少年「鯨の歌が響く夜」 (38)
父「それじゃ、夏休みの間頼むわ」ペコ
祖父「おう、任せとけ。久しぶりだな? こっちで会うのは初めてだが」
少年「うん、爺ちゃん元気だった?」
祖父「おうよ、この島はそっちの暮らしじゃ知らない事がいっぱいあるぞ」
父「はっはっは、随分前から楽しみにしてたからなあ。じゃ、父さんは行くけど、大丈夫か?」
少年「うん! いっぱいお土産見つけとくね!」
父「だからってお前トカゲとかやめろよ……じゃあな、迷惑かけたら駄目だぞ」ザッ
祖父「よし、とりあえず空き部屋が一つあるから、ここに居る間はそれ使え」
少年「うん……おお、結構広いね」
祖母「少年、いらっしゃい」
少年「婆ちゃん、久しぶり!」
祖母「もうお昼にするかい?」
少年「うん!」
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>>1だけでぼくなつを思い出した
少年「美味かった……テンションも落ち着いてきたよ」ポンポン
祖母「良い食べっぷりだねえ、爺さんの若い頃よりもすごいんじゃないかい?」
祖父「いやいやなんの、儂が若い頃は丼三杯は余裕だったわ」
祖母「そんな事で張り合わなくていいの」
少年「爺ちゃん、俺島を見たい」
祖父「おお、喰ったばかりだと言うのに……よし、良いだろう。と言っても、大したもんは無いぞ?」
少年「うん」
祖父「んじゃ、ちょっと行ってくる。ビ……」
祖母「はいはい、ビールね。冷やしておきますよ」
祖父「ようし、行くぞ!!」ガラ
祖父「家はここまでだな、生憎この島には子供が居ないが」
少年「へえ、そうなんだ……友達出来ると思ってたのになぁ」
祖父「まぁそう気を落とすな、ここからは森だ」ザッ
少年「おお! クワガタは!? 居る!?」
祖父「探せばいるかもしれんが……ああ、道は整備されとるが、一人で来るなよ。ハブも出るからな」
少年「蛇もいるの!?」キラキラ
祖父「……はぁ、触るなと言っても触りそうだな」ザッ
少年「バッタでっけええぇえぇ!! ……あれ? ここで終わり?」
祖父「ここからは道が整備されとらんからな、このまままっすぐ行くと島の裏側へ着くが、海だけで特に何も……」
少年「行こう!!」
祖父「……話を聞いてたか? 道が整備されとらん」
少年「ハァ……」ヤレヤレ
少年「爺ちゃん、男にはロマンってもんがあると思わない?」
祖父「」ピクッ
少年「いくら歳を取ったって、ロマンを失った男なんて……牙をもがれた獣と一緒だよ?」
祖父「」ピクピクッ
少年「未知の場所を切り開いてこそ、男の中の……「漢」だよ!!」
祖父「仕方ない!! 行くか!!」
少年(ちょろい)
少年「でも森って良いね、緑の道に光がこう射して……何て言うんだっけ」
祖父「木漏れ日、だな。確かに淡い美しさがあるなぁ」
ピチチッ…… チュンチュン……
少年「この鳥の声も良いね、森って雰囲気出てる」
祖父「ん……おい、下がれ」グイ
少年「いたっ……何?」
祖父「蛇だ。毒の無い種類だが……」ガシッ
少年「!?」
祖父「ほれ、あっちいってろ」ブン!
少年「へ、蛇掴んでぶん投げた!? 何やってんの!?」
祖父「首元を……こう、ガッといったら平気だ」
少年「すっげええええぇぇ!」
ヒラヒラッ……
少年「綺麗な蝶……」
祖父「ん……? この島では見た事が無い種類だな……青い蝶か」
少年「へえ……あ、カマキリ。でけえ!」スッ
祖父「お前の地域ではどれくらいだ?」
少年「これの半分も無いよ、細いし……すっげえ! あっちにもっとでかいの……うわっ!?」ガッ
祖父「これ、落ち着け。お前はすぐ落ち着きを無くす」ガシ
少年「転ぶとこだった……ふぅ」
祖父「お、奥が明るいな……もう外の景色が見えてくるぞ」
少年「よし、走って……ああ、落ち着かないと」スーハー
祖父「うむ」
ザザァアァ……ン……
少年「……広い……」
祖父「砂浜から見るのとはまた違うな……落ちないように気を付けろよ」
少年「うん……」
祖父「ん……ちと小便してくる。ここから離れるなよ?」
少年「分かった」
少年(見渡す限り真っ青だ……空も、海も)
少年(風と波の音が気持ちいいな……)
ザバッ……
少年「?」
ブシューッ……バチャッ!
少年「なんの音だろ……おっと、気を付けないと」ビシッ
……
少年「……音が止んだ?」
少年(いや……影が海の底から……な、何かやってくる!?)
ザッバアァアアァァアン!!
少年「……!?」
少年「あ……え……」
少年「あ……ああああぁあぁあああぁあぁぁぁ――!?」
祖父「どうした!?」ザッ
少年「……し、白いの……」ピクピク
祖父「腰が抜けとるぞ……背負ってやる。落ち着いてから話せ」
少年「じ……爺ちゃん……」
祖父「どうした、何があった?」
少年「う……海から……し、白いのが……どばんって……」
祖父「海……?」
……
祖父「別に何も居ないが……白いの?」
少年「真っ白だった……」
少年「きっと……海の神様だよ……」
祖父「……白い生物……? 婆さんに聞いてみるか」
祖母「それで、どんな生き物だったんだい?」
少年「でかくて、真っ白だった……」
祖父「叫び声をあげてから、ずっとこの調子なんだ……」
祖母「うーん……大きいって言うと鯨だけどねぇ」
祖父「しかし、今の時期に鯨の群れは現れんはずだぞ?」
祖母「そうよねぇ……一体何なのかしら」
少年「……爺ちゃん、海の動物の図鑑ある?」
祖父「ああ、勿論あるが……」
少年「……あ、これかも……このゴツゴツしたの」
祖父「ザトウクジラか……ますます時期が違うし、白い個体なんて聞いた事無いがなぁ」
祖母「ああ、確かアルビノっていう個体があるって聞いた事があるような……」
祖父「アルビノ?」
祖母「生まれつき、色素が欠落して白くなる個体の事だったような……ほら、白蛇を昔見たでしょう?」
祖父「うーむ……ますます分からんなあ、そんな珍しい奴が何故この時期に?」
少年「……」
祖母「大丈夫かい?」
少年「爺ちゃん!! 明日!! もっかい行こう!!」ガバッ
祖父「うおっ」
少年「きっと海の神様だよ!! もう一度見たい!!」
祖父「うむ……儂が今まで海に出ても、見た事のない生物か……良い」ゾクッ
祖父「婆さん、ビールおかわり!!」ドンッ
祖母「はいはい」クス
リンリンリン……リン……
少年(コオロギがどこかで鳴いてる……)
少年(今も忘れない、あのドキドキ感)ドキドキ
少年(僕はとんでもない物を見てしまったんじゃないだろうか)
少年(夏休みは始まったばかりだ……何としてでも見てやる!)
支援
いいね。読んでてすごい引き込まれる。
状況も文章も凄く好き
ー島の図書館ー
眼鏡「……ホウ、白い鯨か」クイッ
祖父「ああ、何か知っている事は無いか?」
眼鏡「ふむ……とある有名な小説に、白い鯨の事が書かれているが……それだけだな」
祖父「そうか……しかし、何故この時期に?」
眼鏡「……白いからこそ、かもしれんな」
少年「?」
眼鏡「白い個体は目立つ。群れから迫害を受け、追放されてしまったのかもしれん」クイッ
祖父「なるほどなぁ……」
眼鏡「おそらく、普通の回遊ルートは泳げないだろう。迫害する者がいない今、しばらくは此処に留まるかもしれんな」
祖父「つまり……まだ見れるかもしれないと?」
眼鏡「ああ……面白い話じゃないか……」ゾワ
祖父「くく、お前さんならそういうと思っていたぞ」ニヤ
眼鏡「ま、君の見間違いなら関係無いけどね」
少年「見たもん!! 嘘じゃないぞ!!」
眼鏡「ハハ、からかってみただけだ。そうカッカするな」ケラケラ
少年「何こいつ……」
祖父「こいつはこういう奴だ、気にするな」
少年「ぬぅ……」
眼鏡「詫びに良い事を教えてやろう、ブルームーンが近づいているそうだ」
少年「ブルームーン……青い月?」
眼鏡「ああ、大気中の塵によって、月が青色に見える現象だ。この島は非常に月が綺麗だからな」
少年「へえ……」ワクワク
眼鏡「まぁ、また面白そうな事があったら報告しに来てくれ。紅茶とスコーンくらいなら出そう」クイッ
少年「うん!」
祖父「ふうっ……!」ゴロ
少年「爺ちゃん、何でこんな木材運んでんの?」
祖父「道はある程度整備したが、ここから落ちたら終わりだからな」
祖父「木とロープで柵を作る。見る時はこの近くで見なさい」
少年「なるほど」
祖父「さて……危ないから少し下がっとれ」
少年「うん」
祖父「ふっ……!」
ザアア……ン……
少年(今日も海は綺麗だな……おお、すごい入道雲)
少年(でも暑い……日の光が肌をじりじり照りつけてくる)フゥ
少年(麦わら帽子持ってきて良かった)
祖父「……よし、こんなもんか」
少年「おお! さすが力持ち!」
祖父「お前も鍛えないとな。ほれ」ムキィ
少年「すげええ!」
少年「……でも、勝手にやっていいの?」
祖父「構わん。此処まで上がってくる奴らはそうおらんしな」
少年「へえ、秘密の場所だね!」
祖父「うむ、ここを秘密基地にするか!」
少年「おおおおお!! かっこいい!」
祖父「よし! 家から適当な椅子やら持ってくるか! 明日から本格的に作るぞ!」
少年「おーっ!!」
少年(此処……どこだ? 駅? でも線路が水で覆われて……?)
少年(!? 隣に女の子がいる!)
少女「……ねえ、君の名前は?」
少年「少年だけど……誰?」
少女「へえ、少年って言うんだ。私は少女」
少年「いや、そうじゃなくて……」
少女「大丈夫だよ、すぐ忘れるから」
少年「……忘れるから?」
少女「今日はこれまでかな。またね」ニコ
少年「だから、何を言って……」
少年「……!」
少年(……あれ?)
少年(何の夢……見てたんだっけ?)
少年「今何時……まだ朝の五時半か」
少年(……暑くて寝てられないや。散歩でもしよう)ガラ
少年「おお……」
ザザ……ザザザ……
少年(朝の海は静かだな。朝焼けが綺麗だ……)
少年「鯨、出ないかなあ……」
少年(しばらくの間、僕は朝焼けに染まる海を眺めていた)
祖父「よしっと……こんなもんか」パンパン
眼鏡「ゼエゼエ……何故私まで」フラフラ
祖父「何を甘えた事言っとる。若い癖に」
少年「おお……これが秘密基地……!」キラキラ
祖父「木材に段ボール、ビニールシートで作った簡単なものだが……どうだ?」ニヤ
少年「やばい! めっちゃかっこいい!!」
眼鏡「全く、この労働に見合うものなのか……」
祖父「どうせ暇なんだろ?」
眼鏡「レポートの締め切りが近いと言うのに……フゥ」
祖父「すぐ終わるだろ、お前なら」スト
眼鏡「無駄に広く作りおって……もう少し狭くても十分だっただろう」
少年「ここで昼寝出来るね! 木の側だし虫も居るかな?」
眼鏡「ひっ、虫!? 何処だ!?」
少年「?」
祖父「あー、こいつは虫が苦手でな……」
少年「……あ、バッタ!」サッ ポイッ
眼鏡「ぎゃあああぁあ!! ……く、草ではないか!」ズサッ
少年「あはははは!! すごい勢いでこけた!」
眼鏡「なんたる失態……たまたま意識が過敏になっていただけだ、もうこんな失態は」
祖父「あ、肩にムカデが」ツン
眼鏡「おわああぁああぁ!! ……ハッ」バッ
少年「プッ……」
「あっはっはっは!!」
眼鏡「くっ……」
少年「まあまあ、くつろいでみなよ」
祖父「そうだそうだ、たまには息抜きも必要だぞ」
眼鏡「くつろぐ……か……」スッ
眼鏡「……」
ヒュウウゥウウゥウゥ……
ザワ……ザワザワ……
眼鏡(……)
木陰の下 涼しい風 葉の流れる音
眼鏡(これはこれで、悪くないかもな……)
眼鏡「……」
少年「おーい……あれ、寝てる」
祖父「ここが気に入ったようだな」
少年「どうする?」
祖父「そっとしてやるか。森でも探検するか?」
少年「うん!」
ー海の家ー
少年「うんまい!!」ガツガツ
店主「おお、旨そうに喰うねえ」
少年「この鯵の歯ごたえすごい! しゃきしゃきして海の香りがする!」
店主「ははは、新鮮だからね。よし、これはおじさんの奢りだ」コト
少年「つぶ貝の刺身……!? こ、これもうまい!」
祖父「すまんな」
店主「いえいえ、お気になさらず」
眼鏡「しかし、鯨は出ないな……」
店主「鯨?」ピクッ
眼鏡「ん、知っているのか?」
店主「妙な噂を聞きましてね。うちの親父が、釣りをしている時に、巨大な白いものが一瞬見えたそうです」
少年「どこで!?」
店主「確か、船を出して島の……えーと、森側だから、あっちの海ですかね?」
祖父「!」
少年(僕の見た所だ!)
店主「気味が悪いって言って、その日はすぐ引き返したそうですが……かなりでかかったらしいですよ」
眼鏡「……なるほど、本当だったようだな」ニヤ
少年「だから言ったじゃん!!」
祖父「うちの少年も見たと言っててな。アルビノのザトウクジラの可能性が高い」
店主「へえ、そうなんですか……今の話、親父に言っちゃ駄目ですよ」
眼鏡「何故?」クイッ
店主「うちの親父、「災厄の化身」だとか「津波の前兆」とか言って、すごく気味悪がってるんです」
祖父「災厄の化身ね……うちの少年は「海の神様」と思ったそうだがな」
店主「それだけ神秘的なんでしょうね……僕も見てみたいです」
少年「見つけたら絶対に報告するね!」
店主「ああ、待ってるよ」ニコニコ
少年(……またあの駅だ)パチッ
少女「やあ、また会ったね」
少年「……少女」
少女「そう、少女」ニコッ
少年「何なの、これ……夢?」
少女「そうだよ。お話しよう?」
少年「お話って言われても……あ、海の神様を見たんだ!」
少女「海の神様?」
少年「白くて大きな……多分、ザトウクジラだと思うんだけど」
少女「白いんだ……すごいね」
少年「少女はどこに住んでるの? ……そもそも生きてるの?」
少女「もー、幽霊扱いしないで! 生きてるよ」
少年「……此処、そもそも何処? 何で僕の夢に出てくるの?」
少女「さあ、何でだろうね」ニコ
少年「答える気無いじゃん……何か教えてよ」プクー
少女「まあまあ、怒らないで。んーとね……私は歌が上手いんだよ」
少年「へえ、そうなんだ……聞いてみたいな」
少女「聞かせてあげるよ、いつかね」
少年「えー、今じゃないの?」
少女「だって……恥ずかしいもん」
少年「なら仕方ないか……この場所、綺麗だね」
少女「うん、すごく空気が澄んでるよね。空も綺麗。そうだ! 泳がない?」
少年「夢の中でも溺れたりする?」
少女「大丈夫だよ。ほら、泳ごう」グイッ
少年「ちょっ」
ザブッ!
少年(……あれ、水の中だけど苦しくない)
少女「冷たくて気持ちいいね」ニコ
少年「夢なのに冷たい……でも、線路の上だよ? 電車が来たら……」
少女「しばらくは来ないから大丈夫だよ」
少年(夢を自覚できる夢……何て言うんだっけ? 駅の線路に水が張ってて、その中で泳ぐ夢……変なの)クス
ゴポ……ゴポポポ……
少年「この水の中で聞こえる音、なんだか落ち着くね」
少女「そうだね。あ、上見て。光が射して綺麗だよ」
少年「おお……本当だ。光の滝みたい……」
少女「……ああ、もう時間みたい。そろそろ上がろうか」
少年「また起きた時には忘れてるの?」
少女「うん……また遊ぼうね。バイバイ」
少年「分かった……バイバイ」
少年「!」パチ
少年(まただ……何の夢を見てたんだっけ?)
眼鏡「違う違う、そこはこの式を代入して……」
少年「あー、なるほど」
眼鏡「全く……何故私が宿題など教えねばならんのだ」
少年「だって爺ちゃん釣りに行ってるし」
少年「図書館で勉強するなんて初めてだ。クーラー効いてるからここで勉強してるの?」
眼鏡「ハッ……これだからお子様は。私は何処でも勉強できる」クイッ
少年「じゃあ何で?」
女「……眼鏡くん。おはようございます」
眼鏡「!? お、おはようございます!」
女「これ、言っていた本です」スッ
眼鏡「あ、ありがとうございましっ!!」
少年(噛んだ。盛大に)
女「その子は?」
眼鏡「あ、祖父さんの孫らしいです!」
女「なるほど……初めまして」ニコ
少年「初めまして!」
女「元気ですね。では……」スタスタ
少年「……ふーん」ニヤニヤ
眼鏡「な、何をニヤついている!!」
少年「なるほどねぇ」
眼鏡「べ、別に私は」
少年「うんうん」ニヤニヤ
眼鏡「お、おい! 何が言いたい!!」
女「あの」スタスタ
眼鏡「!? は、はい!!」
女「図書館内ではお静かに」
眼鏡「」
少年「ブッ……くくっ……」プルプル
リンリン……リンリン……
少年「どうだった?」
祖父「いや……船を出してみたが、それらしいもんは見なかったな……」
祖母「あらあら……」
少年「そっかぁ」
祖父「ま、気を落とす事は無いさ。また会えるだろう」
少年「……そうだね!」
祖母「そうですよ。良い子にしていたら、また会えます」
少年「よし! 明日は床掃除する!」
祖父「はっはっは、よろしく頼むぞ」ポン
少年「うん!」
祖母「ほら、もうお風呂入ってきなさい?」
少年「はーい」
少年「ふぅ……さっぱりした」
少年「ちょっと自販機でジュース買ってくるね」
祖父「ん、すぐそこだが……危ないから懐中電灯を持っていけ」スッ
少年「はいよっと」ガラッ
少年(夜空が本当に綺麗だなあ……あ、あれがオリオン座か)スタスタ
ヂィー………………
少年(この音、何だっけ……何かの虫の鳴き声だったっけな? 夏の夜によく聞こえるけど)
ヒュウゥウゥ……
少年(風呂上りの夜風は気持ちいいな)フゥ
少年「お、あったあった」ピッ ガコンッ
少年「……おわあああぁあ!!」ビクッ
G「」カサカサカサッ
少年「でっけえ……此処の奴らはでかいのか」
……
少年(何だか、辺りが真っ暗で……本当に懐中電灯が無かったら、周りの黒に呑まれてしまいそうだ)
少年(……うう、怖い。早く帰ろう)
少女「やあ、これで三度目だね」ニコ
少年「あはは……そろそろ慣れたよ」ハハ
少女「さ、今日はいっぱい泳ごっか」
少年「うん!」
ザブッ!
少年「涼しいね」
少女「うん。少年は泳ぐのは得意?」
少年「んー……バタフライが苦手かな」
少女「あ、私が一番得意な泳ぎだね! 教えてあげる、一度泳いでみせて」
少年「……!」バチャチャチャ!!
少女「あはは、力任せにしすぎ! もっとリズミカルにやってごらん、後身体をS字になるようにくねらせてね」
少年「S……こうか!」バチャ!バチャ!
少女「あ、良くなったね! その調子だよ、ちょっとお手本みせるね」
少女「行くよっ!」バチャッバチャッバチャッ!
少年(速っ……それに足の力がすごい!)
少女「ふう……どうだった?」
少年「すごいね……こんな速いバタフライ見た事ないや、大会なら間違いなく優勝だよ!」
少女「えへへ、泳ぐのも得意なんだ」
少年「……よし、これからバタフライ練習するよ!」
少女「私が付きっきりで教えてあげるよ、いつも泳いでるからね」
少年(いつも……?)
少女「よし、行くよ!」
少年「は、はいっ!」
少年「ふう……疲れた……」
少女「すごく良くなったよ! センスあるかもね」ニコ
少年「そうかな」ハハ
少女「この調子ならすぐ私くらいになれるよ」
少年「そっか……あ、この駅って名前あるの? 看板真っ白だけど」
少女「あるよ、まだ名前は出ないけど」クスッ
少年「……まあ、そんな感じに返すと思ったけどね」
少女「いつか分かるよ、それじゃ……バイバイ」
少年「もう時間なのか……バイバイ」
少年「!」パチッ
少年(なんの夢だったんだろ……何だか達成感がある、サッカーでゴールでも決めたのかな?)
海に・・・・・・いきたいなぁ
乙です
少年(今日も鯨は出なかった)
少年(今日も鯨は出なかった)
少年(……今日も……)
少年(島での生活は楽しいけれど)
少年(鯨は一向に姿を現せない)
少年(その「今日」が何度も積み重なり)
少年(心のどこかに焦りがにじみ出てきた頃には、僕の夏休みも、終わりを迎えようとしていた)
少年「……!」バチャッバチャッバチャッ!!
少女「すごいすごい! もう完全にマスターしたよ!」
少年「やった!」ニッ
少女「覚えるまであっという間だったね」
少年「少女が分かり易く教えてくれたからだよ」
少女「そんな事ないよー」ニコ
少年「……もう夏休みも終わるね」
少女「……うん」
少年「そろそろ、教えてほしいな。この夢が何なのか」
少女「……明日、話すよ」
少年「……本当に?」
少女「うん、約束」
少年「分かった。待ってるよ」
少女「……それと、私の……を……げる……」
少年「え……何て、聞こえな……」
少年「!」パチッ
少年「……ずっとこんな感じだ……夢を思い出せない……でも」
少年(何だろう……頭がズキズキする)
眼鏡「……死にたい……」ズーン
少年「どうしたの、これ」
祖父「ああ、これは……振られてしまったそうだ」ポリポリ
少年「ああ……」
眼鏡「これ扱いを……するな……はあぁ……」
祖父「ま、これもまた青春だ。そうやって大人になっていくもんだよ」
眼鏡「……」
少年「そうだ、せっかくだし海で泳ごうよ! 気分晴れるかもよ」
祖父「お、そりゃいいな。よし、いっちょ行くか!」
ザザアァアン……
祖父「よし、体操も済んだし、良いぞ!」
少年「ヘイ!」ザブッ
少年(ああ……やっぱり水の中は落ち着くな……)
少年(うっ!)
少年「目、目に染みる……」
祖父「頭のゴーグルを付けないと」クイ
少年「はーい……」
少年(……あれ? 何で僕はゴーグルを付けなかったんだろう)
眼鏡「私は泳がなくても……」
祖父「男なら思いっきり泳いで、湿っぽい気持ちを吹っ飛ばしてみろ!!」
眼鏡「……」
女さん! その、ずっと……お慕いしていました! 付き合って頂けないでしょうか!
眼鏡「……」ザブッ
ごめんなさい、私は恋愛とか……その、今まで興味なかったので……ごめんなさい。
眼鏡「……!!」
そう、ですか……すいません、こっちこそ突然言って。出来ればこれからも友人として接して頂ければ嬉しいです……
眼鏡(友人で良いのか?)
眼鏡(カッコつけるなよ……)
眼鏡(男なら……一度振られたくらいで諦めるなよ!!)ギリッ
眼鏡「あああああああああ!!」ザババババババ!!
祖父「おお、豪快なクロールだ!」
少年「よっし、僕も!」バチャッバチャッバチャッ!!
祖父「……!? あいつ、あんなにバタフライが得意だったか……!?」
少年(……あれ? 僕、何で今当然のようにバタフライしたんだ? 苦手だったのに)
少年(苦手どころか……一番得意になってる?)
少年「ぷはっ」
眼鏡「はあ、はあ……くくっ」
眼鏡(何だこの気持ちは……まるで、この美しい海が暗い気持ちを洗い流してくれたような)
眼鏡「はは……あっはっはっはっはっは!!」
眼鏡「何だか、楽になったよ!」ニッ
祖父「そりゃ良かったわ」ニカッ
ミーンミンミーン……
眼鏡「ああー……」シャク
少年「秘密基地で食べるスイカ……アリだと思います」シャク
祖父「喉が潤うなあ」シャク
チリーン……チリンチリーン……チリーン……
眼鏡「風鈴を付けて良かったな、音が涼しげだ」
少年「涼しいね……夕方になると、もう風が冷たくなってきた?」
祖父「ああ、夏も終わりだな……少年もそろそろ島を出る頃だな」
眼鏡「そうか……達者でな」
少年「うん……でも、最後に鯨、見たかったなあ」
眼鏡「ああ……そうだな」
少年(この島に来て、色んな事をしたなあ)
少年(色んな虫の観察をして、釣りをして、探検をして、泳いで……)
少年(……でも、何かしてた気がするんだけど……後、何したんだっけ)
眼鏡「おお、見ろ……空が」
少年「わあ――」
ザザア……ン……ザザザ……
ゆっくりと沈む小さな夕日が、大きな海を照らしていた。
オレンジ色に染まった雲が、海が、島の全てが少年の目を奪った。
少年「すごい……こんな綺麗な夕焼け、今まで無かったよね」
眼鏡「ああ……私も見たのは初めてだ」
祖父「……あ、そういや、お前何か言ってなかったか? 何とかムーンがどうの」
眼鏡「ああ、今日はブルームーンが見えるぞ」
少年「あ、言ってた奴! 楽しみだなあ」
リンリンリン……リンリンリン……
少年「……あーあ」
祖父「見事に曇っとるなぁ」
少年「見えないし……最悪……」
祖母「残念だねえ」
少年「はあ……」
祖父「仕方ないか、今夜はもう寝なさい」
少年「うん……」ガラ
祖母「すごく楽しみにしていたのにねぇ」
祖父「うーむ、こればかりはどうしようも無いからなぁ」
少年(楽しみだったのになあ……)
少年(鯨は見えないし、月も見えないし)
少年(……もういいや。寝よう)
……来て。
あの場所で待ってるから。
少年。
少年「!」バッ
少年(まただ……思い出せない……いや、違う)
少年(誰かが、あの場所で待ってる……!)
少年(二人は……寝てるな、ライト……あった)コソッ
少年(……あの場所に行けば、何か大切な事が分かる気がする)タッ
少年(何だろう、真っ暗な森なのに、全然怖くないぞ、それに何だかよく見える)
少年(……不思議だ、全然疲れない!)
少年(着いた!)
ザザ……ザザ……
少年「波が静かだ……あっ!」
少年(やけに明るいと思ったら、雲が晴れてるぞ!)
少年(あ――)
――ザッバアァアァァン!!
少年「そうか……君だったんだね、僕を呼んでいたのは」
ゥウゥウゥ――フゥウウ――
ウウウウウ――フウウゥウウゥ――
ンンン――ンン――ウウウウウゥウゥウ――
ゥウゥウゥ――フウウゥウウゥウ――
少年(宝石のような夜空の下、真っ白な鯨が、ブルームーンの淡い光に包まれて、繊細な声を響かせる)
少年(その様子があまりにも美しいので……僕はしばらく、瞬きをするのも忘れていた)
少年(時折顔を撫でる風すら、彼女のステージの演出のようにさえ思えた)
少年「……あ」
少年(ふと我に返ると、鯨がこっちを見ている)
白鯨「……」
少年「君が呼んでいたんだね、鯨さん」
白鯨「……」
少年「ありがとう……」
白鯨「……」コクン
少年(突然、強烈な眠気が僕の身体を支配した、しかし)
少年(薄れゆく景色の中、確かに僕は、鯨が優しく笑っているのを見た)
少年「あ……」
少女「その顔、さすがにもう気付いてるよね……」
少年「……うん、よく考えれば、僕は毎日服装が変わっているのに、君は白いワンピースのままだった」
少年「君が……あの鯨なんだね」
少女「うん」
少年「どうして僕の夢の中に?」
少女「私、群れから逃げて……寂しかった」
少女「これからずっと一人で生きていくのかな、って思ってたよ」
少女「でも、あの時綺麗な心が見えて……君と仲良くなりたいって思った」
少女「「夢入り」は脳に負担がかかるから、被害を抑えるために記憶が繋がらないようにしてたけど……もう限界みたい」
少女「起きた時、頭が痛かったでしょ? これが最後にするよ」
少年「ユメイリ……? でも、最後って……」
少女「これ以上は駄目なの、いっぱい話せて楽しかったよ」
少年「嫌だ……行かないでよ!」
少女「私だって行きたくないよ……でも、行かなきゃ。いつまでも甘えてるわけにはいかない」
少年「そんな……」
少女「ごめんね、この夢が終わったら、きっと現実でも全てを思い出すだろうけど……泣かないで」
少年「……」
ザザザザザ……!
少年(駅の水が引いて……無くなった!!)
少年「……歌、聴かせてくれてありがとう。すごく綺麗だった。一生忘れないよ」
少女「ありがとう、来てくれて嬉しかったよ」
少年「……うん」ポロッ
少女「ほらほら、男の子でしょ。泣かないで」ゴシゴシ
少年「……分かってるよ」
【 】
【少女と少年の夏】スッ
少年「あ……看板に文字が……!」
少女「そ、この駅は私達の夏。私達の大切な思い出……」
ゴトンゴトン……ゴトン……
プシューッ……
少年(電車が来た!)
少女「……もう行かなきゃ」
少年「……うん」
少女「最後に、これあげる……海に浮かんでた石」スッ
少年「うわあ、ほんのり甘い不思議な香り……何だろう、これ」
少女「……大切にしてね、それじゃ」
少年「……少女!!」
少女「うわっ、どうしたの?」
少年「君は一人ぼっちじゃないから、どんなに辛い時でも負けないで」
少年「……こんな綺麗な身体と不思議な力があるんだ、きっと君は海の神様なんだよ」
少女「……ふふ、ありがとう」
少女「それじゃ……バイバイ、少年」
少年「バイバイ、少女」
バタンッ……
ゴトン……ゴトンゴトン……
少年(ありがとう、少女……またいつか会おうね)
少年「!」パチッ
少年(ここは、家……何で? あの場所じゃ……もしかして、全部夢!?)
少年「……何で今まで忘れてたんだろ……」
コトッ
少年「ん……あっ!!」
少年(少女がくれた、不思議な甘い匂いの石だ!)
少年「……夢じゃなかったんだね」
少年「……でも、やっぱり、寂しいものは寂しいよ、少女……」ポロッ
少年(多分、こうして大人になっていくんだろうな……)
少年(なら、この悲しみも受け入れよう)
少年(……ありがとう、海の神様)ニコ
しまった、オリオン座って冬の星座だ……
さそり座と思って下さいorz
南の方行くと見える星座が違うんだよね~ビックリだよ~
これでこの話は終わりかな?
父「よーっす、久しぶりだな。焼けたねえ」
少年「うん、久しぶり」ニコ
父「……ん、何か雰囲気変わった?」
少年「さあ?」
祖父「前からこんな感じなんだ……落ち着きが出来た、と言うか」
父「へえ……何だ、何があったんだ?」
少年「秘密だよ」ニヤッ
父「ま……良いか。よし、そんじゃ帰るか」
少年「うん、爺ちゃん、婆ちゃん、また来るね」
祖母「ええ、待っていますよ」ニコ
祖父「またな」ワシワシ
少年「眼鏡にもよろしくね……じゃ、また」
ブウゥウゥウン……
少年「おお……やっぱこの船速いね」
父「趣味には金を惜しまないタイプだからな、やっぱこの風はたまらん」
父「……で? 何か白い鯨を見たって聞いたけど、どうだったんだ?」
少年「……」
少年「……いや、別に会えなかったよ」
父「そっか、残念だったなぁ」
少年(青い空、綺麗な入道雲に吹き抜ける風)
少年(眩しい太陽の下できらきらと輝く海。でも……やっぱり、あの夜より綺麗なものは無いのだろう、と思う)
少年(心に残る寂しさは、未だに心を包んでいて、時々胸がきゅっと痛むけど)
少年(でも、何故か清々しい気持ちだ)
少年(ああ……きっと、この感情は)
少年「父さん」
父「んー?」
少年「僕――好きな人が、出来たんだ」ニコ
父「!?」
少年(きっと、この世界の誰よりも、不思議な体験をした夏)
少年(僕は、一頭の白い鯨に恋をした)
終わり
色々と拙い所が目立ちますが、これにて終わりです。
52と言うロマン溢れる鯨の事を知って衝動的に書いてしまいました。反省してます。
前作「夏の通り雨、神社にて」
ああ前作も読ませて頂きました。完結乙
乙です
良かった
乙
きれいな話でした
前作はまとめで拝見しました。
今作の雰囲気もかなりいいものでした。
龍涎香は少女の……ゴクリッ
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