勇者「は?俺、勇者なんだけど。」(17)


勇者「なあ、俺勇者よ?お供三人って。しかもそれで魔王倒せって。」

王「むっ、むぅ…………」

勇者「しかも旅の為の金が硬貨300枚って。」

兵士長「…………」

勇者「世界を救う為に掛ける金が300ぽっちって。」

王「い、いや……それは…………」

勇者「ナメてる?ナメてるよね?陛下は世の中と魔王と俺をナメてるよ。」


王「わ、分かった。パーティーを8人に増やそう。」

勇者「まあ、妥当だな。全員腕が立つか俺が直々に試すからな。
   腑抜けを用意しやがったら、まあ……大体分かるよな?」

王「まさか。精鋭を用意するとも。金も金貨200000を用意しよう。」

勇者「あと馬車もな。勿論鍵、扉、馬装具、金庫、馭者も用意して。
   馭者の飯代は別で国が持ってね。馬も5頭は着けて貰おうか。」

王「わ、分かった。」

勇者「じゃ、そう言う事で。用意出来たら呼んでくれよ。」スタスタ


兵士長「本当によろしいのですか?」

王「仕方あるまい。近隣国は全て魔物に潰された。魔王を打ち倒すには勇者の力しかないと。
  勇者の握る剣の炎にて魔王を焼き尽くすしか世界を救う方法は無いと予言されたのだ。」

吟遊詩人「おまけに次の勇者が現れるのは1000年後。
     とてもじゃないが、持たないだろうからな。」

兵士長「貴様、何処から入った!」チャキ

吟遊詩人「失礼……勇者に仕えんと国王陛下にお目通り願ったのだが……
     許可されなくてね。少々無理矢理な手段を選ばせて貰った。」

兵士長「貴様……!」

王「まあ、待て。勇者の旅に付いて行くと言うなら止めはせん。好きにするが良い。」

吟遊詩人「それはどうも。では、勇者が来るまでは?」

王「部屋を用意しよう。」

吟遊詩人「ありがたいな。」


勇者(知らせが来るまで暇だな……ナンパでもして引っ掛けても良いけど……)

勇者(酒場に行くか。金は腐るほどあるしな。)

勇者(それにしてもあの国王、まさか200000も出すとは思わなかったぜ。)

勇者(まあ、金があるに越した事は無いしな。ただ全滅に気を付けねーと。)

勇者「……」ガチャ

主人「おう、いらっしゃい。」

勇者「アイアンテールを1ピース。それと、ラヴアディクトを一杯……いや、ボトルで。」

主人「ほいよ。アイアンテールか。焼くから少し待ってな。」

勇者「あー、良いや。生で良いよ。」

主人「ほぉ……良いのか?」

勇者「いつも生だしな。」

主人「ラヴアディクトに生のアイアンテールとは、お客さん、随分飲み慣れてるね。」

勇者「最近は飲んでなかったんだけどな。今日は特別。」


主人「何か良いことでも?……ほれ、ボトル。」ドン

勇者「まあな。」トクトク グビリ

主人「まあ、昼間っからそんな強い酒入れてる時点で大体の想像は付くぜ。」ドン

勇者「へへへ、分かるか、親父よ。俺は世界を救うんだぜ。」ガリッ

主人「へぇ、そうかい。」

勇者「信じてねえなあ。俺は勇者なんだぜ?」

主人「ほう、勇者っつーと、首筋に赤い印があるらしいが……本当にあるな…………」

勇者「へへへ、なあ?」


主人「勇者が真っ昼間から酒場で飲んでいるとはね。」

勇者「もうすぐ旅の支度が出来るからな。それまで酒だ。」

主人「ふーん。」

勇者「あー、少し、用事を思い出した……」

主人「おやおや。忙しいねえ。勇者ってのは。」

勇者「ボトルはキープしといてくれ。魔王を倒したら飲みに来るからよ。」ゴクゴク ガツガツ

主人「へいよ。」

勇者「じゃ、また来るぜ。」バタン


???「行ったか。」

主人「ああ。」

女戦士「あの男、本当に勇者なのか?ただの酒飲みにしか見えなかったが……」

主人「それは間違いないぞ。俺は確かに見た。」

女戦士「勇者の証か?」

主人「ああ。あの血よりも紅い印は造れる物じゃねえよ。」

女戦士「本物か……」

主人「仕えるんだろ?」

女戦士「まだ決まった訳じゃない。」


主人「見た限り腕も立つようだ。別に良いじゃねえか。」

女戦士「まあ、実際確かめてからだな。」

主人「本気か?」

女戦士「勿論だ。」

主人「やれやれ。別に構わんが……無茶はするな。娘の傷付く所なんて見たくはない。」

女戦士「へいへい。」ガチャ バタン


<墓のある庭園>

狩女「…………」

ガサッ

狩女「!?」クルッ

勇者「ここだったか。」

狩女「命日、なので。」

勇者「お前の母君、か。」

狩女「貴方の母でもありました。」

勇者「まあな。だが、短い間だった。……本当に、申し訳ない事をした。」

狩女「止めて下さい。母は、悔やんで等居ないはずです。それに……」

勇者「俺のせいじゃない、ってか?」

狩女「はい。」


勇者「止めてくれ。アイツを……止められなかったんだ。殺したも同じだ。」

狩女「だから、向かうのですか?罪を償う為に、正義無き旅路に。」

勇者「ああ。そうだ。今度こそ、命の正しい使い方をする時だ。」

狩女「貴方は、死んで尚、母を悲しませるのですか?」

勇者「しくじる事を前提にするなよ。」


狩女「あの男を、殺せるようには思えません。」

勇者「だから野放しにすると?それでお前の母は喜ぶか。」

狩女「悲しみはしません。それが私と貴方の母です。」

勇者「俺に母は居ない。」

狩女「いいえ、確かに居ました。」

勇者「血が繋がって無くても母だと、お前はそう言いたいんだろう。」

狩女「否定するのですか。」

勇者「母か否かを血で決められはしない。だが、俺に父は居ないんだ。
   故に母も居ない。そう言う事だ。血の繋がりは関係ない。」

狩女「どうしても、行くのですね。あの男を殺しに。」


勇者「ああ。……お前はどうする。」

狩女「貴方を、死なせはしません。」

勇者「来ると言うのか。」

狩女「足手まといにはならない筈です。」

勇者「確かにな。」

狩女「邪魔ですか。」

勇者「そんな事は無い。だが過酷だ。来れるか?」

狩女「貴方と共にあるのならば。」

勇者「もっと妹らしい言葉が欲しい物だがね。」

狩女「行きましょう。母への挨拶はもう果たしました。貴方の分も。」

勇者「そうか。じゃ、行くか。」


<郊外>

勇者「さて、どうしたもんか。」

狩女「王城へ向かうのですか。」

勇者「ああ。そうし」
  ド ン ッ
???「ああ、いや、失礼。」スタス

勇者「待て。」

???「何だろうか?」ピタ

勇者「右ポケットにあるものを見せろ。女。」

女?「何故かな?」

勇者「ぶつかった瞬間俺の懐からくすねた物を見せろと言ってる。」

女?「何の事やら、さっ」
  ス ッ  ガ ッ

勇者「これの事だよ。」スルッ

盗賊女「あ……ぅ……」

勇者「さて、どうしようかね、お前の事を。」


狩女「それは……財布、ですか?」

勇者「ああ。俺のな。さーて、女。どう償うんだ?」

盗賊女「クッ…………殺すなり犯すなり、好きにしろ。」

勇者「犯す、か。……成る程な…確かに…趣のある顔だ……」ツツー

盗賊女「ひッ!?」ビクリ

狩女「な!?」

勇者「冗談だ。お前みたいな小娘に趣なんぞあるか。化粧を学んで
   胸が二周り、尻があと一周り大きくなれば相手をしてやる。」

盗賊女「クッ、クソッ!」ダッ

狩女「兄さん、いくら何でも……」

勇者「俺から銭を盗もうなんて、考えが甘いな。まだまだ未熟だ。」


狩女「兄さんは、その、少し、自分の敵に酷いと言うか、排他的過ぎます。」

勇者「まあな。ところで我が妹よ、何か欲しい物はあるか?」

狩女「どうしたんですか?突然。」

勇者「臨時収入が入ってな。服や装飾品、なんでも良いぞ。」

狩女「では……首飾りが欲しいです。」

勇者「よし、買いに行こう。」


<雑貨屋>

勇者「さ、どれにする?何でも買ってやるぞ。どんなに高くても、だ。」

狩女「少し、見ても良いですか?」

勇者「勿論だ。好きにしてくれ。時間は腐る程ある。」

狩女「はい。」ジー


<郊外>

  ド ン

盗賊女「うわっ!?」

女戦士「あ、すまん。」

盗賊女「こ、この……気を付けてくれ!」

女戦士「ああ。クソッ、何処に行った……?」スタスタ

盗賊女「ついていない……」トボトボ

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