桃井あずき「儚くない桃色」 (19)
8月が終わる前にスレたて
最終話です
前作
工藤忍「橙色に染まる場所」
前々作
綾瀬穂乃香「空の青と海の青と青い私」
前々々作
喜多見柚「黄色い花は太陽の花」
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楽しかった一日もそろそろ終わりだね。
忍ちゃんの案内で海を見ていたけど太陽も沈んじゃった。
もっと見ていたかったなぁ。でもアレぐらいがちょうどいいんだよね。
桜もそう、花火もそう、そして夏もそう。
変わりゆくから、過ぎ去っていくから美しいんだよね。
柚「ねえねえ!近くでお祭りやるみたいだよ!」
忍「花火大会なのか。行ってみようか。」
あずき「お祭り大作戦だね!」
穂乃香「楽しみです。」
実は少し楽しみにしていることが。
実家が呉服屋なこともあってお祭りといえば常に浴衣。
もちろん和服のほうが好きなんだけど洋服のままお祭りは初めて。
なんだか少し悪いことをしている気がしてどきどきしちゃうな。
いや、別に悪いことじゃないけど。
それじゃ、洋服大作戦だね。
忍「結構人いるな。」
穂乃香「柚ちゃん、迷子にならないでね。」
柚「なんで柚だけ!それよりあずきちゃんのほうが迷子になりやすいでしょ!」
あずき「えー?どうして?」
柚「あずきちゃん身長ちっちゃいじゃん。」
あずき「あー!気にしてたことを!いつもは下駄だからもう少し高いけど…、」
忍「手でもつなぐ?」
あずき「忍ちゃんまで子ども扱いしてっ!」
忍「ごめんごめん。」
あずき「ぷくーっ!ってあ!あれは金魚すくい!あずき大好きなんだっ!やっていいよねっ!」
穂乃香「だめですよ。せっかくやっても旅行だからもって帰れませんよ。」
あずき「えーっ!せっかくの金魚すくいだよ?」
柚「駄々こねると子どもっぽいって思われちゃうよ。」
あずき「うー。しかたないかぁ…。」
忍「あ、なんかブサイクな弓がある。」
穂乃香「あ、あれは秘丹弥虚羅多弓!」
忍「知っているの穂乃香ちゃん?」
穂乃香「突如現れた謎の生物への畏れから作られた弓。刺し貫く編み棒には謎の生物にまつわる逸話があり、謎の生物とは木っても切れない関係にある。」
忍「柚ちゃん…。」
柚「ちがうよ!関係ないよ!柚は刺した振りだし!」
忍「うーん。それもそうか。というか穂乃香ちゃんは何で知ってるの?」
穂乃香「昔、民明書房刊『空の上の謎の生物秘丹弥虚羅多』という本で読んだことがあります!」
忍「またそのシリーズなのか。」
柚「やっぱり着物の人多いね。」
穂乃香「そういえば気になったことがあるんですが、夏祭りの浴衣に桜の柄っていいんでしょうか?」
忍「確かに桜は春の花だから夏にはあわない気もするね。」
あずき「ふっふっふっ!それには呉服屋の看板娘のあずきが答えよう。桜は国花だから一年中でも平気なんだよ。」
穂乃香「確かに日本といえば桜ですしね。」
あずき「さらに浴衣の柄には意味があるんだよっ!例えば桜なら…なんだっけ?」
柚「あらら…。」
昔、おばあちゃんから教わった気がするんだけどな…。
そのとき、ドーン。と大きな音が鳴った。
四人同時に空を見上げると大きな大きな花が咲いて、そして消えていった。
柚「花火だ!」
忍「迫力あるなぁ。」
穂乃香「綺麗ですね。」
みんなそれぞれの感情を口に出していたけど、あずきは何もいえなかった。
柚「黄色い花火だ!」
穂乃香「次は青い花火ですね。」
忍「オレンジ色の花火。」
そして…。
あずき「ピンク色の花火…。」
あずきのイメージカラーの花火も儚く消えていった。
柚「凄い偶然だね!奇跡だね!」
忍「運がよかったな。」
穂乃香「あれ?あずきちゃん、どうしました?」
あずきの異変に穂乃香ちゃんがいち早く気がつく。
あずき「なんでもないよっ!」
あずきは明るく振舞うよ。心配かけたくないからね。
なんでもないんだよ。少し昔のことを思い出しただけ。
あずきは桜が好きじゃなかった。儚く散ってしまうのがなんとも悲しかったから。
そして桜を連想させるピンク色もあまり好きじゃなかった。
たしか克服したはずなんだけどな。この前のイベントでは桜色も着こなせていたのに。
また花火も好きじゃなかったな。今は綺麗だと思うけど。
あずきは変わってしまうものが怖いんだよね。変わって、無くなってしまうことが怖い。
例えば友情とか。
思い切ってあずきはみんなに相談してみるよ。
あずき「なんだかさ。ピンクって桜を連想しちゃって儚くない?」
忍「儚いものは美しくていいでしょ。」
あずき「でもさでもさ。散っていくって悲しくない?」
忍「そうかな?アタシは好きだけど。」
穂乃香「変わっていくから美しいものもあれば変わらないから美しいものもあります。忍ちゃんは前者を好み、あずきちゃんは後者を好むのでしょう。」
柚「儚いのを心配しているならあずきちゃんは平気だよ。あずきちゃんは桃色だから!」
忍「そんな屁理屈な。」
穂乃香「そうですね。桃色だから平気ですね。それに変わるのが嫌なら写真とかはどうでしょうか?」
柚「花火とかも写真でとればずっと残せるしね!」
忍「花火は写真じゃ意味ないよ!なんかケータイとかだとうまく撮れないし。」
柚「それは忍ちゃんが下手なだけだよ!」
忍「なんだとー!」
写真か、あ!思い出した!おばあちゃんの言葉!
「私は散っていくものが嫌いなんだよ。だから呉服が好きなんだ。呉服は美しい季節をそのまま切り取れる。一年中眺めてられるからね。」
あずきはおばあちゃんと一緒だ。
「この世には変わらないものもあってもいいと思うよ。」
そのとき桜の柄の意味は教わったんだ。なんだかすっきり。
じゃあ、変わらないものを残して行こうよ!
あずき「みんなみんな。写真撮るよっ!」
忍「花火の?」
あずき「ううん、四人の!」
柚「いいねいいね!」
穂乃香「思い出ですね。」
そしてあずきたちは変わらない四人の思い出を残したよ。
そのとき撮った写真には偶然なのか、それとも必然なのか。
四人と儚くない桃色の花火が写っていたよ。
以上で終わりです。
コレにて全部終わりです。
だらだらしているうちに夏が終わってしまいすみませんでした。
乙です!
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