姉「私の義妹」妹「私のお姉ちゃん」 (73)

義妹が私の妹になったのは、私がまだ中学生に上がりたての頃。
明るそうな母親とは対照的に、おどおどと母親の背に隠れる姿は昨日の事のように鮮明に思い出せる。
きっと私の顔が怖かったのだろう。
離婚だの、再婚だの、色々立て込んでいたから。
そのせいで私は妹の中で「怖いお姉ちゃん」になってしまったのではなかろうか。

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「……お姉ちゃん、起きてる?」

「ん……起きてるよ」

「お母さんが、朝ご飯って……」

「あー、今行く」

「……」

「……もう行っちゃったか」

私は大きく欠伸をすると、一階へ降りてリビングへ向かった。
朝が苦手な私はいつも妹に起こしてもらっている。
全国のシスコンが聞いたらガタッとなるシチュエーションだろう。
半開きのドアに顔半分隠しながら、ビクビクと声を掛けてくる妹というのも、人によってはご褒美だろうか、
私としては不本意なのだが。

「おはよう、お寝坊さん」

「……おはようございます」

「パンとご飯、どっちにしましょうか」

「パンで」

「いつもの?」

「いつもので」

いつものぎこちない会話。
別にこの人のことが嫌いなわけじゃない。
きっと私は母親という存在そのものが苦手なのだろうと思う。
それは誰であっても変わりないのだろう。
そんなことを考えながら歯を磨き、適当に髪を整える。
制服に着替えながら、再び大欠伸。
誰に向けるでもない挨拶をしながら、私は学校へ向かった。

とりあずここで止め
久々の地の文付きなので、気楽にお付き合いを

きたい

姉妹百合?
期待

「朝から不景気な顔してんね」

「……ほっとけ」

「おー、こわ」

「妹ちゃんに言いつけちゃおっかなー」

「……ぐ」

「冗談だよ、じょーだん。そんな怖い顔すんなって」

「……生まれつきだっての」

こいつは私の数少ない友人。付き合いの長さだけで言えば、妹よりも長い。
こんな奴だが実際親友と呼んでも良い存在だ。
しかしよりにもよって妹はなぜこいつのいる部活へ入ったのか。
そのせいで弱みでも握られたかのように度々こんなイジりを受けてしまう。
いやまあ、妹に悪気はないのだろうし、そもそもなにも悪くないのだが。

「しっかし、あんたは相変わらず見てて飽きないわ」

「……?」

「すぐ顔に出るからさ、からかい甲斐があるよ」

「顔に出てるのか、私は」

「そりゃもう、ありありと」

「……そ、か」

多分それは、こいつにしか分からないことなのだろう。
そんなところに私は助けられている。
しかしながら、本当に伝えたい相手には全く伝わっていないのだ。
助けられてばかりではいけないという事なのだろうか。
私は一番後ろの席で、窓に向けてため息を吐いた。

注意書きあったほうが良かったですかね
百合です
あと不定期です

いい雰囲気、期待

(……お、一年は体育か)

(あいつ、相変わらず足遅いなー……陸上部なのに)

(あ、こけた……)

(……)

「あてっ」

「おう、随分と余裕そうじゃないか」

「……」

「なんだ、文句でもあるのかその顔は!」

(なんも言ってないのに)

私は努めて普通だ。
いや、普通にしているつもりになっているだけなのだろうか。
こんな理不尽な怒られ方をするのも初めてではない。
前の母親にもよく言われていた気がする。
あまり思い出せない、思い出したくないの間違いだろうか。
先程こけた妹の姿は思い出せる。微笑ましい姿に少し頬が緩んだ。
こんな風にいつでも笑えればいいのかもしれない。
私にはとても難しいことに思えたが。

「今日は何パンにしようかなー」

「……焼きそばの気分だな」

「んー、私はコロッケだね」

「……」

「……」

「じゃん」

「けん」

「ぽんっ」

「やりっ、今日も私の勝ちぃ」

「……次は負けんぞ」

「はっはっはっ、いつでも掛かってきなさい」

うちの学校の購買は、漫画などであるように争奪戦になったりはしない。 
食堂がある上に弁当持ち込みも可能なので当たり前といえば当たり前だが。
まず友人に頼まれたパンを摘み上げると、次に自分のお目当てへと手を伸ばす。
その時、不意に伸ばされた誰かの指先が触れる。
私の焼きそばパン気分を邪魔するとはいい度胸ではないか。
私は伸びてきた手を視線で辿る。

「……あ」

「……お」

「あ、えと……ご、ごめんなさいっ」

「おい、待てよ」

「……」

「持ってけ。おごりでいい」

「え、でも……お姉ちゃんの分が」

「私は……本当はコッペパンの気分だったんだ」

「おばちゃん、会計お願い」

「……お姉ちゃん、ありがとう」


「それでコッペパンなのか、ウケる」

「……うるさい。コロッケ部分だけ齧り取るぞ」

「そりゃ勘弁」

放課後、私は教室に残り何をするでもなく校庭を見ていた。
野球部の声出しやサッカー部のランニング、実に青春と言った光景である。
昔、部活に所属していた頃を思い出す。
とは言っても、私の部活に対する態度
はあんな汗と涙の結晶という感じではなくて。
身体を動かしている間は色々なことを忘れられるから、そのためだけにやっていた節がある。

あまり長くない予定
いちゃいちゃ期待してたらごめぬ

「こらー、用の無い生徒は早く帰らんかー」

「……何してんだ?お前」

「つまんない反応だなー……てか、それ私のセリフ」

「部活はどうした」

「大会前は自主練。その程度のことも話さないんだ」

「……」

「もーすこし仲良くしてあげりゃいいのに」

「そう簡単な話じゃない」

「そうかね?」

「そうだよ」

部外者だから気楽に言える。
部外者だからこそ、気楽に言ってくれる。
私は帰路に着きながら言われた言葉を反芻していた。
本当は簡単な話なのだろう。
私達は姉妹だ、仲良くしていても不自然ではない。
妹が望んでいるのかは知らないが、少なくとも私はそれを望んでいる。
いや、それだけなのだろうか。
この違和感がいつも、私の邪魔をする。

「……お、おかえり。お姉ちゃん」

「ん、ただいま」

「……あ、あの」

「どした」

「今日のお昼……ありがとう」

「別にいいって」

「う、うん……」

「……」

「……」

いつも弁当なのになぜ購買にいたんだとか、大会前だったんだな、とか。
会話の種はたくさん落ちているはずなのに、私はそれらが芽吹く前に全て摘み取っていく。
そのせいで妹は、困ったような顔で私を見ることしか出来ないのだろう。
不器用な私、とでも言えば少しは自己弁護できるだろうか。
私は鏡の前で苦笑した。
やはり私には難しいよ。

「たっだいまー」

「おかえり、お父さん」

「あれ、お母さんはまだ帰ってきてないのかい?」

「今日は夜勤の日でしょ」

「あれ、そうだったっけ……」

「アルツハイマー?」

「まだそんな歳じゃないと信じたいね」

「すぐに夕飯の支度するね」

「いつもありがと。でも、お腹空いたら先に食べててもいいんだ」

「うん、分かってる」


私は母があまり好きでは無かったが、私は母に似ていると自分で思う。
だから母があまり好きでは無いのかもしれない。母もそうだったのかもしれない。
父が私を気にかけてくれているのは分かっている。
だからこそ私はこんな私もあまり好きではない。
静かな食卓。
どこもこうなのだろうか、他所は違うのだろうか。
どうでもいいことを考えて、また会話の芽を摘んでいる気がする。
だがどうしようもない。
そう、どうしようもないのだ。

STOP

見とるで

「お、お姉ちゃん……」

「どうした、何かあったのか」

「た、タオルを忘れちゃったみたいで」

「ん、待ってな」


「ありがとう、お姉ちゃん」

「……」

「おねぇ、ちゃん?」

「あ、いや。どういたしまして」

「……?」

思わず見蕩れた、なんてとてもじゃないが口に出来るわけがない。
ここ数年で妹は急に大きくなっている。もちろん背の話ではない。
きっと母親に似たのだろう。私は似ていない。当たり前だが。
別に大きいから好きとか小さいから嫌いとかいう気はないが、やはり大きいと目に付く。
不審に思われていないといいが。

「確かにあの子のナイスバディーは破壊力あるよね」

「……セクハラとかしてないだろうな」

「ま、まつまさかー……あはは」

「……」

「ま、だけだ陸上向きではないよねー」

「こっち見て言ってないか」

「そりゃ被害妄想ってやつだ」

「お前よりはあると思うが」

「は?」

私が変なわけではない。
笑い話にして濁してしまえばそう思える気がした。
気持ちが晴れるわけではないが、少なくとも誤魔化してはしまえる。
どこぞのパパでないが、これでいいのだ。
これでないといけない。

「そういや」

「む?」

「さっき妹ちゃん、知らない男の子と歩いてたなぁ」

「……そりゃまあ、そういう事もあるだろ」

「ありゃ屋上前の踊り場に行くつもりだろうね」

「誰も聞いてないだろ」

「……ぷっ、ひでぇ顔」

「誰のせいだ」

「あんたが一番よく分かってんでしょ」

「……顔洗ってくる」

「はいはーい」

私をからかうための嘘かもしれない。
いや、本当だとしても私には関係ない。
だと言うのに、私の足は引き寄せられるように階段を登っていく。
手洗い場はとうに通り過ぎた。どんな顔をしているのだろう。
せめて妹を怖がらせない顔であるとよいのだが。

「ぼ、僕じゃダメかな……?」

「……ごめん、なさい」

「どうして?他に好きな人でもいるの?」

「……」

「他にいないなら、とりあえず僕でも……」

「い、いやっ……」


「……おい」

「……?」

「……ひっ、す、すいませんっ!」

自慢ではないが、私はでかい。もちろん妹のでかいとは違う方向でだ。
年頃の女の子としては男子にビビって逃げらるような大きさは、ほんとの意味で自慢にならない。
だが今だけは役に立って助かったと思える。
ただの告白なら見届けるのもやぶさかでは無かったのだが。

「大丈夫か」

「う……う、ん」

「無理するな、しばらくそうしてろ」

「……ぎゅぅ」

「……よしよし」

妹の髪から、甘い香りがする。
同じシャンプーのはずなのに、何が理由でここまで違うのだろう。
震える妹の肩に触れる。
きっと私はただの告白でも邪魔してしまっていたかもしれない。
臆病な妹。愛しい妹。
守れるのは私だけ、なんて言葉はエゴだろうか。

一旦留め

一人でも見てるならやれるよ、ありがとう

完結まで見てる



すごくいいけど、姉と姉の友達の会話でどっちの台詞か分からなくなるところがある
読むのに問題はないんだけども

乙です
誰の台詞か書いてくれると嬉しい

必要最低限の事だけを書くSSって感じだね
ちゃんと伝わるからよくできてる

続き待ってまっせ

「落ち着いたか?」

「……うん、もう平気だよ」

「今後は気を付けろ。今回は私がいたからよかったけど……」

「……」

「……?」

「……知ってた、から」

「へ?」

「お姉ちゃんがいるって、知ってたから」

顔を真っ赤にしながら、私を見つめる妹。
そんな妹が今しがた発した言葉に私は固まる。
今いる場所から私が先ほどいた場所は死角になっていて見えないはずだ。
それなのに知っていたとは、どういうことだろう。
と言うか知られていたとしたら、偶然ではなく追ってきていたこともバレていたのか。
自分の顔が確認出来ないが、目の前の妹のようになってないか心配だ。

「ここからは死角の場所に隠れていたのだが」

「……うん」

「なら何故私がいると……」

「……先輩が、言ってたから。多分お姉ちゃんが来るって」

「先輩……」

(あいつ、最初から知ってやがったのか。あとでぶっ飛ばす)

「……もし、いなかったらどうしてたんだ」

「信じてたから、考えてなかった」

「……」

「……」

妹がそんな風に思っていたとは思わなかった。そんな風に思って欲しいとは思っていたが。
必死に言葉を紡いだ反動か、妹は俯いて何も言わなくなった。
次は私が必死になる番なのだろう。
頬が熱い。
鏡なんて見なくても分かる。
姉妹揃って同じ顔だ。

「他に好きな奴が出来たら、いつでも言っていい。それまでは私を好きでいてくれ」

「……うん」

「大好きだ、妹」

「私も大好き、お姉ちゃん」


「……っ」

「……ん」

今後どうなるかは分からない。
ただ確実に言えることは、私は今後妹以外にこの感情を持つことなど出来ないだろうということ。
それが、私にとっても妹にとってもいい未来をもたらさないことを知っていても。
今はただ、このままでいさせて欲しい。
心を奪われたあの日から、ずっと願っていたことなのだから。

「……」

「……」

「……今日、部活は?」

「大会前だから、自由参加だよ」

「一緒に帰るか、どうせなら」

「……うんっ!」



その日は初めて妹と一緒に帰った。
初めて手を繋いだし、色々初めてばかりで目が回りそうだ。
帰り道に私たちは色々な話をした。
私が心配してくれてる事を最初から知っていた事。
そしてそんな私に上手く言葉を返せない自分が歯がゆかった事。
妹も似たような気持ちだったのだと知って、私はつい口元が緩むのを感じた。
似た物姉妹だ。
それだけの事も、今は感無量である。

次の更新で終わり

あくしろ~

「……ただいま」

「おかえりー、って。あれ?」

「ただいま、お母さん」

「珍しいわね、二人一緒になんて」

「……うん」

「今後はそうでもなくなるかも」

「あら?」

「……かも」

「あらあら?」

その日は珍しく、4人で食卓を囲んだ。
母は嬉しそうに私達を見つめ、そんな母を見て父は嬉しそうに笑い、そんな両親を見て私達もはにかんだ。
きっと仲良くなってくれた事を喜んでくれているのだろう。
実はそれだけじゃなかったりするのだが、今は余計な事を言わないでおく。
いつかは知られてしまうか、知らせないといけないのだろうけれど。
今はとりあえず、妹の笑顔を堪能しておこう。

「……ふぅ」

「お、お姉ちゃん?」

「ん、どうした」

「い、一緒に……入っても、いい?」

「……」

「……」

「……いいよ、おいで」

「お邪魔、します」

自分ちの風呂に入るのにお邪魔しますはないだろう、私は妹の頭を洗いながら小さく笑った。
妹はえへへと小さく笑い、私にされるがままだ。
二人で湯船に浸かり、向かい合う。狭い湯船なので少々窮屈だが、その窮屈さも今は悪い気分ではなく、むしろ好印象だ。
妹はどう思っているだろうか。
部位に差がある分だけ私よりも窮屈さを感じていないだろうか。
もっと話がしたい。口下手なのが口惜しい。

「……お姉ちゃん、いい匂い」

「そうか?自分じゃよく分からんな」

「……んーっ」

「く、くすぐったいぞ」

「ご、ごめん……」

「いや、謝らんでいい」

「へ?」

「こっちからもするからな」

「ひゃんっ……」

「……」

「……」

口下手なりに、色々話した。
運動部に入った理由は、私のように強くなりたかったとの事。
陸上部を選んだのは、やはりアイツがいたからとの事。
一緒の布団の中で、色々話した。
もちろん私からも話した。
私は強くなんてない事。
一目惚れの事。
気付けば外が明るくなるほどに話した。
今までの空白を埋めるように、たくさんたくさん。

「無事二人は結ばれたんだねー、よかったよかった」

「それについては感謝してる」

「おう、感謝しろ」

「感謝しているが、お前の態度が気に喰わない」

「あぁん?」

「……ありがとな」

「うむ」


「あ、先輩」

「アイツから聞いたよ。よかったね」

「はい、先輩のおかげです!」

「おかげ……ね」

「……?」

「私が言う事じゃないかもしれないけどさ。アイツの事、宜しく頼むよ」

「……はい、頑張ります」


「……」

「……さーて、コッペパンでも買いましょうかね」

次の休みは何をしようか、自然と頬が緩む。
妹も同じなのだろうか、同じであったら嬉しい。

今頃お姉ちゃんは何をしているだろう。
昨日の事をふと思い、私は顔を真っ赤にした。
お姉ちゃんも同じなのだろうか、そうだったら可愛いかもしれない。

妹よ。

お姉ちゃん。

大好きだ。

大好きだよ。

OWARI

初の姉妹百合、久々に地の文と言う事で読み辛くてすいませんでした
お付き合いくださった方には感謝


よろしければ過去作もどうぞ
http://hanami2ki.blog.fc2.com/


いいものだった



読み辛いとは全く感じなかったよ
わかりやすくて好きな作風だった


姉妹百合もっと増えて欲しい

もしかして親友

過去作読んだことあったわ
今回もよかった乙

いいゾ~^これ

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