千早「天海春香は笑わない」 (25)



~~~

「ねぇ、ブギーポップの噂、知ってる?」

「ブギーポップ?なにそれ?」

「しらないの? あ、これ女子の間だけの秘密だから男には言っちゃダメだよ?」

「それで? どんな噂話なの?」

「なんでもブギーポップって死神がいるらしいのよ。この死神はその人が人生で最も美しい時にそれ以上醜くなる前に殺しに来るんだって」

「へぇ……どんなヤツなの? やっぱ死神っていうくらいだからガイコツで鎌持ってるの?」

「それがさ、見た人によって違うんだって。
顔が綺麗な子ってのは共通してるけど、女の子だったり、男の子だったりするみたい」

「一人じゃないってこと?」

「美少年、美少女に突然浮かび上がってくる体を持たない存在なんじゃないかなと私は思ってる。
だから、名前をブギーポップ《不気味な泡》って言うのかなって……これは私の想像だけどね」

「その名前は誰が言い出したの?」

「ブギーポップの殺害現場に居合わせた人の証言らしいよ。
なんでも、名前だけがブギーポップの持つ唯一の物だとか」

「……ま、都市伝説にガチでツッコミいれるのも無粋か」

「あー!信じてないでしょーっ!」

「そんな都市伝説よりも『天海春香vs如月千早、どちらが先にオーバーランクに辿り着くかっ!765対決は遂に最終段階へ!』の方がよっぽどオカルトだけどね。
いまアイドル界のSランクAランクはジュピターと魔王、新幹以外はみんな765だし」

「あー、そのくせ不仲説とか聞かないよね。
決まったペアとかグループじゃなくて、オフが重なったからって感じの数人で写真とかよく撮られてるしね」

「事務所近所のラーメン屋さんには貴音さんと一緒に書いてる人がそれぞれ違うサインが12枚あるしね」

「12?」

「今は竜宮のプロデューサーだけど、元は765の稼ぎ頭だったら律子さんをお忘れ?」

「あぁ、今でもたまに竜宮のイベントで亜美ちゃんがステージまで連れて来るらしいね。
流石に歌ったり踊ったりなんかはあれ以来ないらしいけど」

「765プロが一気に売れた年のニューイヤーライブが最後だっけ?」

「そうそう、あれからまだ一年か……。
デビューしてたったこれだけでトップに君臨ってよく考えると異常だよね」

「ね? ブギーポップよりも余程オカルトでしょ?」


SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1447261478

前なんか見たな。続き?

前に落としてしまったスレをリメイク。
明日くらいから適当にのんびりやっていきます。

気になってたので期待。
頑張ってください

あの糞SSか

期待支援

期待

ほ?

~~~

【introduction...】

「……」

一人静かに涙を流していた。
穏やかな表情で眠ったかのように動かない髪の長い少女を優しく抱き寄せながら、涙を流すことしか出来なかった。

やがて少女を壁にもたれるように座らせると立ち上り、冷たい表情でその場を去った。

壁に寄りかかるように眠る少女は、微笑みのような表情を浮かべ、そのまま永遠の眠りへついた。

死してなお、その少女は圧倒的な存在感を放ち、まるでキラキラと光を放っているかのような錯覚すら覚えた


~~~

【idol】

1偶像, 偶像神, 邪神.
2崇拝される人[物], アイドル.
3誤った認識, 謬見, 誤謬.
4幻影, 幻.
5像, 虚像,ぺてん師.


~~~

パチパチパチ、と手を叩く音が聞こえた。
私がまだ小学校にあがる前の話だ。

『お歌が好きなのね。 上手、とは言えないけれどとっても楽しくて良い歌だったわ』

親や幼稚園の先生は私の歌を下手と言わずに褒めてくれていたので、少しだけ悲しかったのを覚えている。
でも、このお姉さんとの出会いが私がアイドルを目指すきっかけとなった。

『歌が上手とか下手とかそんなはどうとでもなるのよ。
大切なのはどれだけ楽しいか、だからね。
あなたはお歌を歌うの楽しい?』

当時は最後の質問以外はなにを言っているのかよくわからなかったが、今ならお姉さんが言いたいことはよくわかるし、私がアイドルとして一番大切にしていることだ。

『うん、楽しいならそれでいいのよ。
あなたが一番楽しく歌うお歌は、きっとみんなを笑顔に出来るわよ。 頑張ってね!』

最後にポン、と頭に乗せられた手はとても暖かく安心するものだった。

だからアイドルを辞める決心をした私が最初に向かったのはあのお姉さんと出会った公園だった。

理想を言えば今まで応援してくれたたくさんの人たちの前で、しっかりとお礼を言ってこの世界を去りたかったがそれはどうやら叶いそうもない。
それだけが心残りだ。
トップアイドルの証であるオーバーランクに辿り着けなかったことは、意外にもショックではなかった。

公園のベンチに座り、あの日からの日々を思い出す。
大変な時期は沢山あったが、辛い時期はあまりなかった。
そしてそれらを打ち消してお釣りが来るほど楽しい時間で満たされていた。

少しだけ、辞めるという決心に納得がいった。

〈言っておくが僕は噂通りの死神ではないぜ?〉

この突然浮かんできた私の体を勝手に使う泡沫、こいつこそが私の決心と納得の原因だ。

女の子の間だけに伝わる都市伝説、ブギーポップの正体である。
最初は頭がおかしくなったのかと思った。
次に、必死に目を逸らした。
最後に決心して、諦めた。

〈……ここは、いい公園だね。 昔ながらというか時間の止まったような場所だ。
それで、ここでプロデューサーさんとやらに電話するのかい?〉

こいつは私が悩んでいる間ひたすらに“僕はいつかは消える、君はアイドルを続けた方がいい”と言い続けた。
でもこいつの話を信用するならば、それは不可能だ。

ブギーポップの正体は世界の敵を殺して回る世界の敵の敵である。
その人が一番美しい時にそれ以上醜くならないように殺す、なんていうどこかロマンチックな死神なんかじゃない。
ブギーポップが背負っているのは世界の危機だ。

「私と波長が合ったから現れたって言ってたよね?」

〈あぁ、僕は浮かんでくる先を選べない〉

「ということはさ、私にはきっと心当たりがあるんだ……世界の危機に反応して浮かんでくるあんたとそれに合う波長を持つ私……だから、私にとっての世界の危機を殺したときあんたは消える」

〈かもね。 僕としてはここまですんなり受け入れてくれた春香から消えたくはないんだが〉

それは特に意味のない感情である。
私を気に入ったとかではなく、要するに効率的だから、ということであろう。

〈まぁ、どうでもいい。僕としては君がなにをしようが関係ないしね〉

そう、本当にこいつは私の都合などお構いなしで現れる。
それが本当に世界の敵を殺すための出現ならば文句もないが、そういうわけにもいかない。

「まぁ、私としてももうどうでもいいかな。
なんとなくブギーポップとは長い付き合いになりそうだから引退を選んだわけだし」

前回こいつが出てきたのはTVの収録中だった。
その時はなにをするわけでもなく、ただ浮かんできただけだった。

いろいろなことを思い出しながら、プロデューサーさんの番号を表示したままの携帯電話をしまい、私は公園を出た。


~~~

「――――?」

「――――!」

〈…………〉

終わった、と思った。
他の出演者の皆様が嘘と本当が混ざり合った笑顔を貼り付け、隙あらば他者を蹴落とそうと話をしている。
そんな中で通常状態が100%の冷めた表情であるブギーポップが浮かんで来たのだ。
いま私を映しているカメラは無いが、多分それも数秒の間だけ。
もしもブギーポップの表情をした私が一瞬でも映像に残れば、テレビ局は必ずそれを使うだろう。

(いまやどこも私たちを引き摺り下ろそうと必死だもんね……。
テレビ側も765贔屓に見えて、盛り上がるようなネタは見逃さないし)

何より最悪なのが、いま一緒に出ているのが千早ちゃんだということだ。

オーバーランクの称号に一番近いのは間違いなく私と千早ちゃんである。
だけど私も千早ちゃんも……というか765のみんなは“トップアイドル”に興味はあるがオーバーランクなどという称号に興味はない。
ただわかりやすいのがそういう肩書きだということだ。
だから天海vs如月とかそんな風に世間では囃し立てられているが、私たちは以前と変わらぬ親友同士のままである。
だけど記者さんたちは私たちが対立してピリピリしていた方が盛り上がるので、必死に天海如月不仲説をでっち上げようとしているのだ。

そんな状況の中で、千早ちゃんと同じ番組出演中に私が無表情なんて晒したらいろいろと面倒なのだが、

(ど、どうしよう……戻れない……ブギーポップー!戻ってよぉ……)

ブギーポップはそんなの知らないよ、というように無表情のまま他の出演者を一人一人観察していた。

「……春香?」

そんな私の異常に真っ先に気づいたのは千早ちゃんだった。
笑顔のまま腹話術のように私の名前を呼んだ。

〈……なんでもないよ〉

ブギーポップはまるで空気の中に直接声を置くような喋り方をする。
ハッキリと聞こえるのに、その声は聞くべき人にしか聞こえないのだ。

「……カメラがこっち向くわよ?」

〈わかってるよ……僕なりになんとかしてやるさ〉

そう今度は私に言うとブギーポップは突然立ち上がった。

「春香ちゃん?いきなりガチな顔でどうしたの?あ、何か新人に物申したいとか?」

司会を務めるタレントさんはやや困惑したように冗談っぽく笑った。
当たり前だ、いままさに他の子に話を振ろうとしていたタイミングだったのだ。

(うっわ、確実に私あの子達に恨まれる……)

最近知名度を上げ始めた新人アイドルグループが、ブギーポップにあからさまに敵意のこもった視線を一瞬だけ向けた。


「いやね、いまは『告白タイム』だ……でしょう?
最近何かと千早ちゃんとぼ……私の不仲説を創り上げたい人たちが多いからね……ここらでそれを粉砕したくって……」

顔の半分だけが人の目に映るように、ブギーポップは器用な立ち位置と顔の角度で笑う。

「ほう、じゃあオーバーランクに最も近いと言われる二人のうちバラエティ担当に、正しいバラエティでの振る舞い方を見せてもらおうか」

司会者さんはブギーポップのアドリブに、割と乗り気というか、好意的だった。

「で、なにを告白してくれるのかな?」

「簡単さ……笑顔を封印して、ガチで千早ちゃんに告白しようかと思ってね……」

カツカツと千早ちゃんの前に回り込むと、

「大好きだよ、千早ちゃん……ずっと前から、そしてずっとこの先も」

千早ちゃんの手を取り、手の甲にそっと口付けた。

(こ、こいつ……バカなの? いや、千早ちゃんのことは大好きだから良いんだけど……)


「は、春香……突然、なにを……」

(ほらー、パニクって完全な素の表情しちゃってるじゃん! 可愛いなぁもうっ!)

「千早ちゃんめっちゃテンパってるじゃん!
しかもすっげぇ嬉しそうだし!」

司会者さんは私たちを適当に笑いながらいじったあと、うまく元の流れに持っていった。

「あ、っと…………えへへ、ごめんね千早ちゃん……告白というフレーズを聞いたらついね」

ふっと体に自由が戻り、席に戻りながら千早ちゃんにいまの行動を誤魔化す。

〈春香、アイドル続けながらいけるんじゃないか?
ちゃあんと僕は“僕”と言わずに“私”と言えたし、いまのもなかなかに良かったろ?〉

やんややんやうるさいブギーポップを無視しながら、小声で千早ちゃんと談笑していると、

「はい、そして春香ちゃんのこの笑顔ですよ。
いやぁ……カメラに映ってないときにあんな顔されたらね……不仲説とかでっち上げも無理だわ」

呆れたように笑う司会者さんに突っ込まれた。

えへへ、と笑ってごまかす隣では千早ちゃんが顔を真っ赤にして必死ににやけそうになる口元を一文字に閉ざしていた。


~~~

「……そういえばなんであのとき出て来たの?
他は無理矢理事故起こしてその間に現場から離れてたりしたけど、あの時だけはただみんなの顔見てただけだよね?」

〈…………〉

余談だが、あのあと不仲説は完全に否定出来たが、逆に天海如月レズカップル説が新聞、雑誌、テレビを賑わせた。

「まぁ、でもあの時のフォローはそれなりに良かったよ。
でも他の時みたいにブギーポップが出て来るたびに事故を装うのは流石にまずいからね。
それに私はトップアイドルになれたとは思ってないけど、なれる確信はもうもってるから平気だよ。
だから、世界の敵の敵をやる」

相変わらずブギーポップは黙っている。
静かにしていて欲しい時は饒舌なくせにこういう時に黙るやつなのだ。

〈あれらの事故は……僕が起こしたと君は思ってるのかい?〉

そして、唐突に口を開くのだ。


「……違うの?」

〈あぁ、あれは世界の敵、もしくは僕とは違った世界の敵の敵が起こしたものだ。
だから僕が浮かびあがったのさ……君が何か命の危険に晒されたら、僕は出ざるをえないのさ〉

前半はともかく、後半は少し意外だった。
ブギーポップがいる限り私は不慮の事故で死ぬ事はないという事だろうか……何故だろうか。

〈わからないかい? 君の死は……新たなる伝説を生み出しちまう可能性があるんだよ〉

「そっか……まだ私を世界から消す事が出来ていないから、私の死がそのまま日高舞さんの死と同じ意味をもってしまうのか……」

そこまで言ってやっと気がついた。
つまり、ブギーポップが起こしていたかと思うほど私の近くで起き続けたあれらの事故は、

〈僕らを狙っていた……もしくは僕らを狙うものから僕らを守るためにわざと騒ぎを起こしていた……そういう事になる〉

後者ならば、それはブギーポップという者の存在をよく知った人間でなければ出来ない。
ブギーポップに万が一が無いように世界の敵が仕掛けるよりもワンテンポ早くブギーポップを浮かばせているという事になる。
こんな自動的なブギーポップを強制的に発動させる手段を知るものは、ブギーポップに詳しいはずである、という事になる。

「前回あんたが浮かび上がった子はあんたの事覚えてないの?」

〈あぁ、そのはずだ。僕は泡だからね。 泡は簡単に弾けて消えるのさ〉

ただ、とブギーポップは続けた。

〈彼女はもう少しで突破していた……だから、もしかしたら覚えているかもね〉

私が会って直接確かめるのが一番手っ取り早いのだが、ブギーポップは頑なに前任者を教えようとしなかった。
知るべきときが来たら自然と知る、一生来ないならそれに越した事はない。
とシャットアウトである。

「ところでさ、舞さんを殺した世界の敵ってどんなやつなの?
今回はなんとか前任者が殺したそいつの残滓がどうたらって感じなんでしょ?」

〈……残滓が君の友人に与えた影響を見ていけば、前の世界の敵がどんなやつかだなんてすぐにわかるよ〉

それよりも電話がまだなのに公園出ちまっていいのかい?と言った切りブギーポップは二日ほどなにも反応を示さなくなった。


~~~
【interval】

『君がいるから私がいて、私がいるから君がいる……。
それなのに世界は私たち二人が同時に存在する事を許してはくれなかった。

私が消えたらあなたが消えて、あなたが消えたら私も消える……。
それなのに世界は二人が同時に消える事を許してはくれなかった』

「……」

事務所においてあった台本は、そんな煽り文から始まっていた。

生きる事も死ぬ事も許されないとはどんな心境なのだろうか。
もしも自分がこの“私”という役を演じるよう言われたら、私はどうやって演じれば良いのだろうか。

演技は私のやりたい事ではないのでたとえそのような仕事が私に来てもプロデューサーは他の子に回すだろう。

だからこんな事を考えるのは時間の無駄である。

少し前の私ならそこで台本を閉じて楽譜でも開いたはずだ。
しかし私はそうしなかった。
自分で自分が変わっているという実感出来るのは少し嬉しかった。

「私は……どうしたらいいの?
あの子を殺すのが正しいの? 私が死ぬのが正しいの?」

パラパラとめくり、目に入った台詞を読んでみた。

前後の状況も、この台詞が誰の台詞かも、独り言なのか会話なのかもわからないままただ読んでみた。

「答えはひとつだよ。 どちらかが消え、どちらかを捨てる……それ以外にはない……」

適当に目についた台詞を次々に読んでいく。

「……ゆめを、みて、いた……気がする……。
わ、たしには……とても、大切な人がいて……でも、そのひとのことだけが……おもい、だせ……ない……」

台本を閉じる。
最後の台詞がハッピーエンドの証拠なのか、バッドエンドの証拠なのか私には判断できなかった。

今日はここまで。

おつ

はよー

もう無理かな

マダー?

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