凛「嵐のなかの」花陽「恋だから」 (115)
むかしあるところに、鎧兜に身を包み、傭兵稼業を頑張るひとりの少女がおりました。
彼女は女の身でありながら、高い身体能力を活かし、戦時中の激動の世にもかかわらず、
多くの戦果を挙げ続けました。
―――ひとえに彼女の強さの源は。
いつも信じて支えていてくれる、ひとりの町娘の存在が大きかったゆえでしょう。
傭兵の名は凛。町娘の名は花陽。
二人は選んだ道こそ違いましたが、幼い頃からいつも一緒。
昔から花陽を守りたいと考え、運動することが大好きだった凛は。
血を見ることこそ好きではありませんでしたが、それでも花陽のために。
そう考え、周りの屈強な男たちに負けない強さを身につけました。
昔から凛の陰に隠れつつ、人にやさしくすることが好きだった花陽は。
守られてばかりの自分ではなく、少しでも凛のためになろうと。
そう考え、常に凛の身の回りの世話をし、留守を預かりともに暮らすようになりました。
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そんな二人は―――幼馴染で、親友で、いつしか恋人になっていた二人は。
禁断の恋と知りつつも、時間があれば互いを求めずには、いられなくなっていました。
「かよちん、それじゃあ今日も―――行ってくるにゃ」
「うん……気を付けて」
目を伏せながら、手作りの弁当を手渡す花陽。
彼女がこれから向かうところは。
街中の、気軽に会いに行ける工場ではない。王宮の、高貴な人々だけが入れる安全な部屋の中ではない。
彼女がこれから向かうのは、戦場なのだ。依頼を受け、雇われて。敵と命のやり取りをする。
もう何度も彼女の背中を見送ってきたはずなのに。もう何度も彼女はここに戻ってきてくれたはずなのに。
―――それでも。これが今生の別れになるかもしれないと思うと。私は……。
そんな花陽の陰った表情を見かねて、凛がばしっと彼女の肩を叩きます。
「~~っ!?い、痛いよお、凛ちゃん!」
「もー、かよちんにそんな顔されたら、凛だって気持ちよく出発できないじゃん!」
「そ、そうかもしれないけど、でも、私……」
「なに?かよちんは、凛のこと信じられない?」
「う、ううん!そんなこと、絶対絶対、ないっ!」
「よしよし、それならいいの。いい、かよちん?二人で一緒に暮らすとき、最初に決めたでしょ?」
「凛は絶対、何があっても、ここに帰ってくるから。代わりにかよちんは、必ず二人のおうちを守って、って」
花陽の頭をよしよしと撫でながら、凛は言いました。
「……うん、そうだよね。ごめんね凛ちゃん」
私、信じて待ってるから。花陽はとびっきりの笑顔で、凛に向き直ります。
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不意打ちを受け、かあっと凛の顔が真っ赤に染まりました。
「―――!っ、そうそう、かよちんは、そういう風に笑顔でいた方が、絶対にかわいいにゃ!」
「かっ、かわっ……!」
凛の必死のカウンターパンチ。花陽の方もすっかり赤面してしまいます。
そうして真っ赤になりながら、しばらく見つめ合っていた二人でしたが。
「―――そろそろ行くね、かよちん。かよちんのおにぎり楽しみにしながら頑張ってくる!」
「―――うん。とびっきり美味しくて、おっきいおにぎり作って待ってるね」
いってらっしゃい。笑顔で見送る花陽。
―――でも。彼女が出て行ったあとは。
不安を隠しきれない、曇った表情に―――戻ってしまいました。
クソライブってスレタイに書けやクソ野郎
―――
凛を送り出してから三日目の夜になりました。
もう慣れたものです。一度送り出したら、凛はそうそうすぐには帰っては来ない。いつものことでした。
戦いとはそういうもの。いつもいつでも日帰りで終わるほど、甘くはなかったのでした。
「―――うん。もう、慣れてるから」
だから、私は大丈夫。凛ちゃんは、必ず帰ってくるから。
そう自分に言い聞かせます。
震える手を押さえ、洗濯物を畳む花陽。
「……おかしいな、うまく畳めないや。いつもそう……凛ちゃんがいない間は、いつも」
畳んだはずの洗濯物はぐちゃぐちゃ。握ったはずのおにぎりはいびつに。
包丁で切ったはずの肉や野菜はうまく切れずに、代わりに花陽の指に傷をつけていました。
これでも、最近はマシになったほうなのです。凛が傭兵稼業をはじめ、毎日のように傷だらけで帰ってくるのを繰り返していた頃は、
そもそも家事をすることすらままなりませんでした。
―――しかし、マシになったといえども。家事が上手くできないことには変わりありません。
再び下手に包丁を握れば、重大な怪我に繋がるかもしれない。
それはわかっています。
でも、だけど。
「―――凛ちゃんが頑張ってるんだもん、私だって―――」
そうして、再び震える腕に鞭を打つのです。
そして、その日の深夜。
「ただいまー……」
ガチャリと扉が開きます。
「かよちーん……は、もう寝ちゃってるよねー……えへへ」
できれば、すぐにでもかよちんの顔が見たかったんだけど。起こすのも悪いし、仕方ないよね……。
そう思い、二階の自室に戻ろうとした時でした。
がばっ。
階段を上がりかけた凛の背中が、温かい感触に包まれました。
その感触はじわりと熱を伴って、背中の中心で広がります。
「うっ、ぐすっ、ひぐっ……凛ちゃん、おかえり、おかえり……」
「―――ただいま。寂しい思いさせちゃったね、かよちん」
……わかっていたはずだったけれど。
でも、こうしてかよちんが抱き着いてくると―――いつも凛は実感する。
ああ、こんなにも―――凛はかよちんを悲しませていたんだ、って。
「ん、ううん……いいの。私は―――大丈夫」
凛ちゃんが帰ってきてくれれば、それでいいの。
花陽はそう答えました。けれど。
―――大丈夫なわけない。その絆創膏だらけの指も、眼の下にくっきり映るクマも、凛が出ていくまではなかったものなのに。
言葉にはしません。ただ、ぎゅっと。
花陽のほうに向き直り、謝罪と感謝と―――同情を込めた抱擁を。
「―――ねえ、凛ちゃん」
「なあに?かよちん」
「ごめんね、疲れて帰ってきてるのに……でも、私―――」
ずっと寂しかったんだ。
火照った顔と、濡れた瞳の上目遣いで。恥ずかしそうに花陽は言います。
どきり。凛はいつも、花陽のこの誘惑に打ち勝てません。
かよちんのおにぎりが食べたいにゃーとか、お風呂に漬かってゆっくりしたいにゃーとか、今日はベッドでぐっすり寝たいにゃーとか。
いろいろと呑気なことを考えていた凛の頭の中は、全部吹っ飛んで真っ白になりました。
「……お、お手柔らかにお願いします」
その日は二人、朝まで愛し合いました。
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―――
それから数日が経ちました。
今日は凛も花陽も、どこに出かける予定もなく。
久々に、二人で自由を満喫できる休日でした。
彼女たちのデート先は、もう決まっていました。
「おっきな劇場……凛、こんなの見るのはじめてにゃー……」
「ふふ、だろうと思った♪ここでやる演劇、すっごく面白いから凛ちゃんにも見てもらおうと思って」
「見る見る!凛、演劇なんて見るのもはじめて……あれ、昔見たことあったんだっけ?あれ……どうだったかなあ??」
「ふふ、凛ちゃんったら可笑しい……!」
手をつないで劇場に入っていく二人。
席についてもなお、中のホールの大きさに、じっとしていられない凛。
「すごい!天井あんなに高いの!?どうやって作ったんだにゃ!?」
「り、凛ちゃん、静かに……」
「席も見渡す限りいーっぱい、あっちのほうまであるよー!?すっごーいっ!」
「り、凛ちゃんってばー!」
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凛がひとしきり騒ぎ終える頃、開演ブザーが鳴り、劇が始まりました。
二人が見に来たのはミュージカル。歌と踊りの融合したパフォーマンス。
「すごいねえ凛ちゃん……みんな、歌も踊りもすっごく上手で……」
「…………」
「……凛ちゃん?」
寝ちゃったのかな?そう思いながら凛の横顔を覗き込むと。
「……かよちん、すごいね……衣装も綺麗で、すっごくかわいくて……」
「歌も踊りも……こんなに人を魅了するものだったなんて……凛、全然知らなかった……」
キラキラと輝く、凛の瞳。
「……!」
「うん……気に入ってもらえて、よかった……!」
舞台は盛大な拍手と共に幕を閉じました。
―――
「かよちーん、これとかどう?」
「ええっ、こんなキラキラしてるの、私には似合わないよお……」
劇場を後にした二人は、宝石店へとやってきていました。
「えー、絶対似合うって!ほらほら、着けてみるだけでも!」
「うわっ、ちょっ、凛ちゃん……っ、っあ」
無理やり首にペンダントを着けられてしまう花陽。
ふと、近くの姿見を覗いてみると。
「――――――あ」
宝石そのものの輝きに呑まれたせいか。あるいは―――。
花陽は鏡に映った自身の美しさに、息を呑みました。
「ほら言ったじゃん!かよちんは緑色の宝石が絶対似合うって、凛思ったもん!」
「で、でも、私なんかがこんな……」
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「何言ってるの!かよちんはすっごくすっごくかわいいんだから、遠慮しちゃだめだよ!」
「そ、そう、かなあ……」
「絶対そう!エメラルドのペンダント、凛からかよちんにプレゼント!」
「え、ええっ!?だ、だめだよ凛ちゃん、こんな高そうなの……」
「いいのいいの!せっかく二人で久々のデートなんだもん、奮発しなくてどうするの!」
「いつもかよちんには寂しくて大変な思いさせちゃってるから……凛からのお詫びと、普段のお礼!」
「……えっと、その……いつもこんな凛の帰りを待っててくれて……本当にありがとうね、かよちん!」
「……凛、ちゃん……!ぐすっ」
「ちょっ、ちょちょちょっ!な、なんで泣くの!?い、嫌だった!?ペンダント」
「う、ううん……違うの……嬉しくて……」
「で、でも……ほんとにいいの?私、なんにもお返しできないのに……」
「お返しなんていらないよ、そもそも凛がかよちんにお返ししてるんだから!」
「そのまま受け取ってもらえれば、それでいいんだよ!」
「―――うん、わかった。ありがとう、凛ちゃん」
「えへへ……」
宝石店を後にする二人。
ですが、まだ彼女たちは知りませんでした。
このデートが、二人にとって最後のデートだったことを。
―――
それからひと月ほど経ったある日のこと。
「えっ―――」
―――嘘、だよね。
嘘だって、言ってよ、凛ちゃん。
激情に任せて、そう言いたかった。掴みかかって、真偽を問いたかった。
でも、踏みとどまった。到底、そんなこと―――私が言えるような状況じゃなかった。
だって―――それを告げた凛ちゃんが。一番辛そうで、一番苦しそうな顔をしていたから。
きっと、ずっと―――私のためを思って。言うべきか言わざるべきか、逡巡していたんだと思う。
いつから決まっていたことなのか。どれほど悩んでいたことなのか。
それは―――聞かなくていい。ううん、聞きたくなかった。聞く必要もない。
だから、私は。事実を受け入れようとして。
「―――もう帰ってこられないって、本当なの」
凛ちゃんにとって、告げるだけでも苦しい言葉を―――聞き返してしまった。
「……うん。今まででいちばん長い遠征。行く途中だって安全じゃないし、無事に目的地にたどり着けたとしても―――」
そこは他所の国の領地。戦うべき敵の本拠地。
私には詳しい事情も、政略的なことも何もわからないけれど。
とにかく危険なんだって―――それだけは、はっきりとわかる。
凛ちゃんの表情は今まで見たこともないくらい暗くて―――見たこともないくらい真剣だった。
その仄暗い表情は、まるで凛が別人になったように―――花陽にとっては感じられて。
決して口には出せないけれど。
ああ、ああこれが―――戦い、人を殺してきた者の眼光なのかと。
花陽は一人、深く気分が沈んでいきました。
「…………」
「…………」
二人の間には、重い沈黙が流れます。
花陽の前では決して見せなかった、傭兵としての一面を、もはや隠し切れないほど余裕を失った凛。
凛に突き付けられた残酷な現実と、見たくはなかった彼女の表情とを見てしまい動揺している花陽。
じわじわと、二人の間に溝ができていく―――。
そんな直感が二人を呑み込むと。
「あ、あのっ!」
「あのね、かよちんっ!」
二人は同時に、反射的に。互いを呼び止めようと、声をあげていました。
「あ―――えと。り、凛ちゃん、お先にどうぞ?」
「う、ううん!言いたいことがあるなら、かよちんから先に!」
「……言いたいこと―――。」
言いたいことならいっぱいあるけれど。
でも、今声をかけたのは、そうじゃなくて。
「―――なんでもないことなんだ。だけどね……なんだか、一瞬、凛ちゃんが遠くに行っちゃうような気がして」
あ、でも、これから本当に遠くに行っちゃうんだよね……。
頭の奥ではそう思ったけど、それは言わないことにした。
「あ……かよちんも?凛もね……なんか、二人の間に、壁ができちゃって、このまま戻れないような気がしたから―――だから、咄嗟に」
「……そっか。一緒だね、私たち」
「あ……うん。そうだね、一緒だよねっ」
「ふふっ」
「ははっ、あははっ」
―――そうだ。別に、気負うことなんかないじゃないか。
いつも通りでいいんだ。
ただ。ただ、ちょっとだけ。いつもより遠くに遠征するだけ。
花陽は、いつも通り凛の帰りを。
凛は、いつも通り花陽の迎えを。
互いに互いを待っていれば―――それでいいんだ。
それだけで、いいんだ。
だから。
「―――ねえ、凛ちゃん。絶対、何があっても。必ず―――ここに帰ってきてね」
「信じてる」
にっこりと。凛の大好きな笑顔で、花陽が言うと。
「―――かよちんこそ。絶対、何があっても。必ず―――二人のおうちを守ってよね」
「約束だにゃ」
しっかりと。花陽の大好きな声で、凛が応えました。
出発は明日。二人でいられるのは、今日が最後。凛は花陽にそう言いました。
だから、最後の夜には。
「―――凛ちゃん、優しくしてね……?」
「う、うううう、うん……ま、まかせるにゃ……」
夜通し、愛を確かめ合って―――。
―――
翌朝。運命の日。
二人は馬車に乗って、街の外へ続く門に向かっていました。
「……ねえ、凛ちゃん」
「…………」
「…………」
今朝からずっと―――凛ちゃんはこう。
必要以上に私と話せば、未練が湧いてくる―――まるで、そう言っているみたいで。
私と、口をきいてくれない。
―――それでも。一つだけ、どうしても言いたくて。
「―――今ならまだ間に合うよ……ねえ、凛ちゃん」
「逃げだしちゃおうよ……ねえ、凛ちゃんってば……」
「…………」
縋るように、精いっぱい甘えるように、凛ちゃんの耳元で囁いたけれど。
―――だめだよ。そんなこと、できるわけない。
態度で示された。無駄だと、はっきり思い知らされた。
私とは違う。凛ちゃんは、とっくに覚悟を決めてたんだ。
昨日、たくさん好きだよって言い合って。
昨日、たくさん、お互いのまだ知らないことを教え合って。
昨日……たくさん泣き合って。
昨日―――凛ちゃんは不安を吐露してくれた。
本当は離れるのが怖い。逃げ出せるなら逃げ出したい。かよちんとお別れしたくない……って。
そう言って思いっきり甘えて、思いっきり泣きついてきたんだ。
だから私は、この弱弱しい凛ちゃんなら、説得できるかもって思っていたけれど。
実際は逆だったんだ。
凛ちゃんは、昨日思いっきり泣きわめいて、不安を全部置いてきちゃったんだ。
だからもう―――何も未練はない。そういうことなんだと思う。
「―――わかったよ、凛ちゃん」
じゃあせめて。せめて―――これを受け取って。
あるものを凛に差し出す花陽。
「……これは?」
「羽根ペン。私が小さかったころから、ずっとずっと大切にしてきたお守りだよ」
「なっ―――う、受け取れないよ、そんな大事なものなのに!」
「気にしないで受け取って、凛ちゃん」
「―――今の私には、これがあるから大丈夫なの」
しゃらん。
花陽の首には、いつか凛にもらった、エメラルドのペンダント。
「これがあれば―――私は凛ちゃんといつでも一緒だから」
「悲しむことなんてない」
クソライブってスレタイに書けやクソ野郎死 ねよ
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あるものを凛に差し出す花陽。
「……これは?」
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「気にしないで受け取って、凛ちゃん」
「―――今の私には、これがあるから大丈夫なの」
しゃらん。
花陽の首には、いつか凛にもらった、エメラルドのペンダント。
「これがあれば―――私は凛ちゃんといつでも一緒だから」
「悲しむことなんてない」
「…………」
縋るように、精いっぱい甘えるように、凛ちゃんの耳元で囁いたけれど。
―――だめだよ。そんなこと、できるわけない。
態度で示された。無駄だと、はっきり思い知らされた。
私とは違う。凛ちゃんは、とっくに覚悟を決めてたんだ。
昨日、たくさん好きだよって言い合って。
昨日、たくさん、お互いのまだ知らないことを教え合って。
昨日……たくさん泣き合って。
昨日―――凛ちゃんは不安を吐露してくれた。
本当は離れるのが怖い。逃げ出せるなら逃げ出したい。かよちんとお別れしたくない……って。
そう言って思いっきり甘えて、思いっきり泣きついてきたんだ。
だから私は、この弱弱しい凛ちゃんなら、説得できるかもって思っていたけれど。
実際は逆だったんだ。
凛ちゃんは、昨日思いっきり泣きわめいて、不安を全部置いてきちゃったんだ。
だからもう―――何も未練はない。そういうことなんだと思う。
―――
翌朝。運命の日。
二人は馬車に乗って、街の外へ続く門に向かっていました。
「……ねえ、凛ちゃん」
「…………」
「…………」
今朝からずっと―――凛ちゃんはこう。
必要以上に私と話せば、未練が湧いてくる―――まるで、そう言っているみたいで。
私と、口をきいてくれない。
―――それでも。一つだけ、どうしても言いたくて。
「―――今ならまだ間に合うよ……ねえ、凛ちゃん」
「逃げだしちゃおうよ……ねえ、凛ちゃんってば……」
―――
翌朝。運命の日。
二人は馬車に乗って、街の外へ続く門に向かっていました。
「……ねえ、凛ちゃん」
「…………」
「…………」
今朝からずっと―――凛ちゃんはこう。
必要以上に私と話せば、未練が湧いてくる―――まるで、そう言っているみたいで。
私と、口をきいてくれない。
―――それでも。一つだけ、どうしても言いたくて。
「―――今ならまだ間に合うよ……ねえ、凛ちゃん」
「逃げだしちゃおうよ……ねえ、凛ちゃんってば……」
―――
翌朝。運命の日。
二人は馬車に乗って、街の外へ続く門に向かっていました。
「……ねえ、凛ちゃん」
「…………」
「…………」
今朝からずっと―――凛ちゃんはこう。
必要以上に私と話せば、未練が湧いてくる―――まるで、そう言っているみたいで。
私と、口をきいてくれない。
―――それでも。一つだけ、どうしても言いたくて。
「―――今ならまだ間に合うよ……ねえ、凛ちゃん」
「逃げだしちゃおうよ……ねえ、凛ちゃんってば……」
―――
翌朝。運命の日。
二人は馬車に乗って、街の外へ続く門に向かっていました。
「……ねえ、凛ちゃん」
「…………」
「…………」
今朝からずっと―――凛ちゃんはこう。
必要以上に私と話せば、未練が湧いてくる―――まるで、そう言っているみたいで。
私と、口をきいてくれない。
―――それでも。一つだけ、どうしても言いたくて。
「―――今ならまだ間に合うよ……ねえ、凛ちゃん」
「逃げだしちゃおうよ……ねえ、凛ちゃんってば……」
「―――ねえ、凛ちゃん。絶対、何があっても。必ず―――ここに帰ってきてね」
「信じてる」
にっこりと。凛の大好きな笑顔で、花陽が言うと。
「―――かよちんこそ。絶対、何があっても。必ず―――二人のおうちを守ってよね」
「約束だにゃ」
しっかりと。花陽の大好きな声で、凛が応えました。
出発は明日。二人でいられるのは、今日が最後。凛は花陽にそう言いました。
だから、最後の夜には。
「―――凛ちゃん、優しくしてね……?」
「う、うううう、うん……ま、まかせるにゃ……」
夜通し、愛を確かめ合って―――。
―――そうだ。別に、気負うことなんかないじゃないか。
いつも通りでいいんだ。
ただ。ただ、ちょっとだけ。いつもより遠くに遠征するだけ。
花陽は、いつも通り凛の帰りを。
凛は、いつも通り花陽の迎えを。
互いに互いを待っていれば―――それでいいんだ。
それだけで、いいんだ。
だから。
「―――なんでもないことなんだ。だけどね……なんだか、一瞬、凛ちゃんが遠くに行っちゃうような気がして」
あ、でも、これから本当に遠くに行っちゃうんだよね……。
頭の奥ではそう思ったけど、それは言わないことにした。
「あ……かよちんも?凛もね……なんか、二人の間に、壁ができちゃって、このまま戻れないような気がしたから―――だから、咄嗟に」
「……そっか。一緒だね、私たち」
「あ……うん。そうだね、一緒だよねっ」
「ふふっ」
「ははっ、あははっ」
花陽の前では決して見せなかった、傭兵としての一面を、もはや隠し切れないほど余裕を失った凛。
凛に突き付けられた残酷な現実と、見たくはなかった彼女の表情とを見てしまい動揺している花陽。
じわじわと、二人の間に溝ができていく―――。
そんな直感が二人を呑み込むと。
「あ、あのっ!」
「あのね、かよちんっ!」
二人は同時に、反射的に。互いを呼び止めようと、声をあげていました。
「あ―――えと。り、凛ちゃん、お先にどうぞ?」
「う、ううん!言いたいことがあるなら、かよちんから先に!」
「……言いたいこと―――。」
言いたいことならいっぱいあるけれど。
でも、今声をかけたのは、そうじゃなくて。
花陽の前では決して見せなかった、傭兵としての一面を、もはや隠し切れないほど余裕を失った凛。
凛に突き付けられた残酷な現実と、見たくはなかった彼女の表情とを見てしまい動揺している花陽。
じわじわと、二人の間に溝ができていく―――。
そんな直感が二人を呑み込むと。
「あ、あのっ!」
「あのね、かよちんっ!」
二人は同時に、反射的に。互いを呼び止めようと、声をあげていました。
「あ―――えと。り、凛ちゃん、お先にどうぞ?」
「う、ううん!言いたいことがあるなら、かよちんから先に!」
「……言いたいこと―――。」
言いたいことならいっぱいあるけれど。
でも、今声をかけたのは、そうじゃなくて。
花陽の前では決して見せなかった、傭兵としての一面を、もはや隠し切れないほど余裕を失った凛。
凛に突き付けられた残酷な現実と、見たくはなかった彼女の表情とを見てしまい動揺している花陽。
じわじわと、二人の間に溝ができていく―――。
そんな直感が二人を呑み込むと。
「あ、あのっ!」
「あのね、かよちんっ!」
二人は同時に、反射的に。互いを呼び止めようと、声をあげていました。
「あ―――えと。り、凛ちゃん、お先にどうぞ?」
「う、ううん!言いたいことがあるなら、かよちんから先に!」
「……言いたいこと―――。」
言いたいことならいっぱいあるけれど。
でも、今声をかけたのは、そうじゃなくて。
花陽の前では決して見せなかった、傭兵としての一面を、もはや隠し切れないほど余裕を失った凛。
凛に突き付けられた残酷な現実と、見たくはなかった彼女の表情とを見てしまい動揺している花陽。
じわじわと、二人の間に溝ができていく―――。
そんな直感が二人を呑み込むと。
「あ、あのっ!」
「あのね、かよちんっ!」
二人は同時に、反射的に。互いを呼び止めようと、声をあげていました。
「あ―――えと。り、凛ちゃん、お先にどうぞ?」
「う、ううん!言いたいことがあるなら、かよちんから先に!」
「……言いたいこと―――。」
言いたいことならいっぱいあるけれど。
でも、今声をかけたのは、そうじゃなくて。
花陽の前では決して見せなかった、傭兵としての一面を、もはや隠し切れないほど余裕を失った凛。
凛に突き付けられた残酷な現実と、見たくはなかった彼女の表情とを見てしまい動揺している花陽。
じわじわと、二人の間に溝ができていく―――。
そんな直感が二人を呑み込むと。
「あ、あのっ!」
「あのね、かよちんっ!」
二人は同時に、反射的に。互いを呼び止めようと、声をあげていました。
「あ―――えと。り、凛ちゃん、お先にどうぞ?」
「う、ううん!言いたいことがあるなら、かよちんから先に!」
「……言いたいこと―――。」
言いたいことならいっぱいあるけれど。
でも、今声をかけたのは、そうじゃなくて。
「……うん。今まででいちばん長い遠征。行く途中だって安全じゃないし、無事に目的地にたどり着けたとしても―――」
そこは他所の国の領地。戦うべき敵の本拠地。
私には詳しい事情も、政略的なことも何もわからないけれど。
とにかく危険なんだって―――それだけは、はっきりとわかる。
凛ちゃんの表情は今まで見たこともないくらい暗くて―――見たこともないくらい真剣だった。
その仄暗い表情は、まるで凛が別人になったように―――花陽にとっては感じられて。
決して口には出せないけれど。
ああ、ああこれが―――戦い、人を殺してきた者の眼光なのかと。
花陽は一人、深く気分が沈んでいきました。
「…………」
「…………」
二人の間には、重い沈黙が流れます。
「……うん。今まででいちばん長い遠征。行く途中だって安全じゃないし、無事に目的地にたどり着けたとしても―――」
そこは他所の国の領地。戦うべき敵の本拠地。
私には詳しい事情も、政略的なことも何もわからないけれど。
とにかく危険なんだって―――それだけは、はっきりとわかる。
凛ちゃんの表情は今まで見たこともないくらい暗くて―――見たこともないくらい真剣だった。
その仄暗い表情は、まるで凛が別人になったように―――花陽にとっては感じられて。
決して口には出せないけれど。
ああ、ああこれが―――戦い、人を殺してきた者の眼光なのかと。
花陽は一人、深く気分が沈んでいきました。
「…………」
「…………」
二人の間には、重い沈黙が流れます。
「……うん。今まででいちばん長い遠征。行く途中だって安全じゃないし、無事に目的地にたどり着けたとしても―――」
そこは他所の国の領地。戦うべき敵の本拠地。
私には詳しい事情も、政略的なことも何もわからないけれど。
とにかく危険なんだって―――それだけは、はっきりとわかる。
凛ちゃんの表情は今まで見たこともないくらい暗くて―――見たこともないくらい真剣だった。
その仄暗い表情は、まるで凛が別人になったように―――花陽にとっては感じられて。
決して口には出せないけれど。
ああ、ああこれが―――戦い、人を殺してきた者の眼光なのかと。
花陽は一人、深く気分が沈んでいきました。
「…………」
「…………」
二人の間には、重い沈黙が流れます。
「……うん。今まででいちばん長い遠征。行く途中だって安全じゃないし、無事に目的地にたどり着けたとしても―――」
そこは他所の国の領地。戦うべき敵の本拠地。
私には詳しい事情も、政略的なことも何もわからないけれど。
とにかく危険なんだって―――それだけは、はっきりとわかる。
凛ちゃんの表情は今まで見たこともないくらい暗くて―――見たこともないくらい真剣だった。
その仄暗い表情は、まるで凛が別人になったように―――花陽にとっては感じられて。
決して口には出せないけれど。
ああ、ああこれが―――戦い、人を殺してきた者の眼光なのかと。
花陽は一人、深く気分が沈んでいきました。
「…………」
「…………」
二人の間には、重い沈黙が流れます。
「かよちん……」
「だから、凛ちゃんも。これを私だと思って―――頑張ってね」
「―――うん、ありがとう」
その会話を最後に。二人は言葉を交わすことはなくなりました。
街の外へ広がる門。その手前で、馬車が止まります。
「着いちゃったね……」
「…………」
門の手前には、多くの兵がずらずらと並んでいます。
遠征に向かう兵士たちは、凛以外は男性が殆どです。女性の兵は数えるほどしかいませんでした。
「―――それじゃあ、かよちん」
「―――うん。いってらっしゃい」
「……いってきます」
馬車から降りて、凛の背中を見送る花陽。
本当は納得なんかしていない。引き止めたくて仕方がない、けど。
だけど―――これが彼女の決意ならば。
私にできることは。彼女の帰りを―――信じて待つことだけ。
振り返らない凛。隊列の中に紛れ、その姿が消えていきます。
これが。これが、最後なのか。
ううん、そんなはずはない。彼女は、凛は……必ず帰ってくる。花陽はそう、信じている。心の底から。
―――なのに、どうして。
どうして……涙があふれてくるのか。
―――
出発の時刻。門の先へ、隊列が移動していきます。その中に。
―――見つけた。凛ちゃんの姿。
目と目が合います。
頷きで返す凛。声は聞こえない。けれど、花陽の耳には。
―――かよちん。必ず帰ってくるから。信じて待っていて。
そう聞こえたような気がしました。
「凛ちゃん―――!」
大声で呼びかけたい気持ちを、ぐっと抑え込みます。
だって、彼女の目にも。花陽と同じように、涙があふれていたから。
ここで呼びかければ、きっと―――。
だから。
目線一つで合図して。お互い笑顔を交わし合って。
最後まで。涙をこらえて、別れを告げました。
門の向こうに踏み出す凛。
門の手前で見送る花陽。
―――どうか、振り返らないで。
―――どうか、行くなら―――すぐに消えて。
じゃないと、私、もう―――。
たまらず視線を逸らす花陽。
凛が果たしてこちらを振り返ったのかどうか。それはもう、花陽にはわかりませんでした。
なにしろ、次に花陽が顔を上げた時は。
もう、街の門は―――固く、閉ざされていたのですから。
―――
それから、三か月が経ちました。
英雄の凱旋、と称して兵隊たちを送り出して以来、街の中でも、外でも。
何の音沙汰もありませんでした。
新聞を取って読んでみても、定期的に送られてくる戦死者の死体を見てみても。
凛の情報はまったく掴めませんでした。
でも。それはつまり、まだ凛は生きているということです。
どのくらい過酷でつらい状況かはわからない。どこで何をしているのかさえ、わからない。
だけど、それでも彼女はまだ生きている。どこかで必ず。
―――それなら、私も。信じて待っていなくちゃ。そう思える。
もう昔の花陽とは違います。
じっとしていても手は震えない。
洗濯物もきちんと畳めるし、料理だってちゃんとできます。
それは、いつもペンダントを持ち歩くようになったからでしょうか。
これがあれば、凛がいつでもそばにいる。そういう気持ちになれるのでした。
「……そうだ、そろそろ教会にお祈りに行かなくちゃ」
凛が遠征に出かけてから、彼女が毎日欠かさず行っている、教会への巡礼。
凛のために直接できることは―――残念ながら、今の花陽には何もない。
だから、せめて。祈るだけでも。
そんな願いから、毎日祈りをささげに、彼女はここへやってくるのです。
凛にもらったペンダントをぎゅっと握りしめ、教会の天井を仰いで。
花陽は心から、彼女の無事を祈るのでした―――。
―――
「にゃああああああああっ!!!」
一方の凛は、剣を片手に血しぶきを浴びて、並み居る敵をなぎ倒す日々。
数え切れないほどの敵兵の首を撥ね飛ばし、
数え切れないほどの量の返り血を浴び続けました。
もう洗っても洗っても血の匂いが取れないくらいに。
―――互いに疲弊し、長引く戦争。
味方の兵も、次々と倒れていきました。
見知った顔の、同期の兵も。
過去にお世話になった、先輩の兵も。
数少ない女性同士で、仲の良かった友人の兵も。
戦えば戦うほど、減っていくのでした。
―――それでも。
今対峙する敵を放っておけば。いずれ祖国に進軍し、もっと身近で大切な人たちが被害に遭うかもしれません。
雇われ傭兵のくせに、死に物狂いで戦ってるのは。
国に仕えてるわけでもないのに、戦いを拒まずにいられなかったのは。そのためだから。
「凛は……かよちんを、守るために―――!」
もうすっかり血の染み込んだ、赤い羽根ペンを懐に。
振り返らずに、剣を構えて。立ち向かっていきます。
「はああああああああああああああああっ!!」
―――
「―――よちん」
「―――かよちん」
「……ん、んん……?」
見渡す限り真っ白い空間。どこまでも広がる、空と大地。
……ここはいったい。
いや、それよりも。
「今の呼ぶ声……り、凛ちゃん!?」
「かよちん、こっちにおいで……」
「凛ちゃん……凛ちゃん!ずっと会いたかった……ずっと、ずっとっ!」
花陽を呼ぶ凛の声に応じて、駆けていきます。
でも。
どこまで行っても、彼女は遠ざかっていく。一向に距離は詰まりません。
「一目見ることができて―――それだけで、よかった」
「凛は、それだけで……幸せだよ」
「なっ……ま、待ってよ!それだけじゃ嫌!」
抱きしめてほしい。口づけをしてほしい。慰めてほしい。愛してほしい。
それなのに、どうして。
見つめ合うだけでいいなんて、そんなのって―――
そこまでして。花陽は目が覚めました。
「……夢……?」
夢の中だけでも凛と会えてよかったと見るべきか。
それとも、夢の中でしか会えないこの宿命を呪うべきか。
花陽の答えは決まっていました。
「…………」
花陽の目には、涙があふれて。
もう止まらなくなってしまって。
でもそれは決して―――悲しみから来る涙ではなく。
「いつになったら―――帰ってきてくれるの、凛ちゃん」
耐えかねた花陽の―――行き場のないやるせなさによるものでした。
―――
それから更に三か月。
凛と花陽が離れ離れになってから、実に半年が経った―――その日。
「……かよちん……」
凛は、鎧も兜も、露出した顔面も。
全身を真っ赤に血塗らせて、横たわっていました。
戦いの結果は、痛み分け。
味方が全滅してなお最後まで粘り続け、たった一人で敵を撤退に追い込んだ凛の功績によるものでした。
―――でも。それは、彼女の最後の輝き。
肩に、胸に、腰に、脚に、腕に。
全身あらゆる箇所に突き立てられた長剣が、戦いの凄まじさを物語っています。
凛は既に悟っていました。もう助からないことを。
ここから生きて帰ることは―――不可能だろうことを。
「―――ごめん、かよちん……凛、約束……守れなかった、みたい……」
からんからん。
真っ赤に滲んだ羽根ペンが、音を立てて転がり落ちました。
がくがくと震える手でそれをすくい、最後の力を振り絞って―――ぎゅっと握り。
いとおしそうにペンを見つめて―――
―――そのまま静かに。凛は事切れました。
―――
その翌日の話。
今日もいつも通り、教会で祈りをささげようと。
身支度を整え、出かけようとした花陽のもとに。
凶報が届きました。
「―――うそ」
凛の、死。
目の前に突き付けられた現実。
目を逸らしたくても、逸らせません。
事実を―――目の前の死体が。
真っ赤に濡れた、動かない凛の死体が。雄弁に語っているのですから。
「そん、な……どうし、て……」
約束したのに。信じていたのに。
必ず帰ってくるって。そう言っていたのに。
どうして……?いつも、いつも凛ちゃんは。
どんなに花陽が不安な時も、必ず帰ってきて―――慰めてくれたのに。
これが。これが、戦いというものか。
これが。死というものなのか。
もしも争う必要なんかない世の中だったら、こんな悲しみは背負わなくても済んだかもしれないのに。
たとえ自分で選んだ道だとしても。
凛ちゃんは、時代に殺された―――?
凛の形見のペンダントを握りながら。
花陽はやり場のない怒りと悲しみに、じわじわと苛まれていくのでした。
―――
「…………」
凛がいなくなって一週間。
意外なことに、花陽は普段とあまり変わらない様子で生活していました。
「花陽ちゃん、おはよー!」
「あ、穂乃果ちゃん。おはよう」
「今日もかわいいねえ、相変わらずほっぺたが柔らかそうで……ぷにぷにしたくなっちゃうねえ」
「や、やめてよお穂乃果ちゃん、あははっ」
この通り、花陽の生活はいつも通りなのでした。
―――そう、表面上は。
あくまでも花陽は気づいていないだけだったのです。
自身の中にぽっかり空いた、凛がいなくなった虚脱感に。
「…………」
洗濯物を畳むときも上の空。
「…………」
掃除をする時も、気が抜けて。
―――しまいには。
「……あれ?二人分作っちゃった、お昼ご飯」
「なんで?凛ちゃんは―――もういないのに」
「…………」
無意識にフタをしていた事実に、不意に触れてしまって。
急激に腹の底から、何か熱い激情が蘇って。
「―――っ、っぁぁぁぁああああああああっ!!!」
がっしゃあん。
二人分の食事は、大きく音を立てて床に叩き付けられてしまいました。
「っ、はぁっ、はぁっ、はぁっ……」
「―――何してるの、私……食べ物、粗末にするなんて……」
「はあ、ダメだ……少し、落ち着かないと……」
その日は結局、食事は喉を通りませんでした。
―――
「ぅっ……ううっ、うっ、はあああああああっ……っ、あっ、っあ……―――っ!!」
がばり。
飛び起きるようにベッドから跳ね上がります。
―――まただ。凛ちゃんがいなくなってから、ずっとこう。
夜もまともに眠れたためしがありません。
いつもいつも、夢に見る。
あの日の光景を。
城下町から外へ続く門が開いて。
その先に―――凛ちゃんが、離れて行ってしまって。
そのままバタンと、大きな音を立てて―――二度と会えなくなる。
あの日の―――運命の分かれ目。
こんなにも後悔するのなら―――あの時止めておくべきだったのに。
凛ちゃんの反対を押し切ってでも、二人して逃げるべきだったのに。
「……どうして―――!」
自分が情けない。苦しい。悔しい。辛い。悲しい。惨い。酷い。みっともない。
もう―――頭がおかしくなりそうで。
どうすればいいのか―――私にはわからなくて。
いろいろな感情が、ないまぜに―――ぐちゃぐちゃになって。
私は、もう……。
「うっ、うぐっ、うっ……おえっ、げえっ、おえええええ……」
ろくに物も食べていないのに。
吐き気ばかりが強くなる。
―――
「凛ちゃん、凛ちゃん凛ちゃん、凛ちゃん、凛、ちゃん……っ、はあっ、はあっ……!!っあ、っ―――っ……あっ!!」
ある日の昼のこと。
花陽は、凛を求めるあまり―――欲求不満を抑えきれずに。
もう幾度となく、自身で自身を慰めるようになっていきました。
「はあ、はあ、はあ……っ」
「―――こんなところ、凛ちゃんに見られたら……いやらしい子だって思われちゃうのかな」
「でも、元はと言えば凛ちゃんがいけないんだよ……花陽を置いて行ったりするから……」
乱れた服装を整えながら、花陽は昔のことを思い出します。
引っ込み思案で、いつも臆病で、奥手だった花陽を。
凛はいつも引っ張ってくれました。
―――彼女は今でも鮮明に覚えています。まるで昨日のことのように。
幼き日、劇場で目にしたオペラの歌手に憧れて。自分もあんな風に、歌や踊りで誰かを魅了したい。
結局、叶うことはなかったけれど。それが彼女のかつての夢。
そんな小さな夢を成就させたいがために、町外れの小さな公園で歌の練習をしていると。
「綺麗な歌ー!凛にも聞かせて!」
そう言って、彼女は花陽の目の前に現れました。
戸惑い、恥ずかしがる花陽をよそに、ぐいぐいと近づいてくる凛。
そんな彼女の強引さが―――眩しくて。
いつの間にか―――なぜか、友達になっていました。
それだけでなく、まさか恋人同士になってしまうなんて―――果たして誰が予想できたでしょうか。
あれが、彼女との馴れ初め。凛と花陽の、運命の出会い。
同性同士の恋なんて、間違っているかもしれないけれど。
それでも、いつか必ず。二人は結ばれると、そう―――信じていたのに。
また涙があふれてきました。
もう何度目でしょう。とっくに慣れたはずなのに。
まだ―――まだ悲しみから抜け出せないのか。
とめどない涙は、拭っても拭っても―――溢れ出すことをやめませんでした。
―――
また別の日の話。
「かよちゃん、おはようー」
「……ああ、ことりちゃん……おはよう」
「かよちゃん……元気ないね、やっぱり凛ちゃんのこと―――」
「…………」
「……あ、ご、ごめんかよちゃん!その、私……!」
「……ううん、いいの……ことりちゃんは心配してくれただけだもん」
「悪いのは、私だから……」
「かよちゃ―――」
「……うん。今まででいちばん長い遠征。行く途中だって安全じゃないし、無事に目的地にたどり着けたとしても―――」
そこは他所の国の領地。戦うべき敵の本拠地。
私には詳しい事情も、政略的なことも何もわからないけれど。
とにかく危険なんだって―――それだけは、はっきりとわかる。
凛ちゃんの表情は今まで見たこともないくらい暗くて―――見たこともないくらい真剣だった。
その仄暗い表情は、まるで凛が別人になったように―――花陽にとっては感じられて。
決して口には出せないけれど。
ああ、ああこれが―――戦い、人を殺してきた者の眼光なのかと。
花陽は一人、深く気分が沈んでいきました。
「…………」
「…………」
二人の間には、重い沈黙が流れます。
―――
また別の日の話。
「かよちゃん、おはようー」
「……ああ、ことりちゃん……おはよう」
「かよちゃん……元気ないね、やっぱり凛ちゃんのこと―――」
「…………」
「……あ、ご、ごめんかよちゃん!その、私……!」
「……ううん、いいの……ことりちゃんは心配してくれただけだもん」
「悪いのは、私だから……」
「かよちゃ―――」
ことりは引き止めようか迷いました。
でも、ことりがこれ以上何を言っても―――おそらく彼女の心には届かないから。
つらい記憶を呼び起こすだけで、きっと何にもならないから。
だから、彼女はそれ以上声をかけることができませんでした。
家に戻った花陽。
すると……彼女は目を疑いました。
「―――凛、ちゃん?」
目の前に、屍ではなく。
かつて愛し合った、あの凛の姿が。確かにそこにあるではないですか。
「生きてた―――んだね、凛、ちゃん」
そうだ。凛ちゃんが死んでしまうなんて、そんなこと―――あるはずがない。
今までのことこそが。悪夢でしかなかったのだ。
凛ちゃんは確かにここにいる。ここに、こうして、生きて―――。
「……凛ちゃん?」
「…………」
「凛ちゃん―――どうして?どうして、何も言ってくれないの……」
凛ちゃん、凛ちゃん。
何度花陽が呼びかけても、彼女からの返答はありません。
「むぅ―――こうなったら」
不意打ちしてやる。目の前の凛をぎゅっと抱き寄せ、唇を奪ってしまおうと―――手を伸ばした時。
すっ、と。花陽の腕は、凛の身体をすり抜けていきました。
―――まるで蜃気楼のように。
「……え?」
動揺して目をごしごし擦って見ると。
もう辺りのどこにも、凛の姿はありませんでした。
「―――幻を、見てた、だけ……?」
花陽の目が翳ります。
―――こんな滑稽なことがあるものか。
私自身思っているよりも、よほどひどい精神状態じゃないか―――。
ふふっ、あはははは。
低く唸るような、掠れた声で笑います。
いいえ、嘲うというべきでしょうか。
ひひっ。あはは。いひっ、あははははは。ははっ、ひっ、ひひひひひ。
壊れたビデオテープみたいに。花陽の声は、にわかに狂気を孕んでいきます。
もういないんだ。とっくにわかっていたのに。
いつまで私はフタをして、逃げているんでしょう―――。
とうとう幻にまで見るようになってしまって。
もう帰ってこない彼女の姿を、私はいつまで待ちぼうけてればいいんだろう―――。
もう、疲れてしまった。
花陽は、疲れてしまったのです。
―――でも。それでも。
もう一度会えたなら、どんなに嬉しいだろうと―――。
未練も捨てきれないから。
だから、彼女は苦しむのです。
苦しみから―――逃れられないのです。
―――
「あら、花陽?久しぶりね、元気―――」
「…………」
―――そうには、到底見えないわね。
花陽とすれ違った彼女のの友人、にこは。
別人のようにほっそりとした花陽の身体。
はっきりと濃く現れた目の下のクマ。
虚ろにどこか遠くを見ている視線。
そのすべてに異常性を感じていました。
歩き方にも生気を感じない。まるで死人のような堕落ぶり。
誰が見ても、今の花陽は異常であると気が付くことでしょう。
「―――花陽?大丈夫……?どうして、こんなことに……」
「…………」
「花陽……花陽ってば……ちょっと、しっかりしなさいよっ!」
花陽の肩を掴んでがしがしと揺するにこ。
しかし、それでも。花陽はこちらに反応する素振りを見せません。
「もう、どうしたらこんなことになるわけ……!?いくら凛のことがショックだったからって、そんな……!」
―――凛?
生気を失っていた花陽は―――その名前に反応して。
「……凛ちゃん、凛ちゃんに……会いに行かなきゃ」
「ばか、どこに行こうっていうの!?あの子はもう―――いないのよ、どこにも!」
「―――凛ちゃん」
「花陽っ!」
「凛ちゃん、凛ちゃん、凛ちゃん……」
「花陽ってば、聞きなさいよ……!」
にこが花陽の腕をがっしり掴みます。
すると。
「―――離してよ」
「……離さない」
「ここで離したら……あんた、何するかわからないでしょ」
「―――いいから、離して」
「離さない」
「―――だったら……」
精いっぱい、掴まれた腕を振り回し抵抗する花陽。
負けじと花陽を抑え込もうとするにこ。
―――ですが。最終的に、花陽は自分ごと倒れ込んで。
「うぐっ……!」
にこに覆いかぶさる形で、拘束をほどきました。
「―――凛ちゃんっ……!」
「ま、待って、花陽……っ!」
にこの声は虚しく、花陽の胸には―――届きませんでした。
幼き日、劇場で目にしたオペラの歌手に憧れて。自分もあんな風に、歌や踊りで誰かを魅了したい。
結局、叶うことはなかったけれど。それが彼女のかつての夢。
そんな小さな夢を成就させたいがために、町外れの小さな公園で歌の練習をしていると。
「綺麗な歌ー!凛にも聞かせて!」
そう言って、彼女は花陽の目の前に現れました。
戸惑い、恥ずかしがる花陽をよそに、ぐいぐいと近づいてくる凛。
そんな彼女の強引さが―――眩しくて。
いつの間にか―――なぜか、友達になっていました。
それだけでなく、まさか恋人同士になってしまうなんて―――果たして誰が予想できたでしょうか。
あれが、彼女との馴れ初め。凛と花陽の、運命の出会い。
―――
思い出した。
凛ちゃんは。
凛ちゃんは―――時代に殺された。
ああ、そうだ。最初からわかっていたことじゃないか。
だったら。だったら、私がすべきだったことは。
凛ちゃんの死を嘆くことじゃない。
この腐った戦いの時代を―――修正すること―――!
もう、花陽には自我はありませんでした。
ただそこにあったのは、凛を失いたくなかったという―――悲痛な願いだけ。
ただそこにあったのは、凛を殺した戦争に対する―――抑えようのない憎しみだけ。
ここにいるのは、もう。
凛の愛した花陽では―――ありませんでした。
そして、同時に。
凛を愛した花陽でも―――なかったのです。
「―――いいから、離して」
「離さない」
「―――だったら……」
精いっぱい、掴まれた腕を振り回し抵抗する花陽。
負けじと花陽を抑え込もうとするにこ。
―――ですが。最終的に、花陽は自分ごと倒れ込んで。
「うぐっ……!」
にこに覆いかぶさる形で、拘束をほどきました。
「―――凛ちゃんっ……!」
「ま、待って、花陽……っ!」
にこの声は虚しく、花陽の胸には―――届きませんでした。
「……凛ちゃん、凛ちゃんに……会いに行かなきゃ」
「ばか、どこに行こうっていうの!?あの子はもう―――いないのよ、どこにも!」
「―――凛ちゃん」
「花陽っ!」
「凛ちゃん、凛ちゃん、凛ちゃん……」
「花陽ってば、聞きなさいよ……!」
にこが花陽の腕をがっしり掴みます。
すると。
「―――離してよ」
「……離さない」
「ここで離したら……あんた、何するかわからないでしょ」
―――
その日の夜。一人の少女が、城に攻め入り、衛兵に射殺されました。
国同士の存在があるから、戦争もまた存在する―――と。
きっと彼女の思考は飛躍してしまったのでしょう。
やり場のない怒りが、彼女を暴走させました。
猟銃を手に取り、城内での無差別な発砲。
衛兵十数名が重傷を負い、城の内部にも甚大な被害が発生しました。
羽交い絞めにして止めようにも、暴れ回る彼女に容易に近づく手段は存在しなかった。
―――故に。彼女は撃ち殺されてしまった。
周囲の人々には、愉快犯か―――あるいは、精神異常ゆえの行動と断定されました。
革命の炎は彼女の中だけで燃え上がり―――そのまま。消えてしまったのでした。
「―――花陽?大丈夫……?どうして、こんなことに……」
「…………」
「花陽……花陽ってば……ちょっと、しっかりしなさいよっ!」
花陽の肩を掴んでがしがしと揺するにこ。
しかし、それでも。花陽はこちらに反応する素振りを見せません。
「もう、どうしたらこんなことになるわけ……!?いくら凛のことがショックだったからって、そんな……!」
―――凛?
生気を失っていた花陽は―――その名前に反応して。
―――
「―――ちゃん」
「―――凛ちゃん」
「……ん、んん……?」
見渡す限り真っ白い空間。どこまでも広がる、空と大地。
……ここはいったい。
いや、それよりも。
「今の呼ぶ声……かよちん?」
「凛ちゃん……やっと、会えたね」
「かよちん……そっか、かよちんも、こっちに―――」
「……今度は、夢じゃないんだよね?」
―――
その日の夜。一人の少女が、城に攻め入り、衛兵に射殺されました。
国同士の存在があるから、戦争もまた存在する―――と。
きっと彼女の思考は飛躍してしまったのでしょう。
やり場のない怒りが、彼女を暴走させました。
猟銃を手に取り、城内での無差別な発砲。
衛兵十数名が重傷を負い、城の内部にも甚大な被害が発生しました。
羽交い絞めにして止めようにも、暴れ回る彼女に容易に近づく手段は存在しなかった。
―――故に。彼女は撃ち殺されてしまった。
周囲の人々には、愉快犯か―――あるいは、精神異常ゆえの行動と断定されました。
革命の炎は彼女の中だけで燃え上がり―――そのまま。消えてしまったのでした。
―――
その日の夜。一人の少女が、城に攻め入り、衛兵に射殺されました。
国同士の存在があるから、戦争もまた存在する―――と。
きっと彼女の思考は飛躍してしまったのでしょう。
やり場のない怒りが、彼女を暴走させました。
猟銃を手に取り、城内での無差別な発砲。
衛兵十数名が重傷を負い、城の内部にも甚大な被害が発生しました。
羽交い絞めにして止めようにも、暴れ回る彼女に容易に近づく手段は存在しなかった。
―――故に。彼女は撃ち殺されてしまった。
周囲の人々には、愉快犯か―――あるいは、精神異常ゆえの行動と断定されました。
革命の炎は彼女の中だけで燃え上がり―――そのまま。消えてしまったのでした。
―――
その日の夜。一人の少女が、城に攻め入り、衛兵に射殺されました。
国同士の存在があるから、戦争もまた存在する―――と。
きっと彼女の思考は飛躍してしまったのでしょう。
やり場のない怒りが、彼女を暴走させました。
猟銃を手に取り、城内での無差別な発砲。
衛兵十数名が重傷を負い、城の内部にも甚大な被害が発生しました。
羽交い絞めにして止めようにも、暴れ回る彼女に容易に近づく手段は存在しなかった。
―――故に。彼女は撃ち殺されてしまった。
周囲の人々には、愉快犯か―――あるいは、精神異常ゆえの行動と断定されました。
革命の炎は彼女の中だけで燃え上がり―――そのまま。消えてしまったのでした。
―――
その日の夜。一人の少女が、城に攻め入り、衛兵に射殺されました。
国同士の存在があるから、戦争もまた存在する―――と。
きっと彼女の思考は飛躍してしまったのでしょう。
やり場のない怒りが、彼女を暴走させました。
猟銃を手に取り、城内での無差別な発砲。
衛兵十数名が重傷を負い、城の内部にも甚大な被害が発生しました。
羽交い絞めにして止めようにも、暴れ回る彼女に容易に近づく手段は存在しなかった。
―――故に。彼女は撃ち殺されてしまった。
周囲の人々には、愉快犯か―――あるいは、精神異常ゆえの行動と断定されました。
革命の炎は彼女の中だけで燃え上がり―――そのまま。消えてしまったのでした。
「そうだね……正確にいうと、二人とも夢みたいな存在に……なっちゃったんだと思うけど」
「―――いいの。いいんだよ、私は……もう、それでいい」
「凛ちゃんに―――やっと、やっと、会えて―――!」
抱きしめてほしい。口づけをしてほしい。慰めてほしい。愛してほしい。
それだけだったのに、どうして。
見つめ合うこともできなかったなんて、そんなのって―――
―――そんなのって、おかしい。
だから。これからは、もっとたくさん。二人で一緒に。
永遠の愛を―――。
「ねえ、かよちん」
「なあに、凛ちゃん」
「―――もし生まれ変われるなら。かよちんは、何を望む?」
「……決まってるよ、そんなの。私は―――」
―――
その日の夜。一人の少女が、城に攻め入り、衛兵に射殺されました。
国同士の存在があるから、戦争もまた存在する―――と。
きっと彼女の思考は飛躍してしまったのでしょう。
やり場のない怒りが、彼女を暴走させました。
猟銃を手に取り、城内での無差別な発砲。
衛兵十数名が重傷を負い、城の内部にも甚大な被害が発生しました。
羽交い絞めにして止めようにも、暴れ回る彼女に容易に近づく手段は存在しなかった。
―――故に。彼女は撃ち殺されてしまった。
周囲の人々には、愉快犯か―――あるいは、精神異常ゆえの行動と断定されました。
革命の炎は彼女の中だけで燃え上がり―――そのまま。消えてしまったのでした。
―――
その日の夜。一人の少女が、城に攻め入り、衛兵に射殺されました。
国同士の存在があるから、戦争もまた存在する―――と。
きっと彼女の思考は飛躍してしまったのでしょう。
やり場のない怒りが、彼女を暴走させました。
猟銃を手に取り、城内での無差別な発砲。
衛兵十数名が重傷を負い、城の内部にも甚大な被害が発生しました。
羽交い絞めにして止めようにも、暴れ回る彼女に容易に近づく手段は存在しなかった。
―――故に。彼女は撃ち殺されてしまった。
周囲の人々には、愉快犯か―――あるいは、精神異常ゆえの行動と断定されました。
革命の炎は彼女の中だけで燃え上がり―――そのまま。消えてしまったのでした。
―――
その日の夜。一人の少女が、城に攻め入り、衛兵に射殺されました。
国同士の存在があるから、戦争もまた存在する―――と。
きっと彼女の思考は飛躍してしまったのでしょう。
やり場のない怒りが、彼女を暴走させました。
猟銃を手に取り、城内での無差別な発砲。
衛兵十数名が重傷を負い、城の内部にも甚大な被害が発生しました。
羽交い絞めにして止めようにも、暴れ回る彼女に容易に近づく手段は存在しなかった。
―――故に。彼女は撃ち殺されてしまった。
周囲の人々には、愉快犯か―――あるいは、精神異常ゆえの行動と断定されました。
革命の炎は彼女の中だけで燃え上がり―――そのまま。消えてしまったのでした。
歌と踊りを、自由に楽しめるような。
争いなんてない、平和な世界で。
また、凛ちゃんと、出会いたい―――。
―――
その日の夜。一人の少女が、城に攻め入り、衛兵に射殺されました。
国同士の存在があるから、戦争もまた存在する―――と。
きっと彼女の思考は飛躍してしまったのでしょう。
やり場のない怒りが、彼女を暴走させました。
猟銃を手に取り、城内での無差別な発砲。
衛兵十数名が重傷を負い、城の内部にも甚大な被害が発生しました。
羽交い絞めにして止めようにも、暴れ回る彼女に容易に近づく手段は存在しなかった。
―――故に。彼女は撃ち殺されてしまった。
周囲の人々には、愉快犯か―――あるいは、精神異常ゆえの行動と断定されました。
革命の炎は彼女の中だけで燃え上がり―――そのまま。消えてしまったのでした。
―――
その日の夜。一人の少女が、城に攻め入り、衛兵に射殺されました。
国同士の存在があるから、戦争もまた存在する―――と。
きっと彼女の思考は飛躍してしまったのでしょう。
やり場のない怒りが、彼女を暴走させました。
猟銃を手に取り、城内での無差別な発砲。
衛兵十数名が重傷を負い、城の内部にも甚大な被害が発生しました。
羽交い絞めにして止めようにも、暴れ回る彼女に容易に近づく手段は存在しなかった。
―――故に。彼女は撃ち殺されてしまった。
周囲の人々には、愉快犯か―――あるいは、精神異常ゆえの行動と断定されました。
革命の炎は彼女の中だけで燃え上がり―――そのまま。消えてしまったのでした。
―――
「かーよちん!一緒に部室まで行こうー?」
「うん!……ねえねえ凛ちゃん、私今朝ね、変な夢見たんだけど―――」
「変な夢?怖い夢でも見たのかにゃ?」
「うーんとね……私と凛ちゃんが、離れ離れになっちゃう夢―――」
「にゃにゃっ!?り、凛は嫌だよーそんなの!絶対絶対、かよちんとずーーーーーっと、一緒にスクールアイドルやっていたいっ!」
「……うん。私もだよ、凛ちゃん」
「心配しなくても、正夢になんてなったりしないよ、きっと」
「―――ほんとに?ほんとにほんと??」
「うん、ずっと一緒にいようね、凛ちゃん♪」
「かーよちーん!大好きにゃー♪」
―おしまい―
―――
その日の夜。一人の少女が、城に攻め入り、衛兵に射殺されました。
国同士の存在があるから、戦争もまた存在する―――と。
きっと彼女の思考は飛躍してしまったのでしょう。
やり場のない怒りが、彼女を暴走させました。
猟銃を手に取り、城内での無差別な発砲。
衛兵十数名が重傷を負い、城の内部にも甚大な被害が発生しました。
羽交い絞めにして止めようにも、暴れ回る彼女に容易に近づく手段は存在しなかった。
―――故に。彼女は撃ち殺されてしまった。
周囲の人々には、愉快犯か―――あるいは、精神異常ゆえの行動と断定されました。
革命の炎は彼女の中だけで燃え上がり―――そのまま。消えてしまったのでした
歌と踊りを、自由に楽しめるような。
争いなんてない、平和な世界で。
また、凛ちゃんと、出会いたい―――。
「そうだね……正確にいうと、二人とも夢みたいな存在に……なっちゃったんだと思うけど」
「―――いいの。いいんだよ、私は……もう、それでいい」
「凛ちゃんに―――やっと、やっと、会えて―――!」
抱きしめてほしい。口づけをしてほしい。慰めてほしい。愛してほしい。
それだけだったのに、どうして。
見つめ合うこともできなかったなんて、そんなのって―――
―――そんなのって、おかしい。
だから。これからは、もっとたくさん。二人で一緒に。
永遠の愛を―――。
「ねえ、かよちん」
「なあに、凛ちゃん」
「―――もし生まれ変われるなら。かよちんは、何を望む?」
「……決まってるよ、そんなの。私は―――」
―――
その日の夜。一人の少女が、城に攻め入り、衛兵に射殺されました。
国同士の存在があるから、戦争もまた存在する―――と。
きっと彼女の思考は飛躍してしまったのでしょう。
やり場のない怒りが、彼女を暴走させました。
猟銃を手に取り、城内での無差別な発砲。
衛兵十数名が重傷を負い、城の内部にも甚大な被害が発生しました。
羽交い絞めにして止めようにも、暴れ回る彼女に容易に近づく手段は存在しなかった。
―――故に。彼女は撃ち殺されてしまった。
周囲の人々には、愉快犯か―――あるいは、精神異常ゆえの行動と断定されました。
革命の炎は彼女の中だけで燃え上がり―――そのまま。消えてしまったのでした
歌と踊りを、自由に楽しめるような。
争いなんてない、平和な世界で。
また、凛ちゃんと、出会いたい―――。
「そうだね……正確にいうと、二人とも夢みたいな存在に……なっちゃったんだと思うけど」
「―――いいの。いいんだよ、私は……もう、それでいい」
「凛ちゃんに―――やっと、やっと、会えて―――!」
抱きしめてほしい。口づけをしてほしい。慰めてほしい。愛してほしい。
それだけだったのに、どうして。
見つめ合うこともできなかったなんて、そんなのって―――
―――そんなのって、おかしい。
だから。これからは、もっとたくさん。二人で一緒に。
永遠の愛を―――。
「ねえ、かよちん」
「なあに、凛ちゃん」
「―――もし生まれ変われるなら。かよちんは、何を望む?」
「……決まってるよ、そんなの。私は―――」
―――
その日の夜。一人の少女が、城に攻め入り、衛兵に射殺されました。
国同士の存在があるから、戦争もまた存在する―――と。
きっと彼女の思考は飛躍してしまったのでしょう。
やり場のない怒りが、彼女を暴走させました。
猟銃を手に取り、城内での無差別な発砲。
衛兵十数名が重傷を負い、城の内部にも甚大な被害が発生しました。
羽交い絞めにして止めようにも、暴れ回る彼女に容易に近づく手段は存在しなかった。
―――故に。彼女は撃ち殺されてしまった。
周囲の人々には、愉快犯か―――あるいは、精神異常ゆえの行動と断定されました。
革命の炎は彼女の中だけで燃え上がり―――そのまま。消えてしまったのでした
歌と踊りを、自由に楽しめるような。
争いなんてない、平和な世界で。
また、凛ちゃんと、出会いたい―――。
「そうだね……正確にいうと、二人とも夢みたいな存在に……なっちゃったんだと思うけど」
「―――いいの。いいんだよ、私は……もう、それでいい」
「凛ちゃんに―――やっと、やっと、会えて―――!」
抱きしめてほしい。口づけをしてほしい。慰めてほしい。愛してほしい。
それだけだったのに、どうして。
見つめ合うこともできなかったなんて、そんなのって―――
―――そんなのって、おかしい。
だから。これからは、もっとたくさん。二人で一緒に。
永遠の愛を―――。
「ねえ、かよちん」
「なあに、凛ちゃん」
「―――もし生まれ変われるなら。かよちんは、何を望む?」
「……決まってるよ、そんなの。私は―――」
―――
その日の夜。一人の少女が、城に攻め入り、衛兵に射殺されました。
国同士の存在があるから、戦争もまた存在する―――と。
きっと彼女の思考は飛躍してしまったのでしょう。
やり場のない怒りが、彼女を暴走させました。
猟銃を手に取り、城内での無差別な発砲。
衛兵十数名が重傷を負い、城の内部にも甚大な被害が発生しました。
羽交い絞めにして止めようにも、暴れ回る彼女に容易に近づく手段は存在しなかった。
―――故に。彼女は撃ち殺されてしまった。
周囲の人々には、愉快犯か―――あるいは、精神異常ゆえの行動と断定されました。
革命の炎は彼女の中だけで燃え上がり―――そのまま。消えてしまったのでした
歌と踊りを、自由に楽しめるような。
争いなんてない、平和な世界で。
また、凛ちゃんと、出会いたい―――。
「そうだね……正確にいうと、二人とも夢みたいな存在に……なっちゃったんだと思うけど」
「―――いいの。いいんだよ、私は……もう、それでいい」
「凛ちゃんに―――やっと、やっと、会えて―――!」
抱きしめてほしい。口づけをしてほしい。慰めてほしい。愛してほしい。
それだけだったのに、どうして。
見つめ合うこともできなかったなんて、そんなのって―――
―――そんなのって、おかしい。
だから。これからは、もっとたくさん。二人で一緒に。
永遠の愛を―――。
「ねえ、かよちん」
「なあに、凛ちゃん」
「―――もし生まれ変われるなら。かよちんは、何を望む?」
「……決まってるよ、そんなの。私は―――」
―――
その日の夜。一人の少女が、城に攻め入り、衛兵に射殺されました。
国同士の存在があるから、戦争もまた存在する―――と。
きっと彼女の思考は飛躍してしまったのでしょう。
やり場のない怒りが、彼女を暴走させました。
猟銃を手に取り、城内での無差別な発砲。
衛兵十数名が重傷を負い、城の内部にも甚大な被害が発生しました。
羽交い絞めにして止めようにも、暴れ回る彼女に容易に近づく手段は存在しなかった。
―――故に。彼女は撃ち殺されてしまった。
周囲の人々には、愉快犯か―――あるいは、精神異常ゆえの行動と断定されました。
革命の炎は彼女の中だけで燃え上がり―――そのまま。消えてしまったのでした
歌と踊りを、自由に楽しめるような。
争いなんてない、平和な世界で。
また、凛ちゃんと、出会いたい―――。
「そうだね……正確にいうと、二人とも夢みたいな存在に……なっちゃったんだと思うけど」
「―――いいの。いいんだよ、私は……もう、それでいい」
「凛ちゃんに―――やっと、やっと、会えて―――!」
抱きしめてほしい。口づけをしてほしい。慰めてほしい。愛してほしい。
それだけだったのに、どうして。
見つめ合うこともできなかったなんて、そんなのって―――
―――そんなのって、おかしい。
だから。これからは、もっとたくさん。二人で一緒に。
永遠の愛を―――。
「ねえ、かよちん」
「なあに、凛ちゃん」
「―――もし生まれ変われるなら。かよちんは、何を望む?」
「……決まってるよ、そんなの。私は―――」
―――
その日の夜。一人の少女が、城に攻め入り、衛兵に射殺されました。
国同士の存在があるから、戦争もまた存在する―――と。
きっと彼女の思考は飛躍してしまったのでしょう。
やり場のない怒りが、彼女を暴走させました。
猟銃を手に取り、城内での無差別な発砲。
衛兵十数名が重傷を負い、城の内部にも甚大な被害が発生しました。
羽交い絞めにして止めようにも、暴れ回る彼女に容易に近づく手段は存在しなかった。
―――故に。彼女は撃ち殺されてしまった。
周囲の人々には、愉快犯か―――あるいは、精神異常ゆえの行動と断定されました。
革命の炎は彼女の中だけで燃え上がり―――そのまま。消えてしまったのでした
歌と踊りを、自由に楽しめるような。
争いなんてない、平和な世界で。
また、凛ちゃんと、出会いたい―――。
「そうだね……正確にいうと、二人とも夢みたいな存在に……なっちゃったんだと思うけど」
「―――いいの。いいんだよ、私は……もう、それでいい」
「凛ちゃんに―――やっと、やっと、会えて―――!」
抱きしめてほしい。口づけをしてほしい。慰めてほしい。愛してほしい。
それだけだったのに、どうして。
見つめ合うこともできなかったなんて、そんなのって―――
―――そんなのって、おかしい。
だから。これからは、もっとたくさん。二人で一緒に。
永遠の愛を―――。
「ねえ、かよちん」
「なあに、凛ちゃん」
「―――もし生まれ変われるなら。かよちんは、何を望む?」
「……決まってるよ、そんなの。私は―――」
乙
いいお話だった
ハラショー!
心にぐっと来たわ
乙
荒らしなんてID抽出があれば怖くないにゃー!
おつおつ
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