鹿島「提督さん。うふふっ♪」名取「…」 (168)

・R18っぽい
・NTRっぽい
・ヤンデレっぽい
・ぽい

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ぽいぬうううううううううううううう

なんだぽいか

名取ぃぃぃぃぃぃ!!!!

その日の早朝、軽巡寮にある長良型姉妹が相部屋にしている
通称「長良部屋」はいつもにまして騒がしかった。
後日、その隣室にある球磨型部屋の末妹木曾氏は肩を竦めながらそう語る。

「まあ気持ちはわからんでもねぇけどな。連中、あの日は珍しく姉妹揃って休日だったしよ。けどなぁ」

とはいえ、その日普通に任務のあった彼女にとって、
まだ総員起こしもかからぬような早朝から騒がしくされてはたまったものではない。

「長良のでっけー声がこっちまで聞こえてきてよ。
 大井の奴も起きちまって、殴りこみに行こうとするの止めるのに必死だったんだぜ」

そう言って、その時の記憶が蘇ったのかげんなりした顔で頭を振って溜息一つ。

「おかげで聞いてもいねーのにその日の連中のスケジュール全部把握しちまったぜ」

興味を惹かれ、少し突っ込んだことを聞こうと詳しく訊ねてみると、少し考えこんだ後、
投げやりに手のひらをひらひらさせて、引き攣ったような半笑いを浮かべた。

「んー……そうだなぁ。あんま他人のプライベート語るのもなんかなぁ……
 って、いやいや、そんな変なことは話してなかったけどよ。あーわかったわかった。
 ろくでもねぇ推測記事書かせるくらいなら全部話してやるよ。でも俺から聞いたって書くなよ?」

勿論です!ととりあえず言うだけは無料なのに相手の口を軽くする魔法の言葉を口ずさむと、
木曾さんは疑わしげなじっとりとした目線を私に向けた後、しばらくして諦めたように続きを口にした。

「確か、連中のうち4人は街の方行くって言ってたな。
 長良と鬼怒は二人でサッカー観戦。五十鈴と由良は商店街に服の買い物だってよ」

なるほど。
そういえばその日の夕方すれ違った五十鈴さんと由良さんは、
大きな紙袋を抱えてほくほく顔だったのを覚えている。
そういうことだったんですね。と相槌を打つと、木曾さんはどうでも良さそうな顔をしてくれた。

「で、阿武隈に関してはなんかうちの北上と昼に間宮で飯食う約束してたらしくてな。
 本当は姉たちと一緒に出かけたいのに出かけらんなかったって、愚痴愚痴言ってたらしい」

「仲いいんでしたっけ?」

おや?と思って聞いてみた。
あの二人、いつも北上さんが阿武隈さんをいじめてるような印象だったので
まさかお二人が一緒にご飯を食べるような仲だったとは!まさかの特ダネの予感に心が震える。

「さあね。でも、先週の演習で負けた方が勝った方に奢るって約束してたらしいぜ。
 タダ飯ほど美味いもんはないって姉貴言ってたし」
「あらー」

予感があっさり消滅した。
なんだいつものことか…という気持ちとやるせなさで一杯になる。
とりあえず、まあ……強く生きてください阿武隈さん。

「わざわざ向こうが休みの日指定したったってドヤ顔もしてた」
「さすが大井さんの姉妹ですねぇ」
「あいつらと一緒にすんな」
「もうこの話はここまでにしましょう」

「助かる」

居た堪れなくなってきたので話を遮った。

「ふぅ……」

随分長いことインタビューをしていたような気がして、肩が凝りました。
なので一旦ここで休憩にしましょうと提案したところ、木曾さんも賛成してくれました。
いや~それにしても疲れた。

軽く伸びを一つすると、ちょうどいいタイミングで間宮さんがコーヒーのおかわりを尋ねてきてくれました!
ブレンドコーヒーを1つ注文して、砂糖とミルクをたっぷりとぶち込みます。
木曾さんはアメリカンをブラックで。いやぁ優雅に啜る姿が様になりますねぇ。えい、パシャリ。

「おい許可無く撮るな。やめろ」
「なんでですか~?格好いいですよ。シャッターチャンスを逃がす手はありません。それに木曾さんの写真は結構高く売れるんです」
「誰にだよ」
「女子に」
「微妙に凹むな……」
「あはははは」

「しかし、なんだか皆さんイメージ通りの休日を送ってますねぇ」

目の前のコーヒーカップをつまみ、ゆっくりと口につけながら率直な感想を述べます。
あ、申し遅れました。私、重巡洋艦青葉型1番艦青葉と申します。趣味はカメラ。新聞作成。
あとゴシップ記事作成とブログ炎上。

「まあな。長良と鬼怒はスポーツマン。五十鈴と由良はしっかり女子してて
 んでもって阿武隈は貧乏くじだ。俺の姉が申し訳ない……コホン。ほんとにイメージ通りだ」

「なるほど、参考になりました。でもちょっと普通過ぎて……うーん。これは……記事にならないかなぁ」

そうなんです。つまんないんです。
なんていうか、記事にインパクトというか、ケレン味のようなものが!
最近ピンチです!スランプです!こんな平凡な記事じゃ誰も読んでくれないよぉおおおおお!!」
しばらく転がっていると、木曾さんがやる気なさげに諌めてきました。

「何でもかんでも記事にしようって貪欲さは買うけどよ。
 それならそれでいいじゃねぇの。あとプライベートネタにすんな」

「そうもいきません!だって他人のプライベート特集した時の
 新聞の売り上げは軽く見積もっていつもの3倍ですし!……みんな興味津々なんですよ。他人の事情」

「えっ、そんなに」

「そんなにです!!」

そうです。艦娘とて女子。
他人のプライベートと恋話と美味しいものを特集した新聞がある時はいつもよりもずっとずっと売れるんです。
これはちょっと盛りましたが!

「かー!これだから女ってやつは!」

「木曾さんも女性ですけどね。……そういうのにはご興味ないです?」

「無いね。めんどくせぇ。そんなこと気にしてる暇あったら今晩の飯の心配でもしてろってんだ」

「よっ!男前!」

「うるせえ!他に聞きたいことはねぇのか!?ないんならもう部屋帰るぞ!」

「わっ!わっ!待ってくださいよ!折角ようやく木曾さんと私の休みが重なってこうやってアポが取れたんですから!」

いきり立って立ち上がった木曾さんを慌ててなだめ、なんとか座り直させた私は、
ほっと一息吐きました。それでもなんだか不満そうにブツブツ呟く木曾さんを見て、
これ以上はあまり長い時間を取れないと思い最後の質問をすることに。

「なんだよ、早くしろよ。この後まるゆのやつにカレーの作りかた教えてやる約束してんだから……」

「きょーしゅくです!ではケツカッチンしないようにちょっぱやでご質問させていただくのでシクヨロです!」

「……もしかして俺馬鹿にされてる?」

「それではご質問!」

「お、おう……」

「名取さんは?」

「…」

「はい!これで最後です!そういえばさっき、名取さんだけ休日の過ごし方を伺ってなかったと思いましたので!」

「名取。名取か…」

「はい!これだけ教えてくれたら青葉、もう満足です!」

「……必要か?お前さっき普通過ぎて記事になんねぇって言ってたじゃねぇか」

「ええ!でもせっかくだしどうせなら!それに名取さんだけは面白かったりするかもしれませんし」

「あー……」

名取さんの名前を出した瞬間、なんだか急に、本気で嫌そうな顔をし始めた木曾さんを見て、
青葉、不審がります。え?なんかやっちゃいました?

「いや……まぁ……うー……」

「木曾……さん?」

「……いや。悪い。知らね」

「へ?」

「ん。名取に関しては悪いけど知らねーわ。そんじゃ今日はここまでだな」

「えっ?えっ?えっ?」

「じゃあな。力になれなくて悪いな。ここの茶代は持つからよ。間宮さん、おあいそ」

「えっ?ちょっ、木曾さん?おーい」

「おっ、やべえもうこんな時間だ!それじゃ、んじゃなー」

「あっ!」








……逃げられちゃいました。



「それじゃあ名取お姉ちゃん、あたし北上さんとご飯食べてくるから。留守番よろしくね」

「うん……いってらっしゃい。北上さんによろしくね」

「はぁ……憂鬱……ほんとにお姉ちゃんも来ない?」

「うん……ごめんね。私はここで本読んでるから……」

「うー……でもでも、どうせ北上さんと一緒に大井さんもいるに決まってるし……アウェー感半端なさそうなんだけど」

「い、一緒にご飯食べてくるだけでしょ?」

「そうだけど……でも、いつものパターンだとどうせ無理やり午後の演習に付き合わされたりするし……あたし今日休みだっつってんのに」

「あ、あはは………阿武隈ちゃん、がんばって………ごめんなさい……」

「まあ、名取お姉ちゃんのせいじゃないけど……」

「ごめんなさい……」

「だから名取お姉ちゃんのせいじゃないって。でも、せっかくの休みなのに部屋にいていいの?長良姉ちゃん達の誘いも断ったみたいだけど」

「うん……いいんだ。今日はずっと続きが気になってた本を読み進めたいから……」

「本かぁ……名取お姉ちゃんって、なんか私らと姉妹とは思えないよねぇ」

「ふえっ!?」

「あっ!違う違う!悪い意味じゃなくて!なんか、がさつじゃないっていうか……乙女チックっていうか!」

「あ、あうあうあう」

「あああああ!だから馬鹿にしてるんじゃなくってぇ!涙目になんないでよぉ」

「ご、ごめんなさ……」

「だからあやまんないでよぉ!もう!約束の時間に遅れちゃうからあたし行くよ!」

「う、うん!」

「それじゃあ、多分夕方くらいには戻るから!いってきます!」

「は、はい!いってらっしゃい!」

期待

「……ふぅ」

妹の阿武隈がどたどたと慌ただしく部屋から出て行き、
廊下を曲がって姿が見えなくなったのを確認したところで名取は部屋のドアをゆっくりと閉じた。
彼女の姉妹は名取を除いて全員非常に活動的で、休日ともなると決まって
外出するか友人の部屋に遊びに行ったりするので、あまり部屋にいることがない。

反面名取はかなり非活動的な性格をしているので、
休みの日はもっぱら読書のためと称して部屋に引きこもることが多い。
休日が姉妹で重なることはあまり多くないが、出勤日の者は勿論部屋に帰ってくる時間が遅くなるので
そうすると必然、休日の名取は日中、部屋に一人でいることが多いということにもなる。

一人になった名取は、いつも騒がしいはずの静かな部屋を、ぐるりと見回した。
まず最も目につくのは、長良の脱ぎ散らかしたそこかしこに散らばっている服。
しかも訓練用の体操着や靴下なども洗濯すらせずに放り投げてあるので、なんだか汗臭い。
ため息を吐きながらテキパキとまとめ、洗濯カゴに手早くひとまとめにしていく。

次に、鬼怒の持ち物のよくわからないパーティーグッズや筋トレグッズを玩具箱にしまい、
五十鈴の食べかけのお菓子を棚にしまい、由良が朝に読んでいた女性誌を本棚にしまう。
掃除機をかけ、テーブルを拭き、最後に自分のを除き全員の布団のベッドメイクして、一区切り。

ものの30分もせずに、まるで男子校の寮のような
カオスだった長良部屋は年頃の少女が暮らす清潔な部屋に変貌を遂げた。
もっとも他の住民が帰ってくれば一夜で大体元に戻るのだが。

それでもなんの苦言も挺することなく、一人になる度黙々と掃除を始める名取は
端から見てもなんというか、非常に損な性格をしているように映った。
この辺の性質は阿武隈あたりと非常によく似ているのだが、本人たちにその自覚はない。
閑話休題。

全ての掃除をやり遂げ、もう一度名取は時計を見た。
姉妹が帰ってくるのはいつも夕方頃だ。今は昼下がりなので、それまでまだまだ一人の時間は沢山ある。
それを確認した名取は、今度は棚の上に乗っていた写真立てを取り上げた。

そこには彼女を含む長良達姉妹が全員、思い思いの表情で賑やかに並んで写っている写真が収まっていた。

真ん中で元気に拳を突き上げて大きくジャンプしている長良。腕を組んで少し挑発的な表情の五十鈴。
落ち着いた佇まいて由良は少し呆れた表情でよくやるために最近では通称「鬼怒のポーズ」と呼ばれる
ポーズを取っている鬼怒と、その鬼怒に押し退けられ、つんのめって転びそうになっている阿武隈を見つめている。

そして名取は、姉妹たちの中で向かって一番左端にいた。
姉妹たちの集団から半歩ほど横にずれて、うつむき加減で照れくさそうに前を向いている。

これは、姉妹の中で一番最後に着任した阿武隈の歓迎会の日に撮った記念写真だ。
姉妹みんなが写った写真がほしいという長良の提案で、青葉に撮ってもらったものだ。
肝心の主役の姿が面白いことになっているが、姉妹は皆、この写真を気に入っていた。

名取の視線はその写真の、自分が立っている左端の、その更に左に釘付けになっていた。
そこには、彼女ら長良型姉妹とはまるで違う姿の、名取と並ぶと頭一つほど高い青年が佇んでいた。

軍人にしてはやや線が細く、まるで文系の教育実習生のように見えるその彼は、
彼女たちの喧騒を見守るよう、愛おしげに目を細めて笑っている様子だった。

この青年は名取の所属するこの鎮守府の提督であり、その若さと才能から
駆逐艦や軽巡には兄のように慕われているような存在でもあった。

「……はぁ」

しばらく写真の提督を見つめていた名取に、やがて変化が起こった。
顔を真っ赤に染めてもじもじと身体を揺すり始めたかと思うと、先程掃除をしていた時以上に溜息が増えた。
食い入るように写真を見つめるその視線は焦点が定まっておらず、まるで熱病にうなされているかのような苦しげな表情だ。

「はぁ……ふぅ……はぁ……はふ……」

写真と顔の距離が徐々に縮まっていることに、名取は気付いていなかった。
無意識の内に、提督の顔に自身の顔を近づけているのだ。
写真を覆うアクリルフレームに荒い吐息がかかり、提督の顔を白く曇らせる。

「……っ!」

そこで名取は、一旦我に返った。

この鎮守府で提督を慕う艦娘は多い。
下は駆逐艦から上は戦艦まで、本気で彼に惚れており
露骨なアピールを繰り返す者も両手で数えきれないほどだ。

名取も提督に本気で惚れている一人ではあったが、臆病で引っ込み思案の彼女は
そんな積極的なアピールをするような艦娘達に気後れし、態度でそれを示したことは一度もなかった。

そもそも彼と会っただけで思考が混乱し、仕事の用件で執務室に呼ばれたときもあまりの息苦しさに
早く帰りたくなってしまって「もう帰ってもいいですか?」などと聞いてしまうくらいだ。
奥手とかそういうレベルを通り越して、もはやこれで好意に気付ける人間はエスパーの類だろうと名取は考える。

(でも、好きなんだもん……)

好意を相手に示す勇気は無く、かと言って一思いに諦めることもできず。
悶々と日々を過ごしてきた名取が、次第に処理しきれなくなった自身のストレスを
なんとかして発散させようと考えに至り、その方法を見出したのは、もはや必然ですらあった。

一度深呼吸をして写真立てを持ち直し、名取はその足でゆっくりと歩き出す。
目的地には十数歩で辿り着いた。そこは、先ほどの掃除で名取が唯一ベッドメイキングをしなかった
自分自身のベッドだ。掛ふとんを半分捲って、今朝起きた時のままの皺が寄ったシーツの上に写真立てを置く。

それから、部屋着にしていた長袖のTシャツに手をかけ、足元にゆっくりとまくり上げた。
とさり、と無造作に足元に脱ぎ捨てられたTシャツの上に、少ししてスカートが覆いかぶさるようにして舞い落ちる。

下着姿になった名取が写真立てを踏み潰さないようベッドサイドに腰掛け、ソックスを丁寧に脱ぎ外す。
長良などは一気に引っ張って脱いで裏返しにしてそのまま放り捨ててしまうが、
名取はそれが嫌なので丁寧に折りながら脱いでいくのが癖だった。

ソックスを脱ぎ終わると、素足になった開放感が広がって心地よさが名取を包んだ。
一息ついて、再び写真立てを手に取る。
それからすぐに枕を身体の側に引き寄せて、逆に写真立てをその位置に置き直した。

それから下着姿でベッドサイドに腰掛けたまま、枕をギュッと抱きしめて
何事かをしばらく考えていた名取だが、やがてもぞもぞとベッドの上に身体を預け、
亀のように身体を丸めて枕を腹の下に持っていく。
それから先ほど捲った掛ふとんを豪快に引っ張り、全身を隠すように覆い被せてしまった。

真っ暗な布団の中で器用に身体を捩り、その中で下着を外して、布団の外、ベッドの足元に捨てていく。
淡い水色のレースが付いたブラがずしりと床に落ち、次に同色のショーツが続いた。

掛け布団の山から手が伸びてきて、その外にあった写真立てが吸い込まれていく。
少しするとその山の中から、くぐもった切なそうな声が漏れ聞こえてきた。

「んっ……あっ……はふ……あうっ!」

名取が休日、外出をしない理由の全てはこのためだった。
姉妹がいない時に、一人でこっそりと自分を慰める。

あまり健全とは言いがたい、しかし名取としてはもはや
欠かすことの出来ない重要なストレス解消手段の一つでもあった。

「提督さん…提督さん…提督さん…っ!あっ…!んんぅっ!ああああっ♡」

クチュクチュと淫靡な水音が布団の中で響く。
切ない声は控えめなものから、段々大きく、激しい喘ぎ声に変わっていっていた。

「提督さん!提督さん!提督さん!好き!好き!!好き!!!はぅっ!」

「あっ♡ああっ♡ああああ~~~っ♡……っっっ!!」

「ふぅ~~~~~♡………ッッッ!!」

「……はぁ……提督……さん………」

絶頂に達し、しばらくの脱力。
全てがぼんやりと霞がかったその快楽に身を委ねるが、またすぐに身体が疼きだし、刺激を求めてしまう。
名取はその感覚がたまらなく嫌いで、そしてこの上なく抑えがたい渇望だった。
自身の指を提督のものだと思い込むよう努力して、何度も何度も自分自身を慰める。
まだ余韻が抜け切らず敏感な内に、気にもせず身体をいじめだし、その度に愛しい人を呼び絶頂する。

「提督さん……提督さん……提督さん……提督さん……はぁ……はぁ……は……っ……っ!あっ…♡」

「んんん~~~~っ!!んぅっ♡」

そして、すぐにまた再開。
行為は彼女の姉妹の帰宅時間を見越し、後片付けを考慮した予想時間30分ほど前まで延々と繰り返される。
場合によっては数時間もぶっ続けで行われる名取の執拗な自慰行為は、次第にエスカレートしてきており
本人は気付いていないが、段々歯止めが効かなくなってきている。

それは、本人にとっては本物の提督と交われないための代償行動として行われているはずのこの行為が
反対に自身の内に潜む欲求を増大させているということの証左に他ならなかった。

それが、これからそう遠くない未来、一つの取り返しの付かないほどの事件の要因になるとは、
その時はまだ、誰も考えもしなかっただろう。


ことは、これからほんの1週間後、鎮守府に一人の新しい艦娘が着任したところから始まる。



ところで余談だがこの行為、名取は誰にも気付かれなく行っているつもりであったが
姉妹の中では一度たまたま早く帰宅した阿武隈に見られている(その後速攻で逃げたのでバレていない)し、
由良には臭いと洗濯物でなんとなく察されている。
ついでに隣室の球磨型部屋の連中に至っては興奮して大きくなった声が
壁越しに届いてしまってるので、全員に知れ渡ってもいたりする。

この事を知ってしまったら本人としては自殺ものの恥辱なのだがまあ、
幸いにしてこれが本人に知れ渡ることは未来永劫無かったという。

今日はもう終わるっぽい
即興で地の文なんか書くもんじゃないっぽい
次からはちゃんと書き溜めます…

良かった…自慰バレしてることに気付かずに済むんだね…

おつ

即興でこれか

乙!

鹿島は泥棒ネコ

「あー…紹介しよう。彼女が本日付けで新しく着任した練習巡洋艦の鹿島だ。
 えーっと…その、なんだ……えー……っと……みんな仲良くしてやってやってくれ」

「うふ♪香取型練習巡洋艦二番艦、妹の鹿島です。
 平和の海で次代の艦隊を育てるために建造されました。
 みなさん、どうぞ宜しくお願いします。うふふ♪」

その日、朝礼のために哨戒や遠征などで任務中の者を除き
ほぼすべての艦娘達がブリーフィングルームに集まっていると
提督に連れ添って見知らぬ女性が一人やってきた。

鎮守府ではよくある光景だが、
いつもと少しだけ違ったのは一部の艦娘の中からどよめきが起こったことだ。
かくいう名取も、声こそ出さなかったものの内心は穏やかではいられなかった。

金剛型の長姉、鎮守府の艦娘達の中でもリーダー格の一人である
金剛が顔を引き攣らせながら皆の内心を代表した。

「ヘーイ提督ー。Newfaceの紹介はいいんだけどさー。ちょーっとなんだか、距離が近過ぎナーイ?」

そう。つまりはそういうことだった。
提督の紹介の間も、自己紹介の間も、鹿島は新人とは思えぬほどの堂々とした立ち振舞いを見せていた。
にこにこと緊張の欠片もない自然な表情でよく笑い、淀みなくしゃべる。
物腰も柔らかで、落ち着いた大人の女性という感じだ。

それだけなら誰も何も思わなかっただろう。むしろ好意的に見る者がほとんどだと言っていい。
ただ、少しばかり……提督と距離が近く、その腕に腕を絡めているという一点を除けば。

「ああ金剛か……うん、まあ……そうだよな。やっぱり。
 ほらだから言っただろ?鹿島。ちょっと離れろって」

「ええ~?そんなぁ。意地悪言わないでください。うふ♪」

「ヘーイそこイチャイチャするなデース。イチャイチャするなデース。
 時間と場所をわきまえるデース。あと相手も違いマース。それと…」

「そ、そうですよ!破廉恥です!
 そ、それに、こういった場でそういう態度は榛名、とても不謹慎だと思います!」

恨めしげに唸りなおも言葉を続けようとしたところ、
妹の榛名に食い気味に発言され、少し傷付いたような顔でおとなしく口を噤む金剛。
榛名に続いて、今度は初期艦の吹雪が顔を真赤にしてまくし立てる。

「そうですそうです!いくらなんでも距離が近すぎます!」

時雨が続いてぼそぼそと呟く。

「まるで昔からの知り合いみたいじゃないか。
 提督ってもっと堅物のイメージだったけれど、一体どんな手を使ったんだか
 わからないよね。ああいう手合に限って腹の中は真っ黒だったりするんだ。そう思わないかい?羽黒」

「ふえっ!?」

大鯨が半泣きで隣にいた鳳翔に訴える。

「ど、どどどどおしましょう鳳翔さん!?て、提督が!提督がががががが!!」

「落ち着いてください大鯨さん。提督にもなにか事情があるはずです。
 えっと……その……ほ、ほら、何か弱みを握られているとか……実は肉親だとか!」

「鳳翔さんもなんかおかしいでち」

「多分あんまり落ち着いてないの」

翔鶴がにこやかに笑う。

「困りましたね。せっかく雰囲気のいい鎮守府だったのに。
 ああいう手合いにやってこられると艦隊の輪が乱れてしまいます。
 ……ねぇ?そう思わない?瑞鶴?」

「ど、どうしたの?翔鶴ね……ひっ!?」

「うふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふ…」

「おっほん!!」

その他にもざわざわと艦娘達の声が広がってきて、
このままでは収集がつかなくなりそうだと判断した提督が
わざと大きな咳払いをして注目を浴び、それに反応して部屋がしんと静まった。

「あー……うん、そうだよな。誤解されるよな。
こんな姿見られると。鹿島もいい加減にしなさい。ほら手を離して」

「……ぷぅ」

苦笑いし、やんわりと鹿島を引き剥がす提督。
鹿島も可愛らしく頬を膨らませながらも、今度は素直に従って腕を解いた。
一歩下がり、呆気にとられぽかんしたままの艦娘達に向かって
改めてペコリと礼を一つしてみせる。

固まったままあんぐりと口を開け黙りこんだ艦娘達に、提督が諭すようにゆっくりと話し始めた。

「驚かせてしまってすまなかったな。彼女は俺の海軍兵学校時代の同期なんだ。
 当時から物凄く人に物を教えるのが上手な人でな。当時は随分と世話になったものだ」

ついでに人をからかうのが大好きなやつでな。
何度いじめられたり振り回されたか知れないよ。

そう言って照れくさそうに笑う提督の表情は、
鹿島のアプローチがまんざらでも無いということを言外に物語っていた。

シンと静まり返ったブリーフィングルームに、提督の声が響く。
今度は異様に詳しい鹿島の経歴紹介が始まった。
今まで初顔合わせでこんな説明をされた艦娘は、初期艦の吹雪をして記憶の中にいない。

「で、その彼女だが、学校卒業後は同校で練習巡洋艦として後進の育成に励んでいたのが人事異動で
 艦娘として鎮守府への配属が決まってな。彼女の実績からしてもっと優秀な提督の元へ行くことも
 可能だったろうに…知り合いの俺が提督をしている鎮守府への配属を希望してくれて。
 他にも引っ張りだこだったそうだが、それがこの度めでたく通ってここに来たというわけだ」

まるで自分のことのように誇らしげに鹿島の実績を語る提督の目はキラキラと輝いており、
純粋に彼女の着任を喜んでいるように見えた。言葉の端々に尊敬の念が見て取れる。
ただし、そんな話を聞かされても、先ほどの二人のやり取りの後で素直に感心できる艦娘などほとんどいなかった。

「ぐぅ……まさか本当に昔からの知り合いだったなんて……」

時雨の苦々しげな小さい呟きは、隣に座っていた村雨の耳にだけ届き、
当の村雨は鋭く目を細め、盗み見るようにして鹿島の顔を睨んだ。

同じような目つきで鹿島を見つめる艦娘は他にも何人もおり、
集中した目線の束は鹿島に対し槍のように突き刺さらんばかりだった。

「うふふ♪でもまさかまた一緒にお仕事をできる日が来るなんて、
ほんの半月前まで夢にも思っていませんでした。配属が決まった時はびっくりしたんですよ♪」

相変わらずにこにこと笑う鹿島は、そんな視線に気付いているのかいないのか。
まったくペースを崩すこと無くくすくすと笑う。
さり気なく再び提督との距離が縮まっており、肩と肩が今にもくっつかんばかりに近い。

「それは俺もだよ。というか、鹿島が俺なんかのところを
 希望してくれたっていうだけで本当に驚いたものだ」

「あら。それは自己評価が低すぎます、提督さん」

さり気なく提督の腕を撫でまわし、まっすぐに顔を見て笑う鹿島。

「あなたが優秀な司令官であることは官報を見るだけで明らかです。異例の若さでの地位は目覚ましい戦績を物語っていますし、
 ここに集まったの艦娘の皆さんの凛々しいお姿を見れば、提督さんがどれだけ素晴らしい艦隊を作り上げてきたのか
 すぐに分かります。皆さんみんな凛々しくて凄く逞しくって、とってもお強そう。うふ♪」

「鹿島にそう言って褒めてもらうとなんだか照れくさいな。
 お前こそ噂は聞いていたよ。育てた駆逐隊が軒並み実戦で即通用して活躍しているそうじゃないか」

「そんな……それはたまたま教え子のあの子たちが優秀だっただけです。私だけの功績じゃありません」

「謙遜するなよ。指導者が優秀でなければ、中々そう上手くは育たないものだ。それに比べれば俺こそただの上司ってだけさ。
 まあ、そういうわけだ。みんなよろしくな。特に駆逐艦や軽巡で強くなりたい奴は相談してみるといい。
 きっと力になってくれるはずだ。ただし顔に似合わず結構厳しくてビシビシしごいてくるらしいから気をつけろよ」

「むぅ~!そういうこと言っちゃいます?ここの艦娘の皆さんはみなさん顔つきも精悍ですし、
 私こそあまり必要なさそうなくらいですよ!それにそういう意地悪な言い方する提督さんはこうです!えい!ぎゅーっ」

「いてて!止めろって鹿島!つねるな!」

「うふふふふ♡」

「うわ……赤くなってる。手加減してくれよ。学生時代ならいざ知れず、もうお前艦娘なんだからな。力加減しろよ」

「ちゃんとしてますー。提督さん、いくら管理職になったからって、鍛え方足りないんじゃないですか?
 艦娘の前に、提督さんをいっぱいしごいて鍛え直してあげちゃおうかなー。なーんて……うふふ♡」

「怖い怖い。忙しいんだから勘弁してくれよ」

「それと、ご飯食べてます?駄目ですよしっかり栄養あって美味しいもの食べなきゃ。
 うふ♡今度ご飯作ってあげますね」

「それは嬉しいな。鹿島の料理は昔から美味かったから……」

「ヘーイ。ヘーイ。ヘーイ。提督ー?ヘーイ。時と場所、ヘーイ。アーハーン?」

「……ごほっ!すまんすまん……」

『ご飯食べてます?』のくだりで間宮が急に持っていたしゃもじをへし折り、
隣にいた伊良湖が『ぴぃ!』と短い悲鳴をあげた。
先程から少し落ち着いてヒソヒソと会話していた鳳翔と大鯨が黙りこくって笑顔になった瞬間、
取り巻きの潜水艦と空母連中は顔を青白く染めてこっそりと彼女たちから離れ始めるように移動を開始した。

完全に二人の世界を形成しようとする提督と鹿島を遮って、金剛が再び唸りだす。
それで我に返った提督は、恥ずかしそうに咳払いを一つして、罰が悪そうに頭を一掻きした。
鹿島は相変わらずにこにこ笑ったままだ。
先程まで提督の腕を撫でていた柔らかそうな手は、今は彼の肩の上に乗っている。

「まあ、なんだ。そういうわけだ。その、なんていうかちょっとな……頭が上がんないんだよ……こいつに」?

ハハ……と誤魔化すように笑い、独り言のような声でぽつりと呟いて、
そこでちょうど0800を告げる時報が鳴り響いた。その後気を取り直して行われた
本日の提督の朝の訓示は、異例の早さと情けなさで終了を告げた。

全ての朝礼が終わった後、提督は秘書艦の大淀と鹿島、
そして彼女の姉の香取を引き連れて執務室の方へ戻っていった。
取り残され、どこか釈然としない顔をした艦娘達も少しずつミーティングルームを離れていく。

移動の流れに乗り遅れた名取は、最後の方まで部屋に残ることになった。
ほぼ全ての艦娘が持ち場に移動して行った後、姉たちが残っていないか念のため周囲を見回すと
真っ白になった金剛と榛名が佇んでいるのに気付く。

どうしたものかと戸惑っていると、入口の方からのしのしと大股で日向が引き返してきた。

「今日これから演習なんだ」

「はぁ……」

目が合って、聞いてもいなかったが説明を受けた。
呆れたよう鼻息を一つ吐き出し、二人とヒョイと抱えて
俵でも担ぐかのように歩き出した日向が、ぽつりと呟いた。

「しかしなんだな。凄かったな」

「え?はぁ…はい……あの……」

言葉少ない日向の言いたいことがいまいち伝わらず、名取が聞き返す。
立ち止まり、『あいつら』と一言、執務室の方角を指差す日向に、それで名取も合点がいった。

「はい。その……凄かったです。それで……えっと……日向さんは、どう思われます?」

「どう……と言われてもな。そうだな……しいて今の気持ちを言葉にするとするならば……」

「はい」

真顔で少し考えこみ、そこで、投げやりな鼻息を一つ吐きだして、日向が呟く。

「なんだこれ」

「……はい」

それはその日朝礼に参加した(鹿島を除く)全ての艦娘の気持ちを代弁した一言だった。

書き溜め終わったんで今日はここまでにするっぽい
本物の鹿島はこんなビッチじゃなくてかわいいゆるふわお姉さんっぽい

弟をからかう、もしくは同級生を尻に敷くお姉さんって感じでいいんじゃない?

幼馴染みキャラを敵に回したヒロインの苦境そのもの

金剛とかは学校時代の提督の写真なんかを渡されて手の平クルーしそう

>>39
でも隣に鹿島が写ってるんでしょう?

乙!

>>40
思考を完璧に読むとかエスパーの方ですか?

カトリーヌ先生の反応も気になる。





幼馴染み姉妹丼の可能性もあるっぽい?


今日は終わりといったな
あれは嘘だ
区切りいいとこまで書けたからちょっとだけ投下

「まったく……大したものだわ。貴女って子は」

「えへへ」

執務室に、香取の呆れた声が響く。
悪びれずいたずらっぽく笑う鹿島に、姉としてのお説教が始まった。

「えへへじゃありません。突然こちらに来るなんて連絡してきたと思ったら、
 今度はあんな風に他の艦娘の皆さんを挑発するような真似をして。
 そのうち痛い目にあっても、私知りませんからね?もう……」

そう言ってコツン、と優しく鹿島の頭を小突くと、提督に矛先を向ける。

「提督も提督です。いくら頭が上がらないからって、あんな……
 あれじゃあ示しが付きません。きちんと毅然とした態度で威厳を示してくださいな」

「いやぁ……すみません。でも、鹿島が相手だとどうも調子が狂ってしまって」

香取の迫力にたじたじになりながらも、拙い言い訳をする提督。
だが逆に目尻を釣り上げた香取に、内心しまったと悲鳴を上げる。

「はぁ……まったく。学生時代とは違うんですよ。昔どうだったかなんて関係ありません!
 ここでは貴方が上司で、鹿島が部下!もちろん年上でも私や大淀さんだってそうです!
 大人になったんだから、その辺の分別はしっかり付けて!あんな事されたら叱りつけてやってしかるべきなんですよ!」

「……いや、それは流石に厳しいんじゃないかな。まだ初顔合わせだったんだし……」

「そうやって甘やかすからつけ上がる!昔からそう。初顔合わせであんな事するこの子がおかしいんです!」

言葉使いこそ柔らかいものの、一気にまくし立てる香取の勢いに
一言二言反論するのが精一杯の提督。大淀はというと、話の流れに着いて行けずに
固まったまま様子を窺っていた。聡明な彼女にしてはとても珍しいことだ。

しかしそこが香取の独壇場かと思いきや、鹿島だけは
それほど堪えている様子もなく口を尖らせ、子供のように拗ねた声で話をぶった切る。

「ぷぅ。香取姉ったら酷いです。鹿島のことおかしい子扱いだなんて。悲しい」

「酷くありません!だいたい貴女は!私と同じ練習巡洋艦になったと思ったら
 社会人になってから連絡の一つもよこさないで!頑張っているという噂は聞いてましたから
 あえてこちらから連絡することもしませんでしたが、たまには近況報告の電話くらいしなさい!」

「えへっ。でも、もう同じ鎮守府になったからこれからはいつでも直接お話できますね」

「もう!そうじゃないの鹿島!」

「うふふ。香取姉、心配してくれてたんですね。嬉しい♪」

「はぁ……変わらないのね。すみませんお二方。妹共々見苦しいところをお見せして……」

どんな方向から攻めても柳に風。
自分の説教が全く通じない妹のしたたかな強さについに挫けた香取は、
それ以上の説教を諦め、置いてけぼりになっていた二人に謝罪することにした。

「いや、構わないさ。なんだか久しぶりに見た光景だなって、懐かしくなった」

「ふふ。おふたりとも、本当に仲が良いんですね」

「お恥ずかしい限りです」

昔を懐かしむ提督に、これも姉妹のコミュニケーションなのかなと納得して微笑ましく見守る一人っ子の大淀。
姉に叱られ、むしろご機嫌な鹿島。もしかして自分の方がズレているんだろうかと不安になってしまう香取だった。

「さて、それじゃあそろそろ仕事の話に移ろうか。香取。
 特別任務として今日一日、鹿島に鎮守府の案内をしてやってくれないか?」

「私がですか?」

少し疲れた顔をする香取に、提督が本題を告げる。
鹿島が嬉しそうに腕に抱きついてきたのをするがままにさせ、無視して香取が聞き返した。

「ああ。鹿島はまだここに来て間もないし、どこに何があるかもわかっていないからな。
 それで今日一日で施設を案内してやりたいんだが、その役を姉に任せられるんなら適任だろ?」

「確かにそうかもしれませんが……」

「だから、今日は特別任務。1日かけて鹿島に鎮守府を紹介して、
 ついでに暇してる艦娘がいたらお互いの橋渡し役もしてやってくれ。
 ああ、仕事が終わったら今日は部屋に直帰でいいぞ」

「香取さん、最近ずっとお忙しかったですもんね。
 たまにはこういうご褒美もあっていいんじゃないかって、提督と話して決めたんです。」

「幸い今日一日の香取のスケジュールは抑えてある。
哨戒任務も、予定していた駆逐艦の訓練も、手が空いている代わりの艦娘に任せたよな」

「ええ。確かにそうですね。」

優しげに笑う提督と大淀。
その心遣いに感謝しつつも、直帰の一言で香取の頭に浮かんだのは、喜びよりもむしろ不安だった。

「直帰……そういえば、今日から鹿島は、姉妹艦の私と同居だったわよね……」

「ああ。事前に通達もしてたよな」

「よかったですね。今まで3人部屋に1人で寂しい思いをさせてしまってましたから」

「……ええ。……ええー……まあ、それは……まあ……」

「提督。なんだか香取さんが嫌そうですけど……」

「香取姉!?」

「……まあ、気持ちはわからないでもないけどな」

「提督!?」

「提督さん!?」

鹿島と同居、ということに露骨に嫌そうな顔をする香取を見て、
驚く大淀とショックを受ける鹿島。しかも提督にまで同意され、大淀は困惑し、鹿島は更に衝撃を受ける。

「ど、どうしてですか?香取さん。せっかく、その……妹の鹿島さんと再会出来たというのに……」

疑問に思って恐る恐る質問する大淀に、香取は苦笑いして答えた。

「ああ……大淀さん。いえ、それほど大した理由ではありません。ただ、鹿島ったら少し困った癖があるんです。
 寝酒にお酒を嗜むことがあって、ね。それ自体は構いませんが、酔うと決まってキス魔になって……
 しかも基本的に宵っ張りだから、同じ部屋で眠っているといつの間にか寝こみを襲われそうで。
 いくら姉妹だからって、女同士でそれは……ねぇ?」

「ああ、なるほど……そ、それはなんていうか、まあ……はい……お察しします」

眼鏡を曇らせて言葉を濁す大淀。
鹿島が香取の腕を引っ張って抗議した。

「え~?それくらいいいじゃないですか!私たまにしか飲まないんですよ?」

「そのたまにの癖が致命的なの!いやよ貴女とキスなんて。舌まで入れようとしてくるし。
 それに泥酔するとそのまま私のベッドで寝るでしょう?それももう最悪」

「むぅー。横暴ー」

「ひゃー。聞きましたか?提督」

「もう何度も聞いてるよ。……聞いてしまったよ……」

「提督、顔赤いですね」

「不可抗力だろ。というか大淀お前もな」

「えへ」

「横暴じゃありません。それに、脱いだ洋服は脱ぎっぱなしで片付けないし、気に入った雑貨は片っ端から
 すぐ衝動買いするからごちゃごちゃ。あれじゃぁ私が片付けなかったら人が住めないどころか虫すら来ないようになるわ。
 昔実家に住んでた頃、私が数日外泊して帰ったら、入るのにすら苦労する部屋になってた時のこと
 今でも忘れらてないんですからね!というか、前の部屋ちゃんと引き払えたの!?」

「……業者って凄いですよね」

「ほらやっぱり!変わってない!鹿島、貴女本当に変わってない!!」

「あ、でもでも。ちゃんと臭いだけは付かないよう気を付けてます」

「それは女性として最低限!当たり前です!!!」

「ふふっ……」

大淀がついに吹き出した。
香取姉妹と提督が思わず大淀の方を見ると、
もう耐えられない、というように大淀が爆笑を始める。

「あは……あはははは!!もうダメ!」

「お、大淀さん?」

「あ、あれ……?」

「あはははは!ごっ、ごめんなさ…っ!えほっ!で、でも、お二人がおかしくって……あはは!」

「はぁ……二人共何やってんだか」

「う……で、でもですね提督。鹿島が……」

「ああ!酷いです香取姉!どっちかっていうと香取姉のせいじゃないですかぁ!」

それまでの自分たちのやり取りを思い出し、急激に顔を羞恥に染める香取と、
己の恥部を姉に散々暴露され流石に気恥ずかしくなってきた鹿島が、姉妹揃って真っ赤な顔で責任を押し付けあう。
その漫才のようなやり取りを聞いて、大淀の笑い声が更に大きくなる。

「あははははは!あはっ!けほっ!あははははは!!あは!あははははは!!おえっ。ぶははは」

「あー……大淀のやつツボに入ったか。こうなると暫く止まらないぞ。
 でも、まあ、良かったんじゃないか?これで否応なしに親しみ湧くだろ。多分」

「こんな親しみの湧き方期待してないです!」

「香取姉ー……ひーどーいー。ショックですー。
 これはもう今晩ちゃんと鹿島のこと慰めてくれないと……ですね?ちらっ?」

「口でちらって言わない!鹿島、貴女って子は……~~~っ!……ああもうっ!はいはい、私が悪かったですっ!
 相部屋の件もちゃんとわかってるわよ!他の子に貴女を任せるわけにもいかないし!もうっ!」

「やった♪それじゃあ、今夜だけは、お酒、の・ん・じゃ・お・うっかなー?うふふ♥」

「かーしーーーまーーーーー!!」

「ふふ。冗談ですってもう♪……うふっ♥」

「あははははははははは!お、おなかいたい!!」

「……はは。なんだか本当に学生時代に戻ったみたいだ」

その様子を一歩引いたところから観察していた提督は、
少しだけ寂しそうな笑顔で笑って、その後、ふと誰かに見られているような気配を感じて
入り口の方に振り返った。……誰もいない。

「……気のせいだったかな?」

「あふっ!いひっ!うふっ……おほほほほ!」

違和感を感じ、首を捻るがその脇で大淀がそろそろ危ない痙攣の仕方を始めたので
慌てて落ち着かせに取り掛かり、それ以上そのことを気にすることはなかった。
大淀の珍しい大きな笑い声と、ぎゃあぎゃあと楽しげに言い争う香取姉妹の声を背景に、
いつしかそんな疑問を浮かべていたことすら忘れてしまったのだ。

彼がそのことを思い出し、その時の気配の正体がドアの向こうで
ボイスレコーダー片手にほくそ笑んでいた青葉だったと気付いたのは、翌日の朝のこと。
朝食の時間の間宮で皆が読んでいた青葉新聞の一面にでかでかと書かれた見出し

『衝撃の事実!今度の新人は提督の提督の幼なじみ?ベッドを共にし、キスまでした二人、感動の再会!』

を突き付けられ、彼に気付いた艦娘達の執拗な質問攻めを受けてからのことだった。

鹿島に貞操を奪われたい

安心と信頼の青葉

アオバワレェ



「名取お姉ちゃん。朝だよ。ご飯行こ?」

「いい。お腹すいてない」

「でも、そうやって塞ぎこんでても……」

「いいから。……阿武隈ちゃん、今日は朝から出撃でしょ?いいから行って。……出てって」

「お姉ちゃん……」

その日の名取にとっての幸運は、
それがたまたま彼女の非番の日であったということのただ一つだけだった。

早朝、部屋に投げ入れられた青葉新聞を阿武隈より先に読んでしまった。
それが最初の不幸。

そして、それがいつものゴシップであると気付かず、素直に真に受けてしまった。
それが2つ目の不幸。五十鈴か由良あたりがいればすぐに鼻で笑って訂正してくれただろう。
だが、3つ目の不幸として、その二人は2日前から遠征に旅立っていた。

急激に食欲が失せ、朝の食堂に行くこともできなくなったせいで
部下たちに向けて必死に記事の訂正をする提督に会えなかったのが、4つ目の不幸。

こういう時に拗ねた名取を無理矢理にでも食堂へ引きずって行ってくれる長良や鬼怒が、
他鎮守府で行われる演習に参加するため昨日の夜から不在だったのを、5つ目の不幸としてもいいかもしれない。

「……お姉ちゃん、私、もう時間だから行くけど……その……上手く言えないけど、あの……私、その……」

「…」

そして、姉の事を気遣う優しい妹が、早朝からの出撃任務のせいで、
ベッドから一歩も動かず塞ぎこむ名取を励ます時間すら与えられなかった。
それが極めつけの不幸だっただろうか。
しつこく声をかけてくる阿武隈に、苛立ちとわずわらしささえ感じてきてしまう。

「……それじゃあ、行ってきます。元気出たら、ご飯食べに行ってね?
 今日は北上さんも休みで部屋にいるはずだから、1人で行くのが辛かったら
 一緒に行ってもらえるようお願いしとくから……」

「…」

名取のそんな八つ当たりの刺々しさなど、とうに伝わっていただろう。
それでも遅刻ギリギリまで声をかけてくれる妹の優しさに、
自分の不甲斐なさが身に沁みて情けなさで胸が張り裂けそうだった。
涙を押し殺すために齧り付いた枕は、涎と涎とでとっくにくしゃくしゃになっていた。

やがてようやく諦めたのか、阿武隈の声が聞こえなくなって、パタンと静かに玄関の扉が閉まる音がする。
部屋で一人きりになった名取は、10数えるまでゆっくりと沈黙し、それから必死に抑え込んでいた感情を
爆発させて、暫くの間大声でわんわんと泣き喚いた。

今度こそ今日終わり

由良さんに俺も鼻で笑われたい。
あ、乙

??「不幸だわ……」

やはり長良型は良い


アオバワレェ!

>>涎と涎とで

涎まみれじゃないですかやだー

ぽい

ぽぽい

枕が涎だらけな件

言い値でその枕買う

前の[田島「チ○コ破裂するっ!」]の時も腹の下に枕敷いてるし
酷使され過ぎてボロボロになってそう

鹿島の部屋がゴミ屋敷とかいう風潮

>>68
ageんな鹿島の部屋の中身

>>66
こちら14万3000円となっております

名取はムッツリ(確信)

かも

今日は帰ってくるのが遅かったのでまた明日…
×涎と涎
○涎
なんだよなぁ…

結局涎まみれじゃないですかーやだー

大淀さんかわいい

>>70
14万!?ええやん

>>76
うせやろ?

鹿島

おい明日っていつだよ

鹿島

明日って明日

保守

続きまだー?

ほ?

ほ!

保守

保守



「ふぅ…以上。これでざっと主要施設の案内は終わり。今日はこの辺にしておきましょう」
「はい!ありがとうございます香取姉」

その日の夜、香取は妹と二人、ダイニングの椅子に腰掛けて、
テーブルに広げたお菓子をつまみながら妹への鎮守府案内という今日の臨時任務の終わりを告げた。
先程まで広い鎮守府内の施設案内を隅から隅まで行っていたため、意外に疲れてしまったのを感じる。
案内途中に酒保で買った高級入浴剤は今夜の楽しみの一つだった。

「鹿島、お疲れ様。どう?大体覚えられた?」

「ええ。勿論です。大きさはそこそこですけど、新しくて綺麗な鎮守府でしたね。
 お昼に寄った食堂も美味しかったですし」

「そうね。今日は伊良湖ちゃんだけだったけれど、いつも本当は間宮さんもいらっしゃるからもっと美味しいわよ」

「間宮!かの有名な!楽しみですねぇ。今日はどうしたんでしょう?」

「伊良湖ちゃんによれば急な体調不良だってことだったけれど心配ね。今度治ったらまた改めて挨拶に伺いましょうか」

「はい!」

とは言いつつも、香取には彼女の体調不良の原因は大体わかっていた。
目の前の妹の挑発的な自己紹介に、あの提督のことを慕う女性が動揺したのは想像に難くない。

本人がどんなつもりなのかは香取も未だに少々測りかねているのだが、この鎮守府で穏やかに生活していきたいのなら
もう少しおとなしく過ごすことを教えたほうがいいのかもしれないと肩を竦めてコーヒーを一口啜る。

本当は案内中に訓練場や入居施設は実際に使って見せても良かったのだが、
周りの艦娘の数人から物凄い目つきで睨まれているのを感じた香取が早々に切り上げてしまったのだ。

(好奇の目ならともかく、あの視線はちょっと心臓に悪いわ…)

少なくとも新入りに向ける目ではないと思うのだが、あんな自己紹介をされてはむべなるかな……というやつだ。
当の妹は気付いているのかいないのか、どこ浮く風で飄々と挨拶をしていたのも香取の胃を傷めつけた。
せめて自分には火の粉がかかって来ないで欲しいと、わりと薄情なことを本気で考え始めている香取だった。

と、そこで部屋のチャイムが鳴って、インターホンで運送屋から荷物が届いた旨の報せが届いた。
かつて共に住んでいた頃の妹の部屋を思い出し、どれ程の大荷物が届くのかと身構えていた香取だが、
喜び勇んでパタパタと走って行った鹿島が少しして戻ってきた後で持ってきた、たった数箱のダンボールに拍子抜けをした。

「…たったこれだけ?」

怪訝に思い首を傾げる香取。あの物を捨てられない妹の所持品がたったこれだけなはずがない。
もしかしたら今回は偵察的な第一陣であり、本命の大部隊がこの後一気に押し寄せてくるのでは?
そう思い鹿島に確認をとるが、これで全部ですとの衝撃的な答え。

「え…?なんで…?」
「それはほら!えーっと…気分的なものです!」

ふわふわと笑う鹿島に、そういうものかなという思いと、少なくとも汚部屋の掃除に
貴重な自由時間を割かれずに済むという安堵感から香取はそれ以上追求するつもりにはなれなかった。

鹿島が自分の荷物を自分用に用意された新品のベッドの横に置いたのを確認して、こほんと咳払いを一つ。
姉が改まった態度を取ったのを察知し、ダンボールの梱包を解こうとした手を止めた鹿島が、香取に向き合った。
それを確認した香取は優しく慈しむように笑い、最愛の妹に向かって、ようやく歓迎の言葉を告げた。

「改めて、ようこそ。鹿島。これからよろしくね」

歓迎のための準備は抜かりない。この日のために随分と奮発したのだ。
口うるさい同僚としての役割もここまで。

この後は用意したワインとつまみで、姉妹水入らずの時を過ごそうじゃないか。
離れ離れになっていた頃の話も聞きたいし、小耳に挟んだ彼女の活躍についても褒めてやりたい。
だから急ごう。これから時間はいくらでもあるが、今夜のうちに話したいことが沢山有るのだ。



夜になっても、誰も帰ってこない部屋。
名取はそこで朝からずっと泣いていた。

明かりも点けず、ずっと、ずっと、泣いていた。
姉妹は今日も阿武隈を除いて誰も帰ってこない。阿武隈はきっと、まだ任務中だろう。
つまり名取はまだまだ広くて静かな部屋で、たった一人で、泣き続けることになる。

そんなはずだった彼女の部屋の扉を、誰かが物凄い勢いでどんどんと叩く音が聞こえた。
最初のうちは無視して泣き続けていた名取だが、聞き覚えのある怒鳴り声が癇癪を起こしつつ
彼女の名を呼んでいるのを悟り、渋々と起き上がった。

久しぶりに起き上がったために足元がふらつきよろめくが、
なんとか歩けないことはない。涙でグシャグシャの顔を近くにあったティッシュで乱暴に擦り、
未だにガンガンと叩かれ続ける扉に向かう。その表情には少しだけ不快感が混じっていた。

だが、仕方なしに鍵を開いたその先にいた顔は、少しだけどころか
露骨なまでに苛立ちを隠さずにそこに仁王立ちしていた。

「はぁ~~~~~~」

名取の表情を見た途端、厭味ったらしくやけに長い溜息を一つ。
まるで汚物でも見るかのような嫌そうな顔で睨まれ、名取はすっかり怖気づいてしまった。

「ったく……朝から辛気臭いと思ってたけどこんな暗くなるまでずっとウジウジしてたわけ?
 部屋に電気も点けずに薄暗い中で。うわしかも雌臭い。顔もグシャグシャで目も真っ赤。いかにも湿ってるわね
 なにこれ。ナメクジなのアンタ?ヌメヌメしてるわけ?粘液でも出してるわけ?」

そこに立っていたのは球磨四番艦にして姉妹のリーサルウェポン(木曾談)大井。
後ろに疲れた顔をした同型三番艦北上と五番艦木曾もいる。が、若干オロオロしているように見える。
阿武隈とは違う任務で出撃中だった彼女は、他の部隊より一足先に帰ってきて
一日中名取の泣き声に付き合わされぐったりしていた北上木曾らの惨状を見て文句を言いに来たのだった。

「……あ」

「はぁ……あー……まったく」

何か言おうと口を開き、掠れた声を上げた名取の顔を見て、
溜息を吐いてからもう一度何か言おうとした大井だったが、
ズカズカと乱暴に部屋に踏み込んできて扉を閉めて鍵をかけた。

流れるような華麗な動きに身動き一つ出来ず、
扉の向こうで閉めだされた姉妹二人がマヌケな声を上げていたが、
大井は気にする風もなく二人以上に呆気にとられた顔で立ちすくむ名取に向けて、デコピンを一発叩き込む。

あっ、と小さな悲鳴をあげ呻く名取を無視し、何故か彼女の部屋着をタンスから勝手に取り出し始める。
事態が理解できずに混乱する名取の顔を見ることもせずに、大井は言った。

「まずはその酷い顔洗ってきなさい」

ついでに名取のタオルと下着まで何故か正確に引っ張り出してきて、バスタオルで包んで名取に投げつける。
反射的にそれをキャッチした名取に向かって、尚憮然とした表情で

「とりあえず大浴場行くわよ。4人でね」



「うふふ。香取姉~♥」

香取は妹の酒癖を甘く見ていたと思う。
さっきから執拗に自分に抱きついて、口付けをしてこようとする鹿島。
片手でその顔を抑え、近寄らせないようにしながら苦笑いして、もう片方の手でピーナッツを摘む。

ポリポリと歯ごたえのある触感を堪能しながら、
昔とまったく変わらない妹の様子になんだかおかしくなってきてクスクスと笑ってしまう。
なんだかんだ香取もかなり飲んでいるため、気分が高ぶっているのだろう。

こんな程度のことが可笑しくなるだなんて、それこそおかしい話だ、とほんのり赤くなった頬を上気させながら考える。
ただし鹿島の顔を抑える手には結構な力が入っていたが。

「ぷー。香取姉のいけずー。わかりましたよぅ」

そこで、このまま力押しでは姉への口付けは不可能と判断した妹は、一旦距離を置き、様子を見る作戦に移ることを選択した。
冗談は終わりです、と言わんばかりに椅子に座り直し、落ち着いた風にワインを一口。チョコレートを一口。チーたらを一口。
ついでにポテチを一口。二口。三口。またチョコレートをポリポリ。チラチラと姉の隙を伺いながらどんどんつまみを消費する。
香取には妹が何を考えているか手に取るようにわかった。腰を浮かせて鹿島の挙動を見守る。
警戒されていることを悟り、今度こそ諦めたようにしゅんと肩を落とした鹿島を見て、ようやく椅子に座り直した。

「まったく…」

「うふ。でも、なんだか楽しい♪」

「そうね。私もよ。でもキス魔さえなんとか自重してくれたらもっと楽しいわね」

「はーい。私ももっと香取姉とお話したいから今日はこのくらいにしておきます♪」

「それは助かるわ。できるならこの先も永遠に自重してほしいけれどね」

鹿島が何も答えずにこにこと笑いながらワインのおかわりを
グラスに注いでいるのを見て、晩酌は今後控えようと誓う香取だったが、
ようやく落ち着いた会話ができると踏んで鹿島に話を振ってみる。

「ところで、貴女の教導した駆逐艦の話を聞いてみたいわ」

「え?どうしたんですか?香取姉」

「だって、聞いてるわよ?貴女の指導を受けた駆逐艦は、目の色が変わると評判よ。悔しいじゃない。姉としても、同型艦としても」

「えへへへ~。そんなぁ。大したことないですよ」

「大したことがない?そんなわけないわ。貴女の教え子が転属一週間目で戦艦を差し置いてMVPを取った話なんか語り草よ」

「そんなこともありましたね~。でもたまたまじゃないんですか~?」

「なら単独で敵戦艦を沈めた子の話にする?それとも前回の大規模作戦で最速で海域を攻略した艦隊の旗艦を務めていたこの話でもいいわ」

「あはは。恥ずかしいなぁ。あとはぁ~。三人でレ級を追い詰めた子たちの話もありまふよぉ~」

香取としては、さっきまでのおふざけから一転、真面目な話のつもりだった。
鹿島が育て上げた駆逐艦は、各地に転属され、そこでいきなり第一線級の活躍をすると聞く。
教導艦の経験としては、流石にありえないとすら思える程の活躍だ。だが目の前の妹は実際にそれを作り上げている。

たまたま天才が一人教え子にいたなどではない。ある時などは生徒のほぼ全てが歴戦の猛者とほぼ同等であったともいう。
姉として、そして同じ練習巡洋艦として、誇らしくも、悔しさを覚えないわけではなかった。

だから一度、こうして話をできる機会があればどうやって指導しているのかを聞いてみたいと思っていたのだ。
香取はどうしてもその秘密を聞き出そうと食い下がる。謙遜してのらりくらりと質問から逃げまわる鹿島だが、
姉に褒められて悪い気はしないのか話題を変えようとすることはしなかった。ろれつが段々回らなくなってきているが、
この状態なら鹿島はかなり口が軽いというのを知っているからこその酒宴でもあった。

(もちろん、妹の着任を祝う意図が全く無かったわけではないけれど…)

心の中で言い訳をする香取。勿論それは本心でもある。
が、若干の罪悪感を感じていないわけでもなかった。

「まあ、たしかに。わたしのせいとさんたちががんばってるのはたしかかもれすねぇ~。れもまらまられふよぉ~。えへへ」

「あらあら。厳しい教官ね。しかし、どんな訓練をさせていたのかしら?」

「ん~……と……」

根が優しく、ふわふわとした妹のことだ。自分のように厳しい指導などできる気がしない。
指を頬に当てて可愛らしく記憶を辿る鹿島の表情に、優しい気分になりながら、香取は妹の答えを待った。

だが、それで自分以上の成績を叩き出す駆逐艦を沢山育てることができるというのなら、
自分もそれを真似しないわけにはいかなかった。言ってしまえば、彼女らは幼いのだ。
そんな子らに、生き延びるための術を与えるのに、厳しくせずともそれが可能ならば、
香取だってわざわざ彼女らに辛い思いをさせたくはない。鹿島の指導方法にそのためのヒントが有るのならーー

「まあ、訓練……自体は他とそれほど違うことをさせていたつもりはないんですが、強いて言うのなら」

「ええ」

「憎しみ、でしょうか」

「えっ?」

うふふ。と、鹿島が笑った。

遅くなってごめんなさい…

遅かったじゃあないか…

心臓に悪いなあ!

ぴゃー

乙 ナメクジみたいにヌルヌルな名取……素晴らしい

これ鹿島さん確信犯(誤用)ですわ

おつー
それにしても生きてたのか……
正直エタッたと思ってました

全て計算の上か
恐ろしい

憎しみを煽っていくスタイル



大浴場。鎮守府に備え付けられた艦娘用のそこでは、
宵の口でもあるこの時間に、すでに様々な艦娘が思い思いに寛いでいた。
入渠用の特殊な溶剤が溶け込んだドックとは違い、
こちらは普通の入浴剤が入った、主に怪我などのない艦娘達用の平時の入浴施設だ。

とはいえ今はまだまだ混雑がピークの時間帯には程遠い。
あと数時間もすれば、洗い場が満席になって
時には取り合いで喧嘩すら起こるのだが、今はまばらに人が座るだけだった。

「ふい~。極楽だねぇ~」

「なんだよ姉貴。おっさん臭ぇな」

「木曾。北上さんになんなのその口の聞き方」

「いてて!耳引っ張るなって!」

球磨型3人の声が、一際大きく浴場に反響する。
気持ちよさそうに湯船に身を沈めた北上が
骨身に染ると言わんばかりに緩みきった声を絞り出した。
身体を洗い終え、後から付いてきた木曾がその声を茶化すと
更にその後ろから歩いてきていた大井が目と釣り上げた。

悲鳴をあげながら大井に引きずられていく木曾を見て、
先ほど更衣室で会ったまるゆがオロオロと戸惑っている。
名取は、彼らの3歩ほど後ろをおずおずと付いて行き、北上の隣で遠慮がちに湯船に浸かった。

「だああああああああああああああ!!!!!」

ほどなくして、大井によって水風呂に
投げ込まれた木曾の悲痛な悲鳴と大きな着水音が響き渡った。

普通の銭湯でこんな真似をすれば
相当なマナー違反と咎められるであろうが、ここは鎮守府。
その様子を見ている面子は全員気心が知れている。

ちらりとこちらを見て呆れたように肩を竦め、身体を洗う作業に戻る重巡洋艦、
轟沈した木曾の方を指を指してゲラゲラ笑う軽空母、見向きすらせずに談笑を続ける正規空母と潜水母艦、
洗い場で鬼ごっこする駆逐艦とそれを叱る戦艦に、北上達同様のんびりと湯船で寛ぎ続ける多種多様なその他艦娘…
思い思いに過ごす彼女らの中に紛れれば、この一連の騒ぎも日常の一つのようなものなのだろう。

蕩け切った顔でタオルを頭に乗せて目を瞑る北上の横、
名取は浅葱色に透き通ったお湯を手で掬い、ゆっくり顔にかけて、ゴシゴシと擦った。

「ん…まだ目が赤いね。でもまあさっきに比べれば大分いい感じになったよ」

北上が目を瞑ったままこちらを見もせずに言う。

不思議な人だと思う。
妹の阿武隈はやれ変な人だの意地悪だの根性曲がりだの
全ての女の子してる女子の天敵だの好き勝手言うが、
名取は北上のことは、そこまで悪い人だとは思えなかった。

「ふぅ…余計な手間を掛けさせられたわ」

木曾を沈めた後、なんの感慨もないといった顔で普通にこちらに歩いてきた大井が、
名取とは逆方向の北上の隣に座る。水風呂の方を見ると、木曾はまだ浴槽から浮かび上がってこない。
彼女の長い髪がワカメのようにゆらゆらと浴槽を浮かんでいるのだけが見えた。

「あ、あの…大丈夫なんですか?」

「まあ平気よ。あんな程度で怪我するようなやわな鍛え方させてないし。まるゆちゃんも行ってるし」

そう言って大井が顎で指し示した先では、相変わらずあわあわと
慌てながらも、沈んだ木曾に向かって何やら叫んでいるまるゆの姿。
ちなみに水の中には入ろうとしない。
水風呂冷たいしね。とは北上の言だが、
普段彼女らもっと冷たい海に潜ってるのでは…と名取は心の中でだけツッコんだ。

「で、何があったのよ」

「え?」

「とぼけないの。なんで泣いてたのかって聞いてんの」

「それは……」

「大井っちストレートだね~」

「だって気になるじゃないですか。北上さんは気にならないんですか?」

「まあ、なる」

「でしょ?ほら言いなさいよ」

「えっと……」

全くの気遣いやら手加減やら無しにこんなことを聞いてくるハイパーコンビ。
大井がいつの間にか移動して、北上と挟みこむような陣形で名取を取り囲んでいた。
目を泳がせて周囲を伺い助けを求める名取だが、こちらに関心を払っている者は名取の視界には誰もいない。
と、しどろもどろの名取の背中に急に柔らかく重いものがのしかかってきた。不意打ちに思わず口から悲鳴が漏れる。

「ひゃあっ!?」

「よおっ!なんだなんだ?面白い面子じゃんか!何の話してたんだ!?」

「加古ったらもう…急に後ろから抱きついたらびっくりさせちゃうじゃない。ごめんね?名取ちゃん」

「あ……その……えう……」

「おっ!古鷹っちに加古じゃ~ん!」

「おう北上!なんで古鷹は愛称であたしは呼び捨てなんだ!ぶっ飛ばすぞお前!?」

「北上さんをぶっ飛ばす、ですってぇ…?」

「加古ったらもう…止めなさいよ」

「あっはっは!」

「へっへっへ!」

古鷹型重巡洋艦の古鷹と加古。優しい姉と大雑把な妹のコンビだ。
笑いながらお湯を掛け合う北上と加古。この二人、どうやら馬が合うらしい。
なんだか嬉しそうな北上の様子を見て、大井が悔しそうに歯ぎしりをする。

この二人がいることは…と嫌な予感がして辺りを見回す名取だったが、
妹の青葉と衣笠は今はいないらしい。青葉がいないことに少しだけほっとする。
古鷹はそんな名取の様子を見て、申し訳なさそうに苦笑いをしてみせた。

「隣、いいかな?」

「あ……はい……」

仕切りなおすように、古鷹が名取に確認を取る。
この古鷹という少女、鎮守府でも指折りの人格者だ。優しくて気遣いもできる。
逆に指折りの問題児である青葉の姉というのが他の艦娘にとってはなんとも複雑なところなのだが。

そんな古鷹に隣をいいかと尋ねられ、断るわけもない。
二つ返事で了承した名取だが、内心少し緊張してもいた。
何を話していいのかわからない。ふざけながら今度は二人掛かりで
大井に向かってお湯をかけている北上加古を見ながら、ぼんやりと何を話そうか考える。

「もしかして、さっきまで泣いてた、のかな」

「えっ?」

唐突に、古鷹が言ってきた。
まさかいきなり当てられるとは思わず、思わず目を擦る。

「……ごめんなさい。目が赤かったから。触れて欲しくなかった?」

「いいんです。もう大体落ち着きましたから」

慎重に、言葉を選びながら答える。
とはいえ、この言葉は本心だった。大井達に無理やり引きずられてきた浴場ではあるが、
広い湯船に浸かり、さっきからコミカルな面々と過ごしていることで随分と落ち込んだ気分は良い方向に向かっていた。

「それなら良かった、かな。でも、さっきから何人も今の名取ちゃんみたいな目をした子と会ってたから」

「あの…それはどういう…?」

思わずまた聞き返す。古鷹の方を見ると、二つの宝石のようなオッドアイと目が合った。
吸い込まれるような輝きに、無意識に息を呑む。

「涙の原因、当ててみようか?鹿島さんでしょ?」

「…」

「随分、提督と親しそうだったから。やっぱり気になる人は浮足立っちゃったり。
 あとはほら、色々とややこしいこと考えちゃって…ね。」

「……古鷹、さんは、その」

「私はいいの。もう随分昔に諦めた組だから」

「…」

そう言って寂しげに笑う古鷹に、名取の胸が痛む。古鷹と提督の話は噂で聞いていた。
この鎮守でもかなりの古株である古鷹は、ご多分に漏れず、何人もの艦娘と同様、
かつて提督に想いを寄せたことがあるのだと。その想いがどのようにして決着したのかは、誰も知らない。
だが、はっきりと言えるのは、今現在、改二となって久しい古鷹の左薬指に指輪が輝いていないということと、
そして古鷹がその指輪を欲しがることは、もうきっと二度とないだろうと口にしているという二つの事実だけだ。

「でも、だからと言って今彼に想いを寄せている子にまで諦めろなんて言うつもりはないしね。
 私はみんなの恋を応援しようと思うの。それが例えたった一人だけの勝者しか生まない残酷な争いだとしても。そう決めたから」

古鷹がどんな想いで口にしているのか、名取には想像もつかなかった。
ただ、少しだけ疲れたような顔の古鷹が、とても大人に見えたのは確かだ。

「名取ちゃんも、あの人のことが好きなんでしょ?」

「……はい」

蚊の鳴くような声で、名取は答える。
恥ずかしそうに俯いてしまった名取に、眩しそうに目を細めて古鷹が笑った。

「そう。……素敵だね」

「…」

何が素敵なんだろうか。名取にはさっぱりわからない。
だけど、きっと古鷹がそういうのなら、それは素敵なことなんだろう。そう思った。

「負けちゃ駄目だよ」

しばらくの沈黙が続いた後、古鷹がもう一度口を開いた。
何に、とは言わなかった。

「負けちゃ駄目だよ」

もう一度、古鷹が言った。

その声が震えていたような気がして、
俯いたままだった名取が急いで顔をあげた時、
古鷹はすでに立ち上がって名取の元を離れていくところだった。
いつの間にか北上にもたれかかって爆睡していた加古に声をかけ、揺さぶり起こして二人で湯船を後にする。
その後姿が、名取はとても寂しそうで、悲しそうで、そしてとても、とても恐ろしかった。

「だーもう!姉貴酷くね!?マジで酷くねえ!?なあまるゆ!」

「あの…その…えっと……」

「あらおかえり愚妹。北上さんを悪しように言った愚かな脳みそはきっちり冷えた?」

「ああばっちり冷えたわ!心臓が!あと肝が!」

「おっ!木曾っちー。無事だったんだねぇ」

「無事に見えるか!?あの惨状が無事に見えたか!?」

古鷹達と入れ違いで、のっしのっしと大股で木曾がこちらに歩いてきた。
乙女の恥じらいなどどこかに放り投げてきたと言わんばかりのがに股で、ゴリラめいた動きだった。
ちょろちょろと周りについて回るまるゆが必死に局部をタオルでガードしてくれているおかげで
なんとか最後の最後の尊厳だけは守り通せている。

「まあまあいきなり水風呂入って身体が冷えたでしょ。ほらこっち来て湯船浸かんなさい」

「がるるるる」

のほほんとした顔で自分の側に手招きする北上と
すました顔で北上にしなだれかかる大井に向かって一吠えして威嚇し、
人2人分距離をおいて湯船に入る木曾。タオルをまるゆから受け取って、
ぶはーと思い切り息を吐いてようやく落ち着いたようだ。
後ろでクスクス笑っていた卯月が振り返りもせず伸びてきた腕に一瞬で捕まり、
そのまま引きずり倒されて、頭から湯船に沈められる。

「ったく……やんなっちまうな。で、もういいのか?名取は」

「えっと…」

「あらなんのことかしら?」

「とぼけんなよ。気落ちしてるコイツを励まそうと無理やりここに連れ込んだんだろ。で、一定の効果はあったわけか」

「んー、そうね。まあそこそこ効果はあったんじゃない?私はなにもしてないけど」

「そうかそうか。それがかえって良かったんだろうな」

「あらどういう意味?水風呂一回じゃ足りなかった?」

「おうおうやってみろやクソ姉貴!今度は逆に沈めてやろうか?あ!?」

どうやらまだ木曾の機嫌は治っていないらしい。
悪態を吐きまくり腕まくりするジェスチャーで
姉に食って掛かる木曾の姿は、まるでチンピラのようだった。

面倒くさそうに木曾に対してかかってこいと指で手招き
する大井と、自然な流れで二人から遠ざかり名取の隣に移る北上。
あわあわしながら木曾と大井を止めようとするまるゆに、地味に湯当たりしてピンチの卯月。
それを見て割って入ろうか悩む名取だったが、結論から言えばどんなアクションを取ることも彼女には出来なかった。
その前に空気が変わったからだ。

球磨型の二人がいざじゃれ合いを始めんとするその一瞬前。
彼女らのいる湯船からやや遠くで、入り口が開く乾いた音がカラカラと鳴り響く。
普段なら誰も気にしない音。だが、その瞬間は、明らかに異質だった。
誰もが違和感を感じたのだ。そうして、誰もがそちらに視線を向けた。

「「「「…」」」」

ピリリとした空気が名取にまで感じられるほど、浴場全体を張り詰めた何かが包んだ。
その場にいるだけで息苦しいような空気。殺気、というやつに似ていると思った。
まるで戦場にいる時と似たような……

「うわー。すごーい。広ーい」

その中で、たった一人、のほほんとした声をあげる女が一人。

「それに清潔で、暖かそうで、気持ちよさそうなお風呂ですね♪」

ふわりとしたウェーブがかった銀髪を降ろし、白くフワフワとしたタオルで包まれている肢体は豊満。
スラリと伸びた脚は長く、新雪のように白く滑らかだ。立ち込める湯気に当てられ汗ばんだ肌はすぐに
ほんのりと赤く染まり、身体に帯びた熱を吐き出すように、苦しげな吐息が艶めかしい唇から漏れた。
一息吐いた後、その口元から溢れた甘ったるい声は、静まり返った浴場にいやに大きく響いた。

「うふ♥皆さんどうぞお構い無く♪」

状況はシンプルだ。鹿島を見つめる視線の一つが、こう分析した。
即ち。『噂の新入りが』『堂々と』『たった一人で』『艦娘で溢れる大浴場に』『丸腰で』やってきたのだ。



真っ暗な部屋で、香取は椅子にもたれかかり、座っていた。
疲れたのか顔を左手で覆い、嘆くように天を仰いだままの態勢で固まっている。

その右手には、先ほど酒保で購入してきた高級入浴剤が握られている。
鹿島の好きだったユーカリ系のバスソルト。渡しそびれてしまった。
彼女は香取を置いて先ほど大浴場へと向かったのだから。
タイミングを逃したわけではない。
ただ、彼女の意図に反していたから言外に受け取りを拒絶されただけのことだ。

香取は先程の妹との会話を反芻する。
眼鏡の度が急にきつくなった気がして、目がずきりと傷んだ。
やけくそ気味に投げ捨てるように乱暴に外し、テーブルに叩きつけた。

『憎しみ、です』

驚き聞き返した香取に、薄く笑って鹿島が繰り返した。

『みんなに、私のことを憎んでもらうんです』

可笑しそうに妹が笑った。

『酷いことをして。いっぱい酷いことをして♥』

楽しそうに妹が笑った。

『殺してやるって、言わせてあげるんです♪』

愉快そうに

『そこからが本当のスタート。また傷めつけて』

気持ちよさそうに

『傷めつけて』

心底

『傷めつけて♥』

心底

『踏み躙って♥踏み躙って♡踏み躙って♥』

心底

『そうすると、ある日を境に私の言うことを何でも聞くようになるんです』

気持ちよさそうに、興奮したように

『私をいつか殺すために、強くなろうって、決心するんですね』

ああ

『ああ♥』

なんて

『なんて♡』

嫌な目をするようになったんだ。この子は

『うふふ、かわいい♪』

今日はここまでです

うぉぉぉぉぉもうダメかと思ってたら更新されてるぅー!
続き頑張ってください。
待ってます。

選ばれたのは古鷹でした

おつ

おつです

乙です
古鷹っち…

一体鹿島に何があったんだろう……

何か鹿島の服着たハートマン軍曹が浮かんできた。微笑み[ピザ]が出ません様に…

そこらの艦娘の生半可な殺意じゃどうにもならない程には鹿島自身が力を持ってるんだろうか


鹿島さん怖い

歪みおばさん

静まり返った大浴場に、ひたひたと静かな足音が響く。
誰も口を開かない。物音一つ立てない。
普段何があろうとはしゃいでいる駆逐艦の、特に騒がしい連中や幼い子供達ですら、
何かを感じとったのか身じろぎ一つせずにそちらを見つめている。

数多くの好奇の視線。訝しむような視線。値踏みするような視線。
そしていくつかの、敵意に満ちた突き刺さるような視線。
そこにいるほぼ全ての艦娘達の注目をその白い素肌に一身に浴びて、
そんなもの意に返さないとばかりに堂々と歩く。

「うふふ。隣、失礼しますね♥」

途中で鹿島が現れたため、椅子に座って身体を洗っている態勢で
時間が止まったようにぽかんと呆けているのは、
綾波型2番艦の敷波だ。普段はほんの少し斜に構えた
ツンケンした部分がある彼女だが、最近改装したばかりで、
これからバシバシ出撃するぞ!と鼻息荒く意気込んでいたのが皆の記憶に新しい。

洗い場はまだまだ混雑のピークには程遠く、いくつも席が空いているのだが、
鹿島は敢えてそんな敷波の隣にやってきて声をかけた。戸惑う敷波を他所に、返事を待たずにすぐに座る。
誰しもがその意図を図りかね、遠巻きに彼女らを見守ることしかできずにいた。

敷波は、生来の人見知りも相まって混乱の極みのような状態にあった。
鹿島が鼻歌を歌いながら洗面器から自前のやけに高そうなボディーソープの
容器を取り出したあたりにようやく硬直が解けたようで、
壊れた玩具のようにぶんぶんと首を振り周囲を見渡し、救援を求めていた。
こんな時に限って、彼女の頼りになる姉の綾波はいない。彼女は今、遠征中なのだ。

優雅な手つきで髪をまとめ上げ、手早く身体を洗い始めた鹿島の身体が、
ふわふわのスポンジから膨れ上がった見たことのないようなきめ細やかで
豊かな泡に包み込まれる。瑞々しい薔薇のような芳しい香りが敷波の鼻腔にまで届いた。
思わず鹿島の方を見ると目が合って、にこりと笑いかけられる。
なんだか照れくさくなって、そっぽを向こうにも何故か体が動かない。
まるで蛇に睨まれた蛙のように、敷波は混乱していた。

(うっわ。なにこれすごい美人)

それが敷波の率直な感想だった。
艦娘は基本的に美人が多いが、その中でも相当なレベルだ。
このレベルになると、太刀打ちできるのは扶桑姉妹とか
その辺のクラスを引っ張ってこないと無理なんじゃないかなんてことまで考える。

敷波自身は、そもそも自分のことを艦娘の中でも珍しい芋臭い田舎娘程度に
しか評価していないので、太刀打ちしようとすら思わない。……嘘。
こんな美人の横にいると、消えてしまいたい気分になる程度には
自分の容姿に対してコンプレックスを抱いていた。

鹿島の顔を見るのが辛くなってきて、視線を下に移す。
そこには、当然泡の下からでもわかる女性らしい豊満な肢体。
美しい肌も欠かさず手入れを続けている証拠だ。
すべすべで柔らかそうで、おまけにいい匂いまでする。

汗臭い、まばらに日焼けした薄い身体を鎮守府備え付けの安物のボディーソープで
洗っている自分が、急に惨めなように感じられてしまう。
ましてや今、この場の艦娘のすべての視線が自分のいる場所に集まっているのだ。
ということは、当然それはつまり目の前の女性と自分の姿が、他の面子から否応なく
比較されてしまっているということに他ならないわけで……

そこまで思考が至った後、数秒の間を置いて敷波が弾かれたように身体を洗う作業を再開した。
手がやけに早いのは、さっさと済ませ、急いでこの場から脱出しようと決めたからだ。
雑な洗い方のせいで、十分な泡立ちも無く、タオルで肌を擦っているだけなので
十分に身体を洗えているとは言いがたいのだが、構わない。敷波の目にうっすらと涙が浮かんだ。
それでも身体を全て洗い終える前に心が耐え切れなくなってしまい、
洗面器に張ったお湯で乱暴に身体を洗い流して打ち切ってしまう。

そのまま逃げるように湯船まで走りだし、目立たぬよう人気のない浴槽の端の方に飛び込んで、
目元まで湯に浸かって人目から逃れようとする敷波のその姿は、皆の目から見てもとても哀れで、
だが敢えて笑い者にしようとする者は誰一人としていなかった。

敷波が去った後、誰にも見えないようくすりと一笑し、
身体を洗い終えた鹿島は、次にまとめていた髪を降ろしてそちらの手入れに移ろうとした。
だが、そこで彼女に近づいてくる一人の艦娘がいるのを確認し、
髪を洗うのを止めて目線だけをそちらに向ける。

その途中で一瞬、落ち込む敷波の側に立ってどうしていいのかわからないといった風に
顔を見合わせている吹雪型の上から二人の姿が見えたが、今はそれはどうでもいい。

やや大股に、威圧するようにこちらに向かってくる少女は、白露型二番艦の時雨だ。
鹿島はその名を勿論知っていた。いや。それだけではない。

先ほど敢えて惨めさな思いを刻みつけてやった敷波も、そんな彼女に今視界の端で
声をかけようかどうか迷っている吹雪と白雪も、こちらを剣呑な目つきで遠巻きに
見つめている夕雲も、自分は気にしていないという風に顔を背けながらチラチラ
とこちらを伺う天津風も、目を吊り上げこちらに向かってくる姉をハラハラと見守る春雨も。
鹿島は、この鎮守府にいる艦娘の顔はとっくに全て覚えていた。

「やあ。隣座ってもいいかな」

時雨が鹿島に声をかける。刺々しさは、今はまだあまり感じない。
ただ、お前を値踏みしているぞという強烈な意志を感じる口調と視線だった。

「うふ。ええ、どうぞ、時雨ちゃん。シャンプー使います?」

鹿島は着任前に独自に調べていた、この鎮守府内の艦娘の個人データを脳内で検索する。
時雨。確か、この子はこの鎮守府の駆逐艦の中では古株で、キス島撤退作戦で旗艦として
大任を果たして以来、駆逐艦のリーダー格を任されている一人だ。

更に改二改装を施されてからは、その圧倒的な火力で今もなお強力な駆逐艦が必要な任務では
提督に真っ先に頼られる存在であるという。まさにエースと言って差し支えのない実績だろう。

「驚いたな。もう僕の名前を?…いや、いいよ。僕は自前のを持っているから」

そう言って時雨が手に持ったシャンプーは、鹿島の物ほどではないが、
時雨のような年齢の少女が持つにはいささか高価な、サロン御用達のものだ。
ボーイッシュな外見に反して意外に身だしなみにも気を遣っているのかな、
などと内心で考え、鹿島はなんだかおかしくなってクスクスと笑った。

「それは勿論。これから教導艦として貴女達駆逐艦や軽巡の皆さんをご指導する立場ですから。
 …あらら、余計だった?ごめんなさい」

「そうか、そうだったね。それならこれからご指導ご鞭撻戴く教官殿には、敬語でお話した方がよろしいですか?」

慇懃無礼のお手本のような敬語に、鹿島は思わず吹き出してしまう。
この時雨という少女、本人は冷静さを保っているつもりなのかもしれないが
随分熱くなりやすい性質のようだ。さっきまで隠していたはずの敵意がもう剥き出しになってきている。
鹿島としては嫌いな方じゃない。むしろ好きな部類だ。

「うふふ、大丈夫。時雨ちゃん、敬語苦手なみたいだし♥あんまり堅苦しくするのは私も苦手だから」

「そうかい。軍隊としてそれはどうなんだって気もするけれど、それは嬉しいかな」

ちっとも嬉しそうじゃない声。それにさっきから観察していて、全く瞬きをしてない。
緊張している証拠だ。それがまたたまらなく可笑しくて、鹿島の喉からまたうふふと笑い声が漏れた。

「随分よく笑うんだね」

眉を潜め、目つきをスッと細めて時雨が指摘する。

「それとも僕が何かおかしなことでも言ったのかな?」

さっきから全く洗髪も、洗体もする様子がない。
ただじっと鹿島の方を見て座っている。

「だって時雨ちゃん、可愛いんだもの。これなら上手くやっていけそう、なんてね。これからよろしくお願いしますね。うふふ」

「……本当にそう思っているのかな?いろいろな意味でさ。……まあいいけれど。ああ、これからよろしく」

会話をするだけなら別に問題あるまいと判断し、
このまま洗髪を済ませてしまうことにして鹿島は髪を濡らすためにシャワーノズルへ腕を伸ばした。
それを見て時雨も鹿島を見るのを止め、まとめていた髪を解き始める。
自分も洗髪を済ませてしまおうと考えたのだろう。

「うふ。今の、なんか引っかかる言い方だな~。なにか気になることとかあるのかしら?
 そっか、まだまだ私達、お互いのこと全然知らないですものね。
 いいですよ。お姉さん、今なら質問があるならなんでも答えちゃいますよ」

シャンプー容器を手にとって、片手のひらに薄く溶液を広げ、
それをもう片方の指でクチュクチュと弄りながら横目で時雨を見て笑う。
鹿島に急にそんなことを言われ、時雨が困ったような声を喉から絞り出した。

「なんでもって……それは……」

それから辺りを見回すと、ギャラリーが身を乗り出して時雨の顔を見ていた。
全員が全員こちらの方を期待を込めた目で見ているのだ。みんな知りたいことは同じなのだろう。
ただ、それを聞くのはとても勇気がいることでもある。
場合によっては聞いた者が巻き添えで糾弾される羽目にすらなるのではないかと、
時雨の背筋を冷たいものが走った。

「うふふ。それじゃあ、タイムリミットは私が髪を洗い終えるまでね♪」

「うわ!ちょ、ちょっと待ってくれないかな!えっと…!」

鹿島が手のひらで泡立てたシャンプーを頭に乗せる。すぐに髪を洗う心地いい音が聞こえてくる。
落ち着かない様子の時雨が、鹿島の真似をして手のひらに乗せたシャンプー溶液をもう片方の指で泡立て始めた。

「えっと……」

もじもじと鹿島の様子と周囲の様子を伺いながら、時雨の口がモゴモゴと動く。
鹿島は敢えて聞こえない振りとして時雨の出方を伺った。
それから1分が過ぎ、2分が過ぎ、3分が過ぎ…シャンプーを終え、
コンディショナーも後は洗い流そうという段階になって
鹿島が再びシャワーノズルに手を伸ばしたタイミングで、意を決したように時雨が叫んだ。

「あの……!か、鹿島、さん……は!」

鹿島の手は止まらない。
聞こえているのかいないのかわからないような状態で時雨の声を聞き流しながら頭にお湯をかける。
怯んだ時雨だが、鹿島が質問に答えるのは頭を洗い終えるまでと言ったのなら、もう時間がない。
今更口を止めるわけにもいかない。祈るような気持ちで言葉を続ける。

「その……!えっと……!あの……!」

鹿島は髪を流し続ける。銀髪がお湯に透けてキラキラと輝く。

「提督とは……その……」

時雨の声は苦しそうだった。
震えていて、自分の嫌な予感がどうか当たらないで欲しいと、懇願するような口調だった。

「どういう……」

消え入りそうな時雨の声は、それでも耳元で流れるお湯の音の後ろでも鹿島の耳にははっきりと届いていた。
時雨の感情の揺らぎが手に取るようにわかって、鹿島は彼女がたまらなく面白いと思った。

「関係……………なの……かな……?」

時雨の質問が終わってからも、わざとしばらく気を持たせるように
ゆっくりとお湯を流し続ける。時雨の様子が段々不安気になっていくのを気配で堪能する。
それから三分ほどして、いい加減頭を流し続けることに飽きた鹿島は、
それでもわざとらしく緩慢な手つきでシャワーヘッドに届く湯の供給を止めて見せた。

「…ふう。私と彼の関係…かぁ。うふ。気になります?」

「……うん。その、ただの同期にしては、随分と仲が良さそうだったから……その……」

先程までの挑戦的な輝きはもう彼女の瞳には宿っていなかった。今の時雨は、怯える子犬のようだ。
その様子に、鹿島の身体の芯を熱い衝動が駆け巡る。内心思わず転げまわりたいような衝動に襲われながら、
なんとか平静さを取り戻した鹿島は、周囲の他の艦娘にも聞こえるようにわざと少しだけ大きな声で言った。

「なら教えてあげますね。うふ。私と彼の関係は……」

「……関係は?」

「関係は……」

固唾を飲み込んで鹿島の次の言葉を待つ時雨。
聞き耳を立てる周囲。場の全てを支配している感覚に、鹿島の身体がまた熱くなる。
そこでたっぷりと間を置いて、視線で続きを催促してくる時雨に向かってそっと身を寄せる。
急に迫ってきた鹿島に驚き、目を見開いたまま固まった時雨の耳元に唇を寄せると、甘い声で囁いた。

「……ただのお・と・も・だ・ち♥」

「ひゃぁっ!?」

「うふふふ」

最後のおまけに耳の中にふーっと軽く息を吹きかけてやると、
時雨は大げさにのけぞって悲鳴をあげながら椅子から転がり落ちた。
その反応を見て可笑しそうに笑ってから、先ほど頭から流したはずのシャンプーの泡が
肩に流れて残っているのに気付き、今度は苦笑いして洗い流した。
いつもは頭を洗ってから身体を洗っているので、少し勝手が違ったのだ。

それから立ち上がって湯船へ向かって歩いていくと、
その方向から見ての予想到達地点付近にいた数人の艦娘が、
蜘蛛の子を散らしたように浴槽から出て行った。

その間、時雨はしばらく魂が抜けたようにペタンと地べたに尻餅をついていたが、
心配した春雨が駆け寄っていって時雨に肩を貸すと、よろよろと立ち上がってそのまま入口の方へ歩き出す。
髪も身体も洗わずに、湯船にすら浸からずに風呂場を後にする時雨の顔は、様々な感情で真っ赤に染まっていた。

一連の騒ぎもようやく収まり、鹿島は複数ある広い浴槽の内の一つをほぼ独占状態にして寛いでいた。
気圧された艦娘達が、一人、また一人と自主的にその浴槽から出て行ったからだ。
そこにいたのがほぼ駆逐艦ばかりだったというのも原因だろう。
普通の娘は、いくら新人だろうが基本的に目上には弱い。

「……感じの悪い女ね」

「そう?ま、私はどうでもいいや」

鎮守府内感じの悪い女ランキング現役女王(3年連続3回目・青葉調べ)であることの大井が、ぼそりと呟いた。
鹿島のいる浴槽とこちらはやや離れているので、今の言葉は流石に聞こえなかったと名取は思いたい。
その側には木曾が土左衛門のように静かに浮かんでいる。卯月がツンツンと突いても反応が返ってこないのが心配だった。
北上は鹿島にもそちらにも我関せずで、先ほどやって来た大潮、雪風、時津風らに向かって水鉄砲なんかをかけて遊んでいた。
全てが終わった後にやってきたために事情を把握していない彼女らは、
最初は風呂場全体に広がる異様な雰囲気に気圧されていたものの、
今は北上に遊ばれて大喜びできゃっきゃとはしゃいでいる。

黙って鹿島らのやり取りを見ていた名取は、
穏やかの性格の彼女には珍しく、どちらかというと大井に近い感想を覚えていた。
いくらなんでも子供相手にちょっと意地が悪すぎるのではないか。

だが、かと言って時雨に関しては突っかかっていったのは彼女の方だし、
敷波に関しても、ただ彼女の側で身体を洗い始めただけで
悪意があったかと言われれば、名取の想像の域を出ないとも言える。

提督との関係に関しては時雨の耳元にしか届かなかったのでわからないが、
それを詮索するのは、本来は詮索する側が野暮なのだろう。

ただ、駆逐艦としては大人びており、強かな性格の時雨が一方的にあしらわれたとなれば、
鹿島のことを気に食わない者は更に敵意を増すだろうし、逆に新入りでそれだけガツンと
やってみせたということで、彼女のことを見直すような者も現れるだろうことは想像に難くない。

艦娘というのは本来荒っぽいものだ。
そこで敵を作ることも厭わずに気概を見せた者は一目置かれるのも事実だ。

「へー。中々やるじゃん。人は見た目によらないもんだね。そう思わない?那智さん」

「まあな。しかし、だからってあれでは後々大変だろうに、よくやるよ」

「へへー。でもああいうの、嫌いじゃないでしょ」

「まあな。お前だってそうだろう。ところで、大事な後輩のお礼参り…なんて野暮はしてやるなよ?」

「あったりまえじゃん!わざわざ突っかかってって返り討ちにあったのは時雨の自業自得!
 私があいつの仕返しに行くなんて筋違いもいいとこでしょ。そんなのあいつも望まないだろうし」

「わかってるならいいさ。もっとも、この私にあんな態度を取ったのなら、ああは愉快にいかないがな」

「それは私だっておんなじだけどね!でもまあ、今のとこは静観かなー」

北上の後ろの方から二人分声が聞こえる。軽巡洋艦の川内と重巡洋艦の那智だ。
会話を聞く限り、一部の武闘派連中は彼女のことを受け入れ始めているように感じる。
とはいえ、こういう連中はいざ自分らに火の粉がかかってくるとなると
待ってましたとばかりに喜々として喧嘩を始めようとするような手合でもあるので、
火種がくすぶっている感は否めないが。

先のことを思い、名取は嫌な気分になる。提督のこともある。
だが、それと同時に、自分の好きなこの鎮守府のどこか温かく楽しげな空気が、
鹿島が来てから段々おかしくなっていくような、そんな気がしてしまうのだ。

(思いすぎ過ごしだったらいいんだけど……)

悪い方悪い方に考えるのは、名取の悪い癖だ。
折角気分転換にと北上達に連れて来てもらった風呂で嫌な気分を覚えても仕方あるまいと
一度軽く頬をピシャリと叩き、それからの時間は、極力鹿島のことは考えないよう努めることにして過ごした。



「ちょっといい?呑気に寛いでるところ悪いんだけど」

それから更に数十分。
風呂から上がり、白のキャミソールに薄いベージュ色のハーフパンツと
いうラフな格好で更衣室で涼んでいた鹿島の元に、駆逐艦がまた一人近付いてきた。
にこにこと微笑みながら、不機嫌そうな顔でこちらを睨む朝潮型十番艦、霞に視線を合わせる。

艦娘の中で一番血の気の多い人種は、駆逐艦である。
これは鹿島の中にある経験則の一つだったが、こうもひっきりなしに
突っかかってこられるとは思い通りを超えて、もはや入れ食い状態で笑いが止まらない。
自分の立てた計画が順調過ぎて、今日一日で一週間かけて行うはずだった
仕事の下準備が全て完了してしまいそうな勢いだ。

「霞ちゃん…だっけ?うふふ。これからよろしくお願いね」

自信に満ちた挑戦的な目つきは、最近改二に改装してから主力駆逐艦として
起用されることが増えたことの現れだろうか。
自分に厳しく他人にも厳しい。曲がったことが嫌い。だらしない人間は大嫌い。
短気で喧嘩っ早く、きつい物言いで周囲と軋轢を生みやすい傾向にある。
上下関係などは馬の糞ほどにも気にした素振りがなく、上司や先輩であろうとけなすときはボロクソに貶す。
そのくせ本当は誰よりも仲間思い。そんな感じだったかなと記憶の中の彼女のプロフィールを掘り起こす。
だとすれば、この後の展開もまさに予想通りで思い通りに違いない。

「そういうのいいから。そんなことより、教導艦だかなんだか知らないけど、
 本当にアンタ、私たちに対して強くなるための指導が出来るだけの実力、あるんでしょうね」

ほらきた。ほくそ笑む鹿島。霞の意図に気付かないふりをして会話を続ける。
大事なのは、向こうから話を振ってくることだ。間違ってもこちらからそれを提案してはならない。
まあ、もう流れはほぼほぼ決まっているのだけれど。

「うふ。練習巡洋艦は確かにあまりメジャーな艦種じゃないかもしないけど、
 意外に役に立つんですよ。それとも、香取姉なんかは霞ちゃんのお眼鏡には適わない?」

「香取先生はいいわよ。優秀だし、適切なアドバイスと的確な訓練で私達を
 とても効率的に鍛えてくれてるわ。私が話が来てすぐに改二になれたのも
 あの人のおかげなところあるし、尊敬してると言ってもいいわ」

「へえ。えへへ、さすが香取姉。そう言ってもらえると妹の私も鼻が高いな。嬉しい♥」

「そうね。香取先生も言ってたわ。アンタのこと、自慢の妹だって」

「くふっ♥やだぁ霞ちゃんったら。私を喜ばせるの上手いなぁ。頭撫でていい?」

「でもね」

冗談交じりに霞の頭へ伸ばされた鹿島が、平手で強めに叩かれる。
そこら辺でまた、異常に気付いた周囲の艦娘達が、徐々に野次馬として彼女らを取り囲み始めた。
中にはまたかという表情で肩を竦めて更衣室を後にしてしまう艦娘もいたので、
先程よりは人数も少なかったが、中にはこの後の展開を悟って大盛り上がりしている血の気の多いのもいる。

「私がまだ納得出来ないのよ。アンタが明日から私たちに対して指導する立場になるってこと」

「へえ……うふふ。それじゃあ、どうしたら認めてくれるのかな?うふふ。なんだかベタだなぁ。これ」

「……付き合いなさいよ、教導艦殿。そのナメた口がもうちょっと萎らしく
 なったらこっちも大人しく教えを請うてやっていいって思えるかもしれないからさ」

そう言って背中を向け、スタスタと歩いて行く。
一度後ろに振り向いて、上機嫌な顔で鹿島が付いてきていることを確認すると、
これみよがしに顔を歪めて大きな舌打ちをして見せて、あとはもう目的地に付くまでの間
いくら鹿島が話しかけようとも一言も発そうとはしなかった。



「へー。お風呂でそんなことがあったんだ」

「そうなのよまったく。また面倒な奴が入ってきたわね」

「あははは…オオイサンガソレヲイウノネ…」

「ん?なにか言ったかしら?」

「イエ、ナニモ…」

「そう。それで、話は変わるんだけど……」

「あっ!ちょっと待って!北上さん今あたしのパスタ食べたでしょ!」

「なんだよけち臭いなーそれくらいいいじゃんほれポテトやるからこれでおあいこな」

「もが?んがぐっぐ」

鹿島が湯上がりに更衣室で霞に絡まれていた頃、
すでに風呂からあがって着替えも済ませていた名取達一行は、
冷たい飲み物でもと立ち寄った食堂で任務帰りに遅い夕食を食べに来ていたという
阿武隈と偶然遭遇し、合流して5人でテーブルを囲んでいた。
ちなみに、まるゆは風呂あがりに伊19の手によってこれから潜水艦のトランプ大会があるとかで部屋に連れ戻されている。

6人席の一番端に陣取り、ほうれん草とベーコンのクリームパスタを
ちゅるちゅると啜っている阿武隈の横で、彼女の肩に肘をかけて
だらしない格好で皮付きのフライドポテトをつまみに烏龍茶をちびちびとやっているのは北上だ。
その逆隣には大井が座っているが、握ったミネラルウォーターの入った
ペットボトルはさっきから一向に中身が減らず、その口は概ね
阿武隈に先ほど風呂であった出来事の報告をするのに使われていた。

北上の手でねじ込まれたポテトをなんとか咀嚼して飲み込んで、
大井の愚痴っぽい世間話だか悪口大会だかに相槌を打つ合間を見てパスタも器用に食べる阿武隈。
球磨型の末妹は、案外聞き上手なのかもしれない。実は彼女が北上に執拗にちょっかいを掛けられるのも、
そんな北上の様子を見ても大井が嫉妬しないのも、彼女のそんな大らかなところが(あと弄り甲斐があるところも)
この二大問題児に密かに気に入られているからだったりするのだが、当の本人は全く気付いていない。

「やれやれ。悪いな名取。うちの姉貴共がお前の妹によ。まあお陰で俺が楽できてるんだが」

「あ、ううん。大丈夫だよ阿武隈ちゃんあれでまんざらでもないみたいだし」

「お姉ちゃん!適当言わない!!!」

「え?でも阿武隈ちゃん北上さんのこと、なんだかんだ頼りにしてるし……」

「だーもう!だーもう!お姉ちゃん適当言わない!嘘言わない!なんにも言わない!!いい!?返事!!」

「は、はーい…」

「あらあら北上さんモテモテ?妬いちゃうわ」

「ごめんな阿武隈ー。私そっちのけはないんだ」

「ちがーーーーーーーーーーーーーーーーーーう!!!!!」

真っ赤な顔で口の中のパスタを飛ばして叫ぶ阿武隈の正面には、疲れた表情で
コーラを飲む木曾が座っている。一瞬だけ飛んできた唾やらなんやらに眉をしかめたが、
ナプキンで手早く顔とテーブルを拭いて、特に何かに言及しようとはしない。
木曾もまた、大らかというか我慢強い女であった。

隣でラムネの瓶を持って太ももに挟んだまま座っていた名取には被害は及ばなかったが、
ここは姉として一応咎めておくべき場面だろうと思うので、やんわりと注意する。

「阿武隈ちゃん、物を食べてる時に喋ったら駄目だよ」

「うぐ…ご、ごめんなさい……って、お姉ちゃん、もう気分は回復したんだね」

「それは…うん。おかげさまで」

罰が悪そうに謝った阿武隈が、すぐにホッとしたという顔で優しく名取に微笑みかけた。
その笑顔を見て、本当に謝るべき迷惑をかけたのは自分だったな、と名取は内省する。
だが謝罪の言葉を口にする前に、北上が阿武隈の更にまた箸を伸ばした。

「感謝しろよー?阿武隈ー。なとりんが元気になったのはこの私のおかげなんだからな。
 だからパスタの一口や二口くらい大目に見なさいこのけちんぼ」

「北上さんの一口って、対あたしの時だけやたら大きいからなぁ…って!言った側から!もー!」

一瞬北上の魔手からパスタを守ろうと握っていたフォークを構えた阿武隈だが、
食器と食器をぶつけるのははしたないと諦めて、北上のするがままに任せる。

くるくると箸に巻かれていくパスタを見ながら、その代わりの復讐として
行き場を失ったフォークで北上の皿のフライドポテトを強襲した。
一辺に4本ほど豪快に突き刺して、端に添えられたケチャップもたっぷりと付け、口に運ぶ。
北上が大げさに悲鳴をあげた。

「のおおおおおおおおおおおおおおおおお!!?楽しみにしてた一番長くてしなっとしてたやつが!!! 」

「もぎゅもぎゅもぎゅ!ふっ…最近はもうやられるだけのあたしじゃないですし!
 …あ、でもお姉ちゃんを元気付けてくれたのはお礼言うね。ありがと」

「お、おのれ…やるようになりやがったなこのやろうあぶくまこのやろう。…ん?おう」

文脈的に阿武隈が球磨型の末妹に読める気がするんだけど俺だけかな…?

「よく言うぜ。大体大井のおかげなのによ」

「何言ってるの。私の功績は北上さんのもの。
 北上さんの功績も北上さんのもの。あんたの功績も北上さんのものなのよ」

「なんだよそれ!?聞いたことねえし!」

「いやー大井っち。それされるとさ。無駄に功績積んだ私が
 何故かやたら忙しくなることになるんでやめてほしいかなーって。わりとマジで」

木曾が北上のポテトを一つ摘みながら指摘する。
そこですかさず大井が歪んだ北上ニズムを発揮された。
当の本人的には非常に迷惑そうな話だったが、今回に限っては
大井も本当は少し照れ隠しが入ってこういうことを言っていたのかもしれない。
と、それは後に名取が聞いた阿武隈による分析。

その後も適当にああでもないこうでもないと適当に駄弁ったりしていると、
パスタを食べ終えた阿武隈の前髪を北上が玩具にして遊びはじめたところで、
食堂に入ってきた数人の艦娘が興奮したように騒ぎ始めた。

「んあ?なんだどうした?」

「さあ。騒がしいわね。顔覚えといて今度魚雷打ち込んでやろうかしら」

「大井さんが言うとシャレにならないよね…」

「俺の席からじゃ人が影になって見えねえわ。名取、見えるか?」

「うん。えっと、ちょっと待ってね。あれは……清霜ちゃんに、朝霜ちゃん?」

木曾に尋ねられ、少し身を乗り出して騒いでる人影を確認した名取は、
不思議そうに首を傾げた。比較的騒がしい二人組ではあるが、こうまで興奮しているのは流石に珍しい。

「ちょっと!ちょっと!邪魔しないでよ朝霜!
 早く誰か呼ばないとヤバイって!誰か!こっち来て!助けて!できたら戦艦!」

「何言ってんだよ清霜!いいでーす!来なくて大丈夫でーす!
 こんな面白そうな話滅多ねーじゃん!霞だって誰も呼ぶなって言ってたんだしさ!」

「でもだからって!どーすんのよあれ!ただのどつきあいで済むんならまだいいけど、
 霞あれ目がマジだったじゃん!殺る気だったじゃん!戦艦の目つきしてたじゃん!」

「何度も言わせんなよ平気だって。仮にも教導艦としてこっち来てんだろ?いくらなんでも
 怪我したりさせたりしねーって。霞だってそれくらい弁えてるだろうし」

「弁えてたらあんな目つきしてないって!そもそもあんな真似しないって!
 朝霜ちょっと霞のこと甘く見てんじゃない!?悪い意味で!」

「何度も言うけど大丈夫だっつの!霞はあれでも改二だぞ?それより早くあたいらも行こうぜ!
 あ、でも別に観戦くらいなら誰来てもいいよな。おーい、面白いイベントやってるから暇してる奴集まれー」

「ああもう人来てくれるならそれでもいいや!こっちでーす!こっち来てくださーい!できたら戦艦特に来てー」

「なんだ?あいつら」

やいのやいのと言い合いを始めたと思ったら、結局二人してこっちに来いと手招きを始める二人。
慌ただしい様子に、木曾がきょとんとした顔で首を傾げる。

「さあ?でもイベントだってさ。どう思う?北上さん」

「ふーん。木曾ちょっと詳しく聞いてきなさい」

「なんで俺が…まあいいけど…おーい。どうしたそこの霜霜コンビ」

姉の命令にぶちぶちとぶーたれながらも、
本人も気になっていたのか、すぐに二人へ声をかける木曾。
すぐに海軍式の敬礼を返す辺り、この二人は中々真面目な方だと木曾は思う。

「あ!木曾さん!」

「ちす!木曾さん!」

「おう。で、何がどうした」

「どうもこうもないっすよ!」

「ないです!」

「はいはいわかった。それで、何のイベントがあったって?」

「それが……!」

清霜がためらいがちに答える。
どうせ大したことはないだろうと投げやりに尋ねた木曾だったが、
返ってきた答えは中々に斜め上な内容だった。

「それが?」

「それが……」

言いにくそうにする清霜に代わって、朝霜が元気に答えた。

「霞が鹿島さんにタイマンを申し込みました!!」

「……は?」

今日は終わります



>>146
>>144
×球磨型の末妹は
○長良型の末妹は

「さりげない感じでこっちの妹にしちまおうと思ってたのにバレちまったくまー」(間違えました)

おつ


この鹿島は生きてたらしくじり先生として出てきそう

馬鹿野郎敷波は最高に可愛いだろ

ここで負けるようなら今までの教え子にとっくに殺されてるよな…


駆け引きの描写がいいね

乙です
この鹿島あれだな…異性にめっさモテるけど同性にすげー嫌われる奴

練度上がっても風紀とトレードオフの関係なのです?

提督と仲良さげってだけで敵視される時点で風紀なんて

みんなの暗黙の了解をあえて破っていく感じかな

敷波ちゃんを辱めた時点でこの鹿島は許さないありがとうございます

マダー?

前の間隔だと次は4月5日以降か、、、

鹿島

ローソン勤務後の休暇中

鹿島

上裸待機

ぽーい

このSSまとめへのコメント

1 :  SS好きの774さん   2018年12月03日 (月) 00:54:59   ID: iJ6g-C2c

めっちゃええやん

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