【艦これ】神通「姉さん、朝ですよ!」川内「嫌だあああ起きたくない!」 (213)

>>1は川内提督

向こうはコメディ、こっちはシリアルでやっていきます。
願掛け大型で三隈でました。くまりんこ

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1435583741

 この鎮守府にはいくつかの名物がある。
 鬼の二水戦旗艦による地獄が垣間見れる特訓だったり、四水戦旗艦のコンサートだったり。
 鎮守府に所属している艦の殆どが軽巡洋艦と駆逐艦であるからか、噂話とトラブルには事欠かない。
 だからこそか、数少ない戦艦や空母は畏怖の念がもたれ、まるで雲の上の人のような扱いを受けることもしばしばであった。
 それだけの艦娘がいれば勿論落ちこぼれてしまう者もいる。例えば。


「嫌だあああ! 行きたくない行きたくない行きたくないの!」

 軽巡寮川内型室で布団に包まって足をバタつかせているのが川内。
 その布団を無理やりにでも引きはがそうとしているのがその妹の神通と那珂。


「おらぁ! 諦めろ川内ちゃん! 今日もちゃんと訓練受けてもらうんだからね! キャハ!」

「嫌だあああ! 那珂はアイドルなんだからお姉ちゃんにもっと優しくしろよぉ!」

「ならもっと姉らしくしてください姉さん。……那珂ちゃん、ちょっとどいて?」

「おらぁあ! っと、神通ちゃんいいよー!」

「姉さん、行きますよ。っふ!」

「嫌だああ! ってうわああああああ!」

 那珂が神通の後ろに退避すると、神通は川内の包まっていた布団ではなく、その下に敷いてあった
 敷き布団を掴んで思いっきり引き抜いた。

「うわぁ……神通ちゃんやるぅ」

「ほら、姉さん。着替えて朝ごはん食べに行きますよ」
 
 布団から転がり出されてそのまま床に落ちた川内はそれでも維持で掛け布団を握りしめて包まっていた。

「私はこの布団とケッコンカッコカリします。二人の絆は例え姉妹であっても引き剥がすことはできません」

「あぁ……川内ちゃんここまで来るともう姉というより女として威厳とかそういうの捨ててるよ……」

「姉さん、布団から離れる気はありませんか?」

「無い」

「那珂ちゃんのお願いでも?」

「無い」

「うわぁこの姉即答したよ」

「わかりました。ならそのまま運びます。那珂ちゃん、そっち持ってください」

「はーい!」

「え? ちょ神通!? 那珂!? やめて! ちょっとおおおお!」

 川内型軽巡洋艦一番艦 川内。噂の二水戦と四水戦の旗艦を妹に持つ彼女はこの鎮守府の落ちこぼれだった。

 食堂でパジャマ簀巻きを披露した川内はようやく観念したのか、朝食を済ませると制服に着替えて訓練場の桟橋に来ていた。

「さて、それじゃあ簀巻きちゃんがだだ捏ねる前に始めちゃおー!」

「那珂ぁ、簀巻きちゃんはやめてよ!」

「川内ちゃんが悪あがきするのがいけないんだよー」

「う、うるさいなぁ! 嫌なものは嫌なの!」

「はいはい、姉さんも那珂ちゃんもそこまでね。それじゃあ今日も艦隊運動から始めますよ」

「うぇーい……」

 神通は普段こそ温厚で恐怖の欠片もない物腰をしているが、その足を水面につけた瞬間から別人と化す。
 鬼の二水戦の名は伊達ではなく、第一線を張っている戦艦ですら彼女の訓練を受けたがる者はいない。

「神通! ちょっと待って! 足釣った! 足!」

「そうですか、なら姉さんの死因は足が釣ったことになりますね」

「最低の死因だと那珂ちゃんは思います!」

「もういやだー! 帰るー! 神通なんか嫌いだー!」

「姉さん、流石にそれは傷つきました。なので私の傷が癒えるまで訓練は続きます」

「え!? ごめんごめん! 嘘! 嘘だからやめて許して!」

「嘘でそんな事を簡単に言えてしまう姉さんの根性は腐ってると思います。なのでここで叩き直して置きましょう」

「どっちにしろやるんじゃんか! 嘘つき!」

「すみません姉さん。なら嘘をついてしまったお詫びに之字運動を追加します」

「……グスッ」

「川内ちゃんも懲りないねぇ」

 駆逐艦達が横で訓練を行う中、川内型だけは個別で訓練を行うことが許されている。
 よく言えば個別強化訓練。悪く言えばさらし者。
 そんな光景を陸で見ている影があった。
 この鎮守府の提督とその秘書艦叢雲。

「相っ変わらずグイグイやらせるわねー神通ってば」

「お前はあの訓練耐えられるか?」

「無理ね。眠気に負けて居眠りしちゃうもの。気付いたら終わってそうね」

「言うじゃないか秘書官様は」

「なんならアンタも参加してくれば? 司令官は現場を理解することも重要よ」

「叢雲は私に溺れて来いと言っているのか?」

「あら、なら泳げばいいじゃない」

 提督と叢雲は時折この訓練を見学しに来ていた。

「お前から見て川内はどうだ」

「駆逐艦にしては大きいわね。ブイにしては騒ぎ過ぎだわ」

「辛辣だなぁ……まだ使えんか」

「あの子も私と同じく初期からここにいるのにね。あの性格どうにかならないのかしら」

「夜戦をやらせれば単独先行。昼戦では動く的……か」

「筋は悪くないのにね、勿体ない話だわ」

「艦娘の中でも宜しくない噂が流れているそうだな」

「どっちの噂のこと? 解体されないのは提督の愛人説? それとも妹の功績に縋る姉説?」


「前者は聞いたことがある。後者は初耳だな。発信源を探ってこい」

「嫌よ。また他の鎮守府に左遷させるなんて、面倒臭い」

「もう約束はいいじゃないか。皆にあいつの事を教えてやればいい」

「それはダメよ。それをしたら古参の子たちが黙っている事も、なにより川内自身にも冷や水をかける事になるわ」

「自分の罪は自分で背負わなくては意味がない、か。クソ食らえ。代わりに背負ってやればいいものを」

「それはアンタの自己満足よ。ほら、そろそろあの子遠征の時間」

「っ……そうだな。おーい! 神通ぅ! そろそろ川内を貸してくれぇ!」

 訓練に夢中になっていた三人に提督の声が届く。
 神通は少しだけ残念な表情。那珂は一息つけると安堵。川内だけは苦虫を潰した顔をした。

「姉さん。残念ですが、続きは明日にしましょう」

「……へい」

 三人が桟橋に戻ってくると、そこに叢雲と提督が待っていた。

「おう簀巻き娘。調子はどうだ?」

「最低よ……簀巻きじゃないし」

「姉さん! 提督にそんな口の利き方! 申し訳ありません提督」

「構わない。こいつとは長いからな。そら、駆逐艦達が待ってるぞ。川内。直ちに装備を遠征用に変更し、
 出撃五分前にドックに集合。急げ」

「……了解」

 川内は桟橋から上がると、ふて腐れるように提督に返礼をした。そしてそのままドックに走っていく。

「んもう……。提督、姉さんはまだ時間が掛かりそうです。いつ崩れてしまうか見ている方が怖いです」

「そうか。中はまだなら外はどうだ?」

「能力は十分です。私の訓練を受けてもわざと手を抜けるだけの実力もありますし、無駄口を叩くだけの余裕もあります」

「ほう、それは凄いな。那珂はどうだ」

「んーあれ以上できない演技されると那珂ちゃんが倒れちゃう。どんどん訓練が厳しくなって筋肉痛で踊れなくなっちゃうよ」

「あら、アイドルは筋肉痛になるのね? 知らなかったわ」

「ッハ! 違うよ叢雲ちゃん! 那珂ちゃんはアイドルだから筋肉痛になんてならないよ! 川内ちゃんの話だよ!」

「あらそう、私も別に那珂の話をしていた訳ではなかったのだけれど。そう」

「うわーん! 叢雲ちゃんがいじわるだー!」

 叢雲と那珂が話していると、神通がそっと提督の横に彼にだけ聞こえるように声を出す。

「提督、まだ姉さんの忘れ物は返せないままですか?」

「あぁ、今返してもあいつは捨ててしまうかもしれないからな。預かっているよ」

「そうですか、そうですね。そのほうがいいと思います」

「あー! 神通ちゃんが提督と内緒話しているよ叢雲ちゃん!」

「あら、これは浮気かしら。きっと私は捨てられちゃうのね」

「な、何を言ってるんです! 叢雲さんも訓練受けたいのですか、そうですか」

「いえ、筋肉痛になったら大変だから遠慮しておくわ」

「叢雲ちゃんまだいうのー!」

 提督が出撃ドックに目を向けると、四人の艦娘が丁度出撃をした所だった。
 三人の駆逐艦はこちらに気付いて手を振っているが、先に沖へ進んで行く軽巡だけは振り返ることはなかった。

(シリアルに突っ込むべきだろうか…?)

今日はここまで
また明日の夜投下します。

>>5 こいつ直接脳内に)

乙です
向こうのスレとはちがい何やら川内が心の闇を抱えているようですが

別の川内ssで書きためてるって言ってた人かな乙
どっちも楽しみにしてる


雲おっぱいさんが6-3から出てきません。
貯蓄予定なんてなかった。

別スレから来ていただいた方ありがとうございます。
このスレからの方は宜しくお願い致します。

今夜は2330頃に投下予定

【お知らせ】

別スレでもお知らせ投下しましたが、今週の水曜より転職で新しい職場に移動します。
その為に若干バタついてきますが、こっちの川内さんは大部分書き溜めてありますので、当分はデイリー更新できそうです。

今頃注意:この鎮守府は別スレの鎮守府とは異なります。ご了承の上で読んでいただけたら幸いです

乙と言わせてもらう

新スレ立ってたのか。川内好きとしてこっちも期待してますw

別スレってどこ?

>>13 一応貼っておきます川内「あれ、これ昔の私の写真……」 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1435253583/)

遅れましたが投下開始します


 長距離練習航海。
 川内他皐月・菊月・敷波。計四隻が出撃した遠征である。
 練習航海と言っても、近隣の沿岸に深海凄艦が接近した痕跡が無いか、襲われた形跡がないかを調べることもこの任務の内容であり、しっかりと普段との違いを確認していかなくてはいけない為に精神が削られていく任務だ。
 鎮守府周辺にはまだこの地を離れない人達が生活をしている。その自治体からパトロールを依頼されている為にこのような形を取って哨戒することになっている。
 報酬は大本営に支払われ、その報酬としてこちらに弾丸や艦娘の傷を癒す事のできる修復剤が送られてくる。
 川内は軽巡でありながら旗艦ではなく、旗艦補佐としてこの隊の二番艦を担っていた。
 今回の旗艦は睦月型五番艦の皐月。三番艦を菊月。四番艦を敷波が担当していた。

「んっはー! いい天気だね! こんなに波も穏やかだし暖かくて気持ちがいいや」

 陽気に当てられた皐月が隊無線越しにそんな事を言う。
 それに対して川内は抑揚の無い声で返した。

「皐月、今足元に何が沈んでいたか見えた?」

「え? えっと……わかりません」

「正解は運送用に使われていたと思うドラム缶の山。旗艦は艦隊の前を走るんだからそういう所もちゃんと見て。そこに機雷があったのに気付きませんでしたじゃ話にならないよ」

「はい……すみません。川内さんはよく気付きましたね」

「……神通の訓練を受けていればこれくらい普通じゃないの?」

「えっと……」

 皐月と川内の会話を無線で聞いていた敷波が割って入る。

「川内さん。注意するのはいいけど艦隊の空気重くするのは止めてください。迷惑です」

「敷波! 僕は大丈夫だから!」

  慌てて皐月が敷波に答えるが、敷波は止まらない。

「こっちが大丈夫じゃないっての。菊月もなんか言いなよ」

「こちらは現在哨戒中だ。悪いがそちらの話は聞いていなかった。」

「……っち」

「あーもう! 敷波も菊月も! 川内さん、そろそろ折り返しです」

「……了解。叢雲に連絡後帰投ね」

「はい」

 皐月が耳に付けている無線を入れると、間もなく叢雲からの応答があった。

『はーい、こちら指令室』

「こちら第三艦隊旗艦皐月、遠征の折り返しポイントに着いたよ」

『あら、時間通りね。また揉めてるんじゃないかって心配してたわ』

「それは間違ってないね。いつも通りだよ」

『刺激的でいいじゃない。いがみ合いができる位には平和ってことよ。帰投は予定通りね』

「うん、それじゃ」

『待ってるわ、以上』

 そこで通信は切れた。

「皐月より各艦に通達! これより船首回頭、沿岸より沖を経由しつつ帰投するよ!」

 そこから帰り道は殆ど無言が続いた。
 皐月は川内にこれ以上小言を言われまいと口を閉じ、川内は無表情で進んでいく。
 菊月は相変わらずに任務をこなし、敷波は目に見えて不満を抱えていく。
 そしてそれはゆっくりと口から漏れ出した。


「川内さん」

「何、敷波」

「川内さんは駆逐艦が嫌いなんですか」

 突然の敷波からの質問に川内は驚き半分にいら立ちを覚えた。

「突然に失礼な事聞いてくるね。なんでそう思うの」

「川内さんと同じ任務に就いた駆逐艦達からの苦情の数が多すぎるんです。嫌がらせのつもりですか」

「あのさぁ、間違った事、悪い所を注意するのが嫌がらせになるの?」

 川内の答えを聞いた敷波は余計に熱くなっていく。

「自分だって……」

「なに、言いたいことははっきりいいなよ」

「自分だってダメな所多いじゃないですか! 他の姉妹艦が立派だからって貴女は違うじゃない! 偉そうにしないでよ!」

 その言葉を聞いた川内は足を突然止めて、通過した菊月に小さく「ごめん」と呟くとそのまま進んでくる敷波の首を掴んだ。

「あがっ!」

 そしてそのまま軽く持ち上げるとそのまま無表情で敷波を見つめる。

「あのさぁ、言っていいことと悪いことあってあるよね。神通や那珂、関係ないでしょ?」

「っが……ぐ、がぁ」

 なお、手に力を込める。

「喧嘩売るなら相手をちゃんと見なくちゃダメだよ。だからこうなるんだ」

 砲撃音。
 川内の足元付近に水柱が上がった。
 川内はそちらに目線だけ動かすと、こちらに主砲を向けている皐月の姿と、我関せずと周回警戒を行う菊月がいた。

「川内さん、敷波を離して。早いとこ帰投しよう。このままじゃ誰も笑えないよ」

「一人がダメなら二人。それがダメなら三人。三人なら私に勝てるかもよ?」

「勝てる勝てないじゃない。離してと僕は言っているんだよ」

 挑発をする川内に対して皐月はあくまで冷静に答える。

「なんで私が駆逐艦の言うこと聞かないといけないの?」

「僕がこの艦隊の旗艦だからだ」

「……そうだったね」

 そう言うとそのまま敷波を掴んでいた手の力を抜いた。

「っは! うぅ、はぁ、はぁ、はぁ。っぐ!」

そのまま水面に崩れ落ちると、すぐに川内に対して睨み付ける。

「アンタなんか大っ嫌い!」

「奇遇だね、友達になれるかもしれないよ」

「それ以上二人とも喋らないで。敷波が落ち着いたら帰るよ」

 敷波はそのまま息を整える。川内は素知らぬ顔で空を見上げていた。
 周囲警戒していた菊月の声が無線越しに届く。


「か、各員戦闘配置! 敵襲!」

 その言葉に川内は魚雷発射管を発射体制にし、体勢を構えた。
 菊月に目を向けると、その前方に黒い影が二つ見えた。

「敵艦確認、恐らく軽巡二隻! 旗艦は命令を!」

 川内の号に皐月は慌てて声を出す。

「え? えっとあの……た、単縦陣で迎撃! 砲撃」

 そこで川内の声が被さる。

「遅い! 複縦陣で砲雷撃戦用意! 皐月は敷波に付いて! 菊月は私と前へ!」

「了解」

「りょ、了解!」

 皐月は川内に押されて敷波の前に立ち主砲を構える。敷波もようやく落ち着いてきてそれに習う。
 川内は先頭に菊月と並んで立ち、砲撃を二発放つ。
 軽巡ヘ級の前方と後方に弾は落ちて水柱を上げた。

「夾叉! 片方落とすから菊月は左側止めて!」

「了解!」

「っ撃ぇ!」

 川内の放った砲弾はそのまま吸い込まれるようにへ級に直撃、大破に追い込んだ。
 進行速度も確実に低下して、もう一撃でも叩き込めば撃沈できるだろう。

「しまった! 皐月ぃ!」
 
 菊月の相手であるヘ級は菊月の砲撃をかわすと、そのまま菊月を通過。今だ若干ふらつく敷波に狙いを定めて突撃していった。
 川内がいる艦隊相手に無傷で勝つことが出来ないと悟ったのか、せめて一隻でもと弱っている者に狙いを決めたのだ。

「さっせるかぁああ!」

 敷波の前に立っていた皐月は突っ込んでくるへ級に向かって連続で砲撃を叩き込んでいくが、止まらない。
 そしてそのままへ級は皐月に突撃した。

「クソが!」

 菊月は毒吐きながら主砲を向ける。だが、その後ろで立ち尽くしている敷波に当たることを考えると引き金を引けないでいた。
 敷波は訓練はそれこそ数をこなしてきているが、実戦。それもここまでの接近戦は初めての経験だった。
 足は棒のように固まってしまい、手に握りしめている主砲を相手に向けるという事さえできないでいた。
 そんな敷波に避けろと声をかけても無理な話だ。菊月はどうにかしてこのヘ級を止めなくてはと考えを巡らせる。
 しかし、川内はその限りではなかった。
 吹き飛ばされた皐月を受け止めるとそのまま水面に流すように滑らせ、入れ違いで敷波とへ級の間に割って入る。
 勢いの止まらないへ級はそのまま敷波に突撃するつもりでいた。

「舐めんじゃ……」

 川内は手にしていた魚雷のスクリュー側を相手の船首部分であろう口に突き刺した。

「ないわよぉ!!!」

 川内は手を抜くと入れ違いに腕に着いている機銃を魚雷の弾頭に向かって斉射した。
 至近距離での爆発で吹き飛ばされる川内。そして内部から爆発を受けたへ級は文字通り爆散した。
 返り血と肉片が川内と敷波に降り注ぐ中、川内は敷波を見た。
 震えて両手で主砲を持ちながら、それでいて構えることのできなかった駆逐艦。

「喧嘩売るなら相手はちゃんと見なきゃダメだよ。だからこうなるんだ」

 敷波は何も言えないまま、水面にへたり込むしか出来なかった。
 川内は皐月を救い上げると背中に背負い、菊月に向き合う。

「状況終了。菊月は平気?」

「あ、あぁ。すまなかった……私が……」

「謝って自己満足なら帰ってもできる。まずは帰ろう。アンタには敷波を任せても良い?」

「……了解した」

 川内は皐月を抱えたまま、耳に付けた無線機を押した。

『はい、指令室。なにかあったかしら』

「こちら川内。深海凄艦と遭遇。撃破したけど、負傷した。入渠ドック空けておいて」

『……了解したわ。迎えはいるかしら』

「大丈夫。って言いたいとこだけど、まだ近くにいたら怖いね。お願い」

『今出てる第一艦隊がもうすぐ帰投だからそのままそちらに流すわ』

「うへ、阿武隈か……彼女には会いたくないね」

『悪いけど諦めて怒られて頂戴』

「そうさせてもらうよ。じゃあ」

 無線はそこで切れた。



 戦闘から十分しない間に川内の無線に通信が入る。

「こちら第三艦隊川内」

『こちら第一艦隊旗艦阿武隈です。叢雲ちゃんから応援任されたよ』

「助かるよ。お願いね」

『了解、合流するよ。そのまま進んで行って』

 川内達を取り囲むように阿武隈と第六駆逐隊の第一艦隊が陣形を取る。輪形陣の形だ。
 阿武隈が川内の隣に付いた状態で、帰投を開始する。

「川内ちゃんお疲れ様。こんな近海にも出たんだね」

「阿武隈も任務の帰りにお疲れ。驚いたよ」

「それで? そんなことになるまで川内ちゃんは何してたの?」

 表情は笑顔のままだが、声のトーンは少しだけ下がる。

「うへ、悪いけど説教は帰ってからじゃダメ……?」

「はぁ……大方検討はつくけどね。また駆逐艦の子に突っかかれて相手したのね」

「……阿武隈、エスパー?」

「でも相手にした事も、それで相手に奇襲された事も、軽巡じゃありえないと思うよ」

「うん、ごめん」

「川内ちゃん。まだ、それ続けるの?」

「阿武隈、話は帰ってからね」

 川内の表情が曇る。

「……後でちゃんと話してよ」

「あれから無事逃げ切れたらね」

「あれ?」

 川内の言葉に阿武隈が前を見ると、鎮守府がもうすぐそこで、出撃ドックで仁王立ちしている神通の姿が見えた。

「うわぁ……あれはかなりキてるよ……」

「今夜は寝かせてもらえないかもなぁ」

「ご愁傷様」

「他人事だと思って……はは」

 この後負傷した皐月と、念の為菊月と敷波の三人は入渠ドックに運ばれた。
 川内は返り血を浴びた姿のまま出撃ドックに正座させられ、皐月達がドックから出てくるまで神通の説教を受けていた。

本日の投下は以上になります。

【お詫び】

今回の投下内容で駆逐艦敷波が不遇な扱いになっております。
敷波提督には心よりお詫び申し上げます。
つきましては世に文月のあらんことを


ふみぃ教徒だったのか?!w

これは期待!

乙です


EOが不調

投下します


 夕方。
 訓練場の桟橋に腰かけていた川内の元に皐月が歩いてきた。

「よくここがわかったね」

「那珂ちゃんさんに聞いたらここだろうって」

「那珂がその呼ばれ方聞いたら怒るよ?」

「さっきもさんはいらないって言われました」

「だろうね。今は任務じゃないんだから普通に話してよ」

「……うん。隣、座るね」

 皐月は川内の横に腰かけると、手にしていたラムネを一本川内に差し出す。
 川内は少しだけ笑いながら「ありがと」と包帯で包まれた手で受け取った。

「川内さんはドックに行かないの?」

「後でね、今は反省会をしてるからこのまま。ん……ん……ぷはぁ」

 景気よくぽんとラムネのビー玉を落とすと、川内は喉を潤していく。

「はは、今日はごめんなさい。僕が……僕が敷波を抑えられなかったから」

 無理した笑顔から少しだけ滴がこぼれる。
 そんな皐月を川内は横目で見ながら、皐月の頭を撫でた。

「皐月はちゃんと旗艦してたじゃない。軽巡に発砲できる駆逐艦は中々いないよ。君は強いね」

「僕は……ヒック……強くないよ。川内さんの方が」

「私は弱いよ。弱いから皐月も泣かしちゃったね。神通にまた鍛えて貰わないと」

 自傷気味に笑うと、川内は皐月を抱き寄せた。

「私はね、君ら駆逐艦には出来るだけ強くなってほしいの。私が最低ライン。私を早く超えて行ってね」

 その言葉に皐月は声を荒げた。

「川内さんは! 川内さんはいつも自分だけそうやって……僕は知ってる! 川内さんがわざと駆逐艦に嫌われてる事も、わざとできない振りしてる事も……でも、川内さんがどうしてそんな事しているのかは誰に聞いてもわからないし、教えてくれない……」

 川内は黙って皐月の言葉に耳を傾けている。

「川内さん、僕じゃまだダメかな。僕がまだ弱いから川内さんの事教えてもらえないの? 僕は嫌だよ。誰かの為に誰かが泣いてるなんて嫌だよ……。そんなの間違ってるよ」

「皐月は優しいね。私はそんな言葉かけてあげられないよ。でもそれは皐月の勘違いだよ? 私は強くもないしわざと嫌われているわけでもないし、できない振りもしていない。そんな事神通の訓練でできるわけないじゃない」

 はははと川内は茶化す。

「皐月はそれだけみんなの事ちゃんと見てあげられるんだから、君はそのまま進んでいきな。こんな所で振り返っている場合じゃないよ」

「川内さんは、バカだ」

「そうかもね。私もそう思うよ」

 そのまま声を上げて泣く皐月が落ち着くまで、川内は頭を撫で続けた。
 二人が宿舎に戻る頃にはもう日は沈んで夜になっていた。


「この時間はここにいる。日課は簡単には変えないな、お前は」

 消灯時間が過ぎた夜更け。運動場のベンチに提督は座って川内がここに来るのを待っていた。
 毎日夜になるとここで川内は自主訓練を行っている。
 大体が走り込みや筋トレなど、できるだけ音がでない訓練が主になっていた。

「いつからだろうな、お前が夜に夜戦夜戦と騒がなくなったのは」

「なにしにきたの」

「そう言うなよ。久しぶりだろ、二人で話すのは」

「話す事なんてないから」

「そうだな、お前が言わなかったから皐月のフレンドリーファイアも知らなかった」

 川内は提督を睨む。

「そんな事なかった! 有りもしない事を報告する訳ないじゃない!」

「皐月本人から聞かされてな。どう扱ったものか悩んでいた所だった」

「提督、それをいうなら敷波に手を出した私の処分の方が優先でしょ?」

「おや、それは初耳だな」

 おどけた態度を取る提督に川内は唇をかみしめる。

「まぁ付き合えよ。久々にお前と話したい気分なんだ」



「それは命令?」

「あぁ命令だ」

「……了解」

 川内は提督の座るベンチから少し離れた地面に座った。
 それを見た提督は「嫌われてるなぁ」と苦笑いしながら手にしていた飲み物を川内に投げる。

「敷波は少しだけショックを受けていたが、初めての接近戦だったんだ。あれで済んだなら運が良かった」

「よく言うよ。阿武隈が聞いたらなんていうか」

「まぁ接近させた方が悪いとあいつなら言うだろうな。でもお前もわざとそうさせたわけじゃない」

「見ていたみたいに言うね、提督」

「ずっと見てきたからな」

 「お前の事を」という言葉は提督の喉から出る事はなかった。でもその意味は川内には伝わってしまう。

「川内。お前、艦娘止めたいか?」

「何よ突然」

「最近のお前の訓練を見ていてな。実力はあるのにやる気はない。しかも大本営に送るデータの測定の時だけは合格ラインぎりぎりの数値ぴったりをたたき出す。秘書艦でもないのにどこから情報を仕入れてくるやら」

「落ちこぼれが必死になって出した点数をそんな見方するなんて提督はひねくれているね」

「付き合いが長いと癖ってのは移るらしいぜ」

「なら叢雲のが移ったのね、納得したわ」

「かもしれんし違うかもしれん」

「……もし。私が辞めたいって言ったら貴方はどうするの?」

「ここを去った後の面倒くらいは見てやる。戸籍が無いと仕事にも就けないだろ。働き口と住む所の保証人くらいにはなってやるよ」

「提督はどうして欲しいの」

「俺はただお前に忘れ物を返したいだけだ」

「忘れ物?」

「あのマフラー。人が折角改二改装記念にくれてやったのに捨てたろ。神通が拾って持ってきてな、今俺が持っている」

「捨てて」

「嫌だね。今は俺のものだ。だからそれは聞けない」

「ならもう私の忘れ物じゃないでしょ」

「お前の忘れ物は別だよ」

「は?」


 要領の掴めない話に川内は提督の方を向いた。
 提督はまっすぐ前を見ながら真剣な表情をしていた。

「あのタンカー護衛任務。あの時にお前が海に忘れてきた物をまたお前には取り戻してほしい。その後は辞めようが続けようが構わない」

「提督の話はよく分からない」

「よく分からないならなんでそんな顔をする」

「見てない癖に」

「見なくてもわかる」

「どうだか……」

「見てきたからな」

「……」

「もう少しだけ時間をくれてやる。それまでに決めろ」

 提督は立ち上がると川内の前に歩いていき、姿勢を正した。

「軽巡川内!」

 声を張って呼ばれた川内は軍人の癖か、とっさに立ち上がり気を付けの姿勢を取ってしまう。

「辞令を言い渡す! 本日付けで貴官に第三水雷戦隊旗艦の任を命ずる!」

「……え?」

「返事はどうしたぁ!」

「は……っは!」

 動揺しつつも返事をしてしまった川内に対して、提督はいたずらっ子のような笑顔を向ける。

「ま、最後の仕事だ。精一杯やってみろ。我慢なんてしないでさ」

「……サイテー」

 それに対して川内はいつかの訓練の時の様に、苦虫を潰したような顔をした。



本日分の投下は以上です。

皐月は駆逐艦の中で一番好きかもしれません。二番目は天津風。

皐月をHDDできるなら憲兵とも一戦交えるのもやぶさかではないので寝ます。

乙 やはり川内は何かトラウマを持っているようだな

乙!
続きが気になるなwww
別スレ読んでくるwww

おつー
HDDてなんの事かと思ってちょっと考えたじゃないかww

【お詫び】

昨日は歓迎会を開いて頂き、そのまま会社に宿泊したために投下できませんで申し訳ないです。

本日の投下は0000以降になってしまいますが、投下はしていきますのでよろしくお願いいたします。

HDD=ハイエースダンケダンケ
分かった方は手遅れです。諦めてください

手遅れだった…orz

川内夏ボイスカワイイ。季節関係ないだろってツッコミ入るわww

今投げちゃえる感じなので投下開始します。

>>34 川内に可愛くない所は存在しない。そして季節に惑わされずに常時夜戦可愛いが楽しめるお得パック感


 水雷戦隊。
 旗艦を軽巡洋艦とし、複数の駆逐隊を率いて戦艦部隊の護衛を主な任務に置いた部隊の名称である。
 しかし、それは戦艦が戦艦の姿を取っていた頃の話であり、艦娘の部隊はそれとは異なる。
 軽巡洋艦を旗艦、その他駆逐艦は変わらないが、複数の駆逐隊ではなく、専属の駆逐隊が所属する形となっている。 
 例えば第一水雷戦隊は旗艦が阿武隈。その他第六駆逐隊の暁、響、雷、電。計五隻。
 第二水雷戦隊は旗艦神通。その他第十六駆逐隊の初風、雪風、天津風、時津風。計五隻。
 そして今回川内が担当するのが第三水雷戦隊。
 川内を旗艦とし、その他を特型駆逐艦の吹雪を始めとする白雪、初雪の計四隻。
 そしてその初めての顔合わせが運動場で行われていた。

「改めて! 吹雪です! 宜しくお願い致します!」

「白雪です。沢山撃てるように頑張ります」

「初雪……です。よろしく」

「……恨むよ、提督」

 川内はキッチリと並ぶ駆逐艦三隻の前に頭を抱えていた。
 特型駆逐艦。同じ鎮守府にいるからにはその噂を耳にしている。
 高性能の反動か、かなりピーキーな子が揃っている。その筆頭があの秘書艦。
 それを三隻も押し付けられたのだから頭が痛い。一人に至っては立ったまま眠ろうとしている。

「川内さん! これからの指示をお願いします!」

 その中でも吹雪はから回っているように川内には見えた。
 頑張り屋なのだろう。この空気の中でも負けじと川内に着いていこうとしている姿は微笑ましい。
 だが、今の川内相手だとそれは逆効果だった。

「とりあえず待機。私は提督に話があるから、皆自由にしていていいよ。じゃ」

 それだけ言い残すと川内は執務室に歩いて行ってしまう。
 一度だけ振り返ると吹雪はどうしたものかとおろおろしている。白雪は変わらずにおっとりとし、初雪は夢の中に旅立っていた。

 執務室の前に来ると、ノックをした後返事を待たずに入室する。
 すると、そこにはデスクに座る提督と、横で微笑ましい顔をした叢雲。そして提督に頭を下げている皐月がいた。

「お願いします! 私を三水戦に参加させてください!」

 状況についていけない川内は目線を提督に向ける。提督はこちらに一瞥すると、表情を真面目なものに変える。

「だ、そうだが。旗艦殿としては如何かな」

「え?」

 皐月は提督の言葉で川内が執務室にいる事に気が付いた。

「せ、川内さん! な、なんでぇ?」

「なんでは私のセリフだよ皐月。どういうこと?」

「えっと……あの、その」


 さっきまでの勢いが失せてしまった皐月は川内を前にただおろおろとしてしまう。
 そこに助け舟を出したのは叢雲だった。

「ぜひ貴女が旗艦の部隊に入れてほしいんだってさ。丁度いいじゃない、貴女の所今駆逐艦三隻でしょ?他より一隻足りない。ほら丁度いい」

「勝手な事言わないで叢雲。私は提督に部隊メンバーについて苦情入れに来たってのに」

「あら? 私の可愛い姉妹達になにか御不満?」

「あの子達訓練上がりでしょ? 何、私に嚮導とは別に訓練官もやれっての?」

「川内程の腕なら沖ノ島に放り込んでも生きて帰ってくる位には仕上げられるでしょ? 期待してるのよ、これでも」

「引きこもりに期待なんて、アンタ見る目無いわね」

「コスプレ忍者が引きこもりなんて聞いたことないわね。皐月はあるかしら?」

 今まで黙って二人の会話を聞いていた皐月は、急に話を振られた事に驚いてまたも慌てている

「ぅえ? コ、コスプレ忍者って何!?」

「あら、そういえば、川内。制服は新しいのに装備は初期のをつけてるのね」

「叢雲、そこまで」

 叢雲が川内を煽っていく中、提督が止めに入る。

「皐月のお願いはこの後川内と相談しておくから、今は寮におかえり」

「う、うん。わかったよ司令官。じゃあね」

 皐月が退出したのを皮切りに叢雲は秘書艦用のデスクにどかっと座り、川内は部屋の隅に置いてあるソファに体を投げた。

「提督、あの面子は今までサボってた分の利子のつもり?」

 川内は脱力したまま顔だけ提督に向ける。

「いや? 似た者達をかき集めただけだが」

「似た者ねぇ……例えば?」

「吹雪はここに来た頃の川内そっくりだ。やる気と体が別に動いていて見てるといつ転んでしまうかとハラハラするよ。白雪はあぁ見えてトリガーハッピーでな、戦闘となると一目散にぶっぱなし始める。初雪はダウナー系気取っているが、本気で動かせればそこら辺の駆逐艦には劣らない結果を叩き出すぞ」

「ごめん、よくわからない」

 提督の説明を聞く気があるのかないのか。川内は一言で切り捨てる。

「簡単に言おうか。吹雪は一番初めの頃の川内。白雪は夜戦をしている時の川内。初雪は今の川内。そして皐月は未来のお前の、あるべき姿だな。将来像と言ってもいい」

「勝手に皐月を所属させないでってば」


 そんな事をいいつつも川内は提督の似た者という言葉に自分でも確かにと思ってしまっている事に気付いていた。
 そしてそれと同時に皐月が眩しくも見えているのが悔しかった。
 その時、叢雲は提督に一枚の書類を手渡す。

「はいこれ。サインね」

「ん。仕事が早くて助かる」

「お任せあれ」

 書類に軽く目を通すと、提督はサインを書き足した。
 そしてそれを川内の方に差し出した。

「ほれ」

「なにそれ」

 川内はソファから立ち上がると、提督から書類を受け取る。
 そこには第三水雷戦隊の正式配備指令が掛かれていた。しっかりと皐月の名前が書き足されて。

「ちょっと!」

「悪いけど、それ破り捨ててもいくらでも複製作ってあげるから。ストレス溜まってるならイタチごっこ付き合うわよ?」

「……アンタには適わないね、本当」

「あら、幾ら私でも軽巡相手に勝てるとは思ってないわよ」

「女狐」

「いいわねそれ。今度語尾にコンってつけようかしら。どう思う?」

 叢雲は提督に話を振った。当の提督は両手を上げながら「勘弁してくれ」と苦笑いしていた。
 そして川内と目を合わせると、少しだけにやけながらこう言った。

「これからお前が手を抜けばこいつらは沈む。でも、お前が普通にやればこいつらは生き残る。簡単だろ?」

 川内はため息をついた後。「やっぱりあんたのひねくれは叢雲から移ったのね」と言いながら執務室を後にした。
 扉の横の椅子に掛けてあった白いマフラーをひったくりながら。

「あの子、やっぱりひねくれてるわね」

「俺やお前の事言えないと思うんだがどう思う?」

「貴方程じゃないわよ。一緒にしたら可哀想」

「俺もお前には敵う気がしないよ」

「あら、素敵じゃない」




 翌日の朝、日課の早朝ランニングから帰ってきた神通が軽巡寮川内型室に戻ると、既に布団を畳んで着替えている姉が机に向き合っている事に驚いた。

「姉さん……その恰好」

 今までの改二制服に旧式装備ユニットではなく、夜戦装備一式のユニットを付けていた事にも驚いたが、かつての姉のトレードマークだった白いマフラーを見た瞬間神通は涙を零した。

「大げさだなぁ神通は」

「長い間……待ちましたから」

「そうだね。でももう大丈夫だから」

「えぇ、そうみたいですね」

「私もね、自分一人なら良かったけど。他の子まで傷つけられないからさ」

「私たちはずっと傷つけられてきました」

「うん。だからその分あの子達には強くなって貰うよ」

「……はい!」

「……んむぅ。ん? あれ!? 川内ちゃんその恰好!?」

「おはよう那珂。イメチェンしてみたんだけど、どう?」

「うん、うんうん! やっぱり川内ちゃんはそのマフラーだよ! やったぁ! これで鬼の二水戦に花の四水戦!」

「そして夜の三水戦……って所かな?」

 照れ臭そうに言う川内に那珂が飛び付いて行った。

「そうだね! 夜の三水戦! 川内ちゃんの復活だあああ!」

 その声は早朝の軽巡寮に響き渡った。


 朝食を済ませた後、川内は三水戦を昨日と同じように運動場に呼び出した。
 特型の三人は変わらずに各々の性格が表に出てきているが、一人睦月型の皐月だけは小さく端で立っている。
 しかし、昨日までの態度とは打って変わってキリッとした物腰で立つ川内の姿を見た途端、四隻はまるで式典に初めて参加する兵士の様に緊張した面持ちで直立した。

「さて、三人共昨日はすまなかったね。皐月の事で提督と話してたら長引いちゃってさ」

 吹雪が代表して答える。

「いえ! 大丈夫です!」

「そっか、良かった。それと、本日より我ら三水戦は正式に結成されました。面子は私含めてこの五人ね。宜しく」

 各員が改めて他の駆逐艦をちらりと見る。

「さて、話は変わるけど。君らは今まで誰の訓練を受けてきたの?」

「私と白雪と初雪は阿武隈さんの訓練を受けてきました!」

「なるほどね、それじゃあ特型三人は対潜と砲撃を集中してやってきたみたいだね。皐月は?」

「僕は名取さんに教えてもらってきたよ」

「ってことは体力には自信ありかな?」

「あ、あんまり成績は良くなかったんだ……」

「大丈夫だよ! 私は対潜も砲撃も雷撃もある程度の基礎しか教えないから」

 その言葉に吹雪が声を上げた。

「え! それじゃあ私たちは一体何を訓練するんですか?」

 川内は今までの無表情からは考えられない位の眩しい笑顔を吹雪に向けた。

「生き残る訓練だよ!」

本日の投下は以上になります。

もうすぐ書き溜めている分がなくなりそうなので、尽きたら落ちこぼれ川内さんは週刊になりそうです。

今のうちにまた追記頑張ります。

おつ

向こうのスレってどこだろう…
鳥無いから判らん

乙でち
川内型のファンになります

おつー
ようやく目覚めたか…

>>42
川内で検索かけると出てくるよ

別スレ読んできたけど、ヤバかったwww
何がヤバいって?www
読めばわかるwww
更新乙!


那珂ちゃんの追加ボイス聞くと、はしゃぎっぷりが姉そっくり

乙です
検索かけたら別スレもすぐ分かるけど,今後のために酉付けてほしいかな


本日の投下はかなり早めですが、2000には投下開始します。

一日サボりが発生している那珂、コメントが増えてきていたり、川内型ファンが増えているのはとても嬉しいです。
川内型の布教コメントや、逆に川内型の良い所を教えてみろなどのコメントはお気にせずどんどん投げて頂いて結構です。

>>47 酉の付け方ってこれでいいんですかね? わかりません


>>47じゃないけど酉はそれであってますよ

>>49
ありがとうございます。

ここの住人様は返答が迅速で助かります。


五分前行動

投下開始します



 執務室では提督と叢雲が休憩と銘打ったサボりの真っ最中だった。

「叢雲。川内はちゃんと進めるかねー」

「あら、私といるのに他の女の話? いいご身分ね」

「そんなこと言う女じゃないだろう、お前は」

「私だってそんな気分にもなるわ。冗談は置いておいて、そうねぇ」

 考える素振りを見せた後に叢雲は答える。

「駆逐艦の子達はかなり驚くと思うわよ。彼女他の軽巡と違い過ぎるから」

「それは一番弟子からの意見かな?」

「それもあるし、命の恩人だからかしらね。川内から教わった事は今でも使えるものばかりだもの」

「その減らず口もか?」

「あら、それは自前よ」

「藪蛇だったかな」

「その様ね」

 提督のデスクに少しだけ大目に書類が積まれる事になるが、川内がそれを知ることはない。



「生き残る訓練……ですか?」

 訓練場の桟橋に来た三水戦は改めてその疑問を川内に投げていた。

「そう。どんな戦場でどんな戦果を挙げても帰ってこなくちゃ意味がない。私たちが船だった時からそれは変わらないんだよ」

 皐月が答える。

「でも、ちゃんと相手を倒せないとそれも難しいんじゃないかな」

「そうだね。でもそれは出来る子がやればいい話なんだよ。でも生き残るってことは誰一人欠けちゃいけない」

 それを聞いた白雪が少しだけ顔を下げた。
 それを見逃さなかった川内は続ける。

「綺麗事って思うでしょ? でも生きているなら綺麗でありたいって普通だと思うな」

「それが、できるなら。ですよね」

「できるできないじゃないよ。やるんだ。見せてあげる」


 川内は桟橋から海に降りた。久々に火を入れた艤装だったが、旧型の缶よりも調子が良かった。まるでおかえりと言われているようで嬉しくなった。
 川内に続いて他の面々も海に降りていく。

 桟橋から少し沖に出ると、川内は振り返って吹雪達と向かい合った。

「さて、君らの主砲には実弾が入っているから、それで四人対私で模擬戦をするよ。」

 皐月が抗議する。

「出来ないよ! 危ないじゃないか!」

 しかし、川内は煽っていく。

「皐月。それは私に当てられるって事? それとも戦力差がありすぎて相手にならないってこと?」

「そうじゃないよ! でももし当たったら……」

「大丈夫だよ。提督には許可を取ってあるし。もしもの為にあそこに神通と那珂もいるから」

 先ほどまで川内達がいた桟橋の横に神通と那珂。二水戦の第十六駆逐隊と四水戦の第二駆逐隊。
 そして敷波が模擬戦の観戦に来ていた。

「多分提督と叢雲もどこかで見ていると思うからかっこ悪い姿は見せられないよ!私の主砲はペイント弾が入ってるから安心してね」

 そういうと川内は吹雪達から少し距離を置いた。

「状況は哨戒任務中に深海凄艦の軽巡型が一隻強襲してきた。本部はこれを撃滅せよと命令した。」

 そう説明しながら手にした14cm単装砲を構える。

「言っておくけど、私は沈める気で行くからね。手抜いてると怪我するよ」

 川内の放った気迫に皐月は咄嗟に砲を構えた。吹雪白雪初雪もそれに習って陣形を取る。単縦陣。

「開戦合図は神通の発砲。終了条件は私の中破か君らの全滅だよ」

 川内は空に向けて主砲を向ける。それを目印に神通が主砲を水面に構えた。
 那珂は一緒に見ている駆逐艦達に声をかけた。

「よっく見てなよーうちの鎮守府のトップの本気が見れるからねー」

 その言葉に敷波が意外そうな声を出した。

「え? 川内さんが?」

 神通が困った様に答える。

「残念ですが、私の訓練をあんなにふざけて受けられるのはこの鎮守府では姉さんと叢雲さんくらいです」

「でも、横で見てたらそんなに凄く見えませんでした」

「それは敷波さんがそういう所しか見てないからですよ。今日はそれ以外が見れます」

 敷波も神通や那珂にそう言われては言い返せない。少しだけムスっとしながら川内の方に向き直った。
 那珂が独り言で「やっぱり川内ちゃんは損してるなー」と言っていたが聞こえない振りをした。
 そうしている間に神通は開始の合図の砲撃を水面に向けて撃った。


「川内! 出撃します!」

 バカ正直に突っ込んでくる川内に吹雪は「散開!」と命令を出す。
 それに合わせて散らばる駆逐艦に川内は激を飛ばした。

「その判断は宜しくないなぁ! 各個撃破を狙われるよ!」

「させません!」

 突撃してきた川内に吹雪は12,7cm連装砲で狙いを合わせて発砲する。
 しかし、不規則に揺れる川内を捉えることは敵わず、接近戦に移行した。

「私たちは船じゃないんだ! いつまでも戦い方を縛られてちゃダメだよ!」

 川内は右に少しだけ進路をずらすと、スキーでカーブを曲がるように吹雪の前を通過した。
 その際に大量の水飛沫が吹雪に降りかかる。

「ん!っぷはぁ!」

 一瞬とはいえ視界を奪われ、足を止めてしまった吹雪は川内にとっては的となってしまった。
 吹雪の艤装、所謂缶と言われている部分に三発のペイント弾が命中する。

「まずは一ぃ!」

「私の出番終わったー!」

 吹雪の艤装からブザーが鳴る。大破判定だ。
 そして吹雪の影から白雪が飛び出してくる。

「狙いよし、打ち方はじめ!」

 吹雪同様12,7cm連装砲を連射していく白雪。主砲からは煙が上がり、川内がいた場所からは水柱が上がっていく。
 カチッと主砲から弾切れの音が鳴るまで掃射を決めた白雪のすぐ後ろから声がした。

「ダメだよ。相手を見失うような戦い方をしちゃ」

「っひ!」

 弾薬を再装填するとすぐに後ろに主砲を向ける白雪。しかし、そこには誰もいない。

「これで二人目ね」



 川内はやはり白雪のすぐ後ろに接近していて、ほぼゼロ距離で缶に二発打ち込んだ。
 ブザーがなると、白雪はがっくりとうなだれた。

「これしか撃てませんでしたぁ……」

 白雪と吹雪を離脱させると、川内は初雪と皐月を探す。
 すると、少し離れた所で二人が立っているのを見つけた。

「いいかい初雪。川内さんの強みはあの速さと判断力だと思うんだ。協力しないと勝てないよ」

「うん……私も本気だす……から見てて」

「まっかせてよ! いくよぉ! 左右に分かれて突撃!二面攻撃仕掛けるよ!」

「ん、いきます」

 川内を中心において二人は左右に分かれて進撃してきた。
 Xの字の様に砲撃を入れてくる。
 それを川内は逆に後ろに下がって回避した。

「お、やっとそれらしくなったね! それじゃあこんなのはどうかな?」

 川内は後退しながら突然主機を止めて水面にスライディングをするように滑り込んだ。
 そして射線を抜けると一気に主機を回して皐月達に突撃していった。

「あ、あんなのありかよぉ!」

 皐月が驚愕したように声を上げる。
 それに対して初雪が前に出た。

「囮になる……から、仕留めて」

「んー……まかせたよ!」

「私だって本気だせばやれるし……」

 皐月が援護射撃で弾幕を張る中、初雪が一直線に川内に突撃していく。

「何? チキンレース? 付き合うよ!」

 それに合わせるように川内も初雪に突っ込んでいく。
 お互いに弾幕を張りながら、それを避けながら。
 進んでいくと、遂に間近に迫る。
 先に回避行動を取ったのは初雪だった。
 川内はそれを見逃さずに通過した後に後方に主砲を放つ。
 その一撃が初雪の左足に命中。中破判定となる。
 それでも川内は止まらずに皐月に向かって進撃していく。

「この前の様にはいかないんだからなぁ!」

 皐月は以前の遠征を思い出していた。
 軽巡へ級の突撃。そのシーンがこの光景と被った。
 普通に砲撃だけだと川内は止められない。それならどうすればいいか。


「止められないなら止めないで落とすんだあああ!」

「へ?」

 皐月は先ほど初雪がやっとのと同じように川内に向かって突撃していく。
 川内にチキンレースを挑んだ。

「いいよ! おいで!」

 川内も速度を緩めることなく突っ込む。
 そしてまもなくすれ違うだろう距離で突然皐月の姿が消えた。

「ちょ! 消えた!?」

「睦月型を……」

 声のした方に川内が目を向けると驚いた。
 つい先程川内が皐月達に行ったのと同じ様に川内の足元ぎりぎりに皐月がスライディングを決めてきたのだ。
 そのせいで川内は急な方向転換が行えずに皐月にがら空きの背中を向けてしまう。

「舐めるなぁ!」

 皐月の斉射が川内の背中に向かって飛んでいく。
 しかし、川内の笑い声がそれに被さる。

「いいじゃん! いいよねぇこういう展開! 好きだなぁ!」

 川内は皐月が通過した航跡で出来た小さな波を見逃さなかった。
 皐月の突撃のお蔭で出来たその波の段差に合わせて膝を思いっきり曲げる事によって川内の体は宙に浮いた。
 そして身体をひねることで向きを無理やりに変える。
 数発が川内の体に当たるも決定打に欠けるもので、それくらいじゃ軽巡は止まることはない。
 無理な姿勢から射撃を行った皐月は硬直しており、川内の主砲はすでに皐月をとらえている。

「三人目!」

 皐月の腹部と胸に数発のペイント弾がヒットしてブザーが鳴り響く。

「…っつぅ! いったいじゃんかさぁ!」

「皐月より私の方が痛いっての!」

「くっそぉ……」

 残る一人。初雪に向かおうと川内が主機を回すと、すぐ近くで両手を上げている初雪がいた。

「無理……勝てない……降参」

 川内は微速で初雪に近づく。

「えーつまんなーい。最後までやろうよ」

「勝てない……痛いのは……嫌だから」

「まぁねー。ん、いいよ。それじゃここまで。帰ろっか」



 川内は終了の合図の砲撃を空に撃つと、皐月を抱えて初雪と桟橋に戻っていった。
 先に帰ってきていた吹雪と白雪はぽかんとした表情で川内を見つめていた。
 それは吹雪達に限った話ではなく、神通と那珂以外の駆逐艦全員が同じ表情をしていた。
 それを見た川内は思わず吹き出す。

「ちょ! 何その顔! うはははははは!」

 小脇に抱えられた皐月が右に左に揺らされて「はわわわああ」と悲鳴を上げているのが余計におかしく見えたのか、気付いた頃にはそこにいる全員が笑っていた。

 その後、反省会と称して桟橋に腰かけながら模擬戦を振り返っていた。

「まず吹雪。砲撃戦で足止めちゃダメ。艦載機がいる場合はその時点で轟沈覚悟ね。後単機相手の時は散開するんじゃなくて囲わないと。あ、味方の射線は被らないようにね」

「……痛感しました。」

「まぁ状況にはよるけど。今回の時は複縦陣が良かったかな」

「次に生かします!」

「うん! 次に白雪。一度に撃ち過ぎ。硝煙で前見えないでしょ。あれじゃ」

「はい……なぜかトリガーを引くと楽しくなってしまって」

「わかるよ。私も夜戦だとそうだから。でも、撃つことが楽しいんじゃなくて、当てる事を楽しみに変えるともっとやりがいが出るから工夫してみて」

「はい!」

「次に初雪。君は後は連携と細かい動きだね。砲撃は大丈夫。雷撃は次見てみようね」

「次も……本気だすから」

「負けないよー! 最後に皐月」

「……はい」



「あのスライディングは本当に驚いたよ。皐月は私の戦い方が馴染みそうで教え甲斐がありそうだ」

「え?」

「初雪に出した指示も良かった。基本技能の底上げと体力をもう少し付ければ十分戦えるよ。ただ、スライディングとかは他の軽巡の前でやると怒られるから気を付けてね」

「あ……」

 不意に涙をこぼす皐月。

「え? わ、私なんか変な事言った? あーごめんね! あぁ、どうしよう」

「ち、ちが……ちがうです!」

「どうしたの? 慌てないでいいから言ってみて?」

「ほ、ほめっヒッグ……こんな、ほめ、褒められたの初めてでぇええええん!」

 咳を切らしたように泣き始めた皐月。それを見た川内達は笑いながらも皐月に寄り添った。

「皐月、私たちは始まったばかりなんだから。これからもっと頑張ろうね!」

「はい! はい! えぇええん!」

「ずるいですよ! 私もいますからぁ!」

「白雪もいます!」

「……私も」

「皆ぁあああ! びええええん!」

「あーもう! 泣き虫だなぁ皐月は。あははは」



 執務室でデスクに座る提督と横によりそう叢雲。
 そこでは神通との通信が行われていた。

『以上が今回の三水戦の模擬戦の結果となります』

「そうか。報告ご苦労。久々に見た姉の晴れ舞台はどうだったよ」

『流石としか言えないですね。私では到底できない戦い方です』

「うまく回りそうで何よりだ。神通達は今日はもう予定はないから各自自由にしてくれ。以上だ」

『了解』

 通信はそこで切れた。

「ふぅ。まずはなんとか……って所だな」

「なに言ってんのよ。一番嬉しいくせに」

「まぁな。アイツがやる気になってくれるとこの鎮守府も活気がでる」

「ムードメーカーは大変ねぇ」

「お前もそのうちの一人なんだがなぁ」

「あら、それは喜んでいいのかしら」

「喜んでいいぞー」

「止めておくわ。余計な怪我してしまいそう」

「よくわかってるじゃないか。さて、来週にはまた哨戒任務が溜まるからな。今のうちに整理しておくことにしよう」

「そうね。お茶煎れてくるわ」

「ん。頼む」


本日分以上になります。

明日の投下分で書き溜め付きますので、明後日以降の投下は週末になりそうです。
その旨宜しくお願い致します

おつでした
川内無双始まった!!ww

>>47ですけど酉付けて下さって感謝です
週末も待ってます

【お知らせ】
今週は土曜出勤がある為、更新は日曜になります。
宜しくお願いします。

社畜艦辛い……。

乙w

何、じきに慣れるさ。思考停止とも言えるが

社畜艦ワロタw
無理するなよ

すぐに夜戦(サビ残)楽しいしか言えなくなるよ

???「外回りが帰ってきたんだって」
???「仕事がきついって?それはすまなかった」
???「もーっと働いてもいいのよ?」
???「できれば残業代を出したいのです」


今夜は2200には投下予定です。

>>68 のコメントがツボりすぎて保存しました。

営業型社畜艦に補給は許されない。

待ってた仕事乙

乙です
赤疲労?構わん、行け

意外と住人が居ついてくれているんですね。
ですがその殆どがド畜生でちぃ……。

投下します


 三水戦の噂はその日中に鎮守府を駆け巡り、賛否両論が飛び交った。
 その後日、甘味処間宮では休日の駆逐艦達がその話題で盛り上がっていた

「凄かったらしいわね川内さん!」

「その噂本当なの? あの川内さんよ?」

「その噂が本当だったとして。それじゃあ今まで手を抜いてたって事でしょ?」

「なんかそうみると腹立つわね。舐められてたって事でしょ」

「でもかっこよかったらしいよ!」

「なんでもいいから早くあんみつ食べたい」

「でも所詮妹隠れの川内でしょう? どうせ神通さんや那珂さんに隠れて教えてもらった事をしただけよ」

「実はできない振りしてましたーでも実は私ってすごくつよーい! って事? それ面白いわね」

 動揺する者、煽る者、それに乗っかる者。そしてバカにし始める者。
 そんなせせら笑いが満ちていく中、間宮に入ってきた人物が空気を壊した。

「あら? 今日は随分盛り上がってるわね」

 入り口から叢雲が入ってくるなり会話が止まった。

「続けてどうぞ? 邪魔なんかしないわ」

 そういうも口を開く艦娘はいない。
 提督の懐刀である叢雲も、川内との距離が近い。それはここにいる艦娘ならだれでも知っていた。

「私って嫌われているのかしらね。それとも私に言えない話でもしてたのかしら?」

 そんな事を言いながら席に着いた叢雲は間宮に宇治金時を注文すると、目の前に座っている駆逐艦に話しかけた。

「アンタもそんな怖い顔してないで早く食べなさいよ。あんみつがもったいないわ」

「別に……」

「にしても、アンタがあの話題でそんな顔するとはねぇ……助けられて、見せつけられたからこそって奴かしら?」

「うるさい」

「可愛い妹が話しかけているのだから相手してくれてもいいじゃない。お姉ちゃん」

「どの口が……私よりあっちに気使わないでいいの?」

「あっちは可愛い忠犬よ? 飼い主がよしというまでは噛みつかないんじゃないかしら」

 叢雲と向かいに座った敷波が見つめる先には下を向きながら両手をぎゅっと握ったまま固まる皐月がいた。
 その横では如月や長月が心配そうに声をかけていた。

「ほら、ちゃんと待てが出来てるじゃない。そこら辺で吠えてる犬とは違うわね」

「叢雲、そんな敵ばかり作ってたらいつか刺されるかんね」

「お姉ちゃん心配してくれるのね。でも使えない味方をいくら増やしても強い敵には勝てないものよ」

「またそんな……」

「明日は我が身、なんて御免だわ。それなら川内と夜戦の方がよっぽどマシ」


「聞えてたんじゃない」

「聞えて無いなんて言ってないわ」

「悪趣味ね」

「陰口しか叩けないよりかいいじゃない」

 そんな事を離していると、皐月達が座っていた席がざわついた。

「お前今なんて言ったぁ!」

「な、なんなのよこいつ!」

 皐月が別の席に座っていた重巡に飛びかかっている所だった。
 それを見て敷波は動揺していた。「あの皐月が……」と。
 叢雲はそれを知ってか知らずか続ける。

「案外人は見かけには依らないのかもね。あの子が誰かの為にあぁ出来るようになったのも、アンタがそうやって思うのもあの人がいたからでしょ?」

「……言いたいことが分からないんだけど」

「まぁ、そうね。二番弟子が頑張ってるのに一番弟子がぼけっとしてられないって事よ」

「なにそれ」

「まぁ見てなさいな」

 そういうと、叢雲は立ち上がって皐月と重巡の喧嘩の中に混ざっていった。

「む、叢雲!?」

 皐月はすぐに叢雲に気付いて少しだけ離れた。巻き込まないようにしたつもりだったが、それが功を奏した。

「く、駆逐艦が一匹増えた所で! ッがぁ!」

「一匹? 何、船の数え方もわからないのかしらね」

 重巡は完全に頭に血が上っていた。
 叢雲にも殴りかかろうとした所を簡単に叢雲に止められ、首を持ったまま持ち上げられる。

「重巡風情が駆逐艦に手あげるなんて、最低ね。それに貴女新参でしょう? 私に喧嘩売ってどうなるか教えてあげるわ」

「がぁ……コヒュ……は……ア……」

 じたばたと暴れる重巡に興味無さげに叢雲は持ち上げ続けた。
 それはまるで見せしめのようにも、一方的な八つ当たりにも見える。


「む、叢雲! それ以上したらその人が!」

「良いじゃない、別に。さっきは聞かなかった事にしてあげたのに、気付かずに続けたこいつの落ち度よ。皐月、こいつはなんて言ったから貴方は怒ったのかしら」

「え……それは……」

「早く教えてくれないとコレ本当に壊れちゃうわよ?」

「わかったよ! わかったからやめてよ! 川内さんなんか沈めばいいって! いてもいなくても変わらないならいらないって、所詮は……提督のおもちゃだって……」

「そう。ありがと」

 叢雲はそう言うと、手に力を込める。
 相手の重巡は口からだらしなく涎を流し、白目をむきかけていた。

「言いたい放題ね。あなたにはそうかもしれないけど、私にとっては命の恩人であり師匠なの。そんな人をそんな言われ方したら……怒るのは当然よね」

 叢雲は手を離すと、糸の切れた人形の様に重巡は床に崩れ落ちた。そしてそれの足を掴むと、引きずったまま外に向かう。

「叢雲! その人どうするの!」

 皐月が叢雲を止めようとすると、叢雲は笑顔で答えた。

「何って、これが言った事をそのままこれにするのよ。当然でしょ?」

「だ、駄目だよ! それ以上やったら!」

「そう、皐月は良い子ね。他の子も皐月みたいに良い子ならこんな事しなくていいのにね」

「叢雲ちゃん。そこまでだよ」

 そのまま出ていこうとする叢雲の前に那珂が立っていた。

「秘書艦がそんなことしたダメなんだから。はい、その人渡して?」

「アイドルがこんな所で油売ってていいのかしら?」

「今の那珂ちゃんは~アイドルじゃないの~」

「なら何よ」

「なんでもいいじゃない。それよりも、その人下着見えちゃってるよ。可哀想だから那珂ちゃんに渡してほしいなって」

 叢雲はため息をつくと、那珂の前に重巡を放り投げた。
 その一連を見ていた他の艦娘に叢雲は告げた。

「強くもない奴が吠えるからこうなるのよ。文句があるなら本人に、陰で言うなら聞こえないように用心なさい」

 叢雲はそれだけ言うと本舎に戻って行った。
 一連の出来事はその日のうちに広がっていく事になる。
 秘書艦があそこまでやる川内とは何者なのか。
 そんな興味が一つの事件を浮かび上がらせた。

『タンカー護衛作戦』

 軽巡駆逐の艦娘なら一度は行うポピュラーな作戦。
 その失敗例を。

 そして、その日。
 那珂が連れて行った重巡は姿を消した。


 それから数日後、執務室には提督・叢雲の他に二水戦が集まっていた。

「さて、それでは作戦概要だがいつもの奴だ。南西諸島海域・沖の島周辺の巡回と残存勢力の撃滅だ」

「沖ノ島を攻略してから三か月が経過しているわ。そろそろ敵さんも品切れだと思うから、そこまでドンパチする事も無いと思うわ」

 提督や叢雲が言う通り、既に戦艦・重巡クラスの深海棲艦は討伐を完了していた。残るは軽巡や駆逐艦程度。

「しかし、沖ノ島を奪還しようとする動きもある。揚陸艦や補給艦の目撃情報も来ている事からまだ諦めていないのだろう。もし発見したら撃滅、または撃退せよ」

「了解いたしました。旗艦神通。以下 初風 雪風 天津風 時津風。任に着きます」

「宜しく頼む。本日1300に出撃! それまでに補給や装備を整えよ! 以上だ」

「はっ!」


「にしてもまた巡回か~つまんな~い!」

 出撃ドックで支度を整えている途中、時津風が愚痴をこぼす。

「まぁね、でもこれも仕事よ」

「初風の言う通りよ。まぁ私は風が気持ち良ければなんでも良いわ」

「雪風はみんな無事ならなんでもいいです!」

「ほらほら、皆さんちゃんと準備してくださいね。ちゃんとお仕事出来たらちゃんとご褒美あげますから」

「え! 神通さんのご褒美!? なんだろなんだろ!」

「ご褒美と称した訓練じゃないでしょうね?」

「連装砲君! 助けて!」

「違います! 私だってその教官のイメージ払拭したいんですぅ! 間宮で皆で食事でもしましょうって言いたかったのに……」

「時津風のせいね

「時津風ね」

「時津風ですね」

「ごめんってばぁ!」

「……ふふ。良いですよ。ちゃんと頑張れたら約束通り間宮に行きましょう。皆さん準備は良いですか?」

「初風以下三名準備完了よ」

「宜しいです。それでは第一艦隊第二水雷戦隊、出撃します!」

「お! 見てみてぇ! 三水戦が訓練してるよ!」

「あら本当。川内さんの動きってなんていうかアクロバットよね」

「あの動きをすれば風当たりいいのかしら?」

「あの動きが出来るのは姉さんだけです。天津風がやってたら怒りますよ?」

「わ、分かってるわよぉ!」

「ふふふ、それでは今の速度を維持して南西諸島海域に向かいます。周囲警戒を怠らずに行きましょう」



 那珂の重巡拉致事件。
 川内のタンカー護衛任務の件。
 この二つに覆いかぶさるようにもう一つの事件がこの日起こった。

 神通を旗艦とする第一艦隊が、南西諸島海域沖ノ島付近にてロストした。

今週の投下は以上になります。

次回はまた週末に投下します。

阿武隈改二の支度しつつ設計図が来ないことを文月に祈って寝ます。


川内型波乱万丈というか・・・

乙でした
世に文月のあらん事を……

寝る前にひとつ。

今一応起承転結のプロットはできているのですが、エンディングどうすっかなぁと悩んでいます。

綺麗にまとめるつもりですが

次に繋げるエンド(続編制作
川内さん引き籠りに残るエンド(そして始まりに戻る。『若干バッドエンド』
やっぱり俺たちの川内さんは最高だぜ!エンド(俺つえぇ主人公エンド

で迷ってます。
ご意見いただければ助かりますのでよろしくお願いいたします。

勝手に書けや! という方はそのままお待ちください

俺個人はバッドは勘弁して欲しいかな
選ぶなら三つ目やけど若干俺つえぇして続編とか無理なん?

>>81
全然ありですよ

因みに今有力なのは皐月さんが次の主人公になるパターンですかね

乙です

それでいいじゃん
ハッピー系で見たい

3パターンすればいいと思うの


川内最高からの続編がいいわ

乙いいところで引きやがって…神通さん…

おつー
個人的には川内最高続編がいいなぁw
いやでも>>1が書きたいのを書くのが一番だと思いますよ?

(悩んでるなら全部書けば)ええんやで


エンディングは俺つえぇ希望で!

>>1見てるかな
阿武隈改二には設計図が必要だってさ…(遠い目)

【お知らせ】

ご意見ありがとうございました。
参考にさせていただき
明日の夜に続き投下します。

木曜の朝に出社して、帰ってきたのが今日の昼でした。怖いですね……。

>>90
エ、ヤダ!セッケイズ?  ナイケド

悔しくて大型回したら大鳳でました。

社畜艦、休んでいる暇があるなら勲章集めに向かったらどうなんだィ(ゲス顔)
仕事お疲れさまデス

おぉう、マジ社畜艦の鑑だわ乙ですw

【お知らせ】

やったぁ!401ちゃんが来てくれた!

残り資材を見るまでは喜びに浸れましたが、見てしまってから瞬時冷静になりました。私です。

本日2200頃に投下予定

多分ワンオペで夕方回しているようなコンビニの店員さんは特型社畜艦の称号を贈られてもいいと思います。

おめ~
イベント前に大型まわすその心意気に脱帽ww
イベント後に空になるまで回すわ401欲しい

イベント前にバリちゃん狙いで一日中ALL30回して万単位の資材溶かした提督だっているんですよ!

ちょっと早いですが投下開始します。

書き終わってなぜか敷波がサブヒロインポジになっていることに気付いた……。
大型ってストレス溜まるとまわしちゃいますよね


 神通率いる第一艦隊ロストの報を聞いた川内と那珂は急いで執務室にいる提督の元に向かった。
 二人が部屋に入る頃には既に対策本部が敷かれており、現場の把握と生存の確認が急がれていた。

「提督! 神通は! 神通の部隊はッ!」

 部屋に入るなり提督に詰め寄る川内に、提督は作業の手を止めることなく対応する。

「現在空母隊による偵察機捜索をしている。向かった沖ノ島海域は既にこちらが制圧していた。なんらかの異常事態が発生したと思われる為にまだ出るわけにはいかん」

「そ、そんな悠長な事言ってる場合!? もし神通に何かあったら!」

「それで誰かが今行ってもまたその誰かを探す部隊が出てくる! それでは幾ら被害を重ねたところで変わらねぇんだよ!」

「だけど! また、また『あんな事』になったらぁ!」

「那珂! 川内を外に連れて行け! お前も少し頭を冷やせ。そうならない為に今は尽力を尽くすんだろうが」

「川内ちゃん、行くよ。でもその前に提督、那珂ちゃんは……私は本日中には姉の捜索に向かいます。それまでに事態の把握と作戦の概要をお願いします。では」

 提督の答えも聞かずに那珂と川内は退出する。
 提督は誰に聞かせるでもなく悪態をついたが、横で作業していた叢雲だけがそれを聞いていた。

「どいつもこいつも勝手ばかり言いやがって……クソが」

「ならその勝手ついでにコレ、出しておくわね」

「書類? ……叢雲お前」

「ええ、今回は私も出るわ。状況が状況だし、このままにしておけないわ。それに今、空母隊から電文が届いたのよ」

「……発見の報と……こいつは、最悪だな」

「時間的にも状況的にもなにもかも……一番適した人材は彼女だけよ? あの子もあなたもいつまでも引きずっている場合じゃないってこと」

「しかし、まだ時間が必要だと言っていただろう。ようやく、ようやく一歩踏み出したんだぞ!」

「それが甘いって言ってるのよ。彼女は……川内はあなたの恋人でもペットでもないの。一歩的な感情を押し付けてたのはあなたよ? それに気づいてて止めなかったのもあなた」

「……しかし」

「守ることと可愛がることは違うわ。もしそれをはき違えているなら、あなた司令官には不向きね」

「言ってくれるな」

「言うわよ。見てきたんだもの」

「……だが、さっきの様子だとまだ難しいぞ」

「大丈夫よ」

「なんで……そう言い切れる」

「もう一人じゃないもの。可愛い忠犬だと思っていたのだけれどね……実の所飼い主に良く似た暴れん坊だったって事よ。ホラ」

 叢雲は執務室の窓の外、出撃ドック付近を指さした。
 提督が視線をそちらに向けると、艤装を身に着け水平線を見つめる一人の艦娘の姿があった。
 今まで悩んで動くことすら出来なかったせいか、その愚直な行動が出来る事が羨ましく、とてつもなく頼もしく映る。
 自然と肩の力が抜け、呼吸が穏やかになるのを感じた。
 それはいつか見た、あこがれだった巡洋艦の影と重なったからか。
 それともあの背中を早く送り出してやりたいと思ってしまったからなのか。
 横にいる秘書艦は只々澄ました顔をしてこちらを見ていた。
 いつも通りに、ならばいつも通りに送り出すことにしよう。

「……まだ命令は待機しか出していないぞ」

「待機してるじゃない。ただ艤装を背負ってるだけよ」

「さっきの例えならまるで『待て』だな」

「ちゃんとわかってるのよ。飼い主が『良し』と言う事も、ちゃんと来るって事も。信頼してるのよ、誰よりも」

「違いないな。叢雲」

「えぇ、作戦なんて後から通信して頂戴。私たちは船よ、急にはもう止まれないわ!」

「宜しい。直ちにバカを叩き起こせ! 第一、第三、第四水雷戦隊を主軸とした救出部隊を編制する! 戦艦、重巡、航巡は敵勢かく乱と撃滅! 急げ!」


 この内容を聞いた那珂は直ぐに出撃ドックに向かおうとする。
 しかし、横にいた川内は足を止めていた。
 その様子を見た那珂は「先、行くね」と出撃ドックに向かっていった。
 
「私は……私もッ……でも、また……また……」

「また、なんですか?」

「っ!」

 突然後ろから話しかけられた川内が驚いて振り向くと、出撃命令が出ているにも関わらず普段通りの恰好をした敷波が立っていた。

「また守るものが壊されるのが怖いですか? それともまた仲間が傷つくのが怖いですか」

「……知ってるんだね」

「この鎮守府が設立された当時に実行された『タンカー護衛任務』。水雷戦隊で行う任務だったけど、当時は秘書艦の叢雲と川内さんの二名しかいなかった」

「……」

「航路は比較的安全で、深海棲艦の姿も少数しか確認されていなかった為にそのまま二名による護衛を行った」

「結果……叢雲は轟沈寸前まで大破して……護衛対象のタンカー船団は全滅……私のせいでね」

「記録には……戦艦ル級を旗艦とした強襲部隊による奇襲だったと書いてありました」

「実際そうだったよ。でも逃げ切れる可能性もあった。あの時の私はバカでさ……敵と邂逅時が夕方だったから少し時間を稼ぐことが出来れば夜戦で倒せると思ってたんだ」

「その時、叢雲は」

「旗艦の指示に従うってさ……。もうすぐ全体が暗くなりきるって時にね、敵重巡の魚雷が飛んできた。でもそれに気づくのが遅れた私は直撃コースから抜けられなかった」

「……それじゃあ」

「庇ってくれたんだよ。叢雲が私の前に出てきて魚雷を真っ向から当たってくれた。そして夜になった瞬間、私は叢雲を守ることで精いっぱいでタンカー船団が襲われていくのを見ている事しかできなかった」

「……でも、今の川内さんなら!」

「叢雲も同じ事言ってくれたよ。提督も、その後来たほかの子達も。でも……目の前で誰かが大破する度にあの夜を思い出す……。あの時はタンカー船団だった、でも次は!? 次は同じ艦隊の子が沈んでいくかもしれない! 神通が! 那珂が! 駆逐艦達が! もう! もう嫌だよ! それなら私は! 私はぁ!」

「なら、それをあの子の前でも言って来てください」

「はぁ……はぁ……誰の事よ」

「皐月です。二水戦ロストを聞いてからずっと出撃ドックで艤装付けて待ってるんです」

「なんで……待機のはずでしょ」

「川内さんがっ! アンタが一番最初にここに来るはずだからって! 待たせられないって! 僕が川内さんを守るんだって言ってるあの子の前で同じ事言ってみなさいよぉ!」

「……そんなの!」

「あの子はねぇ! アンタがあの子の事を知る前からずっとアンタの事を見てきたのよ! タンカー護衛の事も初めから知ってた! それでもアンタに憧れて……アンタみたいに強くて誰かを守れる人になりたいって……っく」

「私が……この私が誰を守れるっていうのよ!」

「叢雲を守ったでんでしょ!? 戦艦や空母が来てからも駆逐艦達を第一に守ってくれてたんでしょう!? この前も私を守ってくれたじゃない!」

「……あれは」

「言い訳なんてしないでよ! 私も……私にも憧れさせてよぉ! うぅ……ひっぐ……アンタの事……目指したいって……思わせてよ……うわぁあああ!!」

「…………」

 目の前で泣いている敷波を見て、川内は涙を堪えた。
 首に巻いたマフラーに埋めるとそのまま歩き出す。
 通り過ぎ様、泣き続けている敷波の頭に手をのせ、聞こえるギリギリの声で「ありがとう」と告げると、そのまま走り出してしまった。
 あの小ささなら声が震えているのもバレないだろうと、そんな事だけ考えて出撃ドックに向かう。
 残された敷波の後ろから提督が歩いてくるのが横目に見えたから、きっと大丈夫だ。
 あの人に任せておけばいい。今は私を待っているあの子の元へ急がないと

 頬に当たる風が少しだけ冷たかった。


 出撃ドックには既に三水戦のみが残っていた。
 初めに一水戦が出撃。追いかけるように四水戦が出撃した。
 残された特型駆逐艦三名と皐月が命令を待っているのみだった。

「川内さんまだかなぁ……うぅ、心配だよ」

「吹雪? そんな暇があるなら何度でも装備を確認しないと。この隊になって初めての実戦なんだから」

「白雪だってずっと川内さんに付けて貰ったアイアンサイト覗いているだけじゃない!」

「川内さんにね、言われたの。無駄撃ちする度にマイナス1点。敵の部位ごとに点数を付けて、当たった合計を報告するようにって」

「それがなんなのよ。まるでゲームじゃない」

「そうよ。私の点数が高ければ高い程吹雪達を守れたって証拠になるんだもの。ゲームにだって本気になるわ」

「あー! 白雪まで特徴が強くなってる! 私がまた地味になるじゃない! どうしてくれるのよぉ!」

「吹雪にはそれがあるから大丈夫よ」

「それってなに! 教えて! 教えなさい!」

「……こんな場面でも、普段通りに居られる……それが吹雪の強い所」

「初雪……それ、空気読めてないとかそういう意味じゃないよね? 緊張感ないってことじゃないよね?」

「……」

「黙らないでよ!」

「あら、まだいたの? 追いかけて行ってびっくりさせようと思っていたのに」

「む、叢雲!?」

「ハーイ吹雪お姉ちゃん。相変わらず騒がしいわね」

「アンタだって相変わらず私を姉と思ってないじゃない!」

「あら酷いわね。ちゃんと思っているからお姉ちゃんっていうんじゃない。ね、白雪」

「あのね? 私も叢雲のお姉ちゃんなんだよ?」

「……私も」

「あら、ならここで一番妹の私が一番優しくされなくちゃおかしいじゃない。それはまた後で話すとして。皐月」

 特型駆逐艦が固まっているドックの中心部から離れた海側ぎりぎりの堤防に皐月がいた。
 叢雲に呼ばれても振り返ることなく、他の水雷戦隊が通ったもう消えたはずの航跡を見つめている。

「安心なさい。ちゃんと来るわ」

「……当たり前じゃないか」

「一番初めに来てほしかった?」

「……」

「あの人はまだ転んだまま立ち上がれないでいるだけよ。だから皐月」

「僕は」

「……えぇ」

「僕は川内さんが立ち上がるまで守ってみせるよ。立ち上がってくれた時にちゃんと横で戦えるように。それまでにもっと強くなる」

「そんなに時間はかからないと思うけど?」

「その時は、鍛えて貰う事にするよ」

「そうね。それが良いと思うわ」


「なんかあの二人分かりあってる感じだねー」

「吹雪は川内さん来ると思う?」

「え? 来ないの?」

「……来るよ」

「来るよね!? ねぇ!」

「来なかったら私達だけで行っちゃおうか」

 

「はぁ……はぁ……はぁ……白雪は私が知らない間に随分寂しいこという子になったのね……はぁ」

「だってあんまり待たせるものですから」

「悪かったね。ちょっと寝坊しちゃってさ」

「もう皆準備出来てます。早く準備して下さいね」

「ふぅ……そだね」



「あら、私ちょっとお手洗いに行ってくるわね」

「叢雲。出撃前なんだから急いでよ」

「分かっているわよ」

 叢雲が皐月から離れてドックの中に戻っていく途中、知れ違う人の肩を叩く。

「あんまり苛めると噛みつかれるわよ?」

「……ありがと」

「ほら、早く行ってあげなさい」

「うん」

 吹雪達が抜錨準備に入っている所に合流した叢雲は、トレードマークのアンテナを肩にかけて満足げな顔を見せた。
 皐月の元には、ようやく訪れた待ち人。

「まったく……遅いんだよ……」

「ごめんね。待たせた」

「皆、もう行っちゃったんだから……」

「そうだね」

「ずっと……待ってたんだよ?」

「ありがとう、皐月」

「やっぱりバカだ。川内さんは」

「そうみたいだね。皐月と一緒だ」

「僕はばかじゃないもん!」

「私と一緒じゃ嫌?」

「……嫌じゃ……ない」

「なら良かった。おし! それじゃあ三水戦の出撃といきますか!」

「もうどうだっていいよ! 川内さんのばかぁ!」





「イチャついてるね」

「イチャついていますね」

「……イチャい」

「気にしなくていいわよーほら、あんた達も出るわよ」



 川内を旗艦とした第三水雷戦隊。
 その面々がようやく出撃ドックに集合すると、一列になり、出撃体制に入る。
 その号令を川内がかけようとしていた。

「さて、皆待たせて本当にごめんね」

「本当だよ!」

「はは、その分しっかりやるから! 私達三水戦の任務は簡単だよ! 私たちの到着時刻がフタマルマルマル。辺りは既に暗くなっている頃ね」

「あら? あなた夜は怖かったんじゃなかったかしら?」

「いやぁ、まだちょっと怖いんだけどね……それよりももっと怖い人を助けにいかないといけないからさ」

「神通さんはそんなに怖い人じゃないですよ?」

「駆逐艦には優しいの! それで、私たちの任務だけど。 一水戦、四水戦は昼戦にて二水戦の護衛・脱出を補助。そのまま海域を離脱。戦艦、重巡を中心とした部隊が道中護衛や、敵強襲部隊の相手をしてくれる」

「あれ、私たちはなにをするんでしょう?」

「私達はね? その前に吹雪は私のあだ名って知ってる?」

「え?……えーっと……その」

「良いよ。怒らないから言っていいよ」

「い、妹隠れとか……あの、その……ごめんなさい!」

「ははは。ありがとう吹雪。そうだね、今の子達はそのあだ名の方が強いよね」

「夜戦バカ」

「ふぇ? 叢雲今なんて?」

「夜戦バカよ。吹雪の言ったのはこいつが引き籠った後のレッテルよ。それまでは川内といえば夜戦。夜戦といえば川内という位だったんだから」

「へぇ……川内さん夜戦特化なんですか?」

「全然?」

「え?」

「探照灯に夜偵に照明弾。この装備こしらえて突っ込んでたくせに何が夜戦特化じゃないよ。馬鹿じゃないの?」

「へぇー! 川内さん夜戦特化なんですか!」

「それを別にしても、夜戦での戦い方がうますぎるのよ。この軽巡」

「まぁその話はまた後でね。そう、私は夜戦バカって呼ばれてたの。それを吹雪達位になってくると忘れられているみたいでね。多分敵も私の事を忘れているんだと思うのよ。だから」

 一息。呼吸を置くと、川内は声を張った。

「今夜は奴らに私の存在を思い出させてやる! 私の妹や仲間に手を出したらどうなるか思い知らせてやる! 私たちの仕事はただ一つ! 夜戦だぁ!」

 それを皮切りに川内が艤装に火を入れる。主機が回転して唸り声を上げていく。
 それに続いて叢雲、皐月が缶に火を入れた。
 出撃ドックはまるで暴走族が同時にバイクをうならせているかのような轟音が鳴り響いている。
 吹雪、白雪、初雪はそんな三人に火照されて主機を回す。
 
「川内! 第二水雷戦隊! 出撃します!」

 号令が聞こえた瞬間。我先にと飛び出した六隻の船。
 バラバラだった航跡が湾を出る頃には一つとなって、戦場を目指して進んでいく。

「……神通」

 既にその瞳に絶望は無かった。
 

本日分は以上になります。

投下量すくなくてすみません。
一応起承転結の転にはもう入っているのでもうすぐです。

あぁ~皐月可愛いんじゃ皐月ぃ!


>私達三水戦の任務
>「川内! 第二水雷戦隊! 出撃します!」
これはあかんくね?

>>105
誤字です申し訳ありません。

今後気を付けます。

以後読まれる方は脳内変換宜しくお願い致します。

お疲れ様です社畜艦殿、明日も笑顔を絶やさず御死事頑張って下さいね(ニッコリ)


皐月は神輿に載せて「カワイイ!カワイイ!」と言いながら鎮守府内を一周したいくらいはかわいいから仕方ないww

乙でち!
盛り上がって参りました頑張れ社畜艦!

おつかも!!
さていよいよ盛り上がってまいりましたww


前言ってた感じから川内最高が見れるのかな楽しみ

うーむ次回作あるなら一旦底まで落として欲しいなぁ
そこから皐月ちゃんが救い出す王道

最初が既に落ち込んだ状態だったんだしこのまま突っ走ってくれた方がいいわ

追いついた乙
叢雲嫁で川内さん大好きな俺歓喜

【お知らせ】

今週は『ちゃんと』休みが土日あるので日曜の夜にでも大目に投下したいと思っています。

私事になりますが、こんなドブラック鎮守府いられるか!
と社長と喧嘩してしまい、今の会社辞めることになりました。
そこの職場の上司に大手企業に斡旋してもらえるようなのである意味大出世です。

なので、SS投稿も八月からは週刊ではなく、週2~3投下が可能になります加賀岬。

色んな意味で乙

社長と殴り合いが出来た>>1は出来る人間


大変だったみたいだが今後も頑張ってくれ

おお、社畜艦からスーパー社畜艦へ出世乙ですよw

ブラックにいる上司から斡旋って嫌な気配しかしないんですが

仕事中に追いついたレスを見て本気で嬉しかったです。

ここのコメントは仕事の支えになり本当に助けられています。

>>119 ヒント:そこの上司は社長の幼馴染で殆ど趣味みたいなテンションで仕事している人。

私も怖くて調べつくしましたが、大丈夫そうです。

おお乙
頑張ったな>>1

仕事を辞めてまで本心を打ち明けた社畜艦殿に更なる改装プランが届きましたよ!
大変かもしれませんが挫けず頑張って下さい

「酒の席での発言を本気にしちゃったの?!」となって転職に失敗した人を知っている
ちゃんと転職できそうで良かった

大手(ワタミ)

【お知らせ】

本日は2200に投下予定。

アイス……ラムネェ……。

社畜艦…待ちわびたぜ…

すんません。三十分延長下さい!

仕事の電話が来て手が止まっていました……。
辞める人間を酷使していくスタイルぅ……。

台風の中裸座禅してるんだ!
寒いだろうが!早くしてくれ!

>>127
ああ、こっちも仕事止める前に1ヶ月間月月火水木金金を本当に体験したな
しかも社長がキレイに俺と仕事の時間合わないようなシフトにされて文句も言えんかったわ
頑張れ

くぅ~疲れました!

これより投下します。


 第一艦隊。第二水雷戦隊が消息を絶ってから既に九時間は経っていた。
 阿武隈旗艦の第一水雷戦隊が出航してから五時間。
 未だに対策本部となっている鎮守府執務室に発見の報は無い。
 空母隊の艦載機がくまなく探しているにも拘わらず発見されないという事実に、提督はそれが最も強固なる生存の証明だと確信していた。
 あの神通がおいそれと敵にやられてくれる筈がないと。
 そして一水戦から連絡が届く。

『こちら第一水雷戦隊旗艦阿武隈! 現在沖ノ島残存勢力と思われる敵艦と交戦。これを撃破。こちらは被害なし。敵は始めからかなりの損傷を負っていました!』

「こちら本部。近くに友軍の出撃情報は無い。恐らく二水戦との戦闘によるものと考えられる」

『私もそう思います。それと、六駆の子達が敵が来た方角に行ってみようと言っているのですが……』

「許可する。現在の阿武隈達の居場所は把握している。向かう方角を報告してくれ」

『北東東です』

「了解した。羅針盤に持っていかれそうになったら直ぐに報告を。以上」

『了解しました!』

 通信が切れると、提督は椅子に深く沈み込む。
 生きている筈だという確信が強くなるほど、無事でいてくれという心配が大きくなっていく。
 四水戦は未だ会敵無し。戦艦を主軸とした支援部隊は沖ノ島海域近海のオリョーク付近で現在待機。
 最後に出発した三水戦はようやくバジー島海域に入った頃だった。

「頼んだぞ。誰一人……失ってたまるか」


 川内三水戦はまもなくバジー島海域に差し掛かる頃だった。
 出航の時の熱気は収まりつつあるも、各員程よい緊張感を持っていた。
 前から川内、皐月、吹雪、白雪、初雪、叢雲と並んで単縦陣を維持したまま進んでいく。
 すると、殿を務める叢雲から全員に無線が入った。

「この辺はいつも通りね。というより、いつもより穏やかかしら?」

 川内が答える。

「そうだね。この海域なら多少は空母型や重巡型が潜んでいてもおかしくないんだけど」

「怪しいわね。旗艦、意見を具申するわ」

「言いたいことはわかるよ。一度バジー島に寄るっていうんでしょ?」

「えぇ。あそこには妖精用の海域監視施設がある。それと、提督にアレのお願いもしてきてあるから取りに行きたいの」

「アレ? なにか知らないけど、初めから寄る気だったのね。私も同じ予定だったから都合は良いかぁ」

 そこで皐月が意外そうな声をだした。

「え、川内さんは先を急ぐって言うかと思ったよ」

「まぁ神通の事は心配よ? でも阿武隈や那珂が先に見つけてくれるから、慌てて行ってもしょうがないからね」

「それはそうかもしれないけど」

「それに、私の目的は神通を助ける事だけじゃないしね。あの子ならそもそも助けは要らないかもしれないし」

「他になにかあるの? 叢雲や川内さんの話は難しくて僕には分からないや……」

「皐月ちゃん、大丈夫だよ。私もわからないから」

「吹雪ちゃんもか」

「多分白雪や初雪もわかってないと思うからそんなに気を落とさないでね!」

「吹雪ちゃん」

「あのぉ……なんか一緒にされるのも変な感じがするんですけど」

「白雪!? なんで!? 同型艦だよ? 私お姉ちゃんだよ!?」

「……ノーコメント」

「初雪まで!? 酷い!!」

「大丈夫よ。教えておかないといけない事はちゃんと教えるから。でも今回のは折角だからビックリした所が見たいのよ、私は」

「叢雲もか、私もそんな感じなんだよね」

「川内さんも叢雲もなんか言ってくださいよぉ!」

「白雪も初雪もあんまりお姉ちゃん苛めちゃだめよ? これでいい?」

「叢雲……ありがとう! 持つべきものは妹だよ!」

「あれ、私吹雪の妹で叢雲のお姉ちゃんよね? 初雪も」

「……のーこめんと」

「やっぱり皆が言っている事よくわからないや……」

「はいはい。息抜きはこのくらいにして。進路変更! これより北東、バジー島へ向かう。叢雲、本部に報告してる間お願い」

「了解。あぁ、提督に『あの書類のヤツ、使うわね』と伝えて貰える?」

「いいけど、それ私にも教えてくれないの?」

「見てからのお楽しみよ」

「はぁ。まぁいいわ」


 川内は耳の無線機を押す。しかしすぐに繋がらず、ノイズだけがしばらく続いた。
 それから少しするとぼんやりと提督の声が聞こえてきた。

『……ちら…部……内か?』
 
「こちら三水戦、旗艦川内。提督聞こえる?」

『……し。これで聞こえる筈だが、どうだ?』

「クリアになったわ」

『これだけ磁場が悪いとすると、バジーか』

「そ。しかももっと電波悪いところに向かう予定よ」

『バジーの監視施設? そんな所に何しに行くんだ?』

「私はバジーの倉庫に私物取りに行くだけ。叢雲は提督に渡した書類の件で行くって言ってたけど」

『あれか……本当に持ち出す気か、あいつは』

「叢雲も教えてくれないんだけど、なんなのそれ?」

『試作品だよ。見りゃわかる。それよりも寄ってて予定には間に合うのか?』

「大丈夫。水雷戦隊ならあの浅瀬が通れるから沖ノ島深部まで二時間かからないよ」

『駆逐艦達は大丈夫なのか?』

「いけるでしょ。それこそ特型の十八番じゃない」

『持ち前のスペックという事か。了解した。予定に変更はない。バジーにて補給を済ませたのち、作戦行動に戻れ。以上だ』

「了解。阿武隈達に任せっきりな分。奴らのどてっ腹に穴開けてやるからね!」

『頼んだぞ』

 無線はそこで切れた。
 ここから先は当分無線が使えない地域となる為、次の報告はバジーを出てからになるだろう。
 海域監視施設は、深海棲艦への妨害と施設の発見防止の為にジャミング電波を常時発している。
 その為、施設と鎮守府の連絡も彩雲などの高速偵察機を用いて行われていた。
 だからこそ、ここで何を持ち出そうがすぐに提督の耳に入ることはない。だからこそ、川内はこのタイミングで訪れる事を決めていた。



 バジー島にある小さな港には、簡単な泊地と小さな倉庫。島の中心部にある監視施設に続く道がほっそりと続いている程度だった。
 港から陸に上がると、叢雲は「挨拶だけしてくるわ」と一人施設に向かって歩いて行った。
 残された五人は、川内の案内の元傍にある倉庫の中に入っていく。
 
「ここはね、私や叢雲なんかがまだぺーぺーだった頃に作られたの。あの頃ではこんな体で前線補給基地なんて呼んでたっけ」

 駆逐艦達は初めて見る場所に息を飲んでいた。
 そこには旧式の装備が綺麗に並べられており、少しだけ埃を被っていた。
 しかし、まるでついさっきまで使われていて明日にでもまた戦場に赴くかのような。そんな印象さえ覚える。
 幻想的で、かつ無機質なその空間に駆逐艦達は言葉を失っていた。
 すると、川内がゆっくりを奥に進みながら話を始めた。

「君らはさぁ。駆逐艦は戦艦や空母を一人で落とせると思う?」

 唐突にそんな質問をされて、四人とも押し黙ってしまう。だが、吹雪がゆっくりと小さな声で答える。

「無理……とは言いたくありませんが、難しいと思います」

「良い答えだね。始めから無理だと言ってれば何もできない。でもね、もし私が同じ質問をされたとしたら……出来ると答えると思うな」

 廊下の突当りにある扉を開けると、大広間のような空間に出た。
 そこにも装備が綺麗に並べられていて、窓からの日差しが部屋の中を漂う埃を照らしている。
 丁度その部屋の真ん中あたりにいくつか無造作に置かれた椅子があり、川内がそこを指す。
 それに習って四人は椅子に座った。
 皐月はさっきの川内の言葉をなぞるように問いかける。

「僕にも……睦月型にも戦艦や空母を倒せるのかな? やっぱり、難しいのかな……」

「出来るよ」

「はは、即答だね」

「当たり前の事だからね。考える必要なんてないよ。戦艦や重巡、空母には無くて私達にある武器ってなにかわかる?」

「え? えっと……なんだろ」

「これだよ」

 川内は皐月の足元にそっとしゃがんだ。
 そしてそのふくらはぎの部分に装備されている魚雷発射装置を軽く撫でた。

「魚雷?」

「そう。どんな船でも水面より下の装甲はそこまで厚くないんだよ。そこだけは私たちはいつでも狙える。確かに空母にも艦攻なんかで狙えなくはないけど、早さは圧倒的に私達が上だ」

「そっか。でも、僕の魚雷はそこまで高性能じゃないから……やっぱり難しいね」

「皐月」

 川内はしゃがんだまま皐月の目をしっかりと見据える。
 真剣な表情の川内に始めは驚き動揺するも、皐月も目を反らさずに川内を見た。

「私達にとって魚雷は牙だ。そこに良し悪しは正直無い。そしてその威力を一番強くぶつけるには……持ち主の度胸と自信。そして気持ちだよ」

「威力に……気持ち?」

「水雷魂なんて事私は言わないけど、生きたい。生きて帰りたい。その気持ちが強ければ強い程、私達は的確な場所を打ち抜こうとする。それが一番の近道だからね」

「……そうだね」

「皐月、牙は決して無くしてはいけないよ。じゃないと……私みたいに後悔するからね」

 その言葉の後、川内は少しだけ寂しそうな顔をした。
 皐月にはその表情の訳が分からなかったが、きっと以前に同じ事を考えて、失敗して。そしてその考えに至ったのだろうと感じた。
 自分のいる場所に、憧れていた人もいたんだ。
 そのことだけで、皐月の気持ちを固めるのに十分だった。


「無くさないよ、絶対に。僕は僕の力で川内さんを守りたいんだ」

 川内はそれを聞くと、ゆっくりとうなずいて立ち上がる。
 吹雪達の座る椅子の後ろ。大きめのテーブルが置いてあり、その上にボロボロの白い布がかかっていた。
 それを見つけた川内はこの場の空気を変えるようにそれに近づく。

「うっわ懐かしい! 無くしたと思ってたのに、こんなとこにあったのかぁ!」

 持ち上げてみると、川内が今つけているものよりも少しだけ短く、片方の端の方が焦げて切れかかっているマフラーだった。
 吹雪がそれを見比べていると、白雪が川内に声をかける。
「それ、川内さんのですか?」

「そうだよ。私が改二に改装される前に付けてたやつ」

「え? 川内さん改二になる前からそれつけてるんですか!」

「始めは付けて無かったんだけどね? 夜戦の時に相手に攻撃しながらニヤニヤしてて怖いって叢雲に言われてからつけるようにしたの。ほら、こうやって顔隠せるでしょ?」

 川内は自分の口をマフラーで隠して見せた。

「あーなるほど……。叢雲なら言いそうですね」

「でしょ? ん、皐月どうかした?」

 マフラーをじっと見つめている皐月に声をかけると、皐月の目線がマフラーと川内の顔を言行ったり来たりする。そしておずおずとマフラーを指さした。

「それ……僕貰っても良い?」

「それって、これ?」

「……うん」

「良いけど……埃まみれだよ?」

「は、叩けば大丈夫!」

「皐月も顔隠したいの?」

「僕……泣き虫だから。それ良いなって……それに……川内さんと……一緒だし」

「……ふむ、どれ! 巻いてみ?」

 川内はマフラーを数回叩くと、皐月の首に回してあげた。
 少しだけ長いかもしれないが、皐月の金髪のお下げに合わせるように二本伸びた白い線はとても似合っていた。

「あうぅ……ちょっと長いね」

「んー。その片方の切れかけ。取っちゃおうか」

「え?」

 川内はマフラーの片方、被弾して切れかかっていた部分を手でちぎると、切れ端はその辺にっぽいと捨ててしまった。

「これで巻き直せば……ほら、丁度いいじゃない」

「わぁ! 本当ですね! 皐月ちゃん似合ってます!」

「えへへぇ、吹雪ちゃん本当?」

「本当ですよ! ねぇ川内さん!」

「うん、もしかしたら私より似合ってるんじゃない?」

「そ、それはないよぉ……」

 皐月は真っ赤になった顔をマフラーに埋めた。


「そうそう。そうやって使えば便利だよね。さて、そろそろ戻りますか」

 川内は来た道を戻っていく。
 白雪が川内の横にいくと、小さな声で話しかけた。

「結局、川内さんの取りに来たものってあのマフラーだったんですか?」

「ううん、違うよ」

「じゃあ何を?」

「んー……思い出と、気持ちかな?」

「はぁ……」

「まぁそのうち話してあげるよ。そら、叢雲が待ってたら怖いぞー」

 そういって先に走っていく川内。それを追いかけるように四隻の駆逐艦が走る。
 さっきまで埃が一面降り積もっていたその倉庫には、新しい足跡とちぎり棄てられたマフラーの切れ端が残された。

「提督、忘れ物。ちゃんと拾ってきたからね。この気持ちはもう無くさないよ」

 川内の言葉は駆逐艦には届かず、倉庫に小さく響いた。


本日の投下はいじょうになります、

本編を読んだ方は察していただけると思いますが、私が言いたいことは一つです。

川内のマフラー巻いた皐月ちゃんのイラスト早く描け下さい

磯波と深雪は神に導かれてしまったか……乙です

>>138
このSSの三水戦のメンバーは1942年4月10日セイロン沖海戦後の第11駆逐隊がモデルとなっている為にこの面子になっています(皐月は私の我儘で投入してます)

磯波さんは第16駆逐隊で元気でやっています。
深雪さんは……1934年の六月末に……。
うちの電と一緒にお昼寝しているので本編には出てこないんじゃないかなと

おつー
おら、そんなこと言ってる暇があったら自分で書いてみんなの前に晒すんだよ!ww


相変わらず引きが上手いなぁ

今かえって来ました。
創作意欲がガラにもなく出ているので、今から書いて投下します。
0000には間に合わせます。

来る8/10に備えてますか?
大型回したのでうちの備蓄はぼーき二万です


これより投下を開始します。

ちょっとした昔話なので、章と章の間にある小話だと思ってください。




――少女達の記憶――

 一隻の軽巡がいた。
 守るべき者達が蹂躙されていく様を、軽巡は見ていた。
 腕の中には、いつ事切れてもおかしくないほど痛めつけられた仲間。
 そんな中、軽巡は自分の無力さと愚かさを嘆いた。
 もし、自分にもっと力があれば……。
 もし、この惨劇を覆せることができれば……。
 沢山のIFは叶うことなく、海に沈んでいく。
 それらはまるで二人を海底に誘っている様にも思える。
 それほど、焦がれた力を――

――始めから持っていた事に気付いたのは、軽巡が後悔をした後だった。






 一隻の駆逐艦がいた。
 何をしても他の子よりも劣っていた駆逐艦は、その生まれゆえのモノだと諦めていた。
 駆逐艦が暮らす場所には、自分よりも疎まれている者がいた。
 噂を聞けばろくでもない印象しかなかったが、駆逐艦はその真意を自分の目で見てみたかった。
 自分の様に生まれながら劣等感を抱えた様な艦娘なのか、それとも何かを抱えている艦娘なのか。
 正直に言えば、単純に話してみたかった。
 相手に気を使って話すこともしなくて良ければ、相手の顔色を窺わなくても良いかもしれない。
 初めは自分が一番下じゃないと確認したかっただけの様にも思える。
 そして、その艦娘を見た瞬間。自分の小ささと、愚かさを思い知った。
 姉妹艦と訓練ををこなしている姿を見た途端、自分との違いを悟らされた。
 ただ、生まれのせいだと。性能の違いだと言い訳をつけて努力する事をしなかった自分との差。
 やる気のない態度とは裏腹に、通常の練度では決してできない身のこなしで訓練をこなしている姿。
 ミスが起こる度に自らフォローを入れ、他に決して悟らせまいとする姿勢。
 その全てが自分とは違っていた。
 噂は噂でしかなく、それが嘘のものであると確信した駆逐艦はその日からその艦娘の訓練を見に来るようになった。
 そして自らの訓練に対して、ある艦娘を目標にする事にした。
 いつか自分があの艦娘の元で作戦に出る事になった時に、恥ずかしい姿を見せない為に。
 いつか貴女に追いついた時に――

――その話を肴に共に笑いあえる様に。






――二人の艦娘の中にある記憶は、まだ伝えられずにいる。
 目前に迫る戦いの後に、そんな話が出来る時間が来るのかもしれない。
 だが今はお互いにその記憶に胸に秘めたまま、戦地に向かう。
 順番は違えど、その差はあれど。互いに助けられ、互いに認め合った二人の物語は
 間もなく迎えるひとつの結末の果てに、ようやく始まりを迎える――。


短いですが、以上になります。

皐月や川内の話の補足みたいなものです。
次回はまた週末に投下予定なので、宜しくお願い致します。

おつおつ


【お知らせ】

本日2300投下予定。
今週は今日と明日投下致します。

退社しました。

了解
何、退職?(弱視)

退職したんじゃね


これより投下開始します。

えぇ、退職しました。
夏休みの始まりです。



――沖ノ島海域、中部――

 先行して出撃していた第一水雷戦隊とは別の進路を取っていた第四水雷戦隊は、旗艦の那珂の他、第二駆逐隊の村雨、夕立、春雨、五月雨で構成されている。
 今作戦では那珂の意見から沖ノ島海域攻略時に進行したオリョール方面から突入し、ようやく中部に辿り着くも、敵影を見ることなくここまでやってきていた。
 
「んー、やっぱりここにも敵はいないっぽい?」

「むぅ。折角那珂ちゃんが来てるっていうのに……ここのファンはそんなに神通ちゃんにお熱なのかな?」

 言葉はいつも通りだが、やはりどこか温度が低い那珂。
 それに気遣って春雨が傍についていた。

「まぁまぁ。私も神通さんの事は心配ですから、早く見つけてあげたいです。」

「わ、私も早く時津風や雪風の元気な顔を見たいわ」

「村雨ったらお姉ちゃんっぽい!」

「夕立さん! 私は! 私はお姉ちゃんっぽいですか!?」

「五月雨はお姉ちゃんっていうよりは末っ子っぽい!」

「ふえぇぇ! 私もお姉ちゃんが良いです!」

「お姉ちゃん……かぁ」

「あら? 那珂ちゃんはまた川内さんの事?」

「あーまぁそんな感じかな」

「進みながらで良ければ話聞くわよ? 神通さんが帰ってくるまではお姉ちゃんの代わりになってあげる」

「村雨ちゃん。ありがとうね」

「良いわよ。普段から那珂ちゃんにはお世話になりっぱなしだもの。夕立、悪いけど一時的に先頭お願い出来る?」

「任せて!」

 那珂を抜いて先頭に出た夕立。
 改二となった時にカラー変更した魚雷弾頭の赤が日の光に照らされる。
 そして、首に巻いている白いスカーフが誰かと被り、それを連想させた。
 那珂は申し訳なさそうに夕立に手を振ると、ゆっくりと胸の内を村雨に漏らし始めた。


「……私もね。皐月ちゃんと同じだったんだ」

「皐月ちゃん? あぁ、三水戦の睦月型の子ね。最近川内さんにべったりって聞いてるわ」

「うん。今回二水戦がロストしたと聞いた時も、出撃が決まった時も。川内ちゃんなら一番最初に飛び出すもんだと思っていたの。那珂ちゃんは川内ちゃんと神通ちゃんのどっちかなんて選べないけど……。さっき出てくるときね、川内ちゃん置いてきちゃった」

「それは……仕方がないのではないかしら?」

「ううん。神通ちゃんの代わりに私が川内ちゃんを引っ張ってあげなきゃいけなかったのに……。皐月ちゃんは最後まで信じてたのに、私は川内ちゃんを信じてあげられてなかったのかな……って」

「ふぅん。……ねぇ那珂ちゃん。私は他の子達と同じで川内さんに対してそんなに良い印象は持ってないわ。でもね、那珂ちゃんから見ても川内さんはそんなに弱く見えるの? 那珂ちゃんや神通さんがいつも傍で支えてあげていないとダメなように見える?」

「そんな事ない! お姉ちゃんは弱くなんて! ……あっ」

「ふふふ。なんだ、信じれているじゃない」

「村雨ちゃん今のはずるいよ!」

「あらぁ、お姉ちゃんはいつだってずるいものよ。」

「ふん! うちのお姉ちゃん達はずるくなんてないもん! かっこよくて、凄いんだから!」

「ならその凄いお姉ちゃん、早く迎えに行ってあげないとね」

「わかってるよーだ! ……。ありがとうね」

「どういたしまして。あー私もなんだか白露に会いたいわぁ」

「それなら早く神通ちゃん見つけて帰らないとね! おーし、夕立ちゃん交代だー! 那珂ちゃんやったるぞー!」

「うわっ! なんか元気出過ぎて気持ち悪いっぽいぃ!」

「ちょ! 気持ち悪くなんてないから! 那珂ちゃんはアイドルなんだからぁ!」

「ふぅ、やれやれね」

 四水戦はまもなく沖ノ島海域深部へと到達する。
 そして、もうすぐ夕暮れが訪れようとしていた。


――バジー島・港――

 川内達が倉庫から戻ってくると、叢雲が一人堤防に腰かけていた。
 堤防の下にはいくつかの機材が無造作に置かれていた。

「あら、早かったわね。施設には挨拶しておいたわ。これ、貸してくれるって」

「何それ」

 叢雲が指さすものを見た川内は、それが何なのかわかった瞬間に、顔色を変えた。

「探照灯……」

「そう。人数分あるわよ。これで敵をかく乱しつつ乱戦に持ち込むわ」

「そう」

「まだ怖い?」

「まぁ……いや、怖いね」

「そう。それで良いと思うわ。直ぐに変われなんて言わないもの。でもね」

 叢雲は堤防から降りると、探照灯の一つを川内に手渡した。

「あそこまで私達にハッパかけたのだから、それくらいの責任は取りなさいな。戻れなんて事も言わない。むしろ戻らないでほしい。貴女は貴女が望む貴女になってくれればそれでいいわ」

「はは、結局の所私任せなんじゃない。アンタも提督も」

「そりゃそうよ。私たちは貴女じゃないもの」

「そっか、そうだね。私のなりたい私、かぁ……ねぇ、皐月」

 後ろから恥ずかしそうに歩いてきた皐月に川内は声をかける。

「え、ふぇ? ぼ、僕を呼んだかい?」

「うん。皐月から見た私ってどんな私?」

「え、うぅん……ごめんなさい。どういうことかわからないや」

「皐月が持ってるこいつのイメージはどんなのかって事よ」

「叢雲の言っている事?」

「そうだね。それでいいよ」

「んー。さっきの話じゃないけど、魚雷みたいな人だと思うな」

「ぎょ、魚雷?」

「あっははははははは。魚雷だってははははははは」

「もう叢雲はあっち行ってて! ごめん、皐月。続けて?」

「う、うん。なんていうのかな……。いつも真っ直ぐで、他の軽巡の人みたいな凛とした態度は無いけど逆にそれが近くに行きやすくて。でも凄く強くて、何を考えているのか分からない時もあって。僕らが困っている時はいじわるしながらちゃんと助けてくれて」

 次第に皐月の目が川内を移す。

「誰だって諦めてしまうような場面でも、絶対に諦めない。他の人が無理だっていう事に飛び込んでそれをやってのける。そんな人だと僕は信じているよ。だから僕は」

 『貴女の様な人になりたい』その言葉は言えなかった。

「そっか。私ってそんないう程凄くもないと思うけど?」

「自覚がないだけなんじゃないかな?」

「そうかなぁ……」

「あぁ、後一つ」

「まだあるの?」

「うん。川内さんは絶対に一人じゃない。いつだって誰かの前にいてくれる人だよ」

「……」


「あーお腹痛い。それで? ご希望の答えは聞けたのかしら?」

「アンタは戻ってこなくていいのに。……まぁ、そうね。ここにきて色々思う所もあったし。なにより可愛い教え子にここまで言われればね」

「あら、それは上々ね」

「なんかさ、戻るだとか変わるだとか。どうでも良くなった。案外私は今の私を気に入ってるの。だからさ、私は私のままでいる。ちゃんと自分を認めてあげる事にするわ」

「ようやく……って所ね」

「叢雲、アンタが三水戦に来たのもそういう事なんでしょ?」

「なんの事かしらね」

「アンタと私。あの時の編成。他の駆逐艦達をタンカーに見せようとしたのだろうけど残念だったね」

「あら、何が残念なのかしら?」

「この子らは少しだけでも私が育てたのよ? タンカーの様に大人しく沈みやしないわ」

「あははははは。これは私の勝ちね。はははは」

「ちょ、なんでアンタの勝ちなのよ!」

「提督とね、賭けをしていたの」

「賭け? なんの賭けよ」

「川内が艦娘を続けるか続けないか。提督は辞める方に賭けてたわ」

「はぁ!? なにそれ!」

「じゃないと賭けにならなかったからよ。二人共続けるで賭けてしまったら誰を相手にすればいいのかしら?」

「あぐ……そういう事。」

「まぁいいじゃない。後は実戦でどうなるかって事よ」

「まぁ、そこなんだけどねぇ……やっぱり夜は少し怖いや」

 そこまで黙っていた皐月が川内に寄り添った。

「大丈夫。僕も怖いけど、頑張るよ」

「あら、いい子じゃない。ちゃんと首輪もつけてあげたのね」

「く、首輪じゃないよ! 川内さんとお揃いにしただけじゃないか!」

「あーこうして夜戦バカは量産されていくのね。私常時マフラーつけてる奴で夜戦嫌いなの見たことないわ」

「あぁ、そういえば夕立も夜戦好きだったね」

「まぁしょうがない。やるだけやってみるよ。もしダメなら皐月が守ってくれるからね」

「勿論! 僕にまっかせてよ!」

「うん。任せたよ」



「そういえば、私のお姉ちゃん達はどこにいるのかしら?」

「あぁ、それならあっちで装備の再確認しているよ」

 川内が指さす先で、自分の艤装。特に魚雷発射管を念入りに整備している特型三人組の姿があった。

「川内さんの魚雷は僕らの牙だって話を聞いてからすぐに取りかかっていたよ」

「あら、それは間違いじゃないわね。なんなら戦艦の頭にだって噛みついてやるわ」

「うん、今の発言で叢雲も川内さんの弟子だってよくわかったよ」

「さてさて、それじゃああの子達が整備を終えたら少し手伝って頂戴。ちょっと重たいものを運ぶから」

「お、提督が言っていた試作品?」

「あの人も口が軽いわねぇ。まぁそうよ。移動用にね」

「まぁいいや。とりあえず了解」

――三十分後――

「ねぇ、叢雲」

「何かしら?」

「これってバイク?」

「そうね」

「水に浮いているけど」

「海の上を走るバイクらしいわ」

「へぇ。これ何人乗り?」

「乗れて二人ね」

「……自分で行った方が早くない?」

「これ、実は艦娘の缶と同じものを積んでいるのよ。しかも戦艦級の」

「へぇ、それは速そう。安全テストは?」

「してないわね。試作品だもの」

「それに乗れと?」

「えぇ。素敵じゃない」

「無理無理無理無理無理ですよぉぉぉぉ私乗り物に弱いんですからぁあああ!!」

「吹雪が逃げたわ! 初雪捕まえるわよ!」

「了解……一人でも多く……道ずれに」

「今道ずれって言ったぁああああ無理ぃぃぃいいい!!!」



――バジー島・港――

 時刻は1600を回ろうとしていた。
 逃げ回っていた吹雪を捕まえた白雪のペア。
 叢雲と初雪のペア
 そして川内と皐月のペアで水上バイク(試作)にまたがり、ゆっくりと海に出ようとしていた。

「さて、川内と白雪。ここまで行けば後はグリップのアクセルを回すだけの簡単な操作よ。ブレーキなんてないから思いっきり飛ばしなさい。以上」

「了解しました。吹雪? 飛ばすわよぉぉぉ!!」

「ちょ、白雪なんか普段とテンションが違う! やめ……キャアアアアアアアアアア!!」

「初雪、捕まっていなさいよ!」

「了解。……安全運転でお願い」

「海の上が安全な訳ないじゃない! 行くわよ」

「皐月、私達も行こうか」

「うん。任せたよ」

「任された。実はちょっと楽しくなってきたんだ」

「楽しく?」

「うん。なんだか、この六人ならいける気がするって。皆明るいからかな? 夜でも怖くないかもしれないって」

「川内さん……僕の髪の毛って夜でも結構明るく見えるからさ。迷ったら僕を探してよ」

「ははは。そうだね。そうするよ。それじゃあ行くよ!」

「うん! いっけぇ!」

 三隻の水上バイク(試作)は颯爽とバジー港を飛び出して、外海に出て行った。
 普段の二倍から三倍の速度で進んでいくと、嫌にでも六人のテンションは上がっていく。
 バジー島から沖ノ島に抜ける浅瀬の水路もこれなら難なく超える事ができた。
 そして、バジー島を出てから三十分後、川内の耳の無線が生き返り、一報を告げた。

――二水戦発見セリ。敵水上打撃部隊ト交戦開始ス――。



――沖ノ島深部――

 沖ノ島海域を横断するように進んでいた四水戦の前方に煙が登っているのが見えた。
 場所は前回攻略時に敵本部隊と交戦した地点より、更に深部。
 夕立が先行して目視にて神通の姿を確認した。

「神通さん発見!」

「状況報告して!」

「敵部隊と交戦中っぽい! あれは! 時津風ちゃんと初風ちゃんが大破してる!」

「了解! 那珂ちゃんと村雨ちゃん夕立ちゃんは先頭に乱入! かき乱して二水戦の撤退を援護! 春雨ちゃんと五月雨ちゃんは大破してる子に随伴して!」

「「「「了解!!」」」」

 無線はとっくに壊れて使えなくなっていた神通は、四水戦の到着に気付かなかった。
 駆逐艦二隻が大破。天津風が中波している状態。ほぼ無傷は神通と雪風。しかし、二人共弾・燃料共に残量が少なかった。
 かくなる上はと、神通は覚悟を決めていた。

「旗艦神通より各艦に通達。雪風と天津風は大破している二人を連れて撤退してください」

「だ、駄目よ! 私もまだやれるわ!」

「時津風もまだできるんだから!」

「っ……! 足でまといだという事に気付いてください!」

「なっ!」

「……っ」

「私一人ならもっと自由に動いて各個撃破を狙えます。撤退してください」

「そんな! でも!」

「初風、行くわよ」

「天津風! 放しなさいよ!」

「雪風、時津風を連れてきて」

「は、はい! 時津風、行きますよ!」

「嫌! 嫌嫌! こんな作戦嫌だぁ!」

「駄々こねるんじゃないわよ! 神通さんが行けっていってんのよ! 雪風! 急ぐわよ!」

「天津風……ありがとうございます」

「勝手に……沈むんじゃないわよ」

「えぇ……わかっています」

 離脱しようとしていく四隻に重巡リ級flagshipが襲い掛かる。
 それを神通の装備している15,5三連装砲が遮った。

「行かせる訳ないでしょう。伊達に川内型やっていないのですよ」

 神通は主砲をそっと撫でると、深呼吸を一つ。
 脳裏によぎるのは今後ろにいる駆逐艦達よりも自分の妹と姉の姿。
 我ながら白状だなと思いつつもその姿を強く、もっと強くと思い描いていく。

「こんな所でやられている様では、姉さんにバカにされてしまいます。二水戦神通! 突撃します!」

 離脱していく四隻とバトンタッチをしてきた三隻の船が、それよりも先に敵に突撃をしていった。

「……え?」


「おらぁー! 神通ちゃんの言う通りだぁ! こんな所で沈んでたら川内ちゃんに笑われんぞー! 皆でやっちまえー!」

「那珂ちゃんに言われるまでもないっぽい! こいつは貰ったよ!」

 今まさに神通に足を止められた重巡リ級flagshipに夕立がS字に航路を描きながら突撃していく。

「ならもう一隻の同型艦は私のね。はいはーい! 楽しませてね!」

「神通ちゃん! 迎えに来たよ!」

「那珂……ちゃん?」

「そうだよ! 艦隊のアイドル! 那珂ちゃんだよ! 初風ちゃん達にも村雨ちゃんと五月雨ちゃんがいるから安心だよ!」

「那珂ちゃん……ありがとう」

「安心するのはまだだよ! 那珂ちゃん達の他にも一水戦と三水戦も来てる。潮の流れで直進は出来てないけど戦艦空母の打撃部隊も向かってる。まるであ号作戦みたい!」

「一水戦……え? 三水戦も?」

「そう。そんな姿川内ちゃんが見たら笑っちゃうよ?」

「それは……許されませんね」

「うん。うちの可愛い駆逐艦を二隻も大破にしたんだもん。敵もわかっている筈だよ」

「えぇ。生きて返す訳にはいきませんね。戦闘中全艦に通達! これより戦闘指揮を二水戦旗艦、神通が取ります! 全艦突撃! 敵を排除します!」

「さって、ライブの始まりだね!」

 敵の数は着実に増える。
 そんな予感も今はこちらの戦意を燃やす薪でしかなかった。


 戦場は乱戦へと流れていた。
 敵に主砲を当てればこちらにも弾が当たる。
 魚雷の気泡は前に後ろに道を作っては消えていく。
 怒号と悲鳴が入り混じる中、彼女らは守るという事をしなかった。
 ただ二隻の艦が大破されたという事実を敵に刻み込む為だけに引き金を引いた。

「右舷軽巡へ級flagship接近中! 那珂ちゃん行って!」

「了解! 握手会は大歓迎だよ!」

「正面戦艦ル級elite出現!」

「了解! ル級は神通が相手をします! 村雨と夕立は左舷重巡三隻の相手頼めますね!?」

「了解! 簡単なお仕事っぽい!」

「まだまだ足りないわ! もっと楽しませてよ! ねぇ!」


 戦況は有利に進んでいた。しかし、敵の数は減るどころか増える一方。
 神通の残弾数ももう心もとない。
 四水戦の一隻でもやられれば一気に雪崩れ込まれるだろう。
 今は一水戦と三水戦の到着を待つほかない。
 夜は艦載機が飛ばせない関係上、こちらの水上打撃部隊は夜空けに到着予定だった。
 夜に飛び込ませても空母は的でしかならないし、戦艦を打たれれば戦力の大幅に落ちてしまう為だ。
 
「右舷掃討完了したよ! 神通ちゃん大丈夫?」

「少し厳しいです! ですが、那珂ちゃんは左舷援護を! 一隻もやられる訳にはいきません!」

「それじゃあ神通ちゃんが!」

「まだいけます! 駆逐艦が増えてきているのが気になります。那珂ちゃん減らしてもらえますか?」

「んもう! わかったよ!」

「こんな時に、あの甲高い声が聴きたくなるとは思いませんでした……っく!」

 神通の傍に至近弾が落ちた。ル級は中々神通に肉薄にさせてくれない。
 それ所か、一隻の軽巡だと舐めてかかってきているような態度さえある。

「加賀さんではありませんが、頭にきました。行きます!」

 神通は右舷から大きく回り込むと、左腕の機銃でル級の顔を斉射した。
 しかし、両手に持った大きな盾の様な主砲でそれを防がれる。それで良い。
 神通はそこで急反転ル級の真ん前、手を伸ばせば触れられる距離で停止した。

「これなら盾は意味ありませんね?」

 盾とル級本体の間に腰から抜いた魚雷を二本放り投げると、15,5三連装砲を打ち込む。
 爆発の瞬間に神通はル級の盾の影に体を滑らせて爆風を防いだ。
 そしてル級は身体の前面を焼き尽くされて海に沈んでいった。

「はぁ、これでは姉さんの様です。さて、次!」

 休んでいる暇はない。目の前にはまた新しい戦艦ル級が姿を見せていたのだから。
 ここは敵の本陣のど真ん中なのだ。まだ終わりは見えない。

「こちら一水戦旗艦阿武隈! これより戦闘に参加します! 現在指揮は誰ですか!?」

 そこに敵左舷から一水戦が到着した。
 被害は殆どなく戦闘を数回重ねたからか、第六駆逐隊の面々は戦意高ぶっている様子だった。

「っ! こちら二水戦旗艦神通! 救援感謝します。指揮は私です」

「神通さん無事だったんですね! 了解! これより一水戦は指揮下に入ります! 指示を!」

「現在左舷にて夕立と村雨が敵重巡複数と戦闘中! 援護を!」

「了解! 六駆の皆行っていいよ! 私は神通さんの援護に回ります!」

「ありがとう阿武隈。助かります。さぁ! 皆さん押し込みますよ!」

「第一水雷戦隊の戦いみせてあげるんだから! レディは負けないわ!」

「あぁ、こういう展開は嫌いじゃないよ」

「私が来たからには大丈夫よ! 夕立の方に回るわ!」

「出来れば敵も助けたい……。なんて今回ばかりは言うつもりはないのです! 電の本気みせるのです!」

 そこで初めて敵部隊に動揺の気が見られた。
 数の量では明らかに敵の方が多い。それだけ有利な筈なのに確実に敗北に近づいているような気配がまとわりついてくる。
 それを感じさせるのが三隻の軽巡だ。
 まずはあれを落とさなくてはならない。
 敵の動きの変化に、乱戦と化した戦場で察する事は難しい。


 時刻は間もなく1800を回ろうとしていた。
 各艦疲労が見えてきていた。敵を捕らえる回数も、完全に回避した回数も確実に減ってきていた。
 それだけじわじわにダメージが重なっていく。
 そんな中、阿武隈は足を止めて耳に手を当てて動かなかった。
 それを見つけた戦艦ル級eliteはここぞとばかりに主砲を構えた。が、弾を打ち出すことが出来なかった。
 唐突に阿武隈が空を見上げ笑い始めたのだ。その光景に狂気を感じたル級は手を止めてしまった。
 刹那、神通の放った魚雷がル級に命中。轟沈となった。

「阿武隈! 沈みたいのですか!」

「あははははは。一水戦旗艦、阿武隈より戦闘中各艦に通達! 1900になる前に敵とある程度距離を保ち撤退準備!」

 それを聞いた神通が声を荒げた

「阿武隈! 何を言っているのですか!」

「私じゃなくてね。あははは、今ここに文字通り飛んできている子達からの伝言ですよ。『轢かれたくなかったら離れてなさい。後はこちらで受け持つわ』だって。なんで海で轢かれるのよ。あははは」

 各員が若干ポカーンとする中、阿武隈の目に再び希望と戦意が灯る。それはすぐに燃え広がった。

「相変わらずトンでるなぁ。彼女、いえ。三水戦は」

「なるほど。そういう事ですか。なら少しでも量を減らしておきましょう。こちらが苦労したのに向こうは楽しむだけというのは癪です」

「那珂ちゃんはまだまだいけるよ! 残り一時間位のアンコールはっじめるよー!」

 軽巡の三人は知りもの顔で言葉を交わした。
 駆逐艦達は今の戦闘にのめり込んでいる為に深く意味を考える事はしない。
 要はリミットが決められてしまった。なら後一時間しか暴れられない。
 ならばこそ一隻でも多く戦おう。この体の滾りを抑えられる様にと、それだけしか考えられない者しかこの戦場にはいなかった。

――沖ノ島海域・深部――

「時間ですね。戦闘中各艦に通達。これより撤退を開始します。シンガリは軽巡三隻にて行います。駆逐艦は主砲にて牽制を開始してください」

「うぅ……まだ暴れたいっぽい」

「ほら、行くわよ夕立。村雨さんもまだ足りないの我慢してるんだから」

「第六駆逐隊が先行するわね。行くわよ皆!」

「この戦いには力を感じる。雷、電が先行。私と暁が続く。複縦で行こう」

「了解なのです!」

「行くわよ!」

 第六駆逐隊に習うように第二駆逐隊が続いた。
 先ほどの連絡で、第十六駆逐隊は水上打撃部隊に保護され、鎮守府より回収隊が出撃したとの事。
 後は今から始まる夜戦だけがどう転ぶかにかかっていた。
 先ほどから遠くで聞こえているエンジン音が気になっていた神通に阿武隈が話しかける。

「あの音、三水戦の音よ。なんでも試作品持ち出して向かってきているんだって」

「そうなのですか。姉さん」

「愛されてるね」

「えぇ。でも姉さんが愛しているのは私だけではありませんから」

「そうですね。あの人は相当のタラシですよ」

「間違いないですね。なんせ鎮守府全員の事が好きでたまらないのですから」

「……ちゃんと自分も好きになれればいいのですけどね」

「ここに来るという事は、夜戦を自分からするということはそういう事だと思いますよ」

「だと良いのですけど。さて、それじゃあ私達も最後の仕事と行きますか」

「えぇ。阿武隈も同じ事を考えていそうですね」

「勿論です! 最後まで一隻でも多く減らしていきましょう!」

 時刻は間もなく1850。夜の帳が降りようとしている。
 そして、エンジン音は近づいて来ていた。


『あーあー、こちら三水戦叢雲。聞こえているかしら?』

『あら、皆無事みたいで良かったわ。聞こえていると思うけど、間もなく戦闘海域に突入するわ』

『えぇ。もう大丈夫よ。彼女は彼女を認めたようだし、もう何も心配いらないわ。守るべきものが出来た分、以前よりひどくなりそうね』

『そうね。後はこちらが片付けるから、もう帰っちゃっても良いわよ。あははは、こんな状況で敵を残して帰る訳ないじゃない』

『えぇ、平然としている分。怖いわね。あんなに怒っている彼女を見たことないもの。それは皆同じよ。えぇ、それでは気を付けて』

『ここからは私たちの時間よ! ブレーキなんてとっくにぶっ壊れてるわ。ここからが私の、いえ。私達の本番なのよ!』


本日の投下は以上になります。

三水戦の経由で表現しているのですが、正直ゲーム画面で2-2から2-5って矢印的に行ける気がするんですよね。
バジーの編成で道帰ると2-5の海域に出ました出来な感じに。

まぁ無理ですよね。知ってました。

イベント7海域と聞いてウハウハしてますが、資材が目も当てられません。全資材5万も無いってどういうことやねん。

イベントのための資材だけど大型回したい病がががが

>>167
イベントの為の資材だけど大型回した結果ががががが

乙です

資材もだがお札怖いw

乙です
叢雲って提督じゃなくて司令官(ry

http://fsm.vip2ch.com/-/hirame/hira083490.jpg

叢雲の司令官と提督の呼び方ミス申し訳ありません。
お詫びではばいですが、以前話した皐月自分で描いてあげました。
これで堪忍してつかぁさい。

…赦す!

おつー
まさかの画力ww

【お知らせ】

今日の投下は2300予定しています。
宜しくお願い致します。

了解、呼び方指摘してこうなるとは思わなかった……皐月可愛い

向こうの更新はどうなってるん?
落とすの?

>>177
あちらのスレは元々こちらの息抜きで書いています。
こちらのスレが間もなく終わるので、そうしたらまた開始する予定です。

【お知らせ】

予定早めまして、2230投下開始します。

投下開始します


突然方向転換していく敵。
 今まで散々苦渋を飲ませていたのに、まるで自分たちがいないものとして扱われているようだ。
 悔しい。許セナイ。コノママカエラセルモノカ。
 自分たちの前に飛んできている弾を避ける事もせずに後退していく敵を追いかける。
 そういえば、先ほどから聞こえている耳障りな蠅が飛ぶような音が大きくなってきている。
 一隻の重巡リ級flagshipは、音がする方がどうしても気になってそちらに目を向けた。すると――。

「全艦! 探照灯照射開始! このまま直進最大出力!」

「止まらないならこのままぶつけるわよ! 総員離脱準備! ちゃんと置き土産は固定しておくのよ!」

「ちょ! 本当にこの速度で飛び降りるんですかぁ!」

「大丈夫よ吹雪。私も一緒に降りるから」

「そういう事じゃないのぉぉぉお!!」

――こちらに向かって50ノットは出ているのではないかというスピードで、三隻のボートの様な船が進んできていた。

「ウゴォォォォォオオオ!!」

 戦艦ル級eliteもそれに気づき、雄叫びを上げた。
 更なる敵の出現に神通達を構っている場合ではないという事にここで気付いたのだ。
 もしかしたら今までの敵は陽動で、こちらが本隊なのかもしれない。
 そうなれば先ほどの被害では済まない可能性も出てくる。
 ル級eliteは、今持てる最大の戦力を、この突撃してくる敵にぶつける事を選んだ。
 新たなる獲物を狩る為の戦艦を、呼び出したのだった。

 普段の最高速度を超えて進んでいく。
 最初こそそのギャップに驚き恐怖を感じていたが、既に慣れてきている。
 浅瀬に突き出した岩礁も最少のハンドル操作で回避する程度なら訳がない。
 目も完全に慣れて、どのタイミングで着水すれば安全に降りられるかを計算できる。
 バジー島で感じていた恐怖心は、この乗り物を使いこなしている興奮と仲間達から迸る戦意によって麻痺していた。
 今の自分なら出来る。出来ない訳がない。
 裏付けのない自信が川内を突き動かし、それを叢雲や皐月が後押しする。
 そんな歪なバランスの上が、こんなにも居心地が良いものだという事を知ってしまった。
 もしもまた転んで立ち上がれなかったとしたら、この子達は自分を引きずってでも連れて帰ってくれるのだろう。
 今まで自分は信じて頼ることはしても、信頼はしていなかったのだと気付いた。
 それを戻った時に妹達に謝らなくては、そう心に秘めながら川内は手元のハンドルを全開に絞る。
 三隻の水上バイク(試作)の戦闘に踊り出ると、自らを鼓舞するように声を荒げた。


「夜戦だぁぁ!! 待ちに待った夜戦だぁ! いっけぇえええ!!」

 計六個の探照灯が不規則に線を引き、辺りに光の道を作り出している。
 そして、その光が一点。深海棲艦の集中している地点を照らし出す。
 今までは並んで走っていた。単横陣の形をしていたにも関わらず、すぐさまそれは単縦陣の形に並び変わる。

「皆覚悟は良いわね! そら! あいつらにプレゼントよっ!!」

 叢雲のその合図を皮切りに、三隻のボートから六個の影が海へと飛び降りてきた。
 その全てが唐突過ぎて、深海棲艦達の理解は追いついていない。個々がオロオロとしながら動いていないに等しい身動ぎを繰り返す。
 飛び降りてきたのが六席の艦娘だとわかると、すぐさま戦闘用意を始めるが、それ自体が誤判断となる。

「お待たせし多分サービスしておいたわ。これでも食らいなさいな!」

「こいつは僕達からのおまけだよ!」

 叢雲の言う置き土産。各二本の魚雷を乗せたまま、深海凄艦目掛けて突っ込んでいく水上バイク(試作)。
 回避行動を行おうとする艦の顔と思われる部分に、皐月と川内が探照灯を当てている為にうまく回避をすることが出来ない。
 自分の終わりを悟った戦艦ル級eliteは、主砲を下げて自らの身体を敵の前に差し出した。
 せめて、一撃で終わらせられるように。
 同じような行動をする艦が数隻。ル級に習って光の中心にゆっくりと進んでいく。
 そして、その時は訪れた。

 凄まじい爆音。

 まだかなりの量残っていた燃料にも爆風が引火し、海上を火の海に仕立て上げた。

「ちょっと……これじゃあ探照灯意味ないんじゃない?」

「叢雲の出した作戦じゃないか。まぁ僕はこういうの結構好きみたいだから良いけど」

「……」

「ね、川内さん。川内さん?」

 川内は真っ直ぐに火の海を見つめて、口元をマフラーで隠したまま押し黙っている。
 それを見上げる皐月は、自分も同じように口元をマフラーに沈めてみる。
 その仕草を見ていた叢雲は、暖かい目線を送るも直ぐにいつもの調子を出して見せる。

「皐月、それは放っておきなさい。今は目の前の敵さんと撃ち合いっこのお時間よ」

「う、うん! なんだよ、僕とやろうっていうの? 可愛いね!」

 後方で爆発を観測していた特型三隻から報告が入る。

「こちら吹雪! 今の爆発で戦艦タイプ四隻! 重巡タイプ五隻! 軽巡タイプ二隻! 駆逐タイプ二隻轟沈確認! なお大破、中波多数!」

「了解! さぁ、旗艦なんだからそれらしい指示を出してくださいな?」

「……」

 その時、皐月は川内の目が見開き、口元が笑顔のそれとは異なる印象を与える様に釣り上がっているのを見た。
 以前、叢雲が不気味だからとマフラーをするように勧めたという話を思い出す。
 それはきっと今の川内の表情をそのまま見たからこその提案だったのかもしれない。
 皐月はここにきて初めて川内に恐怖心を抱いた。
 それと共に、ここまで頼りがいのある人なのだと再確認する。


「……全艦突撃」

 小さい声で川内は言葉を繋げる。

「私の射線に入ると危ないからね。各艦各個撃破しつつ敵を炎上地点より引き離して」

「「「了解!」」」

 後方の特型三隻がそれに答え、行動を開始する。
 しかし、叢雲と皐月は動かない。
 川内の指示に対して、二隻は呆れた様な表情を取る。

「それで? 私は何をすればいいのかしら?」

「僕は何から川内さんを守ればいいのかな」

「……くく。くはは。そうだね。叢雲は吹雪達のサポートをしつつ大型艦の相手をお願い」

「了解。さてと、それじゃ行ってくるわね」

 叢雲は手にしているトレードマークのアンテナを数回振ってから構えると、皐月にウインクをした後に燃える海に突入していった。
 任されたんだ。そう皐月は受け取ることにする。

「それで、僕は?」

「そうだね……皐月」

「ん?」

「やっぱり私は夜が怖いわ」

「うん」

「臆病な軽巡だけど、守ってくれるかな……?」

「僕だって臆病だ。だからこそその気持ちを理解できるし、理解したい。」

「……」

「守るよ。もっと沢山お話したいんだ。お互いの事をもっと」

「そうだね。皐月の髪はまるで月みたいだから、迷いそうになったら目印になるね」

「ははは。そうだね。しっかり照らせるように頑張るよ。それじゃ」

「うん。行こうか。」

 そのまま川内は手にある15,5cm三連装砲を、皐月は12cm単装砲を構えた。
 腰を落として、突撃体制を取る。
 皐月は自分のふくらはぎ部分についている魚雷発射管を横目にみた。
 川内の言葉を聞いたからこそ、この兵装に信頼を寄せられるようになったのかもしれない。
 もう一度、前を見据えた時、こちらを見ずに川内が口を開く。

「皐月、私と……夜戦しよう」

「うん。いよいよ僕の出番だね」

「後ろは任せたよ。川内! 突撃します!」

「まっかせてよ! 睦月型は伊達じゃないんだ!」

 川内は燃える海上を、左から外回りに避けて進んでいく。
 途中、特型四隻が奮闘している様を見ることが出来たが、今はそのまま進んでいく。
 炎上した地点から少し外れた所にそれはいた。
 白い身体に白い髪。右肩に大きな装甲を付け、黄色いオーラの様なものを纏っている個体。
 戦艦タ級。そのflagshipだ。
 戦艦ル級がああも簡単に敗北を認めた。それは自分がいなくても戦線維持を出来るか、既に敗北を決したかのどちらかだ。
 前者ならその上位個体がこの海域にいる。後者なら後は残党処理。
 そして今回はどうやら前者の様だ。
 数隻の重巡リ級flagshipと駆逐ニ級eliteを携えて、こちらに気付いたのか雄叫びを上げる。


「ヴォオオオオオオオオ!!」

「うわっ! なんだよ今の声は!」

 それに皐月が驚いて声を上げるが、川内はまたもマフラーで口元を隠している。

「アイツだよ」

「え?」

「アイツがここの頭だ。あれを落とせば全部終わる」

「……行くの?」

「えぇ。あれを叢雲達の所にはいかせられないからね」

「僕は……最後まで貴女の傍にいるよ」

「ありがとう。私が先行する! 皐月は援護をしつつ作戦通り動いて!」

「了解! 皐月、出るよ!」

 川内は皐月と別れて個別に行動を開始した。
 身を出来るだけ屈めて、素早く動く事によって夜の闇に紛れ込んでいく。
 電探である程度の位置はバレてしまえど、目視できるか出来ないかで相手に与える精神的疲労の差は歴然だ。
 皐月は一切の攻撃行動を取らず、瞬間的に探照灯を点滅させて敵を誘導する。
 全ては作戦上の行動。
 今は条件を満たすことが最優先事項だ。
 全部のピースが埋まった時、暁は登り始める。

 夜はまだ、始まったばかり。



 炎上した地点のど真ん中で戦う吹雪達は、押しつ押されつの戦いを繰り広げている。
 白雪が持ち前の射撃精度で敵艦を足止めし、そこに吹雪が打撃を加える。当たりが甘かったり、防がれた場合は初雪がそれを補う。
 三位一体攻撃を続けていく特型だったが、数で押されて苦戦を強いられていた。
 
「まったく、見てらんないわね。大きいのは私がやるわ。雑魚を出来るだけ減らしなさい!」

「叢雲! うん! 任せた!」

 そこに叢雲が乱入し、高練度だからこそなしえる身のこなしで敵を翻弄していく。
 見えている限りで戦艦クラスが三隻、重巡クラスが六隻。これくらいならどうにかなる。
 叢雲はアンテナを敵に向けながら手にしている12、7cm連装砲を放つ。
 相手に距離感を掴ませない為と、自らがその距離を測る為にアンテナを利用する戦い方は船の頃では出来る筈もなかった。
 意味のない事をやる必要は無いからだ。しかしこの身になってからというもの、こういった人間じみた戦術が意外にも生きてくる。
 皐月を見ていると、まるで川内に出会った頃の隠していた自分が出てきているかの様に感じてしまう。
 あんな風に素直に自分の好意や意志を告げられていたのなら、こんなにも時間が掛かることも傷つくこともなかったのかもしれない。
 そんな陳腐な悩みを撃ち放つかの如く敵の急所を打ち抜いていく。
 それはもう皐月の立ち位置であって叢雲の居場所ではない。ならばこそ、自分の居場所は自分で作り上げるのだ。

「一番弟子の凄い所を、後輩にも見せつけなくちゃ……ねっ!」

 高みの見物はもうおしまいだ。
 ここからは自分も同じ土俵で戦うべく、今を乗り越える事を叢雲は決めた。
 
「叢雲! 後ろ!」

「え?」

 目の前の敵に意識を持っていかれ過ぎていた。
 主砲発射直後で身体が硬直してしまっている今、叢雲の後ろから重巡リ級flagshipが突撃を仕掛けてきていた。
 吹雪は叫ぶも、自らの前の敵艦に足止めされていて助けは間に合わない。
 それは白雪、初雪も同じだった。
 未来に、前に希望を抱いてしまったが故に後ろを取られてしまう。そんな皮肉めいた状況に叢雲に笑いがこぼれた。

「はは、こういう終わりも……いいかもね」

「叢雲ぉぉおおお!!!!」

 そこに金色の光が目の前に躍り出る。
 それはあろうことか今襲い掛からんと迫る重巡リ級flagshipに背中から跳び蹴りを食らわしたのだ。
 バランスを崩した重巡リ級flagshipはそのまま叢雲の足元に滑り落ちる。
 そこは下を向いていた12,7cm連装砲の射線上。

「ごめんなさい……。悪運はまだ、尽きないみたいなの」

 叢雲の引いた引き金は、確かに今を掴みとった。
 それは自分だけではなしえなかった成果。
 いつか司令官が言っていたこの三水戦の面子の共通点。あの人が皐月の事を川内の未来像。あるべき姿と比喩していた事を思い出した。
 確かに、今あの瞬間の皐月には彼女の面影を感じてしまっていたのだ。
 自分がその立場に成り得なかった寂しさなんて、それで十二分に塗り替えられた。
 ただこの子の行く末を見てみたい。
 この子にもあの人と同じように、きっと途方もなく破天荒な姿を見せてくれるに違いない。

「叢雲! 大丈夫!?」

「……まったく、私の獲物を勝手に奪うなんて良い根性してるわね。皐月」

「えぇ! ご、ごめんなさい! 後でちゃんとお詫びするから今は!」

「えぇ。さっさと次の段階に進めましょう」

「そうそう。川内さんから伝言だよ。『私の方は多分成功。皆は火を消して舞台を整えて』だって」

「それは上々。なら、この乱戦。もっとかき乱してやりましょうか!」

「うん! 吹雪達には引き続き数を減らしてもらうから僕と叢雲で火消しだね!」

「簡単すぎてあくびが出るわ。ここは海よ? 直ぐに終わらせるわ」

 任せたよ。そう言うと皐月はまた戦場の中に走り去っていく。
 それを見送りながら叢雲は足元に間もなく沈むであろう重巡リ級flagshipを見下ろした。
 きっとこの重巡も、まさか後ろから蹴られて自分の決死の突撃を駄目にされてしまうとは思いにもよらなかっただろう。

「悪いとは思わないけど、せめてゆっくりお眠りなさいな」

 そう一人ごちると、叢雲はまるでスキーをするかの様に、辺りに海水を散らしながら縦横無尽に戦場を駆け始める。


「これでぇ!」

 吹雪の主砲から放たれた砲弾が、駆逐ニ級eliteの頭部を捉えた。
 短い悲鳴の後、船体が右に深く沈み込んだ。
 辺りに集まっていた深海凄艦も大分数が減り、後はちらほらと残っている駆逐級と重巡級が数隻はぐれて個々に動いているだけだった。
 突撃してくる様子もなく、逃げ出そうにも逃げられない。そんな印象を与える動きを見せていた。
 吹雪達は一度集まると、周囲警戒を厳にしながら現状の確認を取る。

「吹雪、残弾と燃料は?」

「弾は平気だけど、魚雷が残り三発くらい。燃料は半分くらいまだあるよ。白雪は?」

「弾が心もとないですね。魚雷と燃料は大丈夫です」

「私は……燃料は平気。弾もまだ、ある。叢雲、は?」

「弾は余裕だけど燃料ね。魚雷はまだあるわ。吹雪の予備弾薬を白雪に。燃料は渡せないから……余裕ある子が主にかく乱を担当しましょう」

「「「了解!」」」

「あれ? そういえば皐月ちゃんはどこ?」

「皐月なら川内と同じようにしているわ。ここにきてからの積極性といったらもうね」

「ははは。良いことなんじゃない? 皐月は多分私や白雪や初雪よりも技能もセンスもあると思う」

「負けてられないわね」

「もっちろん! さぁ、残りの火を消せば後は本隊と決戦だね!」

「えぇ。はぐれている艦もついでに落として回るわよ!」

「「「了解!」」」


 それから間もなく、海に完全な闇が戻ってきた。
 聞こえるのは波の音。見えるのは空に浮かぶ星と月の淡い光。
 ゆっくりと流れてくる大きな雲が月を覆い隠した時。

 それはかつての姿を取り戻す。


 戦艦タ級flagshipを旗艦とした敵本隊は、複縦陣を保ったまま止まっていた。
 少しでも動きを見せればその方向に対して16インチ主砲が飛んでくる予感を相手に与えながら。
 隙を一切見せないその立ち姿を、皐月は海上にしゃがみ込んで見ていた。
 川内が動きを見せた事を合図に敵のかく乱。及び牽制が皐月に与えられた仕事だ。
 その為、川内と同じように相手とかなりの距離を取った後に遠回りをして気配を消していた。
 電探で姿を捉えられている可能性はあるが、それが艦娘なのか漂流物なのか分からなければ敵も容易には動けない。
 もしもこちらに砲撃をしてこようものなら別の誰かがそこから相手を崩しにかかるだろう。
 まるでいつかの演習でやったチキンレースのようだ。
 子供がかくれんぼをしているかのようなドキドキと、いつ敵にやられるかわからない緊張感が皐月の身体を火照らせていく。
 ゆっくりと、辺りをほんのりと照らしていた月明かりが消えていく。
 空を見上げると、大きな雲がまもなく月を飲み込んでしまう所だった。
 そして、月は姿を消した。
 その時。

「ガアアアアアアアアア!!」

 深海凄艦の一隻が大きく声を上げた。
 皐月がそちらに目を向けると、敵陣形のど真ん中から一瞬探照灯の光がフラッシュの様に見えた。
 合図だ。
 川内がそこまで潜入し、一隻落としたのだろう。
 皐月は主機を一気に回し込むと、敵に急接近していく。
 敵本隊は周囲に副砲の弾幕を張り始めるが、そのお蔭でどこにどのクラスの敵艦がいるのかが分かる。
 次は敵正面から探照灯の光が一瞬灯る。
 あれはきっと叢雲達だろう。
 この作戦は、川内が考えたものだった。


 夜の暗闇の中、探照灯程の強い光が一瞬でも目の前に灯れば目は確実にやられる。
 相手も目を使ってこちらを認知しているのならそれを潰すのが定石だろう。
 まずは相手を落とさなくてもいいから混乱状態に持ち込む。
 そして隙があればそこに魚雷をぶちこんでやれ。
 それが川内の考えた作戦だった。
 探照灯の光がある所には味方がいる。
 そう思うだけで安心感が包み込んでくれる。
 上も下も暗闇に包まれた空間の中、それは何物にも代えがたい希望となる。
 その希望を、他の仲間にも与えるべく皐月は重巡クラスと思われる敵の真ん前に踊り出る。
 
「それは……私のだよ」

 今攻撃せんと近づいた重巡が、皐月の前で大破炎上した。
 その影には、歪んだ笑みを浮かべる川内の姿があった。
 川内は炎上する重巡リ級の頭を掴むと、そのまま水面に叩きつける。
 その勢いで底に沈んでいった重巡。周囲には再び暗闇が戻る。
 が、戦艦タ級flagshipもそこが狙いと思ったのか、16インチ主砲を放ってきた。

「皐月、こっち」

 川内は皐月の手を握ると、そのまま曳行するように引っ張ってその場を離れた。
 今の襲撃の成果か、敵の陣形は若干なりとも乱れが出始めている、
 今ならそのまま押し崩せそうだった。

「皐月、大丈夫?」

「うん……。大丈夫」

「私が、怖い?」

「ううん。怖くないよ」

「本当?」

「うん。でも」

「でも?」

「心配だよ。川内さん。辛そうだもん」

「……え

「無理しないでいいんだ。一人で背負わないでよ。僕にも」

「……皐月は本当に私の事良くわかるんだね」

「うん。わかるよ」

「私、やっぱり怖いからさ。ここからは着いて来てくれるかな?」

「一緒に戦うって事?」

「そ。二人であの戦艦。倒そうよ」

「……あはは。それは凄くわくわくしそうだね」

「でしょう? 二人で挟撃して、一気に落とすの」

「うん。良いよ! 行こう!」

「ありがとう! 皐月は私の最高の相棒ね」

「あ、相棒……」

「うん!」

「川内さんの……相棒。僕! 頑張るよ!」

「私も頑張る。それじゃああの主砲そろそろ鬱陶しいから、潰すよ!」

「まっかせてよ!」


 川内と皐月は手を離すと、そのまま鏡の如く左右に分かれてUターンをする。
 そのままもう一度合流すると、敵本隊にむかって突撃を開始した。
 川内は耳の無線に手を当てると、オープン回線で通信を開始する。

「こちら川内! これより皐月と敵戦艦に突撃する! 各艦は援護にあたって!」

『こちら叢雲。この回線じゃ敵さんにも捉えられてるわよ?』

「かまうもんか! もう面倒臭いの全部捨てちゃえ! 全部、ぜーんぶ! 吐き出してやりたいの!」

『はぁ。良いわ、付き合ってあげる! 流れ弾に当たるんじゃないわよ!』

「当てたら神通に言いつけてやる! 任せたよ!」

『あら怖い。聞いたわね吹雪達! 特型全艦探照灯照射開始! 回避だけでいいわ! 敵を照らし出しなさい!』

『『『了解!』』』

 川内達と、ほぼ反対方向から探照灯が四つ照射を開始する。
 その光は強烈で、今まで夜目に慣れていた深海凄艦は若干動きを止める。
 川内と皐月はこちら側に伸びる長い敵の影に体を滑り込ませ、そのまま突撃。
 一番後ろにいた戦艦タ級flagshipがその存在に気付いたのは、自らの水面下に四本の魚雷が到達してからだった。


本日の投下は以上になります。
次回は今週平日でも時間が取れ次第投下しようと思いますので、追ってお知らせにてご連絡致します。

おつー
ヒャッハー!夜戦だー!!

【お知らせ】

すみません平日時間取れませんでした。
今から書き始めるので本日2300までに上がれば投下致します。
間に合わなければ明日の2300に投下致しますので宜しくお願いいたします。

イベント楽しみらぎ

 間に合いそうなので、今夜投下します。

 一応今夜の投下でエンディングを向かえそうです。

今丁度書き終わりました。

これより投下開始します。


「やったぁ!」

 吹雪達の探照灯の明かりに負けない程の爆炎がタ級flagshipを包み込んだ。
 それを見た皐月は確かな手ごたえを感じながら声を上げる。しかし。

「まだよ! 皐月回避!」

「え? わ、わぁ!」

 照らし出される黒煙の中から爆音と共に飛来する徹甲弾を、皐月は寸での所で回避する。
 それを予測していたかのように煙の中から中破状態となったタ級flagshipが飛び出してくる。
 川内は魚雷発射管から一本逆手に魚雷を抜き取ると、回避行動を取りつつ水面に投擲する。
 それは川内の意志が反映しているかのように水に潜ると、そのまま一直線にタ級flagshipに向かって進んでいった。
 が、魚雷はタ級flagshipに当たることはなかった。
 なぜならタ級flagshipは護衛として吹雪達とタ級flagshipの間に位置取っていた重巡リ級flagship元まで下がると、リ級flagshipの首を掴んでそのまま自分の足元に叩きつけたのだ。
 川内の魚雷はそのままリ級flagshipに当たる形となり、満足に防御姿勢を取る事の出来なかったリ級flagshipはそのまま波に飲み込まれるように水面に消えていった。

「ッチ! お前の仲間だろうに……下種が」

「嘘……そんなことまでして……あ、あぁ……。あああああ!!!!」

「馬鹿ッ! 皐月駄目だ!」

「川内さん! でも! あいつ自分の仲間なのに!」

「アンタの仲間も今戦ってんのよ!」

「ッ! でも、だけど!」

 その光景を見た皐月は表情に嫌悪感と怒りを露わにする。
 それと同時にオープン回線で常時聞こえてくる特型四隻の声も耳に混ざる。

「クソ! これじゃ駄目だ……どうする……」

 皐月は怒りで敵に突撃したい衝動と、自分の仲間に対する想いのせいで動きに迷いが出始めていた。
 なおも吹雪達はタ級flagshipの取り巻きと乱戦を繰り広げており、こちらに援護をする余裕など無い。
 川内自身がタ級flagshipを請け負うと宣言している手前、ここで引く訳にもいかない。
 この状況を打破するきっかけさえあれば。川内はその糸口を探りながらタ級flagshipの注意を引く為に機銃を放つ。

「僕は……僕はあいつが許せない! 絶対に許さない!」

「皐月、落ち着いて! これじゃ相手の思う壺よ!」

「分かってる! 分かってるんだ! 頭では分かってるのに……畜生!」


 皐月は瞳に涙を浮かべながら必死に川内の指示に従う。
 回避行動を取りつつ相手に砲撃の隙を与えない様、主砲を放ち続ける。
 しかし決定打には程遠く、戦艦持ち前の装甲に弾かれてしまっていた。
 その時、先ほどまで吹雪達に指示を飛ばしていた叢雲が川内と皐月の会話に割って入る。

『さっきからガタガタ五月蠅いのよ! さっきまでの威勢はどこに沈めてきたのかしら!?』

「叢雲! そっちは」

『こっちは順調そのものよ! それよりも他を心配してる暇があるならとっととそいつ片付けなさい!』

 そうしたいのは山々だと川内は言い返そうとしたが、止めた。
 今は皐月を冷静にさせて、タ級flagshipに決定打を打ち込む方法を考えるのが優先だった。
 叢雲は皐月に野次を飛ばす。

『皐月! あんたが足引っ張ってどうすんのよ! ご主人守るんじゃなかったの!?』

「言われなくたって分かってるよ!! でも頭の中がぐちゃぐちゃしてわからないんだ!!」

『何が、ッグゥ!! 何が分からないっていうのよ!!』

『叢雲! 大丈夫!』

『平気よ! 吹雪はそこの駆逐邪魔だから片付けて! 皐月! アンタがぐだぐだ悩む事は帰ってからでも出来んのよ! 今出来る事は何!? なんの為にそこの引きこもり引っ張り出してきたのよ!』

「じゃあどうしたら良いのさ! 今すぐにだってあいつをぶっ飛ばしたいよ! 許せないよ! でも川内さんが止めるのに行ける訳ないじゃないか!!」

『ならそこのバカに行かせればいいでしょ!! 簡単な事で駄々捏ねるんじゃないわよ!』

「川内さんに行かせ! ……川内さんに?」

『アンタも聞こえてんでしょ! 何可愛い二番弟子に背負わせて自分楽してんのよ!! 考えてる暇があったら手を動かしなさいよ! 手を!』

 川内は叢雲に激を飛ばされて初めて自分のしている行動を見返す。
 しかしそれは確かに。今自分が考えている事、している行動は自分でも思う程に受け手だった。
 出撃をする際に胸にあった諸突猛進な戦意がいつの間にか消えていた。
 それを表に出した皐月を冷静じゃないと止めてしまった。
 だが、それは本当なら自分が行うべきだった。
 ただ闇雲に突っ込むのではなく、相手の思考の隙を抜けた。そんな奇抜な戦闘を得意としていた筈だ。
 何を日和っているのか。馬鹿馬鹿しい。
 夜をあの日と重ねて、かつての自分を今でさえ引きずっているのは誰でもない。川内自身だ。
 皐月は確かに無謀な突撃をしようとした。でもそれに中身が伴えばそれは川内の持ち味を体現していたではないか。
 提督は皐月を川内の未来像と称した様に、彼女はこの時も川内に道を示してくれていた。
 小さな月明かりに気付くと、迷っていた道の先が微かに見えた気がした。


『あーもう面倒ね! 吹雪! 白雪! 初雪! 五分持たせなさい! あのバカがやらないなら私が』

「叢雲、五分もいらないよ」

『頭でっかちんが何言っても説得力ないのよ! 引き籠りは無理すんな!』

「はは、笑わせないで。アンタこそたまには先生のいう事聞きなさいよ!」

『ちょ! なんで今その呼び方言うのよ! 止めなさいよ!』

「良いじゃない。昔はよく先生って呼んでくれたんだから。皐月ぃ!!」

「川内さん!?」

「私に考えがある! まずはあのでかい砲塔ぶっ壊すわよ! 付いてきなさい!!」

「りょ、了解!!」

 川内はの字運動を大きく行うと、急旋回してタ級flagshipの左舷目掛けて突撃する。
 それに合わせてタ級flagshipも向きを変えて発射体制を取る。
 それを確認した川内はまた大きくの字運動を行う。
 数回、同じ動きを繰り返すと、皐月に呼びかけた。

「オッケーよ皐月。あいつの動きが見えた。今からいう事をそのままやって! 皐月なら出来る!」

「はぁ……はぁ……え? 何をするの?」

「もう一度さっきと同じ事をするから、その時に自分の後ろに魚雷を投げて! 着水したらアイツに飛んでいくように向きを考えてね!」

「で、出来ないよそんな離れ業! 第一魚雷が水面に変に当たったら爆発するじゃないか!」

「そこはまぁ……スクリューの方から刺すように投げれば」

「そんな事が出来るの川内さんだけだよ!」

「じゃあ私がやるわ! 皐月は魚雷があいつにバレないようにわざと顔辺り狙って主砲を撃ちまくって! 魚雷が当たったら私が突っ込むから、そうしたら皐月がしたいように動いていいよ!」

「無茶苦茶だよそんなの! 違う作戦を考えようよ!」

「皐月がいたから!」

「へ?」

「皐月がいたから、吹雪や叢雲がいたから私は私になれたんだ! もう悩んでいじけて動けないのは嫌なんだ!!」

「……川内さん」

「さっきまでの私がそうだったのなら、今の私はそれを壊したい! 私は夜を越えたい!!」

「……」

「暁はもうすぐそこなんだ。あの夜の明けが、もうすぐ掴める気がするの。だから皐月」

「あーもう! わかったよ! でもどうなったって知らないんだからね!」

「ははは。どうにかしてみせる。してやるんだから」

『話は纏まった? もうこっちはカツカツよ。早い所終わらせて欲しいものね』

『川内さん! 皐月ちゃん! あんな奴ぶっ飛ばしちゃえ!』

『私ももう弾が殆どないので、早く帰ってまた射撃訓練がしたいです。早く帰りましょう?』

『皆……一緒、にね』

『よーし。こうなったら特型の底力見せるわよ! 雑魚は叢雲様に任せてさっさと行きなさい!!』

「だってさ、川内さん」

「やるよ。皐月」

「はいッ!」


 その間も射撃を止める事なく行っていたタ級に対して数発砲撃を行うと、川内と皐月はまたも大きくの字運動を開始した。
 その時、吹雪達が照射し続けていた探照灯の光が消えた。
 話を聞いていた吹雪達が合わせてくれたのだ。
 これによって魚雷の航跡が敵に発見されづらくなった。
 川内と皐月は二本ずつ魚雷を自分の後ろに投げると、皐月はタ級を迂回するように回り、川内は身を低くして波に沿うように突撃する。

「ガアアアアア!!」

 再び訪れた暗黒に主砲副砲共に乱射するタ級flagshipは川内の接近に気付くのが遅れた。
 川内と対称に向きを揃えたタ級flagship。その目の前で川内は主機を止めて停止する。

「さて、私が勝つかあんたが勝つか。勝負ね」

「ウガアアアアアガアアアア!!!!」

「何? 叫んでばかりで喋ることも出来ないの? 無様ね」

 川内の台詞の終わりと同時に二つの爆発音が発生する。
 四本の魚雷の内、川内と皐月。二隻の魚雷が一本ずつタ級flagshipの右舷の命中した。

「何が無茶苦茶よ。あはは、当ててんじゃない!」

 その爆発が止む前に川内がタ級flagshipに急接近をする。
 そしてスケートリンクの上で曲がるようにタ級flagshipの背後に回り込むと、タ級flagshipの首にヘッドロックを仕掛ける。

「いくら戦艦といはいえ、こういう戦いには不慣れでしょ? もうただの艦じゃないのよ! あんたも、私もぉ!!」

「アガッ……ギギァ……ガァ!!」

「苦しい? なら離してあげる。これもついでに受け取りな!!」

 川内はなおも中破で留まるタ級flagshipのヒビ入った16インチ主砲の砲身に魚雷を差し込むと、タ級flagshipを押し出すように離れる。

「皐月ぃ!!」

「見てたよ!! いっけぇえええええ!!!!」

「悪いね。どうやら賭けは私の勝ちみたい。ざまぁみろ」

 一連の流れを見ていた皐月は、よろめくタ級flagshipに向かって突撃しながら主砲を乱れ撃つ。
 その内、一つの弾丸が16インチ主砲の砲塔に当たる。その衝撃は砲身にはめ込まれた魚雷を起爆させるのに十分だった。
 辺りを白い光が覆い、遅れて耳をつんざく様な爆発音が木霊した。
 魚雷の爆発にタ級flagshipの弾薬庫が誘爆。水上バイク(試作)をぶつけた時よりも大きな爆発が起こった。

「うわああああ!!!!」

 皐月は爆風に押され、後ろに吹き飛ばされる。
 それよりも近くにいた川内の姿を、体制を整えた皐月は見失ってしまう。

「川内さん? 川内さん!!」

 目に焼き付いた光が収まると、間もなく水面に姿を消そうとするタ級flagshipの姿。
 そして、それに伴い撤退を開始しようとする深海凄艦達。
 川内の姿は海上には無かった。
 その代わり、空から聞こえる声。


「ぃぃやったぁぁぁあ!!!! 勝ったぁああ!!!!」

 皐月だけでなく、戦いの終わりを悟った叢雲達も釣られて空を見上げる。
 すると雲から顔を出した大きな月と、爆風によって空に撃ち上げられた中破の川内の姿。

『……馬鹿って飛ぶのね』

 それを見た叢雲がそんな事を言っていたが、誰もそれには答えなかった。
 間もなく水面が近づいてくると、川内は身を丸くしでんぐり返しをするように落ちてくる。
 そのまま水面を滑るように着地をし、数メートル程進んだ所で転んだ。

「うわぁああ!! 痛たた。もう、締まらないったら……」

 ぶつくさと文句を言いながら主機を回して立ち上がった川内に皐月が飛び付く。

「うぉっとぉ!! さ、皐月? どうしたの」

「……ぐすっ……ひぐ、うぅ……」

「え? なんで泣いてるの!? 勝ったよ? 勝ったんだよ!? 私!? 私が悪いの!?」

 泣きながら首を横に振る皐月。
 それを見ながら叢雲や吹雪達も川内の元に集まってくる。

「あーあー。泣かせちゃってまぁ……最悪ね、この軽巡」

「あんなに頑張った皐月ちゃん泣かせるなんて……川内さん」

「……ひどいですね。撃ちますか?」

「……ノーコメント」

「ちょっと! 私が何したのかくらい教えてよ!! 皐月? もう怖いのいないからね? 大丈夫よ!」

「ぐす……川内ひっぐ、さん。無事で……うぅ、無事でよがっだあああああ!!!!」

「……皐月」

 号泣しながら川内の腰に抱き付く皐月を優しく抱きしめながら、川内は皐月の頭を撫でる。

「ありがとうね皐月。叢雲も吹雪も白雪も初雪も、ありがとう」

「ねぇ、先生?」

「叢雲、その呼び方嫌だって言ってたじゃん」

「まぁ良いじゃない。気分よ気分。……。先生は夜を越えたのかしら?」

 その質問に川内は少しずつ白いで来た東の空を見つめながら答えた。

「そうだね……。ようやく夜明けだ」


 東の空に日が登り始める。
 辺りはまだ少しうす暗いが、それでももう明かりを灯さなくても見通すことが出来る。
 三水戦の面々は改めてお互いの姿を確認し合うと、思わず笑ってしまう位にボロボロになっていた。
 吹雪や白雪は既に中破しており、初雪は小破。
 叢雲に至っては大破寸前までダメージを負っていた。
 川内や皐月と無線で会話している時に、敵駆逐艦に突撃されていたらしい。
 その状況で川内に代わってタ級flagshipに突撃しようとしていたのだから、やはり叢雲も川内の弟子なのだと吹雪達は笑った。
 この状況でどうやって帰るかと話していると、西の空から偵察用艦載機「彩雲」が空を翔けてくる。
 それを追いかけるように「瑞雲」や「零式艦上偵察機」も飛んでくる。
 それを目で追いかけていると、六隻の無線に通信が入る。

『こちら一航戦加賀。三水戦聞えているかしら』

「こちら三水戦旗艦川内。加賀さん、聞こえているよ」

『貴女が無事という事は、そういう事でいいのかしら』

「うん。皆派手にやられてボロボロだけど、まぁA勝利って所かな」

『上々ね。これより本隊が三水戦を護衛するわ。帰りましょうか』

「ありがとう。うん、うちに帰ろう」

「はわわわわ!! 戦艦や空母の先輩達が護衛してくれるなんて……凄いです!!」

「吹雪、アンタ自分が何をしたのかくらい理解しなさいよ。それだけの事をやってのけたのよ、私達は。胸を張りなさい」

「叢雲……うん!」

「それじゃあ皆帰るよ! 皐月、行くよ。皐月?」

「すぅ……すぅ……」

「あら、泣き疲れて寝ちゃったのね。勿論川内先生が連れて行ってくれるのでしょう?」

「まぁ……そうしようか」

「可愛い寝顔じゃない。朝が来てお月様もお疲れだったのね」

「皐月が私の分も頑張ってくれたからね。本当にこの子のお蔭よ……」

「もうみっともない姿は見せられないわね」

「見せないよ。はぁ……もう引き籠れないなぁ」

「神通が寂しがるんじゃない? 姉さんの訓練が出来ないって」

「そうかもね。その辺の話も帰ってから。行こうか」

 こうして、三水戦にとっての長い夜の初出撃は終わった。
 帰りの道中、川内は皐月の寝顔を何度も横目に見ながら大事そうに抱えて帰って行った。


 この鎮守府にはいくつかの名物がある。
 鬼の二水戦旗艦による地獄が垣間見れる特訓だったり、四水戦旗艦のコンサートだったり。
 鎮守府に所属している艦の殆どが軽巡洋艦と駆逐艦であるからか、噂話とトラブルには事欠かない。
 だからこそか、噂の中心にいる艦は注目を嫌でも集める。
 あの夜の騒動はその日のうちに鎮守府内を駆け巡り、三水戦は入渠を終えるや否や多くの艦娘に囲まれた。
 中でも皐月に対しての質問攻めは凄かったという。始めこそちゃんと答えていたものの、その内目を回してしまい自分の部屋に逃げ込んで閉まった。
 その行動でさえ「引き籠りの弟子も引き籠り」と話のネタにされてしまった。
 そしてそんな騒がしい一日も夜が更ける。

「こんな日でも日課は欠かさないのな」

「はぁ、はぁ。……提督」

 消灯時間が過ぎた頃、提督はいつかの様に川内を運動場のベンチで待っていた。
 あの日と違う事と言えば、川内の態度と提督が手にしている飲み物の銘柄くらい。

「先の戦闘ご苦労だった」

「何、そんな事を言う為に待っていたの?」

「いや、お前と少し話がしたくてな」

「私も提督に話があるから丁度良かったわ」

「そら、これでも飲みながらゆっくり話そうぜ」

「そうね。隣座るわよ」

「応。今夜はその隅に座るんじゃないのか」

「私は別にそっちでも良いけど?」

「なんでもない。忘れてくれ」

「変な提督。ねぇ」

「なんだ」

「随分長い間、我儘言って……ごめんなさい」

「……」

「今更こんな事都合が良いかもしれないけれど。私艦娘続けたい」

「どうして?」

「皐月にね。ううん、皐月だけじゃない。三水戦の子達にね、忘れ物見つけて貰っちゃったから」

「そのマフラーか?」

「いいえ。私があの護衛任務の日に忘れてきた大切なもの。軽巡洋艦川内としての誇りと、私としての意地って奴。かな」

「また、捨てる事は出来るかもしれないぞ」

「そんな事できない。する訳ない。だって、これはあの子達が必死に私に見せてくれた想いだもの」


「賭けは、俺の負けだな」

「叢雲が言っていたわよ、それ。人をダシに賭けなんて酷い事するのね」

「実はな、お前がここを去ると決めていたら。俺も提督を引退しようと思っていた」

「え。それ本気?」

「あぁ、それだけ。お前には申し訳ないことをしたと思っていたんだ」

「なんで、なんで提督がそんな事思うのよ……」

「あのタンカー護衛の後からずっとだ。お前を腫物の様に扱ってしまっていた。自分はどうする事もできない。ならばきっと時間が解決してくれるだろうと、お前に全て投げてしまっていた。俺自身もそう思うし、叢雲にもそれで怒られてしまったよ」

「そんな事」

「無いなんて言わせないぞ。これは俺が背負った問題だ。消えるもんじゃない」

「なら、その償いはどうするの」

「そうだな。まだ考えている途中だ。そう簡単にどうこう出来る問題とも思えん」

「なにそれ」

「それに、お前もまだここに残るんだろう? 時間はある。一緒に考えてくれると助かるな」

「それなら、我儘一つ言ってもいい?」

「お、なんだ。言ってみろ」

「駆逐艦の子達のね。教官をやらせてほしいの」

「ほう。どうしてまた」

「吹雪達にね。言われたのよ。私の教える事を是非他の子達にも教えてあげて欲しいって。私もね、そういうのも良いかなって思ってさ」

「なら、今度神通や那珂や阿武隈も交えて話し合おう。この際誰がどの分野を教えるかすり合わせるのも良いかもしれん」

「そうだね。そうしてくれると嬉しいな」

「それとだな、川内。お前にもう一つ話があるんだ」

「もう一つ? 何?」

「近いうちにな。少し離れた所に新しい鎮守府が設立される事になった」

「へぇ。まぁここも結構重要な場所だもんね。でも、なんでそれを私に?」

「そこに配属される提督の面倒も俺が見る事になっているんだが、そいつの秘書艦をうちの駆逐艦から一隻出す事に決まった」

「ねぇ、それって」

「あぁ、ここからは相談なんだが。誰か良い奴はいないものか?」

「それ、分かって聞いてるでしょう」

「いや、そんな事はないぞ。あ、因みに叢雲は駄目だ。あいつがいないと俺が困る」

「流石に新人提督に叢雲は預けられないわよ。ストレスでつぶれてしまうじゃない。そうねぇ……まぁあの子なら適任といえば適任よね」

「誰だ?」

「本当にこの人は……私の推薦は……」


――演習場桟橋――

 二日後。川内が夕暮れに演習場の桟橋に腰かけて待っていると、後ろから待ち人が歩いてきた。

「やぁ。今日は僕が待たせた番かな」

「私だっていつも待たせてる訳じゃないわよ、皐月」

「ははは。そうだね」

 川内は皐月を桟橋に呼び出していた。
 皐月が川内の横に腰かけると、川内は海に垂らしていたロープを引っ張り上げた。
 その先には二本のラムネのビンが括られていて、海水に冷やされて飲み頃となっている。

「はい、皐月」

「ありがとう。これもいつかと逆だね」

「あぁ、遠征で綾波と喧嘩しちゃった後の事? そういえばあの時は皐月がこれ持ってきてくれたっけね」

「僕の時は手に持ってきたから少しぬるくなっちゃってたけど、っほっと。んぐっ、っぷはぁ。これは冷たくて美味しいや」

 ラムネのビー玉を落とすと、皐月は一口飲んでから笑顔になる。

「ねぇ、皐月。私ね、皐月には感謝してるんだ」

「僕に? なんで」

「皐月には色々助けて貰っちゃったし、守って貰った。だから、ありがとうね」

「や、止めてよ! お別れするんじゃないんだからさ」

「もう少ししたらね。少し離れた所に新しい鎮守府が出来るんだって」

「へぇ。そうしたらここも少しは楽になるのかな?」

「今はまだ良いけど、これからこの鎮守府は北方海域方面とかにも進出をしていくから。今私達が守っている海域の守備の引き継ぎと、私達とは逆の海域の攻略の拠点にするんだって」

「そうなんだ。やっぱりそう簡単に楽させてくれないね。ははは」

「その鎮守府にくる提督も殆ど新人さんみたいでね、ある程度練度の高い駆逐艦を秘書官にうちから出す事になったの」

「……川内さん。別の話をしようよ。そういえば! 今日長月がね!」

「その秘書艦を誰にするかって提督に相談されてさ」

「可笑しいよね! 卯月だってそんな事しないのに! はははは」

「私はね」

「川内さん、止めてよ」

「皐月を推薦したんだ」


「川内さん!!」

「皐月……」

「なんでよ……。なんでだよ!! ようやく、ようやくこうやってお話できるようになって。相棒って言ってくれて!! これからもっとお互いの事話したいって思っていたのに!!」

「だからだよ」

「何がだからなの!!」

「私は相棒だと、親友だと思っているから。一番信頼できる子だと思うから推薦したんだ」

「……だけど」

「別にもう会えなくなる訳じゃないわ。なんなら休暇貰って私が会いに行く。提督に頼んで演習組んで貰えば私と訓練も出来る。それにね」

「……それになんだよ」

「私もこれから駆逐艦の子達の教官をやらせて貰える事になったの。その時にあの鎮守府の秘書艦は私の親友なんだーって自慢したい。あの皐月は私が育てた! だから君達も強くなれるって他の子達にも希望を与えてあげたいんだ。それを皐月に手伝って欲しいの」

「そんな事言ったって、僕まだそんなに川内さんに教わってないよ?」

「大丈夫よ。すぐって話じゃないし、まだまだ時間はある。足りないなって思ったら提督に駄々捏ねて少しくらい伸ばす事も出来る筈よ」

「ふふ、なんだよそれ。まるで子供じゃないか」

「それが私だもの。皐月が見つけてくれた川内よ」

「そんなの……ずるいや。そんな事言われたら断れ……ないじゃないか」

「あーもうまた泣いちゃって。本当に皐月は泣き虫ね」

「川内さんの……ひっぐ、前だけ。だもん」

「あ、そうだ。あっちの鎮守府に移動する時に合わせてマフラー新しいの作ってあげる! 皐月に合わせて色とかも変えてみる?」

「ううん。僕はずっとこれを使うよ」

「良いの? それ片方の端弾がこすれて汚れてるし、錆が着いて赤黒くなっちゃってるよ? 血が着いてるみたいに見えない?」

「良いの!! 川内さんが使ってた奴が良いの!! それでね、川内さんが僕を一人前だと認めてくれたら……その」

「そうだね!! その時に新しいマフラーを作って渡すよ」

「うん! それなら僕も頑張れるよ!!」

「お、泣き止んだなぁ!! 良し!! それじゃあ早速提督に話して皐月強化訓練のスケジュールを考えよう。本舎まで競争だ!!」

「へへん! 僕とやり合おうっていうの? 可愛いね!!」

「皐月の方が可愛いし!」

「なっ! なにおぅ!!」

「そこは絶対に譲れない!」

「うぅ……せ、川内さんのばかぁあああああ!!!!」

「あ、フライングだぞ皐月!! まてぇ!!!!」



 その光景を横で見ている影が二つあった。

「ねぇ神通ちゃん」

「なんでしょう。那珂ちゃん」

「川内ちゃん。なんかちょっと見ない間に立派になったよね」

「そうですね。でも、なんででしょう。少し寂しい気持ちもあります」

「那珂ちゃんも。でもさ、やっぱ川内ちゃんはああやって元気な方が似合ってるよね」

「はい。私もこっちの姉さんの方が好きです」

「神通ちゃんの身体の調子が戻ったらまた三人で訓練したいね!」

「ふふふ。その時は二水戦・三水戦・四水戦合同でやりたいですね」

「それなら阿武隈ちゃんも呼んで一水戦二水戦対三水戦四水戦とかやろうよ!」

「良いですね。それならば早速その話を提督や阿武隈に持って行きましょうか」

「よし! そうと決まれば川内ちゃんを追いかけるぞ! まてぇええ!! 川内ちゃん!! 皐月ちゃん!!」

「あらあら、那珂ちゃんったら。待ってください!」





 この鎮守府にはいくつかの名物がある。
 落ちこぼれと称されていた川内型一番艦川内。
 その軽巡洋艦を中心とした出来事や事件は、既に名物と言っても過言ではない程存在する。
 その中でも一つ。
 一隻の軽巡と一隻の駆逐艦が巻き起こした騒動はその先も当分語り継がれる事になる。
 破天荒な二隻の始まりの物語として。
 その先の二人の話は、また次の機会に記そうと思う。



――提督の手記より。


以上で完結になります。

最初から見て頂いた方々、途中から追いかけてきて頂いた方々。
ありがとうございました。

乙!
川内さん最高と次につなげるってのはこういうことか


【お知らせ】

始めから見て頂いた方々、途中から追いかけてきて頂いた方々。
ありがとうございました。
なんとか一作目完結しました。

途中から大分内容変わった感がしますが、完結です。
最後の方駆け足気味になりましたが、次に続く形を取りました。

次の話は皐月が別の鎮守府で頑張る話です。
ですが、ここの川内も普通に出すので引き続き見に来ていただけたら幸いです。
また少し皐月編の書き為をしようと思います。
その間、もう一つの放置されていた川内SSを動かす事にします。
そちらの方も引き続き読んでいただけたら嬉しいです。
それでは、仕事の暇つぶしに描いた絵を張り付けてから数日後に依頼出します。
以下改善点やご意見など書いて頂けたら助かります。

お疲れ様でした。

できるならどっちかに誘導ほしい

http://fsm.vip2ch.com/-/hirame/hira084045.jpg
完結扉絵

【誘導】

川内「あれ、これ昔の私の写真……」
川内「あれ、これ昔の私の写真……」 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1435253583/)

多分次回の皐月編の誘導もこっちで行うと思いますので、宜しくお願い致します。


向こうも次も楽しみにしてる

完結おつでした
なんか途中からどっちが主役が分からなくなってきたけど最高だったw

再び追いついた!完結乙です!
川内さんも叢雲も輝いていて、より好きになりました!
そして皐月、陽抜本に続いて株急上昇に良かったし、他の皆も良かった!
再度、お疲れ様でした!

このSSまとめへのコメント

1 :  SS好きの774さん   2015年07月20日 (月) 08:02:18   ID: IpNtwub4

やっぱり、川内は夜戦だな。

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