櫻子「短篇を書くらしいよ?」 (18)


ゆるゆりの短篇を書きます

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櫻子「向日葵のキスは甘くなんてない」


はじめてのキスは血の味だった。


「あいたー!」

私は唇を抑えて叫ぶ。

「噛むなよ、バカ向日葵!」


「なっ、噛んでませんわ!」


「もーやだー」

至近距離にある向日葵の顔を押しのけて、ごろりと床に寝転がる。

「ちょっ、櫻子……」

「もー、いーよ、向日葵」


こんなのって最悪。

キスは甘いって漫画に書いてあったから、本当かどうか試してみたかっただけなのに。
甘い味なんてぜんぜんしない。

櫻子様の教訓。

漫画に書いてあることは、ほんとうとは限らない。
おしまい。

「あーあー、現実もキスも甘くないなー」
私はひとりごとをつぶやく。


「なによ……」

それを聞きとがめて、向日葵が言う。
怒ってるみたいな声だ。

「悪かったですわよ、甘くなくて。ちょっと失敗しただけなのに……私だって」

「ぶつぶつ言うなよなー」

「あなたが最初に……」

「あーもう、うるっさいなー!」
ガバリと起き上がってうるさい女を睨む。
「……」
怒鳴りつけてやろうと思ったのに、なのに、言葉がのどの奥で消えてしまった。



「なんですの、バカ櫻子。人の顔をそんな風に見ないでほしいですわ、バカ」


向日葵はいつもみたいに勝ち気な声で私のことをバカバカと言う。

瞳には涙をいっぱいにたたえながら。

「向日葵……泣いてんのか?」

「泣いてません!泣くはずありませんわ!」

「いや、どう見たって泣いてるし」


「むしろ泣いてるのは櫻子でしょう!?」

「なんでだし、私泣いてなくね!?……いや、ほんと、マジさ……なんか、ごめん……泣くなよ」

「泣いて……ないって、言ってるのに……」

向日葵は腕で顔を覆い隠す。

私はおずおずと向日葵に近寄る。

向日葵の身体中から、悲しみの気配が漂ってきて、動揺してしまう。
身体を震わせて嗚咽を漏らす今の向日葵の姿が、記憶のなかの小さな女の子の姿と重なる。


あ、ひまちゃんだ。
ふとそう思った。
ひまちゃんがここにいる。

そうだ。
昔から向日葵はこうだった。
大人っぽくて、私になんでも教えてくれるのに。
ちょっとうまくいかないことがあると、すぐに泣きだしてしまう女の子。

かわってない。
いつもガミガミうるさくって、喧嘩ばっかりしているから、そんなことも忘れてしまった。
向日葵がずっと昔から、同じ『ひまちゃん』だってこと。


「向日葵、ごめん」

「うるさい、ですわ」

「なあ、腕どけて」

「いや」

「泣いてないんだろ?顔みせてよ」

「いや、いや」

「いいから見せろ」
らちが明かないので向日葵の腕を乱暴にひっぱって、顔を上げさせる。



「あはは、すげえ顔」


「死ね」
向日葵は抵抗もせずに、鬼のような目で私を睨みつける。

「オブラートに包めよ」

「死ね、死ね!」

あんまりうるさいから、うるさい口をふさいでやった。

今度は私から。
もう失敗しないように。


キスが甘いなんて嘘だ。

はじめてのキスは、とてもしょっぱい。

それから、胸が痛くて。

泣いてしまう彼女が。

泣かせてしまった彼女のことが。

なぜかたまらなく愛おしく見えて。


その日、何度も「かわいい」って言ってしまったこと、今でも一生の不覚だと思ってる。



終わり。

こういう感じのSSを2、3個載せようと思います
今日はここまで

わぁーい百合あかり百合大好き

わぁーいさくひまあかりさくひま大好き

三期効果出始めたな

今日は千歳と千鶴の誕生日!

おおう、期待してる

待ってる

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