男「能力のある世界」 (69)
初めまして、おはようございます。
※注意※
・セリフは台本形式で地の文あり
・能力バトルものという中二病&ガバガバ設定
・ぼくのかんがえたさいきょうのちーとのうりょく
・下手くそな戦闘描写あり
・というより終始下手くそな文章
・登場人物の死亡と胸糞展開あり
・二週に一回程度の遅い更新
・今の段階で着地点が見えておらずいつまで続くかわからない
・このクソssをもうやめろとレスされても続ける
・その他諸々
それでもよろしければ読んでいただいて、ご感想やご意見、批判、悪い部分の指摘等を仰ってくだされば幸いです。
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1章
1『能力者の国』
ここは能力者の国。
人口のおよそ30パーセント以上が何かしらの能力に目覚めている。
能力の発現について詳しいことは分かっていない。
ただこの国は能力者を差別しない。だから自然と彼らは集まる。
しかし、だからといって能力を簡単に行使してもいいということにはならない。
大きな力には大きな影響と大きな責任が伴うからである。
×××
男「まあ、60パーセント以上が一般人ってわけなんだけど…」
友「そうだなぁ、能力なんて俺たちには無縁な代物だな」
男「俺も何かしらの能力が欲しかったんだけど…」
友「あきらめろ。確かに能力に対する憧れはあるが、俺たちはもう高校生なんだぜ?」
男「だよね」
そう。なぜか能力の発現は15歳以下に多く見られる。
そして16歳を過ぎれば、がくりと落ちる。
なので高校生の男たちが能力を開花させる見込みはかなり低いと言えるわけだ。
もちろん原因は不明なままだ。
友「それにさ、わけわからん能力だったら周りに迷惑かけるかもしれないだろ?」
男「うーん、そうだなぁ…」
友「例えば、自分の歩いた道が毒沼になるとか」
男「何それ迷惑」
友「な?」
いや、な?、じゃないよと男は思った。
男「でもまあ、ちゃんとした能力でも犯罪する人は出てくるんだよね…」
友「本当それ」
これには友も同意のようだ。
能力者が生きやすいはずのこの国で能力者たちはなぜ犯罪を犯すのかよくわからない。
友「俺たち一般人の犯罪率はほとんどゼロなのにな」
そう。そして一般人は法を犯すことができないほどに能力者との力の差がある。
なのに国の統治は一般人なのがまた不思議だ。要は多数決なのだろうか。
男「うーん。難しい問題だな」
友「難しく考える必要はねぇ。要は俺たちが巻き込まれなきゃいいんだよ」
男「それもそうか。対応するのは能力者だしね」
正確に言えば、対応できるのが能力者しかいないわけだが…。
友「それより、この辺りも物騒になってきたから気をつけろよ?」
男「俺より帰りの遅い君に言われたくないんですけど」
友「ははっ!確かに!」
からからっと笑う友を見るにあまり本気で言ってるわけではないようだ。
男「じゃあ部活頑張ってな」
友「おう!」
友は吹奏楽部所属だ。
スポーツは一般人がやっても能力者には勝てない。
そもそもの基礎体力に大きな差があるので、能力云々の問題ではない。
友も以前は野球をやっていたそうだが、バットを捨てて楽器を手にした。
本人が楽しんでるからいいんだけれど。
スポーツの面から見ても、一般人には生計を立てづらい国になってきているのかも。
この国は能力者との協力、共存を目的として国家づくりに励んでいるというのに、最近は悪いニュースもよく耳にする。
と、あれこれ考えているうちに男は家に着いた。
男「ただいまー」
返事はない。
リビングに向かうと先に帰宅した妹がいる。
妹「おかえりー」
気の抜けるようなお出迎え…ではなく、ソファーでまったりくつろいでいた。
男「兄ちゃんは?」
妹「知らなーい。今日も遅くなるんじゃない?」
男「そっか」
兄妹間での会話は多くない。あくまで必要最低限だ。
男は自室に戻りさっさと整理整頓を済ませると、机の上に勉強道具を広げる。
さくっと今日の分の復習を終えるとちょうどいい時間だ。
男は勉強を切り上げ、再びリビングへ。
そして台所へと向かう。
夕飯を作るのも彼の役目。
妹がやればいいのに…と思ったりしないこともないが美味しそうに食べてくれるもんだから、つい自分でやってしまう。
妹「男にぃ、手伝う」
彼女が暇なときはこうして手伝ってくれたりするし、これと言って不満はない。
今日も二人で夕飯を食べる。
妹「美味しー」
男「…」
男は素直に嬉しいと思った。
男「おかわりあるから…」
妹「うん!」
彼は妹の笑顔が好きだ。
いや、決して妹だけではないのだが、何だか人が笑ってるのを見ると安心する。
不意に用意した隣のお茶碗を見る。
一応、兄と両親の文も用意したのだが、いらなかったかなと思った。
彼らは帰りが遅い。
両親は仕事、兄は実験とか…。
男にはよくわからなかった。
しかし、今日は驚くことに三人とも早い帰りだった。
兄「よぉ、ただいま」
妹「兄にいちゃん!」
母「今日は早く帰ってきちゃった!」
父「ああ、偶然そこで会ってな」
男「父さんと母さんも!」
ややテンションが上がるのはやっぱり寂しかったからだろう。
それでも早い帰りに不思議に思う男が聞いてみると…。
父「まとまった休みが取れたんでな、明日テーマパークでも行かないか?」
男「え!本当!?行く行く!!」
妹「わーい!」
男たちは大はしゃぎだった。
妹「みんなで?」
母「そうよ。ママとパパと兄にいちゃんと男にいちゃんと一緒にね」
久しぶりの家族でのお出かけに心躍る男と妹なのであった。
用意した夕飯も食べてもらえたので男はさらに嬉しく思った。
久々に家族もそろい、全員が居間にいることも珍しい。
夕飯を終えれば、テレビなどを付け、だらだらと過ごす。
そんな中、兄が何気なく話題を振る。
兄「男、能力者ってどう思うよ?」
男「俺?…そうだなぁ、羨ましいと思うよ。この国じゃ差別もないし、優遇もされるしね」
兄「そう思うのか…。いや、普通はそうだよな」
男「急に何で?…レポートでも書くの?」
兄「まあな。一般人の意見も聞きたいだろ?」
男「兄貴は身近に一般人いないのかよ…」
兄「いやあ、そいつらにも聞いてみたよ」
男「なんて言ってたの?」
兄「大体お前と一緒の意見だ」
男「へぇ…」
それもそのはずなのだろう。
能力なんてものは数十年前にいきなり発現したと聞いている。
最初の人物は不明。
それはとても便利なものだったそうだ。
飢餓には食物を与え、渇きには潤いを与え、病には癒しを与え…。
どこまでが本当かはわからないが、こうして聞いてみると神様みたいな存在だ。
男は神には興味はないが、人を救えるのならば、人の役に立てるのならば、能力というものに頼ってでもそんな力を得たいと思える。
例え自分の身を滅ぼすことになろうともだ。
男「まあ、あり得ないよね」
兄「何がだ?」
男「俺はもう15過ぎたから、能力を得ることは無いよ」
兄「そうかもな。だとしたら可能性があるのは妹だけか…」
妹「何~?」
話題に上がったのを聞いて無邪気に笑顔を向ける妹だ。
兄「能力についてな…。妹は能力欲しいか?」
妹「いらなーい」
にこにこと即答する妹。
妹「みんながいれば能力なんて無くても幸せだよ?」
兄「ああ、いた」
男「兄貴、何がいたって?」
兄「俺と同じこと考えてるやつ…」
妹は何々~?と興味も露わに訪ねてくる。
兄「ま、妹には能力なんて関係ないもんな。…さあ、明日は久々にお前らと出かけられるから早く寝て明日に備えなさい」
妹「うん!明日、楽しみだなぁ!」
ウキウキと部屋に戻っていく妹は家族におやすみと告げた。
母「私も明日は早起きしなくちゃね。お父さんもお願いしますよ?」
父「俺は仕事に遅刻したことないから大丈夫だ」
兄「朝、寝坊はしてるでしょ…」
父「間に合えばいいんだよ。ところで、男は能力が手に入るならどんな能力がいいんだ?」
先ほどの話題を受け継ぐように父が男に尋ねる。
男は能力について家族で話すことはあまりないので珍しいなと思った。
男「うーん。わかんない…。いざ考えてみると思いつかないよね」
父「そうか。まあ人と殴り合っても絶対勝つ!みたいなこと言いださなくて安心したよ」
男「でも人の怪我を治すやつはいいと思う。前、ニュースでやってた」
母「いいわよね、あれとても便利で…」
父「でもありゃ欠陥だぜ。治せる怪我なんて小さいもんだ」
母は少しむっとしたが納得したようにため息をつく。
男「そうなの?」
兄「ああ、俺の知り合いにも能力者の看護師がいるんだけどな、交通事故の現場に出くわした時その能力はクソの役にも立たなかったらしいぞ」
男「えー?嘘だよ。だって俺が見たときすごい大怪我の人も治してたもん」
母「たまにいるのよ。優れた人がね…。回復能力で大怪我を治せる人なんてほんのごく一部よ?世界で五人いるかどうかじゃないかしら?」
兄「そうだよね。それに再生するってわけじゃないから体の一部が無くなったらそれはもう能力じゃなくて、現代医学で治す他ない」
男「それって、義手義足ってこと?」
兄「そうなるな…」
父「まあこの国の発達した医学なら神経までばっちり繋げるみたいだけど」
医学も優れているこの国はかなりの生産性を生む。
しかし父曰く、こことは別の機械大国には負けているらしい。
父はその機械大国にも出張で出かけたことがあるという。
その話は男には興味深くて、いつかは行ってみたいと思っているのだった。
母「とにもかくにも気を付けてね。私たち一般人は能力者なんかに勝てるわけないんだから、急に襲われたりなんかしたら一たまりもないわよ」
男「戦わないっての…」
父「でも母さん、能力者に狙われた時点で逃げ切るのは難しいぞ…」
母「それもそうね」
男は、じゃあどうしようもないじゃん、と諦観した。
父「話が物騒になってきたな。…明日は楽しむんだし、この話は終わりにしよう」
兄「そうだな。男、話振って悪かったな」
男「全然、構わないって。俺みんなと話すの好きだし、能力の話ってしないから新鮮で面白いよ」
そっかと兄は一言残し、その場を立つ。
兄「じゃあ俺も寝ようかな…おやすみ」
男「俺も明日楽しみだし寝る!」
おやすみ、と両親は優しく微笑む。
男は気分も高揚して眠れるかどうか心配だったが杞憂であったようだ。
×××
この国では犯罪の動機というもののほとんどが己の力の誇示、いわゆる愉快犯である。
能力を得た人間は急に人が変わってしまったりするものだ。
力は人を狂わせる。
武力、権力、財力…他にも。
これらは人を内側から食いつぶし支配してゆき、力を使って別のものまで支配する。
己の安寧を手に入れようとする。
それらを知ってしまった人は例え一度失ったとしても、再び手に入れようと躍起になる。
そしてそんな人間はどこにでもいるのだ。
身近にいて、いつ遭遇するかわからない。
…ここは能力者の集う国。
今日の分は終了です。
次回から物騒な話になります。
もしかしたら閲覧注意かも。
言い訳ばっかしてんじゃねーよカス
やめろ
期待
期待
>>13みたいに、注意書きや筆者の返答レスを好まない読者もいるから注意
楽しみにして、待っているのですよー
酉変わってなかったですね…
2『開花』
車で小一時間の場所に目的のテーマパークはある。
男「今日は遊ぶぞー!」
妹「いぇー!!」
男と妹は久しぶりに来た遊園地に早くも大興奮だった。
母「あらあら、あんなにはしゃいじゃって…」
父「あんまり構ってやれてなかったからな」
兄「ついていけねぇ…」
妹「あれ乗ろう!」
父「げっ!ジェットコースターか…俺はパスで…」
母「ダメよ。乗りましょう」
兄「父さん。今日はあの子らに合わせてあげないと…いつも寂しい思いしてるんだから」
父「むぅ…。一回だけだぞ」
男「…父さんって怖がり?」
父「あんなん怖くねぇっての!」
母「強がりね」
妹「早くー!!」
兄「はいはい」
×××
父「…酔うから嫌なんだ」
ベンチに座った父は蒼い顔をしてぼそぼそとぼやく。
男「そうだったの」
妹「次あれー!!」
妹は疲れを知らず、次々とアトラクションに乗りに行く。
母「連れてきてよかったわね」
兄「そうだなぁ、休みが取れて本当によかったよ」
×××
父「おいおい、ちょっと休憩しようぜ」
昼を過ぎ全員のお腹も空いてきたようだ。
妹「お腹空いたー」
自由なお姫様がうちにはいるから、みんな振り回されっぱなしだ。
けれどこういうのも悪くないな、といった様子で、むしろ楽しそうな妹の笑顔が見れて家族全員幸せな気持ちになる。
兄「昼飯なら男が行きたい場所選べよ。お前と妹がメインなんだからさ」
男「兄ちゃん…。でも、妹が行きたいところに俺も行きたいかな」
兄「そうか。まああんまし背伸びすんなよ?」
男「俺だって兄貴だし」
ちょっとムッとする男だった。
妹「男にぃの行きたいところがいい」
男「いや、遠慮しなくってもいいんだぞ?」
妹「ううん。男にぃの方が料理詳しいでしょ?だから美味しいところわかると思って…」
男「ええっ!?」
無茶だよそれは!と男は思った。
別に料理をするからと言って料理に詳しいわけでも、ましてや行ったこともないのに美味しいお店がどこかわかるわけない。
兄「難しく考えんなよ。園内のレストランなんてどこも同じようなもんだよ」
男「とは言ってもなぁ…。ここはかなり違うと思うけど…」
とりあえずパンフレットを見て雰囲気の良さそうな店を選んでみることにした。
それでもなかなか決まらない。
男「うーん、迷うなぁ…」
母「相変わらず優柔不断ね」
父「いいよ。ゆっくりじっくり決めなさい」
そうしていると不意に放送を知らせるチャイムが園内に響き渡る。
男はなぜだかその放送に違和感を覚えた。
迷子のお知らせに違いないと思いつつも、ついつい聞き入ろうとする自分がいる。
そうして彼の直観はよくない方に当たってしまうのだった。
『あー…マイクテスッ、マイクテスッ………んんっ!』
低い男の声、やや若さを感じさせる。
しかし明らかにキャストの口調ではない。
そもそもキャストはマイクテストなんてしないだろうと男は思った。
兄「なんだこりゃ…?」
兄もいち早く異変を察知する。
妹は前の方を走っていたが、ぴたりと足を止める。
『ご来場のクソども、ようこそ俺のアトラクションへ…』
周囲も足を止め、ざわざわとざわつき始める。
他のゲストはこのキャストではない誰かの口調に腹立たしいものを感じて文句を垂れる人もいたり、新しいイベントか何かかと心躍らせる人もいた。
父「やばそうだ…」
父がそう呟いたのを男はかろうじて聞き取った。
次の瞬間かなり離れたところで轟音が鳴り響いた。
一斉にそちらの方を振り向く。
もくもくと煙が立ち昇っていた。
先ほどの轟音と鑑みるに何かが爆発したことは明々白々だった。
しんと静まり返る周囲の雰囲気に飲まれてしまう。
だがその静けさは続く爆発音に遮られ、たちまちゲストはパニック状態に陥った。
あっちへ、こっちへ逃げ惑う。
爆発した地点には通らずに出入り口へ向かおうとする。
しかしそれではダメだと男は思った。
爆破箇所には二個も三個も爆弾があるはずはない。
凄惨な現場を見てでも爆発した地点を通るべきだ。
そう提案しようと思ったが…。
父「動くんじゃない!!」
その一言で男はぴたりと静止した。
母「妹!!まっすぐこちらに戻ってきなさい!!」
妹もパニックの中、言われた通りに戻ってくる。
園中に響くゲストの断末魔、悲鳴、うめき声…。
父「いいか、ここから動くんじゃない…」
母「兄、この子たちをよろしくね…」
男「え?何言ってんの?」
ざざざっとノイズみたいなものが聞こえる。
先ほどの放送だ。
『このアトラクションのルールを説明しようと思ったのに、もう…。せっかちなみんなは待ちきれなくて先に逝ってしまったみたいだね…。いっひひひ…!残念だなぁ…』
男は癇に障る笑い声と、実に楽しそうな口調を聞いて頭に血が昇りそうになった。
兄はそんな男を押さえてなだめる。
『んんっ!…このアトラクションは、園内全体を使って行います。ゲストの皆さんは爆弾に気をつけながらここから脱出してください』
妹は状況を飲み込んできたのか震え始め、父は険しい顔つきでスピーカーを睨みつける。
父「狂ってやがるな…」
『この放送が終われば私の方も園内を徘徊いたします。脱出が困難だと感じた場合には私を倒せばゲスト側の勝利でございます。ひひひ…、なお本日お客様からいただいた入場料等の対価は一切免除させていただきます』
男「逃げようよ!!」
男はこの惨状から一刻も早く逃げ出したい。
それにふざけている。対価は一切いただかないだって…?
それってつまり…。
『その代わり、お客様の命をもってお支払いいただきます』
皆殺しだって言ってるんだ。
兄「いいから落ち着け…」
父「状況を説明する。すでに能力対策本部への連絡は済ませた。おそらくここにいる多くの人間がそういう対処をしている」
男はなんでそんなに冷静でいられるのか不思議でしょうがなかった。
妹に関してはもうほとんど現実を見ようとしていない。
父「絶対ここにいろ、動くんじゃない」
兄「俺も行くよ」
母「だめ、残って…。この子たちを誰が守るの?」
兄は苦い顔をしていたが、怯えきった男たちを見て舌打ちをする。
兄「それもそうか…」
男「ど、どうすんだよ…!?今からどこへ行こうっていうの!?」
父「俺と母さんは生きている一般人を助ける。…あとはチャンスがあればこの狂ったアトラクションの元凶を倒す」
男「何でだよ!爆弾魔なんか倒せっこないって!…いいからみんなで逃げようよ!」
兄「それはダメだ」
男がどうしてと聞く前に兄は続ける。
兄「まず、やつは能力者の可能性が高い」
男「…」
兄「次にその能力者が動き出すと言ってるんだ。つまりランダムに見つけた人間を排除していくに違いない」
だから、なぜそれがここに留まることになるのか…。男にはさっぱりだった。
兄「つまり動いて鉢合わせちまった方が危険だ。爆弾もいつ爆発するかわかんないんだし…」
父「そうだ。動いている人間に対して起動するセンサー爆弾だったら動くのは危険だ」
男は何も言えない。
死ぬのが怖いからだ。
今動けば死んでしまう可能性がある。
だが動かなければ爆弾魔が来るまでは死なない。
男が恐怖に感情を支配される中、父と兄は顔を見合わせ、お互いに頷く。
兄「隠して悪かったが、俺たち実は能力者なんだよ」
男「!!…何で黙ってたのさ!?」
それは衝撃の事実だった。
男は今まで家族全員、一般人だと思っていたから当然なのだが…。
兄「余計なことに巻き込みたくなかったんだよ…」
ところどころで爆発音が続く。
兄「能力者は、能力だけしか取柄がないってわけじゃないのはわかるよな?」
男「細胞の特殊な活性化…」
兄「そういうことだ。あと、能力者の義務もわかるな?」
男「能力者は能力犯罪には積極的に介入し、それを鎮めること…」
父「よく勉強してるじゃねえか」
母「だから私たちは行かなきゃいけないのよ」
男「いいよ!今回くらいは見逃してもらえるって!みんなでいよう!」
兄「そういうわけにもいかねえよ…。そんなことしたら後々辛い…」
すでに男は泣くしかなった。
母「泣かないの…。みんなで生きて帰るんだから…あきらめちゃダメ…」
父「そうだいついかなる時もあきらめるなよ」
兄「大丈夫だ。守ってやるから…」
自信たっぷりに言う三人に安堵を覚える男だったが、それはただの虚勢でしかないことに気づかない。
父「じゃあ行くよ」
母「そうね…」
兄「二人とも無理すんなよ。見た目は若くても、もう40後半なんだから…」
父「ここで無理しないでいつするんだよ…」
母「命かかってんのよ?」
兄「…そうでした」
そう言うと両親は行ってしまった。
男は二人の背中を涙を流しながら見送ることしかできなかった。
妹「嫌っ!!嫌っ!!行かないでっ!!」
急に妹は実感が沸いてきたのか、ヒステリックに叫び始める。
兄「大丈夫だ!戻ってくるよ!それまでは俺たちとここにいるんだ」
妹はなだめてもなだめても、嫌だ嫌だと泣き叫ぶのだった。
爆発音はまだやまない。
×××
父「おう、大丈夫か?」
母「だめね、最悪の気分だわ…。能力者の五感はこういう時はありがたくないわね…」
父「ありがたいと感じたことは少ないが…」
二人は走りながら比較的大きめの広場や通りを走る。
無駄口をたたきながら進むということはまだ心に余裕があるということか…。
しかし、そこらじゅうに焼け焦げた死体が転がっていて、確実に精神をむしばんでいる。
曲がり角を曲がるときは細心の注意を払って丁字、または十字路に飛び出す。
毎回、戦闘を意識しての動きなのでこれも精神を擦り減らすようだ。
そのとき母が不意に立ち止まる。
父「どうした?」
母「生存者がいるわ…」
それは発達した五感かただのカンなのかはわからない。
父「本当だ。犯人…じゃないみたいだな」
母「行きましょう」
その生存者は瓦礫の下敷きになっていた。
父「今助ける」
ぐっと力を込めて瓦礫を持ち上げる。
ゆうに300キロはあるように見えるが、それを放り投げる。
母「大丈夫?」
家族連れで来たのだろうか。
手元にはまだ幼い娘を抱えている。
「…ああ、俺は大丈夫だ。それよりこの子を頼む…」
30前半くらいの男が差し出す娘はがっくりとうなだれて、ピクリとも動かない。
母「ええ、任せて…」
父「おい、その子はもう…」
母「あきらめちゃダメ…。あなたはそちらの男性をお願い…」
父「……………ああ」
その男性はありがとう、娘を頼むと何回も言って目を閉じる。
男性は大丈夫と言っていたのだが両足を失って何が大丈夫であったのだろうか…。
とにかく着ている衣服を破き両足の出血を止めようと試みる。
父はもう手遅れだと悟っていた。
母は、託された娘の人工呼吸と心臓マッサージを行いながら、彼女の能力である自然治癒の強化を行う。
しかし、強化といってもそれは安定した血の流れと栄養を十分に摂っていなければ不十分なもので、娘に対してほとんど効果は無い。
母は泣きながら施術を続ける。
母「お願い!お願い!生きて!生きるの!」
何度も何度もそう繰り返して…。
ついに娘は息を吹き返すことは無かった。
父「せめて二人を弔おう…」
父の言葉でようやく母は動きを止めた。
二人の遺体を寄り添うように隅の方に安置する。
父「まだ生きてる人がいるかもしれない…」
この絶望の中のわずかな希望を探りつつ、父は立ち上がる。
母も同じように立ち上がるが、すでに二人の精神はボロボロだった。
母「パパ…」
父「なんだ?」
母「絶対に殺すわ…」
父「…まずは生きることを優先しよう」
戦場と化したテーマパークには未だに断末魔が響き渡る。
二人の足は自然と爆発の多い場所へと向かっていった。
×××
「ほらほら!逃げてばっかいないでさ!誰か俺を倒して見せてよぉ!!…いひひ、いひ、いひっひひ…!」
逃げ惑う民衆、追いかけるのは地味な見た目の人間だ。
いや、これを人間と定義していいのか定かではない。
けれども、そもそも人間であるからこそこのような残酷な所業ができるのも確かなのだ。
強いて言うなら悪魔のような人間と評することもできよう。
「骨のねえやつらだな…。死んじゃえ」
消し飛ばす。
大爆発の跡、降ってくるのはバラバラのパーツと血飛沫。
そして腹には衝撃。
「うぶっ…!!」
後ろに大きく吹き飛ぶ爆弾魔。
「げほっ!……誰だぁ?」
ゆらりと立ち上がる爆弾魔。
立ち込める煙の中から飛び出してきたのは母だ。
母「…ふっ!」
一足飛びに爆弾魔のもとへ、一息で数発の拳を叩きこむ。
爆弾魔は殴られ吹っ飛んだように見えたが、母の方は軽く舌打ち。
どうやら、一撃の間に仕留められなかったことを悔やんでいるようだ。
爆弾魔「がっ…!…へえ、なかなかやるじゃねえか…女とはいえ能力者、思いのほか効いたぞ?」
そう言って口から少し血の混じった唾を吐く。
母「まったく効いてるように見えない…」
母は戦闘向きの能力ではない。
彼女が勝つにはこういった奇襲をかけて、能力者の肉体の力のみで相手を戦闘不能まで追い込まなければならない。
能力者が能力者を殴って気絶させるにはいいところに打ち込むか、相手の意識が無くなるまでボコボコにするかしかない。
つまり、一般人の殴り合いとあまり変わらないのだ。
そういうわけで、最初で仕留め損ねたのは大きなディスアドバンテージだった。
しかし、勝算も無しに一人で飛び出すほど彼女は賭け好きでもない。
爆弾魔「ぐおっ!!」
右方向からまたしても見えない攻撃を受けた爆弾魔。
爆弾魔「ちっ…!そこか…」
やや遠くの方に目視したのは父の姿。
彼がいわゆる戦闘向きの能力者である。
衝撃波を飛ばすだけの能力なのだが、爆風や火にも対処できる能力だったりする。
自分が打つ拳の威力をそのまま衝撃波に変換できるが、いかんせん距離が遠い。
どうしても致命傷は与えられない。
爆弾魔「小細工かよ…」
母「どちらが…!?」
一瞬の隙を見逃さない。
衝撃波を受けて気を取られてる間にすでに間合いを詰める。
狙いは顎のあたりに定めて一発KOを狙いにいく。
爆弾魔「ぐっ!クソがっ!」
振りかぶる爆弾魔。
そのまま攻撃に転じる動きを見せたが、衝撃波でキャンセル。
このままいけばジリ貧で爆弾魔は倒れるはずだった。
爆弾魔「…もういいわ」
たった一言つぶやくと彼の体から大きなエネルギーが噴出された。
母「…あ」
彼を中心とした爆発に母は巻き込まれる。
父「!!」
遠方にいた父は急いで駆け寄る。
しかし、母はお腹を抉られ、壁際に倒れていた。
父「おい!しっかりしろ!」
呼んでも起きない、虚ろな目だけがこちらを向いている。
母「…」
母は口を動かすが声も出ない。
爆弾魔「よお、まあまあ楽しめたぜ」
その言葉に父は振り返る暇もなく、爆発を浴びる。
そして二度と動くことは無かった。
瀕死の母の目の前には父のヘッドレスの体が転がった。
爆弾魔「悲しいか…?」
彼はしゃがみ込み、静かに涙を流す母に尋ねる。
爆弾魔「なんか言ったらどうだ?」
首を掴み持ち上げる。
母の虚ろな瞳はもはやまともに視界を映してくれさえしない。
爆弾魔「じゃあ仲良く死にな。お疲れ様…」
その間際、携帯電話がポトリと落ちた。
母のポケットから出てきたもので、爆弾魔は彼女を処理した後に拾い上げた。
爆弾魔「ほぉ…五人家族で、さっき殺したのが旦那さんってわけか…いひひっ!」
新しい遊び相手がまだ生きていることを願って再び生存者殺しに赴くのだった。
×××
兄は焦っていた。
急に止まった爆発音は両親の戦闘が原因であると思った。
そしてついさっきからまたしても爆発が始まった。
つまり、爆弾魔が生きている…。
妹は泣きやまない。
男はうずくまる。
兄がこの場をどうにかしなければならない。
しかし二人が負けたとしたら兄にできることは数秒の時間稼ぎくらいにしかなさそうだと彼は考えた。
兄「移動しよう」
妹「パパもママも待てって言ってた…」
泣きながら訴える妹。
男「…そうだよ!帰ってくるんだよね!?」
兄「ああ、だけど犯人がこっちに来る。せめて身を隠さないと、両親に会う前に死ぬぞ…」
そう言うと二人は泣きじゃくりながらも兄に従った。
兄が先行し細心の注意の払いながら、移動してるように見える爆破地点と離れるように移動する。
間違いなく、断続的に続く爆破地点の源にやつがいる。
いや、このまま逃げれるか?
兄はそう考えた。
思えば出入り口の方は先ほどから静かだ。
兄「ちょっと走ろう。俺たちは先に出口まで向かうんだ」
妹「……うん」
男「母さんと父さんは!?」
兄「大丈夫だ。必ず来る…」
兄は歯を食いしばりながら、油断すれば涙をこぼしそうになりながら、力強くそう言った。
泣いていた妹はいつの間にか泣き止んでいた。
三人は小走りに移動する。
兄は前に集中しろと忠告し、男と妹はチラチラと視界に映る死屍累々を決して考えないようにした。
出口まであと少しだった。
かなりの死体が道をふさいでいる。
兄「ちょっと待ってろ…」
立ち止まる兄に倣って、男と妹も立ち止まる。
遥か後方で爆発音が鳴り響く。
兄はここにある死体の数に異常を感じていた。
兄「そこで待て…多分ここに一番多くのトラップがありそうだな…」
目視しただけでも、それらしきものが10以上確認できた。
兄はそこら辺にある瓦礫を拾ってその物体の近くに投げつける。
爆発はしない。
何か別の発動条件があるようだ。
すぐさま思いつくだけでも二つは考えられる。
まずは生きてる人に反応する。
どういうわけかは分からないが、人の血流か、何かにセンサーが反応しているのだろうか…。
能力者でなくても、今の科学兵器なら可能である。
というより能力者にそんな芸当ができる方が考えづらかったが、瓦礫に反応しないところを見ると、平気との併用もあり得そうだ。
次に死んでる人にも反応する。
こちらは生死にかかわらず人と認知された場合なら爆発するという考えだ。
今投げたのは瓦礫。
まだ人体は放り込んでいない。
やりたくはないが試す価値はある。
男と妹が生きるためだと、兄は考える。
もし前者なら救援が来るまでこの場で逃げなければならない。
そしておそらくそれは困難だ。
兄は意を決して落ちてる腕を拾い上げ、件の物体に投げつける。
ちかちかと赤く光る点滅灯。
次の瞬間、ゲート近くのオブジェクトが轟音と共に吹っ飛んだ。
逃げられる…!
兄はもう、なりふり構わずにそばに落ちている人のパーツをトラップにめがけて投げつけた。
男「…うわっ!兄貴!」
兄「いったん逃げるぞ!!!!」
あらかた爆弾を処理した兄は大声で二人を呼び寄せた。
妹と男は耳を痛めながらも聞き取ったその言葉に従い、出口へ向かおうとするが…。
爆弾魔「おらぁっ!!…何勝手に逃げようとしちゃってるわけ?」
出口を阻む形で空中から若い男が降ってきた。
兄「くっ…!」
すぐさま足を止め、後ろの二人を庇うように構える兄。
爆弾魔「あーあー…。道ができちゃってるね…」
あちこちを見渡し、やれやれと首を振る。
兄「…ヘリが来たみたいだ」
兄がぼそりと呟く。
男たちには聞こえなかったが、能力者であり五感の優れてる兄には届いたようだ。
爆弾魔「やーっと来たか…」
それは向こうも同じようだが、これで目の前の敵が能力者だということが明らかになった。
兄「お前たちは今来た道を逃げろ…」
男「…兄貴は?」
兄「後で父さんと母さんと行くから…」
爆弾魔「…あいつらが来る前にお前らをちゃちゃっと始末しちまうか…いひひっ…」
不気味な笑いを見せ、殺気が立ち込める。
しかし、そいつは何かに気づいたように目を細めた。
爆弾魔「お前ら、どっかで…」
ああ!と今度こそ気づいた者の反応で…。
爆弾魔「あの夫婦の家族か…!!」
兄「!?」
それを聞いた兄はすぐに嫌な予想が当たってしまったと思うと同時に、何ともいえない殺意が沸いてくる。
爆弾魔「ああ、結構楽しめたぜ…。ちょっと本気出したら呆気なく死んじまったけどよ…」
瞬間、妹が男の手を握って走り出す。
男「おい、妹!兄貴が!」
妹「兄にいちゃん大丈夫って言ってた!」
震える声で虚勢を張る。
男はさっきの兄と爆弾魔の会話で理解する。
母さんも父さんも死んだ。
その事実を受け入れられないまま男は、妹友と来た道を戻る。
×××
爆弾魔「ぐぎゃあっ!!」
兄の拳は倒れた爆弾魔の腹部を捉えていた。
速い、重い、これが爆弾魔の感じ取った兄の拳の印象だ。
さっきまで、ただの普通能力者並の身体能力だったはず。
その普通の能力者じゃ出せないスピードだった。
兄「このまま死ね…!」
拳を振りかぶる兄。
兄の能力は一時的に特殊な細胞も活性化させ、身体能力を向上させる能力だ。
勝負あったかのように見えたが、それは彼の慢心でしかなった。
一瞬でも勝てると思った自分をさぞ恨めしく思うだろう。
自分の両親をいとも簡単に殺害した相手に自分のやり方が通じるわけがなかった。
熱いと感じる前に、宙を舞う体。
痛いと思う間もなく抜け落ちていく感覚。
爆弾魔「はぁ…はぁ…終わりか…?」
息を切らしながらも余裕の笑みを浮かべる爆弾魔。
兄「…」
対する兄は喋れない。
そして肉体強化も燃料切れだ。
大きなダメージを負ったため、もはや維持することができないのだ。
爆弾魔「なんだよ!一発くらい耐えて見せろよ情けねえ!!」
つかつかと兄に近寄る。
そいつは兄の側に寄ると、髪を引っ掴む。
爆弾魔「すぐに他の二人もお前たちのもとへ送ってやるよ。…いひひっ!」
それだけ言うと、兄の頭をあっさりと消し飛ばした。
爆弾魔「安心しろ。全員同じ死体にしてやるからよぉ……ひひっ…ひひひ!」
上空には数機のヘリコプターがようやく到着したようだ。
×××
さっきの場所まで戻ってきた男と妹。
言われた通り戻ってきたが、これからどうすればいいかわからない。
妹「お兄ちゃん…」
男「はぁ……はぁ…っふぅ……!」
男は妹の呼びかけに答えることができない。
それほどまでに憔悴しきっているし、道中何度も吐瀉物をぶちまけた。
先ほどまで、男以上に情緒の安定していなかった妹がここまで冷静なのにも違和感、あるいは恐怖すら覚える。
爆破は止んでいる。
男はもうすでに嫌な予感がしていた。
受け入れたくはない現実というものが彼の中でせめぎ合い、胸からお腹のあたりが絞られるような感覚。
妹「どこかに隠れよう?もう助けてくれる人も来たみたい…」
意識していなかったのは確かだが、それを聞かされて初めて男の耳にヘリの騒音が入ってくる。
そうだ妹の言う通りに身を潜めてやり過ごそう。
あの人たちが助けてくれる。
その時ちょうど妹の体が強張り、額から鉛のような汗が滴っているのがわかった。
男も後方に視線を移すと、やってきたのは殺人鬼だ。
なぜこのようなことをしているのか分からない。理解しようとも思わない。
ただわかるのは、そいつが人を爆殺して愉しむクレイジーな野郎だってことだ。
男「逃げよう」
妹が冷静にしてる分、兄である男も何とか冷静さを取り戻した。
爆弾魔「お、逃げるのか…いいね、もっと楽しませてくれよ。ああ、殺した時の表情が愉しみでしょうがねえ…」
男と妹は肩を並べて走り出す。
このとき男は逃げるのに必死である変化に気づいていなかった。
入り組んだ区画に入る、基本的には大通りの多いテーマパークだが、少しだけ幅の狭められた区画も存在する。
碁盤のように綺麗に整理された区画は、曲がり角が多くて撒くのには丁度いい。
男たちは走り回り、そのスペースを抜けて先ほどとは違う広場へと出る。
妹「お兄ちゃん!危ないっ!!」
聞こえる妹の叫び声。
瞬間、視界の端に捉える赤い点滅ランプ。
妹はいち早く視認し、異様な反応で男と爆弾の間に割って入った。
男を逆方向に突き飛ばした直後、とてつもない爆発が周囲を飲み込む。
男は軽く数十メートルは吹き飛ばされる。
とんでもない圧迫感が男の胸を押さえつけるが、それは一緒に吹き飛ばされた妹だった。
奇跡的に、男は片耳と肋骨、あばら、計数か所の骨折で済んだ。いや、済んだといっても大怪我には変わりない。
対する妹に男は目を疑った。
無いのだ。
右足と右手が無い。
そこから流れ出る鮮やかな赤色を目にした男の顔は、真っ青に染まっていく。
男はもはや痛みなど感じないほどに感情は不安定になっていく。
男「…………妹、起きて……」
擦り切れそうなほど、か細く、情けない男の声は硝煙に包まれて消えていくようだった。
動かずに目も開けない妹を抱きしめるしかできない。
男の目からはとめどなく涙が溢れる。
爆弾魔「あー、仕掛けたやつで死んじゃったの?直接、殺りたかったんだけどなぁ…」
遠くの方で何やらぶつぶつ聞こえるが何も入ってこない。
男はこの時、人の死を間近で見て初めて家族は全員死んだと実感した。
悲しみやら何やらを通り越して広がってくるのは虚無感。
男ももう死ぬしかないと思っていたが、不意に全身が熱くなる。
頭には血が昇り、堪え切れないほどの痛みが突如として襲ってきた。
男「うう…うぅぁ………」
悲しくて呻いているのではなく、引きちぎれそうな痛みに呻いている。
なのに頭はすこぶる冴えきっている。
何ともおかしな感覚だと男は感じた。
爆弾魔の方は彼の気が狂ってしまったと、特に気に留めるようなこともせず近づく。
距離は軽く20メートルは離れている。
ゆっくりと、それまでの瞬間を愉しむように近づいてくる爆弾魔。
突如、上空から聞こえてくる風切り音に彼は足を止めた。
気づけば真上の上空に一機のヘリが飛行していた。
風切り音の正体は数名の男女の降下。
全員がマスクを被っていて顔の印象はわからない。
いかにも特殊部隊であろう制服を着用し、一人は帽子を身に着けている。
他は黒の短髪が一人、茶の短髪が一人、ブロンドの長髪が一人。
特徴と言えばそれくらいしか区別がつかない。
隊員1「隊長、ターゲットを確認、照合、A級犯罪者と特定」
隊長「ご苦労。これより、当目標をA級から特A級の能力犯罪者に指定。生死を問わず戦闘能力の無力化を実行する」
隊員1「了解。…全部隊へ通達する」
若い男の声だ。彼が隊長と呼ばれた男の発現を復唱する。
隊長「追って指示を出す。我々第一小隊は当目標と接触した。これより戦闘に移行する。他の部隊は生存者の救命を優先しろ」
隊員1「…了解。………隊長、全部隊の了解を確認しました」
隊長「隊員1と隊員3は私のサポートを頼む。隊員2は周囲に生存者がいないか索敵をし、いた場合は保護をしろ」
隊員たち『了解!』
隊員1とこれまた若い男の隊員3が隊長の後方に構える。
隊員2「ご武運を!」
隊員2と呼ばれた若いブロンドの女は敵にあっさりと背を向け、数秒誠意視した後に男たちの方を向いた。
隊長「悪いが楽しむ時間はない」
隊員1「………分析完了。体内のエネルギーを圧縮し、爆発的に体外へ放つことで、文字通りの爆発を起こせるようです。極めて危険な能力と判断します」
隊長「ご苦労。隊員3は俺の能力をサポートしろ」
隊員3「了解っと!…細胞の活性化を確認、強化は完了しましたよ」
爆弾魔「ごちゃごちゃやってんじゃねえよ!」
吠えた直後、拳一振りで爆発が発生する。
隊長、他2名は爆炎に飲みこまれた。
×××
隊員2は男たちの側まで来るとしゃがみ込み、マスクを外す。
碧眼で綺麗な顔をしていた。
隊員2「あなたたち…!!応急処置が必要ね…」
冷静に状況を把握し、他部隊に通信を始める。
一方で男はなおも苦しんでいた。
熱は増していくのに対し、頭の冷静さが気持ち悪い。
そして妹をこんな姿にしたやつが憎くてたまらない。
気が付けば男はすぐ傍にあった大きな瓦礫を片手で鷲掴んでいた。
男「あぁぁ……!」
妹を抱えたままどこからそんなバカげた力が出てくるのか…。
まさに火事場の馬鹿力というところか…。
隊員2「!…どうしたの!?落ち着いて!」
隊員2の制止も聞かずに男はそれを爆弾魔に投げつける。
×××
爆弾魔「いひひひひっ!!どうしたどうした!?」
血が沸き、興奮する爆弾魔に巨大な瓦礫が飛んでくる。
爆発で壊そうにも、一瞬判断が遅れ、大きめの破片が直撃する。
呻く爆弾魔。
その目線の先に捉えたのは、憎しみのこもった目で睨んでくる男だ。
鬱陶しくて、先に消してしまった方がいいと判断した爆弾魔は、一息のうちに男の前まで飛んでくる。
爆発を上手く利用しての加速、跳躍だ。
爆弾魔は男の腕と足が無くなっていたのに気付いたが、男の首を持ち上げ宙ぶらりんにする。
それともう一つ違和感があるように思えた。
爆弾魔「何で、そっちのガキが無傷なんだ?」
爆発をもろに受けたはずの妹がすっかり綺麗元通りになっている。
隊員2「その子を離せ!」
硝煙に紛れて隊員2がナイフで切り付けるが、そちらを見ずに爆弾魔はさらに爆発を起こす。
男のことはこれ以上傷つけないようにしたのは、新たに芽生えた知的好奇心からか…。
隊員2はというと、見えない力に引っ張られ、隊長の後方へと飛んでいく。
どうやってか、わからなかったが隊長、隊員三人とも無傷だ。
隊員2「隊長、助かりました。感謝します…と言いたいところですが」
隊長「ああ、不味いことになったな」
簡単に言えば人質を取られたということだ。
首を掴まれている男。
その側には、なぜか無傷で倒れてる女の子。
そして今回の主犯の殺人鬼。
爆弾魔「よお、お前どうしてそんなんなってんだ?」
男「知るか…」
爆弾魔「答えたくねえんなら死ぬだけだ。後でそっちのガキも送ってやるから安心しろ。一人じゃねえ…」
こんなに嫌な一人じゃないは初めて聞く。
男の頭はなおも冷静だ。
しかし、今回の痛みは誤魔化しきれない。
急に体に違和感が生じたと思いきや、まさか自分の手足が無くなってるなんて思いもしなかった。
その代わりと言ってはなんだが、妹の手足が元通りに、いや、手足だけでなく悪いとこ全部が治ったようだった。
痛い体に鞭を打ち、残った左手で自分の首を掴んでいる腕を掴む。
再び熱がこもり始める男の体。
痛みでどうしても叫び声が出てしまうのだが、突然、爆弾魔の方も叫び始める。
爆弾魔「ぐっ…ぎゃああああぁぁぁ!!」
隊員1「隊長、チャンスでは!?」
隊長「待て!!」
目を離さずに見ていた隊長が待機命令を下す。
隊長「様子がおかしい…」
隊員3「そりゃ誰が見てもわかりますよ…」
隊長「違う。人質だと思い込んでた方だ…」
男の体はみるみるうちに修復されていく。
能力者の行える治癒なんてレベルではないように、隊員たちには思えた。
隊員2「あれほどの治癒能力…。今まで見たこともありません…」
隊長「ああ、私もだ。それに…」
と区切って見つめる。
爆弾魔の方は片手足が無くなり、口から大量に吐血を繰り返す。
存在しなかった傷口が次々と開いていき、そこからも出血が止まらない。
あっという間に致死量の血を出して、地に沈んだ。
男の方も気を失い、妹の隣に倒れた。
隊員3「これ、ちょっとヤバくないっすか…?」
隊員2「どっちが?」
隊員3「男の子に決まってるだろ」
隊長「彼らを優先して保護しろ。全小隊に連絡、当目標は対象の死亡をもって達成された、全部隊は引き続き生存者の捜索を行え」
隊員1「了解。………全部隊に通達、全部隊からの了解を確認しました」
隊長「ご苦労、我々も救命にあたる」
『了解!』
×××
男の家族は一瞬にして奪われた。
能力の使用は一歩間違えれば大惨事になりかねない。
今回はその最たる例でもある。
たった一人の能力者が生んだ死者は4000人に上る。
負傷者は6000人を超え、歴史に名を刻むほどの被害が出てしまったのだ。
ところで、能力というのはいつ、どこで、誰が、なぜ、どのような能力に目覚めるかわからない。
確かに言えるのは、男の感情が著しく昂った。…といったところだろうか。
しかし能力とは必ずしも便利なものばかりではない。
今回はたまたま望ましい能力が得られたが、そんなことは稀である。
これからの男の行く末はどのようなものになるのだろうか…。
ただ、もう元の生活には戻れないだろう。
その2終了しました。
書き溜めはゼロなので、期間空きます。
その3でまたお会いしましょう。
ご意見やご感想、ご質問等々、あれば仰ってください。
参考程度に
男「SS書いたからちょっとみてくれ」友ABC「おk」 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1417873532/)
>>67
どうもありがとうございます。
第一章なんかもろ当てはまってますね。
もう余計なことは書かないようにします。
おつでー
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