神谷奈緒「幸せへの道」 (29)
アイドルマスターシンデレラガールズ、神谷奈緒のお話です。
もう最後にしたいです。
投稿終わったら最終決戦してきます。
神谷奈緒「あたしの幸せ」
神谷奈緒「あたしの幸せ」 - SSまとめ速報
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「頼む!」
あたしの目の前にはそう言いながら土下座をする男性が居た。
「だ、だから……そんな事急に言われてもあたしには無理だって……」
周囲から奇異の目で見られている。そりゃそうだろう。どうみても女子高生にしか見えないあたしの前で、スーツ姿のサラリーマンが土下座しながら大声で頼む、なんて言っているのだ。
「いや! 君しか居ないんだ! 頼む! 本当に頼むから!」
頭を地面に擦り付ける、というのはこういう事だろう。出来れば一生見たくない光景だった。
「……無理なもんは無理だから!」
周囲の視線に耐えられなくなったあたしは、踵を返し全力で駆け出した。これでも現役女子高生なんだ。サラリーマンに体力では負けないだろう。
「はぁ……はぁ……」
5分ほど走っただろうか。ついてきていない事を振り返って確認する。
「はー……もうなんなんだよ……」
今日は好きなアニメのBDが発売するから、学校終わってわざわざ秋葉まで出向いてきたのだ。目的の物が手に入ると思うと足取りも軽く、上機嫌で某アニメショップへ向かおうとした時だった。
「き、君! そこの太眉の! もじゃもじゃした髪の毛の! 待って!」
そう、こんな風に声をかけられたのだ。って、え?
「お願いだから! 頼むから! 本当に! 頼む!」
「ちょ、え、えぇー……」
見つかってしまった。男性はあたしを見つけるや否や、短距離走の選手かってくらいのスピードで近づいて、またあたしの前で土下座を始めた。
また周囲がヒソヒソと何かを言っている。このままでは、あたしまで何かに巻き込まれそうだ……。
「~っ! しつこい! 無理だって言ってるだろ!」
あたしは再び秋葉の街を全力で駆け出した。
「こ、ここまで来れば大丈夫だろ……」
よくありがちなフラグにしか思えないけど、さすがにまた追っては来ないだろう。いくらなんでも、あの人にも体面と言う物はある。これ以上、公衆の面前でみっともない真似は、分別ある大人ならしないはずだ。
「なんなんだよ、もう……」
今日はBD買って、すぐ家に帰って心行くまで堪能する幸せな日のはずだった。それがどうだろう。秋葉に降り立ち、駅の近くであの男性に声をかけられ、BDを買うどころか、目的の店にすら近づけていない。
「にしても、あたしがアイドルだって? まったく馬鹿げてるよなー」
そう、あの男性はアイドルのプロデューサーをしている、と名乗ってあたしをスカウトしたいと言ってきたのだ。
「まったく、ナンパかエロい事でもしようとしてたんだろ。まったく」
あたしが、息を整えがてらぼやいていると、急に後ろから肩をガシッと掴まれた。
「ひぃっ!?」
「そんな事は無い! 俺は真剣だ!」
振り返ると、そこにはやはり件の男性が居た。ここまで来ると純粋に恐怖を感じてしまう。
「な、なんだよ……! 近寄るなよ……!」
あたしは怯えながらも精一杯威嚇する。大丈夫。最悪大声出して逃げよう。幸い秋葉には人は沢山居る。なんとかなるはずだ。
念のため、周囲を確認する。幸いな事に平日の昼過ぎにしては多くの人が歩いている。さすがに助けを求めれば助けてもらえるだろう。
「頼む! 頼むから話だけでも聞いてくれ!」
「い、いたっ!」
男性の手に力が入る。若干肩が痛い。あたしが軽く悲鳴をあげると男性はすぐに離してくれた。
「す、すまない! つい興奮してしまって……」
……多少の分別はあるみたいだけど、多分この人やばい人だ。逃げなきゃ……! もうBDは諦めて駅に逃げ込むんだ……!
あたしが逃走経路を頭の中で確認している間、男性が何か言っていたようだが、今のあたしに話を聞く余裕は微塵もない。適当にはいはいと受け流して逃げる隙を伺っていた。
「だから! 頼む! この通りだ!」
男性が本日三度目の土下座をした。多分この人は土下座が体に染みついているのだろう。
「わかったよ……」
「ほ、本当か!?」
逃げるためにあたしが適当に返事をすると男性は凄い勢いで顔をあげてあたしの顔をきらきらした目で見つめてきた。
「綺麗……」
ぽつりと呟く。何故だろう、こんなにみっともない姿なのに、男性の目は見惚れてしまうくらい綺麗な目だった。
「ん?」
男性が軽く小首を傾げる。あたしの呟きがきちんとは聞こえなかったのだろう。
「な、なんでもない!」
急に恥ずかしくなって慌てて取り繕う。何故この男性はこんなにまっすぐな目をしているのだろうか。
「そうか! それより、さっき『わかった』って言ったよね!?」
男性が土下座を辞め、あたしににじり寄ってくる。駄目だ、やっぱ怖い。
「い、いやー……? そうだったか……?」
「ああ、この耳でしっかりと聞かせてもらった」
誤魔化せるのでは、と思ってとぼけてみたら、考えが甘かった。やはりただでは逃がしてもらえそうにない。
「いや……でも……」
どうしたものかとあたしが思案していると、渡りに船、と言わんばかりに男性が良いセリフを言ってくれた。
「なんでもするから!」
この男性の言葉を聞いて、あたしはこれしかない、と思った。かなり嫌な女になるが今は逃げる事を優先しなくてはならない。だから仕方ないのだ。
「……もっと、真剣に頼まれたら気分も揺らぐかなー、なんて」
あたしがそう言うや否や男性はとんでもない速度で土下座の姿勢に移行した。もちろん大きな声でお願いします、というセリフも忘れずに。
「……そのまま、あたしが良いって言うまでそうしてくれてたら、思わずはいって言っちゃいそうだなー……?」
もちろん、はいなんて言うわけはない。逃げるための汚い戦略だ。勝てば官軍って言うし、仕方ない。
「わかった! 心行くまで俺の土下座を堪能してくれ!」
相変わらず周囲の目を気にしない男性は、周囲の視線に物怖じもせず美しい土下座を見せた。
もちろん、あたしはそっと、そーっとその場を離れた。
男性が追ってきていない事を確認すると、このまま家に帰るのが急に惜しくなってきた。わざわざ交通費を支払って秋葉まで出向いているのだ。戦果無しでは帰れない。
「やっぱ、買いに行こうかな……」
「へへっ……」
目的だった某アニメショップでBDを買って、ご機嫌で出てくるといつの間にか日が大分傾いていた。
「もうこんな時間か……。家帰って見る時間あるかなぁ……」
まぁ、何はともあれ、今日は買えないかもしれないと思ったBDが買えたのだ。それだけで良しとしよう。
足取りも軽く、駅に向かって歩いていると、何故か人だかりが出来ていた。
「ん? なんだ?」
人だかりが出来ていると、どうなっているか見たくなるのが人ってもんである。背が低いあたしは人だかりの中心を見ようと、ぴょんぴょんと何度もジャンプしてどうにかこうにか、一瞬中心を見ることが出来た。
「んな!?」
そこには土下座を続けるスーツ姿の男性が居たのだ。
「ば、バカじゃねーのか!」
あたしが無理やり人だかりをかき分けて男性の元まで行くと、男性は土下座の姿勢を崩さずにあたしに尋ねてきた。
「おお! 声をかけてくれたってことはもう満足してくれたのか!?」
土下座の姿勢を相変わらず崩さずに嬉しそうに尋ねてくる男性。
「ちょ、そんなことよりまず顔あげて! 立って!」
周囲がなんだなんだと、軽い騒ぎになっている。その中心があたしだと思うと顔から火が出そうだ。実際、顔は真っ赤だろう。
あたしが男性の腕をとって無理やり立たせようとすると、顔をあげた男性と目が合った。
「あ……」
やはり、綺麗なまっすぐな目をしている。
「っ、ととっ……」
男性はよろめきながら立ち上がって周囲を見渡すとひどく驚いていた。そりゃ、気付かないうちにこんな人だかりが出来ていれば驚くだろう。
「あー、君」
すると、人だかりをかき分けて二人の制服姿の男性があたし達に近寄ってきた。
「なんか変な人が居るって通報を受けたんだけど、君で間違いないね?」
警官は男性の前に立つと、来た経緯を説明した。なるほど、この人を見た誰かが通報したのだろう。まぁ、道端で土下座をする男性なんて確かに異常だ。
「え? 私、ですか……? いや、なんのことだか……」
男性は自分がいかにおかしなことをしていたのか自覚がないのか、何故警官に話しかけられているのか理解できていないようだった。
あと悪い事って、案外続くもんなんだよな。警官が男性に聞き取りをしていると、周囲の人が余計な一言を付け加えた。曰く、その女の子に何度も援交を申し込んでいた、と。
「なっ!?」
「君、署まで来てもらおうか」
警官の目が険しくなる。もう一人の警官は無線で何やら連絡を取っているし、これは本格的にやばそうだ……。
「ち、違うんです! あ、あたしが! スカウトされて! でも断ってて!」
思わず男性に助け船を出していた。厄介な人でできれば関わりたくはないのだが、あたしのせいでこの人がこんな目に遭っているのであれば、少なからず非はあたしにある。
「え、援交なんかじゃなくて! じゅ、純粋に! スカウトです! 目! 目を見てください! ほら!」
とりあえず今はこの場を納めないといけない。あたしは証拠になるわけないのに、男性の腕をとって警官達に目を見せるように促した。
「あー、わかった。わかった。署で話を聞くから。悪いけど君も来てくれるかな?」
「はい……」
やはり無駄だった。
なんとか誤解が解けた時にはあたりはすっかり暗くなっており、男性は危ないからと言って駅まで送ってくれた。
「ごめんなさい!」
男性に頭を下げる。あたしのせいで大事になってしまったのだ。せめてちゃんと謝らなけば罰が当たる。
「良いって。スカウトしてればこんなこと良くあるから」
そういうと男性はからからと笑いながら優しくあたしの頭を撫でた。
「あっ……。ごめん。うちのアイドルによくやるから、つい。嫌だったろ?」
あたしがびっくりしてたのを嫌悪と取ったのだろう。慌ててあたしの頭から手を引くと、そのまま自分の頭をかいた。
「こっちこそ、今日はごめんな。なんか厄介事に巻き込んじまって。本当にすまない」
今度は土下座こそしなかったものの綺麗なお辞儀をして見せた。
「あの、さ……、なんであたしなんだ?」
お辞儀をする男性に尋ねてみる。あたしより可愛い人や綺麗な人なんて、探せばいくらでも居る。それこそ今日の秋葉にだって居るだろう。なのに、この人は何故こんなにあたしに執着するのだろう。
「んー……一言で言うと、一目惚れ、かな」
「なっ!?」
男性の思いもよらない返しに赤くなる。一目惚れって、あたしにか!?
「うん。駅でニコニコした顔の君を見たときね、こうなんて言うか、惚れた」
「な、なななにを!」
恥ずかしがる様子もなく男性は穏やかに笑いながら追い打ちを仕掛けてきた。
「なんとしてでも君をステージに立たせたい、君に幸せな光景を見せたいって思ったんだよ」
そんな事を語る男性の目は、土下座をしていた時以上に、綺麗にまっすぐ輝いているような気がした。
「ま、でも無理強いは駄目だな。普段は断られるとすぐ諦めるんだけど、君は諦めたくなかったよ」
そういうと男性は再び頭をかいて、バツの悪そうな顔をしていた。
「アイドルってさ……」
なんとなく浮かんだ疑問をぶつけてみる。
「幸せになれるのか……?」
売れるばかりじゃないだろう。もちろん、見えないところで血の滲むような努力をしてたり、嫌な事もたくさんあるだろう。
「絶対、とは言えないな」
案の定の答えが返ってくる。そりゃ当然か。絶対なんてありえないんだし、こういう返答になるよな、そりゃ。
「でも!」
あたしが少し落胆していると男性はこう続けた。
「君は、俺が絶対に幸せにする! 約束する! 君を世界一幸せな女の子にするよ」
男性の目を見たまま固まってしまう。思いがけない答えだった。ありえない事を言っているのは理解できる。でも、男性は絶対に出来ると信じているのだろう。まっすぐで綺麗な目がそう訴えている気がする。
「神谷奈緒……、あたしの名前」
男性に自分の名前を告げる。この人を信じてみよう。このまっすぐな目をした人なら、本当に成し遂げてくれるかもしれない。
あたしの幸せへの道を、この人なら見つけてくれるだろう。
End
以上です。
これから最終決戦です。ちひろとの。ここで打ち取れなければ勝利は無いです。
こんだけ書いたんだからもう勝利は目前だと信じています。
総力戦をしかけてここまでずたずたにされるとはやはり千川、恐ろしい。
もし、奈緒が出なければしゅがはさんが実装でもされない限り10連回すことはなくなるでしょう。多分。納税はしますが。
まぁ、実装されても居ないものを引くなんてどだい無理な話ではありますが。
では、お読みいただけたなら幸いです。今度は忘れずに依頼出してきます。
乱立するくらいなら一つにまとめろ
乙乙
最近奈緒スレよく立ってるなと思ったら>>1の仕業?
デレステのコミュだとスカウトはかなりちょろかったよな
俺は5万で引けた。いくらつぎ込んでるか知らないが頑張ってくれ
乙乙。落ちるまでは時間かかるだろうから結果発表も頼むゾ
乙ー
このシリーズの奈緒はほんと幸せそうで良かった
デレステでは一昨日まさかのデイリーで来てくれたがかなり可愛かったです(煽り)
>>18
毎日書いてたもので、申し訳ないです。
結果として、約20万で引けませんでした。
フェス来るか、しゅがはさんくるまで10連引きません。
頑張りすぎ…
むしろ書いたから出なかった説
まぁ生きろ、いいことあるさ
乙
でもその間にいろいろ引けたんだろ?
引けてないわけないよな、ちひろは女神だもんな
モバの確率もグラブってんなあ……
70万くらいつぎ込まないとダメなのか?
このSSのおかげでギリギリで奈緒引けました
>>1のファンになります
限定じゃなくてよかったな…
俺もしゅがはと奈緒坊好きだからシンパシー感じた
お礼に奈緒が引ける微妙な呪いをかけておいたぞ
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