P「Happy Halloween」 (40)
ガチャ
律子「おはようございまーす」
亜美「あっ、おっはよー! ねーねー、ところで律っちゃーん」
真美「律っちゃんならトーゼン、今日がなんの日か知ってるっしょー?」
律子「えっ? ……ああ、ハロウィーンね?」
真美「そーそー! んで、ハロウィーンっていえばさー」
亜美「アレっきゃないよねー、アレ」
律子「悪いけど、お菓子なんて特に用意してないわよ。さて、昨日の企画書の続き……」
< ブゥゥーッ
律子「きゃあああっ!?」
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亜美「あっはははは!! あの律っちゃんがきゃあーって! バッチリせいこーだよっ、真美!」
律子「な、な…… なに今のっ! 椅子になにか……」
真美「んっふっふー、律っちゃん、油断してちゃあいけないよん」
亜美「そーそー。ハロウィーンの"アレ"っていったら、イタズラに決まってるっしょ!」
律子「あ、あんたたち……! 今どきブーブークッションとかどこで見つけてきたの!?」
亜美「え? 100円ショップ行ったらふつーに買えるよ?」
真美「おやおやー、ずのー派律っちゃんといえど、知らないことがあるよーですな」
律子「へえ、そうなん…… じゃなくって! 事務所の椅子にこんなもの仕掛けたりして……」
真美「あははっ、鬼軍曹が激おこだー、逃っげろー!」
亜美「さらばだー律っちゃん! そのクッションあげるから、誰かに仕掛けちゃいなYO!」
律子「ちょっ、こらっ、待ちなさーい!!」
律子「もう、逃げ足だけは本当に早いんだから! あとで見つけ次第お説教ね」
律子「…… しかし、あげるって言われても…… こんなのどう使えっていうのよ」
律子「ん……? なにかしら、この手触り。中になにか…… 出してみましょう」
律子「…… 目覚ましガムとか、一口サイズのチョコとか、すごい量。それに、この紙……」ガサッ
「おにぐんそーへつぐ!
げんじゅーにかくされたこのお宝をよくぞ見つけだした! ほめてつかわすぞよ!
お仕事、いつもおつかれサマ、律っちゃん。これ食べてガンバっ☆
はっぴ→ハロウィーン! 亜美&真美」
律子「…… まったく。両方あんたたちがやるんじゃ、"トリックアンドトリート"じゃないの」
バターン
小鳥「ご……、ごめんなさい、遅くなりました!」ゼーゼー
律子「おはようございます、小鳥さん」
小鳥「あああああ律子さん!! ホントにごめんなさい、いつもの電車乗り逃がしちゃって――」
律子「特に急ぎの仕事はないので大丈夫ですけど、次から気をつけてくださいね」
小鳥「は、はいっ……?」
小鳥(……遅刻したのに怒られない!? これはむしろ危険なサインよ小鳥、気をつけ……)
< ブゥウーッ
小鳥「ひゃあああっ!?」
律子「……こ・と・り・さん?」
小鳥「ち、違います、誤解です律子さん!! 誰かがわたしの椅子になにか」
律子「…… ぷっ、あは、あははは、なんて声出してるんですか小鳥さん! あはははは!」
小鳥「ちょっ、これっ…… ええっ、ひょっとしてこれ律子さんが仕掛けてたんですかっ!?」
真「ねえ、雪歩」
雪歩「どうしたの真ちゃん?」
真「雪歩はさ、おうちの人とかと、ハロウィーンのパーティーなんてしたことある?」
雪歩「ううん、ないよ。うちのお父さん、そういうの興味ないみたいだから」
真「そっかー。ボクのところもそうなんだ」
雪歩「真ちゃんはやってみたいの?」
真「うん、だって面白そうじゃない? 仮装してみんなで集まって、ワイワイするの」
雪歩「確かに、日ごろなかなかできないことではあるよね」
真「そうだよ、それに衣装も魔女とか悪魔っ娘とか、かわいいのいっぱいあるみたいで――」
雪歩「わたし、真ちゃんはタキシードでびしっと決めて吸血鬼とかいいと思う」
真「あはは、ありがと。でもボク、とんがり帽子の魔女とか、悪魔っ娘のこうもりっぽい羽――」
雪歩「びしっと決めて、吸血鬼とか、いいと思う」
真「うん。話題変えようか」
真「ハロウィーンといえば、トリックオアトリート、ってあるでしょ?」
雪歩「お菓子をくれないといたずらしちゃうぞー、ってやつだよね」
真「あれってさ、返事として別の選択肢はないのかなあ」
雪歩「えっ? 別って…… どういうこと?」
真「たとえば、『よかろう、ボクに勝てたらお菓子をやろう!』なんてどうかな」
雪歩「勝負するの!?」
真「いや、ケンカとかじゃないよ? 衣装がよく似合ってたらとか、うまくおどかせたら、とか」
雪歩「真ちゃん、基本的にはハロウィーンでその呪文言うの、ちっちゃい子なんだよ?」
真「うーん、いまいちか。あっ、じゃあ、『お菓子はあげるけどイタズラも受けてやる!』とか」
雪歩「えーっと…… まあ、それならちっちゃい子は喜ぶ…… かなあ?」
真「でしょ? ボクならお得な感じがしてうれしいと思うんだ」
真「あ、そんなこと言ってるうち、そろそろレッスンの時間だね」
雪歩「そうだね…… あのね、真ちゃん。例の呪文、言ってみてくれる?」
真「え? 今?」
雪歩「うん、いま」
真「いいけど…… じゃあ、トリックオアトリート!」
雪歩「い、いまはちょうど、お菓子の持ち合わせがないんですう! 見逃してくださいぃ!」
真「あはは、それも新しい返事だね。でもなんでわざわざ言わせるのさ、雪歩」
雪歩「見逃してくれたら、レッスンのあとでお茶とケーキのおいしいお店に案内しますからぁ!」
真「えっ、ほんと!?」
雪歩「ふふ、ほら見て真ちゃん。前に一緒に行ったお店から、招待券もらったの」
真「やーりぃ! こうなると今日のレッスン、がぜんやる気が出てきたよ!」
雪歩「あっ、ま、真ちゃん!? 待ってー、置いていかないでぇ!」
ガチャ
千早「お疲れ様です。ただいま戻りました」
春香「おかえり千早ちゃん、レッスンおつかれさま!」
千早「ああ春香、お疲れ様。まだ出なくて大丈夫なの?」
春香「うん、今日はわたし夕方からなんだ。ところで千早ちゃん、今日って10月何日だっけ」
千早「えっ? きょうは月末、31日だけれど」
春香「えへへ、だよねー。じゃあ、10月31日ってなんの日か知ってる?」
千早「ええ、もちろんよ」
春香「ホント? 千早ちゃん、そういうのには興味ないかと思ってたよ。ちょっと意外かも」
千早「そうかしら、むしろ私は春香が知っていたことが少し意外だったわ」
春香「えーっ、そうかな。自分で言うのもなんだけど、ある意味わたしにぴったりじゃない?」
千早「そうね…… 言われてみれば、物悲しくも情熱的な旋律は確かに春香を思わせる部分がないことも……」
春香「えっ?」
千早「えっ?」
春香「ごめん千早ちゃん、今なんて言ったの?」
千早「春香こそ何を言っているの。10月31日の話を始めたのは春香でしょう?」
春香「えーっと、うん、それはそうだけど。10月31日っていったらハロウィーンだよね?」
千早「…… 1865年、ブラームスのOp.18b初演日ではないの?」
春香「ごめんね、わたし千早ちゃんの知識と世間知らずぶり、どっちも甘く見てたみたい」
千早「……そんなイベントのある日だったのね。お菓子か、いたずらか…… 私、全く知らなかった」
春香「まあ、有名になったの最近みたいな感じだし。これで来年からはばっちりだねっ!」
千早「ふふ、そうね。春香のおかげで勉強になったわ」
春香「さ、じゃあちゃんと覚えられたところで…… 千早ちゃん、どうぞ!」
千早「えっ? どうぞ、って…… 何が?」
春香「もーっ、今教えてあげたばっかりでしょ。なんて言うのか忘れちゃったの?」
千早「…… ええっ!? で、でも…… それは、子供がすることだって……」
春香「ふっふっふ、確かにそうは言ったけど、大人がやっちゃダメとも言ってないよ?」
千早「ええっと、その…… そうだ! 春香、もうそろそろレッスンの時間じゃあ――」
春香「ごまかそうったってダメだよ千早ちゃん。まだだいぶ余裕あるもん」
千早「ううっ……」
春香「…… それとも千早ちゃん、わたしの用意するようなお菓子じゃ魅力、ないかなぁ……?」
千早「いえ、勿論そんなことはないのだけれど、でも」
春香「じゃあいいでしょー? ほらほらっ、早くぅ」
千早「…… っ、と、トリック、オア…… トリート!」
春香「どうしよっかなぁ、お菓子あげなーい、って言ったら千早ちゃんは何してくれるんだろ?」
千早「は、春香っ!? 話が違うじゃない!」
春香「あははっ、冗談だよ千早ちゃん。そんなに慌てなくたって」
千早「もう……! やってみればわかるけど、すごく恥ずかしいのよ、これ!」
春香「そうかなあ? それはともかく、いたずら防止にはいこれ、どうぞ」
千早「これは……? これ、春香が作ったの?」
春香「そう、パンプキンパイ。せっかくだからお菓子もハロウィーン仕様にしてみました!」
千早「とても美味しそう。 ……あら? ねえ、春香の分は?」
春香「……そ、それがね? みんなの分作ったら、ちょうど材料切れちゃって…… あはは」
千早「そんな、私だけ食べるのは悪いわ」
春香「いいんだってば。食べて欲しくて作ったんだから、わたしは見てるだけで十分だよっ」
千早「…… ……そうだ」
春香「?」
千早「ねえ春香。私だけ例の呪文を言うのでは不公平よね?」
春香「えっ? だって千早ちゃん、ハロウィーンのこと自体、さっき聞いたばっかりでしょ」
千早「関係ないわ。あの気恥ずかしさは春香にもぜひ味わってもらいたいもの」
春香「ほほー、つまり…… 千早ちゃん、いたずらを受け入れる覚悟があるってことだね?」
千早「どうでしょうね。さあ、春香の番よ」
春香「よーし…… 千早ちゃん、トリックオアトリート!」
千早「…… ところで、お菓子って、私がいつも持ち歩いているのど飴では不足かしら」
春香「当然だよー! ハロウィーンだもん、特別なやつじゃなくちゃ納得しません!」
千早「なるほど、その通りね。じゃあ」
千早「たまたま私、とても美味しそうなパンプキンパイを持ってるの。これを半分こする、というのはどう?」
春香「……うふふ、しょうがないなあ。いいよっ、それで手を打ってあげる!」
春香「……ん、おいしいっ! 実は、味見もほとんどできてなかったんだよね、えへへ」
千早「大丈夫よ、春香のお菓子はいつだって美味しいもの。私と事務所の皆が保証するわよ」
春香「そんなに褒められると照れちゃうなあ。ありがと、千早ちゃん」
千早「私のほうこそ、いつもありがとう、春香。……本当にこれ、美味しいわ」
貴音(れっすんから帰ってきてみれば、なにやら春香と千早が談義をしているところに……)
貴音(立ち聞きのつもりは誓ってなかったのですが…… 本日は、"はろうぃいん"なる祝祭の日なのですね)
貴音(すばらしいことを知りました! そうと決まれば、早速……!)
貴音「響、響」
響「おっ、貴音。どうしたの?」
貴音「とりーと」
響「…… ……えーっとね、貴音」
貴音「とりーと!」
響「どうしてそうなったのかは大体想像つくけど、色々はしょりすぎだぞ」
貴音「とりーと!!」
響「うん、まずは落ち着いて話聞いてくれないかな?」
響「なんだ…… そこまで聞いてたんなら、どうして呪文を省略しちゃうのさ」
貴音「しかし、最終的にはお菓子をいただくという示し合わせの催しなのでしょう?」
響「まあ確かにそうなんだけど、こういうのって形も大事だからね」
貴音「はっ…… もしや!?」
響「よかった。やっと間違ってることに気づいてくれた?」
貴音「これだけ言い続けてもなお、お菓子をいただけないということは……」
響「そうだぞ、貴音がちゃんと正しく呪文を言えたら」
貴音「響はわたくしにいたずらされたいのですか!?」
響「ぜんぜん違うし誤解を招きそうだからその表現やめよう!?」
貴音「ですが、これだけわたくしが繰り返してもお菓子をくれない以上、そう考えでもしなければ」
響「だから貴音、もう一度ちゃんと言ってみてってば。なんて言うんだったっけ?」
貴音「しかし……」
響「ほらほら。いくぞー、さん、はい!」
貴音「と…… とりっく、おあ、とりーと!」
響「ふふふ、英語なのによく言えたなー。じゃあはい、これっ!」
貴音「おおっ!? これは…… さーたーあんだぎー!」
響「昨日たくさん作っといたんだ。揚げたてもいいけど、一日たったやつも美味しいぞ」
貴音「しかし、なぜこんなにたくさん用意があるのですか?」
響「貴音ならきっとハロウィーンのこと、どっかで聞きつけてくると思ったのさー」
貴音「…… ああ、響、響……! やはり、響はかんぺきです!」
響「ふふーん、当然だぞ。さ、貴音、一緒に食べよっ!」
貴音「それでは早速、いただきます!」
響「はーい、どうぞ召し上がれ」
貴音「では……」
貴音「……む!」
響「どう、気づいた? 今日のはいつもと一味違うんだぞ」
貴音「この生地の色、それにやさしい甘み…… かぼちゃを使っているのですね?」
響「さすが貴音、正解! なんたって、ハロウィーンだからね」
貴音「いつもの響の作るものもたいへん美味ですが、これも変化があって、まこと美味しいです」
響「へへー、頑張って揚げたかいがあるってもんさー。まだまだいーっぱいあるからね」
貴音「ところで響。ひとつ、お尋ねしてもよろしいでしょうか」
響「ん、なーに?」
貴音「先ほど響の言っていたことで、わたくし、どうも腑に落ちないことがありまして」
響「えっ、何が? 自分、そんなややこしいこと言ったっけ」
貴音「『響はわたくしにいたずらされたい』という言い回しは、どう誤解を招くのでしょうか?」
響「え、…… う、え、ええっ!? えっと、それは、その……」
貴音「お恥ずかしい話ですが、今ひとつわからないのです。教えていただけませんか」
響「う、う、うがーっ!?」
美希「ん~っ…… ああ、やっぱりサイコーなの!」
ガチャ
伊織「ただいま。 ……ああ美希、いたの。お疲れ様」
美希「あっ、でこちゃん。おかえりー」
伊織「あ、の、ねえ! その呼び方やめなさいって何度言わせるのよ!」
美希「でこちゃんって言いやすいしわかりやすいって、ミキ何度も言ってるの」
伊織「…… もういいわ。で、あんた、何してるの」
美希「おやつタイムだよ?」
伊織「わたし、ここであんたのおやつタイムとお昼寝タイム以外を見た覚えがないんだけど」
美希「トーゼンなの。ふつう、事務所でレッスンとかレコーディングとかしないよ?」
伊織「ひ、ひっぱたいてやろうかしら……」
伊織「それで、今日のおやつタイムのお供はいちごババロアなのね」
美希「うん、それもね、お店でひとつだけ残ってたの! これってもう運命なの!」
伊織「ああはいはい、良かったわね」
美希「あげないよ?」
伊織「誰がちょうだいって言ったのよ」
美希「……あ、でも、そうだ」
伊織「なに?」
美希「でこちゃんが『トリックオアトリート』って言えたら、分けてあげてもいいよ」
伊織「はあぁ!? なんでそんなこと言わなきゃいけないのよ!?」
美希「今日はハロウィーンだからだよ?」
伊織「わたしが聞いてるのはそこじゃなくってぇ!」
美希「ふにゃー…… あふ、ぅ……」
伊織「……食べ終わったら即お昼寝タイム、と。ほんとにこいつ、アイドルなのかしら」
伊織「幸せそうな寝顔しちゃって…… なんか悔しい気すらしてきたわ」
伊織「…… そうだ!」
伊織「美希。美希? 起きてる?」
美希「すぴぃー……」
伊織「よーし、完全に寝てるわね。マジックどこかしら、マジック」
伊織「さあて、と…… せめてもの情けで水性にしといてあげたわよ、にひひっ」
伊織「覚悟はいい? じゃあ…… トリックオアトリート!」
美希「……」
伊織「当然寝てちゃあ、お菓子なんて出せないわよね? 仕方ないから、その寝顔に落書きを――」
美希「やーっと言ってくれたの。ミキ、待ちくたびれたよ」
伊織「!?」
伊織「な、ななっ、」
美希「あふぅ…… 寝たふりするの、ホントに寝ちゃいそうで、けっこう大変なんだから……」
伊織「あんた、ずっと起きてたの!?」
美希「そうだよって言ってるのに。それより、ちょっと待っててね?」
美希「じゃあ、はいこれ」
伊織「…… ……オレンジジュース?」
美希「そう、ババロア買ったお店で売ってたの。手しぼり? とかで、すっごくおいしいんだって!」
伊織「これをわたしに?」
美希「うん。だって"伊織"、オレンジジュース好きでしょ?」
伊織「……!」
伊織「…… バカね。わたしが帰って来たときに、さっさと渡しなさいよ」
美希「だって、それじゃあつまんないの。せっかくのハロウィーンなのに」
伊織「あんたがババロア食べてるときに、わたしが例の呪文を言ってればよかったわけね……」
美希「ホントその通りなのっ! 変に意地はるから、こんなメンドーなことになっちゃうんだよ?」
伊織「……悪かったわ。どうもありがとう、美希」
美希「あはっ、どういたしまして、なの!」
伊織「でもこれ、お菓子じゃないわよね」
美希「え?」
伊織「ジュースって、お菓子かしら?」
美希「…… えーっと…… それは、その」
伊織「にひひっ…… やっぱり、落書きもしてよさそうね?」
美希「ちょっ、待って、そんなのってないの! でこちゃんは恩知らずなのーっ!!」
伊織「あ、あんた、またそれ言ったわねっ!? 待ちなさいっ!」
あずさ「じゃあわたしたちは、これで失礼します。皆さん、おつかれさまでした~」
やよい「これからも、よろしくお願いします! 失礼しまーすっ」ガルーン
やよい「イベント、うまくいきましたねっ、あずささん!」
あずさ「ええ、ホントね。いーっぱい子供たちが来てくれて楽しかったわ♪」
やよい「あずささんの魔女の衣装、すっごく似合ってました。ほんとに本物の魔女みたいな感じで!」
あずさ「あらあら~、そう言われるとなんだかわたし、悪いひとみたい…… うふふっ」
やよい「えっ? あ…… ち、ちがいますっ、帽子とかマントとかばっちりだったって意味ですー!」
あずさ「冗談よ、ちょっと言ってみただけ。やよいちゃんの小悪魔さんも、すごく可愛かったわ」
やよい「ほんとですか? うれしいです!」
あずさ「ええ、悪魔さんなのに、悪いことぜんぜんできそうに見えなかったもの」
やよい「はわっ、それってダメなんじゃないですか!?」
あずさ「今日来てくれた子たち、やよいちゃんとそんなに年が違わないんじゃない?」
やよい「たしかに、小学生くらいの子もいっぱいいましたね」
あずさ「それなのにお菓子を配るほうなんて、やよいちゃん、ちょっと損しちゃってるみたいね」
やよい「うーんと…… でも、わたしアイドルですし、お姉ちゃんですから! へっちゃらですっ!」
あずさ「……ところでやよいちゃん、ハロウィーンの呪文ってなんて言うんだったかしら?」
やよい「えっ?」
あずさ「今日来てくれてたみんなが口にしてた、あの呪文」
やよい「えっと……? それって…… とりっくおあとりーと、ですか?」
あずさ「そうそう、それ。じゃあこれは、わたしから、やよいちゃんに」
やよい「え? ……あれっ!? これ……」
あずさ「さっきのイベントで配ってたお菓子。スタッフさんにお願いして、もらってきちゃった」
やよい「でも…… あずささん、わたしだけもらっちゃうのは不公平ですー!」
あずさ「そう? それじゃあやよいちゃん、わたしからも言うわ。トリック・オア・トリ~ト!」
やよい「はわっ!? ええっと…… あっ、じゃああずささん、このお菓子をいっしょに――」
あずさ「…… 実はね、やよいちゃん。わたし、もうやよいちゃんにイタズラしてるの」
やよい「えーっ!? えっ、でもあずささん、なんにもしてないですよね?」
あずさ「うふふ、やっぱりばれてなかったのね。ねえやよいちゃん、おしりのところ……」
やよい「おしり……? ああーっ! こ、これ、さっきのあくま衣装のしっぽ!?」
あずさ「あんまりかわいいから、それも無理言ってもらってきたの。うふふ」
やよい「わ、わたし、会場から今までずっと、これつけてたんですかっ!?」
あずさ「ピンポ~ン♪ 大丈夫よ、仮装してる人、他にもいっぱいいるんだから」
やよい「あうう…… は、恥ずかしいですー」
あずさ「せっかくのイベントだもの。わたしたち仕掛け人だって、楽しまなくっちゃ!」
ガチャッ
P「ただいまー…… もう誰もいないよな、こんな遅くっちゃ」
P「…… ふーっ。時間はかかったけど、今日の営業は手ごたえあったぞ!」
P「みんなも頑張ってるんだ、俺がここで気合入れて、仕事いっぱい取ってこなくちゃな」
P「しっかし、今日はやたら人が多かったな…… そんなにでかいイベントとかあったっけ?」
P「まあいいや。明日もあるし、ぱぱっと書類まとめたら戸締りして帰ろう」
P「……ん?」
P「このガムやチョコの山…… はは、これ食って夜も頑張れ、ってことだな。助かる」
P「こっちは? へえ、あの有名店のケーキ、お茶もセットで。豪勢だな、食っていいのかなこれ」
P「そしてパンプキンパイに、サーターアンダギー…… おっ、しかもこれ手作りか!」
P「オレンジジュースもある。100%っぽいし、ケーキとかより先にこっちだな」
P「で、〆は駄菓子詰め合わせか。あー、懐かしいのがいろいろ入ってる、ずいぶん食ってないや」
P「…… ああ、そうか。今日って、ハロウィーンか、そういや」
P「例の呪文も言わずにこんなにいろいろもらえたの、世界中でも俺くらいじゃないか?」
P「本当なら、Trick or Treatって言われた側がする返事のはずだけど」
P「まさに"Happy Halloween" ってやつだな。……よおし、あとひと頑張りしよう!」
< ブウゥゥーッ
P「うおおっ! な、なんだっ!? ……ブーブークッション!?」
おしまい。
乙です
あたたかいオチだ
素晴らしい
乙
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