自分の妄想が溜まったんで垂れ流していこうと思います。
よかったら楽しんでやってください。
それでは始めていきます。
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先輩「放課後の図書室で静かに本を読む姿……実にいい!」
後輩「そうですかねぇ……」
先輩「なんていうか清楚で物腰が柔らかそうでさ! 何より知的な感じが堪らん!!」
後輩「出た、先輩の妄想全開トーク。そんな女子高生なんてどこにいるんっすか。天然記念物みたいなもんでしょ」
先輩「髪型は勿論黒髪ロングストレート。メガネなんて掛けてたらなおいい!」
後輩「ああ、それで図書室に誰もいないことをいいことにBL本とか読んで発情しちゃうってわけですね」
先輩「馬鹿! そんな子が野郎が組んず解れつしてるの見て興奮するわけねーだろ! そういう子はな、純愛小説読んでんだよ、純愛小説!」
後輩「先輩、現実見てくださいよ。そういう女なんて大体が隠れて遊んでるか腐ってるかのどっちかなんですって」
先輩「……なんでお前はそんなこと言うの?」
後輩「暴走しがちな先輩を止めるのが後輩である僕の役目っすから」
先輩「はーあ……彼女欲しい」
sagaは名前欄じゃなくてメル欄!!
>>1 >>2 やべ、久々に投下するからsagaの位置間違えちゃった……気にしないでください。続けます。
――図書室――
男「あ、あの……」
図書委員「……」ペラッ
男「本を探してるんだけど、ちょっといいかな?」
図書委員「……」ペラッ
男「いやだから……本を……」
図書委員「……本ならそこにいっぱいあるでしょ」ペラッ
男「いやだからね……探している本がどこにあるかわからないから聞いてるんだけど……!!」
図書委員「今、いいところだから邪魔しないでくれる? うるさいと集中できないじゃない」ペラッ
男「ーー!! なんだよその態度! あんた図書委員だろ! 手伝ってくれたっていいじゃないか!」
バタンッ!!!
男「!!!」ビクッ
>>3 ご指摘ありがとうございます。すみません、久々だったもので笑
図書委員「何人たりともーー」
図書委員「私の読書の時間を奪うことは許さないわ」ギロッ
男「す、すみません……」
図書委員「分かったなら消えてちょうだい。図書室では静かにね」
男「なんだよあいつ……あれが図書委員の態度かよ」ブツブツ
図書委員「………」ペラッ
男「えーっとこれも違う……これもそうじゃない」ポイッポイッ
図書委員「ちょっと」
男「こっちも……そうじゃなかった気がする」ポイッ
図書委員「ちょっと!!」
男「うおあ!? な、なんだよ!?」
図書委員「本をそんな風に扱うなんてあんた、正気?」
男「そんな風にって……あ」
グチャァァァ……
男「わ、悪い……夢中になってて気がつかなかった」
図書委員「信じられない。本たちがかわいそう……」
男「も、元はと言えばお前が俺の質問に答えなかったからだろ!」
図書委員「そんなの関係ない。本達に謝って」
男「な、なんでそんなこと……」
図書委員「謝って!」
男「……すんませんっした」
図書委員「もっと誠心誠意謝りなさいよ。自分みたいなクズ人間が本様を無下に扱って申し訳ありませんでしたって額を地面に擦り付けながら謝りなさいよ」
男「ふざけんなよ! たかだか本のためになんで俺がそんなことを……」
図書委員「たかだか?」ギロッ
男「自分みたいなクズ人間が本様を無様に扱って申し訳ありませんでした」ドゲザッ
図書委員「よろしい」
男「ぐっ……」
図書委員「あと、無様じゃなくて無下にね。無様なのはあなたの方だから」
男「むぐっ!!」ムッカー
図書委員「それで?」
男「え?」
図書委員「本を探しているんでしょう? なんの本を探しているの?」
男「手伝ってくれるのか?」
図書委員「それ以外にあなたに声をかけようとは思わないわ」
男「お前本当に口が悪いな!」
図書委員「語彙力が高いと言ってくれるかしら?」
男「……ムカつく」
図書委員「さっさと探している本の名前を言いなさい。見つけてあげるから。それとその散らかした本を元の棚に戻すこと。いいわね」
男「お、おう……」
図書委員「どうしたの?」
男「やっぱり本の名前が分かってないとダメなのか?」
図書委員「名前も分からない本を読みたいの? ワイドショーに踊らされる主婦みたいね」
男「うるせぇな! いいだろ別に! 面白そうだったんだから!」
図書委員「図書室ではお静かに。常識よ?」
男「ーー!!!」ムカムカ
図書委員「まぁ、でも悪くは無いわね」
男「悪くない?」
図書委員「本との出会いなんて人それぞれだもの。そしてその一期一会を大切にする。それは本を読む上で正しい楽しみ方だと思うわ」
男「そ、そうかな……?」
図書委員「それじゃあ、どんな本なのか聞かせてもらいましょうか」
男「えっと……なんか全体的に青い?」
図書委員「それは本の装丁が?」
男「そうてい?」
図書委員「本の見た目ってことよ」
男「そんな感じだった気がする」
図書委員「なるほどなるほど……高校生が読む本でそれってことは……ちょっと待ってなさい。その間に本を片しておくのよ」
男「りょ、了解」
スタスタスタ……
男「あんなんでわかんのか……?」
図書委員「お待たせ。あなたが探しているのってこれじゃない?」スッ
男「……おお!! なんていうかそれっぽい!!」
図書委員「そう。借りていく?」
男「うんうん!! これ貸してくれ!!」
図書委員「カードは?」
男「へ?」
図書委員「貸し出しカード。作ってあるはずでしょう?」
男「ああ……よくわかんない」
図書委員「信じられないわね……あなた何組?」
男「えっと……4組」
図書委員「……そう。あった。見事に真っ白ね」
男「うるさいな。いいだろそんなこと!」
図書委員「図書室ではお静かに。何度も言わせないで」
男「自分だってさっき怒鳴ってたくせに」ボソッ
図書委員「私はいいのよ。ここが我が家みたいなものだし」
男「どういう理屈だよ……」
図書委員「はい。返却は2週間後ね。ちゃんと返しなさいよ」スッ
男「へいへい」
図書委員「返さないとうちの図書室警察があんたを拘束するわ」
男「怖ぇぇよ!!」
図書委員「図書室警察はあなたを執拗につけまわし、あなたを拘束して必ず貸出した本を回収するわ。あなたを殺してでもね」フッ
男「そんなに信用ないのか俺は!?」
図書委員「あとこれはとても重要なことなんだけど……」
男「なんだよ? まだなんかあるのか?」
図書委員「読み終わったら感想を聞かせて」
男「お、おう。わかった……それじゃあな」スタスタスタ
バタンッ
司書「下校の時間ですよ。そろそろ帰りましょうか」
図書委員「……先生。いつからそこにいたんです?」
司書「ふふっ、いいじゃない。そんなこと」
図書委員「心臓に悪いですよ……」
司書「それにしても驚いたわ。あなたが同級生とあんなに長く話しているなんて」
図書委員「別に……聞かれたことを答えただけです」
司書「そうなの」
図書委員「私ももう帰ります。それじゃ」
司書「気をつけてね?」
図書委員「はい。ありがとうございます」
男「……」パラッ
友「男ー!! 聞いてくれよー!! あいつひでぇんだよー!!」
男「……」パラッ
友「ちょっと俺が他の女の子とデートしたらよ、すげー勢いでキレてさ、俺のことビンタするんだぜ!」
男「ほー」パラッ
友「あなたとはもう付き合えないってさ! ひどいよな!?」
男「んー」パラッ
友「そりゃまぁ、その子とデートしたのは悪いことだと思うよ? 思うけどさ、なにもビンタすることねぇだろ!? な?」
男「そうだなー」ペラッ
友「世の中もうちょっとさー、性に対して大らかになった方がいいんだと思うんだよ!」
男「まったくその通りだー」ペラッ
友「少子高齢化が進むこの現代! 俺たちみたいな高校生まで奥手になったら人類滅ぶぞ!!」
男「そうだなー、滅ぶなー」ペラッ
友「人間ってのはもっと欲望に忠実であるべきだと思うんだよ! よって俺は悪くない。だろ!?」
男「んー」
友「なに読んでんだよ、人が世の中を憂い、悲しんでいる最中だってのに!」バッ
男「あ、馬鹿! 返せよ!!」
友「小説? お前、昨日までそんなのにまったく興味なんかなかったじゃん。急にどうしたんだ?」
男「いいだろ別にそんなこと! もうちょっとで読み終わるんだから返せよ!」
友「へぇ……そんなに面白いもんかねぇ、こんなのが」パラパラッ
男「だからさっさと返せって!!」バッ
友「おお……すごい執念」
男「まったく……」
演劇部「男君」
男「え!? 演劇部さん!? どどどどどうしたの!?」
演劇部「男君もその小説、読んでるの?」
男「あ、ああ!! なんていうかいいなって思ってつい……」
演劇部「もう全部読んだ?」
男「も、もうちょっとで読み終わる……かな?」
演劇部「そうなんだ! だったら絶対全部読んだ方がいいよ!! 絶対感動するから!!」
男「そ、そうなんだ……うん、わかった。絶対に読むよ」
演劇部「同じ本を読んでる人が身近にいるのってなんだか嬉しいんだよねー。男君は普段も本とか読むの?」
男「まぁ……ボチボチってところかな?」
演劇部「だったら好きな本について話そ!」
男「も、もちろん!」
演劇部「絶対だよ! あ、私そろそろ行かなきゃいけないから……じゃあね!」
タッタッタッタッタ
男「じゃあね……」フリフリ
友「……なるほどね」
男「……なにがだよ」
友「お前あの子好きだろ」
男「ばっ!! なに言ってんだよ!? そそそそんなわけねーだろ!!」
友「お前って本当に分かりやすいな。なるほどねー、演劇部ちゃんかー。お前、えげつないところ狙ったな」
男「だからそんなんじゃねーって」
友「演劇部ちゃんは倍率高いぞー。なにせこの学校の人気者。本当の意味でのヒロインってのはああいう子のことを言うんだよな。この間、サッカー部のイケメンが告白したって聞いた」
男「ま、マジで!? それでどうなったんだよ!?」
友「お前は本当に分かりやすいな……安心しろ。見事に玉砕だってさ。イケメンの奴、しばらく真っ白になってたって言ってたな」アハハ
男「そ、そうか……よかった」
友「しかし演劇部ちゃんか……いいな」
男「……やめろよ」
友「安心しろよ。友達の想い人を取るほど人間的に腐っちゃいねーよ」
男「二股する奴がよく言うよ」
友「あれは二股じゃねー。俺の愛は多くの人々に届けるべきなんだ」
男「とにかく! 演劇部さんだけは絶対にやめろよ! 絶対だぞ!!」
友「だーかーらー。そんなことしねーって。俺はあんな固い子より、もうちょっと軽い感じで付き合える子の方がいーの」
男「そ、そうなのか……」
友「男。俺は応援するぜ! お前の恋路!! そして俺に見せてくれ!」
男「友……ありがとう」
友「お前が無様に振られる姿をよ!!」ニカッ
男「フンッ!!」スパコーンッ
友「でぇぇ!! 本の角で叩く奴があるか!」
男「うるせぇ! お前なんか豆腐の角に頭ぶつけて死ね!!」
男「というわけでおすすめの本を紹介してくれ」
図書委員「どういうわけよ……?」
男「いやー、俺も読書に興味? ってやつが出てきちゃってよー。これを機にいろんな本を読んでみようかと思ってさ……ほら、借りてた本」スッ
図書委員「確かに……ん?」スッ
男「最初はよく分からなかったけどさ、それでも我慢して読み進めていくうちに続きが気になってよ、気がついたら朝になってたんだよ。いやー面白かった!」
図書委員「天誅!!」ブォッ
男「へ?」
スパァァァァァン!!!
男「痛ぇぇ!! いきなりハリセンでどつくとはどういうつもりだ!!」
図書委員「あなた……本を乱雑に扱ったわね?」ゴゴゴゴ
男「はぁ!? そんなことしてねぇって!!」
図書委員「嘘おっしゃい! この私の目が誤魔化せると思ってるの!?」
男「いやだから俺はそんなこと……あ」
男「うるせぇ! お前は豆腐の角に頭ぶつけて死ね!!」スパコォォォン
男「あー……」
図書委員「土下座しなさい。本に五体投地で謝りなさい」
男「で、でも1発だけだぜ?」
図書委員「御本様に失礼なことをしたこと申し訳ありませんでした。二度と御本様に逆らいません。産まれてきてすみませんでしたと言いなさい」
男「ま、またぁ!?」
図書委員「早く」
男「……御本様に失礼なことをしたこと申し訳ありませんでした。二度と御本様に逆らいません。産まれてきてすみませんでした」ドゲザッ
図書委員「わたしは卑しく醜い豚です」
男「わたしは卑しく醜いぶ……もういいだろ!」ガタッ
図書委員「しょうがないわね。それでどうだった?」
男「え?」
図書委員「感想よ感想。ちゃんと読んだんでしょ?」
男「あー……そのー」
図書委員「どうしたの?」
男「なんていうか最後がどうもすっきりしないというか……結局そうなっちゃったのかーって」
図書委員「そう」
男「あれ? なんも言わないのか?」
図書委員「どうして?」
男「いや、お前だったらこの本を評価するなんて100年早い! とか言いそうなもんだと思って……」
図書委員「あなたはわたしが人の感想にまでケチつける様な無粋な人間だと思うの?」
男「い、いや……」
図書委員「本との出会いは一期一会。その本に対してそれぞれがそれぞれなりの価値をその本に見出すものなの」
図書委員「感想なんて個人の自由よ。あなたはこの作品を読んでそう感じた。それはとっても素晴らしいことだと思うわ」フフッ
男「あ……」
図書委員「おすすめの本だったわよね。ちょっと待ってなさい」
男「お、おう……」
図書委員「次は……これなんてどうかしら?」
男「今度は黄色なんだな」
図書委員「そうね、偶々そうなっただけだけど」
男「とりあえず読んでみるよ。ありがとな」ニカッ
図書委員「気にすることなんてないわ。これがわたしの仕事だもの」
男「帰って早速読んでみるとするよ! またな!!」
ガチャッ!! バタンッ
図書委員「あ……貸し出しカード……しょうがない。わたしが書くしかないか」カキカキ
司書「あら随分と上機嫌ね、図書委員さん?」
図書委員「先生……気配を消して近づかないでもらえますか? 心臓に悪いので」
司書「ああ、この間の男君ね。また来たんだ」
図書委員「どうやら読書に興味を持ってくれたみたいでよかったです」
司書「最近の子は読書に興味無い子が増えちゃったからね、先生も嬉しいわ」
図書委員「そうですね、わたしも嬉しいです」
司書「でも気になるわね。どうして急に興味なんて持ったのかしら?」
図書委員「彼が言うにはこの本を見てビビッときたみたいですけど?」
司書「……なるほど。恋ね!」
図書委員「恋?」
司書「いいわー、青春だわー。先生もそんな甘酸っぱい恋、もう一度してみたい!」
図書委員「どうでしょう? そんなことないと思うんですけど。それにそんな動機、不純です」
司書「あらー、それも立派なきっかけよ。好きなあの子が読んでいる本を読んでみたい。その子が持っている世界を共有してみたい! ね?」
図書委員「はぁ……」
司書「うふふ……いいわぁ、若いっていいわぁ」
図書委員「お疲れ様でした」
バタンッ
司書「あら、ちょっと……怒っちゃったかな?」
友「おっすー、今日も元気かー男ー!」
男「お、おう……」ゲッソリ
友「どうしたんだその顔?」
男「いやー、昨日も本が面白くて止まらなくてさ……徹夜した」
友「体壊してまで読むもんじゃないだろ……」
男「でも面白いんだよー」ブンブン
演劇部「なに読んだの?」
男「あー、これ」
演劇部「あーそれ! すごいいいよね!! 特にラストが!」
男「そうなんだよ……完膚なきまでのハッピーエンドでさ、すごくよかった!」
演劇部「いい意味で予想を裏切ってくれる感じでね、いいよねー」
男「うん! 読んでてよかったーって思った!」
演劇部「へぇ……やっぱり男君とは話が合うね!」
男「本当だねー……」ボーッ
演劇部「じゃ、授業始まるから……またね!」
男「またねー」ボーッ
友「……お前、今普通に演劇部ちゃんと話してたけどいつの間に仲良くなったんだ?」
男「え?」ボーッ
友「まぁ、いいや」アハハ
男「面白かった!!」
図書委員「……そう」
男「いやー、まさか主人公の正体があんなだったなんて……最終章になるまで全然気づかなかった!」
図書委員「この本はあなたの好きそうなハッピーエンドだと思ったからね。喜んでもらってなによりよ」
男「なんかもっと色んな本を読んでみたいと思いました!」
図書委員「そういうと思って今回はこれを用意したわ!!」ババンッ
男「おおっ!!」
図書委員「せっかくだと思ってね、次は赤と緑の本よ」
男「本当にそんな本があるんだなー」
図書委員「世の中には色々な本があるってことよ」
男「なるほどなるほど。これって上下巻?」
図書委員「そう。2つでワンセットってこと」
男「面白いの?」
図書委員「賛否両論」
男「面白くないのか?」
図書委員「だから賛否両論なのよ。読んでからのお楽しみ。間違いなく名作ではあるから一見の価値はあるはずよ」
男「なるほどねー。じゃあ、マスター。それを貸してくれ」
図書委員「誰がマスターよ誰が」
男「そんじゃよろしく!」
図書委員「待ちなさい」ガシッ
男「グエッ!! な、なんだよ!?」
図書委員「貸し出しカード。書いていきなさい。決まりなんだから」
男「そ、そうだった……わりぃ」
図書委員「はい、これ。あなたのカード」
男「お、おお」カキカキ
図書委員「本来だったらここを使う人全員が自分で書かなきゃいかないのよ?
男「全員?」
図書委員「そう、全員」
男「そっか……」
図書委員「………」
男「あ、あのさ……」
図書委員「他の人のカードは見せないわよ。個人情報だから」
男「でぇぇ!? な、ななななんのことだ?」ガタガタガタ
図書委員「そう……やっぱりそういうことだったのね」ジトッ
男「いや、なんの話かな?」
図書委員「好きなあの子と同じ世界を共有したい」
男「どぇぇぇぇ!!??」
図書委員「まぁ、いいわ。理由なんて人それぞれだし……不純ではあるけど」ボソッ
男「べ、別にいいだろ」
図書委員「……不純ではあるけど」
男「二回も言うな!」
図書委員「いつも通り読み終わったらちゃんと感想聞かせなさいよ」
男「なぁ、それって必要か?」
図書委員「必要よ。本ってのは読む人が変わるだけで様々な視点で見ることができるのよ。そしてその視点ってのは共有してみたいじゃない」
男「そんなもんかねぇ……」
図書委員「ちなみにわたしはこっちの本に関してはハッピーエンドとは言えないと思うわ」
男「そうか? 完全無欠のハッピーエンドだったろ」
図書委員「確かに主人公は救われたかもしれないけどまだまだ主人公の周りは完全に救われたわけではないでしょう? この話は他の人の罪を主人公が許したことで救われた……でもその罪はやっぱり許されるものじゃない。そんなごちゃごちゃの世界で生きていくことは果たして本当に主人公にとっていいことなのか……私はそんな風に感じたわ」
男「なるほど……そういう見方もあるのか」
図書委員「どう? 面白いでしょう? だからわたしは聞くのよ。本の感想をね」
男「分かった。そういうことならやってみる。楽しみにしてろよ」
図書委員「ええ、楽しみにしてる」フフッ
男「おお……」
図書委員「な、なによ?」
男「お前、そんな感じで笑えるんだな」
図書委員「え……」
男「ほら、お前が笑う時ってなんていうかサディスティックっていうかドSというか……魔王みたいな笑い方してるから意外で……」
図書委員「それどういう意味よ!!」
男「あはは! そっちの方がなんか好きだぞ」
図書委員「なっ!?」
男「んじゃ、またな!」
図書委員「ちょっと!! ……もう」
図書委員「……ふふっ」
司書「いい笑顔じゃない」
図書委員「!!!???」ガタガタガタ
司書「あらあら……大丈夫?」
図書委員「さ、三度目ですよ……いい加減にしてください」
司書「ごめんなさい……でもなんだか嬉しくて。あなたもそんな顔するんだなぁって」
図書委員「別に。わたしだって人間です。笑うことくらいしますよ」
司書「そうかしら? 最初の頃は人間っていうよりロボットに見えたんだけど」
図書委員「それは……」
司書「でもこれで安心ね。あなたには友達ができたんだもの」
図書委員「友達……冗談よしてください。わたしはあいつに本を勧めているだけ。図書委員として当然のことをしたまでです……失礼します」
司書「あらあら……うふふ」
――――
男「……上下巻は……あかん……」ビクッビクッ
友「なにも1日で全部読む必要ないだろ」ハァ
男「続きが気になるんだよ~」
友「そんなに面白いのかこれ?」
男「いや、俺にはオシャレすぎて何が何だかさっぱりわからなかった」
友「よく読み切ったな……」
男「なんていうかずっとモヤモヤしてるし頭もボーッとするし……ううう」ガンッ
友「おいおい大丈夫か?」
男「……ちょっと寝かせてくれ」
友「お、おう……」
演劇部「あのー男君。なんか凄い音したけど大丈夫? 」
男「お、演劇部さん!!」ガバッ
演劇部「きゃっ!?」
友「起きんの早っ!?」
演劇部「だ、大丈夫? 男君」
友「あ、演劇部ちゃん。気にしないで、いつも通り馬鹿なだけだから」
演劇部「そうなの?」
男「お前は余計なこと言うなよ」ゲシッ
友「本当のこと言っただけだろ!! これで何徹目だ!!」
演劇部「もしかして今日も本読んでて?」
男「あ、ああ……そうなんだよ。でもちょっと俺にはこれは難し……」スッ
演劇部「え!? 嘘!? それ読んでたの!? 私、その本大好きなんだ! なんていうか純愛で……凄いいいよね!!」
男「あ、ああ!! そうだよな!! なんていうか純愛でそんな感じなんだ!」
友「おい、お前さっき……」
男「黙れ。余計なことを喋るな。俺も友を殺したくはない」
友「怖えよ!」
演劇部「嬉しいなぁ。この本のことが好きな人に巡り会えるなんて! 本当に嬉しい!!」
男「あ、あはは……」
演劇部「じゃあ、この人の別の作品も読んだ?」
男「え? ああ……当然じゃないか!! 全部読んだよ!!」
友「ああ……嘘が嘘を呼んでいる」
男「フンッ!!」
友「おまっ……す、脛はだめだろ……」プルプル
演劇部「そうなんだ! やっぱりいいよね!! あの人の作品!!」
男「ああ!! なんていうか文章が直接心にくるっていうか……」
演劇部「そうだよね! 例えばあの人の作品のこの文章が……」
キーンコーンカーンコーン……
演劇部「あ、もう授業始まっちゃう……そうだ! 男君、今度の日曜日って空いてる?」
男「あ、空いてるけど……」
演劇部「じゃあ、その時に話さない? 本について話せる人ってそういなくてさ……よかったらなんだけど……」
男「も、もちろん! 空いてるよ!」
演劇部「じゃあ、駅前に10時でどうかな?」
男「う、うん! 絶対に行く!!」
演劇部「じゃあ、決まり! 楽しみにしてるね!」
男「ああ、俺も楽しみだよ!!」
演劇部「じゃあね!」
男「じゃ、じゃあ……」
友「まぁ、とりあえずはよかったんじゃないか?」
男「………」プルプルプル
友「お、男?」
男「よしゃぁぁぁぁぁ!!!」ガッツ
友「おお、見事なガッツポーズ」
男「でもどうしよぉぉぉぉ!!!」
友「……まぁ、そうなるよな」ハハッ
――図書室――
男「お願いします。そういうことですからこの人の本、全部貸してください……」ドゲザッ
図書委員「馬鹿じゃないの?」
男「おっしゃる通りでございます……」
図書委員「言っておくけどこの人の作品、結構あるわよ? ついでに熱狂的なファンも多い」
男「へぇ……」
図書委員「演劇部さんも多分その熱狂的なファンの1人でしょうね。適当なこと言ったら嘘ついてるって1発でバレるわよ?」
男「そ、それはまずい!!」
図書委員「まずいもなにもどうしようもないじゃない。今日は金曜日。次の日曜までに全部読み切るのは流石に無理よ」
男「……因みに図書委員さんはこの方の本はどれ位?」
図書委員「一応大体は網羅してるつもりだけど」
男「頼む! 俺に協力してくれ!」
図書委員「嫌」
男「そ、そこをなんとか頼む!!頼むよ!! 演劇部さんとなんとか話が合うように協力して!!」
図書委員「そんなことしないで正直に言えばいいじゃない。『あの時のことは全部嘘です。これしか読んだことがありません』って」
男「いやでもさ……それってカッコ悪くない?」
図書委員「私だったら幻滅するわね。もっともあなたに対して理想なんてこれっぽっちも抱いてないけど」
男「もうちょっと……こうさ、オブラートに包んだ言い方できないのかよ?」
図書委員「あら……いくらなにかで包み隠しても本質は変わらないでしょ? 嘘の中身を嘘で覆い隠してどうするの? あなたが嘘つきであることには変わらないというのに」
男「ぬぐっ……!!」
図書委員「さぁ、この話はもうお終い。本の続きが読みたいの。用がないなら私の前から消えてくれない?」
男「……いんだよ」
図書委員「え?」
男「俺は!! 演劇部さんの前でカッコつけたいんだよ!!!」
図書委員「はぁ?」
男「演劇部さんと同じでああいうオシャレな本がオシャレな感じに読めてその感想をオシャレに語り合えるオシャレな男とおもわれて『カッコイイ! 大好きっ!!』って言われたいんだよ!!」
図書委員「なによ、そのチンパンジーの進化前みたいな表現の仕方」
男「協力してくれ。俺をオシャレ男に仕立て上げてくれよ!」
図書委員「冗談じゃないわ。なんで私があんたの嘘付き合わなきゃいけないのよ。前にも言ったけど本の感想はその人だけのものなのよ。それを誤魔化そうなんて私にはできない。本に対する冒涜よ。」
男「頼むよー!! 助けてよー!! 友達の恋を助けてくれよー!!」
図書委員「恋ってあんたねぇ……」
「なんていうかキャラの恋愛描写ってのをもうちょっとなんとかできないかな?」
「読者もそういうの求めてると思うんだけどねぇ……」
「恋だよ恋! 読者ってのはそういう純愛ってものを求めてるんだよ!」
「やっぱりダメだったか」
「駄作だよ、駄作! こんなもの読む価値なんて無いよ!」
図書委員「ッ!!」ズキッ
男「ん? どうかしたのか?」
図書委員「……なんでもないわ」
男「くっそ……頼みの綱だったんだけどなぁ……どうするか……こうなったらAm◯zonのレビューを片っ端から暗記して……」
図書委員「待ちなさい」
男「な、なんだよ?」
図書委員「ネットのレビューを参考にしてもボロが出るだけ。待っているのは悲惨な結末よ。あなた好みのハッピーエンドじゃない」
男「うるさいな! それでも俺はやらなきゃいけないんだよ!」
図書委員「図書室ではお静かに。何度言わせる気? 」
男「あう……」
図書委員「しょうがないわね……付き合ってあげるわよ」
男「本当か!?」
図書委員「ただし、条件があるわ」
男「おう! 俺にできることならなんでも言ってくれよ!」
図書委員「明日1日、私に付き合いなさい」
男「おう?」
図書委員「これでも私は完璧主義なの。やるからには徹底的によ。あなたの言うそのオシャレ男? って奴にしてあげるわ。そのための作戦会議ってやつよ」
男「お、おぉ……すげー」
図書委員「明日、駅前に10時でいいわね?」
男「オッケー! そんじゃな!!」
図書委員「だから待ちなさい」ガシッ
男「ふんげっ!!」ズデーン
図書委員「あ、ごめんなさい」
男「な……なんだよ……!!」イテテ
図書委員「今日も聞かせてもらえる? 本の感想を」
男「本の感想、ああ……」
図書委員「別に私の前では無理してオシャレ男になる必要ないわよ。正直に感想言いなさい」
男「俺にはオシャレ過ぎてなにがなんだかわからなかった。正直、面白いのか面白くないのかさえ判断できなかった」
図書委員「だと思った」フフッ
男「なんか馬鹿にされた気分なんだけど」
図書委員「安心して。あなたと同じ感想を持つ人はいっぱいいるから」
男「そうなのかぁ、よかったぁ……俺だけじゃなかったぁ……じゃ、明日10時な!」
図書委員「ええ……それじゃあね」
司書「あらあら……デートの約束?」
図書委員「もう流石に驚きませんよ……それにそんなんじゃありません」
司書「でも男君と遊びに行くんでしょ?」」
図書委員「遊びじゃないですよ。作戦会議です。それに彼には好きな人がいるそうですし」
司書「恋愛相談から始まる恋なんて王道中の王道じゃない! いいわぁー。青春だわー!」ウフフ
図書委員「もう! からかうのもいい加減にしてください!!」
司書「図書室ではお静かに……でしょ?」
図書委員「ぐぬぬ……」
司書「……随分と色々な表情を見せるようになってきたわね。安心したわ」
図書委員「そんなこと……ありません。それにこんなの私らしくないです」
司書「そう? 私は今のあなた、とても素敵だと思うわよ?」
図書委員「そうでしょうか?」
司書「そうよ! 私が男性だったら放っておかないわ!」
図書委員「そんな……そんなわけありません!」
司書「明日はいっぱいおめかししてかないとね! 頑張って! デート!!」
図書委員「だからデートじゃないって……もう!!」
司書「……そろそろまた始めてみたら?」
図書委員「すみません。何度も言ったように私はもうそっち側に立つことはありませんから」
司書「勿体無いわねぇ……」
図書委員「もう……決めたことです」
司書「まぁその話は置いておいて、明日のデート、どんな服装で行くの?」
図書委員「だから違いますって!!」
ーー翌日 駅前ーー
図書委員「………」ソワソワ
図書委員「……電車、遅れてるのかな?」ソワソワ
男「よっ! 随分と早いな!」
図書委員「……10点減点」
男「え!? なにが!?」
図書委員「待ち合わせに遅れるなんて頭おかしいんじゃないの? あなた、明日もそんなことするつもりじゃないでしょうね?」
男「で、でもたかだか2分くらい遅れただけだぜ? そんな風に怒らなくても……」
図書委員「そういうだらしない男性はオシャレ男じゃないと思うけど?」
男「以後気をつけます!」ビシッ
図書委員「よろしい。それじゃあ行きましょう。作戦会議よ。そこの喫茶店でいいわね?」
男「………」
図書委員「どうしたの?」
男「いや、私服も可愛いなーって」
図書委員「はぁ!?」
男「いつものサディスティックさが見事なまでに抜けてる」
バチィィィィン!!!
図書委員「誰がサディスティックよ!!」
男「それ、人をぶっ叩いてから言うセリフか……?」ヒリヒリ
図書委員「馬鹿なこと言ってないでさっさと行くわよ!!」
男「りょーうかい……」
――喫茶「くろねこ」――
ウェイトレス「ご注文はおきまりでしょうか?」
図書委員「コーヒーで」
男「え、えっと俺はココア」
ウェイトレス「かしこまりましたー! 少々お待ちください!」
図書委員「……」クスッ
男「な、なんだよ?」
図書委員「いや、なんかイメージと違ってて面白くて……」プルプル
男「しょうがないだろ。苦いの苦手なんだから」
図書委員「案外お子ちゃまなのね」
男「なっ! じゃあ、お前は大人だって言うのか?」
図書委員「少なくともあなたよりは大人でしょうね」
男「やっぱりそういうのも見られたりするのかな?」
図書委員「さぁ? 意外に可愛いとこあるって思われるんじゃない?」
男「可愛いじゃダメだろ可愛いじゃ……」
図書委員「そんなことよりも……本題に入りましょう」
男「おう、そうだな」
図書委員「まずはこれを見てもらえるかしら」スッ
男「これは?」
図書委員「演劇部さんが好きっていう作者の作品リスト」
男「こ、こんなにあるの……?」
図書委員「短編小説を含めたらきりがないわ。正直、これを明日までに読み切り、その上でファンを納得させるような感想を述べるなんて到底無理な話よ」
男「えぇ……じゃあどうすりゃいいんだよ……」ズーン
図書委員「そこでこれよ」スッ
男「これは……イヤホン?」
図書委員「ワイヤレスの小型イヤホンよ。あなた髪も長めだし、注意して見ない限りは気づかれることはないわ」
男「これをどうするんだ?」
図書委員「あなたと演劇部さんの会話を聞きながら私が指示を出す」
男「マジで!? そんなことまでしてくれんのか!?」
図書委員「あなたは私が言った通りに演劇部さんと会話すればいい。簡単でしょ?」
男「こ、これならなんとかなるかもしれない……でもいいのかお前にそこまでしてもらっちゃって」
図書委員「乗り掛かった船だもの。これ以上の解決策が思い浮かぶっていうなら話は別だけど」
男「いや、思い浮かばないけどさ……なんていうか悪いな」ヘヘッ
図書委員「気にしないで。それよりも演劇部さんのことを聞かせてくれない? なにかのヒントになるかもしれないから。例えばどこが好きかだとか」
男「ええ!? なんていうか恥ずかしいな……」
図書委員「人が人を好きになるなんて当然のことなのになんで今更恥ずかしがる必要があるの?」
男「いやだってさ……」
図書委員「恋愛なんて人という種類がこの世に現れてきてからずっと繰り返されてきたことよ? 恥ずかしがるなんておかしいわ」
男「なんだろうその正論のような暴論……」
図書委員「いいから言いなさいよ。さっさと言いなさい」
男「わかったよ、演劇部さんはな……」
ウェイトレス「お待たせいたしましたー! コーヒーとココアでーす!」
男「あ、どうも……」
図書委員「ありがとうございます」
ウェイトレス「ごゆっくりどうぞー」
ウェイトレス「………」
男「あ、あのなにしてるんです?」
ウェイトレス「いや、私も恋話の続きを聞こうかなーなんて」アハハ
男「戻ってください!!!」
ウェイトレス「失礼しましたー!」ピュー
図書委員「邪魔が入ったわね」
男「……そうだな」
図書委員「それで? どこが好きなの?」
男「まぁまぁ、その話はいいからコーヒー飲めよ。せっかく淹れてくれたのに冷めちゃ悪いだろ?」
図書委員「そうね。でも絶対に聞き出すから」キリッ
男「なんの意気込みだよ……うん、美味しい」ズズッ
図書委員「それじゃあ私もお砂糖を……」ピタッ
男「どうした?」
図書委員「……お砂糖を入れるわけでもなくブラックで飲むことにするわ」
男「お、おう……」
図書委員「私は、ミルクもお砂糖も入れないでブラックで飲むことにするわ」
男「なんで2回言うんだよ」
図書委員「ブラックで飲むことにするわ!」
男「分かったからさっさと飲めよ」
図書委員「……えい」グビッ
男「あー、ココア甘くて美味しい……」ホゥ
男「コーヒーなんて飲めなくても人間は大人になれるってもん……ってえええええ!!??」
図書委員「………」ポロポロ
男「どうした!? なんで泣いてるんだ!?」
図書委員「……苦い」
男「え?」
図書委員「……コーヒーが苦い」ポロポロ
男「さ、砂糖入れたら?」
図書委員「入れない。大人の女だから」ポロポロ
男「そんな泣きながら言われても説得力が無いんだけど」
図書委員「嫌よ。絶対に入れない」グスッ
男「そういうのいいから無理すんなって! というかもう泣くのやめてくれる!? 周りから変な目で見られるから!」
ウェイトレス「痴話喧嘩ですか!? そうなんですか!?」
男「違うから! そんなんじゃないから!!」
図書委員「……苦い」ポロポロ
――駅前――
図書委員「……見苦しいところを見せたわね」
男「結局、泣きながら最後まで飲みやがって……一緒にいる俺の身にもなってくれよ」
図書委員「自分でもなんであんなことしたのかわからないわ。不思議ね」
男「結局、あの後ウェイトレスが頻繁にこっちに来るから作戦会議どころじゃなかった……」
図書委員「まぁいいでしょう。明日はぶっつけ本番ってことで」
男「……改めて聞くけどさ、どうして俺にそこまでしてくれるんだ?」
図書委員「知りたいからよ」
男「なにを?」
図書委員「恋する人の気持ちってやつを」
男「え?」
中途半端なDQNって感じ
図書委員「あなたにはさっき当たり前のことって言ったけどね、私はそういう感情がイマイチ理解できないの。人が人を好きになる時に感じる胸の高鳴りとかそういった類のものが」
男「なんだそれ?」
図書委員「だからこそ興味がある。そんな時にあなたが現れた。これは都合がいいって思ったのよ」
男「なんだよその理由……なんか特別な理由でもあるかと思ったのに」
図書委員「と、特別な理由!?」
男「いや、そこまでしてくれるからさ……よっぽどの理由でもあるのかと思ったんだけど」
図書委員「別にあなたじゃなくてチンパンジーでもよかったの。とにかく発情した実験体みたいなのが必要でそれでそれで……」ワタワタ
男「やめて。それ以上言われるとへこむ……」
図書委員「とにかく! 私はあなたに個人的な感情なんて抱いてないんだから勘違いしないこと!」ズイズイ
男「わ、わかった! わかったから近い近い!」
図書委員「ち、ちかっ!?」ドキッ
図書委員「きゃぁぁぁ!!」
パチィィィィン!!!
男「……俺がなにしたっていうんだ」ヒリヒリ
図書委員「ご、ごめんなさい……!! おかしいわ。どうしてかしら? あなたと一緒にいると変な行動をとってしまう……」
男「と、とにかく明日はよろしく……」
図書委員「よ、よろしく」
――翌日 駅前――
男「そろそろか……頑張れ俺! 俺はオシャレ男になるんだ……!!」
演劇部「男くーん!」
男「あ、演劇部さん」
演劇部「ごめんね、待った?」
男「ううん! い、今来た所だよ!!」
演劇部「ふふっ……」
男「演劇部さん?」
演劇部「なんか今のやり取りドラマみたいで面白いなーって」
男「なんだ、そんなことか。いきなり笑い出すから何事かと思ったよ」
演劇部「ごめんごめん。それじゃあ行こうか」
男「そうだね。とりあえずお店でも探しながら歩く?」
演劇部「いいね、それで決定!」
スタスタスタ……
図書委員「どうやら出だしは好調の様ね。後は私がこれで彼に指示を……」
ガサガサ……
友「思った通りだあのバカ。本当にデートというものが分かってねぇな。目的地もちゃんと決めとかないでどうするよ……しょうがない、この俺がメールであいつに指示を……」
図書委員「問題無いわ。この後決められた場所に彼女を誘導し、そこで作戦を開始する手筈になっているの。全ては私のシナリオ通りよ」
友「作戦ってどういうことだ?」
図書委員「決まってるじゃない。彼と彼女をくっつける作戦……って」
図書委員「え?」
友「え?」
――喫茶「くろねこ」――
図書委員「という訳よ」
友「なるほどねぇ、男が急に本を読みだしたのはそういう理由か」
図書委員「そうよ。まぁ、本を愛する私から見れば不純な動機とは言えなくもないけどそれでも本を好きになってくれる人が増えるのは喜ばしいことだもの」
友「あいつ、毎日徹夜してまで読んでるみたいだぜ? 『続きが気になって仕方ない』ってさ」
図書委員「そうさせるのが本の持つ魔力ってやつなのよ。一度読み始めたら最後。読み終わるまで掴んで離さない」
友「怖えな……麻薬かなんかかよ」
図書委員「あら、これほど健康的な薬も無いんじゃない? 使った後は知識も教養も身につくかどうかわからないけど少なくとも無駄にはならない。副作用としては目が悪くなることくらいかしら」
友「まぁ、言えてるな。それで作戦ってどうするんだ?」
図書委員「彼の携帯電話から演劇部さんとの会話を聞き、そして私が彼に会話の指示を出す。彼は私のシナリオ通りに動けばそれで万事解決」
友「そんなんで上手くいくのなねぇ?」
図書委員「そんなの知ったこっちゃないわ。私は力を貸すとは言ったけど成功を約束するとは言ってないもの」
友「なぁ……気になったことが2つほどあるんだけどいいか?」
図書委員「手短にね。二人が来る前に」
友「オーケー。じゃあ、まず1つ目。どうして君がそんなことまでするんだ?」
図書委員「彼にも同じことを聞かれたわ。それってそんなに不思議なこと?」
友「ああ、出会ったばかりの人間の恋路を応援しようなんてよっぽどのお人好しかそれとも……」
図書委員「それとも?」
友「なにか裏があるか」キッ
図書委員「………」
友「俺が言うのも真実味にかけるかしれないがあいつはいい奴だ。掛け値なしのいい奴だ。そんな奴が可哀想な目にあうのは友達として放っておけない」
図書委員「私はお人好しなんかじゃないわ。そして今回のこれも私なりに打算があってのことよ」
友「それってどんなこと?」
図書委員「あなたにも聞きましょうかね……ねぇ、恋愛ってどんなものなのかしら?」
友「はい?」
図書委員「小さい頃から色々な本を読んできたわ。それこそ台所に潜むゴキブリみたいに食べられるものだったらなんでも食べてきた」
友「雑食ってだけで随分とおどろおどろしい表現するのな」
図書委員「単なる言葉遊びよ。そこになんの意味もないわ」
友「続けて」
図書委員「いろんな本を読んでみたけどね……いまいちこの恋愛感情ってものだけが理解できないのよ」
友「理解できない?」
図書委員「誰かことを見て胸が高鳴ったり、その人のことを考えるだけでキュンと切なくなる。食事も喉を通らなくなるし、考えることはいつもあの人のことだけ。こんな思いする位ならいっそ消えてしまいたい……なんて色々と恋を表現する方法はあるけども私はそれに対してなんら心を動かされることは無いの」
友「それで演劇部さんに恋する男に興味を持ったと」
図書委員「ええ。だって今の彼、どっからどう見ても恋をしているでしょう? 彼の心境を知れば恋を理解できるかもしれない」
友「そんな複雑なことなのかねぇ……」
図書委員「複雑なんてことは無いはずなのよ。人間はそれをずっと繰り返してきたわけなのだから。ただ私が他の人間よりも欠陥があるってだけ」
友「そういう言い方は気に入らないな。それに、恋を知る方法ならそんな回りくどいことをしなくてもいい」
図書委員「なにか他に方法があるの?」
友「そんなの単純。俺と付き合ってみればいいんだよ」
図書委員「え?」
友「君ってすごいかわいいし、そういうことが知りたいならどうかなーって。ダメ?」
図書委員「見た目はただの記号でしか無いわ。あなたは地図記号に欲情するの?」
友「欲情してもいいかもね、君と付き合えるのなら」
図書委員「思うに、あなたは誰でもそういう態度を取り続けてきたんじゃない?」
友「まぁ、そう言われることも……多々あるかな」
図書委員「遠慮しておくわ。あなたは恋を教えてくれるわけじゃなさそうだもの」
友「ありゃりゃ……振られちゃったか。じゃあ、そういったところでもう1つ質問いいかな?」
図書委員「構わないわ」
友「君は何者だ?」
図書委員「……あなたと同じ高校に通う女子高生よ」
友「いーや、そんなはずはない。俺はこれでも学校一のモテ野郎で通っているんでね。かわいい子の情報には事欠かない。それにこんな可愛い子ならちゃんと瞼に焼き付いているはずだ」
図書委員「思ったんだけど『瞼に焼きつく』と『瞼の裏に焼きつく』は表現的にどっちが正しいのかしら? 個人的には裏に焼きついた方が瞳で記憶している感があって好きなのだけど」
友「そういう誤魔化し方するかね……」
カランカラン……
図書委員「……2人が来たわ。作戦行動に移りましょう」
友「分かった分かった……」
ウェイトレス「ご注文お決まりでしょうかー!」
演劇部「私、ミルクティーにしようかな? 男君は?」
男「俺はココアにしようかな。美味しいし」
演劇部「あれ? 男君って前にここに来たことあるの?」
男「え? あ、いやそれは……」
ウェイトレス「昨日、来てくれましたよね!」
男「いや、あの……覚えてたんですか?」
ウェイトレス「はいー。なんか一緒に来てた子が泣いちゃって大騒ぎでしたから!」
演劇部「なーに? 彼女?」ニヤニヤ
男「そんなんじゃないって! 友達だよ、ただの友達! ウェイトレスさんも余計なこと言わないでくださいよ!」
ウェイトレス「うふふ……失礼しましたー」
演劇部「とりあえず、ミルクティーとココアでよろしくお願いします」
ウェイトレス「はい。かしこまりましたー」
男「まったくもう……」
演劇部「あのウェイトレスさん、面白い人だね」
男「人の恋話盗み聞きするような変人さんだよ……」
演劇部「え!? 男君、好きな人いるの!?」ズイッ
男「え!? あ、いやその……」
演劇部「誰誰? 私の知ってる人?」
男(演劇部さんですなんて言えない……!!)
男「そんなことよりもさ、ほら、本の話しようよ。そのために来たんだし」
演劇部「ぶー。教えてくれたっていいのに」
男「あはは……」
演劇部「でも意外だったなぁ……」
男「なにが?」
演劇部「男君があんなに読書が好きだったなんて」
男「そうかな?」
演劇部「ほら、高校生なんてさあんまり本とか読まないと思うんだよね。部活とか遊びとか勉強とか、他にもやらなきゃいけないことがいっぱいって感じで」
男「あー、なんとなくわかる気がする」
演劇部「周りの友達とかも本のことに関してはあんまり興味ないみたいでさ。話が合わないってこともあるんだよ。みんないい子だけどね」
男「演劇部さんは前から読書が趣味なの?」
演劇部「趣味っていうか勉強って感じかな?」
男「勉強?」
演劇部「私ってほら演劇部じゃない?」
男「うん。みんなこの学校のヒロインって呼んでるよ」
演劇部「なにその恥ずかしいあだ名……みんなそんなこと言ってるの?」
男「学校内じゃ有名な話だけど……」
演劇部「きっとあいつらのせいね。今度とっちめてやろうかしら」フンスッ
男「まぁまぁ……」
演劇部「昔から誰かになりきるのとか、別の世界の中で生きるのが大好きだったの。だってその時だけは自分っていうものを忘れられるから。だから読書も大好きなんだよ」ニコッ
男「演劇部さん……」
演劇部「だからこんな身近に同じ趣味の人がいてくれて私、すっごく嬉しいの。ありがとね、男君!」
男「いや、そんなー」ヘヘッ
『男君。聞こえてる? 聞こえたらテーブルを指で軽く二回叩いて』
男「!!!」
演劇部「ん? どうかしら?」
男「あ、いやどうもしてないよ!」コンコン
『どうやら聞こえてるみたいね。これからあなたと演劇部さんの会話を聞いて私が指示を出すわ。あなたはその通りに答えればいい。いいわね?』
『サインを決めましょう。さっきの要領でYesなら机を二回。Noなら机を三回叩くこと。いいわね?』
男「ああ、分かった」
演劇部「え? なにが分かったの?」
男「あ、いやなんでもない!!」コンコン
『あなた馬鹿じゃないの?』
男「……!!」コンコンコン
演劇部「男君はあの人の作品の中でどれが1番好きなの?」
男「え? えっと……」
『この間読んでいたのかな?』
男「この間読んでいたのかな?」
演劇部「あ、やっぱりそうなんだ! 私もあれが1番好き」
『作者が描きたかった男と女の心情がなんていうか生々し表現されているっていうのかな……心に響くものがあるよね』
男「さ、作者が描きたかった男と演劇部の心情? がなんていうか生々し表現されているっていうのかな……心に響くものがある……よね!!』
演劇部「おお、語るねー」
男「いや、それほどでも……」
演劇部「私はね、そういう文章の美しさとかそういうんじゃなくてもっとこう……こんな恋愛したいなっていう単純な願望なんだけど……なんていうか恥ずかしいね、これ」
男「そんなことないよ! そういう見方も全然ありだと思う!」
演劇部「自分が壊れるくらい誰かを愛するってどんな気持ちなのかなぁって、思ったりしない?」
男「そ、それは……」
演劇部「なんてね。でも、男君もよーく読んでるね。本当に本が大好きなんだねー」
ウェイトレス「お待たせしましたー! ココアとミルクティーです!!」
男「あ、どうも……」
演劇部「あ、来た来た……砂糖を入れて……と」
男「……ぷっ」
演劇部「なに? どうかした?」
男「あ、いや昨日ね……」
『それ以上喋ったら殺すわよ?』
男「なんでもありません……」
演劇部「男君ってさぁ……なんか変だね!」ニコー
男「なぁ!?」ガーンッ
演劇部「でも一緒にいると楽しいよ!」
男「あ、ああ……そう」
演劇部「もっと話そう? 色んな本について!」
『実を言うと僕っていわゆる偏食家ってやつなんだ』
男(え!? 急になんだ!?)
男「じ、実を言うと僕っていわゆる偏食家? ってやつなんだ……」
演劇部「ああ、同じ作者さんだけ追っかけちゃうってやつ?」
『そうなんだ』
男「そうなんだ」
『よかったらでいいんだけど……おすすめの本とか色々と教えてくれたら嬉しいんだけどダメかな?』
男「よかったらでいいんだけど……おすすめの本とか色々と教えてくれたら嬉しいんだけどダメかな?」
演劇部「うんうん! もちろんだよ!!」
男「本当!? よかったぁ……」
図書委員「まぁ、とりあえずこんな感じにしておけば今後学校で話すネタにも困らないでしょう」
友「君、すごいな……」
図書委員「最近読んだ本で似たようなことがあったの。だから試してみたくって……少しドキドキしたわ」
友「その本っていうのは?」
図書委員「麻薬捜査官が組織に潜入して密売ルートを探る話よ。ああやって自分が無知なふりをして相手の懐に潜り込むの」
友「それと高校生の恋路を一緒にしちゃダメでしょ……」
図書委員「そういうものなの?」
友「あはは……」
――1週間後――
男「それでさー、演劇部さんってばさー!!」
図書委員「……言っておくけどここはあなたの恋愛相談所なんかじゃないんだけど?」
男「え? でもそんなもんだろ?」
図書委員「ここは図書室! 静かに本を読む場所でしょ!」
男「そんなこと言ったってよくよく見ればここって俺とお前以外誰もいないじゃん」
図書委員「誰かがいるとかいないとかじゃないの。あなたが本に敬意を払っているかというところが問題なの」
男「本に敬意って……」ボソッ
図書委員「なにか言ったかしら?」ギロッ
男「なんでもありません……」
図書委員「よろしい……じゃあ、今回も聞かせてもらおうかしら。今回の本の感想を」
男「ああ、この黒い本のことか。面白かったよ」
図書委員「もうちょっと詳しく言えないの?」
男「犯人の愛が凄すぎてなんていうかスゲェなぁって思っちゃった。俺だったらどうすんのかなぁって考えたけどそんな状況になるわけないし」
図書委員「そう。あなたはそういう風に感じたのね。じゃあ、次の本についてなんだけど……」
男「あ、ちょっと待った。俺、読みたい本があるんだけど。探してもらっていいか?」
図書委員「あら、あなたの方からなんて珍しい。いいわ、ここなら有名どころの本はあると思うわよ?」
男「へへっ……演劇部さんに絶対読んだ方がいいって勧められたんだよね」
図書委員「あら熱々ね……」
男「いやまだそうと決まったわけじゃないけどさー! でも仲良くなってきたの確か!」ムフー
図書委員「鬱陶しいことこの上ないわね。まぁ、いいでしょう。それで本の名前は?」
男「ああ。えっと……『夜明けの空に』っていう本なんだけど……あるか?」
図書委員「……!!」ピクッ
男「どうした?」
図書委員「……『夜明けの空に』ね……あるわ。一応」
男「おおっ! やっぱりあるのか!! じゃあそれを……」
図書委員「でも貸し出しはできないわ」
男「……え?」
図書委員「この本ははっきり言って駄作よ。あなたが読む価値なんてどこにもない」
男「は? いやだって演劇部さんが絶対読んだ方がいいって言ってたぞ?」
図書委員「演劇部さんの意図はわからないけど同じく本を愛する者として言っておくわ。この本は読むべきじゃない。時間の無駄よ。まさに徒労ってところかしらね」
男「なんだよそれ……お前、なんかおかしいぞ」
図書委員「おかしくなんかないわ。こんなもの、あなたが読む価値のないものよ。悪いことは言わないわ。こんなものよりもあなたが読むべきものが……」
男「いい加減にしろ!」バンッ
図書委員「!!!」ビクッ
男「どうしてそんなこと言うんだよ。本は人によって持つ感想が違うんじゃなかったのか? なんでそんなこと言うんだよ!」
図書委員「………」
男「どうしちゃったんだよ? お前やっぱりおかしいぞ?」
図書委員「……悪いけど今日は帰らせてもらうわね」
男「お、おいちょっと待てって!」
図書委員「それじゃあ」
男「おい!! 待てよ!!」ガシッ
図書委員「離して……」
男「納得いかねぇ! お前はどんな本にだってそんなこと言わなかったはずだろ! それなのにそんなこと言うんだ?」
図書委員「離してって言ってるでしょ!!」バッ
男「!!!」
図書委員「あなたに……あなたに私のなにがわかるって言うのよ!!」グスッ
男「おい、待てって。俺はただ……」
図書委員「私のことは放っておいて!!」
バタンッ
男「……なんだよそれ」
司書「………」
――――
男「………」ズーン
友「おい、どうしちゃったんだ男?」
男「………」ズーン
演劇部「男君どうしちゃったの?」ヒソッ
友「いや、なんか朝からこの調子でさ……」ヒソッ
演劇部「男君、大丈夫?」
男「あ……うん」
友「男ー、演劇部さんが話しかけてるぞー」
男「あ……うん」
友「ダメだこりゃ」
演劇部「そうだ! 男君、もう『夜明けの空に』は読んだ?」
男「え? まだ……」
演劇部「そ、そうなんだ……」
男「ごめん……」
演劇部「ああ、いいのいいの! 男君も忙しいだろうし。時間あったら読んでみてね?」
男「うん……ごめんね」
演劇部「気にしないで。読み終わったら感想聞かせてね?」
図書委員『読み終わったら感想聞かせなさい?』
男「あ、ああ……勿論だよ」
演劇部「それじゃあね」タッタッタ
友「……お前、どうしたんだよ? 大好きな演劇部さんに声かけてもらって嬉しくないのか?」
男「嬉しいさ。嬉しいけどさなんていうか納得いかないっていうかなんていうか……」
友「当ててやる。図書委員さんのことだろ?」
男「お前、なんであいつのこと知ってんだよ?」
友「この間の日曜日、図書委員さんと俺、一緒にいたんだ」
男「どうして?」
友「お前がどうせデート失敗すると思ったから様子見だけでもしてやろうかと思ったところで出くわした」
男「なんだよお前、ストーカーかよ」
友「心配してやった友人に対して投げかける言葉か? それが」グリグリ
男「痛い痛い!! 冗談! 冗談だって!!」
友「ともかくそこで彼女と会った」
男「そうなのか……」
友「それでなんだが……お前、あの子の事どんだけ知ってる?」
男「えっと……図書委員であることと本に詳しいことくらいしか知らないな」
友「どうやらあの子、うちのクラスらしいんだよ」
男「いやそんなわけないだろ……俺、一度も見たことないぞ」
友「保健室登校って聞いたことないか?」
男「ああ、授業に出ないで保健室に行くっていうやつ? なんか不登校のちょい前みたいな」
友「そう。詳しいことは省くが彼女はそれらしいんだよ」
男「つまり……保健室登校の図書室版?」
友「ああ、噂好きで親切な女子が教えてくれた」
男「でもなんで?」
友「私は恋というものを知らない……」
男「それって……」
友「あの時、彼女がなにか意味深そうに言っていたんだ。それがどうにも気になって……お前に協力してたのも確かそれが理由だったよな?」
男「ああ……どういうことだ?」
友「詳しいことは俺にもよくわからん。でもまぁ、あとはどうするか自分で決めるんだな。二人のことは二人で解決することがベストだし」
男「わかった……わざわざありがとな」
友「いいって。モテる男は男にも惚れられないといけないからな」
男「なんだよそれ」
友「モテ男の心理はお前みたいな人間には理解されないものってことだ」
男「そうかよ」
――図書室――
男「失礼しまーす」ガラガラガラ
司書「あら、男君」
男「あれ? 今日は先生だけですか?」
司書「悪かったわね、図書室にいるのがこんなおばさん1人で」プンプン
男「いやいや、先生ってばまだ若いでしょうよ」
司書「君達からみたら十分おばさんでしょう? 10歳も離れてるんですもの」
男「……ここだけの話、先生俺たちの中じゃ人気高いですよ」ボソッ
司書「本当!?」
男「ええ、特にその太ももなんか評価高いです」
司書「もうイヤだ! どこ見てんのよ~!」バシンッ
男「痛てて……でも本当なんですって。自信持ってください」
司書「もう。お世辞が上手なのね! いいわ、今日はどんな用かしら?」
男「『夜明けの空に』って本を借りたいんです」
司書「!!……そう。ちょっと待っててくれる? 今探してくるから」
男「はい」
司書「お待たせ。探してた本はこれで合ってるかしら?」
男「はい。ありがとうございます」
司書「ちょっと待ってくれる?」
男「なんでしょう?」
司書「その本を借す前にあなたに話しておきたいことがあるの。いいかしら?」
男「それってもしかして図書委員のことですか?」
司書「あら、気づいてたの?」
男「はい。あいつ、この本のことを話し出した途端、急におかしくなったんです」
男「それでこの本があいつに関係してるんじゃないかって思ったんです。違いますか?」
司書「そこまでわかっているなら話が早いわ」
男「なんなんです? この本?」
司書「『夜明けの空に』は1年前に図書委員である彼女が書いたものよ」
男「これを? あいつが!?」
司書「出版業界に疎い君が知らないのは無理も無いことなんだけど……彼女、小説家なの」
男「小説家……」
司書「新進気鋭の女子高生作家……なんて世間ではもてはやされていたわ。『夜明けの空に』は彼女の2作目。そして最新作」
男「最新作……」
司書「どの業界でもよくある話よ。デビュー作が大ヒットした後に来るスランプ。そんな中彼女がもがいてもがいてもがき続けて書き上げたのがこの作品ってわけ」
男「でもそれをあいつはなんで……」
司書「『夜明けの空に』は世間に受け入れられなかった。ネットではこの作品を駄作と評価する声が大きくなったの」
図書委員「この本ははっきり言って駄作よ。あなたが読む価値なんかどこにもない」
男「それであいつそんなことを言ってたのか」
司書「その一件で彼女は自ら筆を折り、自分の愛するこの本の世界に閉じこもってしまったの」
男「そんなことが……」
司書「ねぇ、男君。私からのお願い、聞いてくれるかしら?」
男「なんです?」
司書「もう、図書委員さんとは関わらないであげて欲しいの」
男「どういう意味ですか?」
司書「本の世界はどこまでも優しいわ。私たちを違う世界に連れていってくれる。ここは……この図書室は彼女の心を守る要塞なのよ。彼女はここでなら心穏やかに過ごすことができるわ」
司書「あなたと関わり始めてから、彼女は私に色々な表情を見せてくれるようになったわ。それとはとても喜ばしいことよ。ただその代わり……」
司書「あなたと関わって彼女は脆くなってしまった」
男「脆くなった? どういうことですか?」
司書「閉じこもっていれば、自分の世界の中にいれば彼女はあんなに傷つくことなんてなかったでしょう。だけどあなたが再び教えてしまったのよ。外の世界というものを。誰かと関わるということを」
男「あいつが傷ついたのは……全部俺のせい?」
司書「そうとは言わない。でもここが彼女を守る居場所だったの。この静かな、誰も来ない図書室が彼女のゆりかごだったの。あなたは彼女をここから無理矢理連れ出すつもりなの? あなたにそんな権利がある? 彼女をまた傷つける世界に連れ出す覚悟はあるの?」
男「それは……」
司書「覚悟がないのならこの問題はあなたが無理に首を突っ込む必要は無いはずよ」
男「………」
司書「彼女のことは私達大人に任せておきなさい。必ず彼女を助けると約束するわ」
男「……ちょっと待ってくれよ」
男「そんなの納得いかない。こんなの俺の納得のいくハッピーエンドじゃない」
司書「物語が全てハッピーエンドで終わるわけなんて無いでしょう? だからこそ物語はより深く、味わい深いものになるのよ」
男「俺とあいつはこうして関わった。それはもう物語じゃなくて事実なんだ。だったらハッピーエンドじゃないと気が済まない」
男「それに俺はあいつにまだ『恋』ってもんを教えてねぇ!」
男「だから俺は……あいつと関わるのをやめない。あいつがそれで傷つくっていうなら俺も一緒に傷ついてやる!!」
司書「本気……なのね?」
男「それが友達ってもんだろ!」
司書「……ぷっ、あははははははは!!」
男「な、なんですか急に?」
司書「あー、いやちょっとからかってみたつもりだったんだけどこんなに熱い答えが返ってくるなんて思いもしなかったわ。愛されてるのね、図書委員さんは」クスクス
男「からかってるって……」
司書「ほら、あの子可愛いから変な男だったらお姉さんがとっちめてやろうかと思っちゃってね、試したの」
男「先生、冗談キツイっすよ」
司書「それだけ、彼女の抱えている闇が深いってことよ。それにしても私も中々詩的な表現ができるのね。これを機に小説家デビューしちゃおうかしら?」
男「いや、先生の言葉難しくて途中からなに言ってるかわかんなかったっす」
司書「酷い!?」
男「……あいつには世話になったんで、このまま喧嘩別れなんかしたくないんすよ」
司書「そう。わかったわ……はい、これ」
男「『夜明けの空に』……」
司書「私個人としてはこの作品、すごく気に入ってるのよ。彼女の世界がどれを取っても素敵で美しく彩られている……そんな感じがしてね」
男「ありがとうございます……読んでみます」
司書「読み終わったら感想、聞かせてね?」
男「もちろんです!!」
司書「こーら、図書室ではお静かに」
男「あ……すみません」
それは1人の男と1人の女の恋の話だった。
ひょんなことから出会った2人は逢瀬を重ねていく度に互いに惹かれあう。
しかし、2人は『恋』という感情を理解できなかった。そしてそれゆえに自分の中に存在するなんだかよくわからない感情の正体の答えが出ずに2人は苦しんでいく。
恋という感情が理解できないばかりに主人公は愛しい彼女を傷つけ、愛という感情を知らないせいで彼女は主人公を傷つけてしまう。
主人公は彼女を傷つけたくない一心で、なにも告げずに彼女の元を去る。
夜行列車の中で揺られる主人公の目の前には夜明けの空が広がっていた。
そこには不器用でどこか後ろ向きだけど美しい。そんな世界が広がっていた。
――――
男「……なるほど」パタンッ
演劇部「なにがなるほどなの? 男君? あ、『夜明けの空に』……読み終わったんだ!」
男「なんだかんだで結構かかっちゃったけどね。大切に読みたかったから」
演劇部「どうだった? 良かったでしょ? 私、この人の最新作楽しみにしてるんだー。なんでもこの人、私たちと同い年みたいなの。すごいよね!」
男「……演劇部さん。俺、演劇部さんに言わなきゃいけないことあるんだ」
演劇部「えっと……なにかな?」
男「俺、君に嘘ついてた。本当はあの人の作品、赤と緑のあれしか読んだことなかったんだよ」
演劇部「え? でもあの時はあんなに……」
男「友達が協力してくれたんだ。正直、あの本俺にとってはオシャレすぎてなんだか分からなくてさ……でも、演劇部さんの前でカッコつけたかったから……それで嘘ついた! ごめん!!」
演劇部「それならそうと早く言ってくれればよかったのに! なんかごめんね? 私が変に食いついちゃったからそういうことになっちゃったんでしょ?」
男「違うよ。俺はただ君にカッコいいって思われたかったんだ。君と一緒に本のことで語り合える、そんな男になりたかったんだよ」
演劇部「それってどういう……?」
男「でもそれは違うんだって思った。俺に本を教えてくれた大切な友達が言ってたんだ。『人の感じ方は人それぞれ』だって」
演劇部「………」
男「最初から君と正直に話すべきだったんだ。嘘なんかつくべきじゃなかった。ごめん。本当にごめん」
演劇部「……男君はその友達がよっぽど大切なんだねぇ」
男「え?」
演劇部「わかるよ? だって私演劇部ですから!」エッヘン
男「それってどういう?」
演劇部「演技ってのは人の感情を知ってナンボでしょ? だから君が私とは違う誰かさんのことが大好きだってことくらい見抜けちゃうんだから!」
男「いや、俺は別にそんなんじゃ……」アセアセ
演劇部「男君。これからも私と一緒に話してくれる? 本好きの友達ってすっごく貴重なんだ!」
男「ああ、もちろん! 待ってて、今度すっごい本好きを紹介するから!」
演劇部「へぇ、どんな子?」
男「本のお城の中で不貞腐れてるお姫様? いやあの様子だとお姫様っていうより女王ってところか」
演劇部「なにそれ? 興味あるかも。楽しみにしてるね!」
男「ああ!!」
演劇部「ふふっ♪」
友「まったく、心配だけかけさせやがって」
演劇部「あ、友君。いたんだ?」
友「なんか恋話の気配がしたんで来ちゃった」
演劇部「追いかけるのはダメだよ? そういうの良くないんだからね?」
友「……ぶっちゃけさ、演劇部さんは男のことどう思ってた?」
演劇部「うーん……友達……かな?」
友「なにその含みのある言い方?」
演劇部「だって、最初っから男君が私のことを見てないってことくらい分かってたし」
友「マジで!? 分かるもんなの!?」
演劇部「演劇部をなめちゃあかんですよ~?」
友「あれ? もしかして演劇部さんって実は怖い子?」
演劇部「あはは。私、みんなが思っているほどいい子じゃないんだよ?」
友「ねぇせっかくだからさ……お互いフリーなんだし、俺たち付き合ってみない?」
演劇部「ごめんなさい!」ニコッ
友「あー、この展開はさすがに読めてた」アハハ
演劇部「友君はもうちょっと女の子に対して誠実になった方がいいかも」
友「全ての女性に対して等しく愛をってのが俺の心情ですから」
演劇部「そういうクソ野郎はドブにでも投げ捨てられればいいんだよー」アハハ
友「本当に怖いな君は!?」
――図書室――
男「図書委員!!」ガラッ
司書「あら、こんにちわ。男君」
男「先生、あいつは?」
司書「さっきまでここにいたんだけどね……どこかへ行っちゃったみたい」
男「そうですか! ありがとうございます!」
司書「『夜明けの空に』読み終わったのね?」
男「……はい」
司書「どうだった?」
男「……すごく綺麗な話でした。あいつスゲェなって思った」
司書「それをあの子に聞かせてあげて。ネットの評判や評論家の飾り付けられた言葉なんかよりも今のあの子にはそれが必要だと思うわ」
男「はい! 伝えてきます!」
司書「……図書室では静かに。何度も言わせないで」キリッ
司書「なんてね?」
男「あはは……」
司書「ああ!! 今似合わないって思ったでしょ!」
男「い、行ってきまーす!!」
司書「もう! ……若者達よ! 存分に青春してきなさい! なんて言ってたらどんどんおばさんになっちゃうかしら……」ハァ
男「ったく、どこ行ったんだあいつ!?」
後輩「あれ? 男じゃん。どうしたの?」
男「おお、お前か。どうしてジャージなんか着てるんだ? お前運動部じゃなかったろ?」
後輩「ま、まぁ別にいいじゃん。そんなことよりなんか慌ててるみたいだったけど……」
男「ああ、ちょっと人を探してるんだけど……」
先輩「……それは女の子かな?」
男「あなたは……先輩?」
先輩「女の子のことならこの俺に任せたまえ。この学校の女の子なら全て頭の中に入っている。そしてその女の子がどこにいるのかも全て把握していると言っていい」
男「本当ですか!?」
後輩「なんだその無駄にすごい能力は……」ハァ
先輩「ああ、なにせ俺は君達の先輩だからな!! あっはっはっは!!」
男「えっと……長い黒髪で俺より少し背が低い感じのなんていうか本大好き少女なんですけど分かりますか?」
先輩「むむ……後輩! これはもしかしたらもしかすると俺の理想の女性なのでは!?」
後輩「ああ、その子だったらさっきすれ違ったよ。あっちだから多分屋上に行ったんじゃないかな?」
先輩「んなぁ!?」
男「おおっ! サンキューな!」タッタッタッタ
先輩「後輩よ……なぜ俺の見せ場を奪う?」
後輩「あなたが話に関わるとややこしくなるんですよ」ハァ
先輩「ぬぬぬ……」
――屋上――
図書委員「……あら、こんなところで会うなんて奇遇ね」
男「探したぞ」
図書委員「思うに学園モノには屋上というスポットがつきものだけど一般の学校では解放されていないことが多いじゃない? これって生徒の好奇心を刺激することにならないかしら?」
男「なんか危ないから解放してないんじゃねーの?」
図書委員「でもここは生徒が自由に使うことができるわ。どうしてかしら?」
男「この学校って変人多いだろ? 私立だし、生徒の自主性に任せるとかそんなんじゃねーか?」
図書委員「………こうして空を眺めているともしかしたら自分は飛べるんじゃないかって思ったことない?」
男「……無いな。そんな風に感じたこと」
図書委員「私はあるわ。そうやってなにもかもを忘れて空に身を投げてしまいたい。そうすればもう考えることをしなくて済む……」
男「冗談でもそんなふざけたこと言うなら怒るぞ?」
図書委員「ふふっ……あなたに怒られるのは初めてかもしれないわね。いつもあなたが怒られてばかりだったから」
男「今、それを言うか……」
図書委員「……『夜明けの空に』全部読んだんでしょう?」
男「ああ。すごく……」
図書委員「待って」
男「え?」
図書委員「聞きたくないの。お願いだから言わないで」
男「どうしてだよ? お前が言ったんだぞ? 感想ってのは人それぞれだって! なのにどうして……」
図書委員「疑ってしまうからよ」
男「疑う?」
図書委員「あなたの口からそれを聞いたらどんな言葉でも私はあなたを疑ってしまう。溢れんばかりの賞賛も、アドバイスも、非難の声も……全て、全てを疑ってしまう!」
図書委員「それはあなたの本当の言葉なのか。私を気遣ったための優しい嘘なのかを考えてしまうの。非難の声でさえ私に発破をかけるための激励なんじゃないかって!」
図書委員「だってあなたは優しいから……どうしようもなく優しいから……だから!」
図書委員「私はあなたを疑いたくない! だってあなたは私にとって……」
男「なんだよそれ……」
図書委員「もう、そっちの世界に行くのはやめたの。私はもうこの世界があればいいの。そうやって生きていくの。だから私のことはもう放っておいて!」
男「放っておけるかよ……」スタスタスタ
図書委員「やめて! 近づかないで! お願いだから私の世界を壊さないで!」
男「綺麗だった!」
図書委員「!!!」
男「お前の描いた世界がすごい綺麗だと思った! 俺、この間まで本なんて読んだことなかったからよく分かんなかったけどさ。でも、お前の本を読んですごい綺麗だと思ったんだよ!」
図書委員「そんなはずない……あれは駄作だって……」
男「スゲェなって心の底から思った。嘘じゃなく本気でそう思ったんだ」
図書委員「いや……いや……!!」
男「この気持ちが嘘だっていうのか? お前はこんなに凄いのに……凄いって思っているこの気持ちすらお前は疑うのか?」
図書委員「お願い……そんなこと言われたら私は……!!」
ダキッ
図書委員「!!!」
男「ありがとうな。俺にこんな世界を見せてくれて」
男「『恋』は教えられなかったかもしれないけど……よかったら一緒にいてくれよ。お前がいないのはやっぱり寂しいからさ」
図書委員「うぅ……ひっく……うわぁぁぁぁぁん!!! うああああああああ!!!」
男「ちょっ!? いきなり泣くなよ!!」
図書委員「うわぁぁぁぁぁぁん!!!!」
男「………」ポンポンッ
男「落ち着いたか?」
図書委員「ひっく……えぇ。大分……無様なところを見せたわね」グスッ
男「急に泣きだすから焦ったぜ」
図書委員「あなたの方こそ、乙女をいきなり抱きしめるなんてどうかしているわ。場合が場合ならセクシャルハラスメントで訴えるところよ」
男「なんでそうなるんだよ……」
図書委員「その……ありがとう」
男「礼には及ばないってもんだ。俺はお前から本の世界ってもんを教えてもらったんだから」
図書委員「そういうことじゃないわ」
男「え?」
図書委員「思えばあの時からそうだったのかもしれないわね。あなた、前に『女さんの前で格好つけたい』って言ってたじゃない?」
男「ああ、そういえばそんなこと言ったけ?」
図書委員「私もなのよ」
男「ん?」
図書委員「私もあなたの前で格好つけていたかったの」
男「?」
図書委員「喫茶店で普段飲まないブラックを無理して飲んだのも、自分の書いた小説を読まれたくなかったのも……」
図書委員「あなたに格好悪いところを見せたくなかったからなのかもしれない」
男「へ?」
図書委員「ありがとう。私に『恋』を教えてくれて」ニコッ
男「それってつまり……」
図書委員「まぁ、こんな本好きの根暗女にこんなこと言われてもあなたは困るだけでしょうけど……あなたは演劇部さんが好きなわけだし」
男「い、いやあのその……」
図書委員「でも私はあなたを通して『恋』を知ることができたわ。それだけは感謝させて。ありがとう」
男「……好きだ!」
図書委員「え?」
男「なんかよくわからないけど俺、お前のことが好きになっちゃったみたいだ!」
図書委員「………なにその猿並みの告白の仕方」
男「別にいいだろ。俺はお前みたいにうまいこと言えないんだよ」
図書委員「まぁ、いいわ」ギュッ
男「お、おい! お前急に……」
図書委員「どんな着飾った言葉より、私はその言葉が嬉しいもの」
後輩「せんぱーい」
先輩「なんだ後輩? 今日もジャージがよく似合ってるな」
後輩「放っておいてくださいよ。そんなことより聞きました? この間の屋上の美少女の話」
先輩「ああ、そんなこともあったな。それがどうかしたんですか?」
後輩「なんでも、うちのクラスの男子と付き合うことになったらしいんですよ」
先輩「なんだと!? くっそー、あの男か!! 本が似合う大和撫子と付き合うだと! うらやまけしからん!!」
後輩「なんでもその子、有名な女子校生作家だったらしくてですね……」
先輩「ますます俺の理想に近いじゃないか! くぅぅ! あの時俺が屋上に行っていれば!!」
後輩「間違いなく残念な結果になっていたでしょうね」
先輩「ぬぅぅぅぅ……」
後輩「なんでもその子、作家活動を休止して保健室登校状態だったんですけどその彼氏が復帰に協力したみたいで、校内でも有名なカップルになったそうですよ」
先輩「ああああ!! 羨ましい!! どうして! 俺には!! 彼女ができないんだぁぁぁ!!」
後輩「放課後にこんなところで叫んでるからじゃないっすかね」
先輩「ああ……彼女欲しい……」
といったところで以上です。お付き合いありがとうございました。
最後にちょっとした後日談をいれて終わりにします。ありがとうございました!
――――
図書委員「それじゃあ今日も感想を聞かせてもらいましょうか」
男「主人公と幼女の関係性がすごい微笑ましくてさ、そんでもって登場キャラが多くてごちゃごちゃしてた!」
図書委員「そうね。私もこの作品は多くの登場人物が織り成す群像劇だと思うわ。そしてその登場人物一つ一つの物語を掘り下げていこうとするから物語がなかなか終わっていかない」
男「結局これって本題はなんだったのかって思っちゃうんだよな」
図書委員「ありがとう。それじゃあ今度のおすすめの本は……」
男「待った」
図書委員「なにかしら? あなたが割り込んでくるとろくでもないことが起きそうで怖いのだけど」
男「今回はそんなんじゃねぇって。実はクラスに復帰してまだ日が浅くぼっちの図書委員さんに是非とも紹介したい人がいましてですね」
図書委員「ぼっちは余計よ。それにあなたがいるじゃない」
男「彼女がぼっちっていうのは彼氏としてちょっと心配ではあるんだけど」
図書委員「あら、私はあなたさえいてくれたら別にそれでいいわ」
男「ヤンデレ乙」
図書委員「思うんだけど究極の愛の形って愛する人と死まで共有できる心中だと思うんだけどどうかしら?」
男「真顔でそういうこと言うなよ……怖ええよ」
図書委員「もちろん冗談よ。私にはまだまだ読むべき本が沢山あるんですもの。死ぬわけにはいかないわ。死ぬなら勝手に死んで」
男「なんでお前はそう減らず口ばっかりなんだよ……!!」
演劇部「もう、男君いつまで待たせるの~」
友「扉一枚越しでイチャイチャされるのはすげームカつくんだけど」イライラ
図書委員「……いつからそこに?」
男「えっと……三人で一緒に来て扉の前で待っててもらってた」
図書委員「………そう」カー
演劇部「わっ! 顔真っ赤!」
図書委員「そ、そんなんじゃないわ!」
男「まぁ、演劇部さん。というわけでこの子が……」
図書委員「図書委員よ。初めまして。友君とは前に会ったけど改めてよろしくね」ペコリ
友「ああ、これはこれは……」
演劇部「親切にどうも……この子がそうなの?」
男「ああ。『夜明けの空に』の作者でもある、現役女子高生作家だ」
図書委員「といってもまだ活動休止中ではあるけどね」
友「まさかそんな大層なもんだったとは驚きだ」
演劇部「うわぁ……本物だー! 握手してください!」
図書委員「えっと……」チラッ
男「とりあえずしておけばいいんじゃないか?」
図書委員「私みたいなのでいいなら……喜んで」スッ
演劇部「えへへー、感激だよ! ということはこの前のあの本の感想は?」
図書委員「ええ。私が彼に指示を出していたわ。いわばあれは私の感想よ」
演劇部「ちなみに図書委員さんはどれくら本を読むの?」
図書委員「そうね、一週間に10冊くらいかしら」
友「ええ!?」
男「そ、そんなに読んでるのか? 一日一冊以上!?」
図書委員「これでもゆっくり読んでいる方なのよ?」
演劇部「さ、さすが本あのお城の中で不貞腐れてる女王様……」
図書委員「なにそれ?」
男「ああ!! いや、それは別になんともないんだ! 気にするなよ!」
図書委員「あら? 男君。その慌てよう……察するにあなたにとってそれは都合の悪い言葉だと判断したわ。具体的に言えばこれは悪意のある言葉として受け取ったほうがいいようね」
男「いやそれは違うっていうかなんていうか……」
友「男。諦めろ。お前じゃどうやったって勝てないよ」
男「そんなぁ……」
図書委員「本のお城で不貞腐れているねぇ……言い得て妙じゃない。少し前までの私を的確にかつ悪意をもった表現方法だわ。褒めてあげる」
男「あ、ありがとうございます……」
図書委員「でも勘違いしないでね。これであなたの罪が消えるわけじゃないから」
男「ひ、ひぇ……」
友「男、お前の屍は拾ってやるぞ」グッ
演劇部「待って! 図書委員ちゃん! 男くんは本当にあなたのことが好きだからそうやって表現したんだよ? そこに悪意なんか入ってるわけないよ!」
図書委員「す、好きだから……?」
演劇部「そう! 男くんは図書委員ちゃんのことが大好きなんだよ!」
図書委員「……あう///」カーッ
演劇部「友くん、友くん」
友「なんだね、演劇部さん?」
演劇部「図書委員さんってすごくかわいいね!」
友「奇遇だな。俺もそう思う」
図書委員「……もう、からかわないで」カーッ
演劇部「図書委員さん! 私と友達になってよ! 一緒にいろんな本のことお話しよ?」
図書委員「え?」チラッ
男「演劇部さんは読書仲間を探してたんだよ。だからお前にちょうどいいかなってさ」
図書委員「男君……」
演劇部「……ダメかな?」
図書委員「ダメなんかじゃない! ……ダメなんかじゃないわ」
演劇部「へへっ! よろしくね、図書委員ちゃん!」ギュッ
図書委員「よろしく……」ギュッ
友「これで一件落着ってやつか?」
男「まぁ、そんなところ……なのかな?」
以上です。お付き合いくださりありがとうございました。
とても面白かった乙
俺を好きなのはお前だけかよ
図書委員たん可愛いよおおおおお
面白かったです 乙
乙
乙
先輩後輩はなんなの?
何この図書委員きゅんきゅんする
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