男 「渡りの詩」(24)
男 (渡り鳥みたいだ)
男 (端から端へっ流れる景色を見て、ふと思ったのはそんな詩的なこと)
男 (いや、別に安住の地を求めているわけでも無いのだから、渡り鳥よりも文化の度合いが低いのかもしれない)
男 (もうこれが何度目になるのかも分からないほどに繰り返した引っ越し)
男 (電車の窓から見慣れない景色を眺めることにも飽きてしまっていた)
男 (人は一生の半分くらいを寝て過ごすとかなんとかどこかできいたことがある)
男 (しかし俺の場合、一生の内の確実に三割は引っ越しに費やしている自信があった)
男 (親の都合でポンポンと住む場所が変わる)
男 (酷い時には一ヶ月も経たずに新天地へと旅立ったこともある)
男 「はぁ……」
男 (子供とは、世知辛いものだ)
興味深い
男 (親友なんていたこともない)
男 (友達と呼べるのかどうかも怪しい人達もいることにはいたが)
男 (高校生となった今でも連絡を取り合うような者なんて、ほぼ皆無だ)
男 (友達になったところで、渡り鳥はまたどこかへと飛んでいかないといけない)
男 (だからそう、半ば諦めているのだ)
男 (友達なんて存在に)
男 (輝かしい新生活に)
―駅前―
男 「ふぃ……」ゴキゴキ
男 (凝りに凝った体をよく解す)
男 (少し首が痛い)
男 (辺りを見渡すと、中途半端な高さの駅ビルと、中途半端な広さの道路と、中途半端な人並みと)
男 (今回の中継地点)
男 (都会とも田舎とも言えない、よくある普通の街)
男 (そう毎回、漫画やゲームのように辺境の地や大都会のド田舎に引っ越す訳ではない)
男 (どこにあるのかわからない目的地へと続く中継地点は、こんな普通の街ばかりだ)
男 「んー?」
男 (しかし遅い、遅すぎだ)
男 (毎度のごとく時間にルーズ過ぎる)
姉 「おーい」ブンブン
男 「遅いよ姉さん」
姉 「いやー道に迷っちゃって」
男 「嘘吐くなや」
姉 「ちゃんと車で来てあげたんだから感謝してよね」ブロロ
男 「べっつにー」
姉 「降ろすよー」
男 「ありがとうござーます姉さん」
姉 「よろしい」
姉 「お父さんはまだ荷物かたし終えてないみたいだから手伝ってあげてね」
男 「なんの為に一週間早く発ったんだよ……」
姉 「仕事で忙しかったの」
男 (父さんはなんか色々やってる)
男 (ある時は遺跡の調査に行ってみたり)
男 (またある時は怪しげな薬をマウスにぶちこんでみたり)
男 (またまたあるときは大量の同じ会社のゲームを持って帰って来たり)
男 (謎に包まれ過ぎているが、俺の独断と偏見によれば多分職業は何でも屋だと思う)
男 (というかそれ以外に何でもやってそうな仕事を知らない)
男 (それとなーく訊ねてみても……)
男 「ねー、父さんの職業ってなんだっけー」
姉 「20世紀少年よー」
男 「それって職業かな……」
男 (この有り様である)
男 (因みにこの間はアルター使いだった気がする)
姉 「ほい着いたー」
男 「んー」
姉 「まいほーむ!」
男 「またこんな馬鹿デカイのを……」ハァ
男 (父さんは必ず大きくて豪華な家を買う、もしくは借りる)
男 (どうせ一年と住まないのだからボロ屋でも構わないのに……)
男 (父さん曰く)
父 『だっとお風呂とトイレが狭いと落ち着かないし』
男 (ならせめて風呂とトイレが広めの普通の家にしろ)
男 (まぁ金だけは有り余っているようなのだけど)
父 「はっはっはっ、よく来た息子よ」
男 「うーぃ」
父 「さぁ早速父と三年振りにキャッチボールでもしようじゃないか」
男 「三年前どころか生まれてから一度も父さんとキャッチボールしたことねーよ」
父 「言葉のキャッチボールのつもりだったんだが」
男 「紛らわしいわ! 第一一週間前に交わしたっての」
父 「父にとっては息子と会えない日々がその位長く感じたのだよー!」
男 (めんどくせぇぇぇぇぇぇ)
男 (引っ越しが嫌なら寮に入るなりなんなりすればいい、という話なのだが)
男 (最大の障害、父がいる為に事はそう上手く運ばない)
父 「ぐぅふふ、息子よー」スリスリ
男 (このように、父が俺を溺愛しているからである)パンチ
父 「ごふっ」
父 『男をどこの馬の骨ともしらん熟女に預けるなど正気の沙汰ではないわぁ!』
男 (だそうだ)
男 (寮監さんがみんな熟女だとは限らないと思うのだが)
父 「さぁ早速飯にしよう、父さん姉さんと一緒に頑張って作ったんだぞー」
姉 「ちゃんと手洗ってねー」
男 「うーぃ」
男 (そんなこんなで、慌ただしく初日が終わっていった)
寝ます
―学校―
男 (にこやかな教師)
男 (慣れた)
男 (教師の後について歩く目新しい廊下)
男 (慣れた)
男 (教室から響く歓喜の声と興味津々の瞳)
男 (慣れた)
男 (全部、慣れてしまった)
教師 「みんなもう知っていると思うがお待ちかねの転校生だ」
男 「男です」
男 「みなさんよろしく」
男 (当たり障りのない挨拶と、ありふれた拍手という歓迎)
男 (どこへ渡っても付きまとう、つまらない通過儀礼)
教師 「例のごとく転校生には一番後ろの机を用意してるからそこに座ってくれな」
男 「はい」
モブ男 「なぁなぁどっから来たの?」
モブ子 「なんか部活やってた?」
男 「あはは……」ニコ
男 (質問攻め、愛想笑い)
男 (全部うんざりしてくる)
教師 「はいもくそー」ガララ
男 (お決まりの、教科書が無い)チラ
女 「……//」モジモジ
男 (こういう時は見る? とか聞いてくれた方が楽なんだけどな……)
男 「あのさ」
女 「ひゃいっ?」
男 (ひゃい……)
男 「教科書見せてくれる?」
女 「どどどどどうぞ!!」
男 「さんきゅ」ガタッ
女 「!?」
女 「ななななななんで机を……」
男 「いや机つけないと見れないし……」
男 「ごめん、嫌なら別にいいよ」
女 「みっ、見ていいよ!!」ガタタッ
男 「」
女 「あ、いやその嫌な訳じゃないからいきなり机つけられてびっくりしただけっていうか……」
男 「お、おぅ……」
教師 「黙想しろー」
教師 「よってここは過去進行形になるからだなー……」
男 (ここやったなー……)ボケー
女 (近い近い近い近い近い……//)ドキドキ
男 (ん?)チラ
女 (目が合ったぁぁぁ//)モジモジ
男 「?」
―昼休み―
女 「」チーン
女友 「どうした女ー」
女 「全然授業に集中できなかったよ……」
女友 「あぁ、あの転校生か」
女友 「顔は悪くなかったよな」
女 「そういう問題じゃなくってぇ!」
女友 「男に免疫ないもんねー」
女 「うぅぅ//」
女 (それになんだかあの人に似てるし……)
女友 「あ、男だ」
女 「ひゃやぁっ!?」
女友 「うっそぴょーん」
女 「―――!!」ポコポコ
女友 「殴るなって」
女友 「あいつなら友と学食に行ってたよ」
女 「もー女友ちゃんってばー!」
女友 「ごめんって」
女 「第一女友ちゃんは私で遊び過ぎなんだよ」プリプリ
女友 「だってあんた反応がいちいち可愛いし」
女 「かわっ!?//」
女友 (ほら)
女 「冗談はやめてって!//」
女友 「別に冗談じゃないんだけど……」
女友 「あ、男来た」
女 「もう騙されませんよーだ!」
女 「大体そんなに早くかえっt」
男 「俺がどうかした?」
女 「」
女友 「狼少女の言葉を信じないから……」
友 「そりゃ女友は狼だもn」
女友 「ぶっ殺すぞ」
友 「ごめんなさい」
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