シンジ「ミサトさんもそう思いますよね?」
ミサト「えっえっ」
シンジ「あれはこの前のシンクロテストの帰りのことでした」
シンジ「ネルフ本部を出て、さて夕飯の材料でも買って帰ろうかと思っていた時」
シンジ「僕は―――見たんです。本部を出てすぐの裏手、野良猫の溜まり場になっているそこで彼らにエサをあげているリツコさんの姿を」
ミサト「……」
リツコ『ふふふ、美味しいかにゃん? 今日は奮発してシーバを買ってきたにゃん。みんなお腹いっぱいお食べだにゃん』
シンジ「……そう猫語で彼らに話しかけるリツコさん」
ミサト「……」
シンジ「正直萌え死ぬかと思いましたよ」
シンジ「ついさっきまで真面目な研究者の顔で」
リツコ『――プラグ深度をあと0.3下げてみて』キリッ
シンジ「とか言ってたクールビューティーなリツコさんが」
ミサト「……」
シンジ「にゃんですよ? にゃんですよ? ……にゃんですよ?」
ミサト「……何故三度も言ったの」
マヤ「ふふっ、なかなか分かってるじゃないシンジ君」
シンジ「! マヤさん……!」
マヤ「まだ未熟な中学生にして既にセンパイの魅力に気付くなんて大したものだわ。流石シンジ君ね。
センパイ萌えの先達として賞賛を贈らせてもらうわ」
シンジ「……光栄の極みです」
ミサト「ついていけない」
マヤ「この前なんてね。仕事に没頭してるセンパイに私がコーヒーを淹れてあげたんだけど――」
マヤ『センパイ、コーヒーどうぞ』コトッ
リツコ『ありがとうマヤ』カタカタカタ…
マヤ『いえいえ』
リツコ『……』カタカタカタ… サッ
マヤ『……』
リツコ『……』ズズッ
マヤ『……』
リツコ『……熱っつッ!!』ビシャッ
マヤ「……って!! 『熱っつ』って!!」ハァハァ
シンジ「なんてこった……!!」ハァハァ
ミサト「……えっ?」
ミサト「いや……いやいやいや。ちょっと待って、今のどこにテンション上がる要素があったの?」
マヤ「はあっ!?」
シンジ「はあっ!?」
ミサト「えっ…」
マヤ「失礼ですけど葛城三佐……それ本気で言ってます?」
ミサト「え? え?」
シンジ「はああああ……分かってないですねミサトさん」
ミサト「えっえっえっ」
マヤ「センパイが、あのセンパイがですよ?
頭脳明晰、冷静沈着、常に大人の女の余裕を崩さないあのセンパイが、ついうっかりまだ熱いコーヒーを飲んでしまう……」
シンジ「そして思わず普段のキャラも忘れて『熱っつ!!』と叫んでしまうドジっ子っぷり……。
これをギャップ萌えと言わずしてなんというんですか!!!!」ダンッ!
ミサト「気持ち悪い……」
ミサト「ギャップ萌えとか十代くらいの女の子達に言うならまだしも……あいつもう三十路よ?
ドジっ子とかじゃなくただイタいだけじゃないの」
シンジ「リツコさんと同い年のくせに未だに悪い意味で子供っぽいミサトさんにだけは言われたくありませんよ」
マヤ「右に同じです」
ミサト「わっ、私はまだギリ二十代よ!!!」
シンジ「そういう屁理屈じみた持論で必死に若さにしがみつく感じがまさに幼稚で痛々しいですね」
マヤ「右に同じです」
ミサト「なんなのよぉ……」グスッ
シンジ「まあそんなミサトさん弄りはこれくらいにしておいて」
マヤ「そうね」
ミサト「あんた達覚えておきなさいよ」
いいぞ
シンジ「本題はリツコさんですよ。僕、前々からずっと腑に落ちないなと思っていたんです」
ミサト「……一応聞くけど。何が?」
シンジ「リツコさんはですね、いろいろ過小評価され過ぎなんですよ。
クールな美人博士、猫好き、辛酸を舐めてきた大人の女の色気、
幸薄そうな影のある感じ……どれひとつ取っても完璧じゃないですか」
マヤ「全面的に同意するわ」
ミサト「…………」
シンジ「それを太鼓だの眉毛だのババァだのヤニカスだのいい歳して金髪とか……だのQでオカマ化しただの!!!」
マヤ「ふざけんなって話よね!!!」
ミサト「全部事実じゃない」
シンジ「……は?」
マヤ「……は?」
ミサト「…………」
シンジ「そもそもリツコさんは超有能なんですよ。テレビ版じゃ生身でイロウル撃破してるんですよ?」
マヤ「あの時のセンパイはいつにも増してかっこよかったわよね」
ミサト「……いや、でもそれ以外は基本『有り得ないわ!』って言ってるか、ただの説明要員でしかないじゃない」
シンジ「あ?」
マヤ「あ?」
ミサト「……」
シンジ「……ミサトさんにだけは言わ」
ミサト「分かった。分かったから、私が悪かったからその先は言わないで。これ以上は精神がもたないから」
リッちゃん可愛いよね(Qからは目をそらして)
シンジ「まあ確かにミサトさんはミサトさんで魅力的であることは認めますよ」
ミサト「……えっ?」
シンジ「なんだかんだ言っても美人ですし、まだ二十代前半くらいにしか見えない若々しさかつスタイルも抜群。
事実、アンチも多いですがファンも多い。キャラ人気は圧倒的にリツコさんより高いですからね」
ミサト「あ、あら……」
マヤ「でもやっぱりセンパイの魅力には敵いませんよ。
大体、Qのベリーショートだってえらく評判悪いですけど
あれはあれで海外モデルとかハリウッド女優っぽくて素敵じゃないですか」
シンジ「ですよねー」
ミサト「いや、それってただのあばたもえくb…」
シンジ「あ?」
マヤ「あ?」
ミサト「……」
シンジ「分かってないですね。ほんと分かってないです」
マヤ「この中で一番センパイとの付き合い長いくせになんで分からないんですかね」
シンジ「まあ人それぞれ感性は違いますから。リツコさんだって男の趣味だけは理解出来ませんし」
マヤ「あー」
シンジ「正直なんであんなマダオがいいのかさっぱり分かりませんよ。
まあそういうだめんずうぉ~か~的な感じもそれはそれで悪くはないんですけど」
ミサト「あれ、シンちゃんってファザコンじゃなかったっけ?」
シンジ「ぶっちゃけ僕の中ではリツコさん>>>>(越えられない壁)>>>ヒゲです」
ミサト「……」
ミサト「あの、ひとつ確認しておきたいんだけど」
シンジ「なんですか?」
ミサト「えーっと。つまりシンジ君はリツコのことが好きなの? その、恋愛対象的な意味で」
シンジ「え? 違いますよ」
ミサト「えっ?」
シンジ「えっ?」
ミサト「え……そ、そうなの? いや、なんか異常に褒めちぎるからてっきりそうなのかと……」
シンジ「僕のはそんなんじゃないですよ。あくまでアイドルとかに憧れるのと同じような感じです」
ミサト「……そう」
マヤ「わ、私は恋愛感情も入ってますけど/////」
ミサト「いや、あなたはなんかもういいわ」
シンジ「それにしても……こんなに近くにリツコさん萌えの一番の同志がいるなんて。僕は幸せ者ですよ」
マヤ「シンジ君……」
ミサト「本当についていけない」
シンジ「いや、別にミサトさんはついてこなくていいですよ」
マヤ「そうね」
ミサト「えっ」
シンジ「学生時代からの長い付き合いなのに全然リツコさんの魅力に気が付いてないミサトさんとじゃ話にならないですから」
マヤ「ええ」
ミサト「えっえっ」
シンジ「そんなことよりマヤさん、よかったら今からラウンジでお茶でも飲みながら
リツコさんの可愛さについてもっとじっくり語り合いませんか?」
マヤ「ええ! もちろんいいわよ!」
ミサト「……いや、ねえ、ちょっと」
シンジ「そうそう、リツコさんってば第一話からいきなり水着+白衣というマニア心をくすぐる登場で――」ペラペラ
マヤ「でも、あんな挑発的な恰好をしていながらそれでいて下品にはならないところがセンパイのすごさよね。それから――」ペラペラ
ミサト「……」
シンジ・マヤ「「ぺちゃくちゃぺちゃくちゃ」」スタスタスタ…
ミサト「……」
ミサト「……」ポツーン
ミサト(……なんなの、この妙な疎外感は)
ミサト「うーん、それにしても……あれだけ人との触れ合いを極端に怖がってたシンちゃんがね。
あの子がこんな風に他人に興味を持つだなんて以前なら考えられないことだったわ」
ミサト「何故か保護者の私じゃなくリツコってとこが気に食わないけど……」
ミサト「これもいい傾向なのかしらね。なんにせよシンジ君が前向きになってくれるのならそれに越したことはない、か」
ミサト「………リツコねえ」
まだか
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