異世界の迷宮都市で冒険者を始めました (32)
地の文の練習SS
お手柔らかにお願いします
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拝啓
青葉が美しい季節となりました。天国にいる母君、如何お過ごしでしょうか。
自分は新しい環境に出会いましたが、なんとか適用し、毎日元気に過ごしています。
~省略~
さて、本日このような書を書かせてもらったのはいくつか報告することがございまして、この書をその報告とさせていただきます。
4月を過ぎ、昨年入学した高校に妹が無事入学できました。
妹は自分よりも座学での成績は優秀ですが、体力関係と家事が全くと言っていいほどできません。
そのことを父は、母君に似たと言っていました。どうぞ天罰をお与えください。
~省略~
追伸、自分は現在家に帰ることができません。父と妹をいつも以上に見守ってください
敬具
主人公名前あるけど気を悪くしないでね
オープニング ◇異世界へようこそ◇
迷宮都市 フェローネ。
ここ迷宮都市フェローネは、北に樹海。南に山脈。西と東は貿易のために整備された道が広がる発展途中の中規模な都市だ。
樹海には様々な果実が実を結び、山脈には純度が高い鉱石が山のように蓄えてあるらしい。
フェローネは発展途中でありながら、ここには数多くの冒険者が拠点を構え、賑わっていた。
大きな理由は。フェローネには迷宮があること。資源が豊富で食べ物が美味しいこと。大規模な貿易の中間地点だから荷物の護衛任務がたくさんあることなど様々である。
情報が正確に集まらない大きな理由は…俺は例外を除き、この世界の文字や会話。意思疎通…つまりコミュニケーションが取れないことが大きな要因と言える。
まぁ体を使うジェスチャーなら自分のやりたいことをあらかた伝えられる。いまはこれだけが相手に自分の意思を伝える唯一の方法である。
いま俺はお金を稼ぎにここフェローネに来ている。すくなくとも貧乏ではないが、お金はないよりあったほうがいいからな。
まずは自己紹介。俺は関崎 圭。日本に居た頃は〝けい〟って呼ばれていた。
17才の現役高校生で、それなりに楽しい毎日を過ごしていた。
楽しい1日を過ごして、ベッドで寝て、起きたら異世界に来てました。
この世界に来たのはほんの1ヶ月くらい前で、この世界の文明に触れたのは1週間も過ぎないだろう。
ここで疑問が生まれる。なぜいままで生き延びられたのか。それには2つの奇跡があったからだった。
まず1つ目の奇跡は、俺の肩掛け袋の中に居る龍の幼生だ。名前はない。肩掛け袋は現代のショルダーバッグと言ったほうがイメージしやすいと思う。
龍といっても見た目はただのトカゲ。これから翼となる部位はまだ発達してないし、鋭利な爪は生えていない。
俺がこの世界に来て初めて会った生物で、2番目がこの龍の母。不慮な事故でこの幼龍と主従契約を交わしてしまった。
契約内容はシンプルで、契約者は定期的に龍に生血を与え、龍は契約者に力を与える。つまり定期的に痛い思いをしなきゃいけないのである。
だがこの龍のおかげで限定的ではあるが相手の言っている言葉がわかる。通訳程度だが本当に助かっている。
龍との会話方法はテレパシーみたいな感じで、頭の中で呟いて、答える。脳内妄想ダダ漏れである。
そのほかに龍と視界と聴覚を共有できたり、オプションを言えば30分は語れるだろう。
共有といっても龍が勝手に俺の目を耳を使うだけで、俺の方からは龍の見る世界や音は聞こえない。ただ龍は俺の耳に入った声を記憶し、変換し、俺に教える。力を与えるとはつまりそういうことなのだろう。
とりあえずこの龍のおかげで精神的には救われている。孤独を救ってくれたのはこの龍だからだ。
2つ目の奇跡は、俺の目の前を歩いている美少女。名前はエイラ。年齢不明だが多分年下で14くらいだと思う。
種族は獣人で狼女。この人は俺を救ってくれた人。命の恩人であり、俺のご主人様。
髪は手入れしているようで綺麗な茶色で瞳はライトグリーン。周りが暗くなると瞳が金色に輝く。エイラ曰く、夜間視だとか。髪型はボサボサだけどそれもウルフカットといえば格好はつくような髪型である。
服装は皮で作られたジャケットに動きやすいハーフパンツ。成長期と思春期が同時に来ているのか性格がよくわからないやつである。
ファーストコンタクトはフェローネの北の樹海で、異世界に来て右往左往していた俺に、文字通り手綱を引いてくれた。
そのあと俺に身振り手振りでいろいろなことを教えてくれた。モンスターの倒し方や武器の扱いなど、戦闘に対して様々なことを教わった。
会話はできないけど、エイラの言っていることはこの龍を通してなんとなく伝わっている。
樹海でエイラと会った翌日に、強制的に部屋に運び込まれて奴隷契約をした。
契約自体は簡単で、特別な印鑑に契約者の血を付けて奴隷に押す。八重歯で親指の腹を切って血を付けてポン。この間僅か2秒。無知は抵抗すらできないのである。
そんなかんなで俺はエイラの奴隷で異世界生活を始めたのであった。
第1話 ◇初めての迷宮都市◇
エイラの家がある小さな集落を早朝に出て、フェローネの酒場で朝食をとっていると、エイラは俺の正面に立って、なにやら真剣な顔で話し始めた。
「#%&$%&&%$。##$%#%%%&」
『なんて?』
『おかね。ない。あるじ。いく。めいきゅう』
この世界のお金の単位はゼニーで、価値は大体1ゼニー10円である。
セントからドルのような特別なお金の呼び方はなく、ゼニーである。
それとお金の受け渡しが日本と似て、大体がバンクカードで遣り取りされる。
バンクカードは簡単に言うと、通帳とクレジットカードが合体した物。遠距離でのお金の遣り取りはできないらしいけど、相手と自分のバンクカードを重ねるだけで手数料なしで買い物ができるマジックアイテム。すごく便利らしい。俺持ってないけど。
『迷宮?酒場で主人と話していたやつ?』
『そう』
迷宮とは、簡単に言うとダンジョン。入ったらモンスターが出てくるアレである。モンスターを倒すと少量の魔石とドロップアイテムを落とす。魔石は迷宮を出るときにゼニーに交換でき、アイテムは時々落とす程度で期待はしてはいけないらしい。
「#%%$&%$&&%#$&%」
『あぶない。にげろ』
『…危険を感じたら逃げろってことでいいの?それとも迷宮に行くこと自体が危ないからやめろってこと?』
『さいしょ』
『了解。干し肉はあとでな』
エイラは俺をずっと見ていた。俺はコクンと頷くとエイラは満足したのか、朝食の代金を払いにレジに向かって歩いて行った。
最初に言ったとおり、俺は龍を通してエイラの指示を聞く。龍はエイラと会話ができないらしく。俺と龍はエイラの指示を一方的に聞くことになる。
この龍はまだ幼生で言葉のレパートリーが少ないが、知性は高く、エイラや街の人々の言葉をどんどん吸収している。母龍が肉声で俺と会話ができていたので今後の成長が楽しみだ。
ちなみに干し肉とは、地球産のカ○パスである。俺が異世界に飛ばされたときに袋ごとついてきて、龍に定期的にあげていて好物になっている。実を言うと在庫が残り少ないので代用品を探しているところである。
酒場を出て都市の中央区に向かった。
フェローネは大きく分けて5つ区分けされている。旅館や食事処が並ぶ居住区。鉱石や魔石を加工する工業区。迷宮が並ぶ迷宮区。フェローネの全てを統括する中央区。それと建物を建てたりこのフェローネ全体を拡張していく発展区である。
発展区で建った建物はすぐに居住区か工業区に割り振られる。作り終わるまでが発展区らしい。
中央区には冒険者ギルドや聖堂はもちろん。武器屋や防具屋までほとんどのものが売っている。
とにかく中央区に行けば、なにかしらアクションはとれるのだ。
冒険者ギルドの受付に行くと、エイラが話しかけてきた。
「#&&$&%#$。#&&&%$#&%?」
『ぎるどかあど。ばんくかあど。ある。ない』
ギルドカードはギルドに依頼されたクエストを受ける際に手続きを簡略化させるマジックアイテムでバンクカードはお財布である。
ちなみにどちらも持っていないので首を横に振った。
するとエイラは受付に走っていき、2枚紙を受け取って戻ってきた。
「#%&&$#$%&&&&%$#%&$」
『とうろくようし。かく。みどり。わたせ』
登録用紙はともかく、俺は地球から持ってきた4色ボールペンをエイラに渡した。
ちなみに4色の内の緑はエイラが気に入ったらしく使い切ってしまった。
エイラはすらすらと登録用紙を埋めていくがここで問題が発生した。俺はこの世界の字が書けない。
『登録用紙に書いてある字を分かるだけ教えてくれ』
龍と俺の目は共有していて、龍が肩掛け袋の中に隠れていても見えるのである。表に出さないのは龍族ってこともあるけれど、モンスターと間違われて討伐されないようにでもある。
『なまえ。ねんれい。ちゅういじこう』
『注意事項のところをわかりやすく』
『めいきゅう。ませき。うる。けんか。だめ。きをつけて』
『魔石を手に入れたら必ず売る。喧嘩はしない。油断しない。これでいい?』
『うん。うでわ。もらう。つける』
『登録したら腕輪を貰ってつければいいのね。他には?』
『ほしにく』
…ここで龍の集中力が切れたようで龍からの反応がなくなってしまった。
…ここで龍の集中力が切れたようで龍からの反応がなくなってしまった。
エイラは名前を書き終わり、暇なのか俺を見ながらボールペンをくるくる回していた。エイラはとっくに注意事項に目を通したのか用紙の下の方に血判が押されていた。あそこは血判なのね。
とりあえず龍にやる気を出してもらうべく肩掛け袋からカ○パスをひとつつまみ出し、ビニールを剥がして龍が眠る場所のジッパーを開けた。
「痛っ」
干し肉を龍にあげようとしたら親指を噛まれてしまった。
幼生と言っても牙は生えており、噛まれると傷の割に結構痛い。
だが血判の為にどこかしら傷を作る予定だったからむしろベストタイミングだったのかもしれない。
龍がカ○パスを食べ始めたのか、心の底に幸福感が生まれてきた。それとすこし体が軽くなってきた。これは多分龍が俺の血を吸ったからだろう。
ちなみに龍はカ○パスを2日かけて食べて4日はなにも食べないでいいという。驚きのコストパフォーマンスである。
カ○パスを貰ってご機嫌になったのか、龍から返事が返ってきた。
『うでわ。ばっぐ。まほう。たくさん』
『バッグ?とりあえず貰う腕輪にはたくさん魔法が付いているってことか。魔法の種類がわかったら教えてくれな』
『うん』
そう言って龍は会話を止めて食事を再開した。
ちなみに名前欄に漢字で書いたところ、返却され。ひらがな、カタカナでもダメで、最終的には紙を持って四隅に隠れ、龍がボールペンを咥えて文字を書いてくれた。
あとで気付く事だが、登録用紙にはケイではなくケーで登録されていた。
第1.5話 ◇エイラの日記◇
私の住んでいる集落はフェローネから北に歩いて5キロくらいの位置にある小さな集落。
集落から北に行けば樹海が広がっていて、樹海からときどきモンスターが畑を荒らしにやって来るけどそこまで被害は出ていない。
私は獣人一族。それも獣人の中では上位に属する誇り高い狼族で、身体能力も高い。人間なんかすぐに倒せるほど私は強い。
この前樹海に飛龍が翼を休めに来たと集落で噂になっていたので、その真相を知りに樹海へ入っていったのだ。
そしたら飛龍じゃなくて人間がいた。変わった服を着ていて、木に引っかかっている荷物を取ろうと、石を投げていたから私も石を投げたら驚かれたのが私とアイツの出会いだった。
アイツは私を見ると驚いたのか数秒止まってあとに、知らない言葉で話しかけてきた。
私は翻訳の魔法を私とアイツに掛けた。けど効果は現れなかった。
私はモンスター図鑑の龍の項目に〝低ランクの魔法は効かない〟があることを思い出して急いでアイツを家に連れて帰った。
アイツは龍の化身かもしれないと思った私は、咄嗟に親が持っていた奴隷の印を私の血でもってアイツと奴隷契約を結んだ。
そのすぐ後に母が家に帰ってきた。すっごく怒られた。勝手に樹海にはいったこと。勝手に人間を拾ってきたこと。勝手に奴隷契約を結んだこと。
母が怒っているのは当たり前で、私はお叱りを受け入れていた。そのときアイツは驚きの行動に出た。
頭を下げたのだ。勝手に奴隷契約を結ばれたにもかかわらず、私をかばうためにアイツは私のために頭を下げたのだ。
母は呆然としていたが、呆れ尽くしたのかテーブルに伏せてしまった。アイツはアイツでどうしたらいいのかウロウロしていた。
そのまま時間が過ぎて日没が近くなったところで父が帰ってきた。
父はアイツを見るなり牙を立てた。母が父にコイツの説明をしていくうちに、殺気立った牙はどんどん小さくなっていく。その代わりにあの時の母と同様、呆れたような顔に変わっていった。
父はフェローネに出稼ぎに行っていて、職業は家造り。フェローネはいま急成長していて、人間と一緒に仕事をしている。
フェローネに行く理由は、獣人のほうが人間より力はあるから採用されやすく、仕事効率が良く、収入がいいからだとか。
父は仕事道具から、マジックアイテムをひとつ取り出した。解析眼鏡っていうアイテムで、鉱石の純度や薬草の種類が簡単にわかるという優れもの。私の家の家宝かもしれない。
その眼鏡で父はアイツを見た。そしたら〝護身術〟というスキルを持っていたらしい。ちなみに私は狼族固有のスキル、獣化を持っている。護身術はしらないが、獣化は体の一部を獣化して機敏性を増すスキルで、街へ行く時の時間短縮に使っている。
父はそのあとなにかを見つけたのか難しい顔をして、流れるように眼鏡で覗いた母も難しい顔をした。私も眼鏡で見たかったけど、見せてくれなかった。
母は夕食を作りに台所へ行って、私とアイツと父の3人で気まずい雰囲気になった。
父はいきなりアイツの手を掴んで剣を握らせた。私が訓練用で使っている剣で、見た目より軽く、切れ味には自信がない剣。
そして父は槍を持った。父が一番得意な武器だ。
アイツは父に掴まれて家を出ると、近くの空き地に放り出された。
父から出る熱気と覇気でこれからすることはそれとなくわかる。決闘に近いなにかである。
空き地は松明の火で照らされているが、お世辞にも明るいとは言えない。人間の目では月が出ているとは言え、明らかに不利である。
私達狼族は獣化の恩恵で夜間視という眼を持っている。もともとの視力を底上げしつつ、目に入る光を増幅させることで日中とさほど変わらない風景を見ることができる。太陽が出ているうちに使うと目が焼けるので注意が必要。
剣を持ってウロウロしているアイツに対して、父は槍を構え、踏み込み、突き刺した。
私はアイツが死んだと思って目をそらしたが…アイツは父の一閃を躱し、父の胸板にカウンターとして剣の柄で殴ったのだ。
父はなにが可笑しいのか大笑いして、アイツと家に帰っていった。見ていた人は私だけじゃなかったらしく、次の日の観覧版に大きく〝闇夜の決闘。勝者は人間〟と書かれていた。
それからアイツは父と母に武術の稽古を叩き込まれた。父は仕事があって早朝と夕食前で、母は日中の暇な時間を全てアイツの稽古に当てていた。母曰く、久々に武芸ができてうれしくて少々本気になってしまったらしい。
そんな日が続いて奴隷契約を結んで1週間目の早朝。母は私にバンクカードをくれた。中を見ると100000ゼニー入っていた。
私は母の行動の意味を知っていた。狼族の伝統で〝100000ゼニーを150000ゼニーにして返しなさい〟である。
これが達成できたら一人前の狼族として認められる。私にもついにこの時が来たんだ。
けど私は母に言った。まだ早い、と。母はアイツを見ながら私に言った。飛龍の導きとともに、と。
言葉の意味はわからないけど、言いたいことはわかった。アイツと力を合わせ、達成せよ。それだけ。
善は急げ、無駄な時間はない。朝食を取らずに私はアイツと一緒にこの集落を出た。目指すはフェローネ。そして150000ゼニー。
第2話 ◇初めての迷宮探検◇
登録用紙を受付に持っていったエイラは、2つの腕輪を受付から貰って戻ってきた。
ついでに受付の人は男の人で、俺の字を見てなんども苦笑いをしたので顔は覚えた。いつか然るべき対応をとらせてもらおう。
エイラは上機嫌で腕輪を手首に装着すると、もうひとつの腕輪を俺の手首に装着した。
エイラは俺の腕輪をなにやら確認しているらしく、満足したのか雑貨屋を見て喋りだした。
「#$&&%#$&%$#?#$&&%&#$%&$#%&?」
『なんて?』
『あるじ。ばんくかあど。えいら。もつ。もたない』
『俺のバンクカードをエイラが預かるかどうか?俺はバンクカード持ってないぞ』
『うでわ。おもう。ばんくかあど』
龍が言った通りにバンクカードのことを考えながら腕輪に力を込めると、腕輪を着けている手にバンクカードが現れた。
『すごい』
『マジックアイテムってだけで俺はもう精一杯。とりあえずエイラと行動を共にするから預けてもいいよね』
『うん。ほん。よむ』
『図書館みたいな施設が無料であったらエイラに頼んで連れて行ってもらうか。龍もいろいろ知識を蓄えないといけないらしいし』
『うん』
とりあえずバンクカードをエイラに渡すと、俺のバンクカードを自分の腕輪に触れさせた。
触れた途端に音もなくスッと消えてびっくりしたけど。龍がバッグって言ったことを思い出して納得した。この腕輪はアイテム収納機能があるのね。異世界って便利。
エイラは俺の肩掛け袋を見て、それどうする?という顔でこっちを見てきたので両腕でバツのジェスチャーをした。
エイラは納得したのか上機嫌で雑貨屋に入っていった。
雑貨屋で回復薬を3つと、迷宮探検用武器としてエイラは刃渡り60cmくらいの刀を2本。俺は色々な意味で初心者なので木刀を買ってもらった。ちなみに買ったあとに受付の前を通ると、心なしかまた笑われた気がした。いつか名前も覚えるからな。
中央区で手続きを済まし、すこし休憩を取ると、エイラは買った双剣のグリップの握り心地を確かめたあとに俺の方を向いた。
「#&&%#$&%$&%」
『めいきゅう。いく』
『いよいよか』
俺は無言で頷くと、エイラは迷宮区に向けて走っていった。
ザシュ。グサッ。ポワァン。コトン。
エイラが斬って、刺して、モンスターが消滅して、魔石が落ちた音である。
エイラはモンスターを倒してにこっと笑うと、さらなる奥へ進んでいった。
迷宮区に行くとたくさんの神殿があり、階級に分かれて建っていた。初心者神殿。駆け出しや常連などである。俺とエイラは係員の指示で初心者神殿に入っていった。
神殿に入った途端にそこは洞窟になっていて、振り返れば係員と今まで見た景色がそこにはあった。
迷宮の中はなんの印象もなく、強いて言えば涼しい快適空間だということだけであった。
初めて迷宮に潜った俺とエイラは道なりに沿って進むと、奥でなにかが動いたのでその場で止まった。
エイラは双剣を構えると、小声で話しかけてきた。
「#%&&%#$&%$#&&#」
『みてくる。まってて』
『龍はさっきの見えた?』
『さっきの。うさぎ。よわい。かてそう』
『俺でもいける?』
『きば。しょうめん。だめ。よこ。かてる』
『了解』
俺は木刀を握り締めると、エイラの抑止を聞かずにモンスターへ走っていった。
結果はというと勝利である。
モンスターは龍の報告通りに兎型のすごく弱いモンスターだった。
倒し方も至ってシンプルで、突進してきた兎を避けて、木刀をジャンプした兎にタイミングを合わせてバッティングするだけだった。
木刀を縦運動でモンスターを倒すと思っていたエイラは拍子抜けたのか、俺が兎を打ったときに大爆笑をしていた。俺はなにも間違ってはいない。
それと兎を倒した時に兎肉というアイテムをドロップした。なんだろうと思って拾ったらそのまま腕輪に収納された。便利だけどゆっくり見たい時はどうするんだろうね。
1階層で兎狩りを楽しんでいると、エイラが空腹を訴えてきた。もちろん通訳は龍。
来た道を帰って迷宮を出ると、外はすっかり暗くなっていた。俺達は中央区に走って行って、魔石買取所に腕輪に収納された魔石をゼニーに変換してもらった。今日の収穫は兎肉がたくさんと、魔石を売ってふたりで1000ゼニー。
エイラがお金を受け取るとどっかに行ってしまったので、俺は近くにあったベンチに座ってこれからのことを考え始めた。
収入面では普通の労働者の日給がだいたい1000ゼニーで、支出は普通の宿で500ゼニー。1食はだいたい100ゼニーがいいとこである。
幸運にも数字だけは地球と同じである。だからといって値札がない商店ではぼったくられる場合があるが、バンクカードはエイラがもっているから大丈夫だろう。
エイラのバンクカードには今回の収入とそれまでの所持金。俺のバンクカードにはギルドからの祝金として1000ゼニー入っていた。
正直言うとこのままだと破産というか金がなくなるのは目に見えている。
討伐した兎の数は決して少なくないが1階層だからかモンスターを倒した時に出る魔石の質と量が少ない。兎肉を売ってもいいがさほど変わらないだろう。
『明日は2階層に手を出してみるか』
『てき。わからん』
『お金のためだ。2階層のモンスターが弱かったらどんどん奥に進もう』
『きおつけて』
『了解』
龍と話していると、エイラが食べ物を持ってやってきた。近くを見渡すと遠くに屋台をたくさん見つけた。
持ってきたのはいわゆるケバブで、パン生地の割りには肉がドッサリ入っていた。
エイラは俺の横に座ると両手を合わせたあとに食べ始めた。
この世界では食前に神に祈りを捧げる習慣があるらしいが、獣人のエイラにはそれがなく、いま手を合わせているのは単に俺がエイラの集落にお世話になっている時にしていた仕草を真似ているだけらしい。
これも龍が教えてくれたことのひとつだが、当時の龍は言葉のレパートリーがものすごく少なく、正直合っているかも怪しい。
ケバブの肉を爪で引き裂き、指の腹で肉団子を作って龍が棲む部屋にそっと置いた。
『なにこれ』
『ゲバブ。美味しいよ』
『…ほしにく。かち』
『カ○パスのほうが美味しいか』
『おなか。いらない』
『カ○パスがなくなったら言ってくれ』
『おやすみ』
龍の反応が消えたこと感知すると、俺はケバブをゆっくり食べるのであった。
ちなみに夜食を済ませたエイラはずっと俺のことを見ていた。不思議だね。
「$$&%#$」
『なんて?』
『………』
『寝てるか』
俺がケバブを食べ終えるとエイラはなにか言ったようだが、残念ながら龍が寝ていたので理解できなかった。
直感で顔を縦に振るとエイラはにこっと笑うと淡々と歩き出した。
着いた先はエイラの集落で、俺は〝金欠だから帰ってきた〟と自己解釈した。
とりあえず今日はここまで。
書きためがたまったらまた来ます
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