男「不思議の夢のアリス」 (114)

夜中に目を醒ます。そんな時は決まって窓の外に女の子が立っている

ここはマンションの4階。金髪の少女が窓の外で楽しそうに微笑んで立っているには少々おかしい場所

時計を見るとどれも狂ったように針が高速回転している

空はピンク色で雲が生き物のようにウゾウゾと蠢いている

それ以外に部屋に変化は無い?無いのだろうか、俺が気にしてないだけだろうか

この壁はこんなだっただろうか。部屋の模様は、こんなに鮮やかなどどめ色をしていたか

本の表紙が嘲け笑っている。エアコンから風が禍々しい気流を生み出す

そんな中でキャハハハっと声がした。窓の外から

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最近同じ夢を見る

彼女はずっと窓の外から向こう側を向いている

俺は夢の少女に恋しているのかもしれない

しかし彼女は振り返ってくれない。微笑んでいるのは分かる。美少女だというのも分かる。でも顔は見たこと無い

夢は夢だ。あまり入れ込んではいけない。そう思いつつ


望んだ


あの夢の続きを。彼女を

いつもと同じ夢を見た

時計の針は13しか書かれていない文字盤の上をグルグルと回り続ける

ピンク色の雲は次々と姿を変え、地上の人を食っている

狂気染みた暴風が木々を揺らし、地面から動物が這い出す

壁が蠢く、モゾモゾと

ああ、いつもと同じ夢だ

窓の外の金髪の少女は変わらず向こう側を向きながら窓の外で後ろに手を組んで立っている


ああ、窓の鍵に手をかけたい

ガチャって開けたい

でも、でも手は動かない。動かない

夢をコントロールする方法を調べた
どれも試した

枕の下に「夢の彼女と触れ合いたい」と書いた紙を挟んだり
明晰夢を見れるBGMを聞きながら寝たり
夢日記を付けてみたり

二度寝や昼寝だとコントロールしやすいと聞くが夜いつもの就寝時間に寝ないとあの夢は見ない

そういや人は夢を毎晩見ているらしい
"見ない"という時はただ忘れているだけとか

俺は…最後に夢を見なかったのはいつだろう

目の前で180度首だけが回転し、美しい金髪の少女が口を歪める

美しい少女の異常な格好の不気味な笑み


「来たいならおいで」


-フ


ふわりと少女は向こう側へ倒れて消えた



「待って!」

初めて声を出した。初めて足を踏み出した

部屋の外へ、窓の向こうへ

飛び込んだ

この夢はフィクションです

脳内で作り出すフィクションと脳内で生み出される夢に何の違いがありましょうか

なのでフィクションです

現実の団体や個人に影響は関係ありません
どうせ夢です

WarniNg

CAcTIon

dAngER


そんな文字が浮かんでは消える宵闇の中


落ちてゆく?登ってゆく?変な感覚

眩暈がする。目映い闇の中煌びやかな何かがすぐ傍を通りすぎる

どこへ向かっているのか、むしろ遠ざかっているのか


「きゃははは、こっち、こっち」


アリスが俺を導く

金髪の髪が靡く、甘い香りが鼻をくすぐる


「待って、待ってくれ」


アリスが遠ざかる。小さくなっていく

ドサドサ


俺が地面に落ちる。落ちて崩れ…危ない、崩れ去ってしまうところだった

なんとか自分を保ち、立ち上がる。3本目の腕は置いていく


どこまでも深い深い夜の世界

澄んだ深海から白兎が地面に降り積もっては解けていく


この狭い部屋を抜け出して外を見よう

そう思って立ち上がる。歩き出す


アリスは姿を見せない

カチ…カチ…カチ・・・


不規則なリズムを刻んで歪な時計が時を刻む

文字盤には変な数字に似た何かが書かれている


時計の異界的なリズムが何か病的な意味を孕んでいる気がして不気味なそれから俺は離れる


「出口はどこだ?」


足元に小さな扉が見えた。これが出口か。小っちゃいな

「私を使って」


手の中にのこぎりが出現した。


「私を使って」「私を使って」「私を切って」「私を潰して」「バラバラにして」「粉々にして」


ハンマーが、鉈が、ドリルが手に中に出現して喋り出す

果ては俺の肉が叫びだす


「切れ!」「潰せ!」「壊せ!」「粉々だ!」「こま切れだ!」

のこぎりを手に取り肉を切り出す

芳醇な香り、肉から紅いワインが迸り肉汁の内からしゃぶりつきたくなる果実の匂いがする

たまらない。俺の太ももを食いたくて仕方ない

ああ、きっと美味なのだろう。甘美な誘惑が俺を誘う

しかしこの仕事を完遂しなければならない

俺を切り刻め。細切れにしろ。肉も骨も心臓もだ

全部、全部


部屋は赤ワインとパンで満たされた

こんなものだろうか、自分でもよく誘惑に耐えきったと思う

粉々になった自分が血の大海に押し流される

錆びた鉄を齧りたくなる匂いの中、抗いがたい流れが俺を掴んで離さない


ああ、外だ


形容しがたい異形の形をした太陽が天辺≪あまべ≫で輝き、黄緑色の狂気じみた光で世界を包み込んでいる


紅い紅い海を漂う俺の周りに魚たちが集まってくる

見るとその魚たちは"手"だった

手が、もしくは肩から先が泳いでいた

指を動かして、血管を揺らして、あがくように、もがくように


こいつらも俺と同じく体をバラして出てきたのだろうか

外は素敵だもんな、一緒に陸まで泳ごうか


「身体だ」
「肉体だ」
「素敵な身体だなあ」
「あなたの体欲しいなあ」
「ねえ、この体頂戴」
「欲しいよ欲しいよ」


手が俺の体に群がってきた


「やめろ、これは俺の体だ!」


そう叫んでも手たちはやめてくれない
俺の体の節々を引っ張ってくる

引きちぎれる痛みが断続的に全身を蝕む

痛い、痛い痛い痛い

ぶちぶち、と千切れる音が聞こえた

叫ぶと喉に手が飛び込んできた。俺の声帯を毟り取ろうとして来やがった!

この野郎とばかりに噛みついてやった

今度は「ぎゃあ」と手が叫んだ


噛むと肉汁が口の中に溢れだす。歯ごたえも味もとても良い

何だこれは。新たなる味覚、触感、初めて味わう美味なる感覚は口から脳へ、全身へと駆け巡った

美味さがもはや快楽、快感となって全身の味覚へ羽ばたいた。細胞という細胞が歓喜の悲鳴をあげ、もっと肉をよこせと叫びだす


ああ、これが本当の「美味しい」なのか


俺は周りの手を食いだす。もっとよこせ。手を、足を、目玉を、脳を、もっと食べる

食べる食べる

モグモグモグモグモグモグモグ

逃げ出す奴も捕まえて口に放り込む

食べ続ける。食べ続けた。腹が膨れ上がって破裂するまで


モグモグモグモグ
モグオグモグモグ

―パンッ―

腕が三十七本、脚が四十九本生えた

人間の手足を食べるとこうなるんだ。へー

それらをオールのように使い、血潮を泳ぎだす

岸はどちらだろう。あの歪んだ太陽を見れば東はあちらなので上に泳ぎだす

いずれ着くだろう


ボトボトと空から黒い何かが降り注ぐ中俺は急いだ

「早く、早く!時間がが無いんだよメアリー・スー」

「俺そんな名前じゃないんだけど」

「違うがう、君はメアリー・スーだよ時間が無いんだよ!遅刻だ遅刻だ!」


ぴょんぴょんと飛び回る悪夢的なおぞましいウサギ、その眼は針がとても速く回っていた


「ほら早くこいよ遅刻だ!遅刻遅刻」


遅刻遅刻と言いながら飛び跳ね続けるウサギだが、すぐに転んでしまった

「がうっ、がっ、ぁぁぁぁ」


絶望的な声とともに地面に飲まれたウサギ

地面がもぐもぐと口を動かす

ゴクン

地響きのような飲み込む音が聞こえた

途端に地面のミミズが固まり、黒ずみ、アスファルトへと姿を変えた


歩きやすい、とても歩きやすくなった


地面を踏みつけるために「痛い」「やめて」「踏まないで」と声がするが気にしない

「お願い」「痛い」「痛いよ」「踏まないで」「苦しいよ」「助けて」「助けて助けて」

歩きやすいんだけど仕方ない

歩きやすいんだから仕方ない。声は気にせる歩き回る

枯れた木々は風も無いのにぐねぐねと気味悪くうねり、毛の一本一本が芋虫になっている小動物がミチミチ、ギャチギャチ、アプアプ、ギョルギョルと不快な鳴き声を出している

木の虚からは無数の目が俺を見つめている

足元は既に恨ましげな声へと変わり俺を苛んでいる

奇形の顔が俺の前でぐにゃぐにゃとグロテスクに変形を続ける

吐き気を催す俺の手の中に包丁が出現する

この非現実な風景の中でそれだけは唯一"普通"だった


「私を使って」「私を刺して」「引き裂いて」「バラバラにして」


そして普通からかけ離れたことを喋り出す

嫌だ…こいつを殺すなんて…夢とはいえ…親友だぞ…


「殺せ」「殺せ」「殺せ」


俺の視界の端に金髪がふわりと見えた


「殺しちゃえ」


アリスが俺に囁きかける

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