探偵「助手君、例の犯罪組織についての情報はどうだね?」
助手「何も出てきません……。奴ら、なかなか尻尾を出しませんね」
探偵「ふむ、彼らは世の探偵たちに、何度も犯罪計画を潰されているからね」
探偵「このところ、だいぶ慎重になっているようだ」
助手「ところで先生、新聞記事をチェックしていたら、こんな記事があったのですが……」
探偵「どれどれ……?」
探偵「探偵の事件スピード解決ランキング……?」
SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1447432591
1位 人気アイドル殺人事件(イケメン探偵) 1時間25分38秒
2位 大手銀行強盗事件(老探偵) 1時間31分55秒
3位 洋館密室殺人事件(探偵) 1時間47分08秒
4位 令嬢誘拐事件(女探偵) 2時間11分33秒
5位 菓子職人殺人事件(デブ探偵) 2時間13分49秒
6位 …
…
…
…
助手「先生はなんと3位ですよ! すごいです! さすがです!」
助手「なお、今後もランキングは定期的に更新していくみたいですよ」
探偵「……」
探偵「こうしちゃいられない!」
助手「え?」
探偵「助手君、探偵というのは、同業者に敗れるのが一番嫌いなんだ!」
探偵「このスピード解決ランキング、3位などに甘んじていられるものか!」
探偵「なんとしても1位を目指すぞ!」
助手「は、はいっ!」
数日後――
探偵「以上の理由により、犯人はあなただ!」
若手医師「ぐっ……! こんなにもあっさりトリックを暴かれるとは……!」ガクッ
警部「いやぁ、いつもながらの名推理だったよ!」
警部「まさか、あの薬品にあんな効果があるとは……君の知識の深さは恐れ入るよ」
探偵「そんなことはどうでもいいのです。重要なのは事件解決までの時間です」
探偵「警部、いかがでしたか?」
警部「えぇっと……1時間10分13秒だ」
探偵「やった!」グッ
助手「これで次回のランキングでは先生が1位になりますね!」
ところが――
1位 人気俳優傷害事件(イケメン探偵) 1時間01分21秒
2位 有名絵画窃盗事件(老探偵) 1時間05分39秒
3位 国立病院殺人事件(探偵) 1時間10分13秒
4位 化粧品メーカー脅迫事件(女探偵) 1時間18分59秒
5位 ステーキハウス食中毒事件(デブ探偵) 1時間25分02秒
6位 …
…
…
…
助手「――そんな!? また先生が3位だなんて!」
探偵「うむむ、上位陣は軒並みタイムを縮めてきたようだな……」
探偵「しかも、4位以下の面々も私に迫る勢いだ……あなどれん」
探偵「それにしても、イケメン探偵と老探偵め」
探偵「傷害や窃盗などという簡単な事件でタイムを縮めるなどと、セコイ真似を!」
探偵「私は彼らのことを名探偵と認めていたが、どうやら買い被っていたようだ」
探偵「ならば私も簡単な事件でタイムを縮めてくれる!」
探偵「被害者の打撲跡からは、ボクシンググローブの痕跡が発見されました」
探偵「つまり……犯人はボクシングをやっていた、あなたです!」ビシッ
ボクサー「ぐっ、ちくしょう……!」ガクッ
助手「おみごとです、先生!」
探偵「よし、ついに一時間を切った! 今度こそ……」
1位 人気女優サイン色紙盗難事件(イケメン探偵) 49分45秒
2位 アパート大家暴行事件(探偵) 54分31秒
3位 ゲートボール大会八百長事件(老探偵) 55分18秒
4位 大手デパートマネキン破損事件(女探偵) 59分02秒
5位 居酒屋酔客乱闘事件(デブ探偵) 1時間00分46秒
6位 …
…
…
…
探偵「くっそぉ~、今度こそ1位を取れると思っていたのに!」
助手「さすがはイケメン探偵さんですね……」
助手「なにしろご両親は学界の重鎮で、本人も東大卒のインテリですから……」
探偵「しかも、イケメン探偵は50分を切っている……このままでは追いつけん」
探偵「こうなったら、もっともっと単純な事件で、タイム短縮を図るしかあるまい!」
探偵「待てぇっ!」タタタッ
万引き犯「ひいいいいっ!」タタタッ
探偵「捕まえた!」ガシッ
万引き犯「うわぁっ!」ドサッ
万引き犯「許してくれぇ……出来心だったんだよぉ……」
探偵「悪いが、君の自白を聞いているヒマはない。助手君、タイムは!?」
助手「この人がスーパーを出てから、10秒63で捕まえました!」
探偵「100メートル走のタイム並ではないか! これで1位はいただきだな!」
1位 飼い犬捕獲事件(イケメン探偵) 9秒58
2位 スーパーマーケット万引き事件(探偵) 10秒63
3位 老人ホーム喧嘩仲裁事件(老探偵) 12秒28
4位 美容院料金未払い事件(女探偵) 15秒92
5位 牛丼屋食い逃げ事件(デブ探偵) 18秒22
6位 …
…
…
…
おまえら殺人事件追えよwww
はっもしや記者はこうして悠々と殺人事件を起こす気か……!
探偵「くそぉぉぉぉぉっ!」ガンッ
探偵「イケメン探偵め、ウサイン・ボルト並の記録を叩き出しやがって!」
探偵「もっとだ! もっと早く事件を解決しなければ……!」
探偵「助手君! ご近所からすぐ解決できそうな事件はないか探ってくるんだ!」
助手「分かりました!」
……
……
ボス「クックック、全ては狙い通りだな」
部下「はっ、探偵どもは事件の解決タイムを縮めることにやっきになり」
部下「目先の小さな事件ばかりを追っております」
部下「もはや、我ら組織のことなど、頭にもないでしょうな」
ボス「新聞社に金を払い、あのような企画を立てさせたかいがあったというものだ」
ボス「さて、邪魔な探偵どもがいがみ合い、機能していない今がチャンスだ!」
ボス「もはや、綿密な計画など必要ない」
ボス「武器や危険物の密輸、国家単位の詐欺、通貨偽造、要人抹殺……やり放題だ!」
ボス「今までの遅れを取り戻すぞ!」
部下「はっ!」
……
部下「たっ、大変です! ボス!」
部下「各地で計画を実行しようとした手下たちが、次々に探偵率いる警察に捕まり――」
部下「しかも、このアジトの場所もバレてしまったようです!」
ボス「な、なんだと!? おのれ……すぐに国外に逃亡せねば……!」
探偵「おっと、そういうわけにはいかないな。このアジトは完全に包囲されている」
ボス「貴様ら……探偵どもか!?」
探偵「やっと尻尾をつかむことができたよ、犯罪組織のボス君」
イケメン探偵「フッ、キミたちは慎重だったからね。実に苦労させられたよ」
老探偵「じゃが、油断してずさんな犯罪計画を実行しようとしたのが運の尽き、じゃな」
女探偵「スピード解決勝負だなんて、茶番を演じたかいがあったわね」
デブ探偵「うんうん、まったくだねえ。アイスがうまいや」ペロペロ…
ボス「バカな……! 全て……全てお見通しだったというわけか……!」ガクッ
探偵「ああ、あの新聞記事を見た時から、背後にお前たちがいることは推理できた」
イケメン探偵「これはボクらを競わせ、キミたちに目を向けなくするための策だとね」
老探偵「ワシらは互いを信頼し、打ち合わせもせず、スピード勝負に熱中する探偵を演じた」
女探偵「で、あんたたちはまんまと罠にかかったのよ」
デブ探偵「ボクたちみんなが優れた探偵だったからこそできた、チームプレイだねぇ」ペロペロ
助手「つまり、犯罪組織の計画は最初から崩されていたということですね!」
探偵「うむ、これがホントのスピード解決というやつだね」
― 終 ―
探偵たちの方が一枚上手だったな
乙
良かった
スピード解決を極める余り、時を越えてしまう探偵は居ないんだね
速さが足りない
いいオチ
シンプルでいいな
最初から解決されていたとは
乙
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