~艦隊結成三周年記念公演~
アニバーサリージュニアコンサート開催
母なる大地にオーケストラの海風が吹く
日本初、艦娘による軍楽隊ここに結成!
市民の皆様に、私達の真心をお届けいたします!
会場:○○市公民館
□月△日(日)
18:00開場 18:30開演
入場無料
プログラム……
……
…………
………………
SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1461991152
それは、演奏会よりさかのぼること一か月前……。
一度限りの軍楽隊となった皆が、鎮守府でセクション毎の練習に励んでいた時のことでした。
キンキンコンコン
パッパラパッパーッ
時津風「うーん、そうなんだよー……」
時津風「夕方からみんなで合奏の練習をするって、まだ伝えてないのになぁ」
雪風「なるほど、そうだったんですか……」
雪風「そういえば、一体どこに行ったんでしょう?」
雪風「朝の合奏が終わってから、雪風も大和さんを見ていませんっ」
時津風「う~ん、困ったねー……」ムムム
雪風「では、二手に分かれて大和さんを探してみましょう!」
雪風「ちょうど休憩しようと思っていたところですし……」
雪風「雪風もお手伝いします!」
時津風「ほんと?ありがたいなぁっ」ニコッ
雪風「全然、大丈夫!」フフン
雪風「きっと、まだ鎮守府のどこかにいるはず……」
雪風「それに、大和さんの“バイオリンそろ”は絶対、必要ですから!」
時津風「そうだねそうだねぇ」コクコク
雪風「では、またあとで!」ブンブン
時津風「あとでねー」ブンブン
……
…………
………………
山城「不幸だわ……」
山城「私のクラリネット、マウスピースだけがどこかに消えるなんて……」ガクッ
タタタッ…
雪風「山城さん!こんにちは!」
山城「あ、雪風……こんにちは……」
また貴方か、期待
雪風「あの、大和さんをどこかで見ませんでしたか?」
山城「うぅ~ん、そういえば見ていないわね……」
雪風「そうですか……ありがとうございますっ」ペコッ
山城「ごめんね、雪風……」
雪風「いいえ、大丈夫です!」ニコッ
雪風「それでは!」
タタタッ…ガチャン
コロコロコロ
山城「あっ……ドアの裏からマウスピースが……!」
山城「これで練習ができるわ……」
山城「よかったぁ」ニコッ
……
…………
………………
期待期待期待
ブォォォォ…
バタラダーヴァーヴァー…
羽黒「……はぁ」
羽黒(演奏会に出るの、やめるなんて言っちゃった……)
羽黒(姉さまたち……悲しい顔してた……)
羽黒(……でも、これで良かったの)
羽黒(私なんかが演奏会なんて……)
羽黒(きっと、皆の足を引っ張っちゃうだけだから……)
羽黒(…………)
タタタ…ッ
雪風「羽黒さーん!」
羽黒「ひゃえっ!?」ビクッ
雪風「この辺りで大和さん、見ませんでしたか?」
羽黒「え、えっと……」オロオロ
羽黒「たしか、さっき二階で……み、見たような……」
雪風「ほんとですか!ありがとうございます!」パアァ
羽黒「いえいえっ」ニコ
雪風「そういえば、羽黒さんも……」
雪風「雪風と同じトランペットでしたね!」
羽黒「う、うん……」
羽黒「あ、でも……!」
羽黒「……でも……私は……」シュン
雪風「えへへ……」
雪風「夕方の合奏、お互いがんばりましょうね!」
羽黒「ゆ、雪風ちゃん……、わわ、私……」オロオロ
雪風「羽黒さんと一緒にトランペットを吹けるの……」
雪風「雪風、すっごく楽しみにしていますからっ!」ニコッ
羽黒「っ!」ドキッ
雪風「それでは、雪風は大和さんを探しに行きますので……」
雪風「また後でお会いしましょう!」
雪風「それではっ!」ブンブン
羽黒「う、うん……」ヒラヒラ
タタタ…ッ
羽黒「…………」ジッ…
羽黒(せっかく……)
羽黒(妙高姉さまが貸してくださったトランペット……)
羽黒「……」グッ
ダッ
羽黒「妙高ねえさま……っ」
羽黒「羽黒っ、やっぱり……!」
……
…………
………………
雪風「うぅ、大和さんはすでに二階をはなれてしまったみたいです……」シュン
雪風「……そうだ!今度はしれえに聞いてみましょう!」
グラ「アトミラール……タクトはもっとこう、“レ”の字の軌跡を描く」グイグイ
グラ「貴官は気を抜くと“U”の字になりがちだ、意識して振るといい」
提督「ぐぬぬ……難しいよぉ~」
提督「もうさぁ、グラーフが指揮者をやったほうが早いんじゃないのこれ?」
グラ「そんなことはない、皆……アトミラールを信頼して練習に励んでいる」
グラ「も、もちろん……私も……な」カァー…
提督「?」
グラ「だ、だから、貴官が指揮者を務めなくては……だめだ」
グラ「私も、練習に最後まで……付き合うから……」ドキドキ
提督「……へいへい、分かりましたよー」ハァ
グラ「……ふふっ、そうしてくれ」ニコッ
雪風(お邪魔してはいけなさそうです!)クルッ
……
…………
………………
ヴーーッ
島風「……」ムスッ
島風「もぉ~っ!なんで私がチューバなんか吹かなきゃいけないのーっ」ジタバタ
島風「なんかテンポもおっそいし、音も低いし!」
島風「それに……!」
島風「私だって、大和のバイオリンや雪風のトランペットみたいに……」
島風「もっとメロディの出る、目立つ楽器を演奏したかったよ……」グスッ
島風「……あーもうやだ!チューバの練習なんて、サボっちゃうk」
ガチャッ!
雪風「しまかぜぇ~!」
島風「オウッ!?」ビクゥ
島風「ち、ちょっと、ノックくらいしてよぉ!」オロオロ
雪風「あわわ、ごめんなさいっ」ペコッ
雪風「大和さんの姿、どこかで見ませんでしたか?」
島風「……」ツーン
島風「大和なんて……知らないもん」プイッ
雪風「うぅ、そうですか……」シュン
島風「……っ」
島風(ふ、ふん!雪風なんて……)
島風(……はやく“トランペット”の練習に戻っちゃえばいいんだからっ)
雪風「あっ!それと!」
島風「……それと?」
雪風「今朝の合奏の、お礼がまだでした!」
島風「えっ、お礼?」
雪風「はい!雪風のトランペット、まだまだ下手だから……」
雪風「島風のチューバの音がないと、途中で混乱しちゃうところでした!」
島風「ふ、ふぅーん……」フイ
雪風「そういえば大和さんもきのう、言っていました!」
雪風「“いつも島風の伴奏が、とても正確に響くから”」
雪風「“自分やみんなが、安心して演奏できる”んだって!」
島風「……ほんとに?」
島風「……雪風も、そう思うの?」
雪風「はいっ!」ニコッ
雪風「なんだか、かっこいいですっ」
島風「……っ」
島風「そ、そっかぁ」クスッ
雪風「では!雪風はこれで……」
島風「……待って!」
島風「大和はさっき……埠頭に向かったよ」
雪風「ほんとですか!ありがとうございますっ!」ペコッ
タタタ…ッ
島風「…………」
島風「……たまには縁の下の力持ちも、悪くないかも」
島風「……ふふん、仕方ないなぁ~!」
島風「私より遅い皆に、合わせてあげるっ」ニコッ
島風「さてと、れんしゅうれんしゅーっと……」クルッ
ヴーーッ
ヴヴゥーーッ
……
…………
………………
タタタ…ッ
ドッシーン!
雪風「きゃっ」
雪風「いたた……掲示板にあたってしまいました……」
ピラッ ピラッ
雪風「あぁ、貼ってあった演奏会のチラシが……!」
雪風「……戻ったら、貼り直しますっ」
雪風「チラシさん、ごめんなさい!」ダッ
タタタ…ッ
清掃員「…………」ジーッ
清/級「ククク……ッ!」バサッ
ル級「ニンゲンノ姿ニ変装シ、敵本拠地ニ潜リ込ムコト早三日……」
ル級「遂ニ、奴ラノ重要機密文書ヲ手ニ入レタゾ!」
ル級「早速深海ニ戻リ、文書ノ解読ヲ行ウ……!」
ル級「サラバダー!」ダッ
……
…………
………………
ザザーン…
ザザーン…
大和「……」フルフル…
キュー…ッ
キィューー……ッ
カランッ!
大和「!」
カーンカーン…
大和「……はぁ……」
タタタ…ッ
雪風「大和さーん!」
大和「あら……」
雪風「よかったぁ!やっぱりここにいた……」ハァハァ
雪風「ヒトナナマルマルより、本日二度目の合奏だそうです!」
大和「ふふふ、ありがとう」ニコッ
大和「それを伝えるために、私を探してくれたの?」
大和「わざわざごめんなさいね……」
雪風「えへへ……」
大和「そっか、合奏……か」
雪風「……?」
大和「私ね……なんだか、さっきからおかしいの」
大和「今朝の合奏……私のソロ、覚えてる?」
雪風「はいっ!とてもお上手でした!」
大和「…………」ジーッ
雪風「……うぅ」
雪風「と、途中で、弓を落としちゃったん……ですよね」
大和「……うん」
大和「……変なこと言わせて、ごめんね」
大和「でも、なんでだろう……」
大和「こうして一人で、ソロを想定して練習するとね」
フルフル…
大和「……どうしても震えが止まらないの」
雪風「!」
大和「それも、演奏会が近づいてくるにつれて……段々ひどくなってくる」
大和「このままじゃ、またいつ同じミスをしてしまうか」
大和「情けない話だけど……不安で不安で、仕方がないの……」
大和「本番になって……もしソロで失敗してしまったら」
大和「みんなの頑張りが、私一人のせいで無駄になっちゃう……」
大和「そう考えると……なおさら……」シュン
雪風「……!」
大和「ごめんね、夕方には戻るから」
大和「それまで、一人にし……」
プペーッ!ピペーッ!
大和「!?」
雪風「大和さん、恥ずかしいですけど……これが雪風のトランペットです……」
雪風「いくら練習しても上手くならないから……」
雪風「雪風だけ、このまま本番を迎えちゃったら……どうしようかと思っていました」
雪風「……でもなんだか、安心しましたっ」ニコッ
大和「え……」
雪風「雪風より楽器が上手な人でも、こんなに“緊張”しちゃうんだって……」
雪風「……分かったから」
大和「雪風……」
雪風「……あ、そうだ!」
雪風「大和さん、よかったらですけど……」
雪風「お互い緊張している人どうしで、今から練習してみませんか?」
大和「え、私と貴女が?」
雪風「はいっ!」
雪風「……あっ!でも……だめですね」
雪風「大和さんは……一人で“そろ”の練習をしないと……」シュン
大和「いいわよ」ニコッ
雪風「!」
雪風「ほ、ほんとうですか!?」
大和「うんっ」
大和「トランペットも昔はよく吹いていたから、あなたに教えることもできるしね」
雪風「あ、ありがとうございますっ!」
雪風「じゃあ、雪風は……」
雪風「大和さんが演奏するとき、“せれぶなお客さん”役になりますね!」
大和「……ぷっ!何なの……その役っ」クスクス
雪風「コンサートホールにいそうなお客さんです!」
大和「あはははっ」ケラケラ
雪風「むぅ、笑うなんてひどいです!」
大和「あはは……ご、ごめんなさい、つい……!」
大和「……ふふ、それじゃあ始めよっか」クスッ
雪風「……はいっ!」ニコッ
こうして、一生懸命練習に励んだ彼女たち。
時は流れ、ついに演奏会の本番を迎えることとなりました……。
ここは地元の公民館の一角、コンサート用に設けられた中規模の舞台。
暗く、厳粛な空気と化したこの場所に、みんなの姿はありました。
燕尾服に身を包み、タクトを手に持った提督が指揮台に登ります。
その後ろの舞台では黒いドレスに身を包み、真剣な面持ちの艦娘たちが、各々の楽器を持って配置についていました。
やがて、彼が満員のお客さんに向かって一礼をすると、それに合わせてみんなも一礼を。
会場内は、期待を込めたお客さんたちの拍手が響きます。
その中には、演奏会を何かの機密と勘違いをしてやってきた、変装した深海棲艦の姿も。
当時こそ困惑していた彼女が後に、深海のお友達に演奏会で覚えた感動を語ることになるのは……また別のお話。
そして、お客さんによる拍手が収まったとき。
訪れる静寂。
緊張の一瞬。
でも、大丈夫。
山城のクラリネットには、ちゃんとマウスピースもついています。
おどおどしていた羽黒だって、もう迷いはありません。
指揮台の提督も、グラーフの指導をしっかりと思い出しているところ。
島風は合奏の土台として、みんなを支えることを心に決めました。
そして、頑張って練習を積んだ雪風と大和も……。
二人の目は、自信に満ち溢れていました。
雪風「……」ニコッ
大和「……」ニコ
……さぁさぁ。
今宵限りの演奏会が、これからはじまるみたいですよ。
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公式ツイッターアイコンの雪風にビビッときたので書きました。
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ここまで読んでくださった方、楽しく書かせていただきありがとうございました。
乙
おつおつ
乙ー
乙
乙!
民間人無しでもここまでいけるとは・・・
>>35
過去作、まだまだあったような・・・
40get!
このSSまとめへのコメント
おお、ファミチキの人だったのか!