重要な内容はないと思いますがちょっとだけ劇場版のドラマCD「あんこうチーム、訪問します!」のネタバレかもしれません
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『フラッグ車、行動不能! 優勝校は―—』
ドッと沸きあがる歓声。
吹き荒れる拍手の嵐。
押し寄せる仲間達の絶叫、涙、喜びの声。
私はキューポラから上半身だけを出してそれらを眺めながら、少しの間呆然と
していたようだ。
車内の仲間に足を小突かれ、我に返る。
キューポラの縁に手をかけて車外へ這いずり出て、目の前で敵のフラッグ車を撃破したティーガーⅠへ向かって、全速力。
ティーガーⅡの上面装甲から飛び降り、着地の衝撃で転びそうになり、それでも踏みとどまって、地面を蹴る。
勢いそのままティーガーⅠの装甲に手をかけて駆け上り、たった今、そのキューポラから姿を現した上半身に、正面から抱きついた。
「やった……やったのね、私達……!」
「うん……うん! そうだよ、エリカさん! 私達の力で、優勝したんだよ!」
感極まっているのは向こうも同じ。
震えた声と共に、普段の姿からは考えられない程に、力強く抱き返される。
「長かったわね……これでやっと、アナタの汚名を晴らせたのね。これでもう、誰にもアナタを逃亡犯だとか、腰抜けなんて言わせずに済むわ。隊長さん」
「私の事なんかどうでもいいよ。でも、これで……お姉ちゃんに胸を張って、報告できる……かな?」
「ええ。西住隊……前隊長も、家元も、きっとアナタの事を認めてくれるわ。だから……私達の街へ。熊本へ。帰りましょう、みほ―—」
「―—さん。エリカさん」
エリカ「あ……小梅……?」
小梅「そうですよ。戸締りに来たら、エリカさんが眠っていたので。風邪をひきますよ」
エリカ「……そう。作戦を考えながら、眠ってしまっていたのね、私」
小梅「はい。根を詰めるのはいいですけど、体を休めることも忘れないでください。明日は大洗女子との練習試合なんですからね、逸見隊長」
エリカ「わ、分かってるわよ……少し、うたた寝してしまっただけよ」
小梅「それが問題なんです。あのエリカさんが戦車道の事を考えながら居眠りなんて考えられません。相当疲れがたまっているんです。最近、寝てないんじゃないですか?」
エリカ「考えられないって、毎日ベッドで戦車道の事を考えながら寝てるわよ?」
小梅「鈍いふりして話を逸らさない。どうなんですか?」
エリカ「……まぁ、しっかり寝てると言ったら嘘になるけど」
小梅「じゃあ、早く帰って寝てください。 隊長になってから初めての試合ですから緊張するのは分かりますけど。隊長が寝不足なんてなったら、勝負になりませんよ。大丈夫、あれから私達も練習を重ねました。軽くあしらわれたりはしないハズです」
エリカ「……そう。そうね。いつまでも不安を感じていては、自分達の努力と技量を信じられていないということになってしまうわね」
小梅「はい。だから帰りましょう、エリカさん」
エリカ「ええ……ありがとう、小梅」
小梅「ところで、エリカさん?」
エリカ「何よ?」
小梅「とても素敵な寝顔をしていましたが、どんな夢を見ていたのですか?」
エリカ「……アナタ、趣味悪いわよ」
小梅「部屋に入ったらエリカさんの寝顔がこちらを向いていたんです」
エリカ「ふん……最低の夢よ」
小梅「みほさんの夢?」
エリカ「なっ!?」
小梅「やっぱり。エリカさんがそんな風に言う時は、大体みほさんの事だもの」
エリカ「……そうかしら?」
小梅「シラを切ってもダメです。エリカさん、キツいように見えて、人の悪口何かは滅多に言いませんから」
エリカ「そんなことないわよ。私は」
小梅「人より少しストイックで、厳しい性格をしているだけです」
エリカ「ちょっと!」
小梅「褒めてるんですよ、これでも。エリカさんほど真っ直ぐ戦車道に打ち込むなんて、そうそう出来る事ではありませんから」
エリカ「……」
小梅「……ごめんなさい、私も慣れないことをしました。緊張をほぐす事にかけて、それこそみほさんの右に出る物はいませんね」
エリカ「……夢の話なんだけど」
小梅「はい」
エリカ「戦車道の試合をしていたわ。私は副隊長で、ティーガーⅡに乗っていた。隊長車はティーガーⅠで、乗っていたのは……」
小梅「みほさん?」
エリカ「……ええ、そうよ。試合は決勝戦で、あの子のティーガーⅠが敵のフラッグ車を叩いて……私達が優勝した。私も、あの子も、それはもう泣いて喜んで……」
小梅「……少し、辛いですね」
エリカ「辛くなんか。ただ……ただ。どうしてあの子じゃなくて、私が隊長なんだろう、って。どうして、あの子がここにいないんだろう、って。思っちゃったわ。悔しいけど」
小梅「……思い出しますね。一年生の頃」
エリカ「……ええ」
まほ「新入生諸君、黒森峰女学園へ、そして戦車道へようこそ。私は西住まほ、隊長を任せてもらっている。まずは、君達に自己紹介をして貰おうと思う。端の君から、始めてくれ」
エリカ「はい! 熊本県熊本市出身、逸見エリカです! よろしくお願いします!」
まほ「ああ、よろしく。次」
みほ「はっはい! えと、熊本県熊本市出身……」
「一年生、声が小さいぞー!」
「もっとお腹の底から! 試合中でも響き渡るぐらいの声で!」
まほ「……そうだな。やり直し!」
みほ「うっ……はい! 熊本県、熊本市出身、西住みほですっ! よっ、よろしく、お願いしますっ!」
「西住……ってことは」
「あの子が隊長の妹……」
「……似てないわね」
まほ「……まぁ、いいだろう。次!」
小梅「はいっ! 赤星小梅です―—」
エリカ(この娘が……あの西住隊長の妹?)ジーッ
みほ「ふぅ……」
エリカ(何だか大人しそうだし、頼りなさそうね……大丈夫なのかしら?)
まほ「よし。一通り終わったな。ではまず、君達には基礎体力をつけてもらう。学園艦を走って一周してこい。はじめ!」
エリカ「学園艦を……!?」
小梅「どう少なく見積もっても、20キロは……」
みほ「……」グッグッ
まほ「どうした! 準備を始めろ! だが、走る前と後にストレッチは怠るなよ!」
「「「はいっ!」」」
エリカ(さすが黒森峰女学園、初日から中々ハードね……)
みほ「……」グッグッ
エリカ(……この子、もしかして言われてすぐにストレッチを始めたの? 中々肝が据わってるわね……でも、体力には私も自信がある。西住隊長の妹だとしても、負けないわよ!)
小梅「はあ、はっ、はぁっ! も、もうだめぇ……」
エリカ「はぁっ、はぁっ、はぁっ!」
エリカ(くうっ……流石に、足が上がらなくなってきたわね……でも、これならギリギリ、走りきれるはず……!)
みほ「はっ、はっ、はっ、はっ」
エリカ(ウソっ追い抜かれた!? っていうか速い! ここにきてスピードを上げてきた……! なんて体力、でも……)
エリカ「負けない、わよぉっ!」
みほ「はっ、はっ……」ニコッ
エリカ「~~~っ!」
エリカ(何よ、余裕ってわけ!? 涼しい顔しちゃってぇ……!)
エリカ「本気よ……ここからが、本気よおっ!」
「隊長。最速組が帰って来ました」
まほ「そうか、ありがとう……思ったより速いな」チラリ
みほ「はあっ、はあっ、はあっ、はあっ……すー、はー……」
エリカ「ぜっ、ぜっ、ぜっ、ぜえっ、ゲホッ、ゲホッ!」グッタリ
みほ「はあっ、大丈夫、ですか、はあっ……」
エリカ「え、ええ……すー、はー、すー、はー、大丈夫よ。すー、はー、これぐらい、ね……」
みほ「そ、そうですか……すー……はー。それなら、よかった、です」
エリカ「そうよ、すー、はー。アナタ、大人しそうな顔して、中々やるわね。すーはー」
みほ「ありがとう……お姉ちゃ、隊長と、毎朝ランニングしてたから、かな……逸見さん、ですよね。途中からペース上げてきて、追い付かれたときはビックリしました」
エリカ「最後は、根性よ。すー……西住隊長と、はー……どれぐらい走るの?」
みほ「大体10キロぐらい。休みの日はもっと増えるけど……」
エリカ「10キロ!? ゲホッ、ゴホッ!」
みほ「だ、大丈夫ですか!?」
エリカ「え、えぇ……驚いて少しむせただけよ……」
エリカ(っていうかこの子、もう息整ったわけ……?)
エリカ(……ボクササイズの時間、もう少し増やそうかしら)
まほ「……ふっ」
~~
エリカ(初めての練習試合……! ここでしっかりアピールしないと……!)
みほ『こちら偵察部隊、パンター1号車。M00670地点でフラッグ車を含む敵部隊を発見。全5両、フラッグ車を中心に一列縦隊で南西へ向けて進撃中です』
まほ『隊長車、了解。一号車、敵部隊から見てどの方向につけている?』
みほ『後方です』
まほ『よし、一気に行く。ティーガーをM00665地点へ移動させる。みほ、陽動を頼む。偵察部隊2号車、逸見もみほと合流しろ』
みほ『了解』
エリカ「了解!」
エリカ「……2号車、到着したわ。1号車、聞こえる?」
みほ『はい。これから私達で敵部隊を後方から攻撃、これは敵を怖気着かせない為にわざと外します。それから逃走するように見せかけて、敵部隊がこちらの主力部隊に側面を晒すようにおびき出します。敵部隊が追ってきたら、全速力で事前に連絡したルートに沿って移動してください。あと、敵が部隊を分散して挟み撃ちを狙ってくる可能性もあるので、敵の数には注意を払うようにお願いします』
エリカ「隊長は一気に、って言っていたからフラッグ車も連れていかないといけないわ。ついてくるかしら?」
みほ『たぶん。敵戦車の性能はこちらより劣っているので、数で勝っている間に撃破したいはず。とは言えフラッグ車の護衛を捨てる訳にもいかないので、こちらが背中を向けて逃げれば全車両で追ってくると思います。特にパンターは、ティーガーよりは撃破しやすいですから』
エリカ「なるほどね。攻撃準備に入るわ」
みほ『了解しました。それと、逸見さん。砲撃時は出来るだけ姿を晒して、砲撃後2秒ほど静止してから移動してください。その方が、偵察部隊が思わず攻撃してしまった感じが出て、こちらが焦っていると思わせれば追ってくる確率が上がります』
エリカ「……アナタ、あの短い指示でそこまで汲み取ったわけ?」
みほ『えっ? 汲み取ったというか、何となく分かるというか……』
エリカ「流石は妹、ってことなのかしら……まぁいいわ。攻撃の合図はそっちに任せる」
みほ『了解。あまり砲撃を揃えては計画性が出るので、こちらの攻撃を合図に、攻撃してください。それでは姿を晒します!』
エリカ「了解!」
「黒森峰女学院の勝利!」
小梅「やった! 私達の勝ちですね!」
エリカ「ええ、そうね! 私達の勝利よ!」
みほ「……ふぅ」
エリカ「……何よ、西住妹。せっかく勝ったんだから、もう少し明るい顔してもいいんじゃないの?」
みほ「あっ、ううん、ごめんなさい。反省点を出しておこうと思って……」
小梅「こんなに早く気持ちを切り替えるなんて、みほさんは流石ですね……私も浮かれすぎない様にしないと……でも、整列ぐらいまでは喜んでもいいと思いますよ?」
みほ「うん、そうだね。ありがとう、小梅さん」
まほ「お前達」
エリカ「たっ隊長!?」ビシィ
小梅「なっ何でしょうか!?」ビシィ
まほ「逸見、赤星。二人とも、黒森峰の生徒としては初めての試合だったが、どうだ? やっていけそうか?」
エリカ「はい! 伝統ある黒森峰女学院の戦車道チームの一員として試合に出場できて、感激です!」
小梅「とても緊張しました……何とか無事に終わることが出来て、安心です」
まほ「そうか。お前達もこれで立派な私達の仲間だ。これからよろしく頼む」
エリ梅「「はいっ!」」
まほ「何か分からないことや相談があればいつでも聞いてくれ……それから、みほ」
みほ「……はい」
まほ「陽動の手腕は見事だった。が、ルート取りが少々甘かったな。回避行動をとりやすい道を通って来たようだが、もう少し素早くおびき出せたはずだ。無理な最短を目指す必要はないが、迅速さは重要だ。敵に考える時間を与えるとこちらの作戦を読まれる可能性は高くなる。陽動は一両でも残っていれば成功する。忘れるな」
みほ「……はい」
みほ「……」
エリカ「……そんな世界の終りみたいな顔するんじゃないわよ。隊長は褒めてくれてもいたじゃない」
小梅「そうだよ。あれだけ指示を出せるんだもん、みほさんはすごいよ」
みほ「うん……」
エリカ「しっかりしなさいよ、もう……戦車に乗ってる間はあんなにハキハキしているのに。そんなんで、将来どうするのよ」
みほ「将来?」
エリカ「まだ日は浅いけど、少しだけアナタの事が分かって来たわ。アナタは隊長の器になる持っている。その為の知恵と技量も。私達の代の隊長は、アナタで決まりよ」
みほ「えぇ……えぇっ!?」
小梅「そうですね。みほさんなら、私も安心してついていけるかも」
みほ「で、でも……私は西住流に生まれたってだけで、お母さんやお姉ちゃんとは全然違って、ダメダメだし……」
エリカ「そんなに自分を卑下しない!」
みほ「はっはい!?」
エリカ「アナタはそりゃ……隊長に比べれば頼りないけど。実力は……ちょっと劣るぐらいよ。経験を積めば、絶対に立派な黒森峰の隊長になれる。アナタにはその実力がある。私が保証するわ」
みほ「……逸見さん」
小梅「それなら、副隊長はエリカさんですね」
エリカ「へっ? 私?」
小梅「うん。優しいみほさんと、厳しいエリカさんでいいバランスです。二人で力を合わせれば、きっと西住隊長だって超えられます!」
エリカ「私が……副隊長……」
みほ「私と、逸見さんが……」
エリカ「……まぁ、言った手前もあるし。もしもそういうことになったら、サポートしてあげるわよ」
みほ「……ありがとう、逸見さん」
エリカ「なっ何に対するお礼よ! あくまでなったら、の話なんだから!」
みほ「うん、それでも、言いたかったから。ねぇ、逸見さん」
エリカ「……なによ」
みほ「エリカさん、って呼んでもいい?」
エリカ「……別に、いいけど。じゃあ私もアナタの事みほって呼ぶわよ」
小梅「ヒューヒュー♪」
エリカ「何がヒューヒューよ! いつまでも西住妹は可哀想だし……かと言って西住だと隊長に失礼と言うか、いらぬ誤解を生みそうじゃない! 消去法よ、消去法!」
小梅「素直じゃないんだから」
エリカ「うるさい! ……はぁ、試合で緊張したし、大きな声出したしでお腹空いたわ。何か食べていきましょ……みほ。小梅も」
みほ「はい、エリカさん!」
小梅「私はオマケですか?」
エリカ「誘っただけありがたいと思いなさいよ!」
~~
みほ「……」
エリカ「就任おめでとう。副隊長さん」
みほ「……うん。ありがとう、エリカさん」
エリカ「……元気ないわね。そんなんじゃ部隊の指揮に関わるわよ?」
みほ「うん。分かってる、ちゃんとしよう、ちゃんとしようと思うんだけど……」
エリカ「自信が無いわけ?」
みほ「うん……私は一年生だし、黒森峰には実力も経験も上で、私より副隊長に向いてる先輩がたくさんいるから」
エリカ「……先輩達に、何か言われた?」
みほ「ううん、直接は……あっ!」
エリカ「……裏で話しているのを聞いたわけね。それか人づてか。どっちでもいいけど」
みほ「ちっ、違うのエリカさん。全部、本当のことだから……」
エリカ「みほ。隊長、アナタのお姉さん、西住まほさんは、アナタが妹だからって贔屓するような人かしら?」
みほ「……ううん。そんなことはしないと思う」
エリカ「そうよ。むしろ、試合中に信頼こそ感じることはあるけど、隊長はアナタにとても厳しいじゃない。絶対に、贔屓なんかしない。アナタは純粋に能力で副隊長に選ばれたの。隊長にも、他の先輩も、私も持っていない、アナタだけが持っているものを評価されて、ね」
みほ「私だけが持っているもの……お姉ちゃんにも、言われたけど……そんなの、本当に、あるのかな」
エリカ「ええ。自信を持ちなさい……と言っても、アナタには難しいでしょうね。じゃあ私が言ってあげる。みほ、アナタはとても優秀よ。隊長には全然似ていないけど……違うベクトルで、とっても優秀。自分の事を信じられないなら、私の事を、信……信じなさい!」
みほ「……はい! ありがとう、エリカさん!」
エリカ「……じゃあ、帰るわよ。外で待ってるから、支度して来なさい」
みほ「うん!」
エリカ「……」
小梅「……私の事を信じなさいとは、とっても強く出ましたね? エリカさん」
エリカ「……聞いてたの?」
小梅「そんなに嫌そうな顔をしないでください。みほさんの様子を不安に思ったのは私も一緒です。でも……エリカさんより良いことは言えないので、やめておきます」
エリカ「茶化さないで。アナタからも何か言っておきなさいよ」
小梅「真剣です。それとなく言ってはおきますけど……やっぱり、いいコンビですよ、みほさんとエリカさん」
エリカ「……茶化さないでよ」
小梅「真剣ですよ」
みほ「お待たせ、エリカさん……あ、小梅さんも待っててくれたの?」
小梅「はい。ちょうどそこでそこでお会いしたので……折角ですし、ご飯、行きましょうか」
みほ「うん!」
~~
まほ「残念ながら10連覇は逃してしまったが、記録はいつか止まるもの。そして、準優勝は立派な記録だ。みんな、胸を張れ」
コンコン
…………ガチャ
みほ「エリカ、さん?」
エリカ「そうよ。ずっと学校にも来ないから、わざわざ様子を見に来てあげたの」
みほ「え、と……ありがとう、エリカさん。いらっしゃい」
エリカ「……顔色、悪いわね」
みほ「そう、かな?」
エリカ「ええ。ご飯食べてるわけ?」
みほ「あんまり、食欲なくて」
エリカ「でしょうね。でも、ダメよ。体壊すわよ」
みほ「うん……」
エリカ「……久し振りね。少しは落ち着いた?」
みほ「うん……小梅さんは?」
エリカ「アナタと同じ。あれからずっと学校休んでるわ」
みほ「そっか……エリカさんは」
エリカ「何?」
みほ「エリカさんは。責めないんだね、私の事」
エリカ「……終わったことをどうこう言っても仕方ないじゃない」
みほ「エリカさん。私、間違ってたのかな?」
エリカ「……分からないわよ。私にだって。でも、あそこで躊躇わず助けに向かったアナタを、向かえたアナタは。とても、強いと思う。尊敬するわ」
みほ「強くなんかないよ……」
エリカ「……そう、ね。アレが正しかったんだと手っ取り早く証明するには……私達にはあと2年ある。その2年間、あの姿勢を貫いて見せなさいよ。それで優勝すれば、アナタが正しいってみんな認めるわ」
みほ「エリカさん、私はもう……」
エリカ「………………みほ。戦車道をやめるって、本当なの?」
みほ「……うん」
エリカ「黒森峰から転校するって言うのも?」
みほ「うん。大洗女子学園ってところに転校するの。関東だって。都会だよ」
エリカ「そう……そう、なのね」
みほ「うん……」
エリカ「……ようやく、みんなも落ち着いてきたわ。みんな、納得してきてる。もう誰も、アナタに文句も嫌味も言わないわ」
みほ「……ありがとう、エリカさん。お姉ちゃんに、聞いたよ。私達の為に、先輩達と喧嘩したって」
エリカ「…………気に食わない先輩だったのよ、元々。アナタを口実に突っかかっただけ」
みほ「それでも。ありがとう、エリカさん」
エリカ「……ええ」
みほ「でも……もう、決めたの。今までずっと、自分の中に違和感を持ちながら戦車道をしてた。でも、今回の試合で、お母さんと話をして……思ったの。やっぱり、違うよ、こんなの。勝利のためには犠牲を出してもいいなんて……戦車道って、おかしいよ」
エリカ「……みほらしいわね」
みほ「うん。だから、もう、戦車には乗らない。乗りたくない」
エリカ「そう……寂しく、なるわ。アナタ、戦車から降りて何をするの?」
みほ「分からない。ずっと戦車に乗っていたから。学校に行って、友達とお買い物したり、スイーツ食べたり……そんな、普通の生活……かな」
エリカ「それ、今までの私達の生活とは全然違うわよよ。そもそもアナタ、向こうで友達作れるわけ?」
みほ「だ、大丈夫だよ、たぶん……こうしてエリカさんとも友達になれたんだから」
エリカ「それも戦車道を通してじゃない」
みほ「……ふふっ」
エリカ「……何よ?」
みほ「否定、しないんだね。友達って」
エリカ「いっ……今更よ。それとも、私達は友達じゃないってわけ!?」
みほ「そんなことないよ。エリカさんは、大事なお友達だよ」
エリカ「……そう。その……何と言うか…………ありがとう」
みほ「ふふっ。ふふふっ」
エリカ「なっ何がおかしいのよーっ!?」
~~
小梅「……寂しくなりましたね」
エリカ「ええ。でも、そんなこと言っている場合じゃないわよ。これから、忙しくなるわ」
まほ「ああ。その通りだ」
エリカ「たっ隊長!?」
小梅「お疲れ様です!」
まほ「硬くしなくてもいい。逸見。少し話がある」
エリカ「私、ですか?」
まほ「ああ。少し付き合ってもらいたい」
エリカ「はっはい! 分かりました、どこへでも!」
エリカ「……副隊長? 私が、ですか?」
まほ「ああ」
エリカ「その……失礼ですが、どうして私……なのでしょう、か。他にも、適任な先輩方が……」
まほ「……」
エリカ「あの、隊長」
まほ「みほと……同じことを言うんだな。お前も」
エリカ「っ……」
まほ「すまない、今のは忘れろ。今まで思えば、私は後進の育成に熱心ではなかった。特に、次の隊長という点でな」
エリカ「みほ……さん、が。いたからですか?」
まほ「……ああ。その通りだ。みほなら、私とは違う新しい風を黒森峰に吹き込んでくれると思っていたのだが……すまない、これも忘れろ。今日はどうにも、口が過ぎる」
エリカ「いえ……心中、僅かながらですが、お察しします」
まほ「ありがとう、話を戻す。いなくなった者を悔やんでも仕方ない。が、今から普通に教えたのでは時間が足りない。お前には副隊長と言う、私に近い立場から私を見て、隊長とはどんなものか学んでほしい。無論、私が教えるべきことは教える。西住流と共にな」
エリカ「私が、西住流を?」
まほ「ああ。お前は私の後輩の中で最も西住流に近い感覚とセンスを持っている。私の西住流で作り上げた今の部隊を引き継いで、最もうまく運用できるのはお前だろう」
エリカ「……分かりました。逸見エリカ、副隊長として誠心誠意努力し、隊長の後を引き継いで見せます! ありがとうございます!」
まほ「ああ……これからよろしく頼む。エリカ」
エリカ「……はい!」
「……また二年生が副隊長?」
「西住流ならまだ分かるけど、あの子はねぇ」
「あの子、西住妹と仲良かったじゃない。それで取り入ったんじゃないの?」
エリカ「…………ッ」ギリッ
小梅「……エリカさん、やっぱり、隊長に相談した方が」
エリカ「いいえ……! これは、あの子、みほも通った道よ。この程度の事、はねのけて、笑って見せるぐらいじゃないと、黒森峰の隊長にはなれないっ……小梅、このことは絶対に、誰にも言わないで。もちろん、隊長にもよ。私を信じて」
ガチャッ
エリカ「あら、お疲れ様です、先輩方。早く準備をしてください、練習が始まりますよ」
「あら、逸見副隊長。もうそんな時間かしら。ふふふ……」
小梅(エリカさん……)
まほ「……だから、こういう場合には以下の戦術が有効だ」
エリカ「……」ウトウト
まほ「エリカ」
エリカ「はっ!? す、すみません隊長! 申し訳ありません!」ペコペコ
まほ「いや。開始から3時間経っている。熱が入って休憩を入れ損ねた私の落ち度だ。今日はここまでにしておこう……そもそも、通常練習の後に戦術を学ぶのはハードワークだったか。これからは少し、時間を減らそうか」
エリカ「いえ、大丈夫です。申し訳ありませんが、今のところをもう一度お願いできないでしょうか?」
まほ「しかし……」
エリカ「私は、まだまだ未熟です。隊長に、そして……あの子に近づく為には、僅かな時間も無駄に出来ません。お願いします!」
まほ「……分かった。だが、次キリが良い所で休憩を入れよう。コーヒーでも用意する。異論はないな?」
エリカ「はい!」
『フラッグ車、行動不能! 黒森峰女学院の勝利!』
エリカ「やった……!」
まほ「よくやったな、エリカ。今回の試合のMVPはお前だ。胸を張れ」
エリカ「はい! ありがとうございます!」
まほ「今のお前は、心強い。これなら今年は、優勝できる……!」
~~
まほ「……エリカ。今日は飽くまでただの抽選だ。あまり気を張るな」
エリカ「は、はい」
小梅「……あの、エリカさん。アレ、見ました?」
エリカ「ああ……大洗女子学園のこと? あの子も災難ね。戦車道をやめるために戦車道が無い学校に転校したのに、その年に活動が復活するなんて」
小梅「いえ、そうではなくて……そうですけど……」
エリカ「何よ、はっきりしないわねぇ」
まほ「噂をすればだな。次は大洗女子の抽選の様だ」
エリカ「そのようですね。さて、隊長はどんな子かしら。まあ、復活したてのチームですし、さほど注意を払う必要は……」
「次の抽選にうつります。大洗女子学園隊長、西住みほさん」
みほ「はっはい!」
まほ「……みほ?」
エリカ「………………」
小梅「……」
まほ「赤星。言っていたのは、これか?」
小梅「……はい。先ほど、お手洗いに行った際に見かけて……声はかけられませんでしたが」
まほ「驚いたな。まだやっているとは思わなかった」
小梅「はい……エリカさん?」
エリカ「……どうして」
小梅「えっ?」
エリカ「どうして、戦車道を続けているのよ……やめるって言うから、何も言わずに送り出したのに。どうして、ウチじゃあないのよ……副隊長は、私なんかじゃあ……」
小梅「エリカさん……」
まほ「エリカ。落ち着け」
エリカ「っ…………すみません。取り乱しました」
まほ「謝らなくていい……エリカ。後で、コーヒーでも飲もう。付き合え」
エリカ「……はい」
戦車喫茶ルクレール
エリカ「へぇ……こんなお店があるんですね」
まほ「ああ。噂に聞いていたので場所を調べておいたんだ」
ズドーン!ズドーン!
エリカ「本格的ですね。さっきから主砲の音も聞こえますし……90式でしょうか」
まほ「ほう。よく分かるな」
エリカ「えっ!?」
まほ「戦車道のレギュレーション範囲内の戦車ならある程度分かるが……現代戦車の音も分かるとはな。流石だな」
エリカ「いえ、そんなっ…………」
まほ「どうした? エリカ」
エリカ「副隊長……」
みほ「あ……」
エリカ「っ……いえ、元副隊長、でしたね」
みほ「……お姉ちゃん」
エリカ(ッ!? この子……話しかけたのは私よ! 無視するなんて、いい度胸じゃない……! 呑気にケーキなんか食べて、楽しそうに……本当に、私達の許から逃げ出したかっただけなのね、アナタは。私達を裏切ったのね、アナタは! 西住隊長の妹で、西住流家元の娘のアナタが、黒森峰の副隊長に、次期隊長に最もふさわしいアナタがッ! 私達を、裏切って……! そっちがそう出るんなら、こっちだってッ……!)ギリリ
まほ「まだ戦車道をやっているとは思わなかった」
みほ「っ……」
「お言葉ですが、あの試合の西住殿の判断は間違っていませんでした!」
エリカ「部外者は口を挟まないでほしいわね」
「……すみません」
エリカ(そうよ、部外者に……私達のことを何も知らない部外者に、どうこう言われる筋合いはないッ! あの試合の事で意見していいのは、私たちだけ……!)
エリカ(その後、売り言葉に買い言葉でいろいろと言ってやった気がするがよく覚えていない。はっきりしていることは1つだけ。みほは……いえ、あの子は、私達の敵……!)
エリカ「私が欲しかったものを全部持っている癖にッ……隊長の横に並ぶべきなのは、私なんかじゃあなくてアナタなのにッ……どうして、ウチじゃあッ……!」
まほ「……リカ。エリカ」
エリカ「あっ……」
まほ「コーヒー、ブラックだ。ここは私が持つ。気が済むまで飲め」
エリカ「ありがとう、ございます……ですが、気は……済まないかも、しれません」
まほ「済むまで付き合ってやるさ……エリカ。お前は良くやっている。副隊長になってから、立派に成長した。お前は、私の西住流を継ぐに相応しい人間だ」
エリカ「ありがとう、ございます」
エリカ(だけど……だけど、私は知っている。隊長が本当に欲しかったのは、自分の後継者じゃなくて……新しい風を吹き込んでくれる、あの子だったということを……)
エリカ(……いいわ。来るなら来なさい、裏切り者。どうせなら決勝までくればいい。そうしたら、この手で必ずアナタを……!)
~~
『大洗女子学園、八九式、ポルシェティーガー、行動不能!』
エリカ「突撃ッ! 中央広場へ急げ!」
「ポルシェティーガーが邪魔で通れません!」
エリカ「回収車、急いで!」
ナカジマ、ホシノ『『ゆっくりでいいよ~!』』
エリカ「くそっ!」
「副隊長、落ち着いてください。西住隊長とティーガーⅠがそう簡単に負けるはずが……」
エリカ「落ち着いていられるかッ! 相手は西住みほだぞッ!」
エリカ「どこまで……どこまで我々の邪魔をすれば気が済むのよッ! あの子はあッ!」
エリカ(試合の決着がついてから、私は暫くの間、放心していた)
エリカ(ふと、我に返った時。あの子は夕日を背景に、緋色の優勝旗を手にしていた)
エリカ(それを見た瞬間、悔しくて、悔しくて、隊長と優勝することが出来なかったことが悲しくて。涙が溢れそうになった。どうしてあの子に、という思いすらあった)
エリカ(対してあの子の周りの、数にしてみれば決して多くはないあの子の仲間たちはみんな笑っていた。あの子の周りは、笑顔に溢れていて……)
エリカ(その時私は、これまでついに口に出すことは出来なかった、どうして大洗なのよ、どうしてウチじゃあダメなのよ、という問の答えを得た……そんな、気がした)
~~
まほ「エリカ。聖グロリアーナからのメッセージ、お前も聞いているな?」
エリカ「はい。遠征の準備を進めるよう、指示してあります。人数分の短期転校手続きも済ませました」
まほ「早いな。だが……エリカ。お前は、本当にいいのか?」
エリカ「……と、おっしゃいますと?」
まほ「我々は大洗女子学園の為に戦う。これも戦車道だ。だが、黒森峰女学院を率いる物として。戦えない者を連れて行く訳にはいかない。エリカ、お前は……みほの為に、戦えるのか?」
エリカ「戦えます」
まほ「ほう。即答か」
エリカ「あれから……大洗女子学園に負けてから。頭を冷やして、自分なりに色々と考えました。どうして、あの子は大洗であそこまで変われたのか。あの子が黒森峰を去る前に、何か出来ることは無かったのか」
まほ「それで?」
エリカ「結論は出ませんでした。過去のことを悔やんでも仕方ありません。今、私に出来る事。それは、あの子が、みほがやっと見つけた居場所、私がなることが出来なかった場所……を、守る為に戦うこと。そして、みほのことをちゃんと理解することだと、思うんです」
まほ「……やはり、いい友達をもったな。みほは。みほの姉として、そして、お前の先輩として。エリカ、お前に出会えてよかったと、心から思うよ」
エリカ「そんなっ……ありがとう、ございます。ですが……私は、結局、あの子の本当の友達にはなれませんでした。自惚れですが、私がもう少しでもみほと分かり合うことが出来ていたら……今でもみほは、アナタの横にいたのではないかと。そう思います」
まほ「自惚れだな」
エリカ「……はい」
まほ「一人で背負うな、エリカ。みほのことを理解できていなかったのは私も同じだ。それも、姉の身でありながらな。みほが黒森峰を出て行くと言った時、私は初めてそのことに気づいた。姉の私が、もう少しでもみほのことを分かってやれていたら……みほの優しい心を、戦車道には向いていないなどと思わず、もっと生かす方向に持って行けていたら……と、な」
エリカ「隊長……」
まほ「だから、私は行く。罪滅ぼしのつもりではないが……お前の言うとおり、みほが見つけた居場所を、守ってやる。それが、私達が唯一、みほの為に出来る事だろう……共に行くか、エリカ」
エリカ「はいっ!」
まほ「……終わったら、みほに謝らなくてはな」
エリカ「……隊長、ちゃんと謝れるんですか?」
まほ「当然だ。自らに向き合って、非を認めるのも戦車道だ。エリカこそ、ちゃんと謝れるのか?」
エリカ「……自信、ありません」
まほ「ゆっくりでいいさ。時間がかかっても、ゆっくりわだかまりを解いて行けば、それで、な」
大洗女子一同「「「ありがとうございました!」」」
西「こちらこそ、お礼を言わせて頂きたいです!」
みほ「~~~」
まほ「~~~」
小梅「ふふっ。何を喋っているんでしょうね。お二人は」
エリカ「……さぁ?」
小梅「笑ってます、二人とも。完全に、雪解けしたみたいですね」
エリカ「……そうね」
小梅「エリカさんは?」
エリカ「……何よ?」
小梅「エリカさんは、いつみほさんと仲直りするんですか?」
エリカ「……さぁね。ロクに活躍もしていないのに、顔なんか出せないわよ」
小梅「……」
エリカ「……わ、悪かったわよ」
小梅「私だって……みほさんの為にもっと頑張りたかった……」
エリカ「……ごめんなさい」
ドラマCD3 あんこうチーム訪問します! より
~~
みほ「……みんな、頑張ってるんだ」
エリカ「当然よ」
みほ「え?」
エリカ「来年は……まほ隊長もアナタもいないから。みんな必死よ」
みほ「……」
エリカ「結局私達。去年も今年も、アナタ達西住流に頼り切りだった。でも、負けた本当の理由はそんなことじゃないわ。私達が弱かった。隊長の指揮に応えられなかった……それだけのこと」
みほ「そんなこと」
エリカ「でも見てなさい。次は真の西住流を身に着けて、アナタを倒してあげる。それまで、絶対に無様な負け方はしないでよね。アナタを倒すのはこの私……覚えておきなさい」
みほ「……はい!」
まほ「……何かあったのか?」
エリカ「いえ。何でもありません」
まほ「そうか……そうだ、みほ。今度、練習試合を受けてくれるか?」
エリカ「モチロン、受けてくれるわよね?」
みほ「……はい! よろしくお願いします!」
~~~
みほ「……お久しぶりです。エリ……逸見さん」
エリカ「……ええ。今日はよろしく」
「それではこれより、黒森峰女学院対大洗女子学園の練習試合を行います。一同! 礼!」
「「よろしくお願いします!」」
『パンター2号車、撃破されました!』
エリカ「チッ! 護衛は互いに全滅。結局はフラッグ車同士の一騎打ちか……!」
小梅『エリカさん! パンター1号車、直ちに援護に向かいます!』
エリカ「もう間に合わないっ! こっちで決着をつける……! アレ、やるわよ!」
「履帯飛びますけど、いいんですね!? 隊長!」
エリカ『いきなさい。どうせやることは同じよ! パンツァー・フォー!』
エリカ(向かい合ったⅣ号とティーガーⅡが一斉に走り出す。互いに牽制一撃。命中無し。まだ前進。ぶつかる、そのギリギリまで……!)
エリカ「いけぇっ!」
車内に急激にかかる慣性。
内壁に叩きつけられるが、目を閉じる暇はない。
ティーガーⅡは半円を描く軌道で、履帯を横向きに滑る。
完全には目で追えていないが、Ⅳ号も逆方向に同じ動きをしていて、上から見れば合わせて円の軌道が出来上がっているはずだ。
エリカ「撃てぇっ!」
そう命じた瞬間、砲撃音が聞こえた。
遅かった……!?
次の瞬間、ティーガーⅡの主砲が放たれる衝撃が、轟音が車内を揺らす。
……それ以降、揺れは無い。
エリカ(……Ⅳ号の射撃が、外れた?)
『大洗女子学園フラッグ車、行動不能。黒森峰女学院の勝利!』
小梅「やりましたね、エリカ隊長」
エリカ(間一髪、間に合った小梅のパンターによる援護射撃が、Ⅳ号の狙いを僅かにずらしたらしい)
エリカ(しかし、まほ隊長との一騎打ちや大学選抜との試合を考えると、あの時IV号は装填が済んでいて、狙いもつけていた……小梅の援護が無ければ、私が負けていた)
小梅「エリカさん?」
エリカ「えっ? あ、うん。そうね……」
小梅「そんなに気になるなら早く素直になったらいいのに」
エリカ「誰があの子のことなんか」
小梅「誰もみほさんののとだとは言っていませんよ?」
エリカ「……私もあの子としか言ってないわよ!」
小梅「ふふっ」
エリカ「笑うな!」
みほ「あの、エ……逸見さん」
エリカ「うわあっ!? ご、ごほん。取り敢えず、前回の雪辱は晴らしたわ。次も負けないから。今回はありがとう、いい経験になったわ。それじゃ」
みほ「えっ、あの……!」
エリカ「行くわよ!小梅!」
小梅「エリカさん!」
エリカ「早くしなさい!」
小梅「……まったくもう。ごめんなさいみほさん。エリカさんのことは、もう少しだけ待ってあげてください」
みほ「えと、それは、どういう……?」
小梅「エリカさんもだいぶ捻くれてしまいましたから。だいぶ元に戻りましたが、完全に戻るには、もう少しだけ」
エリカ「聞こえてるわよっ!」
小梅「はい。申し訳ございません、隊長。みほさん、それでは」
みほ「あっ……小梅さん……!」
エリカ「……誰が捻くれてるのよ」
小梅「エリカさんですよ」
エリカ「……戻ってなんかないわ。捻くれっぱなしよ」
小梅「本当に、捻くれているんですから。いつまでも逃げているつもりですか?」
エリカ「逃げたのはあの子よ! 私は逃げてなんか……!」
小梅「本当に? みほさん、何か言おうとしていたじゃないですか。みほさん、たぶんエリカさんに嫌われてると思ってますよ。それでも、何か言おうとしていたんです。あの人見知りなみほさんが、ですよ?」
エリカ「……」
小梅「それでも、自分は逃げてないと言えますか?」
エリカ「私は……」
小梅「……お腹が空きましたね。何か、食べていきましょう」
エリカ「……うん」
戦車喫茶ルクレール
「いらっしゃいませー。お客様何名でしょうか?」
小梅「2人で」
「承りました。あちらのお席にどうぞ」
エリカ「……で、なんでここなのよ?」
小梅「疲れたら糖分と相場が決まっているじゃないですか」
エリカ「……ここで私があの子に何言ったか知っててやってるでしょ。性格悪いわよ」
小梅「今のエリカさん程ではありません」
エリカ「ぐうっ……アナタ、どんどん口が悪くなるわね……」
小梅「誰かさんの影響です」
「それにしてもみぽりん、大丈夫かなー?」
「試合終わってから、元気無かったですものね。お体の具合が悪かったのでしょつか?」
「西住殿の体に何かあっては一大事です! やはり後ほど、様子を伺いに行くべきではないでしょうか?」
「だがしかし、朝も試合中も普段通りだった。試合が終わって急にああなったんだから、大方また黒森峰の連中に何か言われたんじゃないか。そこの奴とかに」
「えっ? あーっ! 黒森峰の副隊ちょ……えっと、もう隊長なんだっけ。じゃなくて麻子! 失礼でしょ!」
エリカ「……何も言ってないわよ。今回はね」
小梅「何も聞きませんでしたけどね」
エリカ「しつこいわねぇ……」
「こんにちわ、逸見殿。先ほどは良い試合でした」
エリカ「いい試合……ね。そうなるのかしら……」
「……逸見殿、どうかされましたか?」
エリカ「いいえ、何も。今日は練習試合を受けてくれてありがとう。私たちにとっても、またいい経験になったわ」
「黒森峰女学院の隊長にそう仰って頂けると、わたくし達の自信にも繋がります」
エリカ「……私がいると邪魔でしょう。席を変えてもらってくるわ」
「そんなこと! あの、逸見さん。少し、私達とお話しませんか?」
エリカ「……私達と? アナタ達が?」
「はい。みぽりんが黒森峰にいた頃のこと、教えてもらいたいんです。私達、何も知らないから」
小梅「では、変わりに私達に大洗でのみほさんのこと、教えて頂けませんか?」
優花里「はい! こちらに来てからの西住殿のことでしたら、この不肖秋山優花里におまかせください!」
エリカ「ちょっと小梅」
小梅「先に言ったものの勝ち、ですよ。どうしてみほさんが変わったのか、エリカさんも知りたいでしょう?」
エリカ「……分かったわよ。少しだけ、お邪魔するわ」
沙織「わっ、ありがとうございます! あ、私、大洗女子学園2年の武部沙織です。IV号の通信手やってます!」
華「五十鈴華と申します。IV号の砲手を務めさせて頂いています」
優花里「改めまして、秋山優花里と申します! 搭乗車は同じくIV号戦車、装填手です!」
麻子「……冷泉麻子。IV号の操縦手だ」
小梅「IV号……ということは、あなた達がみほさん乗っている戦車の搭乗員ということですね。黒森峰女学院の赤星小梅です。さ、エリカさん」
エリカ「……黒森峰女学院、逸見エリカ。アナタ達も知っての通り、黒森峰の隊長でイヤな奴よ」
小梅「エリカさん!」
沙織「そう、そのことなんです。私達にとって、逸見さんはちょうどこのお店でみぽりんのことを悪く言われただけだから、すごく嫌な人に見えたけど……そうとは思えなくて」
エリカ「何よ。私はアナタ達の隊長をあれだけ悪く言ったのよ? 一体何に見えたっていうのよ」
沙織「逸見さん……もしかして、みぽりんと凄く仲が良かったんじゃないか、って」
エリカ「……は?」
優花里「西住殿、前に黒森峰を訪問した後に言っていました。少しだけだけど、逸見殿とちゃんと話せたって。嬉しそうでした」
華「今日の試合が決まってからも、みほさんはずっと言っていました。逸見さんにちゃんと謝りたいと」
エリカ「……あの子が? 私に?」
麻子「ああ。あんなに怒らせてしまったと。私が傷つけてしまったからだと、言っていた。試合が終わったら謝りに行くと言っていたが……その反応だと、聞いていないようだな」
小梅「エリカさん」
エリカ「……分かってるわよ! 全部私が日和ってあの子を避けたのが悪いわよ! 私がっ……!」
沙織「逸見さん!?」
エリカ「……本当に、あの子は……強いんだから」
優花里「……はい。西住殿は、とても強いお方です。ですが」
華「とてもお優しくて、だからこそ、人に頼ることを知らないんだと思います」
麻子「私達の前でも弱音は吐かなかったし、表情にもあまり出さなかった。が、中では色々考えて、感じている人だ。西住さんは」
エリカ「……小梅」
小梅「はい、エリカさん。お任せください」
エリカ「ごめんなさい。急用が出来たわ。黒森峰でのあの子のことは、この赤星に聞いて頂戴」
麻子「おう。早く行ってやれ。また傷つけたら許さんが」
エリカ「……ええ。ねぇ、アナタ達。私が言えた義理ではないけれど……みほのこと、よろしく頼むわよ。もうアナタ達の方が知ってるんでしょうけど、戦車を降りたら危なっかしい子だから」
「「「「はい!」」」」
エリカ(1年ぶりね……この番号にかけるのも)
エリカ(手が震える。本当に臆病なのは、私だけ。土壇場で日和って、ボタン1つ押せないなんて)
エリカ(……あの子は精一杯の勇気を振り絞ったのに、私は……私はっ!)
(はい! これからよろしくお願いします! エリカさん!)
エリカ(謝らなきゃ……この1年分!)
ポチッ
プルルルル……プルルルル……プルルルル……ガチャ
『…………エリカ、さん?」
エリカ「…………ねぇ。今から、会えないかしら。2人きりで。アナタに、言いたいことがあるの――」
みほ(2人きりで、なら……その、ウチ……来る?)
エリカ(何て言うから来たけども……)
みほ「……」ズーン
エリカ(気まずいなんてもんじゃないわよっ!? なんでこんなにお通夜なのよこの子!? もしかして私タイミング悪かった!? 悪いわよねそりゃあ!)
エリカ(何て言ってる場合じゃない。私は、この子に謝りに来たんだから。謝らなきゃ、謝らなきゃ、謝らなきゃ)
エリカ(……何て言って、謝ればいいんだろう)
エリカ(謝り方が分からない程に、私の人間性は腐っていたのね……)
エリカ「……」ズーン
みほ「……」グゥ
エリカ「……?」
みほ「あっ……」グゥゥゥ
エリカ「ふふっ……お腹……空いたわね」
みほ「あっ……そういえば、試合が終わってから何も食べてないかも」
エリカ「アナタ、そのぐらい覚えておきなさいよ」
みほ「あはは……」
エリカ「……私も、何も食べてないの」
みほ「えっ?」
エリカ「察しが悪いわねぇ。何か食べに行きましょうって言ってるの。私、大洗には疎いんだから案内しなさいよ」
みほ「あっ、はい! わ、分かりました! えっと、どこがいいかな……」
エリカ(……バカね、私は。こんなに優柔不断で、臆病な子が、自分の意志で裏切りなんて大それたこと出来る訳も無いのに。そんなことも分からない程……私は、この子のことを知らなかったのね)
みほ「えっと、えーっと……逸見さんが好きそうな……」
エリカ「……アンタの一番好きなお店、教えなさいよ。甘い物ばっかりのお店でも、雰囲気が可愛らしいお店でも……今日は我慢するわ」
みほ「えっ……いいの?」
エリカ「ええ。ここは大洗、アナタの街だもの。合わせてあげる」
みほ「……ハンバーグが無くっても?」
エリカ「ハンバーグばっかり食べてる訳じゃないわよっ! ……好きだけど」
みほ「じゃあ……その」
エリカ「マカロン?」
みほ「あっ……覚えてて、くれたんだ。私が好きなもの」
エリカ「……たまたまよ」
みほ「だって、黒森峰にはそういうお店あんまりないし……逸見さんの前でも、そんなに食べたことがあったかなぁって」
エリカ「……っ!? たっ、たまたまだって言ってるでしょっ! もう、どこでもいいから早く決めなさいよ、みほ!」
みほ「あっ……!」
エリカ「あっ」
みほ「……」
エリカ「な、何よ……言いたいことがあるなら言いなさいよ……」
みほ「……エリカさんっ!」ギュッ
エリカ「きゃっ!? ちょ、ちょっと、何よ、どうしたのよ! 急に抱きつくなんて! 」
みほ「ごめんなさいっ!」
エリカ「……っ!?」
みほ「私……私、戦車道を辞める為に大洗に来たのに……成り行きで、また戦車道をやることになってしまって……目の前の事にいっぱいいっぱいで、黒森峰のみんなに嘘をついて……裏切ってしまったなんて、全然気づいていなくて……あの日、戦車喫茶でエリカさんに会った時、私は、とんでもないことをしているんだって、気づいたの」
エリカ「……あの時は、少し言い過ぎたと思うわ。大洗で楽しそうにしているアナタを見て、つい……カッとして。つまらない嫉妬だったと思う」
みほ「……いいの。当たり前の事だから……それからずっと、謝らなきゃ、謝らなきゃと思っていたけど……怖くて」
エリカ「悪かったわね。キツイ性格をしてて」
みほ「違うの! ……違うの。エリカさんに謝って、何を言われても仕方ないよ。でも、許してもらえなかったらと思うと……私がしたことは、許されるようなことじゃないのは分かってる、けど……それで、エリカさんに完全に拒絶されることが、エリカさんに嫌いって言われるのが、怖くて……ごめんなさい。私、最後まで自分の事しか考えてなかった」
エリカ「それは私も同じよ! アナタの事情なんて考えずに、ただアナタが悪いと決めつけて……アナタがそんな大それたこと出来るような人間じゃないって、少し考えれば分かるはずなのに。自分の意思じゃなくて無理矢理させられてるんだって、分かったはずなのに……一年間も一緒にいた癖に、そんなことも気づけなかった。私は結局、アナタの事を西住流の、隊長の妹としか見てなかったのよ……ごめんなさい、みほ。いくら戦車に乗れても、人としてダメね」
みほ「でも、それは事実だから」
エリカ「そう。だけど、そうじゃないの。私は、アナタと……西住みほ個人と、向き合いたい。戦車道を通してではなく、ただの………………その、友達……と、して」
みほ「エリカ、さん……!」
エリカ「みほ……私達、もう一度やり直せない、かしら?」
みほ「……出来るよ。だって、エリカさんは……黒森峰で最初に、友達になってくれた人だから!」ポロポロ
エリカ「……泣いてるわよ、アナタ」ポロポロ
みほ「エリカさんだって」
エリカ「そうね……嬉しいのかしら……ありがとう、みほ。私、こんな性格だし、戦車道しかやってきてないから。まともに友達なんて出来なかった。だから……私にとって、アナタはとても大事な人よ」
みほ「私も……エリカさんのこと、大好きです!」
エリカ「だいすッ……!?」
みほ「うん。大好き!」
エリカ「ちょ、ちょっとやめてよ、恥ずかしい……! ご近所さんに聞こえるわよ!?」
みほ「聞こえても、いいです。大好きです、エリカさん!」
みほ「……」ジーッ
エリカ「……………………分かったわよ、言えばいいんでしょう言えば! 私もアンタのことが大好きよっ! みほっ!」
みほ「……えへへ」
エリカ「笑ってんじゃないわよッ! 早く、何か食べに行くわよッ!」
みほ「うんっ!」
エリカ「びっくりして涙も引っ込んじゃったじゃない……全くもう」
『フラッグ車、行動不能! 全国大学戦車道大会、優勝は――』
ドッと沸きあがる歓声。
吹き荒れる拍手の嵐。
押し寄せる仲間達の絶叫、涙、喜びの声。
私はキューポラから上半身だけを出してそれらを眺めながら、少しの間呆然としていたようだ。
車内の仲間に足を小突かれ、我に返る。
キューポラの縁に手をかけて車外へ這いずり出て、目の前でフラッグ車を撃破したティーガーⅠへ向かって、全速力。
ティーガーⅡの上面装甲から飛び降り、着地の衝撃で転びそうになり、それでも踏みとどまって、地面を蹴る。
勢いそのままティーガーⅠの装甲に手をかけて駆け上り、たった今、そのキューポラから姿を現した上半身に、正面から抱きついた。
「やった……やったのね、私達……!」
「うん……うん! そうだよ、エリカさん! 私達の力で、優勝したんだよ!」
感極まっているのは向こうも同じ。
震えた声と共に、普段の姿からは考えられない程に、力強く抱き返される。
「長かったわね……これでやっと、アナタの汚名を晴らせたのね。これでもう、誰にもアナタを逃亡犯だとか、腰抜けなんて言わせずに済むわ。隊長さん。何と言ったって、アナタは大学生戦車道大会優勝校の、隊長なんですから」
「私の事なんかどうでもいいよ。でも、これで……お姉ちゃんに胸を張って、報告できる……かな?」
「ええ。西住隊……まほさんも、家元も、きっとアナタの事を認めてくれるわ。だから……私達の街へ。熊本へ。帰りましょう、みほ!」
「はい! エリカさん!」
その時、私は喜びが占める胸の中で、微かな既視感を感じた。
「やだもー、えりぽんってば大胆なんだからぁ」
「あ~! 逸見殿に先を越されました~!」
が、戦車の内部から搭乗者たちの冷やかすような声が聞こえてきて、そちらに意識が傾いた。
「うっさいわよ! 茶化さないで!」
私は急に気恥ずかしくなって、両腕をみほの背中からそっと離し、肩においてそっと押す。
「みほ、みんな見てるわよ……!」
「うん……でも、ごめんねエリカさん。もう少しだけ……」
「……しょうがないわねぇ」
再び、肩からみほの背中へと腕を回す。
ぎゅうっと、私の身体を抱く腕にも力が入る。
……この光景を、私は夢で見たことがある。
あの時は、悪夢だと評したような気もするけど。
今は、正反対の気持ちになっている。
これは、私がずっと待ち焦がれていた。
親友が見せてくれた、最高の夢なのだから。
―――友情は瞬間が咲かせる花であり、時間が実らせる果実である。
終わりです。読んでくださった方がいらしたらありがとうございました。
戦車道大作戦の台詞を聞く限りエリカは根っこは素直ないい子なんだろうなぁと思いましたが、1枚もドロップしませんでした。
乙
綺麗なお話で凄く良かったです
おつ。よかったです。
追記
「友情は瞬間が咲かせる花であり、そして時間が実らせる果実である」という言葉は西住みほの座右の銘である訳ですが、これを少々歪んだ解釈の仕方をすれば「瞬間的に芽生えた友情の花が散っても、時間が経って(和解すれば)果実を実らせることが出来る」となります。
つまりみほは座右の銘でエリカと仲直りしたいアピールしていたんじゃないですかね(適当)
乙
ええエリみほやこれは…(賞賛)
乙!すごく面白かった!
乙
乙です
感動したであります!
エリみほ尊い…大学で同じ戦車服着た二人なんて見たら涙腺崩壊してまう
一文が長くてくどくなってるところが所々あるかな
地の文のところは気にならないけど、台本形式の部分の長いセリフは何回かに分けた方が読みやすいかも
内容は最高としか言いようが無い
ありがとう…本当にありがとう…
みほエリはやはり良いしいい話だった
乙
みほエリはいいぞ
乙ええ話やなあ
乙
エリみほいいね
面白かった
最後はあれか、読者の想像に任せる感じか
いい話だった。掛け値なしに
乙
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