男「フィクションの喫茶店のマスターって絶対只者じゃないよな」(25)

とある小さな喫茶店の、とある昼下がり──



ワイワイ…… ガヤガヤ……

マスター「……」キュッキュッ…

女店員「このコーヒーカップは……」バタバタ…

客A「HAHAHA……」

客B「ほう……」

客C「……でさぁ」

客D「そりゃ面白い!」



カランカラン……

二人の来客があった。

男「ちわっす!」

友「こんにちは」

女店員「あら、いらっしゃい!」

マスター「やぁ」

男「二人とも、元気そうでなにより!」

女店員「ご注文は?」

男「ブレンド」

友「ボクはカフェオレで」

女店員「は~い」

男「お前ってホント好きな、コーヒー牛乳」

友「コーヒー牛乳じゃないよ。カ、フェ、オ、レ」

男「似たようなもんじゃねぇか」

友「全然ちがう」

女店員「お待ちどおさま!」コトッ

男「ども」

友「ありがとうございます」

男「……」グビッ

友「……」チビッ

男「いやぁ~、やっぱマスターの入れるコーヒーは絶品だわ!」

友「ホントだね!」

マスター「お世辞いったって、ツケにはしないよ」

男「うぐっ……!」

男「……まぁ、あれだ」

男「喫茶店を経営するってのも結構大変なんでしょ? マスター」

マスター「まぁね。商売敵も多いしね」

マスター「だけど好きで始めた商売だし、つらいと思ったことはないかな」

男「ふうん……」

女店員「マスターったら、今でもコーヒー豆の研究に余念がないのよ。スゴイでしょ」

友「熟練しても、決して仕事をおろそかにしないってのは立派だなぁ」

男「……」

男「ところでさ──」

男「ドラマだとか、映画だとか、小説だとか、漫画やアニメだとか……」

友「フィクション?」

男「そうそれ! フィクション!」

男「フィクションに登場する喫茶店のマスターって絶対只者じゃないよな」

友「そういわれてみれば、そうかもね」

友「実はものすごく強かったり、なにかワケありだったりするよね」

男「そうそう」

男「喫茶店のマスターは世を忍ぶ仮の姿……みたいなパターンが多いよな」

男「もしかして、マスターもそうなんじゃないの?」

マスター「そんなことはないよ」

マスター「オレはしがない、小喫茶店の店主さ」

男「ホントかな~?」

男「とかなんとかいって、実は凄腕のエージェントだったりして!」

マスター「コーヒーを入れる腕はともかく、そういう腕っぷしはからっきしだね」

マスター「人を殴るどころか、ケンカだってしたことないよ」

友「だったら……知らないことはない情報屋、だったりするんじゃないですか?」

友「札束を払うとどんなことでも教えてくれる、みたいな」

マスター「情報……?」

男「!」ビクッ

友「!」ドキッ

マスター「フフフ、情報か……そんなに知りたいかい?」

マスター「なら札束どころか、タダで教えてあげよう」

マスター「オレのコーヒー情報、コーヒー豆だけに豆知識をね!」

マスター「まず、オレが愛用してるコーヒー豆は南米の──」

男「わぁ~、ストップ! ストップ!」

友「ごめんなさい、ごめんなさい!」

マスター「なんだ……聞きたくないのかい」

女店員「危ないところだったわ……」

女店員「マスターのコーヒー談義が始まると、止まらなくなっちゃうもの」

マスター「これは失敬」

男「しっかし、なんで喫茶店のマスターってそういう役割にされがちなんだろうな」

友「さぁ……」

女店員「なんででしょうね?」

マスター「……」

マスター「う~ん……多分こういうことじゃないかな?」

マスター「喫茶店っていうのは、静かで落ち着ける場所ってイメージがあるから」

マスター「フィクションにおける、主人公たちの拠点にしやすい」

男「ふむふむ」

友「うんうん」

マスター「そうなると、なにしろ主人公の拠点を預かってる人物なんだから」

マスター「当人にもなにかしらドラマを持たせた方が、物語は面白くなる」

マスター「それに、自分でいうのもなんだけど」

マスター「喫茶店のマスターってのはどことなくミステリアスな雰囲気があるから」

マスター「そういったところも、『喫茶店のマスター=只者じゃない』ってイメージに」

マスター「つながってるんじゃないかな?」

男「なるほどねぇ~」

友「いわれてみれば、そうかもしれませんね」

男「俺の疑問にこんなに明快に答えてくれるなんて……」

男「やっぱり……マスターって只者じゃないんじゃないの?」

男「たとえば今話題になってるベストセラー小説……書いたのは実はマスターとか!」

マスター「残念だけど、小説なんか書いてるヒマはオレにはないよ」

男「う~ん、だけどマスターは絶対只者じゃないと思うんだけどなぁ……」

友「ボクもそう思う」

マスター「買いかぶりすぎだよ、ハハハ」

女店員「マスターは正真正銘、ただのコーヒー好きのおじさんよ」

男「おっと、時間だ」

男「そろそろ出ようぜ。マスターの正体を暴くのはまた今度だ」スクッ

友「オッケー」スクッ

女店員「ありがとうございました~!」

マスター「また来てくれよ」

男「もちろん!」

友「ごちそうさまでした!」

バタン……



マスター「……」

マスター(女店員ちゃんがいったとおり、オレには正体なんかなにもない)

マスター(只者じゃない、なんてことはまったくない)

マスター(コーヒー好きが高じて35歳で脱サラしただけの)

マスター(しがない喫茶店の店主にすぎない……)



マスター(だけど──)

外──

友「ええ~っと、今度の依頼はなんだっけ?」

男「おいおい、しっかりしてくれよ」

男「中高生をターゲットに荒稼ぎしてる、ドラッグ密売グループの撲滅だよ」

友「ごめんごめん。やりがいのない依頼のことは、つい忘れちゃうんだよね」

友「ボクもマスターの仕事ぶりを見習わないと」

友「さてと、武器はどうする?」

男「相手はせいぜいナイフや銃で武装してる50人かそこらだろ? いらねえだろ」

友「それもそうだね」

喫茶店──

客A「ワオ! そろそろホワイトハウスに戻らないと~!」

客B「自分も特殊部隊の任務に戻らねば……!」

客C「む……帰還命令か。火星に戻るとしよう」ピピピ…

客D「では大魔術師である我が、みなを目的地まで空間転移させてやろう!」バサァ…

客A「いつもいつも助かりマ~ス」

客A「マスター、ここに四人分のマネー置いておきマ~ス」スッ…

マスター「毎度!」

シュンッ!

四人の客はまとめてどこかに消えてしまった。

女店員「マスター、私も今日は地下格闘技の試合があるので、早退します!」

マスター「ああ、王座防衛、がんばってくれよ」

女店員「はい!」



マスター(──オレの店にやってくる人は、なぜかみんな只者じゃないんだよなぁ……)







END

面白かった!

乙乙乙

最後の一行が読めないのだが


いいオチ

只者じゃない客を引き寄せるという只者じゃない才能が……

乙!


いいオチだった

うむ

この設定は、なんかどっかでまた使えそうな気がする。
他メンツの話の時に、立ち寄る喫茶店として
おいしい!

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