなく平気だったとのこと。その日にプロデューサーと話をしておいた。

「幸子、もう大体平気なのかもしれないが、一応あと一ヶ月休んでいてくれ。運動することに関しては、その一ヶ月の休みの間に段々慣らしていくようにしよう。いきなり本格的にダンスをやっても、ずっと寝たきりだった幸子にはきついと思うから。あ、あと乃々も一緒に慣らしていくからな」

 ということになった。休む、というよりは一ヶ月の間に活動再開の準備を整えるということだろう。
 およそ三ヶ月ほど私と幸子さんは活動を休止している。私は活動していた時があったから二ヶ月半くらいか。それプラスあと一月。活動休止期間は約四ヶ月か。
 ともかく、私と幸子さんには三ヶ月のブランクがある……でも幸子さんのことだし、それでもちゃんとやれそうだ。私は……ついていけるかなぁ……?

風呂なんで一旦ここまで

あがってからも書きたい

この先の展開が気になるけど何か恐い

昨日の夜結局風呂あがってからすぐ寝てしまった……

さてやってきますよーぅ



「幸子さん、珍しく返信が遅い…………」

 いつもはおよそ十分と経たずに返信が来るのに、今日はもう二時間返信がない。何かの用で外出していて携帯を忘れているのか、それとも何かあったか…………連絡がつかないから予想をするしかない。とにかく、少し心配だ。

 そんなときに、家のチャイムが鳴る。プロヂューサーだろうか?
 何故か急ぎ足で玄関へ向かった。玄関にはいつも通りのプロデューサーがいた。


「……どうした乃々、そんなに焦って」

「……あ、いや…………その、何か焦っちゃっただけですから……気にしないでください」

「そうか? それならいいんだが……無理すんなよ? まだ疲れてるのか?」

「そ、そんなんじゃないでですから…………別に精神的におかしいとかないですから……」



「ここに来る前に幸子のとこにも行ったんだが家にいなくてな…………乃々は何か知ってるか?」

「私は何も知りませんけど…………二時間くらい返信がないので」


 何かと思えば出かけていたのか。それにしても幸子さんが携帯を忘れるだなんて珍しい気がする……ほぼ肌身離さず携帯は持ち歩いていたと思うけれど。



「まぁ、後で俺も親御さんに連絡してみたりしてみるよ。乃々はまぁ、最近どうだ?」

「ほとんど平気な感じで……まぁたまに具合悪くなるときありますけど…………それはあのときの車とか十字路見たら、ですけど……」

「そうか。倒れたりとかはもうないか?」

「もうそういう酷いのはないですけど…………まぁそろそろ活動再開もいいかなって」


 ……なんだか最初の頃の私からは絶対に出ないような発言だ。昔ならこの活動休止のままアイドルやめていただろう。

「まぁ無理はするなよ? 今日は幸子と連絡取れてないわけだし、運動も今日ぐらいはやらなくてもいいぞ?」

「別にもりくぼは元々減るほどとスタミナもないですし……」

「随分と、早く活動再開したいんだな…………乃々も変わったな」


 まぁ、全く自分の思っていたことと同じだ。私も随分変わった。
 でも…………あんまり激しい運動とか強いられるのは嫌だけれど。


「それじゃ、まぁ俺もまだ仕事があるんでな。それじゃ」

「はい…………」


 そう言うとプロデューサーは玄関から出ていった。






 それから、幸子さんから返事はあったがいつもより返信は遅くなった。数時間に一回連絡が散れるくらいになってしまたのだ。

 それでも事務所には一緒に顔を出しに行ったし、ダンスの基本程度だけど問題なく二人でやることができた。普通にプロデューサーが家に行ったら家にいるらしいし、特に事務所でもいつも通り。連絡が遅くなった意外に変化は何もない。

ミス

>>85
連絡が散れる→連絡が取れる

一旦ここまでということで

気になる引きだなおい


次回が楽しみだ

ゆっくりかつ少量になりそうだけど、やってきますよーぅ

 ――――それとなく、感じていました。わかっていました。自分が知らないうちに無理していること。それと、優しい嘘を吐いていること。自分で優しいだなんて言うのもおかしいですけど、まぁ優しい嘘としか表現できませんし。

 体の調子が酷くなってきているのもそろそろ誤魔化せていないでしょうね……乃々さん、きっと返信遅いって思ってるでしょうし。プロデューサーさんも多分気付いている頃でしょう。事務所ではなーんか調子が出るんですけど、それ以外だとどうも……ねぇ。
 しかし最近はおかしいです……躁鬱病でしょうか。気の上がり下がりが激しいです。喧しくて疲れるのでたまったものじゃないですよ、全く。

 あぁ、そういえば昨日精神病について軽く調べたんですよね。それで『強いストレスを感じたときの精神病』っていうのがあってみたんですけど、解離性障害、というのがあって。記憶喪失や家などからいきなり逃げて行方を眩ますとか、あと二重人格になるなんてのもありました。中々恐ろしい話ですよね。
 それでその最後の項目です。この項目を見て、正直ボクはハッとしました。内容はこうです。
『離人症性障害。自分が自分の体から離れて現実感のない世界に居るように感じたり、見慣れた風景が外国のように感じる障害。自分が自分で内容に感じたりもする。その他には、手足が大きく感じたり、物の見方が変わったり、時間感覚、空間感覚の異常など』
 と、こんな感じでしたね。

またミス申し訳ない

>>91
自分で内容に感じたり→自分でないように感じたり

 自分の最近の感覚と全く同じものが書いてあったんです、そりゃ驚きますよね。まさか精神病について調べたら自分が該当する症状が書いてあるなんて、きっと皆さん想像したこともないんじゃないですかね?

 あてはまったのは、見慣れた風景が外国のように感じるのと、時間感覚の異常。あと軽く空間感覚もおかしいと思います。
 時間感覚の異常はわかりやすかったです。「はぁ、今日ももう終わりで結局引き籠ってましたね……」と思ったらもう夜明け寸前だったり、「そろそろ寝る時間」と思ってもまだ午後四時頃だったり。数秒の間が異常に長く感じたり、わかりやすいです。

 空間感覚の異常と言っても、そこはまぁ軽くって言った通りです。携帯を取ろうとして手を伸ばしたら思っていたより少し遠かったりとかですかね。あと部屋の扉がいつもより近くに感じたり。まぁでもあまりにも酷かったりはしません。


 一番酷いのは見慣れた風景が外国のように感じる、ってのですね。乃々さんと一緒に事務所へ向かう途中の道が、何故だか全く知らない風景に見えたり、事務所が知らない建物に感じたり、ダンスルームが知らない変な部屋に感じたり……皆さんには気付かれないように素振りは見せませんでしたけど……正直びっくりしましたよ。
 でもその項目の最後を見てある程度安心できました。離人症性障害は一時的なものが大半だそうです。この障害が過ぎ去るまでは我慢、ですね。




 ボクは早くアイドル活動がしたいんです。乃々さんのほうはどうかわかりませんけど……最近の様子ならきっとまたすぐ活動再開をするでしょうね。ボクの分までいじられるって約束しましたし。乃々さんは約束を破る人ではないと思うので……きっとそうですよね。



「…………あの、プロデューサー」

「…………わかってるよ。ただここで幸子に真っ直ぐに伝えてしまっていいのかってことだよ」


 今日は私の活動再開についての話をした。そして今はその後だ。話しの内容はまぁ……おおよそ想像がつくことだろう。


「だって、最近は連絡取るにも誤字とかが多くて……調子が悪いのは明白ですけど……」

「あぁ……もう幸子が今辛そうなのはわかってる。せめて原因かもしくは原因を見つける手がかりが欲しい所なんだよな……」

「やっぱり、直接聞く以外には難しいんじゃないですか……? 精神病なんて特にわかりにくいでしょうし、そもそも私たちは精神病の知識もないですし……」

「……直接聞く、かぁ…………大丈夫なんだろうか」

「えっと…………その、もりくぼが行きましょうか?」


 プロデューサーが呆気にとられた表情になる。まぁ普通か。なんせ今のが私の発言なのだから。


「…………もし、失敗したら終わりですけど……もりくぼはそうするのが正解だと思いますから」

「で、でも……………………いや…………悪いな。こんな大事なときに役に立てなくて。任せても……いいか」

「任せてください…………まぁ自信ないんですけど……」

「……ったく、最後の最後に乃々らしいとこ出しやがって」



 あぁ、そうだ。こうして結局自信が無かったり気力がないのが私か。でもまぁ、そのちょっと自信ややる気が足りないのがいい感じに調整をしてくれている。そのおかげで今まで成功してきたような気がする。まぁ気がするだけだが。





 さて、ここからはおそらく私の今までの人生で最も重要な出来事が起こるだろう。もちろん、その道を切り開かなければいけないのは私だ。



今回はここまでで
明日は書けるか微妙なとこだ……

時間できたんで書こうと思います



 ……決意はしたものの、こうして玄関の前に立つとどうしても緊張するし不安もある。なんだか初めてお見舞いに行った時を思い出す。あの時も私はこうやって扉の前でくすぶっていた。でも、あの時しっかりと決意した事がある。それが決意が今もあるなら、この扉の向こうに私は行くことが出来る。



 ………………さて、こうして何秒か経った。そろそろ行かなければならない……行かなければならないんだ。
 そうして無理に扉を開けようと手を伸ばし、よくよく考えればチャイムを鳴らせばいいのだと気付いた。あぁ、やっぱり緊張している、成長したと思っていたが、結局私は前の私のままのメンタルだったようだ。

 そうして私はチャイムを鳴らし、人が出てくるのを待つ。今は平日の午後四時頃だ、おそらく家には幸子さんしかいないと思うから、出てくるのは幸子さんだろう。



「はーい……って、乃々さんじゃないですか。わざわざ家まで来ていただいてすみません」

「いえ……大丈夫ですけど…………」



 幸子さんは顔色も声のトーンなどもいつも通りで、傍から見れば健康な、テレビに出ている輿水幸子だ。

「そうですか。えっと……あがっていきます? 今は親とかも特にいませんし」

「じゃ、じゃあお言葉に甘えさせてもらいます……」



「それで、乃々さんの調子はどうです?」

「順調で、プロデューサーと話した結果活動再開はすぐということですけど……」

「そうですか、よかったです……ボクも早く活動再開したいんですけどねぇ…………」


 …………違う、今日はこうしていつものお見舞いみたいに他愛の無い話をしにきたんじゃない。
 もっと大切な話をしにきたんだ。とはいってもその話を切り出す手段はない…………まあつまりいきなり話を入れるしかない。

「しかし乃々さん、もう腹痛頭痛も平気なんですか?」

「……………………」

「……乃々さん?」



「…………幸子さん、正直に話して欲しいです」

「な、何をですか?」

「今の、幸子さんの事です」

「………………まぁ、やっぱ乃々さんには気付かれてますよね。わかりましたよ、正直に話します。簡単に言うとボクは離人症性障害だと思われますね」


 離人症性障害。おそらく精神病の一つだろう。

「まぁ名前だけ聞いてもわかんないですよね。時間や空間感覚の異常とか、見慣れた光景が全く知らない光景に感じたりするんですよ」

「……なんか、それだけならあまり支障のないように感じますけど…………まぁ症状がどうなのかが問題じゃなく精神病なのが問題なんですよね」

「大丈夫ですよ、症状は継続的になることは殆どないそうです。しばらく休めば大丈夫ですよ。何より、人は忘れることで生きていけますからね。時間が経てば平気です」




 時間が経てば平気なのかもしれない。もしかしたらそのまま忘れて終わりかもしれなくて、それでいいのかもしれない。



 ただこの事をを忘れてしまっては、今回はただの『辛かった事』で終わりだ。それがどうしても嫌で、何より幸子さんが悩んでいるのを一人で抱え込ませているだけで終わらせたくない。悩んでいることを、打ち明けられないような関係でありたくない。他に、幸子さんや私に精神的な問題が起きる可能性を根絶やしにしたいというのもあるけれど、それは所詮後付けの理由だ。



「それだけ、なんですか」

「こればっかりは嘘を言ってませんよ? 現状はこれだけです」



「病気じゃなく…………心に残っていることはないんですか」

「っ………………お見通し、なんですね……」

「お願いです……素直に、聞かせて欲しくて」


 真っ直ぐに、聞きたいことを聞いた。もしかしたらこの行動が不正解かもしれない。もしかしたら今さっきの一言で全てが崩壊してしまうかもしれない。
 でもお願いだ、奇跡でもなんでもいい、どうかこの選択が正解であってほしい。


「…………違います…………違うんですよ」


 幸子さんが消え入りそうな声を落とす。



「違うんです……乃々さんが信用できないんじゃなく…………隠し事をしているとかじゃないんです…………あぁ、でも…………隠し事してる、んです、よねっ……これっ……」


 幸子さんが顔を上げる。その目には涙が溜まっていて、その涙が溢れて頬を伝う。
 いきなり打ち明けるとなっても、きっと心がまとまっていないのだろう。感情が不安定な状態だ。



「でも…………事故に合うだなんて思ってもっ、いなく、てっ……それなのに突然こん、な目に合って…………酷いで、すっ…………!」


 幸子さんの、今まで口に出してこなかった思い全てが私の耳に届く。


「今まで……頑張ってやってきて、それなのにこんなことになって…………ボクは、ボクはっ!! こんなふうに黙って籠もるためにやってきたんじゃないのにっっ!!!」



 その叫びはあまりにも哀しいもので、あまりにも報われないものだった。


 もしかしたら、頑張っている人が報われないのが世の中かもしれない。でも、少しくらいでも報われる『場所』さえあれば、まずはそれでいい。だから、幸子さんは報われなければならない。それなら、きっとその報われるというのは、幸子さんが今まで通りアイドル活動をできるようになることだろう。




 私がそのために力になれるのかもしれない、そんな瞬間が今だ。それならば、その可能性を無駄にするわけがない。

 何度も言うように、もしかしたら失敗するかもしれない。でもリスクを恐れていちいち立ち止まること、それこそ私は失敗だと思うから。








 ――――――――だから一歩、踏み出して。




さて風呂なので一旦ここまで。


あがっても書きたい。てか書く。



「…………幸子さん、もりくぼは……私は幸子さんに出会えて本当に良かったです。今こうしてアイドルっていうお仕事を好きになれたのも、幸子さんのおかげです。幸子さんのやってきたことは無意味なんかじゃなくて、私の人生を変えましたよ」



 少し短いかもしれないけれど、伝えたいことは伝えた。
 幸子さんのおかげで、私の人生はこんなにも変わった。きっと幸子さんがいなかったら、こんなにいろいろなことを考えて、自分で行動して、誰かと一緒にここまで頑張ろうだなんて、そうそう思うことが出来なかっただろうから。


「…………それは、それは本当に良い変化なんですか? もしかしたら……別にもっと良い変化を遂げられる道があったかもしれないんですよ?」

「確かにそうかもしれませんけど……それでも、幸子さんと出会って、今までの人生で一番幸せな時間を過ごしてます。こんなにも何かに、本気で打ち込むことが出来ましたから」

「…………そうですか……あぁ、すみませんね……本当に手の焼ける人で」

「そこも含めて……可愛い幸子さんですから…………ね」


 ちょっと無理にいつも通りっぽく話をする。自分なりに全力での励ましだったが、大分ぎこちなくなってしまった。
 それでも、幸子さんの表情はさっきまでの暗い顔ではなかった。泣いてはいたが、その顔には、目には、希望のようなものが私には見えた。


「本当に手間がかかる人ですね、ボクは…………でも、それも含めてカワイイ、ですよね」



 最後に、無理に私に合わせていつも通りっぽくしてくれた幸子さんは、泣いていて、目のくまもあって、少し肌の色が白っぽかったけれど、今まで見てきた中で、一番可愛い幸子さんだと私は思った。






 そうして、その日きりで幸子さんの離人症性障害の症状は姿を見せなくなった。
 私も私で幸子さんより先に活動を再開することになった。当然活動休止していた間に関して、マスコミは黙っていてくれるわけがない。会見をすることになったが、それは幸子さんの活動再開会見と同時ということになった。

 私が活動再開したのは、一ヵ月の慣らし期間宣言から一ヵ月ぴったり。幸子さんは私より一週間遅れての活動再開となった。



 会見では見たことないくらいのカメラと人に囲まれ、私はもう緊張やら何やらで何も言えなかった。


 しかし幸子さんは全くのいつも通り。活動再開の会見だというのにさすがだ。



「まぁ、ボクが事故にあったていうのはもう有名な話ですよね……まぁ少し精神がやられかけましたが全然平気でしたよ。ボクはメンタルまで強くてカワイイですからね!」



 とか言っていつも通り。私よりメンタルがやられていたといのに、こういう場面では元気だ。私より強いのか弱いのかいまいちわからない……まぁ多分私より強い。
 それと、その後にこんなことも言っていた。



「あとはまぁ、乃々さんがいてくれたっていうのもありますね……あ、ここから真面目な話ですからね? えっと、まぁボクが結構悩んでたとこがあってですね。そこで乃々さんがボクに会いに来てくれて。真っ直ぐに乃々さんが思いを伝えてくれてボクも素直になれて……まぁすごい助かりましたよ」



 なんて言ったのだ。そのおかげでマスコミの質問は私に集中。どうにかして質問に答えていったが……焦って何か余計なことを言ってしまっていたりしないか不安だけれど……気にしないことにしよう。



『乃々さん、本当にお世話になりました……これからもお世話になります』

『そんなにかしこまらなくても…………あぁでも、もりくぼは嬉しかったです』

『何がですか?』

『もりくぼでも……誰かの役に立てるんだって』

『乃々さん……そんな悲観的でいなくても。もっとボクみたいにですね』

『努力はしてみます……難しいと思いますけど……』

『まぁ、ネガティブ成分がないと乃々さんって感じしないので少しは残しておいてくださいね?』

『……幸子さんこそ、暗いのは似合わないですからね?』

『わかってますって……今回でメンタル鍛えられましたし』

『じゃあ私の分までお仕事を……』

『駄目です一緒にやるんです』

『ですよね……ふふっ』

『何笑ってるんですか乃々さん』

『いえ…………なんだかんだでやっぱり楽しいなって思っただけです』

『そうですか? まぁこれもボクのおかげですかね!』

『……そうですね』

『えっ、ちょっとそんな真っ直ぐに褒められたら照れるじゃないですか』

『褒められ待ちだったんじゃ……』

『いやあいつもはそんないきなり褒められませんし……ちょっとびっくりしましたよ全く』

『折角褒めたのに……』

『あぁいや、もちろん嬉しいですよ』

『そうですか?』

『そうですよ。いやぁしかし、今回は本当に色々ありましたね。多分これ人生で一番の山場だったんじゃないかと思いますよ』

『私もそう思います…………でも、乗り越えられました』

『それも乃々さんとボクの絆とか、えーと……まぁとにかくそういうのがあったからですね!』

『大事なところで言葉が出てこないのは駄目だと思いますけど……』

『仕方ないんです! まぁ、でもボクたち二人の絆が本物なのは事実ですよ』

『えぇ……初めはこんなに仲良くなれるなんて思ってませんでしたけど……正反対でしたし』

『正反対だからこそ、ここまで通じ合えたんじゃないですかね』

『…………そう、ですね』

『ボクはあなたに会えて、本当に良かった』

『……はい、私もです』

これにて完結です。

頑張る森久保とか仕事に向かって頑張る森久保とかシリアスな幸子とかとても仲の良いさちののとかが書きたかっか結果こうなりました。
最初の予定より暗い展開が強めになりましたが……満足できる作品が書けたので良かったです。

お疲れさま
幸子は孤高のイメージがあるけどやっぱりそばに居てくれる人が付いててほしい

おう、面白かったで
乙乙

お疲れ様です
幸子も森久保もカワイイなぁ

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