とある小さな喫茶店の、とある昼下がり──
ワイワイ…… ガヤガヤ……
マスター「……」キュッキュッ…
女店員「このコーヒーカップは……」バタバタ…
客A「HAHAHA……」
客B「ほう……」
客C「……でさぁ」
客D「そりゃ面白い!」
カランカラン……
二人の来客があった。
男「ちわっす!」
友「こんにちは」
女店員「あら、いらっしゃい!」
マスター「やぁ」
男「二人とも、元気そうでなにより!」
女店員「ご注文は?」
男「ブレンド」
友「ボクはカフェオレで」
女店員「は~い」
男「お前ってホント好きな、コーヒー牛乳」
友「コーヒー牛乳じゃないよ。カ、フェ、オ、レ」
男「似たようなもんじゃねぇか」
友「全然ちがう」
女店員「お待ちどおさま!」コトッ
男「ども」
友「ありがとうございます」
男「……」グビッ
友「……」チビッ
男「いやぁ~、やっぱマスターの入れるコーヒーは絶品だわ!」
友「ホントだね!」
マスター「お世辞いったって、ツケにはしないよ」
男「うぐっ……!」
男「……まぁ、あれだ」
男「喫茶店を経営するってのも結構大変なんでしょ? マスター」
マスター「まぁね。商売敵も多いしね」
マスター「だけど好きで始めた商売だし、つらいと思ったことはないかな」
男「ふうん……」
女店員「マスターったら、今でもコーヒー豆の研究に余念がないのよ。スゴイでしょ」
友「熟練しても、決して仕事をおろそかにしないってのは立派だなぁ」
男「……」
男「ところでさ──」
男「ドラマだとか、映画だとか、小説だとか、漫画やアニメだとか……」
友「フィクション?」
男「そうそれ! フィクション!」
男「フィクションに登場する喫茶店のマスターって絶対只者じゃないよな」
友「そういわれてみれば、そうかもね」
友「実はものすごく強かったり、なにかワケありだったりするよね」
男「そうそう」
男「喫茶店のマスターは世を忍ぶ仮の姿……みたいなパターンが多いよな」
男「もしかして、マスターもそうなんじゃないの?」
マスター「そんなことはないよ」
マスター「オレはしがない、小喫茶店の店主さ」
男「ホントかな~?」
男「とかなんとかいって、実は凄腕のエージェントだったりして!」
マスター「コーヒーを入れる腕はともかく、そういう腕っぷしはからっきしだね」
マスター「人を殴るどころか、ケンカだってしたことないよ」
友「だったら……知らないことはない情報屋、だったりするんじゃないですか?」
友「札束を払うとどんなことでも教えてくれる、みたいな」
マスター「情報……?」
男「!」ビクッ
友「!」ドキッ
マスター「フフフ、情報か……そんなに知りたいかい?」
マスター「なら札束どころか、タダで教えてあげよう」
マスター「オレのコーヒー情報、コーヒー豆だけに豆知識をね!」
マスター「まず、オレが愛用してるコーヒー豆は南米の──」
男「わぁ~、ストップ! ストップ!」
友「ごめんなさい、ごめんなさい!」
マスター「なんだ……聞きたくないのかい」
女店員「危ないところだったわ……」
女店員「マスターのコーヒー談義が始まると、止まらなくなっちゃうもの」
マスター「これは失敬」
男「しっかし、なんで喫茶店のマスターってそういう役割にされがちなんだろうな」
友「さぁ……」
女店員「なんででしょうね?」
マスター「……」
マスター「う~ん……多分こういうことじゃないかな?」
マスター「喫茶店っていうのは、静かで落ち着ける場所ってイメージがあるから」
マスター「フィクションにおける、主人公たちの拠点にしやすい」
男「ふむふむ」
友「うんうん」
マスター「そうなると、なにしろ主人公の拠点を預かってる人物なんだから」
マスター「当人にもなにかしらドラマを持たせた方が、物語は面白くなる」
マスター「それに、自分でいうのもなんだけど」
マスター「喫茶店のマスターってのはどことなくミステリアスな雰囲気があるから」
マスター「そういったところも、『喫茶店のマスター=只者じゃない』ってイメージに」
マスター「つながってるんじゃないかな?」
男「なるほどねぇ~」
友「いわれてみれば、そうかもしれませんね」
男「俺の疑問にこんなに明快に答えてくれるなんて……」
男「やっぱり……マスターって只者じゃないんじゃないの?」
男「たとえば今話題になってるベストセラー小説……書いたのは実はマスターとか!」
マスター「残念だけど、小説なんか書いてるヒマはオレにはないよ」
男「う~ん、だけどマスターは絶対只者じゃないと思うんだけどなぁ……」
友「ボクもそう思う」
マスター「買いかぶりすぎだよ、ハハハ」
女店員「マスターは正真正銘、ただのコーヒー好きのおじさんよ」
男「おっと、時間だ」
男「そろそろ出ようぜ。マスターの正体を暴くのはまた今度だ」スクッ
友「オッケー」スクッ
女店員「ありがとうございました~!」
マスター「また来てくれよ」
男「もちろん!」
友「ごちそうさまでした!」
バタン……
マスター「……」
マスター(女店員ちゃんがいったとおり、オレには正体なんかなにもない)
マスター(只者じゃない、なんてことはまったくない)
マスター(コーヒー好きが高じて35歳で脱サラしただけの)
マスター(しがない喫茶店の店主にすぎない……)
マスター(だけど──)
外──
友「ええ~っと、今度の依頼はなんだっけ?」
男「おいおい、しっかりしてくれよ」
男「中高生をターゲットに荒稼ぎしてる、ドラッグ密売グループの撲滅だよ」
友「ごめんごめん。やりがいのない依頼のことは、つい忘れちゃうんだよね」
友「ボクもマスターの仕事ぶりを見習わないと」
友「さてと、武器はどうする?」
男「相手はせいぜいナイフや銃で武装してる50人かそこらだろ? いらねえだろ」
友「それもそうだね」
喫茶店──
客A「ワオ! そろそろホワイトハウスに戻らないと~!」
客B「自分も特殊部隊の任務に戻らねば……!」
客C「む……帰還命令か。火星に戻るとしよう」ピピピ…
客D「では大魔術師である我が、みなを目的地まで空間転移させてやろう!」バサァ…
客A「いつもいつも助かりマ~ス」
客A「マスター、ここに四人分のマネー置いておきマ~ス」スッ…
マスター「毎度!」
シュンッ!
四人の客はまとめてどこかに消えてしまった。
女店員「マスター、私も今日は地下格闘技の試合があるので、早退します!」
マスター「ああ、王座防衛、がんばってくれよ」
女店員「はい!」
マスター(──オレの店にやってくる人は、なぜかみんな只者じゃないんだよなぁ……)
END
面白かった!
乙乙乙
最後の一行が読めないのだが
乙
いいオチ
只者じゃない客を引き寄せるという只者じゃない才能が……
乙!
乙
いいオチだった
うむ
この設定は、なんかどっかでまた使えそうな気がする。
他メンツの話の時に、立ち寄る喫茶店として
おいしい!
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