男「不思議の夢のアリス」 (114)

夜中に目を醒ます。そんな時は決まって窓の外に女の子が立っている

ここはマンションの4階。金髪の少女が窓の外で楽しそうに微笑んで立っているには少々おかしい場所

時計を見るとどれも狂ったように針が高速回転している

空はピンク色で雲が生き物のようにウゾウゾと蠢いている

それ以外に部屋に変化は無い?無いのだろうか、俺が気にしてないだけだろうか

この壁はこんなだっただろうか。部屋の模様は、こんなに鮮やかなどどめ色をしていたか

本の表紙が嘲け笑っている。エアコンから風が禍々しい気流を生み出す

そんな中でキャハハハっと声がした。窓の外から

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1456148209

最近同じ夢を見る

彼女はずっと窓の外から向こう側を向いている

俺は夢の少女に恋しているのかもしれない

しかし彼女は振り返ってくれない。微笑んでいるのは分かる。美少女だというのも分かる。でも顔は見たこと無い

夢は夢だ。あまり入れ込んではいけない。そう思いつつ


望んだ


あの夢の続きを。彼女を

いつもと同じ夢を見た

時計の針は13しか書かれていない文字盤の上をグルグルと回り続ける

ピンク色の雲は次々と姿を変え、地上の人を食っている

狂気染みた暴風が木々を揺らし、地面から動物が這い出す

壁が蠢く、モゾモゾと

ああ、いつもと同じ夢だ

窓の外の金髪の少女は変わらず向こう側を向きながら窓の外で後ろに手を組んで立っている


ああ、窓の鍵に手をかけたい

ガチャって開けたい

でも、でも手は動かない。動かない

夢をコントロールする方法を調べた
どれも試した

枕の下に「夢の彼女と触れ合いたい」と書いた紙を挟んだり
明晰夢を見れるBGMを聞きながら寝たり
夢日記を付けてみたり

二度寝や昼寝だとコントロールしやすいと聞くが夜いつもの就寝時間に寝ないとあの夢は見ない

そういや人は夢を毎晩見ているらしい
"見ない"という時はただ忘れているだけとか

俺は…最後に夢を見なかったのはいつだろう

いつもと同じ夢を見た

壁に「夢」という文字が歪んで散乱して描かれている

天井から何かが滴り落ちている

肉汁の満ちる床の上で佇む俺は彼女を渇望する

その時


「来る?」


進展が起きた

目の前で180度首だけが回転し、美しい金髪の少女が口を歪める

美しい少女の異常な格好の不気味な笑み


「来たいならおいで」


-フ


ふわりと少女は向こう側へ倒れて消えた



「待って!」

初めて声を出した。初めて足を踏み出した

部屋の外へ、窓の向こうへ

飛び込んだ

この夢はフィクションです

脳内で作り出すフィクションと脳内で生み出される夢に何の違いがありましょうか

なのでフィクションです

現実の団体や個人に影響は関係ありません
どうせ夢です

後にアリスとイチャラブできるならこれもありかもしれない乙乙

WarniNg

CAcTIon

dAngER


そんな文字が浮かんでは消える宵闇の中


落ちてゆく?登ってゆく?変な感覚

眩暈がする。目映い闇の中煌びやかな何かがすぐ傍を通りすぎる

どこへ向かっているのか、むしろ遠ざかっているのか


「きゃははは、こっち、こっち」


アリスが俺を導く

金髪の髪が靡く、甘い香りが鼻をくすぐる


「待って、待ってくれ」


アリスが遠ざかる。小さくなっていく

ドサドサ


俺が地面に落ちる。落ちて崩れ…危ない、崩れ去ってしまうところだった

なんとか自分を保ち、立ち上がる。3本目の腕は置いていく


どこまでも深い深い夜の世界

澄んだ深海から白兎が地面に降り積もっては解けていく


この狭い部屋を抜け出して外を見よう

そう思って立ち上がる。歩き出す


アリスは姿を見せない

カチ…カチ…カチ・・・


不規則なリズムを刻んで歪な時計が時を刻む

文字盤には変な数字に似た何かが書かれている


時計の異界的なリズムが何か病的な意味を孕んでいる気がして不気味なそれから俺は離れる


「出口はどこだ?」


足元に小さな扉が見えた。これが出口か。小っちゃいな

「私を使って」


手の中にのこぎりが出現した。


「私を使って」「私を使って」「私を切って」「私を潰して」「バラバラにして」「粉々にして」


ハンマーが、鉈が、ドリルが手に中に出現して喋り出す

果ては俺の肉が叫びだす


「切れ!」「潰せ!」「壊せ!」「粉々だ!」「こま切れだ!」

のこぎりを手に取り肉を切り出す

芳醇な香り、肉から紅いワインが迸り肉汁の内からしゃぶりつきたくなる果実の匂いがする

たまらない。俺の太ももを食いたくて仕方ない

ああ、きっと美味なのだろう。甘美な誘惑が俺を誘う

しかしこの仕事を完遂しなければならない

俺を切り刻め。細切れにしろ。肉も骨も心臓もだ

全部、全部


部屋は赤ワインとパンで満たされた

これはとてもいい悪夢だ

こんなものだろうか、自分でもよく誘惑に耐えきったと思う

粉々になった自分が血の大海に押し流される

錆びた鉄を齧りたくなる匂いの中、抗いがたい流れが俺を掴んで離さない


ああ、外だ


形容しがたい異形の形をした太陽が天辺≪あまべ≫で輝き、黄緑色の狂気じみた光で世界を包み込んでいる


紅い紅い海を漂う俺の周りに魚たちが集まってくる

見るとその魚たちは"手"だった

手が、もしくは肩から先が泳いでいた

指を動かして、血管を揺らして、あがくように、もがくように


こいつらも俺と同じく体をバラして出てきたのだろうか

外は素敵だもんな、一緒に陸まで泳ごうか


「身体だ」
「肉体だ」
「素敵な身体だなあ」
「あなたの体欲しいなあ」
「ねえ、この体頂戴」
「欲しいよ欲しいよ」


手が俺の体に群がってきた


「やめろ、これは俺の体だ!」


そう叫んでも手たちはやめてくれない
俺の体の節々を引っ張ってくる

引きちぎれる痛みが断続的に全身を蝕む

痛い、痛い痛い痛い

ぶちぶち、と千切れる音が聞こえた

叫ぶと喉に手が飛び込んできた。俺の声帯を毟り取ろうとして来やがった!

この野郎とばかりに噛みついてやった

今度は「ぎゃあ」と手が叫んだ


噛むと肉汁が口の中に溢れだす。歯ごたえも味もとても良い

何だこれは。新たなる味覚、触感、初めて味わう美味なる感覚は口から脳へ、全身へと駆け巡った

美味さがもはや快楽、快感となって全身の味覚へ羽ばたいた。細胞という細胞が歓喜の悲鳴をあげ、もっと肉をよこせと叫びだす


ああ、これが本当の「美味しい」なのか


俺は周りの手を食いだす。もっとよこせ。手を、足を、目玉を、脳を、もっと食べる

食べる食べる

モグモグモグモグモグモグモグ

逃げ出す奴も捕まえて口に放り込む

食べ続ける。食べ続けた。腹が膨れ上がって破裂するまで


モグモグモグモグ
モグオグモグモグ

―パンッ―

腕が三十七本、脚が四十九本生えた

人間の手足を食べるとこうなるんだ。へー

それらをオールのように使い、血潮を泳ぎだす

岸はどちらだろう。あの歪んだ太陽を見れば東はあちらなので上に泳ぎだす

いずれ着くだろう


ボトボトと空から黒い何かが降り注ぐ中俺は急いだ

ほどよくSAN値が減るね

ギュゥォオオオ

急に潮が引いていく

今まで泳いでいた俺は地面に叩き付けられた

グチャと湿った音とともに


全身をモゾモゾと何かが這い回る感覚がする

「ひぃっ」


これは地面ではないミミズだ。ミミズで作られた地面なんだ
小さなミミズが何千、何万と体に這い登り、口の中へ、鼻の中へ、目の中へ、肉内へ、血管へ入り込んでくる

体の中がミミズで満たされる。中から外からミミズに犯される

吐き出そうと口を開けた傍からミミズが侵入してくる

やだ…死にたくない…アリス…アリス…

黄金の髪が視界の端にちらりと映る


ミミズの波が引いていく

「げぼっ、ガハっ、ぐぼぼぼぼ」

胃の中のミミズも全て吐き出した

何が起こったのか理解しようとする前に何かが起きる前に立ち上がる


ミミズを踏みつけ潰しつつ歩く。きっと転んだらまたああなってしまうだろう

おつ

グムグムグム


足元が波打つ、とても歩きにくい

アリスが見えた気がしたがもうどこにもいなかった

あれはアリスだったのだろうか…いや、それは確信できる


「アリス…どこに行けば君に会えるんだ」


俺は歩を進める
どこに行けば良いのか分からないが、それでも歩き続ける

うむ

「ああ、やっと見つけた。見つけ見つけた」


白兎が目の前に現れた

耳の代わりに人間の指が生えて、脚ではなく舌が4つ体を支えている

目ではない。ぐるぐる回る針のアナログ時計が二つ顔についている


そんな悪夢的な造形の白兎、それが流暢に人の言葉を喋っていた

「早く、早く!時間がが無いんだよメアリー・スー」

「俺そんな名前じゃないんだけど」

「違うがう、君はメアリー・スーだよ時間が無いんだよ!遅刻だ遅刻だ!」


ぴょんぴょんと飛び回る悪夢的なおぞましいウサギ、その眼は針がとても速く回っていた


「ほら早くこいよ遅刻だ!遅刻遅刻」


遅刻遅刻と言いながら飛び跳ね続けるウサギだが、すぐに転んでしまった

「がうっ、がっ、ぁぁぁぁ」


絶望的な声とともに地面に飲まれたウサギ

地面がもぐもぐと口を動かす

ゴクン

地響きのような飲み込む音が聞こえた

途端に地面のミミズが固まり、黒ずみ、アスファルトへと姿を変えた


歩きやすい、とても歩きやすくなった


地面を踏みつけるために「痛い」「やめて」「踏まないで」と声がするが気にしない

「お願い」「痛い」「痛いよ」「踏まないで」「苦しいよ」「助けて」「助けて助けて」

歩きやすいんだけど仕方ない

歩きやすいんだから仕方ない。声は気にせる歩き回る

枯れた木々は風も無いのにぐねぐねと気味悪くうねり、毛の一本一本が芋虫になっている小動物がミチミチ、ギャチギャチ、アプアプ、ギョルギョルと不快な鳴き声を出している

木の虚からは無数の目が俺を見つめている

足元は既に恨ましげな声へと変わり俺を苛んでいる

順調な展開だなあ…

まだかな

視界が歪み、眩暈がする

瞬きするうちに俺の身体を無数の蟲が這い登ってきた

「穴がある」「入りたい入りたい」「あたたかいなあ」「気持ちいいよぉ」


「ひぃっ」


蟲たちが皮膚の上を這いずり回り、毛穴から侵入してくる

血管の中を、皮膚の下を、蟲が蠢く

全身が痒い、ムズムズする、体中に蓮コラを思わせるように穴が大量に開き、ウニュルウニュルと目の多い芋虫が顔を出す


「今日からこの体は僕たちの巣だ」「巣だ巣だ」「卵産みつけなきゃ」「ありがとう」「ありがとう」「ありがとう」

卑猥だわ

特に意味なくスレタイでググったら「不思議の夢のアリス」という同じタイトルのゲームが出てきた
念のため。このSSはそのゲームとは無関係です

「苗床END?」

違う。まだ終わりたくない。アリス、君を追いかけたい

そう言おうとしたが蟲が口内まで巣を作っているため何もしゃべれない

喉奥まで蟲が蠢き這いずる


アリスの金髪を追う目にも蟲が穴を開けて卵を植え付ける


助けて…アリス…助けて


「いいよ。また次に行こうか」


妖艶な瞳と唇が俺を誘う

著名な元ネタと汎用性の高い単語の組み合わせでカブるのは仕方ない…

黄緑色の大気が覆う世界

鼻が曲がりそうな酷い硫黄の匂いの中に俺は立っていた

身体に穴は開いていない。蟲はもういない
元の身体に戻っていた…のか?やけに視界が高い

またアリスに助けられたのか

彼女は何なのだろう。夢の案内人なのだろうか。俺の目的なのだろうか。それとも悪夢の元凶か

「夢に意味などありましょうか」

地面に落ちたシルクハットが口を開けて言った

「その登場人物にも意味などはありませぬ」

ティーカップが言う

知りたくなかった事実

「さあさあマッドハッターのティーパーティだ」

「楽しめ楽しめ」

楽しげなお茶会が目の前に広がった。コマネズミがちょこちょことテーブルの上を駆け回って菓子や砂糖を運ぶ


硫黄の匂いが強くなる。あのお茶のせいなのか

口をつけてみた。芳醇な香りがとても美味だった


「飲んだ!」「飲んだぞ!」「誰だお前は!」

その場にいる全員が俺を睨んだ


ネズミたちが。シルクハットとティーカップが。椅子が。テーブルが。テーブルクロスが。皿が。空気が。音が。全てが。


ガチャガチャガチャと怒りの音を上げる食器たち

音が渦となって俺を責める

雰囲気すき

ハイライトきたー

しかし大抵のアリスものでスルーされるドードー鳥らとトカゲの人気のなさよ…

怒りに震える帽子から赤い煙がシューシューと吹き出し、世界を緑色に染めていく

三日月の形をしたウサギが

「なんでもない日!なんでもない日!誰でもない誰かがいるぞ!」

と叫びながらティーカップの上を飛び回る


「紅茶の肴には魚がいい!紅茶の菓子には人間一番!」

「勝手に紅茶会に出てくる無礼者は菓子にしてちゃえ!」


バターを塗りたくったバターナイフが、イチゴジャムのビンが俺にめがけて飛んでくる

そして最後に紅茶のポットが俺を吸い込んだ

俺は為す術もなく、その中へ

ボボボーボ・ボーボボ思い出すな

三日月ウサギ……シュール

ポットの中は海のように広い。空には角砂糖の太陽が甘い光を放っている


紅茶の中には様々なものが漂っていた

ジャム、解けた氷、皿、血まみれのネズミ、ドードー鳥の丸焼き、焦げたトカゲ、懐中時計、10/6と書いてあるシルクハット、キセル、ハートのQのトランプ、クイーンのチェス駒

俺はその中からマドラーを掴んで船に、トランプを掴んでオールの代わりにする

さあ船旅だ

やった! いっぱい来た!!

マドラーが船でトランプがオール……バランスむずいw

期待

巨大な山の海を超え、緑茶の大海を渡り、見果てぬ航海の更に先へ行き渡る

時は70の昼と40の夜を過ぎ、21の朝が遠くに輝く頃だ

光る海底から振る波が俺を押し上げ、方々へ押し流す

更に北極星が7度公転した後にようやく大陸が見えてきた


~素敵なす、スープ、たっぷり、み、緑、熱いおな、鍋で、まま、待ってるよ~♪


不思議な歌が聞こえてきた

浜辺で牛の頭をしておむつをはいた気味悪いウミガメが、固まったウサギを使って海をかき混ぜていた

「誰が飲まずにいられるか、す、素敵な、す、スープ、おかずは、い、いらない~♪」

「肉も、魚も、い、いるものか、素敵なスープ、が、二円ぽっち、素敵なスープが一円ぽっち~♪」


甲羅に顔が一つ一つ浮かび上がり合唱する


「肉も、魚も、もいるも、ものか、これ一杯で事足りる~♪」

「ゆ、ゆうげのす、スープ~♪」


「ウミガメの、スープだよ」


俺はそれを無視して陸に上がる


「飲まずに行く気かい?」

「誰が飲まずにいられるかい。ゆうげのスープ飲んで行きな。たったの一円ぽっちだ」

一円も持ってない

「何言っているんだい、あるじゃないか。大量に」


吐き気がこみ上げてくる


「うっぷ」

「おえぇえぇええ」


ヂャリヂャリヂャリ


なるほど。胃の中にあったのか

スープは五臓六腑、指の先にまで染み渡る

解けてしまいそうだ…俺が…

「ほっぺが落ちる味、なんていうけど本当に落としちゃダメ」


アリスが微笑む

瞬きの後にアリスは消え、ウミガメはスープの中に溶けて広がる

ザァーと雨が降り注ぐ

その心地好い雨はタマゴだった

卵が光りながら鉛色の慟哭を叫ぶ空から降り注ぐ


地面に当たる度に悪夢が生まれ、服の中に入り込んでくる


「トゥイードルダム」
「トゥイードルディー」
「トゥイードルダム」
「トゥイードルディー」
「トゥイードルダム」
「トゥイードルディー」

「がらがらがらがらトゥイードルダム」
「鶏か卵かトゥイードルディー」


卵が降り注ぐ。そんな言葉を吐きながら降り注ぐ

断末魔を上げて町が産まれる

現世の苦しみを知っているかのように、産まれたくないと叫びながら産み出される


天へと届く摩天楼。地獄の鐘を鳴り響かす鐘楼

教会は怨みの賛辞を吐き続け、刑務所には天使が収監され、処刑場には茨の冠をつけた骸骨が貼り付けられている

歪んだ太陽が町を燃やし、あまねく星々は喝采を送っては人を食らう

お面をつけた人々が往来を飛び跳ね、気狂い染みた叫び声を絶え間なく発している


ここは俺の住んでいる町だ

ジンメン

世紀末感!(黙示録的な意味で)

>鶏か卵かトゥイードルディー
語呂いいww

こんな物語の体もなしてない意味不明なもの面白いと思って書いてんのかね

俺は好きだけどね、こういう作品。

http://imgur.com/xHpQG15.png
http://imgur.com/1dyupBq.png
http://imgur.com/5S98pW2.png
http://imgur.com/USc1iD7.png
http://imgur.com/NjyUZBc.png
http://imgur.com/ob5S5h7.png

>>55
グロ注意

わりと不思議の国のアリスに忠実な展開なんだが…
まあ、少なくとも読んで面白いから問題ない、てか続けろください

原作からして意味不明なんだが

どーしてもボーボボとドンパッチが出てきて困ってる

まだかな

光に歪められた町並み、暗澹たる影がマンホールを押し退けて夕刻の空に吹き上がる

夕日は潰れて広がり、血塗れの陽光を町に吹き付けている

夜闇が昼の明かりを飲み込むこの時刻にして俺は重たい足を引きずる

この町にいると気が重い、押し潰されそうになる


これは夢だ。分かっている。意味等無い。あるはずがない


しかしこの町は吐きそうなほどに大嫌いだ

現実の町は大好きだ。大好きなのに…現実まで嫌いになってしまいそうだ


気狂いの住民が俺の周りでおぞましく舞い始める

俺の名前を呼びながら、俺に呼びかけながら

気狂いたちが異界的な舞を踊り狂いながらそのお面を外す

無表情のお面の下に表情は無く、特徴を伝える単語だけが羅列されて描かれている

最後の一人は…その顔は…

おぞましく歪みズレた顔のパーツがめまいを覚える違和感を誘い、けたたましい叫び声を発するその人物


…俺の、親友だ
親友が俺に向かって耳を劈く奇声を放ち、身の毛のよだつ顔を常時変形させては俺をあざ笑っている

何で…お前が

やった、来てた

禍々しいね

奇形の顔が俺の前でぐにゃぐにゃとグロテスクに変形を続ける

吐き気を催す俺の手の中に包丁が出現する

この非現実な風景の中でそれだけは唯一"普通"だった


「私を使って」「私を刺して」「引き裂いて」「バラバラにして」


そして普通からかけ離れたことを喋り出す

嫌だ…こいつを殺すなんて…夢とはいえ…親友だぞ…


「殺せ」「殺せ」「殺せ」


俺の視界の端に金髪がふわりと見えた


「殺しちゃえ」


アリスが俺に囁きかける

無慈悲!

アリスの透き通った声が耳から入り込み、脳を侵す

言葉が浸透し、行動を支配する


「ぅあぁあああ!」


包丁を振りあげ、思いきり突き刺した!

柔らかい肉を引き裂く感覚、包丁が骨をゴリゴリと削っていく感触が手に…手に…


「もっと殺して見せて。もっと、何度も」


アリスが、俺にそう言ってくれる

分かった。何度でも。殺そう

今の俺にあるのは殺意でも悪意でもない

あるのは唯渇望、アリスを求め、期待に応えんとする渇望

アリス ―ザシュ― 見てくれ ―ザシュ― 君の言うとおり ―ザシュ― 何度でも ―ザシュ―


殺して見せよう


「うふふふ」


アリスが笑う


「ああはははははははあ」


俺も笑う


親友は刺すごとに現実で見る顔になっていく

最初は崩れた、人間とは到底思えない顔だったのが、今じゃ、完全に


現実で毎日見ている親友の、いつもの顔に



「ほら、もっと殺せ。もっと、もっと」


刺すごとにアリスの姿がはっきりと見えるようになる

刺すごとにアリスの声がもっと聞ける


もっと刺せば…アリスをもっと…

ああ…

「何で…やめて…くれ…」


"親友"が初めて声を出した

苦痛に顔を歪め、痛みにうめく声を上げ、訴える


「うわぁぁああああ!」


俺はさらなる大声でそれを掻き消してナイフを突き立てる


「飽きちゃった」

アリスがつまらなそうにそう言った

アリスの言葉がスイッチだったかのように世界が渦を巻く

視界が歪み、轟く轟音と共に全てを彼方へ飛び去っていく

アリス…どこへ行ってしまうんだ…俺は君の言うとおりにあいつを殺し続けたのに

殺して…殺して…殺して…


現実であいつを見たとき、俺はあいつをどう認識してしまうのだろう

こわいこわい

闇より深い深淵、深々と降り積もる淡い光

また俺を中心に世界が形成される

薄暗い光は少しずつ世界を照らし、俺の視るものに意味を与えてくれる

また世界が生み出されるのか

まだ夢は続くのか

アリスはもうどこにもいない

現実はまだ遠く

目覚めませんなあ…

景色がボトボトと流れて落ちる

時も空間もここでは意味をなさない

何故なら夢だから

唯の夢


なのに何故醒めない

もう何千年もこの夢を続けて見ている

もはや現実を忘れかけているような気すらする


…現実…あんな現実に何の価値があるのだろうか

ここの世界にはアリスがいるじゃないか

ながぁい

不意に"現実"が現れた

良く見た景色、無機質な建物、毎日通っている"駅"だ

空も、景色も、建物も人間も雑踏も小動物も虫も全部現実そのものだった


「俺は…目が覚めたのか?」


どこを見ても不思議で奇怪で甘美な悪夢は見当たらない

普通でつまらなく、苦痛で普遍な日常の現実

一歩歩く

アスファルトの亀裂から、タイルの隙間から、悪夢が漏れ出してくる

滲み出た混沌は大気に染み込み、景色は病的なカオスを取り戻していく

結局目はまだ醒めていない。悪夢よ、麗しきかなおぞましく甘美なる悪夢よ


雑踏が吸い込まれるように駅へと流れ込む

未だ現実を保っている駅が音を立てて人を飲み込んでいく

俺の足も駅へと向かっていた

内壁は脈打つように波打ち、血管が床に路線図を描いて張り巡らされている

ホームには死んだような顔の手足に鎖を巻きつけたスーツ人間が密集しており、サイレンと共に線路へ落下していく

満面の笑みを浮かべて轢かれる愚者たちはやがて腐って地面に染み込み、線路に敷き詰められる砂利となる


パァアッァアアアン!!


音を立てて電車がやってくる

人間をひき殺しながら、死骸を食らいながら

おぞましい肉と血が張り付いた電車がやってくる

悪夢! 悪夢!

まだかなー

ほしゅ

電車の壁は血に塗れ(まみれ)、錆びついた鉄によって構成されておいる

古さびた血はグジュグジュと蠢いて饐えた臭いを放っている


客を飲み込んでモグモグと顎を蠢かする電車は自分の番に暗黒の口を開いておいでおいでをしている


「ゴクリ」


俺は唾を飲み込みのみこみ、一歩を踏み出して喰われる

電車の中に鉄製は一切無く、腐り切った鳴動する黒い肉が継ぎ目なく敷き詰められている

シートは編まれた黒い毛髪によって形作られ、つり革は糸で繋げられた蟲の数珠だ


ブブブブ…ブブブブ・・・ブ―ブゥウブ

ブ…ブブ…


弱々しい蟲の羽音…断続的に頭の中に紡がれるその狂いそうなほどに五月蠅い蟲の聲が脳内を犯していく

待ってた

キャァキャァアアアアア


耳を劈くその悲鳴が俺の意識を引き戻す

それはきっと電車の発車メロディ


車輪ではなく細かくビッシリと張り巡らされた脚が車体を動かして走り出す


ガダガダガダガダガダガダガダガダガダガダ


俺は立つことすら憑かれたこの体この腰を毛髪にて紡がれた椅子に落ち着ける

毛髪が蠢きだす

俺の体を取り込むように、俺の体に取り入るように、ズボンの縫い目一つ一つから、服のスキマ一つ一つから


肌の毛穴に触れ、毛穴から中に侵入してくる

ツぅぎはァー、ァァ、現実ぅ…現実ァ―乗継は…あリません…



程よい微睡みからそのアナウンスによって目覚める

黴の生えた培養ガラスを爪で引っ掻くような吐き気のする嫌な声で、脳内に渦巻くようなそのアナウンス


降りなきゃ―とっさにそう思った

降りなければ…ここで降りなければ…俺は…



その次はぁ…虚無ぇ…虚無、ゥー、その次は永劫―そして、悪夢にぃ、終点になりまぁス―

消え去る前に―早めに降りてくださいぃ

降りなきゃ…降りなきゃ…


「行っちゃうの?」


隣に座っているアリスが問う


「あなたは私を欲しいんじゃなかったの?」

「でも…」


「置いていくの?」

「ここは甘美よ?」

「ここはあなたの居場所」

「唯一の居場所」

「あなたはここから出てはいけないの」

「さあ、私の中で、永遠に…いましょう?」


シートの中からにじみ出てくる。吊り広告から浮き出てくる。無定形の乗客が姿を変えて。アリスが無限に現れる


「俺は…」

「確かにここはとても良い場所だよ…すごく、居心地がいい」

「でも、俺は…俺は…」


「現実に生きているんだ!」


そう叫んで締まろうとしている扉から体を捻って飛び出す


「そう。なら…後悔しちゃだめよ」

ブゥン…ブブ…ン…ンンンン…

遠くで振り子時計が遠く揺らいでいる

ひび割れたコンクリートの天井が無表情に俺を見つめている

窓には鉄格子が嵌められている

ベッドには汗ばったシーツが延びており、俺が寝ていたという証拠となっている


「ここが…現実だと…いうのか…」


くすくす…くすくす…あは、あはは…

天井から生えているくすんだ電球には気味の悪い蛾が巨大な羽をゆっくりと羽ばたかせて止まっている


くすくす…きぃひひひ、あはははは

外…廊下の方から狂ったような笑い声がする


そんな…ここは牢というより…まるで精神病院のようではナいか

揺らめく床には幻魔作用≪ドグラ・マグラ≫という文字がデカデカと描かれて…


「ねえ…これが、こんなのが……あなたの思い描いていた"現実"なの?」


アリスの声が…夢から染み出してきた

「た…たすけ…」

鉄格子のついた窓にすがりよる

その外に見えるのは…太古の羊歯植物
ムシャムシャと這いつくばりながら食らいついている巨大な顔と貧相な体の人間たち


「違う…ここは…まだ夢の中だ…」

「そう…その通りよ」


ベッドの上のシーツが膨らんで白く細い骨のような腕が俺を掴んで引きずり込む

目の前に金髪の美少女が立っている

絵画に描かれたような…語り継がれるエルフのような…誰も見たことの無い女神ような…
それほどの美しさを持つ美少女


「そう…あなたは私の中に居続けるのが幸せなのよ」

「…そウだなぁ…」

「では、また会いましょう」


アリスが消えゆく


俺が見たあそこは結局現実だったのか…それとも旅を続ければ本当の現実に辿り着くのか

夢はまだ終わらない…終わらない

長い長いトンネル

曲がりくねり、上へ延び下へ伸び

重力が上を向き、頭に血が上り、世界がぐにゃり

匂いまでもが異様にうねるその空間は俺をどこへ誘うのか


アリス…君を…求めて…

やがて流動が押し寄せてくる

ドブのような酷い糞臭がするそれらがなすすべもない俺を飲み込んで流れていく

悪臭に吐き、ゲロだか元のドブなのだか分からないおぞましい液体と共に俺は流れていく


これの中に溶けてしまうことだけはごめんだ

気力を強く持つんだ

「ぷはっ!…はぁっ…はぁっ…」

「げほっ、げほぅ」


吐瀉物の中に茶色いトランプが入り混じって吐き出される


血管が四方から這い出て、手足を形作る


手に手に槍を取って騒ぎ始めた

「我らは兵隊じゃ!」「私たちは兵隊だ」「捉えろ」「連行しろ」


逃げなければ。そのトランプの兵隊どもから

脳味噌が爛れそうだ(そこがいい)

こわい

まだかなー

甘い蜜に集り群がる蟲の大群のように襲い掛かるトランプ兵隊ども

「うわ、わぁあああ」

振り払い、逃げ回る


トランプが追いかけて襲ってくる。明確な殺意は感じられない。だからこそ怖い

何を考えているかわからない小さな群れが波のように膨れ上がって迫ってくる


走る。走り回って、逃げて、逃げ回って

おお

ほしゅ

やがて辿り逝くは森の中

木々のざわめきが悲鳴を奏で、小鳥の囀りが轟く金切声を空に向かって響かせる


追われて着くのは巨大な城

ふんわりと鼻を突く胡椒の匂い

城壁は黒い漣が波打ち、空が揺らいでは森が嗤う

気配が蠢き、渦のように城の中へと吸い込まれている


俺自身もその中へ誘われる。何かが呼ぶ。俺の存在を

ウゾウゾと壁の文様が蟲のように蠢いている

どこまでも永遠に続く回廊に飾られた絵画が甲高い嗤い声を響かせる

その奥から歌声が聞こえてくる


「可愛い坊やは怒鳴りつけ♪」

「くしゃみをしたらひっぱたく~♪」

「う~わっ♪おぉーわぁっ♪」


人ならざる澱みの深くから泡立つように響く汚らしい声で

子供をあやすような口調で

「ああ、あなた。愛しいあなた。私のもとへおいでなさい」

ブクブクと、泥の底から泡立つような穢らわしい声が誰かを呼ぶ

誰を?

「さあ、おいでなさい」


俺の体が惹きよせられる。その汚らしい声に、穢らわしい声に


「会いたかったわ。あなたぁ」


ブヨブヨと醜い婦人が俺を迎え入れた

肥溜めのような腐臭、表情が分からない程膨れ上がった血管が浮かぶ青白い顔

「ギャァアアア!ギャァアアアア!」


部屋の隅に広がる灰色の肉の塊が叫び声をあげる


「ねえ、あなた、愛し合いましょう。ねえ、ワタシノカラダトイッショニナロウ」

「来るな…」


腐臭のする婦人が服を脱ぐ

なんと汚らしい事か。下水よりも酷い臭いとヘドロよりおぞましい見た目の体

おつ

ネームドモンスターが あらわれた!

やはり有名どころはテンション上がる…

「ひ、ぃゃだ、嫌だっ」


手探りで床にあるものを手に取る


「うぁあああ!」

手にしたそれを使う。鼻につくスパイス…細かい黒胡椒の匂いが化物を包み込む

ペッパーミルのマシンガン。そいつの体を細切れに叩き込む武器だ


「いい様ね。公爵夫人」


黄金の髪をなびかせてアリスがふわりと化け物を挟んだ反対側に立つ

「ほら美味しそうなローストチキン」

化物が料理にだ。スパイスの効いた匂いが食欲をそそる


「あーんして」


アリスがそれを両手に抱えて俺の口に運ぶ。至福

「むぐ…むぐう」


「まだまだあるのよ?ほら、食べて。食べて」


いや…もうお腹いっぱいだ。太った人間一人丸々なんて食べられるわけではない

それでも休むことなく口に肉が詰め込まれる

アリスに食べさせられている至福は膨満の拷問に変わり、置き去りにされた膨れた赤ん坊の金切り声が耳を劈く

腹の中で更に膨れ上がる。腹が丸くなり、常識を超えて膨らむ


風船…肉の風船。赤黒い血管が浮き出て脈打っている

俺の体が…俺の体が…



「全部食べさせてあげるわ。全部」


やめて…もうやめてくれ…アリス

刺激的ぃ

おつおつ

保守

ほっしゅ

ほしゅー

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