モバP「ミッドナイト・ランナー」【モバマスSS】 (179)


諸注意


・車を題材にしたモバマスSSです。

・劇中劇の設定になります。

・舞台は1992年頃の東京になります。丁度、漫画湾岸ミッドナイトの1~3巻辺りの世界観です。

・モチーフは、福野礼一郎著『バンザイラン』です。

・各キャラクターの搭乗する車両は、個人的な主観が多々含まれています。似合っているかどうかは、ちょっと解りません。

・この作品の演出の様な走行は、絶対に真似しないで下さい。捕まりますし、下手したら死にます。


最後に。

日本全国フェラーリ党のプロデューサーの皆様、及びヘレンさん大好きのプロデューサーの方々。お待たせいたしました。

では、お楽しみください。




SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1443358218



モバP「ついに、試写会ですか。いやー、たのしみだなぁ」

千川ちひろ「制作会社の方から、完成品のDVDが送られてきたんですよ。だから、事務所で見られるんですよね」

今西部長「……懐かしいね。昔、首都高速トライアルというVシネマがあってだね。今の自分と同じ年齢位の車好きなら、皆知ってるんだ」

モバP「へぇ~……」

今西部長「第一作目は、俳優の大鶴義丹や的場浩司のデビュー作でもあったんだ」

千川ちひろ「そんな映画が、合ったんですね」

今西部長「まあ、昔の話だよ。では、見てみますか」

モバP「はい……タイトルは『ミッドナイト・ランナー』か……」


1.


 1992年、夏。まだ、バブル経済の余韻に浮かれていた頃。
 深夜の首都高速湾岸線、市川パーキングエリア。長距離輸送の大型トラックと、ドライブ帰りのマイカーが、数えられるほどしか停車していない中。
 パーキングの一角は、異様な雰囲気を作っていた。

 十数台のスポーツカーに占拠され、真面な神経なら間違いなく近づく気にはならない。丸で戦場の基地かと思う程、殺伐とした空気が漂う。

 毎週末の深夜。湾岸高速を舞台に、時速250kmオーバーのバトルが繰り広げられていた。遊び半分に命を賭ける、狂気の公道グランプリ。


 自動車雑誌編集部でアルバイトする向井拓海は、毎週の様に取材に訊ねていた。最初の内は、先輩編集部員に言われ渋々着いていくだけだった。

 しかし、その走り屋達と触れていく内、その熱狂、その魔力に取り憑かれていった。
 元々、地元ではワルだった拓海にしてみれば、反社会行為を犯す事に大した抵抗は無い。むしろ、その反社会行為に命を賭ける走り屋達に、尊敬の念さえも抱くようになっていた。



 毎週の様に、戦場に出向いていれば、自然と顔見知りになって行く人間も多い。

 たびたびギャラリーに出向くヘレンと言う女性も、拓海と自然と会話を交わす仲になっていた。海外出身の彼女もまた湾岸に魅せられた一人だ。
 仕事兼ギャラリーに来ていた拓海は、スチールカメラのフィルムを交換しながら、ヘレンに言葉を投げた。

「……なあ、ヘレン。今日は、何時に無く楽しそうじゃねぇか」

「フフ……。やはりあなたには解るのね」

 もったいぶるヘレンに、拓海は思わず呆れる。

「お前さぁ……。顔に出てるの、自分でわからねぇのか?」

「…………来週なれば解るわ。世界レベルにふさわしいマシンが拝めるわ」

 自信有り気にヘレンは断言した。




 その翌週。
 今週はプライベートで拓海が市川パーキングに顔を出すと、度肝を抜かれた。

「……お前……マジか?」

「……ええ。この私にふさわしいマシンでしょう」

 ピニン・ファリーナがデザインした、深紅に染まるグラマラスなボディ。それほど身長の無いヘレンでも、肘をかけられる低いシルエット。

 アイドリングだけでも響く咆哮は、今宵のパーキングで一番目立っていた。そのマシンの周囲を、走り屋達が興味深々で見つめる。無論、拓海もその一人。


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 フェラーリ・テスタロッサ。これが、ヘレンの言う世界レベルのアンサーだった。

「……どう?」

 得意顔のヘレンは、拓海に回答を求める。

「どうもこうも……答えようがねぇぞ」

 拓海は、開いた口がふさがらないと言った様子だ。

「拓海。一つだけ相談があるのよ。私の横に乗ってくれないかしら?」

「……別にかまわねぇよ。今日は、仕事じゃねぇし」

 二つ返事で了承した。





 時刻は1時を少し回った時。

 パーキング内に、数台のマシンのエキゾーストノートが響き出した。
 直6ターボにV6ツインターボ。ロータリーにフラット6ツインターボ。そして、バンク角180度の水平対向12気筒。鋼の野獣達が、雄叫びを上げる。

 テスタロッサの周囲をグルリと一周してから、拓海は助手席に滑り込んだ。

 横長のコクピットは、革張りの内装でイタリアらしく気品に溢れる。しかし、室内になだれ込むアイドリングの音は、対極的にけたたましい。
 ヘレンの右足が、小刻みにアクセルペダルを煽る。リズミカルにフリッピングすると、敏感なほどタコメーターが反応し、ケーニッヒ製のエキゾーストから快音が奏でられる。

 丸いシフトノブを握りしめ、フェラーリ独特のゲート式シフトをファーストギアに入れる。カチン、と金属音が鳴り、鼓動が高ぶる。

 丁寧にクラッチを繋ぎ、はやる気持ちを抑える様にゆっくりと。馬鹿でかい跳ね馬は動き出した。




 テスタロッサは、2番目に腰を据える。前を行くポルシェのテールランプを拝む。

(……最強のイエローバードね)


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 先陣は、ポルシェだがポルシェに非ず。その名を世界中に轟かす、ルーフCTR。イエローバードの異名を持つマシンだ。

(……こりゃ、言葉もねぇな。すげえ迫力だ……)

 右側のナビシートから、拓海は圧倒された。前方に広がる、だだっ広いアスファルトに。そして、迫りくる後ろからのプレッシャーの津波に。





 CTRがジワリと加速を始めると、ヘレンもそれに倣う。

 3速に入れてヘレンはアクセルを踏み込む。

 タコメーターは7000rpmを指した。ミュージックと称される、テスタロッサのエキゾーストノートが脳天からつま先までの細胞を刺激する。

(この音、たまんねぇわ……)

 拓海は、酔いしれていた。


 5リッターのNAエンジンは、甲高い咆哮を放ちながら、1600キロオーバーの巨体をグイグイと引っ張り上げる。メーターは220キロを超えた。

 しかしだ。

「どうなってるのよ……」

 ヘレンは思わず言葉を溢した。

「……」

 拓海は何も答えない。

 何せ、テスタロッサを嘲笑うかの様に、後続のマシンたちは次々に追い抜いて行く。
 時速は230キロ。スピードメーターはぐんぐん上昇していく。しかし、先行するテールランプの群れはあっという間に離れていく。他のマシンに置いて行かれる跳ね馬。

「……遊ばれてるのかしらね」

「先頭のルーフだけならまだしも……国産チューニングカーにここまでコケにされるとはな……」

 二人の口ぶりは、嘆きに近いものだった。

「……このままじゃ終わらないわ」

 ヘレンは、そう呟いた。


テスタロッサの画像が張れていなかったので、張り直します

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2.

 湾岸線で走り屋達が最高速を競い合う様になったのは、ごく自然な成り行きだった。

 70年代から80年代初頭にかけて。東名高速を舞台にして、走り屋達が最高速を競い合っていたと言うルーツが有る。現在では東名レースと呼ばれる、違法競争行為だ。

 当時はポルシェターボやパンテーラ等のスーパーカー。トランザムやコルベット等のアメリカンスポーツ。そして、SA22型RX-7やS130型フェアレディZを改造した国産チューニングカー達がしのぎを削っていた。

 80年代に入り、チューニングカーを取り扱う雑誌の企画で、最高速トライアルと言う物が有った。茨城県谷田部の自動車性能試験所において、チューニングされたマシンでの最高速に挑戦するという企画だ。

 日本のチューナー達は、夢の大台である300キロを目指した。
 特にターボチャージャーの搭載がポピュラーとなってから、最高速はとどまる事無く跳ねあがって行った。

 いつしか最高速300キロを超える様になってから、国産車のチューニングカーは凄まじい勢いで進化を続けていく。

 伝統の日産L28、トヨタの主力戦艦7M、唯一無二のマツダ13B等。チューナー達は、得意のエンジンを極限までチューンナップしていった。

 この頃になると、高価な外国産スポーツカーと国産チューニングカーの立場は逆転していた。



 その谷田部への試験場として、長い直線と広い道を持つ首都高速湾岸線は、格好の舞台だった。
 夜な夜な、チューニングカーを仕上げる為に湾岸をぶっ飛ばす。

 気が付けば、湾岸を走る為に皆チューニングカーを仕上げる様になっていた……。


 そして、1989年の秋。BNR32スカイラインGT-Rの登場。
 グループAレースで勝つ為に生まれたこのマシンは、チューナーにとっても走り屋にとっても、大きな衝撃をもたらしていた。

 軽くいじれば、400馬力を絞り出す強靭なRB26DETT。これまでの常識を覆すトルクスプリット4WDシステム、アテーサET-S。

 それまで首都高で優位を保ってきた、フェアレディZ、スープラ、RX-7を過去の物へしてしまった……。




 拓海は、湾岸を時折突っ走る程度だ。本気でやっている連中とタメを張れるような根性も金も無い。

 愛車のMZ20ソアラで、ベストは精々220キロ程度。競争ごっこで、後ろから眺めるのが関の山。

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 ただ、遅くとも湾岸ランナーの端くれになった事は、拓海にとっては大きな一歩だった。


 湾岸に通っていく内に、ギャラリーに訪れるヘレンとは、妙にウマが合った。

 ヘレン曰く、一番古い記憶で覚えているのは、横須賀ベース(横須賀米軍基地)の中だったそうだ。何を隠そう、拓海も横須賀で若気を至っていた。些細な事から、ヘレンとは奇妙な連帯感が生まれた。


 時々、湾岸ランナー達のケツ持ち代わりでソアラを走らす時は、ヘレンが隣に乗るようになった。

 ラリーの様にコ・ドライバーの役目は果たさない。ヘレンが「全開で走りなさい!!」と捲し立てれば、拓海は「とっくに全開だバカ!!」と罵る。

 強いて言えば、喋る重しが乗っかっている様な物。それを差し引いても、殆どノーマルの7M-GTUで、着いていける訳が無いのだが。

 ともかく、二人はスピードの持つ魔力に魅せられていった。





「ヘレンは、車買わないのか?」

 拓海はたびたびヘレンに聞く。

「いずれ買うわ。世界レベルにふさわしいマシンをね」

 そう返すのが、ヘレンの口癖だった。何を根拠に世界レベルと口走るのか、拓海には理解出来なかった。


 そして、購入したのがフェラーリテスタロッサ。1984年に発表された、フェラーリのフラッグシップモデルだ。しかも、89年の後期モデルで走行距離は2万キロを少し切る程度。3年落ちで、程度としては悪く無い。

 カタログでは、290キロと謳われている。
 が、その初陣は散々な結果だ。

 最高速342キロと言われるルーフCTRや、桁違いのスペックを誇るR32GT-R相手ならいざ知らず。谷田部で270キロ前後の国産チューニングカーにも置いてきぼりを喰らう始末。


 ヘレンは、テスタロッサで湾岸を極める決意を固める。

 とは言え、テスタロッサをこれ以上どうやって速くするのか。
 そもそも購入するだけで、貯金の全てを注ぎ込んだ上に、相当な額の借金も抱えてるに違いない。

 この跳ね馬で、最強の怪鳥に立ち向かう術は有るのか。答えは見えてこない。


 拓海は、古い先輩に知恵を借りる事にした。





 和久井留美という、拓海の大先輩にあたる人物だ。


 元々、横須賀で最大のレディースチームで特攻隊長を務めていた彼女は、当時の抗争で幾度と無く暴れ回った。勿論、警察の御厄介に何度もなった。

 現在は足を洗って、下町の自動車整備工場で働いている。


 しかし、留美は非常に研究熱心で勉強家の一面を持っていた。族時代から、バイクや車の整備やチューニングを独学で勉強しており、留美のいじったマシンは速いと評判だった。

 自動車の整備関係の書籍は勿論。自動車工学の専門書に、レーシングカーを取り扱う雑誌等も読み漁っていたそうだ。当時の後輩連中や顔見知りなどが、留美に整備やチューンナップを頼む事も有る。建前上は仕事と称して、引き受ける事も多い。

 拓海も現役の頃、バイクのチューンナップを留美に頼んだ事もあるが、同じ単車でも別物に変身を遂げていた事を良く覚えていた。


 だからこそ、留美に頼む事にしたのだ。




 コミゴミとした解体屋街の風景にマッチしないド派手なテスタロッサで、留美の勤務する整備工場に到着した。小汚い整備工場で、裏手には廃車の山が詰まれている。

「……ここなの?」

「ああ。あたしの大先輩が、ここで働いてんだ」

 そう言い放ち、拓海はテスタロッサから降りた。そして、ボロボロのシャッターを潜ると、留美はタウンエースのオイルを交換していた。

「ちわっす、向井です」

 拓海の挨拶に気が付いた様で、留美は視線だけ向けた。

「……少し待ってて」

 そう言うと、留美は視線をタウンエースに戻した。




 ものの数分で作業を終わらせ、留美とヘレンの視線が交わる。

「これが、電話で言ってた車ね?」

「そうっす」

 留美は切れ長の瞳をグッと細めて、食い入る様に真紅のマシンを見つめた。

「……お話にならないわね。チューニング以前の問題よ」

 バッサリと切り捨てた。

「……どういう事よ?」

 ヘレンは食い下がる。

「……こんなにアライメントが滅茶苦茶じゃ、試乗する気も起きないわね」

 留美の言葉に、拓海もヘレンもキョトンとした顔で固まっていた。

「あなた、行きつけの車屋とか無いの?」

「無いわ。この車も、知り合いの伝手で売って貰ったのよ」

「……呆れたわね」

 大きな溜息を吐き出してから、留美は次の指示を出した。

「だったら、ディーラーで整備マニュアルを貰ってきて頂戴。アライメントは、知り合いに頼む事にするわ」

 そう告げた。




 二日後。ヘレンと拓海は数十枚のコピー用紙を持って、再び留美の元へやって来た。

 中身はエンジン、サスペンション、ギアボックス、内装に至るまでの説明書を印刷した物だ。書いてあるイタリア語は、ヘレンが訳せるので問題は無い。
 ディーラーで、オーナーズマニュアルをコピーさせて貰ったらしいが、整備マニュアルは見せても貰えなかった。

「ま、そんな物よね」

 と、留美は淡々としていた。


 留美は、コピーされた用紙を一枚一枚丁寧に見ていく。

「……ストロークは有るけど、かなりキャンバー変化が大きわね。トーも直進安定性を最優先しているわね。リアヘビーだから、こうでもしないと真っ直ぐ走らないんでしょうね……」

 拓海とヘレンには、なんの暗号なのか解らなかった。ポカーンとした二人を見て、留美はまたも呆れ顔を作っていた。




「アライメントと言うのはね。タイヤの向いている方向の事を言うのよ。

 キャンバーはタイヤを前後方向から見た角度の事。トーは進行方向に向いているタイヤの角度の事。キャスターは、タイヤを軸にしたサスペンションの角度の事を言うわ。

 テスタロッサの左右のタイヤを、良く見てごらんなさい」

 留美に言われ、テスタロッサのリアタイヤ周りを良く見てみると、心なしか左右で微妙に角度が違っている気がした。

「……右と左でちょっと、ずれてる気がする」

 拓海は感じた事をそのまま言う。

「見た目で解るレベルなら、相当にずれてるわ。本来、ゼロコンマ何ミリで揃える物なのよ。1度単位で狂っていたら、完全に欠陥よ」

 留美は、そう解説した。

「そんな物も有るのね」

 あっけらかんとしたヘレンに、留美は何も言わなかった。

 今度は、留美はボールペンで広告の裏に手書きの地図を書き、その下にアライメントの最大値と最小値を書き写した。拓海にそれを渡し、一言。

「そこに頼んでおいたわ。今から行けば、夕方までには出来上がるでしょう」

 そう言われ、ヘレンと拓海はそのタイヤショップに向かった。




 そして、テスタロッサはそのショップでアライメント、及びホイールバランスの測定を行った。

 留美が一発で見抜いた通り、テスタロッサのアライメントは全て規定値を超えており、全てのタイヤが別の方向を向いていた。ここでアライメントを規定値に調整して貰い、さらにホイールバランスも取り直した。

 留美の工場に戻る頃には、日はかなり傾いていた。

 すっかり暗くなり、営業時間が終わってから、テスタロッサはガレージ内に収まった。


 留美の行ったのは、オイルと冷却水の点検と交換、エアーエレメントの清掃、プラグの点検、点火時期の調整、ファンベルトの張りの調整、ブレーキの摩耗のチェック、タイヤの溝の点検。

 基本的なメンテナンスをテキパキとこなす。




 全ての点検と整備を終え、留美は言った。

「車は生きてるのよ」

「……生きてる?」

 拓海はそう聞き返す。

「ええ……どんな車もバイクもね。

 人間だって、病気になったら病院に行って薬を貰うでしょ?

 それと同じ事よ。このテスタロッサは、買ってからロクに整備もせずに乗りっぱなしだったんでしょうね。

 このまま乗りつづければ、この車は死んでいたはずよ」

 そう断言した。

 拓海とヘレンの聞いたのは、歌声では無く悲鳴だっただろうか。

「チューニングする上で一番大事なのは、元の性能を知る事なのよ。ましてや、この手のスポーツカーはとても繊細に出来ているの。

 この整備内容だったら、間違いなく元の性能の七割も出ていないわ」

「……」

 ぐうの音も出ない拓海とヘレン。如何に自分達が無知だったかを、思い知らされた瞬間だった。


3.


 次の土曜日から、ヘレンは湾岸に行く事を止めた。まずは、テスタロッサの本来の性能に戻す為に、テストをしなければならないからだ。

 拓海は締め切り前で忙しく、合流するのは難しい様で、ナビシートには留美が座る。


 練馬から常盤自動車道へ。湾岸線ほどでは無いが、それなりに直線も有る。何よりも、交通量が少ない。テストするには、十分なロケーションだ。

 練馬から乗り、谷田部ジャンクションまでの往路は完熟走行を兼ねたコンディションチェック。

「……素晴らしく安定する様になったわ」

 ヘレンは舌を巻いた。

「当然よ。アライメントをチェックするのは基本中の基本だわ。それと、空気圧は規定値より高めにしておいたから、ステアリングの操作は慎重にね」

「……どういう事かしら?」

「テスタロッサは、車体重量が重いのよ。それに高速走行になれば、タイヤにかかる負担は通常より大きいわ。タイヤバーストの対策の一つよ」

「……そう」

 ヘレンは、今一つピンと来ていない様だ。



 そして、谷田部ジャンクションで一旦降りる。今度は東京へ戻る復路だ。


 高速道路に、他の車の気配は無い。街灯が、延々と道の先を照らしている。

「……全開」

 その一言を皮切りに、ヘレンはギアを5速から3速へ。アクセルをジワリと踏みつける。

 5500rpmから、ぐんぐんとタコメーターが上昇。3速6800rpmで、メーター読み160キロを少し超える。4速へシフトアップ。ドロップしたタコメーターは再びグイグイと上昇をする。

 180キロを超えても、テスタロッサの直進性は高い。国産スポーツカーとは、比べ物にならない程、どっしりと安定していた。

「4速で、200キロをキープして」

 留美はヘレンに、そう指示を飛ばした。

「……わかったわ」

 4速、6000rpm付近で、一定の速度を保つ。200キロでも、テスタロッサの直進安定性は、素晴らしい物だった。

 とは言え、法定の倍の速度で10分も走れば、ステアリング操作にもかなりの神経を使う。ヘレンは全神経をドライビングに集中させ、暗闇を切り裂くヘッドライトの光を睨み続ける。


 そして、復路のゴール地点。柏インターの手前の守谷サービスエリアに、テスタロッサは滑り込んだ。



 留美は自動販売機で買ったポカリスエットを、ヘレンに渡した。

「ありがと……」

 高速域のドライビングはただでも神経を使う。まして、テスタロッサの車幅は1980mm。普通車とは、比べ物にならない程広い。流石にヘレンは疲れた様子だった。

「…………」

 一方の留美は休憩を取らず、テスタロッサの巨大なエンジンフードを開いた。左手にはプラグレンチが握りしめられている。


 まだ熱を帯びているエンジンルームに手を突っ込み、手早く一本のプラグを外す。

 街灯にさらさせたプラグの頭は、白く焼けていた。

「……やっぱりガスが足りてないわね」

 プラグの頭を見つめて、留美は言った。

「……まだ問題が有るの?」

「問題だらけよ。山積みだわ」

 ヘレンには、死刑宣告に聞こえる様な台詞だった。




 翌日。どうにか仕事を終わらせて、拓海が整備工場に着く頃には、完全に営業時間を過ぎていた。もっとも、テスタロッサの整備自体は営業時間外に行うので、あまり問題にはならない。

「すいません、遅くなりました」

 そう言いながら、拓海はシャッターを潜った。
 乱雑に詰まれた廃タイヤに腰を掛けるヘレンに、工具類を整理する留美。そして、リフトで上げられたテスタロッサがそこに居た。

「問題無いわ。どの道、テスタロッサを仕上げるのは、かなり骨が折れそうよ」

 留美はポーカーフェイスのまま伝えた。

「一つ聞いておきたいわ。山詰みの問題って、単に整備が悪いだけじゃないのかしら?」

 ヘレンは、留美に聞きただす。

「それも、問題点の一つよ。だけど、それ以上に問題が多いのよ」

 一旦区切ってから、留美は言葉を続ける。




「湾岸線で最高速を出す事は、単純に馬力が有ればいい訳じゃないのよ。

 パワーを上げれば、それだけ他の部分の負担が大きくなるの。ミッションやクラッチ、デフにドライブシャフト。パワーを路面に伝える為の駆動系が、馬力に負けてしまえば壊れてしまう。それでは、馬力を上げる意味が無いでしょう。

 勿論、ボディを支えるサスペンションだって強化しなければいけないし、ましてやブレーキはノーマルじゃまるっきり役不足ね。

 これだけ重量がある車なの。加速もそうだけど、それ以上に減速する事が不得手だわ。トップスピードを出す以上、万が一の時に止まれない車に乗る事は、自殺行為に等しいのよ」

 留美の意見は、的を得ていた。車とは、走る、曲がる、止まる、と言う三つの要素を兼ね備えて、初めて成立する。それは、F1でも軽自動車でも変わらない。

「……姉御。他に良い方法は無いのか?」

 拓海は、思わず聞いてしまった。

「一番手っ取り早い方法は、このテスタロッサを売って、GT-Rに乗り換える事よ。
 この車なら、かなり高額で引き取って貰える筈よ」

 元も子も無い意見だった。

「…………」

 拓海は押し黙ってしまう。




「……嫌に決まってるわ。フェラーリじゃなきゃ、意味が無いのよ」

 ヘレンは、啖呵を切った。

「そこまで拘る理由、聞かせて貰えないかしら?
 どこぞの金持ち達みたく、変に見栄の為に買った訳じゃ無いんでしょ?」

 留美に言われ、ヘレンは口を開く。

「……私は二歳の時に、イタリア系の父親と日系の母親と、横須賀のベースに移住したらしいわ。空軍のパイロットだった父親は、大のF1好きで良くその事を話してたわ。

 父親の書斎には、マリオ・アンドレッティとジル・ビルヌーブの等身大のポスターが飾ってあった事を、良く覚えているわ。

 イタリア系移民だからかは知らないけれど、父親は熱狂的なティフォシだったわね。フェラーリチームが優勝するだけで、翌日はバーベキューだったわね……。何時も母親が呆れてた。

 だけど、8年前……。私がまだ横須賀のハイスクールに通ってた時だったわ。

 たまたま、本国に仕事で帰国していた時……強盗に撃ち殺されたのよ」

「…………」




「……父親は、何時かフェラーリで大陸を駆け抜ける事を夢見てた。その夢は、永遠に叶う事は無くなってしまったのだけれどね……」

「……そう」

 留美は、ポーカーフェイスのまま相槌を打つ。

「……私にとってのF1は、フェラーリなのよ。真紅のマシンが、一番最初にチェッカーフラッグを受ける事なの。

 また、跳ね馬は蘇ると信じているわ」

 そこまで語ると、ヘレンは少しだけ顔を伏せていた。

 拓海は、少しだけヘレンの事を勘違いしていた事を理解した。湾岸をフェラーリで走る事にこだわる理由に、考えもしなかった信念がそこに有ったから。只の酔狂じゃ無かったのだから。

「仮に、ポルシェやGT-Rと五分でテスタロッサを走らせるとして。時間もお金も、どれ位かかるかわからないわよ?
 それでもやるの?」

 留美は、真っ直ぐにヘレンを見つめた。

「……いくらでもやるわ。フェラーリは、ナンバーワンじゃ無ければいけないのよ」

 ヘレンは言い切った。

「解ったわ。だけど、少し時間を頂戴。テスタロッサの資料は、殆ど持ち合わせていないのよ」

 留美の口元が、少しだけほころんだ。

「……姉御」

 拓海は、何故だかはわからないが胸が熱くなった。




 それから、三人でテスタロッサのモディファイが日々が開始された。テスタロッサは裏の廃車置き場の隅に、シートをかぶせて保管した。

 毎日、営業時間が終る夜7時に集まって食事してから、深夜近くまで作業をする。
 拓海の仕事が抜けられない時は、ヘレンが。ヘレンがバイトで抜けられない時は、拓海が。どちらか一人が、必ず助手に付いた。

 留美は、黙々とテスタロッサの整備を行った。


 まずは、テスタロッサの本来の性能を引き出す為のメンテナンスだ。山積みの問題点の一番のネックは、元のコンディションが悪い事。元が悪いままチューニングした所で、性能は上がる訳が無いのだ。

 その中の問題点の一つで留美が指摘したのは、買った時から装着されていたケーニッヒのマフラーだった。

 レーシングマシン並みの快音を奏でるマフラーだけに、排気効率は高い。所謂、ヌケが良いと言われるマフラーだ。

「……ただ、ノーマルエンジンにこのマフラーだと、抜けすぎるのよ」

 テールからはみ出る、2本のマフラーを見ながら留美は言った。

「ヌケ過ぎる?」

 拓海は間抜けな顔で聞き返した。

「……元々の燃料噴射量を、ノーマルマフラーに合わせて調整しているんでしょうね。

 排気効率は上がっても、噴射される燃料の量が足りていないのよ。つまり、燃焼室内の混合気が足りなくなるって事なの。

 このマフラーのままじゃ、恐らくノッキング(異常燃焼)を起こすわね」

「……そんな事言っても、ノーマルのマフラー何て持って無いわよ?」

 ヘレンはそう言うが。

「……だったら、燃料を増量するだけよ。勿論、燃やす燃料が増えるなら、火花も大きくする必要があるかしらね」

 留美は人差し指で、丸い金属の筒をピンと跳ねた。




 水平対向12気筒のティーポF113Bユニットは、ボッシュ製KEジェトロニックの機械式インジェクションによって燃料を噴射している。機構自体は、80年代の車両として比較的オーソドックスだと言える。

 まずは点火系を一新。ディストリビューターとイグニッションコイルの交換、及びプラグコードの強化。イタリア製のマレリの純正新品も検討に入れたが、これだけで約30万円にも上ったため、アメリカ製のOEM品で我慢した。ただ、それでも20万円近くした。プラグはNGKの7番を12本揃えて、エアーエレメントは純正新品。

 決め手の燃調は、定評のあるレビックの燃調コントローラーを二機掛けで制御し、A/F系も取り付けた。F113Bユニットは、水平対向12気筒なのは周知のとおりだが、エンジンの全て左右対称に作られている。ECUも片バンクを一個で制御しているという、凝った作りなのだ。


 兎に角、部品の値段の高さに三人とも開いた口がふさがらなかった。

 しかし、一通りの作業を終え、もう一度テスト走行へ。




 二度目の常盤自動車道。前を走るテスタロッサを、後ろからソアラで追う。
 12気筒の咆哮は、以前よりも力強く聞こえた気がした。

 谷田部までの往路で、マシンをじっくり温める。そして、復路へ。

 今回も、4速で時速200kmをキープする。ただ一つ違うのは、留美がデジタル製のストップウォッチをぶら下げていた事だ。

 何度かタイムを測定し、そのタイムをメモ帳に走り書きしていった。


 テスタロッサが200kmで走る後ろを、ソアラで付いてていく。とは言え、ソアラでの200kmはかなりキツイのか。途中から、拓海はジリジリと離されていった。

 そして、守谷サービスエリアに到着。前回のテスト同様に、留美はプラグを一本外した。
 前回真っ白だったプラグは、今回は少し黒っぽい。

「……少し濃いわね。まだ薄く出来そうね」

 そう呟いて、留美はプラグを元に戻した。


 エンジンフードを閉めて、次に留美が行ったのは走行中にメモ書きしたタイムの計算だった。メモ帳の数字を睨みながら、電卓を叩く。

 ヘレンと拓海は、黙ってその動作を見ていた。




「時速200kmだと、200000メートル……。割る60の割る60で……秒速は55,5メートル。1キロ……1000メートル割る55,5は……約18秒。

 計測したタイムが……おおよその18秒6が平均ね。というと……1000割る18,6は、53,76で……かける60のかける60の割る1000は……193,536キロになるわね」

「姉御……何の計算してるんだ?」

 謎の計算式に、拓海は疑問を浮かべる。

「……単なる算数よ。距離と時間と道のりのね。小学校で習ったでしょ?」

「……覚えてないなぁ」

 拓海の反応に、留美は呆れた顔を見せる。

「……その計算に何の意味が有るのよ?」

 ヘレンはそう聞きただす。


「あくまで参考でしかないけれど、200kmの速度で1キロの区間を走ると、理論上は18,01秒になるわ。

 一定の区間の平均タイムを出す事で、どれ位の速度が出るのかの基準を作りたかったのよ。

 実際メーター読みだと、どうしても誤差は出やすいし、全開で飛ばしてる時にメーターを見ている余裕なんてないでしょう?

 ちなみに、今の200kmの巡航だと、実際の平均速度は193kmだったわ」

「……つまり、その計測した区間を全開で駆け抜ければ、このテスタロッサが何キロ出ているのかが正確に解るわけね」

 ヘレンは、ニヤリと笑った。

「その通りよ」

 対照的に、留美は相変わらずポーカーフェイスを保っていた。


本日は、ここまで。

何かわからない用語が有れば、別口で解説します。


テスタロッサと言う、愛しき駄馬。ヘレンさんに、似合う一台だと思っております。

コテつけたら?
carPの後ろに#つけてひらがなでも漢字でもアルファベッドでも好きな言葉を8文字以内

おう、カープファンとは感心じゃのぉ乙

赤いスポーツカー…広島出身のわくわくさん…そしてcarPというHN…

まさか本当に?

あ、今のところ何となくついていけてますよww

指摘されて、初めて気がつきました。

全然、気にしてなかった……。まあ、ファンとは言えないけど、カープは好きですよ。


コテは次回からつけようかな……。


では、続き投下します。

4.


 拓海のバイト先は、とある自動車雑誌の編集部だ。と言っても取り扱う内容は、チューニングやストリートレースの取材など。アンダーグランド的な代物ばかり。

 しかも、大した学歴も無い拓海は精々小間使いにされる程度。時給は悪くは無いが、休みは不定期で深夜まで使いっ走りにさせられる事も多々ある。


 午後から、拓海はなれないワープロと格闘している最中だった。編集部の電話が鳴り響いた。

「……はい、O誌編集部です。……向井なら、自分ですが……」

 電話の内容に、拓海の目の色は変わった。

「解りました。では、今晩落ち合いましょう……」

 そう答え、電話を切った。




 夜。指定された、都内のカフェバーへ拓海は向かった。

 都心の一等地、路上のコインパーキングに停車する高級車の群れ。小汚いソアラを停車させると、逆に目立ってしまう。

 高層ビルの二階に店舗を構えるカフェバーは、古ぼけたジーンズとよれよれになったSTPのロゴの入ったTシャツでは、余りにも不釣り合いな店内だった。

「こちらですよ、向井さん」

 拓海を見つけ、約束の人物は手招きをした。その周囲には何人かの取り巻きも居る。

「どうもです、高峯さん」

 そう会釈をしながら、拓海はその人物の対面の椅子に座った。


 高峯のあ。湾岸で最強を誇るCTRの乗り手。言わば女王だ。

「一体、こんな店に呼び出して、何のつもりですか?」

 拓海は、少し睨みつける様にのあと視線を交わらせる。

 拓海自身、のあと取材を交えて、会話した事は何度も有る。ただ、拓海自身は高峯のあの事をあまり好きにはなれなかった。

「……あなたの姿を最近パーキングで見かけないから、少し気になったのよ。

 それに……テスタロッサの姿を見たのも一回きりだから……ね」

 のあは、不敵に笑みを浮かべる。

「……その点は、黙秘させて貰ますよ。こっちにも、色々有るんで」

 拓海は、鋭い視線のままのあから目を離さない。




「……ふふ。そんなに怖い顔しないで。可愛い顔が台無しよ?」

「そりゃどうも、ご丁寧に……」

 温和な笑みを見せるのあ。彼女からは、ある種の余裕が滲み出ていた。


 高峯のあは、高峯グループと言う大企業のお嬢さんで、若くして実業家という地位を得ている。簡単に言えば、金持ちだ。

 そうでなければ、若くして高級外車を乗り回す事が出来る訳が無い。勝ち組とも言える、ある種の余裕。
 言わば、金の生み出す特有のオーラが、彼女には有った。

 拓海は、それが好きになれなかった理由だ。単なる嫉妬と言えばそれまでだが、金持ちの道楽で、湾岸の女王に君臨する事の理不尽さが割り切れなかった。


「ついでに、紹介しておくわ。こっちは、私のCTRをチューニングしてくれている、相川千夏よ」

「相川千夏です。よろしく」

 そう言いながら右手を差し出してきたので、拓海は握り返した。

「向井拓海です。こちらこそよろしく」

 拓海の顔付きは、まだ固い。




 何よりも気になった事は、チューニングと。のあは、確かにそう言った。

「……あのCTRは、チューニングされているって訳ですか?」

 拓海はストレートに聞きただす。

「ええ。と言っても、元々の性能が高いですからね。それ程、いじっている訳ではありませんよ。

 強いて言うなら、湾岸線の路面に合わせたサスペンションのリセッティングと、耐久性の向上ですね」

 千夏は眼鏡をクイッと上げながら答えた。

「へぇ……」

 生返事しか出ない拓海を見かね、のあからある提案を出した。

「よかったら、CTRの横に乗ってみますか?」

 拓海にしてみれば、思いがけない提案だった。黙ったままの拓海を横目に、のあは言葉を続ける。

「色々チューニングの方向性も迷ってきた所だし。何よりも、雑誌編集部の専門家に意見を求めるのも、良い方法だと思わない?」

 そうとまで言ってきた。


(……専門家ねぇ)

 そこまで言われ、拓海は鼻で笑い飛ばしたい気分だった。所詮は、雑誌編集部で使いっ走りされている程度の人間。しかも、留美にテスタロッサを見て貰っている短期間で、如何に自分が無知だったかを思い知らされたばかりだ。




 とは言え、専門家と言われてそこまで悪い気もしなかった。

「ええ。是非、乗せて頂きたい所ですね」

 そう伝えた。

「では、湾岸に向かいましょうか……。千夏は、911ターボで着いて来てくれる?」

 のあの顔付きが、少しだけ引き締まった。

「わかりました。後ろから付いていきます」

 千夏はそう答えた。


 ソアラはコインパーキングに置きざりにしたまま、拓海はビルの地下駐車場へ連れられて行った。

 一角に陣取る、黄色い怪鳥。一見は930のカレラとそこまで大差が無い。その大人しい外装が、逆に不気味さを醸し出す。




 ドイツのルーフ社の名を世界中に知らしめたのは、1987年の事。

 アメリカのロード&トラック誌の企画で、スーパースポーツカーの最高速をテストすると言う企画だった。

 フェラーリ・288GTO、ポルシェ・959、そしてランボルギーニ・カウンタック等。名だたるスーパーカーを差し置いて、最高速339kmという途轍もない記録を叩き出した。当時、323kmの最速記録を保持していたフェラーリ・F40を、16kmも上回る数値だった。


 その後、ドイツのアウトモーター&シュポルト誌で、イタリアのナルドに有るテストコースで342kmをマークしたことはあまりにも有名だ。

 カタログデータは469psの1200kgと記載されているが、日本のベストモータリング誌において、シャシーダイナモで最高出力を測定した所、500psを超えていたというデータも有る。

 余談だが、ルーフ社はポルシェのチューニングメーカーと勘違いしている人が多いが、正式に認可を受けたドイツの自動車メーカーである。
 ポルシェしかチューニングせず、ポルシェのコンプリートカーしか販売しない。ポルシェ本社からも、そのチューニングには、絶大な信頼を置かれているのだ。



オリジナルのCTRは、世界でたったの28台しかない。その貴重な1台の助手席に座った。スパルタンな内装は、911カレラRSと大差はないが、幾つか装着されている追加メーターが目を惹いた。

 CTRはゆっくりと動きだし、夜の街へと繰り出す。
 何気なくODOメーターの数値を見ると、拓海は思わず声を出していた。

「……これ、まだ7000キロしか走って無いのか?」

「ええ。街乗りはしないので……」

 のあの回答。言い換えれば、湾岸以外は走っていないのか。

 CTRの後ろは、千夏の乗る白いポルシェ911ターボ。しかも、昨年出たばかりの964型の最新モデルだ。


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「……」

 拓海は黙ってシートの感触を確かめる。

 レカロ製のフルバケットシートに、4点ハーネス。室内に張り巡らされたロールケージ。内装だけでも、生半可な仕様では無い事は明らかだ。

 二台のマシンは、首都高速環状線へと上る。

 道路の継ぎ目を拾うと、車体が跳ねる。かなり固いサスペンションに違いないが、その跳ねは一発で収まる。ショックアブソーバーやスプリングも、相当に吟味してからセットアップしているのだろう。


 都心環状から羽田線を経由して、東海JCTから湾岸線上りへ。この流れなら、目的地は市川パーキングへのルートだ。

 CTRは、タイヤもエンジンも、良い具合に温まっている。

 湾岸線に合流し、のあは3回ハザードを光らせる。千夏に向けて、ペースを上げるサインを出した。




 シフトを2速に落とし、アクセルを踏み込んだ瞬間だ。

「……!?」

 スロットルと同時に、強大なトルクでマシンを加速させる。

 体感した事の無い縦Gで、拓海の全身から血の気が引いていく。ブーストメーターが、ピークの位置でビリビリと震える。そこまでしか、見る事が出来なかった。


 3速にシフトアップ。一瞬だけ加速が止まったかと思えば、再び強烈な加速が襲ってくる。丸で奈落の底に突き落とされている様だった。

(……なんだこりゃ!?)

 だだっ広い筈の湾岸線が、狭く見える。CTRの加速Gは、明らかに常軌を脱している。
 周囲をみる余裕など丸で無い。拓海にしてみれば、これは拷問と同じだった。悲鳴を上げられない程の恐ろしい加速力を、このCTRは秘めていた。

 ただクリップを必死に掴み取り、目一杯の力で両足を踏ん張らせる。

 そして、4速。再び何処までも加速していく。空気を切り裂く流麗なボディと、天井知らずの強大なパワー。

(……なんだこのバケモノは!?)

 それしか、表現が出てこなかった。




 CTRのバックミラーには、すでに911ターボの姿は写っていない。

 ハイビームでアスファルトを照らして、右車線を全開で突っ切って行く。
 全開加速の最中、追い越し車線に大型トラックがはみ出そうになっていた。

「……っ!!」

 のあの右足が、蹴っ飛ばす勢いでブレーキペダルを踏み抜いた。内臓が飛び出ると思う程の減速Gが、拓海の体に圧し掛かる。更にCTRは、トラックに向けてパッシングを浴びせる。

 トラックが仰け反る様に、元の車線へ戻る。前が開けば、再びアクセルを踏み抜く。気の遠くなる様な加速Gが、再び拓海の体をバケットシートに押し付ける。


 目を見開いたまま、歯を食いしばって、拓海はひたすら念じた。

(早く終われ早く終われ早く終われ……)

 最高時速など、ついぞ見る余裕は無かった。




 市川パーキングに到着した頃には、拓海はヘトヘトになっていた。

 縁石にへたり込む拓海を尻目に、のあと千夏は打ち合わせをしていた。

「6200回転より上だとブーストは1,0まで落ちるわね。それに排気温度は950度まで上がったわ。
 中間域の加速は速くなってるけれど、やっぱり高速域で全体的に伸びなくなってる」

「そうなると、エキゾースト系をもう少し口径を広くするか。或いは、吸気インテークの取り回し形状も見直さないといけませんね。インラークーラーの容量も、そろそろ限界に近いかもしれません」

「……恐らくこれ以上のブーストをかければ、デトネーションを起こしてしまうでしょうね。一度、燃料系も見直すべきだわ」


 この会話で、拓海は悟った。

 高峯のあは、只の金持ちでは無い。道楽ついでで、湾岸を走るにしては本格的すぎる。

 自ら豊富な知識を蓄え、優秀なメカニックと協力し、湾岸でルーフCTRの限界を一層引き上げているのだ。


「……なあ、一つ聞かせてくれ」

「何かしら?」

「あのCTRの最高速は、何キロだ?」

「そうね……メーター読みで325キkm。誤差を考えても、恐らくは310kmは出てる筈よ」

「……そうかい」

 拓海は、極力冷静を装っていたが、間違いなく隠しきれていない。




 拓海がアパートに帰ると、時刻は早朝5時近くだった。強烈な眠気と疲労感で、体の節々が痛む。

 女王のCTRに同乗し、あらゆる事を思い知らされた。
 最高速310kmという数値もそうだが、何よりもあの加速力はテスタロッサと比べ物にならない。200km以上でもあの加速をするという事は、前に出た所で追い抜かれる事は明白だ。

 中間域の加速力が速いという事は、トップスピードに達するまで時間がかからないという事。間違いなく、テスタロッサがトップスピードに達した頃には、CTRは見えなくなっている。


 目の前が暗く感じるのは、決して疲れているからだけでは無い。


「……?」

 留守番電話のランプが赤く点滅している。

 ボタンを押すと、スピーカーから音声が流れでる。声の主は、留美からだ。

『……もしもし? 帰ってきたら、一度店に顔を出して。テスタロッサのミッションがダメになったわ。

 だけどいい報告もあるわ』


 その声は心なしか嬉しそうだった。

 二時間程度仮眠を取ってから、拓海は留美の元へ車を走らせた。


5.


 開店前の朝8時。

 整備工場裏手の廃車置き場に、テスタロッサは収まっていた。まだシートは被せられていない。

 ヘレンは、始発の電車で仕事に向かった様で、この場に居なかった。


「……ミッションですか?」

 拓海の言葉に、留美は頷いた。

「ええ……4速が飛んだわね。」

 拓海は顔を苦々しくする。

「とは言っても、テスタロッサ自体ミッションが弱いのよ。ミッションのメインシャフトが弱い事は良く言われるけど、設計自体も特殊なの」

 留美は地面に小石で大き目の長方形を書き、その下に小さく正方形を書いた。

「テスタロッサの流れをくむ、365GT4/BBや512BB。これと同じ、水平対向の12気筒を搭載するミッドシップのフェラーリだけれど。

 これらは、エンジンの下にトランスアクスル、つまりミッションとデフが一体になったユニットなのだけれど。かなり独特のレイアウトを取っているのよ」

「って事は、こっちのデカい四角がエンジンで、その下がミッションとデフ?」

「そうよ。エンジンと駆動系が、二階建ての構造になっているのよ。

 このレイアウトなら、これだけ大きなエンジンであっても、車体をコンパクトに収められる。ただし、重心はかなり高くなるわ」

 留美は、上下の四角を一本の曲線で結びながら、解説を続ける。



「エンジンで発生した駆動力を、ヘリカルギアで一度Uターンさせてミッションに伝える。

 そこからミッションを通じて、ファイナルギアからデフで左右に駆動力を配分して、ドライブシャフトがタイヤを回すようになってる……」

「……ふむふむ」

「このレイアウトの特性上、部品の数が普通より増えるわ。

 部品点数が増えるという事は、それだけ摩耗する部分が増える。恐らく、何処かしらのベアリングにガタがきていた可能性が有るわね……。

 高速域で走る時は、ほんの僅かな精度の狂いで、そこに大きな負担がかかるのよ」


 留美はそう勘ぐった。



「……それと、電話で言ってたいい報告ってのは?」

 拓海は改めて聞く。

「今回、初めて計測区間を全開で走らせたわ。メーター読みで300kmは出ていたけれど、実測は少し落ちてる。だけど、ほぼ誤差の範囲と言っても良いレベルよ。

 5か所で測った内、最速が12秒21。最遅が12秒82。平均が12秒47。

 これを前の計算で当てはめていくと、最速が294,8km。最遅でも280,8km。平均では288,6kmをマークしているわ。

 元から変わってたマフラーと燃料のリセッティングで、ほぼカタログ値と遜色が無い。幸いにもエンジンは当たりを引いた様ね」

「……じゃあ、ノーマルの性能はほぼ引き出している……」

「エンジンに関しては、ね」

 拓海の言葉に、留美はそう告げる。

「それにね。もう一つ重要な事を発見したわ。


 ヘレン……彼女は天才だわ」


 留美は断言した。




 丁度拓海がCTRの助手席に座っていた時と同じ時間帯の事だった。

 昨晩の常磐道でのテストの時だった。一通りのメンテナンスを完了させてから、テスタロッサを全開で走らせるのは初めてだ。


 谷田部で折り返して、巡航速度を保つ。

「……思いっきり行くわよ」

 ヘレンはそう告げて、2速にギアを入れる。アクセル全開。

 7000rpmまで軽々と回り、その素晴らしいエキゾーストノートが車内になだれ込む。


 3速にシフトアップ。各ギアを切り分けた、アルミのゲートが金属音を立てる。時速は160キロを超え、4速へ。ここから200kmオーバーの領域へ飛び込んで行く。

 4速のまま、なだらかな右コーナーを加速していく。


 先に何か、白い影が見える。右車線をトロトロと走る、白い一般車両だ。法定巡航速度より遅いのか、丸で止まっている様に感じる。



 白い影が見る見る近づいてくる。パッシングを浴びせても、丸で譲る気配が無い。

「……チッ」

 ヘレンの出した舌打ちは、風切り音で留美には聞こえなかった。


 そして、左にウインカーを出して、中央車線にレーンチェンジする。だが、白い一般車は想定外の動きを見せる。

「……!?」

 後続車の接近に気が付いたのが遅かったのか、今更になって車線を変更してきた。テスタロッサの動きに、ほぼ被せる格好になってしまっている。

「……まずいわ!!」

 留美が叫んだ。


 前方との距離は、推定100メートル。速度差は100km以上。一般車両に追突するまで、約3秒の時間しかない。

 ヘレンは一瞬のアクセルオフから、ハンドルを左に切り足した。テスタロッサの鼻先が左車線を向く。

 右横に白い一般車の影を写しながら、今度は右へハンドルを切る。



 だが、急激な荷重移動によって、車両のヨーイングは急激に変化した。テールヘビーなテスタロッサのリアタイヤは、グリップ限界を超えてしまう。鼻先は右方向へ持ち直しても、それ以上にリアが左方向へと流れ始めていた。

「……アクセル!!」

 怒鳴る様に留美が言った。


 しかし、ヘレンはそれよりもゼロコンマ何秒か早く、アクセルを踏み抜いていた。

 一気にアクセルを踏んで、リアサスペンションを沈み込ませる。リアタイヤに荷重を乗せる事で、コーナリングフォースを稼ぎ出したのだ。

 そして、左方向にステアリングを切り、カウンターを当ててヨーイングをおさめる方向に持っていく。

 左方向にかかる横Gが、瞬間的にフワリと止まった。

 この瞬間にアクセルを一瞬緩め、カウンターを進行方向に戻す。そして、もう一度アクセルを踏み込んだ。車速は170kmまで落ちていた。


 再びテスタロッサは、真っ直ぐに走り始めていた。この間、僅か5秒。

 200kmでのカウンターステア。そんな芸当は狙って出来る訳が無い。これで天才でなければ、余程運が良いか奇跡に違いない。


「……今のは怖かったわよ?」

 思わず留美は言葉を漏らしていた。

「……ええ。流石に焦ったわ」

 ヘレンも引きつった顔で答えた。




 その内容を話す留美は、心なしか嬉しそうだった。

「へぇ……。ただの大口叩きって訳でも無かったんだな」

「ドライビングと言うのは、アクセルで加速して、ブレーキで減速して、ハンドルを切って曲がる。だけど、この三つの動作を複合させて、車を如何にコントロールするかという事なの。

 特に、車の構造を理解してドライビングを変えていく事は重要な事よ。

 いい機会だから、説明しておくわ」

 そう言って、留美は地面に別の長方形を書いた。


「この四角は?」

「車を真上から見た、簡単な図よ。先に断っておくけど、これは全て後輪駆動車の場合の話になるわね」

 そう付け加え、留美は解説を始める。




「車で一番重い部品はエンジンになるわ。エンジンの搭載位置によって、車の曲がり方は大きく異なるのよ。

 ちなみに、車の真ん中を軸にして曲がる力の事を、ヨーイングと言うわ」

「ヨーイング……」

 拓海は頼りなく呟く。


「四角の上が進行方向とするでしょ。普通の自動車は、進行方向に対して、前にエンジンが有る。前が重いという事は後ろが軽い。よくフロントヘビーって言われてる事よ」

「あたしのソアラなんかも、よく言われるな……」

「その通り。後ろが軽いという事は、リアタイヤに重量が乗っかっていないの。所謂、荷重が乗っていないと言う事よ。

 例えば……思いっきりハンドルを切った時なんかに、重さが無い分リアタイヤが流れやすい。その割にフロントが重くて、進行方向へ慣性の力が働くからノーズの動きは鈍い。

 つまり、アンダーステアを誘発しやすいけれど、オーバーステアも起きやすい。

 反面、後ろが軽いから慣性の力は小さくなる。しかも、前に重心が有るから、慣性は進行方向へ働く。

 つまり、テールが流れやすいけれど、流れを止めるのも楽という事。何よりも直進安定性が良くなるわね。

 纏めて言うと、発生したヨーイングのコントロールがしやすいと言う事よ」


「ん~……良くシルビアとかのFR車がドリフトしやすいって理由と同じ?」


「簡単に言えばそうなるわ。

 今度はテスタロッサの場合……ミッドシップね」

「……ほうほう」




「進行方向に対して、ほぼ真ん中が重いという事は、四つタイヤに対して均等に荷重が乗るの。

 さっきとは真逆で、ハンドルを切ってもテールは流れにくくなるし、フロントタイヤに慣性が働きにくいから、ノーズの反応も早い。

 F1の様なフォーミュラーカーや、プロトタイプカーの様に、走行性能だけを求めれば、確実にミッドシップレイアウトに行きつく。

 ただし、一度テールが流れ出してしまえば、ど真ん中が重心になるから、スピン状態になった時の回転は早い。要するに、ヨーイングの力が強く働きすぎる傾向が有る。

 イコール、コントロールは極めて難しくなるし、直進安定性は悪くなりやすい」


「……つまり。テスタロッサは、テールが流れたらコントロールできないって事か」

「単純に言えばそうなるわね。今回は、ヘレンの腕で助かったけれど、あんな事繰り返してたら、車と命が幾つあっても足りないわ」


 そう言われ、拓海はある事に気が付いた。




 昨晩、高峯のあの助手席に乗っていた時。


 例え前を塞がれる形になっても、のあは絶対にハンドルは切らなかった。迷う事無く、ブレーキペダルを蹴り飛ばして、パッシングを浴びせていた事を思い出した。

「なあ、姉御。もしポルシェで飛ばしてて、思いっきりハンドルを切ったらどうなる?」

「……そうね。RRのポルシェは、車体の一番後ろにエンジンが有るから、リアタイヤの安定性は一番あるわね。車体の最後方に重いものが乗っている分、一番流れにくい特性と言えるわ。俗にトラクションが優れているって事よ。

 ただし、一度でも流れたらコントロールする事は確実に不可能でしょうね」


「……そういう事か」

「勿論、これは単純な原理の話よ。実際には、エンジンの搭載位置だけじゃ無くて、タイヤのグリップ力や、駆動輪の位置でも大きく変わってくるわ。

 少し位は車の構造を理解して運転しないと、湾岸を走る時だけじゃなくて、普段乗りの時でも事故を起こす確率を減らせれるわ。例えば、雨が土砂降りの時とかね」


 小難しい話だが、何となく留美の言いたい事は理解した。




 ここで、拓海の中で以前から疑問に思っていた事を、留美にぶつけた。

「ところで、姉御。何で、あたし達に手を貸してくれるんだ?

 まして、ここまで手間のかかる車だと、姉御の負担は相当にでかいんじゃねぇか?」

 そう言われ、留美は少し考え込む素振りを見せた。


「……何故かしらね。

 ……きっと、私自身も大人になりきれていないのよ。単に、全力で何かに憑りつかれてみたかったかもしれないわね。

 現役でやってた頃みたいに……」


 そう答えた留美は、自嘲的な笑みを作っていた。


6.


 テスタロッサがミッションブローした事から、一度エンジンを下ろしてチューニングも同時にするべきだと、留美からの提案が出た。

「本当はもっと後回しにすべきと考えていたんだけど、ここでエンジンを下ろすのなら、全ての作業を行った方が効率良いわ」

 と、留美の弁。


 馬鹿でかいボディは、リジットジャックに乗せられ、リア周りの部品は殆ど取り外されていた。当然、エンジンとミッションが一体のユニットは、車体から分離している。

 5リッターの水平対向12気筒エンジンは、改めてみると巨大だと、拓海は感じた。




「……色々と私なりに、ティーポF113Bユニットの事を調べてみたわ」

 湾曲したインテークマニホールドを右の人差し指で突っつきながら、留美はそう言った。

「……最高出力だけを求めるなら、ターボ化が一番速くなるわね。

 テスタロッサベースのケーニッヒコンペティションは、ツインターボ仕様で700psを発生している。

 ただ、おすすめは出来ないわね」

「それは何故?」

 ヘレンは、留美に聞き返す。

「一番の問題は、耐久性が苦しくなるわね。ターボは、ただ付けるだけって訳にはいかないもの。燃調もベストなセッティングを見つけなければパワーは出ない上に、吸排気の取り回しは、全て作り直す事になる。

 当然、無暗にパワーを上げれば、他の部品が悲鳴を上げるわ。エンジン内部のクランクやコンロッドは勿論。駆動系のトラブルも走る度に起きる。そんな事を、何度も繰り返せる資金は無いでしょう。

 ケーニッヒのコンプリートマシン自体が、エンジンの部品の全てが強化品。他にも、足回りや駆動系、ボディに至るまで全てを改造している。

 そこまでやると、部品代と時間だけで豪邸を建てられるわ」

「……って事は、どうするの?」

 ヘレンは難しそうな顔を作った。

「エンジン関係は、もう少し調べるわ。ただ、それ以上に他も厄介なのよ」

 留美の視線は、エンジンの降りたテスタロッサのフレームに向けられた。




「……テスタロッサの問題は、エンジンが重くて重心が高い。その割に、フレームの剛性が不足しているのよ。

 一度ボディがよじれてから、サスペンションがバンプ(沈み込む)する。シャシー全体に余計な動きが出るから、ドライバーがタイヤのグリップ限界を掴み取れない。前に200kmで、簡単に横向いたでしょう? ああいう事よ。

 タイヤの限界を掴めない様じゃ、湾岸を攻める事は出来ない……」

「……ボディ補強からって事か」

 拓海の言葉に、留美は頷く。

「メインフレームにポイントを押さえて補強を加えるわ。当然フレームの剛性を上げるなら、足回りも強化しなければならない。

 サスペンションも強化品に変えて、ブッシュ類は全部新品に取り換える。強化品が有ればベストだけれどね……。

 ブレーキは、F40用かCカー用のブレンボは欲しい所ね。タイヤサイズも17インチにして、タイヤをロープロファイル化する……。

 エンジンパワーも必要だけど、パワーを受け止められるボディやサスペンションも必要になる。つまり……トータルバランスが問われるのよ」


 次々と飛び出す、計画。

「……一体幾らかかるんだ?」

「……部品代だけでも、GT-Rが買えるかもしれないわ」

 留美の返答に、拓海は絶句した。

「……いくらでも注ぎ込むわよ」

 ヘレンは、相変わらず強気の姿勢を崩さなかった。




 2日後の明け方。


 拓海は仕事で、谷田部の自動車性能試験所に来ていた。1週5,5キロのオーバルコースで、最大傾斜45度のバンクを持つテストコース。

 自動車メーカーが新型車両のテストで走らせる事も多いが、チューニングカーの最高速トライアルの聖地としても知られる。

 当初の設計限界速度はたったの190kmに過ぎなかったが、現在のチューニングカーの最高速は320kmを超えているマシンも多い。


 集まったチューニングカーを、一台一台ファインダーに収める拓海。

「精が出るね。拓海君」

「どもです、真奈美さん」

 声をかけてきたのは、木場真奈美。老舗の輸入車専門店で広報を担当している女性だが、湾岸ランナーという顔を持ち合わせている。
 大学時代にアメリカへ留学していた頃、ドラッグレースにのめり込む余り、中退したという逸話を持つ。




 本日の最高速アタックには、真奈美の愛車である87年式のC4コルベットZ51を谷田部に持ち込んできた。


http://www.dotup.org/uploda/www.dotup.org535629.jpg.html


「どうですか、コルベットの仕上がりは?」

「ま、相変わらずだな。エンジンを換えてから、大分煮詰まっては来ているが……バンクの走行だけはテストのやり様がないからな。

 結果は、神のみぞ知るって所だ」

 真奈美は、そう答えた。


 傾斜のあるバンクを全開で走る事は、強い横Gが長時間かかり続ける。横Gがかかり続ける間は、燃料や潤滑油が横に偏ってエンジンを壊しかねない。当然、ボディ、足回り、駆動系、タイヤ。これらの負担も大きい。

「……今日は何馬力でアタックしますか?」

 拓海に聞かれ、真奈美は少し考える素振りを見せる。


「……ま、ウソ800馬力って事で頼むよ」

 そうおどけて見せた。





 コルベットに搭載される、L98ユニット。5,7リッターV8のOHVで、スモールブロックの通称で通っているエンジンだ。

 1960年代に誕生し、数多くのアメリカンスポーツカーに搭載され続け、長く愛され続けているエンジンだ。年代ごとに様々な改良を受け、進化し続けている。

 NHRAのドラッグマシンやNASCAR等、レース専用エンジンのベースにも使用されている。アメリカでは、最もポピュラーなチューニングベースのエンジンと言っても過言では無い。

 かの有名なキャラウェイコルベット・スレッジハンマーは、スモールブロックエンジンにターボで武装し900ps以上を叩き出すモンスターぶりを発揮している。


 ノーマルでは250psに満たない古典的なOHVエンジンだが、真奈美のそれは本場のナスカーやドラッグマシンで使用されるパーツをふんだんに使い、国産のターボエンジンに負けないだけのパワーを絞り出している。

 大排気量のNAマシンならではの中間加速は、湾岸でも一、二を争う。250kmまでなら、CTRに匹敵するクラスだ。

 本人は言わないが、最低でも500psは固いと拓海は睨んでいる。




「所で、一つだけ聞きたい事が有るんだが……いいかい?」

 改まった様子で、真奈美はそう聞いて来た。

「何でしょう?」

「……以前、一度だけ湾岸に来ていた、テスタロッサの事だけど。最近、湾岸で見かけないのでね……。少し気になっているんだ」

 真奈美は、テスタロッサの事を良く覚えていた。

「……それだったら、ミッションが壊れて修理中ですよ。流石にあの手だと、修理代も高くて……」

「ふふ……確かにそうだな」

 真奈美は引きつった笑いを浮かべた。真奈美も湾岸では珍しい外車乗りだけあって、テスタロッサの動向が気になっていたらしい。

「……真奈美さん。例えばですけど、テスタロッサでパワーを上げようと思ったら、どんな方法が有りますか?」

 拓海は、それとなく聞いているつもりだが、眼つきは鋭くなっている。




 聞かれた真奈美は、あごに手を当てて少し考える。記憶の中から、思い当たる知識を引っ張り出す。

「テスタロッサをパワーアップか……。

 難しい所だな。例を挙げれば、ケーニッヒのターボチューンがあるが、間違いなくドライブシャフトがねじ切れるだろうな……。

 NAのままなら……IMSA仕様のパーツを組んでみればどうだろう」

「イムサ……?」

「インターナショナル・モーター・スポーツ・アメリカンの頭文字を取った略称さ。クラス的には、丁度ルマンの参戦車両と同格にカテゴライズされるレースだ」

「へぇ。じゃあ、日産が優勝したデイトナ24時間なんかもIMSAになるって事?」

「その通りだ。ちなみに、ルマンで優勝した787Bも、IMSAのレギュレーションで制作されてるのさ」

 真奈美から聞いた豆知識に、拓海はウンウンと頷いた。




「じゃあ、テスタロッサのIMSA仕様が有るんだ……」

「いや、無いよ」

「あり……?」

 真奈美の回答に、拓海の首は反射的に斜めに傾いた。

「その変わり、テスタロッサの前身である、512BBはIMSAやルマンに参戦したレース仕様が存在するんだ。

 何十台か制作されて、プライベーターが駆っていたらしいね。勿論、リアルタイムで見た訳じゃ無いけれど……」

「512BBって、テスタロッサとエンジンは一緒でしたっけ?」

「若干モディファイはしているけど、基本設計は同じだった筈だ。……詳しくは覚えていないがね」

 真奈美の記憶が、当てになるのなら有力な情報をゲットした事になる。

「……参考にさせて貰います」

 したり顔で笑う拓海は、軽く頭を垂れた。




 その仕草を見て、真奈美は思いがけない提案を出した。

「君達が良ければ、一度テスタロッサを見せては貰えないかな?」

「……テスタロッサを、ですか?」

 拓海は、少し思考を張り巡らせる。

「警戒する事はないよ。別に、どうこうするつもりは無いさ。

 これでも、輸入車専門店の店員なんだ。それなりには、あの手の車は気になる物だよ」


 そう言われ、拓海は脳細胞をフル回転させ、色々な打算をした。

(……まぁ、真奈美さんは輸入車の専門店で働いてる。

 この先、色々パーツが必要になるなら……手を借りる事も有るかもしれねぇ。ここで、手を貸してもらう様にするのは、決して悪い事じゃないよな……)


 頭の中ではじき出した結論。

「……そうですね。専門店の人に見て貰う事も、重要ですからね。よろしくお願いします」

 真奈美へ向け、そう答えた。


7.


 翌日。ソアラを、何時もの整備工場に向けて走らせる。ハンドルを握るのは拓海で、助手席には真奈美が座る。

「……乗り心地があまり良くないね」

 真奈美は、押し殺すように笑う。

「中古で買ったショックに、バネも解体屋で拾ってきた奴だから、こんなもんですよ。車高さえ落ちれば、何でも良かったんで」

 拓海は、自慢げに答えた。ソアラの性能アップなど、本人にとっては左程重要でも無い様だ。

 談笑を交えながら整備工場に到着すると、時刻は昼前だった。

「こんにちわー」

 シャッターを潜ると、いつも通り留美が車の整備に勤しんでいた。ヘレンも、工場に来ているおり、隅に転がる廃タイヤの上に腰を据える。

 カローラのエンジンルームを覗き込んでいた留美は、シャッターの方へ振り向く。

「いらっしゃい。……そちらの方は?」

 留美は、真奈美を見つめる。

「外車屋の店員の木場さんです」

「……木場真奈美です。よろしく」

 そう言いながら、真奈美は名刺を差し出した。


 対面に体を向け、留美は名刺を受取った。

「和久井留美です。こちらこそ、よろしく」

 真奈美の差し出した左手を、留美はガッチリと握り返した。




「……折角なんだから、何処かで食事しながら話しない?

 腹が減っては戦が出来ぬ。日本では昔からそう言うんでしょ?」

 廃タイヤから立ち上がって、ヘレンはそう提案した。

「……そうね」

 留美は、柱にかかっている時計をチラリと見た。


 工場から歩いて5分のファミレスで、4人は昼食を共にする。昼時だけあって、店内は込み合っていたが、幸いにもテーブル席は空いていた。

 昼食を取りながらの会話の内容は、もっぱらテスタロッサの事ばかりだった。

「……IMSA、ね」

 拓海からそのワードを聞き、留美は顔付きを変えた。

「レース専用って事なら、エンジンパワーも相当に上げられそうじゃない?」

 追従するように、ヘレンが言った。

「……確かに、それなら高回転高出力に耐えられそうね」

 留美は、あごに手を当てながら思案する。




「何よりも、メーカーに保障されている部品であれば、耐久性にも保証はある。IMSA仕様であれば、500マイルも24時間も走る事を考えて設計しているからね。

 あのルーフCTRの厄介なのは、最高速が速いだけでも中間加速が速いだけでも無い。何より、毎週の様に湾岸線を全開で走っても、トラブルが起きないという事だ。

 マックススピードだけなら、原田君のFCや東郷君のフェアレディZも引けを取っていない。勿論、私のコルベットもね。

 ただ、全開時間が長ければ長い程、エンジンにかかる負担は大きい。CTRと並んだ所で、気が付いたらエンジンブローしている。そんな事は、日常茶飯事だからな……」


 真奈美の助言は的確だった。湾岸トップランナーの一人だけ有り、高峯のあが駆るCTRに、何度も苦汁を舐めさせられている経験から来ているに違いない。

「……湾岸で、5速で全開にするのは2分位かしら?」

「一般車も居るから、そこまでは無理だろう。精々、1分が限度だ」


 そう聞くと、留美は更に脳細胞を回転させる。




「……市川パーキングをスタートにして、その先は何処まで走るの?」

「そのまま湾岸を下って、大井ジャンクションの先に有る、上を横切っている大井埠頭の連絡道路があるんだ。あれが、ゴールの目印さ。

 その後は、横羽に乗ってクールダウンして大師パーキングに停まったり、そのまま大井南インターで降りたり様々だね。

 もっとも、そこに着く前までに、リタイアしている事も多々あるけれどね……」

「というと、おおよそ20キロ弱……。海老名SAから東京料金所までの距離と、良く似てるわね」

「そうなるね。このルートを、約6分で走るのが一つの目安になるんだ」

「平均時速にして、200km以上。だけど、それは一般車を避ける事や、ブレーキングも加味されるから……重要なのは、200kmオーバーでの追い越し加速と言う訳ね」

「……その通りだ」

 留美と真奈美の会話を、黙って聞く拓海とヘレン。もっとも、どれ位理解しているのかと言う点は、若干疑問だが。




「……そうなると、やはりCTR以上のパワーをNAで出す事は難しいわね」

「仮に、ターボ化したとしても、テスタロッサとCTRには400kgの重量差があるからね。これだけ差があると、スラロームの時の動きに大きく差が出るな」

「ただ、テスタロッサの空力なら、トップエンドの伸びはポルシェよりも格段に良いわ。中間域の加速さえ向上すれば、国産チューニングカーやCTRに喰らい付ける筈よ」

「NAのままで、中間加速をあげる……。そうなると……」

 真奈美は、真剣な顔つきで思考を張り巡らせる。


「……一つ提案がある」

 三人は、一斉に真奈美に視線を向ける。

「NAのまま、中間加速を飛躍的に向上させる手段は、確かにある」

 真奈美の言葉に、ヘレンはニヤリと笑う。

「ただし……資金も跳ね上がるし、テスタロッサに装着した前例が無い。

 それでも、やるかい?」

 その言葉に、ヘレンはあっさりと答える。

「……やるわ。当然じゃない」

 根拠は無いが、ヘレンの顔には自信が満ち溢れていた。

「解った。一度手配してみるよ」

 真奈美は、そう答えた。




「……随分、協力的なのね」

 留美は、真奈美にそう言う。今日会ったばかりの割には、随分と有益な情報ばかり与えている。

「ま、こっちも商売だからね。それに……」

「それに?」

「テスタロッサで湾岸を攻める何て馬鹿げた事を、本気で取り組む。そういうバカが、私は好きなんだ。

 実際、他の国産チューニングカーに乗ってる連中は、外車は高いだけで速く無い。そういう認識で居るだろう。

 だけど、そいつらをテスタロッサという格好番長で、ぶっちぎったら面白いじゃないか」

 真奈美は、笑みを見せながらそう答えた。

「……そうね。もし、テスタロッサでCTRをぶち抜いたら、銀座か六本木でお祝いしなきゃね」

 留美も、自然と笑みを作っていた。

「……姉御」

 拓海は、ジッと留美を見つめる。


「部品の手配……お願いします」

 ヘレンは、二人に向けて頭を下げた。




 それから、テスタロッサは工場でモディファイする事となった。

 エンジン関係は、IMSA仕様の512BBのパーツを流用し、パワーと耐久性を向上させる事に決まった。

 肝心の部品の方は、真奈美が留学していた頃の知り合いが、一通りのスペアパーツを持っていたので、頼み込んで売って貰う事ができた。

 ただ、空輸で一ヶ月以上かかるという事で、先にボディから手を付ける事に。


 テスタロッサの基本骨格は、365GT4/BBから受け継いでいる、伝統的なパイプフレームモノコックだ。

 パイプフレームとは、ジャングルジムの様に構成したフレームに、ボディの外装を被せるだけの構造になっている。NASCARのストックカー等の、レーシングカーに採用されている構造と同じだ。

 しかし、元々のフレームが弱い為、これが巨大なエンジンとミッションを支えるには、あまりにも役不足だった。ハリボテと形容しても、差支えが無い程の代物だ。


 これを、各パイプごとに三角の鉄板を当てて溶接。更に、アンダーフロア板の継ぎ目も、鉄板を追加して溶接補強。

 路面からの力をダイレクトに受ける、サスペンションのアッパーマウントやアームの付け根には、鉄板を何重にも重ね、入念かつ丁寧な補強を施す。

 その上に、耐熱塗料を塗って、錆び止めの対策も抜かりない。その仕上がりは、陶芸品の様に美しかった。




 サスペンションは、最終的にクアンタム製の車高調整式を組み、ゴム製のブッシュは全て新品に打ち変えた。

 ブレーキはモノブロックのCカー用のブレンボ製キャリパーで、フロントが6ポットでリアが4ポット。ブレーキホースもステンメッシュの物にグレードアップ。マスターシリンダーも、そっくりCカーの物を流用した。

 ボディと足回り関係が一通り完了した頃、ようやくエンジンと駆動系の部品が揃った。


 IMSA用の強化パーツに加えて、強化クラッチ、ミッションのギア、パッキン、ベアリング一式。いずれも、新品。更には、テスタロッサの整備マニュアルも、真奈美が用意してくれた。

 材料が全て揃った所で、今度はエンジンとミッションに手を加える。


 ミッションは、完全なオーバーホールとなった。

 歯車を一つ一つ丁寧に組みつけていき、ベアリングやゴムシールも新品に交換。組み上がったミッションに、ファイナルギアとデファレンシャルギアを合体させる。


 トランスアクスルが終われば、最後は要のエンジンだ。




 一度エンジンの全ての部品をバラし、そこから取り寄せたIMSA用のレーシングパーツを組みつけていく。


 カム、ピストン、コンロッド、バルブ等。どんな高価なパーツも、組み方一つで台無しになる。留美は、馬鹿でかいエンジンを慎重に組み上げていく。その手付きは、職人技そのものだ。

 4942ccという大きな排気量は、発熱も半端無くでかい。当然、ラジエーターも大容量化して、ホースもシリコン製の軽く丈夫な物にグレードアップ。オイルクーラーも装着して、オーバーヒート対策は抜かりない。

 F113Bは、ノーマルでドライサンプ式を採用している為、オイルポンプも強化品にグレードアップ。


 クラッチはボークアンドベックのツインプレート。圧着力の高いレーシングクラッチだが、ジャダーも大きく踏力も重たい。街乗りは確実に犠牲になるが、ヘレンは問題無いと言い切った。


 ハイコンプレッション仕様の水平対向12気筒。滅多にお目にかかれないそのエンジンは、どんな旋律を奏でるのか。拓海の興味は、尽きなかった。




 ほぼ、オーバーホールとも言える内容だった。このテスタロッサに、どれ程の時間と費用を費やしたのか。深夜までコツコツと作業して、チューニングを積み重ねていく。

 たびたび、真奈美が差し入れを持って顔を出した。真奈美も、このテスタロッサが何処まで速くなるのか、興味深々だった。


 ヘレンは元々やっていたモデルの仕事以外にも、深夜のバーのウエイトレスも務めた。アルバイトを掛け持ちしながら、テスタロッサの部品代を捻出した。それでも、焼け石に水程度にしかならない。

 例え夜遅くまで仕事しても、留美の工場に顔を見せに来た。

 当然ながら、睡眠時間など三時間取れるかどうか。


 そこまでの想い。それは執念か。或いはプライドか。



 拓海は、ヘレンに内緒でタイヤとホイールを1セット用意した。

 OZレーシングの512TR用で、フロントが9Jの18インチ、リアが11Jの18インチ。タイヤサイズは、フロント235/45ZR18、リアが295/35ZR18インチと言う、超極太のポテンザだ。
 タイヤとホイールだけで、負けて貰って60万円もした。確実に、ソアラよりも高額に違いない。

 ただ、ヘレンを支援するなら、行動で示したくなっただけだった。


 ヘレンに向けて、拓海は「出世払いで良いぞ」とだけ伝えた。




 ただ、車が好きで、走るのが好きで、とにかく速く走りたい。その気持ちだけが、彼女達を突き動かしていた。

 口先だけの結束ではない。共に、湾岸最速という目標を抱き、その見果てぬ夢の為に投資を惜しまなかっただけ。



 明け方がすっかり冷え込むようになった。

 紅葉のシーズンは終り、慌ただしく一年の終わりが見えてきた頃。
 朝日を浴びて、小鳥のさえずりが聞こえる中。


「……セルを回して」

 留美は、ドライバーズシートに座るヘレンに言った。


 ヘレンは、無言で頷く。




 イグニッションオン。セルモーターが、高圧縮のピストンに負けまいと、クランクシャフトを回していく。

 少し長めのクランキング。ヘレンは、一瞬だけアクセルを煽った。


 ズゴーン、とエンジンに火が入った。

 乾いたエキゾーストノートが、解体屋街に響き渡る。アイドリングだけでも、全身がしびれる。血液が沸騰し、細胞の一つ一つが漲る。


 ミュージック。最高の楽器。

 フェラーリのエキゾーストを、自動車評論家がそう評した。拓海は、その意味がようやく理解出来た気がした。


「完成したわね」

「……ええ」


 留美とヘレンは、がっちりと握手を交わした。

 それを見た拓海は、何故だか無性に泣きそうな気分だった。


9.


 土曜の夜。寒波到来にも関わらず、とある喫茶店は異様な熱気に包まれていた。


 九時を過ぎたくらいに、ヘレン、拓海、留美、そして真奈美は喫茶店にやって来た。四人掛けのテーブルで、コーヒーを飲みながら談笑をしている。


 今現在、ここに来店している三十人弱の客は全員顔見知り。

 何百万もつぎ込んだ改造車で、湾岸線を突っ走る。すなわち、湾岸ランナー。


 大体、八時前後から集まり始めると、一般客は居辛い雰囲気が流れ出す。十時あたりになれば、大体のテーブルは走り屋達で占領されてしまう。


 拓海は、横目で一番奥の窓際のテーブルを見る。

「……今日は来てねぇんだな」

 そう呟いた。




 湾岸ランナー達にも、カースト制の様な物が存在する。

 女王、高峯のあをトップとし。そのCTRと同等レベルの速さを見せる走り屋。更にその下の走り屋、そして予備兵。

 速い奴が称えられる、単純なピラミッドだ。


「……幸いね。まだ、ジョーカーは切れないもの」

 そう呟いた、留美。まだ、引き出しを全て開けた訳では無い様だ。

「……彼女が居ないならチャンスだな。ヘレン君にとっても、私にとってもね」

 真奈美は、ニヤリと笑う。

 CTR撃墜に近い一人だけ有り、女王の居ない夜ならば他のランナーを蹂躙できる。そんな考えが、真奈美の脳裏をかすめる。


「手は抜かないわよ?」

 ヘレンはそう告げる。

「それはお互い様さ」

 真奈美は、そう返した。




 テスタロッサの慣らしをする間。ヘレンは湾岸の走り方を、真奈美にレクチャーしてもらった。

 湾岸で突っ走る事は、単純に全開を続ければいい訳では無い。完全に踏み切れるとしても、三十秒。余程長くて、精々一分弱が限度。


 高速域で走れば、エンジンの負荷は通常走行とは比べ物にならない。水温も油温も、限界値を簡単に振り切ってしまう。

 それに加え、一般車両を追いついたら、強く減速しなければいけない。その間は、アクセルワークとステアリングで、一般車を追い越していく。つまり、高速域のコーナーリングを続けていくのと同じ事。

 そして、一般車がばらけた瞬間。再び加速競争が始まる。200km、或いは250kmからの中間加速。そして、トップスピードまでの伸び。


 更には、先行する車のテールに張り付いて、空気抵抗を減らすレーシングテクニック。スリップストリームを、如何にして使うかと言う駆け引き。

 単にエンジンだけ速くても、意味が無い。ブレーキ、サスペンション、タイヤ、そしてドライバーのテクニック。あらゆる要素が揃わなければ、湾岸を攻める事が出来ない。


 イコール、マシンのトータルバランスが問われるのだ。




 通路を挟んだ反対のテーブルで、日産のチューニングで名を売っているRS山元で仕上げたガングレーメタリックのGT-Rを駆る、木村夏樹が取り巻き達と話し込んでいる。
 身振り手振りを交えながらの話の内容に、拓海はそっと耳を傾けた。

 先週の半ば、どうやらRE天宮の原田美世とサシでやり合ったという事だ。これは、今宵に集まった走り屋達の、大きな話題の一つだった。


 木村夏樹は、見た目から想像つきにくいが結構なお嬢さんらしく、高峯のあ程では無いが資金力は豊富な様だ。

 ほとんどの走り屋は身形を気にする事は無いが、彼女は髪の毛をリーゼントに決めて、ブランド物の皮ジャンとジーンズを着こなしている。高校生の頃、イギリスに留学してロックに没頭していたという事を、拓海は聞いた事がある。

 実家が、裕福層でなければそんな事出来る訳が無い。




 彼女の愛車は、最新型のR32スカイラインGT-Rを、老舗のチューニングショップのRS山元で仕上げた。実質的なワークスカーと言っても差し支えは無いマシンだ。


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 R32GT-Rの場合、元々ツーリングカーレースで勝つ為に設計されており、殆どの部分が市販車としては、オーバーキャパシティなレベルの耐久性を持っている。ほんのちょっとした改良で、軽く400psを超えるパワーを発揮できる。タービン交換やエンジン内部まで手を出せば、600psに迫るという驚異的なスペックを持つ。

 しかし、チューンドGT-Rには新たな問題点が出てきている。


 市販車では驚異的な耐久性を持っていても、フルチューン仕様では流石に耐えきれない部品も出てくる。チューンドGT-R場合、特にエンジン以上に駆動系のトラブルが多く見られた。

 クラッチが滑ったり、ミッションがブローしたり、デフギアがぶっ飛んだりする事も有る。トルクスプリット4WDのアテーサET-Sは、驚異的なトラクションを生み出す反面、駆動系への負担が大きくなると言う欠点も生み出していた。


 事実、Gr-Aレースで戦うGT-Rの場合も、ミッションや駆動系にトラブルが出る事が多かった。





 山元氏が組み上げたRB26は、夏樹の豊富な資金力に物を言わせて、信頼と実績のあるワークス用のレースパーツをかき集め、一つ一つを丁寧に組み込んだ一品。


 例えパワーがあっても、耐久性が無ければ意味が無い。職人気質のチューナーが組み上げたエンジンは、最高でも500psに届くかどうか。ゼロヨン仕様のRB26に比べれば、見劣りする感は否めない。しかし、とにもかくにも耐久性は抜群だった。

 空気抵抗の大きいセダンボディのR32では、湾岸での最速は280km前後。もっとも、280kmで毎週コンスタントに走れるというスペックは、他のランナーから見ても要注意の走り屋の一人だ。


 夏樹は相手を見つけては、エンジンのタフさと気合で湾岸を戦い抜いていた。




 一方の原田美世は、RE天宮で働くRX-7乗りだ。


 東名レース時代からストリートを走り、ロータリーの神様と謳われる天宮氏に憧れ、中学卒業と同時にボストンバッグ一個で上京し、弟子入りを志願したと言われる。

 天宮で叩き上げだけあって、走りの方もチューニングの方も、湾岸トップランナーと呼ぶにふさわしい走り屋だ。

 自らの手で仕上げた真っ赤なRX-7は、コスモ用の20Bにエンジンを換装。3ローターサードポートに加え、TD06のビッグシングルタービン仕様で、他のマシンと遜色のない所までパワーを引き上げた。


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 が、この3ローターエンジンがかなりの曲者だった。





 載せ替えた当初の湾岸では、毎週の様にトラブルが発生していた。元々ロータリーエンジンは熱量が大きく、特に水温が上がりやすいという弱点があるが、3ローターは尚更熱に弱かった。


 ラジエーターやオイルクーラーを大容量化してオーバーヒートの対策を練れば、今度はローターとハウジングの圧縮漏れを防ぐアペックスシールやサイドシールが、爆発力に耐え切れず破損する。ある程度ブーストが安定する様になれば、今度はミッションがブロー等々。

 毎週、走る度に何処かが壊れた。しかし、翌週には必ず直して湾岸にやってくる。


 試行錯誤を繰り返し、度重なるトラブルを乗り越えて、RX-7を一線級のマシンに仕上げていた。


 しかし、そこで立ち止まる様な真似を彼女はしない。例え何度もエンジンを壊しても、怯まずパワーを追い求める。耐久性は後から付いてくる。


 それが原田美世のやり方だった。




 そして、先週の半ば。


 RX-7のタービンを、更に大容量のTD07に変更してシェイクダウンしていた時だ。運悪く、夏樹のR32に鉢合わせた。


 まだセッティングの途中だったため、美世は上手くかわそうとしていたが、執拗に夏樹のR32に絡まれてしまう。

 美世はセッティング半ばだったが、ついにブーストを思いっきり上げてしまう。不安材料が多いままで、相手の挑発に乗ってしまったのだ。


 夏樹は、確信犯だった。セッティング中だと解りきった上で、勝負を仕掛けたのだ。


 その結果、RX-7のエンジンはハイブーストに耐え切れず、アペックスシールが悲鳴を上げた。

 途中でエンジンが根を上げてしまえば、リタイアは免れない。これは、レースの世界と同様に、負けを意味する。




 湾岸ランナーは、単なる車好きの集まりとは、一線を超えている。

 喫茶店の中で談笑しているものの、内心では如何にして相手を蹴落とすかを目論んでいる奴ばかり。


 今現在も、原田美世と下町のマフラー屋で働く桐野アヤと、大御所レーサーがオーナーを務めるショップの番頭を務める東郷あいが、仲良さげに談笑している。

 いずれも、CTR撃墜を目論む、湾岸のトップランナーだ。


「……Zは空気抵抗は少ないけど、オーバーヒートしやすいんだ」

「アタイのスープラは、ディズニーコーナーで一車線横っ飛びしちまってさ……」

「3ローターにしたら、フロントヘビーになって曲がらないんだよね~」


 個々に、戯言を口走る。だが、それは建前上の事。

 本心では、相手の腹の中を、三人とも探り合っているのだ。今夜は、どんな秘策を練ってきているのか。

 少しでも自分を有利にする為にも、すでに駆け引きが始まっているのだ。




 当然、そばで聞き耳を立てている連中だっている。

 一見は何の役にも立ちそうも無い戯言ですら、一字一句聞き逃さない様にしている。


 土曜の夜、この喫茶店で車のチューニングと、競争の事以外の話をしない奴はいない。例えつまらない戯言の中にも、愛機をチューニングする為のヒントが隠れているかもしれない。もしくは、肝心な事をポロリと溢してしまうかもしれない。

 皆、虎視眈々とその瞬間を狙っている。


 チューニングのノウハウは、そんな戯言の積み重ねによって蓄積されていくのだ。


 今ここに居る人間は、皆一匹狼であり、獲物を突け狙うハンターであり。そして、死肉を待ちわびるハイエナなのだ。


 黄色い怪鳥の翼をへし折るべく。我こそが女王を蹴落として、明日の王座を夢見る奴ばかり。


 前哨戦を終えた木村夏樹も。ロータリーで驚異の320kmを狙う原田美世も。コルベットで打倒を狙う木場真奈美も。東郷あいも、桐野アヤも。

 そして、赤い跳ね馬を駆るヘレンも。


 誰もが、高峯のあが駆るルーフCTRの首を狙っているのだ。




 時刻が十時を過ぎた辺りから、皆そわそわと落ち着きが無くなる。この喫茶店の営業は夜一時までなので、オーダーストップにはまだ早い。

 どこからともなく熱が帯びて、その熱が伝染病の様に一人一人に移って行く。


 空気がしびれる様に張りつめて行き、あの場所に行かなければならない気分になってくる。

 走り屋達にしてみれば、ピーターパンが招いたワンダーランドであり、シンデレラが訪れた舞踏会であり、浦島太郎が誘われた竜宮城である。


 それが、首都高速湾岸線なのだ。


 ショータイムの時が刻一刻と迫っている。

 全員がそれを感じる事が出来たのなら、GOサインを誰かが勝手に出す。


「さあ、湾岸だ」


10.


 深夜。市川パーキングエリア。

 スペースの一角は、十何台のスポーツカーに占領されてしまい、さながらサーキットのピットエリアの光景そのものだ。

 ある者はボンネットに頭を突っ込み、またある者は仲間達と談笑を続けている。


 一般客は遠巻きに見ているが、その物騒な雰囲気を感じ取り、とても近づいてこようとはしない。


 テスタロッサの周囲を、物珍しがるギャラリー達が徘徊する。隣にコルベットも並んでいるのだから、目立たない方がおかしい。

 女王不在の湾岸。初陣としては、むしろ好都合だった。ヘレン自身、湾岸を走った経験は少ない。いくら真奈美にレクチャーされた所で、他のトップランナーと比べれば、いかんせん引き出しが少なすぎる。
 下手に翻弄されては、どれだけ車が速くても実力を発揮できない。

 テスタロッサ自体、車は目立つが走りの方ノーマークに違いない。


「……今日で進化が問われるわね」

 そう呟いたヘレンの顔付きは、何処か固さが取れていない。

「水温油温関係は、私がチェックするわ。そうで無きゃ、運転に集中できないでしょう」

 留美は、ナビを買って出た。


 テスタロッサが慣らしを終えて、何処まで速くなっているのかは、ヘレンにも留美にも未知数だ。




 拓海がパーキングをうろうろしていると、不意に声をかけられた。

「よう。今日は取材じゃねーの?」

「どもっす、アヤさん」

 桐野アヤは、拓海に声をかける。

「どうっすか。スープラの具合は?」

「ま、何時も通りだな。あれだったら、横に乗ってみるか? アタイの500馬力に」

 アヤは不敵な笑みを作りながら、拓海にそう言った。

「……折角だから、お願いしようかな」

 拓海も結構乗り気だった。


 アヤも、湾岸最速を狙う一人で、乗ってるマシンは漆黒のMA70スープラターボA。湾岸のトップランナーに位置する、歴戦の猛者の一人である。


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 ソアラ乗りである拓海にとって、7M-GTEで最速を目指すアヤは、気になる存在の一人だ。





 88年に登場したスープラターボAは、グループAのホモロゲーション取得用の限定車である。デビュー当初は国産車で屈指の走行性能を誇っていたものの、翌年に登場したZ32フェアレディZやR32GT-Rに比べれば、地味な印象はぬぐえない。

 3リッターツインカムターボの7Mも、10年以上前からチューニングベースのエンジンとして活躍しているが、もはや古さは隠せない。


 アヤのスープラは、TO4EタービンとHKSフルチューン仕様で500psを自称している。

 が、その主張は少し怪しい事を、拓海は知っている。


 CTRに敵わないまでも、Zやコルベットには毎回テールを拝まされている。美世の駆る3ローター仕様のRX-7に、290kmでぶち抜かれた事も仲間内では有名だ。

 ただ、アヤの運転のすさまじさには定評があった。ランナー達の中でも、一際キレており恐怖心が欠落している、と言うのが桐野アヤのもっぱらの評判だ。




 以前に拓海が、ソアラで湾岸を走っていた時。湾岸辰巳ジャンクション付近で、大型トラック三台が並走していた。走っていたランナーが、一斉に減速を始めたのだが、アヤのスープラだけは減速しなかった。


 全開のまま、分離帯の切れ目から合流地点の僅か150メートル程度の路肩を使い、横に並ぶ障害物をぶち抜いて行った。目測が少しでも間違っていれば、コンクリートウォールに弾かれて、トラックに踏み潰され即死していたに違いない。


 くそ度胸なのか頭がイカれてるのかは不明だが、あの紙一重の判断は絶妙だった事を、拓海は鮮明に覚えている。


 今夜、アヤのスープラに同乗するのも、密かに拓海は尊敬の念を抱いているからに他ならない。




 パーキング内に、個々のエキゾーストノートが響き始めた。


 テスタロッサのティーポF113Bが、牙を見せつけるかのように吠え立てれば、コルベットのL98がドスの効いた図太い咆哮を放つ。


 原田美世は、RX-7の低いボンネットの中に頭を突っ込みながら、耳を澄ました。

「……相当にハイコンプだね。レーシングエンジンみたいだよ」

 隣に居座る、東郷あいに向けてそう呟いた。黒いZ32にもたれ掛りながら、あいはテスタロッサとコルベットから視線を離さない。


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「どうやら、テスタロッサをかなりのレベルで仕上げてきているようだね」

 あいは、笑みを作っている。自信の表れか。或いはハッタリか。

「フェラーリは、確かに悪い車じゃないよ……エンジンだけならね。

 だけど、ここはサーキットとは違うんだ。わだちやうねりのあるストリートで、何処まで踏める様にしてくるかが、ポイントになるんだよ」


 美世は、黙々とパイピング類やオイル関係など、走行に向けての最終チェックを進める。昨日組み上がったばかりの、3ローターエンジン。本番で、まさかの事態にならない為にも、各部の点検は怠らない。


「……女王が居なくとも、楽しめそうな夜になりそうだね」

 あいはそう告げて、VG30DETTに火を入れた。V6ツインターボエンジンが、雄叫びをあげる。





 あいの駆るZ32は、ランナー達の中でも屈指の最高速を誇る。国産スポーツカーの中でも、格段に空気抵抗の少ないフェアレディZは、トップエンドの伸びだけを見ればR32よりも優れている。

 オーバーサイズピストンを組み込んで3,2リッターにボアアップし、カムやバルブも高回転型に合わせてセットアップしている。タービンはTD05ツインで、550psを絞り出し、谷田部テストでは320kmに迫る記録を叩き出している。


 CTR撃墜に、もっとも近い位置に居ると言っても過言では無い。


 ちなみに、JUNオートメカニックの作り上げたボンネビルスピードトライアル仕様のフェアレディZは、谷田部のテストで339kmという桁違いの記録を保持している。
 ボンネビル本番では、424,740kmというワールドレコードを叩き出した。


 市販車をベースに改造する場合、元々の性能の優劣が大きく関わってくる事は、言うまでもない。




「……あいさんもやる気満々だね。あたしもだけどさ」

 RX-7のボンネットを閉じて、美世はコクピットへ滑り込む。

 エンジンスタート。ロータリー特有の、モーターが回る様なエキゾーストが奏でられる。軽くアクセルを煽ってフリッピングすれば、タコメーターは軽やかに踊る。仕上がりは上々の模様。



「……そろそろ、始まりか」

 取り巻き達との談笑を止めて、夏樹はGT-Rのエンジンをスタートさせる。RB26は威嚇する様に、力強いエキゾーストだった。


(その内……いや。GT-Rの時代はもう来てる)

 夏樹は、そう確信していた。


 R32GT-Rがモータースポーツ界を席巻しているのは、何も日本だけでは無い。マカオGPやスパ24時間でも、ツーリングカーの頂点に立った。世界各地で暴れまわるのは、かつてのハコスカ伝説では成し得られなかった事だ。


(女王、高峯のあを撃墜するのはこのあたしだぜ!!)


 夏樹は4点シートベルトを締め付け、バケットシートに体を固定した。

 目指すは頂点。今夜は、CTR撃墜の筆頭に躍り出る為の通過点に過ぎない。




 7M-GTEに火が入った。拓海も毎日同じエンジンの音を聞いているが、改めて別物だと思い知らされる。

 アイドリングの微振動で、内装のプラスティックの部品がコトコトと震える。これが、高速域に飛び込んで行くと、エンジンの振動や空気抵抗、更には路面のわずかなギャプによって、シェイカーの中で振られているかと思う位の振動を感じる。

「んじゃ……よろしくお願いします」

 拓海は、アヤに向けて言った。

「……ああ。所で、テスタロッサは大分前に走った時とは、別物なんだろ?」

 そう言いながら、アヤは4点式のシートベルトで体を締め上げる。

「ええ。お蔭様で、持ち主のハートに火が点いたって感じっす」

 助手席にも4点ハーネスが付いているので、拓海も体をガッチリと固定する。

「そうかい……そう来なくっちゃな」


 不敵に笑いながら、アヤはレーシンググローブに手を通した。




「……惚れ惚れするな」


 横に停車する、テスタロッサの低いシルエットを横目で見ながら、真奈美は呟いた。

 大排気量のV8OHVユニットは、アイドリングでも車全体を振るえさせるかのように振動を生み出している。しかし、図太いサウンドに混じって聞こえる、甲高い跳ね馬の雄叫びが、真奈美の耳にも届いていた。


(……どうやら、拓海くんはアヤくんのスープラに同乗する様だな。同情するよ……)


 内心で呟く真奈美の言葉は、ダジャレでは無い。彼女もアヤの運転のキレ具合を良く知っているから、拓海の心中を察しただけだ。

「どれ程の物か……見せて貰うよ」

 そう呟いて、コルベットのギアを1速に入れる。

 90年モデルのZR-1用のZF社製6速と、ほぼストックカー用と言っても差支えの無いスモールブロックユニット。女王不在の夜では、大本命の一台だ。




 ステアリングのセンターに張り付けられたキャバリーノ・ランバンテを、ヘレンはジッと見つめる。

 誇り高き跳ね馬のエンブレムは、生前の父が最も憧れていた。


「緊張してるの?」

 留美は、ヘレンに聞く。

「……違うわ」

 ヘレンは、強張った笑みで答えた。

「……そう」

 留美はそれ以上は、何も聞かなかった。


 上品な革張りの内装だが、飛び込んでくるのはメカニカルノイズの洪水。アクセルに忠実に反応するエンジンは、けたたましさの中にもどこか品格が感じられた。

 テスタロッサ。日本語に直訳すると、赤い頭。
 その名の通り、エンジンの天辺であるカムカバーが、ロッソコルサに塗装されている。

 1950年代から60年代初頭にかけてレースフィールドを戦った名車、250テスタロッサから、この名の由来が来ている。

 フェラーリの市販車は、アルファベットと数字を組み合わせる、言わばコードネームの様な名前が多い。そんな中で、テスタロッサというネーミングを与えられた。


 開発陣は何か特別な思いを、このテスタロッサに抱いていたのかもしれない。





 高まって行くボルテージ。各車のアイドリングが、けたたましくなってきた。

 先陣を切ったのは、GT-R。我慢しきれなかったのか、我先に駐車場から発進する。
 続くは、フェアレディZ、RX-7。そして、スープラ。

 それを見て、コルベットとテスタロッサが、それに倣った。更に続いていく、数台の走り屋達。


 パーキングから続々とスタートしていく、マシンの群れ。


 本能が命ずるままに。


 がむしゃらに勝利を求め。


 己の信念の為に。



 皆一同に目指すは、スピードの向こう側。



本日はここまでです。


SSの内容を考えている時、登場する車とかストーリーよりも、キャスティングに困ったのは内緒の話。


最終的に、姉御肌の多いキャスティングで落ち着きました。


結構、桐野アヤが好きだったりします。

ランエボは!? ランエボは出ないの!?
ライバルのインプレッサも走り屋って感じの車じゃないのかな

>>1
乙、ここの原田氏は10年後にリアフェンダーにカバーが付いた620馬力のFDを作って更にそのクルマを4ローターにしそうだな。


>>106
丁度この年に2台共発売されたばかりだからな、しかもインプは劇中ではまだ未発売とみた、エボとインプが首都高に出て来るまで後10年近くはかかるな。

ランエボやインプはまだ発売してないのか。スープラやRX-7って結構昔の車なんだなあとしみじみ思ったり

>>106
>>107の方の書いてある通りですね。ランエボは1992年の10月で、インプレッサは1992年の11月に発売してます。
ちなみに、ランエボとインプレッサはほとんどラリーベース車なので、最高速仕様に仕上げようとすると、逆にGT-R以上に手間と時間がかかります。一応、実例はあります。


>>107
スクートのFD、四十路sの小○さんですね。
書いてる途中で、スモーキー原田と、湾岸の木場くんって名前が頭をよぎりました。
原田Miyo次郎の大冒険は、流石にやりませんが……(V-OPT感)。


>>108
正直、昔あこがれた車が旧車の仲間入りすると……年齢を感じますね。
作中の70スープラやFC3Sは、昭和の車なので尚更そう感じます。


では、続きを投下します。

11.


 丸で、ジェット戦闘機が低空飛行を続けている様な轟音の群れは、街灯が照らす広いアスファルトを支配していた。

 市川パーキングを出発し、各車一団となり神奈川方面へ突っ走る。


 目前を走るコルベットのテールを、ヘレンは睨む。

(……いくわよ!!)

 3速全開。8200rpmまで引っ張って4速へ。

 片バンク6本の排気管は等長で1本に纏められ上げ、テールからはみ出る左右のマフラーから、F1マシンの如くソプラノの快音が放たれる。


(……例えようが無いわね)


 フェラーリミュージックに、助手席の留美も聞き惚れていた。

 巨体をグイグイと引っ張る12気筒は、これもまた横長なコルベットのテールに張りつく。スリップストリームを存分に効かせ、左車線からオーバーテイク。


 先を行く四台のテールランプが、互いを牽制しながら隊列を組んでいる。

「待ってなさい……」

 小さく呟いたヘレンは、ほくそ笑んだ。



 テスタロッサを意図的に先行させ、コルベットはディズニーコーナーに備える。

(……コルベットの本領は、これからさ。精々頑張りたまえ……木村君)

 百戦錬磨の真奈美は、トップ集団の動きを舐める様に観察する。さながら、獲物を狙う蛇の如く、静かにその瞬間を待つ。



 先陣を切って飛び出したGT-Rは、加速力も耐久性も優れる。しかし、夏樹は大きなミスを犯していた。

(……やべえな。焦ったか?)

 ルームミラーに反射する、追走車のヘッドライト達が、余計に焦りを増幅させる。

 GT-Rは、本来セダン車のボディがベースとなっており、他車に比べて全高も高く空気抵抗もかなり大きい。加えて、200kmオーバーでバトルする時は、スリップストリームが使える後追いの方が、有利に勝負を進められる。

 他のランナー達は、誰かが先に出る事を待っていたのだ。気がはやった夏樹は、追い立てるドライバー達に、まんまとハメられた訳だ。


 迫りくる、右に大きく曲がるディズニーコーナー。通常速度の走行では緩やかに弧を描いている様でも、200kmで飛び込めば箱根の山道かと思う位に、ステアリングを切らなければならない。

 夏樹は、軽いブレーキをかけてからインベタで進入。




 全員隊列を整えたまま、ならう様にしてインベタで飛び込む。

「……!?」

 四番手のスープラの左ミラーに、ヘッドライトが反射した。
 アヤと拓海は、横目で左のウインドウを一瞬だけ見る。

(テスタロッサか!!)

 ヘレンは、強引にアウトからスープラに並びかける。

「あの……バカ!!」

 アヤは罵った。スープラも1500キロオーバーの重量級だが、テスタロッサはそれに輪をかけてヘビー級だ。それにも関わらず、進入速度はスープラよりも速い。


 テールヘビーなテスタロッサは、コーナー立ち上がりで大きく膨らんで行く。瞬間的に頭をかすめたのは、外壁にへばりつく赤いフェラーリの姿だ。


 強くかかる横Gと格闘しながら、ヘレンは右にステアを切り、アクセルでマシンをコントロール。微妙な荷重変化を起こして、リアタイヤを踏ん張らせる。




 強くかかる横Gと格闘しながら、ヘレンは右にステアを切り、アクセルワークでマシンをコントロール。微妙な荷重変化を起こして、リアタイヤを踏ん張らせる。

 締め上げたサスペンションが、横Gに流される巨体を支えながらも、路面のうねりをしなやかに受け流す。
 アウト目一杯で持ちこたえ、左のリアタイヤが白線を踏んだ。

 一車線分横っ飛びしながらも、テスタロッサはアウトからスープラを抜き去った。

「サスも剛性、最高よ……」

 ヘレンは嬉しそうに呟いた。

 今度は、スープラがテスタロッサの馬鹿でかいテールを拝む事になった。

(……あの状態で持ちこたえやがった。車が良いのか? 馬鹿なのか?)

 アヤは苦々しく歯ぎしりしながら、ギアを5速へ叩き込んだ。

 テスタロッサがRX-7に並びかける時、スープラのテールにコルベットが張り付いていた。




 トップで粘るGT-Rは、5速6500rpmまで回っている。250kmで突っ走ると、前を行く一般車は丸で迫ってくるような錯覚をしてしまう。

(……車がいるな)

 湾岸のバトルで、鍵を握るのは一般車の群れだ。ここを如何に素早く切り抜けるかが、勝負の分かれ目。
 夏樹は右車線のまま、パッシングして自分の位置をアピールする。

 フェアレディZのステアリングを握り、あいはGT-Rの動きと一般車の流れを読む。

(……恐らく、右と真ん中が空く)

 ここで、ZはGT-Rのスリップを外れて並びかける。

 Zの動きを見て、美世は先を行く一般車の動きを予測する。

(……あいさんは動いたけれど、夏樹は動かない。
 恐らく真ん中と右なら大丈夫だけど……。テスタロッサはどう動くかな)

 サイドウインドウから、左端を突っ切るヘッドライトの光を見た。


 他者の動きを読んで、先手先手を取る駆け引きは、湾岸での走りに必要不可欠だ。一般車を如何に上手く避けるか否かで、その先のトップスピードに大きく影響してくる。




 これは、何も湾岸の走り屋だけのテクニックでは無い。

 ツーリングカーレース等、クラスごと速さの違うマシンが混走するレースは、周回遅れを利用してオーバーテイクする技も有る。


 こればかりは、経験値が物を言うだけに、ヘレンは如何にして一般車を切り抜けるのか。

(……こういうのはどうかな?)

 あいの動きに併せる様に、RX-7が真ん中のレーンへ。Zのスリップストリームを狙うと同時に、テスタロッサへの牽制も兼ねている。

 サイドバイサイドで並ぶ。跳ね馬の咆哮と、孤高のロータリーが共鳴し合って、空気の壁を跳ね返す。


 留美がRX-7の動きを見て、ヘレンに指示を飛ばす。

「RX-7の後ろに着きましょう。この車線じゃ、一般車に塞がれるわ」

 ヘレンは、首の動きだけで返事をする。200kmオーバーの世界で、口の方で答える余裕は無い。

 一瞬アクセルを抜いて減速。テスタロッサはRX-7の後方へ滑り込んだ。




 更にその前で、250kmで並走するZとGT-R。スリップストリームを効かせている分、速度の乗りはZが上回っている。横目でGT-Rをチラリと見て、並んだかと思うと、空気抵抗の少ないボディがジリジリと速度を伸ばしてトップを奪った。

 今度はミラーで後方を見る。

(着いてきているね……。仕上がりは想像以上か……)

 左後方に着いてきているテスタロッサ。その速さは、あいの予想を大きく上回っていた。

(……まだ、コルベットも来る筈だからな。ここは……美世くんと夏樹くんに頑張って貰おうか……)

 先を急いで、テスタロッサをGT-RとRX-7で押さえさせる狙いだ。


 先頭グループは葛西ジャンクションを通過。6台はほぼ等間隔のまま、更に速度を乗せていく。

 トップに出たZが、今度は集団を引っ張る。




 前方に一般車両が並んで走ってるのが見えた。空いているのは、一番右車線だけ。

(一列になるな……)


 一度左足を使って、何度かブレーキランプを点滅させてから、ウインカーを出して一番右にレーンチェンジ。先にブレーキランプを光らせたのは、一般車が増えたという合図と、一旦ペースをキープするという意思表示だ。

 後続も230kmで走っているので、突然減速したら追突されてしまう。先頭がクラッシュしたら、後続は全員巻き添えを食ってしまう。湾岸ならではのマナーの一つだ。


 ここからは、右車線で230km前後の速度をキープする。

 フェアレディZを先頭として、GT-R、RX-7、テスタロッサ、スープラ、コルベットというオーダーだ。




 あいは、ここで後続車を牽制している。

(……良い場面だ)

 一番先頭でペースをキープを出来るのは、あいに取って一番理想的な展開だった。

 後続がここで我慢しきれず加速して前に出てしまえば、スリップストリームの餌食になってしまい、東京湾トンネルを抜ける頃にはZの横長のテールランプを拝む羽目になる。空気抵抗の少ないZならば、トップスピードまで伸びてしまえば追いつく事は難しくなる。


 逆にゴールの大井ジャンクションまでの距離が短くなれば、ブーストを上げて一気に逃げる事も、フェアレディZなら十分に可能だ。

 あいが過去に、何度も女王にしてやられたテクニックだ。


 当然、他の走り屋もあいの狙いは解っている。読みを誤れば、相手の思う壺。手の内を読み、如何に自分のペースに引きずり込むかが、勝負の分かれ目だ。

 だからこそ、今は隊列を整えてチャンスを待つ。仕掛ける隙を見逃すまいと、前走車のテールランプを睨みつける。




 高速のクルージングの中、ステアリングを握るアヤの異変を、拓海は見逃さなかった。

(アヤさん……イライラしてるな)

 アヤがトップグループの中で勝ちきれない理由の一つは、アヤはこういう場面の駆け引きを苦手としている。

 助手席の拓海から見ても、焦ってるのが丸解りだった。

「……っ~」

 有明ジャンクションまで500メートルの看板の地点で、アヤの我慢は限界に達した。


 クラッチを蹴っ飛ばして、4速へシフトダウンし、右車線から飛び出てフル加速。テスタロッサ、RX-7を一気にまくった。

 7M-GTEのエキゾーストノートが高鳴ると、口火を切ったように全車フルスロットル。愛車に鞭を入れて、頭を狙う。


 ここで、ヘレンも真ん中へレーンチェンジ。スープラの後方にへばりついた。

「……勝負よ!!」

 ヘレンは、威勢よく叫んだ。




 この一瞬の駆け引きに後れを取ったのは、美世のRX-7だ。

 3ローターのビッグタービン仕様は、まだレスポンスが悪い上に、加速のタイミングがコンマ何秒か遅かった。低速トルクの細いロータリーエンジンで遅れを取ってしまうのは、致命的なミスだった。

(……しまった!!)

 そう思った瞬間には、時既に遅し。真横にコルベットの低いノーズが並んでいた。


 集団のしんがりを走っていたコルベット。真奈美は、虎視眈々とこのタイミングを狙っていた。

(……ここからが勝負所さ!!)

 桁違いにでかい排気量の生み出す強大なトルクで、加速力は随一。RX-7に並んだかと思えば、一気に抜き去って前方のテスタロッサのテールに近づいていく。

(……このまま、一気に行かせて貰おうか!!)

 前を行くマシン全てを、射程圏内に収める。




 しかし、今度は真ん中車線をふさぐタクシーがトロトロと走っている。

 右車線で先頭を走るZは車線を変えず、GT-Rもその真後ろのまま。だが、夏樹の真横にはスープラが居て、真後ろにはRX-7が走っている。

 テスタロッサとコルベットはいち早く、左車線へとレーンチェンジして加速を続けた。


(……行く所がねぇ!!)

 拓海は、タクシーのテールランプを見ながら硬直していた。このまま全開なら、タクシーに突っ込む以外考えられない。

 スープラはフルブレーキングする以外に、多重クラッシュからの逃げ道は無いとしか思えなかった。


「……のやろ!!」

 アヤはそう口走って、全開加速状態のまま右車線のGT-Rに幅寄せをかました。

 逃げ場が無い筈の車線に、強引に寄せてくるスープラ。

「正気かよ!?」

 夏樹は、声を荒げた。

 アクセルを踏みつけたまま、中央分離帯のガードレールギリギリまでGT-Rを寄せる。なおもアヤは幅を寄せて、GT-Rとスープラの間は10センチも無い。




 当然、3メートル50センチの車線に収まる筈も無く、両サイドが十何センチはみ出たまま突っ走る。

 タクシーの赤いテールが、そこまで迫り来ていた。

 ドン、と風圧が左サイドウインドウを叩いた。


 スープラは、タクシーをスレスレで避けていく。追い越すと同時に、アヤは中央車線へマシンを戻した。

 夏樹とアヤは時速240kmオーバーで、一車線の中を並走しながら全開でタクシーをオーバーテイクしてみせたのだ。

(……今のは怖ぇよ)

 スープラの助手席で、拓海は震え上がった。しかも、一番タクシーを近い位置で見ているから、ビビるのも当然だ。

(……勘弁しろよなぁ!!)

 ようやく左隣が空いて、夏樹はアヤに向けて左手の中指を立てる。間違いなく見てはいないだろうが、そうせずにはいられなかった。240kmで幅寄せされれば、ブチ切れるのも当然だが。

(……危ないってあれは)

 一番後ろでスタントを目撃した美世も、流石に焦った様だがアクセルは緩めていない。


 とは言え、この一悶着で夏樹、アヤ、美世の3台は若干遅れを取ってしまった。




 先に左車線へ移って、いち早く加速体勢に入ったテスタロッサとコルベット。逆車線から一気にトップのZまでオーバーテイク。ここでヘレンが、集団を引っ張る形となった。


 テスタロッサの後ろにコルベット。更にその後ろにフェアレディZが並んで、縦一列の隊列を組む。少し差を広げて、スープラ、GT-R、RX-7が編隊を組んで前の3台を追う。


 5速、6500rpm。メーター読み280kmでも、スピードメーターもタコメーターも、グングンと上昇していく。空気の壁を切り裂き、12気筒の咆哮が響き渡る。




 スリップストリームを生かして、コルベットがテスタロッサのテールに喰らい付いた。

(ここで前に出ないとまずいが……)

 真奈美は、センターコンソールに取り付けられた追加メーターで、水温と油温を見る。

(……水温も油温も上がってるか)

 既に追加メーターの針は、赤い文字盤にまで達していた。

 大排気量エンジンは強大なトルクを生み出す反面、エンジンの発熱量も半端無く大きい。

 油温が130度を超えてしまうと、レーシング用化学合成オイルであっても粘度が落ちてしまい、各メタルの油膜を保持しきれなくなる。

 加えて、スリップストリームで空気抵抗を減らす分、ラジエーターの風当たりは悪くなりオーバーヒートを招きやすい。

「……仕方ない」

 コルベットは一度スリップから外れて、ラジエーターに風を当てる。速度は落ちるが、エンジンブローをするよりはマシと言う、真奈美の判断だ。




 コルベットに変わって、テスタロッサの後方を捕えた、フェアレディZ。

(……残念だが、勝たせないよ)

 スリップストリームを効かせ、幅2メートル近いテスタロッサのテールに張り付いた。

 スピードメーターが290kmを指すと、東京湾トンネルが迫り来ていた。


 あいは、機械式ブーストコントローラーのダイアルを回した。更に過給圧を上げてパワーを稼ぐ。

 トンネル先の左コーナーを前で抜けて、最後の直線はパワーで逃げきる狙いだ。


 東京湾トンネルに入る。防音壁に反響する、12気筒の甲高いエキゾーストと、V6ツインターボの力強いエキゾースト。

 グイグイとテールに迫る、フェアレディZ。スリップストリームを生かして、テスタロッサを凌駕する伸びを見せる。

(……ここだ!!)

 メーターは300km指したと同時に、あいのフェアレディZが横に出た。

 視界が開け、一気にテスタロッサに並びかけた。




(……!?)

 同時に、フェアレディZのボンネットから白い煙が吹き上がった。風圧に負けて、ゆるゆると速度を落としていく。

「……何だ!? 何故……?」

 各追加メーターを見て、あいは状況を判断する。水温は正常。油温も問題無い。しかし、ブースト計は針がゼロを指したまま止まり、油圧も低下を始めていた。

(……まさか……タービンブローか!?)

 過給圧を高めた事で、メタル材質のタービンブレードと受け軸のメタルが悲鳴を上げたのだ。

 白煙を吐き出しながら、Zは惰性で走るしか無い。


 横目で見ながら、コルベットはZを追い抜いて行く。

 失速するZを何とかかわして、GT-Rはそのまま走り去った。


 スープラとRX-7はゆっくりと速度を落として、東京湾トンネル先の大井出口の路肩でハザードを焚いてマシンを停めた。




 Zのトラブルによって、レースにはレッドフラッグが振られた状態となった。

 スープラとRX-7に寄り添う様にZを停めると、あいはがっくりとうなだれるしか無かった。


 スープラから降りると、遠ざかるエキゾーストノートが聞こえた。聞き間違える訳が無いテスタロッサの咆哮は、勝利の雄叫びだったに違いない。

(……ヘレンの野郎、勝ちやがった)


 この状況でガッツポーズを出せる筈も無く、拓海は至極冷静を装っていた。


12.


 新参者のテスタロッサが勝ったと言う話は、湾岸ランナー達の大きな話題となった。瞬く間に噂は広がり、ヘレンとテスタロッサは注目の的になっていた。


 そして翌週。再び、湾岸へ。

 今度は、美世のRX-7と夏樹のGT-R、そしてアヤのスープラを交えて、4台の勝負となった。


 テスタロッサが終始トップを取り、初っ端から全開でぶっちぎった。ヘレンは、細かな駆け引きは一切しなかった。スタートからゴールまで、ただひたすら踏み抜いただけ。

 その結果は、他に5秒以上の差をつけて圧倒的な勝利をものにした。他を寄せ付けない、横綱相撲の走りだった。


 まぐれ勝ちは、何度も続かない。

 そうなれば、必然的に女王への挑戦権を得る事となった。最強の怪鳥に挑むのは、赤い跳ね馬。

 両雄が、湾岸で激突する日は近いと、誰もが思っていた。 





 当然、その噂は高峯のあの耳にも届いていた。


 そんな最中で、拓海は取材でのあの元を訪ねる事になった。

 若くして、高峯のあは高級外車を何台か保有している。自宅のガレージに並ぶBMWM5にメルセデスベンツE190等、庶民には縁の無い高級セダン。

 のあが最近お気に入りなのは、ジャガーのXJSのクーペ。5,4リッターV12搭載のモデルで、優雅に走るのにハマっているそうだ。


http://www.dotup.org/uploda/www.dotup.org537044.jpg.html


 自動車雑誌編集部員としての取材は、滞りなく終わった。

「……今日はありがとうございました。お蔭で、良い記事が書けそうです」

 拓海はそう伝える。

「それは、何よりですよ。だけど……あなたが聞きたい事は、まだ有るんでしょう?」

 のあの言葉に、拓海の顔付きは固くなった。

「……派手に走ってるそうね。彼女のテスタロッサ……随分と噂になってるわ」

 そう言いながら、のあはニヤリと笑みを見せた。





「そりゃそうでしょう。最近、どっかの誰かが湾岸に来ないお蔭でね。

 そのまま、フェードアウトなんて真似……しないよな?」

 拓海の言葉に、のあはフッと息を漏らした。

「……生憎ね。まだ、CTRは仕上がってないのよ。

 先日部品が来たから、もうすぐ出来上がるわ。良かったら見てみる?」

 自信に満ちていた。のあは、例えフェラーリでもGT-Rでも、勝てるつもりなのだろうか。


 ジャガーXJSで乗り付けたのは、高峯自動車。高峯グループの事業の一つで、外国車の販売や整備を行っている。

 とても車屋とは思えない綺麗な作りで、留美の勤める車屋とは似ても似つかない。


 豪華なショールームには今年出たばかりのポルシェ968のカブリオレと、数年前までグループCを戦っていたポルシェ956Cが展示してあった。

「……こちらよ」

 のあに案内されるがまま、ガレージの奥へと入っていく。




 ガレージの中で、ルーフCTRはリフトに乗せられていた。

 CTRの近くで、黙々と作業を進めるのは、以前紹介された相川千夏だ。

「へぇ……今度は何の工事を?」

 拓海はルーフの下回りを覗き見ながら、のあに聞く。

「ミッションを変更したわ。ルーフ社とZFが共同開発した、6速ミッションよ。今まで5速のままだったから、相当に効果が有る筈よ」

「……6速ねぇ。ミッションが壊れたついでって事ですかい?」

「残念ながら、外れよ」

 拓海の回答に、のあはそう告げた。


「……6速にギアを増やす事で、ギア比全体をクロスさせる事ができるのよ。

 例えば300kmまでの速度を出す時。5で割るより6で割った方が、一つのギアの加速力を上げる事が出来るという理屈になるわね。

 つまり、300kmまでの到達時間が速くすると言うのが、ミッションを交換する狙いなのよ。

 ちなみに、ロード&トラック誌で339kmをマークした時は5速仕様で、ドイツのアウトモーター&シュポルト誌で342kmは6速仕様だったのよ」


 千夏は、拓海へ向けてそう解説した。




「恐らく、トップエンドの伸びはフェアレディZ以上でしょうね。だったら、追い付かれる前に逃げ切るだけ。

 あなたも、一度味わってるもの。わかるでしょ?」

 のあは、そう宣告した。


 拓海は、CTRの加速力を思い出す。否、体に刻み込まれたと言った方が正しいだろう。

(……あの時以上の加速をするって事なのか)

 その恐れにも似た感覚が蘇った時、テスタロッサはCTRに勝てるのか、と一瞬だけ疑ってしまった。


「……とは言っても、新品のパーツなのよね。慣らしがあるから、まともに攻めるのは一ヶ月くらい後かしらね。

 ……少しの間は、いい気分に浸れるんじゃないかしら」


 のあが、そう言った時。その視線は、冷たく研ぎ澄まされていた。




「……高峯さん。一つだけ、聞かせてくれ。あんたは、何故湾岸を走るんだ?

 あんた程の人間なら、何不自由なく育ってきたんだろう?

 金だって不自由してないし、仕事も充実してる。まして、あんた位の美人だったら、男だって選びたい放題だろ。遊び半分で命を賭ける様なリスクを、わざわざ背負う必要が有るのか?」


 拓海は、そう聞いた。以前から、少し気になっていた事だった。


「何故かしらね……。

 確かに、私は恵まれた環境で育ってきたわ。子供の時から何も不自由していないし、その気になれば手に入れられない物は無いでしょう。

 だけどね……あなた達の様な湾岸ランナーと、根底は同じなのよ。

 視界が狭くなるほどのハイスピードで走るスリル。頭の中では、もう止めろって声と、もっと速く走れって声が混ざり合ってる。体が熱くなってるけれど、背筋は震えてる。

 そして、全身が震えあがる様な恐怖を、気持ちで凌駕したとき……生きてる実感を得る。


 その一瞬は、セックスするより何百倍も気持ちいいのよ」


 のあはそう答えた時、実に楽しそうだった。リスクを冒す事で、快感を得ているのか。


「……あたしもあんたと変わらないんだろうな。その気持ちは、あたしも……いや。あたし達も良く解るよ」

 拓海もその気持ちは良く解る。だからこそ、そう言葉を漏らした。




 少しの沈黙。千夏が、ガチャガチャと作業する音だけが、ガレージの中に響いた。

「彼女に伝えてくれるかしら……。首を洗って待っていなさいってね」

 のあは、そう伝える。拓海は、黙って首を縦に振るだけだった。




 仕事を終え、何時もの様に留美の整備工場に立ち寄る。特にテスタロッサをいじる必要は無いし、仕事で手伝える様な事も無い。

 ただ、何か月も立ち寄っているので、半ば日課になっていた。

「……こんちわ」

 シャッターを潜り、工場を覗く。何時もの様に、整備に勤しむ留美がそこに居た。

「いらっしゃい。少し待ってて……」

 何時もの様に留美が出迎えてくれる。


 ガレージの隅に積まれた廃タイヤに腰を下ろして、留美の作業をただ見つめる。一通りの作業が片付く頃には、日はすっかり落ちていた。

「……随分と暗い顔してるわね」

 拓海の表情から察したのか、留美はそう声をかける。

「ええ……まぁ。

 高峯のあを取材してきましてね。あちらさんは、随分とテスタロッサを意識してるみたいっすよ。

 今、CTRを6速ミッションに換えてる事を、わざわざ教えてくれたっす……」

 少しうんざりした様に、拓海はそう言った。

「……そう。6速仕様ねぇ……。

 あえて教えるのなら、余程自信が有るんでしょうね」

 留美は、ふぅと息を吐き出した。


「ところで、姉御。“アレ”は間に合うのか?」

「今日の昼に届いたって連絡が入ったわ。今日の内に、真奈美とヘレンが持ってくる予定よ。これで、カードは揃ったわね」

 留美は、ニヤリと笑った。




 予告通り、真奈美とヘレンは閉店間際に工場にやって来た。普段ならコルベットで来るところだが、今日は営業用のカローラバンに荷物を積んで到着した。

「またせたわね。これ、夕飯よ」

 ヘレンは、コンビニ袋を差し出しながら、カローラから降りてきた。

「おお、ナイスじゃねーか」

 真っ先に、拓海がコンビニ袋を受け取った。


「ご苦労様。所で、“アレ”は?」

「ああ。トランクに積んで来たよ」

 留美に向けて、真奈美は伝えた。


 満を持してカローラのリアハッチを開けると、対CTR用の秘密兵器とご対面だ。

 段ボールに包まれたホースや、金具に付属品。そして、このパーツのメインと言える、一見消火器にも見えてしまうボンベ。


「……これが“ナイトロオキサイドシステム”か」


 拓海は、マジマジと見ながら呟いた。

「フェラーリにナイトロチューンを組み合わせるのは、恐らく世界で初めてだろうな」

 真奈美は、したり顔で言った。




 ナイトロオキサイドシステム。元々は航空機用の技術だったが、アメリカのドラッグレース用に転用されたチューニングだ。

 瞬発的なパワーを出すには最高の物と言える。


 ナイトロオキサイドとは、日本語で亜酸化窒素化の事を言う。

 簡単に言ってしまえば、ボンベの中に酸素の塊が入っており、それをインテークパイプ内に直接噴射するというシステムだ。


 このシステムの大きなメリットは二つ。

 一つ目は、酸素の供給量が増える為、必然的に燃焼効率が大幅に上がる事。より多くの燃料を効率良く燃やせるという事は、パワーが飛躍的に向上する。

 二つ目は、亜酸化窒素の気化熱によって、吸入温度を下げる事が出来る。温度が低ければ空気の密度は高くなるので、これも燃焼効率の向上に繋がる。更に、副産物としてエンジン全体の冷却にも効果が出るのだ。


 理論上ナイトロシステム使用中ならば、1,5倍のパワーは上乗せ出来ると言われる。フルチューンのNAエンジンで、更にパワーを稼ぎ出すのはナイトロ以外の方法は無いだろう。



 ただし、パワーを持続するのは1分から2分だけ。ボンベの中のナイトロオキサイドが切れてしまえば、元のパワーに戻ってしまう。

 瞬発的な使い方しか出来無い為、使い所を見極めるのは難しい。下手に使いすぎれば、最後の直線でナイトロが切れてしまう事も考えられる。


「……とりあえず、食事を取ってから取り回しを考えましょう」

 留美は、そう言ってカローラのハッチを、一旦閉じた。




 食事休憩を終えて、早速4人がかりでテスタロッサにナイトロを搭載する作業に取り掛かった。


 ナイトロのボンベの搭載位置は、助手席の足元に取り付けた。フロントのトランクも考えられたが、ボンベのバルブを緩めなければならない為、車内がベストと結論付けた。

 圧力を安定させる為、ボンベヒーターを取り付け、プレッシャーゲージも装着。ナイトロ噴射のスイッチは、ステアリングの右側に赤いミサイルボタンを装備した。


 インテークパイプ周辺のフューエルホースに並んで、ナイトロ用の細いステンメッシュホースが、各気筒ごとに並んだ。

 ナイトロ用のノズルとインジェクターが並ぶ様に併設し、スロットルバルブからインテークバルブまでに、亜酸化窒素とガソリンが混ざり合って、燃焼室に混合気が送り込まれる。

 ドライショットと呼ばれる設置方法に決定した。


 フューエルパイプにノズルを噛ませ、ガソリンとナイトロを直接混合させるウエットショットと言う噴射方法に比べ、ドライショットの方はインジェクターからの噴射量に限界有る為、ウエットショットに比べてパワーは劣る。

 しかし、テスタロッサの場合は機械式のインジェクションになる。その為、エンジンの回転数をセンサーで感知して、インジェクターが燃料の噴射量をはじき出している。


 流入空気量を感知して燃料噴射量を決める電子式のインジェクターに比べ、機械式の方は細かく燃料の制御をする事が出来ない。レース等で使われるモーテック製のコンピューター等を使う事も考えたが、水平対向12気筒でのセッティングは前例が皆無だ。

 セッティングの時間や、ナイトロの搭載量を考えた末、ドライショットの方がメリットが多いと結論付けた。




 それでも、ナイトロ噴射の際に燃調に難が出ると考えた留美は、助手席に乗り込みナイトロ噴射時は燃調コントローラーを自ら制御すると言う作戦を考え付いた。


 セッティングを攻めすぎて爆発力が上がりすぎれば、レーシング用鍛造ピストンと言えど、熱でピストンが溶けてしまうデトネーションが起きてしまう。

 電子制御式のインジェクションならば、コンピューターの改造で対応出来るのだが、古典的な機械式インジェクションのテスタロッサでは致し方無い事だった。


 全てを取り付けた後は、最適な燃調を見つける為にセッティングしなければならない。


 3日後。仕上げは真奈美の輸入車専門店で、シャシーダイナモを借りて、仕上げの燃調セッティングを行った。


 ヘレンが自ら乗り込んで、助手席で留美が最適なセットを探り出す。




 ナイトロの噴射量と燃調コントローラーのダイアルを、A/F計とにらめっこしながら調整していく。少しずつ燃料を薄くし、ナイトロの噴射量を増やしていく。


 何度か目のトライ。

「……回して頂戴」

 留美に言われ、ヘレンは頷く。

 テスタロッサの極太のリアタイヤが、シャシーダイナモのローラーを蹴っ飛ばす。


 3速、4速とシフトアップ。そして、5速全開。F113Bがけたたましく唸りを上げ、計測器の針がグングン上昇していく。側で見守る拓海は両耳を手で押さえるが、それでも鼓膜がビリビリと震える。

 トップエンドまで回りきった時、計測機を見ていた真奈美は目を見開いていた。

「……どうかしら?」

「生憎だが、測定しきれていない……600ps以上だ。恐らく、650psは出ていると思う……」

 留美に聞かれ、真奈美はそう答える。

「グループAのGT-Rと、同じレベルかよ……」

 桁違いのパワーを手に入れたテスタロッサに、拓海は驚愕を通り越していた。

「……世界レベルにふさわしくなったわね」

 ヘレンは、得意げに答えた。


「とは言え、この噴射量だと使えるのは2回だけね。一回でも使うタイミングを間違えれば、勝機はないわね。

 本番では、私がそのタイミングを見極めるわ」

 留美はそう言いながら、ダイアルにマーキングを付けた。

「……頼むわよ、留美」

「ええ。任せて」

 留美は、テスタロッサの助手席から降り立った。


13.


 11月上旬、水曜日。日が落ちれば、随分と冷え込むようになった。天候は雲一つないが、都会の夜空に星は浮いていない。

 平日の市川パーキングの深夜は、週末とは比べ物にならないほど、静まり返っていた。

 高峯のあに指定されたこの日。時刻は天辺を過ぎた頃に、ヘレンと留美は、テスタロッサで。拓海は真奈美を乗せてソアラで。市川パーキングに辿り着いた。


 パーキングで待ち構えて居る2台のポルシェ。ルーフCTRイエローバードと、964ポルシェターボ。

(……相川千夏は、着いて来ただけだろうな。しっかし……この面子じゃ、あたしのソアラがみすぼらしく見えるぞ……)

 高級車の群れに、少し嫉妬する拓海だった。


 わざとらしく、CTRの隣に停車したテスタロッサ。乾いたフラット12の排気音が、静かなパーキングに響き渡る。そして、ソアラも隣に陣取った。

 マシンから降りると、高峰のあ、相川千夏の両名が出迎える。




「……ようこそ。最終ステージへ」

 のあは、おどけた様に言うが、冷たい視線のまま4人を見ていた。

「……ふふ。良い夜になりそうね」

 含み笑いを見せながら、ヘレンはのあと視線を交錯させた。

「まともに、挨拶するのは初めてね。高峯のあです」

「……ヘレンと呼んで頂戴」


 互いの自己紹介は、簡素だ。そんな能書きは必要ない。

 今ここで、お互いの波長を感じられるから。百の言葉を交わすよりも、きっと確かだと解るから。


「……行きましょうか」

「ええ」

 のあの言葉に、ヘレンは頷いた。


 2台の猛獣が、雄叫びを上げる。
 ツインターボのフラット6と、NAの水平対向12気筒。

 ドイツの英雄と、イタリアの誇り。世界を引っ張り続けてきた、スーパースポーツの両雄が、湾岸線を舞台に火花を散らす。

 CTRがゆっくりと動き出すと、テスタロッサもそれにならった。




「……行ったわね」

 千夏は、遠ざかる赤いテールを眺めながら呟いた。

「追いかけないのか?」

「10分後には、私のポケベルに連絡が入る筈よ。それを過ぎたとしたら……巡航速度で追いかけるわ」

 拓海の問いに答えた千夏は、どこか不安を隠せていない様だった。

「……今は信じようじゃないか。彼女達をね」

 真奈美は、願いを込めてそう言った。




 3,4リッターのフラット6に二つのターボチャージャーを組み合わせ、カタログデータは469psと記載されているが、実測では500psを超えるモンスター。加えて、CTRの重量はテスタロッサよりも400kg近く軽量な車体。


 3速全開。ヘレンの視界から、見る見る内にテールランプが離れていく。

 しかし、ヘレンは意外と冷静だった。

(……初めての時よりも、ついていけるわ)

 道の先を見据え、4速へシフトアップ。一度ドロップしたタコメーターが、旋律と共に上昇していく。


 200kmを超え、風を切り裂く音が一層大きくなる。テスタロッサは、ひたすら前へ前へ走ろうとする。
 走る事を宿命とする跳ね馬は、より速くとドライバーを攻め立てる様だった。

「……ディズニーコーナーを抜けてから、一回目を使うわ」

「オーケー……」

 留美の指示に、ヘレンは答えた。




 長く右旋回する、ディズニーコーナー。

 RRという古典的なレイアウトは、リア2本のタイヤに6割強の重量が乗っかる分、強力なトラクション性能を発揮する。

 しかし、2272mmのショートホイールベースかつ、トレッドの狭い930ボディの場合、長く旋回するコーナーでの安定感に難が有る。旋回中にリアタイヤが、ほんの僅かでもグリップを失えば、一気にテールが滑りコントロールは不可能になる。


 のあは、5速のままブレーキング。きっちり210kmまで落とし、ヒールアンドトゥを使って4速へシフトダウン。フロントに荷重を乗せて、ゆっくりとステアリングを切る。

 進入から、一定の舵角とブーストが落ち切らない程度のスロットル開度で、丁寧にクリッピングポイントを舐める。

 立ち上がりもアクセルは焦らない。ゆっくりとアクセルを入れて、少しづつリアに荷重を乗せていく。


 トラクションに優れるポルシェは、基本に忠実なスローインファストアウトを徹底する事で、もっとも速く走らせるマシンなのだ。




 立ち上がって全開。のあは、右車線にマシンを寄せてから、ミラーでテスタロッサのヘッドライトを確認した。

(……コーナーで詰められてる)

 その差は、縮まっていた。


 CTRに比べ、二回り以上に恰幅の大きいテスタロッサ。ノーマルボディの剛性不足を解消する事で、ワイドトレッドとロングホイールベースの利点を生かせる。つまり、より高速域の安定感を身に付ける事が出来たのだ。

 ストレートに入り、テスタロッサはCTRの後方を捕える。そして、5速へシフトアップ。


「……一回目。行くわよ!!」

 ナビシートの留美が声を張り上げた。燃調コントローラーのダイアルを捻った。

 同時に、ヘレンはステアリングのミサイルボタンを押して、ナイトロ噴射。




「……ッ!!」

 5速5500rpmまでドロップしたF113Bが、唸りを上げながらスピードを乗せていく。

 650psと真奈美が伝えた、最高出力。その加速Gで、ヘレンと留美の体はシートに押し付けられる。

 これまで、体感した事が無い位凄まじい力だった。以前が片手で押されてる位の感覚だったとすれば、今は両手両足を使って思いっきり押し出されている程、感じられる加速度が違う。


 急激に視界が狭く感じられる中、ヘレンはステアリングを握り、ルーフのテールランプを見据え続けた。


 CTRが6速へシフトアップ。しかし、ミラーに反射するする光が、グングンと迫り来ている。

(……近づいてくる!?)

 NAでありながら、ツインターボを凌ぐ加速力をみせるテスタロッサに、のあは初めて動揺を見せる。

(何故なの!?)

 相手のカラクリが解らない以上、のあには手の打ちようが無い。




 辰巳ジャンクションを、270kmで通過。ここでテスタロッサが、CTRのスリップストリームに入った。同時にナイトロのスイッチをオフ。

 280km。ヘレンは、ギリギリまでスリップを効かせて、速度を乗せる。

 290km。CTRの左に出て、テスタロッサが横に並んだ。

 300km。高周波と化した風切音を切り裂く様に、12気筒のNAのエキゾーストノートが、湾岸の闇夜に響き渡る。

(……仕方ないわ)

 のあは、アクセルを緩めて、一度テスタロッサを先行させる。


 今度は、テスタロッサの背後にCTRが喰らい付く。




 しかし、この時点では、のあが考えていた展開とかなり異なっていた。

(最高速の伸びはともかく、CTR以上の中間加速を見せたわ……。音を聞く限り、NAで間違いない筈なのに……)

 ぴったりと後ろに張り付いて、テスタロッサの動きの一つ一つを見極める。

(ま、いいわ……)

 まだ手は有るとばかりに、ヘレンを追い立てる。百戦錬磨の女王たる由縁は、最高速の速さもさることながら、いかなる状況でも冷静さを失わない事につきる。

(……一般車を、上手くかわせるのかしらね)

 のあは、じっくりと獲物を狙うハンターの様に、テスタロッサの一挙手一投足を見逃さない。




 赤いテールランプの群れが見えた。300kmから、一旦減速して速度は220km程度まで下がる。

 100kmで走る障害物を、縫う様に追い抜いて行く2台。テスタロッサの真後ろにぴったりと喰らい付いたまま、CTRが追いかける。

「……ッ」

 ヘレンは、チラチラとミラーで後ろを見る。

 走りの熟練度と言う部分では、ヘレンは未熟だ。


 以前のバトルでは、他のトップランナーを真正面から押し切れたとはいえ、駆け引きに関して言えばヘレンは素人同然。

 こういった接戦では、弱さを露呈する。

「……」

 ヘレンは、またもミラーを見た。出来る限り、CTRの動きをうかがっている。

 後ろに迫りくる、女王のプレッシャーは、並大抵では無い。


「大丈夫よ。……マシンを信じて走りなさい!!」

 留美は、ゲキを飛ばした。

「…………」

 ヘレンは何も答えない。

「……フェラーリが好きなんでしょ!? 世界レベルにふさわしいマシン何でしょ!? だったら……トップエンドまで踏み抜きなさい!!」

 そこまで言われ、ヘレンの口元が僅かに緩んだ。


「……ええ。任せなさい!!」


 そう答えた時、ヘレンはミラーを見るのを止めていた。




 有明ジャンクションを通過。

 まだ一般車は消えない。残すは、東京湾トンネルと、その先の左コーナー。

(……左コーナー先で、1,5までブーストを上げる。そうすれば、抜ける……)

 のあは、右手でコンソールボックスから生える、機械式ブーストコントローラーのダイアルの位置を確認。勝負所はそこしかないと見据えていた。


 それは、テスタロッサも同じだった。

「左コーナーを抜けたら、二回目を使うわよ」

「……オーケー!!」

 燃調コントローラーのダイアルに、留美の左手が伸びた。


 東京湾トンネルを抜け、左コーナーへ差し掛かる。

 230kmでの左旋回。一番左車線を走るトラックを追い抜けば、一般車は居ない。


 コーナーを立ち上がると同時に、一般車の姿が途絶えた。水銀灯とアスファルトだけが立ち並ぶ、ストレートがそこに広がった。


 オールクリア。




 テスタロッサがナイトロを噴射すると同時に、CTRもブーストを上げて勝負をかける。

(……6速へ!!)

 CTRは、左コーナーを5速で立ち上がり、6速へシフトアップ。


 一回分のシフトで、ゼロコンマ何秒だけ、ブーストの立ち上がりが遅れた。その一瞬のラグで、テスタロッサが半車身だけリードを奪った。

 5速のままコーナをクリアしたヘレン。アクセルを踏みつけ、目一杯の燃料と亜酸化窒素と空気を、燃焼室に送り込む。


 爆発した排気ガスが、12本のエキゾーストマニホールドを叩いて、ソプラノのミュージックを奏でる。

 流麗なボディは、風圧に負けじと加速を続ける。




 250km。

 260km。


 スピードメーターもタコメーターも、グイグイと上昇を続ける。


 270km。

 280km。


 大井ジャンクションを通過。

 僅かだが、CTRはジリジリと離されていく。

(……速い)

 のあは、ちらりと追加メーターで、エンジンのコンディションを確認。

(油温も油圧も問題無い……。ただ、排気温度が上がってるわ……ブーストも1,3までタレてる……)

 中速域でトルクの出るツインターボの特性は、200kmオーバーの速度域で強力な加速力を生み出すが、高回転域での伸びはテスタロッサに比べ少し劣っていた。

 エンジン特性の差が、ここで出てしまった。




 290km。


 295km。


 テスタロッサがジリジリとリードを奪う。黄色い怪鳥が、初めて後塵を拝んだ瞬間だった。


 300km。


 305km。


 ヘレンが叫んだ。

「……見えたわ!!」


 高速道路上を横切る、大井ふ頭の連絡道路。

 湾岸ランナー達が決めた、チェッカーフラッグだ。


 5速、8200rpm。時速310km以上。


 防音壁に響いた甲高いエキゾーストノートは、紛れも無く勝利の雄叫びだったに違いない。




 市川パーキングに待機する三人。テスタロッサとCTRを見送って、きっかり10分経ってからだ。

 千夏の持つポケベルのアラームが鳴り響いた時、まずは安堵の息を吐き出した。


(長い10分だったぜ……)

 拓海は、真っ先にそう思った。このまま連絡が無ければ、万が一の事態さえも考えられたのだから、無理も無いだろう。


「……彼女からは何と?」

 真奈美が聞くと、千夏は何も答えずに、ただポケベルに送られたメッセージを見せた。


“マケタ”


 そのメッセージを見た時、拓海と真奈美は反射的にハイタッチを交していた。




 2台は大井南ジャンクションを降りて、海浜公園の近くに車を停めた。のあは、先に公衆電話を使ってポケベルでメッセージを送った。


 無事だという事だけ報告し、のあは再びヘレン達と対峙する。

「テスタロッサの……あの加速力は一体、どんな秘密が隠されているの?

 あの音は、NAのままの筈よね?

 いくら5リッターだからと言って、あそこまでの加速力を生み出すのは、不可能なはずよ……」


 のあは、捲し立てる様な口調でテスタロッサの秘密を聞きただした。




「……ナイトロオキサイドシステムよ」

「……ドラッグレースで使うあれの事?」

「そうよ。勿論、一晩で使い切ったけれどね。NAでターボを上回る加速力を身に付けるには、ナイトロ以外に考えられなかったわ」


 留美に言われ、のあはフッと笑みを見せた。


「……呆れたわね。今日一晩だけ速ければ良いって事だったの?」

「そうなるわ……ね? ヘレン?」

「ええ、そうよ」


 話を振られ、ヘレンは得意顔を見せた。


「……今日の所は、私の負けね。だけど……また走りましょう。

 まだ、私は降りる気は無いから……」

 そう言い残し、のあはCTRに乗り込んだ。
 空冷フラット6のエキゾーストを木霊させて、夜の街へと消えて行った。


「……私達も帰りましょうか」

「……そうね」

 そして、テスタロッサに乗り込んだ。


エピローグ


 それから、三日後。土曜日。

 拓海は、仕事を終わらせてから、何時もの喫茶店で待ち合わせて湾岸に行く。そう決めていた。

 喫茶店のテーブル席で、コーヒーを飲みながら、走り屋達の騒ぎ立てる噂話を耳に入れよう。絶対に、ヘレンのテスタロッサが高峯のあのCTRに勝ったと言う話で持ちきりになってるから。その瞬間を、心待ちにしていた。


 しかし、昼前。一本の電話が入った。

「……はい、O誌編集部です。

 あ、姉御っすか。どうしてまた、電話なんか……」


 スピーカーの向こうから聞いた留美の言葉。

 拓海は、性質の悪い冗談にしか聞こえなかった。むしろ、信じたくない現実だった。


「ヘレンが……死んだ?」


 突然の訃報だった。




 無我夢中で仕事先から飛び出した。ソアラに飛び乗って、留美に言われた場所へ急ぐ。

 目的地は、目黒区の警察署だ。


 警察署に辿り着いた時、留美と真奈美が先に辿り着いていた。

 無言で、そこに保管されているテスタロッサに目を向ける。


 左側面。特に運転席の部分が、くの字に折れ曲がっていた。

 アルミ製のドアと鉄製のサイドシルが、電柱の形をトレースする様に丸く潰れていた。真横から、ぶち当たった事は容易に想像できた。




 警察の実況見分に寄れば、事故が起きたのは昨夜未明。

 ヘレンは、昨日の朝からテスタロッサで横須賀のベースに向かい、母親と共に父親のお墓参りに行ってた。


 その帰り道。目黒区の県道を走っていた時に、事故が起きた。

 事故現場は、飲み屋の立ち並ぶ歓楽街。道に飛び出してきた酔っぱらいを避けた時、コントロールを失って、左側面から思いっきり電柱にぶち当たった。

 当たり所が悪く、ヘレンは頭を打って即死していた。


 時速は、たったの50kmで起こった事だと。警察はそう伝えた。




 リアの重いテスタロッサは、一度でもテールが出るとコントロールが難しいと、以前に留美は言っていた。


「だからって……こんな速度で逝っちまうのかよ……」

 夢の残骸を見た時。拓海は、地面に膝から崩れおちていた。



―END


バッドエンドかよぉ!!



モバP「……凄いカーアクションでしたね」

今西部長「若い頃を思い出すなぁ……。昔あこがれた車が並んでると、年甲斐も無く……こう胸が熱くなるよ」

モバP「それにしても……。この作品の最後……よくヘレンさんが、脚本に納得しましたね……」

ちひろ「……確かにそうですよね」


今西部長「……随分昔の事だが。ある走り屋が乗っていたマシンがあってだね。オプション誌の最高速テストで、初めて300kmを超えたんだ」

今西部長「しかし、その記録を出した3日後に、彼は交通事故で亡くなってしまったんだ……」

今西部長「……恐らく、その伝説の走り屋に、脚本を重ね合わせたんだろうね。だからこそ、彼女も納得したんだと思うよ……」



モバP「へぇ……。それにしても、部長。随分詳しいですね」

ちひろ「もしかして、部長……ああ言う事やってたとか?」


今西部長「いや……そこまではしとらんよ?」

ちひろ(何で、疑問形?)

モバP(……RX-8を転がしてるじゃん。多分、このジジイやってたな……)


おしまい

 
以上になります。最後の部長の話してた内容は、実話です。


それと、1992年当時だと、湾岸線は東海JCTから羽田空港までが繋がってなかったそうです。

また、思いついたら車の話を書こうと思いますが……需要はあんまり無いかな?


もし、今後車関係のSSを書きたい人が居るのなら、一つだけアドバイスします。

イニシャルDと湾岸ミッドナイト以外の車知識を身に付けましょう。でないと、車知識が偏ります。


では、失礼します。

伝説は伝説のままで、だな
面白かったよ乙

ポルシェとZ以外全部同じ車に見えたのは秘密だw
昔のスポーツカーってカクついてたんだな

>>162
ちょっと、後味悪いかもしれませんが……。
300km走って死なない奴でも、50kmで死ぬ事があるっていう、皮肉めいたラストにしました。

モチーフにした小説だと、もっと後味の悪いなラストでした。


>>165
正直、カッコよく言えばそういう感じです。

正直、解らない人が見ると、そうかもしれませんね。今見ると、当時の車ってすごく空力の悪そうなデザインだけどwwww
自分が子供の時に憧れた車たちです。

乙!
読み応えあって面白かったぜ!

俺が知ってるスープラやRX-7はもっと丸っこいデザイン
だったが、次世代だったのかな?
>>1は40出てるんじゃないか?w

乙乙!

ラストはむしろすごくよかった
この手の漫画が流行ってた頃のいい意味での定番をやってくれた印象w

>>167
ありがとうございます。

>>168
その通りですよ。一応言っときますけど、安部菜々さんと(精神面は)同い年。体は、礼子さんと志乃さんとタメです。

>>169
まぁ、ありがちな展開ですが……。ただ、これが現実にあった話なのでねぇ……。
もし、気になったら「光永パンテーラ」で、検索すると良いと思います。

>>170
検索してきたw

こういうのが、ジェームズディーンとかの逸話と合わさって
当時いろんな漫画やらで描かれたエピソードの下敷きになってるんだなぁとちょっと感動してしまった

乙、湾岸でも相沢の親父とブラックバードが同じ事故り方してるんだよな。

世界観的にまだ出て来てない誰かがこの半年後くらいに悪魔のZを持ち出して来そうな予感がする、丁度島と初代アキオが売り出し中の若手だった時代の筈だし。

>>1は31なの?
俺と同年代なのにこんなに車詳しいのか
自分の中身の無さに絶望したorz

あ、SSは面白かったっすよ

>>171
事実は小説より奇なりって言葉が有りますけど、本当にそうだと思いますよ。
例えば、アイルトン・セナなんか、よっぽど漫画的な話が多いじゃないですか。

>>172
時空列的には、そうなりますね。
ちなみに、自分がモチーフにした「バンザイラン」という小説は、湾岸ミッドナイトのモチーフでもあります。

>>173
自分の場合、子供の時から車が好きだったので、中身どうこうって訳でもないですよ。
好きだったから、とことん打ち込んだだけです。

乙です
ゲームの中でさえテスタロッサとRUFは扱いにくい

乙です
流石に警察サイドは出なかったか・・・
神奈川県警のNSXに乗った早苗さんとか出るかなとちょっと期待してましたww

>>175
自分もそう思います。実際、当時のビデオにサーキット走行が収録されてましたが、ドライバーが兎に角乗りにくそうでした。

>>176
そのネタも頭をよぎりましたが、それやると話がややこしくなるので、止めましたww

気が向いたらFとかSSとかネタにして書いてほしい

凄く面白かった
首都高バトルもよかったし次も楽しみにしてます

エピローグ三日後って見て、あ、これパンテーラだと思ったらパンテーラだった
あと常磐道は柏以北に街灯ないです
谷田部ー守谷間は自分のヘッドライトの範囲外は月明かりだけが頼りw
目黒に県道もないですねw

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