生真面目勇者とふわふわけんじゃ (63)
【優しさ】
けんじゃ「えーと、えーと、ういんどくろすー!」
ハーピー「きゃん!」コテーン
勇者「先々の先を打ち据える……鞘打!」
ハーピー「ぷぎ! 何よ、鼻ぶたなくなっていいじゃない……」鼻ツーン
ハーピー「女には優しくしなさいよね、まったく!」
ハーピーをたおした!
…………
勇者「ねえ、賢者」
けんじゃ「んー?」
勇者「優しいって、なんだろう」
けんじゃ「……そっ」
賢者は小さい手で僕に触れた。
勇者「いや、それはそうなんだけど……」
けんじゃ「さわさわ」
勇者「はは、はははは……! ちょ、くすぐったいよ!」
けんじゃ「わらったー」
笑わされてしまった。
なるほど、そんな事かも。
勇者「……」
けんじゃ「えへへー」
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【思想】
勇者「ねえ、賢者」
けんじゃ「なぁに、ゆーしゃ?」
勇者「思想の違いって、どうにもならないのかな」
けんじゃ「考えてることはね」
勇者「うん」
けんじゃ「わからないんだよ」
勇者「え? う、うん」
けんじゃ「しゃべらないとね」
勇者「うん……」
けんじゃ「うまくいくよ」
勇者「そっ……」
そうだろうか。
勇者「だけ……」
だけど結局、気持ちが伝わらない事で軋轢を生むんじゃ。
勇者「…………」
けんじゃ「…………」ニコニコ
【おべんとう】
勇者「いただきます」
けんじゃ「いただきまぁす」
むぐむぐむぐ……
勇者「このお弁当、おいしいね」
けんじゃ「あら、ほんとう?」
勇者「これ。食べてみて」
けんじゃ「もむもむもむ……」
けんじゃ「もむ……」
けんじゃ「……んふ♪」
勇者「ね?」
けんじゃ「ゆーしゃ、これたべて」
勇者「何だろこれ、むしゃむしゃ」
勇者「あ、美味しい……ごくん」
ボコッ……
?「キシシシシ……」
けんじゃ「けふ。……んぐ、ぐほぉ」
ボコボコッ……
勇者「あ、お茶取るね」
バッ!
おおむかで「シャアアアアアー!!」
おおむかで があらわれた!
けんじゃ「ついん・りんくぼると」
バリリリリリ!!
おおむかで「ギィイイイ!?」
勇者「口がもたらす業ならば、疾く救われよ夢幻のくつわ! 顎砕!」ゴキッ
おおむかで「ピギイイイイイ」
ボコッ、ボココッ……
おおむかで をたおした!
勇者「はい、お茶」
けんじゃ「んく、んく、んく……」
おつ
期待
【涙】
勇者「そ、そんな……」
「パパー!!ママー!!」
「村が……村が……」
「ははは、ははははは……娘の居ない世界なんて……」
王国から襲撃の報せを受けて急行した村では、すべてが終わっていた。
家屋は宗教画のように燃えていて、黒い煙から目を逸らせば足元には血袋が散乱している。
目を閉じれば嗚咽が耳で踊り、両耳を塞げば鉄と肉の臭いが鼻をつく。
そのどれも、勇者である僕には許されない。
兵士「が、はっ……」
けんじゃ「……ひーる。だいじょうぶ?」
兵士「うう……勇者様……賢者様……村を守れず、申し訳っ、ううっ……」
勇者「完治はしてないんだ、休んでいて」
兵士「すいません……」
…………
勇者「処置は?」
けんじゃ「おわったよ」
勇者「うん。こっちも、あらかた避難させた……」
兵士「勇者様、何か手伝う事は」
勇者「被害を、まとめてもらっても良いかな……」
兵士「はい……」
勇者「あぁ……」
けんじゃ「ゆーしゃ」
勇者「…………」
けんじゃ「ねえ、ゆーしゃ」
子供「ぐずっ、ママとはぐれちゃったよぉ……」
けんじゃ「いないの?」
子供「ううっ、うう」
勇者「僕が、間に合わなかったせいだ……」
けんじゃ「こら、ゆーしゃ。……あっ、いっちゃった」
勇者「涙が、止まらないんだ……僕は、勇者なのに、悲しくて……」ポロポロ
けんじゃ「なみだ……」
けんじゃ「るいっ!」ペシッ
勇者「あう。……?」
けんじゃ「るいっ!」ペシッ
賢者は、2本の指で僕の頭をペチペチした。なんか笑っている。
けんじゃ「るいっ!」ペシッ
勇者「る、るいって、涙のこと? あうっ」
賢者は僕の手を取る。2本の指を開かせ、彼女自身の頭に乗せた。
勇者「え、僕もやるの?」
けんじゃ「」コクコク
勇者「る、るいっ」ペシッ
けんじゃ「るいっ!」ペシッ
子供「……」ジー
勇者「や、やる?」
子供「」コクコク
…………
勇者「るいっ!」
子供「るいっ!」
けんじゃ「るいっ!」
ペシペシペシペシ……
勇者「ははは……」
子供「るいっ!」
…………
勇者「あれ、賢者は?」
子供「るーいっ!」
勇者「あ痛っ。ごめんごめん、るいっ!」
勇者「……ありがと、賢者」
【魔法の修行】
勇者「魔法って、どういう原理なの?」
けんじゃ「しぜんにおねがいするの」
勇者「じゃあ、賢者は自然とお話ができるの……?」
けんじゃ「むりにきまってるよ」
勇者「じゃあ、どうやって」
けんじゃ「えーとね」
けんじゃ「にゃむにゃむ……」
けんじゃ「ファイヤー」ボワー
勇者「にゃむにゃむって何なの!!」
【争い】
勇者「ねえ、賢者」
けんじゃ「なにー」
勇者「どうして、争いはなくならないのかな」
けんじゃ「いきものだからだよ」
勇者「……まあ、そうだけど」
けんじゃ「そうだよ」
勇者「死ぬのは嫌だもんなぁ……」
けんじゃ「いきると、しぬよ」
勇者「え?」
けんじゃ「ゆーしゃは、いきるのがいや?」
勇者「えっ、え、いいや」
けんじゃ「いきようね」
勇者「うん……」
勇者(なんか、質問自体ははぐらかされた気がする)
勇者(でもまあ、死ぬまでの命なら争う事もしょうがないかな……とは思えるようになったかも)
乙!
シンプルだけど含蓄のある御言葉
ふわふわしてても賢者なんだなー
【ハーモニー】
けんじゃ「~♪」
賢者が鼻歌を歌っている。
けんじゃ「~♪」
勇者「ル~」
僕も合わせてハミングしながら町を闊歩する。
店主「こ~ちら、のパンはカリカリ♪ とな~りのパンはモチモチ♪ さぁ如何で~すか!」
あれ?
時計塔「リンゴンゴン、リンゴンゴン、パラパラパラパッパ、プッパー♪」
なんかうつっている。
勇者「賢者、魔法使った……?」
けんじゃ「~♪」
勇者「……ル~」
馬車「パカラッ、パカラッ、パッパ、パカラッ、パカラッ、パッパ」
馬車「コツコツコツコツコツ、トントン」
御者「さあ着きましたよお客様」
商店「寄ってらっしゃい見てらっしゃい!」
芸人「今から踊るはこのナイフ! さあさ皆さん拍手をちょうだい!」
芸人「はっほっは!はっほっは!」
観衆「ハイッ!ハイッ!ハイッ!ハイッ!」
ついに、鼻歌から始まったテンポは時計塔を通して広がり、芸人の手元でクルクル回る。
観衆「パン!パン!パン!パン!」
観衆「すげぇ!」
観衆「なにあれ!」
観衆「観に行こう!」
芸人「ナイフが増える!ナイフが増える! おおおぉぉ~~……」
芸人「はいっ!!」
観衆「ワァァァァァ!!」
勇者「おおっ……すごい!」
けんじゃ「~~♪」
勇者「あっ、置いてかないでよ」
勇者「見てなかったの? せっかく賢者から始まったのに……」
けんじゃ「??」
【住処】
町外れを荒らし始めたサンドワームの住処に僕たちは来ていた。
まだ被害は出ていないようだが、確かに乾いた土は荒れ、穴だらけになっている。
勇者「サンドワーム。出てこい」
……
ボコッ!
サンドワーム「…………」
サンドワームがあらわれた!
勇者「ここの一帯は人間の住処だ。返してもらう」
サンドワーム「…………」
バキッ!
勇者「うぐっ……尾か」
けんじゃ「ゆーしゃ。ひーる」
勇者「ありがとう。五臓六腑の環を掃う……雨にも跪け! 壊腑雨掃!」
グシャッ……!
サンドワーム「が、きえぇ……っ!」
剣の鞘をワームの体躯にぶつけ、その内部にダメージを与えた。一瞬くの字に折れたそれは、強くのたうち激しい叫びを上げる。
サンドワーム「ぐ、ほ……」
勇者「お願い……斬らせないで」
サンドワーム「ふざ、けるな」
サンドワーム「我らから、住処を奪っていったのは、お前たちだ」
サンドワーム「げほっ、お前たちだ……!」
サンドワーム「お前たちだ、人間だ!!」
サンドワーム「土には石をかぶせ、草花にはいたずらに根を張らせた! 沼に頭を出せば石を投げ、我らの道は街道と称して踏み固める!!」
勇者「それは……」
サンドワーム「返せ!! 此処を返せというなら、お前たちが我らから奪っていったものを、同胞の命を、返せ!!」
けんじゃ「えいしょう……かいし」
けんじゃ「だいちは」
けんじゃ「だれのものでもなく」
けんじゃ「もとより、せいをさずかるすべて」
けんじゃ「ゆうだいなる、だいちのひざもと……」
サンドワーム「……!」
勇者「っ……」
けんじゃ「おのがちいささをしれ、あーすぷろてゅーど!!」
ボコッ、ボココココッ……!
勇者「今のは詠唱文か! 逃げろっ」
サンドワーム「!? !!!?」
ボコァァァァッ!!!
サンドワーム「ぎょえええええええ!!?」
賢者の魔法で隆起した大岩山がサンドワームを跳ね飛ばし、堂々とそびえ立った。
これが大地の規模だと言うなら、僕たちの起こす諍いはあまりにも小さい。
詠唱文ままとはいえ、賢者の言葉には刺さるものがある。
ズゥン……!
サンドワーム「お、覚えて、いろ……」
モコモコ……
サンドワームをたおした!
…………
村人「おお、勇者さま! あの憎きワーム共は!?」
勇者「帰っていったよ、もう人を襲う事もないと思う。けど」
賢者「けど、あそこはもうつかえないよ」
村人「使えない、とは……? 既に、荒らされ尽くしてしまったと?」
勇者「……土に潜るワームを追い返すには、地形に干渉する必要があったんだ」
村人「では何故、殺さずに済ませようとしたのだ! そもそも、駆除するように依頼をした筈だ!」
勇者「…………」
村人「勇者さま!! どういうことですか!!」
勇者「見ていただければ、分かると思います……失礼しました」
コラー!逃げるのかー!!クソ勇者ー!!!……
勇者「傲慢だ……僕も、皆も」
けんじゃ「…………」
けんじゃ「ごめんなさい」ペコリ
勇者「ううん、良いんだ。気付かされたのは、僕の方だし」
勇者「あのかたちで良かったと思うよ。少なくとも、あの土地でぶつかり合いが起きる事はもう無いだろうから」
けんじゃ「ね、ね、ゆーしゃ」
けんじゃ「じつは。あのいわやま、やわらかいんだよ」
勇者「へ? つまり、ワームも暮らせるってこと?」
けんじゃ「なかみは、つち」
勇者「なるほど……じゃあ、助けたんだね」
けんじゃ「きづけば、だけど」
賢者は、あくまで自然の立場で手を貸した。
その恩恵に預かって生きる僕ら、その生存競争。あのワームたちも粘り強く諦めない気持ちがあれば、自分の住処を勝ち取る事が出来るかもしれない。
乙!
【剣の修行】
勇者「えいっ、たっ」ブンブン
けんじゃ「ん~……」
勇者「先々の先に先駆ける……鞘打!」
けんじゃ「ねむねむ……」ウトウト
勇者「口がもたらす業ならば、疾く救われよ夢幻のくつわ! 顎砕!」
けんじゃ「すぴー、すぴー」
勇者「人の形成す浮世の悪魔……魂を縛るは哀れ、己自身! 魂縛閃!」
けんじゃ「!」パチン
けんじゃ「ふわわ……」
勇者「眠いの?」
けんじゃ「うん……」
勇者「寝てくれば?」
けんじゃ「うーん」
勇者「…………」
勇者「分かったよ、おいで」
けんじゃ「おんぶ……♪」
勇者(揺らさないように……)
僕が修行をする中で身体をどう鍛錬していたかといえば、買い出し等の雑務やこうやって賢者を運んでいた事が思い浮かぶ。
おかげで、あまり剣技を振るわない勇者となってしまった。鞘を打ち据える技の方が多い。
おかみ「おお、勇者……あら、お邪魔だったかい」
勇者「すいません、お邪魔します……」
世では殺さずの勇者などと呼ばれているが……。
勇者「ほら、宿屋ついたよ」
けんじゃ「すぅ……すぅ……♪」
なんとも幸せそうである。
この寝顔が僕を育ててくれたなら、起こさずの勇者とでも名乗った方が良いかもしれない。
乙!
【風】
けんじゃ「…………」
けんじゃ「ういんど」
勇者「およ?」
突如、賢者は風の魔法を唱えた。街角を気流が駆ける。
勇者「どうしたの?」
けんじゃ「かぜが、ほしいの」
確かに、この町の構造は風が抜けにくいようになっている。けれど彼女の事だし、そういう意味でもなさそうだ。
けんじゃ「ここには、るてんや、じゅんかんでは さらない、よどみがある」
言うとおり、今のこの国にはどことないおかしさ、歪なものを感じなくもない。
けんじゃ「かぜは、いつかふく。それは、おおきくなる。でもちいさなかぜは、だれかがおこさないといけない」
パサッ……
市民「おや、これは」
富豪「あっ、帽子……」
市民「落としたよ」
富豪「……もう汚いから、いいわ」
市民「ダメだよ、ちゃんと落ちるんだから。こういう刺繍は……ほら、こうやって布の端で」
賢者の言葉が、吹き溜まりの葉を散らすようだ。僕は、誰かの心に新たな風を送る事が出来ているだろうか?
富豪「良かったの? あなたのシャツ……」
市民「もう汚いから、いいのさ」
けんじゃ「こころのよどみに、はためき」ニコニコ
勇者「はためき? ……」
僕の掲げる旗がしおれないのは、彼女のお陰かもしれない。
【愛】
勇者「ねえ、賢者」
けんじゃ「んー?」
勇者「愛って……なんなんだろうね」
さぞ、素敵で美しいもののように例えられるが、僕にはよくわからない。
けんじゃ「とおいくにのことばでね」
勇者「うん」
けんじゃ「I.じぶんのことだよ」
勇者「え……自分が、愛?」
けんじゃ「このくにのことばではね」
勇者「う、うん」
けんじゃ「まごころのことだよ」
勇者「それは、良く聞く言いまわしだけど……」
けんじゃ「つまり、ひとそれぞれ」
勇者「ま、まあね。そっか……」
けんじゃ「あれば、いいんだよ」
在れば、良い。
それだけのことであり、それだから良いのかもしれない。
勇者「うーん……」
けんじゃ「~♥」ギュッ
勇者「?」
可愛い
【お似合い】
今日は特に任務もなく、行軍も行われない日だったのだが、何故だかお城にお呼ばれする事になった。
王様からは、もし時間があるなら話があるから来て欲しいとの事。
このような呼ばれ方をするのは初めてだったので、平素の格好で向かって良いのか迷った。
兵士「ああ、勇者様と賢者様。お通しいたします」
けっきょく、いつも通りの鎧と法衣を着ていった僕らは玉座の前に通される。王様が軽く手を翻すと、その場にいた兵と文官は広間をあとにした。
王「よく来てくれたな。おお、おお、ふたりとも面をあげてくれ。話し辛くてかなわん」
勇者「本日はどのようなご用命でしょうか、王様」
王「まったく、お前は……肩のこる事よ。鎧なんか着てこなくて良いというに……」
顔を上げてなお、僕がかしこまると王様は呆れたように頭を掻く。
王「今日はワシからひとつ提案させて貰いたい事があってな」
王「ときに。そなたが勇者として剣を振るい始めてから、失われたこの国の領土の9割が戻りつつある」
勇者「はい」
今や、魔物の住む領域の方が珍しくなりつつある。
王「この国、唯一の王として、礼を言う」
勇者「そんな。まだ未熟だった僕らが今までどうにかやってこれたのは、王様をはじめとして沢山の人のお力添えがあったからです」
王「ほっほ……」
王「まあ、そんなことはどうでも良い」
勇者「ど……」
どうでも良いのか……。
王「この世界が平和になったら、この城で盛大な式を挙げさせてくれないかと思ってな。無論、そなた等が主役だ」
勇者「!」
けんじゃ「!」
勇者「とても嬉しい、嬉しいのですが、その、未だ貧しい地域もある一方で、僕たちの為に汗水を流してもらう訳には……」
王「ほっほっほ、気にするでない。この国の救世主が夫婦となったとなれば、復興に勢いもつくだろう」
勇者「……」
……
へ?
めおと?
王「ふふ、ワシからそなた等の仲に口を出そうとは思わぬが……この城の中でも、仲睦まじいお似合いのふたりだと声が収まらなくてな」
勇者「し、式って結婚式ですか!?」
けんじゃ「けっこん……」
王「そうだ。もちろん、この国の再興を願う普通の式典でも構わないが……いずれにせよ、ワシはそなた等を祝いたい。かつてなく盛大にな」
勇者「ど、ど、どうしよう賢者……というか、どうしよう……」
けんじゃ「けっこん……けっこん……」
王「まあ、その、なんだ。平和になった暁には、という事で……魔物への反撃も大詰め、どうかこれからも最後まで力を貸して貰いたい」
…………
王「うむ、たぶん聞いてないな……」
城をあとにした後も、僕はトマトのように頬が染まるのを止められなかった。
勇者(賢者と、結婚式……ダメだよ、まずはお互いの気持ちを確かめて、いやその前に賢者は僕をどう思ってるんだろう、いやいやその前にまずは勇者として平和を……)
勇者「…………」
けんじゃ「あれ、たべよう?」
勇者「あの屋台は、アイスクリーム? 異国の食べ物かな……」
勇者(なんか既に平和だな……)
仮に結婚したとして、賢者との過ごし方は変わらないだろう。
王様GJ
【怒り】
勇者「…………」
悪魔「おお、おお。こええこええ」
魔物たちが現れて、一番最初に滅ぼされた村。その跡地では、血と肉の中で黒い悪魔が笑っていた。
よく見ると、骸の中には人骨でないものも混じっており、この辺一帯の生き物はすべて殺されてしまったのだと直感する。
勇者「ここを、どいてもらう」
悪魔「そうイキるなって。お前みたいなピュアな奴には良いことを教えてやるよ」
悪魔「ここにある肉なぁ、美味しく食べるコツがあるのよ。何だと思う?」
勇者「」シャキン
抜いた。耳を貸す必要はない。
コツコツと歩き、間合いまであと10歩。
悪魔「いっぱいなあ、叫ばせるのよ! 生き物って不思議なもんで、いっぱい悲鳴を上げた奴ほど肉がクッチャクッチャ、柔らかくなってなぁ……」
悪魔「すぐに殺しちゃいけねえのよ。なあ、お前はどう思う?」
勇者「僕が、どう思うかって?」
勇者「怒りで……肉が弾けそうだ!!」ダッ
勇者「人の形成す浮世の悪魔……魂を縛るは哀れ、己自身! 魂縛閃!」
破邪の力を込め、鞘を払う。
勇者「……!?」
悪魔「クククッ……」
しかし、何やら足が動かない……ガクンと崩れたと同時に、人型は笑う。
けんじゃ「ゆーしゃ!」
悪魔「魂を縛るは己自身……ハハハ、あたりめーだ。しょせんは、テメエらも悪魔って事さ」
勇者「封陣か、このっ……!」
悪魔「おっとそういえば、そこはすぐ爆発んだっけなぁ……さあ、悲鳴を聞かせてくれよ、あああああいいなあああ!!」
けんじゃ「わたしが、とく!」ビビビ…
勇者「賢者! ダメだよ、離れて!!」
悪魔「ハハハハハハ、とーけーねーえーよおおおおお!! バアアアアカ!!」
ジジジッ……
けんじゃ「まにあわない、なら……!」
勇者「賢者、逃げてっ!!」
…………
勇者「ぐ……」
身体が、酷く痛い。痛いということは、まだ無事だ。
賢者は……
けんじゃ「ゆー、しゃ……?」
ああ、無事だ。
ただ、ボーッと僕を見てつっ立っていた。
何かブツブツ、呟いている。
けんじゃ「えくす・ひーる」
勇者「っ。ありがとう、賢者」
けんじゃ「ゆるさない……」
治癒してもらい、ようやく立ち上がる僕。だが、危険な予感がした。
そばにいる悪魔より、ただ無表情の賢者がおぞましい殺気を放っている。
悪魔「お? 術戦か? 良いぜ、受けてやるよ」
けんじゃ「ゆるさない……ゆるさない」
悪魔「死ねよ! フレイムレイン!」
賢者「絶対、許さない」
賢者「メテオレイン」
悪魔「は!? 何それ、詠唱ナシでそれ……?」
悪魔「ちっ、フィジカルガード!」
賢者「アースクラック」
賢者「サンダーストーム」
賢者「ファイアボール・プラスプラス」
悪魔「は、はああ!? ふざけんな、ミストラルカーテン!」
あんなの、見たことない。
あんな魔法も、あんな賢者も……。
勇者「け、賢者……」
賢者「ホーリークロス」
賢者「ザ・アイスフォール」
賢者「エアプレッシャー」
悪魔「や、やば……割れる……!!」
賢者「ボルケーノ」
賢者「サテライトシューター」
悪魔「テ、テレポー……」
賢者「EXサイレンス」
悪魔「~!? っ! っ!」
賢者「ジェーン・ランダマイザ」
賢者「ネガティヴ・ディメンジョン」
賢者「セブンス・テンペスト」
悪魔「ぃぁ、~~~~~~!!?」
肉塊「~……」
賢者「聖別せよ生別せよ性別せよ世別せよ精別せよ……!」
勇者「ひっ」
酷い……。
賢者「ジャッジメント!!」カッ
……
…………
………………
賢者「…………」
光が収まると、大まかな地形以外は原型を留めていなかった。
戦乙女の如し後ろ姿が、僕に振り返る。
けんじゃ「えへへ……」
いつもの幼い賢者は、粗相をした子供のように舌を出すのだった。
勇者「怖かった」
けんじゃ「…………」
勇者「でも、ありがとう。賢者」
けんじゃ「ひとはね」
けんじゃ「たいせつだったり、すきなものがあるの」
けんじゃ「だから……おこっちゃった」
勇者「賢者……」
けんじゃ「ぶじで、よかった」ギュッ
勇者「うん……」
けんじゃ「でも、ゆーしゃはすごいね」
勇者「え?」
けんじゃ「ゆーしゃは、いきものみんな のためにおこったんだよね?」
そうだ。確か僕は、それで飛び込んでいってしまったのだ。
勇者「ごめん。つい」
けんじゃ「ううん。いいよ」
けんじゃ「ゆーしゃのそういうところ、すき」
勇者「えっ」
けんじゃ「うーん、つかれたー」
そうか。きっと、生きているものが好きだから、僕もあそこまで怒ったんだ。
そうか……。
勇者「ぼ、僕はね。もし賢者が傷付けられたら、一番怒るよ」
けんじゃ「?」
勇者「う……何でもない! 先に休んでて良いよ、報告行ってくる!」タッタッタ
だ、だめだ。言うなら、ちゃんと言おう……。
けんじゃ「いちばん、おこる?」
けんじゃ「うーん」
けんじゃ「!」
勇者「お待たせ。どうしたの?」
けんじゃ「えへへー」ギュッ
乙!
【魔王】
ギイイ……
重い鉄の扉を押す。玉座には、豪奢な甲冑に身を包んだ美男子がいた。
魔王「何用だ」
勇者「勇者としての務めを果たしに」
魔王「良かろう。部下は全員、既に安全な場所へ退避している」
魔王は重い腰を上げた。甲冑がガシャリとなり、僕たちを威圧する。
魔王「私も覚悟は出来ている。今日の成り行き如何では、民の為に首を晒すことにもなるだろう」
勇者「魔王と言えど、立派な王様なんだね」
魔王「ふふ、人の身にもそう映るか……?」
威圧感は保ったまま、しかし嬉しそうに笑みを見せる魔王。
魔王「では、問おう。勇者としての務めと言ったが、勇者とは何だ?」
魔王は問う。
僕は、良くも悪くも生真面目な人間だ。そんな僕なりに、この旅に答えを出そう。
けんじゃ「ゆうのもの……」
勇者「勇って、なんだろう……勇ましさ……」
違う。勇ましさそのものは、何も救わない。
けんじゃ「まおとこ……」
勇者「へ? まおとこ? ああ、マ男?」
けんじゃ「うん」
勇者「いや、間男はちょっと……確かに勇気のいる事だけどさぁ」
けんじゃ「ゆーしゃっぽくない」
勇者「ごめんなさい、分からないです。たぶん、只の大義なんだと思います」
魔王「大した事ではないと?」
勇者「はい」
乙!
魔王「報告によると、お前たちは無為に同胞を殺さなかったと共に……時に。人間も戒めていたという」
魔王「並大抵の事では無かったろう?」
勇者「……ままならなかったし、悔いる事も多かった。正直、僕がやった事じゃないよ。賢者がいたから収まったんだ」
魔王「大した間男だ」
僕がひとしきり喋った後、魔王はそんな事を言い、緊張を解いてくれた。
魔王「人と魔物、その間で不和の責を取らんと顔をしかめる男。まさしく間男のようだ、ははは」
勇者「う、うん」
あまり嬉しくない……。
魔王「では、次だ。お前たちは、私を悪と思うか?」
勇者「うーん……今話してみた感じだと、別に」
あまり迷う事もない。魔王が期待する答えも何となく分かるけど、それ以前に僕の本心だ。
魔王「では、善人だと?」
勇者「善人ってのは別だよ。勇者として動くようになって分かったんだけど、善悪って見る人の立場で変わるし」
魔王「……」
勇者「善悪というより、良い悪いってくらいかな。立場に関わらずやっちゃいけない事は良くないかな。嬲る事、弄ぶ事とか」
魔王「私の手は、血に染まっているぞ」
勇者「そんなの僕もだよ。肉だって美味しく食べるし、危ない時は剣を抜く。生きてるんだもの、仕方ないさ」
勇者「とりあえず、僕はそんなに悪い人じゃないと思ったな」
魔王「ふむ……」
今にして思えば、賢者は一言も喋っていない。僕もそれなりに思うところはあるし、賢者にばかり任せるのも良くないし。
魔王は、とりあえず納得したようにうなづいた。
乙!
魔王「では、最後の質問だ」
魔王「平和とは、何だ?」
勇者「平和……」
皆が望むもの。
形のないもの。
僕が目指すもの。
魔王「これは、私自身の自問でもある」
勇者「…………」
魔王「お前たちは私に辿り着くまでに、何を見てきたのだ?」
その声は細く、悲壮だ。僕を試すようでもあり、縋るようでもあった。
けんじゃ「まおうさま」
魔王「ぬ?」
けんじゃ「このへんで、ひろくてたいらなところはありますか」
勇者「賢者?」
今度は賢者が前に出る。彼女は、平和の何たるかを知っているのだろうか。
魔王「良かろう。何を見せてくれるか知らないが、とっておきの場所がある」
魔王「着いてきてくれ」
魔王は僕たちを階段の方に案内する。罠かもしれないが、今さら仕方ないか。
魔王「部下にもこの場所には絶対立ち入らないよう言ってある。とっておきの場所だ……」
魔王は厳重な封印らしきものを解き、重々しい扉を開く。
特に何事もなく、僕たちは屋上に招かれた。
勇者「ここは……」
床に、巨大で複雑な魔法陣が描かれている。
魔王「この魔法陣は気にしなくていい。ちょっと、発動すれば火の魔素が世界に降り注ぐくらいだ」
勇者「それって」
魔王「案ずるな。発動させるにも、集中を保って5分程魔力を送らねばならぬ。何より、平和の話をするのに野暮であろう」
魔王「では、話を伺おうではないか」
乙!
けんじゃ「うん」
言うが早いか、賢者は腰をぺたんと下ろしてしまった。
けんじゃ「おちゃ、ある?」
勇者「う、うん」
けんじゃ「すわって、すわって」ニコニコ
まるでピクニックでもするように平座りを促す。座ってみれば見晴らしも良く、程よい風も吹く良い場所だった。
種族が違えど、全員同じように体育座りをするのが、なんだか微笑ましい。
勇者「はい、お茶」
けんじゃ「ふぁいやー」ボワー
魔王「茶は温めるのが普通なのか?」
勇者「僕たちはそうやって飲むね」
魔法で水筒を温める。仰々しい城の屋上でも、見知った光景のように錯覚しそうだ。
けんじゃ「んー」トクトクトク
持ち歩いているコップに、湯気の立ち上る緑茶が注がれていく。
けんじゃ「どうぞー」
勇者「ありがとう」
魔王「うむ……」
けんじゃ「あつつ……」
勇者「こく、こく」
魔王「……。ぐいっ」
一刻あと、気持ちの良いため息が、三者から漏れた。
魔王「渋いな。冷たければ飲みにくいだろうが……温めると、これも悪くない」
勇者「うん」
勇者「緑茶は初めて?」
魔王「緑茶というのか。茶と言えば、冷たい紅茶しか飲まなかったからな」
勇者「へぇ……んく、んく。足伸ばしても良い?」
魔王「ああ、構わんぞ」
けんじゃ「のびー」
そんなに量を注いだわけでもないので、すぐに器が空いた。
僕も賢者と同じように大の字になる。
魔王もおずおずと続き、がしゃんと甲冑を横たえた。
お腹がまだ温かい。
けんじゃ「たいらかな、なごみ」
けんじゃ「それが、へいわ」
勇者「…………」
魔王「…………」
平らかな和み……。
それは単なる言葉遊びというよりも、平和という言葉の根源に迫った考え方だと思う。
平らかな和み。
そうか。それが、僕らの答えなのか。
しっくりときて、すっきりとした。
乙!
すごく好き
魔王「平らかな和みか」
魔王「とてもじゃないが、このようなみっともない姿を部下たちに見せるわけにはいかんな……ふふ」
魔王「これが、お前たちの目指すものか?」
勇者「うん」
魔王「あいわかった」
魔王はゆっくりと立ち上がる。
僕も同じように立ち上がる。
魔王「では。人の身が世界を分かつに足るものか……その力を、私に見せてみるが良い」
勇者「うん」ガシャリ
予想はしていた。
むしろ、魔王自身もこれを一番楽しみにしていたように見える。
けんじゃ「ゆーしゃ!」
勇者「下がってて。これは殺し合いじゃない、力比べなんだ」
魔王「死んで文句を垂れるなよ!」
勇者「そんな気、毛頭ない癖に!」
魔王「はははは、楽しもう!」
勇者「ああ!」
僕は鞘を振りかぶった。
割と好き
【闇夜】
ホー……ホー……
けんじゃ「ふくろうさん……」
勇者「ちょうど起きたのかな?」
熱を冷ます為に夜風に吹かれる。
真っ暗な中で瞳を閉じれば、左腕を温かく抱く賢者が居た。
……あの後、魔王との戦いは長く続いた。
打ち、払い、突き飛ばす。
蹴られ、躱され、跳ね返される。
そのようなやり取りを何度も続けた。持てる身のこなし、剣技、体術、すべてを尽くした。
勇者『はぁ、はぁ、っ』
魔王『ふうっ、くっ、ふ』
勇者『一切の血肉、激情に弾けよ! 数多なる暴力をもって、生命の色を奉らん! 赤祭・怒天!!』
魔王『我、魔物の王者なり! その名に偽りは無し……当然ひれ伏せ! 魔紅大散華!!』
勇者『がっ、は!』
魔王『ぐぬっ、あぁ!』
それは魔王も同じだったのであろう。僕がもうこれ以上ネタはないと思った時に、同じくして動きを止めたからだ。
魔王『勇者よ、お前の務め、果たされてやろう……!』
勇者『魔王っ、まだ決着は』
魔王『そうだ、私は貪欲だ! この力比べに、白黒を付けたくて仕方がない! 楽しくて仕方がない!!』
勇者『ああ……!』
魔王『一番、得意な技で来い! 打ち合おうぞ!!』ガシャン
勇者『一番、得意な技……分かった!!』タッタッタ
勇者『先々の先に先駆ける! 鞘打!!』シュバッ!
魔王『我、魔物の王者な……なにっ!?』
バシーン!!!
魔王『ぶっ!!』鼻ツーン
勇者『あ、ごめん……強すぎたかも』
魔王『ふっ、ふふ。痛いな……』ポロポロ
勇者『わ、涙が! ごめん!』
魔王『よい。その瞬速の鞘打ちが一番得意だったのだろう……?』
魔王『まるで、聞かん坊を戒めるような一閃だ。この技で何度も、口で利かぬ間違いを正してきたのだろう』
魔王『まさしく、勇者!! 天晴れだ!!』ズシン
魔王をたおした!
…………
魔王城から持ち帰ったのは、いかなる首でもなく和平の申し出。それでも、城の人たちは僕たちの無事を一番に喜んでくれた。
国の中も浮き足立ち、王様が開いてくれる再興を願う式典で持ちきりとなる。
僕たちは色んな人に持ち上げられながら、あれよあれよと予定は進んでいき……
けんじゃ「ゆーしゃ? なんで、めをとじてるの?」
勇者「色々思い出してた。明日だもんね、式典」
ついに、それを明日に控える。けっきょく結婚式ではなくなってしまったが。
けんじゃ「くらいね」
勇者「夜だからね」
月光の陰は、さらに暗い。
勇者「ねえ、賢者も目を閉じて」
けんじゃ「え」
勇者「いいから」
けんじゃ「え、え? あの、そのっ、」
勇者「ね?」
けんじゃ「う、うん……」
スッ……
勇者「…………」
けんじゃ「…………///」
ギュッ!
けんじゃ「え……?」
勇者「居なく、ならないでね」
勇者「暗くて、何も見えなくても、こうして一緒に居るって思えれば」
勇者「僕は、嬉しいから……」
けんじゃ「…………」ギュウウ
温かい。
温かさは、命だ。
だから、僕はこの命を愛しているんだ。
けんじゃ「うん……うん」
けんじゃ「でも、ね」
賢者は言う。
けんじゃ「きす、かと……おもった……///」
…………。
そう取られても仕方ない事に今さら気付いた。
【式典】
勇者「僕は、この国は平和になると信じています。」
勇者「何故なら。平和を導く心は誰にでも、魔物にも眠っていると、そう知ったからです。」
勇者「僕たちが、事を成したのではありません。平和を願う皆さんの心が、たまたま僕たちを押したのです。」
勇者「今までやってこれたのは、皆さんのお陰です。」
勇者「この国が大好きなひとりとして……本当に、ありがとうございました!」
ワアアアアアアアアア!!!
…………
けんじゃ「おつかれ」ポンポン
勇者「あ、ありがとう……緊張した」
召使「勇者様。お召し物をお預かりします」
勇者「あっ、はい」
文官「勇者様っ、魔王から祝電が届いています」
勇者「へえ! どれどれ……」
魔王『スピーチの心得はないのだろうし、原稿を温める時間も無かったのだろうが、もう少し気の利いた事は言えないのか?』
勇者「…………」
これ、ホントに祝電か?
どうやら、魔術のたぐいで僕のスピーチを聞いていたらしい。余計なお世話だ。
魔王『ところで、例の件について準備は出来ている。合図に合わせて実行させてもらおう。』
けんじゃ「うん、よかった」
文官「あの、魔王からの件とは?」
勇者「うん? ああ、見てのお楽しみだよ」
文官「勇者様がそう言うのなら……」
魔王と剣を交えたあと。
疲労した魔王に代わって、賢者がもう不要となった屋上の危険な魔法陣を解体していた。
確か、世界を炎に包むものだったか。
けんじゃ『これ、ふくざつ』
魔王『座標点を各地に設定していたからな。危険なものなので、すまないが丁寧に解体して欲しい』
けんじゃ『めんどくさい』
魔王『まあ、一度発動させれば消滅するようには出来ているが……そういうわけにはいくまい』
けんじゃ『…………』
勇者『賢者……?』
賢者『では、少し書き換えても良いですか?』
勇者『え?』
賢者『ここをこうして、魔素の構成を変えて……』
魔王『これは……』
召使「勇者様、賢者様! パレードの準備が整いました」
勇者「うっ……いよいよか」
王様「胸を張れい! 笑う事も英雄の務め。凱旋じゃ!」
けんじゃ「ふぁいと!」
勇者「分かったよ。賢者、例の合図はオッケー?」
けんじゃ「えっと、おくったよ」ビビビ…
城門が攻め落とされんばかりの歓声が、既にして響いてくる。
小手の上から、手袋の上から、僕たちは手を繋いだ。
ギィイイイ……!
勇者「行こう、賢者」
けんじゃ「うん!」
……
…………
………………
魔王「むっ」ビビビ…
魔王「魔術隊、術式を発動せよ!」
ひゅ~……ドーン!ドーン!
……ワァァァ……ワーワー……
部下「これは、魔紅大散華!?……の小さいバージョンか」
部下「日中においてもこの輝き。なるほど、さすが魔王様の術式、祝事にも相応しい」
魔王「始まったか。さて、私も今日はとっておきを開けるとするかな」
部下「魔王様、それは?」
部下「ワインではないようですが」
魔王「気になるか?」
魔王「ふふ……………………茶葉だ!」
はっぴーえんどです
ありがとうございました
乙
素晴らしい作品をありがとう!
ブラボー!
乙
素敵なラストだった!
またいつか三人でお茶を飲むんだろうな
【初夜】
勇者「ふはー……晩餐もすごかったけど、浴場もすごかったな」
召使「勇者様。寝所は廊下の一番奥、右側となっております」
勇者「ありがとう。あっ、寝る前に何か飲みたいんだけど、荷物ってどこに預けたっけ……」
召使「お飲み物でしたら、お部屋までお持ち致しますか?」
勇者「ううん、手持ちので良いんだ。ちょっと牛乳飲みたいだけだから」
召使「かしこまりました、すぐお持ち致します。お部屋でお待ち頂けますか?」
勇者「うん、ありがとう」
…………
勇者「あ、賢者」
けんじゃ「あっ……」
勇者「先に上がってたんだ。どうしたの、部屋の入り口で?」
勇者「わー、部屋おっきい! ベッドもおっきくて……」
勇者「……あれ、ベッド、ひとつ?」
けんじゃ「……」コクン
別に旅先でも、同じ寝床で身を寄せて寝る事は少なくなかった。多少は照れ臭かったけど、野宿なんてザラだったし。
でも……今夜は、ちょっと意味が、違うというか……。
置いてある枕が、少し近いところとか……優しい色の、ふんわりとしたランプとか……。
勇者「ま、まあ、用意してもらった部屋だし。入ろっか」
けんじゃ「……」コクン
勇者「布団ふかふかだね。ははは、は……」
ぼふっ!
けんじゃ「…………」クルクル
勇者「け、賢者?」
けんじゃ「…………」
くるまってしまった……。
コンコン。
召使「勇者様。よろしいでしょうか」
勇者「う、うん。どうぞ」
ガチャ。
召使「この荷物でよろしかったでしょうか」
勇者「うん……ありがとう」
ベッド「…………」こんもり
召使(失礼致しました)
勇者(な、なんで小声になるの!)
召使(ごゆっくりどうぞ……)
召使は、Please Do not dis……何たら、とか書いてあるカードを置いて帰ってしまった。
ドアノブにかかるようになっている。
勇者「…………」カチャリ
まあ、鍵かかるようになってるし良いか……。
勇者「ごくっ、ごくっ、ごくっ」
ベッド「…………」
勇者「ぷはっ。賢者……とりあえず、出てきてたら?」
けんじゃ「もそもそ」
けんじゃ「……」チョーン
日中は法衣や髪飾りに身を包んでいたせいか、お風呂上がりの賢者は全体的にぺそっとして見える。
簡素で淑やかな寝間着から覗く体躯は細く、わずかに女性的で、白い。
けんじゃ「かみ、かわかしていい?」
勇者「うん……歯、磨いてくるね」
けんじゃ「ひーとうぇいぶー」ブォー
勇者「しゃこしゃこ、しゃこしゃこ」
……………………
もそもそ……
勇者「消すよ」
けんじゃ「うん……」
大きな照明を落とす。
石造りの寝所を、ランプの柔らかな光が照らした。
すでに賢者は布団に潜り、もふもふの羽毛を持て余している。
勇者「横、良い?」
けんじゃ「……」コクン
もそもそ……
……
…………
それきり、話す事はなくなってしまった。
布団にふたりで閉じ込めた体温もすっかり溶け、穏やかな一体感となって僕たちを労う。
けんじゃ「……………………」
勇者「……………………」
けど、賢者はまだ起きている。
薄い呼気は耳に届くけど、きっと、なんとなく。
勇者「……起きてる?」
もそ……
けんじゃ「うん」
こっちを向いて、賢者が応える。
同じように向き合うと、90°傾いた世界で彼女だけが正しく僕を見ていた。
微動。
香り。
体温。
瞳。
きっと世界でただ一人、これだけの賢者を感じる事が出来ても、僕は今、賢者の考えてる事が分からない。
勇者「人間って、分からないな……」
ふと、そんな言葉が勝手に漏れてしまった。しまった。
伝わらないだろうし、よしんば真意が伝わったとて、無粋にも程がある。
けんじゃ「わたしの、かんがえてること?」
しかし彼女は、正しく読み取っていた。
僕が賢者を分かっていないだけで、賢者は僕の事を分かってくれているのに……。
勇者「うん。ごめんね」
【人間】
けんじゃ「……………………」
賢者は瞳を閉じた。
けんじゃ「ひとの、あいだ」
人の、あいだ?
けんじゃ「ひとは、ちいさい」
けんじゃ「よわいくせに、つまらない」
けんじゃ「わたしもゆーしゃも、ただの、ひと」
けんじゃ「けれど、わたしたちは」
けんじゃ「たいらかな、なごみも」
勇者(平らかな和み……平和)
けんじゃ「あおあおしい、はるも」
勇者(青々しい春……青春)
けんじゃ「まれな、のぞみも」
勇者(希な望み……希望)
けんじゃ「たくさんの、すばらしいものをのぞいた。わたしたちと だれかの あいだに」
けんじゃ「ひとと、ひとのあいだに、にんげんをなす」
勇者「賢者……」
人の間……それが、人間。
人間という生き物を成してきたのは、いつも人ではなかった。人と人のあいだに、介在するもの……。
けんじゃ「それは、ときどき ふもうなこともした。わたしたちがみてきた それも、にんげんのいちめん」
けんじゃ「でも」
けんじゃ「きっと、わかる」
賢者の手が、僕を繋ぐ。
近づき、離れ、もう少し近づく。 賢者の近しくなりたいという想いが伝わる。
漂わせる香りが、僕の心を乱す。 賢者が僕に媚ぶ想いが伝わる。
あいだの空気が温かくなる。 賢者の温かい想いが伝わる。
視線が、僕とのあいだでふらふらと動く。 賢者の揺れる想いが伝わる。
賢者という、人間がわかる。
わかって、改めて確認する。
勇者「けん、じゃ……」
賢者という人間を成すものを。
賢者とみんなのあいだに在る、たくさんのものを。
賢者「……いいよ。」
僕は、強く愛しているのだと。
お互いを隔てるものを、睦み合い、慈しんだ。
そうして脱ぎ捨て、肉と心が残る僕らの、僅かなあいだを抱き締めた。
僕と賢者という人間を、ひとしずくに。
人と人とのあいだに成されるものが、人間。
そうか……僕たちは、生まれた時から、ただの人ではなかったんだ…………。
【朝食】
勇者「け、賢者。平気?」
けんじゃ「うーん」
勇者「とりあえず、飲み物もらってくるね」
爽やかな朝。
新鮮な牛の乳を2杯分、綺麗なグラスに注いでもらう。
けんじゃ「ぷは……♪」
勇者「んく、んく」
特別でもない、何でもない朝。
けんじゃ「おまたが、ちょっといたい」
勇者「ぶほっ!!」
召使「ああっ、勇者様、賢者様!」
けんじゃ「う……つめたい……」
勇者「ご、ごめんなさい!」
王「はははははは……!」カチャカチャ
文官「勇者様、賢者様、お食事中すいません。魔王様よりお二人に電報が届いております。読み上げますか?」
勇者「なんか嫌な予感がする。自分で見るよ、ありがとう」
けんじゃ「なんだろう……」ペリペリ
魔王『おはよう。ゆうべは おたのしみ だったな。』
バリィッ!!
けんじゃ「!!」ビクーン
勇者「今しがた肝を冷やしたばかりなんだ! やめてくれよ!!」ビリビリ
文官「……?!……???」
けんじゃ「いちばんうしろ……まだかいてある」ペラ
魔王『お幸せに。願わくば、その周りの者たちにも。』
けんじゃ「…………」
勇者「もういっぺん張り倒してやろうか……!!」
王「ええい、いい加減騒々しい! 黙って食わんか!」
けんじゃ「…………」ニコニコ
ほんとにおわり。
BEDENDは日本の伝統芸能
ほんとに乙
乙!
勇者もけんじゃも魔王もいいキャラだな
おつかれさまでした!
やっぱけんじゃさんいいよな!
乙
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