恥の多い生き方をしてまいりました。
貴方に出会い艦娘としての生を受け兵器として運用されるはずだった私の生涯に、一片の灯を与えてくれたあなたに。
私は感謝して後悔して懺悔せねばなりません。
覚えておいででしょうか、私が始めて貴方と出会った日を。
私は・・・正直言ってあまり覚えていません。あの頃は生きていたという実感が感じられないのです。
ただ一つはっきりと思い出せるのはあの日はとてもても美しい青い空であったということだけです。
空ろに使役されるのを待ちただただ戦いそして死んでゆく。
私にとっては本望でありそしてかつ、嫌悪する使命でありました。どこまでも美しい青い空、しかし私にとっては暗い暗い曇天のように見えておりました。
本当にそう見えていたのです。視界いっぱいに広がる雲が日の光を阻む景色が見えていたのです。
きっとあのときから私は諦めたそぶりをして甘えていたのです。卑怯で腐れきった性分です。誰かが何かが私を照らしてくれるのを、雲間から私を助けてくれるのだと信じていたのです。
私には、私にはどうしても理解ができません。どうして皆あんなにも普通、を過ごせるのでしょう。
普通に、普通に。
そうやって暮らしていくにはどうすればよいのでしょう。他人と関わり傷つけずそして傷つかず責をはたし愛し愛されるにはどうして生きればよかったのでしょう。
普通に暮らすにはあまりにもこの世界は私に厳しすぎる。私にとって普通に生きている方々は怪物以外の何者でもありません。
曖昧な笑顔と死んだような目を隠さないようになってから、私の側にいるのは貴方と妹だけになってしまいました。
いいえ、確かに皆私と会話も挨拶もしてくれましたしお誘いいただくこともありました。でも私は決して壁を壊すことはしませんでした。
怖かったのです。わからないから。とにかくわからないのです。なぜ笑っているのだろう。なぜ泣いているのだろう。なぜ優しいのだろう。
全てわからなかったのです。
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それは決して貴方も例外ではありませんでした。貴方はあまりに無防備に私たち姉妹に関わろうとするものですからずっと不思議だったのです。
私といて楽しいのだろうか。この会話は何の意味があるのだろうか。何が目的なのだろうか。
妹にも、唯一心許せる妹にも見せたことのない私の深いところがずっと唸るのです。ただただ怖いと。恐ろしいと。
そしていつからでしょうか、私は変わってしまいました。恐怖が不安に変わっていたのです。
私は貴方に楽しんでもらえているでしょうか。この会話の意味はなんだろうか。目的が終わってしまわないだろうか。
私の深いところが唸るのです。不安だと。もっと、もっと貴方を。
安心していたのです。この方は、貴方は私の側にいてくれているのだと。確信でした。そのときは疑いもしなかったのです。
浅ましいですね。なんと浅い。所詮私はこの程度の性分なのです。捻くれ自分が悲劇役者にでもなったかのように振舞うことでしか自分を守れない。
甘えている対象が変わっただけ。自分の倒錯から貴方へと。人を信じるにはあまりにも他人との関わりが足りませんでした。そして自分を見つめるにも他人との関わりが足りなかったのです。
そして貴方は私を人間にしてくれました。
貴方にまずひとつ謝ります。妹の無礼を。妹は私に少し異常とも言える信頼を寄せていました。貴方が随分と苦労されていたのはよく覚えています。
私も再三注意はいたしましたがきっと私と同じなのでしょう。性分なのです。腐りきった自分にとっての絶対の象徴。今思えば皆同じだったということなのでしょうか。皆なにか自分の絶対があるのでしょうか。
その絶対が普通に暮らすための要素なのでしょうか。もう私にはなんともわかりませんが。
あなたは今でこそ思えば必要以上に私や妹に気を使ってくれていましたね。今ならわかります、貴方もきっと不安だったのですね。私と同じように、妹と同じように。
妹はきっと本気で私とふたりで生きていくつもりだったのでしょう。
私以外は何も要らないと、本気でそう思っていたのでしょう。
正直言って私はそれでもいいと思っていました。
彼女が自分にここまで世話を焼く意味がどうしても理解できず、理解できない彼女に他人へ感じるものと同じ恐怖を覚えても、それ以上に不安だったのです。私にとっても彼女はたったひとりの妹でしたから。
自分が求められているのはわかっていましたから、私がいる意味があるのならそれでもう全て構わないと思っていました。
ですから初め貴方を妹が拒絶したのは仕方のないことでもありました。私の仲介でなんとか妹も落ち着いてくれましたが私もあそこまで誰かを拒絶する彼女を見たのは初めてで内心とても怖かったのですが。
きっと彼女は気づいていたのですね。貴方の心に。私に教えてくれた感情に。
どれだけたった頃でしょうか。私はすっかり腐りきった兵器ではなくなってしまいました。必要以上に誰かとは関わらずとも決して蔑ろにはしなくなりました。
妹との関係も改善されました。彼女も少しではありますが私以外と交流を広げているようでした。
すべて貴方のおかげでした。
自分がどれほど醜く卑怯な性分であるかいやというほど知り、だけどようやく私にとっての普通を手に入れたのです。
恐怖は相変わらず私を覆いつくしますがそれでも貴方の意思を私は想っていたから。
貴方が私を人間にしてくれたのです。
だから、だから貴方が私の申し出を受けてくださって本当に幸せでした。初めての感情だったのです。
貴方に出会うまでずっとずっと感じていた恐怖も、貴方に出会ってからずっとずっと感じていた不安も、忘れてしまえるほどに。初めての感情だったのです。
妹も私の相談を受け、―――――思えばあのときが私が生涯で妹に自分の気持ちを語った最初で最後かもしれません、祝福してくれました。
祝福してくれたのです。妹が。あの妹が。
よく聞く応援、でもなく貴方への嫉妬、でもなく祝福の言葉を口にしたのです。妹が許したのです。私を、そして誰よりも貴方を。
妹への明白な裏切りを、私の勝手な弱い醜さを。
妹は泣くことも恨み言も言いませんでした。妹は人間になった私をただ認めてくれたのです。
幸せでした。幸せだったのです。
たとえ、たとえ目が潰されようとも貴方の声を、たとえ鼓膜を裂かれ空気が震わずとも貴方の香りを、たとえ鼻が焼かれ呼吸ができずとも貴方の気配を、たとえこの命が沈もうとも貴方の魂を頼りに。
私は今でもそう想っています。貴方をお慕いしています。お慕いしているのです。
貴方は私を人間にしてくれたから。私の想う人だから。
ですがきっと目を背けていたのでしょう。私は、貴方に心をもらい舞い上がっていただけでした。本当は、本当は知っていたのです。
貴方は良い人でいてくれました。私の前でも妹の前でも誰かの前でも私を決して傷つけなかった。
私も貴方を想いました。兵器としての忠義ではなく、女としての心でもなく、人間としての想いでもなく、そんなちっぽけな物でなく。
貴方は私を人間にしてくれた。生き方を教えてくれた。生涯をささげても足りない恩も想いも心も感情も。
愛しているのです。貴方を。私は。
貴方は本当に良い人です。誰かを愛するために自分にすら嘘をつき誰かを守るために他の誰かにすら嘘をつく。
貴方は本当に良い人です。自分の感情を殺してでも誰かを尊重し守ることができる。
貴方は本当に良い人です。貴方が私に教えてくれた。愛するということを。
本当は知っていたのです。きっと初めから、貴方と初めて会話したあのときから知っていた。
貴方の目に私は影すら写っていないことを。
でも貴方は私を人間にしてくれた。
私を人間にしてしまった。
妹は自分を犠牲にしてでも誰かを想うことができます。
私を愛することができます。
妹は絶対に自分が不幸であることを止めないでしょう。
絶対に不幸を嘆くことを止めないでしょう。
私を守るために。
私が幸せであるために。
私も決して自分を不幸だとは言わないでしょう。
妹を守るために。
彼女が幸せであるために。
気づけば皆同じだったのです。貴方も、私も、彼女も。
私を幸せにするために貴方を拒絶した彼女も、彼女を守るため私を愛してくれた貴方も、自分と彼女の幸せのために貴方を愛した私も。
私は貴方を愛しています。
貴方が教えてくれた感情を。
誰かを傷つけても自分を犠牲にすることが愛するということならば、私は貴方を愛し続けます。
そして私を世界で一番想ってくれた彼女を愛し続けます。
私が証明してみせます。貴方の愛の正しさを。
彼女が不幸であるために、私が幸せであるために、貴方が愛し愛されるために。
恥の多い生涯を送ってきました。それももう終わります。私の人間としての最後の恥を貴方にささげます。
彼女をどうかよろしくお願いいたします。
彼女の不幸を嘆いてあげてください。私の幸せを伝えてあげてください。貴方が幸せになるために。誰かを犠牲にしないために。
私を人間にしてくれてありがとう。
短いけど終わり
ギャグばっか書いてたら死にたくなったから書いた
駄文乙精進する
乙
乙
人間失格的な話だと思ったら真逆だった
人間失格的な暗さを感じる
やべぇ被った
んああああの人かよ
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