美優「微熱の行方」 (41)
・三船美優さんと高垣楓さんのSSです
・地の文で進行
・短めです
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「飲みに行きませんか?」
それは20時くらいのお話で、あまりにも突然の出来事。
「……はい?」
戸惑いを隠しきれずに、思わず素っ頓狂な声をあげてしまった。
「私、今日誕生日なんですよ」
「知っていますよ」
だってあなたの誕生日を祝うためにみんなでお酒を飲んだあとじゃないですか。
あまり顔には出ていないけど、やっぱり酔っているんだろうか。
彼女の、数分前の姿を思い出す。
日本酒をおいしく飲んでいたのを私は隣の席で見ていた。
お猪口を両手で大事そうに持ったと思えば、次の瞬間ぐいーっと天を仰いで一言、おいしい、と。
私の前で浴びるようにビールを飲んでいた早苗さんにも負けないくらいの勢いでお猪口を口に運んでいた。
早苗さんも彼女にあてられてなのか、次々とジョッキを空けていたのは言うまでもない。
「まだまだ、酔ってませんよ?」
「まだ何も言ってませんけど……」
まるで自分の心の中を読まれたようで、思わずドキッとした。
「言いたそうだったので先に言っちゃいました」
こう言ってはなんだけれど、私は高垣楓という人のことをあまり知らない。
みんなが憧れる、神秘的な美貌を持ったアイドル。
お酒が好きで、飲むと少しめんどくさくなる。
大人な雰囲気を纏っていると思いきや、子供のような発言、行動をする。
同じ職場にいれば誰でも見る事の出来る姿ばかり。
「おごれ……ということですか?」
「いやいや。純粋に一緒にお酒を楽しみませんかってお誘い、ですよ?」
「はぁ……」
地味な私とは比べものにならない、彼女の大きくてきれいな瞳はまっすぐこちらを見ている。
魔性の瞳、と誰かが言っていたのをふと思い出した。
視線を合わせると吸い込まれるのでは、という気がしてならないのは左右の瞳の色が違うというのも理由のひとつだと思う。
それにしても……急な話でいろいろ考えてしまう。
同じ事務所で、実は1個しか歳が変わらなくて、行事では気付くと隣になって……けれど私と彼女は友人と言っていいほど親しい間柄じゃない。
会話は世間話の域を出ないし、ひどいときは挨拶だけでその1日が終わる。
もちろん一緒にお酒の席を共にしたのは片手どころかそのうちの半分も必要ないくらいで、全部が多人数での集まり。
今回の会も音頭をとった早苗さんに全員参加、と有無を言わせず連れて来られたのだから。
「他の人は?」
「ふたりっきりですけど?」
冗談にしてはあまりに突拍子もなくて、まったく笑えない。
お酒を飲むのは嫌いじゃないけれど、ひとり以上で飲むという行為はあまり得意じゃない。
というか、慣れていない、と言った方がいいのかも。
「嫌、ですか?」
そう言って、私より背の高い彼女は少し腰を曲げてこちらを覗き込む。
同性でもおもわず見惚れてしまうその顔でそんなことを言われたら断りにくい。
少し熱くなった頬はアルコールが回ってきたから?
どうしようか、どう断ろうか。頭の中でいろいろな考えが糸のように張り巡らされ、それがぐるぐる、ぐるぐると勝手に絡まり合い、ほどけなくなる。
しばらくだんまりを決め込んでいると、彼女は急ににこりと笑って私の腕を掴んだ。
「やらずに後悔よりやって後悔、ですよ」
「いや、そういうことじゃ……」
こちらの意思なんて最初から関係ないとでも言うように「すいません。私たち、用事があるので」と短く残して、お酒の匂いが漂う輪から本日の主役が一抜け。
みんなきょとんとした顔をしてこちらをただ見ているだけだった。
私もそのひとり。
みんなと違うのはその主役と一緒にこの場を離れるというところ。
意外と彼女の力は強く、振りほどく余裕もなかった私は、先を歩いている彼女にただ引っ張られていくだけ。
遠くから早苗さんの声が聞こえる。
なんて言っているのかわからないけど、なにか叫んでいて穏やかな状況じゃない、ということだけはわかった。
明日なんて言われるんだろう、と思ったけど、幸か不幸か翌日は1日オフだった。
「あ、あの!」
「なんですか?」
思い切って声を出す。
いきなり立ち止まったかと思うと、ぐいっと距離が縮まった。
お店の軒にかけられた薄暗い照明に照らされ、ほんのりと赤みが差さった彼女の顔。
アルコールとは違う甘いにおいが漂ってきて、なんだか変な気分になってくる。
それにしても……近い、近すぎる。
長いまつ毛。
すいたばかりの新紙のように透き通った肌。
それが手を軽く前に出しただけで触れてしまうこの距離。意識をするなという方が難しい。
私はお酒に強いタイプじゃないから、心臓が妙にうるさいのは全部お酒のせい。
そういうことにしておこう。
「……ひとりでも歩けますから」
「あぁ、そうですか。すいません。気がつかなくて」
と、言ったにも関わらず、彼女はニコニコしたまま掴んだ腕を離してくれない。
「あの……聞いてました?」
「はい。聞いてましたよ」
表情は変わらない。本当に私が口にした言葉を理解しているのか、怪しい。
少し手前に引いてみようと力を入れるも、彼女はそれに気付いてかぎゅうっと握り直して、離そうとはしてくれないみたい。
「逃げたりしないので手を離して欲しいんですが……」
「私がこうしたいからっていう理由じゃダメですか?」
さっきからなんなんだろう、この人は。
そんなことを言われたら、もう何も出来なくなってしまう。
ズルい。
ものすごく、ズルい。
次の言葉を口に出来ない私の気を知ってか知らずか、再び夜の街を先導していく。
もちろん私の手は掴んだまま。
「嬉しいんです。こうやって美優さんとお酒を飲めることが」
車の音にかき消されることもなく、一言一句はっきりと耳に届いたその言葉。
それは私の体温を上げるには十分すぎるもので、頬に氷を当てるとあっという間に溶けてしまいそうなほど熱を帯びた。
お酒のせい、にするには苦しくなってきた。
「誘おう、誘おうって思うだけでなかなか行動に移せなくて。今日は早苗さんに感謝ですね」
普段の涼しげな彼女からはなかなか想像が出来ない、やわらかで、春の陽気のような暖かさを持つその笑顔。
心臓の音が鼓膜に届く。
どくん、どくん。
歩くよりも速いテンポでリズムを刻んでいく。
「美優さんはどうですか?」
「どうって……」
「私とお酒を飲めるの。イヤ、ですか?」
また、まただ。
どうしてこんな聞き方を、私が答えにくい言葉を投げかけてくるのだろう。
「い、イヤなわけ、ないじゃないですか」
「ふふっ」
「……なんで笑ったんですか」
「やっぱり美優さんはかわいいなぁって、そう思っただけです」
私を照れさせてどうするつもりなんだろう。
そう考えてしまうくらい、彼女の言葉には私を辱めようとする明確な意思がある。
「……あまりそんな事ばかり言ってると、私、勘違いしちゃいますよ」
我ながらなかなかしてやったりな返事に心の中でぐっと拳を握る。
私だってやられっぱなしは性に合わない。
たまにはやってやるんだから。
「なら、勘違いしてください」
でも悦に浸れたのはわずか数秒間の事。
三日天下ならぬ三秒天下。
「勘違いしてください。全然構わないです」
「そ、それってどういう……」
「そういう事、と言うだけでは足りないですよね」
今までで一番強い力で引っ張られる。
私の体は彼女の胸元に飛び込む形になり、気付いたときには両腕でしっかりと抱きしめられていた。
何で?
何でこんな事を?
「……美優さん、いいにおい」
「え……あ、あの」
真っ白。
頭の中は新品のスケッチブックよりも真っ白で、そこに書き込む余裕なんてまったくない。
「ど、どうしたんですか。いきなり……その……
「さっきから言ってるじゃないですか。私がやりたいから、それだけだって」
「だ、だからってそんな……」
「私って考えを言葉にするのが苦手なんですよ。だから、こうしました」
抱きしめる力が強くなる。
ぎゅうっとされるたびに、私の心もぎゅうっと掴まれるようになる。
「そ、外……ですよ?」
「室内ならいいんですか?」
「ちっ、違います!」
「やっぱり、美優さんはかわいいです」
「……もしかしなくても、酔ってますよね?」
「酔ってないですよ。全然しらふです」
酔っている人はみんなそう言いますよ、と喉まで出かけたところでぐっと口をつぐんだ。
言うのはなんだか野暮だなって。
「ふふ……」
「美優さんも酔ってます?」
「酔ってませんよ。ちょっと面白くなっただけです」
なんだか、どうでもよくなってきてしまった。
きっとお酒と、この人のせいだ。
こんなにおもしろおかしな気持ちになっているのは。
「酔ってる人はみんなそう言いますね?」
……やっぱり、この人は。
おわり
と見せかけてからの
美優「ん……朝……?」
美優「えっと……私……」
楓「おはようございます」
美優「ひゃあ!」
楓「びっくりしました?」
美優「う……あ、頭、いた……な、なんで楓さんが……というかここは……」
楓「私の部屋ですけど」
美優「そ、それもですけど……なんで2人してベッドに……」
楓「……はて」
美優「なんですか、その意味深な沈黙は……」
楓「覚えていないんですか?」
美優「……はい」
楓「言っていいんですか?」
美優「い、言ってください……」
楓「ふむ……」
美優「……」
楓「……美優さんってなかなか素晴らしいものをお持ちですよね」
美優「ッ!?」バッ
楓「女性的で、すごいやわらかくて……」
美優「いい、いいです! 感想とか言わなくていいですから! あうっ」ズキズキ
楓「美優さんが言っていいって」
美優「そ、そういう事を聞いたわけじゃないです!」
楓「ならどういう事を?」
美優「う……」
楓「ユッコちゃんじゃないので、ちゃんと言葉にしてくれないとわかりませんよ?」
美優「……絶対わかって言ってますよね?」
楓「なんの事でしょう?」
美優「……どうして1つのベッドで2人で寝てたんですか? それも……し、下着姿で……」
楓「お客さん用の布団がなかったので。あと服は美優さんが自分で脱いだんですよ?」
美優「……ウソですよね?」
楓「あつい~、って脱いでました」
美優「……」
楓「私も寝るときはいつも下着なので」
美優「……何もしてないですよね」
楓「何、とは?」
美優「……ヘンな事」
楓「具体的に」
美優「……過ちを犯していないか、とか」
楓「過ちというものは何を指しているんですか?」
美優「……」
楓「……」
美優「き……」
楓「き?」
美優「……キス、とか……」
楓「……」
美優「……何か言ってくださいよ」
楓「……口以外はノーカンですよね」
美優「……ちなみにどこへ?」
楓「首とか」
美優「」
楓「耳とか」
美優「」
楓「胸元とか、ですかね」
美優「」
楓「顔がゆでだこみたいになってますよ?」
美優「わ、私……なんで……」
楓「随分飲みましたからね。全然舌が回ってなくてベロベロでしたよ。舌だけに」
美優「うぅ……まったく覚えてない……」
楓「かわいかったので大丈夫ですよ」
美優「そういう問題じゃ……」
楓「酔うと甘えたさんになるんですね」
美優「忘れてくださいぃ……」
楓「目に焼き付けました」クワッ
美優「やめて!」
楓「まぁまぁ、とりあえず朝ご飯でも食べませんか?」
美優「そういう気分じゃ……」
楓「和食ですけど」
美優「……」
楓「怒ってます?」
美優「……」
くぅ~
楓「……お腹はすいてるみたいですね」
美優「……恥ずかしい」
楓「焼くだけなので座って待っていてください」
*
美優「準備がいいですね……」
楓「昨夜作ってましたから」ドヤァ
美優「はぁ……」
楓「もっと褒めてくれてもいいんですよ?」
美優「……料理するんですね」
楓「簡単なものしか作れませんけどね」
☆高垣家の朝ご飯
・ご飯
・ネギの味噌汁
・焼き鮭
・冷や奴
・納豆
・白菜の浅漬け
くぅ~
楓「ふふっ。お腹は待ちきれないみたいなので食べましょうか」
美優「……いただきます」
楓「はい、めしあがれ」
美優「……楓さん、お酒強いんですね」
楓「美優さんが酔うところを見たかったのでセーブしたんです」
美優「……そう、ですか」
楓「美優さんは」
美優「……はい」
楓「鮭の皮は食べるタイプですか?」
美優「……骨以外は食べますけど」
楓「私もです。気が合いますね」
美優「は、はぁ……」
楓「ふふっ」
美優「……」
美優「あ……」
楓「お口に合いませんでしたか?」
美優「い、いえ……お味噌汁もちゃんと作ったものなんですね」
楓「お味噌汁には自信あり、です」ドヤァ
美優「そうみたいですね……」
楓「毎日おいしいお味噌汁作りますよ?」
美優「毎日……」
楓「はい」ニコニコ
美優「それは……魅力的ですね」
楓「お味噌汁飲みたくなったらいつでも呼んでくださいね」
美優「は、はい……」
楓「あっ、納豆も私が作ったんですよ」
美優「えっ、納豆を……作る?」
楓「簡単に出来るんですよ。放送は……まだされてないですけど、お仕事で作る機会があって」
美優「へぇ……」
楓「番組内で作ったものを貰ってきたんですよ。納豆、ダメですか?」
美優「いえ、普通に食べられますので……いただきます」
楓「藁で作っているので全然くさくないんですよ」
美優「本当ですね……食べやすい」
楓「そのまま食べてもいいんですけど、最近はお豆腐と一緒に食べるのが好きですね。大豆 on 大豆」
美優「まさかお豆腐も……」
楓「さすがにそれは市販のものですよ」
美優「そう、ですよね……」
楓「いつか作ってみたいですけど、その時は一緒にしましょうね」
美優「え、は、はい」
楓「ふふっ。約束、ですよ?」
*
楓「美優さん」
美優「……なんですか?」
楓「今日はお休みでしたっけ?」
美優「そうですけど……楓さんは?」
楓「私はお昼から仕事ですね。だからちょっとゆっくり出来ます」
美優「そうですか……なら……」
楓「お昼までのんびりしましょう」
美優「帰らせては……」
楓「せっかく泊まったのに」
美優「……不可抗力です」
楓「減るもんじゃないですよ?」
美優「減るもんって……」
楓「私を倒さないと帰れませんよ」
美優「えぇ……」
楓「出口は塞ぎましたので」
美優「……わかりました。わかりましたから」
楓「たまにはこういう休日もいいじゃないですか?」
美優「はぁ……そうですね」
楓「怒ってます?」
美優「怒ってません」
楓「怒ってるじゃないですか?」
美優「……呆れてるだけです」
楓「ならよかったです」
美優「いいんですか?」
楓「一緒にいれるだけで嬉しい、楽しい、ですから」
美優「……酔ってます?」
楓「さすがの私でも午後から仕事があるのに飲みませんよ」
美優「仕事がなかったら飲むんですね……」
楓「そう言いましたっけ?」
美優「そう聞こえましたけど……」
楓「……はて?」
美優「やっぱり酔ってます?」
おわり
PaPなのにCoアイドルばっかり書き続けてるのはCoolのCooの部分が納豆に見えるからなんだとおもう
いい加減担当アイドル書きたい
微妙に設定を引っ張ってる前作
城島「ぐっさん、高垣楓ちゃんって知っとる?」
城島「ぐっさん、高垣楓ちゃんって知っとる?」 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1443005777/)
乙です。
また納豆か!
ちなみに前半の部分は先にpixivにあげてたものを速報用にしたやつです
http://www.pixiv.net/novel/show.php?id=5850689
こっちは納豆じゃないので、納豆を楽しみたい方は速報で
はえーいいっすねぇ
おつおつ
納豆作ったでやられたw
この雰囲気にまで納豆持ち込むなwww
乙乙
乙でした!
かえみゆがじわじわ人気になっていって凄くうれしい…
また君か……
乙
一瞬納豆で目を疑い
アレと一緒なのか!?と口が開きっぱなしになった
おつ
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