狐娘「そんな所で何をしておる?」(15)

男「え?」

狐娘「そんな所で跪いて何をしておるのかと、そう訊いておる。」

男「あっ、えっと。」

男「眼鏡を探してるんですけど……」

狐娘「眼鏡……? ふん。邪魔じゃから早う退け。」

男「あっ、ごめんなさい。あうっ!」

狐娘「! ぷはははっ、何を木に抱擁しておるのじゃ。さては酔っておるのか?」

男「い、いえ。俺、視力悪いんで眼鏡が無いと何も……」

狐娘「視力……? 先程から訳の分からぬ言葉を使う奴じゃな。」

男「……?」

狐娘「まぁ良い。その眼鏡とやらを見つけてやれば、お前はそこを退くのじゃな?」

男「え、探してくれるんですか?」

狐娘「この獣道から落ちてはいかぬ、と言う掟を決めて戯れておるのじゃ。」

狐娘「お前如きにわしの戯れの邪魔はさせんよ。で、どんな形なのじゃ?」

男「あ、ありがとうございます。」

男「えっと、形は……」

狐娘「ふむ。良う分からぬが、心得た。」

男「……暗くて何も見えませんね。……何か明りになるもの持ってますか?」

狐娘「? 何を言うておる。灯りなど無くても探せるであろう。」

男「え?」

狐娘「ぬ?」

男「目が良いんですね……」

狐娘「一族の中では悪い方であるがの。」

狐娘「……それにしてもお前。変な喋り方じゃの。」

男「そうですか? ……俺からすればあなたの方こそ奥ゆかしいと言うか、古めかしいと言うか。」

狐娘「貴女などと呼ぶでない。狐娘じゃ。」

男「狐娘?」

狐娘「うむ。」

男「俺は男です。宜しく。」

狐娘「男? あぁ、お前の名か。わしは名前では呼ばんぞ? 覚える事が得意ではないのでな。」

男「そ、そうですか。」

狐娘「ふむ。全く見つからんの。」

狐娘「……」

狐娘「もう探すの飽きたのじゃ。」

男「早っ!」

狐娘「如何しても眼鏡とやらが無いと家には帰れんのか?」

男「朝になれば帰れると思いますけど……今は暗いから多分無理です……」

狐娘「ふむ。それは困ったの。この辺りは小鬼どもの棲み処じゃ、お前食い殺されるぞ?」

男「そ、そうなんですか?」

狐娘「このまま見捨てても構わんが、小鬼どもの好きにさせるのは気に食わんの。」

男「見捨てないで下さいよっ!」

狐娘「しかしもうの。探し物をするのは飽きたのじゃ。」

狐娘「大体、お前が眼鏡とやらを落としたのであろう? それ成らば自業自得じゃ。」

男「ぐぬぬぬ……」

狐娘「まぁ、見捨てはせぬよ。」

狐娘「しかし、探すのは諦めい。わしの家まで連れて行ってやろう。そこで朝を待ち家に帰れ。」

男「! い、良いんですか?」

狐娘「その、ですとか、ますとかの訛りをやめい。分かりづらいわ。お前は言葉も上手く話せんのか?」

男「え、あ、わ、分かった。」

狐娘「この裾を掴んで着いて来い。」

男「分かった。って、き、着物?」

狐娘「少し散歩するつもりで来ただけだからの。寝間着のままじゃ。」

男「……こんな遅くに散歩?」

狐娘「昼間は歩く気になれんよ。暑くて敵わん。」

狐娘「お、そうじゃ。今日泊めてやる代わりとして昼に日傘を差すのじゃ。湖まで行きたい。」

男「まぁ、それぐらいで良いならいくらでも。」

狐娘「幾年ぶりの水浴びかの♪」

狐娘「しかしそうなるとお前の帰りが夕方頃になってしまうの。」

男「朝じゃ駄目なのか?」

狐娘「惚け茄子。朝に水に浸かろうものなら凍えて死んでしまうじゃろう。」

男「さいですか……」

狐娘「よし、決めたの。お前、二泊するのじゃ。」

男「良いけど、俺も用事が……」

狐娘「お前を此処に置き去りにして明日の夜に弔って欲しいのかの?」

男「……分かりました……よ。」

狐娘か…

(`・ω・)っ④

狐娘「くくっ。まぁ、弔ってやらんけどの。」

男「弔ってくれないのかよ……」

狐娘「日傘を差してもらわんといかんからの。死なせわせぬよ。」

男「……」

狐娘「……」

男「……」

狐娘「……」

男「……」

狐娘「着いたぞ。」

男「ぜんっぜん、見えない。」

狐娘「ふん、軟弱な奴じゃの。眼鏡とやらがないとお前は赤子も同然じゃな。今まで良く生きてこれたの。」

男「ぐぬぬぬ……」

狐娘「!」

狐娘「……」

男「ぐぬぬ、うわっ!?」

狐娘「っ、ぷははははははっ! 階段如きに躓いておるわ!!」

男「ぐぬぬぬぬぬぬ……!」

狐娘「くくっ、怒るな怒るな。からかってみただけじゃ。」

男「……」

狐娘「ちょっと冗談が過ぎたかの。ほれ、手を貸してやろう。」

男「……まぁ、良いけど。」

男「て言うか狐娘はこんな所に住んでて危なくないのか?」

狐娘「はんっ、わしが低俗な妖怪に屈する様に見えるのか? 思うのか?」

男「ぼんやりしか見えないけど小さいし、声からして女の子だろ……?」

狐娘「ふん。お前の目は腐っているようだの。」

男「いや、だって実際に……」

狐娘「おぉ、つまり! 眼鏡とやらはお前の目の腐敗を防ぐためのものなのかの?」

男「違うっ!」

狐娘「ふふっ、また私に知識が増えたの。」

狐娘「……」

狐娘「それにしてもお前は色々とわしの知らぬことを知っているの。」

男「そうなのか?」

私 → わし な。誤字ったから寝る。

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