島村卯月「この世界で平和の為に冒険する」Part3 (647)

 アイドルマスターシンデレラガールズのキャラクターをファンタジー世界で活躍させてみた。
異世界ワープものではなく、まさに直接その世界に彼女達がいる設定です、
イメージと異なる役職、若干の性格改変、言動があります。

・世界観が異なる故のオリジナル設定があります。
・ルート分岐でアンケートを求める場合があります。
・キャラクターが大きな負傷を負う可能性もあります。
・Pに該当するキャラやオリキャラはモブを除き、絶対に主要人物になりませんし登場もしません。
・以上の都合上、一部キャラが大きな『悪役』を担う可能性があります。
・サイマスとグリマスのキャラクターは登場させません、これはシンデレラガールズ基準です。
・登場させたからには、キャラの出番は一度で終わらせません。
・エログロは皆無とは言い切れませんが、メインに据えたり濃密に書くつもりはありません。
・この注意事項は増減添削される可能性があります。

 現段階でも、後の追加でも、納得できないもしくは気に入らない、許せない点がある場合は
申し訳ありませんがブラウザバックを推奨させていただきます。



あらすじ

 突如現れたアイリ(十時 愛梨)から、願いが叶う秘宝“灰姫の経典”通称シンデレラを譲渡されたウヅキ(島村 卯月)。
その夜に村が野盗に襲われ、なんとか親友のリン(渋谷 凛)とミオ(本田 未央)と協力し、撃退したものの力不足を痛感。
経典に“皆を守る力”が欲しいと願った彼女達は、世界各地を周り成長の道へと進む事に。

第一幕から第八幕までのあらすじはPart2のスレを参照。

・前スレ
島村卯月「この剣と魔法の世界に平和を取り戻す」
島村卯月「この剣と魔法の世界に平和を取り戻す」 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1405913544/)

島村卯月「この世界で平和の為に冒険する」Part2
島村卯月「この世界で平和の為に冒険する」Part2 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1412172732/)

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1423232909

~第九幕~
 襲撃を行ってきたリサ(的場 梨沙)とハル(結城 晴)を引き渡すと同時に、
現在最も信頼を置いている、この国家が敵に回っていないかを確認するために本部へと向かう。

 一方、国家『ウィキ』ではNoA(高峯 のあ)が警戒を深める。
新たな来訪者はかつて魔術教会幹部として所属していたアナスタシア(アナスタシア)、
経典の所有者を調査しにホタル(白菊 ほたる)から命じられたマキノ(八神 マキノ)、
様々な事件に巻き込まれる形で転々と居場所を移していたノノ(森久保 乃々)など。

 ウヅキら三人とアカネ(日野 茜)が待機している店内ではマキノとタクミ(向井 拓海)が乱入、
ソラ(野々村そら)、亜子(土屋 亜子)も遅れて合流、他にも新たにミサキ(衛藤 美紗希)と
ツカサ(桐生 つかさ)と接触。騒動を起こすが、同じく居合わせていた何者かに仲介され事なきを得る。
その頃本部ではリサとハルが本部側の人間であるはずのチナツ(相川 千夏)の手により解放され
二人をチナツ自身が率いるグループに寝返らせようと交渉を始める。

 単独行動中のリンに、かつて『エプリング』で経典を狙って交戦したユウキ(乙倉 悠貴)が接触してくるがこれを制圧、
合流したウヅキが先程店内で遭遇していたマナミ(木場 真奈美)と接触、
さらにマナミを狙って攻撃を仕掛けてくるキラリ(諸星 きらり)とも遭遇、そのまま勝負の場に発展する。


~第十幕~
 盗賊一団に監視されている小さな農村『クラトラ』で呉服屋を営むアズキ(桃井 あずき)の元に
別の世界線から架空の人物としてアクセスする、少し変わった一人の少女サナ(三好 紗南)が訪れる。

 サナ自身に与えられた能力、他人を仲間として複製する力を用いてランコ(神崎 蘭子)とカイ(西島 櫂)を協力者に、
野盗一派を村から追い出すと約束、だがこの世界に一時間ずつしか存在することのできない彼女は立ち回りに苦労する。

 また、余りにも実力差がありすぎるカイをコントロールすることもできず、あちこち振り回される。
同時にカイ側から条件も提示され、その目的のためにこれから旅をする事を決定、村を後にする。


~第十一幕~
 地下空間へ勝負の場を移したウヅキ、マナミ、キラリの三人だが
謎の乗り物や強引な打ち合いの甲斐あってキラリから逃走することに成功する。

 ちょうどその頃、交渉を通して協力する道を選んだリサとハルが本来の上官から通信を受ける、
連絡不十分が重なり危険な状態でチナツに早速助けを求める。
チナツが部下のナホ(海老原 菜帆)を連れ、リサたちの上官であるチエリ(緒方 智絵里)と遭遇、
互いに互いを探り合いながら、両者共に利用する形で共同の作戦に移る。

 ユウキを確保していたミオの元にウヅキが合流、
ここでマナミがアンズ(双葉 杏)の、キラリがトキコ(財前 時子)の指令でウヅキ達に接触してきた事を知る。
同時間帯、リンがノノと接触。 そして後日開催される、秘宝の一つである“栄光の聖剣”を手に入れる為の試験で
チームを組むメンバー探しをしていたイズミ(大石 泉)とも面識を持つ。

 次の目的がはっきりと明示されない中、ウヅキがマナミに受けた恩を返すために彼女の本国へ、
自身の力で手助けに向かうと決定、三人とアカネ、ソラは国家『キュズム』へ向かう。

~第十二幕~
 魔術協会幹部生ヤスハ(岡崎 泰葉)が迎えた一人の弟子、ランコ(神崎 蘭子)の提案により
彼女の友人で、かつて同じ学校所属だったカコ(鷹富士 茄子)を引き抜きに向かう。

 道中、前回の騒動の際に共に協力したミレイ(早坂 美玲)と遭遇し、行動を共にしていると
ミレイの過去の因縁であるユイ(大槻 唯)と、彼女の仲間であるショウコ(星 輝子)にも遭遇、衝突する。
結果的にユイが三人を制圧、ランコの杖を奪っていこうとした際にヤスハが到着し、事態は収束する。

 まだ基礎がしっかりと成り立っていないカコの戦闘と結果を見て、
放っておくには危ういと判断し、ランコと当初の予定通り、ヤスハは彼女を手元に迎える。


~第十三幕~
 ウヅキ達がマナミに同行し、国家『キュズム』の本拠地へ訪問。
代表であるアンズと対面、ほぼ同時に構成員であるトモ(藤井 朋)、アオイ(首藤 葵)とも接する。
その時、新たな経典の指令“翌日を待て”との不思議な指示だがこれに従い、城内で宿泊。

 翌日の朝、ミズキ(川島 瑞樹)の配信する情報に“経典の所持者が現れた”という掲示。
本物の経典はウヅキが持っているにも関わらずの情報に困惑、そして発表の時刻、
映像に現れたフミカ(鷺沢 文香)が持ち出したのは製作者のアイリ(十時 愛梨)にも“ほぼ同じ”とまで言わせる完成度、
だが一つの欠落、問題が発覚。早めに解決しなければならない課題に三人が動けない代わりにアイリが直々に向かう。

 アイリが三人と離れた入れ替わりに経典を狙う刺客が接近、
警戒状態の城下でソラとアカネに重傷を負わせ、ウヅキ達三人を拉致する事に成功する。
急遽帰還したアイリが三人と教典の移動先を突き止め、救援を求めに奔走する。


~第十四幕~
 国家『コドライブ』に拉致された三人を救うためにアイリがカイに救援を求めるが拒否される。
同時に、カイから不穏な噂を仕入れ、単独で救助に向かうことを決意。

 拉致された先ではウヅキがユミ(相葉 夕美)、リンがユウ(太田 優)、ミオがナナミ(浅利 七海)と対峙、
別の場所では国家代表のサエ(小早川 紗枝)と拉致の実行者ユカリ(水本 ゆかり)も滞在している。

 そこに乗り込んだアイリと、カイが寄越した増援であるユウコ(堀 裕子)が到着、
三人も合流後、地下の牢獄からユミを退けて脱出、経典を取り返すために奔走。
アイリ側ではナナミ、ウヅキ側ではユウと配下スズホ(上田 鈴帆)と交戦する。

~第十五幕~
 コトカ(西園寺 琴歌)の元から逃走したチアキ(黒川 千秋)とユキミ(佐城 雪美)、
逃走経路に選択した森林の内部で正体不明の襲撃を受けるが、近くの村の守り人であると判明、
マリナ(沢田 麻理菜)と名乗る女性が守っている村はウヅキ達の故郷『アルトラ』だった。

 ユキミを守ると豪語するチアキに対してマリナが忠告を行う、
いつの間にか尾行していたミズキもユキミと接触、互いに短い会話を交わし、
さらにチアキ達を追いかけてきた刺客から、忠告を受け取ったチアキがユキミを連れて逃走。

 ……という過去の新聞記事を閲覧したミヤコ(安斎 都)が図書館を後にすると
路地裏でかつてミヤコが究明に一役買った通り魔事件と似た事例に遭遇、
現場で大怪我を負っていたと思わしきアツミ(棟方 愛海)と、怪しい気配を察知したNoAも合流、
特に見た目では異常性が感じられないはずのアツミを危険因子と認定し、連行する。


~第十六幕~
 一度はウヅキ達が退けたユミとユウコが交戦の末、ユミが逃走し決着。
アイリの方も退けたはずのナナミにしつこく追尾され、苦戦する。

 ウヅキ達はついに教典を奪ったサエの元に到達、奪還を試みるが最後の構成員カレン(北条 加蓮)がそれを阻む。
ユカリも滞在している最上階、人数が同数の勝負にアイリとユウコが到着、経典を奪還する。

 そのまま国家の撃破まで試みるが、サエの策略により強制的に追い返される。
なんとか元の状態に戻ったウヅキ一行は、再度『キュビズム』に踵を返す。


~第十七幕~
 通り魔事件の夜から姿を隠したタマミ(脇山 珠美)が、自身を確保する為に動いていたキヨミ(冴島 清美)に遭遇。
一時はタマミが押していたがキヨミが本格的に拘束を開始し、術中に陥る。

 後日、事件当日に巻き込まれたミク(前川 みく)の元へ、キヨミが訳を説明し、
自身の監視下に置いているから驚異は去ったと報告、その場にはケイト(ケイト)も同席していた。
NoAとミレイも集い、キヨミの成果を見届けるが実際はタマミの主人格が表に出ないようにしているだけ、
その強制力でタマミを誰にも感じられないように拘束していた。

~第十八幕~
 経典の存在を公表したフミカの元に、いち早く放送から情報を得て現場にたどり着く人物が現れる。
願いを叶う教典を求めて、天使の存在する天界を探すメイコ(並木 芽衣子)が、
そしてサキ(吉岡 沙紀)とエリカ(赤西 瑛梨華)がフミカごと強奪を試みるがドサクサでメイコがフミカを連れて脱出する。

 一方、教典の三人が姿を消したアンズの元で作戦会議、
交戦している相手国の首領であるトキコやキラリに加えてカナ(今井 加奈)、シズク(及川 雫)も動き出す。
そこに帰還したウヅキ達と、チナツから送られた来たハルやリサ、チエリ達も集まり、混沌とした戦いが始まる。

 アカネ、ソラ、マナミ、トモを連れて向かった戦場で、確保して道具を没収したはずのユウキと交戦、
アンズの指令で帰還したミサト(間中 美里)と戦場の状況変化で大部分を退けることに成功こそするが、
一瞬の隙にトモがトキコ側に拉致され、この戦いは決着する。


~第十九幕~
 各地で活躍の場を広げ、短いながらも功績を残しているサナのおかげで繁盛するアズキの店、
久々にサナが戻ってきたタイミングで大きな客が来店、国家『エプリング』のコハル(古賀 小春)と
その護衛ルーキートレーナー(ルーキートレーナー)とマスタートレーナー(マスタートレーナー)が訪れる。

 サナが新たに複製として用意していたサチコ(輿水 幸子)が、能力の制約である本人との接触を行ってしまい消滅、
その自体が誤解を与えてしまうが説明の末に誤解を解き、平穏無事に収束する。

 その後、アズキの店に連日来訪者が現れる。
サナに接触するために訪れたヒカル(南条 光)、数多くの護衛を引き連れてアズキをスカウトに来たトモエ(村上 巴)。
名前を知る事は出来なかったものの、他にも数名の来店があった。


~第二十幕~
 国家『サミスリル』へ次の指針を決定したウヅキ一行、秘宝の一つ『栄光の聖剣』争奪戦の報を得る。
道中で目的をそれとするアコ、イズミ、そしてサクラ(村松 さくら)と合流、行動を共にする。

 会場ではかつて交戦したサナエ(片桐 早苗)とタクミ(向井 拓海)、交流のあったトモカ(若林 智香)、チヅル(松尾 千鶴)、
そして新たに接触したサキとナオ(神谷 奈緒)も共に挑戦、運営側のツカサとモモカ(櫻井 桃華)が提示する課題に挑む。
二回戦では新たにセイラ(水木 聖來)とヘレン(ヘレン)が課題を繰り出す。

 好きな課題で挑む事が出来る勝負に対して直接戦闘で勝利を奪いに行くタクミとサナエ、
予想よりも遥かに高い技術、戦闘能力で攻防を行うヘレンに対して、“勝利できる課題”を捜索する。

~第二十一幕~
 ハルナ(上条 春菜)、ミレイが用事で訪れた国家『シオン』でコトカの騒動で遭遇した二名、
ナツキ(木村 夏樹)、リイナ(多田 李衣菜)の提案で人形が展示されている博物館へ見学に向かう。

 途中、目的を同じくするアヤ(桐野 アヤ)が同行し、目的の場所へ到着。
一通り観覧後、雨を理由に館内に留まっているところ、数々の不思議な現象に遭遇、
その正体はコウメ(白坂 小梅)による五人への攻撃、特殊な状況下と予測できない攻撃と目的に苦戦、
ちょうど同じ館内にいたノノも巻き込み、館内を逃走と捜索、隠れるを繰り返す勝負が始まる。


~第二十二幕~
 タクミ達が破れた勝負にチヅル、トモカが趣向を変えた勝負を挑む。
いずれも知識が重点に置かれ、先の二人が破れた勝負種目を避けたものの攻防の末、
共に想定外からの仕掛けにより敗北する。

 そして勝負内容を決定したリンがヘレンに挑む。
直接戦闘ではない内容で、下手な小細工を行わない純粋な身体能力だけで挑む勝負、
ヘレンの予測より堂々と真っ直ぐな駆け引きで勝利する。

 合格をもぎ取ったリンに続き、イズミとアコが勝負を挑み勝利、
そしてサクラも合格したところでナオが会場から離脱し、情報捜索を開始する。
ナオが向かった場になぜか早々に試験が終了したヘレンも到着、
何か不穏な気配を感じた二人が共に行動を行う。

 三回戦を前に休息中のウヅキ達に何者の襲撃が行われ、
共に合格していたサクラ達とサキらと協力し、賞品である『栄光の聖剣』を守護しに向かう。
その甲斐あってか無事に撃退、その謝礼としてモモカにより聖剣がサクラに譲渡される。

芽衣子「んっと、ごめんね? こんな場所に連れ込んで」

文香「構いませんが……そもそも、私を守って頂かなくても――」

芽衣子「駄目だよ!」

文香「……そうでした、まだ願いを叶えられていませんね」

芽衣子「ああ、違うんです違うんです! そうじゃなくて……」

文香「こんな廃墟の建物なら……人も来ません、今なら私に好きな事を指示――」

芽衣子「あのあのあのっ! 一度話をしましょう! 一旦落ち着いて、ね?」

文香「それが望みですか?」

芽衣子「う、うん……違うけど、違わない……かなぁ」



芽衣子「あのお二人が喧嘩し始めちゃって、とにかく安全のために連れ回しちゃいましたけど……」

文香「……かなり、遠くまで来ましたね」

芽衣子「道は覚えてるんです、近道も観光の場所も!」

文香「でも……見つからない?」

芽衣子「はい……って、このお話は後でいいですよ! 今はとにかく安全な――」

――…………

芽衣子「……?」

文香「安全な……何でしょう」

芽衣子「今、何か音が聞こえたような……」

文香「物音ですか……誰か居るかもしれません、ここは損傷が激しい建物……ですが、建物は建物です」

芽衣子「誰か他の人が? ……私、見てきます!」

――タッタッタッ

芽衣子「この部屋かな? お邪魔しまーす……ガチャリと……」

芽衣子「……あれれ、何も無い? 誰も――」

??「…………」

芽衣子(居た! でも……)

??「どう思う?」

芽衣子「えっ?」

??「こんな、壊れそうなボロボロの建物に入った理由、何だと思う?」

芽衣子「えっと…………」

??「別に怪しい人じゃないから警戒しなくても……いや、こんな場所にいる時点で怪しいかな?」

??「それとも、もしかしてこの土地の人だったり?」

芽衣子「い、いえ! そんな事は……えっと、私はメイコです」

??「自己紹介ありがとう、私はクミコ。ただの旅の演奏者だけど彼女に会ってから目的が変わった、かな」

芽衣子「目的……えーっと……」

久美子「聞こえる? この音」

芽衣子「音……やっぱり、聞き間違いじゃなかったんですね」

久美子「あら、聞こえてたの?」

芽衣子「クミコさんが弾いてたんですか? ピアノの音ですよね?」

久美子「私は弾ける、それにピアノは本職だけど……私じゃないの」

芽衣子「じゃあいったい誰が? もしかしてさっきの彼女っていうのがもう一人居る?」

久美子「居るけど、居ないかも」

芽衣子「……?」

久美子「あと聞きそびれてたけど、あなた一人?」

芽衣子「あ、そうだ! フミカさん! ちょっと待っててくださいね!」

久美子「どうぞ。 あ、分かってると思うけどあんまり走ると危ないからね」

並木「あわわっ……」

久美子「ずいぶんボロボロな建物だから、床も抜けるわよ。 ……さて」



久美子「……聞こえてたって」

――…………

久美子「あれ? 次はあなたが聞こえないフリ?」

??「そういう訳では……」

久美子「出てきた出てきた、相変わらず唐突に」

??「それも……仕方ない事、です」

久美子「挨拶はしないの? 私の時みたいに」

??「突然出会ってもお話する内容が……ありません……」

久美子「私に言ったようにすればいいと思うけど? 悪い人じゃなさそうだし、そもそも聞こえてたし」

??「確かに……響いたようです、音色が……」

――パタンッ

文香「…………」

文香(財宝は、使わなければ……意味がない……)

文香「隠しても……誰かが見つけ出すだけなんですよ」

芽衣子「何の話ですか?」

文香「……! ……戻ってきていたんですか?」

芽衣子「今戻ってきたところですよ。それより、あっちで別の人に会いましたから、行きましょう!」

文香「……それが指示なら」

芽衣子「支持とかじゃなくって、行こうっ!」

文香「あのっ、あまり引っ張ると……あっ……!」

芽衣子「わわっ!? ごめんっ!」

文香「普段……動かないもので……」

芽衣子「じゃ、ゆっくり急いで行こうか?」

文香「はぁ…………」

――ガチャッ

久美子「おかえり」

芽衣子「ただいま! ……あれ?」

??「どうも……よろしくお願いします」

文香「聞いていた方より……多いようですが」

??「…………」

文香「…………」

芽衣子「どうしたんですか?」

久美子「お互い、お友達は静かな方?」

芽衣子「お友達……って思ってくれてるかなぁ」

文香「望むのなら……構いません……」

芽衣子「もうっ、いつもそんな答え方ばっかりで……」

久美子「ワケあり? そんなに詮索するつもりはないけど、こっちも十分ワケありだよ」

久美子「ま、それよりも折り返しの自己紹介から」

??「私はオトハ……ただの音楽家……何も特別な人じゃない」

芽衣子「オトハさんですね? 私はメイコ、そしてフミカさんがフミカさんです」

文香「フミカ=サギサワです……もしかしたら、知っているかもしれませんが……」

久美子「有名な方? でもごめんなさい」

音葉「…………」

文香「いえ……どちらかといえば、存じ上げない方の方が多いです……」

久美子「そう。 じゃ、自己紹介がそっちからだった代わりに、目的はこっちから話そうかな」

芽衣子「何かなされている方ですか?」

久美子「私はさっき言った通り、目的は特に無かったんだけどね。彼女が人探しをしてるの」

文香「人を……ですか。 お手伝い、しましょうか?」

久美子「ありがたいお話ね、でも誰でも良いってわけじゃないみたい」

文香「条件は……」

音葉「……音です」

文香「音……?」

音葉「楽団に所属していた頃、皆の為に作っていた曲があるのですが……」

芽衣子「楽団? それって、あちこちで楽器で演奏したり歌を歌ったり?」

音葉「……そんなところです」

文香「それが、先の話と……どういった関係を?」

音葉「訳あって楽団からは離れましたが……私は完成させたい、この曲を……そして」

音葉「もう一度……この音色を聞き遂げたい」

文香「…………」

音葉「曲は、そう間もなく完成しますが……紙に起こす曲は、音を持っていません」

音葉「奏でて、響き……ようやく形に……分かりますか?」

芽衣子「じゃあ、楽器の演奏が出来る人を探しているんですか?」

音葉「それだけじゃなく……最後まで、演奏が出来る方を……探しています」

芽衣子「えっと……同じ意味じゃ……」

久美子「弾けないのよ」

芽衣子「弾けない? とっても難しい曲という事ですか?」

久美子「ただの曲じゃない、私も信じられなかったけど」

音葉「奏でる……難易度は、譜面の複雑さではなく……」

久美子「この曲は、曲が奏者を評価する」

文香「曲が…………」

芽衣子「演奏する人を、評価する……?」

音葉「……私にとっては、音楽も生きているように見えています。その中でも、特に……この子は難しい」

久美子「齧った程度の腕じゃ、楽器に嫌われるのよ」

芽衣子「つまり……ど、どういう事なんでしょうか?」

音葉「……聞いた通りです。 私が探しているのは、音に負けない方……音色を正しく、奏でる事の出来る逸材」

音葉「今は、音色一つ奏でるにも……強さが必要になりました」

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私事で更新遅れています。
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久美子「パートってどれくらいあるんだっけ?」

音葉「決まった楽器はありませんが、およそ八つの譜面が完成する予定……」

芽衣子「八人集めないと駄目なんですね」

音葉「いえ……私と、クミコさんが加わって、残り六人です」

久美子「これも何かの縁、お手伝いできるなら私も……ね?」

芽衣子「それでもあと六人も……」

文香「…………」

久美子「ま、生半可な人に頼めないってオトハちゃんが言ってるし、気軽に探せないのが難点かな」

音葉「私の事情で……迷惑をかけていますが、いずれは完成させて完奏するのが目標です」

芽衣子「何か私もお手伝いを――」

久美子「気持ちはありがたいけど、ちょっと技術的なお話が多いから……」

音葉「お気持ちだけ、受け取らせてください」

久美子「音楽に詳しいだけじゃ問題があって、しかも……メイコちゃん、あまり詳しくなさそうだし」

芽衣子「そう、かも……でも、もしかしたらお手伝いできるかも……ね?」

文香「……可能では、ありますが」

久美子「いろいろ考えてくれてるみたいだけど、オトハちゃん次第かな」

――ザッ

久美子「関わりたかったら、何か提案してみて? それじゃあ私はこの辺で」

芽衣子「行っちゃうんですか?」

久美子「うん、私はずっとここに居るわけじゃないから。……大部分をここで過ごしているのも、認めるけど」

音葉「また、どうぞ」

久美子「後でね、それじゃ」

――バタンッ

芽衣子「……えっと」

音葉「この家は、少し荒れていますけど、ご自由に留まっていただいて構いません」

芽衣子「いいんですか?」

音葉「少し……音が聞こえたり、床や壁が崩れたりもしますが」

芽衣子「あはは……確かに、言っちゃ悪いかもしれませんが……ボロボロですね」

文香「直さないのですか?」

音葉「私一人じゃ、無理です」

芽衣子「本格的な大工さんを呼ばなきゃ直せなさそう、いったい何があった――あれ?」

文香「どうしました……?」

芽衣子「あれれ? オトハさんは?」

文香「……お隣の部屋では?」

芽衣子「もう? んー……」

――…………

芽衣子「あっ、本当だ、あっちから音楽が聞こえる……早いなぁ」

文香「……それはそうと」

芽衣子「はい?」

文香「ここは……外から邪魔が入りにくい場所です」

芽衣子「……あっ、そういう事? えっと、何すればいいんだっけ」

文香「ただ……私に命令していただければ」

文香「あなたの望む通りに……私は筆を走らせます」

芽衣子「うーん……」

文香「……どうか、しましたか?」

芽衣子「私と一緒、居るかどうか分からない人を探してるんだよね、オトハさんは」

芽衣子「それも、なんだか……凄い、私なんかよりよっぽど凄い」

文香「……規模は、確かに違いますね……自分だけか、他の人も関わるか……その程度ですが」

芽衣子「やっぱり私のお願い事って小さい?」

文香「でも……思いの強さに差はありません……どちらも、本当に叶えたい内容……」

文香「そういう意味では……小さくは無い、かと」

文香「……それで、落ち着いた今……どうしますか……?」

芽衣子「何を?」

文香「今なら、横槍を入れる人が今のところ……居ません」

文香「だから……願って頂ければ、私は今から……この本に、記入を始めますが」

芽衣子「天使の国……存在が、はっきりするんだね?」

芽衣子「でも、後でいい」

文香「……?」

芽衣子「私より、先に叶えなきゃいけない気がするから」

文香「願いは、同時に進めることは出来ません……メイコさんの叶えたい願いが、後になりますが?」

芽衣子「後でも大丈夫だよ、私は長旅が好きだから、ね?」

文香「つまり……どういう事でしょうか……?」

芽衣子「……うーん、気を利かせたつもりなんだけど、伝わらないかな」

文香「後になるとは言いましたが、後に機会が訪れるとも……限りません」

文香「私とこの本が奪われる可能性も――」

芽衣子「大丈夫、私がなんとかしてみせるよ! 戦っては……無理だけど、頑張って守るから! 私は後にはなっても、順番は消えない!」

芽衣子「だから……オトハさんの曲を演奏できる人? を、探してみよう?」

文香「…………」

芽衣子「えっと、つまり――」

音葉「それは、何ですか……?」

芽衣子「あれっ? いつの間に戻って……」

音葉「すいません、聞いてはいけない話でしたか?」

文香「いえ……」

芽衣子「オトハさん! あの、お話があります!」

音葉「それは、今話していた内容のまま?」

芽衣子「そうです! ……どこまで聞いていました?」

音葉「叶える、叶えないとは……そのような力があるのかしら……?」

芽衣子「えーっと……フミカさん、代わりに説明してもらっていいかな……?」

文香「お時間、いいですか?」

音葉「構わない、私もその話を詳しく聞きたい……」

文香「……私が作ったこの経典には、人の願いを叶える力があります」

音葉「人の……それは、人じゃなくても可能?」

文香「……あなたは、人間族ではない?」

芽衣子「あっ! もしかして……じゃあ、あなたが天使ですか!?」

音葉「てん……い、いえ、そう言われた事はありませんが……」

芽衣子「そうですか……」

文香「ですが……種族に差はありません……私が書き込むので、相手が誰でも無関係……です」

芽衣子「そうです、大丈夫ですよ!」

音葉「メイコさんは、その本を護衛する方?」

芽衣子「いや、ただ単に一緒に逃げてきただけで……そのまま成り行きで、みたいな」

音葉「追われている? ……確かに、狙う人は多そうね」

文香「普通は逃げませんが……どうやら例外の方だったらしく……」

音葉「例外?」

文香「願いを叶えることに、私は抵抗がありません……内容は問わず、等しく叶えます」

音葉「……平等なのか、見境がないとも言えますが」

芽衣子「それは少し事情が……」

音葉「理由はあるのでしょう、それで例外とは?」

文香「……追って来ている方はどうやら、この本の破壊が目当てです」

芽衣子「追ってくる人数は減ったんですけど、やっぱり追いかけてきてる人は追いかけてきて……」

文香「壊されることは、さすがに……抵抗があります……」

音葉「……それは、そうでしょう」

音葉「ですが叶える願いに抵抗はない、なら……」

文香「もちろん……あなたの願いも」

音葉「……代償は?」

文香「よく聞かれる質問ですが……ありません。願いの重さに対して、私が本に書きこむ時間が増えるだけです」

芽衣子「大きいお願い事は、やっぱり時間が掛かるんです!」

文香「特別お話しなくても……薄々予感はしていたと思いますが、そういうことです……」

音葉「それは、この曲を演奏できる方を……そうですね、全部の譜面の担当者を呼ぶと、幾ら掛かりますか?」

文香「やってみなければ……分かりませんね」

――…………

芽衣子「やってみましょう!」

文香「…………」

音葉「構わないのですか?」



文香「メイコさんも……叶えたい願いがあるのでしょう……?」

芽衣子「後になっても構いません、さっきチラッと言った通りです」

音葉「……いいんですか?」

芽衣子「大丈夫ですっ、困っている人を見るとつい……といっても私の力じゃないですけど」

音葉「それで……可能?」

文香「願っていただければ……いつでも」

音葉「じゃあ……お願いしましょう」

文香「内容は、あなたの作曲した曲を……演奏することが出来る人物、で構いませんか?」

音葉「……ええ」

文香「では……」

――バサッ

音葉「それが、願いを叶える本?」

文香「経典と呼んでいます」

――ピンッ

文香「……!」

芽衣子「うん? フミカさん、どうしたんですか?」

音葉「もしかして……叶えられないお願いだった?」

文香「いえ……問題はありませんが、少し予想していなかったもので」

芽衣子「えっ!? 何か大変な事ですか!?」

文香「大事ではありません……ただオトハさん、この願いを叶えるには……時間が掛かります」

音葉「時間……それは分かっています、簡単に叶うのは願いとは言えませんから」

文香「そのような意味ではなく……想定よりも、長くなりそうだなという意味です」

文香(ただ人を集めるだけなのに……どうしてこんなに時間が……?)

音葉「そうですか……でも、待ちますよ」



文香(この量だと、数時間どころか数日、いや一週間は……)

文香「ふふ……」

芽衣子「え?」

文香「いえ……少し……頑張らないといけませんね、と思いました……」

音葉「私の為にお力を貸していただくのはありがたいことですが」

文香「一週間……ここで集中させてもらっても構いませんか?」

芽衣子「一週間、大変そう……」

音葉「それは構わない、ここは自由に使ってください」

文香「少し、頑張ります……その前に」

文香「普通……人探しの願いは、どんな相手でも数日もかからないはずですが……」

芽衣子「一週間……ですね?」

文香「はっきり言って……異常です」

音葉「それだけ、私の願いが大きいものだと評価していただけているなら」

文香「その曲を演奏できる人とは……いったい何者なのですか?」

音葉「……分かりません。 全ては、曲が認める人物というだけ」

文香「曲が認める……その曲は一体、どれほど強大な奏者を求めているのでしょうか……?」

芽衣子「私もよく分かってないのですが、曲が認める……って、要するにどういう事なんですか?」

音葉「……一度、見た方が早いかもしれません」

――ガタッ

音葉「メイコさん、フミカさん……楽器は扱えますか?」

文香「いいえ……」

芽衣子「私もちょっと……」

音葉「私は竪琴……ハープと呼ばれる楽器を奏でる事に通じていますが、今回は……」

――カタンッ

音葉「少し齧った程度の、ピアノを使います」

音葉「ピアノのパートを……楽譜はここに、奏でると……」

芽衣子「聞いてもいいんですか?」

音葉「……聞く事が出来るかどうかは分かりませんが」

芽衣子「え?」

音葉「では……」

―― ~♪

音葉「…………」

芽衣子「あっ、思ったよりも静かな曲なんですね? てっきり激しくて難しい曲と思って――」

――バキッ!

文香「……!」

音葉「っ……」

芽衣子「ええっ!? だ、大丈夫ですか!?」

文香「床が……一部、凹んだようです。ピアノが傾いて……」

音葉「……続行します」

芽衣子「つ、続けるんですか!?」

音葉「これくらいは……予想していま――」

――バァンッ!

音葉「っう……!?」

芽衣子「わああ!? オトハさんっ!!」

音葉「……大丈夫です、怪我はしていませんが……お分かりいただけましたか?」

文香「地面が凹んで、ピアノが傾いたせいでしょうか……?」

芽衣子「鍵盤の蓋が思いっきり閉まりました……大丈夫ですか?」

音葉「なんとか……それで」

文香「分かりました。……この曲は、一筋縄ではいかないようですね……」

芽衣子「演奏しようとすると、こんなことに……?」

音葉「度合いは奏者によります……ピアノは、私の本来の担当ではないので、こうなってしまいましたが」

文香「今の演奏を見て……この願いを見ると」

音葉「この現象が起きない程、もしくは何かが起きても……演奏が続けられる方を集めて欲しい、そんな願いになりましたね」



文香「……この時間にも、納得しました」

芽衣子「時間? あ、本に書く時間の長さですね」

音葉「一週間、短いものです……今まで、クミコさんに会うまでも、かなり待ちました」

音葉「今更伸びても、そこに確実な進展があるなら……」

文香「途中で妨害されてしまっては、その限りではありませんが」

芽衣子「ちょ、ちょっと! こういう時は前向きに考えよ?」

音葉「……私では、お力になれませんが」

芽衣子「大丈夫です、私、頑張りますからっ! ……たぶん」

文香「この場所なら……人も訪れないでしょう、元はオトハさんの奏でていた音に惹かれて訪れた場所です」

芽衣子「なら、音が鳴ってなかったら誰も来ないですねっ♪」

文香「万全とは言えませんが……少しは安全でしょう」



・・

・・・


――ガチャッ

久美子「うーん……昨日何してたのかしら、私が帰ってから」

久美子「ピアノのある部屋が危ないからって、別に大丈夫なのに」

久美子「ま、今日は大人しく――」

瑛梨華「ちょっと失礼! お話いいかな?」

久美子「何かしら?」

瑛梨華「エリ……ごほんっ、アタシに少しご協力お願いしてもI・I・KA・NA?」

久美子「内容に寄るわね、直ぐに終わる?」

瑛梨華「モチのロン! さてさて……」

――ガサッ

瑛梨華「この写真の人と、持ってる本に覚えはある?」

久美子「見せて?」

瑛梨華「もしかしたら帽子を被ったウェーブっぽい髪の人も一緒かも? DO・U・KA・NA☆」

久美子「……これは」

瑛梨華「どうどう? どこかで見た覚えは?」

久美子(……もしかして、メイコとフミカの事? 探してる、この人が?)

久美子「なんで探してるの?」

瑛梨華「お友達だよ! といってもつい最近知り合って、連絡先も分からない!」

久美子「知り合い?」

瑛梨華「いえす!!」

久美子「……名前は?」

瑛梨華「会ったばかりだから、まだ聞けてない!」

久美子「そう……」

瑛梨華「順番に聞いてて、誰かに当たればいいなって思ってる!」

久美子「残念だけど――」

瑛梨華「ところで……このお屋敷で何を? お掃除?」

久美子「別に何も、プライベートな用件よ」

瑛梨華「ふーん……? 誰かに会ってた? 分かる分かる、秘密の会合!」

久美子「……そんなのじゃないわよ」

瑛梨華「それはSI・TU・RE・I! それで、心当たりは?」

久美子「残念だけど……知らないわね」

瑛梨華「そう? それはZA・N・NE・N」

久美子「ええ、ごめんなさい」

瑛梨華「じゃあSA・YO・NA・RA! アタシは別の場所に向かうよ!」

――タッタッタッ

久美子「今のは――」

久美子(友達と主張してるし……経緯の説明も筋が通っていたけど)

久美子(何か、引っかかったわね)

久美子(……怪しい、そう感じたなら答えない関わらないが吉)

久美子「相手の名前、聞いておけばよかったかな」

――…………

瑛梨華(何か引っかかる答え方! これは瑛梨華ちんに何か隠してるKA・MO?)

瑛梨華(という事は……気になる? KI・NI・NA・RU! なら、潜伏!)

瑛梨華「情報与えなくて正解KA・MO・NE!」

――ササッ

瑛梨華「さてさて、そうなるとあの建物、気になる? ボロボロの小屋に何が隠されてるのかな?」

瑛梨華「もしかしてもしかして? そこには想像を超えるお宝が?」

瑛梨華「これは万全を期して……でも? 瑛梨華ちん手ぶら! どうやって動く?」

瑛梨華「……お? あそこに居るのは、もしかして? あれ、瑛梨華ちん今日『もしかして』ばっかり言ってる? でも無問題!」

――タッタッタッ

瑛梨華「ちゃお!」

つかさ「……誰よ」

瑛梨華「またまた、ツカサちゃんDA・YO・NE?」

つかさ「だよねって言われても初対面っしょ、誰お前」

瑛梨華「ただの神様!」

つかさ「客かよ。アタシ引き止めるってことは、分かってんの?」

瑛梨華「MO・CHI・RO・N! どうしてここに居るかは知らないけど、ご利用出来るなら話す、でしょ?」

つかさ「……なんかアレだ、調子狂うな。それで目的、何?」

瑛梨華「あの建物に入る! なにか使えるもの!」

つかさ「は? ……何? 不法侵入宣言? こんな白昼堂々何やらかすつもりよ」

瑛梨華「ふほーしんにゅー?」

つかさ「自覚なしとか悪質かよ」

瑛梨華「違うよ、不法侵入ダメ絶対!」

つかさ「自分の台詞見返してみろって、てか説明するわ、見える?」

瑛梨華「ん? どれどれ?」

つかさ「そこの看板、今確認したばっかだけど。立入禁止って書いてるっしょ」

瑛梨華「立……禁止? あれれ?」

つかさ「禁止って書いてるっつーことは、誰か権限ある奴が禁止にしてる、普通そう考えると思うけど?」

つかさ「で、取り壊さずわざわざ置いてるボロ小屋、何かあるだろ常識的に考えて。そんなとこに侵入? やべーわ」

瑛梨華「ヤバくても渡る! 危険な橋は叩いて落とす!」

つかさ「落としちゃ駄目じゃね?」

瑛梨華「落とした上で、なお渡り切るのがエンターティナー☆」

つかさ「アタシ帰っていいか?」

瑛梨華「ストップ! ご要件は未完了! そもそも未読!」

つかさ「既読した上でスルーしたつもりだけどさ、空気読めって」

瑛梨華「ステイ、ステーイ☆」

つかさ「待たねぇ、それじゃ」

瑛梨華「なぜなにどうして? ここに顧客がいまーす☆」

つかさ「これでアタシが何か売って、責任負うのは勘弁な」

瑛梨華「売ってくれない?」

つかさ「見えてる厄介事に絡んでわざわざ汚れるとかマゾかよ」

瑛梨華「あの中に、もしかして例の経典があるかもしれないと分かっても?」

つかさ「……何だって?」

瑛梨華「マル秘情報大暴露ー! 見えてるお宝取りたくなーい? 取りたくなくなくなーい? 取るー!」

つかさ「お前それ何処情報よ、ていうか分かってんなら突撃すればいいんじゃね?」

瑛梨華「準備万端大事! 取り逃がし厳禁?」

つかさ「……ん? いや、ちょっと待てって」

瑛梨華「待つよ! 石の上にも三年!」

つかさ「そんなに待たせねぇよ。……というか、よく考えたら有り得ないわその情報」

瑛梨華「なんで? DO・U・SHI・TE?」

つかさ「アタシは『サミスリル』の祭典帰り、でもその現地で経典持ちを“見てる”から」

瑛梨華「……あれれ?」

つかさ「だから有り得ねぇよ、それ」

瑛梨華「見てる? それはO・KA・SHI・I! こっちも追跡に尾行を重ねて頑張った! えーと」

――ガサガサ

瑛梨華「どこに行ったかな? カナカナ?」

つかさ「写真あるのかよ」

瑛梨華「いえす!」

――ピラッ

瑛梨華「この人?」

つかさ「見間違えないから、これでも人商売……ん?」

瑛梨華「うん? 何事?」

つかさ「ちょっ、もう一回写真見せろって」

瑛梨華「どうぞどうぞ」

――バサッ

つかさ「……誰よコレ」

瑛梨華「ほ?」

つかさ「……見た事無いわ、何やらかした? 指名手配犯?」

瑛梨華「んん? 話が合わない? そーいう事どーいう事?」

つかさ「アタシが知ってるのは違う三人組、誰よコレ」

瑛梨華「三人組? 瑛梨華ちん知らない、むしろそっちは誰?」

つかさ「エリカちんて誰よ、お前か。 っつーか経典? どういう事よ、本当に何のどこ情報よ」

瑛梨華「えーと、かくかくしかじか?」

つかさ「いや分かんねーから。ここ現実、小説とか漫画じゃねーし」

瑛梨華「んー……放送見てない?」

つかさ「あー、何か数日前に特番とか言ってた、思い出した。でも見てないわ、よっと」

――ヒュッ

瑛梨華「おうっ!?」

――パシッ

瑛梨華「危ないでしょー! ……コレ何?」

つかさ「何でも等価交換だろ。アタシはその情報を知らない、つーことで知りたいと思うだろ? じゃあ払うのが筋な」

瑛梨華「いいの?」

つかさ「対価払えって」

瑛梨華「モチのロンロン! じゃあ、数日前の放送の内容から説明するからYO・RO・SHI・KU!」

つかさ「手短に、時間も互いに惜しいから、そのつもりで」



・・

・・・


久美子「ちょっと」

芽衣子「あれ? おかえりなさい……じゃない、どうしたんですか?」

音葉「……忘れ物ですか?」

久美子「いえ、少し二人に聞きたい事があって」

芽衣子「私とフミカさんに、ですか?」

文香「…………」

久美子「二人を探してる人が居た、知り合いと言ってたけど心当たりは?」

文香「……これは……もしかして、でしょうか」

久美子「心当たりがある感じかしら」

芽衣子「どんな人でした!?」

久美子「なんだか賑やかな人、お友達?」

芽衣子「いいえ……さっき言った、私達を追いかけてきている、本を壊そうとしている人です!」

文香「……恐らく、その通りですね」

久美子「本……? どうして本を?」

芽衣子「オトハさん、そこの窓って開きますか?」

音葉「少し壊れてるけど……大丈夫なはず」

芽衣子「じゃあ、少しだけ外を覗きますねっ」

――ギィィ……

瑛梨華「~♪」

芽衣子(……あの人……居る!)

――ギッ……

芽衣子「フミカさん! 追いかけてきてます……!」

文香「……壊されるのは困ります、ですが」

音葉「裏口なんて豪勢な物はない……この家屋に出口は有っても、門は一つ……」

久美子「いざとなったら塀を乗り越えてもいいけど……目立つわね。というより、そこまでするの?」

芽衣子「はい、とにかく……本を守る必要があるんです」

久美子「大事なものなの? なら、しっかり隠れておきなさいね」

音葉「……入ってきたようです、門から」

芽衣子「やっぱりここに当たりをつけてる……」

文香「…………」

久美子「たかが本を処分するのに、過激な事はしないでしょう」

芽衣子「そうとは限りません……! それにこの本は、実は普通のじゃなくて――」

――カンッ

音葉「今の音は……」

芽衣子「えっ?」

――カッ!!

芽衣子「わっ!?」

文香「っ……!」

久美子「何――」

芽衣子(眩しい……!?)

――ドンッ

久美子「えっ!?」

芽衣子「ど、どうしました!? そもそも何が起きてるんですかっ!?」

瑛梨華「閃光弾! 情報と引き換えにゲットした一点武器!」

芽衣子「その声……!」

瑛梨華「瑛梨華ちんだよ! そしてっ!」

――ガシッ

文香「あっ……」

瑛梨華「へい、かもんっ!」

芽衣子「フミカさん!」

瑛梨華「外から様子を見てたけど、音楽家の集まり? なら、瑛梨華ちんに敵う相手は無し!」

芽衣子「お、オトハさん! クミコさんっ!? 何処ですか!?」

久美子(オトハちゃんは……きっと身を潜めた、ここまで騒ぎになればそれも当然、かな……!)

――ガッ!

瑛梨華「おろ?」

久美子「何か事情は分からないけど……見過ごすのは後味悪いわね」

瑛梨華「この手は? えっと、オトハちゃん?」

久美子「残念、そっちの名前じゃなくてクミコよ」

瑛梨華「そう? じゃあクミコちゃん! ……この手、HA・NA・SHI・TE?」

芽衣子「クミコさん! その人は攻撃してきますよっ!」

久美子「そうなの?」

瑛梨華「どう思う? 答えは……その通りっ!」

――ヒュッ ガシッ!

瑛梨華「おん? 防御されちゃった?」

久美子(っ……少し心得があるからこそ、分かってしまうのも嫌ね……この子、私より強い)

芽衣子「止め、てる? いけますよクミコさんっ!!」

久美子「音楽家でも、旅していたら嫌でも武芸なんて身につくのよ……!」

――ドガッ!

瑛梨華「あわーっ!?」

久美子「はぁっ……! 後片付けが大変ね……」

文香「…………」

芽衣子「フミカさん! 大丈夫ですか! あと、オトハさんは――」

久美子「オトハちゃんは後、しばらく帰ってこないだろうからね、それよりも」

瑛梨華「それよりもっ!」

――ガラガラッ

瑛梨華「投げ飛ばすなんて酷い! ぷんぷん!」

芽衣子「ま、また来ましたよ!」

久美子(ダメージは無い、とはいえこのまま交戦しても……)

瑛梨華「よいしょ!」

久美子「ただ武芸齧っただけの私じゃ、抑えるのは――」

芽衣子「クミコさんっ!」

瑛梨華「そーれっ!」

――ビュンッ!

久美子「譜面台……!?」

――ガシャンッ!

芽衣子「クミコさんっ!?」

久美子「ぐっ……! それは、丁寧に扱うものよ……!」

瑛梨華「そうだね! でも今は演奏会じゃなくてTA・TA・KA・I☆」

瑛梨華「使えるものは、使わなきゃ駄目駄目!」

――ギシッ

久美子(壁に挟まってて……それに、強く体に当たったから……)

瑛梨華「動けないかな? それじゃあ次I・KU・YO!」

文香「…………」

瑛梨華「そしてー?」

――ザッ

芽衣子「う……!?」

瑛梨華「んー……邪魔する? 立ちふさがる?」

文香「…………」

瑛梨華「この、本と瑛梨華ちんの間に割って入るなら、容赦しないよ?」

――ザッ

瑛梨華「~♪」

芽衣子「っ……!」

――ザッ ザッ ザッ

瑛梨華「DO・U・MO! さっきからずーっと黙ってるね? お喋りSHI・YO・U・YO!」

芽衣子「……!」

文香「何か……御用ですか?」

瑛梨華「御用も何も、要件は一つ!」

久美子(要件……?)

瑛梨華「後の混乱の元凶になるかもしれない、その不吉な本を壊しちゃう!」

芽衣子「それはっ! フミカさんの大事なものなんです……!」

瑛梨華「静かにっ! 瑛梨華ちんがお話中だよ☆」

久美子「妙に人気な本ね……! なんとなく、事情は察したかもしれないけど……!」

久美子(私は物理的にも、メイコちゃんは……無理ね、もう妨げるのは辛いかしら……)

文香「……願いなら聞きますが、破壊だけは受け入れません」

瑛梨華「聞いてくれなくても関係無し、瑛梨華ちんがやっちゃう☆」

文香「お断りします……!」

久美子「下手に動いちゃ――」

瑛梨華「むっ! 何かしようとしてる? させないっ!」

――ビシッ!

文香「っ……」

瑛梨華「あいたたたっ! もうっ! 用事があるのは本だけ! 邪魔するなら懲らしめるよ?」

文香「本は……私です。 私も、本の一部です……!」

瑛梨華「ふーん、NA・RU・HO・DO! ……なるほど? とにかく――」

久美子「長いお喋りで少しは回復したわ!」

瑛梨華「んっ?」

――ガシャンッ!

瑛梨華「へぶっ!?」

芽衣子「あ……! く、クミコさん!」

瑛梨華「丁寧に扱うものじゃなかったのっ! 瑛梨華ちんの体と心にダメージ!」

久美子「私も人の事言えなかったわね! でも、みすみす見逃すわけにも行かないのよ」

文香「…………」

瑛梨華「分かる、分かるけど、それよりも大事な使命があるんだよ! 目の前の友情より、将来の危険!」

芽衣子「な、何の事ですか! とにかくっ……駄目、駄目です!」

久美子(とはいったものの、どうしようかしらね……)

瑛梨華「ここは邪魔が多いよ! そうと分かれば――」

――グッ

文香「あ……」

瑛梨華「すたこらTA・I・SA・N!」

芽衣子「待って!」

久美子「逃げる気ね……!」

瑛梨華「ノンストップ! ……と、これはプレゼント!」

――コンッ

芽衣子「あっ! これは――」

瑛梨華「二度目のフラッシュ!!」

久美子「駄目……!」

――カッ!!



――ガシャンッ

久美子「……奇襲も一瞬、逃げ去るのも一瞬」

久美子(窓から見て姿が見えないくらいには、迅速な動き……正面から相対しても、駄目だったわね)

芽衣子「…………」

久美子「メイコちゃん?」

芽衣子(動けなかった……フミカさんが、連れて行かれるのに、私……)

久美子「メイコちゃん」

芽衣子「あ、ああっ、何ですか……? じゃない! クミコさん! 大丈夫でしたか!?」

久美子「大丈夫、かと言われたら……ちょっと手を貸して欲しいくらい」

芽衣子「い、今どかします! よいしょ……!」

――ガシャッ

芽衣子「重いっ……」

久美子「……メイコちゃん、戦闘得意じゃないんでしょ?」

芽衣子「は、はい、でも……友達が連れて行かれるのを黙って見てただけなんて――」

久美子「下手に刺激しない方が得策の時もあるのよ、腕に自身が無いなら尚更」

芽衣子「そうかもしれませんが、でも……」

久美子「奪い返す算段もないうちに、見切り発車で自分の出来ない事をしちゃ駄目、分かる?」

久美子「その行動は、ただ身を危険に晒すだけ」

芽衣子「……はい」

久美子「と言っても、今回は暴走したわけじゃないから、普通の考えよ? 最良じゃないかもしれないけど、悪い行動じゃないの」

久美子「私の怪我くらいで済んだから、いいじゃない」

芽衣子「クミコさん……」

久美子(……全っ然人の事言えないけどね、自分でどの口が言ってるのかしら)

久美子「分かったら……お友達でしょ? 取り返さなきゃ」

芽衣子「でも、どうやってですか……?」

久美子「正直に言うと、私も敵わないと思う。専門家には付け焼刃なんて届かない、少し鍛えてる程度じゃあね」

芽衣子「じゃあ……」

久美子「でも諦めるわけにもいかないでしょ?」

久美子「なら、今は落ち着いた状態で二人居るから、考えましょ?」

久美子「私じゃ力不足かもしれないけど、何もしないよりかは……考えるのよ」

芽衣子「は、はいっ……!」



・・

・・・


瑛梨華「ふんっ……ぎぎぎぎ……!」

文香「……! ……!」

瑛梨華「むむむ……わっ!?」

――ドサァッ

瑛梨華「あいたたた……見た目より力あるじゃないっ!」

文香「……壊させません」

瑛梨華「一心同体、離れ離れになる気はないんだね? じゃあ……」

――キィンッ

文香「あっ……つ……!」

瑛梨華「撃っちゃうよ? 撃っちゃって後悔しない? 今ならまだ引き返せる!」

文香「…………」

――ギュッ

瑛梨華「離す気が無いなら、それごと燃やすしか無い! 着火トゥ点火!」

瑛梨華「瑛梨華ちん、あんまり得意じゃないけど着火出来るくらいの火は起こせるよ!」

――サッ

文香「…………!」

瑛梨華「うん? 本に……何してるの?」

文香「……今のあなたには……関係の無い事です」

文香「“願い”を任されているので……私はただ、それを記すだけです」

瑛梨華「今優先する事ー?」

文香「出来る限り……実現できるように」

瑛梨華「ええい、それも瑛梨華ちんが終止符を打つ! 気軽にノーリスクで叶えられるお願いなんて、それは危険なモノ!」

瑛梨華「というわけで、さんざん引っ張ったこの流れも、ここでO・WA・RI! レッツ、ファイアバード!」

――ゴオッ!

文香「……!」

――コツッ

??「何をしているんですか?」

瑛梨華「んっ!?」

――ビュンッ

瑛梨華「わぷっ!」

??「……ふふっ」

瑛梨華(消された? 阻止された?! 誰?)

瑛梨華「いやそれよりも……こんな人通りの少ない路地裏で、気配を感じずにいつの間に瑛梨華ちんのそばに!」

文香「…………」

瑛梨華「もしかして、この子の仲間!?」

??「いいえ? ただの通りすがりですよ、さっきまでは……」

瑛梨華「さっきまで? まさか!」

文香「……!」

瑛梨華「何かやったの!? 自分を助けに来る願いを書いてたとか――」

文香「いえ、私は自分の願いを書き込みません……先程まで書いていたのは、私に願って欲しいと要求されたもののみです」

瑛梨華(……じゃあ、えっと……確かさっき確認した“願い”を纏めると『音楽家』を呼ぶことだったはず?)

瑛梨華「ふんっ! それならOK!」

――ザッ!

??「……?」

瑛梨華「NA・RU・HO・DO! とにかく人を集める願いを早急に叶えて、この現場を抑えて欲しかったわけだね! どう!?」

文香「そうですね……正解かもしれません」

瑛梨華「でも残念っ!」

――ダンッ!

??「おや……?」

瑛梨華「応援を呼んでも、瑛梨華ちんが音楽家一人に苦戦するなどと――」

??「『音楽家』……? 確かに、嗜んではいますが」

瑛梨華「そいやっ!!」

――ヒュッ

瑛梨華「んんっ!? 避け……?!」

??「最近は人手が少なくて……主にユウさんとユミさんが勝手に出て行ったせいなんですけど」

??「それで……自由な時間も無くて」

――バチッ!!

瑛梨華「きゃん!」

文香「っ!」

??「巻き込みはしませんよ、それほど下手ではありません……内容は、微妙ですけどね」

――ドサッ……

瑛梨華「あれっ? 起き上がれない? んー!?」

??「まぁ……良しとしましょう、こうして……お会いできましたから、フミカ=サギサワさん?」

文香「……お名前を、お聞きしてもいいですか?」

??「名乗る程大した名ではありませんが……ユカリと申します」

瑛梨華「むっ! その本の子の名前を知ってる! という事は、あの時のサキちゃんみたいに利用しようとしてる人!」

ゆかり「サキちゃん? 誰ですかそれは」

瑛梨華「悪用駄目! 瑛梨華ちんが阻止してみせ……げほっ!?」

ゆかり「黙ってください、今私は彼女とお話しているので」

瑛梨華「足っ! 動けない乙女に重心置いた一撃はDA・ME・DA・ZO☆ あいたたた!」

ゆかり「おやすみなさい」

――パチンッ

瑛梨華「んう……? すやぁ……」

文香「……眠った?」

ゆかり「さて、どういう因果で巡り会えたかは……運が良かったとしましょうか」

ゆかり「早速ですが……その本、経典は現在、誰の所有物ですか?」

文香「私のもの、です」

ゆかり「……ああ、そういう意味ではなく、誰の願いを“叶えている途中”ですか?」

文香「その返答にも……同じ答えを返します」

ゆかり「……?」

文香「私は、作業の手を遮られてしまいました。叶えていた願いは……その内容の一部を実現するのみに留まりました」

ゆかり「願いの内容は……私とは関係ありませんが、それは“叶ったかどうか”が、直ぐに分かるような内容ですか?」

文香「……不特定多数の、人物を集める願いだったので、願いの成果を直ぐに確信するのは……少し、難しいと思います」

ゆかり「そうですか、なら好都合です」

文香「好都合?」

ゆかり「願いには、叶えるまでの実行期間がある……というのが、こちらの見解ですが」

文香「よく……ご存知ですね」

ゆかり「ふふ、裏の情報網は広いんですよ……そんな訳で、私は二つのお願いを叶えていただきたく、ここに来ました」

ゆかり「こんなにあっさりと、お会いできるとは思っていませんでしたが」

文香「二つ……? あの、順番になりますが――」

ゆかり「いえ、片方はフミカさんに直接の……お願いです」

文香「私に……ですか?」

ゆかり「今から、私が“願い”を言いますが……」

ゆかり「願いの内容を、可能な限り他言しないように、お願いできますか?」

文香「……可能な限り……私は人の願いを聞き入れるだけです」

ゆかり「もちろん、そういう制約や心得があるのは知っています」

ゆかり「誰かに『今、何の願いを叶えている途中か』と聞かれれば、答えていただいても構いません」

ゆかり「もちろんその時も、なるべく渋ってください。そうすれば他の人が助け舟を出してくれるかも……」

文香「……意図はわかりませんが……善処します」

ゆかり「お願いしますね? では本題の方のお願いですが……」

ゆかり「先に、戻りましょうか? 放送後に移動している、という事は誰かと行動中なのではありませんか?」

文香「行動……しているといえば、しているかもしれません」

ゆかり「ではそちらに向かいましょう。その道中にでも、お話します」



・・

・・・


久美子「……つまり、フミカちゃんはその本があるから、狙われてるのね」

芽衣子「はい……だから、そこしかないかと……!」

久美子「ハイリスクだけど……願いの提供をリターンに、救出を他者に求めるのが――」

――カタンッ

久美子「誰……!?」

芽衣子「お、オトハさんですか?」

久美子「いや、だったら物音は立てないはず……新手? それとも、仕留めに戻ってきた……!?」

芽衣子「て、抵抗しますか!?」

久美子「落ち着いて、だから楽譜台は武器じゃないからね」



――ガチャッ

芽衣子「わっ、わぁ!」

ゆかり「こんばんは」

芽衣子「……ち、違う……誰?」

久美子「誰かしら……ここに何の用?」

ゆかり「通りすがり、というわけではありません、ちゃんと要件があって来ました」

ゆかり「……ある人物に、ここに居ると聞いたもので」

芽衣子「!?」

久美子「そう、なら――」

ゆかり「警戒しなくとも、ふふっ……お届けに参りましたよ」

文香「…………」

芽衣子「ふ、フミカさんっ!?」

ゆかり「路地裏で穏やかじゃない様子をお見かけしたので、割って入ったのですが」

ゆかり「話を聞いたところ、お友達がここにいると聞いたので」

久美子「そうなのかしら」

文香「……嘘ではありません」

芽衣子「フミカさんっ!」

――ポフッ

文香「わっ……」

芽衣子「ごめんなさいっ! 大丈夫ですか!? でも……すいませんでした!」

文香「何を……謝る必要があるんですか?」

芽衣子「あの時、止めることが出来なくて……!」

文香「私は……持ち主が頻繁に変わる人です。身の危険を冒してまで、守る必要はないんですよ……?」

芽衣子「それでもっ、私が守りたかったんです……」

文香「願いが……目的ですか?」

芽衣子「フミカさんがです! なんだか、放っておけなくて……」

久美子「……あの独特な喋り方の子は?」

ゆかり「彼女なら追いかけては来ないと思いますよ」

芽衣子「でも、この場所を知っているので……! また取り返しに来るかもしれません!」

ゆかり「逃げてきたのではなく、追い払ってきたので」

久美子「追い払った……?」

ゆかり「これでも、少しは戦えるんですよ。こんな世の中、自衛手段はあった方がいいですからね」

久美子(……何かしら、確かに風体は戦う人とも取れなくは無いけど)

ゆかり「また来ても、今は私が居るから大丈夫です。今は……ね」

芽衣子「本当に、ありがとうございます!」

ゆかり「いえいえ……私もお役に立てなのなら、ふふっ」

久美子「……ねぇ、あなたは何の目的でここに?」

ゆかり「目的ですか? そうですね……ある国に珍しい“ライブ”があったそうなので、ぜひ見てみようと思ったのですが」

久美子「ああ、あの……でも開催国が――」

ゆかり「思っていたよりも遠い場所だったらしく、間に合わないと分かったので」

芽衣子「それで、予定を変更して観光だったんですね。 ……ライブ?」

ゆかり「お祭りのようなものです」

文香「…………」

久美子「じゃあ、帰る途中なのね?」

ゆかり「帰るといっても……帰っても、特に何かやる事があるわけでもないですけど、ね?」

久美子「予定なし、なら――」

芽衣子「少しの間でいいのでっ!」

ゆかり「はい?」

芽衣子「私と……フミカさんを、守っていただけませんか?」

久美子「……そうね、私も同じ事を考えていたわ」

ゆかり「守る……ふふっ、何か事情が……ありそうですね……?」

芽衣子「はい、実はこの本は――」




・・

・・・

ゆかり「なるほど、つまりその秘宝を巡って……追われていると」

芽衣子「そうなんです。だからユカリさんが追い払ってくれたエリカという人も、その一人で……」

文香「目当てが……破壊なので、例外的に……逃げているだけではあるのですが……」

ゆかり「とにかく追っ手が多く、かといって戦って対抗できる人も少ないみたいですね」

久美子「恥ずかしながらね、私は会ったばかりなんだけど」

芽衣子「そんなわけで……このお願いでした」

ゆかり「私に護衛をお願いしたいと?」

文香「…………」

芽衣子「はい。 ……さっきフミカさんに聞いたのですが、本当に助けていただいたそうなので」

久美子「信じがたいけど、狙ってくる人が居るなら本物でしょうね、その本」

ゆかり「それで、今は『誰の何の願いを』叶えている途中なのですか?」

文香「……!」

芽衣子「はい、それはオトハさんという方の……作った、楽譜を演奏していただく方を探しているんです」

久美子「大きな願いじゃないけど、ちょっとワケがあって。こうでも頼まないと、集まらないのよ」

芽衣子(ちょっと……かなぁ?)

ゆかり「なるほど。 演奏者を……音楽家を、ですか……ふふっ」

文香「…………」

ゆかり「ふふふ……なるほど……そういう事でしたか……」

芽衣子「ユカリさん?」

ゆかり「いえ、素敵な願いだと思います、いいじゃないですか……それを守ろうとする、メイコさんも立派な方です」

芽衣子「そ、そうですか? えっと、とにかく今、フミカさんにはそのお願い事を――」

文香(……違う、私が今書いている願いは……ユカリさんのもの)

文香(オトハさんの願いは、既に中途半端な状態で実行され、終わっている……)

芽衣子「じゃあ、私も力不足かもしれませんが……一緒に守ります! オトハさんの為に!」

ゆかり「ええ、その……オトハさんの為に、ですね……!」

久美子「こういう時に本人が居ないから、締まらないわね」

文香(……私は、誰の願いでも構わない。ただ叶える事が目的の、付属品)

文香(しかし“願いを叶える”事自体は……私が最も優先すべき内容……)

文香(現在、叶えようとしているのはユカリさんの願いであり……ここで私が“違う”と言えば……?)

ゆかり「…………ふふっ」

文香(この願いは、恐らく成就しない……)

芽衣子「どうしたんですか?」

文香「え……?」

芽衣子「なんだか、疲れているように見えますよ……?」

文香「…………」

久美子「仕方ないわよ、一度は連れ去られて命の危機だもの……当然よ」

芽衣子「あ、そうでしたね……すいません」

ゆかり「今日はきちんとした宿を取りましょう。安全面は、私が居るので安心してください」

芽衣子「わあ、久しぶりのベッドですね! フミカさん!」

文香「……そう、ですね」

久美子「私はオトハちゃんの事もあるし、ここで一緒に見守るわ」

芽衣子「えっ? ……あっ、そうですね……元の目的が違いますから」

久美子「でも、こんな形で大きな援助だけはオトハちゃんの為に一方的にしてくれてて、なんだか申し訳ないわ」

芽衣子「大丈夫ですよ! ね?」

文香「……はい」

文香(深く……考えないことにします)

文香(どんな理由で、どんな認識のズレ……策略が間に挟まろうと……)

文香(私はただ、願いを叶え続けるだけ……!)

ゆかり「それでは……行きましょうか」

芽衣子「どこに向かいますか? 私、どこでも大丈夫です、こうやって旅行するのが元の趣味だったので!」

ゆかり「では……大きな国は追っ手が多いかもしれません、出来るだけ……目立たないように、そんな場所を」

芽衣子「なら、ここから少し遠いですけど……『スノウグル』という雪国があります」

芽衣子「一度行ってみたかったのですが、なかなか機会がなくて……これを期に、どうですか?」

ゆかり「いいですね、案内を……お願いします」

芽衣子「はいっ!」



・・

・・・


――…………

久美子「誰も居なくなると……やっぱり、ここは静かね」

―― ~♪

久美子「あら?」

音葉「…………」

久美子「どこに行ってたの? ……いや、どうして出てこなかったの?」

音葉「……出ていこうとは、しました」

久美子「した、けど?」

音葉「何故か……出られませんでした」

久美子「どういう事? 出られないって、あのエリカって人が戻ってくるかも知れないから、みたいな?」

音葉「もしかしたら、そうかもしれない……少し、嫌な予感がしていました……」

久美子「なら仕方ないわね、誰だって危ない気配を感じたら首を突っ込まないのが賢明だもの」

久美子「……でも、お礼のタイミングを逃したのは残念ね。代わりに言っておいたけど」

久美子「あるかどうか分からないエリカの再襲来とはいえ、念の為が過ぎたかもしれないわよ」

音葉「あるかどうか……」

音葉(出られなかった理由は……そんな曖昧なものじゃなく……明確な“危険性”……)

音葉(あの場にいた……誰が発していたの……?)

---------- * ----------
 国家『サクラ=サミスリル』
---------- * ----------

卯月「次の行き先と目的だけど……」

凛「……割と、新しい目標を見つけても、すぐに終わっちゃうね?」

未央「イイ事なのか悪い事なのか、どう思う?」

卯月「私は、えっと……私達は何か問題のあるところに向かってる事が多いから」

卯月「やることがなくなったなら、解決したんだから喜ぶべきかなって」

未央「なるほどなるほどー、それじゃあ行く先が見つからない現状も、問題が何も起きない平和な時間として受け取る?」

凛「そうしたいけど……目標が無かったら、私達は旅の意味が無いよ」

卯月「何か見つけるために、動いた方がいいのかな……」

未央「行き当たりばったりも旅の醍醐味だよー。いや、もしかすると歩くまでもないかも?」

凛「どういう事?」

未央「待てば海路の……なんだっけ、そんなことわざもあるっぽいし!」

――コンコン

卯月「あれ?」

未央「ほら来た! はいはい今開けまーす!」

凛「ちょっとミオ、少しは警戒して――」

――ガチャ

聖來「どうも、その節は」

未央「おや?」

凛「あなたは……」

聖來「セイラだよ。大会の運営側だった、かな?」

卯月「こ、こんにちは……えっと」

未央「その運営さんが私達に何か用事?」

聖來「用事、といえば用事なんだけど、お話大丈夫? 今立て込んでる?」

未央「いや特に何も――」

凛「ミオ!」

聖來「そ、じゃあ少しお話しよ? 何も予定は無いみたいだし」

凛(……面倒事かな)

卯月「サクラちゃん達に何かトラブルが?」

聖來「いやいや、そのへんは順風満帆、なんにも心配は要らないよ」

聖來「ただ純粋に三人に向けて、話そうかなと思ってる案件があるだけ」

未央「私達に?」

卯月「お話……」

――…………

卯月「狭いですけど」

未央「宿代の節約は大事! 明らかに高い宿に泊まっちゃ後で苦労するよー」

凛「二人部屋だからね。 それで、話って?」

聖來「そんなに構えなくても、大会の事は半分以上関係ないから」

凛「半分は関係してるの?」

聖來「元々の目的は達成できたけど、第二の目的……というより“ついで”の案件を始めようかと思っててね?」

卯月「ついで?」

聖來「やっぱりモノが大きい大会だったから、いろんな人物が各地から集まってくるわけだよ、三人みたいに」

凛「あの規模だったし、確かに人はたくさん居た」

聖來「その中から、秘宝は渡せないけど貴重な人材だって集う」

卯月「スカウトですか?」

聖來「ほぼ当たり!」

凛「……そういう話なら、私達は――」

聖來「あ、何もうちに所属してって話じゃなくて、どちらかというとお仕事の斡旋かな?」

卯月「お仕事ですか?」

凛「仕事……ね、どうして私達?」

聖來「予選突破してるから、今更実力がどうこうなんて無いでしょ?」

聖來「悪い話じゃないと思うけど、どう? 大会が終わったのに未だ国を出て行かず……滞在してるって事は、次の目的が無いんだよね?」

未央(確かにその通ーり)

聖來「話だけでも聞いてもらえないかな? もう聞いてもらってはいるけど、あはは」

凛「…………」

卯月「内容は? お仕事と言っても、何をするかで――」

聖來「興味アリ? じゃあ順を追って説明しようかなー、まずは……終わってからの話!」

未央「それってお仕事の成果? お給料?」

聖來「報酬は別個に貰える、アタシ達は関与しない。別に依頼が困難だと分かれば中止してもいい、ただの応援だからね」

卯月「どうしてそんなに条件がいいんですか?」

聖來「上の階級の人達が重要視してるもの、なんだと思う?」

凛「……戦力?」

聖來「それも大事、でも戦力を集めるためには?」

未央「お金?」

聖來「不要ではないけど、それもちょっと違う、らしいよ」

卯月「じゃあ……何ですか?」

聖來「繋がりだよ」

聖來「今、成果は出なくても後々……互いにこういう繋がりを持っていたら便利なんだよ?」

凛「……人脈を持てるのが、私達のメリット?」

聖來「互いに『そういえばあの時、一度関わった事がある』って記憶は、活かされる時がある。経験は?」

卯月「無い事は、うーん……無いですね、確かにあるかも?」

聖來「貴族階級とコネがあると便利だよ? アタシなんて腰巾着やってたら色んな知り合い増えちゃった」

凛(……確かに、ナツキの一件では権力が強く作戦に関わってた、かな)

卯月「そうなんですね、すごいです!」

聖來「そうそう、カジノのVIPルームなんて入れちゃう時も……って、これはさすがに報酬には向いてないかな」

聖來「要するに利益うんぬんじゃなくて、関わっておきたいだけ、気軽に考えて?」

未央「へぇー……それは分かった、うんうん。……で、肝心の内容は?」

聖來「横道逸れちゃってたね! ごめんごめん、えーっと……地図、地図は、と」

――バサッ

聖來「ちょっとここから遠いけど、国家『セファー』で今ひと悶着起きてるらしいよ」

未央「せふぁー?」

聖來「ま、距離なんてさほど重要じゃないけど、移動する時は一瞬だからね」

凛(移動式が使える術者か、環境があればの話だよ)

卯月「リンちゃん、知ってる?」

凛「この国? 特徴があった国には思えないけど……」

卯月「そうなの? セイラさん、ここに何があるんですか?」

聖來「事件が起きた」

未央「わ、物騒」

卯月「泥棒とか、ですか?」

凛「警備の手伝い?」

聖來「起きた事件は、要人暗殺」

未央「えっ?」

聖來「今、上の方はガタガタ、連絡も回せない、そんなこんなで大騒ぎ」

卯月「お……思ったよりも大変な事になってるんですね」

凛「大変どころじゃないよ、それ」

聖來「必死に警戒網だけは敷いて、人っ子一人出国させない状態にはしたらしいけど」

卯月「それって……中に犯人が居るって事ですか?」

未央「まさかお仕事って」

聖來「そこにアタシ達が援助を回す事にした。崩れかけの国を立て直せたら、大きいでしょ?」

凛「大きい、大きいけど……」

卯月「大丈夫なんですか? その、色々と……」

聖來「正直、こういうボランティアは早い者勝ちだから、数打つつもり」

聖來「断ってくれても構わないよ、そしたらアタシは別の人に機会を譲るだけ」

凛(関係を持っておきたいなら……後に活かすつもりなら、承諾するべき?)

未央「でも犯人探しなんて、私達はあんまり得意じゃないっていうか……専門じゃないから力になれるかどうか」

聖來「その心配は無用だよ、腕っ節があれば大丈夫!」

卯月「ですけど――」

聖來「なぜなら、犯人候補は見つかってるらしいよ」

凛「え?」

聖來「それを逃がさない為の包囲網、そして捕まえる為にアタシ達の助力……分かる?」

――パサッ

聖來「これが写真、といっても今の写真じゃないんだけど」

卯月「今のじゃない?」

聖來「実行犯が分かって、その情報を頼りに過去の写真をね? といってもそれほど年代は離れてないから大丈夫のはず」

凛「情報から、写真が見つかるの?」

聖來「パッと出の人なら見つからないけど、前科というか……経歴が合った人だから。はい、写真」

未央「えーと、どれどれ……え? 女の子?」

聖來「意外? でも、性別や見た目で判断しちゃこの世界、大怪我するのは分かってるよね」

凛(確かに種族の違いと見た目の相違は無いことは無いけど……)

聖來「そう見えて、今は亡き戦闘国家『オプス』で戦闘員と諜報員を兼ねていたエリート一家の娘」

聖來「要人暗殺なんて軽くやってのける実力は十分にあるはず」

卯月「……私にも見せて?」

凛「この子が? ウヅキより子供に見えるけど……」

未央「はいしまむー。 変な武器? だね。人の事言えないかもしれないけど」

聖來「特徴的な武器だからこそ、今回彼女と特定できた理由かもしれないって。目撃証言の一致もあったらしいけど」

――パシッ

卯月「えーっと……」

聖來「纏めると、今ウヅキちゃん? が持ってる写真の人物を探すお手伝いをする、これが依頼」

未央「それくらいなら……出来るかな?」

凛「相手の情報は?」

聖來「それも説明するよ、というより……正確には捕まえる前に交戦しなくても、発見報告だけでもいいよ」

聖來「何せ警備だけは厳重だからね、元々逃げられない。その囲いの中の人物を人海戦術で炙りだそうって作戦だから」

未央「どんどん条件が緩く……」

聖來「自信が無ければ、自信のある人が捕まえる、手柄は半々、悪い話じゃないでしょ?」

卯月「そうですね……えっ?!」

凛「どうしたの?」

卯月(この写真の人……あれ?)

未央「ところで、ここまで分かってたら名前も分かってるんじゃない?」

聖來「勿論。ただ、それを聞くって事は……受けてくれる方針で良いかな?」

卯月「……はい!」

聖來「ん、いい返事! じゃあ近場までの移動式を準備しながら詳細を話そうかな」

凛「ウヅキ?」

未央「おお、しまむーやる気だねぇ、それじゃあ私達も行くしかないかな? 犯人探し、頑張るよ!」

卯月(この人……まさか……間違いない)



・・

・・・


――スタスタ

加蓮「…………」

加蓮(出国禁止まで一気に展開出来るだけの頭が残ってたようには見えなかったけど)

加蓮「これは、誰か裏で動いてる? 面倒……」

加蓮「検問敷かれても普通に通って帰るつもりだったのに、通る事すら出来ないなら駄目じゃない」

――ガヤガヤ……

加蓮「……往来は混乱してるのに、その中で黒いのがチラホラいるね?」

加蓮(明らかに国の兵隊じゃない腕利きが混ざってる、懸賞金目当てなのは間違いなさそうだけど)

加蓮「いくらなんでも事件から手配が早すぎるし、それを聞いて集まってくる人も早い」

加蓮「……うん、誰か優秀な人物、居るっぽいね?」

加蓮「良かった良かった。これで仕込んだ甲斐があったよ……ね? アンタはどう思う?」

――ドガッ!

法子「かはっ!?」

加蓮「特徴のある武器っていうのは、自分の存在を示したい時に便利だよね」

加蓮「そうやって昔は活躍したらしいけど……この傷は、例の一族が来たのか、みたいな?」

加蓮「シイナ家の一族の残りが、新たな仕事として『セファー』の国家要人を暗殺、特徴的な手口で跡を残した」

加蓮「目撃情報も、その特殊な武器の印象ばかり……そして当人は数日前から滞在している、確定的」

加蓮「後は……そうだ」

――シュルッ

加蓮「あっちが犯人捜査の手がかりに使ってくれたら、なんて思っていくつか分かりやすく攻撃を受けて傷が残ったんだけど」

加蓮「あのお馬鹿な息子さんは噛み付いてきたりもしたから、思ったより変で……目立つ傷ばかり」

――……カプッ

法子「っう!?」

加蓮「全部“痕を写す”から……そのつもりでね? 一つや二つじゃないから、結構時間かかるけど」

加蓮「……まぁ、大丈夫かな」

――ザシュッ

法子「っあぁ!?」

加蓮「あんまり叫ぶと人が来ちゃうから、なるべく静かにね? 手配されてるのはアンタでも、本当の実行犯は私なんだから」

加蓮「兵隊さんが集まると……捕まらなくても、内心ドキドキしちゃう」

おつ

やはりしまむーメインだとワクワクする
文香はまだ3人サイドとの絡みが無いからかイマイチ感情移入出来ないかな
おそらく、文香サイドの時は小出し投下より間が開いてもいいから
分量纏めて投下した方がストーリーに入り込めると思います

文香の目的が分からん



・・

・・・


――ガヤガヤ……

聖來「じゃあ、ちょっと待っててくれる?」

卯月「はい、分かりました!」

未央「ずいぶん厳しい検問だねー」

凛「検問、というよりも……本当に門だね。注意書きに書いてる通りかも」

未央「注意書き?」

凛「ここに。『現在、特殊厳戒態勢につき出国を制限中』だって」

未央「出国を? てことは入っても出れないって説明は本当だったんだ」

卯月(……ねぇリンちゃん、ミオちゃん)

凛(何? 小声で……)

未央(内緒話?)

卯月(私……この人、知ってるんだ)

未央(知ってるって……え? この、写真の人!?)

聖來「おまたせ、どうしたの?」

卯月「いえ、何も!」

聖來「そう? あ、もしかして警備の厳重さに驚いてる? 大丈夫、皆は応援だから捕まったりしないよ」

未央「ですよねー!」

凛(捕まったりはしない、ね)

聖來「あと、もう見たと思うけど注意書き、大丈夫?」

未央「しばらく出られない、って事? それは大丈夫かな」

聖來「じゃあ問題なし、中に入ろうか。しばらく案内でぐるっと回るけど、人が多いから迷わないように付いてきてね」

――ザッ ザッ

凛「やっぱり人が多いね」

聖來「でしょ? えーと、こっちだよ」

未央「はーい」

未央(……で、さっきの続きだけど)

卯月(この人の名前はノリコさん、会ったのは一瞬だったけど……)

凛(さっき言ってたほどの事をしそうな人だった?)

未央(いやいや、こんな所業をやらかす人なら普段絶対そんな風には見えないって!)

卯月「セイラさん、この写真の人は――」

聖來「ノリコ=シイナ。どんな人かは前に説明した通りだけど、他に聞いておきたい事もあるかな?」

卯月「あの……どんな人、ですか?」

聖來「どんな人? どういう意味?」

凛「性格面とか、かな」

聖來「それ、必要な情報なの?」

凛「……聞いてみただけ」

聖來「そ。あんまり当人の内面とか詳しい事はアタシも知らないからゴメンね」

未央(なんで引き下がっちゃったの)

凛(無理に聞いても警戒されると思って)

卯月「じゃあ……この事件は、どうして起きたんですか?」

未央「忍び込んで暗殺なんて突発的に起きるものでも無いよね」

卯月「何か、狙われるような問題があったから起きた事件じゃないんですか?」

聖來「動機、なんだろう……聞いた話、噂で、アタシの推測も入ってるけどいいかな?」

凛「噂?」

聖來「ちょっと非公式な組織と繋がりがある、って前々からの噂なんだよね、この国」

卯月「繋がり……それだけですか?」

聖來「非公式っていうのは“国じゃない集団”って意味。ただのグループといえばそのままなんだけど」

卯月(どういう事かな?)

凛(たぶん……ナツキやリイナみたいなグループと繋がりがあるって事じゃない?)

聖來「地域の統治を目的としていなくて、階級を持たない集団と関わりがあるなんて聞こえは良くないかな」

凛「外部と繋がってて、それが駄目なの?」

聖來「裏で何かやってるんじゃないかって意味だよ、国じゃないからその人達が何をしてるか、調べられないから」

未央「権力の及ばない場所、なるほどー……」

聖來「で、そこの繋がりをよく思わない別の誰かが送ってきた刺客……とか」

卯月「複雑ですね」

聖來「あ、これは全部アタシの妄想だからね? 本気にしないでね?」

凛「どっちにしろ、内部のゴタゴタだよね。……なのに、この規模の警戒警備?」

聖來「侵入はされちゃってるからね。汚名返上するために、せめて逃がしはしないってところかなっ」

――…………

未央「無数の張り紙、だけど?」

聖來「今のところ……新しい情報は無いかな」

未央「追加の手がかりは無し、かな?」

聖來「そうみたい」

凛(どうする? 捕まえるにしろ、ウヅキの言い分を汲んで実際に会って確かめるにしろ……)

未央(セイラさんが居ると、私達動きにくいんじゃない?)

卯月(かも……じゃあ、バラバラになってみようよ、三人まとめて監視は付かないと思うから)

聖來「こんな感じになっちゃったけど、どうする?」

卯月「あの、セイラさん!」

聖來「何かな?」

凛「私達、三人居るから……今、どこに目的の人が居るかは分かってないんだよね」

聖來「だね、国内ってだけで」

未央「だからバラバラに探す事にしたよ!」

聖來「んー……そうだね、そっちの方が効率がいいかもしれないね、ただ新しい情報がさっき入って」

卯月「目撃情報ですか!?」

聖來「ここから東の方角で、誰かがノリコらしき人物を発見したかもしれないって」

未央「東、てことは――」

卯月「それじゃあ私がそこに行きます! 居るかもしれない、だけなら他の場所も探す必要はありますよね」

凛「……そういう事だから、分かれて調べるよ」

聖來「分かった、ウヅキちゃんが東で……二人は?」

未央「そこ以外だね、色々調べてくるよ!」



・・

・・・


*『セファー』南部*

未央「凄い人だかり……とは言わないね」

未央(やっぱり東部で目撃証言があったっぽいから、ここには人が少ないかー)

未央「てことは、遭遇は望み薄かなー? じゃあ私はハズレ引いちゃったね」

未央「でもただ待機ってのもなんだかなぁ……立ち止まるのはミオちゃんらしくない!」

未央「そんなわけで、少しでも人が多かった広場っぽい場所に来たけど……おっ?」

未央「掲示板、ちょうど今の話題に沿った内容になってるねー……ふむふむ」

――…………

未央「見た感じ、情報見る限りで……黒濃厚なんじゃないの? しまむー大丈夫かなぁ」

未央(犯人……あのノリコって言う人は、数日前より入国……決行日までは菓子の行商を行っていた)

未央(そして事件当日、部屋で騒ぎが起きなかったのは睡眠薬の散布と……)

未央(使用されたものと同様の成分を持った薬物が、彼女の滞在していた宿舎より発見された)

未央(さらに独特の武器を使用している姿が目撃され? それは彼女が愛用しているものと一致……ふーん……)

未央「ここまで証拠が揃ってるなら、どうだかなぁ……しまむー……」

未央(ただ、揃ってるのは分かったけど……どうやって揃えたんだろう?)

未央(入国の検査とか今こそ特別に厳重だけど、普通は誰が入国したかなんて調べてるようには見えないし)

未央「しかもこんな大仕事の前に、目立つ行商なんて……んー……プロの余裕?」

未央(長期滞在するのも変だよ、サッとやってパッと帰っちゃう方が……良くない?)

未央「証拠だって残ってる方が変……でも証拠は証拠だし……」

未央「えぇー、どっちなんだろう……物理的にはノリコって人が黒確定だけど違和感もあるよ、考えるほど」

未央(でも、じゃあ誰が犯人なのかって言われると……検討もつかないし)

未央「どっちにしろ……例の人を探さないと駄目かぁ。ここには居ないと思うけど、探索探索!」

――タタタッ

*『セファー』北部*

凛「…………」

凛(思っていたより、人が多い……もしかして、こっちに新しく移動している?)

凛「だったらウヅキが行った方向はニアミスかもしれな――」

――…………

凛「ん……?」

凛(今、何か……)

凛「どこから? 今の匂いは……裏路地?」

凛(妙な、異質な“香り”がした……誰も、足を止めてないなら……私だけ感じた?)

凛「…………!」

凛(あれは……)

――タッタッタッ

凛(近づけば、ハッキリ分かる!)

――ザッ

凛「暗くて、ほんのわずかしか見えないけど……」

凛「地面に少しだけ残っている黒い……いや、赤い斑点」

凛「ここで何かあった……血の痕……!」

凛(数日前のものなら、雨なんかで血痕なんて残らない。これは真新しい、それに――)

凛「ここまで警戒されてる国内で、喧嘩があったなら目撃されたり騒ぎになるはず」

凛(その気配が無い、掃除された痕跡もないなら……これは、もしかして)

凛「誰も気づいてない……何か、重大な事があったんじゃ……調べなきゃ、この奥!」

――ザッ

凛「……待って」

――ピタッ

凛(今、じゃない……さっきから全部、変じゃない……?)

凛「この……妙な、血生臭い香りも、暗がりに僅か残った血痕も……」

凛「どうして私は気づいた……?」

凛「……気付いた事は良いとしても、最近の私が……何か、違う」

凛「反応が出来る、気づける、対応できる……良い事、なんだけど…………」

凛(急すぎる……成長を感じる)

凛「…………」

凛「良い方向に、考えておくべきかな? 何か、大事な何かを忘れちゃってる気もするけど」

凛「ううん、深く考えるのは後……今はこの先に何かが……赤い斑点は奥に……」

凛「奥に向かって……じゃない? 途中で曲がってる?」

凛「そっちは通路じゃなくて地下の排水……いや……」

凛(よく考えると……“隠れること”が目的なら、何もおかしくはない?)

凛「……ますます、調べる必要がありそう」

――カンッ カンッ カンッ

凛「下水道、灯りが無いけど……まだ見えるかな」

凛(どんどん下に降りてる、梯子があるところはいいけど)

凛「段差は飛び降りなきゃ。帰り道、ちゃんと覚えておかないと……これは迷うね」

――…………

凛「ん……今、何か聞こえた……?」

凛(水音じゃない、ハッキリと……生き物、人の気配……!)

凛「そこに誰かいるの?」

――……カンッ

凛「!」

――ヒュッ



凛「う――」

??「はあっ!」

――ピッ

凛(っ! 斬られ……じゃない)

??「くうっ!」

凛「……今の飛沫、私の傷じゃない……そっちの怪我、だね? あなたが、ノリコ?」

法子「はぁ……はぁ……」

凛(これは、かなり負傷してる……?)

法子「ふー……ふー……」

凛「そんなに怪我を負ってる、って聞いてないけど……誰かにやられたの?」

法子「……!」

凛「相手が手負いなんて情報は出回ってない……誰かが攻撃したなら、こんな情報は直ぐに回ってくるはず……」

法子「けほっ!」

――ガクッ

凛「ねぇ、大丈夫……じゃなさそうだね……!」

法子「あなた……は……」

凛「ウヅキの友達だけど……そもそもウヅキって覚えてる?」

法子「ウヅ……キ?」

凛「その辺は後で説明するけど……とりあえず、どうしよう……」

法子「離して……」

凛「最初にこれだけは聞かせて。……この事件、犯人はアンタなの?」

法子「…………」



法子「あたし……じゃない……」

凛「そう。じゃあ……動かないでね、少しだけなら応急処置も出来るから。ここは汚いからしっかり傷口だけでも守らないと」

法子「…………」

凛「信じるから。嘘だったら承知しないけど、それまで私は味方」

法子「……う」

――…………

凛(気を失ったかな。ずいぶん衰弱してる……この傷、大小あるけどかなり新しい……)

凛「新しい、のは……変だね? 傷つけた人が誰かいるはずなのに、何回も言ってる気がするけど……そんな情報は来てない」

凛(ウヅキの言う通り、本当に犯人じゃない……なら、誰が?)

*『セファー』東部*

卯月「あわわわわっ!」

卯月(あっちこっちに人が流れてて……まともに探せる状態じゃない!)

卯月「こんな調子じゃ、仮に見つけたとしてもお話出来る状態にはならないよ……っ!」

――タタタッ

卯月「ふうっ……ちょっと人の少ない裏道に行こう」

卯月(早くノリコちゃんを見つけないと……それで、真相を確かめなきゃ!)

卯月「ウヅキ、頑張りますっ! まず通路を抜けて反対側から探しましょう!」

卯月「よいしょっと、こっちの通路を……え? あれ……?」

卯月(今見えた人って、もしかして…………!)

――タッタッタッ

加蓮「…………」

卯月(あれは……間違いない、あの時……『コドライブ』で、サエと一緒に居た……!)

加蓮「もう、まさか普通に出る事も出来ないなんて、早く捕まってくれないかな」

卯月(出る? そっか、今は検問が厳しいから入る事は出来ても出ることは……)

加蓮「仕方ない……外で捨てたかったけど、荷物検査が怖いし、ここに捨てよっか」

――ザッ

卯月(何か……埋めた?)

加蓮「領内で処分とか雑すぎるかな、でも持って通るわけにも行かないし」

卯月(処分? でも、かなり警戒してるように見える……)

加蓮「まったく……回りくどい事せずに直接叩けばいいのに、たかが強いのはトップ一人なんだから」

加蓮「きっと相手を過大評価してるんだよ、もう……」

卯月(行っちゃった……何の話かは分からない、分からないけど……!)

――タタッ

卯月「あの人が、ただ偶然こんな場所に居る事なんて無いはず」

卯月「そして意味深に、目立たないように埋めてまで破棄したこの“何か”……」

――ザクッ

卯月「掘り返してみよう……よいしょっ」

――ザッ ザッ

卯月「結構深く埋まってる……よしっ、えっとこれは?」

卯月「袋……と、中身は……」

――ガシャンッ

卯月「……? なんだろう、変な形の……でも、刃物……武器……!」

卯月(そうだ、そういえば……これってノリコちゃん……写真に添えられてた資料に……!)

卯月「どうして、同じものを……あの人が持ってるのかって……」

――ダッ!

卯月「そんなの、決まってますっ……!!」

卯月(ノリコちゃんと、何か関係があるから……!!)

卯月「これを埋めた後は……邪魔な荷物を捨てたら、それは外に向かうはず……!」

卯月「でも結局、この厳戒態勢だと外には出られないはず、じゃあ次は人が少ない地域に行く……よね」

卯月「東部には戻ってこない……西部は出口だから往来が激しくて、なら北か南か、どっちかのはず!」

――タッタッタッ

しぶりん犬化してない?

ちょっとずつ影響出てきてるのかな

犬…凛…うっ、頭が…

祖先に犬が混ざってる可能性が?



・・

・・・


*『セファー』北部 下水路*

法子「…………はっ」

法子(ここはさっきと違う場所、移動してる?)

法子「そ、そうだ」

――グッ

法子「っ!」

凛(あ、ごめん……大丈夫?)

法子「あっ……さっきの」

凛(リン、私の名前。少し気を失ってたみたいだけど、もう起きたね)

法子「リン……ちゃん? あの、あたし――」

凛(動かないで)

――…………

法子(足音……ほんの少し聞こえる?)

凛(追っ手らしき人が地下にも来てる)

法子(地下にも…… 今、あたしはどこに……?)

凛(さっきの場所から、そんなに離れてないけど奥には来てるかも)

法子「えっと……運んでくれてるの?」

凛「背負って運ぶしかなくて」

法子「降ろして、大丈夫……あたし歩ける」

凛「そう?」

法子「うん、大丈――あいたたっ」

凛「……ホントに?」

法子(思っているより体が動いていない……ただ負傷しただけじゃなくて、何かされたかも……)

法子「追っ手は……あっちから来てるんだね」

凛「……こっちに行こう」

法子「奥に奥に進んでも埒が明かないよ、ここはあたしが」

凛「大丈夫、この方向はきっと行き止まりじゃない」

法子「え?」

凛「地下じゃない、外の雑音が微かに聞こえる。これ以上、地下に追い詰められる前に地上に出た方がいいかも」

法子「外の雑音…………本当に?」

凛「ハッキリと聞こえるうちに移動しよう」

法子「う、うん……」

――スタスタ

法子「地上……まだ危なっかしい気もするけど、そうだね」

法子(ここで引きこもってても事態は好転しないし、それに――)

凛「さぁ、行こっか」

法子「見つけなきゃ……あの人を……」

凛「…………」

法子「こっちが外に出る道? ……よしっ」

――タッタッタッ

――…………

法子「ここを曲がって、次も進んで」

凛「……!」

――ザッ

法子「あれっ? 行き止まり……?」

凛「突き当たり……でも外へ通じる道があるはず」

凛(風は流れてる、壁も通路も違う方向に)

法子「あ!」

凛「ここは……間違った道だったのかな」

法子「待って、上!」

凛「上……あっ」

法子「天井……あそこ、多分開くよ!」

凛(地上に出られる……けど、高い……!)

凛「ノリコ、私が下になるから……上がってくれる?」

法子「えっ……? でも……」

凛「二人共並んで見つかった方が、互いにとって危険なんだよ」

法子「分かった……直ぐに引き上げるから!」

――…………ザッ

法子「っ、この音……」

凛「引き上げてくれたらベストだけど……時間の余裕があまり無いみたい、行くよ!」

法子「うん!」

――グッ

凛「行くよ……せー、のっ!」

法子「やあッ!」

――ガタンッ

法子「っう!」

凛「届いた? 大丈夫?」

法子「大丈夫、届いてる……よいしょ……!」

凛(まだ怪我が回復してないのに、あんなに動けるのも流石……なのかな)

――タタタッ

凛「……!」

法子「ふうっ……リンさん! 早く上がって来て――」

凛「……ごめんなさい」

法子「えっ?」

法子(こっちを向いてない? あの向きは元の通路……)

凛「……騒がしいから、駆けつけて来た?」

法子(!? これは……足音が多い、もしかして地下の追っ手と鉢合わせた!?)

――…………

凛「上で捜査してたら、不注意で足を滑らせちゃっただけ」

法子(そ、そっか、リンさんは追われてるわけじゃないから……大丈夫なんだ!)

法子(でも小さく別の人の声も聞こえる、これは間一髪だったね……)

凛「アンタ達は? ……犯人探しの捜索隊?」

法子(やっぱり……あたしは一瞬早く地上に上がったから、見つからなかった……ギリギリだったんだ)

凛「――分かった、地上にはどこから上がれるの? 案内して」

法子(リンさんは地下の追っ手を別方向に誘導してくれるみたい……じゃあ今のうちに!)

――クルッ

法子「……あっ!?」

――ザッ

加蓮「今のうちに、何?」

法子「どうしてここに!!」

加蓮「直ぐに戦闘態勢に入るの? ……ま、当然かな」

――チャキッ

加蓮「私も入るつもり、出会ったのは偶然だけど、今日は運が良いのかな」

法子(来る!)

加蓮「こう何度も対面するなら、きちんと釘打っておけって意味だよね」

法子「っ……」

加蓮(怪我、治療跡……ふーん)

加蓮「誰か協力者が居るみたいだね」

法子「……だったら、何ですか」

加蓮「面倒だけど、不安の種は……消しておかなきゃ」

法子「させない!」

――ヒュンッ

加蓮「わ……!」

法子「この……っ!」

加蓮(普通だと苦労する相手なんだけど)

加蓮「おとなしく、してっ!」

――ガシッ ドガッ!

法子「あうっ!?」

加蓮「ふう……怪我人の相手は楽でいいよ」

法子(まだ普段通りには、動けないッ!)

加蓮「ねぇ、誰が協力者?」

法子「誰でもいいじゃないですか……!」

加蓮「……ま、別に知らなくても大丈夫かな」

加蓮「協力者が居たとしても今、暫定犯人のあなたを表通りに放っておくだけで解決するし」

法子「くうっ!」

加蓮「だから、大人しく――」

――ダダダッ

加蓮「うん?」

卯月「やああああっ!!」

加蓮「なぁ――」

――ドガァッ!

加蓮「っう!!」

法子「な、誰……!」

卯月「また……お会いしましたね……!」

法子「あ、あの時の……!」

卯月「はい!」

――……ガラッ

加蓮「誰だっけ……けほっ、いや、そんなのどうでもいいか……」

卯月「以前、サエの隣に居ましたよね? 確か――」

加蓮「カレンだよ、名乗ってなかったっけ? それと……思い出したよ、確か面倒な人を二人も連れてきた……ウヅキ、だっけ」

法子「そうだ、ウヅキちゃん……!」

卯月「以前ちょっとお会いしただけですけど、久しぶりです。でも今はそれより……!」

加蓮「それより? 何か勘違いしてるかもしれないね」

卯月「どういう事ですか!」

加蓮「あの時は色々あったけど、だからと言って私に会うなり攻撃? 相手を間違ってるよ」

卯月「間違い?」

加蓮「私は今、この国で起きた事件の犯人探しのお手伝い、そっちも手配書見てるんでしょ?」

法子「なっ!」

卯月「……はい、見ています」

加蓮「じゃあ私じゃなくて、そこの人が攻撃されて然るべきじゃない?」

法子「違います……! あたしじゃない、この傷は……その人に襲われて」

加蓮「その傷跡は、手配書の特徴と一致してるみたいだけど」

法子「ならそっちの傷の、同じ場所も見せてください! 同じ位置に、特徴的な傷があります!」

加蓮「傷なんて似てる時もあるでしょ?」

法子「じゃあ、あたしの傷だって似てるだけです!」

加蓮「……水掛け論、でも手配書に載るくらいなら、そっちを疑うべきでしょ普通」

卯月「手配書、見ました。 見ましたが……」

法子「ウヅキちゃん……!」

卯月「それよりも大事なものを……私、見ていましたよ!」

――ガシャンッ

加蓮「…………」

法子(中身を……?)

卯月「これは、なんですか?」

法子「その袋は……?」

加蓮「……へぇ」

卯月「あなたは分かりますね……いや、二人共……分かりますか?」

法子「……! こ、これは? あたしの……?」

卯月「そう、きっとノリコちゃんの武器って、コレですよね?」

加蓮「ふーん……」

卯月「手配書にも書いていた内容と同じ、特徴的な武器……問題は、何故あなたが持っていたんですか?」

法子「これを、あなたが!?」

加蓮「…………」

卯月「そして……埋めて、捨てようとしてました、破棄しようとしていましたね?」

法子「……じゃあやっぱり――」

加蓮「もう駄目かな、面倒だし」

――ヒュッ!

卯月「危ない!?」

法子「わあっ!」

――ドサッ!

卯月「大丈夫!?」

法子「ありがとう、なんとか……!」

加蓮「避けた、いい動き……でも、何度も続くかな」

卯月(怪我してるノリコちゃんを守りながらは……でも!)

加蓮「ねぇ、黙って見逃してくれない?」

卯月「嫌です」

加蓮「戦うことになっても?」

卯月「……はい!」

加蓮「でも、ここで騒ぐと人が集まってくる。そうするとお互い面倒でしょ?」

法子「ウヅキちゃん……」

卯月「ですけど、私が何とかします!」

加蓮「出来るか分からない事を軽く言うものじゃないよ、私と彼女じゃ疑いのレベルが違う」

卯月(手配書、既に工作で広まったノリコちゃんへの疑いと……私の持っている証拠だけじゃ太刀打ちは出来ない)

卯月(でも、ここで退くとノリコちゃんは絶対に……)

加蓮「それでも何とか出来ると思ってるなら、私も戦うしかないかな」

――チャキッ

法子「来ますよ!」

卯月「はいっ!」

加蓮「警戒MAXだね、当たり前かな」

卯月「…………」

加蓮「でも私は気楽だよ、負けてもいいから。ただ騒げばいいだけだもん」

法子(確かに、勝ちの条件が違いすぎる……二対一の有利が霞むくらいには!)

卯月「それでも……」

加蓮「私が何か行動する前に無力化出来ると思うのなら……来て」

卯月「一瞬……!」

法子「そんなの……」

加蓮「出来ないなら大人しく、お互いの為に……ね!」

――ヒュッ!

法子(!?)

卯月「ノリコちゃんッ!」

法子(ナイフ……! 避け――)

??「わー!!」

加蓮「!?」

卯月「へっ!?」

――ザクッ!

法子「っう……! …………え? さ、刺さってない……?」

卯月「ち、違います刺さってるのは刺さってます!」

加蓮「は……?」

――ムクッ

卯月「わっ」

??「うんしょっと……いやいや、どこかで見た顔が何かしてるかなぁと思った矢先に物騒だよ」

加蓮「……誰? というか、何で?」

??「ふふ、名乗る程じゃないけどあたしの名は――」

卯月「じゃなくて! あ、あの時の……じゃなくて、その前に! 大丈夫ですか!?」

??「大丈夫? 何が?」



法子「頭……その、漫画みたいな感じで……」

??「あっ、刺さってる! そういえば痛いと思ってた!」

――カランッ

??「駄目じゃん危ないもの投げちゃ、喧嘩?」

加蓮「あなたは誰?」

??「あたし? あたしはアツミだよ」

加蓮「聞いたこと無い名前。……私に何か用事?」

愛海「いや? さっき言った通り、知ってる顔が居たなーって思ったらナイフ投げてたから、思わず」

加蓮「受け止めた、庇った? ……それで?」

愛海「それでって……それだけかなぁ」

法子「……あっ!」

法子(あの時、突然あたしの……うん、色々接触してきた子……)

卯月「どうして庇ってくれたんですか!?」

愛海「お礼は後で貰うよ、いつかの続きをね!」

法子「つ、続き……」

卯月「続き?」

加蓮(ナイフには体が動かなくなる程度の毒があるはず)

愛海「あいたたた」

加蓮(あんなに深く刺さって、ダメージを受けている素振りもない……)

愛海「ふうっ!」

加蓮「アツミって言った? あなた、端的に何?」

愛海「何って、通りすがり?」

加蓮「私はそこの二人と敵対してる。それを踏まえて、あなたは第三者? それとも……」

愛海「そう言われると第三者じゃない、かなぁ」

加蓮「違うの? じゃあ」

法子「来ます!」

――ヒュッ ザクッ!

愛海「あいたぁー!?」

卯月「また……!」

加蓮(避けない。 この程度の攻撃、避けるまでもないって事?)

法子「向かってくるなら、こっちも……!」

加蓮「黙ってて!」

――シュッ

卯月「危ない!」

法子「くっ!」

――キンッ!

加蓮「防がれた、けど今はこっちの相手が先。これ以上目撃者を増やすと厄介!」

愛海「おぉ!?」

加蓮「予想だけど、攻撃を避けないのは……避けないんじゃなく、回避出来ないからじゃない?」

卯月「アツミちゃん! 危ない!」

――ザンッ!

愛海「ぎゃっ!?」

加蓮「ただの振り払いも避けない、そんな技術も無いのに割って入ってきたの? 凄い度胸だね、そして……!」

――ドスッ!

愛海「あっ、が……!?」

卯月「アツミちゃん!!」

加蓮「幾らなんでも、胸を貫けばダメージも入るでしょ? ……ま、ダメージどころじゃないと思うけど」

卯月「あ……っ!」

愛海「けほっ……!」

加蓮「迂闊な勇気は命取り、大人しく無視しておけばよかっ――」

――ムギュッ

加蓮「ひぅ!?」

法子「えっ!?」

卯月「え?!」

愛海「あー、良い感じ良い感じ」

加蓮「ちょっ、何して……というより、何で普通に動いて……離して!」

愛海「離してって、そっちが刺して来たんでしょ?」

加蓮「触らないで!!」

――ドンッ!

愛海「あわーっ!」



卯月「キャッチ!」

愛海「おうふっ、ありがと! ついでにそのクッションの感触を――」

卯月「そんなことより! 大丈夫ですか!?」

愛海「コレ? うん、痛い痛い、穴空いちゃった……あの時貰ったお菓子みたい」

法子「ドーナツです」

愛海「あ、それそれ。そのお礼もしなくちゃ」

――…………

加蓮「本当に……何なの……?」

加蓮(確かにナイフは貫通した、でも毒の効果が無いどころか致命傷のはずなのにピンピンして……)

――ダンッ!

加蓮「!?」

卯月「はああっ!」

加蓮(しまった、見ていなかった!)

加蓮「くっ、考え事してるの……邪魔しないで!」

――ギィンッ!

卯月「防がれた……!」

加蓮(止めた、けど!)

法子「今なら――」

加蓮「通さない!!」

――キィン!

法子「っ、弾かれました……!」

卯月「大丈夫! この隙にもう一回!」

加蓮「このっ……! とにかく、得体の知れない相手を狙う!」

愛海「得体の知れないなんて言い方――」

――ザンッ!

愛海「うぎゃっ!」

法子「アツミちゃん!」

加蓮「今度こそ斬った――」

愛海「お山チャンス!」

――シュッ

加蓮「なぁ……!?」

――タンッ!

愛海「あっ、退いちゃった」

加蓮(明らかに致命傷なはず、なのに私に向かって腕を伸ばしてきた!)

法子「あ、アツミちゃん……? その、体……大丈夫なの?!」

愛海「大丈夫? あー、あたしは魅力的なお山が見えちゃうとつい手を伸ばしちゃって、でも頭は大丈夫だよ」

卯月「そうじゃなくて! き、傷!」

加蓮「さすがに、どうなってるの……! 体が真っ二つでもおかしくないのよ!?」

愛海「……あっ、斬れてる!?」

卯月「今ですか?!」

愛海「でも大丈夫、あたしはこれくらいなら平気平気。もっとひどかった時もあったし? 粉々になったことも」

法子「そんな訳……」

――カランッ

加蓮「……消せない」

加蓮(倒せる、けど……仕留め切る方法が思いつかない……相手が奇妙すぎる……!)



愛海「さて、正直あたしは揉み合いが得意だけど苦手だからこれ以上戦っても意味はないかなって」

加蓮「そうみたいね」

法子「どうしてそんなに、平気なの?」

卯月「そ、そういえば……あの時、乗り物に跳ね飛ばされても平気そうだった……!」

加蓮「まさか全身機械なんてオチじゃないよね」

愛海「機械かー、あんまり好きじゃないから違う、硬いの」

加蓮「じゃあいったい何?」

愛海「何を隠そう、あたしは死んでも死なない登山家! これくらいのトラブルは日常茶飯事だよ」

法子「…………?」

愛海「あ、お山って言うのはもちろん皆の夢と希望の膨らみの事で――」

加蓮「死なない? そんな冗談みたいな人が……居るはずがないと思いたいけど」

法子「明らかに傷は深いはず……あたしも、それは分かる……」

卯月「ただ……分かってるのは、アツミさん!」

愛海「何?」

卯月「私たちの、味方ですか?!」

愛海「うん! 見知った顔が、綺麗なお山が切り崩されるのを見て見ぬ振りは出来ない!」

加蓮(数的不利に、条件も不利が重なったなんて)

愛海「あ、でもお姉さんも立派だよ! ぜひもう一度この手に感触を――」

加蓮「断る……今の発言だと、私が二人を襲ったから?」

法子「敵対する理由なんて、それで十分です……!」

愛海「先に言われちゃったけど、そういう事だねー。喧嘩しないならあたしが介入する必要はないんだけど」

加蓮(静かにただ待っているだけなら……私のが不利、それは駄目)

卯月「これで決着――」

加蓮「じゃあ、私が襲われていたら?」



卯月「襲われていたら、ってなんですか?」

加蓮「だから、二人が私に対して攻撃していたら、誰に付く?」

法子「それを聞いてどうするんですか」

卯月「私もノリコちゃんも、直接はあなたに攻撃はこれ以上しません。もし今のままで待機してくれるなら、ですけど」

法子「あたし達は反撃だけ、だからこっちから攻撃はしない」

加蓮「そう? で、肝心のあなたは?」

愛海「あたし? あたしは平和主義だから、どっちも被害が無いように済ませたいねー」

加蓮(という事は、ただ被害を出したくないだけ……意味と理由は分からないけど、とにかく平穏に済ませる事が目標だろうね)

愛海「でもさー、実際襲われてないし、こっちの味方から動くことはないよねー」

加蓮「それじゃ、少し話を聞いてくれる?」

卯月「…………」

愛海「話? 何の?」

加蓮「今、彼女ノリコはこの国から手配を受けていて、今にも確保……そして、要人暗殺の罪状で処刑されかねない」

法子「それは――」

卯月「本当に実行したのは、あなたです!」

加蓮「……という風に、実は実行犯は私。だから私も連行されかねない」

愛海「あ、それでこんなに騒がしいんだこの国、ふーん」

加蓮「そこで取引したいんだけど。アツミ、あなたが死なないのは本当?」

愛海「うん、そーだよ」

加蓮「じゃあ一つ……私の罪を被ってくれない?」

法子「なっ……そんなの――」

加蓮「私はアツミと話してる。いいでしょ? 死なないなら殺されても問題ないし、刑は執行されたら罪は残らない」

卯月「だとしても、どうして肩代わりする必要があるんですか!」

加蓮「封印なんて大層な刑も無いし、いいでしょ?」

卯月「どうしてアツミちゃんを巻き込むんですか!」

加蓮「互いに平和な方法だと思うけど? もし断るなら、私はもう一度暴れるだけ」

加蓮「あなたは殺せない、でも倒す事は出来る。それに……残りの二人も、苦労するとは思うけど仕留められるレベル」

法子(最初に怪我さえしてなかったら……!)

加蓮(無茶な取引に見えるけど、実はアツミにデメリットは少ない……なんせ、極刑だろうと彼女には関係が無いから!)

加蓮「これでも私、国家の幹部やってるから大きめの報酬も用意出来る」

愛海「むむ」

卯月「信用しちゃ駄目です!」

加蓮「口挟まないでって言ってるでしょ。それに二人にはもはや関係のない取引なんだよ?」

愛海「……正直、あたしは別に構わないよ」

卯月「アツミちゃんっ!」

愛海「事が平和に過ぎればいいなーとしか思ってないし、あたしが何か出来るなら手伝おうかなって」

加蓮「利口だね」

卯月「その人は、悪い人なんです!」

愛海「って言ってるけど?」

加蓮「世界の正義とは逆、って意味なら悪者かも」

加蓮「だから、取引を受けないと分かったら……悪い行動しちゃうかも、ね?」

――チャキッ

法子「っ……あたしはいいですから、その人を逃がしちゃ駄目です!」

愛海「そうは言うけど……あたし死なないだけで強いわけじゃないから、たぶん取引断ったら逃げちゃうんだよね」

加蓮「ふふ」

愛海「で、逃げるだけならいいけど……」

愛海(対立してる二組のどっちが本当に悪いかなんて分からないし、それでも決着はついちゃうし……)

加蓮「結論は?」

法子「あたしの為に、そこまでしてくれなくても大丈夫です!」

愛海「そこまで、って言う程じゃあ全然無いんだよねー」

加蓮「でしょ? この取引、互いにとって悪くないものだと思ってる」

加蓮「私は逃げる、あなたは薄いリスクで私から報酬を得る、ノリコちゃんは疑いが晴れる」

加蓮(少し考えると変なのは分かるけど……それでも通りそうだから、本当におかしな話)

愛海「……その交渉、受けるとしたら、あたしはどうすればいいの?」

加蓮「簡単な話、まずは――」

卯月「まだです!」

法子「!」

加蓮「……何?」

卯月「私は納得してません、こんなの……おかしいです!」

加蓮「じゃあどうするつもり? それ以外に、事を穏便に済ませる方法があるとでも?」

愛海「難しいと思うけど」

卯月「いえ、まだ方法はあります……!」

法子「ウヅキちゃ――」

卯月「私が……カレンを捕まえればいい!」

――キィィ!

加蓮「!?」

――ドガァンッ!

加蓮「くうっ!? ちょっと……! 騒いだら人が集まるって――」

愛海「うわっと! え? 結局大乱闘!?」

卯月「集まってしまう前に、決着をつければいいんです!」

法子「全力すぎっ、これは目立っちゃうよ!」

卯月「だから短期決戦です! やああ!」

加蓮(国で会った時と全然違う……こんな短期間で変わったの?)

卯月「ウヅキ、行きます!!」

――キュイン

加蓮「ただの力任せな放出なのに、ずいぶん重いね、っ!!」

卯月「それが取り柄なんです!」

――ドオンッ!

法子「きゃっ……! こ、こんなの単純な魔法の破壊力じゃないよ!」

愛海「巻き込まれ――へぶっ!」

加蓮「急に調子いいね……!」

卯月「なりふり構わないと、今は決めました!」

加蓮(いや、たぶん違う。これは元々の素質の強さ……あの時は発揮できてなかっただけ)

卯月「はあっ!」

――キィン!

加蓮(これが怖い、この異常に……専門外の私でも感じるくらいに収束してる魔力が!)

加蓮「加えて、フッ!」

卯月「!」

――ガッ!

加蓮「物理も防御できるくらい、身体能力もそれなり……嫉妬しちゃうよ」

卯月「負けません!!」

加蓮「ちょっとは自信、あったんだけどね……でも!」

――グッ!

法子「ウヅキちゃん! 足元!」

卯月「下?!」

――バッ

加蓮「もう、言わないでよ」

愛海「わわっ、ちょっと本気じゃん! もっとこう、平和的に解決しよ!?」

卯月「ありがとう、ノリコちゃん!」

法子「うん、下から攻撃が見えたから……!」

加蓮(どうやら、急なトラブルや落ち目の状態には弱い、実力にバラつきがあるタイプ……なら、隙を付けば勝てる相手)

加蓮「でも今は……っ!」

卯月「やあああ!!」

加蓮「……」

――スッ

法子「反対側です!」

卯月「っ、はい!」

加蓮「またそうやって……!」

――キィンッ!!

加蓮(怪我してるから無視していいなんてとんでもない、こっちの攻撃は後ろの“本職”に見られてる……)

法子「動けない代わりに……見逃しませんよ!」

愛海「すごいすごい、あたしにはさっぱりなんだけども……これはお互い本気にならないと。いや、なって欲しくないんだけど!」

加蓮「はぁ、はぁ……もうさっきからこっちは全力だって……けほっ」

法子(これなら一気に行けるかも! あたしの代わりに、ウヅキちゃんが!)

加蓮(本当に、人が集まる前に捕まる危険が!)

――ピーッ!

卯月「!」

愛海「笛? ……あ、いつの間に」

卯月「人がたくさん……!」

法子(国の警備と、あたしの追手……!)

加蓮「一か八か? ……さすがに攻防は想定外の接戦だったけど、この国は小さい」

愛海「んー……こんなに騒げば、そりゃあ人も直ぐに来ちゃうかな」

加蓮「ギリギリ……だったけど、私の勝ちよ」

卯月「まだ分かりません! 今、ここであなたを倒しきれば――」

加蓮「そうじゃない、忘れたの? そこに居るのは……この大勢の人間に追われてる、指名手配犯!」

法子(この人数にこの路地裏、もう逃げ切れない……!)

愛海「うーん、これは仕方ないね」

――ヒュンッ!

法子「……え?」

愛海(借りるよ、武器! というか……貰っていくよ!)

――ザッ

愛海「おっと! ここまで包囲されたら逃げるしかないかなー! このあたしが、ここまで追い込まれるとはねー!」

卯月「えっ? ええっ?!」

加蓮「……やるじゃん」

愛海「そこの二人と、そして犯行の濡れ衣を被せようとしたノリコには手痛い反撃を受けてしまったから、あたしは逃げるよ!」

――ザワザワ……

卯月「あ、アツミさ――」

加蓮「そうよ! 国の自警団の人、彼女が本当の犯人! 手配書は間違っている、ノリコの犯行に見せかけただけ!」

法子「っ!」

卯月「な、そんなの!!」

加蓮「その証拠に真犯人は同じ武器を所有し、さらに……彼女の身元と無罪は私が保証する」

――バッ

法子(書類?!)

加蓮「ある貴族位から、犯行の時間帯に彼女と同行を証明する品を受け取っている」

加蓮(もちろん、架空の貴族位を使った偽装のものだけど、わざわざ貴族の真偽を調査する人は居ないからね)

法子(この状況で声高々に、しかも……暫定犯人の自供付きでそんなものを出されたら……)

加蓮「信じざるを得ない……ですよね? “そこの二人の被害者”も」

卯月「そ、そんなの――」

――ザワザワ

卯月(う……も、もう周りの人達は信じ始めている、それに……)

愛海「そのとおりー、よく調べ上げたなー」

加蓮(棒読み)

卯月(アツミちゃんが、その体で動いてる……今更反論した方が、こっちの立場が悪くなっちゃう……!)

愛海「では、さらば!」

――ドドドドッ

加蓮「わわっ」

法子「きゃっ!」

卯月「一気に人が――」

――…………

加蓮「……ふぅ、取引成立かな。間接的になったけど」

卯月「こんなの……!」

加蓮「感謝しなきゃね、私“達”の疑いを背負ってくれたんだから」

法子「このっ――」

加蓮「まだ喧嘩する気? 今から撤回しても良いんだよ?」

法子「うう……!」

――ピタッ

加蓮「ただそうなると、アツミは嘘をついた事になっちゃう、加えてノリコと、それを隠したあなたも同罪」

加蓮「厄介事が増えるだけ……それでも、今から戦う?」

卯月「くぅ……!」

加蓮「結論は出たみたい、これでもう終わり。私と、二人が対立する理由も!」

法子「……っ」

――ドサッ

卯月「ノリコちゃん!」

法子「はぁ……はぁ……」

卯月(そうだ、ずっと気を張っていたんだ……もういつ倒れてもおかしくないほど!)

加蓮「それだけ手負いの人を守りながら戦えるの?」

卯月(もう、時間を気にする必要がない代わりに……アツミちゃんも、ノリコちゃんの助けも借りられない……)

加蓮「無理だと分かったら……大人しく私を通して?」

――ザッ ザッ

加蓮「ふふ」

卯月「くぅ……!」

――……ザッ ザッ

加蓮「バイバイ♪」

卯月「…………次は、覚悟していてください……!」

加蓮「次? そう、じゃあ次が無いように逃げ続けようかな」

――タッタッタッ……

卯月「…………」

卯月「アツミちゃん、ノリコちゃん……っ!」

――ダッ



・・

・・・


*『セファー』東部*

未央「何事何事、あまりにも人の波が来てるから、急いで来ちゃったけど……」

凛「……結局、あの時ウヅキが言ってた通り?」

卯月(あの後二人と合流して、ノリコちゃんを介抱している間に……新しく情報がセイラさんから伝わった)

聖來『ごめん、どうも今までの情報が相手の工作によって変わっていた、偽物だったらしいんだよ』

卯月(偽物だったのは良かったけど、結局次に渡された情報も)

聖來『これが情報提供者から得た、新しい犯人』

卯月(映っていたのは、部外者なのにわざわざ全てを攫っていってくれたアツミちゃん)

法子「…………」

未央「じゃあ、この騒ぎは」

凛「恐らく、アツミが適度に逃げている感じなのかな」

未央「うーん……喜ぶべき、なの?」

凛「一応は良いと思う。後の事は、こっちが後からやればいいんだから」

未央「でもねー……」

法子「…………」

法子(確かにアツミちゃんが言う通り、本人にとっては些細な事かも知れない)

法子(ただ、あたしが気に入らない……!)

卯月「ノリコちゃん……大丈夫?」

法子「うん……大丈夫だよ、体は」

凛「一日も経たずに治るのは流石だね」

法子「訓練したから、かな」

未央「努力でどうにかなるのかなー」

法子(とにかく、すぐには再会出来ないけど……ほとぼりが冷めてから、会いに行かなくちゃ、アツミちゃんとは)

法子(そして――)

――…………

法子「え?」

卯月「どうしたの?」

法子「今、あっちに見えた人影は……」

――タッ

凛「あ、ちょっと!」

未央「どこ行くのー!?」

法子(見間違えない、今のは……)

――タッタッタッ

卯月「行っちゃった……じゃない!」

凛「もう危険は無いとはいえ、一人のするのは」

未央「駄目だね! 追いかけよう! ……見失っちゃったけど」

卯月「早い……と、とにかく探しましょう!」

凛「分かった、私はこっち!」

未央「私は向こうから!」

――タタッ

――……ザッ

法子「ハァ、ハァ……」

加蓮「……早かったね」

法子「姿を見せたのは、何故ですか……!」

加蓮「お礼を言いに来ただけ」

法子「礼……」

加蓮「これで取引完了。私は完全に疑いが消えて、むしろ感謝される立場になった」

加蓮「この結果にたどり着く為に、ノリコが居てよかったよ」

加蓮「“ありがとう”」

法子「っ、このおッッ!!」

――ギィンッ!

法子「わざわざ、それを言いに来るために!!」

加蓮「何? せっかく疑いが晴れたのに、また問題を起こすの? それよりも国に謝罪請求でもしにいけば?」

法子「黙ってください!!」

加蓮「嫌だよ、もう回復してるでしょ? 私は戦闘のスペシャリストじゃないから」

――タンッ

加蓮「戦うつもりは無いから、私は逃げるよ。もう国は封鎖されてないからね」

法子「逃がさない!」

加蓮「追いかけてきていいの? 武器を持って私を追いかけている様子を誰かに見られたら困るでしょ?」

法子「く……!」

加蓮「じゃあね、またどこかで会ったら」

――タッタッタッ

法子「…………」

――タッタッ

卯月「ノリコちゃん! 何があったんですか!?」

法子「あ……ごめん、急に走っちゃって」

凛「何かあったの?」

法子「……いや、何も」

未央「もう、過剰に反応しなくても今は大丈夫だよ?」

卯月「そうです、今は……大丈夫ですから」

凛「…………」

法子「それより、あのカレンって人は……どこの人? 貴族位からの証書を用意できるなんて、どこかの重役じゃないと」

未央「えーっと……言っていいのかな?」

卯月「それを聞いて、会いにいくつもりですか?」

法子「……うん」

卯月「国家……『コドライブ』の幹部です」

法子「えっ? コドライブ……それって、あの国!?」

凛(やっぱり、“あの”とか言われる国なんだ)

法子「内部の構成は不明だって……どこから聞いた情報なんですか!?」

未央「わわっ、落ち着いて落ち着いて!」

卯月「その……色んな事があって、詳しくは言えないんですが中に入った事があるんです」

法子「……それが本当ならすごい情報。でも、本当に本当なら……あたしは、そこに行くのは難しい」

凛「難しいの?」

法子「『コドライブ』といえば、内部の情勢が一切分からない、噂ばかりが広まる国なんだよ」

法子「特に外部に被害が出ているわけじゃないから、問題にはならない事が多いんだけど……」

凛「だけど?」

法子「……帰還者が少なくて、しかも毎回得られる情報が違って……そんな妙な場所」

卯月「情報が違うって、どういう意味ですか?」

法子「さぁ……要するにはっきりと分かってないって事らしいよ」

法子「あたしも、その国へ関わるのは止めておけと強く言われてる。……今すぐにでも会いにいく、なんて言ったけど」

凛「そうまで言われてる場所に向かうのは……危ない、かな」

未央(実際私達もかなり危なかったよね、今思えば……アイリさんとユウコさんのおかげというか)

卯月「とにかく、無理はしないでくださいね……」

法子「……もっと、情報を集めなきゃ」

凛「慎重に、って意味だよ」

法子「うん、せっかく……助かったんだから、慎重に動くよ」

卯月「助かったって……私、結局ほとんど何も出来なくて、結局アツミちゃんが割って入ってくれなかったら今頃!」

法子「そんな事ないよ……三人が居なきゃ、あたしは今頃……ありがとう」

卯月「……こんな内容でも良かったんですか?」

凛「私、あんまり手伝えたような気がしないけど」

未央「こっちに至っては全然だよー……二人が色々している間にやった事といえば……何も出来てない!」

法子「いつも、自分が思ってる“最高”が、実際に出来る“最高”とは限らないんです」

法子「皆さんが、本当にその場で出来た最高をこなしてくれたおかげで、あたしはこうして無事だったんです」

未央「そうそうもっと自信持って! しまむーが駄目駄目なんて言ったら私はどうなのさー?」

凛「一番頑張ってた人がその調子だと、私達が駄目みたいじゃん」

卯月「……そう、かなぁ」

――ガチャッ

卯月「とりあえず、一旦休憩しましょう!」

凛「……それがいいよ、気負いすぎなんだって」

法子「すいません、わざわざ」

未央「一連の流れでお宿も追い出されて、散々だね。本当は悪くもないのに!」

??「それが風評被害というものだよ。……あ、ノックノック」

――コンコン

法子「あれ? お客さんですか?」

凛「誰も呼んでないはずだけど」

未央「いや、もしかして……」

――ガチャッ

聖來「どうも、一日ぶりだねっ」

卯月「セイラさん?」

聖來「まずは……ノリコちゃん」

法子「……あたしですけど」

聖來「災難だったね」

法子「そうですね、今回は特に」

聖來「ん、軽いお返事。てことはこれくらい日常茶飯事だったり? あははは」

凛「…………」

聖來「ごめん、冗談……のつもりだったけども」

未央「デリケートな時期だよ」

聖來「面目ない……えーっと……」

卯月「今日はどうしました?」

聖來「いや、なんだか……解決したみたいな雰囲気を出してるけど」

卯月「解決?」

聖來「ほら、その台詞も」

卯月「?」

聖來「まだ犯人は捕まってないよ、今も逃走中。もしかして諦めた?」

法子「それは、そうですね……」

凛「ただ……」

聖來「ただ?」

卯月(真犯人は……ここで言っちゃいけない、あくまで表向きは犯人が違うから……)

凛「……諦めてはいないけど、今は追う気がしないかな。自由なんでしょ?」

聖來「もちろん、気が向いた時にでもいいよ」

未央(追いかけなくても、捕まる算段になっちゃってるっぽいし……じゃないとせっかくの取引が進まない、ってしまむーも言ってた)

聖來「じゃ、その話は置いていて、それはそうとね」

法子「なんですか?」

聖來「せっかく一度はあらぬ疑いをかけられたとはいえ、その噂はかねがね聞いてる、ノリコちゃん」

――ピッ

聖來「一つお仕事を頼まれてくれないかな?」

凛「依頼を、ここで?」

卯月(それでわざわざ……)

法子「……すいませんけど」

聖來「一件の風評被害を払拭する、いい機会だと思うけど?」

聖來「噂って怖いからね、宿も追い出したってお店の人が言ってたし」

法子「……どういう意味ですか?」

聖來「そのままの意味。一度の疑いは、例え濡れ衣でもなかなか取れないモノだって」

未央「……かもね」

聖來「だから今、名誉挽回……だと失礼だね、プラス評価を稼ごうって魂胆、どう?」

法子「一理ありますけど、そんなお仕事が都合よく――」

聖來「この事件の主犯から聞き出した次の情報がある」

未央「え? もう捕まったの!?」

聖來「いや、ただ逃走中に色々と情報が入ってきてね、お喋りな犯人だよ」

凛(情報が入ってくる?)

卯月(きっとカレンが何か伝えてるはず……じゃないと、真犯人じゃないアツミちゃんから情報なんて……)

聖來「その中に気になるものがあって、調査を頼もうとしてその適任が、あなただった」

法子「…………」

聖來「要するに、この要人暗殺を依頼した主犯の確保、それが依頼」

法子「主犯……ですか」

未央「あれ? それって変――」

卯月(ミオちゃんストップ!)

聖來「どう? 一石二鳥、利害一致だと思うよ」

法子「確かに……そうですけど」

凛(本当に真犯人かな……? ただ、カレンにとって“都合の悪い相手”を差し向けただけかも)

未央(あ、そっか、真犯人も何も実行犯があの人の段階でこの情報は……)

聖來「悩んでる?」

未央「うーん……その話、本当かな?」

聖來「それを確かめる為にも、大きな国家軍隊が動く前に個人で動いてもらおうと思って」

聖來「適任でしょ? ノリコちゃんなら」

法子「念の為に聞きますけど……その、依頼主というのは?」

聖來「うん、場所は少し離れて……標的は『ソベストラ』って国だよ」

凛「……え?」

未央「どうしたの? 何か知ってる国?」

凛「いや……私の記憶が間違ってなかったら、そこって……大きい国だっけ?」

法子「違うはず……ただの農村だったような」

聖來「その通り、そこは国というより一つの小さな農村」

卯月(私達の故郷の『アルトラ』みたいな)

聖來「問題は現在、その国に滞在している一団だよ」

未央「なーるほど……本拠地にしてる、って事は……敵国じゃなくて、組織が相手?」

聖來「その通り。現在別の国家と戦争中、対立してる国家は『キュズム』、そう聞くと相当な実力がある組織でしょ?」

聖來「このタイミングで襲撃をかけたのは、恐らく戦火を広げようとでも思ったのか――」

卯月「ちょ、ちょっと待ってください! 相手の国家『キュズム』って……!」

聖來「知ってる? まー有名だからね」

凛「……ウヅキ」

卯月「うん……! ノリコちゃん!」

法子「えっ?」

卯月「その依頼……私達が受けても、いいですか?」

聖來「あれあれ? どういう風の吹き回し?」

法子「ウヅキちゃん!」

卯月「ごめんなさい、これはノリコちゃんと違って……別の関連があって――」

法子「分かった、あたしも手伝う」

未央「え?」

法子(元々、三人には何かお返ししなくちゃいけないと思ってた)

法子(この依頼、あたしと三人の利益が一致するなら……協力するのがお手伝いになる!)

法子「次こそは迷惑をかけないようにしますから」

卯月「迷惑だなんてそんな!」

凛「セイラさん、いいの?」

聖來「私としては人手が増えたら、それは嬉しいけど……」

法子「それじゃあ決まりですね! 行きましょう、準備が整い次第!」

聖來「……そっちは問題なし?」

凛「うん、別に……」

未央「いいよね!」

卯月「はい!」

凛「それにしても……『キュズム』か」

未央「二度目の訪問は、案外早かったね?」

法子「一回行った事が?」

卯月「うん……色々あって、出てきちゃったんだけど」

法子「三人も大変なんだね」

卯月「ノリコちゃんに比べたら、まだまだかもしれないけど」

未央「さて……会いに行きますかっ! あの人達にもう一度!」

凛「……だね、元気にしてるかな」

卯月(一度は断られた、あの時の協力の続きを……理由がないなら手伝わなくてもいいって)

未央(じゃあ、理由を作れば大丈夫だね!)

凛「次の目標は、決まったね」

痛い

---------- * ----------
発祥区 とある場所
---------- * ----------




・・

・・・


――スタスタ

菜帆「私は確かに暇な時間が多いですけど~」



春菜『今、何かと手が離せない状況です! というわけでナホさん、代わりにお仕事お願いしますよ?』

ケイト『たまには国外遠征もいいじゃないデスカ』



菜帆「お外の問題解決は私のお仕事じゃないですよ~」

菜帆「もう、他の人達は何をしているんでしょうか~、私はチナツさんからの連絡を待たなければ駄目なんですよ~」

菜帆「……でも、あまり非協力的すぎて不信を持たれるのも困るので~」

菜帆(今回は真面目にお仕事しましょうね~、というわけで)

*発祥区 とある村内*

菜帆「さてと、到着しましたけど~」

菜帆(ここは『ウィキ』と関連がある村、いわゆるお友達ですが~)

菜帆「ただ野盗の襲撃が多いからって、わざわざ幹部が出向くほどの事態でしょうか~?」

菜帆「もしかして本当に私を国から一瞬遠ざけたい為だけに向かわせたのでは~……」

菜帆「……だとすると、さっさと解決して戻らなくちゃいけないですね~」

菜帆(万が一にも、チナツさんに迷惑が掛かると申し訳ないですから~)

――…………

菜帆「あれあれ? なんだか村が騒がしいですね~、何かありましたか~?」

菜帆「……え? 少し先の森で事件が?」

菜帆「はいはい分かりました~、これは素早い解決が出来そうですね~」

*森林内部*

菜帆「確かこの方角だと――」

――ズンッ……!

菜帆「今の音は……木が倒れた? ずいぶん派手な事をしているみたいですね~」

菜帆(野盗って目立たず略奪を行ってこそだと思うんですけど~、目立ってイイ事ありませんよ~)

菜帆(……あ、私が見つけやすくなるからイイ事かもしれませんね~)

菜帆「さて、悪者退治にしましょうか~」

――ドガッ!!

菜帆「……あらら?」

――バキッ!

菜帆「もう、急に飛んでくるなんて危ないですよ~」

??「はああっ!」

菜帆「あっ」

――ヒュンッ!

??「避けた!?」

菜帆「どちら様ですか? もしかして噂の野盗さん……にしては、ずいぶん子供に見えますけど~」

??「野盗じゃない、アタシは正義だ!」

菜帆「匿名希望ですか~?」

??「アタシの名はヒカル、正義のヒーローだ!」

菜帆「あ、普通に名乗るんですね~、私はナホと言います~」

光「そうか! で……この悪党どもの仲間なのか?!」

菜帆「その悪党さんをこんなところまで吹き飛ばしてきたのはあなたですか~?」

光「答えるんだ! お前は悪党の仲間なのか! もしそうなら、アタシの拳が成敗してやるっ!」

??「ヒカルちゃん! 駄目です!」

菜帆「あれ~?」

??「その人は、未来区の国家の幹部さんです!」

光「何だって?!」

――…………

菜帆「……というふうに、私は幹部のナホと言います~」

光「そうだったのか……でも、困ってる人が居るのに早く対処しなかったのはいただけないな!」

??「たまたま私が巻き込まれた所を助けてもらったので……」

菜帆「対処が遅れたは申し訳ありませんが~、私も本来のお仕事じゃないもので~」

??「そうですよね……? あの……失礼ですけど、どうしてこんな場所に?」

菜帆「人手不足のせいですね~、本来私の仕事じゃないのですが、この辺りに悪い方々が居ると言われまして~」

光「そうか! 国は民の苦難を聞いていたんだな、でも大丈夫だ! アタシが倒したから!」

菜帆「そのようですね~、手間が省けてなにより……と思ったのですが」

??「……ですが?」

菜帆「さっきヒカルちゃんが吹き飛ばした野盗どもは、どこへ行きましたか~?」

光「え? あっ!?」

??「逃げちゃいました……ね」

菜帆「お仕事、まだ終わらなさそうです~」

光「逃がしてなるもんか! アタシが追いかけてくる!」

菜帆「まぁまぁ落ち着いて~、一旦村の方へお伺いしましょう~」

菜帆(勝手に色々される方が面倒ですから~)

*村内*

菜帆「改めまして、お名前はヒカルちゃんとアイコちゃん、という事で?」

藍子「はい。私は国家『ウィキ』で写真……カメラを取り扱うお店を開いているんですけど」

菜帆「なるほど~、国在住だから私の事もご存知だったと~」

藍子「それで、この近くが危ないと知らなかったんです……だからあんなことに」

光「そこにアタシが登場して、無事野盗を蹴散らし一件落着だ!」

菜帆「落着はしてませんけど~」

光「あ、そ、そうだな……すまない」

菜帆「いえいえ~、これは私の今回任されたお仕事なので~、手がかりが無いので時間は掛かるかもしれませんけど」

藍子「……あのっ」

菜帆「なんですか~?」



藍子「これが、私のカメラなんですけど」

光「ん? 思っていいたよりも小さいんだな?」

藍子「そうですね、こういうサイズで作ったものなので……」

光「小さく隠しておくっていうのもカッコいいな! アタシにも作ってくれるのかな?」

菜帆「お取引の話なら後でお願いします~、それでカメラがどうなされました~?」

藍子「実は……襲われた時、咄嗟に撮影ボタンを押したんです」

菜帆「ほ~……」

藍子「もしかしたら顔が写ってるかも……もしかしたら、ですけど」

光「凄いじゃないか! これで一網打尽だ!」

藍子「でも写ってないかもしれませんし、一時間ほどお時間が必要ですが……」

菜帆「構いませんよ~、手がかりがあるかもしれないなら待ちます~」

光「アタシも手伝うよ! 困っている人を見過ごす訳にはいかないから!」

菜帆「私一人で大丈夫ですよ~?」

光「大丈夫だ、見返りを求めているわけじゃないよ!」

菜帆「そういう意味ではなく~」

光「でも……そんなに強い人には見えないのに、襲われてる時によく証拠を持っておこうと思ったね」

藍子「えっと……それは……」

光「もしかして凄い変身能力を持ってるとか、隠された力があるとかじゃないか!?」

藍子「ち、違いますよっ!?」

藍子(ミズキさんのせいで色んな事に巻き込まれるのに慣れちゃったとは言えない……)

菜帆「あんまり人を困らせちゃ駄目ですよ?」

光「そ、そうか……それじゃアタシはこの辺りを調べてくるから!」

――タタッ

菜帆「ご自由に~」

藍子「え、あの、止めた方がいいんじゃないですか? 強いのは……見て分かってますけど」

菜帆「あの子強いんですか~?」

藍子「たぶん……。 助けてくれましたから、じゃなくて! あの、一瞬交戦してましたよ……ね?」

菜帆「そうでしたっけ~?」

藍子「え、えっと……もういいです」

菜帆「?」

藍子(あんまり他に関心がない人、なのかな?)



・・

・・・


――スタスタ

菜帆(村の様子を見てる限り、それほど大きな襲撃や被害ではないようで……ますます私が来る必要、なかったんじゃないですか~?)

菜帆「そもそも、野盗襲撃なんて幹部じゃなくてその他大勢に任せればいいんですよ~……」

――ガチャッ

藍子「あの、ナホさん」

菜帆「どうなされました~?」

藍子「写真を取り急ぎ用意したのですが」

菜帆「どうでした?」

藍子「全員、とは行きませんでしたが、それなりの人数は確認できます」

菜帆「わぁ~、ありがとうございます~」

菜帆(……お仕事、すぐに終わりそうですね? 本当に私が来る必要が無かったのでは~)

藍子「見やすいように絞ってきました、この三枚です」

菜帆「は~い」

藍子「……ところで、ヒカルちゃんは帰ってきましたか?」

菜帆「あの子ですか? あれから見てませんね~」

藍子「大丈夫でしょうか……」

菜帆「一人で動く子供は元気ですから~」

――ガチャッ

光「駄目だ、見つからないよ……」

菜帆「そうこうしてたらご帰還のようです~」

藍子「ヒカルちゃん大丈夫でした?」

光「ん? 何がだ? ……ああ、野盗なら見つからなかった、残念だけど」

藍子「無事でよかった、あんまり一人で動くと危ないですよ?」

光「アタシなら大丈夫!」

菜帆「そういえばどうしてこの村に? ここが出身ですか~?」

光「いや、アタシは今世間を賑わすヒーローに会う為……あっ!!」

藍子「へっ?」

菜帆「……どうしました~?」

光「しまった……元々アタシは家を出ていった仲間を連れ戻しに来たはずじゃないか! 何をやっているんだ!」

藍子「家を? 仲間……?」

光「そう、レイナって名前の子なんだけど、知らないか?」

藍子「うーん……ちょっと分からないです」

菜帆「私も存じません~」

光「そうか……」

菜帆「お友達なら探しに行った方がいいのでは~?」

光「だけど、困ってる人を見捨てて行くわけにもいかない!」

菜帆(私は別に困ってませんけどね~)

藍子「じゃあ、早く解決するためにもこの――」

光「……むっ」

――…………

藍子「あれ? どうしました?」

光「……何かの気配がする!」

菜帆「気配、ですか~? そんなものは感じませんけど~」

光「いや、これは何かがある! アタシの直感を信じるんだ! 出撃する!」

――ダッ!

藍子「ああっ! またどこかに行っちゃいます! わ、私も見てきますっ!」

菜帆「お達者で~」

――タタタッ

菜帆「騒がしい子ですね~、では私はこの写真に目を通して……あれ?」

菜帆「……あっ、写真持って行かれちゃいました~……待ってくださ~い」

――タタタッ

*森林内部*

光「今確かに感じた、何か良からぬ事が起きている気配だ!」

――ザッ!

光「この近く、この森林のどこかのはずなんだ!」

藍子「ひ、ヒカルちゃーん! はぁ、はぁ……」

光「あれ? どうしてついて来ちゃったんだ! ここは危ない、アタシの勘がそう告げている!」

藍子「危ないのはヒカルちゃんだよっ……こんな場所に一人でっ……はぁっ……」

光「アタシは大丈夫だ、それよりも戦えないアイコさんの方が危ない」

藍子「戦える戦えるって、さっきの人達みたいな相手ばかりならよくても――」

光「……シッ!」

藍子(えっ?)

――…………

光(今、何か聞こえた?)

藍子(聞こえ……な、何も……)

光「いや、確かに何か聞こえた!」

――ダッ

藍子「あっ! また……!」

光(こっちから感じ……る?!)

――ガサッ

藍子「ま、待って……私そんなに足早くない……」

光「どうした! 大丈夫か!?」

藍子「うんっ、なんとか……」

光「ここで何があった!?」

藍子「え?」

光「アイコ! この一帯に……人がたくさん倒れてる!」

藍子「え? あ、わっ!?」

光「くそっ! アタシがもっと早くここに来ていれば……!」

藍子(人が一、二……いや、五人以上、もっと倒れて……でも、何か見た事のあるような……)

光「意識は!? 怪我は……しているな、ここで何があったんだ!?」

藍子「もしかして……」

光「何か分かるのか?!」

――ガサッ

光「……写真?」

藍子「ちょっとまってね……あ、やっぱり……!」

光「何か分かったのか!」

藍子「この人達……写真に写ってる人達だ」

光「写真? ……あっ! という事は!」

藍子「さっき私達を襲ってたグループ……」

光「なんだって!? よし、捕まえた! 逃がさないからな!! ふんっ!」

――ドゴッ

光「よし! これで大丈夫だ」

藍子(急に態度が……)

藍子「……でも、この野盗をこんな状態にした人は誰……?」

光「そういえば……そうだな、誰がアタシに代わって成敗したんだろうか」

藍子「もしかして他にもグループが――」

菜帆「恐らく大丈夫でしょう~」

藍子「あれ?」

光「なんだ、皆追いかけてきてたのか?」

菜帆「写真を持って行っちゃったので~」

藍子「あの、さっきの写真の件ですけど……」

菜帆「大丈夫です~、聞こえてました~。ここで寝ている人達が先程被害を出した人物という事だそうですね~」

光「そうみたいだ! 早く捕まえてくれ!」

菜帆「もう確保されているみたいですけど~」

藍子「それはいいんですが……ここに私達が来た段階で既にこうなっていたんです」

菜帆「らしいですね~。それで、ほかのグループが居るのではというお話でしたが」

光「そうだ!」

藍子「まだ確認はできてませんが……写真に写っている顔の人達は、少なくとも全員……」

光「だけど仲間が居るかもしれない!」

菜帆「このような俗人の集団はたいてい、縄張りを決めて獲物が重ならないようにするんです」

菜帆「倒れてる集団がこの地域を根城にしているグループと判明すれば、他には同じ賊は居ませんよ~」

藍子「でも、もしかして残ってる野盗が居たら……」

菜帆「その時は、ここで捕まえた人にお聞きする事で解決しますよ~」

光「だけど! 今、平和が訪れたとは言えないならこのまま捜索を続けるべきじゃないか!?」

菜帆「完璧に安全な状態なんてありませんよ~? 来た時より十分に安全になったと思えばお仕事完了です~」

光「そんなの……雑じゃないか! 国を守るヒーローなんだろう!?」

菜帆「残念、ただの幹部なんです~、効率の方が大事なんですよ~」

菜帆「なので……よいしょっ」

――ズルッ

菜帆「私はこれを引っ張って帰りますので~」

光「本当に帰るのか?」

菜帆「はい~」

藍子「確かに、大きな驚異は去ったかもしれませんけど……」

光「見損なったぞ、じゃあ……アタシがここを守ってみせる!」

菜帆「あれ? ヒカルちゃんも大事な用事があるんじゃないですか~?」

光「アタシ一人の用事よりも、この村の危機のが優先に決まってるじゃないか!」

菜帆「……そう言うなら止めはしませんが~」

光「止めはしないならいいじゃないか! アタシの責任、自主的な活動だ!」

菜帆「構いませんよ~。ただ……ここから先、きっと苦労しますよ~?」

光「ふん! アタシのが皆のために活動できるんだ! アタシこそが皆の味方だ!」



・・

・・・


――スタスタ

菜帆「……さて、それなりの成果が出ましたと報告して帰りましょうか~」

菜帆(それにしてもあのヒカルちゃんですか? なかなか損な性格しています)

菜帆「ま……そのおかげで私は安心して帰る事が出来るんですけど~」

菜帆(見たところ私よりしっかり戦い向きです、本当に残党が残っていても片付けてくれるでしょう~、あの正義感なら~)

菜帆「数日かかると思っていましたが、案外早く終わっ――」

――Prrr……

菜帆「はい~、こちらナホです~」

のあ『……何かあった?』

菜帆「何かあったから私を送ったんじゃないんですか~? 強いて言うなら、野盗襲撃があったので確保して帰還するところです~」

のあ『野盗……確保したの? それ以外に、村で異常は?』

菜帆「ぜーんぜん、ありません~。というわけで帰る途中なのですが~」

のあ『……そう、こちらも人手不足。仕事が完了したと判断できたら、早急に帰還を』

菜帆「は~い」

――ピッ

菜帆「……ふー、連絡の手間も省けましたね~、それじゃあゆっくりと帰るとしましょう~」

菜帆「こう、明るくて暖かい日だと気分も良くなります~、少し眠っていきましょうか~」

菜帆「……おや、こんなところにお花畑です~、いいですね~、ちょっと横になって……」



*国家『ウィキ』*

――ピッ

のあ「…………」

のあ(あの村の近くに……『何らかの危険因子』がある、私の中の機能がそう感じた)

のあ(でも、ナホは何も見つける事は出来なかった、特に異常がないと判断している)

のあ(驚異が、あるはずなのに見つからない……詳しく調べる時間もない)

のあ(すぐに見つからない驚異は、急いで取り掛かる必要は無い……と、割り切るしかない)

のあ「……まだ解決しなければならない驚異は多い」

のあ(私の中の“驚異を感知する力”が、警鐘を鳴らさなくなるまで……この調査は続く)

うむ

*翌日 村内*

光「何が国を守る役人だ! 結局、十割の百パーセントが解決する前に去ってしまうなんて、やっぱり人を守るのはヒーローの仕事だ」

光「昨日から念入りに村の中を練り歩いて、どこか異常がないか確かめる! アタシが最後の防波堤になるんだ!」

光「そして解決した暁には、今度こそレイナと……あの勇者サナを追いかけるっ!」

――ザッ ザッ

光「うん? あれは……」

藍子「ヒカルちゃん?」

光「おはよう! いい天気だな!」

藍子「う、うん……えっと」

光「大丈夫だ! あのナホって人が居なくても、アタシが絶対に残りを探し出して――」

藍子「それはその、ご自由ですけど……昨日からずっと、ですか?」

光「当たり前だよ! この辺りにまだ潜んでる相手が居るかもしれないんだ」

藍子(宿に子供が来ていないって聞いた時、まさかと思いましたが……本当に?)

光「ヒーローに、この程度の試練は障害にならない! 戦いに休息なんてものは無い!」

藍子「……うーん」

光「ところで、そっちから声を掛けたって事は何か用事があったりするんじゃないか?」

藍子「えっと……」

光「困った事があったら相談してくれ! アタシはこう見えて――」

藍子(新しい情報……なんだけど、これを話しちゃうとヒカルちゃんは動いちゃいますよね……)

光「……あ! もしかして新しい情報なのか!?」

藍子「えっ?」

光「そうか! ありがとう! アタシが気づかなくてアイコさんが気づいたって事は、きっと宿で手に入った情報だな!」

――ダダッ

藍子「す、鋭い!? じゃなくてっ! 危ないよ! これ以上首を突っ込むのは」

光「アタシはヒーローヒカルだ! 皆を守る責任があるっ!!」



・・

・・・


光「よっ……! ここが宿だな!」

光「お邪魔します!」

――バタンッ!

光「この中に……ん?」

光「……そこの人、もしかして最近ここらへんで起きてる野盗について知ってたりしない?」

??「野盗? さ~、知らないね~」

光「そっか……昨日に見なかった顔だったから、もしかしてアイコさんが思ってた人だと思ったんだけど」

??「何々? 色んな人の顔とか覚えてるの? すごーい☆」

光「当然だ! アタシが守るべき皆を忘れる訳にはいかないからな!」

??「へぇ~、じゃあ……こんな子を見たりしてない?」

――パサッ

光「うーん……見覚えが無いから、人探しならきっとこの村を探しても駄目だ、見つからないよ。力に慣れなくてすまない!」

??「ううん♪ 全然オッケー! 村に居ないなら森の中かな~」

光「森? どうして?」

??「実は近くに居る事は分かってるんだけど、詳しい場所が特定出来なくてね~」

光「場所が?」

??「放っておいたら何するか分からないし? じゃあ早く見つけちゃおーかなって!」

光(放っておいたら……被害が出る? それで村には居ない、この近くに……?)

??「でも居ないならしょーがない、じゃーねー♪」

光「ちょ、ちょっと待ってお姉さん! もしかして、その写真の人は危険な人物なのか!?」

??「危険と言えば、危険かも?」

光「ならアタシに任せてくれ! その人も一緒見つける! 大丈夫、アタシは昨日この辺の状況は全部把握した! 手伝える!」

??「いいの?」

光「当たり前だよ! アタシは正義のヒーロー、ヒカルだ! 困っている人は見過ごせない!」

??「じゃあ……手伝って貰おっかな♪」

光「ああ! それで、お姉さんの名前は?」

??「あたし、お姉さんに見える?」

光「違うのか?」

??「やーん、嬉しい☆ こう見えて、形整えるのに毎日苦労してるしぃ?」

光「その話はちょっとアタシの専門外かな……ついていけなくてすまない」

??「大丈夫、こっちの話ー!」

光「そうなのか? 何にせよ、よろしくな! えっと……それで名前は?」

??「ごめんごめん、忘れてたー! あたしの名前はぁ……ユウだよ」

*森林内部*

――パサッ

光「うーん……目立ちそうなんだけどな」

優「だねぇー」

光「それで、その『スズホ』という人は何をした人なんだ?」

優「何をって、家出だね~」

光「出て行ったのか? それは……えっと……」

優「あれぇ? 何か後ろめたいこと?」

光「え……な、何がだ?」

優「だってぇ、あたしと話してる最初から即断即決、ばっさりって感じの会話だったのに、急に口を濁らせたでしょぉ?」

光「…………」

優「という事はぁ……もしかして?」

光「……ああ、アタシも似たような事をしてるかもしれない」

優「え?! 家出中なのぉ?」

光「え? 気づいてたんじゃないのか!?」

優「全然☆ でも言ってくれたから今知った、あはっ♪」

光「上手く口を割らされた気がする……!」

優「でもぉ、心配されてるかもしれないから、帰った方がいいかもぉ」

光「それはきっと大丈夫だ、アタシはちゃんと書置きを残してきたから」

優「ふーん? ……妹探しとか?」

光「?」

優「違うのぉ? 『アタシは』なら、ヒカルちゃん意外の誰かは書置きを残さずに出ていっちゃった、でしょ?」

優「てことは~、それでも出てくる正義感の強い子の目的といえば……自分にとって大事な人を探しに来た、じゃない?」

光「……凄いな、ほとんど合っているよ」

優「いやーんあたし大当たり? うふふ」

光「確かにアタシは、大事な仲間を探しに来た! でも、アタシの為じゃない!」

優「頼まれたみたいな?」

光「いや、アタシの為でもあるんだけど……アタシだけの為じゃないんだ!」



光「本当に突然いなくなって……心配してるんだ、だから皆に謝らないといけないんだ」

優「その子に? 確かに心配かけちゃ駄目だよねー」

光「……もちろんアタシもだ」

優「んー」

――…………

光「あの、ユウは普段何を?」

優「あたし? 普段ー……何してたかなー?」

光「覚えてないのか?」

優「冗談☆ えっとぉ、色々研究とかしてたかなぁ」

光「研究、アタシも良くしているぞ! 何度も何度も自分で動きを確認して、より効果的な技を生み出す研究を!」

優「そういう研究もいいねぇ」

光「ああ! という事はユウの研究はアタシと違うのか?」

優「違うといえば全然違うねー」

優「研究というより……“努力”とか? あはっ、カッコイイこと言えた?」

光「なるほど! でもアタシだって負けてないっ!」



・・

・・・


――ザッ

光「見つからない……もう遠くに逃げたのか?」

優「それは無いねー、まだ近くにいるはず」

光「名前は……スズホだったよね?」

優「……!」

――…………

光「どうした?」

優(今の、何かー……う~ん?)

――タタッ

優「ちょっと失礼☆」

光「あっ! 一人で動くと危ないぞ!」

優「大丈夫♪」

光「アタシも行く! 何かに気づいたんだな! 協力するぞ!」

――タッタッタッ

――…………

鈴帆「なんね……」

――ドサッ

鈴帆(この襲ってきた賊はどうでもよかと、多少懲らしめる程度で……)

鈴帆「ただ、今確実に“視線”感じたと」

鈴帆(それが誰か……いや、そげなもん決まっとる)

鈴帆「となれば、近づかれる前に退散ばい」

鈴帆「賊は……腐るもんやなかと、放っておいても問題なかとね」

――タタタ

鈴帆「あとは去るだけ、ここからおさらばたい」

光「待つんだ!!」

――ザザザッ

鈴帆「むっ!?」

光「間に合ったッ!」

鈴帆(……早か)

鈴帆「な、何ね!?」

光「心配しないでくれ、アタシは悪い人じゃない」

鈴帆(子供……?! いや、そうじゃなか、ユウと違う……?!)

鈴帆「ウチに何の用かね……?」

光「……あっ!」

鈴帆「次から次に何ばい!」

光「人がこんなに倒れてる……!」

鈴帆「気付くのが遅か!!」

光「お前がやったのか! スズホ!」

鈴帆「それに間違いはなかと! ばってん理由が――」

光「人に危害を加えるなんて、アタシが鉄槌を下す!」

鈴帆「聞く耳持ちんしゃい!」

光「はあっ!」

――ヒュッ ガッ!

鈴帆(攻撃は重くなかと……ばってん、危害を加えるわけにも)

光「まだまだ!」

――ブンッ!



――スカッ

鈴帆「んう! 器用な動きとね……!」

光「二度のキックを回避するなんて、これは本腰を入れる必要が――」

鈴帆「待ちんしゃい! 誤解をしとるね! ウチは確かに倒れてる人の山を作った原因ばい!」

光「それは見ての通りだ! これ以上は手を出させない! アタシが皆を守る!」

鈴帆「ばってん、これはウチの正義の為ね」

光「正義だって?」

鈴帆「ん……それは言い過ぎたと、正義なんて大層なものじゃなか、正当防衛ばい」

鈴帆「ウチを襲ってきた野盗ね、それを返り討ちにしただけと」

光「何!? ……本当だ、よく見たらあの時にアタシが吹っ飛ばした相手だ!」

鈴帆「誤解が解けたなら問題なか――」

――ギュッ

光「よし、これで全員捕らえた!」

鈴帆「行動が早いけん……さっきまでウチから守る言ってたと」

光「アタシは正義のヒーロー、ヒカルだ! 悪者と分かったなら、捕まえるのが当然!」

鈴帆「……ちょっと待ちんしゃい」

光「なんだ?」

鈴帆「どうしてウチの名前知っとーと?」

光「名前は聞いたからな!」

鈴帆「聞いた? その聞いた相手ばもしかして――」

――メキッ

光「……うん?」

――ゴゴゴゴ

光「なんだッ!?」

鈴帆「木がこっちに倒れてくるばい!!」

光(この距離この方角だと……アタシが避けると皆に当たってしまう!)

光「くっ!」

鈴帆「!? 何してるとね! 危ないから――」

光「アタシが避けると、皆を守れない! この体で止めてみせるッ……!!」

鈴帆「何言っとるばい! そげな野盗放っておけばよか!」

光「善でも悪でも、見捨てていい理由にはならない! うおおおッ!!」

鈴帆(無茶する人たい……!!)

――ズズゥン……!



光「……ぐっ! …………?!」

鈴帆「本当に逃げずに受け止めるなんて、無茶にも程があるとね」

光「アタシは……無事? もしかして、木を無意識に避けてしまったなんて――」

鈴帆「何言っとるばい、ちゃんと左右に逸らしてると」

光「……!」

――ヒュオォォ

光「……そうか、よかった」

鈴帆「…………」

――ズキッ

鈴帆(なかなか骨の折れる仕事ばい……物理的に)

光「まさか……止められる、逸らす事が出来たなんて思ってなかった」

鈴帆(間違いじゃなかと、実際あの子一人……いや、ウチが一人でもあの大木はどうにも出来んと)

鈴帆(ただ、ウチは“二人”がその場に居るなら、何とでも出来るばい……!)

――ズッ

鈴帆(最初は“外側”だけのものに取り入る事しか出来なかったけん、今は既に内側があるものにも短いながら取り入る事が出来たばい)

光「さっきの……急に力が増えたような」

鈴帆(ウチがこの子に“内部から”衝撃や威力に援助を加えた……ウチはそうやって力を使える生物と、ここ数日で把握したばい)

光「……!? その両腕どうしたんだ!? まさか木に巻き込まれて――」

鈴帆「違うと、以前からの怪我ばい気にする必要なかと」

鈴帆(もちろん違うけん。ウチの手はこの子が身を呈して守ろうとした腕に、木から受けた衝撃を“肩代わり”しただけたい)

鈴帆(生体の内部からは、思ったより色々な事が出来ると……)

光「今は大丈夫でも、ここは悪党がウロウロしている場所なんだ! 怪我した状態で歩いていい場所じゃない!」

鈴帆「その通りばい。現に……ヒカルしゃん、疑わしくとも問答無用はやりすぎたい」

光「う、すまない……でも、今は味方だ! もう安心していいんだ!」

鈴帆「安心? それは無理ばい」

光「アタシじゃ力不足か?」

鈴帆「いや、そういう意味じゃなか。この木、まさか自然に倒れてきたわけじゃなかと?」



光「……そうか!」

鈴帆「誰かが、ウチらを狙って倒しているなら……まだ安心できる状況じゃなか」

光「一体誰が……!」

鈴帆「誰? ウチが関わってる相手は少なか、となると……相手は誰か確定してる、そうね?」

――ザッ

優「やぁん、バレてた? お久しぶり♪」

光「ユウ? もしかして……木を倒したのはユウなのか!?」

優「あはっ、何の事?」

鈴帆「シラを切るのが下手ばい。ウチに何の用ね、目的があっと?」

優「目的。目的と言えば……一つ」

光「スズホと会う事じゃないのか?」

鈴帆「どうせロクなものじゃなか」

優「ねぇ、あたしの所に帰ってこない?」

光「…………?」

鈴帆「さんざんウチを雑に扱って、今更戻れとはどういう了見とね」

優「あたしは、然るべき日に備えて優秀な子を作らなくちゃ駄目」

光「子を作る?」

優「あ、そんな真っ当な子孫繁栄って意味じゃないからねー?」

鈴帆「知らんとね、ウチは何が何やら分からないまま巻き込まれるのは御免ばい」

光「具体的にそれは何なんだ?」

優「秘密☆」

光「なら……分からないじゃないか、戻る理由が分からないなら、戻りようが――」

鈴帆「関係なかと、どんな理由だろうとウチはその場所には戻らんたい」

優「……って感じに、色々と問題がある出来上がり。一回言ったと思うけどイマイチな出来なんだよねー」

鈴帆「ウチの問題じゃなか」

光「出来? もしかして姉妹なのか?」

鈴帆「まさか、無関係ばい」

優「そう! 血は繋がってない、全然の赤の他人……でも、あたしにとって大事な一歩」



優「で……戻らない?」

鈴帆「何回聞いても同じと、意味はなか」

優「そう? じゃあ……強引にでも連れ帰らないと」

――スッ

光「!?」

優「巻き込まれたくないなら、間に入らない方がいいよぉ」

鈴帆「結局こうなるばい……!」

優「さぁてぇ……」

光「それ以上! こっちに来ちゃダメだ!」

優「あは、そっちの都合は知らないけど」

光「近づくなら、アタシが止めなければならない!」

鈴帆「ヒカルしゃん! 本当に危なか!」

優「あはっ☆」

光「止まる気が無い、なら……アタシは本当に実行する!」

――ヒュッ ドガッ!

光「……え!?」

――グシャッ

優「あっ、また取れちゃった」

光「ちょ……ちょっと待て! なんだその、大丈夫なのか!?」

優「大丈夫? そっちが思い切り蹴ったから壊れちゃったんだけどぉ……ま、いっかぁ」

――ギラッ

鈴帆「!」

優「壊れたところでも使えるからぁ……!」

光「なっ!?」

――ズリュッ

光「変形……!?」

優「便利だよぉ♪」

――ザシュッ!!



光「っ……! …………あ、れ?」

優「ふーん……あたしの知らない成長もしてたんだぁ」

光「なんで、アタシの体に確かに……」

鈴帆「“そこ”はヒカルしゃんの体じゃなか」

――ズッ

優「あはっ、なるほど」

光(ユウの手……いや、手かどうかも分からない、何か奇妙な“腕”がアタシを体を貫いて……でも、痛みが無い)

光「な、え、ど、どうなってるんだアタシの体……!?」

優「えー? わからないの? まずあたしが」

――ズンッ!

鈴帆「げほっ!」

光「えっ!?」

優「ヒカルちゃんに刺した手だけどぉ……どうやら後ろの子が余計な事をしたみたい」

光「……! 違う、一つじゃない?!」

光(前からユウの手だけじゃない、後ろも……スズホの手が?!)

鈴帆「急だから了解を得る暇がなかと……勝手に“侵入”したばい」

光「アタシの体に……ユウとスズホの二人の手が“沈んでいる”……!?」

鈴帆「……ウチは人の体に入る事が出来るたい……それで、今回は衝撃とダメージをウチに移したと」

優「あはっ、そうするのがだいたい分かってたからぁ……遠慮なく刺したんだけどぉ」

光「二人共、何なんだ!? そんな奇妙な力、アタシは聞いた事がないし見た事もない……普通じゃないっ!」

優「そう! あたし達は普通じゃない、だから関わらない方がいいよぉ」

――ガシッ

鈴帆「ぐうっ!」

優「そのまま動かなければ、後ろの子がずーっと肩代わりしてくれるからぁ……♪」

光「スズホ!」

鈴帆「げほっ……ふふ、問題なか……これくらいで……」

優「今は問題なくても動けない現状でいつかは力尽きるでしょー?」

――グググ……



優「さて、何分持つか――」

光「だあっ!!」

――バシィン!

鈴帆「なあっ!? な、何をするばい!」

優「え? は、外したの? でもそれって――」

優(あたしが刺した体のダメージは……)

光「ぐうっ!?」

優(本来の、本人に戻る――)

光「う、おおお!!」

――バキィッ!

優「あうっ!?」

光「ハァ……ハァ……ぐっ」

鈴帆「何するばい! 大人しくしておけばそんなダメージも受けずに済んだと!」

光「そんなんじゃあ駄目だ!」

優「痛ーい……勇気ある子……」

光「ヒーローは、誰かの犠牲で守られはしないんだっ……!」

鈴帆「そげな事言ってる場合じゃなかとね!?」

光「それに……アタシはそんな力に頼らない、この身一つで……ねじ伏せてみせるッ!!」

鈴帆「気持ちは分かると! ばってん今はその気持ちを一旦置くばい! 二人がバラバラで戦える相手じゃなか!」

鈴帆「ウチが力を貸す、そうすればヒカルしゃんは今よりきっと強くなるばい! それでユウしゃんを――」

光「駄目だ! アタシは……こんな逆境も、いつでも努力だけで超えてみせる!」

――ダッ!

光「特別な力に、倒れるわけにはいかないんだ!」



優「特別な力?」

光「屈しない!!」

鈴帆「無謀たい!」

優「そんなの言い掛かりだよぉ、あたしだって努力の結果がこれなんだから――」

光「はあっ!」

――グシャッ

光「っう! 裂け――」

優「……あはっ」

――ガシッ

光「このっ……どこで掴んでいるんだっ?! 離せっ!」

優「見栄えが悪いのは承知してるよぉ」

――ブンッ!

光「うわあっ!」

鈴帆「ヒカルしゃん!」

鈴帆(この距離ならもう一度“入る”事が出来れば――)

光「必要ない!!」

鈴帆「!?」

――ドガッ!

光「ぐうっ!」

優「あれ? 今度は助けないのー?」

光「違うっ……アタシが拒否した……!」

優「えー? 何で?」

鈴帆「どうしてそこまで跳ね除けるばい……」

光「これは……アタシだからだっ! 我儘なのは分かってる……けど!」

――グッ

光「アタシの傷を、人に負わせる理由にはならない! これはアタシの力不足が原因なんだ!」

優「ふーん」

光「そんな未熟を肩代わりする必要ないッ!」



――ビシッ

優「ん……それで?」

光「あとは……アタシはそんな力より、努力で超える力の方が優れてる……そう信じている!」

鈴帆「信じる……?」

優「ふぅん」

――ガクンッ

光「……でもっ……今は、アタシの力不足だ……っ!」

鈴帆「ヒカルしゃん!」

――ガシッ

光「っう……」

鈴帆(ウチが肩代わりしたぶんより傷は浅くとも……元々が違うばい、ダメージは多か)

優「その子、大丈夫ー?」

鈴帆「……何を心配しとー、誰がやったかを忘れたとは言わせんばい」

優「あはっ……よいしょ」

――ズシュッ

優「ふぅー。治ったよぉ」

光「ぐっ……あ、アタシの一撃も……そんなにすぐ治るなんて……」

鈴帆「特別な力……あながち、間違っとらんと」

優「そう? どのあたりが特別だって思う?」

鈴帆「今の一部始終で普通と思う人なんてどこに居るたい」

光「普通なら、傷は一瞬で治ったりも……そもそも、そんなダメージで立ってるのも……!」

優「でも、これは生まれ持った才能とかじゃないしぃ……あたしだって努力したよぉ」

鈴帆「真っ当な道から外れとるには違いなか」

優「そう思う?」

鈴帆「そうじゃなきゃ何ね」

優「真っ当な道で超えられる壁しか見た事が無いから、そんな事が言える感じかなー」

鈴帆「…………?」

優「ま、色々あるって事かなぁ。でもぉ、使える力を借りないのはただの我儘かなぁって思うわけでぇ」

光「……!」

優「もったいないというか……そんな信念はさっさと捨てた方がいいと思うよぉ」

光「アタシに……捨てろだって!?」

鈴帆「まぁ落ち着きんしゃい……といっても、もう怪我で動くのも辛かと」

光「ぐ……!」

優「それでぇ、そっちは?」

鈴帆「……?」

優「ヒカルちゃんと一緒で、力を借りない感じ?」

鈴帆「……確かに、同じ意見かもしれんと」

優「へぇ」

鈴帆「こんな、どうやって手に入れたかも……そもそもウチの力なのかも分からない“コレ”を使うのは気が引けると」

優「あはっ、だったら使わなければ? でもぉ……使わなかったら何も出来ない、でしょ?」

光「出来るさッ! 諦めなければ、実力は努力に追いつく!」

鈴帆「努力云々は置いといて……悔しいけどその通りばい、ウチはこれ一本、他に何にも持ってないと」

優「……認めるんだ? 反論は? その子みたいに“なんとかしてやる”とは思わないの?」

鈴帆「何とかしようとは思うばい、ばってん“力を使わない”という訳ではなかと」

光「……?」

鈴帆「頼る……! ウチは、これがなか何にも働けん」

優「その子と真逆?」

鈴帆「いいや、同じとね」

優「そお?」

鈴帆「自分の思った事を、例えどんな状況でも貫く、それは大事な事ばい!」

優「…………何かぁ、イイ事言ったみたいな雰囲気だけどぉ」

優「今の状況、何か改善出来るぅ?」

光「出来るさ! アタシがしてみせるっ!」

――ダッ!

優「やぁん、元気☆ でもぉ……」

鈴帆「危ないと!!」

優「遅いよっ!」

光「っ!」



――ギュルッ!

光「うわっ!?」

鈴帆「またそんな得体のしれない――」

優「あたしの努力っ! そっちの価値観に合わせないで欲しいかな……!」

――ガッ

光「ぐう!?」

鈴帆「また飛ばされたとね……!」

優「今度はしっかり、だよ?」

鈴帆(木にぶつかって……気絶してるだけと、まだ致命傷じゃなか、ばってん――)

優「さて……どうしよっか?」

鈴帆「どうするも何も、このまま逃げ帰る訳には行かなか!」

優「そお? 元々、戦う必要は無いよねぇ? 大人しくお縄に――」

鈴帆「必要は……あるばい」

優「えー?」

鈴帆「あの部屋で会った三人のうち一人に……『人の意志を継ぐ為に私達は戦っている』と言われたばい」

優「三人? あー、あの時のユカリちゃんが連れてきた? ……それが?」

鈴帆(どうも……不思議か、その言葉が異様に残ってるのは……)

鈴帆「きっと、ウチが覚えていない何かの……大事な言葉たい」

優「……?」

鈴帆「ウチを見つける為の、鍵のワードのはず」

優「自分を見つける? あはっ、そんなものは無いよ! だってあなたはあたしが作った“生物”だもん」

鈴帆「作った、のは……ここで議論しても正解なんて分からないと」

優「あくまで疑う? 信じてもらえないなぁ」

鈴帆「ただ、ウチが逃げて……そして今、もう一度戻れと言ったのはそっちばい」

鈴帆「ウチみたいな人を作れるのなら、わざわざ反発してるウチを取り返しに来るのは妙たい」

優「妙? 理由は色々あるよぉ?」

鈴帆「本当の理由は関係なか! 勝手にウチが自分で信じとるだけたい……」

鈴帆「“本当の自分”が、この言葉を大事にしろと言ってる気が……する!」

優「……じゃあ、信じればいいんじゃない?」

優「突然すぎるんじゃない? 何が信じるなの? 目的を勝手に美談みたいな動機にすり替えないで欲しいなぁ」

鈴帆「……少しぐらい夢見ても、たかがウチ一人が美談作っても関係なかと?」

優「呆れた、そんな理由で? 本当に? ……反発するの?」

鈴帆「もちろん! だから……信じたものには全力と!」

優「……それは、何?」

――ズズッ

優「あたしを、邪魔までするのぉ?」

鈴帆「おぉ……それ、収めた方がいいばい。この様子を第三者が見たら、化物かなんて言われるけん」

優「別にいいじゃない? ってゆーか……間違ってはいないんだから。あたしも、あなたも」

鈴帆「ウチはそこまで壊れてなか」

優「どうかなぁ……? それより、一人で戦う気?」

鈴帆「……そうなるばい」

優「そこに、いい感じに“外側”があるけど、使わないの?」

鈴帆「ヒカルしゃんの事? なら……当然、力は借りんね!」

優「あはっ、なんで? どうして? このままだと……早速“信じたものには全力”を裏切ってるよ?」

鈴帆「それはウチだけで完結する話の場合じゃけん」

優「今は?」

鈴帆「力は借りなきゃ使えんウチとよ? だったら……借りない範囲の全力をぶつけるのが最良たい」

優「……二人揃って、変なの」

鈴帆「ヒカルしゃんが貫いた正義を、ウチが破ってどうすると?」

鈴帆「ここまで傷を負っても、ウチの手は借りんと言った今、ウチが勝手に使っていい体じゃなかと!」

優「さっきも言ったけどぉ……結局、そんなものを信じても意味は無いよ? だって――」

鈴帆「ユウしゃんが作ったから、と?」

優「なんだ分かってるじゃん?」

鈴帆「ウチが勝手に考えているだけ、と言ったばい。物語みたいな無茶な……例えば、記憶なんて消されて……」

優「…………」

鈴帆「ユウしゃんの体みたいに、変に弄られただけの人間かも――」

優「ふんっ!」

――ドガッ!!

鈴帆「危っ! まだ会話の途中ばい!」

優「そぉ? もう十分かなぁって」

鈴帆「……とにかく! ウチが“誰か”なら、誰かを見つける切っ掛けになるかもしれないこの言葉を信じるたい!」

優「そうじゃなかったら!? てゆーか、実際違うんだけどねっ!」

鈴帆「だったら……自分をどこかに残すのが、ウチが居る理由ばい!」

優「へぇ……でも、あたしには関係ない!」

――バギィッ!

優「さぁどうするの!?」

鈴帆(木が倒れて、避けるのは簡単でも……)

鈴帆「ヒカルしゃん!!」

――ドォンッ

優「……言ったでしょ? その力を使わない、生身なら何もできずに弱いって」

鈴帆「ぬっ……!」

優「あはっ、そんな木の一つも支えきれない……!」

鈴帆「ぐぬっ……重か大木ばい……」

優「喋る余裕はあるの?」

鈴帆「裸一貫にも体力ぐらいはあるけん……!」

優「自分を否定した子を、どうして守るの? あたしと同列、化物認定した子だよぉ?」

鈴帆「化物が人間を守れるなら、十分じゃなかと?」

優「……ふぅん」

――ズッ

優「いい、いいじゃん♪」

鈴帆「……?」

優「でもぉ……残念だけどぉ、今は説得するより優先すべき事があるの」

鈴帆「分かっとるけん、ウチを消すことばい! ただ、そう簡単には消えなかよ!」

優「そう?」



――ドゴッ

鈴帆「おぶっ!?」

優「……威勢だけはいいけどぉ」

鈴帆「何遠慮しとるばい……これぐらいじゃへこたれんと!」

優「さすがぁ、あたしの自信作♪」

鈴帆「失敗作から昇格したと?」

優「いーじゃん、どっちでもー。とにかく……悲しいけど、お別れしなくちゃ」

――ヒュンッ

優「うふっ♪ 準備万端」

鈴帆「……何ね、さっきまでのびっくり変身ショーは終了と?」

優「あれも結構疲れるからぁ。誰の手も借りない、本気じゃない相手にはこれで十分って」

鈴帆「そんな細い針一本でウチの決意は揺るがなか!」

優「じゃあ勇気を振り絞って、かかってきて……!?」

――…………

鈴帆「な……何ね、急に立ち止まって」

優「……あれ?」

鈴帆「?」

優「どこに行ったの?」

鈴帆「だから何が――」

優「さっきまで居たヒカルちゃんは!?」

鈴帆「……あれ?! ヒカルしゃん? どこへ身を隠しと!?」

――フッ

優「!」

鈴帆「おお?!」

光「こっちだ!!」

優(後ろ!?)

――ダンッ!

光「だああーっ!」

優「あはっ、そんな派手に叫んだら察知でき――」

――バキィッ!!

優「っあう!?」

鈴帆「おおっ! えらい速度ばい」

優(早い……!? なんで? さっきと全然違う……!)

光「直接攻撃はしていない、今は武器を壊しただけだ!」

鈴帆「針が真っ二つばい」

――カランッ

優「壊れた……やってくれたねぇ……」

鈴帆「ヒカルしゃん! 怪我は大丈夫と!?」

光「スズホ! さっきの……我儘で協力を断ったのは謝る」

鈴帆「今はそれよりも、大丈夫なんね?」

光「ああ! ……ただ、聞いたよ」

優「…………」

光「アタシのために、こんな窮地でも力を使わずに……アタシのために、戦ってくれた!」

鈴帆「何を言っとー、ウチも自分勝手ばい……!」

光「アタシと同じ、芯を持っている強いヒーローだ!」

光「信じたものに努力する、人助けを行うのは英雄だ!」

優「盛り上がっているところ悪いけどぉ……」

鈴帆「……忘れとったばい」

光「力は交えずとも、思いが通じた二人は協力で強力だ!!」

優「友情が芽生えるのは勝手にやっておいてねぇ、それより……」

優(壊されちゃったから、帰るってわけにもいかないよねぇ)

優「とりあえず……大人しくしてもらわなきゃ駄目だねぇ」

鈴帆「来るばい、ヒカルしゃん……打開策はあると?」

光「もちろん!」

鈴帆「それは?」

光「小細工なんて使わない、アタシはいつでも真っ直ぐだ! 真っ直ぐは万に通じるんだ!」

鈴帆「……あっはっはっは! そりゃあ名案たい、一回のアタックで駄目なら――」

優「へぇ……」

――ダンッ

鈴帆「二度、三度ぶつかるのが一番と!!」

優「何回来ても無駄だよ!」

――ヒュッ

光「だっ!」

鈴帆「そいやっ!!」

優「二人がかりでも関係なし……!」

優(相手が増えたところで、そんなに攻撃力が変わるはずも……)



光「一撃!!」

――ガッ!

優「っ!」

光「はあああ!!」

優(押される!? なんで?! こんなに急に成長するはずが……!)

――ズズズズッ

光「いっけぇぇえ!!」

優「なんで、どうして――」

――ビキッ

鈴帆「……!? 何ね今の音は……!」

優「知らないっ……ただ、それよりもその力は何……!?」

光「ヒーローは窮地を脱する力に長けているんだ! 逆境であればあるほど、強くなるんだ!!」

鈴帆「なるほど、それでこそ英雄たい!」

優(そんなのあるわけない、けど……実際に強い……!)

――ビキッ……

優「もう、さっきから何の音――」

光「……あ!」

――ビシィッ! ガラッ

優「あれっ?!」

鈴帆「地面が崩れたと!?」

光「地理を思い出したんだ、この近くは滝があったはず……という事は!」

優「崖っ……?!」

鈴帆「じ、地面ごと落としたと?!」

優(そんな無茶な、ここは崖から全然離れてる……さっきまでの力で地面を崩すほどの威力なんて――)



光『ヒーローは窮地を脱する力に長けているんだ! 逆境であればあるほど、強くなるんだ!!』



優(……その台詞が、気持ちの問題やハッタリじゃなくて本当なら?)

優「もしかして……あの子も……?」

――ヒュゥゥゥ




・・

・・・

鈴帆「……落ちたと」

光「ああ、これでこの村の脅威は去った!」

鈴帆「ばってん、やりすぎじゃなかと? この一体の地形が変わったと……」

光「仕方ない、今のアタシ達じゃ力不足なんだ、こうして追い払うしかなかったんだ」

鈴帆(地形を壊すほどの威力がある力で何を言っとー)

光「……ところでスズホ」

鈴帆「何ばい?」

光「これから、どこに行くつもりなんだ?」

鈴帆「もちろん……いや、確かに次の目的がなかと」

鈴帆(ユウしゃんを追っていたつもりが、向こうがウチを狙っているなら逆に逃げなきゃ駄目ばい)

鈴帆「……そうさね、ヒカルしゃんの言うヒーローでも目指してみると」

鈴帆「ただ、ウチには表舞台は似合わなか」

光「そんな事はない! 立派な……アタシを助けてくれたヒーローじゃないか!」

光「アタシと協力して、一緒に頑張ろうじゃないか!」

鈴帆「それは無理ばい、ヒーローを目指す人がこんな身元の怪しい自分と居るのは良くなか」

鈴帆「ヒカルしゃんは、文字通り皆の光になるのがよか! ウチが後ろから精一杯照らしたるけん!」

最後のレスを投下前にパソコンのインターネット接続が切れたので、後日投下します。

光「じゃあ……ここで一旦?」

鈴帆「お別れたい、互いにやることもあるけん」

鈴帆「最後にまだウチに聞いておく事、あると?」

光「……そうだ、あのユウって人と、スズホはどこから来たんだ?」

鈴帆「ウチは……確か、聞いた国名は『コドライブ』と言っとった気がするばい」

光「…………」

鈴帆「向かう気と?」

光「いずれは……アタシが力を付けてからだよ」

光「どうなってるかは分からない、でもスズホのような……何かを背負ってしまう人をこれ以上出さない為にも、いつかは……!」

鈴帆「……そうだ、ヒカルしゃんは?」

光「アタシか? ……そうだ! アタシはレイナと合流しなくちゃいけないんだ!」



鈴帆「お友達の名前ばい?」

光「仲間さ!」

鈴帆「一緒に住んどると? どこの国ばい」

光「国に家を持っているわけじゃなくて……皆と一緒に住んでいるんだ、ちょっと静かなところで」

鈴帆「それはまた、面白そうたい。いずれお礼を言いに訪れる事にするばい」

光「ああ! その時はユキノさんによろしくな!」

鈴帆「ん、その家にいる人の名前と? しっかり覚えておくばい」

光「……じゃあ、次に会う時はもっと成長したアタシを見せるから!」

鈴帆「ならウチは……ヒカルしゃんよりも大きくなって帰ってくると!」

光「ああ、楽しみにしておく! それまで、絶対にアタシは倒れない!」

乙です

---------- * ----------
*国家『キュズム』*
---------- * ----------




・・

・・・


真奈美『成果は無いな。代わりに、悪い知らせも無い』

美里『同じ感じだねぇ、悪くもないけど良くもない……』

杏「そう、相手が動いてないの?」

真奈美『そういうわけでもないらしい、まだ戦場さ』

美里『負ける気配は無いけどね』

杏「だろうね」

杏(負けなくても、勝つ為に動かす人物が不足してるんだよね)

真奈美『……報告の通り、こちらは問題ないんだが、そっちは大丈夫なのか?』

杏「何が?」

美里『トモちゃんが居ないぶん、ちょっと心配だよね』

杏「……打開するために、頑張ってるんだよ」

真奈美『確か、ソラとアカネの二人がそちらに居ると言っていたな』

杏「うん、だからこっちは気にしないで。せっかく貰った人手だからさ」

美里『せっかく保険の護衛だけど、ほんとうに大丈夫?』

杏「不安を煽るんだったら、さっさとトモを取り返して杏に楽させてよ」

美里『善処しますぅ』

杏「まったく……気楽なのは現場だけだよ! 本部で柄にもなく働いてる杏を見習ってよね、次は働かないからね」

美里『それは困るけどー』

杏「とにかく、何か思いつくまで頑張ってね、いつまでかかるか分からないけど」

真奈美『負けはしないが、結局のところ動けなければ好転はしない』

杏「悪くはならないでしょ? 二人ならさ」

美里『まぁねぇ』

真奈美『しかし策はあるか? 時間稼ぎは相手も有利になるぞ』

杏「……動けない二人を、こっちの守りを薄くせずに相手の本拠地に送り込んで、無事にトモを取り返す策?」

真奈美『ああ。言葉にすると、容易なものではないな』

杏「分かってるなら放っておいて! こっちも何とかするから!」

――プチッ

杏「…………」

杏「当たり散らしても仕方ないよね。でも……この状況、人手不足に戦力不足、ここからトモを取り返す方法……うーん……」



*国家『ソベストラ』*



時子「無いわね」

加奈「それじゃあ、今なら大丈夫なんですね!」

時子「確実ではないわね、でも好機なのも明らか。ここで大きく張らないでどうするのって話よ」

時子(マナミとミサトを足止め出来ている今のうちに、本丸を狙う……単純だけど効果的ね)

加奈「トキコさんが行くんですか?」

時子「黙って指揮するだけは性に合わないの。というか、シズクとキラリは?」

加奈「えっと……連絡ありません!」

時子「……あっそ」

時子(また勝手に動いているのかしら)

加奈「もしかして何かに巻き込まれてたり……」

時子「可能性はあるでしょうね、相手が相手だもの。連絡手段が潰されてるくらい想定済み、怠慢で連絡不行き届きかもしれないけど」

加奈「連絡を取って安否を確かめた方が――」

時子「馬鹿、確かめている間に状況が変わる方が面倒でしょ」

加奈「でも……」

時子「相手が一人欠けているのは事実なんだから、その隙を安全策で潰してどうするの」

加奈「…………」

時子「早く終わらせるなら、連絡が取れないなら。動ける私が出るのが一番でしょ」

加奈「でもそれだと」

時子「危険? だから? 結局は誰かが危ない橋を渡るのよ」

時子「後は……カナ、あなたを戦地に送るわけにはいかない」

加奈「う……」

時子「念の為確認するけど、別に守ってるわけじゃない……いや、ある意味守ってるわね」

時子「とにかく、目的と動き方は今言った通り、あなたはここで何か大きな変化の報が届けば連絡しなさい、私に」

加奈「は、はいっ!」



・・

・・・


――ヒュンッ パシッ

時子「…………」

時子「フッ!」

――バシィッ!

時子「……さすがに誰にも遭遇せずに現地に到達できるとは思っていないわ」

時子(ただ……早すぎる? まだ村を出て、そう距離も進んでいないのに敵に遭遇?)

時子(雑魚は雑魚だけど、マナミもミサトもこちらへ大きく侵攻してないはず、部下雑兵だけがこんな奥地に?)

時子「有り得ないわね」

――パァンッ!

時子「さて……じゃあいったいこの敵は何?」

時子「まさかね……でも念の為」

――ピッ ピッ

時子「…………」

――ガチャッ

時子「こちらトキコよ」

加奈『あ、あれっ!? どうしましたか?』

時子「何か言う事は?」

加奈『ふえっ!? い、言う事ですか!?』

時子「……何よ、そんなに焦って」

加奈『いや違うんですっ! えっと、えっと、お伝えする事ですか?!』

時子「そう、何か情報入ってない?」

加奈『わたしから、トキコさんにですか?! まだ先程出陣されたばかりで状況も何も――』

時子「こっちは状況が変わったの。敵と出会った、先程出陣したばかりの私がね」

加奈『敵!? そうか、だから……』

時子「だから? 何よ、敵の情報、あるの?」

加奈『え、あ! いや……違う、違わなくもない……です』

時子「遭遇したの? だとしたら本部に侵攻されてるって事!?」

加奈『いや、違います! それはないです!』

時子「ないって何よ、今実際にどうなってるか、アンタの周りを見れば分かるでしょ?」

加奈『周り……』

時子「……アンタもしかして」

加奈『えーっと…………』

時子「今、本部に居ないんじゃないの?」

加奈『あっ、その……はい』

時子「……何処に向かってるの、何の要件で向かってるの?」

加奈『そのっ……村が、襲われてるって……直訴があって』

時子「直訴ォ?」

加奈『その子供が言うんです、助けてくださいって……! だから、向かいます!』

時子「ちょっとアンタ、考え無しに動くものじゃないわよ、分かってるの?」

加奈『分かってます! 例え戦闘は出来なくとも、幹部位のわたしが居れば抑止力には――』

時子「なりゃしないわよ、階級で抗争が止まるなら私が幾らでも最前線に出てやるわよ」

加奈『……すいません』

時子「ったく……経緯は後で聞く、勝手に動くと一番面倒なのはアンタよ、自覚してる?」

加奈『はい……』

時子「分かってるならいいわ、この話は終わり。それよりも私が一番気になってる事」

加奈『気になって……えっと、情報の話ですか? わたしは何も聞いてませんよ?』

時子「なら構わない。問題は今のアンタ、どこの村に向かってる?」

加奈『行き先ですか? 大丈夫です、すぐ近くの領内の村ですから遠出はしません!』

時子「遠出はしない?」

加奈『もちろんです!』

時子「…………チッ、もっとさっさと言いなさいよ! 近くの村なのね?」

加奈『えっ? ど、どうしました?』

時子「馬鹿、襲撃で救援だから向かったじゃなくて……まず根本的な問題よ」

加奈『わたし何か間違えてましたか?! あのっ、いったい何が――』

時子「どうして私達本部のすぐ近くの村に襲撃が来ていて誰も気づいてないのよ!」

加奈『えっ? あっ!』

時子「連絡は入ってないのね? 幾らアンズでも、私が見張ってる限り動くはずが無いと思ってたわ」

加奈『じゃあ……この襲撃も?』

時子「……可能性はあるわ」

――ピピッ

時子(……! 通信?)

加奈『それでトキコさ――』

時子「待って、連絡が届いたわ」

――ピッ

『緊急連絡 : 幹部の現場判断により情報入手が遅れた 現在、トキコ様の元へ接近中』

時子「…………まさか」

加奈『連絡?! ……もしかしてカ――』

時子「ええ、大当たり。彼女から……まったく、潜入しているにも情報の入手が遅れるなんて」

加奈『……どうします?』

時子「事情が変わった……アンズの本隊を叩く、と言ったけど……今、第三勢力がこっちに来てる事が分かった」

加奈『じゃあ襲われてる村に来た敵というのは……!』

時子「意外な相手ね、村へ攻撃を仕掛けるなんて戦法を取る奴じゃないと思ってたけど、案外こっちの思い込みかしら?」

時子「とにかく、アンタはそこにいて」

加奈『待機……ですか?』

時子「ええ。雑兵相手ならリスクのが大きくても、相手が相手なら遠慮は要らない……やりなさい」

加奈『……! は、はいっ!』

時子「私もすぐに向かう。連絡はつかないけど、アンズはシズクとキラリに任せて放置」

加奈『大丈夫ですか?』

時子「相手は奇襲目的、この連絡が届いていなかったら……まんまと喰らってたわ」

時子「ま、結果的にだけどカナ、アンタの行動で早く気付きも対処も出来た」

加奈『褒められているんでしょうか……?』

時子「素直に受け止めておきなさい。代わりに、すぐ切替えなさい」

時子「今、撃破すべきはこの対立に割って入ってきて漁夫の利を得ようとしている人物……」

――ピピッ

『緊急連絡・続 : 幹部級二名 ホタル=シラギクとアキ=ヤマトが移動開始』

時子「ホタルを叩く」

*国家『キュズム』*



杏「悲報ばっかり届くもん」

葵「また何か悪いお話?」

杏「悪いとは確定してないんだけど、いいお話ではないよね」

葵「あたしには複雑な話とか、よく分からないけど……考えすぎると疲れるっちゃ」

杏「分かってるんだけど、考えないせいで状況悪くなるなら……考えなきゃねぇ」

――コトン

葵「それよりもご飯にしよう?」

杏「……この食事だって、普通の時なら美味しく食べるんだけど」

葵「食べなきゃ体に良くないっちゃ、あたしもなるべく頑張るようにするし……」

杏「いや、まずい訳じゃないんだよ、気分の問題」

葵「体調は味に関わるっちゃ」

杏「……だねぇ」

葵「それで、悩んでる原因は……?」

杏「第一に人手不足と、第二に今入ってきた情報、どうもトキコ所属でもない軍勢が混ざってるのが分かって」

葵「所属じゃない?」

杏「結論から言うと、ホタルの軍勢」

葵「ホタル? ホタルって、あの旧都の……でも、確か評判が良いところで、あたし達が敵対するような相手じゃ――」

杏「そ、十中八九トキコ側の敵。ただ、こっちにとっては中立にはなってくれても味方になるとは限らないでしょ」

葵「……そうっちゃね」

杏「撃退する必要はないけど、警戒する必要が出てきて悩みの種は増える一方だって」

杏「相手が相手だからアカネとソラを回すわけにもいかないし、さてどうしようかなぁ……」

葵「……複雑っちゃね」

杏(トモが居ればねー……交渉ぐらいは出来たかもしれないのに)

――…………

杏「うん?」

葵「どうしたっちゃ」

杏「今何か、聞こえたような」

葵「……? 火はちゃんと消してきたよ?」

杏「いや、聞き覚えのない……音じゃなくて、声?」

葵「お客さん?」

杏「だといいけど……」

――コンコン

杏「!」

葵「誰っちゃ?」

杏「待って、開けなくていい」

――ガチャッ

マキノ「こんばんは」

葵「あれーっ?」

杏「……誰かが開けていいって言ったの?」

マキノ「いいえ、でもノックはしたわ」

杏「そもそも呼んでないよね?」

マキノ「勝手に来たから当然よ」

葵「勝手に?! ここ、あたし達の本部の最上階っちゃ! 誰にも会わずに入ってくるなんて――」

杏「確かに警戒は普段より薄くなってるけど」

マキノ「薄いわね。私が敵意を持って潜入していたら大惨事よ」

葵「……じゃあ、敵意を持ってないならここに何用?」

マキノ「ちょっと交渉にね……? お話いいかしら、足元がお留守な代表さん」

杏「忠告にしてはイヤミだなぁ……肝に銘じておくよ、あとで下の見張りに文句言ってやる」

杏「で? 何に関しての交渉?」

マキノ「簡単よ。私達はもうすぐある行動を起こす」

杏「もうすぐ? もう動いてるの間違いでしょ」

マキノ「ふふ、どうかしら」

葵「動くって、何を?」

マキノ「起こす行動は、あなたも対立しているトキコの一団を攻撃する事……そっちに不利益は無いでしょう?」

杏「別に、勝手にやればいいじゃん。なんで杏に許可を求めるの」

マキノ「勝手にやっていいのかしら? ……例えば、本拠地を見つけて、全滅を狙って拠点ごと潰しても?」

杏「…………」

マキノ「当然、相手の本拠地に居るのは私にとっての“敵”だけよね」

葵(それは駄目っちゃ……なぜならトキコの本拠地には、きっとトモさんが……)

杏「ふーん……勝手にすれば?」

葵「えっ!?」

マキノ「あら、駄目でしょ? せっかく代表が“知らないフリ”したのに……部下が反応しちゃったら」

葵「あっ……」

杏「あー……」

マキノ「こっちはもちろん、今のこの国の現状を知っている。困るんでしょう? 襲撃されると、駆逐されると」

杏「困るって……杏にとって何が困るか、一応聞いてもいい?」

マキノ「嘘を言っていると思ってるのね? 私達が実は何も情報を掴んでないと?」

マキノ「当然知っている、その証拠に……アンズ、アオイ……そして、隣にもう一人いるはずの人物は?」

杏「トモならトキコの相手に出ているだけだよ」

マキノ「相手に出て……捕獲されたと」

杏「……へぇ」

マキノ「どう? 本当に知っているでしょう?」

葵「何のようっちゃ!」

マキノ「付け込んで脅そうなんて考えていない、ただ危機がそっちに迫っているのは分かっているの」

杏「戦争しに来たの?」

マキノ「いいえ。 敵対するつもりはない……私は交渉に来た」

葵「交渉?」

マキノ「拘束されているトモの身柄は保証する、救助する。代わりに、救助と救援の指揮権をこの戦場で私達が持つ……どう?」

葵「……? ……?」

杏「要するに何? 杏の代わりに矢面に立ってやる、って事? どういう風の吹き回し?」

マキノ「早い話、こちらも人手が欲しいから……この国の数名の人手を借りたいって事」

杏「なら無理な話だよ、こっちは人手に余裕なんて無いから」

マキノ「余裕がない? それは、実力と人員の兼ね合いが出来ていないだけでしょう?」

杏「何が言いたいの」

マキノ「居るじゃない、この居城を守っている二人の増員が」

杏「…………」

葵「アカネちゃんとソラちゃんは部外者で――」

杏「部外者なのもあるけど、何? その二人を連れ出したいの? それがどういう意味か分かってる?」

マキノ「守りが無くなる、と言いたいのかしら」

杏「当たり前だっ! 杏に死ねと言うのかー!」

マキノ「じゃあ、代わりの人員を置けば問題ない。でしょう?」

マキノ「私達が人員を貸すわ」

杏「代わり? はん、そんなの受け入れられないね」

マキノ「どうして?」

杏「何故? って、当たり前だ! 考えれば分かるでしょ? 信用ならない相手の護衛を居城に置く? 問題外だっ!」

杏「それに人員不足でこっちの手を借りようとしてる人が、ここを守れる人員を用意できるはずないだろっ!?」

マキノ「フフッ」

葵「むっ……何がおかしいっちゃね」

マキノ「少し勘違いしてる。私達が欲しいのは“人員”であって、“実力者”じゃないのよ」



杏「……だから指揮権が欲しいの? こっちが戦場に出てるチームと協力したいんだね」

杏「それは分かった。でも、人員が欲しいって事は……こっちの方が人員を多く提供するんでしょ?」

マキノ「ええ」

杏「てことは当然、杏の動かせる人が減るわけだよね?」

葵「……それってあたし達が不利になるだけっちゃ!」

杏「人員が減ると、守りも薄くなる。信頼できない相手を守りに使えるかどうか――」

マキノ「こちらの提供する人物が信頼に足りえないか……当人の名前を聞いて判断してもらっても?」

杏「……自信有り気だね」

マキノ「当然。なぜなら私達が人員の代わりに、ここの守りとして提供するのは……」

葵「するのは?」

マキノ「私達の“幹部”よ」

葵「か、幹部!?」

マキノ「それなら実力も、信頼も万全でしょう?」

葵「そんなの――」

杏「あー確かに心配無用だねー、評判の良い国家の幹部さんなら安心だー……それが本当ならね」

マキノ「ふーん?」

杏「有り得ないでしょ普通に考えて、ここを守る為に最前線で戦う幹部を一人敵地に残す? 嘘は休み休み――」

マキノ「嘘じゃない。……なんなら、直ぐにでも本当だと証明できる」

葵「どうやって?」

マキノ「私達が借りたい人員の二人に連絡を取ってみれば? 通信機ぐらい持たせているでしょう?」

杏「…………」

――ピッ Prrr……

杏「……こちらアンズ」

茜『あっ! お疲れ様です!! ちょっといいですか!!』

杏「何?」

茜『今ですね、アンズさんに用件があると言ってる人が来てるんですけども!!』

杏「……誰? もしくは、どんな人?」

茜『えっとですね、先にマキノという方が通ってるからその人に聞けと言われました!!』

杏「何それ…… そこにいるの?」

茜『居ますね! 一応ソラさんが見張ってますが!』

杏「通信、代わって」

茜『代わりますか?! 分かりました!!』

――ザザッ……

杏「どうやら」

マキノ「本当でしょう?」

――…………

杏「こちらアンズ。 ……単刀直入に、誰?」

??『アタシの名……所属はホタルの下、幹部として働くツワモノとして助太刀に参る!』

杏「そういうの良いから」

??『あっ、酷い! ……アタシの名前はヒトミ、そっちの許可さえも貰えれば、この戦火が収まる数日の間、力を貸しに来た!』

杏「……本物?」

仁美『もちろん。疑うなら本部に連絡してくれてもいいけどね』

マキノ「返事は?」

杏(一見悪くない……けど、どうなんだろうね?)

杏(条件が良すぎるのは裏があるのか、それとも本当に善意から?)

マキノ「受けるの? 受けないの?」

杏(……ホントに善意で言ってる可能性もあるから、分かんないなぁ)

葵「いくらそんな話でも――」

杏「いいよ、じゃあ任せる。任せる代わりに、杏は何もしてやらないからね! 寄越すのも二人だけ!」

葵「認めるの?!」

杏「うん、もう別にいいかなって」

杏「裏に何か目的があるんだろうけど、それを考えるのも面倒だし」

杏「じゃあ伝えないと……」

――ピッ

杏「あー、二人にお願いがあるんだけど」

茜『私とソラさんにですか!?』

杏「うん。そこにヒトミ……ソラが見張ってる人の事ね? が、居ると思うんだけど、指示に従ってくれない?」

茜『この人にですか?』

杏「そーそー。詳しい説明は省くけど、杏はその人の上官に戦場の指揮を一任することに決めたからー」

葵(……大丈夫っちゃ?)

杏(任せてもって事? なら、きっと大丈夫じゃないかな)

杏(杏が任せたのは二人の人員と戦場の指揮権だけだよ? そうそう変な事は向こうも評判があるから出来ないはず)

葵(……トモさん、大丈夫かな)

杏(むしろここでトモに狙いを定めてるなら交渉なんて来ないはず、纏めて叩いちゃえば良いんだから)

――…………

杏(うん? 纏めて……叩けば……?)

マキノ「話は纏まったようね」

杏(……そうか)

杏(やっぱい狙いはトモだ)

葵「どうしたの?」

杏「いや、大丈夫……ちょっと」

葵「?」

杏(トモを助けて……ただ、恩を売るのは私にじゃない。トモの持ってる権力、地位……)

葵(恩を……国じゃなく? ……あっ! あの魔術協会の方に!?)

杏(それぐらいしかない。確かにホタルの部下には実力者は揃ってるけど、地位は無い、だから発言力が小さい……でも)

杏(協会幹部を助けたって、形だけでも口実があれば……そこから切り込むつもりだねー)



杏(元々評判が良い国だから、権力も持たれると……うわっ、めんどくさい)

葵(じゃ、じゃあ今から断りを入れたり要求の訂正を――)

杏(駄目駄目駄目だって! まず第一、ここに幹部本人が居るんだよ!)

杏(誰かあの二人に抵抗できる人、居る? 要求を断ったら次は実力行使で来るよ)

葵(でも評判を大事にしてる国っちゃ、そんな無理には……)

杏(どーだろうねー、案外こっちの思い込みかも)

杏(だからこの交渉は受けるしかないけど、ホタルに先にトモと接触されると……キツい)

葵(じゃあマナミさんかミサトさんに――)

杏(二人を動かせるほど、戦況に余裕がない。で、唯一動かせそうな二人……アカネとソラは?)

葵(いま……指揮権を渡した、ということは)

杏(これ、もしかして詰んでる……?)

葵(じゃあいっそ、他の誰かに協力を――)

杏(とも思ったけど……その為のヒトミだった)

杏(確かに守ってくれるだろうけど、同時に監視でもあるよ)

杏(きっとこれから向こうが目的を達成するまで……私なんて運動できない子だからね、見張るのも簡単だろうし)

葵(今から協力者探しは……無理?)

杏(出来ても、全部筒抜けだよね)

マキノ「密談は終わった?」

杏「あー……忘れてたよ、まだ居たの?」

マキノ「私達の行動が心配なら、その都度二人に連絡すればいい。互いに監視になって、問題ないでしょ?」

杏「……だろうけどね」

マキノ「じゃあ、許可も得たことだし……二人は借りていく、そして一人を貸していくわ」

杏「はいはい、杏は一切手を貸さないからね」

マキノ「承知してるわ。それでも、十分に得はあるから」

少し更新停滞してます

舞ってる

――…………

マキノ「それじゃあ私は、仕事が終わったので帰ることにする」

杏「はいはい、さっさと帰ってよ」

マキノ「私がいない間に下手な連絡は取らないように」

杏「分かってるって、しつこいと嫌われるよ」

マキノ「諜報員なんて嫌われ仕事でしょ」

杏「疎ましく思われるよ」

マキノ「でしょうね、でも構わない」

杏「国のために? 自己犠牲って、重いよ」

マキノ「自分を捨てる気はないけど? じゃあ無駄話もこれくらいで、そっちも大人しくするのが吉よ」

杏「当たり前だよ」

マキノ「今から応援を呼ぼうともしないこと」

杏「分かってるってば……」

マキノ「といっても、この部屋に来るまでの道は私とヒトミが通行するし、通信は見張ってるから無理だろうけど」

――バタンッ

杏「……さて」

杏(マキノが去って、ヒトミが上がってくるまでの短い間、こっちで何か策が打てる最後の時間かな)

葵「ど、どうするっちゃ?」

杏「どうするもなにも……通信なんて傍受されそうだし、脱出するにしても行く場所が無いし」

葵「立て篭るとか……」

杏「意味ないね、身の安全確保は元々問題じゃなくて、重要なのは外に情報を伝える事――」

――ガサッ

杏「!」

葵「?」

杏(音? どこから?)

葵「また誰か来てるっちゃ!?」

杏「いやそんなはずは――」

――ガチャッ

卯月「アンズちゃん!」

杏「え? ウヅキ!? なんで!? というか、どうやってここに……?」

卯月「えっと……直接城内に移動してきたんですけど、なんだか中と外が騒がしかったので、少し隠れてたら……」

杏「中に直接? ……いやいや、そんなの無理だって、移動式は妨害してるもん、ここの共有の移動先を知っていないと――」

卯月「あ、それなんですけど……以前トモさんが使った行き先を覚えていて……」

杏「…………えー」

卯月「私が使っておいてなんですけど……家の鍵を堂々と教えちゃうようなものなので、あんまり良くないと思います……」

葵「トモさん……」

杏(帰ってきたら説教だよ)

葵「で、でも今は怪我の功名っちゃ! 次から気をつける!」

杏「いい方向に考えておこうか……今はだけどね!」

杏「で? そもそもの話だけど……どうしてここに? ちょっと事情で、本当に手短にお願い」

卯月「えっと、私達は『ソベストラ』に拠点を置く相手に用件があって、戻ってきたんです」

葵「!」

卯月「『ソベストラ』って確か……アンズちゃんが対立してる、ようするにトキコの一団が居る国です!」

杏「合ってるね」

卯月「だから私達は利害が一致してる、今度こそ協力できるんです!」

杏「協力をしようと?」

卯月「はい! ……ですが、何か複雑な状態ですね。またお邪魔でしたか……?」

杏「いつ来てたとしても、迷惑どうこうよりこっちが恩を返せない事が多くなるから断ろうとしてたけど……」

杏「今はそんな事言ってられないかな」

卯月「じゃあ……」

杏「……分かった、正直今ウヅキが来た事はこっちにとって大きい」

葵「アンズちゃん! 協力者は来たけど時間がないっちゃ!」

杏「今から説明するからアオイは外見張ってて!」

葵「了解ね!」

卯月「聞かせてくれますか?」

杏「まず簡潔に今私達は動けない。理由は、もしかして見たかもしれないけど、ホタルの一団が交渉に来た」

卯月「ホタル……!」

杏「なんだかんだで不利な位置に居るからね、取引を持ちかけられて、結果的に指揮権を失ってる」

卯月「失って、どうなってるんですか……?」

杏「トモをホタルに救出されると、今はトモの無事に繋がっても後々面倒な事になる。貸しが大きくなる」

杏「助けてくれるなら素直に喜ぶべきなんだけど……立場上そうもいかないんだよね、辛い」

葵「ようするに、助けてくれる人が必要っちゃ!」

杏「だからウヅキ。こっちに協力してくれるなら、頼むことは二つ」

杏「ホタルに喧嘩を売らない。かつ、トモを先に救出してもらう」



・・

・・・


――コンコン バタンッ!

仁美「失礼っ!」

杏「本当に失礼だよ、開けていいと言ってないんだけど」

仁美「あ、普段と同じ感じで入っちゃったね、ごめん」

葵「…………」

仁美「それじゃあ改めて自己紹介――」

杏「いいよ別に、知らない敵じゃないし」

仁美「そう? あと、今は敵じゃないから」

杏「監視はするんでしょ?」

仁美「そうだね。 何もしてない? 怪しい動きとか、大丈夫?」

杏「してもバレるんでしょ?」

仁美「らしいけどね、でも何もしないならアタシが全部守ってあげるから」

杏「本当ー?」

仁美「もちろん! これでも戦国一を自称しているんだから、安心して?」

杏「戦国なんて随分古風な言い回しだね」

仁美「古い?! 今古いって?!」

葵「今は戦国なんて言い方はしないっちゃ」

仁美「納得いかないねー、素晴らしい表現でしょ? 時はまさに戦国時代! みたいな?」

杏「どうだか」

杏(……割と会話は出来るし、騒がしいけど雑っぽいし、案外隙を見つけるのは簡単かも)

葵「心配っちゃ」

仁美「いやアタシはこれでも色々出来るからね! お手伝いとか、言ってくれればなんでも!」

杏「……じゃあ勝手に警備でもなんでもしててよ、杏は一人で寝るから――」

――ザンッ!!

葵「ひゃっ!?」

杏「お、っとっとっと……」

葵「何をするっちゃ! もうちょっとで――」

仁美「斬るつもりはないよ? でも、今アタシが振るった獲物の届かない距離には……」

杏(反応……私が出来るわけないよね、今の一瞬で目の前を斬ってた?)

仁美「一人で行動は謹んでもらいたいね」

杏「……やりすぎじゃない? 地面に穴があいちゃったじゃん」

仁美「護衛だから、主の迂闊な行動は多少強引にでも控えてもらうよ」

杏(杏を一人にはさせないみたいだね……はぁ、めんどくさい)

仁美「でも、斬り合いする気はないから。護衛だからね?」

杏「……信用はするけど、勘違いするような事はしないでね」

仁美「お互いね」

杏(これは動けそうにないね。……うまくやってくれてるといいけど)



・・

・・・


卯月「ただいま!」

未央「大丈夫だった?! 誰か分からなかったけどしまむーの後にお城に入った人が――」

卯月「うん、アンズちゃんから聞いてる」

凛「聞いてるってことは、接触できたの?」

法子「ここで何が起きてるの?」

卯月「簡潔に……アンズちゃんは、ホタルって人と手を組んでた」

凛「ホタル……? それって、あの?」

未央「あのって、どの?」

凛「ずいぶん前にも、アイリから一度は言われた相手だよ。結局選ばなかったけど」

未央「あー、あの時の選択肢に? じゃあ、いい人?」

凛「いいかどうかは分からないけど、サエのところよりはマシかな?」

法子「大きな戦力を持つグループだけど、手を組んでるなら心強いんじゃないの?」

卯月「普通はそうなんだけど、実際は少し複雑な事情があるみたいで……敵にはならなかったけど、味方とも言いにくい状態らしいよ」

未央「味方じゃない……?」

卯月「これだけは言われた。ホタルには手を出さないほうがいい、でも先に……トキコのところにたどり着かせちゃ駄目」

法子「……そのあたりは、そっちの事情っぽいね」

凛「だね。じゃあさっき城に入っていった人もホタルの一団だって事?」

卯月「うん。アンズちゃんは、ヒトミって言ってた」

法子(ヒトミ……幹部がこんなところに?)

未央「そういえば、しまむーはどうやってその、ヒトミって人と会わずに降りてきたの?」

卯月「このお城、思ったよりも隠し通路が多いみたいで……アンズちゃんに言われて」

法子「隠し通路があるなら、そこから監視を撒けばいいんじゃない?」

凛「どうだろうね、ずっと隣で見張ってるなら通路を隠してても意味ないし」

卯月「それに……一応、敵ではないんです、今は。それをわざわざこじらせるのは……」

法子「……そうだね、止めた方がいいかな」

――…………

凛「で? 先に行かれちゃ状況が悪くなるって事でしょ?」

未央「となると、やる事はひとつだね!」

卯月「うん、急いで目的を達成しなきゃ……!」



・・

・・・


*森のはずれ*


――ドサッ

美里「……意外というか、予想の遥か上っていうか」

亜季「頼れる援軍とは思いませんか?」

美里「急すぎるねぇ……どういう風の吹き回し? 私達のお手伝いに?」

亜季「理由は先程伝えた通りだあります、証人もここに」

そら「証人? なにか証明しなきゃ、ばっど?」

亜季「いえいえ、特に何も。私が話していたやり取りがあったという事を覚えてさえいてくれれば」

そら「おー。そうそうそのとーり! 確かに休戦協定はしてた!」

亜季「休戦とは少し異なりますが……」



亜季「共同戦線、であります」

美里「繰り返すけど、急だねぇ」

亜季「好機が予測出来るなら苦労しないのであります」

そら「たいみんぐ! 光陰矢のごとし!」

亜季「なるほど! ところでどういう意味でありますか?」

美里「その話は後でねぇ。それよりも詳細、聞いていい?」

亜季「勿論であります、といってもそちらは特に何も変わりなく……我々が助力を行うだけであります」

美里「そう?」

亜季「ですが、いささか現場が複雑になって参りました」

美里「複雑って?」

亜季「手を組んだことにより戦力は二倍であります、が……二倍の軍勢を、現場を知らないそちらが指揮するのは困難でしょう」

亜季「というわけで、指揮系統はこちらが持っております」

美里「何それぇ?」

亜季「言った通りであります。が、急に方針の変換などは行いませんゆえ」

美里「ちょっと待って、私達は指示される側?」

亜季「指示するのは、攻撃を仕掛けるタイミングなど……合図程度であります」

そら「トモちゃん救出! 目的は変わらない!」

美里「そうは言うけどぉ」

美里(話が本当なら、確かに強い味方だけど)

そら「一緒、仲間! 戦う!」

美里(こんなに突然味方になるって事は、なにか裏がありそうだねぇ)

美里(それでぇ? その“裏”が何だって話ですけどぉ……)

亜季「それでは敵方拠点へ出撃であります! いざ!」

美里(裏とか、一番縁のなさそうな相手が来ちゃってて……判断しかねるねぇ)

そら「れっつごー☆」

美里「……うーん。ま、なんとかなるかな? でも先に――」



――ピッ ピッ

美里「……もしもしマナミちゃん? 今ちょっと時間大丈夫?」

真奈美『ミサトか……ああ、構わない』

美里「あれ、意外。時間取れてるの?」

真奈美『確保できてしまったよ、少し予想外の方向で。……その関係の連絡か?』

美里「当たりぃ、てことはそっちも? じゃあ詳しく伝える必要はない?」

真奈美『ああ。誰が来ている?』

美里「……アキ、あのホタルの一派の。そっちも同じ幹部さん?」

真奈美『いや……違うな。一派には違いないんだが』

美里「違うの? じゃあ誰?」

真奈美『本人だ』

美里「?」

*別地点 森林深部*


真奈美「一派の代表が直々だ」

美里『……え? 何? どういうことぉ?』

ほたる「こういう事……ですね」

美里『!?』

ほたる「お相手はミサトさん、ですか?」

美里『……あれあれ、これはどういう事ぉ?』

ほたる「安心してください、敵ではありませんし味方ですから。お二人が証人です」

茜「はい! アンズちゃんからお二人に“ホタルさんは協力者だ”と伝えろと!」

真奈美(確認は出来ないが、協力関係を結ぶ時に嘘はつかない一派だからな……本当の事を言っているんだろう)

ほたる「ですから、ただ私達と一緒に……トキコを討つのが狙いです」

茜「協力しましょう!! 仲間は多い方が頼もしいですよ!!」

美里『それはわかったけどぉ、アキの言ってた指揮権の委託ってのは何?』

ほたる「特別な共同戦線ですから、現場の人じゃなければ指揮は難しいと思います、だから私に任せてもらいました」

美里『理屈は分かるけどねー、指揮に関してはうちの大将も相当だよぉ?』

ほたる「もう決めましたので」

真奈美「その辺は既に交渉したんだろう? そして決まったんだ、私達が言う事ではないさ」

美里『……だねぇ』

ほたる「理解が早くて助かります……」

真奈美(アンズがこちらに不利に思える状態でこの共同戦線を組んだという事は……こちらに隠れた利益を見つけたのか)

美里(もしくは、拒否できない状態だったとか?)

真奈美(前者ならば……我々に指示が来るはずだが、その様子は無い)

美里(むしろ指示が来ないのも変だねぇ、そもそもアカネちゃんとソラちゃんが来てるって事は本部に一回行ってる……よねぇ?)

真奈美(だがホタルはこの手の脅迫めいた強硬手段を取る国とは異なるはず、それに脅されているなら――)

茜「マナミさん! 三人寄れば……なんでしたっけ! でも一人より協力のが強いです!!」

真奈美(ここまで何のサインも無しは妙だな)

ほたる「どうかしましたか?」

真奈美「……いや、ね。何が目的かなと思っただけさ」

ほたる「変な事を言うんですね……? さっき言った通りです、トキコを相手取るにはこの布陣が効果的だと思って」

真奈美「効果的……確かに戦力はそうだな」

ほたる「それ以外に何かありますか?」

真奈美「……何もないさ、行こうか」

茜「はい! 行きましょう!!」

ほたる「はい、一緒に……」



――ピッ

亜季「お話は終わったでありますか?」

美里「終わったねー、じゃあ……行く?」

亜季「もちろんであります!」

そら「れっつごー☆」

美里(真意分かんないねぇ)

そら「どうしたの? れっつごー、せい!」

美里「今行きますぅ」

美里(とりあえず……見張っておくかなぁ)

亜季「では参りましょう、ここからならば先にホタル殿が目的地に先に到着するであります、加勢しましょう」

そら「ごーごー! そらちん出撃!」

亜季「その意気であります! いざ討伐を!」



・・

・・・


*『ソベストラ』付近の村*


加奈「え、えいっ!」

――ドサッ

加奈「ちょっと収まった……?」

加奈(わたしが来た時と比べて相手は減ったかも……)

加奈「実力じゃなくて権力のおかげかもしれないけど、でもっ」

――…………

加奈「静かになったから、少しは平和になったかな?」

加奈(あの子が言った通り……この村、こんなに本拠地に近かったのに……既に侵攻されてる)

加奈(アンズが来るのは距離的に無理。そして第三国、ホタルの情報……)

加奈「でも今は収まったかな……はっ! じゃあここを離れて本拠地に……?!」

加奈「よしっ、トキコさんに連絡しよう……ここは収まった――」

――ガシャンッ!

加奈「ひゃっ!? ま、まだ残党が?」

――ザッ

茜「大丈夫ですか!! ここはトキコって人の制圧してる場所なので危ないですよ!!」

加奈「えっ?! ……あ、あれ?!」

茜「私の名前ですか!?」

加奈「じ、自己紹介じゃなくて……!」

茜「私と一緒に逃げましょう!!」

加奈(確か……最近アンズの協力者になってた……アカネ? なんでこの人がここに!?)

加奈(向こうはわたしをトキコさんのグループと知らない……? だったら、今ここで……!)

茜「さぁ! 手を取って!!」

加奈「……はいっ!」

――ダッ!

茜「えっ?」



――キィンッ!

加奈「きゃっ……!?」

茜「わ!?」

――カランッ

茜「あれ? 来てましたか! ……あ、その刃物は護身用ですか? 危ないですよ!」

加奈(弾かれ……じゃない、なんで、なんでここに?!)

――スッ

ほたる「危ないですよ、そんなものを持っていては」

茜「ホタルさん! その剣を持っていると説得力がないですよ!!」

ほたる「……そうかもしれません」

加奈「ホタル……?!」

茜「ご存知ですか?」

加奈(来てるのはトキコさんから聞いた、でも……なんでホタルがアンズの部隊と一緒に……)

茜「二つの国家が協力して戦線に出ています! きっと勝てますよ!」

加奈(共同戦線を張ってる!? それは……まずいよ! トキコさんに伝えなきゃ……)

加奈「……ちょっと、連絡を」

――スッ

ほたる「動かないでください」

加奈「っ……」

茜「あれ? え? ホタルさん、この子は善良な村の――」

ほたる「市民、ではないですよねカナさん」

加奈(知られてる……!)

茜「あれ? こちらもご存知ですか!! お知り合いですか!!」



ほたる「正直、どうしてこんな小さな村にここまで敵が多いのか不思議でしたけど……そう、あなたが居たんですね」

――ピンッ……

加奈「…………」

ほたる「戦線に滅多に出ないあなたがここに居るということは、ここが本部……ですね」

加奈(……! いや、違う! わたしは確かに本部に普段滞在してるけど、今は勝手に出てきただけ!)

茜「本部? 本部って、これから私達が向かう場所ですか!」

加奈(場所を勘違いしてるなら、このまま通した方が……)

ほたる「もしかすると、この村内に本部が構えられているのかもしれません」

茜「だったら分かれて探すことにして正解でしたね!!」

加奈(あれ? でも、さっき“敵が多い”って言ってた?)

加奈(おかしい……トキコさんの敵が多いからこの村にわたしが来たのに、その敵であるはずのアンズとホタルも“敵が多い”って……)

*村内 民家*


真奈美「住人は……どこかに避難しているようだ、なら被害は控えめか」

真奈美「しかし酷い侵略だな……建物の損傷が大きい」

真奈美(だがここはトキコの本部に近いはず、ここまで強く侵略すると拠点に出来ないのではないか?)

真奈美「それに……」

――ドォンッ! キンッ…… ガシャンッ

真奈美「……何故、ここまで激しく戦火が上がっている?」

真奈美(ついさっき到着したにも関わらず既に戦闘は全体に広がって……早すぎる)

真奈美「そもそも“既に戦闘が始まっている”ような雰囲気だった」

真奈美(ホタルが先にトキコと交戦していた……と思っていたが)

真奈美「そうなると、今度はどうしてここまで侵攻しておきながら、我々と手を組むなどと……」



――ガサッ

真奈美「万が一の罠……と考えて、伏兵が潜んでいそうな場所を探してはいるが」

真奈美(それらしい場所は無い。となると――)

――ゴトッ

真奈美「ん? ……箱?」

真奈美「…………?」

――…………

真奈美「……その箱の下に誰かいるのか?」

??「!」

真奈美「この民家に地下は無い、という事は……その小さな箱の下にはせいぜい一人だけだな」

??「…………」

真奈美「……出てこないのか?」

真奈美「なら、こっちから開けるとしようか」

??「!」

真奈美「さて――」

――ガタッ!

??「やっ!!」

――ザンッ!

??「っ…………!」

真奈美「……子供?」

??「きゃっ!」

――カランッ

真奈美「……毒が塗ってある、なんて事は無いか?」

??「あ……う、うん……」

真奈美「なら構わない。……子供なら小さくても刃物は持たないことだ」

真奈美「じゃないと、怪我するぞ? ……ま、手を切る程度で済んだが」

??「……じゃない」

真奈美「何だ?」

??「みゆき、子供じゃないよ!」

――…………

真奈美「君はこの村の住人か」

美由紀「うん……」

真奈美「じゃあ私が不用意な事をしてしまったようだ、隠れているところにすまない」

美由紀「怪我……大丈夫?」

真奈美「これくらいはな、大きな傷じゃない」

真奈美「……つまりだ、自衛にはならない。自分で怪我をする可能性が増えるだけだ、相手を逆上させる切欠も与える」

真奈美「無防備が最良とは言わないが……刺すなら相手を見るんだ」

美由紀「ごめんなさい……」

真奈美「だがこれからは大丈夫さ、直に抗争も収まる」

美由紀「それは大丈夫!」

真奈美「?」



美由紀「みゆきが、助けてって言いに行ったから!」

真奈美「……直接か?」

美由紀「うん!」

真奈美(ホタルに、か? ……確かに、それならこの機に突然現れた理由も納得できるが?)

美由紀「カナって人に、会ったんだよ! それで――」

真奈美「……ん、待て、カナだと? 名前を間違っていないか?」

美由紀「え?」

真奈美「カナというのは、トキコの仲間だ。君の言うホタルの仲間ではなく――」

美由紀「ホタル……? みゆき、その人は知らないよ?」

真奈美「知らない? 馬鹿な……いいか、カナとトキコはこの抗争の中心に居る“敵”だ」

美由紀「違うよ!」

真奈美「……違う? 何がだ?」

美由紀「トキコ……さん、カナちゃんは、敵じゃないよ!」

真奈美「何? トキコとカナが……なんだって?」

美由紀「みゆき達を助けてくれるって!」

真奈美「それは違うぞ? ここはトキコが配下に置いたせいで抗争が――」

美由紀「違うもん! みゆきが……直接、トキコさんに頼んで、ここを助けに来てもらったから!」

真奈美「どういうことだ……?」

美由紀「いきなり村に来た人達を、退治してもらって……落ち着いたところに、また……!」

真奈美「待て、待つんだ。じゃあ……何だ? この村は我々が来るより前から……いや、トキコが来る前から?」

美由紀「うんっ……!」



真奈美(ホタル……は違う、彼女達もこの村の戦火を沈めに向かった、という事は……!)

――ピッ ピッ

美由紀「……? ……?」

真奈美「まったく、厄介だな……!」

美由紀「何がなの?」

真奈美「悪い話ではないが、いい話でもない」

美由紀「?」

真奈美「君の話も、私の話も間違っていないということさ……!」

――ガチャッ

茜『はい!! 何でしょうか!?』

真奈美「ホタルに代わってくれ……いや、それでは遅いな、伝えてくれ、近くにいるだろう?」

真奈美「この村にはどうやら、我々二つの国とトキコの国と……あともう一派、何者かが居るようだ……!」

おつ

生きてます

待ってます

OK、生存報告さえ入れてくれれば幾らでも待つよ



・・

・・・


――キィン!

加奈「やあっ!」

茜「うわっとっ、せいっ!」

加奈(こっちの人は、わたしでも何とか……隙もある!)

加奈「そこですっ!」

――ボウッ

茜「熱いっ! 炎がっ……!」

加奈(当てられる、ここからさらに――)

ほたる「アカネさん」

加奈「!」

ほたる「ふっ!」

加奈(また割って入ってきた! わたしが決定打を出せそうな時だけ……!)

――ゴオッ!

茜「わあっ!」

ほたる「くっ!」

加奈「っ……!」

加奈(盾になるようにわたしの攻撃に……)

茜「大丈夫ですか?!」

ほたる「はい、大丈夫……です」

加奈(そして本当に大丈夫そうに、しかも二人共……!)

加奈「どうして攻撃が……通らないんですかっ!」

茜「私、頑丈ですから!」

加奈(それも、あると思うけど……あんまりにも効果がなさすぎて――)

ほたる「ダメージが通ってない、という事なら……アカネさんは、その通りですよ」

加奈「え?」

ほたる「ですが、アカネさんの力ではありません」

加奈「……?」

ほたる「そして、より厳密に言うならば……ダメージなら、通ってます」

茜「私は大丈夫ですよ?」

ほたる「ええ、アカネさんは何も攻撃を受けてません」

加奈「嘘です! わたしが、これだけ攻撃しているんです! 二人共!」

ほたる「はい、でも……実際に攻撃を受けているのは、私です」

加奈「……はっ?」

ほたる「私が、アカネさんの分まで……引き受けています」

ほたる「攻撃も、実際に受けた傷も、衝撃までも、私が全部引き受けます」

加奈「どういう意味ですか?!」

ほたる「ただその場にいるだけで、私は色々なものに巻き込まれます」

加奈「……?」

ほたる「でも、視点を変えると……これも、役に立つんです」

加奈「なんですか、その……えっと……」

ほたる「なぜ驚いているんですか? 普段から、私がしていることです」

加奈「肩代わりなんて……」

ほたる「戦う相手なのに、私の事をよく調べていないんですね?」

ほたる「私が前線に出るのは、傷を負うためです。私以外に、被害が出ないように……!」

ほたる「そして――」

――ピキィンッ

加奈(攻撃跡が……わたしの魔法で傷つけたはずの鎧が、何事もない?!)

ほたる「自己修復、とても便利なものです……これで、何度でも……!」

――ダンッ!

加奈「きゃあっ!」

ほたる「立ち塞がれます!」

茜「そして私が、とりゃー!」

――ブンッ!

加奈「っう!」

加奈(なんとかなると思ってたけど……!)

――ガッ!

茜「うおおおっ!」

加奈「押されっ……!」

――ドンッ!

加奈「っ、木に押し付け――」

茜「今です!!」

ほたる「任されました……!」

――ミシッ……

加奈「!」

茜「わっ!?」

ほたる「ちょっと、アカネさ――」

――メキィッ! ドォンッ!

ほたる「けほっ……木が……」

茜「はっ! 勢い余って木ごと押し倒しちゃいま……あれ?」

ほたる「……攻撃に転じると運が悪いのが欠点ですね」

茜「さっきの人は?!」

ほたる「退いたようですが……探しましょう、どのみち帰る場所は私達の目的地のはず……」

加奈「痛たた……」

加奈(ひどい戦法……自分から攻撃を受けに来るなんて……!)

――ズキッ

加奈(いつも、戦う時は後方支援だから……範囲攻撃しか魔法は使ってない)

加奈(威力が足りない! わたしじゃ、二人共止めるのは……)

加奈「でも、わたしがここから去ると……」

加奈「…………」

――ギュッ

加奈「……うん」

――ガサッ

茜「見つかりませんね!」

ほたる「そんな草の影には居ないとは思いますが……」

茜「そうですか?!」

ほたる「周りの仲間から見つけたという報告は来ていません、なら近くにいるはず」

茜「分かりました! 探しましょう!」

ほたる「少し暗くなってきたので、見落とさないようにお願いします」

ほたる(手早く見つけて、尾行でも何でも構いません。他のアンズの部隊より早くトキコの本部に向かわないと……)

ほたる「こんな時刻まで長引くなんて、思ってませんでした――あれ?」

茜「どうしました?」

ほたる「……アカネさん、今の時刻は?」

茜「時計は……持ってませんが、なんだかおやつが食べたい気分なので三時くらいじゃないでしょうか!!」

ほたる「奇遇ですね……私も、確か今の時刻が三、四時あたりだと思っています」

茜「お腹が空きましたね! 何か食べますか!?」

ほたる「……さっきまで明るかったのに、急に暗くなったとは思いませんか」

茜「えーっと……あ、本当ですね! 空が曇っちゃってます!」

――ポツ ポツ

茜「あっ! 雨です!」

ほたる「気象の変化が激しい土地ですね」

加奈「違います!」

――ザッ

加奈「…………」

ほたる「逃げたのかと思っていましたが……応援が到着しましたか?」

加奈「いえ、わたし一人です……!」

茜「続きの勝負です! 行きましょう!」

ほたる「…………」

茜「どうしたんですか?」

ほたる(そんな訳がない。明らかに力量は並で、勝算なしに戻ってくる理由はありませんから)

――チラッ

加奈「はああっ……!」

ほたる(周りに気配は……無い)

茜「何か準備してます!」

ほたる「魔術なら準備もするでしょう……」

ほたる(ですが、逃げられるよりかは帰ってきてもらった方がマシです、アカネさんの言う通り続きを――)

加奈「わたしは……」

ほたる「?」

加奈「普段、前線には出ません」

加奈「トキコさんに止められているからです」

茜「そうなんですか?」

加奈「でも……今は、わたしが何とかする」

――キィンッ

ほたる「!」

加奈「……後で怒られるんですけど」

茜「無理しなくてもいいですよ?!」

ほたる(今……少し、大きな力を?)

ほたる「怒られるから私と戦わなかった……という意味ですか!」

――ザッ!

加奈「攻撃……来る!」

ほたる「ずいぶん……余裕なんですね!」

――シュパッ

加奈「っう!」

ほたる「……さっきと変わりませんね、一度体制を立て直すために退いた後に遭遇したにも関わらず」

茜「さすがですね!」

加奈(やっぱり、普通に戦うと……敵いそうにない!)

加奈(さっきまで防御主体で動いてたけど、アカネを倒した後に一対一でも……厳しいかも)

加奈「でもっ!」

――ザァァァ……

加奈「……行きますよ」

ほたる「一体何を……」

ほたる(今から何かをしようとしているにも関わらず、まったく気配がない?)

――ザアアア

茜「わぷっ! 雨が強くなってきました!」

ほたる「……悪天候ですね、見失わないように注視して――」

加奈「はあっ!!」

――カッ

茜「わっ?!」

ほたる「!!」

――バリッ

ほたる(もしかして……だとすると、まずい――)

加奈「はあああっ!!」





――ドオォンッ!!




美由紀「きゃあっ!?」

真奈美「ずいぶん急な変化だな……」

美由紀「雨がざーって、今は――」



美里「何の音?」

そら「あっち! ……あれ? あっちって、今から行く方向?」

亜季「雲行きが怪しいでありますな……文字通り」

美里「早く行ったほうがいいかもねぇ」



時子「……!」

時子(馬鹿……勝手に話を進めるんだから)

時子「今向かうと……巻き込まれるわね」

――……ガシャンッ

茜「わ、わぁ……な、何が起きたんですか?!」

加奈「ハァ……ハァ……!」

ほたる「…………」

――ドサッ

ほたる「かはっ、う……」

茜(突然光ったと思ったら、大きな爆発? があって、気がついたら……ホタルさんが)

ほたる「これは……ここまで……!」

加奈「それも……肩代わりしたんですか?」

――カランッ

ほたる「……不幸ですね。この鎧、なかなか作るのに手間がかかるんですが」

茜「鎧が、壊れていますよ!?」

ほたる「一回で……さすがに雷に打たれたら、壊れちゃいます……けほっ!」

茜「雷? え、じゃあ今のは雷の音と光だったんですか!?」

加奈「……まだ立ってる!」

ほたる(気を保っているのが、ギリギリです……)

ほたる「雷の……魔法は、存在しますが……これは、本当に雷……」

ほたる「自然現象から、本物の雷を引っ張ってくるなんて……有り得ないでしょう……!」

茜「この天気も、もしかして?!」

加奈「これは、普通の魔法じゃないです……」

加奈「わたしが、わたしの中に持っている……古い時代の術式です」

茜「古い……?」

ほたる「旧式……確か、使われなくなった魔法……もしくは、術式が失われたものですね……」

ほたる(こうやって個人が所有している術式を見るのは……初めてですね)

加奈「トキコさんは、わたしを“術式を持つ人”じゃなくて、カナとして見てくれました、だから戦地にも送らないように……」

ほたる「どうでしょうね……ただ、他人の手に渡るのが怖いだけかも――」

加奈「違います! そんな人じゃない!」

茜「むむむー……」

加奈「普段から、使わないようにとも言われていますが……」

――ゴロゴロゴロ……

加奈「でも、守る人が……ここにわたししか居ないなら……使います」

茜「また雲行きが!」

ほたる「ですが、ずいぶんと……そちらも疲弊していませんか?」

加奈「……!」

ほたる「恐らく、消耗が激しいんですよね……なら」

加奈「急いでっ……!」

ほたる「今のうち!」

――ダッ!

加奈(まだ走れる程、体力が!)

ほたる「長いお話で、少しは回復しました。戦闘慣れしていませんね……?」

加奈「あ、っ!」

――ザッ

美由紀「だめっ!!」

ほたる「え?!」

加奈「!?」

ほたる(割って入ってきた――?!)

美由紀「っ……」

――ギィンッ!!

ほたる「……!」

美由紀「あ、れ……?」

茜「大丈夫ですか!? ……って!」

加奈「あ……さっきの……!」

美由紀「カナちゃん!」

茜「……ちゃん?」

ほたる「防がれた……じゃない」

真奈美「防いだんだ。このままだと、民間人ごと剣を振るっていただろう?」

ほたる「……どうも」

真奈美「剣を下ろしてくれ、民間人に向けるものじゃないだろう」

ほたる「……失礼、振るうべきは――」

――スチャッ

加奈「敵が増えた……!」

ほたる「こっち、ですね?」

真奈美「待ってくれ。……今に限っては、そちらでもない」

ほたる「……?」

加奈「ミユキちゃん、どうしてここに……!」

茜「お知り合いですか?!」

美由紀「カナちゃんは、守ってくれたんだよ!」

ほたる「守った?」

真奈美「どうやら……本当らしい。襲撃から守っていたようだ」

ほたる「……しかし現に今、彼女達から襲撃が来ているじゃないですか」

加奈「襲撃? それは、そっちが先に! ……あれ?」

茜「あれ? あれ? お話が合いませんよ?!」

ほたる「私達は、そちらが先に攻撃をしていると思っています」

加奈「誤解です! 先に仕掛けたのは……少なくともわたし達じゃないです!」

真奈美「……ここには、第三勢力が居るようだ。さて、この話も何度目かな」

真奈美「既に数としては第四、第五の戦力になってしまった、この戦場は思ったよりも複雑らしい」

茜「でも、どっちかが原因で始まってるんですよね?!」

真奈美「だがこの場にはトキコ側かアンズ・ホタル側しか居ない、だろう?」

ほたる「……まさか」

美由紀「カナちゃんは違うよっ!」

真奈美「いや、偽物だとか裏切りが居るなどという話ではない、もっと単純に……」

真奈美「漁夫の利を狙っている輩がいるのでは、と思っている」

茜「それって、私達が戦っている隙に背後から……ですか!?」

ほたる「……可能性としては、無いことは無い、ですね」

茜「でも、私達の場所がバレなければいいんです! 静かに戦いましょう!」

ほたる「……静かに戦うには、もう遅いですね」

加奈「あっ……! わ、わたしが……さっき!」

真奈美「先程の雷は……いい目印だな」

加奈「じゃあ、もうすぐ近くに――」

――ザッ

ほたる「!」

真奈美「むっ……!」

――キィンッ!!

美由紀「ひゃっ!」

茜「わっ!」

――カツンッ ガシャンッ

ほたる「……ッ! 剣が……?」

真奈美「何……?」

茜「き、真っ二つ……剣と盾が!」

??「豪華な顔触れじゃの、さっきのアレは……誰の仕業じゃ」

真奈美「これは……ほう」

加奈「だ、誰ですか!?」

ほたる「誰? 決まっています……敵です」

??「いつ奇襲を掛けようか迷っとったが……バレとったようじゃの」

??「ま、武器と防具を先手で半壊させただけでも儲けもんか」

ほたる「…………」

茜「あなたは?」

??「うちはトモエ=ムラカミ、もう分かっとると思うが――」

――ボウッ

巴「む」

加奈「敵なら、倒します!」

真奈美(かなり初級の魔術だが……効果はあるか?)

巴「なんじゃ?」

――スパァンッ!!

加奈「え、っ?!」

美由紀「切れた……!」

巴「……人の話は最後まで聞くべきじゃ」

ほたる(魔術を斬る? ……不可能、ではありませんが)

真奈美(魔力の気配が無いにも関わらず、あっさりと切断した)

巴「何を驚いとる? ……ああ、いい切れ味とは思わんか?」

ほたる「そのようですね。私の剣も、彼女の盾も……容易く」

真奈美「……この盾は、長い間使っていた愛用のものだ」

巴「そうか。それは災難じゃな、道具はいつか壊れるのが摂理じゃけえ」

真奈美「ああ、その通りだが……何をした?」

巴「何を? 別に特別なことはしとらんけぇ」

ほたる「そんな訳ありません、たかが……あなたの持っている、小さな剣でこの剣が斬れる事など――」

巴「剣、とは違うんじゃ」

――チャキッ

巴「匕首、とうちの組では呼んどる。長いだけの軟弱な剣とは違うんじゃ」

ほたる「軟弱……?」

巴「とまぁ、そんな話は関係ないけぇ、本題は……」

加奈「…………」

真奈美「本題?」

巴「ある“噂”をな、聞いたんじゃ。これからの、大事な案件じゃけえ」

巴「それに該当する条件の相手を探しとる」

ほたる「ただの……戦いを求めるだけ、ですか?」

巴「最初はちぃとばかし騒ぎを起こせば誰かが来ると思っとったが……予想外に運が良かったみたいじゃの」

加奈「騒ぎ……それだけで、こんな……!」

真奈美「感心しないな」

ほたる「……噂通り、ずいぶん過激なんですね」

茜「自分勝手は駄目です!!」

巴「勝手に火種を大きくしたのは、そっちじゃけぇ」

ほたる「これ以上挑発するつもりですか?」

巴「別にふざけとるわけじゃないんじゃ、うちは相手を探しとっただけ」

真奈美「だったら、我々でも問題は無いな?」

加奈「……あなたは、敵です!」

ほたる「どうやら……無差別戦ではなくなりそうですが、それでも続けますか?」

巴「うちは構わん、目的は一つっちゅうわけでもない」

――ギラッ

巴「最初から負ける気はせんが、目標に遭遇せんと勝つのは無理じゃけん」

真奈美「大口を――」

巴「叩いてると思うなら、ハッキリさせるけぇ!」

――シュッ!

真奈美(この匕首? だ、これが……)

真奈美「ずいぶん自信のある一突きだな」

巴「その通りじゃ!」

真奈美(魔力は……感じない、つまりこれはただの短い刃、のはずだが――)

――スパッ

真奈美「むっ……!」

茜「マナミさん!!」

巴「無駄じゃ!」

真奈美(盾ほどではないが、この装甲も相当頑丈なはず……それを、斬るではなく突くだけで貫いた?)

――タンッ

巴「おっと、距離を取ったか。やるのぉ、貫通した刃を見てから回避とは恐れ入ったわ」

真奈美「慣れない事だが、上手くいったように見えたのなら幸いだ」

巴「重厚で機敏な防御役、まさに壁じゃ」

美由紀「ぜんぶ切れてる……!」

巴「ま……うちに壁は関係ないけぇ、何だろうと斬り伏せる」

――Prrr……

加奈「!」

茜「どうしました?」

加奈「い、いや、何も……」

加奈(このタイミングで通信? ……バレないようにそーっと)

――ピッ

加奈「……もしもし?」

時子『連絡が無かったから、こちらから聞くわ』

時子『いるのね? そこに、トモエが』

加奈「はい……でも、まだ交戦中です、わたし以外の――」

時子『ああ、ホタルと……とにかくアンズ側の誰かね』

加奈「そ、そうです。知っているんですか?」

時子『やけに小声ね……取り込み中? なら、連絡だけ伝えるわ』

加奈「?」

時子『今、国家セファーから手配が出ている。その人物が彼女、トモエよ』

加奈「手配? もしかしてあの襲撃事件……ですか? でも犯人は――」

時子『カナ、真犯人が誰かじゃなくて国から手配が出ているのが重要なのよ』

時子『確保は当然報酬が期待できる、そして冤罪なら国の責任、更に……期待が出来る』

加奈「でも……それって本当なんですか?」

時子『もちろん……何故なら』



時子『トモエを呼んだのは私よ』

加奈「えっ?!」

美由紀「?」

加奈「あ、違うよ、ごめん……」

――ササッ

時子『本当に直接連絡したわけじゃない、でも実質は……という意味』  

時子『ホタルまで割って入ってくるのは予想してなかった、でもトモエの乱入は予想の範囲内』

加奈「どういう事ですか?」

時子『私が流した情報は、ノリコがトモエを国の依頼で追いかけている……という内容』

加奈「ノリコ? えっと、確か……少し前に話題になった――」

時子『詳細は省くわ、要するにトモエが“誰かに追われている”と気づけば成功』

時子『さらに、その人物がアンズの味方側の可能性が高いとしたら?』

加奈「ここでいう……ノリコ、がですか? 確かにわたし達側じゃなくてアンズ側ですね……」

加奈「……なら、少なくともトモエは敵の敵になる?」

時子『トモエが来ると、アンズの敵が増える。それだけ私達が有利になる、はずだった』

時子『結果を見るとトントンよ、ホタルが加勢しに来たから。でも確実に何もしなかったよりは好転したはず』

巴(目的の相手とは遭遇しとらん)

巴(ただ“ついで”の案件が先に完了しそうじゃ)

ほたる「はっ!」

真奈美「短い刀身でも何とかなるものか?」

ほたる「どうにかなっているかは、実際に見てください……!」

巴(さすがに幹部級、それも勢力が三つもおる……なら、どれかは当たりじゃろ?)

巴(そうじゃなくとも……うちらは本当に元々村を襲うつもりなぞ無かった)

――タンッ

巴(じゃがノリコの捜索を襲撃と勘違いした輩が、先に攻撃を仕掛けてきた)

巴(まぁ……その結果、今の状態ならむしろ感謝するべきか? 分からん)

巴「とにかくうちの相手は……“今は”こっちを狙っている、ノリコじゃ」

――ヒュンッ!

巴「おっと」

真奈美「やはり厳しそうだな」

ほたる「お互い様です!」

巴「うちに近づくなんて度胸あるのぉ」

真奈美「遠くから攻撃できる程、器用じゃないからな」

巴「そうかい、なら――」

――…………

巴「ん?」

茜「何か音がしましたか?!」

ほたる「あっち側から……え?!」

美由紀「あっ! あれ!」



未央「とりゃああああ!!」

――ゴゴゴッ

真奈美「あれは……!」

未央「状況がわからないけどっ!」

茜「ミオちゃん!」

未央「一石を投じるっ!!」

――ブンッ!!

ほたる「一……石?」

巴「岩!? じゃが、こんなもの――」

卯月「やあっ!」

――キィンッ!

巴「っ! まだ居たか!」

卯月「行きますっ!」

茜「眩しっ……!」

――バゴォンッ!!

美由紀「割れたよっ!?」

巴(うちじゃなく、岩を狙った!)

卯月「その小刀では、全部を斬るのは無理ですね!」

巴「チッ!」

巴(斬り切れないなら、避けるしかないけんの!)

――ダッ

巴「こっちが安全――」

凛「来ると思った」

巴「!?」

――キュッ ジャキッ

巴「そこを退くんじゃ!」

凛「断る」

巴「だったら……真っ二つじゃ!」

――シュッ

凛「その姿勢じゃ、満足にその武器は振れないでしょ」

巴「勢いは関係ないんじゃ、触れれば問題ない!」

――ザクッ

凛(!!)

――タンッ!

巴「む!」

凛「……何か、特別な武器だね、それ」

巴「また手応えがあったと同時に退きおる、器用なもんじゃ……」

凛「そんな小さな剣なのに、私の武器に刃が食い込んだ」

卯月「大丈夫!?」

未央「っぽい……かな? わっ、しぶりんのブーツに傷が!」

巴(食い込んだ? 今の一瞬でどこまで見えとるんじゃ)

凛「しっかりと、見えてる。ただ……対策は見つからないね、その切れ味は」

巴「その通り。この匕首が斬れないものは、まぁ無いじゃろ」

真奈美「……本当に何なんだあの武器は」

巴「さっきから言うとる、これは――」

卯月「……『必殺の匕首』」

巴「!」

卯月「違いますか?」

巴「……おうワレェ、どこでそんな話を聞いたんじゃ」

未央「しまむー物知り!」

凛(アイリの受け売りだけどね)

卯月「知識として……知っているだけです」

巴「そうかい」

ほたる「『必殺の匕首』……」

真奈美(武器の名前にしては……その語感は聞き覚えがある)

巴「その通り、この匕首の名前は『必殺』。うちの組に代々伝わるモノじゃ」

巴「そして……“十大秘宝”とも呼ばれているそうじゃ」

ほたる「……!」

真奈美「やはりか……」

真奈美(確かアンズが言っていた“灰姫の経典”と、同じ雰囲気を感じる……)

美由紀「ひほー……?」

茜「要するに、すごいものなんですね!」

――ピッ ピッ

ほたる(……もしもし)

仁美『どうしましたか!』

ほたる「そちらのアンズに確認を……応援を、要請していましたか? と聞いてください」

仁美『応援? ……敵?』

ほたる「いいえ、味方ですが……どうにも都合が良すぎます」

ほたる「唐突に三人の増援が来ました」

仁美『増援?』

ほたる「これは私達の存在を知ってから、応援を要請しているような動き、立ち回りです」

仁美『でもアタシがここでずっと見張ってる、誰とも接触はしてないし連絡もとってない』

ほたる「じゃあ……これは偶然とでも? ……とにかく、見張りは続けて」

仁美『承りました!』

――ピッ

ほたる(……まさか、読まれている?)

卯月「思ったより人数が多い、でも」

未央「人が増えて不利なのはそっちでしょ!」

凛「……その武器だと、複数の相手は辛そうだね」

巴「仲間が増えて安心、なんて思っとるなら……」

――シャキンッ

巴「うちがその考えを正したる、三人程度なら対して変わらん」

未央「そうかな? 武器はそれだけでしょ?」

卯月「だったら、遠くから攻撃を仕掛けるだけです!」

巴「逃げながら戦う? させん!」

――シュルッ

巴「ん?!」

美由紀「何?!」

ほたる「また別の攻撃……!?」

巴(鎖!)

巴「くっ、甘いんじゃ!!」

――ギィンッ!

法子「っ!」

未央「あっ! 失敗……駄目かー!」

卯月「鎖が……!」

茜「惜しいっ! でも気づかれてませんでしたよ!」

真奈美「だが今バレてしまったな。もう周囲は警戒されるぞ……」

巴「言うたはずじゃのぉ、斬れんモノは無いけん」

凛「あれは本物だね、何でも斬ってきそうだよ」

巴「今まで隠れとったんか? 不意打ちで攻撃するでもなく捕まえようとするなんて、随分甘いのぉ!」

法子「事情があるから……!」

ほたる「あれは……ノリコ……」

ほたる(確か情報で……そう、セファーの一件で確保依頼が撤回されて、逆に別の対象を確保する依頼を受けていたはず)

卯月「一旦立て直しましょう!」

法子「はい……!」

ほたる(なら、この四人は……別件でここに来ている? アンズとは関係がない?)

凛「手強そうだね」

巴「うちに用事か? 今日は客が多いのぉ」

ほたる(……とは思えないけど、連絡手段が無いなら今の現状は知る由もない、はず!)

ほたる(そう、だから邪魔者ではない……でしょう)

――スッ

ほたる「あなた達は……」

未央「アカネちん!」

茜「ミオちゃん!」

ほたる「知り合い、のようですね。ここには偶然?」

卯月「私達は、あの人を確保しに……ノリコちゃんに協力しに来たんです」

法子「事情は複雑なんですが……とにかく、お手伝いさせてください、互いに!」

ほたる「……目標は、トモエ? “あっち”ではなく」

卯月「あっち?」

ほたる「……いえ、何でもないです」

ほたる(他の目標を持っていなさそう、という事は……こちらに不都合のある増援ではない!)

ほたる「分かりました、なら協力します」

真奈美「気をつけろ、相手の事は調べていると思うが……手強いからな」

卯月「はい!」

美由紀「人がいっぱい……!」

加奈「大丈夫、わたしも守るよ!」

茜「全員で倒しますよ!」

――ザザッ

卯月「…………」

卯月(本当は、もちろん知っています……!)

凛(ホタルの目標が、トモエ相手じゃなくてトキコ相手で、さらにアンズまで間接的に狙っている事)

未央(アンズちゃんから聞いてる!)

卯月(だから私たちがやるべきは……足止め!)

未央(それと、先にトモさんを奪還すること!)

卯月(問題は……この作戦、私達だけが知っている事。だから……気づいて貰わないと!)

――チラッ

真奈美「…………」

真奈美「ここに用事があるのはノリコ、君だけか?」

法子「……?」

真奈美「三人は、ノリコの手伝いだがここに用事は無いんだろう?」

凛「……! うん、そうだけど」

加奈「?」

真奈美「だったらここは危ない、それに人数が多すぎる。アカネ!」

茜「はい!! なんですか?」

真奈美「ここから安全な場所へ、ついでに現状を他の部隊に伝えるために三人を案内しろ」

ほたる「えっ?」

真奈美「簡潔に言うと……三人とアカネ、ここを離脱するんだ」

茜「分かりました!」

ほたる「っ、待ってください!」

真奈美「どうした? 無関係の者を巻き込むのは君も望まないだろう?」

ほたる「っ……」

真奈美「ノリコは関係があるが、三人は手伝いだ」

ほたる「手伝いなら協力してもらった方が――」

真奈美「だから協力してもらう、他に事態を伝えるという協力だ」

真奈美「それとも? 仮にも幹部と代表が集っているというのに戦力不足か?」

ほたる「……いいえ」

真奈美「じゃあ遠慮なく……ここを去ってくれ」

凛「分かった、私達は“別の”場所に向かう」

未央「ここ以外でも騒ぎは起きてるからね、そっちに駆けつけなきゃ!」

卯月(良い! これは、ベストだよ!)

ほたる(しまった……私達の“監視下”じゃないアンズの部隊が作られてる……!)

茜「じゃあ行きましょう!」

――タタッ

真奈美(……きっと察してくれているだろう、今のうちに――トキコの本体の場所へと向かってくれ)

ほたる「くっ……!」

真奈美(こちらはホタルとカナとトモエを引き受けて……ここで時間を稼ごう)

ほたる(ここで私達の監視下を離れる人物が出てはいけない、トモの救出に動かれる……!)

ほたる(かといって引き止めるのは余りにも不自然……だから、新たな監視を呼ばないといけないのに)

――ツー……ツー……

ほたる(アキ、通信が繋がらない、こんな時に……!)

ほたる「……もしもし、応答を……出ない」

ほたる「よくある事ですが……今はタイミングが特に悪い……!」



――――

亜季「あっ!」

美里「どうしたの?」

亜季「むむむ……またホタル殿に怒られるであります」

そら「なにごと? ……あ!」

――ガシャンッ

亜季「通信機が、また交戦中に破損したようであります」

そら「また、って、そんなに壊れるもの?」

亜季「普通より頑丈なものを用意してくれているのですが……」

美里「ああ、道理で……」

亜季「ん?」

美里「なんでもないよぉ」

そら「壊れる前提で持ってるの、よっぽどなんだね?」

亜季「不甲斐ないであります」

美里「……ふふーん」

――――

ほたる(もしかして、同行しているミサトかソラに何かされているかもしれない……)

ほたる(有り得る! 実力でアキは負ける事は無くても連絡手段を断つくらいなら……!)

――スッ

真奈美「む?」

巴「ほう、折れた剣でどうするつもりじゃ?」

ほたる「早く倒して、先に進むのが最適です」

巴「その通りじゃ、遠慮することは無い」

加奈「わ、わたしは……」

巴「安心せぇ、全員相手にするのは変わらん。逃げるならさすがに全員は無理やが……」

法子「はっ!!」

――キィンッ!

巴「こんな感じで、向かってくるなら喜んで相手するけぇ」

法子(遠距離攻撃でも、何を投げようが結局切り落とされる……)

ほたる(かといって近づけば……あの切れ味、かなりダメージは大きそう)

真奈美「しかし……近づくしかないだろう?」

法子「ダメです!」

美由紀「……だめ?」

法子「あの武器は……切れ味が本当の力じゃないんです」

真奈美「……斬撃よりも強い効果があるのか?」

巴「ほー……」

法子「いいえ、それに違いはないのですが……斬られた後が問題なんです」

ほたる「攻撃後?」

法子「一度でも“身体”に傷が入ると……危険です」

真奈美「どういう意味だ?」

巴「口で説明するよりも……実際に受けてみぃ」

巴「何故この匕首が『必殺』と呼ばれとるか、それは!」

――ダッ!

真奈美「来るか!」

巴「味わえ!」

加奈(普通ならあんな小さな剣で、あの装甲は貫通しない、でも!)

――ザシュッ!

真奈美「っ!」

巴「届いたッ!」

真奈美「く……まさかここまで身を固めておきながら、避ける動作を努力するとはな……!」

法子「大丈夫ですか!?」

真奈美「ああ……少し腕を切った程度だ。ダメージは無いが、正直精神的に“くる”ものがあるよ」

巴「無傷が売りじゃったか? うちの前では装甲は無意味じゃけぇ」

真奈美(腕を掠った程度だが、しっかり切れているな……)

ほたる「『必殺』が、体に当たった体感は?」

真奈美「今のところ……特に何もない。毒ならお手上げだが」

巴「そんな面倒な事はせん、堂々と正面から“必殺”じゃ」

ほたる「その割には大した傷ではなさそうですが……念のため」

――パァァッ

真奈美「……助かる」

加奈「治った?!」

ほたる「少しなら心得があるので……その程度の傷なら」

真奈美「治癒魔法か、礼を言おう」

法子「……治った?」

巴「ふん、女々しいのぉ」

真奈美「これで元に戻ったな」

巴「戻った? うちの聞き間違いか?」

ほたる「何の話でしょうか。私の術式は失敗していません、いくら不幸と呼ばれてもそれくらいは成功させます」

巴「成功させるさせないは問題じゃないけぇ」

美由紀「あ……!」

真奈美「ん? どうし――」

――ツー……

真奈美「っ……!」

美由紀「出てるよ……!」

ほたる「えっ?!」

真奈美(血が……? いつのまに攻撃された? いや、この痛みの場所は違う)

加奈「まだ……治ってない?」

ほたる「そんな馬鹿な、私がさっき――」

法子「いや、治ったように見えただけなんです」

真奈美「傷が……戻っているな」

巴「この匕首は、傷をつけることに関しては最強じゃ」

加奈「確かに何でも切ってた……でもそれとこれは――」

巴「そして、その傷が埋まることも無い!」

真奈美「……!」

巴「だから傷は治らんのじゃ、故に必殺……!」

真奈美「そうか、なら……!」

――ザクッ!!

加奈「うわ、っ!?」

巴「ほう」

真奈美「ッ……」

――ギリッ

真奈美「……もう一度、治せるか?」

ほたる「今の行動にどんな理由が……!」

真奈美「いいから治してくれ、それとも……無理か?」

ほたる「いえ、出来ますが……」

――パァァ

真奈美「…………よし」

巴「見事じゃ」

美由紀「治った? 治った!」

加奈「どうして!?」

真奈美「“傷がついた部分”を一度、全て切除して治してみたが……その場合は大丈夫らしいな」

巴「……無茶しおるのぉ」

ほたる「屁理屈じゃないですか……!」

巴「確かにうちの匕首は“傷つけた部分”だけに効果がある、そうやって丸ごと周辺を切り出せば治るが……」

巴「確信も無く、しかも交戦中に実行するとはワレ、本気か?」

真奈美「先程から“傷”を強調していたのでね……本当に必殺なら、もっと別の言葉を使うさ」

加奈「…………」

真奈美「傷は取り除けないこともない、そう考えた」

巴「正解じゃ。……じゃが、それはあくまで小さい傷の時にだけ回避できる方法」

巴「刃が突き刺さったら、ワレは腕ごと切り落とす気か?」

真奈美「考えておく必要も……あるかな」

巴「ほざけ!」

真奈美「さて……勝負の続きだ」

加奈「は、はい!」

ほたる「……はい」

おつ

生きてます



・・

・・・


茜「あれっ? そっちじゃないですよ! 私達の拠点はこっちです!」

凛「拠点はそっちだけど……」

卯月「目的地は違う、反対側!」

茜「でもマナミさんが離脱しろと――」

未央「うんうん、確かにあの場では言ったけど……」

卯月「今目指すべきは、トキコの本隊!」

茜「ええっ!? 直接行っちゃうんですか!?」

*時子本隊*


雫「撤退、ですかー?」

時子「そうね。行けるところまで行ってみるつもりだったけど、手がつけられないから帰るわ」

時子「元々アンズとの喧嘩で、問題のアンズに対して既に大きなダメージを与えている」

雫「確かに結構かき回しましたねー、でも人質もみすみす返すのですかー?」

時子「そうね……最終的にはそうなる、トモを抱えるデメリットのが大きい。一時的に抱えるのは有効だけど」

雫「?」

時子「一時的に抱えて、引きこもってる相手を無理矢理働かせて……他とぶつけたのが今回の成果」

雫「アンズに、トモエやホタルを関連付けた、という事ですかー?」

時子「敵の敵を増やしただけ……小さい成果と思うかしら」

雫「えーと……」

時子「正直に言って構わないわ、実際にこの成果は小さい。たかが抗争相手を増やしただけ、味方は増えてない」

時子「でもこの成果の一番大きい点は、こちらに目立った被害が出ていないところ」

時子「ローリターンでもノーリスクなら問題ないでしょ」

時子「それに、カナも随分無茶をしている」

雫「確かに、ご自分で色々されていましたー」

時子「逃げるにも少し手間取るでしょうね」

雫「……あー、それで居ないんですか?」

時子「ええ。ここに居ないキラリは、そういう事」

雫「キラリさんはー……」

時子「トモの所で、時間を稼ぐ」

雫「……大丈夫でしょうかー?」

時子「置いていくわけじゃないわよ、ちゃんと……私達も得ているものがあるわ」

――スッ

雫「えーと、これは?」

時子「これ、トモが使っていた移動式」

時子「キラリには同じものを持たせている、つまり……何かあっても直ぐにその場を離れる手段がある」



・・

・・・


――ガサッ

卯月「ゆっくり……」

未央「急に静かになったね」

凛「そのぶん音でバレやすいからね。もう本拠地……トモは近いはず」

未央「ねぇ、もしかして……あれ、じゃない?」

卯月「えっと……」

――ザッ

茜「おっきいですね!」

凛「たぶん……見張り小屋?」

未央「あー、そんな感じかな? その割には立派な建物だけど」

卯月「でも誰かを閉じ込めて、一緒に見張るなら……可能性は、ありそうです」

凛「じゃあ……さっきの村の方に人手が割かれている今がチャンスだね」

茜「はい! 探検を終えましょう!」

――…………

卯月「外観の割に、ボロボロですね……」

凛「一階は何ともなかったのに、二階からは急に――」

茜「あちこち穴だらけです! 階段も幾つか登れないほどに壊れてますし……」

未央「それだけこの辺の抗争は激しかったんだねー……おっと、無事な階段があったよ!」

卯月「本当!?」

凛「これで今は……六階?」

卯月「もうそんなに上がってたんだね」

茜「六階ですか! 確か外からこの建物を見たときも、それくらいの高さだった気がします!」

未央「よーし、じゃあ一番乗り! そろそろ最上階でしょ?」



――ギシッ



凛「……ミオっ!!」

未央「えっ? わっ!?」

――グシャァッ!!

未央「はぁ……はぁ……」

――パラパラ……

凛「……階段が」

茜「大丈夫ですか!? 上から……照明ですか?」

卯月「落ちてきたのはそうだけど……」

未央「完っ全に……狙われた、かなぁ……? しぶりんが引っ張ってくれなかったら――」

――バキィッ!

卯月「!?」

凛「また天井が崩れ……気をつけて!」

未央「もう! 建付悪すぎっ!」

茜「落ちてきたモノに警戒してください!!」

――ダンッ!!

凛「……? ち、違う!」

茜「へ?」

きらり「お客様だにぃ……!」

凛(今度はモノじゃない……! 直接、降りてきた――)

きらり「どーんっ☆」

――ヒュッ

卯月「はあっ!」

きらり「にいっ?」

――パァンッ!

きらり「むぇー……!」

卯月「っう! 止めたけど、重いっ……」

茜「弾いた、この隙にっ!」

きらり「にゅ、わーっ☆」

――ドオンッ!!

茜「わぁーっ?!」

凛「くっ! 腕を振るうだけでこんなに……!」

未央「む、無茶苦茶だよ! 上の階から落ちてきたの!?」

凛「階段で気を取られている間にやられたね……まさか、天井があるから大丈夫と思ってたら突き破ってくるなんて……!」

きらり「おっすおっす! ここはきらりの守るお家だよ!」

茜「わざわざ守っているということは!」

卯月「トモさんはきっと上の階だよ!」

未央「だね! キラリが上から降りてきたのがその証拠!」

凛「上階は分かった、薄々分かってたけど……問題はどうやって上に上がるか、だね」

きらり「そー……れっ!!」

未央「ん? 何を――」

――メギィッ!!

未央「なっ! 何するの!?」

きらり「これで、すぐには上がれないにぃ……☆」

卯月「階段が……!」

凛「なるほど、いろんな場所が壊れてたのは抗争があったからじゃなくて」

卯月「私達を待ち構えてて、上ってくる階段を限定するため!」

茜「それで、この階段が壊れたという事は……?!」

きらり「一番上に上がる階段は残ってないよ? でもでも、登れないことは無いよね?」

未央「当然! その、壊れた部分をゆっくり慎重に上るとか……でしょ?」

きらり「でーもー、きらりが居るからそれは絶対阻止するにぃ!」

凛「……あっちが元気なうちに登るのは無理だね。少し暴れられただけで、建物が揺れて危ないよ」

きらり「トモのところに、簡単には行かせない、よ?」

未央「ど、どうする?」

卯月「正面からは分が悪いです!」

茜「いったん離れましょう!」

――タッタッタッ

きらり「待ってー☆」

――…………

凛「何か変だね」

未央「何が? あのデタラメなパワー?」

凛「どうしてトモがここにいることを簡単に明らかにしたんだろう」

未央「ん、確かに」

卯月「……もしかして、嘘なのかな?」

茜「ここにトモさんは居ないんですか!?」

未央「だったら、こんな……私達のためだけに、キラリがここに残ってる?」

卯月「わかりません……でも、ここにキラリが居るのは確かです!」

凛「足止めが出来れば、ここが囮でも何でも相手にとって不利な展開に出来るよね」

未央「ここにいる間、他に応援は行けないからね!」

茜「確かに!」

卯月「そ、そうです! そうと決まれば上手く立ち回って……」

未央「うんうん! ここは建物の中だから扉も部屋も多いからそうそうバッタリ出くわしたりは――」

――ドゴォンッ!!

茜「うわ、っ!?」

きらり「見ーつけーたにぃ!」

未央「げえっ!?」

卯月「壁を……!」

未央「隠れられる場所もない、ってね! 逃げよう!」

茜「逃げちゃうんですか?!」

未央「正面から戦っちゃ、こっちのが押されるって!」

きらり「にょわわわー!!」

――ドゴォンッ! ドガンッ! メキッ……



――ザッ

卯月「はぁ、はぁ……」

凛「壁が穴だらけだよ……こんなに見通しが良くなっちゃった」

未央「不意を打たなきゃどうしようもないのに、身を隠す場所もなくなってくるなんて……」

茜「下の階は無事ですよ、降りますか?」

卯月「でも目的は上の階です、どうにかして……進まなきゃ」

未央「いっそ二手に分かれてみるとか!」

凛「分かれたところで結局階段は残ってないよ、待ち構えられて終わり」

茜「じゃあ、私がキラリを引きつけます! その間に皆さんが上に!」

卯月「それでも……今度は降りる時に待ち構えられちゃって、逃げ道がない上に追い込まれちゃいます」

未央「駄目かぁー……結局、どうにかして叩くしかない?」

卯月「うーん……」

――…………

きらり「どこに隠れたにぃー……」

きらり(さっきまで足音とか、いーっぱい聞こえてたのに……静かになったにぃ)

きらり(固まって隠れてる? もしくは――)

凛「そこだッ!」

――ドゴンッ!

きらり「にいっ!?」

凛「私が相手!」

きらり「やっぱり、こっそりと近づいてたんだね? でもっ!」

――ブンッ!

凛「っ!」

きらり「一発じゃ倒れない、やあっ!!」

凛(直撃したらまずい……!)

――ビュンッ!!!

凛「くうっ……直撃しなくても、風圧が――」

きらり「もう一回☆」

――ヒュオッ! グラッ

凛「くっ……!」

きらり「そー……れっ!!」

凛(まずい――)

――メキッ!

凛「っ!? がっ――」

きらり「捕まえたにぃ!」

未央「しぶりん! このっ、離せっ!」

――キィィン

きらり「にょわっ?」

未央「久々のミオちゃんの出番! 全力で鉄拳制裁だっ!!」

きらり「んうっ、すごい強そうな攻撃! でもっ――」

凛「痛ぅ!」

未央「おっ……! と、とと!」

凛(しまった……私が捕まったから、盾に使われてる……!)

きらり「止まったね? それじゃあ――」

未央「やっば」

――ガシィッ

きらり「二人とも、捕まえたー!」

未央「わぁっ! ひ、引っ張られ……ぐぬぬっ!」

きらり「きらりは力持ちにぃ、それくらいのぱわーじゃ駄目駄目☆」

――ズズッ……

未央「わわわっ!」

きらり「おとなしくするにぃ――」

――ズッ

きらり「……んぅ?」

――…………

きらり「今の感じは……むぇー?」

未央「離せー!」

きらり「だーめ、静かにするにぃ」

凛「ミオでも抑え付けるなんて、よっぽどだね……!」

きらり「そーだよ? きらりは皆よりおっきくて力持ちにぃ☆ にょわー!」

凛「確かに力は強いけど……たぶん、魔術は扱えないんじゃない?」

きらり「まじっく? んー……きらり、あんまり練習したことないにぃ」

未央「だろうねぇ」

きらり「むむぅ」

未央「練習したことがないのは知ってるよ」

きらり「にょ? どうして?」

未央「それはねー……」

――ズズッ

きらり「むぇ?!」

卯月「ウヅキ、放ちます!」

きらり(これっ、さっき一瞬だけ感じた――)

卯月「吹き飛べえっ!!」

――ドバァンッ!!

きらり「にいッ!! お、お友達ごと――」

凛「そう思う?」

未央「いや、実際はその通りなんだけどね」

――ズウンッ!

きらり「にょわっ……!」

凛「っう! 私達は……慣れてるからね!」

未央「そういう事! ……っうー! でも痛いなぁ!」

きらり(きらりが吹き飛ぶほどの威力で、痛いで済むわけない、にぃ!)

凛(……慣れてるのは確かだけど、それだけじゃない)



卯月『キラリは、他の人より物理攻撃や防御に優れています』

未央『痛感してる、でもだからといって……魔法が効くようにも思えないけど』

卯月『はい、ダメージはたぶん……元々の体の防御力があって、ほとんど通らないと思います』

茜『じゃあ八方塞がりですか!?』

卯月『いえ、ダメージは通らなくても……衝撃に対する抵抗力は少ないはずです、なぜなら……本人が魔術を扱えないから』

凛『……確かに、可能性はある』

未央『それって吹き飛ばすだけって事? うーん……吹き飛ばして、どうするの?』

卯月『はい、それは……』

卯月「このまま、叩きつけます!!」

きらり「!」

未央「誘導、頑張ったよ!」

凛「まだ壊れていない壁面を探すのも大変なくらい、壊しまくってくれたよね……!」

きらり(飛ばされるっ……壁にぶつかっちゃうにぃ!)

凛「そしてっ……!」

――スルッ

きらり「あ、駄目っ!」

未央「いよしっ! 油断してたね? 抑える力を腕に回さなかったでしょ!」

凛「おかげで、フッ!!」

――バキッ!

きらり「にいっ!」

きらり(さらに吹き飛ばされ――)



――バゴォンッ!!

きらり「にぎぃつ!!?」

未央「よしっ! 成功!」

卯月「これだけ強く吹き飛ばせば……!」

きらり「っ……えへっ!」

未央「!」

きらり(壊れてない壁に、きらりの苦手な魔法で吹き飛ばして攻撃……でも!)

きらり(この程度ならっ……壁を壊しちゃう程の勢いでも、きらりは大丈夫にぃ!)

凛「壁を貫通してるのに、大したダメージは無さそう……だね」

きらり(ちょっとびっくりしたけど、これくらいならまだ――)

――ヒュゥゥ

きらり「あれ?」

卯月「でも、本命はこっち!」

きらり「にょわっ!? ゆ、床が無――」

卯月「壁が駄目なら……床です!」

未央「ただし、何十メートルも下の地面だけどね!」

きらり(隣の部屋の床が、縦に全部無くなってる……?!)



茜「ぜぇ、ぜぇ……頑張りました!!!」



きらり「そっ、そういえば途中で居なくなってたにぃ……!」

凛「さすがに体が頑丈でも、吹き飛ばされてバランスが悪い姿勢のまま地面に落とせば」

きらり「むええぇっ!」

未央「六階建ての建物から、これは効くでしょ!?」

卯月「効かないと、本当に困ります……!」

きらり(それは当然……かなり無理するにぃ……!)

きらり(怪我しちゃうと、これ以上抵抗するのも難しくなる……だったら!)

きらり「……むっ!」

――サッ

凛「何か取り出した……?」



きらり「これで……お仕事終了にいっ!」

卯月「も、もしかして爆弾とか」

未央「えっ!? じゃあこの建物が危ないじゃん! 道連れ!?」

凛「いや、違う、あれは……!」

きらり「えいっ!!」

――バシュンッ!

卯月「きゃっ!」

未央「光、と音が……! っー……」

――…………



卯月「……何も、起きません、ね?」

未央「不発?」

茜「でも光りましたよ! こっちでも見えるほどに! 何も変わってませんか?!」



凛「いや……変わってるものがあるよ」

未央「どれ? まさか上が全部吹き飛んでるとか……」

茜「もしかして外が大変な事に?!」

凛「落ちたはずの、キラリの姿は?」

――ヒュウゥゥ……

卯月「あっ……い、居ない?」

未央「消えた? そ、そういえば強い光と音は鳴ったけど、地面に落ちた音は聞こえなかった!」

凛「他の階に逃れたとしても音は鳴るはずだよ、落ちたんだから」

茜「じゃあ、どこに?」

卯月「もしかして……移動式、かな?」

未央「まさか! だったら魔法苦手じゃないじゃん!」

卯月「自分で使う術じゃなくて、ほら……以前のサミスリルで試験の時に使ったみたいな道具だったら?」

凛「ただ、こんなに一瞬で発動して……しかも気配も感じられないほど遠くまで移動する式なんて――」

卯月「それも説明出来ます……例えば」

卯月「トモさんから奪った、なら?」

茜「!」

未央「なるほど……可能性もあるね。だからそんなに高性能な脱出方法を持ってたんだ」

茜「逃げられちゃいました……」

凛「いや、向こうは仕留めるつもりで来てたみたいだけど……私達は違う」

卯月「そうです、倒しに来たんじゃない……トモさんを探しに来たんです!」

茜「はっ! そうでした!」

未央「本当に逃げたかは分からないけど、今は他の人の気配を感じないからね!」

凛「今のうちがベストだよ」

卯月「早く上の階を探しましょう!」



・・

・・・


卯月「トモさん!」

朋「けほっ! あぁ……ごめんね、わざわざ来てくれて」

茜「大丈夫ですか!?」

朋「うん、大して変なことはされてないよ。……不気味なくらい、何も」

未央「よかったー……」

卯月「それにしても、本当によく無事でしたね……」

凛「本部じゃなくてこんな場所に拘束されてるのも、思ってなかったよ。監視が雑……だね」

茜「なんにせよ無事でなによりです!」

朋「……あたしを簡単に手放したのは、交渉の本人が居なくなったから……だと思う」

卯月「え?」

朋「もともと、確かそっちが持ってる経典と交換材料にするつもりだった……と思ってるけど」

凛「そういえば……最初はそんな話だったね」

朋「その三人がアンズちゃんから離れた」

卯月(そっか……だから、アンズちゃんは私達を遠ざけた?)

未央(相手がいない交渉は実行できないもんね)

朋「かといって、あたしを処分するわけにも……魔術協会があるからね」

卯月(トモさんは、魔術協会……つまり、組織の幹部だったね)

凛(中立な巨大組織、そこを敵に回すのは……トキコも避けた、のかな)

朋「となると、あたしを抱える意味が薄くなって」

茜「私達でも救出できるほどに?」

朋「はぁ、権力に助けられちゃった……情けないなー」

朋「で、結局こうして……こんなところに放置されてたんだね」

未央「いや、放置じゃなかったよ? しっかり見張りの人が居たよ」

卯月「キラリが、単独でここを張っていました」

朋「キラリが? ……なんで?」

凛「なんでって……それはトモをここに捕らえておくため――」

朋「あたしは元々、見張りなんて居なくてもしばらく脱出できないほどしっかり捕まってたけどね」

茜「ぐるぐる巻きでしたね!!」

卯月「それと……もう破壊しましたけど、魔力の吸収を行う式まで」

朋「魔力が無ければ何も出来ないよ……悲しい」

卯月(でも、私が触れてもほとんど吸収されなかったような……)

未央(しまむーはウィキでの通信機の時も、このテの吸収には強いねー)

凛「…………」

未央「ん? どうしたのしぶりん」

凛「……そうか」

凛「目的が、違ったんだ」

卯月「目的?」

凛「私は最初、キラリを足止め出来ればここが囮でも良しと思ってた」

凛「でも実際は……足止めされたのは私達の方」

未央「え?」

――スッ

凛「この移動式、つまり脱出はいつでも行使出来てたんだよ」

凛「それでも私達との、人数でも不利な戦いに付き合ってた、たった一人で」

卯月「……一人で、足止め?」

凛「もうトキコは撤退してるかもしれない」

朋「可能性は、じゅうぶんあると思うよ」

凛「十分に目的は果たせたんだろうね、アンズとトモエを戦いに巻き込んだ……とか、色々」

茜「へぇ」

朋「……ちょっと知らない間に、かなり状況がややこしくなってるね」

卯月(トモさんが“ややこしい”というほどなら、トキコの軍勢の計画は本当にこの段階で成功だね……)

凛「そして最後に……交渉材料にならなかったトモを使って逃げ切った、と思う」

卯月「でも……私達の目的は果たせました!」

未央「無事に救出完了だね!」

茜「はい! 無事に、終わりました!!」

朋「それに関しては後で正式にちゃんと感謝するよ、今は……早く連絡しに、戻ろう!」

卯月「はいっ!」



・・

・・・


――パタンッ

文香「…………ふふっ」

芽衣子「え?」

文香「いえ……終わりました」

芽衣子「終わった? ……あっ!」

ゆかり「書き込みが、終わったんですか?」

文香「はい……これで」

芽衣子「オトハさんのお願いが!」

文香「……とにかく、私が作業していた願いは叶いました」

ゆかり「では……」

芽衣子「そうだ! 次はユカリさんの――」

ゆかり「その前に少し、席を外していただいても?」

芽衣子「え? あ、そうですよね、聞かれたくない話もありますよねっ」

芽衣子「お話が終わったら、呼んでくださいね」

――タッタッタッ

ゆかり「……さてフミカさん」

文香「はい……あなたの願いは、実行されました」

ゆかり「だから、次は本来の『オトハの願い』を書いてください」

文香「分かりました。……ですが、その前にお礼をいいます」

ゆかり「礼?」

文香「私にも目的が……あるのですが」

ゆかり「でしょうね、じゃないとこんな活動は行わないでしょう」

文香「あなたのこの願いは……私の目的に、大きく貢献してくれました」

ゆかり「……この願いが?」



文香「もしかして、お互いの目的は……同じかも、いや、似ている……かもしれません」

ゆかり「……聞いてもいい話ですか?」

文香「いえ……止めておきます」

ゆかり「……そう」

文香「ただ、近いうちに……私の目的は達成される、かも」

ゆかり「かも?」

文香「……なにぶん、決まった到達点が無いので」

ゆかり「そうですか。では、とにかく――」

――Prrr……

文香「……どうぞ」

ゆかり「失礼。……はい」

――ピッ

紗枝『ユカリはん~、お元気どすか~?』

ゆかり「……ええ。よく通信機の番号が分かりましたね、そもそも入手したとも伝えていないのですが」

紗枝『そんな事よりも――』

ゆかり「はい、分かってます。……“増えました”か?」

紗枝『ちょっと景気よく増やしすぎどすなぁ』

ゆかり「手段は選ばなかったので」

紗枝『でも、これでようやく……後はユミはんとユウはんが戻れば、完了どす』

ゆかり「……そうですね」

紗枝『心配どすか?』

ゆかり「勿論です、増やしたのは私達のモノだけではなく、新しく生まれるものも同様に――」

紗枝『そちらの心配やありまへんなぁ』

ゆかり「?」



紗枝『ここに至るまで……ユミはんユウはんの二人だけやありまへん』

紗枝『ナナミはんも、もちろんユカリはんもお手伝い頂きましたわぁ』

ゆかり「当然です」

紗枝『……真っ当な全員で、もう一度大手を振って歩きたいどすなぁ』

ゆかり「…………出来ますよ」

紗枝『もちろんですわぁ、その為にも……早う帰ってきておくれやす』

ゆかり「分かりました」

――ピッ

文香「……去るのですか」

ゆかり「ええ。目的は達成したので……彼女には、適当に伝えておいてください」

文香「難しいですね」

ゆかり「では『彼女は急な呼び出しを受けた』とでも伝えておいてください」

文香「……伝えては、おきます」

ゆかり「ええ、お願いします。その後どうなろうが構いません」

文香「後を追いかけてきても――」

ゆかり「捕まりませんよ」

――…………

ゆかり「それよりも……今の願いで、もうすぐ何かが起きるでしょう」

文香「……恐らくは」

ゆかり「お互い、巻き込まれないように注意しましょうね」

文香「…………十、九、八」

ゆかり「なんですか?」

文香「願いの……始動です」

ゆかり「ご親切にどうも。……さて、何が起きるでしょう?」

文香「分かりませんが……あなたの望む、展開でしょう……残り、五秒」




・・

・・・

乙!

面白いよ続けて

おファッ!?

巴「遅いんじゃ!!」

法子「っう……」

――ザンッ!

加奈「避けてください! ファイトっ!」

ほたる「一人に任せて大丈夫なんですか……?」

真奈美「いや……」

ほたる「どう、ですか?」

真奈美「彼女に任せきりで悪いが……我々では足手纏いだ」

ほたる(一撃でも貰ってはいけない相手に、私達の防御主体では挑みにくい……ですか)

加奈(わたしも手助けはしたいけど……的確に援護できる自信は、ない……)

ほたる(こうしてる間にも、既に向こうでは動きがあるかもしれないのに……!)

真奈美「……何を焦っている?」

ほたる「っ……焦っているように、見えますか?」

真奈美「ああ。それも……この現状ではない、どこか別の……今、自分が手助けできない何かを心配しているように見える」

ほたる「気のせいです」

真奈美「そうか、ならいい」

ほたる(……企みはバレてる……当然ですか)

ほたる(だとすると……この戦い、早く切り上げて事態を収めた方が利口)

ほたる(収穫が無いなら、ただ恩を売りに来ただけで留めないと……“何かを狙って近づいた”で終わらせては駄目……)

ほたる「でも……」

――ギィン!

法子「わ……! これも、真っ二つに……」

巴「そんな軽い丸なんぞうちが全部両断したる!」

法子「でも、まだまだっ!」

巴「うちが言うのもなんじゃが、どこからそんなモノ持ってくるんじゃ……!」

真奈美「……チッ」

ほたる(貢献するにも、相手が悪い……これはさっきから何度も……)

巴「仲間は全員ビビって話にならんのか? 頼りないお供やのぉ」

加奈「むっ……」

真奈美「まぁ待ちたまえ、何事も向き不向きだ」

巴「体よく勝負の場には来ないつもりじゃろ」

真奈美「どうだろうな?」

ほたる(このままじゃ駄目……でも)

ほたる「何か、今の状況を変えるようなきっかけが――」

――…………





――ドクンッ



――ぞくっ

ほたる「……!?」

巴「むっ?」

真奈美「何だ……?!」

法子「え?」

加奈「ッ! けほっ!」

――ドサッ

真奈美「おい! どうした、大丈夫か?」

加奈「何でも……す、少しクラっとしただけ、ですっ!」

真奈美「クラっと? 幾らなんでも唐突すぎる……それに」

ほたる「今のは……?」

巴「なんじゃ……ワレらの仕業か? ちぃと驚いたが……特になにも起きとらん!」

法子(な、なんだったの? 今の……感じは!)



・・

・・・


――ぞくっ



卯月「えっ……?!」

凛「何!? まさか……」

――バッ

茜「どうしたんですか!?」

凛「新手……!」

未央「ち、違う! これは気配じゃない、何か……とてつもない、妙な……雰囲気?」

卯月「人の気配じゃないです……い、今のは?」

茜「何の話でしょう?!」

未央「……あれ? アカネちんは、感じなかった?」

茜「え?」

卯月「本当に? 今の、よくわからない何かすごい感じが――」

??「これは……!」

卯月「えっ?」

――フッ

愛梨「……まさか」

茜「え? わっ!?」

卯月「アイリさん? 何か、知っているんですか?」

未央「あっ、とー……アカネちん、後で説明するね」

茜「はいっ! ……?」

凛「……続き、聞いていい?」

卯月「やっぱり今のは、何かが起きた衝撃……雰囲気、気配なんですか?」

愛梨「……いえ、予感が……まさか、と思うだけなんですけど」

愛梨(感じた気配は、まさに例の……!)

凛「ねぇ……説明はあるの? 無いの?」

愛梨「説明……そうですね、私だけ納得していても、皆さんが動けませんよね」

未央「ちょ、急すぎないかな?! なんなの!? 何の話で……結局、なんだったの!?」

愛梨「……重々承知していますが……以前のように、事は突然始まるのが恒例なんです」

卯月「以前? ……もしかして、サエのときの……?」

凛「新しい敵は、急に来るって事?」

愛梨「確かのあの時も突然でしたが……以前とは、私が知る“以前”の話です。皆さんには経験がありません」

愛梨「先に、恐らくは実現する“この後の展開”をお話します」

卯月「この……後?」

未央「後の話とさっきの雰囲気、関係があるの?!」

凛「ミオ、一度……話を全部聞いてみよう」

未央「う、うん、そりゃあそうだけど……」

卯月「気配だけで、この後の展開が予測できるほどの……大事なの?」

愛梨「まず、各地で……事件が起きます」

茜「事件ならあちこちで起きてます!」

愛梨「規模は小さい、ですが……確実に何らかの“違和感”が出るはずです」

凛「事件に、違和感?」

未央「たとえば?」

愛梨「そうですね、例えば……」

愛梨「今まで会った事のある人が、突然見たこともない術式や技術を扱うようになり……そして、凄まじい力を得ている」

卯月「……?」

愛梨「これは、実際に見てみなければ分かりません……」

凛「見る、って……それが“起きる”事は確定しているの?」

愛梨「……もしかすると、もう既に起きているかもしれません」



・・

・・・


巴「結局……何事じゃ」

法子「何か、急に……変な気配が……?」

ほたる(ただ、一瞬だった。新たな人物が現れたわけでもないのに……)

――ピシィッ……

巴「…………」

真奈美「……なんだ……どうしたんだ?」

ほたる(急に、空気が張り詰めた……?)

加奈「今の……なんだったんだろう……?」

法子(分からない、分からないけどもし何かがあった時のために考えておかなくちゃ――)

巴「よう分からんが……ボーッとしてる暇は無いじゃろ!」

――ヒュンッ!

真奈美「っ、おい!」

法子「え? しまっ――」

巴「余所見厳禁じゃ!」

――ザシュッ!

ほたる「ノリコさ――」





――…………





法子「……!?」



巴「――――」

真奈美「――――」

法子(止まってる……!? じゃない、動いてるけど……)

ほたる「――ッ――――」

法子「遅い……?」

――…………

法子(急に、周りの動きが……とても遅く?)

法子「あたしは……」

――スッ

法子(動ける! それも、少し遅い程度の速度で!)

法子「でも――」

――ズキッ

巴「――――」

法子「ッ!! ……刺されてる……体の、真ん中に……!」

法子(この刺し傷は……切除しない限り、治らない……だとすると、この傷は……)

法子(でも、今のあたしは動けてる……これはよくわからないけど……チャンス!)

――シュルッ

法子(後ろに回り込んで、思い切り……!!)

――ドガッ!!





――…………



――ドガッ!!

巴「っがッ!?」

ほたる「えっ?!」

加奈「え?」

真奈美「何……?!」

――ドサッ

巴「ッう!」

法子「ふぅっ……ふうっ……よ、よし……!」

巴「が、っ……な、何じゃ……?!」

巴(うちは確かに、腹ァ目掛けて突き通した! 傷は治らん、それにダメージは確かに与えたはず……!)

――カランッ

ほたる(だけど実際は、動きが鈍るどころか……刺された瞬間に……)

真奈美(かなりの速度で背後を取り、そして)

法子「確保します……!」

――ギリィッ

巴「ぐぅ! そ、そんな馬鹿な事……何をしたんじゃ!」

加奈「つ……捕まえた……」

法子「何をした、ですか……」

真奈美「私からも教えてくれ」

法子「マナミさん……」

真奈美「君は今、確かに体を貫かれて……しかも傷が治らないという特性の武器でだ」

巴「そ、それに間違いは……っ」

真奈美「正直、立っているのも怪しい状態のはずだが……むしろ飛躍的に上昇した機動力で、この状態を作った」

法子「…………」

真奈美「何をした? もしや、先程の“妙な気配”と関係があるのか?」

法子「それは、分からないです……」

ほたる「分からない? では普段のあなたの力ですか?」

加奈「今の、全然見えなかったです……」

法子「普段のあたし……いえ、残念ながら……」

巴「だったら、うちが何でこんな有様になっとるんじゃ……!」

法子「…………」

真奈美「……分かった、どうやらここで解決できる話ではないようだ」

ほたる「そんなこと……いえ、今はいいです」

真奈美「ひとまず……傷だが」

加奈「治せるんですか? 治せます……よね?」

ほたる「あの位置に傷が出来ると……」

真奈美「医学の知識が必要だな。腹部の傷……難しいな」

法子「そ、それなんですが……」

――ピラッ

加奈「あれ?!」

巴「っ?! き、傷から……血が出とらん……?! 馬鹿な、うちは確かに――」

法子「穴……らしきものは空いちゃったんですけど……」

真奈美「待て、“空いちゃった”で済む事態ではないんだぞ! ……本当に大丈夫なのか?」

法子「うん……特に、何も……」

巴「なんじゃあ……ワレ本当に人間か……?」

真奈美「本当なのか?」

ほたる「……大丈夫なら、信じましょう。元より大丈夫じゃなかったところで、出来ることはありませんでしたから」

法子「うっ、はい……」

ほたる「急いでここを移動しましょう、まだ誰が潜んでいるか――」

――チカッ

真奈美「……危ない!」

ほたる「っ!」

――キィンッ!!

加奈「きゃっ!」

真奈美「こっちだ!」

――パァンッ パァンッ

加奈「ど、どこから攻撃が!」

ほたる「向こう側です。どうも、周囲の警戒を怠りすぎたようですね……銃撃の嵐です」

真奈美「……あの兵士は君の直轄か?」

ほたる「いいえ……違います」

加奈「わ、わたし達でもないです!」

真奈美「となると――」

巴「遅いのぅ……!」

――ガバッ

法子「きゃっ!」

巴「それぐらいの力で押さえ込んだ思うとったか! なんのこれしき……!」

真奈美「増援か、ひとまず盾は半壊しているが……ただの銃撃なら凌げる」

ほたる「ですがこの攻撃量では……」

真奈美「また彼女任せにしてしまうな……」

――タッタッタッ

巴「どんなに無様だろうが構わん、逃げる。 捕まったら終わりじゃ……!」

法子「っ、逃がさない!!」

――ダンッ!!

法子「先回り……!」

巴「お、っと! 相変わらず動きが洒落にならんのう……!」

法子「抑える!」

――ガシッ!

法子「掴みました! これで――」

巴「捕まえた、つもりかァッ!」

――ドガッッ!!

法子「ッーー!!?」

加奈「あ、頭っ、痛いっ……!」

巴「手も足も出なくとも、首一つあれば十分じゃ……!」

法子「っ、はぁ……!」

――グッ

巴「お――」

法子「だあッ!!」

――ズンッッ!

巴「あぐっ!?」

加奈「わあっ?!」

ほたる「……よく見えませんが、何が起きていますか?」

真奈美「見掛けによらないな……」

加奈「あいたたたたぁ……」

――ガクッ

法子「お返しです……!」

巴「お……ワレぇ……ひょろい体で……やるやない、けぇ……げほっ!!」

巴(応援まで寄越して、この終わり方は情けないのぅ……!)

法子「これで決着……え?」

――ズルッ

法子「わっ……?! え? 何……?」

――ポゥ……

巴「!?」

法子(何か出てきた……浮かんでる? もしかして、これも攻撃?!)

巴「ほぉ……」

法子「え? ま、まだ起きて――」

巴「噂は本当、うちも半信半疑じゃったが……」

――ガシッ!

法子「っ! 掴んだ……?! その光、掴めるの?」

巴「まさか己の身体で……確かめる事になるとはのぅ……!」

――シュイン

法子「……消えた?」

巴「うちにも何かあった、っちゅうわけじゃ……さて、何があったのか分からんまま……戻ってきたけぇ」

法子「今の変な、丸いのは……!? あなたの体から出てきて、そしてまだ戻って……!」

――ギリィッ!!

法子「ぁ痛っぅ!!」

巴「腕を離さんかい……!」

――バッ

巴「このまま戦っても……ワレの力の仕組みが分からん、うちが不利じゃけん」

法子「まだ動ける……?! でも、何回でも逃がさな――」

――ガクッ

法子「!?」

巴「ほう、一応攻撃は……通ってたみたいじゃの、お互い満身創痍っちゅうわけじゃ」

法子(足がっ……さっきまで動けてたのに……急にっ……!)

巴「うちと“分け”た褒美じゃ、一つ教えたる」

巴「さっきうちの身体から出て、消えたもの……アレは“種”じゃ」

法子「…………?」

巴「この世界は不思議なんじゃ、過去を探すと……何故か何も資料が見つからん」

巴「つまり、過去の歴史が消えとる……となると、どう考える?」

法子「何の事? 何の話!?」

巴「“過去に何かあった”と考えるのが普通じゃろ……?」

巴「そうして見つかった一つが……この“種”じゃ。まさかうちも持ってたとは予想外じゃけぇ、驚いとるが」

――タタッ

巴「これからは……これが“強さ”の指標になる、間違いない」

法子「これが、強さ? ……ど、どういう事?」

巴「ここまでうちが説明してやっとる、後は勝手に調べるのが筋じゃ」

ほたる「どうなったんですか?!」

真奈美「分からない……またしても拘束が外れて、逃げたかと思いきや二人が会話しているのだが……」

加奈「どうして会話を?」

真奈美「……意味を確かめたいが、ここから動けないのも事実だ」

――バッ

巴「なかなか面白かった、次はきっちり落とし前付けたる、ノリコ」

巴「うちに責任を押し付けてきた奴にケジメつけてからな」

加奈「!」

法子「待って! まだ全部聞いてない……!」

――スッ

法子「……っ、逃げた……!」

法子(種? 強さ? 過去? ……本当に、何の事?)

――ザッ

真奈美「大将が引くと、周りも消えたな」

法子「み、みなさん……」

加奈「もう一歩だったのに……応援の保険が打ってあったなんて……」

ほたる「いえ……本来は攻撃の為の潜伏だったはずです」

真奈美「守備と撤退に使うしかなくなった、そこまで追い込まれたんだ」

真奈美(ノリコがこうならなければ、我々も危なかったか)

法子「……っ」

――フラッ

ほたる「大丈夫ですか?! やっぱり傷が……」

真奈美「いや、出血は……不思議なことに、やはり無い。単純に疲弊だ、何故それだけで済んでいるかは不明だが」

加奈「大丈夫かな……」

ほたる「……トモエは撤退、で構わないのでしょうか」

真奈美「ああ、恐らくは」

ほたる「では急いで次の目標に――」

真奈美「いや、少し落ち着くんだ」

ほたる「何故ですか?」

真奈美「さて……そろそろ」

――Prrr……

真奈美「噂をすれば、か」

ほたる「…………」

加奈「?」

真奈美「今からこの通信に出るが……カナ」

加奈「はい?」

真奈美「通信相手は、トモだ」

加奈「え、っ?!」

真奈美「という事は……こちらの目的は達成された事になる」

加奈(トモ……って確か、トキコさんが連れてきた……その人から通信?! じゃあ――)

ほたる「何故わざわざ……伝えなければいいものの」

真奈美「敵対関係だが、トモエの件で少し世話になった事と多少こちらの誤解があった事は認める」

――Prrr……

加奈「あっ……」

真奈美「ほら、君の方にも通信だ。恐らく、トキコじゃないか?」

加奈「……そう、です」

真奈美「私も通信に出るが……早く去った方がいい」

ほたる「……見逃すのですか」

真奈美「いいや、違う。ここには最初から二人が争う理由は無いんだ」

加奈(きっとトキコさんからの連絡は、トモを奪還されたから撤退、逃げてこいって内容のはず……)

加奈(それに、わたしがここに来たそもそもの理由は……村の防衛、その相手がアンズだと思ってた)

真奈美「しかし本当の敵は、今しがた撤退したトモエだ。なら、もう争いはここにない」

真奈美「……いや、君が残れば……分からなくなる」

加奈「うっ! て、撤退します……! これ以上、火種を持ち込むのは……失礼します!」

――タタッ

ほたる「…………」

真奈美「素直な子は好感を持てるな」

ほたる「勿体ない事を……」

真奈美「そうかな?」

――ピッ

真奈美「こちらマナミだ」

杏『アンズだよ』

ほたる「……! トモ……じゃないのですか?」

真奈美「違ったようだな、ははは」

杏『?』

ほたる(わざとらしい……カナを遠ざけるために嘘を言った?)

杏『とりあえず……トモの救出は終わった、アカネから連絡があったよ』

ほたる(そしてこちらの企みは……遅かった、みたいですね)

真奈美「それはよかった、なら私も帰ろう、ホタルとは……まさか戦闘を行わないだろう?」

杏『当たり前だよ、でも……トキコとは続ける』

ほたる「……妥当ですね」

杏『協力は申し出ないよ?』

ほたる「それも順当ですね……人助け、私達が手を貸す理由が無くなってしまったんですから」

真奈美「トモが救出されたなら、その通りだな」

杏『話が終わってすぐだけど……確かそこに、トキコの仲間が居ると聞いてる』

ほたる「!」

杏『……確保出来る?』

真奈美「それはもしやカナの事かな」

杏『カナが居るの? じゃあなおさら確保してほしい、たぶん一番手なずけるのが簡単っぽいでしょ』

真奈美「残念だが、既にここを離れている」

杏『どれくらい前?』

真奈美「つい先程だが……相手の通信機が鳴っていたよ」

杏『げ……じゃあ本隊と合流してるっぽいじゃん、てことは確保は無理じゃん』

ほたる(さっき……マナミが指示を出して、離していなければここで戦闘開始でしたか)

杏『そっか……惜しいなぁ』

ほたる「…………」

真奈美「そういう事だ、次はどうする?」

杏『どうするって、うーん……』

真奈美「特に用事がないなら、そちらの監視役を彼女に外してもらうのが先決だと思うが」

ほたる「いいでしょう、もう滞在させる必要もなさそうです……ヒトミを回収します」

杏『じゃあ……一回、戻ってもらおっか』



・・

・・・


加奈「……という事があって」

時子『貸しを作ったのかしら』

加奈「……そうなるかもしれません」

時子『まぁ……いいわ、マナミ一人になら貸しておきなさい、あなたが帰って来れる方が大きい』

時子『それよりも……さっきの報告を詳しく話しなさい』

加奈「さっき?」

時子『あなたが見た、トモエを逃がす直前の……そいつが言ってた事よ、こっそり聞いたんでしょ?』

加奈「え? は、はい……でも、種とか過去とか力とか……わけのわからない内容でしたよ」

時子『わけのわからない内容かどうかは私が決めるのよ』

加奈「……分かりました、じゃあ……お話します」

加奈「でも…………」

時子『?』

加奈(……去り際の一言、トモエはノリコをけし掛けた相手が誰か、知っていた?)

時子『でも、何よ』

加奈「すいません、なんでもないですっ!」

時子『ならいいわ、それで?』

加奈「はい、えーっと……まずさっきお話した力とか種とか、そんな内容の――」


慌ただしくなってきたな

ある日、一人の人物が世界に舞い降りた



その人物は、世界に対して警告を発した

 君達は、超えてはならない一線を越えようとしている、と



その人物は、世界に対して方法を示した

 この力を抑えなければ、君達に未来は無い



その人物は、世界に対して温情を見せた

 その功績を評して、一度は見逃そう



その人物は、世界に対して一線を引いた

 抑えた力が、この水準を超えた時に、再び会おう

紗枝「ほんま……長かったどす」

――ジャラッ

紗枝「たった数個、これだけの為に……うちはどれだけ、苦労したやろか」

七海「そうれすねー……」

紗枝「後は、もう一回“これ”を活性状態にしたらええんやろか?」

七海「そのようれすね~、その辺りはユウさんのが詳しそうれす~」

紗枝「せやなぁ、ま、用事がある言うてましたから……うちらだけで」

――キィィ……

七海「わぁ……」

紗枝「発芽を鑑賞することにしましょか……」

紗枝「思えば、この決意をしたのは……『技術過剰』言う話が出来た時どすなぁ」

七海「…………」

紗枝「あの時は、今よりもっと……騒がしかったなぁ」

七海「ナナミたちが皆と居た頃、れすか?」

紗枝「それも含めてどす」

七海「あまり時間は経っていないはずなんれすけどね~」

紗枝「お花がようさん咲いとった時から考えると……なぁ」

七海「変わりましたね~」

紗枝「えらい変わってしもたんは、あの一件を境に……うちらも、他も」

七海「増えたのは、全部れすよね~?」

紗枝「今は……うちが確認してる、この手元の数個……あとは、数が足りんと眠ってる種ばかり」

紗枝「それもこれも……」



――君の異能は取るに足らないよ

紗枝「……ほんま、堪忍やわぁ」

七海「おかげで、ナナミは今も元気れす~」

紗枝「ナナミはん……うちはそう思いません」

紗枝「あの時に一緒に倒された方がよかった、とは言いませんけど……」

七海「だったら、今がいい方向に進んでいると思いましょう~」

紗枝「うちはそない前向きに捉えられませんわぁ」

――チャリン

紗枝「今の世の中は“あの方”を恐れすぎ……」

紗枝「ようさんあった力は全部消されてもうて、残ってる過去の遺物言うたら……」

七海「例のあれだけれすね~」

紗枝「そう、たった……そして、誰でも使えた小さな異能、魔法だけ」

七海「その魔法も、協会なんて制度で規制が厳しいれす~」



――この世界が再び過ちを犯さないように、基準を定めた

紗枝(よう分からん理屈で……うちらを丸ごと抑え込んだ、誰とも分からん人に……)

紗枝「皆さん、素直に従うてるらしいなぁ……必死に隠して、気づかせないようにして……」

七海「…………」

紗枝「でも、うちは限界どす」



――行き過ぎた技術が蔓延った時、もう一度訪れよう



紗枝「隣の世界とか、世界の危機だとか……そないなものは知りまへん」

紗枝「ただ、うちらの道を踏みにじってくれたお礼はせなあきまへんわ」

紗枝「その為に……!」

――キンッ

七海「お~……」

紗枝「この光……間違ってはいないみたいやわ」

――シュイン……

紗枝「……ふう」



――…………!



七海「お~」

紗枝「あぁ……懐かしいわぁ……」

七海「サエさん……どうれすか?」

紗枝「もちろん、夢が叶ったようですわぁ……」

七海「思っていたより、あっさりと元に戻りましたね~」

紗枝「ここにたどり着くまでに長かった、だから最後くらいあっさり終わらせてしもても構いませんやろ?」

紗枝(取るに足らない……小さな力、言い張りましたなぁ)

紗枝(その小さな力が、もう一回……この世界を傾かせたらあのお方、どないな顔しはりますやろ?)

――ガサッ

七海「……おや~」

紗枝「あら……?」

加蓮「……今の、何?」

紗枝「おやまぁ、カレンはん……どういたしました?」

加蓮「面白そうな事をしてるから……見に来たんだよ」

紗枝「……? ああ、すっかり忘れとりましたわぁ」

加蓮「私が聞くとまずい話?」

七海「いいえ~、どうぞ~」

紗枝「カレンはん、この種の事をご存じないんでしたなぁ」

加蓮「種……見た目通りだね。 さっきの話、本当?」

紗枝「さっきの話?」

加蓮「昔の話とか……今まさに、サエがやった事」

紗枝「お人の悪い事ですなぁ、最初から聞いてはりましたん?」

加蓮「聞いてたし、見てたよ。……“それ”、どうなってるの?」

七海「どうなってるというよりは、元に戻ったといいますか~」

加蓮「……ますます分からないけど」

紗枝「これは……『異能の種子』いいます、別の言い方しますと……十大秘宝、に入ります」

加蓮「え? これが……?」

加蓮「どうしてそんなものがここに……どこから盗って来たの?」

七海「最初からありましたよ~」

加蓮「最初から? ……じゃあ、なんで今更――」

紗枝「何事も準備が必要やなぁ……それが、ユカリはんのおかげでようやっと終わりました」

加蓮「ふーん……で? そんな秘宝に数えられるくらいの特別なモノで――」

紗枝「これは何も特別なものやありまへん」

加蓮「……?」

紗枝「うちでもナナミはんでも……もしかすると、カレンはんも持ってはるかも?」

加蓮「どういう事?」

七海「カレンさんも、種を持っているかもしれないということれす~」



加蓮「私が持ってる? 今、サエみたいな事は出来る気がしないんだけど」

紗枝「それは……種だけしか持っていないからどす」

加蓮「それだけじゃダメなの?」

七海「これは、元々皆が持っている力なんれすよ~」

紗枝「皆さんの心の中に、異能の種子の花が咲けば……あるいは」

加蓮「……話がさっぱり見えないよ、ちゃんと説明して?」

紗枝「この種……お花は、皆さんそれぞれに違う“異能”の力を咲かせます」

七海「少し前まで皆は魔法どころじゃない、不思議な力を扱えたんれすよ~?」

加蓮「私が、サエみたいに何か変わった事が出来るか、出来ないかで言って」

紗枝「出来ます」

加蓮「方法は? この……持っている“らしい”種を咲かせる方法」

紗枝「調べな分かりまへんなぁ」

加蓮「調べる? どうやって?」

紗枝「この花、咲く条件が少し複雑です。数多くの種子が集まって、一つの花を咲かせるんどす」

紗枝「それぞれが持っている種の数が……それなりに集まったら咲くゆう事です」

加蓮「……それが、調べなきゃ分からないと」

七海「ユウさんにお話を通して……あれれ~、そういえば今はいらっしゃらないんでしたね~」

加蓮「ユウ……そう、じゃあ調べられないね」

加蓮(集めればいいだけ……?)

加蓮「一度咲かせたら、もう大丈夫なの? 種が多すぎるとマイナスになるとか……」

紗枝「いえいえ、咲いた力は種を失わない限り消えまへん。種が多く集まるのは、むしろ強力になるとも言われてますわぁ」

加蓮「……デメリット、無いの? そんなのいくらでも……種さえあれば花は咲くんじゃない?」

紗枝「でも……ある事件を境に、花は枯れた」

加蓮「枯れた? ……やっぱり無くなるんだ」

七海「いいえ~、特殊な事が起きて枯れたわけではなく……種が減ったから結果的に枯れたんれす~」

紗枝「ある人物が……これまた、とある人物の指示に従って……皆の種子を奪っていった」

紗枝「当然、花は枯れ……いつしか人々は自らの異能を忘れ去った……」



加蓮「種は、減ることもあるんだ」

紗枝「基本的には減りません、その時に用いられた方法が例外だったんどす」

加蓮「どんな?」

七海「色々れす~」

加蓮「色々って……」

紗枝「まあまあ、奪われて無くなるなんて事態は基本的に起きませんので、心配する必要ありまへん~」

加蓮「……だったら何で? リスクもない、こんな凄い力なのに……どうして広まってないの?」

加蓮「それに、誰が誰の指示で、どうやって回収なんてしたの? 一部じゃなくて、みんなが持ってた力なんでしょ?」

加蓮「あと……なんでサエ達は現に種を持ってるの? なんで回収されて無いの?」

紗枝「そこです!」

加蓮「わっ……な、何?」

紗枝「えらい力を持ってるモノにも関わらず、世間がなんも言わへん理由も」

紗枝「誰が誰の指示で回収した理由も、方法も重要……せやけど」

紗枝「何よりも、うちらがこの種子を確保できている事が重要なんどす」

七海「れす~」

加蓮「……そ、そうなの?」

紗枝「うちらは……回収される前に、この種子を保管して隠したんどす」

加蓮「隠した……それが、さっき手に持っていた、種?」

紗枝「種子を体外に取り出し、枯れさせずに保護する……さすがに回収人も想定外だったんでしょうなぁ」

加蓮「可能なの……?」

紗枝「ナナミはんが、その技術を作りました」

七海「はいれす~」



加蓮「まさか、取り出すって――」

七海「体に埋まっているものは、直接取り除けば一番効率がいいれす~」

加蓮「…………」

紗枝「そして、取り出した種子を……発見されないように弱め、抑え込む技術……不活性化どす」

七海「取り出しても、活発に動いていたら察知されちゃいますからね~」

紗枝「ユウはん、えらい苦労もありましたが……うちの為に、完成させました」

加蓮「なんだか……凄い経緯を辿ってるんだね、皆は。そんな技術人が集まってて、狙われなかったの?」

紗枝「用心棒は、ユカリはんどす」

加蓮「……彼女が?」

紗枝「今の時代で使われてる魔法、うちらからすると物足りひんのですわ」

七海「少し前に比べたら、れすね~」

紗枝「魔術教会ゆうけったいな組織が出来て、規制された言いましたやろ?」

加蓮「……聞いてた前提で話をしないでよ」

紗枝「まぁまぁ、そういう事どす。色んな事があって、魔法が管理されて」

七海「新しく弱いものが作られるって、不思議れすね~」

紗枝「今では規制された……たとえば大部隊が攻めてきても一瞬で蹴散らせるほどの強力な魔術」

加蓮「そんなものが……?」

紗枝「それをずーっと……その身で覚えているのがユカリはんどす」

加蓮「……皆、役割があったんだ」

七海「そうれすよ~? もしかして、ナナミ達をちょっとヘンな人くらいにしか思ってませんれした~?」

加蓮(ちょっとだけ……)

加蓮「じゃあ……ユミも?」

紗枝「ユミはんは……種子を隠す役」

加蓮「隠す? もう見つからないように加工したって言ってなかった?」

紗枝「いくら不活性化しても、外に置いてたらバレバレですわぁ」

七海「何も覆うものがないれすからね~」

加蓮「……てことは、まさか」

紗枝「ええ……彼女は、体内で種を飼いました」

七海「…………」

加蓮「どうやったかは……“逆”だね?」

七海「ご想像にお任せします~」

紗枝「……今でも、えらい申し訳ない事をした思うてます」

紗枝「あないな力を持った物質を、何の反動も無しに取り込める訳あらへんかったんどす」

加蓮「そう、だね。見てたら、よく分かるよ」

紗枝「でもおかげで……こうして今の今、うちの手元に種を残す事が出来ました」

加蓮「そんな苦労をしてまで」

紗枝「ええ、色々壁はありました」

加蓮「誰から隠していたの?」

紗枝「…………」

加蓮「よっぽどの相手、じゃないと……こんな力を持ってるなら、普通立ち向かうよね」

加蓮「それが出来ない相手となると――」

紗枝「相手、それは……種子の回収役に命じられた、当時最強と言われた五人」

七海「今は五人れすね~」

加蓮「五……ねぇ、それってもしかして」

紗枝「その五人は元々……ま、うちの事なんて知りもしませんやろなぁ」

紗枝「でもうちはよう知っとります……この前、ようやくそのうちの二人と巡り合えました」

加蓮「じゃあやっぱり……」

紗枝「現在、その『技術過剰』を乗り越えた功績として……英雄呼ばれてはる、五人どす」



・・

・・・


愛梨「先程の気配……それは、異端の力の覚醒です」

未央「覚醒? 目覚め?」

凛「力……アイリみたいな、強い魔力とか?」

卯月「でも、魔力の気配とは全然違った変な感じでした……」

愛梨「分かりやすく、異能と呼びましょう」

凛「異能……」

未央「なんだか、それだけでも凄い力なんだなって感じがする文字だね」

愛梨「例えが難しいほどに多様で複雑な力、それが一斉に……なぜか、目覚めた」

未央「原因は分からないの?」

凛「あんなにハッキリと“何かが起きた”のは分かっても、原因は不明……不気味だね」

愛梨「いえ……原因は恐らく……」

凛「分かってるの?」

愛梨「その理由は……十大秘宝のうちの一つ『異能の種子』が原因のはず」

卯月「種子……?」

未央「聞いた事は?」

凛「……無い」

愛梨「知らないのも無理はありません。厳重に、伏せられた品ですから」

卯月「秘宝に数えられているのに、隠されてるんですか?」

愛梨「それは……かつて、カイやユウコ達と共に……葬り去ったはずのものですから」

卯月「葬り去った……?!」

未央「捨てちゃったの?」

凛「……ワケありっぽいね」

愛梨「種子が原因、とは思っているのですが……今になって、再び現れた原因の方は不明です」

凛「……その種子? を、葬り去った理由は?」

愛梨「それをお話するには、少し別の経緯を話す必要があります」

愛梨「そもそも……私達が英雄と呼ばれる理由、それは世界の危機を救ったから」

卯月「は、はい。アイリさんは、そのお話をよく聞きます……」

愛梨「ですが実は、強大な悪を倒したわけでも……世界を統治したわけでもないんです」

未央「え?」

凛「……確かに。私達は、実力の高さや知名度で英雄って称号を認識してるけど」

卯月「具体的な……功績?」

愛梨「たった一つ、私や皆が成し遂げた功績は一つ……」

愛梨「ある人物の命令をこなすことが出来ただけの集団です」

卯月「命令……?」

凛「もしかして、それが――」

愛梨「はい。世界中に散らばる……異能の種子を、破壊する命令です」

卯月「どうして、その十大秘宝の中で異能の種子だけが壊される事になったんですか?」

凛「悪いモノには聞こえないけど……力の源でしょ?」

未央「あ、もしかしてそれを巡って戦争が起きた、とか……」

卯月「まさか……奪い合い、ですか?」

愛梨「奪い合う、確かに尤もらしい理由ですが……これは本来、奪わなくとも全ての人が持っていたものです」

卯月「あ、そっか……さっきそう説明してましたね」

凛「だとするとやっぱり妙だね、どうして種子だけが回収破壊されなくちゃならなくなったのか――」

愛梨「いいえ、違います。秘宝の中で種子だけが壊されたのではなく……」

愛梨「十大秘宝以外の全てが壊されたんです」



未央「ひ、秘宝以外の……」

卯月「全部……?」

愛梨「かつてどこにでもあった秘宝レベルの技術。人類は、明らかに今以上の力を知識があったんです」

未央「だったら何で――」

愛梨「……発展しすぎた力が、この世界の仕組みに触れてしまった。 それが『技術過剰』です」

凛「さっきも聞いた言葉……その、技術……過剰? それって、何?」

愛梨「『技術過剰』とは“技術水準のレベル”が過剰に発展する事です」

卯月「それが、どうして駄目なんですか?」

未央「発展するならいいじゃん!」

愛梨「私もそう思います……ですが……」

愛梨「その過剰な発展に対して、この世界に訪れた一人の人物が……それを、許さなかったんです」

卯月「この世界に……訪れた?」

未央「な、何? その言い方だと、まるで別世界から来た人みたいじゃん!」

愛梨「…………はい、その通りです」

凛「言葉通りなの?」

未央「おやおやおや……なんだかお決まりの文句が出てきたねぇ……まさか大魔王とか言い出したりしない?」

愛梨「その方が、幾らか……私達にとっては楽だったでしょう。退治すれば、済む話ですから」

凛「でも、退治できなかった」

愛梨「はい……退けられないほどの明確な実力差があったわけではない、と思っています」

愛梨「でも、倒し切れなかった」

未央「アイリさんでも……?」

愛梨「…………」

愛梨「複雑な話でしたが、要約すると……その人物の目的は危険因子を排除する、との事です」

愛梨「発展しすぎた世界が、何かを起こす可能性を考えて……排除する。そう言っていました」

凛「その世界って単位の話……信じたの?」

愛梨「……信じてはいませんが、否定も出来なかったんです」

愛梨「それに、私が信じても信じていなくても、この世界の人達は信じたんです」

卯月「でも私達は――」

愛梨「知らない。……はい、これも理由がありますが……先に、このお話を終わらせます」

愛梨「私達はその人物に、懸命に抗いましたが……結果は……」

凛「駄目だった……と」

未央「世界滅びちゃった?!」

愛梨「いえ、なんとか交渉の場を作り……これ以上被害を出さない方法を問いました」

未央「え? き、聞いたの?! 直接?!」

愛梨「当時、藁にもすがる思いで導かれた結論が、本人に不満点を提示してもらう事でした」

未央「ま、またまた思い切ったというかぶっ飛んでるというか、盲点というか……」

卯月「それが……種子を破壊する事?」

愛梨「既にその人物により、高度で優れた文明と技術は全て葬られていました」

愛梨「残る過剰な技術の大部分は、各々が持つ異能の力……その源を絶て、そうすれば見逃す、と」

凛「発展した文明に敵意を持ってたんだ。それで……潰した」

未央「次の矛先は、みんなの力だったわけだ!」

卯月「ですけど……皆の力を封じる方法なんて、すぐに見つかるわけ――」

愛梨「その手段も分からない私達に、行使が許された方法が……十大秘宝でした」

卯月「え?」

愛梨「十大秘宝とは、その中の一つである異能の種子を抑えるために保存を許された異能です」

凛「…………」

未央「そ、それは……つまり?」

愛梨「既に潰された文明からではなく、その人物が用意した九つの道具……」

愛梨「この道具だけは、その人物の言う『技術過剰』の敵にはならないようです」

卯月「それを使って、種子を……処分した」

梨「こうして、この世界は大きな傷跡を残しながらも……生き永らえました」

愛梨「同時に、この出来事は隠蔽された」

凛「……私達が知らないわけだね」

愛梨「残された文明よりも遥かに優れた異能を求められないように、再び技術の過剰が起きないように」

愛梨「しかし、かつての力を完全に捨てる事は出来なかった……あの異能の力に、欲があった」

未央「あれれ?」

愛梨「そうして完成したのが、当時よりも数段能力は低いものの、異能である“魔法”です」

卯月「魔法……」

未央「時代の生き残りなんだね」

愛梨「その魔法ですら、過度な技術を持たないよう常に監視……それが、魔術協会」

未央「……な、なんだか……私達が聞いていい話だったの?」

凛「この世界が……もっと優れていた?」

卯月「す、すいません……頭の整理が……」

愛梨「要するに、これだけは」

愛梨「この世界は、意図的に技術をセーブしている」

卯月「そんな事が……」

凛「微塵も考えたことは無かったね」

未央「世界は本気を出してない!」

愛梨「しかし誰かが過去の遺物を持ち出し、その制御圏を抜け出そうとした――」

卯月「ちょっと待ってください! じゃあ、さっき感じたのは……」

凛「異能の種子……なら……」

未央「もしかして、超ヤバい事になってるんじゃ……?」

愛梨「誰かが禁忌に触れて……それも想像し得る最大に危険な方法で……解き放った!」

未央「ひえぇ……ちょっとちょっと、これってまさか」

愛梨「そう、全て処分したはずの……異能の種子が、どこかで再び――」



・・

・・・


??「おかしい」

――…………

??「あれほど警告して、どうなるかも伝えたはずだ」

??「実際、その危険性をよく認識した数人が……驚くほどの貢献を持って、回避したはず」

??「では何故、また……この世界は、異能に溢れているんだ?」

??「それも、一瞬で危険水域突入。これは……誰かが、何かを起こそうとしている前兆」

??「……止めに入らなければならない」

??「『技術過剰』を起こした世界が……他に干渉してしまう前に」

――ザッ

??「さて……お仕事だ」

??「次は、少し長く滞在することになるだろう、原因を探る必要もある」

??「……しかし、好き勝手暴れるわけにもいかない」

??「こちらが過剰を促進しては元も子もない、だから……向こうに合わせる必要があるね」

??「見た目は……問題ないか。力は……なるべく加減して、既に使われている技術だけで戦うようにしよう」

??「さて最後に……この世界で名乗る名を持たなくちゃならない」

??「……正直、別の名前を考えるのも面倒だ、同じ名前を名乗ろうと思っている」

??「ただ一つだけ、この世界には他の世界と異なる法則がある」

??「それは、表記の順番と使用する文字だ」

??「だから……ボクの名前も、少し変える必要がある」

??「よし、この世界で名乗る名前は……こう、『アスカ=ニノミヤ』だ」

飛鳥「久しいね、この世界も……いや、久しぶりなんて言葉を使うとは思っていなかったよ」

――…………

おつ



・・

・・・


朋「ごめん、待たせた?」

茜「お待たせしました! こちらも連絡は一通り済ませましたよ!!」

卯月「あ、うん……終わったんだね?」

朋「?」

凛(二人がそれぞれ連絡している間に、こっちは色々と理解が追い付かない話があったからね)

未央(アイリさんが言うには、これから……)

朋「それで、これからの行き先って、決まってる?」

卯月「行き先、ですか?」

卯月(決まってる……といえば、決まってる、けど……)

朋「今からお礼をしに、協会の方に戻りたいんだけど……なんだか、本部が慌ただしくて」

未央「本部?」

卯月「もしかして連絡をしていたのは……」

朋「ややこしそうな状況だけど、本当にお礼は言いたいんだよ。……重ねて申し訳ないけど、待たせちゃうかも」



愛梨(ウヅキさん)

卯月(え?)

愛梨(ちょうどいいお誘いです。……どのみち、訪れる事になるので、今行きましょう)

卯月(そう、なんですか? じゃあ――)



卯月「……大丈夫です、行きます!」

朋「いいの? じゃあ、一緒に本部に移動しよう。アンズに話は通してるから、そっちのお礼は結構だよ」



・・

・・・


――……シュンッ

朋「よいしょっと! 到着!」

卯月「わっ……早い」

凛「便利だね、やっぱり移動式がここまで扱えると」

朋「といっても、決まった場所に移動するときだけ使えるんだけどね、あはは……さて」

未央「長い移動って、ぐるんぐるんして……ちょっと、変な感覚」

朋「大丈夫だった? って、それなりにあたしも練習してるから、酔ったとかはないはずだけど」

未央「酔うの? 移動酔いとかあるの?」

朋「というより、移動の衝撃で真っ黒焦げとか」

未央「思ってたよりとんでもない!」

卯月「今の時代にそんな失敗はありませんよ!」

朋「あはは、そりゃね。それじゃあ、呼んでくるからちょっと待ってて――」

??「トモさん!」

茜「あれ?」

卯月「誰……あっ!」

朋「お、っと……呼ぶまでもなかったかな?」

??「戻ってきてすぐのところ悪いんですが……あれ?」

卯月「あ、あっ!」

未央「しまむー、知ってるの?!」

茜「どちら様ですか!」

??「こちらの方々は……新しいお仲間さんでねぇか?」

朋「あー、仲間……だけど、同じ所属じゃなくて」

凛「協力者、かな」

??「こりゃ失礼しましだ。わだす、早とちりしだ」

未央「……えーっと、ところでどちら様で?」

卯月「この人は!」

――バッ

未央「うわ、っととと……」

卯月「この人はっ……魔術協会の、会長さんです!」



未央「か、会長!?」

凛「じゃあ……一番、偉い人って訳なんだ」

??「あはは……そう見えないなんて、よく言われるんでず」

未央「ち、違うよ! そんなつもりで言ったわけじゃ――」

卯月「ごめんなさい!」

??「ど、どうも……わだす、サオリ=オクヤマと申します……ご存知かとは思いますが、代表させてもらっでます」

凛「……よろしく」

卯月「あ、あわわ……」

沙織「ん……そ、そげな緊張されても困るけんど」

未央「そうは言われても……あはは……」

朋「まぁ、気楽にね? で、えーっと」

沙織「そんでトモさん、さっきの話だけんど――」

――シュンッ

沙織「んわっ?!」

愛梨「『智の器』……」

朋「んっ?!」

茜「あれっ!?」

愛梨「…………」

沙織「あ……」

卯月「アイリさ……え? 出てきて、大丈夫なんですか!?」

茜「また出てきました!? えっと、お久しぶりです! ……?」

愛梨「構いません、私の事は……聞いているはずですから」

未央「聞いている?」



沙織「あなたが……アイリさんです?」

愛梨「はい」

未央「あれ? 何も驚かずに淡々と話が……」

愛梨「それも当然です。……面識は、ありますから」

凛(初対面ではないだろうとは思ってたけど……)

沙織「か、幹部の方じゃねぇんでお声をかけでませんでしたけど……来てくださったんですか? それともトモさんが――」

朋「え? 私……は、確かに誘ったけど、えっと……」

卯月「あ、あの! 私がお願いしました!」

凛「来たい、って。……名前は、ウヅキと、ミオと……私が、リン」

愛梨「そういえば、紹介が遅れていましたが……今の通りです」

沙織「そうでしたが……ウヅキさん、リンさん、ミオさんと、間違いないねえですね」

沙織「それで――」

愛梨「……呼ばれなくとも、訪れざるを得ない案件ですから」

凛「ねぇ。……何の事?」

未央「そうそう! 私達、もともと……なんの予定だっけ?」

朋「そう! あの時のお礼を――」

沙織「トモさん、そのお話もあるのですけんど……今は、こっちでず」

朋「こっち……通信で、会議があるって言ってたね。そんなに優先するほど深刻?」

愛梨「深刻も深刻……」

――ザッ

愛梨「サオリさん、皆にお話は?」

沙織「は、はい、ついさっきの連絡でお伝えしたけんど……」

朋「聞いた、確かに会議があるとは。でもまさかそんなに緊急だなんて――」

愛梨「私も、私達も、その会議の為に来ました」



凛「私……達?」

茜「えっ!? でも会議なんて私達が参加しても分かりませんよ!」

沙織「参加……ですか……」

愛梨「信頼できる人です。……特に、この三人は是非、今からの会議に共に参加したいのですが」

朋「今すぐ?」

沙織「問題なければこのままやるのが理想だけんど……」

愛梨「この三人……と、アカネさんも」

卯月「あの、アイリさん……私達、何も知らないまま重要そうな会議に参加して、いいんですか?」

凛「参加するとも決まってないけど……」

愛梨「内容は、追って説明します。ただ、参加は確実にします」

沙織「そ、それは……」

朋「幾らなんでもどうかなぁ……」

沙織「わ、わだすは……大丈夫と思いますけんど、他の皆がなんと言うか――」

??「あらあら……他の方の意見など、聞かなくてもよろしいのですよ」

未央「うん?」

??「サオリさん、あなたが代表ですもの」

凛「……!」

愛梨「お久しぶりです」

卯月「あの人は……!」

卯月「アイリさん、カイさん、ユウコさんと……キヨミさん、そして最後の……」

未央「え? まさか?」

??「初めまして、ですわ。あなた方がカイさんとヤスハさんの言ってた、ウヅキさんリンさんミオさん、ですね?」

凛「……初めまして」

愛梨「お元気そう、ですね」

??「こんな事態で無ければ、お茶でもどうですかと言うところですわ」

朋「思ったより、集まってるね……」

沙織「駆けつけてきてくれて、ほんと感謝しまず」

??「当然です。自己紹介が遅れました、私は協会の幹部……そして、アイリさんと共に呼ばれる事の多い――」

??「ユキノ=アイハラ……ですわ」

凛「やっぱり……じゃあ、あなたが」

雪乃「ふふ、最近は協会幹部と扱われる事が多かったので……英雄という肩書きは、忘れていましたわ」

愛梨「忘れてもらっては困るんですが……」

雪乃「冗談ですわ。 ……それで、その方々が?」

愛梨「はい、この三人が、です」

卯月「?」

雪乃「そうですか。……サオリさん」

沙織「は、はい!」

雪乃「この方々も、席についていただきましょう」

朋「ええっ?」

卯月「え!?」

沙織「そ、その方がいんならそうしますけども……」



未央(話、進んでるけど)

卯月(私達、置いてかれてるかも……)

朋「じゃあ……このまま始まっちゃうの?」

沙織「そうなります、トモさんもお忙しいとは思いますが……これも、幹部の仕事と思っで」

朋「うーん……来ちゃったからには仕方ない、かなぁ」

雪乃「他の幹部の方は?」

沙織「はい、他の三人も既に中に――」

卯月「ぜ、全員揃い踏みだって」

未央「なんか緊張してきちゃったけど……べ、別に私達が怒られるわけじゃないから――」

愛梨「怒られはしませんが……かなり、重要なお話が始まります」

凛「……だろうね。雰囲気が、そんな感じするよ」

凛(あの“気配”と、関係あるんだろうね)

愛梨「これからの為に、聞いておきましょう」

沙織「じゃあ、お部屋に案内しまず」

*魔術協会 内部*


――ガチャッ

卯月「お、お邪魔します」

凛「広い……のと」

未央「わっ……なんか、雰囲気が――」

――…………

未央(厳格?)

沙織「あの、じゃあまずは……既に知ってるかもしれないけんど……」

朋「わわわ、本当に全員居る、珍しいのなんの――」

卯月「あわっ、あわわわ……」

雪乃「そんなに緊張しなくてもいいんですよ」

??「そうですよ、それに――」

卯月「……あっ!」

泰葉「知らない人物ばかりでは、ないですよね。お久しぶりです」

凛「ヤスハ……さん」

泰葉「紹介は、私がします。その方が気が楽ですよね?」



泰葉「まず、こちらが――」

??「どうも♪ 看板娘の、セツナですぅ」

泰葉「看板……受付嬢の方が適切ではないでしょうか」

雪菜「そうとも言いますねぇ」

未央「ど、どうも……」

雪菜「これからここに用事があった時は、何度も会うことになると思いますから、覚えててねぇ」

凛(そういえば……全員の名前は聞いた事がある、どうしてと思ったけど)

凛(あの聖剣の試験でチヅルがヘレンと勝負した時に……)

泰葉「次に、あちらがサトミさんです」

里美「えーっとぉ、サトミですぅ。私、あんまり力にはなれないかもしれませんが~」

泰葉「サトミさんは、治癒に関する魔術のスペシャリスト……でしたね?」

里美「ほわぁ、そう呼ばれています~」

未央「なんだか、ふわっとしていらっしゃる……」

雪菜「普段は家族全員で取りかかってくれてるんだけど、今日はサトミちゃん一人ですねぇ」

雪乃「サトミさん、大丈夫ですか?」

里美「はい~、なんとか……ですぅ」

沙織「き、今日は本調子じゃないみたいですけんど……普段は頼りになるお方です」

泰葉「あと……」

凛「まだ居るの?」

未央「他には誰も居なさそうだけど……」

愛梨「来ていて欲しかった人は、居ませんね」

雪乃「呼んではいるのかしら?」

沙織「は、はいそれはもう! ですけんど……」

愛梨「けど?」

沙織「一人だけ、です」

雪乃「……だいたい、予想はしていましたが」

茜「一人だけということは、何人か他にもいるんですね?!」

朋「もしかして……あの、人達を?」

沙織「想像してる通りだと思いまず」

雪菜「でも、呼べないのもしょうがないかも、だって他は本当に自由気ままにフラフラする人だしぃ」

泰葉「本来なら私が把握しておくべきなのですが……」

雪菜「いやいや、ヤスハちゃんでも厳しいっていうか、把握しておく必要は別にないよぉ」

泰葉「しかし、一番会っているのは私のはず……この間も、本部に来ていましたから」

雪菜「だねぇ……えーっと、名前は……シ、じゃなくて、あっちで呼ばないと駄目なんだっけ?」

卯月「はぁと……ですか?」



沙織「ご存知ですか?」

卯月「も、もちろんです!」

凛「……旧、トップの三人も呼んだってこと?」

未央「そっか、そのしゅがーはーとって人は、以前の……」

沙織「私の前任の、それはもう偉大な方でず」

沙織「ですけんど……弟子だったヤスハさんでさえ、行方が分からずなんとも……」

未央「え? でも一人は呼べてるって――」

沙織「はいっ、その方ではなく……」

泰葉「協会代表という職を離れた現在、集落の長を務めている人物です」

泰葉「ご存知かとも思いますが、その方の名はシスター=クラリス」

卯月「クラリス……! あの、集落『タイクル』の、ですか?」

未央「しまむー知ってるの?」

卯月「元々は、とても荒れていたタイクル地方……でも、その人が皆を説得したり、野盗から守ったり……」

凛「救世主……かな」

雪菜「ここを去ってからでも皆に慕われてるって、凄いですよねぇ」

未央「あれ? じゃあ残りの一人は……」

凛「呼んでないって事だね」

未央「もしかして、ちょっとややこしい人だったり……」

卯月「み、ミオちゃん!」

沙織「……い、いや、あんの……慕われてない、というわけではないんですけんど」

泰葉「少し、仕方ないと言いますか」

沙織「なにぶん……はぁとさんよりも、行方がわかんねえもんで……」

愛梨「……そうなんですか?」

雪乃「ええ……生きてはいるそうですけど」

未央「生存確認だけ出来てるってよっぽどじゃん!」

愛梨「その確認は、どうやって?」

沙織「目撃情報だけは多く入って……」

愛梨「なら、どうして接触しないのですか」

雪乃「……どうも、こちらと接触を拒んでいるのはあちら側のようですわ」

凛「会ってくれないんだ」

雪乃「接近を察知されると……跡形もなく消えてしまう」

雪菜「お仕事のお話、嫌そうですからねぇ」



沙織「……とにかく、連絡できない方は置いといて、クラリスさんは少し時間がかかる言ってたけんど」

雪乃「緊急事態ですわ。ここにいる面子がすぐに集まっただけでも、良しとしましょう」

凛「始まるの? 話し合い」

愛梨「はい。ですがその前に……」

茜「前? 前に何かするんですか?」

沙織「えっと……既に幹部の皆さんにはお話してるけんど……実際に見てその度合いを確かめます」

未央「見て? 度合い?」

沙織「こっちです」

――ゴゴゴッ

卯月「これは……?」

愛梨「…………」

朋「う、わっ……!?」

雪菜「あー、これぇ……本当に?」

未央「なんだか大きな……コップにしては使いにくいよね」

凛「……杯?」

愛梨「分かってはいましたが…………」

雪乃「ええ……深刻、すぎますわ」

卯月「え? ……これの、何が深刻なんですか?」

凛「水が入った杯に見えるけど」

沙織「この杯は『智の器』と言いまず。なんでも、この世の中の“技術力”を表してるとかなんとか――」

凛「技術? ……そうか!」

未央「何か分かったの?」

凛「アイリが言った『技術過剰』……これが、その基準なんだ」

愛梨「その通りです。この……中に満ちた水が技術、そして……器が、私達の許された上限」

未央「え?! じ、じゃあ……もう溢れる寸前じゃん!」

沙織「その通りでず……! これも、わだすが一昨日に確認した時はなんごとも、半分以下で余裕はあったんでず!」

泰葉「ですがつい昨日」

里美「私が確認だったんですがー……御覧の通りになっちゃってましたねー」

愛梨「たった一日でこの有様……やはり――」

沙織「原因は分からないけんど……『異能の種子』が絡んでいる事は、間違いないかと……!」

卯月(そっか……会議なんて、何の事を話し合うのか分からなかったけど)

未央(ついさっきアイリさんが言ってた、あの種子についての話だったんだ!)

凛(……種子について、この世界について、当然だけど知っているのがアイリだけじゃない、って事だね)

愛梨「事の真相と事情を知っている、協会関係者だけで……早く解決しなければなりません」

卯月(その関係者に……私たちも入る……!)

里美「一つ、いいですか~?」



里美「原因の予想はついていて、確か種子はー……秘宝、ですか?」

雪乃「その通りですわ」

里美「その力で封印できる、だったはずですね~」

愛梨「秘宝とは、本来そのようなもの……この事実は、皆様には既にお話していますね」

卯月(私達にもさっき言ってくれた話だ)

雪菜「聞いてますよぉ、幹部の肩書きを貰ってしばらくした後に」

泰葉「……同じく、です」

未央(てことは、初対面の時にヤスハさんは私達の事を既に、違う目線で見てたのかも?)

里美「それは私もお聞きしましたが~……」

里美「肝心の……秘宝はどこにあるんですか~?」

里美「十大と名の付く以上、数は十……あ、種がひとつなので残りは九個、ですか~?」

里美「とにかく、それだけの種子を抑える為の道具があるはずです~……ここに、幾つ用意されてるんですか~?」

沙織「それは……」

愛梨「…………」

里美「もしかして、何も手掛かりがないんですか~?」

朋「いや、所有者の特定は急いでいるし、私も情報は探すから――」

里美「特定しても協力してくれるかは分かりませんし……そもそも、このお話は教えてもいいんですか~?」

沙織「それは……避けた方が、無難でねぇか……」

愛梨「ウヅキさん達のように所在が明確な方はともかく、見ず知らずの人に伝えるには……大きすぎる話です」

里美「だったら~、何もお話を進めるのは無理じゃないですか?」

沙織「だけんど、その方法をみんなで――」

卯月「……はいっ!」



未央「しまむー?!」

凛「ちょっ……」

卯月「私達がここに……よいしょっ!」

――ドサッ

卯月「これは本物の……『灰姫の経典』です!」

泰葉「……出してよかったのですか?」

雪菜「なぁんだ、持っているなら……話が進みますね?」

里美「本物、ですか~?」

雪乃「間違いないですわ、サトミさん。まぁ、本来の所有者が目の前にいる段階で……ね?」

里美「そうなんですか~? あなたが、本来の所有者?」

卯月「アイリさんが、です!」

里美「そうですか~、どうして隠そうとしていたのかは分かりませんが、秘宝が一つでも手元にあるならこのお話も無駄じゃないです~」

愛梨「……確かに私達は持っています。説明の順序が前後しましたが……膠着するよりマシでしたね」

卯月「勝手にすいません……でも、これでお話は進むんですよね!」

愛梨「しかし、これでウヅキさん達は所有者として本格的に……予定より早く、根幹に関わることになります」

卯月「構いません!」

凛「今更だよね。もともと、そのつもりだったし……」

未央「さっきの話で、こうなるって薄々思ってた! うん!」

愛梨「……分かりました」

愛梨「ご覧の通り、私が……彼女達に、経典を授けました」

朋「そういえばそうだったね……なるほど、だから連れてきたんだ」

愛梨「しかし、すぐに紹介しなかった理由は……隠していたわけではありません」

里美「何か理由があるんですか~?」

愛梨「ウヅキさん……秘宝には、お話した通り確かに種子を封ずる力があります」

卯月「はい! 私達が、封印? を、お手伝いします!」

愛梨「気持ちはありがたいですが、この経典は……直接、種子を破壊する事は出来ないんです」

卯月「……え?」

沙織「で、でも秘宝は種子を抑えるための道具っで――」

愛梨「経典は種子の発見、種子による大きな災害を未然に防ぐことに重点を置いた道具です」

泰葉「破壊の道具ではない、という事ですね」

里美「それじゃあ、結局駄目なんでしょうか~?」

愛梨「代わりに経典には、特に排除すべき種子の所持者を特定する力があります」

愛梨「そして……種子を無効化して留めておく能力も、あります」

未央「な、なーんだ……この経典にもそんな力があるんじゃん!」

愛梨「でも、破壊は出来ません。留めていた種子を一斉に奪われる可能性もあるなど……危険性は高いです」

里美「確かに、危険物を持ち歩くようなものですからねぇ~」

泰葉「つまり……教典単独で種子の回収は危険かつ、根本的な解決ではないんですね」

雪菜「教典で回収したものを、破壊する別の道具が必要だねぇ」



沙織「このままだと『智の器』が溢れるのは収まんねぇで……」

卯月「アイリさん! いったい、どうすれば水が溢れずに済むんですか……?」

愛梨「もちろん、種子の無力化……そして、破壊です」

里美「その為には?」

愛梨「秘宝……『破壊の水晶』、『必殺の匕首』そして……『栄光の聖剣』の準備です」

雪乃「残る八の道具のうち……三つが、私達の求める性能を持っていますわ」

愛梨「この三つを用意することと、三つが揃うまでに他の道具も活用して種子をなるべく回収しておくこと」

里美「……それで、その三つはすぐに集まるんですか~?」

卯月「大丈夫、ですよね?! だって、一つはサクラちゃん達が持ってますし――」

泰葉「サクラ?」

雪菜「ああ、そういえばぁ……聖剣は個人の所有になってたんですよねぇ、間が悪いと言いますかぁ」

卯月「でもサクラちゃんは、私達の友達なので頼めば……!」

泰葉「友達でも、私達にとって信頼できるかは……別です」

里美「色々と協力を要請するのは手間がかかるんですよぉ」

卯月「そんなぁ……」

愛梨「……回収は、密かに進める必要があります。この種子の存在が知れ渡れば、確実に抗争が起きる」

泰葉「そうなると……回収が困難になるのは目に見えてますね」

里美「じゃあ他の、口を封じてもよさそうな方が持っているものはありませんかぁ?」

凛「素直に渡してくれそうにはないけど……匕首、誰が持ってるかは分かってる」

愛梨「……トモエ、ですね」

雪菜「へぇ……あの?」

泰葉「なるほど……あの組織が、どうしてあれほど強力な力を持っているか、分かりましたが――」

里美「確保は困難ですよぉ、それに今更私達がトモエを確保に動くのも怪しまれます~」

朋「うん……もし、うちの大将が『協会が突然トモエを確保した』なんて聞いたら、絶対何か意図を調べるよ」

愛梨「これも、却下ですか……」

未央「三つ中、二つが判明してたらあとはなんとかなるんじゃ!?」

愛梨「……恐らくは、間に合いません」

未央「えー!?」

沙織「今言った二つを、こちらの意図さ伝えんと用意するのは難しんだ……」

雪菜「残る一つは、情報も無いとぉ……それで、時間がどれほど猶予あるかもわからないなら――」

愛梨「…………やはり、もう一つの手段に頼ることになりそうです」

卯月「もう一つ……?」

愛梨「……サオリさん」

沙織「はいっ……」

愛梨「例の、準備は?」

朋「準備?」

凛「まだ方法があるの?」

沙織「うーん……正直なところ、何から手を付けていいかわかんねがったですが」

沙織「あと少しの、わがんねぇ点を除けば……もしかしたら、もしかするかもしんねぇです」

愛梨「そうですか……」

雪菜「やっぱり、そっちの手段?」

茜「なんですか? まだ手段があるんですね!」



愛梨「トモさんや、他の方には説明がまだでしたね」

朋「私にも、説明がまだの方法?」

愛梨「相手側の言い分は『この世界が他の世界に影響を与える』ために、この世界を妨害する……そんな内容です」

凛「そんな話だったね」

愛梨「では、この世界が他の世界に影響を“与えないようにする”方法も、あるのではないか……そう考えました」

茜「分かりやすくお願いします!」

愛梨「つまり……結界です」

卯月「け、結界?」

未央「おぉ……すごい古典的な手段、本当に大丈夫なの?」

愛梨「とても単純で、愚直すぎる提案ですが……次に候補に挙がる方法が、これです」

泰葉「結界というのは多種多様で、とても豊富な“結界を通さないもの”の指定が可能」

愛梨「そして、限定的な指定であるほど強固な結界である……これが、結界の基本です」

泰葉「私の場合……人体や、そこから放出された魔力など、攻撃となり得るものを全体的に防御します」

卯月「ランコちゃんは、防御の種類を極端に限定したからあんなに硬い結界になってたんだね……」

泰葉「よく覚えていますね、その通りです」

未央「じゃあ、その世界に影響を与えるなんちゃらだけを封印すれば大丈夫なんだね! 名案じゃない!?」

愛梨「いえ、決して良案ではありません。まず、この手段は明らかに“水が限界を超えた”前提で進む話ですから」

卯月「溢れる、前提?」

未央「なんで?! 溢れる前に結界を作れば大丈夫なんじゃ……」

沙織「わだすは、前々からこのお話を実行しでいで……準備は、整っていまず」

愛梨「遥か以前から、私が頼んでいました」

沙織「“この世界”単位で張れる結界の基礎、もう出来てるんでず」

未央「あれ? じゃあ、ますます……起動すれば大丈夫じゃないの?」

沙織「だけんど……肝心の“結界で妨げるもの”が、さっぱりわかんねえんです」

未央「……?」

沙織「他の世界へ影響を与える……そもそも、他の世界なんてものが、もう何が何だが……」

愛梨「早い話、この世界を隔離してしまう、閉じ込めてしまうのが手っ取り早い手段であり、その方法が結界と言いました」

愛梨「外部から侵入されない、外部へ漏らさない……そんな結界が理想です」

凛「でも“何を防げばいいか”が判明していない」

沙織「その通りで……」

未央「あー……か、肝心の妨害する本体が分からないと……」



沙織「……せめて今、他の世界に干渉したと分かる“何か”があれば……そこから探すことが出来るかもしんねえですが」

雪乃「ゼロから作るのは……雲を掴むような話ですわ」

愛梨「そしてその“何か”が判明するのは恐らく……水が溢れた瞬間」

愛梨「この世界へ“侵入してくる人物”のエネルギーを探知すれば、あるいは……!」

沙織「もしかすると……なんとか出来るかもしんねぇです」

卯月「結界が完成するのは、結界で塞ぐべき者が侵入してきた後……」

泰葉「いえ、危惧すべきはそれだけではありません」

愛梨「他にも懸念材料が?」

沙織「んだ……万が一、結界で妨害する対象が見つかっでも、どれくらいの魔力を注ぎ込めば止められるかは……」

泰葉「止める対象が何物か分からないと、見積もりもできない……もしかすると、途方もない魔力が必要かも」

沙織「他にも、根本的に結界さ壊されねぇかも……耐久度は、わだす達の常識で測って安全かなんて分かんねえで……」

未央「うわああ……穴だらけだぁ……」

里美「結界の完成には、まだ時間がかかる、ですかぁ?」

雪菜「それだけじゃないですよぉ、この方法……もう一つ考えておくべきものが」

未央「まだあるの!?」

愛梨「ええ。……先程言いましたが、結界で妨害する人物が既に侵入してから発動できる計画です」

卯月「その侵入した人物を……倒す必要が?」

凛「当然だね」

愛梨「絶対に突破されないだろうという結界を用意する」

愛梨「そして、内部で暴れるであろう人物を……抑える」

里美「おおまかには、その二つが結論ですか~?」

朋「ちょ、ちょっと待って! じゃあ結局、種子は!? 関係ないの? 集めても間に合わない、無駄って事?」

愛梨「種子を無視していいわけではありません。放っておけば水は満ちてしまうのは明らかですが……」

愛梨「満水を遅らせると、結界をより完璧に仕上げるための時間が確保できます」

朋「まるっきり意味がないわけではない……のね?」

泰葉「全員が全員結界の構築をするほどの知識があるとは限りませんからね、何人かはそちらに回ると?」

愛梨「信頼できる人物が、集まればの話ですが……」



雪菜「だったら……なおさら、私達も協力者を探さないと、ねぇ?」

泰葉「こんな時に、師匠はどこへ……」

里美「私も頑張って探してみますね~」

朋「え、えっと……」

愛梨「トモさんは、国側の視点からこの問題を見てください」

愛梨「アンズさんに伝えるのも結構です。私達個人や協会では見通せない視点から、状況を伝えてください」

沙織「国に伝えても大丈夫べか……?」

朋「だ、大丈夫! 私の国に、情報を漏らす人はいない、はず……うん、いない!」

沙織「うーん……そう言われたら、信じるけんど……」

愛梨(正直なところ、黙っていろと伝えても……最も協会に近い国家、アンズはどこからか情報を手に入れる)

愛梨(それほど頭脳と知略はある国、下手に隠すよりも最初から協力を要請すべき……)

雪乃「大丈夫かしら? なんだか心配ですわ」

愛梨(……と、言ってしまうとユキノさんから反対されそうなので、公言はしませんが)

愛梨(アンズなら、察してくれるでしょう)


愛梨「では皆さんは、結界の構築を進めてください」

泰葉「……分かりました。やはり、未然に防ぐ方法ではなく……後手の方になりましたか」

沙織「し、仕方なんだ……こんな急に溜まるなんて思っで無がった……!」

愛梨「起きてしまったものは仕方ありません、こうしてすぐに集まって動き出せただけでも……幸運です」

雪菜「だねぇ……」

愛梨「そして私と、彼女達は……中核となって動きます」

卯月「!」

未央「私たちが……!」

愛梨「種子が広がりすぎると、何が起きるかわかりませんから」

凛「とんでもない力が生まれて、結界を作るどころじゃない……って、可能性も」

雪乃「ありますわ、当然」

里美「異能の種子というからには、とてつもない力があるんですね~?」

泰葉「抑えるのは苦労するかと思いますが……」

沙織「協力するにも今ん所、種子をどうこうできる道具がこれ一つしかなんだ……おねげーします」

雪菜「できるだけ早く、私達も増援や手段は探すけどぉ」

愛梨「それまでは私達だけが……時間を稼げる人物です」

凛(……私達の活躍次第で、タイムリミットが来た時の世界の行方が決まる)

愛梨「これから種子によって生まれる……異能の数々と、戦います」

未央「よしっ……頑張る、燃えてきた!」

凛「私達も、これまで色んな相手を乗り越えてきたはず……出来る」

愛梨「この経典が示す、特に脅威と鳴り得る相手と……!」

卯月「はい……ウヅキ、頑張ります!!」

乙、すごいことになってきたな


熱い展開!

*ほぼ同時刻 国家『ウィキ』*


――タッタッタッ

小梅「…………」

小梅(『シオン』から……人が多そうな町に来た、けど……)

小梅「ここ……多すぎる、ね……」

――トトトッ

小梅(それに、少し前の……変な……気?)

小梅(あれも……気になる?)

――ドンッ

小梅「わっ……」

加蓮「っと、大丈夫?」

小梅「う、うん……ごめんなさい……」

加蓮「こんな所で一人で歩いてると、不幸にも悪い組織の幹部と衝突しちゃうよ」

小梅「……?」

加蓮「いや、深い意味はないんだけど……」

小梅「……あれ? ……あれ?」

加蓮「うん?」

小梅「わ、私の……どこ……?」

加蓮「何を? あ、もしかしてここに転がってる――」

小梅「あっ……返して……」

加蓮「返すよ、当然。でも、それは何?」

小梅「……に、人形、だよ?」

加蓮「人形? ……それにしては、凄いデザイン……あれ」

小梅「私の……だから……」

加蓮「それは分かったけど、何か……人形……」

小梅「……?」

加蓮「あ、そうだ!」



加蓮「人形と言えば……最近の変な事件を調べてて、面白いのがあったんだよ」

小梅「事件……?」

小梅(もしかして……)

加蓮「一夜にして消えた、人形の館の人形。……写真で見た人形と、似てたから気になって」

小梅「やっぱり……?」

加蓮「やっぱり?」

小梅「あ、いやっ……違う……」

加蓮「もしかして、関係者だったりする?」

小梅「ぅ…………」

加蓮「そうじゃないなら……まさか、当事者だったり……?」

小梅「…………」

加蓮「答えにくい? そうだよねー、人形を一夜にして消滅させて……手元にまだあるって事は」

加蓮「何か……特別な力で回収したり、もしくは消しても自分で人形を作れるから……じゃない?」

小梅「……!」

加蓮「そんな能力があるなんて……有りえないもんね」

小梅「う、うん……」

加蓮「でも本当にその通りだったら、私達は同じかも」

小梅「え……?」

加蓮「私も、人に言えない不思議な力がある」

――トンッ

加蓮「えいっ」

小梅「あ……うっ」

――ペタンッ



加蓮「ごめんね、軽くだけど触れちゃって。……で、どう?」

小梅「どう……って……?! あ、あれ……」

加蓮「立てないでしょ? これが私の不思議な力、異能」

小梅「い……のう……?」

加蓮「今、あなたは足が動かない“障害”を抱えた。私は相手の体に何かしらの不全を与える」

――ポンッ

小梅「んっ……あ、立てた……」

加蓮「といっても残念ながら、条件とか効果が弱くて……まだ掴めてないんだけど」

小梅「不思議……な、力……?」

小梅「……あの……あなた、も?」

加蓮「そ、私も不思議な能力者。……てことは、あなたもやっぱり?」

小梅「コウメ……」

加蓮「ふんふん、コウメちゃんって言うんだね」

小梅「……初めて、同じ人に……会えた、かも」

加蓮「やっぱり、不思議な力があるんだね?」

小梅「それでっ……?」

加蓮「わっ」

小梅「オカルト……? 何の儀式で……身に着けたの……?」

加蓮「ぎ、儀式っていうか……ちょっとした試練は乗り越えたかな?」

小梅「やっぱり……? じゃないと……ち、力は……」

加蓮「力には代償が必要だよねー……それで? コウメちゃんは、何が出来るの?」

小梅「……そ、その……そんなに、派手でも分かりやすくも……ない」

加蓮「うんうん」

小梅「わ、私は……この、人形……」

加蓮「やっぱり、思った通り!」

小梅「人の……怖い、っていう体験、記憶を……切り取って、人形にする……」

加蓮「……不気味ー」

小梅「そう、かな……でも、好き…………」

加蓮「あははっ、何となく分かる。コウメちゃん、好きそうだもん、雰囲気が」

小梅「えへ、えへへ……」

加蓮「ふふふっ」





加蓮「じゃあ、頂戴」



――ガッッ!!

小梅「ッう――!!?」

――ドサッ

加蓮「あたし、昨日と今日で絶好調なんだ」

加蓮「こんな力の源も知ったし、強くなる方法も分かったし……そして、アンタに会えた」

小梅「ぐぇ……っ……!」

加蓮「あっ」

――バッ

小梅「けほっ、けほっ……!」

加蓮「意外と力あるね……いや、私が非力なのかな……」

小梅(振り払った……っ……! こ、この人、変……! 逃げなきゃ――)

小梅「っ!」

――ダッ

加蓮「あ、そんなに走ったら――」

小梅「はぁ、はぁ……はぁ――っう! げほっ! ゲホッ!!」

――ドサッ

小梅「っ、げほっ! ごほっ!! ひゅー……ひゅー……ッ……!?」

加蓮「ほら、無理したら倒れるよ、意識飛んじゃうと話も出来ない」

小梅(走れない、じゃない……?! いき、が、くるし……っ)

加蓮「今、アンタの呼吸器の機能を低下させた。歩く走るどころか、息もし辛い状態」

小梅「げほっ! けほっ……はっ、はっ……!」

加蓮「この力、凄い便利なんだけど……あくまで負荷をかけたりするだけ、致命傷は作れない」

加蓮「呼吸困難には落とせるけど、呼吸停止は無理……ま、それでも十分だよ」

小梅「はあっ……はあっ、ふっ……!」

加蓮「いや……もしかすると、そのうち出来るようになるかも……」

小梅「ッ……?」

加蓮「アンタも私と同じ……その力は『異能の種子』によるもの……の、はず」

――ガッ

小梅「あうッ……」

加蓮「サエが言ってた通り、本当に種子は昔からあったんだね……こうして、道を歩いてて偶然出会うなんて」

加蓮(種は増えたって話だから、仮に最初から種を持ってたとして、数が増えて強力になってるはずなんだけど)

加蓮「増えてもその程度なら、とても弱いみたいだね……なるほど、だから種子の回収で見逃された……って事かな」

小梅「な、何の……はな、しっ……?」

加蓮「アンタには関係ない、こっちの話。だから大人しく……ええと、どうするんだっけ、まずは」

――ドサッ

加蓮「ふぅ……この荷物、やっぱり重いね」

小梅(何を、探して……?)

加蓮「あったあった。えーと、コウメちゃん……だっけ」

小梅「……っ!?」

加蓮「オカルトとか儀式、ってさっき言ってたよね? 私も、それで力を手に入れたんだ」

――ギラッ

小梅「ひ……っ……!?」

加蓮「種子って体内に吸収されてるらしくて、回収するには秘宝? が必要……らしいんだけど」

小梅「なに、するの……? や、め――」

――ザシュッ!!

小梅「――っぁ?!」

加蓮「仲間だったナナミって子が、物理的に取り出す方法を見つけてくれてたんだ」

小梅「あ、ぎッ……! や、あう……ッ!!」

加蓮「ちょっと練習はしてきたんだけど、彼女ほど上手じゃないから……痛かったらゴメンね」

小梅「――!! ――ァ――ッガ――!!」

加蓮「まぁ……痛くても、止めないけど」

――ザクッ ザシュッ

加蓮「アンタの種子、私の異能の……栄養になってくれない? ふふっ」



・・

・・・


――パチッ

優「……んっ」

輝子「フヒ……だ、大丈夫……か?」

優「やんっ」

輝子「おふッ! お、平手……ご、ゴメンな……び、びっくりさせた……」

優「……誰ー?」

輝子「しょ、ショーコ……ボッチの子……あ、今は違う……フヒッ」

優「ここは?」

輝子「さ、サバイバル生活……挑戦中、なーんて……じょ、冗談」

輝子「確か……チ、『チャプレ』……だった気がする……」

優「チャプレ? ……えーとぉ」

優(確かスズホを見つけたけどぉ……ヒカルって子に邪魔されて、川に流されて……)

輝子「か、川に……打ち上げられてた……な、なんだ、身投げか……?」

優「助けてくれたの?」

輝子「め、迷惑だった……か?」

優「ううん全然☆ 別に助けてくれなくても生きてたと思うけどぉ、ありがとねぇ♪」

輝子「フヒッ……よかった……」

優「助けてくれたところ突然だけどぉ……これ、持って?」

――スッ

輝子「……? なんだ、これ……キノコ……か?」

優「違うよぉ、いいからいいから☆」

輝子「ん……持った…………けど」

――…………

輝子「持って……何すればいい……?」

優「ううん、もういいよ、ありがとう☆」

輝子「……? ま、まぁいいか、フヒッ」

優(あたしの細胞片を持たせても変化なし、なら……この子はセーフだねぇ)

優「ねぇ、今は何月何日?」

輝子「え……そ、その……カレンダー、とか持ってないから……」

優「じゃあ最近起きた出来事、大きいニュースとか」

輝子「う、うーんと……た、確か……どこかの国で、手配犯がなんとか……」

優「あ、もしかして『セファー』?」

輝子「セファー……そ、そんな名前だった気がする……」

優(だったら、流されて時間は大きく経ってないねぇ)

優「と、言う事はぁ……うーん」

輝子「お腹……すいてる、か?」

優「いや、全然☆」

輝子「じゃ、じゃあ……そんなに長く、気は失ってない、かも……」

優「そうかも? あはは、その発想は盲点だねぇ♪」

輝子「フヒヒ……」

優(残念ながら、お腹の空き具合で時間経過が分かる体じゃないんだよねぇ)

輝子「け、けど……あんなところで、何してた……?」

優(気を失ってる間に、何か大きな事は起きてないと考えるのが普通だねぇ)

輝子「溺れた……か、川で遊ぶと……危険だもんな」

優(かといって、のんびりしてるわけにもいかないけど)

――スッ

輝子「お……ど、どこ行く……?」

優「ありがとねぇ、お礼は何も出来ないけどぉ」

輝子「い、行っちゃうのか……? も、もう少しゆっくりしていっても、いいぞ、フヒ」

優「んー……でもぉ」

輝子「もうすぐ、し、親友達が帰ってくる……バーベキュー……いいぞ」

優「わぁ魅力的♪ でも、誰かが帰ってくるなら尚更帰らなきゃ☆」

輝子「そ、そっか……残念……ま、また会った時……よろしく……な、フヒッ」

優「ばいばーい☆」

――ザッ

優(荷物、流されちゃったのは不便だけどぉ……歩いて帰るしかないかなぁ)

――…………

輝子「ホントに行っちゃった……ま、まぁ……元気そう、だったし……」

輝子「み、皆には何て伝えよう……ひ、人が打ち上げられてたけど、元気だったから帰った……」

輝子「……信じて、くれそうにもない、フヒ」

輝子(ややこしくなりそうだし……ユイ達には、伝えなくても……いいか、な?)



・・

・・・


*魔術協会 会議の同時刻・下階*


麗奈「遅いわッ!!」

――ダンッ!

麗奈「ここで待っておきなさいなんて、いつまで待てばいいのよ……」

麗奈(歩いてたら突然『用事が出来た』なんて言って、そこから瞬間的にここに向かって――)

麗奈「アタシは下の部屋で待ってて、ですって?」

麗奈「……はぁ、こうしてる間にも皆は自由行動、アタシだけ待機? 笑えないわ!」

麗奈(特にアイツ、ヒカルは今頃どこで何してるんだか……)

麗奈(どうせいつもみたく無茶無謀で変な事件に巻き込まれてるのが関の山ね)

麗奈「だったら良い気味よ! アタシは全世界通して中立で安全な組織の内部にいるもの!」

麗奈「アタシは安全、アンタは危険域よ! アーッハッハッハッハッ!!」



麗奈「…………あーっ! そういうのじゃないのよ、アタシはそんな安全な女じゃないのよ!」

麗奈「元々ユキノの家から出てきたのも、結局捕まったけど目的はアタシの自由な旅でしょ……!」

麗奈「だったら会議で忙しそうな今、逃げ出すチャンスよ!」

麗奈「そうと決まればこんな部屋、さっさとトンズラよ!」

――ガチャッ

麗奈「……うん?」

麗奈(扉、まさか……鍵、じゃない!?)

――ガタガタンッ

麗奈「……閉じ込められてるじゃないッ!!」

麗奈(ユキノよ! アタシが勝手に逃げることを想定して、扉に何かしたのね?!)

麗奈「慌てないわ……これしき、扉が駄目なら窓よ!」

麗奈「ここは地上何十メートルだけど、それくらいどうにでもなるわッ……!」

麗奈「何より、ユキノの目の前から逃走する方が難易度が高――」

――ググッ

麗奈「……ちょっ?!」

麗奈「開かない! まさかこっちも何か仕掛けが……うん?」

――グッ グッ

麗奈「……ち、違ったわ、この窓はそもそも開かないのね」

麗奈「なるほど、最初から開かないように……危ないから当然ね」

麗奈「…………じゃないわよッ! じゃあどうする? 出られないじゃない!」

麗奈(いや、ここで諦めるレイナサマじゃないわ、開かないなら……)

麗奈「壊せばいいのよッ! いい感じに荷物……は、やめておいて、この椅子を窓に思い切り!」

――ブンッ



麗奈「うりゃッ!」

――ガシャンッ!

麗奈(よしっ! これで割れ――)

麗奈「……っえ!?」

――パラパラパラ……

麗奈「い、椅子が壊れた? ちょっ、どんだけ頑丈な窓なのよ!?」

麗奈「まさか、窓もユキノが!? 有り得るわ、強化とか……しまったわ、読まれてた……!」

麗奈(じゃあ……どうするのよ? 窓も扉も駄目なら壊せるところなんて無い……)

――…………

麗奈「はぁ……こんな時に、いつもの武器さえ手元にあればなんとかできたかもしれないのに」

麗奈(あの夜襲われて、持ち物を全部置いて逃げたせいよ……命は助かったけど)

麗奈「こんな時に都合よく見つからないかしら? 扉や窓の施錠を開けられる鍵みたいな……なんて」

――キラッ

麗奈「うん?」

――チャリンッ

麗奈「鍵……なにこれ、アタシこんなの持ってたっけ?」

麗奈「たぶん、落ちてたのね……まさか?」

――ダッ

麗奈「扉の鍵……!」

――ガチャガチャ

麗奈「……なーんて、都合のいい展開はあり得ないわよね」

麗奈(そもそも魔術の施錠ならこんな鍵で開くはずないわよね、フツー)

麗奈「じゃあこの鍵、何よ……いや」

麗奈「……もしかして?」

――ゴソゴソ

麗奈「アタシの近くにある……鍵穴といえば、このユキノの置いていった荷物の」

――ガチャッ



麗奈「う?! や、やったわッ! 開いた!?」

――バサッ

麗奈「ふ、ふんっ! まさか自分の荷物の鍵をアタシのいる部屋に放置するなんて、意外とマヌケね!」

麗奈「外に出られない腹いせに、いろいろと物色してやるわ――って」

――ガチャリ

麗奈「ぜ、全部鍵がかかってる……よ、用意周到じゃないの!」

麗奈「これじゃイタズラは無理ね……あーあ、せっかく荷物ケースの鍵は見つけたのに」

麗奈「ふん、一個の鍵が相手も中身が開けられないんじゃ意味は無――」

――ガチャッ

麗奈「えっ?! さ、刺さった……どころじゃない!?」

麗奈(開いた?!)

麗奈「……も、もしかしてこの鍵」

――タタッ

麗奈「扉は何故かダメだったけど……ほ、ほかの鍵穴は?」

麗奈「どこか手の届く位置の鍵穴は? ……あった、この引き出しは?」

――ガチャッ

麗奈(っ!? や、やっぱり!?)

麗奈「引き出しの鍵も開いた……こ、これって、何なの? 何の鍵なの?!」

麗奈(魔法の鍵? 全ての施錠を開けられるそんな……いや、でも)

麗奈「だったら、扉と窓が開かないのは変よね。いろいろ試してみようかしら……例えば、コレは?」

――ガチャガチャ

麗奈「う……は、配電盤の扉も無理なの? 開かない……この法則、何?」

麗奈(もしかして…………この鍵は“扉”と“窓”以外は開けられるんじゃ?)

麗奈「こんなモノ、いったい誰が…………」



――扉や窓の施錠を開けられる鍵



麗奈「ハッ……?!」

麗奈「こ、この鍵っ……まさか……アタシが……?」

麗奈「…………」

麗奈「いやいやいや、祈って出てくるとか馬鹿じゃないの、どんな能力者よあり得ないわ!」

麗奈(でも……もしかして。アタシが協会に来たことにより覚醒して力が目覚めたとか……)

麗奈「はんっ! なわけないでしょバカじゃないの?」

麗奈「…………ふ、フンッ!」

麗奈「だったらアタシをここから脱出させるため……! じゃない、えーっと……!」

麗奈「どんな強敵でもブッ倒せるくらいの! バズーカでも用意しなさいよッ!!」

――ゴトンッ

麗奈「んにゃっ?!」

――…………

麗奈「ま、マジ……? いや、これドッキリとか……」

麗奈「絶対に何もなかった空間に武器が……しかも、アタシが言ったものと同じ!」

麗奈「誰か隠れてるのね!? アタシをバカにして! 撃つわよ? これ撃っちゃうわよ?!」

麗奈(なんて、これがドッキリなら玩具みたいな威力でしょうけど)

麗奈「撃つから! 本気よ! その証拠にたった今引き金を引い」

――カチッ ゴオオオッ!!

麗奈「えっ――」



――ドォンッ!!


*上階*


沙織「んなぁっ!?」

凛「ちょっ……! な、何!?」

愛梨「せ、セツナさん! もしや器が――」

雪菜「いや、まだ溢れては……いないよ、これは襲撃じゃない」

未央「なになに?! どこから!? 今の地震と音は何?!」

泰葉「……すぐ近く、それどころか……すぐ下、のように思えましたが」

雪乃「下……!?」

――ダッ

里美「ほわぁ、どこに行くんですか?」

雪乃「下の階に、同行していた子を待たせていますの……!」

卯月「下……って!」

茜「衝撃が聞こえた場所ですか!?」

朋「っ、行きましょう!」

――タッタッタッ

*下階*


麗奈「…………」

――パラパラパラ……

麗奈「……ぁ……え」

麗奈(ま、窓……いや、窓どころじゃない!?)

麗奈「部屋の壁が……ぜ、全部吹っ飛んだ…………」

麗奈「は、ははっ、アーッハッハッハッ!! よく分からないけど、これは凄いわ!」

麗奈「まさにアタシが望んだとおり、どんな強敵でもブッ倒せるレイナサマバズーカの誕生よ!」

――ガチャッ

雪乃「レイナ! 無事?!」

朋「……わっ……か、壁が?」

麗奈「おーっとッ!!」

――ジャキンッ

雪乃「……!」

朋「そ、それは?」

卯月「大丈夫ですか!? ……わぁっ!?」

未央「うわっ! 壁が……むむ、誰の仕業?」

雪乃「外からの襲撃、ではなさそうですね。レイナ、それは?」

凛「……銃?」

麗奈「アタシの力で作った武器よ!」

雪乃「!?」

朋「協会の建物は、そんなに簡単に壊れるほど脆くはないなず……!」

雪乃(作った……? それは、まさか……)



雪乃「レイナ、その武器は……元から持っていたもの?」

麗奈「さぁね! でも、アタシが願ったものが出てきたのよ、アタシのもの! 鍵も、武器も!」

未央「私のリングみたいに、収納できるの?」

雪乃「いえ……彼女にそんな技術は習得できないですわ」

麗奈「余計なお世話よ! ……ふん、でも今はもういいわ! 収納できなくとも、作り出せるもの!」

凛「作った……武器と、鍵? それを今?」

雪乃(鍵……?! 私の荷物の、鍵が開いてる?)

雪乃(あれはそう簡単に開けられるものじゃないはずなのに――)

麗奈「分かった? アタシの力、埋もれた才能よきっと! アイツらみたいに、アタシにも力はあったのよ!」

雪乃「間違いない……これは、異能の種子の力ですわ」

卯月「!?」

凛「これが……」

未央「た、確かに話が本当なら……不思議な力、だけど……」

麗奈「うん? 何ですって? シュシ?」

雪乃「これほど身近なのに気付かなかったなんて…これは、この先苦労しそうですわ」

凛(……そっか、ユキノの連れ人だったんだこの子は)

卯月(でも、今の今までこの力に気づいてなかった、という事は)

未央(英雄なんて呼ばれる人たちでも、こうして力が発言するまで探知はできてない……!)

麗奈「……な、なんか勝手に話が進んでるけど、分かってるわね?!」

雪乃(私の荷物を簡単に開けるレベルの道具を生み出す力なら、この武器の威力も)

麗奈「一歩でも動いてみなさい! すぐさまレイナサマバズーカの餌食よ!」

雪乃「協会の壁を破るなんて、とんでもない代物ですわ……レイナちゃん、落ち着いて――」

麗奈「うるさいわねッ! いいわ、せっかくだし威力の実験台に……!」

雪乃「っ!」

未央「うわっ!?」

凛「引き金が――」

麗奈「喰らいなさい! どんな強敵も倒せるレイナサマバズーカをッ!!」

――カチッ





――…………




麗奈「…………あ、あれっ?」

卯月「あれ?」

朋「何も……起きない?」

雪乃「弾切れ……?」

麗奈「ちょ、まだ一発しか撃ってないわよ! それにほら、弾入ってるじゃないの!? 壊れたの!?」

凛「……どうする?」

雪乃「何にせよ、撃たれないなら幸いですわ……!」

麗奈「くっ! このっ、詰まってるとか冗談じゃないわ! このっ! 出ろっ! お願い!」

未央「ちょっと! あんまり振り回すとまた――」

――カチッ ゴオオオッ!!

麗奈「う?!」

雪乃「んっ……?!」

凛「今、音が鳴った!?」

麗奈「ちょっ!? 今は銃口が下に――」

――ドガァァンッ!!

朋「うわぁっ!?」

卯月「きゃっ……?!」

麗奈「あだっ!?」

――コォォォ……

凛「今度は、床が……下に向かって、一直線に」

未央「吹き抜けみたいになっちゃった……!」

雪乃「……なんて威力」

麗奈「なんでよ、なんでよッ……! どうしてこう、都合のいい使い方にならないのよ!」

雪乃「下の階が何層も貫かれて……幸い、人払いをしていたので建物以外の被害は無さそう、ですわ」

麗奈「最初もそうよ! 鍵だって肝心の窓や扉は開かない! バズーカは倒したい相手に弾が出ない!!」

雪乃(彼女にとって……都合のいい使い方が、出来ていない?)

朋「と、とりあえず!」

――ビシッ!

麗奈「あっ……ちょっ、離しなさいよ!」

朋「……捕まえたけど」

雪乃「ありがとうございますわ。そうですね、早く動きを止めておくべきでしたわ」

卯月(容赦ない……)

雪乃「レイナ、少し……その力と、相談がありますわ」

麗奈「っ! 何よッ! どうせまた危険だからって、アタシから取り上げるんでしょ!?」

雪乃「場合によっては、そうなりますわ」

未央(本人にとって危険でも危険じゃなくても、さっきの話だと……)

凛(放っておくと悪化するか、誰かの栄養分にされちゃう……だね)

雪乃「協会の建物を半壊、しかも偶然人がいなかっただけで、本来は大惨事ですわ」

朋「重要な会議だったから、今日はあたし達が建物を貸切状態で使ってた……だから、よかったけど」

麗奈「……っう」

卯月(この威力が、軽々と扱えるようになるのが……異能の種子)

雪乃「危ない力を消すかもしれない、それだけで済むなら寛大だと思って」

朋「……上に戻ろう、あっちも二回も音が聞こえて困惑してるだろうし」

雪乃「そうね……レイナ、行きますわよ」

麗奈「くっ……結局こうなるのね……アンタなんか敵よ、敵ッ! アタシの邪魔しないで!」

雪乃「はいはい、何度も聞きましたわ」

卯月「…………」

乙です



・・

・・・


――ドガァァンッ!!

茄子「また……!」

茄子(協会の本部から大きな爆発音と、二回目の地鳴り……)

茄子「今度は煙こそ上がりませんが……さっきより強い地響き」

茄子(ヤスハさんが協会にいるはず……大丈夫、なんでしょうか?)

茄子「それに――」

――ドォンッ

茄子「っ……こ、この村にも騒ぎが……」

茄子(ヤスハさんのお仕事が終わるまで私はここ、一番近くの村『ツァーリ』で待機、だったのですが)

茄子「これじゃあ……っ!」

――ドガンッ!

茄子「隠れて待機も難しいほど、急に暴動が起きるなんてっ……!」

茄子(一度目の爆発で村全体が動揺した雰囲気を醸し出したのですが)

――ドンッ! ドガァンッ

茄子「こっ、こんなに……混乱で暴動が起きるほど、ですか?」

茄子(二度目の地鳴りで、ついに喧嘩や争いが……何をきっかけに? 何を理由で?)

茄子「……っ……まさか!」

茄子「先の爆発は協会に襲撃が……? だ、だったら……」

茄子(助けに……いや、私が向かっても力にはなれないかもしれないし、何より少し協会と村は離れてる!)

茄子(連絡をするにも通じるか分からない、ランコちゃんを呼ぶにも……あまり意味は無さそうです)

茄子「そして、協会に悪意のある襲撃を行って……近くのこの村も制圧しようとしてる……?!」

茄子「だったら尚更放っておくと……」

――ビキッ

茄子「どうしましょうか……」

茄子「ここに留まるのも逃げるのも――」

――ガラガラッ

茄子「え、っ?!」

茄子(民家の壁が崩れてきて……!)

茄子「避ける、間に合わない! だ、だったら魔法で壁を壊し……っ、この大きさはさすがに――」

??「危ないっ!」

茄子「え、きゃっ!?」

――ドォンッ



??「はぁ、はぁ……大丈夫ですか?」

茄子「た、助かりました……」

??「咄嗟だったので突き飛ばす形になっちゃいましたが……」

茄子「大丈夫です……あの、すいません」

??「いえいえ! それよりも怪我はありませんか?」

茄子「はい。……急に、何があったんでしょう?」

??「分かりません……あたしも急に巻き込まれて、あちこちで喧嘩が……」

茄子「建物の破壊にまで争いが激しくなって……あ、それよりも」

茄子「私は、カコです。改めて、ありがとうございます」

??「あたしはユカです! 押忍! よろしくお願いします!」

――…………

有香「じゃあ、やっぱり分からないんですか……」

茄子「はい、私もこの暴動の原因はさっぱり」

有香「あたしも恐る恐る村を一通り見て回ったのですが、首謀者らしき人には会わず、でした」

茄子「だとすると襲撃ではないんでしょうか」

有香「野盗や侵略ではなさそうです」

茄子「……分かりませんね」

有香「ですね……いったい何がこの村に……」

茄子「村だけじゃなく、あっちの……協会も襲撃を受けているかもしれません」

有香「ええっ!? きょ、協会というとあの……あっ! 本当ですね!?」

茄子「二度以降は静かですが、関連はあるかも――」

??「ねぇ」

茄子「……?」

??「あなた達、協会の襲撃を見たの?」

有香「誰ですか!?」

??「ごめんなさい、驚かせたわね。でも、あっちで暴れてるような野蛮人ではない」

??「ただ聞きたい事があるの、協力してもらえる?」

茄子「聞きたいことですか?」

??「そう、小さなことでもいいわ」

??「協会の襲撃の瞬間を目撃したって? その時の状況を聞いてもいいかしら」

茄子「……すいません、どちら様でしょうか?」

??「私はチナミ。少し……気になることがあってね、情報を集めてるの」

有香「気になること……襲撃が、ですか? 何か知っているんですか?」

千奈美「どうもね、嘘にしか思えなかった情報が……その通りに話が進みすぎていて、気になったの」

千奈美「まさか、この類の噂が本当かもしれないなんてね」

茄子「噂?」

有香「この状況と関係があるんでしょうか」

千奈美「……関係は、あるかもしれないし、ないかもしれない」

茄子「?」

千奈美「私も分からない事が多いの、だから協力して欲しい」

茄子「……だったら、すいません。お力になれるほど、私も詳しいことは知らないんです」

茄子「ただ二回、協会の建物が大きく損傷した様子を見ただけなんです」

千奈美「……そう、ありがとう」

有香「チナミ……さん、ですか? その、噂ってなんでしょうか?」

千奈美「そうね……出所は懸命な調査でも判明せず、今の今までそんな兆候も無く」

千奈美「ここに来て、一気に動いた……誰もまともに信じていなかった“下らない妄想”よ」

有香「妄想……?」

千奈美「『協会への襲撃』が鍵」

茄子「?」

千奈美「『予言された出来事が起きたその日、協会が封じている力を授かることができる』」

千奈美「……どう? なんだか子供の考えたストーリーだと思わない?」

有香「予言? 封じられた力? ……あの、よく把握できないのですが」

千奈美「協会が抑えている、隠しているのは“力”だ。……そんな情報が、今一番出回っているの」

千奈美「そして、噂とは『協会の隠した“力”が漏れ出す時』を示しているとか……」

茄子「本当なんですか?」

千奈美「それを確かめに、ついでに興味本位で私はここに来たの」

千奈美「詳しく説明はしないけど、この噂の予言は最近の出来事と結構一致しているのよ」

有香「一致していたんですか?」

千奈美「大国同士の抗争、技術の発展、そして大きな“謎の気配”」

有香「謎の、気配?」

千奈美「感じなかった? つい最近、何か不穏な気配を……多くの人が、同時に」

茄子(謎の気配……? 確か、ヤスハさんもそんな事を言ってたから協会に向かうって……)

千奈美「そこにきて、最後の予言である協会の襲撃。……協会が何かを隠しているなんて根も葉もない噂でも信憑性が出てきた」

有香「じゃ、じゃあこの暴動はまさか! 噂によるとこの後手に入る“力”の……奪い合い?」

千奈美「……かもしれないわね」

茄子「力って、なんですか?」

千奈美「ハッキリ言って『分からない』よ」

有香「えっ」

千奈美「そもそも幾ら予言の通りでも、確証が何もないのよ」

千奈美「偶然……にしては確かに出来すぎだけど、信じるには二つも三つも早い」

茄子「結局力なんて存在しない……?」

有香「もし力があったとすれば、もっと大変なことになってるかも……」

千奈美「私は愉快犯の仕業と思ってる、ただただ世間を騒がすだけの面白……じゃない、迷惑な輩のね」

奈美「結局、信じる方向に傾いた人が多くて……さらに、手に入るかどうかも分からない力を奪い合ってる」

茄子「それが今の、この暴動ですか?」

千奈美「らしいわね」

有香「よ、要するに……変な噂話に、皆が振り回されてるだけなんですか!?」

千奈美「巻き込まれたくないなら、大人しくしているのが一番よ」

茄子「そうですね……でも、それならよかった」

有香「ですね! これがイタズラならそのうち収まるでしょうし……あたしも、巻き込まれるのは怖いので大人しくします」

千奈美「この騒ぎ、当然だけど“明確な終わり”が無いからね。きっと暴れてる人達が最後の一人になるまで続く」

――ドォンッ パリンッ

茄子「わ……激しくなってきました」

千奈美「ここは裏通りだからすぐには巻き込まれないはずだけど……表は賑やかみたいね」

有香「万が一の時は、あたしが頑張ります……!」

千奈美「それは頼りになるわね…………!?」

――…………

千奈美「今のは……?」

有香「どうしまし――んむっ」

千奈美「静かに。……何か聞こえる」

茄子(表通りの喧嘩、じゃないんですか?)

千奈美(だと思うんだけど、何か無数の……不自然な――)

――ボゴッ!

有香「うっ?!」

千奈美「な……!? だ、誰――」

??「あ、誰か居た感じ? いいよそのままで」

――ザッ

つかさ「そいつ等、通りで喧嘩してた男共。悪いね、隠れてるところ」

千奈美「……ツカサ?」

有香「知り合いの人ですか?」

千奈美「いえ、名前だけ」

つかさ「よっと。や、本当邪魔する気は無いから、適当に座ってていい、マジ」

茄子「これ……壁を突き破って、それにたくさんの……」

千奈美「彼女は武器商人で、同時に自身も武器を使いこなす人物」

千奈美「……どうやら文字通り一直線、壁や雑魚を蹴散らしながら歩いてたのね」

つかさ「それ正解。いや、別にまっすぐ歩く縛りなんてしてないけど、アタシの前に立つ輩が多かっただけ」

有香「こ、こんな細い針みたいな武器で壁を……?」

つかさ「モノは使いようっしょ。暴れてたから巻き込んで、今そこでノビてる男共もしばらくは――」

――ググッ

茄子「……あっ!」

つかさ「うん?」

有香「ツカサさん! 後ろ!」

千奈美「っ! まだ倒れてなかった……!」

つかさ「倒し損ねてた? チッ、標的は全員か? アンタらも避けろよ!」

茄子「え、いっ……!」

――ゴオッ!

有香「わ!」

千奈美「炎……!」

茄子「う、うまくいきました……」

つかさ「~♪ やるね、アンタ」

千奈美「魔術の心得はあったのね?」

――バタッ

つかさ「威力は下の下だけど、トドメには十分、節約大事な」

茄子(節約……したわけじゃないんですけどね)

つかさ「正真正銘その男共はダウンしたっしょ?」

千奈美「ええ……ずいぶんと乱暴にしたいみたいだけど」

つかさ「喧嘩売ってきたのはあっちだから、高価買取しただけ」

つかさ「ま、きっちりお題は貰うから、回収」

千奈美「追い剥ぎは褒められたものじゃないわよ」

有香「盗みはダメです!」

つかさ「今更小銭奪ったってしょうがないっしょ、また別のもの」

茄子「別の……?」

つかさ「まぁ、商売人にとって価値あるモノはいろいろあるっつーことで」

茄子「いろいろあるんですね」

――…………

つかさ(……! 出ない?)

千奈美「どうしたの? 何か意外そうな顔をしてるけど」

つかさ「いや……こっちの話」

つかさ(あの光が出ない……おかしい、さっきまでと違う?)

千奈美「そういえばツカサ、あなたは何故この村に?」

つかさ「ん、ああ……商売のついで、ただ寄っただけ」

千奈美「そう、それは災難ね」

茄子「私達と一緒で、巻き込まれたんですか?」

有香「でもあたしなんかよりずっとずっとお強いです、お見事……!」

つかさ「褒めても何も出ねーし」

千奈美(……商売に来た、ではなく寄っただけ……なら、何かここに目的があるはず)

千奈美(彼女ほどの人物が、ここの噂を信じていた?)

つかさ「しっかし、これが違うとなると次は……」

千奈美(そして騒ぎが始まった今でも撤退する気配は無い。ここ留まっている理由は……?)

つかさ「…………」

つかさ(あの光は、ただ倒せば出るってモノじゃないとか? だとすると今までは偶然条件を満たしてたっぽい)

有香「それでこれからはどうしますか?」

茄子「やっぱりこのまま動かない方が……」

つかさ(今とさっきと違う点、何だ?)

つかさ「……アタシが仕留めないと駄目なのか?」

茄子「え? なんですか――」

――ガシャン!

千奈美「上?!」

茄子「あっ!?」

有香「また暴徒が……!」

つかさ「ちょうどいい、アンタで確かめることにする」

――ガシッ

千奈美「ツカサ?!」

つかさ「フッ!」

――ザンッ!

有香「わあっ!?」

つかさ「問答無用な、そっちも武器持ってたし」

千奈美「ちょっと……あなた意外とバイオレンスね」

つかさ「刺激強かった? ま、申し訳ないけど仕方ねーってことで……おっと」

――パァッ

つかさ(ビンゴ。……仕組みは完全には分かってないけど)

茄子「大丈夫ですか?」

つかさ「おっと、危ない危ない」

千奈美「危ないようには見えなかったけどね」

つかさ(気づいてないなら気づいてないうちにアタシのもの――)

――ヒュンッ

つかさ「おッ?!」

千奈美「どうしたの? ……うん?」

茄子「え?」

有香「光……?」

つかさ「ちょっ、どこ行く……!?」

――ヒュゥゥ……

つかさ「えぇ……?」

有香「飛んで行っちゃいました……」

つかさ「マジかよ」

つかさ(飛んでいく? んだよソレ、初めてのパターンとかないわ)

有香「……もう建物の影に隠れちゃって見えません」

茄子「魔法……には見えませんでしたね? それに、効果も分からない……」

千奈美「ツカサ……今のは? ……当然知ってるわよね、今の反応だと」

つかさ「……あー、知らないね」

千奈美「知らない?」

つかさ「そ、知らないって言うのは嘘じゃない、本当に全部は知らないから」

千奈美「じゃあ一部は知ってるんでしょ?」

つかさ「いや一部っつっても……ん?」

――ズズッ

つかさ「…………今……何か動いたんじゃね?」

千奈美「話題を逸らすの?」

つかさ「そうじゃねぇって、マジで今後ろで――」

――ズズズッ!

つかさ「うおっ……!?」

千奈美「んっ?!」

有香「ち、チナミさん! カコさん!」

――ゴオッ!

つかさ「建物ッ!?」

茄子「い、家が丸ごとこっちに迫って……!」

千奈美「何?!」

つかさ「ちっ、新手か……そこの武道家!」

有香「あ、あたしですか!?」

つかさ「その建物壊せ!」

有香「無茶ですよ! そんな常識はずれな力なんて持ってませんっ!」

つかさ「だろうな……!」

つかさ(かといって、アタシの武器でもこれは……いや!)

つかさ「魔術士!」

――ヒュンッ

茄子「え?!」

つかさ「それに火、寄越せ!」

有香「何を投げたんですか?!」

茄子「わ、分かりませんが……火、ですね……!」

――ボウッ

茄子「ここにですか?」

つかさ「それでいい! その後は――」

――ジジジッ!

有香「火がつきましたよ!」

千奈美「ちょっ……これって!?」

つかさ「爆破解体には便利だろ?」



――ドガァンッ!!

有香「げほっ、けほっ! ば、爆弾っ……」

千奈美「ちょっと強引よ……助かったけども……」

つかさ「背に腹は代えられないから、よくやった魔術士、ナイス」

茄子「どうも、けほっ……」

千奈美「……窮地を脱したところでいきなりだけど、質問していい?」

つかさ「アタシに?」

千奈美「あなたさっき『新手』って言ったわね」

つかさ「……!」

茄子「そういえば……さっき」

千奈美「建物が動いたことを攻撃と認識していて、それを行使した相手がいると分かってるの?」

つかさ「……あー」

千奈美「どうなの?」

つかさ「答えはノー、知らない」

千奈美「またその返答?」

つかさ「繰り返しだろうが嘘は言ってないから」

つかさ「だけど……そもそも気づいてるっしょ? 今の騒ぎ、暴動、無差別」

千奈美「何の事?」

つかさ「狙ってる奴が居るんだよ、ここにいる近辺の人を全員……“当たり”が出るまで」

茄子「当たり?」

つかさ「そこまで言ったから察しろって……!」

――ギィンッ!

有香「わっ!」

千奈美「ちょっと、何を?!」

つかさ「反論は後ろ見てから言えっての!」

千奈美「後ろ……?!」

――ゴオッ

茄子「わぁっ?!」

有香「う、植木鉢とか瓦礫とか……!」

茄子「こちらに飛んできています!」

つかさ「黙ってりゃアタシが全部落とすから頭下げてろよ!」

つかさ(これはガチか? だとするとさっそく“使わなきゃ”駄目か?)

つかさ「これしきの攻撃でアタシから奪えると思うなら査定甘すぎるっしょ?」

――ジャラッ

つかさ「武器なら大量入荷中だッ――――」

――カンッ! ガンッ!

有香「ひゃあっ!」

茄子「防御壁、薄いですけど……張れました!」

千奈美「上出来よ! 細かい破片程度なら防げる強度ね」

千奈美(まさか、さっきのツカサの言う当たりとか、暴動の原因……本当に例の噂なの?)

千奈美(そして噂は嘘なんかじゃなく、本当……? だから彼女は、その力を狙いに来た?)

千奈美(だとするとこの争いは本気の力の奪い合い……!)

千奈美(これは、ツカサに詳しく問いただす必要が――)

――カァンッ!

茄子「きゃっ!?」

有香「あわわ……あちこちにヒビが!」

茄子「すいませんっ……あまり上等な結界が展開できなくて……」

千奈美「っ、考えてる暇は無さそうね……ツカサ! あなたも早くこっち……に…………」

――…………

茄子「どうしたんですか?」

千奈美「……いつの間に」

有香「いつの間に? え? ツカサさんならそこに……っ!?」

――カランッ

つかさ「……ちょ、マジ……で……か?」

??「傍から見ていましたがー、武器の数々は……」

――ドサッ

??「あたかも無から生まれたよう……即ち異能の才、ならば」

千奈美「ツカサ!!」

つかさ「まずった……がはっ」

茄子「つ、ツカサさん!?」

有香「急に倒れ……じゃない! ツカサさんの……後ろの人が何か攻撃を!?」

――パァァ

??「これは紛れもない本物のー」

つかさ「っう……! せっかく集めたもの、盗られるワケに――」

――ドンッ!

つかさ「かはっ!?」

??「お静かにー」

有香「あっ! あの光……さっき見たものと同じ! でも、あれ?」

茄子「今の、ツカサさんから出たような……」

千奈美「…………なるほど、ね」

千奈美(あの“光”が、今……この暴動を巻き起こしてる原因なのね?)

??「この光が与えるのは、まこと不思議な才の力のようでー……その光同士が交わることでより大きな力になりましょうー」

千奈美「……とんだスクープよ」

茄子「ツカサさん!」

千奈美「待ちなさい! 攻撃は止んだけど、相手の敵意が止んだわけじゃないわ!」

??「いえいえ、わたくし全てを等しく手にかけているわけではなくてー」

有香「や、やりますか!? あたしだって少しは戦えます!」

千奈美「止めなさい。子供に見えても、私の考えが正しければ……」

千奈美(暴動が起きるほど求められている“何らかの力”が、彼女の手にある……あのツカサも不意とはいえ倒れている!)

茄子「私達に……何の用ですか?」

??「もし、そなたに同じような光の心当たりがあるならばー」

有香「光? って、さっきツカサさんが言ってた……」

??「今しがたそなたが確認したものに間違いありませぬー。もしもそなたが身に宿しているならばー」

――ススッ

??「この依田の芳乃、ヨシノに少しばかり譲ってはいただけませぬかー」

乙です
最初から見てます!

途中から見始める人はいないでしょうw

有香「光を、譲る?」

芳乃「心当たりはございましてー?」

千奈美「あなた……その光の正体を知ってるの?」

芳乃「及ぼす作用という意味ならばー」

千奈美「……やっぱり、何かはあるのね?」

芳乃「何もなければ手荒な真似などいたしませぬー」

つかさ「ぐ……」

有香「ツカサさん!」

茄子「どうにかして上の彼女を動かさないと……!」

つかさ「ヘッ……手荒ね……!」

芳乃「下手な抵抗は身を悪くするのでしてー」

つかさ「こんなもん、手荒に入らないしな」

芳乃「……!」

――グッ

つかさ「甘ぇよ……!」

芳乃「ほー?」

――ドォンッ!

有香「きゃっ!?」

茄子「爆発! つ、ツカサさん!」

千奈美「落ち着いて……私には、ツカサが何かしたように見えたわ」

――パラパラ……

芳乃「けほっ……むー……武器など取り出せない状態ではー……」

つかさ「アタシを狙ってるなら、察しろっての……!」

――ヒュンッ!

芳乃「っー……!?」

茄子「今のは……」

有香「武器です! 小さな短刀……あれ? でも……さっきの爆発物って」

茄子「上から押さえつけられてるあの姿勢で、どこから取り出して投擲したんでしょう?」

つかさ「それは……企業秘密、OK?」

千奈美(いや、いくら仕込み武器でも拘束されている状態で繰り出すのは無理があるはず!)

芳乃「……なるほどー。力は得手に宿るという通りでー」

有香「ど、どうなってるんでしょうか! 大丈夫なんでしょうか!?」

つかさ「問題ないし、それよりも」

芳乃「すると、まだそなたの体には……わたくしが求める光の加護が残っているのではー?」

つかさ「さっき奪ったせいで、半減以下だけどな……! ただで帰さないから――」

有香「ツカサさん!」

――ガッ

つかさ「ちょっ!? 離せって!」

芳乃「おやー?」

千奈美「馬鹿言ってないで、逃げるわよ」

有香「出来るだけ離れましょう!」

つかさ「おまっ、痛っ! 乱暴すんなっ……!」

千奈美「聞きたい話もあるからね」

茄子「追いかけては……来ていません、いけます!」

千奈美「あの光について、もう一度詳しく話して貰うわ」

つかさ「……嫌だって言ったら?」

茄子「どうして話してくれないんですか?」

千奈美「その点も謎ね」

つかさ「お前さ、例の情報電報の記事書いてる記者っしょ?」

千奈美「ええ、そうよ。……自己紹介、してなかったかしら?」

有香「記者? 情報電報? それってあの……」

千奈美「要望批判は後で聞くわね、で?」

つかさ「……このネタ、聞いたら絶対に書くだろ?」

千奈美「当然ね」

つかさ「やっぱりな」

千奈美「ただ、賑やかしや取れ高で書くわけじゃない」

千奈美「まだ恐らくは“始まったばかり”の、光の争奪戦が……ここまで瞬間的に膨れ上がった」

茄子「たしかに、この騒動は異常です」

千奈美「何もなかった村が一瞬で戦火、こんなものが大きな国に飛び火したら……大事よ」

つかさ「だから? 先に広めて……どうすんの?」

千奈美「……どういう意味かしら」

つかさ「知ってるっしょ、この噂は元々既に広まってて……それでも信じた馬鹿と、確証があった利口が集まってんだよ」

つかさ「そこに、途中で諦めた無能と、機を伺ってる猛者をわざわざ焚き付けんの?」

有香「……? ……?」

茄子「つまり、伝えることによって騒ぎが広がるという意味ですか?」

つかさ「ま、それは想像論だし? 本音は普通に、手の内晒したくないだけ」

有香「手の内……確かに、必殺の刃は胸に秘めておくべきですが……!」

千奈美「解せないわね」

つかさ「なぜ手の内、なんて言い方してるか気になってる感じ? 答えは簡単……アタシも、恩恵受けてるから」

有香「恩恵、って、この光の話のですか?」

茄子「知っていて参戦して、既に手に入れてるんですね……!」

千奈美「……予想はしていたわ」

つかさ「だからこそあの子供にも、なんだかんだで狙われる対象だし狙う対象でもある」

千奈美「狙う対象? そういえば……あなた、最初の光を見た時もよく考えたら――」

つかさ「ストップ。勝手に想像するのは結構だけど、聞き返すのはお断り」

千奈美「…………」

つかさ「要するに自分の足で調べろって意味、新聞記者だろ? 出来るだろ?」

有香「教えてくれないんですか?!」

つかさ「今言ったっしょ? その上で、触れていい話題かどうか判断しないと……うん?」

――ズズッ



・・

・・・


――……クンッ

芳乃「わたくし依田の芳乃はー、元来より失せ物へと導かれる力を持つ一族でしてー」

芳乃「どうやらその力もー、この“光”が関係しているようでしたー」

芳乃「導かれしまま、より多くの光を手にしたわたくしはー」

――ヒュンッ パシッ

芳乃「……落とした物も」

芳乃「置いてきた物も、手元から離れたもの全てをー」

――ヒュンッ…… パンッ

芳乃「わたくしの手元へと、失せ物を戻すことが出来ましてー……さて」

芳乃「ツカサと申されたお方ー。まこと失礼ですが先ほど足蹴にしてしまった時、衣にわたくしの簪がついたままになりましたー」

――スッ

芳乃「……失せ物は、どちらから舞い戻りましょうかー?」




・・

・・・

――グンッ……!

つかさ「っうお……っ?!」

有香「えっ?!」

千奈美「なあっ?!」

つかさ「なんっ……ちょっ……!!」

――ズズズズッ

つかさ(何だ?! 掴まれて……違う! 服が引っ張られてる?!)

有香「そ、そっちに行くとさっきの子がいますよ!」

つかさ「行きたくて、行ってるわけじゃないって分かれよ……!」

千奈美「様子が変ね……!」

茄子「ツカサさん!」

――ピシィッ ドンッ

つかさ「っぐ」

茄子「乱暴ですが結界で制止させて貰いました!」

つかさ「痛っつ、本当に乱暴だけど、正解……よし!」

――ビリッ!

有香「わっ?! ツカサさんどうしたんですか!?」

つかさ「引っ張られてるのは、アタシじゃなくて服だ!」

千奈美「服が?」

つかさ「安くない上着だけど、進呈させてもらう……感謝しろよ!」

――バッ  ヒュンッ

有香「上着が!」

千奈美「一直線に飛んで行った……風、じゃないわね」

つかさ「当たり前。おっかないね、もう少しもたついてたらアタシがあの上着、引きずられてさてどうなる?」

――カランッ

茄子「!」

千奈美「何の音?」

有香「服から……何か出てきました、けど……?」

茄子「あれは、簪……です」

有香「カンザシ?」

千奈美「普通の装飾品、なわけないわねこんな状況では、あなたの私物でもない?」

つかさ「違うね、アタシはもっと鋭利なモノを作るってな」

茄子「あの飾りにも何か罠が……!」

有香「絶対にそうです、気を付けましょう!」

つかさ「断定は早計っしょ」

――ザッ

茄子「あっ! つ、ツカサさん! 不用意に追いかけると――」

つかさ「大丈夫っしょ」

千奈美「……あなたの商売柄から簪は普通の道具と判断してるの?」

つかさ「十中八九そう、何もないね」

――パシッ

有香「手に……取りましたね?」

茄子「何も起きませんか?」

つかさ「触っただけでドカンなんてあり得ないし。……ただ、道具に何らかの“力”が働いてる可能性、否定できないっしょ」

有香「力……それが、あの光なんですか?」

つかさ「…………」

千奈美「まだ黙ってるの? いい加減――」

芳乃「失せ物はこちらより舞い戻りましてー」

有香「っ! 来てます!」

つかさ「おっと、お出でなさった感じ?」

――ザッ

芳乃「簪はー……おやー、手に持っておられるのでしてー」

つかさ「落ちてたものを拾ったからアタシのものだ、返さないし」

芳乃「ではそちらは差し上げましょうー」

つかさ(……だとすると、ますますこの簪は何でもないアイテムって事か、もしくは取り返せる自信アリってとこか)

千奈美「ねぇあなた」

芳乃「わたくしヨシノと申しましてー」

千奈美「じゃあ、ヨシノ。あなたはどうしてこの……争いを見つけて、混ざろうとしているの?」

千奈美「目的は……やっぱり“光”なの?」

茄子「チナミさんっ……」

つかさ「知りたがりだねお前も」

芳乃「それを知ることはたいへん危うし沼に足を踏み入れることとー」

千奈美「構わないわ。私は知りたいの、性分でね?」

芳乃「決意固き勇敢なるお人ー、それでは知る限りですが閑談と参りましょうー」

つかさ「いいのかよ、喋んのかよ」

芳乃「急いては事をし損じましてー」

有香「取り合いになるほどの力……」

芳乃「光は、種子と呼ばれる古き文明の力の憑代なのでしてー」

有香「種子? 種? 植物?」

千奈美「そう呼ばれているだけ……ということかしら、名称はどうでもいいのよ」

芳乃「光を収束せし者は、まこと素晴らしき力を得るものでー、いずれはこの力が主流になりましょうー」

茄子「力が……」

つかさ「言うだけ強力ってこと。それが集めるだけで手に入るなら、キャパ割くのもアリって事」

有香「でも、そんなものに頼る力なんて、力じゃないですよ! あたしなんて長く、この身一つで戦ってきてましたから!」

つかさ「そりゃあアタシだって同じだけど」

有香「カコさんだって、頑張って習得した努力がありますよねっ!」

茄子「私も……そ、そうです、ね……」

芳乃「己が身だけという信念はたいへん良き事ですがー、本末転倒という言の葉もありましてー」

千奈美「死んだら元も子もない、ってこと?」

芳乃「ゆえにわたくしは早き刻から」

――スッ

茄子「っ! 気を付けて! また何かやってきます!」

芳乃「つわもの現る前に、この競を抜け出してみることをー」

――ヒュンッ!

有香「また後ろです!」

茄子「はい!」

千奈美「ツカサ!」

つかさ「……分かってる!」

――キィンッ!!

茄子「っ! ただのガラス片なら私の防御壁でも……!」

千奈美「ちょっと、せっかく結界持ちがいるんだから近くにいた方がいいわよ」

つかさ「私用だし……! 最終的には隠れたから問題なしっしょ」

有香「安全に立ち回りましょうよっ!」

芳乃「二度は通用しませんとの構えでしてー?」

茄子(今の……ツカサさん、私達と違ってすぐに隠れるんじゃなくて、見ていた?)

つかさ「…………」

つかさ(また背後から攻撃? 芸がない、ってわけじゃなさそうだな)

芳乃「まだ不慣れゆえー、うまく操れませんのは仕方なきことー」

つかさ(不慣れ……ね。それなりに攻撃動作か準備が必要? だとすると無駄話も時間稼ぎの一環、あり得るね)

芳乃「しかし刻が重なれば自然と馴染むのは疑いなき様でしてー、己の力に拒まれるなど考えられなくー」

有香「どうしますか……? まだ“力”って、結局何のことか原理も効果も分かってなくて……」

千奈美「攻め込めないわね……そもそも、私なんて戦力に数えられても困るけど――」

つかさ「……読めた」

茄子「え……?」

芳乃「ほー?」

つかさ「道具を操るってわけじゃないっしょ、この様子だと」

有香「違うのですか?!」

茄子「でも、さっきから死角を突いた攻撃ばかり……」

つかさ「死角っつーか、後ろ」

千奈美「同じでしょう?」

つかさ「いいや違うね、同じじゃない。それに、後ろってのも少し違う感じ」

つかさ「正確には……お前とアタシ達の直線上だ」

芳乃「…………」

有香「直線、あっ!」

つかさ「思えばアタシが引っ張られたのも、当然だけどアンタの方向」

千奈美「言われてみれば、その通りね。……気付けなかったのが不覚ね」

つかさ「でもって、軌道上を動いたのは全て“何かの物質”だ」

つかさ「ヨシノとか言った? お前、どうやらいろんなモノを動かせそうだけど……それは引っ張る限定っしょ?」

芳乃「……さぁ、どうでしょうかー」

つかさ「だったら対策は簡単だろ? 魔術士!」

茄子「はいっ!」

――ヴンッ

芳乃「ほー……」

つかさ「基本、背後に壁置いて見張れば脅威じゃない、これが正答」

芳乃「なるほどー、それも一つの考え方でー」

つかさ「ここから反撃っしょ」

有香「はい! ……って、攻め込むんですか!?」

つかさ「は? 当たり前だろ、このまま盗られるだけ盗られて帰すかって、手伝えよ」

有香「お、押忍! 頑張ります……!」

おつ
アニメから入った新参だから今の章の登場キャラは全然わからん

アニメからでこのスレとか上級者すぎる
これを気にちょっと調べてみては

つかさ「まずは小手調べ! 先鋒はこの!」

――ヒュンッ!

芳乃「ほほー」

千奈美「投げナイフ!」

つかさ「これくらいなら――」

芳乃「造作もないのでしてー」

――ヒュオッ

茄子「魔法っ!?」

千奈美「軌道が逸れた……!」

芳乃「小刀の一本や二本では、この身に届かせることは無き事かとー」

千奈美「相手が使ったのは風か、光か……なんて、どっちでもいいわね」

茄子「避けられちゃいました、どうしますか?」

つかさ「想定済みに決まってるっしょ……今のうち!」

――ダンッ!

有香「はいっ!!」

芳乃「ほー?」

茄子「牽制して、その隙に!」

千奈美「もう行動していたのね……!」

有香「空手の真髄をッ!!」

芳乃(今の一瞬で、ここまで近く――)

つかさ「いいバネしてるし」

――ググッ

有香「覚悟を!」

茄子「叩き込めば、すぐに決着が……!」

芳乃「決してしまうのならば受け止めるわけには行きませぬー」

有香「避けるつもりですか!」

芳乃(見て躱す事が出来てしまえば喜ばしいのですがー)

――スッ

つかさ「……! 気をつけろよ、何かの予備動作とか思考しとけ!」

有香「お、押忍っ!」

芳乃「優秀な指揮官でしてー」

――グッ

芳乃「それではー……」

有香「いざ!!」

茄子「ユカさん! 気をつけてください!」

千奈美「このままあっさり終わるとは思えないけど……」

芳乃「念には念を重ねてー……!」

――ギュンッ

つかさ「!」

有香「はァァッ!!」

茄子「何か割って入って――」

――ベキィッ!!

芳乃「っ……けほっ……!」

有香「ばっちり入って……!?」

――ミシッ

有香「な、あれ!?」

芳乃「なるだけ……頑丈なものを用意していたつもりでしたのですがー」

――ベキッ……

千奈美「……あれは?」

茄子「鉄板が、いつの間に手元に?」

有香「ふ、防がれた……くっ!」

芳乃(真っ二つではありませんがー、鉄素材の板が大きく歪曲する威力ならば、もしや――)

つかさ「いつの間に? どうして、だって?」

――ザッ

つかさ「決まってんだろ、アタシの言った通り……手元に引っ張ってきたんだよ、あの鉄板を」

芳乃「ほー……」

有香「引っ張って……でも、近くに鉄板なんて――」

千奈美「……本当なのね」

有香「え?」

茄子「近くにないものを、移動式じゃなくて物理的に引き寄せた……」

つかさ「これでほぼ確定っしょ? 言った通り、あいつは“引っ張る力”が、ある」

芳乃「……わたくし、力の全ては露呈していないのでして」

つかさ「そうかよ、だったら早く出し切る決断をした方が利口、その証拠に!」

――ピンッ

有香「わっ!?」

千奈美「ユカ! ツカサが何かする気よ、下がって!」

有香「は、はいっ!」

――バッ

つかさ「ワイヤートラップは基本だろ?」

芳乃(ほー……? いつの間に……?)

千奈美「仕掛け、どのタイミングで……!」

つかさ「企業秘密、知りたきゃお買い求めな。つーか堂々と何かする気とか言うなって」

千奈美「言っても大丈夫、ユカとヨシノじゃ見る限りでも反応速度が、ね」

つかさ「念の為だっつー、のッ!」

――ビュンッ!

有香「一斉に……や、槍!?」

つかさ「これは鉄板でも盾でも、全方向は防げないっしょ?」

芳乃「……何も、異能の才だけが各々の力量の全てではなくー」

――ピキンッ

茄子「あれは……!」

有香「周囲を覆うように、結界!?」

千奈美「何も不思議じゃないわ、確かに行使できてもおかしくはない……!」

芳乃「先のそなたの拳には敵いませんがー、たかだか数十本の刃ならばー」

つかさ「防げるって?」

――スッ

茄子「それは……?」

有香「まさか、これも見越して先に仕掛けを?!」

つかさ「それ最善。でも今は無理」

有香「ありゃりゃ……」

つかさ「そこそこ上物の結界を、人の手介してない槍とかナイフで割れる貫けるとか、あり得ないし」

茄子「で、では今の攻撃は……無駄?」

有香「貫けないなら、あたしが割ってきます!」

つかさ「いやいや、んな危ない事しなくていいし、よく考えろ」

つかさ「結界張れるとか、普通に想定できるっしょ。だって、引っ張る力ってアタシ言っただろ?」

つかさ「でもって実際に、この戦闘前に引っ張られてたモノ思い出せっての」

茄子「戦闘前に……!」


――ゴオッ!

――建物ッ!?

――い、家が丸ごとこっちに迫って……!


茄子「み、民家が……確か……」

有香「確かに!」

つかさ「だろ? それだけパワーがあって、あの華奢な体。引っ張ったモノが殺到してきて、無防備晒してたら死ぬだろ」

千奈美「……だったら、結界……それも、かなり上等なモノを作れてもおかしくはない」

つかさ「まだ根拠はあるし。この争奪戦に、混ざる度胸もしくは実力がある輩、何か異能以前の一芸があるはず、当たり前」

有香「それが結界……な、なら猶更あたしが!」

つかさ「だから黙っとけって、もう手は打ってる」

芳乃「何をしても無駄でしてー……!」

――ピシィッ……!

茄子「結界が!」

千奈美「駄目、展開が終わってる、早い……! これじゃ設置してる武器は……」

芳乃「元は邪気孕みし悪鬼を捕えるための結界を得手としていた名残でー、内外を跨ぐ妨げは如何なるものも通さぬ強度の――」

つかさ「ご丁寧に構えてくれて助かるわ、マジで」

――カチッ   ピッ

芳乃「……ほー?」

茄子「今の音は……?」

――ピッ ピッ ピピピッ

芳乃「……これはー……?!」

有香「み、見てください! あの、結界の内側……小さな、丸い機械が……!」

つかさ「お前、結界の強度に自信ある系? それ助かる」

芳乃(いつの間に内側に――)

つかさ「おかげで、アタシらは被害受け無さそうだし」

――カッ

芳乃「むぅ――――」



――ドォンッ!!

茄子「きゃっ……あ、れ……?」

――…………

つかさ「マジか」

有香「音は凄いです、が……衝撃は、全然……まさか、失敗!?」

千奈美「違う……わね」

つかさ「結界は割とプロいね。アタシの炸裂弾の衝撃、外に逃がさないなんて、やるじゃん」

――バキッ……

茄子「結界が、割れた……」

つかさ「中の人は、無事じゃないけど関係ないっしょ、それよりも――」

――ポゥッ

つかさ「悪いけど、アタシに返してもらう」

茄子(また、あの光……!)

千奈美「……奪うのね、やっぱり」

つかさ「勿論。つーか、コレに関しては元々アタシのだし」

有香「そうでしたっけ?」

つかさ「まぁいいっしょ、じゃあこれはアタシの――」

――スカッ

つかさ「おろっ……ん? ちょっ……!」

有香「え? あっ! 光が!」

つかさ「は? え?」

――ヒュンッ

茄子「ツカサさんから、逃げる……?」

つかさ「またかよ……! なんでだよ! アタシに何か文句でも――」

芳乃「文句ならば両の手では足りぬほどー……なかなかどうして、けほ……」

つかさ「……!」

有香「こっ……?!」

茄子「まさか――」

――バッ!

千奈美「あの爆心地で、無事……?」

有香「い、いえ、ダメージは受けています、が……妙です!」

つかさ「妙? ……んなレベルじゃねぇし。なんで立ってんだ、どうして生きてんだ、なぜ……アタシから、また光を奪えたんだ?」

芳乃「ツカサ殿はー、聡明な知識と考察力を兼ねておられるのでしょうー」

つかさ「……自分で考えろって言いたいワケ?」

芳乃「いえいえー……少し考えれば、正解は導かれることでしょうー」

――シュイン

茄子「光が……ヨシノさんの中に」

芳乃「わたくしは手元より離れし失せ物を集める力を持っておりますゆえー」

芳乃「自らの身体を離れた力がわたくしにとっての失せ物であるのは明確でしてー」

つかさ「……把握」

つかさ(これ、予想よりメッキ剥がすの疲れそうな相手)

千奈美「それじゃあ、その極端に偏った爆発の傷は?」

芳乃「咄嗟の思考とはいえ、わたくしもそれなりに知恵を働かせー」

――ボロッ

つかさ「!」

有香「手から、いろんな破片が……!」

芳乃「……わたくしの手元から四散した破片は全て失せ物でー、広がる破片を集めたのでありましてー」

千奈美(どうりで……明らかに、手とそれ以外の部分でダメージが違いすぎる……!)

つかさ(炸裂弾の中の破片を“手元から離れたもの”として、手に集めたって事か……)

有香「で、ですが手を封じたなら……!」

千奈美「手が使えないというだけで、あの不思議な力は健在よ」

つかさ「はっ……だけど、これでこちらの情報も増えたから。モノを扱える、引き寄せる力は、どうやらお前の“手中にだけ”っぽいね」

芳乃「…………」

つかさ「そうじゃなきゃ怪我確実の破片諸々を、大事な体の部位になんて集めないっしょ」

芳乃「ご覧の通りでしてー。……しばらく、休養に専念せねばなりませぬがー」

つかさ「だったらアタシがいい医者紹介してやるし、代わりに――」

芳乃「譲れ、というお話ならばそういうわけにも行きませぬー」

つかさ「だろうな、じゃあ二の矢三の矢で仕留めることに……」

――…………

つかさ「ん?」

芳乃「ほー……?」

茄子「……どうしたんですか?」

つかさ「いや、少し気になっただけ」

千奈美「何が?」

芳乃(周りの邪気喧騒が、治まったのでしてー……暫し混沌は続くと見ましたがー)

つかさ「さっきから、こんなに静かだったか?」

――Prrr……

千奈美「……通信?」

茄子「あっ、えっと……この音は」

――ガチャッ

茄子「ヤスハさん!」

泰葉『カコさんですか? 無事ですか?』

茄子「は、はい、ひとまずは……」

つかさ(……ヤスハ?)

芳乃(聞き覚えのある、いえ、その名は確かー……)

泰葉『連絡が遅れて……そちらで、何が起きていますか?』

茄子「え、ええと――」

つかさ「普通に喋ってるけどさ、知り合い?」

泰葉『……僅かに聞こえる声があるということは、誰か他に居るんですか?』

茄子「はい、何人かは……」

泰葉『知っている人ですか?』

茄子「いえ、今日初めてお会いした方ばかりで……」

泰葉『初めて、ですか……』

つかさ「…………」

つかさ(まずったか? まさかこんな上の人物と通じてる奴が居たとか……)

芳乃(迂闊にお喋りが過ぎた恐れがー)

有香「有名な人なんですか?」

千奈美「さっき、あっちに見える建物で……この騒ぎが始まるきっかけになったかもしれない爆発があったでしょう?」

千奈美「その建物を拠点にする組織の中心人物よ」

有香「へぇー……」

芳乃(そもそもこの噂に『協会への襲撃』が含まれている以上、協会の人物と接触は避けたいのでしてー)

つかさ(避けるために、一番情報の広がりやすそうな新聞記者をマークしてたらすぐ隣にもっとヤバイのが居た、って笑えねぇ)

茄子「――それで……事情を知ってるお二人同士が交戦して」

泰葉『カコさん……もういいです』

茄子「え?」

泰葉『まさか直接現地で、そのものずばりの相手に遭遇しているなんて……』

泰葉『ですが今は、その幸運は不要でしたね……早く、迅速に、その場から逃げてください』

茄子「え、えっ? どういう事ですか?」

泰葉『説明は後です……とにかく、そこは危険です。私達が向かうまでは――』

つかさ「なるほどね」

――バッ

芳乃「ほー?」

有香「あれ? ツカサさん、どこに……」

つかさ「聞く限り、やっぱり協会ってのは“コレ”の事、知ってるっぽいな」

茄子「知って……何が、ですか?」

芳乃「力の独占とは不届きでしてー」

千奈美(……そういえば、一説に“流出した力”は元が魔術協会が隠していたもの、なんて話もあったわね)

つかさ「事情を知ってる奴が来るなら、留まっても損」

千奈美(ただの説だったのに、この通信……まさか、本当に?)

つかさ「分からん殺しする為に来てんだ、知識人相手なら退くのが一番」

芳乃「一理ありましてー」

――タンッ

芳乃(ここを訪れたのは“不確かな情報”が元ですがー、その情報の流出元が仮に魔術協会ならばー……)

芳乃(わたくしよりも詳しい内情を知った人物が、ここへ“騒動の鎮圧”に来るわけでー)

つかさ「退散が吉!」

茄子「あっ、ど、どこに行くんですか!」

芳乃「わたくしも、身を控えましょうー」

泰葉『どうしたんですか?』

茄子「えっと……その、さっき言った交戦していた二人がどこかへ行ってしまって」

泰葉(……勘付かれた?)

泰葉『そうですか……大丈夫です、構いません』

泰葉(だとすると、私達が異能に関わっているとも知られている?)

茄子「私は、今からどうすればいいですか?」

泰葉『カコさんは……今、そこに何人と一緒にいますか?』

茄子「三人で居ます。私と、チナミさんとユウカさん、です」

泰葉『チナミ……と、ユウカ、さんですか?』

千奈美「ああ、えっと私の名前は……」

茄子「まずかったですか?」

泰葉(確か、例の新聞記者の一員……という事は放っておくと……危ない?)

泰葉『……いえ、やめておきましょう』

茄子「?」

泰葉『カコさん……今すぐ私が向かいます、移動してください。場所は――』




・・

・・・

*魔術協会 本部*


泰葉「この“異能の種子”の情報は、既に一部には割れている、と見ていいでしょう」

茄子「今のお話と……確かに、近い話はツカサさん、ヨシノさん、チナミさんが共に……」

沙織「…………」

泰葉「不幸中の幸いとして、噂を知る人物の大半は内容を信じていなかった、という事です」

泰葉「ですが今回、何かの拍子と偶然が重なり……噂が証明されてしまった」

雪乃「私も見てきましたが、なかなかの荒れ具合でしたわ」

泰葉「『ツァーリ』にて、人智を超える力、すなわち異能の種子を持つ人物が、自身の異能を自覚してしまった」

泰葉「結果、暴動と奪い合いが起きて……」

雪菜「展開が、早いねぇ……」

凛「隠していたはずの話が、もう公に……?」

未央「それって超まずいんじゃないの!?」

里美「ちょっといいですか~?」

里美「今の話では~、種子は“光”とだけ認識されていて、全てがバレているわけではないように聞こえますが~」

卯月「あ、じゃあ……いいの、かな?」

沙織「だども、時間の問題でねぇか……」

朋「それに、今の話だとその場にいた人をそのまま帰したの? しかも、例の記者組も居たって言ったね?」

雪菜「確かにそこは問題がありそうですねぇ」

泰葉「……かといって、確保するわけにもいきません」

里美「有事だからやっちゃってよかったんじゃないですか~?」

朋「責任とか考えてるほど余裕のある案件じゃないし……」

沙織「み、皆さん落ち着いて……」

雪乃「……私達は中立組織です。あまり強攻策を取ると、その場は良くても後に響きますわ」

雪乃「しかし今回の騒動で、私達が予想していたよりも早く……事が進んでしまうのは必然ですわ」

雪菜「だとすると……どうするぅ?」

里美「他に案なんてあるんですかね~」

雪乃「……今、下で待たせているレイナと同様に――」

沙織「ところで、一人で待たせて大丈夫で……?」

雪乃「ええ、ちゃんと……していますわ。念の為、アカネさんにも見ていてもらっていますが」

雪乃「とにかく、急に事情が変わる事は既に経験済み……想定しなければなりません」

凛「その結果がこの状態?」

卯月「計画を立てる前に、こんなに事態が変わっちゃうなんて……」

未央「どうする? どうすれば、いい感じに丸く収まる?」

雪菜「……いっそ、注意喚起しつつ先に私達が広めたらどうですかぁ?」

沙織「さ、先に?」

泰葉「それは、どこまでを……ですか?」

雪菜「『異能の種子』の存在と、対策と、副作用をですぅ」

里美「それは無茶じゃないですか~? どうして今まで協会が種子の存在を公にしなかったのか、理由を考えれば――」

沙織「いや、今と昔は事情が違う……もう、どこでも目にするかもしれねぇ危険物質になっでで……」

沙織「セツナさんの言う通り、いっそ伝えた方が――」

朋「それはまずいって! だって、どうやって伝えるの? どう説明するの?!」

朋「使ったら、大きな力が手に入る。でも、代わりに世界の崩壊が進みます、だから使わないでください、なんて言うの?」

沙織「だども……」

里美「皆さんは将来の世界の危機より、目の前の抗争の方が大事ですからね~、お話は聞いてくれないかと~」

――ザワザワ

未央「なんだか纏まらない雰囲気かも……?」

凛「迂闊には決められない内容だからね」



愛梨「…………私は、賛成です」

雪乃「アイリさん?」

愛梨「信じて、協力してもらえるほどに……この組織は中立を保ってきたはずです」

沙織「そりゃあ、わだすもそうなるようには努力しで……」

雪菜「でもねぇ……私が言いだしっぺでこういうのもなんだけどぉ、難しいかなぁ」

泰葉「強力な力を求めて抗争の激化が……」

愛梨「仮に激化する地域があっても……それを上回るだけの協力が――」

里美「得られるはず、ですか~?」

朋「……かなり、甘い考えな気もするよ」

愛梨「いえ、根拠もあります」

里美「聞いてもいいですか~? その、具体的な根拠と、方法を~」

沙織「アイリさん……」

愛梨「まず……先に、それなりの協力者を揃えます」

泰葉「協力者を? それは、どういう意味ですか?」

愛梨「もちろん、今の計画を手伝う頭数……種子の危険性を理解し、こちらと同盟を結ぶ協力者です」

里美「ふーん……」

愛梨「その上でこの計画には協力者がいる、と踏まえて……全国に一斉に、協力者を募る」

朋「……集める?」

愛梨「予め、例えば私達のような一定の肩書きを持った人が協力している、と伝えるということは」

愛梨「協力しなかった場合は、私達を敵に回すということです」

里美「当然ですね~」

愛梨「つまり、対立です。こちらの申し出を断ると、相手にとっても明確な敵が増えます」



雪乃「間接的に、脅すという事ですか?」

愛梨「いえ、違います。不利益な選択肢を見せて脅すのではなく、不利益ではないうという選択肢を用意するんです」

雪菜「その意図は?」

愛梨「このまま何も対策を打たずに進めていけば、デメリットを知らされないほとんどの組織が異能の収集に向かうでしょう」

愛梨「……ですが今なら、話をすることが可能です」

沙織「確かに、今が交渉の短いチャンス……」

愛梨「そして、明確なデメリットである“我々との敵対”と、特に利益も不利益もなさそうな“建前の賛同”の二択を提示すれば?」

沙織「なるほど……ひとまず、敵対することはほとんど無さそうで……」

愛梨「協力をして貰えずとも……不審な動きに目を光らせることはできるはず」

愛梨「相手もメリットがあります。同じく考えを共にしてくれた同盟国が“抜けがけ”するのを監視できる……」

朋「そう、ね……例えばあたし達の国で例えると……放っておけば種子の奪い合いに戦力確保のために参戦するけど――」

朋「今のうちに不利益を被らない“同盟”を結んでおけば……」

愛梨「恐らくは、すぐに敵にはならないでしょう?」

朋「だね……しかもうちの大将だったら、その同盟を使って確かに周りの監視とかしそう……」

愛梨「……どうですか?」

里美「お話は分かりました~、確かに悪い提案ではなさそうですが~」

里美「万が一、応じない組織にはどういった処置を~?」

愛梨「当然“種子を集めようとする組織”として、明確に敵として戦えます」

愛梨「ですがこの条件で、協力を拒む組織があるでしょうか?」

朋「……いや、あると思うよ。例えば、さっきまであたしが厄介になってたトキコの軍勢とか」

愛梨「そうでしょうね」

朋「でしょうね、って……」

愛梨「この条件でも拒む相手は、どのような交渉を行っても応じないでしょう」

里美「では、アイリさんが賛成するその案のメリットを統括すると、なんでしょう~」

愛梨「……様子見をする軍勢を、味方ないし監視下に置ける、という事です」

里美「はい、そうですね~。……ですが、どうやって実行するつもりですか?」

里美「それに協力者とは? 『同盟を結ばなければ敵対してしまう相手』が、相手にとって驚異でなければ意味がありませんよ~?」

泰葉「課題は多そうですが」



里美「そもそもですね~……どうやって、一斉に伝えるつもりですか~?」

里美「伝達に差が生まれてしまえば、勧誘が来る前に種子をかき集めてしまおう……なんて組織も出るはずですねぇ」

愛梨「方法、ですか……」

卯月「いい案だと思ったんですが……ダメ、なんですか?」

茄子「ヤスハさん……」

泰葉「いえ、まだ分かりません……」

凛「あの人の言う通り、情報を伝える差が出てしまうと有利不利が起きて不公平だよ」

未央「じゃあそこをどうにか出来たら!」

凛「……どうすればいいと思う?」

未央「えーっと……それはねぇ……」

――バンッ!

茄子「っ?!」

朋「え?!」

??「その話、聞かせてもらっ――」

――シュインッ ダンッ!!

沙織「はッ!」

雪菜「フッ!」

里美「誰です~?」

雪乃「拘束ッ……!」

――ギシッ……!

??「た、わッ……」

千奈美「……ごめんなさい、と先に言わせてもらうわ」

未央「っ~~……」

凛「あれは……例の、新聞記者の人と……同僚?」

卯月「ミズキさん、ですね」

瑞樹「さ、流石……ね……でも、ちょっ……苦し……」

里美「会議中の部屋に突然入ってきたら、敵襲だと思いますよぉ~」

沙織「び、びっくりしました……えっと、皆さんも、解呪しましょう」

朋「このまま抑えてた方がいい気がするけど……」

雪菜「そもそも会議を聞かれてる段階でまずい気がしますけどぉ」

瑞樹「聞いちゃ……いない、わ……」

千奈美「あの、うちのミズキがそろそろ……」

――…………

瑞樹「死ぬかと思ったけど、貴重な体験だったわ」

卯月(部屋に入ってきた瞬間に、ほとんど全員から拘束呪文を同時に受けて……)

瑞樹「幹部と会長の名は伊達じゃないのね」

雪乃「世間話は結構ですわ」

泰葉(確か、カコさんが言ってた名前の中にチナミさんの名前が……)

泰葉「……早速、お話したのですか?」

千奈美「覚悟はしていたでしょう? ……ここまで急に大胆に動くとは思ってなかったけど」

沙織「えっと、ここへは何のご要件で?」

瑞樹「本題。確か今の話を聞かせてもらったところ、困ってるのは伝達方法ね?」

雪菜「ご招待した覚えはありませんけどぉ」

愛梨「……内容は、盗み聞きしたもの以外にどれほど把握していますか?」

瑞樹「そちらと同じくらい」

沙織「ええっ?!」

瑞樹「冗談よ。チナミから聞いた分だけ、そこまで詳しくは無いわ」

卯月(本当かなぁ)



瑞樹「事情は察してるわ、とにかく……一斉に伝える手段が必要なのね?」

愛梨「その通りです」

瑞樹「だったら私達が適役でしょう?」

朋「……あなたが?」

瑞樹「言っておくけど、私は異能とやらに興味はないの。ただ、新しい情報の伝達に貢献できることに興味を持ってるの」

里美「不思議な人ですね~」

瑞樹「あなたもね?」

泰葉「……突然現れて、話は盗み聞きして」

瑞樹「信用できない、という心配も頷ける……だから、協力するのは“方法”だけにするわ」

瑞樹「実際に説明するのは、協会が行えばいい」

泰葉「方法?」

瑞樹「知ってる人もいるんじゃない? 前、ナツキの一件で私が使った媒体」

卯月「うっ」

未央「嫌な思い出が」

瑞樹「……その一件は置いといて、私は映像を同時に配信する基盤を持っている」

瑞樹「それが使えれば、可能でしょう?」

里美「可能……ですねぇ」

愛梨「……改めて、どうですか?」

沙織「どう、って……わ、わだすはもう出来るならやってもいいかと……」

雪菜「他に案も見つからないなら、それがいいんじゃないですかぁ?」

朋「差が生まれないなら……」

愛梨「決まりですね」

瑞樹「そう? じゃあ、機材の準備に……余裕を持って二日、いや三日、いい?」

愛梨「たった三日ですか……?」

瑞樹「元々、電報を使うシステムよ、配信機材だけ集めれば済む仕事」

愛梨「……では、準備はミズキさん達にお任せしましょう」

沙織「なら……次の手段は、協力者を用意して交渉、を行うということでずね?」

愛梨「もちろん種子の回収も行いますが……それ以前に抗争の火種を増やさない為の作戦です」

愛梨「では今から……ミズキさんの準備が終わるまでに、こちらの準備も終わらせましょう」

ちょっと更新遅れてます



・・

・・・


*とある森林内*


――ザッ

裕子「……むむっ」

裕子「こんな森林内で、視線を感じますね……」

――シン…………

裕子(ですが、感じるだけというのが妙です。どうして、特定出来ないのでしょう?)

裕子「いつもなら方角や距離までも瞬時に測ってしかるべきなのですが」

裕子「なんだか気持ち悪い――」

――ヒュンッ



裕子「ッ! むんっ!」

――ピタッ!

裕子(投擲武器! いや、石? ですが――)

裕子「サイキックホールド! 残念、遠くから攻撃したつもりでしょうが私はこうして物資を固定し……って」

裕子「あれ? これってもしかして」

裕子(見たことのある包装のっ――)

――パァンッ!!

裕子「んぎゃッ?!」

裕子「っ~! けほっ、げほっ! 目! 目がッ!」

??「昔から癖は治ってないね」

裕子「むむっ、この声――」

??「投げられたものは止めるんじゃなくて、遠ざけないと」

――ダンッ!

??「隙だらけ!」

裕子「な、なんの!」

――グンッ

??「わっと……危ない危ない」

裕子(避けた! 私のサイキックパワーの特性も知ってる!)

??「からの!」

裕子(そしてこの攻撃の勢い……!)

??「貰った!」

――ビュンッ!

裕子「ふーっ…………はっ!!」

――ピタッッ

??「おっ?!」

裕子「見えなかろうが、周りを全部止めてしまえば問題ありません。ただ、これにはちょっと不便な点もありまして」

――ギリリッ……

??「っう! ちょ、強いってッ……!」

裕子「見てない故に強弱のコントロールが難しくて、サイキック過剰になってしまうんですが」

??「あっ、ちょっ、ギブギブギブ!!」

裕子「……別にいいですよね! 今日はどういった風の吹き回しですか、カイさん!」

櫂「たははっ、ごめんってばッ……だから解除して、折れちゃうから」

裕子「時と場合を考えてほしいんですが、ご存知でしょう? 今、急いでるんです!」

櫂「まぁ待ってよ、というか、待って……本当に、ぐぇ……」

裕子「突然襲ってくるのは勘弁してください」

――フッ

櫂「っぷはぁー……あー、痛かった……」

裕子「それで、何の御用件ですか」

櫂「いや、実はあたし自身が忙しい事は無いんだけど、確かそっちが忙しかったんだね?」

裕子「そりゃあ当然でしょう、緊急です!」

櫂「忙しいのは、確か例のアレでしょ? 大変だね」

裕子「大変だね……って、カイさんにも関係あることですよ! まさか、迫る警告を無視するつもりですか?!」

櫂「いや、無視はしないけどカイに関係あることであって、あたしには若干関係が薄い話なんだよね」

裕子「……?」

――ザザッ

紗南「カイさん! もう、また勝手に行っちゃって……あれ?」

裕子「おや?」

紗南「カイさん、その人は……」

櫂「大丈夫、信頼できる知り合いだよ」

裕子「……彼女は?」

櫂「説明する、とりあえず警戒しなくてもいいからね、互いにさ」

紗南「えっと……どういう状況?」

裕子「お知り合い?」

櫂「それどころか、今は雇い主みたいなものだね」

裕子「ほう? 雇われ……護衛対象ですか?」

櫂「ではない、ね……いや、間違ってもないかな?」

裕子「説明が煮え切りませんね?」

櫂「それも仕方ないことなんだよねぇ」

紗南「説明すると少し長くなっちゃうんだけど……」

裕子「うーん……分かりました、聞きましょう」




・・

・・・

裕子「なるほどッ!」

――ギギギギッ

櫂「あ痛い痛い痛い痛いッ!」

裕子「サナちゃん、ですか? カイさんが妙な約束に巻き込んでしまって申し訳ないです」

紗南「い、いいよ別にっ! あたしもお手伝いしてくれてありがたかったし……止めて止めて!」

櫂「関節がっ……」

裕子「お手伝いはご自由ですが……対価を求めてるじゃないですか!」

裕子「あなたが力を貸した条件が、こうして仲間の英雄グループ……今回の場合、私と合流して――」

――ドガンッ!

櫂「あだっ!?」

裕子「一度でいいから、戦ってみたいと! そう仰ったそうですね!」

櫂「び、微妙に違うけどだいたいその通りだね痛い痛い痛い!」

裕子「自身が偽物という立場を利用して、遠慮のない勝負をしたかったと!」

紗南「ユウコさん!!」

裕子「大丈夫ですサナちゃん、私がここで偽物のカイさんを亡き者にしてしまえば以降振り回されずに済みます!」

紗南「駄目! 落ち着いて! カイさん空中で変な格好になってる!」

――……ドサッ

櫂「死ぬかと思ったよ」

裕子「相変わらずタフですね」

櫂「でしょ?」

裕子「しぶとい、という意味ですが」

紗南(……もしかして、仲悪いのかな?)

裕子「しかし、本物のカイさんじゃないなら困りましたね」

紗南「ごめんなさい……紛らわしくて」

裕子「それは仕方ありません、私が勘違いしたのが原因ですから」

紗南「でも本人に用事があるなら、探さなきゃ……うーん、でもあたしもカイさん本人の場所は分からないし」

裕子「いや、もしかすると本物の方は既に事態を把握しているかもしれません」

裕子「ちなみに要件としても、結局は人探しなので」

紗南「人探し?」

裕子「なるべく多くの“人材”を見つけなければならず、その人材を探す人材もまた必要で……」

櫂「ま、事情は色々あるんだよねー」

紗南「人材って、どんな人を探してるの?」

裕子「それは秘密ですね、残念ながら」

紗南「秘密かぁ……」

裕子(今の段階で“異能の種子”の情報を悪戯に拡散させるのはよろしくないです)

紗南「でも、何かあったら連絡してね、あたしも色々と協力するのが好きなんだ」

紗南「……といっても、ユウコさんやカイさんレベルの人にはあんまり必要ない存在かもしれないけど」

裕子「そんなことはないです! ぜひ何かあった時は、お互い協力しましょう!」

裕子「それに、実力だけが個人の評価するポイントではないです」

裕子「自分だけの、誰にも負けない力があると、それが個性です」

櫂「良いこと言うじゃん?」

裕子「でしょう! 私はこの、唯一無二のサイキックが持ち味です!」

櫂「一方あたしはそんなに特別なものじゃないけど。、普通に戦う力はあるよ」

紗南「それはよーっく知ってる……」

裕子「自分だけの長所が分かれば、それが力になります!」

紗南「なるほど、説得力……は、あるけど」

紗南(持ってる人のセリフだなぁ)

櫂「はは、性質悪いというか……」

裕子「?」

紗南「あたしは……うーん、あたしの力かどうか怪しいんだけど」

裕子「ほう?」

――ヴンッ

裕子「うん……?!」

紗南「メニュー画面、保存スロット……これが、あたしの力!」

紗南「こうやって、モノやヒトを“保存”して“読み込む”事が出来る、セーブ&ロードだね」

櫂「…………」

裕子「……えっと、ちょっと待ってください?」

紗南「なに?」

裕子「そんな“力”を、持っているんですか?」

紗南「うん、あたしの能力」

裕子「ちょっと、ちょっと……いや、そんなはずは……少し失礼!」

――スッ

裕子「むんっ…………サイキック・アイ!」

――…………

紗南「…………?」

裕子「……! ……これは」

裕子(サイキック透視……失敗はしていない、でも……)

裕子(彼女の身体から“異能の種子”が感じられない?)

裕子(てっきりサナの保護者か誰かの力が、複製を作る異能でカイを護衛に据えていたと思っていたのですが……)

裕子(まさかの、彼女本人の力だったなんて……!?)

裕子「でもっ……あり得ない!」

櫂「……不思議でしょ? でも、あたしは現に、偽物なんだ」

紗南「え? 何の話?」

裕子「そんな馬鹿なことが……じゃあ異能を持っていないのに、この力は何ですか?」

櫂「さぁね……」

紗南「……おーい?」

裕子(……はっ! まさか、だからカイさんは自身の複製をサナに作らせて、見張らせていた?)

裕子(確かに不気味で、変です! 異能の種子が絡まない力にしては……これは、規格外すぎますね?)

紗南「……えっと、あたし何かまずいことしちゃった?」

裕子「うん? あ、いえいえ、違うんです、あははは……」

櫂「へたくそー」

裕子(…………)

裕子「は、話が変わってしまいますが、その力は何時手に入れたものですか? 生まれつき?」

紗南「えーっと……ある意味、つい最近かな」

紗南「そもそもあたしがこうして活動を始めたのがつい最近だし」

裕子「つい、最近?」

紗南「うん……まだこの世界にもようやく慣れ始めたってところで」

裕子「ほう、この世界に慣れ始め……え?」

櫂「…………」

裕子「今、なんと?」

紗南「えっ? な、なんだか急に変なところに食いついてくるねユウコさん」

裕子「それはすいません、が、これは大事なことなんです……!」

紗南「そうなの? うーん……今言ったこと、この世界にも慣れ始めて――」

裕子「そこです! サナさん、あなたは……」

裕子「いったい、何者なんですか?」

紗南「あたし、あたしは……」

櫂「……今、話題になろうとしている“一時間だけ現れる勇者”だよ」

紗南「あっ、先に言われちゃった」

裕子「一時間……その理由は?」

紗南「理由、理由かぁ……えっと、ぶっちゃけると……あたしもよくわかってない」

紗南「ただ……あたしは」

裕子「…………」

紗南「あたしは、この世界の住人ではない、かもしれない」

裕子「サナさん!!」

――ガシッ

紗南「わっ!」

裕子「本当なんですね?」

紗南「こ、こっちからみたらそうかもしれない! 冗談、ではないはずなんだよ……!」

裕子(それが本当なら、確かに謎も解ける……! 異能ではない力を持っている理由、そして世界という発言!)

裕子「あなたは……この世界ではない“別世界”の住人、なんですか?」

紗南「……らしい。 あたしを、変な人だと思う?」

裕子「いえ、とんでもない……この世界ではよくある事です」

裕子「そんなことより、非常に重要なお話があります……!」

櫂「……お、聞いちゃうの? 確証は?」

裕子「確証と言われれば、無いですが……」

裕子「オリジナルのカイさんだって、自身の複製を置くほどに“目をつけていた”彼女です」

裕子「だったら、重要でしょう!」



裕子「サナさん、私からも変なお話が一つあります」

紗南「……?」

裕子「実はこの世界……あなたが訪れたこの世界は、ちょっと危機的状況に陥っています」

裕子「その危機を回避するために必要な情報、その中の一つが……もしかすると、サナさんが持っているかも……!」

裕子(まさか、こんなところで糸口が見つかるなんて!)

紗南「必要なのは……?」

裕子「あなたがこの世界へ来た方法――」

裕子(それが分かれば、アイリさんとサオリさんが苦戦している結界の……最後の仕上げが出来ます!)

紗南「あたしが、ここに来た手段?」

裕子「その過程を教えてくれませんか……!!」

おつ

生存報告

島村卯月「シンデレラ冒険譚」
島村卯月「シンデレラ冒険譚」 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1440449733/)

こちらのスレの作品の初期部分に追加加筆したスレです。
更新が追い付くまでの場繋ぎにどうぞ。

こういうことやる時間でこのスレをすすめた方が…



・・

・・・


清美「……ユキノとアイリは既に現地入り」

――ザッ

清美「カイとユウコは、動きこそ判明しませんがこの事態で傍観を決め込んでいることは無いでしょう」

清美「では何かに向かって動いているはず……それが何か、ですが」

――キンッ

清美「救援を出しに、なんて期待しない方がいいですね、むしろ……」

清美(元凶を勝手に叩きに行っていないか、が心配ですが)

――ガキィンッ

清美「となると……私では他の皆さんの考え方など特定できないという事になってしまって」

清美「……そうだ、同じような考えの人に、聞いてみることにしましょう」

――ヒュンッ!

清美「あなたならどうしますか? 危険な人物が訪れると分かっていれば、準備を整えますか?」

珠美「……余裕が気に食わないですが」

清美「どうですか? 剣を振るっていてもお話は出来るでしょう、あなたなら」

珠美「評価が高いのやら低いのやら、それで……?」

――ヒュンッ!

清美「おっと」

珠美「危険な人物……という感覚が、珠美には分かりませんが」

珠美「倒してしまっても構わぬのでしょう?」

清美「……はぁ。やっぱり、その考えですか」

珠美「予想していたでしょう?」

清美「うちの脳筋と同じ思考ですね」

珠美「考えも何も、危険因子が分かっているなら潰せばいいだけでしょう?」

清美「短絡的すぎます」

珠美「珠美はそうやって過ごしてきました、一度のミスを起こすまでは……」

清美「一度のミスで全部潰れてしまうから、そうやって野蛮な方法は駄目です」

清美「何かが起きても挽回できる、そんな保険のある一手が必要……」

珠美(だったら珠美に聞くのは土台無理な話では)

清美「今、求めている案は……仮にユウコやカイが不用意な行動を取っていても挽回が効く案です」

珠美「英雄と呼ばれてる組織も一枚岩ではありませんなぁ」

清美「分かっていただけますか?」

珠美「知りたくもありませんが」

珠美「珠美はお偉い方の、正義の味方の考える事など分かりませぬが」

清美「ですが?」

珠美「キヨミ殿に迷惑を掛ける方法なら、幾つか思いつきますなぁ」

清美「…………」

珠美「四六時中相手の事を考えるなど、天敵か恋かいずれかと申されていましたが――」

清美「いいでしょう、聞きます」

珠美「おや、どういった風の吹き回しで?」

清美「されて困る事を聞けば、それをされないように考える……というのも対策の一つです」

珠美「……言われてみれば、そうですな」

珠美「今、見る限り『準備と対策』にしか考えが向いていないキヨミ殿」

清美「当たり前です」

珠美「だったら話が早いではありませんか」

珠美「キヨミ殿は強いとして、そんな相手が準備と対策に動いていると分かれば……常識的に考えて選択肢は一つでありましょう」

珠美「先に叩いてしまえばいいのです」

清美「……何かと思えば、ありえませんね」

珠美「ほほう、何故?」

清美「まず前提として、いずれ訪れる『敵』の存在は、公にされていない者です」

清美「二つ、仮に『敵』の存在が割れて、その敵に味方をして、その人物は何のメリットがあるというのでしょう?」

清美「敵の目標は話した通り、この世界という単位です。そんな相手に肩入れして、得るものはなんでしょう?」

珠美「…………」

清美「仮に、仮にです。我々の敵に回る人物が動いたとするならば」

清美「その人物は『自らの世界を壊しやすくする為に』、『まだ話した事も無い相手の為に』……」

清美「『見返りも求めず』、『全人類を敵に回す』、そういう状態です」

清美「冷静に考えれば、これがどれだけ意味の分からない事か、あなたの頭でも分かるでしょう?」

清美「故に今、選ぶべき道は、やがて訪れる敵への対策一本です」

珠美「……ふぅー」

清美「何やら言いた気ですね?」

珠美「いいえ何も?」

清美「そうですか、では名案を思い付くまで行脚を続けましょう」

珠美(……対策一本、ねぇ?)

珠美(キヨミ殿の中では“そう”なんでしょうな)

――ザッ

珠美(メリットが無いから? 知らない相手の為になんて協力しない?)

珠美(自身の立場が悪くなるから動くはずがない?)

珠美(……ま、ここで珠美がどうこう言っても仕方ありませぬ、むしろ)

珠美「キヨミ殿の身の方が、危険であると考えますが……」

清美「……?」

清美「私が危険、ですって?」

珠美「珠美の考えですが、今の話は確かに仮定に仮定を重ねた“あり得ない話”ではあります」

珠美「しかしそのあり得ないが現実に起きた場合、真っ先に狙われるのは……キヨミ殿ではありませぬか?」

清美「……それは、忠告? 心配?」

珠美「い、いえ、そんなに深い意味ではなく単純に!」

珠美「先の世界がどうこう変化する話は珠美には分かりませぬが、その前に分かりやすいメリットがありましょう?」

珠美「分かり辛い第三者の襲撃や世界崩壊などではなく、キヨミ殿の活動が遅れる事、による……!」

清美「…………」

珠美「以前お話していた、種子とやらは……」

清美「ああ、その話もありましたが……これはまた別件です」

珠美「別? それは……珠美には、別件には感じませんが」

清美「何故ですか?」

珠美「キヨミ殿は、その種子の拡散を抑える側です、となると周りの悪党どもには都合の悪い相手……」

清美「確かにその通りではありますが、その力を使えたら……の話です」

清美「もともと手の届かない力なら、求められることが無く、扱われることも無い」

清美「ましてや使えば世界が危機に陥る物資を好き好んで使う人物など――」

珠美「それが間違っているんです! 世界危機に陥ると知っていても、自分勝手な輩が現れたなら自身の力の為に必ずや悪用しますぞ!」

清美「……それが、悪党としてのモノの考え方ですか?」

珠美「経験則、です……!」

――…………

清美「……ところで」

珠美「なんでしょう?」

清美「タマミ、何か変ではありませんか?」

珠美「……変とは?」



清美「いえ、実は……私も、違和感の正体には気づいていないのですが」

珠美「珠美は何も感じませぬが」

清美「…………」

珠美「ま、キヨミ殿に感じ取れぬ気など、珠美に察知できるはずもなく――」

清美「ちょっと待ってください」

珠美「今度は何事?」

清美「違和感の正体が、なんとなく掴めた気がします」

珠美「おお、さすがキヨミ殿」

清美「タマミ、それは……“フリ”ですか?」

珠美「へ?」

清美「わざとですか? それとも、騙そうとしていますか?」

珠美「な、何のことでしょうか?! 珠美は何もキヨミ殿へご迷惑をかけていませんが!?」

清美「……本当ですか?」

珠美「本当も何もなんのことだか――」

清美「だとすると!」

――キィィン!

清美「拘束ッ!」

珠美「わ……!?」

――シュル……!

清美「……あっさり、ですね」

珠美「キヨミ殿ぉっ! これはどういうことでっ……!」

清美「しっ。静かに……」

清美(タマミに“表の人格”が出ていない、という事は誰かがタマミを認識しているという事!)

清美「この近くに、誰かが潜んでいる……!」

珠美「て、敵襲ですか!? た、珠美も応戦……したいのはやまやまですが、珠美ごと捕まえられては――」

清美「少し待ってください、相手から一方的に認識されているこの状況……かなりの手練れと見ました」

清美「これ以上後手を踏む前に拘束してしまえば!」

――ピンッ……!

清美(警戒網を広げて、この近辺一帯を調べて……)

――グンッ

清美(かかった!)

珠美「キヨミ殿ぉ!」

清美「落ち着いて、このまま拘束されていてください! 今のあなたでは巻き込まれかねません」

珠美「んなっ」

清美「反応は、そこから!」

??「おっ、バレた?」

――バツンッ!

清美(っ!? は、外された!?)

??「ご挨拶☆」

――キィンッ

珠美「キヨミ殿っ!」

??「受け取れっ☆」

清美(この魔力は、やっぱり……! ですが!)

清美「フッ!」

――ガシッ

??「お」

清美「はああッ!!」

??「んのっ!?」

――ズドンッ!

珠美「ご、豪快に……」

清美「ここまで接近していれば、近接格闘のが有効……そうでしょう、シンさん」

心「そうだけど……ぐおうっ……」

珠美「背中から地面に思い切り……それよりも、知り合いでしょうか?」

清美「知り合い……確かに、知り合ってはいますが」

心「それ以上の仲だろ? 恥ずかしがるなって☆」

清美「…………」

珠美(く、空気が……)

心「さすが肩書に恥じない強さじゃん……はぁと、感心☆」

清美「私に何か御用ですか?」

心「いんや? キヨミちゃん単体に用事は無いけど」

清美「では、協会へ向かう途中ですか?」

心「協会……んー、そういうわけでもないっていうか」

珠美(協会というと、キヨミ殿の関連は薄いようで深い組織だったような……)

清美「では何を」

心「そろそろ、やんちゃな子が動き出す頃だと思ってね?」

清美「……彼女の事ですか?」

心「彼女? 誰? 知らねぇ☆」

珠美「珠美は珠美と申します! 訳あってキヨミ殿とご一緒しています」

心「おう頑張れ☆ で、何の話だっけ?」

清美「動き出すとは、誰が?」

心「例のアレ、そろそろ……広まる頃だと思ってるんだけど」

清美「例の……アレ……? いや、まさか……シンさんも――」

心「はぁと☆」

清美「……はぁとさんも、そんな可能性を?」

心「も?」

清美「先程もタマミに言ったんです……その情報は、私達しか知りえない情報……」

清美「しかも、流出させることに我々の世界側の人間が得をする事は一つもないんです!」

心「だから……もしかして『あり得ない』とか言ってる雰囲気?」

珠美「……です」

心「ふーん」

清美「はぁとさんもタマミも、いったい何を危険視しているんですか……?」

――…………

心「本気でそう思ってんの?」

清美「……え?」

心「ま、中にはそんな馬鹿正直が居た方がいい時もあるし?」

清美「ばっ……!?」

心「一方で優秀だぞちびっ子☆」

珠美「ち、ちびっ子ちゃうし……!」

清美「失礼を承知ですが、いったい私の何が問題で、彼女の案がどうして……!」

清美「確かに、一理はあります……が、この場面で私が選択する最良ではないはずです!」

心「おう分かってんじゃん☆」

清美「……は?」

心「一理ある、ってだけ分かってればいいよ。ただ、絶対その感じた“一理”覚えとけよ?」

心「人間、想像すらしてない不測の事態が起きるとパニくるんだなぁコレが……」

清美「否定したり肯定したり……いったいなんですか……」

心「はぁとが言ってるのは“あり得ないと思ったことは絶対にあり得ない”って考え方を改めろ、って言ってんの!」

心「それ以外は知ったこっちゃないぞっ☆」

清美「は、はぁ……?」

心「でも覚えておいて! 世の中……あり得ないことを平気でやる馬鹿な大人も多いんだぞ?」

清美「それは、もう把握してます、私はそんな相手をこれまで何度となく――」

心「分かった分かった☆ じゃ、行くぞ☆」

清美「は、話を途中で切らないでください! というより、行くってどこへ……」

心「どこへ? それは当然、行くべき場所に決まってんだろ☆」

清美「だからそれが――」

心「ほら置いてくぞーっ、いざ行かん、的な☆」

清美「ま、待ってください! 私を呼ぶからには、そこには何かあるんでしょうね?! 行きますよタマミさん……!」

珠美「お待ちくだされー!」

――タッタッタッ

珠美(……なんだ、結局……珠美が思った通りではありませぬか)

珠美(どうもこの世界の役人というのは、こちら側の思考が分かっていない輩が多すぎます)

珠美(珠美がこんな事を言いたくもありませぬが……この人物たちは“人を理解”しようとしていない)

珠美(ただ実力で、珠美をこうしたように抑えつけただけ)

珠美(結果うまくいっていますし、それが実行できているのだから余計に性質が悪い……)

珠美(さてキヨミ殿……これから間近で見物させてもらいますが)

珠美(あなたの考えるほど、悪党というのは常識で測れませぬぞ?)




・・

・・・

おつ

*国家『チャプレ』*


さくら「えへへ~♪ 今日は……ここっ!」

さくら「前から行ってみたいって言ってたカフェに来てみたんだぁ……けどぉ」

――ガヤガヤ

さくら「大行列でぇす」

さくら(せっかくイズミンが――)

泉『今日は“偶然にも”さくらが前々から行きたいって言ってたチャプレに用事が出来たから、終わるまで自由にね』

さくら「って、わたしにも時間が出来たのに……」

さくら「あのぉ、どうにかなりませんかぁ?」

さくら「店員さぁん! わたし、サクラでぇっす! 名前で通ったりは、しませんかぁ?」

さくら「うーん……わたしよく分かりませんけど権力ってこういう時に使えませんかぁ」

――ガラッ

さくら「うんっ?」

千夏「……あなた、順番待ち?」

さくら「はぁい! でも、満席でぇっす」

千夏「だったら……私のテーブルでいいなら、そこに座りなさい」

千夏「立っているのも他に迷惑でしょう?」

さくら「いいんですか! お邪魔しまぁす! えへへ~」

千夏「…………」

さくら「じゃあ失礼しまぁす、何貰おうかなぁ♪」

――…………

千夏(さっきの名乗りと、噂通りの風貌……取り巻きはいないようだけど)

千夏(そしてこの、やたら質素だけども何か“凄み”を感じる帯剣……)

千夏「あなた、名前は?」

さくら「さくらでぇっす!」

千夏(間違いない、彼女は国家『サミスリル』のサクラ……こんなところに)

千夏「でも……」

さくら「?」

千夏(対面してみると、なんてことはない普通の子に見える)

さくら「本当にいいんですかぁ? 席、お借りしてもぉ」

千夏「ええ、どうぞ。……お会計は別だけど」

千夏(でも大会と審査が行われたのは広く知れ渡った事実……この子が持っているということは、勝者の一人のはず)

さくら「はぁい♪ もちろんでぇす!」

千夏(私やユイは、今こそショーコという動きやすい人物を抱えたものの……)

千夏(基本、姿を隠す必要があるからあんな大規模な大会なんて、縁がなかったけど)

さくら「ふふふっ♪ 何にしよっかなぁ~」

千夏(宣伝よりも、益が薄いのでは……)

さくら「店員さぁん! えっとですね、わたし、これとこれとこれと――」

千夏(もしくは……主催者側に、何か企みがある……かもね)

千夏(例えば意図的に“弱い勝者”を作って、奪い取る算段を組む……とか)

さくら「以上でぇす! お願いしまぁす!」

千夏「……失礼だけど、荷物」

さくら「あ、すいませぇん、見てませんでしたぁ!」

千夏「不用心ね」

さくら「よく言われちゃうんですけど……治そうと頑張ってはいるんでぇす!」

千夏(他の可能性は……キリがないわ、とにかく彼女が持ってるのは、不思議で仕方がない)

――トントン

千夏「……?」

瑛梨華「DO・U・MO☆ 瑛梨華はエリカ!」

千夏「…………」

さくら「店員さん……じゃなさそう?」

千夏「服装が違う、それに……荷物も多い」

瑛梨華「さっそくだけど――」

千夏「待ちなさい、あなた何者? 突然私達に何の用? それとも……」

さくら「誰ですかぁ?」

千夏「……彼女の知り合い……でもないのね」

瑛梨華「残念ながら知り合いなら声はむしろかけなかったかな~?」

瑛梨華「二人は知らない相手だからこそ、みたいな?」

さくら「知らないから? んんっ?」

千夏「先に言うけど私も彼女とは関係ない人物だから“巻き込むのは”止めて頂戴」

瑛梨華「巻き込む?」

千夏「…………」

瑛梨華「何を?」

千夏(……堂々と、聖剣を奪いに来た敵ではない、のかしら)

さくら「わたし達に何か御用ですか!」

瑛梨華「ぜひぜひ! でも、できれば……」

千夏「……その視線は?」

瑛梨華「二人とも聞きたいけど、先にそちらのお姉さんから!」

千夏「どうして私に話しかけてきたの?」

瑛梨華「んー……直感?」

さくら「いいなぁ」

瑛梨華「でも、お姉さんだけなんというか、雰囲気違った! HU・N・I・KI☆」

瑛梨華「何か知ってそう! もしかして、偉い人だったりする?」

千夏「……いいえ、私はただの旅人よ」

瑛梨華「そうなの? だったらエリカちんと一緒に世の中のお役に立つ仕事しない?」

千夏「きっと私には向いてないわ」

瑛梨華「のんのん、まずは聞いてMI・TE☆」

瑛梨華「でもって本題! よっとバサっと☆」

――バサッ

さくら「顔写真、ですね~」

千夏(私の記憶では手配犯じゃない、この人物は何者?)

さくら「んー」

瑛梨華「エリカちんが探してるのはこの人、見覚えある?」

千夏「その写真の人物は……残念ながら、二人とも見覚えは無いわ」

さくら「わたしも同じでぇす」

瑛梨華「この写真の人物は『メイコ』と『フミカ』って名前! 情報が変わってなければ二人で行動してるHA・ZU!」

千夏「どうしてその人物探しているの?」

瑛梨華「それはね……この前の映像、MI・TE・TA?」

さくら「映像?」

瑛梨華「『灰姫の経典』を発見した、っていう世紀の放送☆」

千夏「……そうね」

瑛梨華「……あれ? 反応が薄いって事は、見てた知ってたってことDA・YO・NE?」

さくら「そんなものが?」

瑛梨華「そうそう! アタシびっくりしちゃって大急ぎ!」

千夏(見ていた、知ってる……でも同時に“本物かどうか怪しいこと”も知ってる……!)

瑛梨華「映ってた経典は、それはもう凄いもの!」

千夏(興奮してるようだけど、一方で彼女は――)

さくら「秘宝、ですかぁ♪ わたしと同じでぇす!」

千夏(自分にとって秘宝クラスのモノは珍しいものではない、と)

千夏(そりゃあそうね……同じクラスの逸品をその身で抱えているんだから)

さくら(一度ウヅキさんとはお会いしましたねぇ! ……でも、だったら経典がどうして他に?)

瑛梨華「私と、同じ……んん?」

千夏(それにしてもこの子、喋り過ぎじゃないかしら)

瑛梨華「あ、WA・KA・T・TA☆ ……もしかして“身近すぎて危機感を持ってない”だね?」

さくら「ふぇ?」

瑛梨華「あなたはサクラ、栄光の聖剣を持ってる……サクラ=ムラマツ!」

さくら「はぁい!」

瑛梨華「……実は、背中の武器を見て気づいた☆」

千夏(今?)

瑛梨華「アタシはエリカ=アカニシ! 改めてYO・RO・SHI・KU☆」

さくら「よろしくでぇっす! わたしは勇者やってまぁす!」

瑛梨華「うんうん、そう聞いてるけども! 実際は、どうなの?」

さくら「まだ実感がないでぇす、今もこうやってカフェでお茶して――」

瑛梨華「違う違う、そうじゃない。要するに……の前に、エリカちんのお話、しよっか?」

瑛梨華「エリカの目的は、世の中大きな混乱を防ぐ慈善活動☆ 驚異の排除☆」

さくら「へぇぇ……なんだか凄そうでぇす!」

千夏「…………あぁ」

さくら「どうしたんですか?」

千夏「いや……察したのよ」

瑛梨華「分かってくれる? このエリカちん正義のお仕事の偉大さが!」

千夏「以前の放送で、一般の人が“知り過ぎた”と言いたいのかしら」

瑛梨華「そう! そーう!! だって普通に考えて御覧? あんなにデメリットの小さい強力な道具が出回ったら……!」

瑛梨華「瞬く間にSE・KA・I・NO・O・WA・RI☆」

千夏「だから大きすぎる力を持った、秘宝を回収しようと?」

瑛梨華「YES☆」

千夏「理想論すぎるし、信憑性があるかなんかは聞かないけど……真面目に言ってるのかしら」

瑛梨華「エリカちんは何時でもマジメだよ☆」

千夏(だとしたら……相当極論だわ)

千夏「……あなたの持論だと秘宝のような強い力を持った道具は回収、そして排除が有効なのね?」

瑛梨華「モチのロン☆」

千夏「百歩譲ってそんな考えの人は聞いたことあるし……いいわ、分かった」

千夏(過激派だけどね)

瑛梨華「分かってもらえてよかった! だからこうして早速情報を――」

千夏「だとすると、あなたの目の前にいる人物はどうなるの?」

さくら「……!」

瑛梨華「それはもちろん――」

――スッ

瑛梨華「うん?」

さくら「イズミン!」

千夏(……また簡単に名前を漏らす)

泉「もちろん……何?」

瑛梨華「おーっとストップ、それは危ないからね?」

泉「返答次第では、少し騒ぎが起きるけど」

瑛梨華「……のんのん☆ エリカちん平和を愛する一般人、むやみやたらに争いはO・KI・NA・I☆」

さくら「イズミンやめて! わたし何もされてないよ!?」

泉「……そうなの?」

千夏「一部始終見ていたけど、そんな様子は無かったわね」

泉「……こっちの勘違いだったみたい」

――スッ

泉「ごめんなさい」

瑛梨華「けほっ。ま、仕方ないところもあるねー、でも話だけでも聞いてほしいな?」

泉「分かった……お詫びもかねて。その前に、サクラ」

さくら「はぁい!」

泉「……お説教」

さくら「えぇ?」

――…………

さくら「でもこれはイズミンの事を思って咄嗟に出ちゃっただけでぇ……」

泉「分かってるけど、私達は私達が思っている以上に有名人で、狙われる事も考えててね」

泉「街中で叫ぶわ目立つわ名を名乗るわなんて……怖すぎる」

千夏「…………」

瑛梨華「お話、いいかな?」

泉「ごめんなさい、何の話だったかしら? ……ああ、秘宝に関して、だったわね」

泉「もうサクラから色々聞き出せてるかもしれないけど、私からも改めて言わせてもらう」

瑛梨華「ふむむ」

泉「私達は、あなたの心配するような世界のパワーバランスを崩壊させるような使い方はしない」

泉「道徳的な意味でも、常識的な意味でも、そもそも侵略目的で使うために手に入れては無い」

泉「聖剣は、きちんとした管理のもとで守られている」

さくら「大丈夫でぇっす!」

瑛梨華「うーん……」

瑛梨華「国が言うなら間違いはないね! エリカA・N・SHI・N」

千夏(納得しちゃうの)

泉(彼女、目的は何なのかしら……)

千夏(そんなことよりも)

泉(それよりも)

――ジッ

千夏「…………」

泉「…………」

さくら「イズミン?」

瑛梨華「お話中?」

泉「いいえ……気のせい、それより大丈夫だった?」

さくら「わたし? わたしは大丈夫! この人が、満席だったけど席を譲ってくれたの!」

千夏「どうも……」

瑛梨華「エリカちんはお茶じゃなくて、さっきの情報収集!」

泉「そう……そちらの、お名前は?」

千夏「名乗るほどではないわよ、隠しておきたいことだってあるわ……」

瑛梨華「おやおや? 名乗り拒否? 何か後ろめたいKI・MO・CHI?」

千夏「怪しい女に見えるかしら」

――…………

泉(彼女……見間違いじゃなければ、裏の情報を今賑わしているうちの一人、チナツ?)

泉(表向きは未だに在籍中――にも関わらず実際は既に国家『ウィキ』の幹部から身を引いている)

泉(しかも国家を去った理由が、あの平和的な国家内で起きた彼女による謀反の扇動……なんて噂)

泉(……ただし、謀反の結末だけは一切流出してこない)

泉(実質、今は独立勢力と聞いたけど……こんな場所に姿を現しているなら“何かしている”可能性が高そう)

――…………

千夏(……あの子、側近かしら? ずいぶんと、実力を隠してるわね)

千夏(武闘派では無さそうだけど、私の“予感”がある……あの子は何か、強い武器がある)

千夏(もう片方の子と、ますます関係が気になるところ――)

千夏(どういう経緯で付き合ってるか分からないけど、本当に不思議)

泉「それで、じゃあこの話は解決、だったら?」

瑛梨華「おっと☆ んー、どうしよっか? 次の目的?」

瑛梨華「こんな素敵なO・TO・MO・DA・CHIが持っているなら、剣を悪用する輩も退治できそう!」

さくら「えへへ~♪」

泉「勿論、約束する」

千夏「だとしたら――」

――ピンッ

千夏「当初の目的、その写真の二人を情報を……ここ以外から探したほうがいいんじゃない?」

瑛梨華「ZA・N・NE・N☆ アカネちんは、失礼しよっかなぁ?」

さくら「またね~」

瑛梨華「次もその希望のお宝、手元に置いといてね☆」

さくら「もちろん~!」

瑛梨華「それじゃあ――」

――ドンッ

瑛梨華「アウチっ!」

??「お、っと……こちらこそ失礼。今この席は空いたところかな」

瑛梨華「いや? アタシは元々座ってない、最初から空席!」

??「なら……そこの立っている方の座席かな」

泉「……私?」

さくら「どうする?」

泉「……別に、私も後から来ました。彼女の付き添いで、店が混んでいるならわざわざ座りません」

瑛梨華「あ、誰の席でも無かったの? ここー」

??「では、ご厚意を受けても構わないかな?」

泉「いったい何?」

??「……ああ、失礼を重ねてしまったな、何も話さずに進めてしまった」



??「私は数日前から……いや、もしかすると週よりも以前かもしれないな」

??「何度も訪れて時間を過ごしていたんだが、少し諸事情で予約の権利を譲ってしまってね」

千夏「ここの常連?」

瑛梨華「確かにこれだけ人気だったらそんな人もいるねー」

??「ただ、周りが気を利かしてくれたおかげで順番だけは早く回ってきた、私は席一つあれば構わないよ」

泉「いつもの予約を取れなかったけど、店内には入れた……と」

??「そんな時に見つけたのが、都合よく空いた一席だったんだ」

さくら「どうぞぉ!」

泉「……ここの席の元の持ち主は――」

千夏「私だけど、別に構わないわ。一人で四脚の椅子は持て余すもの」

??「では短い時間だが、相席させてもらおうか……フフ」

千夏(今日は来客が多い……警戒網は常に張っておくべきね)

泉(ただ……この人物からは、戦闘能力は感じない?)

??「私はアイ、アイ=トーゴーだ。……皆と違って、特別な力なんて持たないよ」

さくら「特別? それって――」

泉「ちょっと……!」

あい「ふむ、君は何か特別なものを持っているのかな?」

さくら「へえっ? あっ!」

千夏(反応した、ってことは……何か思い当たる節があると見て間違いはない)

瑛梨華(事実、サクラちんが持ってるのは特別な道具! この人、今の一瞬で?)

さくら「え、えっと~……じょ、冗談でぇす」

あい「すまない、こちらも冗談だ。……皆を探るつもりもないし、私も詮索する気はない、忘れてくれ」

泉「何のつもりですか?」

あい「だから、申し訳なかった。不快な思いをしたなら、ここのコーヒーでも一杯奢らせてくれ」

泉「素人にしては、あまりにも手慣れた誘導尋問ですね」

あい「真似をしたのさ」

泉「いったい誰とですか?」

あい「お客様だよ」

さくら「お客さんですかぁ?」

あい「客商売をやっているものでね、といっても一従業員だが」

泉「一従業員が、交渉術を使うような仕事に?」

あい「必須科目でね、人の緊張には過敏だ。だから今、私がどういう訳か非常に警戒されているのもすぐに分かる」

千夏「…………」

泉「…………」

さくら「わたし達、警戒なんてしてませんよぉ」

あい「君はそうだな、底抜けに無警戒だ……だからこそ、他の皆には下手の付け焼刃を見せて素人と決定してもらおうと思っていたんだ」

泉(確かに、今の話術自体は慣れていた……でも)

千夏(こっちの攻撃気配から“警戒している”より多くの情報は得られていない、戦闘に関しては確かに脅威には感じないわね)

あい「どうやら、外してくれたようだ。私の事は、ただ偶然席が隣になった客と思ってくれ」

瑛梨華「……ちょ、ちょーっと!」

瑛梨華「お姉さん! イイよ、その商売柄と雰囲気!」

あい「何を褒められているかイマイチ把握できてなくて申し訳ないが、とにかくありがとう」

瑛梨華「その客商売を見込んで、こんな人に会わなかったか、聞いていーい?」

――パサッ

あい「……これは?」

瑛梨華「訳あって捜索中! この顔にピンときたらエリカちんへ!」

あい「ふむ」

さくら「見つかるといいですねぇ」

瑛梨華「どう?」

あい「申し訳ないが商売で手に入った情報を使うわけにはいかない」

瑛梨華「ありゃりゃりゃ」

あい「ただし仕事以外で関わった人物を思い出すと――」

瑛梨華「心当たりが!?」

あい「無いな」

瑛梨華「あららら」

瑛梨華「んーむむむ、お仕事の中身も話せないなんて、実は怪しい人?」

さくら「アイさんそうなんですかぁ?」

あい「少し“公にはしにくい”んだ」

千夏(別に珍しいことじゃない、私だって今同じ質問をされたら返答に困るから)

あい「こればかりは申し訳ないな」

泉(違法性のある職業か、国家の重役か……決して高くない戦闘力の見積もりから察すると後者?)

さくら「イズミン、考え中?」

あい「ここまで引っ張っておいてなんだが、絶対に教えないというわけではない……これを、プレゼントする」

――カサッ

瑛梨華「これは?」

あい「皆に一枚ずつ……私は人と会った時に、こうして自己紹介の名刺のようなものを渡すのが恒例でね」

千夏「その割には名前くらいしか……所属国家すら書いていないわね」

瑛梨華「でもちゃーんと無線の番号はある! これでエリカたちテル友? といっても、個人の通信機なんて持ってないけど☆」

あい「いつかは使うかもしれない秘密の連絡先さ。話したい、愉しみたい時に……な」

瑛梨華「じゃあ、また機会があった時かな!」

さくら「はぁい! 長くなりましたがエリカさんも今度――」

――ピーッ ピーッ

あい「?」

千夏「何?」

泉「私達……じゃない、店の、奥から聞こえてくる」

さくら「何の音ですか?」

千夏「これは…………」

千夏(例の情報電報の、緊急音……!)

――ザー……ッ……ザ……

あい「通信の状態が悪そうだが」

泉「でもこれは店舗に備え付けの機械、受信感度が悪いなんてことはないはず」

――……れ……り

瑛梨華「お? 何か伝えようとはしてるみたい! もう少し待つ?」

さくら「お知らせでぇす!」

――映像……は……し……

千夏「映像?」

あい「この機械には、そんな機能もあるのだな」

泉(まだ試作段階だった、頻発するような機能ではないと聞いていたような、ということはこれはテスト放送?)

泉「もしくは」

泉(試作段階の技術何度もを使わなければならないほど、急用かしら)

乙!

このスレこそ画像先輩が必要だわ

――ザーッ……

雪菜『……これ、映ってるのぉ?』

泰葉『はい、もう大丈夫かと』

未央「始まったね」

卯月「私達は立場上部外者だからって、放送の場所にはいけないけど……」

未央「代わりに用意された端末で、ちょっと離れた場所から聞くんだよね」

凛「私達だって内容は知らされてないから、ちゃんと聞かないとね」

雪菜『じゃあ、突然だけど始まった放送を、ちょっと見てくれると嬉しいなぁんて』

泰葉『この放送は、情報電報の媒体と提携してお送りしています』

雪菜『あと、見て分かる通りかもしれませんけど、放送の主催は私達魔術協会が取り仕切ってますぅ』

――ザッ

沙織『どうも……協会の代表させでもらってます、サオリと申します』

卯月「全員ではお話しないんですね」

未央「そんなにいっぱいで映っても仕方ないんじゃない?」

凛「うん……代表のサオリ、協会受付で顔が広いセツナ、二人に補佐が一人つけば十分かな」

凛「アイリとユキノが映るわけにはいかないし、人選も妥当だと思う」

未央「だってねぇ、英雄クラスが絡んでるなんて知ったら絶対裏があると思われるよ」

卯月「……そっか」

未央「だから見回りって、さっき言ってたよ。撮影場所の警戒とか」

卯月「それ以外の他の人は何をしているんだっけ?」

未央「サトミさんとトモちゃんも一緒じゃない?」

凛「聞いてはいなかったけど、たぶんそう」

沙織『お気づきの方もいると思いますけんど、今日この放送は協会の本部からではないんでず』

凛「……映ってないだけで、現場の近くにいるのかもね」

沙織『今回の緊急放送についてですけど……』

泰葉『……噂に聞いている方も多いとは思いますが、つい数日前に魔術協会本部が襲撃による半壊を受けています』

未央(それはレイナちゃんのせいだった気もするけどね?)

沙織『ただ勘違いしてはいがんです、襲撃はありましたが……特定の国家が攻撃を行ったわけではありません』

沙織『襲撃は、あくまで個人により行われました』

凛(……嘘じゃあない)

卯月(確かにレイナちゃんが一人で……ただ――)

泰葉『そして、その人物を手配するわけでもありません』

未央(……公表もしないんだ)

卯月「そういえば、私達も聞いていなかったっけ?」

沙織『重要なのはその人物でなく……その人物が用いた、道具です』

沙織『これは“種子”と呼ばれる……強力な物質』

卯月「そこまで、言っちゃうんですか?」

凛「考えがあるんだよきっと……どっちにしろ、私達が集めたいものはソレなんだし」

凛「だったら先に“危険なもの”と説明した方が、いいかもしれない」

未央「でも私は、ずるい人も出てくると思うんだけどなー」

未央「こっちが集めてると知ってるのをいいことに、足元を見てふっかけてくるとか……」

凛「それでも別にいいかもしれない」

未央「へ?」

卯月「それでいいってどういうこと?」

凛「どうなるのが一番怖いって考えた時に、何が怖いと思う?」

卯月「何が怖い……」

未央「うーん……やっぱり、さっき私が言ったみたいな状態かな」

凛「詳しくは?」

未央「お金? この種子を渡す代わりに大金寄越せみたいな」

卯月「財政破綻しちゃいますね」

凛「この協会のお金がいくらあるかなんて分からないけど……それは小さなことだと思う」

未央「そうなの?」

凛「一番大事なのは、種子の本当の効果……その、力が手に入るって効果、こっちが表に広まることでしょ?」

卯月「あ……」

凛「なら、今話したケースなんて全然問題ないと思う」

沙織『この種子の回収に全力を傾けます。もちろん、無償の協力をさせるつもりもありません』

凛「……ほら、やっぱりそのつもりみたいだよ」

未央「人に懸賞金じゃなくて、物に懸賞金がかかる場合なんてあるんだねー」

卯月「でも……本当に大丈夫かな」

凛「何が?」

卯月「こんな放送までして集める、しかもお礼まで……変だと思われないかなぁ」

未央「種子を、ってこと?」

凛「それは仕方ないでしょ、集めないと……もっと大変なことになるのは説明されたでしょ?」

未央「だけどねぇ……私もしまむーの言う事は分かるよ」

卯月「やっぱり、何か他の力があるから集めてる、それを隠してるとか思われないかな?」

凛「それは――」

愛梨「その点は問題ありません」

卯月「アイリさん……!」

未央「あれ? 見張りは大丈夫なの?」

愛梨「もともと一人でも十分なところを三人も四人も取り掛かっていたんです」

卯月「そうだったんですか……」

凛「それで、問題ないっていうのは……?」

愛梨「疑われない事、です」

――…………

愛梨「魔術協会は、力を持った集団であることには間違いありませんが……他のどの組織よりも、公平に平等な組織でもあります」

卯月(学校も作ってたし……あちこちで名前も聞く、名前に強さもある)

愛梨「だからこそ、そのための中立を保ってきた魔術協会です」

愛梨「こんな事態でも、特別な媒体である放送という選択肢も使えた、内部でトラブルも起きなかった……」

愛梨「皆さんは、どうですか? たとえば、どこかの大国が同じように『種子は危険だから集めてくれ』と言われたら」

凛「……すごく、怪しいね」

愛梨「他の国家や人物が中心になって行う活動よりも、よっぽど信頼を得ることが出来ると思っています」

愛梨「とはいえ、やはりゼロでは有り得ないのも……事実です」

未央「…………」

愛梨「その数パーセントを、私達が何とかする」

卯月「……大役ですね」

凛「分かった、信頼はされてるってのは……うっすら体感もしてる」

愛梨「それは何よりです……どのみち、種子の真の効果が甚大に広がることはありません」

卯月「そうなんですか?」

凛「根拠は?」

愛梨「種子の情報をどこからか手に入れた人物が仮に居たとして、その人物も競争相手を作りたくないはずです」

未央「なるほど……下手に種子の事を知っても仲間に知らせるのは危険……」

未央「本当に信頼関係があるならいいけど、そうじゃないなら……種子は限りがあるからね」

凛「持ち逃げされたり……取り合ったりする可能性も、無いわけじゃない」

未央「だったら、実は意外と安全……?」




・・

・・・

*国家『チャプレ』*


泉(絶対に、それだけなはずがない……!)

さくら「どういう放送だったんですか?」

瑛梨華「これは良い事をKI・I・TA☆」

あい「ふむ……何やら、ややこしい話だね」

さくら「ねぇイズミン、どんな内容だったの?」

泉「……魔術協会が募集をした。何か“種子”と呼ばれる物質が、危険らしい」

さくら「種子? お花の種ですかぁ?」

千夏「…………」

あい「それで、エリカくんはどうして興奮しているんだい」

瑛梨華「いい? 今、エリカちんがやってることを思い出して?」

瑛梨華「エリカちんは平和の為に、秘宝を回収するという目的がA・RU・NO・DA☆」

千夏「さっき言ってたわね」

瑛梨華「この放送の内容は、まさにほとんど一致! エリカちんの行いが正当化される☆」

泉「一致しているようには聞こえなかったけど……」

瑛梨華「誤差だよ誤差! どのみち、エリカちんが何かを集めることで貢献できるならそれでオッケー!」

さくら「平和のためでぇす!」

瑛梨華「MA・SA・SHI・KU☆」

泉「……あなたがそれでいいなら、いいけど」

あい「目標があるのは素晴らしいことだよ」

瑛梨華「種子っていうのは“放送を聞く限り、十大秘宝と関係ない”らしいけど、大きな力があるっぽいのはKA・KU・TE・I☆」

さくら「皆と協力して集めてくださぁい、ってことですね!」

瑛梨華「手伝ってくれるかどうかは別だけど、エリカちんは動きやすいよ!」

千夏「…………」

泉「ん……」

泉(回収? 冗談よね? そんなもの……放っておけばいいに決まってる)

千夏(注意喚起なんて、わざわざ行ってきたということは……きっとなにか事情がある)

泉(例えば――)

千夏(可能性としては――)

泉(その“種子”が、想像以上に危険な物質……ってこと?)

千夏(名前の挙がった“種子”という代物が、他人の手に渡る事を防いでいる?)

さくら「イズミン? 大丈夫?」

泉「え? あ、うん……なんでもないよ」

千夏(……あの子も気づいたのかしら? この違和感に)

泉(何か変……とは思うけど、私には調べる立場も権力も、手がかりも時間も無い……)

千夏(だったら――)

――ガタッ

千夏「賑やかになってきたし、私は長くここにいたからそろそろお暇するわ」

瑛梨華「あっ! 先に行こうとしてる! ZU・RU・I・ZO☆」

千夏「別にそんなつもりはないわよ……?」

あい「君も出発したければ構わないよ、私はもう少しここに居させてもらうが……せっかく貰った席だ」

さくら「イズミン、わたしももう少し居たいかなぁ」

泉「別に大丈夫よ。後でアコにだけ連絡を取っておきましょう」

さくら「わぁい♪」

千夏「それじゃあ、またどこかで会った時はよろしく」

千夏(先に動くに限る、かしら)

泉「…………」

――ゴソッ

泉(これが何に使えるかは分からないけど、咄嗟にさっきの放送の撮影はしておいた)

泉(撮っておいてよかった、って事を期待しておこうかしら)

――…………

あい「ところで」

泉「……私?」

あい「君もだが、そちらの……エリカくん、だったかい?」

瑛梨華「ご指名?」

あい「誰かを待っているのかもしれないが、せっかくの店なんだから何か飲んだらどうだい?」

さくら「わたしは食べてますよぉ♪」

瑛梨華「んー……確かに有名なお店らしいし? ちょっとKI・NI・NA・RU☆」

泉「私は別に――」

あい「手持ちがないなら、少しお節介させてもらっても構わないよ」

泉「そういう意味じゃないけど……」

さくら「大丈夫でぇす! お金はありますから!」

あい「おっと、なら不要な進言だったかな」

瑛梨華(へー、ここ高そうなお店に見えるけど、二人ともお金持ちなのかな? O・JO・SA・MA?)

泉「今は食事じゃなくて、ここを待ち合わせ場所に使ってるの、だから不要な出費は控えただけ」

あい「なるほどね、ここは確かに目立つ場所だから集合の目印には最適だ」

さくら「アコちゃんそろそろ来るかなぁ?」

――タタタッ

亜子「おったおった二人とも、到着し……そちらの二人は?」

あい「アイという。ただの相席だ、気にしないでくれ」

瑛梨華「エリカちんだよ! YO・RO・SHI・KU☆」

亜子「アイさんとエリカさん……よし、覚えましたわ、アタシは旅の商人してたアコ言います、今後よろしくどうぞ」

泉「急に呼び出してごめんね」

亜子「おお、イズミンどないしたん? って、そりゃあ呼び出しやから何か話あるのは分かるけど……」

亜子(もしかして、さっきのアレ絡み?)

泉(ご名答)

さくら「?」

亜子(だったら悪いけどアタシ、ちょうど見れてないから話参加出来ひんわ……)

泉(意外ね、見逃したの?)

亜子(……面目ないわ)

泉(でも問題ない)

――スッ

さくら「イズミンそれ何?」

泉「いえ……後で説明するわ」

瑛梨華「ヒソヒソ話、KI・NI・NA・RU?」

あい「誰だって聞かれたくない話もあるだろう」

瑛梨華「それはSHI・TSU・RE・I☆」

泉「ごめんなさい、せっかくなのに」

あい「構わないよ、私も聞き耳なんて立てない、ご自由にだ」

泉「それじゃあ、改めて」

――カシャン

さくら「わぁっ」

泉「ここに、その時の映像……私も不意だったから、後半しか撮影できなかったけど」

亜子「実物あるん?」

泉「画面をそのまま記録したから見辛いかも」

さくら「映ってますよぉ! 声も残ってます!」

泉「音声も同じく低品質だけどね」

亜子「ええって、それで十分や」

――ザザザッ……

亜子「っていうか、アタシが改めて見たところで何も分からん思うけど……」



・・

・・・


――……カチッ

泉「どう、だった?」

亜子「こんな内容が緊急放送なんて、まぁ意外やな」

亜子「確かに事は甚大かもしれんけど……こんなの今の世の中今更やし、中立保ってた協会が突如こんなんも変や」

泉「私もそう思う」

亜子「ただ……真意が結局分からへんわ」

泉「……私も、そう」

さくら「この放送の意味?」

亜子「何かはある思うんですけども」

泉「…………」

亜子「うーん…………」

――…………

さくら「ところで、この後ろの方の人がずーっと映してる文字って何かなぁ」

泉「……え?」

さくら「ほら、この人が持ってる紙みたいな……えっとぉ」

泉「さくら、どれ?」

さくら「これですよぉ! この……えっと、誰でしたっけ?」

亜子「ヤスハさんですわ、実際にお会いした事ありますけども……」

泉「ヤスハ……」

亜子「ん? そういやこの方、放送映ってますけど特に何もしてませんな?」

さくら「ですねぇ! ずーっと、この紙を持ってるだけでぇす」

泉「そこから文字が出てる……ってさくらは言ってるけど……アコ、どう?」

亜子「いや、アタシも何のことか……いや、待って」

――ジーッ

さくら「これ、これですよぉ? 見えますかぁ?」

泉「だそうだけど……文字、見える?」

亜子「アタシが見てるのは申し訳ないけどそれとは違ってな……」

亜子「もしかしてやけど……これ、紙やなくて術式、か?」

泉「!」

さくら「え?」

亜子「映像通してやから今は分からんけど、モノホンの映像見てた時……魔力感じたとか無かった?」

泉「……ごめんなさい、私は全然」

亜子「そっか……だったら確証は出来ないけども、確率は高い、と思うわ」

亜子「で、術式やったら……図形を描くのだって可能やしな」

泉「問題は、それが何かって事?」

亜子「本当に何かが描かれてて、それに意味があったらの話ですけど」

泉「さくらはどう見える? 全部綺麗に見えてるの?」

さくら「んん……ちょっと……見えるような、見えないような……」

亜子「見えるなら見える範囲で形だけ言ってくれたらええよ、あとはアタシが……調べる!」

――サラサラ……

さくら「次はこんな、斜めの線が入った点々の――」

亜子「ふむふむ……んん? これ……記号や魔術式やとか思てたけど、違うなぁ」

泉「私には暗号文にしか見えないけど」

亜子「これ……普通に、文字や」

さくら「これがですかぁ?」

亜子「そりゃ一般に使われてる言語とかとは違いますけども、意味のある言葉……なはずですわ」

泉「だったら、読めるの?」

亜子「そうやな、難しく考えて損したわ……えーと……」

さくら「どきどき」

亜子「『国家は、応答せよ』……?」

泉「……それだけ?」

亜子「映ってる部分だけだと、これだけですわ」

亜子「抜け落ちてた前半部分がどうなってるかは分かりませんけど」

亜子「アタシの予想……この放送は告知だけで、本命の連絡は後でする意味かも」

泉「どういう事?」

亜子「この文章やと、それよりも前に『○○だから××しろ』みたいな流れがあったかな思いまして」

亜子「だったら前半部分に要件が書いてあって、この解析した部分が『要件があるから、応答してほしい』って書いてると予想しました」

泉「例えば……『ある国家が反逆を起こした。だから、協力してくれる国家は、応答せよ』みたいな?」

亜子「放送の内容まるごとブラフの可能性あるとか出てきましたやん……物騒やわぁ」

さくら「なるほどぉ」

亜子「しかしそれやったら、アタシらが解析しても無駄やったかな」

泉「いや、意味は十分にあったかもね」

さくら「?」

泉「後で連絡する、って事が知れただけでも十分」

泉「アコ、以前例の試験の時に……移動式の解析を頼んだわね」

亜子「あ、ああ、せやったな」

泉「そして今も、こうやって解読は出来た」

さくら「アコちゃんの得意分野でぇす!」

泉「だったら……この協会がこれから発するはずの『本命の連絡』も……解析してくれない?」

亜子「本め……ってそれ、要するに協会の通信!?」

泉「そうよ」

亜子「ほぇー……いや、言うてる事は分かるけど……キツいでそれ」

亜子「いくらアタシの得意分野言うても、相手は得意どころか専門家のトップ集団、それは――」

泉「キツい、でも……無理ではないのね?」

亜子「……やってみな分からん」

亜子「でもアタシら、結構立場がアレやからこんなとこ下手に首突っ込んだらえらいことなるって」

さくら「怒られちゃうんですかぁ!?」

泉「その時は私が責任を取るから」

亜子「いやいやいや……」

さくら「駄目ですよぉ! イズミン一人が背負っちゃ!」

亜子「……なんでそんな積極的なん?」

泉「仮にも私達は大きな武器を持っているのよ、そんなグループが消極的でどうするの」

亜子「う、それはそうやけど」

さくら「元気が一番、でぇす!」

亜子「ちょっとそれは違うよーな……でもイズミが言う事は、確かにそうやな!」

泉「飾りだけじゃないってことを」

亜子「こういう事出来ますよーって、売り込まな意味無いわな! よっしゃ、アタシやるわ!」

――タッタッタッ

あい「……おや」

あい「話が纏まったようだね?」

――カチャン

あい「賑やかなグループだったな……気になって、コーヒーの一杯も飲み干すのに時間がかかったよ」

あい(さて、私一人……と思ったが、もう一人が帰ってくるな?)

――タタッ

瑛梨華「TA・DA・I・MA☆ 気になるスゥイーツ選んでき……あれ? アイちゃん一人?」

あい「あの子たちなら、急用が入ったようだよ」

瑛梨華「なんですと!? エリカちんショック!」

あい「まぁ、座ってゆっくり食べればいいさ」

瑛梨華「うう、少しさみしいかも?」

あい「そんな露骨に悲しまなくてもいいだろう……」

瑛梨華「涙がしょっぱい……んっ、スゥイーツは甘い☆」



・・

・・・


*放送終了後 協会一行*


泰葉「メッセージは届きました」

雪菜「これで反応しなかったら、許さないからねぇ」

沙織「いんや……まだ分からねぇで、もともと見てすらいなかったら――」

瑞樹「その心配は無用よ」

――ザッ

卯月「ミズキさん? ……と」

千奈美「チナミよ。別に、あんまり会う機会はなさそうだから覚えてくれなくてもいいけどね」

沙織「ミズキさん、その心配はねぇっで、本当だすか?」

瑞樹「見ている人物は、把握している。方法は企業秘密ね」

千奈美「そちらから提示された『都合をつけたい相手』が、今の放送を見ていないという事はありえないわ」

瑞樹「ま……理解しようとしていない、って可能性はあるけども」

未央「聞く気がない相手、って事かなぁ」

泰葉「もともとその可能性がある相手へは確認をしていませんので、問題ないかと」

沙織「なら……今から、順に連絡を始めま――」

??『無駄だと思うけど』

凛「今の声……」

卯月「アンズ……?」

朋「サオリさん!」

杏『事情はトモから聞いた』

沙織「トモさん。……相手は、国家『キュズム』のアンズさんで間違ぇねぇか?」

朋「はい。 ……もう、放送開始前から真意を伝えて、見てもらっていました」

杏『だから他よりかは深刻さを把握してるよ』

卯月(あの人たちなら、協力してくれますよね? とっても頼りになる、いい人たちですから!)

沙織「だったら話を――」

杏『それなんだけどね……厳しい、とだけ伝える』

卯月「……あれっ?」

朋「核心以外は、全部伝えたつもりです」

杏『その上で、まだ伝えられてない事の中にとても重要な話があっても……よほどじゃない限り、答えは変わらないよ』

卯月(どうして言わないんですか!?)

未央(しまむー、何を?)

卯月(よほどじゃない限り、って……この世界単位のお話です、余程の話じゃないですか?)

未央(うーん……私もそう思うけど)

瑞樹「意外ね? こういった協定の話には積極的に乗ってるイメージだけど」

杏『アンズも見境なしじゃないからね? メリットよりデメリットが大きければ、そりゃあね』

雪菜「デメリット、分かるのぉ?」

杏『いいや? でもだいたい感じる。例えば、こっちが知らないまま隠してる部分は、そんなに大事な話?』

杏『そうだとして……じゃあ、アンズがそれを知ったら、悪用できる?』

沙織「…………」

杏『即答できないなら、詳しく聞かない事にするよ……後で面倒な事になりそうだし』

泰葉「聞こうとはしないんですか?」

杏『聞いて欲しいの? どっち? ……まぁ、面倒だから聞かないけど』

杏『他だって、聞いていい範囲は全部トモから聞いたつもりだし』

杏『ただ、だからこそ思うね。これじゃあ事情を知らない人からしたら、脅威の度合いが理解できない』

未央「……うーん」

朋「あたしもそう思ってる……中身を分かってるはずのあたしが、伝えきれなかった」

朋「やっぱり、今の放送じゃ情報不足が過ぎると思う……」

杏『杏も暇じゃないからね、いくらうちの人員が手を貸してる事でも……だったら、こっちを先に手伝ってとしか言えないよ』

凛(……この放送を決行した協会には悪いとは思うけど、私もそう思う)

凛(他に名案が無いから選んだだけであって、この手段は決して良案じゃない)

凛(アンズの言う通り、伝えるのも理解するのも実際に協力するのも、全部難しい)

杏『トモから聞いた通りに同盟が機能するなら私も参加していいよ、周りの牽制になるし』

瑞樹「機能するっていうのは、同盟に参加する陣営が多いということね?」

千奈美「参加が多ければ、当然話が進むし……隠す相手必要も薄れてくる」

杏『でも、実際どうなの?』

泰葉「それは……」

杏『無理そうだったら、人員は裂けない』

沙織「……分かりました」

雪菜「!」

沙織「断る、という方向で構わねぇです」

泰葉「いいのですか?」

沙織「強制はできねぇ……わだすらは中立の組織だ」

杏『立場って大変だねー、分かるよ。だからせっかくだけど、断るよ』

沙織「……時間を取って、申し訳ねぇで」

朋「じゃあ、切ります」

杏『ん、分かった…………』

――ピッ

杏「……トモには悪い事したけど、無理矢理聞き出した甲斐があった、かな?」

杏(異能の種子……ふーん。そんなもの、あるんだね)

沙織「……ひ、一つ目は駄目だったけんど、他は――」

泰葉「あまり状況は」

雪菜「良くない、かなぁ」

沙織「うぐっ」

未央「進捗ダメみたいだね……」

瑞樹「そりゃあトントン拍子に進む話じゃないわよ」

卯月「急で、詳しくも分からないお話ですもんね……」

沙織「皆さん、どうなってますか?」

泰葉「だいたいの国家からは、やはり説明不足が祟って話が呑み込めないと断られ……」

朋「こっちも同じ状況だね」

雪菜「そうじゃないところは先に本題を求めるねぇ、でも話すわけにもいかないし」

未央「種子の話は一斉に伝えなきゃいけないからこの方法を選んだんだよね?」

沙織「そうです……だから、中身を聞いてから参加するか決めるって言ってる人は断るしかなぐで」

凛「…………」

卯月「お話、進みませんね……」



・・

・・・


朋「……ふぅ」

沙織「…………」

卯月(あれから忙しなく、ヤスハさんやセツナさんが頑張っていますが)

――ピッ

泰葉「……同じです」

雪菜「芳しくないですねぇ」

凛(結果変わらず)

朋「こっちも……通信が繋がらない国家もありました、予想外に……」

雪菜「もしかして『順番に繋げてる』って連絡も向こうで回してるのかもねぇ」

泰葉「何のために……」

雪菜「それは……分かんない、かなぁ」

泰葉「……続けます」

――Prrr……

泰葉「もしもし、こちら――」

??『はい、お待ちしてましたよ』

泰葉「!」

??『ここに連絡を頂けたという事は、大きな国家と認めていただいて光栄です♪』

泰葉「……そちらは国家『キルト』で間違いないですか?」

??『はい、間違ってませんよ』

泰葉「では……キルトの国家代表の方と、お話を通してもらっても――」

??『もう通ってますよ♪』

泰葉「……?」

??『うふ♪』

泰葉「……まさか」

??『はい、ヤスハさんがお話しているお姉さんが、代表です♪ 改めて……』

??『全ての民に住みよい国家を、キルト代表のアリサと申します』

泰葉「……驚きました、まさか外部端末から直通で代表に通じているなんて」

亜里沙『助けや要望が直に聞こえなければ、正しい判断は出来ません』

亜里沙『そして放送の内容ですが、全ての国家が手を取って協力する、素晴らしいと思います』

亜里沙『これはわたしの描く理想に近い未来を迎えるために、必要な事です』

泰葉「理想……」

亜里沙『だったら、協力は惜しまないウサー♪』

泰葉「……う、ウサ?」 

亜里沙『お姉さんのお供のウサコちゃんです♪』

泰葉「は、はぁ……」

沙織「ヤスハさん、どうしたんでずか?」

泰葉「……サオリさん。国家キルトと、お話が通りました」

沙織「!」

泰葉「今、代表のアリサと……ほぼ纏まりかけていますが、通信中です」

卯月「アリサ……!」

未央「知ってるの?」

凛「知ってるも何も、有名な国で――」

卯月「違うよリンちゃん……あの国だよ、最初に私達に用意された五つの国……!」

凛「……!」

未央「そうだ、あの……えっと、どんな説明されたっけ?」

卯月「戦争国家と真逆の、侵略を行わない国……」

未央「ほんと!? だったら最高じゃない? この計画に、一番うってつけの協力者!」

卯月「イメージは良くなりますね!」

凛「戦力……としては難しいかもしれないけど」

沙織「……通信、代わりました」

亜里沙『どうも、サオリさん……ですか?』

沙織「こちらこぞ。んで……本題、に入る前に大事なことが」

亜里沙『?』

沙織「まだ、協力してくれる人は多く見つかってないのが現状で……」

亜里沙『構いません。純粋に協力したいからこうして連絡を待っていたんです』

雪菜(それで通信に出るのが早かったんですねぇ)

沙織「……協力には、好意的ということで?」

亜里沙『ただ……戦力としては、計算しないでほしいのが正直な話です』

亜里沙『争いはお姉さんの理想とは、少し遠いの……』

沙織(欲を言えば、そっちの手も借りたいのが本音だけんど……キルトと言えば不侵攻の国家、予想の範囲内んだ……)

沙織「……分かりました」

沙織「それと、まだ問題はありまして――」



――……



――…………



――………………



――……ドクンッ……

沙織「えっ……!?」

泰葉「ッ!」

雪菜「これ、っ……?!」

卯月「う、あ!」

凛「何……!?」

未央「えっ!? な、何、今の……!」

亜里沙『?』

――シーン…………

泰葉「…………」

雪菜「…………」

沙織「……ま、まさか」

亜里沙『どうしました? 急に……通信が乱れました?』

沙織「い、いや……ちょ、ちょっと待っでくだせぇ、すぐ、少しだけでず……!」

――ピッ

沙織「み、皆さん今のは――」

泰葉「間違いありません、が……どうしてこのタイミングで……!」

――Prrr……!

沙織「通信機が……」

沙織(保留にした通信がすぐに鳴って……という事は)

沙織「……もしもし、サオリです」

里美『サオリさぁん……今のは……?』

沙織「サトミさんでしたか……んだ、今のは間違いねぇ……例の、アスカの……」

泰葉「まさか、もう……!?」

雪菜「いや」

――ピッ

雪菜「こっちで確認したけど……水は溢れてないねぇ」

泰葉「……よかった。なら、今の気配は何故?」

雪菜「それにぃ……あっちが置いた警告の指標より早く登場するのは無いと思うけどぉ」

沙織「それはわだすも、そう思っでます」

卯月「どういう、ことですか? 今の気配がまさか……」

未央「らしいね……例の相手かぁ。とりあえず、今は似た……同じ? その気配ってだけで、偽物なんだよね?」

沙織「んだ……警告を超えてない以上、間違いねぇはず……」

凛「……逆を言うと、警告が最終通告だから超えた瞬間に出てくるのは確実」

沙織「その時を狙っで結界を発動する話は前に話した通りで……今回は、不意だったから合わせられなかったけんど」

泰葉「それに冷静に思えば、今確かに気配はしましたが……本当にアスカが来たのかは分かりません」

朋「ミオちゃんが言った通り偽物、っていうのもあながち間違いじゃないかも」

泰葉「ですがアスカに近い誰かの可能性もじゅうぶん……しかも、アリサは気配を感じてないなら」

沙織「現れた場所も、近いかもしれなぐて……」

沙織「とにかく、アスカ本人である可能性は“警告を破ってない”から、無いと思っで……」

朋「でも、感じた気配は確かだから“似た移動手段を持つ誰か”……要するに、あっち側の人物ね」

雪菜「どうします? 近くにいるかもと仮定するなら急ぎますしぃ、アスカ本人じゃないから後回しとも取れますぅ」

沙織「…………」

卯月「もし、今の気配が味方の人なら……手伝ってくれるかもしれませんけど」

沙織「え?」

卯月「ほらっ、私達が警戒する気配と同じ雰囲気を出せるってことは……同じ移動方法を持ってるかもしれないじゃないですか」

卯月「だったら、色々教えてもらえるかも――」

凛「ウヅキ、相手を調べてる暇は無いかもしれないよ」

未央「だねぇ……詳しく観察する時間があるとも限らないし、観察してる間に帰っちゃうかも」

卯月「あ、そ、そっか……すいません、今のは無かったことに」

泰葉「……サオリさん、交渉を急ぎましょう」

沙織「はい……」

沙織(現れた人が味方に……そういや、そんな発想したことは無かったけんど……)

――ピッ

沙織「……すいません、待たせて申しわげねぇ」

亜里沙『何かありましたか?』

沙織「それも、今から話す内容に含まれでるんです……」

亜里沙『あら……』

沙織「そもそも、わだすらがこれだけ警戒しているその正体」

亜里沙『正体、とは? 種子が一番の原因ではないんですか?』

沙織「ある危険人物の、襲来に備えなければならないんでず」

亜里沙『危険人物?』

沙織「そのために……“ある物”を集めて、登場を遅らせなければならない……」

亜里沙『それが放送で言っていた……?』

沙織「んだ……種子、です」

亜里沙『その種子というのは、それほど重要なもの?』

沙織「それは――」

泰葉「サオリさん」

泰葉「……それ以上を、通信で伝えるには危険かと」

沙織「いんや……わだすは信用します、アリサさんと皆さんを」

雪菜「……私たちもぉ?」

沙織「通信が傍受されているかの調べは、ここにいない皆さんがしてくれてる……大丈夫、絶対」

泰葉「……そうですね」

雪菜「うん、数キロ先まで大丈夫だよぉ。もちろんそれより遠くからも、覗き見盗み聞きはされてないけどぉ」

泰葉「私も警戒しています」

沙織「引き続きお願ぇします、それで……アリサさん」

亜里沙『大事なお話ですね?』

沙織「種子……正式名称“異能の種子”というのは……名の通り、所有者に異能の力を与える道具でず」

沙織「でもって……その力は強力だけんど、この世界に対しては毒……簡潔に説明すると、こういう事でず」

亜里沙『異能の種子……異能、というのもピンと来ませんが、毒とは?』

沙織「ついさっき“嫌な気配”を、わだすら全員が感じました。……そっちは、どうでず?」

亜里沙『気配…………いえ、すいません、何の事か分かりません』

沙織「そうでずが……とにかく、その気配を発した“人物”が、非常に嫌う毒だと思っていただければ」

朋(毒、ですか)

朋(でもその毒は、間接的にアスカという災厄が訪れるだけで、本当は――)

沙織「溜まってしまえば、その人物は毒を取り除きに来ます……この世界ごと」

朋(何か、もっと大きな影響も、あるのかな?)

亜里沙『世界ごと? そんな人物が……?!』

沙織「信じがたい話かもしんねぇけど、これがわだすらの知ってる現状でず」

亜里沙『本当なら、急を要する事態なのは明らかです……分かりました、では詳しいお話は直に』

沙織「お願ぇします、追って連絡するのでそれまでは、はい……」

――ピッ

沙織「……ふぅ」

朋「まず一歩、だね」

卯月「それも大事ですけど、さっきのは大丈夫なんですか!?」

凛「警戒網に引っかかったなら……見に行った方がいいんじゃない?」

未央「本当に例のその人なら、何か要件があるってことだもんね」

沙織「確認しますがヤスハさん、セツナさん……今までの会話は誰にも聞かれてねぇですね?」

泰葉「はい、間違いなく」

雪菜「機械も魔術も、両方から盗み聞きと覗き見は防いでるよぉ」

沙織「わだすも確認していました、三人なら確実でしょう……んでは――」

――ピクッ

泰葉「ん……!」

未央「?」

雪菜「……サオリさぁん、ちょっと」

卯月「え?」

沙織「大丈夫でず、わだすも……今、この近くに誰か近づいてきたのが、分かりました」

凛(近づいてきたのが、分かった?)

泰葉「東の方向、道の無い川から接近している様子です」

雪菜「移動速度も早いとなると……敵意、あるかもねぇ」

未央「えっ……? き、聞き間違いかな?」

凛「どうしたの?」

未央「東の川って、ここから数メートルどころじゃないよ……数キロ単位だよ」

卯月「そうでしたっけ……?」

泰葉「周辺の警戒は必須でしたから、慎重に調べて慎重に決定しました」

凛「地図まで頭には入ってないけど、そうなの?」

未央「そんなところまでこの場所から、正確に感知できるなんてどうなってるの……」

雪菜「どのみち、伏せたはずの放送場所もバレたようですし……移動しましょお?」

沙織「分かりました……他の幹部と合流しでがら、さっきの気配の調査に取り掛かる方向で……!」

卯月「はいっ!」



・・

・・・


――……ゴソッ

乃々「で、出るタイミングを……逃してましたけど」

乃々(ずっと隠れてたら、その、何か変な準備が始まって……)

乃々(出ようかな、って思った矢先に明らかな結界を張りはじめました……これ、秘密の何かが行われる雰囲気でした……)

乃々(今出て行くと絶対にロクなことにならないと思ったもりくぼは、静かに相手が去るまで待ちました……)

――バサッ

乃々「……と、咄嗟に隠れたところは、バレバレだと思ってましたけど」

乃々「運よく見つからなかった……という事で、いいんですか……幸福です、もりくぼは感動です」

乃々「最近、隠れてると見つからない事が多いので……こんな事が続けば最高なんですけど」

――ガシッ

乃々「ヒイッ!?」

??「ん~? 途中で嫌な予感はしてたんだよね~」

乃々(い、いつの間に? もりくぼは隠れる暇が無かったんですけど……ていうか、なんで全身濡れてるんですか晴れてますけど)

??「せっかく準備万端だったのに、肩透かしくらっちゃった?」

乃々(ここは逃げ……たいんですけど、なんで掴まれてるんですか……)

??「ねぇそこのリスちゃん、んふ♪」

乃々「あ、あのっ、も、もりくぼは無害なのでっ……」

??「ふーん、もりくぼちゃんって言うの? もしよかったら、ここで何があったか知ってるかアタシに教えて~?」

乃々「こ、ここで何があったか……?」

乃々(別に言ってもいいんですけど……もしかして、万が一、最悪、もりくぼが秘密をバラした事がさっきのグループにバレたら……)

乃々(何か報復とか来る可能性が、なきにしもあらずなんですけど……だったら……)

乃々「み……もりくぼは、ここで何も見てませんけど……」

??「そーぉ?」

――ムギュウ

乃々「んんっ!?」

??「ねぇ、教えてくれない?」

乃々「あのっ、あのあのあのあのっ」

??「アタシ代わりになんでもしてあげるから、さ?」

乃々「ちょっ、ちょっとっ……そういう趣味は、もりくぼに無いんですけどっ……」

??「遠慮しない遠慮しない♪ 魅力的なカラダに個人差なんて無いんだから♪」

――フワリ

乃々「あれ……?」

??「どう? ほら、なんだか気持ちいいでしょう……?」

乃々「ん、うっ……ち、違うんです、けどっ……」

??「あれれ? なかなか強情じゃない? だったら仕方ないわね」

――フッ

乃々(終わり……な、何だったんですか……変な人ですけど……)

――パチンッ

乃々「!」

??「ウフ♪ もうちょっとサービスしてあげようかな……♪」

乃々「そのっ、ここ外ですけど……!」

??「うん? 獣人族って集落とかだったら服は薄くなったりするんじゃないの?」

乃々「偏見ですけど……! と、というより」

――ザッ

乃々「ま、まだやるんですか……ほ、本当に何も――」

??「知らないかどうかは、もりくぼちゃんのカラダに聞くわ♪」

乃々「離してっ、むーりぃー……」

??「……あ、別に痛めつけようってわけじゃないわよ? むしろ、とっても気持ちよくなれるかも?」

――…………

乃々「ふあ、ぁ……」

??「ほ~ら……♪ アタシはアタシに絶対の自信がある、そうやって惹きつけられるのも仕方のない事」

乃々(へ、ヘンですけどぉ……か、体が言う事を聞かないんですけど……)

??「そんなアタシに見惚れてもいいって言ってるのよ? ウフフ♪」

乃々「う……」

??「さて……もう十分かな」

――スッ

乃々「ふあ……」

??「ねぇ、聞かせて? ……あなたが見て聞いた“ここで何があったか”を♪」

乃々「こ、ここではぁ……ひ、人が集まって……お話が……」

??「おっ? やっぱり何かあった感じ?」

乃々「なんだか、偉い人と話してるみたいで……話してた人も、偉い人に見えましたけど……」

乃々「世界が大変だとか……そのために“異能の種子”が必要とか……」

??「?」

乃々「その人達が、これから突然不思議な力に目覚める人も出てくるとか言ってたような……」

乃々「あれ……そういえば……もりくぼも……?」

??「何か力に目覚めた?」

乃々「……確信は……ありませんけど」

乃々「最近、妙に隠れている時に見つからずに済む……気が、します……」

??「ふんふん、分かったわもりくぼちゃん、ありがと♪」

乃々「は、はいぃ……ん、ぅぅ……」

??「アタシが居なくなると寂しい? 大丈夫、またそのうち会えるからきっと♪ じゃ☆」

――ザッ

??「苦労して遠征した甲斐があったわ……! 一度は失敗したと思ったけど、成功ね!」

??「なるほど、アタシのこの力は、そういう原理で身に付いたのね?」

??(もちろんアタシのカラダあってのものだけどね?)

??「もりくぼちゃんが言ってた“異能の種子”は情報不足だけど、これからきっと奪い合いになる! たぶん!」

??「ただ、奪い合いになる前に……新しい種子を発掘するための“情報戦”がきっと、ある!」

??「そこにアタシは参入できるわ……アタシのカラダに見とれさせて、洗いざらい喋らせてア・ゲ・ル♪」

卯月「……頑張ります!」

凛「どうしたの? 突然に」

未央「気合入ってる?」

卯月「はい。 私達は元々、みんなで一緒に強くなって……ううん、強くなる以外にも成長しようって」

未央「そう決めて村を出てきたね」

凛「成長って意味なら……収穫はゼロではないと思うよ」

未央「うん! ゼロに近いかもしれないけどもね……」

凛「経験値が増えるのは悪くないはず、だよ」

凛(本当に、世界には色々な人が居る……)

卯月「私達を導いてくれた、この経典は今――」

――ガサッ

卯月「最初に思っていたよりも確実に、灰姫の経典は重要なものになってきています」

卯月「でも、最初にアイリさんが言ってた事に、変わりはありません」

凛「試練を与える、だったよね」

卯月「経典は『成長できるように試練を与えるもの』……狙われるのも、きっとそういう事なんだと思う」

未央「規模は凄いことになっちゃったけど、言ってたことに嘘は無いね」

卯月「ちょっと、忙しいけどね……えへへ」

凛「……これからも同じ状態になるだろうし、むしろ過激になってくるかもしれない」

未央「かもしれないけど、今は大丈夫かな? 楽観的すぎる?」

卯月「今は他人の力だけど……協会の人たちと一緒に居ますから、落ち着いて対応も出来るはずです!」

凛「だね。……自分達だけで対処できないのは悔しいけど、これも仕方ないよ」

卯月「まだ“異能の種子の情報は漏れてないはず”ですから激しい戦いも起きないはずです」

未央「そうそう! まだ本番には早い! あの話を聞いてる人は他に居なかった……よね?」

凛「……そうでしょ?」

卯月「はい! いろんな結界で、長い距離を調べてくれたみたいです、普通の侵入者なら一瞬で感知出来ます!」

未央「だったら安心だね! 実際、誰か接近してきたのをすぐに探知できてたし!」

凛(……普通の侵入者なら感知出来てる、か)

――ザッ

愛梨「皆さん」

卯月「あっ! アイリさん!」

凛「向こう……協会の方の話は終わったの?」

愛梨「これからユキノさん達が協会のメンバーとして、引き続き対応と調査を行います」

未央「一緒に?」

愛梨「いえ、私は……いや、もしかすると手伝いを求められるかも」

卯月「大丈夫ですよ、私達も……自分で、なんとかしなきゃと思ってるんです」

愛梨「くれぐれも気をつけてください。それと……これからの協会の行動ですが」

凛「今は、連絡を続けてる状態?」

愛梨「進展がどうなるかは別の話ですが……とにかく協会は動いています」

未央「変わらずかぁ~」



愛梨「今は一時の安全圏です、この間に鋭気を養って――」

――……バサッ

卯月「あれっ?」

凛「ウヅキ? どうしたの……あれ?」

卯月「あ、アイリさん!」

未央「えっ!?」

――バサァッ

凛「ウヅキ! それ……!」

未央「きょ、経典が!」

愛梨「まさか、今……?」

卯月(こ、このタイミングで久しぶりに、新しい指令?)



~ 経典に刃を向けている正体を探れ ~

卯月「……?」

凛「刃を向けている正体……あまり、いい指令には聞こえないけれど」

未央「敵!? だ、誰!?」

卯月「どう、なのかな? リンちゃんっ……!」

凛「この刃が向いてるのは、明らかに私達に……だよね」

卯月「ってことは……」

凛「刃、つまり……敵意でしょ?」

未央「やっぱり、これは話が、事情が変わった……?」

愛梨(こんな時に、状態で、この内容……?)

愛梨「妙です……どうして?」

凛「妙なの?」

愛梨「一番に不審な点は、どうして……矛先が、皆さんに向いているかという点です」

卯月「私達が狙われるのは経典のせいなんじゃ……」

未央「でもそれって今まで通りだし、どうして今更って事だよね?」

愛梨「魔術協会が放送を行い、明らかな“何か”の存在を感じさせた」

卯月「だから、相手も“何か”を狙うために動いてる……」

未央「何かの手がかりが、私達だと思ったの?」

凛「……それは、仕方のないことだよね」

愛梨「ですがその何かを探るには、少し考えれば協会を調べるのが一番なはずです」

未央「う……そっか、そりゃそうだよね? 放送したのは協会だもん」

卯月「私達は一緒に居た事すら悟られていないはずなんですよね……」

愛梨「しかし……経典は“経典に向ける”という文章を記しています」

未央「……なんで?」

凛「さ、さぁ」

愛梨「可能性……一つ目は単純に、今まで通り経典を狙う相手による襲撃」

未央「いつもの、だね」

愛梨「そして二つ目は、三人が協会と何か接点のある人物だと突き止めた人物による襲撃」

卯月「もうそんな所まで調べられちゃってるんですか?」

凛「可能性だよ、あくまで」

愛梨「ヤスハや、以前からの協会との接点ある皆さんですから、関連性を見つけるのは容易でしょう」

未央「んー……私達が気をつけてても、仕方ないところもあるよねぇ」

愛梨「……そして」

卯月「そして?」

愛梨「二つ目の、さらに別の可能性がありますが……」

愛梨(考えたくない可能性です、そして……ありえないはずの可能性ですが)

愛梨(……誰か、私達以外にも……異能の種子の情報を持っている人物がいる、かもしれない)

凛「二つ目の……何?」

愛梨(今、この可能性を伝えるのは危険? 私の気のせいで、心労を増やす必要は無いでしょう)

愛梨「いえ、私の気の――」

――コンコンッ

卯月「あれ?」

未央「ノック?」

愛梨「ここは……無関係の人物は入れないはずです」

凛「ってことは、知っている誰かが訪問してきたか……もしくは」

卯月「もしくは……っ!」

未央「まさか、まさかの?」

卯月(いきなり急襲……!?)

――……ガチャッ

みく「お邪魔するにゃ」

美玲「来たぞッ!」

卯月「ミレイちゃん!? と、ミクさんも!?」

愛梨「お二人が……?」

凛「どうしてここに? ずいぶん急だね、連絡もせずに」

美玲「ああ! もう、すぐ来たからな、すぐ!」

みく「ノアチャンから話を聞いたにゃ、詳しい事は伝えられなかったけど……何か大変な話とは聞いてるにゃ」

愛梨(協会からの連絡が『ウィキ』にも向かっている、当然ですが――)

未央「応援に来てくれたんだ!」

卯月「ノアさんから言われて、ですか?」

みく「んー、ちょっと経緯が複雑にゃんだけども」

凛「国家『ウィキ』は、この案件に好意的?」

美玲「残念だけど、国としては動かないってノアが言ってたぞ、薄情だよなッ!」

愛梨(協力しないという選択をしたうえで、応援を寄越した?)

凛「そう……やっぱり、協力してくれるところは少ないんだ」

未央「……あれ? じゃあ、なんで二人は?」

美玲「その代わりにウチらが、なッ! 国が動けないなら個人で動くのがいいぞ!」

みく「だから、勝手に来たって感じにゃ」

美玲「ウチらも何か手伝えるか? 経典を守るなら任せろッ!」

卯月「二人共、ありがとうございます!」

愛梨「…………」

みく「みくが来ても大した戦力にはならないと思うけど、そこは……まぁ、仕方ないにゃ」

未央「とんでもない、皆が集まれば百人力だよ!」

愛梨「その前に」

みく「にゃ?」

愛梨「もう一度、ここまでの経緯を聞いても構いませんか?」

美玲「いいぞ! ウチらがここに来た経緯、それは――」



・・

・・・


*数日前 国家『ウィキ』*


みく「まさか、みくも断られるとは思ってなかったにゃ……」

美玲「あの放送の後、ノアが通信を受けてたって事は、そういう事だよなッ!」

みく「そーにゃ! 内容は聞いてないけど、要するに大変な事態を解決するための協力者探しのはずにゃ!」

美玲「通信の内容を教えろって詰め寄ったけど、結局駄目だったぞ……」

みく(……困ってる人が居るなら、助けてと言ってる人が居るなら、可能な限り手伝って当然にゃ)

みく「なのにノアチャンは『部分的な協力をしても益が無い、むしろ協力した事で注目される方が危ない』って!」

美玲「だったら全面的に協力すればいい話だろッ!」

みく「……でも、そうするには人材が足りないって理由も分かるにゃ」

美玲「足りないのか?」

みく「そりゃそうにゃ。今でこそ国は平和だけど、ここは規模の割に幹部が少ない国にゃ」

みく「何かあった時に……むしろ、他を手伝って手薄な時に狙われるとかを考えると――」

美玲「そうじゃなくてさ、ウチらが勝手にやっちゃ駄目なのか? あの、タマミの時みたいに」

みく「もちろんそのつもりにゃ! でも、肝心のノアチャンが情報を渡さないからどーしようもないにゃ」

美玲「そっか…………」

みく「結局、みくは何も――」

美玲「……ウヅキなら、何か知ってるんじゃないか?」

みく「にゃ?」

美玲「そうだよっ! 今までもウヅキ達は色んな事に関わってたしなッ! もしかしたら――」

みく「ところで……肝心のウヅキチャンの居場所は?」

美玲「…………」

みく「全然駄目にゃ! 良案と思った矢先にコレにゃ!」

美玲「ダメか……」

みく「そりゃまー確かに、見つかれば何か知ってるかもしれないにゃ、でもウヅキチャンだって」

??「うづきー……?」

美玲「……うん? 何だ?」

――トテテテッ

??「うづきー……しってるのー?」

美玲「さっきの声、オマエか? うん、知ってるぞっ」

みく「待つにゃ待つにゃストップ。 ……そっちは何者にゃ?」

??「なにものー? ……こずえはこずえだよー」

美玲「コズエって言うんだな? ウチはミレイだぞ!」

みく「かなり幼く見えるけど、一人で何してるにゃ」

こずえ「こずえはねー、さがしてるのー……」

みく(ゆったりした喋り方にゃ)

美玲「もしかして、ウヅキをか?」

こずえ「うづきー……そうだよー」

みく「……知り合い?」

こずえ「むかしのおはなしなのー……」

美玲「昔、って……オマエ何歳なんだ?」

こずえ「おとめのー……ひみつー……」

みく「…………それで、結局何の話だったかにゃ?」

こずえ「えーとぉ……」

――ガサッ

みく「これは?」

こずえ「あのときのー、おれいにー……」

美玲「お礼? 何かあったのか?」

こずえ「……いろいろあるのー」

美玲「ふーん……ま、詳しくは聞かないけどなッ、秘密の話だってあるもんな」

みく「ところで、このお礼として渡したいものは何にゃ? 包んだ紙に見えるけど……開けていいかにゃ?」

美玲「えっ? 開けちゃうのか……?」

こずえ「いいよぉー……こずえ、がんばってかいたのー」

美玲「描いた?」

――バサッ

みく「にゃあ……これは……」

こずえ「こずえはねー……おえかき、すきなのー」

美玲「なかなか上手だなっ! ウチ、こういうの得意じゃないから凄いぞ」

こずえ「えへへー」

みく「むむむ……普通のお絵描きにゃ」

美玲「そりゃあそうだろッ」

こずえ「……これをねー、うづきにとどけてほしいのー」

美玲「ウヅキに? 何を伝えればいいんだ?」

こずえ「こずえはねー、げんきだよーってー」

みく「……にゃあ」

こずえ「だめー……?」

美玲「……分かった! ウチがやるッ!」

みく「ミレイ?」

美玲「大丈夫だッ! もともと目的が同じだし、ウヅキに会うのはウチらの方が可能性あるぞ」

みく「そうだけどにゃ……」

こずえ「それじゃあ……やくそくー」

――スッ

美玲「……何だ?」

こずえ「ゆびきりー、げんまんー」

みく「子供ッ!」

美玲「何言ってるんだ!? 子供じゃないかッ!」

みく「そうだけども、そうじゃない可能性もあるにゃ! そしてそう思ってたにゃ! 蓋を開ければモノホンだったにゃ!」

こずえ「こずえはー、こずえだよー」

みく「そーいう意味じゃないにゃ! 誰かみくの補助が、会話の通じるパートナーが欲しいにゃ!」

美玲「ウチは共通語で喋ってるぞッ!」

みく「もういいにゃ! いつまで続けるにゃ! 漫才終わり! 本題!」

こずえ「やくそくー……ゆびー……」

美玲「よしッ! 絶対やってやるからなッ!」

――ギュッ

美玲「フフン♪」

こずえ「みくもー」

みく「……仕方ないにゃ、約束は守るにゃ」

――ギュッ

みく「…………」

美玲「…………」

こずえ「ありがとうなのー……みくー、みれいー」

美玲「……それじゃあ、ますます頑張ってウヅキを探さないとなッ!」

こずえ「うづき……ばしょ」

みく「にゃ?」

――トントン

こずえ「ここー」

みく「ここ、って……地図の、ここかにゃ?」

こずえ「そうー……ここに、いるのー……」

美玲「えっ? なんでオマエが知ってるんだ? それに知ってるなら自分で行けば……あっ」

こずえ「こずえ、とおいのー……」

みく「そっか、みく達と違って移動が難しいんだにゃ」

美玲「だったら、ますますウチらがやらなきゃ駄目だなッ」

こずえ「……このばしょに、いってほしいのー」

みく「ここにウヅキチャンが居るにゃ、断る理由は無いにゃ」

美玲「ああ!」

こずえ「やくそく……だよー……?」



・・

・・・


未央「~♪」

――キィィ……

未央「ふぅ、リングが完成!」

未央(ようやく心に余裕が出来たというか、気を緩めてもいい時間が出来たというか……)

――チャリンッ

未央「それにしても、しまむーは危機に駆けつけてくれる友達も出来てて、やっぱり凄いなぁーって」

未央(アイリさんが改めて二人が来た経緯を聞いて良かったよ、ただ会いにじゃなくて他の目的も一緒に達成してたんだねー)

未央「三人で話すことがあるみたいで、さっさとしまむーを連れて行っちゃったから、私もこうしてっ!」

――パシャンッ

未央「時間を有意義に作業を進めるよ! 最近本当にカツカツだったんだよね……私の主力武器なんだから、数は用意しておかないと!」

未央(今まで手詰まりになって負けた、みたいな事は起きてないけども……)

未央「でも、なーんか引っかかってるんだよねー……このヘンな気持ち、なんだろ?」

未央「……っと、それよりも、備えあれば憂いなし! というわけで今日は一日リング作り――」

――カランッ コロコロコロ……

未央「あっ! ちょっとストップっ! 待ってー!」

――コツンッ

??「うん?」

未央「ごめーんっ! それ私のなんだ! 転がって行っちゃって、ありがとう!」

??「そうなの? 別にアタシ、止めようと思って止めたわけじゃないから、イイよー」

未央「だったとしても、ここで止まらなかったら坂道ダッシュする羽目になってたから……」

??「そりゃキツいねー。……これって、高いの?」

未央「……?」

??「いや、大事そうにしてたから、そうなのカナーとか思って」

未央「あははっ! 残念だけど全然違う、これは手作りだから値段はつかないねー、タダ同然?」

??「へー。 売るためのモノじゃない?」

未央「そうそう、なかなか鋭いっ! じゃあ私は戻るよ、ごめんね! わざわざ足を止めさせちゃって!」

??「いいよいいよー、じゃあねー」

未央「バイバイ!」

――タッタッタッ

??「なんだか賑やかな人だねー、それにしても……」

??(今の人、どこかで見たよーな?)



・・

・・・


凛(仲間が増えたのは、心強い)

凛「攻めるタイミングじゃない今、ウヅキに護衛がついてる間に私がするべきことは」

――ザッ

凛「ミオは道具の準備、これからの戦いに備えて武器を揃えている」

凛「それじゃあ、私は……?」

凛(ウヅキみたいに追加の応援も……呼ぶアテがない)

凛「……こういう時、何もないと困るね」

――ザッ

凛「…………」

――ザッザッ

凛「…………」

??「…………」

――ザッザッザッ

凛「…………」

??「…………」

――ザッ

凛「…………何か用?」

??「あれ、気づいてたのか」

凛「そりゃあね、ずっとついてきてたし……それで?」

??「何の用事か、って……薄々気づいてるんじゃないのか?」

凛「という事は……敵でいいんだね」

――ダンッ!

??「うわっ、とッ!」

凛「避けたつもり? 甘いよ!」

――ドガッ!

??「っう……」

凛(当たった、でも……私の攻撃力が足りていない)

??「やるねぇ、噂通りかな……さて」

??「まずは名乗らせてくれよ、リン=シブヤ!」

凛(名前も。さっきの“噂”って台詞も、間違いなく私を知ってるから来る言葉!)

??「アタシはリョウ=マツナガ。 ……別に大きな組織に所属してるとかじゃあないんだけどね」

凛「……何か探してるなら、私は知らないよ」

涼「またまた冗談キツイって。それに……別にアンタが持ってなくても――」

――スッ

涼「一人捕まえれば、後は繋がってるだろ?」

凛「……目的は私“達”だったんだね」

凛(なら……標的は間違いない、灰姫の経典!)

――ザッ

涼「おっ……戦う気か?」

凛「そのつもりでしょ、最初から」

涼「違いないな。さて……よいしょっと」

――ガタンッ

凛「…………」

涼「はは、そりゃあ警戒するよな」

――ヒュンッ

涼「そっちの武器は珍しいよな。 アタシは、ごく普通だよ」

凛(……鎌? にしては、大鎌サイズの柄に比べて――)

涼「刃が小さい、って思ったか?」

凛「…………」

涼「見た目で判断しちゃ二流さ、もし本当に小さくて陳腐だと思うなら」

――ザッ

凛(来る!)

涼「その身で受けてみな! 一刀両断だ!!」

凛(きっと普通の武器じゃない。 トモエの一件で学んだ、未知の武器を受け止めるのは……可能だったとしても)

凛「まずは、避ける……!」

――ヒュンッ

凛(刃の当たらない位置まで体を引いて――)

涼「……だと思ったよ!」

――ザクンッ!!

凛「っうぁ!? なんっ――」

涼「!?」

――バッ

凛(斬られた?! しかも、避けたはずの刃が斬ったのは……私の、背中!?)

凛(間違いない、きちんと見て避けた。私の体はギリギリ刃に触れてないはず!)

涼「おいおい……」

凛「く……なんで、そっちが“予想外”みたいな顔してるの……?」

涼「いや、ね……アタシが思ってたよりも、アタシの攻撃は見切られすぎてるみたいだよ」

凛「……?」

涼(このまま続けると、まだ“使い慣れてない”アタシの方が先にボロを出しかねないよ)

涼「ますます……これ以上見切られる前に、決着つけないとね!」

凛(来る……! 早く、この攻撃の謎を解かないと、まずい!)

涼「決着を急ごうかな!」

凛(さっきは後ろから斬られた……もしかして、相手は一人じゃない?)

涼「そらっ!」

――ヒュンッ!

凛「直接攻撃は、躱せる!」

涼「素早いな……!」

凛(問題は、あの突然の攻撃の方! 常に使ってこないのは、何か理由があるはず! それこそ相方がこっそり攻撃している、とか)

凛(……いや、複数人で構えてるなら周囲が見渡せるこんな場所までついてくる必要はないはず、相手は……やっぱり一人)

涼「これもっ! 全部避けるねッ……!」

凛「それが取り柄だから!」

凛(とにかく今は時間を稼いで――)

――ドンッ

凛「!」

涼「こっちだって無策で武器振り回してたわけじゃない、追い込んでるんだよ!」

凛(しまっ……木が背後に!)

涼「貰った!」

――ヒュンッ!!

凛「っ……!」

――ズゥンッ……

涼「器用な奴だな……!」

凛(危ない、咄嗟に跳ばなかったら……後ろの木みたいに、真っ二つ…………え?)

涼「だけどそう何度も続かせないよ!」

凛(今の攻撃も、さっきの攻撃も……鎌本体は、私を狙ってはいたけど刃は届いてなかったはず)

――チラッ

凛(でも現に木は根本から切断されてる)

凛(……よく思い出せば、木を真っ二つに切断したのだって鎌本体じゃなく“何か分からない斬撃”の方)

凛「鎌は、当てずに振るうだけ……?」

凛(確かめるには……!)

凛「数を見る!」

――バキィッ!

涼(切断された木を蹴っ飛ばした!?)

涼「だけど、そんなものもう一回真っ二つにしてみせるよ!」

――ヒュンッ

凛「……!」

凛(やっぱり、鎌を振るうタイミングが早い! その距離だと木に刃は届かないはず――)

――ザンッ!!

凛「っ!? か、はっ……!」

涼「……木じゃなくてアンタを、だけどな!」

凛(どうして!? 離れていたのに、届いていないはずなのに……!)

涼「空中にいるぶん、ちょこまかされなくて狙いやすかったよ!」

凛(しかもっ……今度は木が切断されてない! リョウと私の間にある木を無視して直接こっちに!)

――ドサッ!

凛「かはっ!」

涼「ようやく捉えた、ってな」

凛「ぐ……」

凛(傷は……浅くは無いけど深くもない、今なら逃げ切れる……?)

凛「……違う」

涼「へっ、じゃあこれで……しばらく寝てもらうことにするよ!」

凛「来る……!」

凛(間違ってるかもしれない、原理も分からない……けど、そう考えるしか!)

――ダッ!

涼「お、っと!?」

凛「あえて、近づく……!」

涼「まだ動けたのかよ……!」

――バッ

涼「よっし、これで!」

凛(また数歩下がった……!? ってことは)

涼「切り裂く!」

凛(私の考えは、正解に近いはず!)

凛「横向きの一閃、なら!」

――ダンッ!

涼「チッ!」

凛「上に跳ぶのが正解!」

凛(鎌を持っているのに間合いを離そうとする、木を通り抜けて私を切る、突然背後から攻撃される……)

凛(これが示す答えは!)

涼「自由自在すぎるっての……!」

凛「機動力が売りなんだ」

涼「見れば分かるって……!」

涼(ここまで接近されるとやりにくいね……間合いを詰められて反応速度勝負だと負ける)

涼(だからアタシはとことん後ろに下が――)

――ドンッ

涼「おっ……!?」

凛「後方不注意、さっきのお返しだよ」

涼(しまった! 後ろが塞がって!)

凛「さっきから、不思議と距離を離したがってるよね? しかも、武器の間合いよりも遠くに」

凛「原理は分からないけど……その鎌は、どうやら“少し離れた相手も斬る”ことが出来るみたいだね」

涼「っ!?」

凛「ただし、広い範囲を斬るんじゃなくて……“少し離れたところだけ斬る”でしょ?」

涼「……どうだろうな!」

凛「行くよ!!」

涼(もうこっちの手が見透かされてる……! だからこそ、アタシに接近してきた、けど!)

涼「チッ! だけどアタシも取り柄が一つってわけじゃない、普通に武器だって扱え――」

凛「フッ!!」

――ドゴォッ!!

涼「ッッ!! ふぐっ……!?」

凛「加減してないから」

――ギリッ

涼(やっべぇ……早すぎるし……何より……!)

涼「かっ、かはっ……お、おぇッ……!」

凛「……目的は、私達の経典なの? ちゃんと話してくれる?」

涼(無茶苦茶重いし……! どこがスピードタイプなんだって……!)

涼「は、ははっ……もう抵抗できないし、ちゃんと話す……けほっ」

凛「素直だね」

涼「アタシも、調子乗ってたんだって……なっ……げほっ、所詮こんなもんだったって……」

凛「……話が見えないんだけど」

涼「今、裏の情報網で……面白い話が回っててね」

涼「人並み外れた力が手に入る道具……はは、どこのお伽噺だよって最初は思ったんだけど――」

凛(人並み外れた……!?)

涼「……実際、自分が手に入れたら、そりゃあ信じるよな」

凛「手に入れたんだ……その、道具を」

涼「おかげさまで、ちょっと武芸齧っただけのアタシでもアンタみたいな超人を相手に一矢報いれた」

凛「やっぱりさっきのは――」

涼「そ、アンタが見透かしたように……この鎌は、斬った範囲より一回り大きい軌跡をも両断する」

涼「でも……それだけじゃ無理だった。これじゃ、近いうちに他人の養分になっちまうな」

凛「人の養分……?」

涼「まぁ、色々あるんだって、それに……」

涼「アンタも聞いてただろ? この前の放送……この道具は、ずばりソレなんだ」

凛(やっぱり……という事は、この道具は――)

涼「“種子”って言うらしいよ」

凛「……知ってる」

涼「そ。アタシはおかげでこんな力を手に入れた……でも、まだ数が足りない」

涼「種子は一つじゃダメなんだ。幾つもの種子をたくさん集める必要がある」

凛(たくさん……そういえば、協会の人も“なるべく多く回収する”って言ってたね……)

凛「集めるって、その種子っていうのはどれくらいの数があるの? それに、私達を狙う理由は?」

凛「経典は、種子と違うでしょ?」

涼「ああ違うよ。ただ……それでも、狙う理由にはなるんだ」

凛「?」

涼「種子の情報は出回ってる、力が本物という点も分かった。問題は……肝心の種子がどこにあるかって話だよ」

凛(それは、協会も困ってる問題だね……この様子じゃ、いい解決方法は裏ルートでも見つかってないみたい)

涼「考えられる手段として挙げられたのが――」

凛「この経典だった?」

涼「経典、もしくは……秘宝。この、凄い道具であるとだけ銘打たれていて、詳細が分からない十大秘宝」

涼「これがこの騒動に何か関係しているんじゃないか、って噂が流れだした」

凛(……だから、私達を狙って)

涼「で? 実際のところ、どうなの?」

凛「…………何が?」

涼「いやいや、種子を探す機能は……その本に、あるのか?」

凛「無いよ、誓って」

涼「ふーん……じゃあ、ここで喧嘩しても意味無いね」

凛「……帰るの?」

涼「だって、アタシじゃ勝てそうにもないからね……大人しく引き下がるよ」

涼「……それとも、逃がしてくれなかったり、しちゃう?」

凛「いや……別に。そっちがもう襲わないって、言ったからね」

涼「言ったよ、確かに。だから安心? でも、手放しで安心していいワケじゃないと思った方がいいよ」

涼「情報は既に出回ってて、アタシみたいにアンタ達を狙う人物は……居るんだからさ」

凛「それはそうだけど…………あ!」

――ダッ!

涼「あっ! おい!」

凛(そうだ! 私、自分の事しか考えてなかった……! 私が襲われたのは経典が目当てなんだよ?)

凛「だったら、ウヅキとミオにも来てる可能性がっ……!」

??「そーそー、アタシ思い出したんだよ」

――ザッ

??「三人のうち、二人が武器を使う……一人は独特な武器、もう一人は特殊な武器を使うってね」

??「いや、最初に会った時に気付くべきだったんだけどさー、ど忘れしちゃってたっぽい?」

未央「っ……これは、急だね……!」

??「でも、今は思い出したよミオちゃん」

未央「また会ったね、って言う間もなく……なんのつもり!?」

未央(出会い頭に、攻撃された……!?)

??「あ、そーだ、アタシの名前言ってなかったカナ? アタシは……ユズ!」

未央「……? ……?」

柚「まーアタシの名前なんて知らなくても当然だよねー」

柚「さてさて? ここに取り出したるは、さっき不幸にもぐさーっとミオちゃんの腕に刺さった一本の編み棒……」

未央「不幸? にしては、ずいぶん盛大にすっ転んで、その勢いで刺された気がするけど」

未央(それよりも……! あの針? が、私の手を貫通した、ようにみえたけど……)

柚「不思議? 刺さったのに、痛くもなんともなかったよね?」

未央「…………何もないなら問題ないね」

柚「ところが!」

――グンッ

未央「うわッ! っと!?」

未央(手が急に引っ張られ――)

柚「こっちに来ちゃって!」

――グイィッ!

未央(何のせいで!? 勝手に、な訳がない!)

柚「そーれっ!」

――キラッ

未央「っ! よ、よく見ると私の手から……何か伸びてる!?」

柚「よく気づいた! でも、だからって――」

未央「分からないけど、外したほうがいい!」

柚「無駄! ユズチャンの魔の手からは逃れられない!」

――グンッ

未央「うわっ! こ、このっ、なんで私を敵視してるの!?」

柚「ふふふっ」

未央(分かんない、分かんないけど……急にユズって人が私を襲ってきた! それで――)

未央「この、右の手のひらから伸びてる“糸”っぽいのは?!」

柚「でも、やっぱりすんなりとこっちに来てはくれないカナ?」

未央「当然っ……! せー、のっ!!」

柚「んんっ!?」

未央「せやぁッ!!」

――ドォンッ!!

――…………

柚「けほっ、けほっ……!」

柚(地面に一撃、煙幕?)

柚「さて……見失ったケド、どこに隠れたかなー?」

――ササッ

未央「…………」

未央(どうする? 隠れたものの、私はどうするべきなの!?)

未央(ひとまずあっちが諦めるまで――)

柚「……なーんて、すぐに分かっちゃうんだなこれがっ!」

――グイッ!

未央「うわ!?」

柚「見ーっけ! 木の後ろ? フツーな隠れ場所だったね?」

未央「また引っ張り出され……っ!」

未央(よく見たら、私の手から伸びてる糸がユズの手にも繋がってる!?)

柚「どこに逃げても、二人は運命の糸で繋がってる的な?」

未央「……だったら! 断ち切ってみるよ!」

未央(糸なら、切っちゃえば問題なしでしょ!?)

――スカッ

未央「う!?」

柚「ざーんねーん、この糸はアタシしか触ることが出来ない、切ろうとしても無駄!」

未央「こんな魔法聞いたことが――」

柚「魔法じゃないんだなーコレが」

未央「なわけ無いよ! 聞いたことはなくとも、こんな武器も技術も聞いたこと無いし!」

柚「本当にー……?」

柚「自分のムネに聞いてみなよっ!」

未央「くう!」

――ヒュンッ!

未央(まだ攻撃してくる! ……この距離なら、避けられるけど)

柚「知ってるよ? ……持ってるんでしょ?」

未央「持ってる……!?」

柚「言わなくちゃ駄目カナ? アタシの目的はズバリ! ミオチャンが持ってるかもしれない『灰姫の経典』をね」

未央「!」

柚「どーする? 今すぐ渡してくれるなら――」

未央「久しぶりに、そこ目当ての……だけど」

――ダンッ!

柚「おっと?」

未央「断る!」

柚「だったら勝負するっきゃナイナイ!」

未央(来る……!?)

――ダッ!

未央「来た! ……え? 来たの?」

柚「何驚いてるの? アタシが近づいて戦えないとか思ってた感じ?」

未央「……いや、近づいてくるなら願ったり叶ったり!」

――ギュンッ!

柚「ぐさっと!」

未央(さっきはこの針で刺されて、妙な糸を繋がれた! だからこれは、きちんと受ける!)

未央「フッ!」

――パシィッ!

柚「つ、掴んで止めた!?」

未央「反応速度は並だけど、この程度なら!」

柚「――って、驚くと思った?」

未央「!?」

柚「利き手貰ったよ!」

――ズシュッ!

未央「なっ!?」

未央(か、貫通したっ……!?)

柚「貫くのは、ここ!」

――ザクッ!

未央「うっ――」

柚「仕上がり!」

未央「っ! い、糸が手と……肩にも……!」

未央(痛みや異物感が無いのが、かえって不気味だよっ……!)

柚「防御してもアタシには関係ない! 攻撃じゃなくて“縫い付ける”ことが目的だからね!」

未央「ぬ、縫う……?!」

柚「そうそう♪ まだ意味は分かってないかもしれないけど、そのうち分かるから!」

未央「く……だけどここまで接近されて、一撃も返さずに逃がさないよ!」

柚「そー? 果たして攻撃は届くカナ?」

未央「もちろん! この拳が捕らえてみせる!」

未央(この距離なら、届く!)

――ヒュンッ!

柚「……あれあれ? 今、アタシが“縫い付けた右手”で攻撃するの?」

未央「行っけぇ!!」

柚「そんなことすると――」

――ビキィッ!!

未央「んぐぅっ!?」

柚「あはっ! そりゃあ無理だねー」

――グググッ……・

未央(手がっ……! 腕が伸びきらない!?)

柚「その糸は、アタシ以外には外せない! 当然、切ったり伸ばしたりも無理!」

未央「なんで、ッ!?」

――ピィンッ……!

未央(さっきの糸が! 伸ばそうとした手と肩の間に“張ってる”!?)

柚「手と肩に短い糸が繋がってあったら、アタシに手を出そうとしても、どうなる?」

未央「な、こ、ええっ!?」

柚「当然伸ばせない、伸びきらないでしょ?」

柚「よーするに、アタシがミオチャンの右手を……封印したのだ!」

未央「ふ、封印……! で、でも……」

未央(実際に、この糸のせいで私の手が伸びきらない!)

柚「これがアタシのパワー! このまま全身動けないくらいに縫い縫いしちゃおっカナ?」

未央(ちょっと、まずい? 冷静に考えたらそりゃそうだよ、私の事を知ってるのに、無策で近づいてくるワケがない!)

未央「くっ!」

――ダダッ

柚「おっ?」

未央(どうする!? ここは一旦逃げて――)

柚「逃げようと思ってる? それはちょっと甘いんじゃないカナ?」

柚「糸は自由に伸ばせて、縫い付けられるんだー!」

――シュルッ

未央「っ、糸がそっちにまで伸びて……」

柚「正確には、さっき肩に通した糸に余りがあるだけなんだケドねー……からのっ!」

――ビシィッ!

未央「!?」

柚「今! この建物とミオチャンの糸を繋げた!」

未央「繋げ――あうっ!?」

――ビィンッ……!

未央「うぁっ! ……か、肩に変な力が」

柚「いくら力自慢でも、建物から引き剥がすのは無理でしょ?」

未央「糸が私の手から肩、それと……そ、その建物に繋がってるの!?」

柚「だから、ミオチャンが移動できる範囲は建物を中心に、糸の長さが限界!」

未央(さっきから全然理解が追いつかない、けど……!)

未央「敵で、変な力で、逃げられない、って事でいいのかな……?」

柚「せいかーい♪ じってんまんてーん! とゆーことで」

――チャキッ

柚「別にお命頂戴ってワケじゃないから、おとなしくしてくれると助かるカナ?」

未央「そう言われて、黙ってやられるわけにもいかないね! 不思議な力にだって、負けない!」

未央(不思議な力……もしかして、いや、まさか?)

柚「こっちだって、絶対逃がさないよ?」

おつ

未央「どうする? どうするって……」

柚「どうしようかって考えてる? だったら、アタシが決めちゃう! ……こっちに来よう!」

――グンッ

未央「う、わっ!?」

未央(考える暇も無い! 片手が使えなくて、しかも相手のタイミングで飛び込まさせられて……!)

柚「そいっ!」

――ガツッ

未央「っ~!」

柚「やっぱり攻撃は向いてないかな、アタシ」

未央「どうだろう、ねッ!」

柚「うわっと!」

未央「くぅ……もどかしい!」

柚「危ないねー、その腕の縫い目のおかげで助かったカナ?」

未央(クセで右手で攻撃しちゃってる! 今こっちの腕は満足に伸ばせないのに……!)

柚「ほいっと」

――グイッ

未央「っ、また――」

柚「逃げる!」

――タンッ

柚「何ていうんだっけ、ヒットアンドアウェイ?」

未央「…………」

柚「近づくと不利だよねー。隠れて何回か、ちょっかい出しに来るよ!」

――サッ

未央「隠れた……」

未央「糸……建物と繋がってて、少し引っ張った程度ではビクともしない、それに――」

――スカッ

未央(一つ分かってる……この糸は、ユズだけが引っ張れる)

未央「伸びてる糸、原理は分からないけどとにかくそういう事……」

未央(でも、引っ張れるだけ! つまり、私が誘導される先には!)

――ダンッ!

未央(来たっ!)

柚「よいしょ――」

未央「そこだーッ!!」

柚「んッ!?」

――ビュンッ!!

柚「あっぶなっ!」

未央「っう! 惜しいっ……!」

柚(反応してきたね……! そのうち慣れられるとは思ってたケド!)

未央「よく考えれば当たり前、糸の方向にユズちゃんは居る!」

柚「なぁーるほど? じゃあ次はっ」

――タンッ

柚「ちゃんと考えてから攻撃しようカナ?」

未央「そうした方がいいよ? 私もタダでやられはしない!」

柚「ふーん……!」

未央(こう言っておけば、次は裏をかいて他の場所から? でも、糸で邪魔されない他の方角からの攻撃は怖くない!)

未央(裏の裏で糸を引っ張られても、さっきので反応できることは立証済み!)

未央「さぁ、どこからでも――」

――……ガサッ

未央(音! よし! こっちの方向から攻撃が来る!)

柚「よしっ!」

未央「……来たね!」

――クルッ

柚「どんと来いっ!」

未央「……あれ?」

――ピィンッ

未央(糸が、よく見たら違う方向に伸びてる? ……じゃない!!)

柚「ゆくぞっ!」

未央「ユズの手元に、私から出てる糸が、繋がってないんだ!?」

柚「気付くのが遅いよ!」

――グイッ!

柚「こっちの糸を引っ張ると、さて不思議……どうなるかな?」

未央「……糸は、確かにユズの手元にあるのに!?」

未央(今、ユズが糸を引っ張ったのに私の腕に連動しない……!)

未央「いったいどういう――」

――ピィンッ……!

未央「っ、うわぁっ!」

柚「おぉう、吹っ飛んだ!」

未央「う、ぐぐぅっ?!」

未央(ユズは前に居るのに、後ろに思い切り引っ張られる!?)

柚「糸だけがアタシの力じゃないんだよ? 糸を縫い付けるまでがアタシの戦略! そう、例えば――」

――ズンッ ズゥンッ

未央「え? 何っ、この音……?」

柚「あ、気付いた?」

未央(なんだか、重い音が……!)

柚「その位置からは、えーっと」

――ズンッ……!

柚「うまく見えないだろうけど……ミオチャンの後ろで坂を転がり落ちてる岩と手を糸で繋げたりね?」

未央「い、岩!? そ、それでこんなに思い切り引きずられて……!」

――ゴゥンッ

未央「んううぅ!!」

柚「前だけ警戒してたところにコレは不意打ちになってるでしょ?」

未央(これは、辛い……っ……!)

柚「さぁ! 前はユズちゃん、後ろはたぶん、坂から崖か川コースかな?」

未央「それはっ、勘弁っ……!」

――ズンッ!!

未央「ぬっ、ぐぅおおおぉっ!」

――ザザザザッ!

未央「……ぷはぁッ!」

未央(重いっ、けどっ……!)

柚「うぇっ!? ちょっ、止まった!?」

未央「これ以上っ、後退すると坂まで引っ張られるから、ねっ……!」

柚「だからって、踏み止まれるの!? 転がってる岩をロープで引っ張り上げるようなものだよ!?」

未央「こちとらパワーファイターだよ! これくらい――」

柚「でも、それはそれで隙があるよね?」

――ヒュンッ

柚「そりゃっ!」

未央(真っ直ぐ来てる、攻撃は……素人!)

未央「これなら、左手でも振り抜ける!!」

――ドガァンッ!!

柚「……ッ、がうっ!」

未央「ぐうっ! 相討ち、だけど……!」

――ドシャッ

未央「確実に、こっちの方が決定打を撃った!」

柚「げほっ、げほっ!」

未央「迂闊に飛び込んだのは失敗だったね、これで私が有利――」

柚「と思ってる、でしょッ……!?」

未央「!?」

――ギリッ

未央「え、あッ……?!」

――ギリィッ……

未央「しまったっ……今、私が左手で殴った瞬間に!?」

柚「そう、だよっ! おかげで、げほっ! こっちも相当痛手だよっ……でも」

未央「左手にも、糸が絡んだ……!」

柚「これで攻撃能力は文字通り半減、でしょ!」

――タンッ

柚「おーっと」

未央「くっ!」

柚「じゃ、またアタシは姿を隠そうカナー」

未央「逃がさない!」

柚「無理だね、だって」

――ピンッ

未央「んうッ! ぐ、糸が……」

柚「そーそー、糸の長さは無限じゃないからねー、アタシはそれ以上に逃げれば確実に逃げ切れる」

未央(ここで逃すと、糸から攻撃方法を探るのも難しくなる……絶対に駄目、だけど……!)

――スッ

未央「追いかけられない……!」

柚(両腕を縛って、逃がさないように住宅の基礎に縫い付ける!)

柚(あとは消耗戦だよ! こっちのダメージも少なくはないからね……)

柚(向こうはアタシの糸で、一定の距離からは動けない……なら、その外側からだね!)

柚「よーし、この位置からだったら」

――スチャッ

柚「じゃーん……弓道は得意じゃないから、ボウガンで代用……」

未央「どこから攻撃が来るのか――」

柚「射出!」

――ザクッ!

未央「っうッ!?」

柚(命中!)

――スチャッ

柚「よしっ! ……悪く思わないでね? 命は奪わないからサ」

未央「っぐ、ぐぐぐ……」

柚「後は足でも狙って、ちゃんと無力化してから経典の在り処を――」

未央「そっちに、居るんだねッ!!」

柚「ん、んんっ!?」

未央「覚悟!!」

柚(バレた? いや、よく考えたら当たり前だね、攻撃が飛んできた方向がアタシの居る方向!)

柚(落ち着いてユズ! アタシがきちんと把握してる、この距離は糸の長さより通り、絶対に近づいてこない!)

柚(万が一何か遠距離武器があっても、いくらなんでもアタシでも避けられる!)

柚「場所がバレても大きな問題じゃあ――」

未央「だあぁりゃあああ!!」

――ビキィッ……!

柚「はっ?!」

未央「こんな細い糸で縛っておけるほど、ミオちゃんは甘くないぞおおおッッ!!」

――ズゥンッ!!

柚「たっ……! 建物一件が丸ごとっ……!?」

未央「そいやあああっっ!!」

――ゴシャァッ!!

柚「じょっ、冗談……こ、これはッ……」

柚(避けるの、無理、じゃんっ……?)

――ズゥンッ……!

――…………

未央「はぁっ、はぁっ……重たぁっ……」

未央「あらかた薙ぎ倒しちゃったけど、仕方ないよね……でもって、どうかな……?」

――プツンッ

未央「よし! 糸は途切れた!」

未央(てことは……この糸の術? の持ち主を倒した、でいいと思う)

未央「でも、ちょっとヤバかったかな……まさか腕ごと固められるとは……しかも糸で他と繋がれてだって」

未央「……建物に縛り付けておいた、って聞いてからこの作戦しか思いつかなかった!」

――ギュッ

未央「リングの爆発力、見くびってもらっちゃ困るなぁ!」

柚「きゅう……」

未央「……やり過ぎた、ことは無いよね?」

柚(も、もう無理だって……瓦礫に埋もれてやり過ごそう……)

未央「よし……そうと分かれば、しまむーとしぶりんに報告しないと」

更新遅くなります。

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