提督「加賀よ、話がある」 (40)
貴様は出会った時からそうだったな。
威厳と自信に満ち溢れ、ただ私の命令を黙々とこなし、確実に戦果へと変えていった。
上官であるこの私に向かって初めに口にした言葉を覚えているかね?
それなりに期待はしているわ
そう言ったのだぞ?
流石は誉れある一航戦だな、加賀よ。
SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1453098465
貴様との苦くも甘い思い出は沢山あるな。
まず、着任式だ。
そう嫌そうな顔をするな、上官の駄弁には黙って付き合うものだ。
我が艦隊は貴様が来た時、電と最上しか居なかったな。
赤城が居らず不安だったか?
...それは済まない事をしたな。
初出撃の衝撃は今でも覚えているとも。
貴様の放った矢が爆撃機となり、敵の巡洋艦を尽く焼き尽くしていたな。
知っているかね?
あの地獄絵図を目の当たりにした電は泣き腫らしていたぞ。
...そう言ってやるな、彼女は駆逐艦と言えど女児だ。
なに?そんな事などない。
私は誰1人贔屓したりはしていない。
さて話を戻そう。
次は貴様が初めて大破...大怪我をして帰港した時だ。
私の慢心が招いた結果だ、本当に悔やみ切れん。
艦隊決戦にも慣れ、伊勢や木曾が配属され戦力もある程度整って来た時期だったな。
確かあの時は...旗艦は最上、そして随伴艦に伊勢、木曾、電、深雪...そして加賀よ、貴様だったな。
最上、伊勢が次々と敵を沈め勝利は目前と言うところで私が貴様に発艦ののち爆撃を要請したな。
貴様はその指示に従った...その結果、発艦中に敵の駆逐艦の魚雷が命中したのだったな。
あれ以降私は魚雷が苦手になってしまったようだ。
耳を劈く爆発音、通信機器の異常...もう一つの通信から入る最上達の声。
どれも貴様を呼ぶ声だった。
情けないが震えが止まらなかったよ。
通信が復旧するまで金比羅様に祈りを捧げたものだ。
復旧後の貴様の一言、覚えているか?
次の指示を
貴様はこう言った。
そして私は撤退を命じた。
思い出したか?
.........
......
...
『加賀!応答せよ加賀!』
『提督落ち着いて!加賀さんは沈んでないから!』
『深雪!電!木曾!敵を寄せ付けるな!』
『了解!』
『なのです!』
『任せろ!』
『くそ...っ!通信の復旧はまだか!?』
『提督...』
『次の指示を、提督』
『加賀さん!』
『加賀!』
『あんた指示って...その飛行甲板じゃ艦載機も飛ばせないでしょうに!』
『ええ、艦載機の飛ばせない空母はただの的よ』
『だから提督、指示を』
『...い』
『撤退だ!加賀を中心に輪形陣を組め!』
『誰1人欠けずに帰港せよ!いいな!?』
『了解!』
『...』
その後貴様が執務室に殴り込んできたのだ。
最上と伊勢に止めてもらわなければ私の頬は無くなっていただろうな。
そして貴様の次の意見はこうだった。
なぜ撤退したのですか
私の事など気にせずに敵を殲滅するべきでした
貴方は提督でしょう
ならば正しい判断をしなさい
その後は...言わなくても分かっているな。
そう、私が初めて女に手をあげた瞬間だ。
右の頬をぶたれた貴様は目を白黒させていたな。
そして私は言ってやったんだ。
私の判断が正しいかどうかは貴様が決めることではない
私が決めることだ
貴様は与えられた生をなんと心得る
生ある限り生き抜いて見せよ
とな。
甘いだと?
私は最適解を出したつもりだがな。
早期に正規空母を手に入れたのだ。
制空権を確実に確保出来れば後々の艦隊決戦も楽になろう。
あの時点で艦載機を飛ばせる者は最上、伊勢、加賀の3名しか居なかった。
そんな中一航戦を失ってみろ、敵の空母なぞに太刀打ちできん。
どうだ、ぐうの音も出まい。
その後の貴様は変わったな。
『くそ...直撃かよ...冗談じゃないよ...っ』
『下がりなさい最上』
『ごめんなさい、加賀さん...』
『構わないわ』
『誰1人欠けずに戻るのよ』
『...ふっ』
『何かおかしい事を言ったかしら、木曾?』
『いや、お前もアイツに叱咤されて変わったなと思ってね』
『...命令に従ってるだけよ』
『そういう事にしといてやるよ、くらえ!』
その話を伊勢から聞いた時は耳を疑ったものだ。
なに?木曾の話?
また次の機会にでも話してやろう。
そう言えば貴様は伊勢によくからかわれているな。
なぜだ?
.........
......
...
『ねー加賀』
『何かしら?』
『提督が加賀の事探してたよ』
『わ、私を...?』
『大事そうに花束を隠して...ぷっ』
『そうですか...急用を思い出したので失礼します』
『はいよー...急用って思い出すものかねぇ...ふふふ...』
『待ちなさい伊勢!』
『待てと言われて待つ奴はいないよー!あはは!』
『この...!』
『加賀さんも伊勢さんも落ち着いてー!鎮守府が焼け野原になっちゃうよ!』
『お!最上発見!』
『もがみんシールド!』
『ボク!?』
『頭にきました』
『えええ!?』
なるほどな。
他の鎮守府の伊勢は知らんが、私の鎮守府の伊勢はああ見えて実は人見知りだ。
日向以外に伊勢から何か仕掛け、興味を引こうとする者は私が知る限りでは最上、加賀、深雪、電、木曾だな。
第一艦隊ではないか、だと?
その通りだな。
それ程までに伊勢は信頼しているのだろう。
伊勢なりの愛情表現と言うやつだ、付き合ってやれ。
さて、駄弁もこれぐらいにして本題に入ろうか。
加賀型一番艦加賀、貴様の練度を述べよ。
そうだ、最高練度まで達しているな。
しかしそれは天井であり、天上ではない。
私が、貴様を導く。
私と共に暁の水平線に勝利を刻もうではないか。
「こいつを受け取ってくれないか」
「これは...」
「ケッコン指輪と言うやつだ...無論、仮だがな」
「最高練度まで達した者の左の薬指にはめると更なる上限へと上り詰めることが出来るそうだ」
「提督」
「なんだ」
「これは戦力強化が目的?」
「それとも1組の男女として...これを渡しているの?」
「...」
「終戦まで現を抜かすまいと思っていたが...」
「全ては貴様の責任だ、加賀」
「私は貴様の右頬をぶった時から、貴様に特別な感情を抱いていたのかもしれない」
「妙な性癖ね」
「...少しは雰囲気を考えてくれないか」
「善処します」
「まあ良い...」
「あの日以来、ふと気が付くと貴様を目で追いかけていた」
「食事処でもそうだ...赤城との談話を邪魔して済まなかったな」
「ええ、全くです」
「着任したばかりの赤城さんが緊張して食事が喉を通らなかった事もありました」
「貴様は私と談話してくれていたな」
「その顔は私には満面の笑みに見えたが」
「気のせいでは?」
「ふむ...強情だな」
「仕方あるまい...加賀よ」
「何ですか?」
「今この時だけは上下関係などない」
「よって...俺も普通に話す」
「あら...分かったわ」
「...出撃するお前達の背中を見送る日々は辛い」
「とくに深雪や電は装甲が薄いからな...大怪我をして帰ってくることもある」
「そして送り出す背中の中にお前がいる」
「俺の...想いを寄せる人がな」
「...」
「この指輪は戦力強化ではない」
「俺の真意だ」
「戦いが終われば」
「毎日俺にお前の作った不味い飯を食わせてくれ」
「不味いとは心外ね」
「不味いものは不味い」
「これでも練習した方なのよ?」
「比叡辺りに教えてもらえ」
「御召艦だものね」
「そう拗ねるな」
「いつか貴方に美味しいと言わせてみせるわ」
「...それはつまり承諾してくれたと捉えていいのか?」
「さあ、どうでしょうね」
「はめたからには終戦まで生き残れよ」
「分かってるわ」
「もちろんみんな一緒にだ」
「貴方も一緒よ」
「当たり前だ」
「なあ加賀」
「なに?」
「俺はお前の誇りであれると思うか?」
「自惚れね」
「一航戦の誇りと比べてしまえば月とスッポンよ」
「手厳しいな」
「貴方の艦だからよ」
「はは、違いない」
「私は」
「ん?」
「私は貴方の誇りかしら?」
「ああ、もちろんだとも」
「加賀百万石の誇りさ」
「言いたかっただけでしょう?」
「まあな」
「頭にきました」
「そのだらしない顔ではいつもの説得力はないな」
「私だって幸せなら笑うわ」
「幸せか」
「ええ」
「俺もだ」
「そう」
「なあ加賀」
「なにかしら」
「男女の付き合いとは何をすればいいんだ?」
「...それでも日本男児?」
「今まで執務が恋人だったんだ、分かるわけないだろ」
「女性に恥をかかせるつもり?」
「...しかたない」
「...そうね、もう少し優しく抱きしめて欲しいのだけれど」
「これぐらいか?」
「...悪くないわ」
「あー...その、加賀」
「分かってるわ」
「早くして頂戴」
「...好きだよ」
「ええ、私も...」
終
乙!
こうゆー雰囲気ええなぁ
おつー
乙です
ニヤニヤした
乙
超乙!
乙!
乙!
いいよお!こういうSS大好きだよお!
ageんなゴミクズ
乙
よかった。
乙
最高だったよ!
乙!
このSSまとめへのコメント
ぐわー!ええやん!ご馳走様でした!