兄1「何をキレてるんだ。そんな羨ましい能力、他にないぞ」
姉1「そうよ。お姉ちゃんの風を操る能力と交換してほしいくらいだわ」
兄2「それ以上望んだら罰が当たるぜ」
姉2「んなことより、ちょいと姉ちゃんに金貸してくれ」
母「あなたを産んで本当によかった……」
父「父さん、新しいゴルフバッグが欲しいな」
少年「あーもう! 金の亡者どもが!」
SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1500280276
少年「俺は皆みたいにかっこいい能力が欲しかったんだよ! 何だよ500円を生み出すって! 犯罪じゃねえか!」
兄1「かっこよくても使えなければ意味がないだろう。俺のパイロキネシス、キャンプでしか使ったことないぞ」
兄2「俺なんか重力だぜ? 友達のズボン降ろすくらいにしか使わねーよ」
姉2「透明化もイタズラか食い逃げにしか使わんし」
姉1「お姉ちゃんの風は便利だけど、全然お金にならないし」
母「母さんはあなたが誇りよ」
父「ほら、このページに載ってるスコッティキャメロンのバッグ、かっこいいと思わないか?」
少年「お前らもっとましな使い方しろ!」
少年「うう……いつか俺たち一家が世界を救うヒーローになる日が来るんじゃないかと夢見てたんだ……。それなのに……」
兄1「救うも何も、まず敵が居らんからな」
姉1「居たとしても、自衛隊に任せるわ」
兄2「とりあえず俺を金欠から救ってくれ、ヒーロー」
姉2「ヒーロー、姉ちゃんも救っておくれ」
母「我が家の家計もお願い、ヒーロー」
父「もし気が咎めるようならこっちのミズノのやつでもいいんだけど」
少年「うるせえ! 情けねえこと言ってんじゃねえよ!」
兄1「まぁ、お前もまだ中学生だ。それくらいの歳なら、世界を救いたくなる気持ちも分からんではない」
姉1「お兄ちゃんもよく、キャンプで火を起こすときに技名叫んでたものね」
兄2「なんだよお前、中二病こじらせただけかよ」
少年「そ、そんなんじゃねえよ!」
姉2「どんな能力だろうが、名前がかっこよけりゃそれっぽくなるって。姉ちゃんがつけてやろう。お前の能力は【メイク・マネー】だ」
少年「そのまんまじゃんか!」
母「当て字でそう読ませたらどうかしら? 【水増しされた家計簿(メイク・マネー)】とか」
兄1「当て字については賛成だが、如何せん母さんたちのセンスは絶望的だな。俺は【崩壊する経済社会(インフレーション)】を提案する」
姉1「お姉ちゃんはもっと語感を大事にしたいわ。【恵まれた資産家(バーチャル・コイン)】なんてどう?」
兄2「シンプルなのが一番だろ。【不労所得(ザ・ウォレット)】だな」
父「父さんは【毎日が父の日(プレゼント・フォー・ユー)】がいいと思うな」
少年「えー……この中から選ぶのかよ……。……まぁ姉ちゃんのがまだマシかな」
姉2「やった! じゃあ命名料をいただこう」
少年「そっちじゃねえよ! 誰が【メイク・マネー】なんか使うか!」
姉1「選んでくれてうれしいわ。早速だけどお姉ちゃん、技名を言いながら能力を発動するところが見たいな」
少年「改まって言えって言われると、結構恥ずかしいな」
兄1「恥ずかしいことなどない。思いっきり叫んでみろ」
少年「……【恵まれた資産家(バーチャル・コイン)】!」チリン
兄2「よっしゃ! 出たッ!」サッ
姉2「これはあたしのもんだ!」ドカッ
兄1「離せお前ら!」グイッ
姉1「私が名付けたんだから、私のものよッ!」ベシッ
母「なに言ってんの! 今日の晩御飯代として出してくれたに違いないわ!」ギュッ
父「息子の物は父の物!」パシッ
兄2「それをよこせ親父!」
父「やだいっ! これを貯めてゴルフバッグ買うんだい!」
兄2「【万有引力(グラビティ)】!」ドオオオオオオオオン
父「ぎえええええ! 潰れるッ!」ジタバタ
兄2「さっさとよこさねえからだ、アホが」パシッ
姉1「【局所的なつむじ風(ブロウイング・ブロウ)】!」ビュオオオオオオオオオオオ
兄2「があっ!」ズガアアアン
父「ぎえええ!」ズガアアアン
姉1「その程度で出し抜こうなんて100年早いのよ」クイッ
兄2「500円玉がっ!」ビュオオオ
姉1「このお金は私がありがたくいただくわ」スッ
姉2「おおっと残念」パシッ
姉1「何……いつの間に?!」
姉2「ははは、全く気付かなかったろ? 姿を消す能力に加え、長年のイタズラで完全に音を殺す術を体得した結果完成した、あたしの【透き通った悪魔(パーフェクト・クライム)】によお」
姉1「くっ……! それを渡しなさい!」ビュオン ビュオン
姉2「かかか、無駄無駄。そんなの当たんねえって」スッ スッ
父「ぎあああ! 流れ弾が! 流れ弾が父さんの股間に!」
姉2「捕まえられるもんなら捕まえてみな」スゥーッ
兄1「【炎の国境警備隊(バーニング・ウォール)】」ゴオオオオオオオオオオ
姉2「!」
兄1「このリビング一帯を炎の壁で囲んだ。無理に通り抜けようとすれば火だるまになるぞ」
姉2(……くそ、逃げ道が無い!)
兄1「諦めて500円をこちらに渡せ。10数えても姿を現さないようなら、少しずつ【炎の国境警備隊(バーニング・ウォール)】の範囲を小さくしていくからな。ひとーつ!」
父「ああああ! 父さんのソテツが燃えてるううう!」
姉2(逃げられないなら……向かうまで!)シュッ
兄1「ぐっ!」バキッ
姉2「?! 熱ちゃちゃちゃちゃちゃ!」ジタバタ
兄1「ふふふ、甘いな。俺はこの能力を発動中、自分の体温も100℃を超えるのだ」
姉2(そんな馬鹿な……! 何のリスクもなく、あれだけの能力だと……!)
兄1「おかげで俺は、二度と子供を作れない体になってしまったがな」
姉2(リスクがでけえッ!)
兄2「イキってんじゃねえぞ種無し野郎!」ドオオオオオオオオン
姉1「フローリングが傷つくでしょうが馬鹿!」ビュオオオオオオオオオオオ
姉2「要は直接触れなければいいんだろ? 父さん、この5番アイアン借りるからな」スゥーッ
兄1「さあ来い! もっと俺を楽しませろ!」ゴオオオオオオオオオオ
父「ぎえええええ! 何で父さんにばっかり攻撃当てるの!」
母「皆やめなさい! 家が壊れちゃう!」
兄2「ううおおおおお!」ドオオオオオオオオン
母「だめ、止まらない! 何とかして!」
少年「やめろ! 皆の分も出してやるから、もうやめろ!」
兄1「」ニコッ
姉1「」ニコッ
兄2「」ニコッ
姉2「」ニコッ
父「」ニコッ
少年(うわ、なんだよこの家族……)ビクッ
兄1「ふふ……やはりお前には敵わないな」スリスリ
姉2「あなたの能力は平和を生み出す力」スリスリ
兄2「それは誰よりも優しい力」スリスリ
姉2「お前こそ、本当のヒーローだ」スリスリ
父「父さんは1万円くらい出してくれないと割りに合わないんだけどね」スリスリ
母「なら、皆平等に1万円分ずつ出してもらうってのはどうかしら?」スリスリ
少年「あからさまにゴマするのやめろ! 悲しくなってくるだろうが!」
***
少年(あの醜い争いから一か月。すっかり俺の能力に味を占めたあいつらは、なりふり構わなくなってきた……)
***
朝
少年「やべえ、遅刻しちまう!」ダダダッ
兄1「【炎の国境警備隊(バーニング・ウォール)】」ゴオオオオオオオオオオ
少年「お、おい! 何の真似だよコレ!」
兄1「通りたければ通行料を払うんだな」
少年「ふざけんな! ってかお前も早く会社行けよ!」
兄1「どうした? さっさと払わんと俺もお前も遅刻するぞ?」ニヤニヤ
少年(く……ッ! こいつには、小遣い稼ぎのためなら遅刻も厭わないという覚悟がある……ッ!)
少年「……いくらだよ?」
兄1「5000円だ」
少年「……」ジャラジャラ
兄1「お通りください」スッ
少年「くそっ! ゲスがっ!」ペッ
兄1「ハバナイスデイ」ニコッ
***
朝の会
数学係「宿題のプリント集めまーす」
友人「やっべ! 忘れてきた!」
数学係「忘れてきた人は約束通り、廊下で50分間スクワットさせるそうでーす」
少年「この学校も滅茶苦茶だよな……」スッ
少年「あ!」ビュオオオオオオオ
少年「俺のプリントが外に飛ばされた!」バタバタ
***
姉1「あら、早かったじゃない」ビュオオオオオ
少年「やっぱり姉ちゃんの仕業かよ……!」ハアハア
姉1「このプリント、よく飛んで面白いわ」ビュオオオオオ
少年「頼むから返してくれよ! ていうか、大学はどうしたんだよ!」
姉1「今日の講義はお昼からなの。プリントを返して欲しければお姉ちゃんに5000円払いなさい」ビュオオオオオ
少年「滅茶苦茶だなアンタ! 誰が払うか!」
姉1「ああっ! 大切なプリントが風に飛ばされて川の方に……!」ビュオオオオオ
少年「わああ! やめれ! 払う! 払うから!」ジャラジャラ
姉1「大好き♡ はいコレ」パシッ
少年「うう……」
***
昼休み
少年「うぅー漏れる漏れる」タッタッタ
少年「……?!」
少年「う、腕がッ! 腕が重くてチャックを降ろせない!」ググググ
兄2「お困りのようだな」ニヤニヤ
少年「て、てめえッ!」
兄2「なんなら俺が手伝ってやってもいいが?」スリスリ
少年「何でここにいやがる! 高校はどうしたんだ! 高校は!」
兄2「さぼった」
少年「こいつ開き直ってやがる……!」
兄2「大変だなぁ~。学校でお漏らしなんかしちゃったら、もうまともな学校生活は送れないなぁ~」ニヤニヤ
少年「分かった分かった! 金ならやるからさっさとこれを解除しろ!」ジャラジャラ
兄2「毎度ありー」ニコニコ
***
夕方
少年(……)キョロキョロ
少年(……)バタン
少年(今日もひどい目にあった……)
少年(でも天は俺を見放さなかったようだ……。だって帰りに河原でエロ本拾っちゃったもんね!)
少年(どれどれ……)
***
少年「ふう……」
少年「さあてコレ、どこに隠したもんかな……」
姉2「本棚の裏とかどうだ?」スゥーッ
少年「そうだな……って、ぎゃああああああ!」ビクッ
姉2「ん? そんなに驚いてどうした?」
少年「いいいいいつからそこにッ?!」
姉2「お前が帰ってくる15分くらい前からかな」
少年「待ち構えてんじゃねえよっ!」
姉2「待ってたおかげで面白いものが見れた」ニヤニヤ
少年「うわあああああああん! いくら欲しいんだよおおおおおお!」ジャラジャラジャラジャラ
***
夜
父「さあお前たち、好きなのを食べていいぞ」
母「母さん、大トロなんて何十年ぶりかしら」モグモグ
兄1「ウニッ! カニッ! 美味ッ!」モグモグ
姉1「回らないお寿司屋さんなんて初めて来たわ」モグモグ
兄2「大将、とりあえず一番値段の高い奴握ってくれ」モグモグ
姉2「お品書きの端から端まで全部お願い。食べきれなかったら包んどいて」モグモグ
少年「お、おいおい……。本当にこんな高そうな店で食べて大丈夫なんだろうな……。金足りるのかよ……」
父「……」モグモグ
母「……」モグモグ
少年「おい、黙りこくってんじゃねえよ! 持ってきてねえんだろオイ!」
***
父「そろそろ新しい車を買おうと思うんだ」
母「あらいいわね。何がいいかしら? アウディ? BMW?」
父「ふふふ……マイバッハ」
母「まあ!」ニコッ
兄1「俺もそろそろ自分用の家でも建てようかなぁ……」
姉1「私は素敵な湖畔に別荘が欲しいわ」
兄2「俺はゲームソフトの棚買いをしてみてーぜ」
姉2「それより腹減ったんだけど……。今日はどこ行くの? 焼肉?」
父「美味しい鉄板焼きの店があるらしいから、そこに行こう。と言っても、あの子が帰って来ないことにはな……」
母「もう8時過ぎよ……? 一体どこに寄り道してるのかしら……」
兄1「中学生のくせに夜遊びとはけしからんな」
姉2「あたしを餓死させる気か! 帰って来たら説教してやらなきゃな!」
姉1「だめよ! あの子の機嫌を損ねたら、何もかも失ってしまうわ!」
兄2「宿題のプリントぶっ飛ばしてる奴がよく言うぜ」
父「それにしても心配だ……。何事もなければいいが……」プルルルルルルルル
父「ん? 電話だ。……誰からだろう?」
父「もしもし」
少年「と、父さん! 助けて! 俺今、変な奴らに追われてるんだ!」
父「な、何だと?! 今どこだ?!」
少年「今、夕焼け公園の公衆電話からかけてる! 友達と遊んでたら、黒い車に乗った変な奴らがやって来て……! 目出し帽のッ! 背の高いッ!」
父「大丈夫だ! 必ず助けるから落ち着けッ!」
少年「そいつら、俺の能力の事を何故か知ってて……! それで……!」
父「とにかく今からそっちへ向かうから待ってろ!」
少年「お願い、早く来て! ひいっ! 見つかった! ああッ!」
父「おいっ! どうした! 何があったんだ!」ツーツーツー
父「……」
父「……た、大変だ! あの子が誘拐された!」
母「そんな……!」
兄1「すぐに警察に連絡だ!」
姉1「待って! 犯人はあの子の能力のこと知ってるのよ!」
兄2「……? それがどうしたってんだ?」
姉2「例え無事に犯人を捕まえたとしても、取り調べたら今度は偽造貨幣の製造に携わったアタシらが警察のお世話になるって話だろ」
兄1「……」
兄2「……」
父「……」
母「……」
全員「「待ってろ……! すぐに助けてやるからな……!」」ダッ
***
犯人「おら、大人しくしねえか! ぶっ殺すぞ!」
友人「うう……なんで俺たちなんか誘拐すんだよぉ~……。俺たち別に金持ちじゃねえよぉ~……」ポロポロ
犯人「本当はお前に用はねえがな。あるのはオイ、テメエだガキ!」
少年「……! 何の用があるってんだよ……」ビクビク
犯人「しらばっくれんなよ? お前、無限に金を産みだせるそうじゃねえか」
少年「し、知らねえな……。もし出来たとしても、お前らにやる金なんかビタ一文ねえよ」ビクビク
犯人「ああそうかい。じゃあお友達の体に訊いてみるか」ギラッ
友人「ひいいい! 助けてくれえええ!」ポロポロ
少年「や、やめろ! そいつは関係ないだろ!」
犯人「ああ。関係ないのに、お前が強情なせいで体切り刻まれて死ぬんだ。かわいそうだよなぁ……」ツーッ
友人「ひっ! 痛いっ!」
少年「わ、分かった! 分かったからそいつには手を出さないでくれ!」
犯人「何を分かったんだ?」ツーッ
友人「痛い! 痛い!」ポロポロ
少年「お前が望む通り、金を出す! だから頼む!」
犯人「最初からそうしろボケッ!」ドカッ
少年「うぐぅ……」
***
兄1「ここが夕焼け公園だ」キキーッ
姉1「この公衆電話からかけたのね」
父「母さん……!」
母「【世界一優秀な探偵(チェイサー)】!」ブウン
姉2「母さんの能力って何なの? 見たことないけど……」
父「物の残留思念を読み取る、サイコメトリーだ。お前がまだ小さい頃、キャバクラで遊んできた父さんを、シャツのポケットに入っていたたった一枚の名刺で追い詰めたほどの恐ろしい能力だ」
兄2「それ、能力があろうがなかろうが、既にチェックメイトだったんじゃ……」
兄1「あの時は修羅場だった」
姉1「思い出したくもないわ」
母「……あの子とお友達は、大型のバンに乗せられて国道沿いに南に向かって連れていかれたようね」
兄1「正確な位置も分かるかい、母さん?」
母「あの子の思念が道々残っているから大丈夫。私が案内するわ」
***
少年「……」ジャラジャラジャラジャラ
犯人「うひょお! 止まらねえや!」
友人「お、お前何者だよ……」ビクビク
犯人「ずりいよなぁ? 一生懸命お前が少ない小遣いをやりくりしてお菓子買ってんのに、こいつは生まれてから死ぬまで、金に困ることは一切ないんだぜ?」
友人「で、でもこれって犯罪じゃ……」
少年「信じてくれ! 俺は自分のために金を出したことなんか一度も……!」ジャラジャラジャラジャラ
犯人「嘘こけ! テメエ7人家族で回らない寿司屋を深刻な米不足に追い込んだそうじゃねえか!」
少年「な、なぜそれを……!」ジャラジャラジャラジャラ
友人「マジかよ……」
少年「……。それよりお前ら、何が狙いなんだ……?」ジャラジャラジャラジャラ
犯人「ん?」
少年「ずっとこうやって作り続けていたら、すぐにインフレになってお金の価値なんかなくなるぞ……!」ジャラジャラジャラジャラ
犯人「ふふふ、まぁ中学生ならそれくらい分かるか。……俺はな、別に億万長者になりたいわけじゃねえ」
少年「何だと!」ジャラジャラジャラジャラ
犯人「俺が求めているのは革命さ! まずこの腐った経済社会をぶっ壊す! テメエら一部の人間が吐きそうになるくらい寿司を食うような、この不公平な世の中をよぉ!」
少年「くそう! ぐうの音もでねえ!」ジャラジャラジャラジャラ
犯人「日本円は世界でもかなり信頼されている通貨だ。それがガタガタにして、資本主義経済が立ち行かなくしてやる! 手始めに日本! いずれは世界! 最終的にはすべての人々が完全に公平に過ごせる世界を創るのさ」
少年「それがお前なりの正義だとでも言うのか! どれだけの人が路頭に迷うと思ってる!」ジャラジャラジャラジャラ
犯人「革命には犠牲が付き物だ。俺は俺のやり方で世界を救うヒーローとなる……!」
***
見張りA「ひいいいい! 熱い! 熱いいいいいい! もがああっ!」
兄1「おい、あまり大きな声を出すな。火葬するぞ」ゴオオオオオオオオオオ
見張りB「うぐぅ! やめて! 死んじゃう!」
姉2「おら! あたしらの弟はどこに居んだよ! 言えよ!」ドカッ ドカッ
見張りC「痛い痛い痛い! やめてええええええええ!」
兄2「ほうら、重力15倍だぞぅ?」
姉1「それにしてもあまり手ごたえの無い相手ね……。暴力団と戦争するつもりで来たんだけど……」
母「人数もそれほど多くないみたい……」
父「それにしても、この人たちどこかで見たことがある気がするんだよなぁ……」
***
犯人「何? 見張りからの定時連絡が途絶えた? 小便にでも行ってんじゃねえのか?」
部下A「そ、それが全ての見張りと連絡が取れないんです」
部下B「もしかして警察に嗅ぎつけられたのかも……!」
犯人「そう言えばこのガキ、捕まえるときに公衆電話にいやがった……! おいこのクソガキッ!」グイッ
少年「うっ!」
犯人「テメエ警察に言いやがったな?! どうなんだ!」
少年「し、知らない! 警察には連絡していない!」
犯人「嘘こけコラ! じゃあ誰に電話したってんだ!」
少年「家族に電話しただけだ! もし見張りがやられたってんならきっと父さんたちだ! 父さんたちは凄く強いんだからな!」
犯人「けっ! あんな腰の低い情けねえ親父がか? お前らの家族は皆、金にがめついクソ共ばかりじゃねえか!」
少年「くそう! ぐうの音も出ねえ! それでも皆、性根までは腐っちゃいないんだ! お前らのようにはな!」
姉2「ほー……泣けること言ってくれるじゃないの」スゥーッ
部下A「ひぃっ?!」
犯人「ど、どっから沸いて出やがった!」ビクッ
少年「姉ちゃん!」
姉2「あたしの【透き通った悪魔(パーフェクト・クライム)】は触れたものの姿を隠す。突然沸くのはあたしだけじゃないぜ」
兄1「助けに来たぞ、金づ……我が弟よ!」スゥーッ
兄2「無事か、金づ……無事なのか?!」スゥーッ
少年「テメエら今、金づるって言おうとしたろ!」
姉1「良かった……。お友達の方も少し傷つけられただけのようね」スゥーッ
父「さあ観念しろ! 一体お前らは何者だ!」スゥーッ
犯人「く、くそッ! 貴様らのような屑どもに! 私の計画を邪魔されてたまるか!」
父「! そ、その声は!」
母「お父さん、知り合いなの?」スゥーッ
父「ああ……! お父さんのオフィスのすぐ下の階で『世界を平等にする会』とかいう怪しげなセミナーを開いている会長だ!」
犯人「ふふふ……。声だけで見破られるとはな……」
父「一体なぜこんなことをした! なぜ私の息子を狙った!」
犯人「……お前に自慢されたからだ!」
父「へ?」
犯人「忘れたとは言わせんぞ! この前駐車場で散々おニューのキャリーバッグを見せびらかし、毎日贅沢三昧をしていると自慢しただろう! 俺はそんな世の中、間違ってると思った!」
父「え……そんなこと言いましたっけ……?」
犯人「最初は私も金を無限に生み出す金づるの話なんか半信半疑だった。しかし調査を進めていくうちに、なるほど確かにお前の息子はこの世界をひっくり返すだけの力を持っていると確信した!」
父「……」
兄1「てめえのせいじゃねえか」ゴオオオオオ
兄2「死ねよてめえ」ドオオオオオオオオン
姉1「さようならお父さん」ビュオオオオオオオオ
父「ぎええええええええええええ! 死ぬ! 死ぬ!」ゴロンゴロン
犯人「さあて、茶番もここまでだ!」ギラッ
友人「ひぃっ?!」
犯人「てめえら指一本動かしてみろ! ナイフでこのガキの喉笛を掻っ切るぞ! そこの姉ちゃんも何もすんなよ! 姿を消した瞬間にコイツは殺す!」
兄1「人質とは卑劣な……!」
姉1(ここはあなたの【万有引力(グラビティ)】で……)ヒソヒソ
兄2(いや駄目だ……。あの子も巻き込んで潰してしまう……)ヒソヒソ
姉2「く、くそ……ッ!」
母「その子を放しなさいッ!」
父「死ぬ! 誰か! 誰か!」ゴロンゴロン
少年(どうする……? アイツを巻き込まずに犯人だけ取り押さえるには……)
少年(クソッ! かけてみるか!)
少年(【恵まれた資産家(バーチャル・コイン)】!)ジャラジャラジャラジャラ
犯人「な、何だ?! 俺の膀胱が……! 痛ッ! 痛たたたたたたた! ぎええええええ! 苦しい! 痛い痛い!」カラン
少年「尿路結石だ! ニッケル黄銅製のな! 観念しろ!」
***
少年(こうして誘拐事件は俺の新技によって幕を閉じた)
少年(俺と友人は警察に連絡しようとしたが、家族の強い反対に遭い、そのままになった)
少年(『世界を平等にする会』のメンバーは、兄ちゃん達が後始末をした)
少年(泣いて許しを請う彼らの断末魔が、今でも耳から離れない)
少年(彼らにも家族がいたのだろうと思うと、胸が締め付けられるようだ)
少年(そして家族の俺に対するたかり癖も、俺の新たな抑止力によって収まりつつある)
少年(父さんはマイバッハを買う夢を捨てきれないらしく、戒めのために膀胱に3枚ほど埋め込むことになってしまった)
少年(俺はこれからこの力を使って、世界の平和に尽くすのだ……!)
おしまい
このSSまとめへのコメント
このSSまとめにはまだコメントがありません