神「私が世界を生み出したのだ。どう扱おうと私の勝手だろう?」(31)

勇者「それは違う! この世界に住まう人々のものだ!」

魔王「傲慢な神よ! 私達は共に歩むことが出来る存在だ。お前の玩具ではない!」

神「愚かな。私に勝てると思っているとは」

勇者「ならば見せてやる。人と、魔族の結束を!」 シャキン!

魔王「これが、私達の想いだ!」 ゴウッ!

神「なんだこれは!? 何故人間と魔族風情に、これほどの力が!」

勇者・魔王『この世界に、神はいらない! 消え去れ!!』 ザシュッ!

神「馬鹿、な。私が、敗れる……とは」



勇者「終わった。これで、やっと始まる」

魔王「ああ、そうだ。人と魔族の新たな時代だ。勇者……」 ギュッ

勇者「魔王。これからも頼むぞ」

Fin

神「やれやれ。あいつら、遠慮なしに攻撃してきたぞ」

側近天使「お疲れ様です神様! ご飯にします? お風呂にします? それともわ・た――」

神「いやいや。どれも私には必要ないよ」

側近「むぅー、最後まで言わせてくださいよぉ。とにかく今日の『降臨』は終了です」
側近「あとは『創造』が1回残っていますよ」

神「そうだったな。さて、魔法の世界は創り飽きたし、どんな世界を創ろうか」

側近「私的にはメルヘンでお菓子な世界がオススメです!」

神「最近は創造していなかったな、その類は。良かろう、その世界を創造する」 ポン
神「はい終わり。側近、少し様子を見てくれ」

側近「はい!」

神「それでどうだった」

側近「それが……最初は風景がお菓子で出来ていて、あまぁーい匂いで素晴らしかったです」
側近「生き物もウサギやネコばかりで、おしゃべりして紅茶飲んでいて、メルヘンでしたぁ」

神「ふむ、しかし不満そうな表情だな」

側近「だって、500年経過した頃に戦争が起きてあっという間に全滅したんですよぉ」
側近「原因はお菓子不足。300年経過した頃に判明して、でも誰も抑制しないんです」
側近「奪い合いが始まって、大規模魔法が放たれて、世界が滅びましたぁ」

神「まあそうだろうな。この類の世界は不安定なのだ。まあ初期の頃に比べれば大分長持ちしたな」

側近「うーっ。ウサギとネコが血塗れで殺し合うあの姿……全然メルヘンじゃないですよぉ」

神「結末はともかく、構造は他の世界に比べればメルヘンだろう」
神「長持ちさせるには、やはり安定した世界を作るのが一番だ」

側近「神様神様! 大変ですよぉ!」 バサバサ

神「騒がしいな。少しは落ち着け。深呼吸でもしたらどうだ」

側近「判りました!」 ダキッ
側近「すーはーすーはー……落ち着きましたぁ。報告します」 サッ、ビシィ

神「相変わらずの奇行だな。それで、報告内容は」

側近「科学世界Af1048にて、異世界への転移を目論んでいます!」

神「素晴らしいことじゃないか」

側近「何で落ち着いているんですかぁ? 転移なんて、許されないです!」

神「別に禁止していないぞ。そもそも前例などいくらでもある」

側近「あ、あれ。そうでしたかぁ?」

神「近しい世界に転移する程度だがな。科学世界では科学と魔法の混合世界への転移が、最高記録だ」
神「異能世界や混沌世界へは転移不可能だ。出来たとしても、転移したモノは崩壊する」

側近「へぇー。でも何でですかぁ?」

神「法則が何もかも異なるのだ。だから消滅するか、世界に適合しようとして歪んでしまう」
神「どちらにせよ、人は生きていられない」

側近「神様! 今日のワクワク『創造』は何にします?」

神「お手軽工作ではないのだぞ。まぁ良い。今回は特殊な世界を創造する」

側近「おぉー! どんな世界ですかぁ?」

神「三つの区画を設けて、それぞれ科学、魔法、異能と振り分ける」

側近「3つの法則が混在する世界、ですか?」

神「いや、区画で完全に分ける。科学の区画では魔法と異能は行使できない。他も同じ仕組みだ」
神「同じ仕組みで100を超える世界を創造した。いずれも1000年以内で崩壊したが、今回は宇宙を用意する」

側近「宇宙って、あの広大で真っ暗で空っぽな、あの空間ですよねぇ?」

神「ちゃんと物質で満たされているぞ。まあ今回の世界では緩衝材のような役割を果たす」 ポン
神「さて、今回も頼むぞ」

側近「はぁーい! 行ってきます!」 ビシィ

神「今回の世界はどうだったかな」

側近「5000年程度はうまくいってましたぁ。でも、次第にそれぞれの区画で動きがありました」
側近「ある範囲を過ぎると法則が異なるのが判明したんです。研究者達がそれを知って調査」
側近「世界――宇宙が3つの区画でそれぞれ法則が異なると判明しましたぁ」

神「ふむ。宇宙で隔ててもいずれはそうなるか」

側近「最初は区画の代表者同士で友好的に話し合いがされていたんです。でも――」

側近「自分の知る法則が通用しないのが不満な技術者と知識人が、裏工作し始めましたぁ」
側近「法則の区画を広げることが出来ないか? そんな研究がされたんです」

神「ああ。今まで創造した世界と同じ展開だ」

側近「安定していた世界は、区画が拡張し始めると境界部分がせめぎ合いました」
側近「やがて境界部分で3つの区画とは違う歪んだ法則が発生して、宇宙全体に広がりましたぁ」

神「そうなったら終わりだ。全ての区画は存在し続けることは出来ない」

側近「はいその通りです。ぐちゃぐちゃに崩壊しましたぁ。あの光景は……うっぷ、思い出しただけで」

神「やはり区画世界は無理があるな。とはいえ、宇宙の存在はやはり大きい。寿命が格段に上がるな」

側近「神様、言い付け通り魔法世界Emc2666の人間を滅ぼしてきましたぁ。誉めて下さい!」

神「よしよし、よくやったぞ」 なでなで

側近「ふわぁ♪ 神様神様……」 ボーッ

神「さて、次は何をするべきか」

側近「……はっ!? え、ええと創造も光臨も全て終了して――あっ」
側近「異能世界Bt8384msで『降臨』の予定が同時期に7件ありますよぉ」

神「文明が進んでも信仰が失われないのは良いが、こうも頻繁に呼ばれるとはな」

側近「ほぼ同じ時間に呼ばれますけど、大丈夫なんですかぁ?」

神「別段何の問題もない。しかし、1件だけ他の『降臨』とは趣きが異なるようだ」

側近「むぅー。神様の存在に疑念を抱く不届き者ですよぉ。失礼な人間です!」

神「どう思われようと関係ない話だ。それでは『降臨』するとしよう」

背信者「何が神だ。何の奇跡も起こせないペテン師め! 神なんていない。いても大したことない奴だ!」

背信者「それを今から証明してやる。くくっ、古代の神殿を血で汚してやる……!」
背信者「血で汚せば神が怒り現れるという伝承、信者達に全くの出鱈目だと思い知らせてやる」

神「待ちたまえ。わざわざそんな事のために、他者の血を使うでない」

背信者「何だ!? どこから声が……出て来い!」

神「やれやれ。騒がしい奴だ。ご丁寧に冗長な儀式紛いまでして、ある信仰心溢れる者だ」

背信者「なっ、どこから現れた!? お前が神というのか!?」

神「うむうむ、ちゃんと認識させられている。さて、如何にも私が神だ」

背信者「なるほど。いきなり何もない空間から現れたのだ。神か悪魔か、いずれにせよ普通の人間じゃああるまい」
背信者「幻覚の可能性はあるが、お前の存在は認めてやろう」

神「うむ。認めてくれて何よりだ」

背信者「神だというならば聞きたい。この現代の惨状を何故放置する?」
背信者「大地は荒れ、人心も腐敗している。飢えに病に争いに人々は苦しんでいる。何故助けない?」

神「人間を助ける必要は全く感じられない。むしろ滅びても構わない」

背信者「はっ! 古今東西の聖書に描かれた通り、残虐そのものだな! 人を虫けらのように殺す悪魔だ!」
背信者「いや聖書を参照すれば悪魔よりも人を殺しているから、悪魔より邪悪だなカミサマ?」

神「お前は神や聖書を信じないのに、都合の良い部分だけ抜き出して信じるのか」
神「そもそも私は人間を一々気に掛けていない。繁栄しようが、滅びようがどうでも良いことだ」

背信者「はっはっは! 今の言葉を信者達に聴かせてやりたいな!」
背信者「やっぱり神は信じる必要などない! 神はいない、神は死んだ!」

神「お前がそう納得して楽しんでいるなら、それで構わない」

背信者「そういえば全知全能でしたっけカミサマ? 本当なんですかぁ~?」 ゲラゲラ

神「何をもって全知全能とするか知らぬが、お前達土塊に比べれば何かと融通は可能だ」

背信者「じゃあ徹底的に叩いてやるか。まずお前でも持てない黄金を出せ」

神「ふむ。構わないぞ」 ポン

背信者「ぶっ……くくっ! それじゃあ、その黄金を持ってみろ! 無理だよなぁ、何せ持てない黄金だから――」

神「ほれ」 ひょい

背信者「……おい、インチキかよ。このカスが! ペテン師が!」

神「持てない黄金を出した後に私と黄金の情報と、世界と黄金の間に存在する概念を変更しただけだ」
神「この程度ならば、お前達土塊でも順調に知識と知恵を蓄えれば、いずれは擬似的には可能だぞ」

背信者「インチキ! ペテン師! 口先だけの出任せを言うな詐欺師め!」

神「ふーむ、会話にならないな」

神「良かろう。ならばお前にも実感させてやる」

背信者「はぁ? 何言ってるんだよお前?」

神「そもそも何故私を対象に、不可能を可能にせよと実践させるのか」
神「私には充分可能な事だが、お前の言うようにインチキをする場合だって考えられるだろう」
神「お前自身が真に納得し、理解するにはお前自身で体感するべきだ」

背信者「やっぱりインチキじゃないか! まぁ、お前の言い分にも一理はあるかもな」
背信者「じゃあお前が持てないとほざいて、持ち上げた黄金を持ってみせよう」

背信者「おい、もう一回黄金を出せ。さっきより大きい――そうだな、10億tの黄金を出せ!」

神「構わないぞ」 ポン

背信者「一回確かめてやる。もし持ち上げられたら黄金は頂く。持ち上げられないなら構わないよな?」

神「御託は良いから早くやれ」

背信者「約束したからな……ふぅぐぐぐっ! うぉぉーーーー……っ!!」
背信者「ぜぇぜぇ……全然持ち上がらない」

神「どうだ、持ち上げられないと判ったはずだ」

背信者「なるほど。それじゃあこの黄金を持ち上げられるようにしろ。まぁ無理だろうが――」

神「ほれ。もう大丈夫だ」

ヒョイ

背信者「……マジか? 中身がスカスカのと入れ替えたわけじゃあないよな」

神「本物だ。一生働かないで暮らしていける分の黄金だ。あぁ、一応詐欺だのと言われるのは面倒だから伝えておく」
神「あくまで持ち上げられるのは、その黄金だけだ。他の重い物体は持ち上げることは出来ないからな」

背信者「へぇ……でも持ち帰って、実際確かめないと判らないなぁ」 ニヤニヤ

神「それでは家に黄金と一緒に帰してやろう。疑り深いお前でも、嫌というほど理解する」

背信者(たとえ金メッキでも、大した価値だぞこれ。俺って頭良すぎぃ! ぷくく!)

ブォン

神「やれやれ、ああまで欲望が顔に現れるものか。本人からすれば、してやったりという事かな」
神「あの人間の未来は――ああ、慎みを覚えていれば一生安泰だったのに、欲に眩んで殺されるとは」
神「黄金を巡って争いが起きるが……放置しても構わんな。どうせ百年後には世界が滅びるのだから」

側近「神様、あぁ神様、神様! 危害を加えられなかったですか!?」 すりすり

神「何一つ問題ない。あとその奇行はやめなさい」

側近「はぁはぁ……ごほん! 仕方がないですね、本当に人間は。頭が悪いくせに尊大過ぎますよ!」

神「彼らには彼らなりの考えがあって行動しているのだよ、側近」

側近「神様は優しすぎますよぉ、あんな土塊なんかにぃ!」

大天使「失礼致します我が主。報告したいことがあります」

側近「大天使か。我が主は『降臨』を終えたばかりだ。報告ならば私が受ける」

大天使「しかし火急の件につき、直接我が主に――」

側近「くどい。そもそも貴様如きが我が主に直接口添えするなど、身の程を弁えよ!」

大天使「……失礼致しました。では側近様に。混沌世界Xn1aで知的生命体Xn4が異常増殖」
大天使「派遣していた天使が飲み込まれています。如何なさいますか?」

神「興味深い。私が直接出向くとしよう」

側近「我が主!? そのような事を軽々に――」

神「良い。混沌世界はお前達でも対応しきれまい。留守を頼むぞ側近」

側近「……! はい、お任せ下さい!」

大天使「…………」

側近「……くっくっく。神様が出向き、この神の玉座の間には私だけ」
側近「私を信頼して留守にするとは。くっくっく、はぁーっはっは!」



側近「それってつまり、私と添い遂げるという意味ですよね神様? あぁ、まだ早すぎますよぉ!」 クネクネ
側近「でもでも、神様がどうしてもというならば仕方がないですよね? だって私神様の僕ですし」

側近「うふっ、その玉座に神様が座ってぇ、私がその膝に乗るという事も……」 ニヤニヤ
側近「でも硬そうな椅子ですよねぇ」 さわさわ、コンコン

側近「やっぱり硬い。しかも冷たいですよぉ。そうだ! 神様が来るまで座って暖めておきましょう」
側近「そして神様が来たらお譲りして、そこで温もりに気付いたら―ーふふふふっ!」

側近「ふふっ、神様まだかなぁ」

大天使「失礼致します側近さm……何を、なさっているのですか?」

側近「大天使か。何を驚いている?」

大天使「そこは我が主の玉座。無断で占拠する事は何人たりとも許されません」
大天使「玉座に無断で占拠する意味、理解しているのですか?」

側近「無論理解しているとも。この玉座は私にこそ相応しい」

側近(そう、私がこの席を暖めるのが一番。そして、そして神様の膝の上に……)
側近「ふっ、くっくっく!」

大天使「常々傲慢な態度が表れていましたが、まさかここまでとは」
大天使「如何に側近様とはいえ許しがたい行為。側近様――いや、逆賊。自身の罪を思い知れ」

神「推察した以上の反応はなかったな。結局いつも通りの出来事に収束した」

大天使「お疲れ様です我が主。雑務は滞りなく終わりました。次の任務をお願い致します」

神「大天使か。そういえば次はお前の予定だったな」

大天使「側近が消えたことに疑問は抱かれないのですか?」

神「予定調和だ。側近の地位にお前が就くこともな。滅さずに処分場へ落としたのか」

大天使「残念ながら私と雑兵では滅ぼせませんでした。地獄へ落とすのが精一杯です」
大天使「力不足で申し訳ございません」

神「予定調和であると言ったはずだ。何も問題はない。次の仕事に取り掛かるぞ」

大天使「……はい。次は『降臨』の予定です。対象となる科学世界HU1118uoでは同時期に3件です」
大天使「2件は通常通りですが、残る1件は信仰心が篤い司祭一人です」

神「ふむ、一人で私を降臨させるほどの祈祷を成すか。まあやる事に変わりはないがな」

大天使「お気をつけていってらっしゃいませ、我が主」

司祭「おぉっ、神よ! この罪深き我らを許したまえ! 今一度神の威光を下界にもたらさん事を」
司祭「我が教義が、人々に広まらんことを」

神「随分と汚れた都市だ。それに反してこの教会は清潔に保たれているな」

司祭「な、あなたは……まさか神であらせられますか!?」

神「うむ。お前達が神と呼ぶ存在である。お前一人で私を降臨させるとは、信仰心が篤いのだな」

司祭「奇跡が、奇跡が起きた! 神よ、おぉっ神よ!」

神「感極まるのは良いが、何か聴きたい事があるのだろう」

司祭「これは失礼致しました。神よ、現在この大地を覆うばかりに争いが広がっています」
司祭「人の心は荒れ、殺人、窃盗、強姦を始め多くの罪が今この時も行われているのです」

司祭「おぉ神よ! どうか、愚かで哀れな我々を導きたまえ!」

神「私は世界に一々干渉しない。その罪とやらもお前達が作り、犯しているのだ」
神「ならば罪も争いも、お前達が止めたいと願うならば実現に向けて行動するのが一番の策だ」

司祭「なるほど、これは神が我らに与えし試練なのですね!」

神「会話にならないな。言葉を理解する能力があるはずなのだがな」

司祭「しかし神よ。我々はあまりに卑小な存在。どうか、どうかその威光を我らに示して頂きたい」

神「先程言ったように干渉はしない。世界の移り行く様を観察するのが主な目的なのだ」
神「もし干渉する場合、それはその世界に存在する価値がない。つまり、観察を終えた時――滅ぼす時だ」

司祭「しかし、今こうして降臨なされているではありませんか」

神「こうして『降臨』するのは、膨大な意識を目印にしているだけだ」
神「世界に膨大な意識があるならば、観察に値するという判断だ。世界に影響を与えるためではない」

司祭「…………」

神「世界を滅ぼす以外は基本的に干渉しない。判ったならば己のすべき事をするが良い」

司祭「つまりこの世界は腐敗しきっていない、まだ救う価値のある世界ということですね!」
司祭「神よ感謝致します! 世界は、人はまだ神に見放されていない!!」

神「お前がそう思うなら、そうなんだろうな」

司祭「神よ、今日という日を迎えられたことを感謝致します!」
司祭「世界を争いや罪から救うため、祈りを捧げ続けていきます!」

神「祈る暇があるならば行動すべきであり、知識と見聞を広めるべきだ」

司祭「おぉ! 確かに行動し、正しき神の教えを知識として広めるべきですな!」
司祭「お任せ下さい。僭越ながら私が教えを広めていきます!」

神「私と会おうか会うまいか、結局お前の行動は変わらないようだ。好きにすると良い」

司祭「神の許しを得た! 私こそ、私の教義こそ神の教え! 絶対正義!」

タッタッタ……

神「私との対話は必要なかったな。観察する身としては面白みのない結末だ」
神「未来は――やはり面白みがない。ある程度広まりあの人間は始祖として祭り上げられる」
神「あとは異教徒との争いだ。同じものを信仰しながら争うとは、愉快なものだな」

大天使「お疲れ様です我が主。この度の『降臨』の任務は全て終了いたしました」

神「我ながら働き者だ。一瞬たりとも休まることがない」

大天使「ところで、僭越ながら我が主の『降臨』を拝見致しましたが、司祭以外は何者と対面したのでしょう?」
大天使「一方は森林の中で、もう一方は洞窟の中で休まれていたように見えました」

神「降臨する際は膨大な意識を目印にしている。つまり、そういうことだ」

大天使「……? 見えない人間がいたのでしょうか?」

神「ああ、そうか。お前はそのような認識だったのだな。意識は人間だけが持つものではない」
神「動物はおろか、植物や虫、岩や土、水にも意識はあるのだ」
神「無論人間のような意志は、人間にしか持ちえぬ。だが、他のモノにも独自の『意識』はあるのだ」

大天使「なるほど。しかし、『人間』以外の意識に耳を傾ける必要はあるのでしょうか?」
大天使「我が主を捻じ曲がった形とはいえ、信仰し祈りを捧げるのは『人間』だけのはずです」

神「私にとって人間も他の動植物も、岩や水なども同じ『土塊』に過ぎない」
神「何を繁栄させるとか、滅ぼすとかそのような思考は持ち合わせていない」

大天使「全てを平等に、ということですね」

大天使(しかし、私達は『火』で創られた存在。こうして我が主の膝元にいる事を許されている)
大天使(我が主は私を、私達と『土塊』を分けて考えておられる。私達は特別な存在だ)
大天使(そうだ、側近がいなくなり私が我が主の右腕、特別な存在。信頼に応えないと……)

大天使「我が主よ、これからも貴方様のために任務を果たしていきます」

神「うむ」

神(側近より持たないな大天使は。『火』で創造した存在はどうにも融通が利かないな)
神(『土塊』より寿命が長いから使役するには好都合だが……別の素材で創ることを考えるべきか)

大天使「我が主、『創造』の任務が残っています」

神「そうだな。さて、今度はどのような世界を創ろうか」
神「ふむ、今回は実験的な世界を創り上げるか」

大天使「それはどのような世界ですか?」

神「私は今まで完全な世界を創造してきた。世界の形、人も無機物も全て創り上げて創造した」
神「しかし今回は混沌の状態で放置する」

大天使「それでは世界がすぐに滅びるのでは?」

神「以前『宇宙』を用意した時、世界の寿命が大幅に伸びた。今回も宇宙を利用する」
神「まずは『無』を初期配置し、それを包む形で混沌を張り巡らせる」
神「そうすれば世界は自身で形成され、生命も私の手を下さずに生み出されていく」

大天使「そのようなこと、その、本当に可能なのでしょうか?」

神「問題ない。混沌世界で生命が私の予測以上に異常繁殖したことは、お前の報告以外に多々ある」
神「今までとは違うやり方のため、少々時間は掛かるが、問題なく作用する」
神「しばらく『創造』に集中するため、雑務は頼むぞ」

大天使「はい、お任せ下さい」

ある時人間が、神という存在に疑念を抱いた

もし神が存在し、世界を創り上げたというならば謎があると

すなわち、神はどのような存在に創られたのか。あるいは、どのような現象で生まれたのかと

神を創った存在。その存在を創った存在――始まりがなく、終わりが見えない。神という存在自体が矛盾していると

研究者達はそうして神に替わる、世界の始まりを思案する。だが、どれほど進歩し続けても結論は出ない

神を創った存在――それが、言葉を変えて研究者達を悩ませるためだ。世界の始まりの状態に到った現象とは何かと

私は決して彼らを侮蔑しない。そもそも私が彼らを愚弄する必要も、資格もないのだ

そう、神と呼ばれて崇拝され、時に蔑まれる私自身が判らぬのだ

時を遡ろうとも、混沌や無を操ろうとも、私を生み出した存在あるいは現象は、その片鱗すら見せない

今こうして世界を創造するのも、私という存在を創り上げるための実験に過ぎない

世界を『創造』する前に私自身を創り上げようとしたが不可能だったのだ

どうすれば私を、『神』と呼ばれる存在を創造できるのか

それが出来れば私は次の段階に進めるだろう。だが、まだ切欠すら掴めないでいた

だが、今度の世界は今までとは異なる。今までの世界ならば、創造した際大体の未来が見通せた

今度の世界は創造する前でも、恐らく創造した後でも完全には見えないだろう

どんな世界の形となるか、どんな生命が生まれるのか……未知であった

私を創造した存在、現象の切欠を掴める予感がした。無論、それが勘違いである可能性も高い

しかし今まで世界を創造した時には感じられなかった昂ぶりが私の内に芽生えていた



やがて、永い――少なくとも私にとって――時間が過ぎた。世界の雛形が出来た

芽生えた感情と共に、私は世界を解き放った。解き放った瞬間、宇宙は膨れ上がり膨大な生命を生み出した

未知なる世界は、今産声を挙げたのだ

以上で終了です
特定の宗教はもちろんのこと、不特定の宗教や神を侮蔑ないし推奨するものではありません

以下駄文

物語の中で神――世界の管理者がラスボスというのは今時珍しくない
主人公達が、神の言いなりにならないだのと立派な事を言って立ち向かうまでが流れと言っても良いでしょう
これは実際その神って何を考えて行動しているのか、なんて考えて書いたSSです
よく世界を滅ぼすだの何だのと言うのも意味があって行っているのでしょう。滅ぼされる者はたまったものじゃないけど

まぁそんな感じです。こんなギャグSS読んでくれて乙です

てす

てす

つまらなかった

こういう視点もありだよな

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