男「息を止めている間、対象の動きを止める能力?」 (34)


男「……なんだこの事件」

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男が重い瞼を開けた。

これからすべきことを思うと全てが重い。


良いことではない。


悪だ。


現在の男


男「うおおおおおお……!!」

フラン フラン

男(止まれ……!!止まれ……!!)

男の目線の先には蛍光灯から伸びている紐がフラフラと揺れている。

男「ぬううう……!!」ズズズ

グルドかな?

グルドかな?

ぼろ雑巾……


男が目に力を入れると、揺れていた紐の動きが鈍くなる。

男「……!」(よ……し……!)

男(自然と止まる前に……止める……!)

……ピタ

紐が不自然な位置で静止した。


男「……!!」(まだまだパワー不足なのか……?紐でさえ止めるのに5秒はかかる。心なしか息も苦しくなるのが早いっ……!)

男「ぷはぁっ!」

男が息を吐くと、紐はまた揺れ始めた。

男「ハァハァ……まだまだだ……」

男「もう一度……」


トントントン……

男(この足音!母ちゃんだ!)

コンコン

母「男〜学校遅れるわよ〜」

男「わかってるよ。すぐいく」(遅刻したことないのに毎回起こしに来やがって……自分で起きてるっての)


佐野かな?


男(この奇妙な力に気付いたのは3週間前の月曜)

男(ある事件がきっかけのようだった。それからだ、日常の中で違和感を感じることが増えたのは)

男(一瞬だけ蛇口の水が止まったように見えたり、虫が不自然に空中で動きを鈍らせる)

男(最初は半信半疑だったけど、1週間前に確信へと変わった)

男(息を止めている間、見てるものの動きを止める能力があること)


男「とはいっても……」

男(まだ蛍光灯の紐すら満足に止められない。5秒はかかる)

男「風呂で息止めとかしてるんだけどなあ」
ブツブツ

姉「階段であんたなにをブツブツ言ってんの?」

男「姉貴」


男「考え事してたんだよ。てか姉貴、学校は?」

姉「今日は講義休止になったの。午後から派遣のバイト入れたわ」

男「そう……」

姉「あんたは今日はバイトあんの?」

男「あるよ。18時から」

姉「それならバイト先で電池を買ってきてくれない?自転車のライトが点かないの」

男「いいよ。単三でいいの?」

姉「うん。あとでお金渡すわ」


男「お金はいいから帰ってきてから課題を教えて欲しい。どうしても英語が分からん」

姉「いいわよ。W大生が教えて電池が代金なんてかなりお得ね」

男「弟の特権だよ」ハハ


学校

友「男〜!」

男「おー、友。おはようー」

友「見てくれ!これ!」

男「え?靴……?おお!!これお前欲しがってたやつじゃん!!」

友「いいだろお!?金に余裕無かったんだけど、かっちった!笑」

男「ハハッ、かっけえなー」

友「マジで最高だぜー!あ、そういえば茶髪がお前のこと探してたぞ。さっきすれ違ったんだ」

男「茶髪?」


茶髪「あ、男」

男「おっす。どした?友から呼んでるって言われてきたんだけど……」

茶髪「いやさ、なんか最近変なことが周りで起きてるのよ」

男「変なこと?」

男(なんだ?学校では能力使ってないからそれ関連ではないと思うけど)

茶髪「帰り道に視線を感じたり、下駄箱が空いたままだったり」


茶髪「少し怖いから男に調べてもらえないかなって」

男「別にいいけど……」

男「さすがにずっと下駄箱見張ってたりはできないぞ?帰り道を送るくらいしか」

茶髪「充分ありがたいわ。ごめんね、こんなの頼んで」

男「頼ってくれるのは嬉しいよ。今日バイトあるから家までは送れないけど、途中まで送ってくよ」

茶髪「ありがとう」


帰り道

茶髪「そろそろ別れるね」

男「うん。ここまでくれば大丈夫だろ。問題が起きなくてよかった」

茶髪「視線も感じなかったわ。男がいるからおじけづいたのかもね」

男「ハハ、そんな威圧感ないよ」

男「んじゃ、ばいばい」

※この物語の登場人物は全員緑色です


「おっと、見張りが離れたぜ兄貴」

「なんだと?!本当か!?」

「おう。でもあの子の家まで距離が無さ過ぎるなー。すぐ着いちゃうよ」

「関係ねえ!今日こそはと思ってたんだ!今日じゃねえとダメなんだ!」

「行くぞ!ヒゲ!」

ヒゲ「まじすか兄貴……」

ハゲ「もたもたすんな!」


男(これからバイトとか面倒くさいな……バイト中に能力の練習でもしてよ)

きゃああああ!!

男「!!」(茶髪の声!?)

男「まじかよッッ!!」ダダッ

グルトか期待

茶髪「な、なんですかあなたたち!?」

ハゲ「あ、怪しいものじゃないんだ!だからそんな悲鳴をあげないでくれ!」

ヒゲ「スキンヘッドでいきなり目の前に立たれたら怖いよ兄貴……」

ハゲ「お前は黙ってろ!これからなんだから!」

茶髪(男と別れてからすぐに……!つけてたのね!)

ハゲ「じ、実は俺……

男「茶髪ーっ!!」ザッ

茶髪「お、男!!」


男「こ、こいつらか!ストーカーは!」

男(ハゲとヒゲ面とは……見るからに怪しいぜ!)

茶髪「急に前から声をかけてきたの……」

ハゲ「なんだテメェは!邪魔すんじゃねえ!」

男「あなたたちこそ何者ですか!茶髪に何か用でも?!」

ハゲ「そ、その、ちょっと話したいことがあんだよ!」

男「この場でいってください!」

ヒゲ(いえるわけねえ……ずっと前から好きでした、なんて……)


ハゲ「ああああ!!もう面倒くせええ!」

男「!?」

ヒゲ「あ、兄貴!!」

ハゲ「止めるなよヒゲ〜ッ!!」ブンッ

男「ま、まじかよ!?」(殴りかかってきやがった!)

茶髪「男!!」

男(こんな大質量のパワー止められねえ!)

バギィ!!


男「ぐふぉお!」(い、痛えええ!!)

ハゲ「ふん!寝とけ!」

男「な、ナメんなよハゲ野郎!!」ブンッ

ハゲ「そんなの当たるかモヤシ!」サッ

ハゲ「おらあ!」ドゴォ

男「ぐうぅッ!?」

ヒゲ「流石兄貴……逆ギレに加えて理不尽な暴力……」

男(ち、茶髪を家に帰せばいいんだ!ケーサツ呼んでもらうしかねえ!)

男「茶髪!家に帰れ!」

茶髪「えっ、でも男が……

男「いいから!ケーサツ呼んでくれ!こいつら押さえておくから!」

ハゲ「あぁん!?」


茶髪「わ、わかったわ!すぐ呼んでくる!」

ハゲ「クソお!待ってくれえ!」

ハゲ「ヒゲ!追え!」

ヒゲ「あいよ!!」

男「どっらあああ!!行かせるかぁぁあ!」ダイビングタックル!

ヒゲ「ぎゃあっ!」

男「ふぅ……!ふぅ……!この悪漢どもが!しょっ引いてやるからな!」

ハゲ「ちっ、面倒くせぇ野郎だな……!!」

ヒゲ「大したタフネスだね」

ハゲ(やっちまうか……)ずずず


ハゲ「おいこら」

男「なんだよ!?」

ハゲ「俺が今から5秒だけ動かないで置いてやる。痛い目に遭いたくなけりゃその間にどっかいけ!」

男「はあ!?何言ってんだお前!?これからケーサツがくる!それまでここに居てもらうからな!」

ヒゲ「あ、兄貴まさか……」

ハゲ「……5. 4. 3. ……」

男(なんだよいきなり……大人しく数字数えやがって……)

ハゲ「……1. 」

ハゲ「ゼロ……だ!!」ダッ

男「また殴りかかってきやがって……!」

ハゲ「うらぁあ!」ブゥンッッ

男(普通のパンチじゃねえか。避けられッ!?)ググッッ

男「な、なっんだ!?体が!?」

ハゲ「ああ!!」

男(引き寄せられっ「ブフッ!!」バギィ!





男「がぁぁあ……!!」(な、なんだ今の感覚は……!?体がハゲのほうに引っ張られたような……)

ハゲ「どうだ?痛えだろ?」

男「このやろう……!」ズキズキ

ハゲ「もう一発くらいてえか?食らいたくねえよなあ?」

ハゲ「3秒やる」

ハゲ「どっかにブフッ!? バギィ

男「うるせえー!変なことしやがってハゲ野郎が!」

ハゲ「……いい度胸だ」

ハゲ「もっかいやってやらあ!!」ダッ


ハゲ(最近身に付けたこの妙な力……!)

ハゲ(『モノを引きつける力』)

ハゲ(パンチと合わせて使えばカウンター効果も相まって相性バツグンよ!!)

ハゲ「うらぁあ!」ブンッ!

男「ぐぎぎ!!」(ま、まただ!引き寄せられる!)

男「な、んなんだこれぇ!!」



ハゲ「!!」(引力が重くなった!
引き寄せられることに気付いたか!)

ハゲ「でもそんなの関係ねえ!」バギィ!

男「ブフッああ!」ズザァ

ハゲ「ハァハァ……どうだ、諦めたか?」

男「うぐぅぅう……!顔痛えぇ……!!」

男(なんだこいつ……!さっきからあいつの拳に俺が引き寄せられるみたいだ……!まさか……俺と同じで超能力でも持ってんのか……!?)

ヒゲ「兄貴、そろそろ撤退して次回にしようぜ。マジでケーサツがくる」

ハゲ「……そうするか。今回にかけてたんだけど、邪魔も入ったし……」

男「い、行かせるか……!」ググっ

ハゲ「……もう一発入れてから帰る」

ヒゲ「しつけえなあ」

男(な、なら俺だって……)


ハゲ「くそがあ!!」ブンッ

男「……!!」(息を止めている間、対象を停止させる……この力で……!!)

男(瞬きの隙を狙う!)

男(いまだ!!)ピキーン!!

ハゲ「!?」(な、なんだ!?)

ハゲ「め、目が開かねえ!?」ググ……!

男(……!!体は無理でも……瞼なら……!!)

男「ぷはあ!!」

ハゲ「うおおー?!空いた!」パチクリッ

男「ハァハァ……たまたま……タイミング合っただけか……難しいし息が続かねえ……!」ブツブツ



ハゲ「ブツブツ何言ってやがる!」ブンッ

男「くぅ!」サッ


男(くそっ……もっと力が使えれば……!!)

ハゲ「おらぁああ!」ブンッ

「コラーーーッッ!!」

男・ハゲ・ヒゲ「!!?」

警官「なにをやってるんだお前らぁ!!」

ハゲ「や、やべえ!行くぞヒゲ!」

ヒゲ「あいよ!」ダッ

警官「待てコラァ!」ダダッ

男「よ、よかった……警官が来てくれた……」ヘタリ

茶髪「ごめんね!男!なるべく早く呼んだんだけど……遅くなっちゃって」

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