モバP「郷愁の想起」 (58)

モバマスSSです。

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1419511038

こんばんは。

古典シリーズです。

クリスマスなのに、イヴの話じゃありません。

事務所

応接室

P「お、来たか」

蓮実「はい」

P「とりあえず座ってくれ」

蓮実「はい…」

事務所

未央「聞こえる?」

菜々「む、無理ですねぇ…」

杏「なにしてんの?」

志希「ん?蓮実ちゃんが呼び出されたんだよ」

杏「ふーん」

加蓮「なんかドキドキしてきた。自分のことでもないのに」

ガチャ

P「なにしてるんだ?」

未央「え?あ、えーと…あはは」

菜々「う、ウサミン星の電波を探してましたっ!」

P「あ、そうなんですね」

杏(それでいいんだ)

P「さて、改めて言うのも変な感じだが」

P「ウチの事務所に新しいアイドルが入ることになった」

蓮実「あ、はい。長富蓮実です。よろしくお願いします」

未央「わー」パチパチ

菜々「お、おめでとうございますっ!」パチパチ

蘭子「新たなる友よ。いざ行かん!」

杏「まだ、アイドルじゃなかったんだ」

加蓮「なんか、見習い? みたいなポジションだったみたいだよ?」

杏「言われてみたら、どっかに出てるって話は聞いたことなかった気がする」

加蓮「練習と皆の補助をやってたよね」

杏「杏も飴貰ったし」

加蓮「多分、それは皆上げてると思うけど」

杏「そうだっけ?」

加蓮「多分」

P「ま、特に今まで何かが劇的に変わるってことはないな」

P「オーディションに参加して通ったら番組に出たりする流れが加わるくらいで、日常は今まで通りレッスンして貰うからな」

蓮実「はいっ!」

ちひろ(嬉しそうですねぇ…)

菜々「ようやく、スタートラインに立ちましたねっ!」

蓮実「は、はいっ!宜しくお願いします」

P「蓮実。アイドルになるのが目標のままじゃダメだからな。その後もしっかり見据えてな」

蓮実「勿論です!」

事務所

ちひろ「あ、ホームページの更新しておきましたよ」

P「すみません。わざわざ」

ちひろ「いえいえ」

P「以前準備していたものに変えるだけだからすぐ済みましたか?」

ちひろ「えぇ。それとまぁ、最近のことをちょっと。みたいな感じだったんで」

P「そうですか。ありがとうございます」

ちひろ「いえいえ。それよりも蓮実ちゃんも遂に皆の仲間入りですね」

P「えぇ。ようやくです。もう、大分良いレベルまで達してると思いますよ」

ちひろ「それじゃ、オーディションもバンバン勝ち上がってく感じですかね」

P「どうですかねぇ…」

ちひろ「あれ、珍しく歯切れが悪いですね」

P「そうですか?」

ちひろ「えぇ。とっても」

P「確かに実力はあると思います。ただ、オーディションはそれだけじゃ勝てないですからね」

ちひろ「面接みたいなものですかね」

P「そんなイメージですね。俺の中では」

ちひろ「そうなんですね」

P「思えば」

ちひろ「はい?」

P「昔から見てるとアイドルって結構時代によってキャラクターみたいのがありますよね」

ちひろ「改めて見るとそうかもしれませんね」

P「やっぱり時代が求めるニーズがあるんですかね」

ちひろ「どうなんでしょうか」

P「世の中は需要と供給のバランスじゃないですか」

ちひろ「そうですね。あ、スタドリ如何ですか?」

P「いただきます。そうですね。そういうことですよね」

ちひろ「そう考えるとニーズに合ったアイドルが売れるんですかね」

P「そうなのかなぁ。とか考えてました」

ちひろ「なるほど…」

P「でも、考えてみたら――」

事務所外

蓮実「……」

凛「あれ?どうかした?」

蓮実「え?なんでもないですよ?」

凛「そ?事務所入らないの?」

蓮実「え、えぇ。私これからレッスンなんで」

凛「そっか。あ。おめでと」

蓮実「ありがとうございます」

凛「これからも一緒に頑張ろ」

蓮実「はいっ!」


蓮実「……よし!」

レッスン室

蓮実(時代によってウケるアイドルは違う…)

蓮実(昔は昔。今は今ってことですよね)

蓮実「幸い、ここにいる皆さんは売れていますし、勉強になるかもしれませんね」

蓮実「ほとんど飛び込みで来た私を置いてくれたプロデューサーに恩返ししないと…!」

菜々「え?今ですか?」

蓮実「はい。どんなアイドルがウケてるのかなって」

菜々「どうなんですかねー。結構バラエティに富んでると思いますよ」

蓮実「確かに…。でも、やっぱり、中には人気もある人がいるじゃないですか」

菜々「そうですねー」

蓮実「私は、菜々さんもその一人だと思ってます」

菜々「えぇっ!?も、もう、蓮実ちゃんったらお世辞が上手なんですから…」ニヤニヤ

蓮実(あ、嬉しいんだ…)

菜々「で、でも。どうなんですかね。多分そういう話はナナ以外に聞いた方がいいと思いますよ」

蓮実「どうしてですか?」

菜々「は、恥ずかしい話なんですけど…ナナはオーディション関係は本当に弱くてですね…。
   
菜々「Pさんにスカウトされたのもオーディション落ちた時だったんですよ」アハハ

蓮実「以前言ってましたね」

菜々「そうでしたっけ?だからですねー、あ、そうだっ!泰葉ちゃんとかに聞いてみたらどうですか?」

泰葉「はい?」

菜々「あ、泰葉ちゃん丁度良い所に」

泰葉「なんですか?」

菜々「実はですね――」

泰葉「なるほど…」

菜々「泰葉ちゃんなら分かるかなって」

泰葉「うーん…明確なコレってのはないとは思いますよ。じゃないと似たような人しか売れませんから」

蓮実「確かに…」

菜々「ナナみたいな人がいたらナナは埋もれちゃいますね…」

泰葉「それは、大丈夫かなって思いますけど…」

蓮実「なるほど…」メモメモ

美嘉「え? アタシの話?」

蓮実「はい。事務所の中でも結構な古株ですし…」

美嘉「うーん…わかんない★」

夕美「ちょっとは考えてあげなよ」

美嘉「本当に分かんないだけど…。そうだねぇ、自分の好きなことを売ってったよ」

夕美「あー確かに」

蓮実「好きなこと…?」

夕美「得意なこと。ってでも言うのかな。あたしはほら、お花とか好きでそういう関係でテレビ出始めたし」

美嘉「あの時の夕美の顔は傑作だったよね」

夕美「しょうがないでしょ…あれは」

蓮実「なるほど…ありがとうございます」

美嘉「別にいいって。これからも一緒に頑張ろうねー」

蓮実「はいっ!」

事務所

菜々「蓮実ちゃんって真面目ですね~」

P「どうかしたんですか?」

夕美「さっき、どうして売れたのかってことを聞かれたよ」

P「お、そうなのか」

菜々「皆に聞いてるみたいですね」

P「昔の菜々さんみたいですね」

菜々「え?」

夕美「どういうこと?」

P「最初、正確には二回目なんだけど、幸子と一緒に菜々さんの所言った時の話でさ」

夕美「うんうん」

P「その時、ようやくちょっとずつ売れ出してきた幸子の顔と名前を知ってたんだよ」

菜々「た、たまたまですよ」

P「本当のところは?」

菜々「毎日、どんな子がオーディション通るかテレビとか雑誌みて考えてました…って何言わせるんですかっ!」

夕美「熱心だねぇ…」

菜々「な、ナナにはこれしかありませんでしたから」アハハ

夕美「それだけ、勉強熱心だったら、すぐ有名になるかもね」

菜々「う、うかうかしてられませんね」

P「そうなってくれるといいなぁ」

夕美「これ以上忙しくなると辛そうだけど大丈夫?」

P「まぁ…なんとかなるだろ」

菜々「ウサミン流のマッサージでもしましょうか?」

P「大丈夫です」

菜々「そうですか…」シュン

P「あ、それじゃ、後でお願いします」

菜々「任せて下さいっ!」ビシ

数日後

蓮実「……」フゥー

P「大丈夫か?」

蓮実「え?えぇ。大丈夫です」

P「昨日は寝れたか?」

蓮実「はい。母にも元気を貰いましたから」

P「お、そうなのか」

蓮実「はいっ! よろしく伝えてくれ。と言ってました」

P「正式にアイドルになったことだし、機会があれば挨拶したいな」

蓮実「はい。是非に」

蓮実「だけど、その前に母にテレビに映った私を見て貰うのが先じゃないとダメですよね」

P「雑誌でもいいけどな」

蓮実「何か結果を持って、会って貰いたいと思います」

P「分かった。俺は応援しか出来ないけど、頑張れよ」

蓮実「はい。それじゃ、行ってきます」



P「行ったか…」

P「オーディションは別に保護者参観じゃないから、全部が全部中に入って見れる訳じゃないんだよなぁ」

P「どこかで時間潰すか…」

大通り

『さぁ、今日ご紹介する音楽は~』

P「お、懐かしいな」

P(これいつのだっけか…)

P「なんか当時を思い出すなぁ」

P「あの時なにしてたっけ…」

ピリリリ

P「はい。もしもし」

ちひろ『あ、プロデューサーさんですか?』

P「はい」

ちひろ『今お時間大丈夫ですかね? えっと、蓮実ちゃんのオーディション終わったら、そのまま志希ちゃんを迎えに行って貰いたいんですけど』

P「大丈夫ですよ。分かりました」

ちひろ『それじゃ、よろしくお願いします』

P「さて…そろそろか」

蓮実「あ、お待たせしました」

P「お疲れ様。どうだった」

蓮実「は、初めてだったので最初の方は緊張してましたけど、なんとか」

P「そうか。場数を踏んでいけば慣れると思うし頑張ろう」

蓮実「はいっ!」

P「これから、志希を迎えに行くからちょっと寄り道していくな」

蓮実「分かりました」

車内

蓮実「やっぱり事務所とは違いますね」

P「ん?」

蓮実「雰囲気が違いました。ピリピリしている感じで」

P「まぁ、狭い枠を目指して色々な所から来る訳だしな」

蓮実「私みたいに慣れてない人もいれば、もう落ち着き払ってる人もいました」

P「そうかそうか」

蓮実「わ、私まだ、ちょっと興奮してるんですかね」

P「好きなだけ喋っていいぞ」

蓮実「は、はい。ありがとうございます」

蓮実「えっとですね、それで、やっぱり、こう緊張しているせいかですね、皆さん綺麗で歌が上手くて、踊れるなぁって思いました」

蓮実「頑張らなきゃなぁって思いました」

P「なるほどな」

蓮実「はいっ!早く恩返しもしないとですしね」

P「恩返し?」

蓮実「私をアイドルにしてくれたPさんにです」

P「気張り過ぎなくていいからな」

蓮実「はい」

ガチャ

志希「お迎えありがとー。お、蓮実ちゃんお疲れー」

蓮実「お疲れ様です」

志希「そっかそっか。オーディションだっけ」

蓮実「はい」

志希「そう言えば、アタシはオーディションとか受けた記憶がないんだけどなんで?」

P「志希の場合は、アイドル始める以前に知名度があったからな。肩書だけで興味を持つ所があったんだよ」

志希「あ、だからああいう番組が来たんだ」

P「そういうこと」

志希「なるほどね~。うんうん。それから先はキミの力でしょ?」

P「何とも言えないな」

志希「またまた~」

P「謙遜してるつもりはないんだけどな」

志希「それで、オーディションどうだったの?」

蓮実「やれることはやりました」

志希「おっ!いい結果だといいね」

蓮実「ありがとうございます」

数日後

事務所

P「開けるぞ…」

蓮実「は、はい…」ゴクリ

ちひろ「……」ドキドキ

ビリ

P「……」

蓮実「ど、どうでしたか」

P「はい」

蓮実「あ……」

蓮実(落選…)

ちひろ「ざ、残念でしたね。さて、次のオーディションも大体目星を付けてますからっ!」

P「余り引っ張るなよ」

蓮実「…はい」

P「なんなら、反省会にでも付き合おうか?」

蓮実「いいんですか?」

P「まぁ、プロデューサーだからな」

蓮実「そうですね。ありがとうございます」

P「うん。まぁ、俺は実際の場面を見てないから分からないんだけどさ、気になった点はあるのか?」

蓮実「そうですね…踊りと歌は問題なかったと思います。あくまで個人的にですけど」

P「そうなると…面接か?」

蓮実「それしか考えられませんよね?」

P「まぁ、蓮実の言葉を信じるならな」

蓮実「そ、そうですね」

P「でも、踊りとか歌は皆と練習してるしな」

蓮実「はい。踊ってる時は緊張も何もしませんでしたし」

P「歌は課題があった訳じゃないよな?」

蓮実「はい。自由曲でした。今っぽい感じの歌を歌いました」

P「そうなのか」

蓮実「練習でも歌っていたので、音程を外すことなく歌えたと思います」

P「なるほど…」

蓮実「受け答えがたどたどしかったのかなぁと考えています」

P「大丈夫そうか?」

蓮実「はい。頑張ります!」

P「本人がそう言うなら…」

蓮実「はいっ!私レッスン行ってきますね」

P(どことなく、凛っぽいな…)

事務所
文香「改めて考えますと…」

P「どうした?」

文香「今、少しでもお仕事を頂けている…ということは、とても有り難いことなんですね」

P「そうだな」

文香「いつものような、冴えたアドバイスをなされないのですか?」

P「そんなもの出来ないさ」

文香「そうでしょうか…?」

P「そうだと思うけど…」

文香「私は今でも…オーディションと言った類が得意ではありません」

P「そうだな。それは見て分かるよ」

文香「そうですね…」

文香「でも、徐々にそこは変わっていかなきゃな。とも思います」

P「そうなのか」

文香「えぇ」

文香「ただ…」

P「ただ?」

文香「そういうのに積極的に私を私自身が想像出来ないというか…」

P「まぁ、確かに」

文香「い、一番、さ、鷺沢文香行きますっ!」キャピ

P「……」

文香「な、なにか…言って下さい」プルプル

P「写真か動画に残しておきたかったな」

文香「そ、そんなことしたら…口を聞きません」

P「それは困るな」

文香「え、えっと…そ、それじゃ、許してあげます」

レッスン室

蓮実「……ふぅ」

蓮実(今回は必要以上に考え過ぎていたのかもしれません)

蓮実「頑張らないと」

未央「おっすー」

蓮実「あ、どうも」

未央「大丈夫ー?なんか眉間に皺が寄ってるよ?」

蓮実「あ、本当ですか?」

未央「うん。そんな怖い顔で踊ってるとしぶりんみたいになっちゃうぞー」

凛「未央」

未央「あ、ウソウソ。しぶりんはいつでも、とってもキュートだから」

蓮実「…ふふ」

未央「あ、見ましたか。渋谷さん。ハスミンが笑ってますよ!」

凛「蓮実はいいよ。未央はダメだけど」

未央「横暴だー」

蓮実「お二人ともありがとうございました。眉間に皺寄せて何かをするアイドルが皆を楽しませられる訳がないですよね」

凛「私たちは何もしてないけどね」

蓮実「いえいえ。ありがとうございます。次こそ結果を出してみせます」

未央「うん。頑張ってね」

蓮実「はい。早く恩返しをする為に頑張ります!」

未央「さて…」

凛「未央?どこ行くの?」

未央「え?私はほら、レッスンに…」

凛「レッスンはここでやるよ?」

未央「えっと…その、ごめんなさい」

凛「まぁ…いいけど」ハァ

凛(そんなに皺寄ってるかなぁ…)

未央「鬼気迫る!って未央ちゃんは言いたかったんですよー」

凛「そうなんだ」

未央「そうなんです!」

事務所

P「お、加蓮か」

加蓮「そ。加蓮だー」

加蓮「で、なに?」

P「いや、一人で事務所に座ってるの珍しいなって思ってさ」

加蓮「ま。そんな時もあるよ」

P「そりゃそうか」

加蓮「こうやって一人で天井見てるとさ」

P「うん」

加蓮「初めてここに来た時のこと思い出すんだよね」

P「初めて?」

加蓮「レッスンやって気持ち悪くなった時のこと」

P「あぁ、そう言えばそうだったな」

加蓮「あの時よりは少しはマシになったのかなって」

P「なったんじゃないか?」

加蓮「どうして疑問形なのかな」

P「悪い悪い」

加蓮「別に大丈夫だけど」

加蓮「人間ってさ欲張りだよね」

P「なんか哲学的なセリフだな」

加蓮「あ、いや、そんな深い話じゃないよ」

加蓮「ただ、アイドルになれたらなー、って思ってたアタシがアイドルになったと思ったら、また次の夢がすぐ生まれてさ」

P「そんなもんだろ」

加蓮「そうなのかな?」

P「加蓮がアイドルになって満足だったら、今の結果は付いてこなかっただろうな」

P「俺に切った啖呵を忘れてないぞ?」

加蓮「あー…あれね」

P「そうそう」

数日後

オーディション会場

P「さぁ、気合い入れていくぞ!」

蓮実「はいっ!」

蓮実「もう、夢見る少女じゃいられませんからね!」



P「夢見る少女じゃいられない…か」

P(なんか、ちょっとだけ疲れた顔してたな蓮実)

P「気のせいかな…?」

数時間後
車内

P「お、お帰りなさい」

蓮実「やれることはやりました」

P「それは良かった」

蓮実「あとは、結果が欲しいですね」

P「それは確かにな」

蓮実「でも、それは自分で手に入れるから価値があるんですよね」

P「まぁ、そうかもな」

蓮実「~♪」

P「ご機嫌だな」

蓮実「あ、鼻唄歌ってました?すみません…」

P「いや、構わないさ。それにしても結構懐かしい歌だな」

蓮実「はい。母の影響もありまして…」

P「なるほどな。俺も母親の影響でそれくらいの歌を聞くよ」

蓮実「変ですかね?」

P「いいんじゃないか?」

蓮実「ならいいですけど」

P「なんか、その歌聞いたら俺も歌いたくなってきたなぁ…」

蓮実「一緒に歌いますか?」

P「そこまで自信はないぞ」

蓮実「私も似たようなものですって」

P「ならいいけどな」

蓮実「はい。それでは――」

P「お、そろそろ事務所だ」

蓮実「もうなんですか?」

P「あっという間だったな」

蓮実「外から見たら変な二人に見えたかもしれませんね」

P「結構熱唱してたからなぁ…」

P「それにしても、結構昔のアイドルの歌も知ってるんだな」

蓮実「そ、そうですかね…」

P「あぁ。容姿も相まって昔のアイドルが今蘇ったみたいだ」

蓮実「昔の…」

P「あ、悪い意味じゃないからな。その、なんて言うか…」

蓮実「はい。分かってますよ」

P「あ、あれだな。蓮実って本当に楽しそうに歌うよな」

蓮実「そうですか?」

P「あぁ。隣にいてそう思った」

蓮実「それは良かったです♪アイドルが眉間に皺寄せてたらダメですから」ニコ

数日後

事務所

P「さて…」ゴクリ

蓮実「……」

ちひろ「……」

ピリ

P「……」

蓮実「ど、どうでしたか?」

P「…」サッ

蓮実「…そ、そんな」ワナワナ

ちひろ「…残念でしたね」

蓮実「あ、あははは」

P「は、蓮実?」

蓮実「なかなか難しいものですね。アイドルって」

蓮実「そりゃ、アレだけの人数がいたら狭き門ですもんね…」

P「蓮実…」

蓮実「あ、はい。大丈夫ですよ。次に備えますっ!」

P「ちょっと…応接室に来い」

蓮実「…はい」

応接室
P「さて…」

蓮実「分かっています…」

P「ん?」

蓮実「入る前に安部さんに言われましたから…」

蓮実「全員が全員、テレビとかで活躍できるわけじゃないって」

蓮実「褒めてくれるのは身内だけだって」

蓮実「で、でも、皆さんみたいになれなくても、頑張りますから…だから!」

P「ちょっと待て。何の話だ?」

蓮実「え?いや、てっきり、辞めさせられるとかそういう話かと…」

P「たった数回でそんな風になるか。深く考え過ぎだ」

蓮実「そ、そうですかぁ」ホッ

P「ま。落ち着いた所でとりあえず、座ってくれ」

蓮実「は、はい」

P「まず、残念だったな」

蓮実「はい…」

P「今回は、割と自信あったしな」

蓮実「はい。私のじつりょ――」

P「そうやって全部抱え込むな」

蓮実「す、すみません」

P「そう言えば、なんかオーディションに際して意識してる点とかあるのか?」

蓮実「はい。皆さんを参考にして今風のアイドルっぽい感じで臨んでます」

P「今風?」

蓮実「はい。皆さんに伺って、どういうアイドルがいいかって考えて」

P「なるほどな」

P「一つ聞いていいか?」

蓮実「はい。なんでしょうか?」

P「皆に聞いた上で生まれた今風のアイドルに長富蓮実って要素は入ってるのか?」

蓮実「え…?」

P「だから、皆にウケがいいようなアイドルを上辺だけなぞってないか。ってことなんだけどさ…」

蓮実「ど、どうなんでしょうか…」

P「例えば、全員にウケがいい。ってことは無難。ってことかもしれないぞ?」

蓮実「なるほど…無難ですか」

P「無難が悪いって訳じゃないよ。安定感はあった方がいいし」

P「ただ、オーディションに関してだったら、印象には残らないかもなって話」

蓮実「なるほど…確かに」

P「そもそも、どうしてそういう風な考えに至ったんだ?」

P「まぁ、蓮実は真面目だからこそ。そうなったのかなとは思うけど」

蓮実「は、はい。実はですね――」

P「なるほどな。俺とちひろさんの話を聞いてたのか」

蓮実「は、はい。悪いとは思ったんですけど」

P「まぁ、そこだけ聞いてると確かにそう聞こえるな」

蓮実「そこだけ?」

P「その話の後さ、本当にいい曲とか、アイドルは時代を超えてますよね。って話をしたんだよ」

蓮実「え…?」

P「それに、当時ファンだった人は今でも割とそのアイドルのこと好きだったりするしさ」

蓮実「あ…そうなんだ…」

P「それにさ、蓮実を見るのって別に今の若い人だけじゃないだろ?」

蓮実「え?」

P「いや、雑誌はともかくテレビなんて老若男女誰でも見るじゃないか」

P「そりゃ、今の若い人にウケる為に色々考えたと思うんだけど、それ以外の層にも目を向けてみたらどうだ?」

蓮実「た、確かにそうですね…」

P「まぁ、大方、恩返しって言うくらいだから、すぐ結果を出すために今ウケてるアイドル像を真似たんだと思うけど…」

蓮実「か、返す言葉もないです…」

P「大体さ、俺は蓮実があんなに昔の歌を歌えるなんて知らなかったよ」

P「別に、今の歌が下手って訳じゃないけど。車の中で聞いた歌は聞いてて楽しくなったぞ」

蓮実「……」

P「無理に同じ土俵で戦う必要はないんだ」

P「お前を見てくれるのは若い人だけじゃないさ」

P「若かりしあの時、熱狂的にアイドルを応援していた人かもしれない」

P「自分もあぁ、なりたい。と思いながらテレビを見ていた人かもしれない」

P「テレビの向こうの可能性は無限にあるからさ」

蓮実「ふ、古臭くないですかね…? 昔の歌ばっかり歌ってたり、そういう私らしい振る舞いって」

P「逆に今はそういうのはないからな。いいと思うぞ」

P「俺は蓮実と車の中で歌ってたあの時は学生時代を思い出したんだ」

蓮実「え…」

P「思い出はいつでも綺麗なもの」

P「蓮実はそんな綺麗な思い出を思い出させてくれたよ」

蓮実「……」

P「他の誰がそんなこと出来ると思う?俺の聞いてた曲を知らないアイドルが多いと思う」

蓮実「……はい」

P「蓮実が得意な歌を一番聞いてた世代はきっと、今仕事に奔走してるだろうな」

P「そういう人たちが蓮実の歌を聞いて、昔を思い出して、ライブ会場に足を運んでくれるかもしれない」

P「誰だって、しがらみとかなにも気にせずに昔に戻って叫びたい時があるからさ」

蓮実「……」

P「蓮実」

蓮実「は……は…い」グスッ

P「それからな。夢を見せる側が夢を見ちゃいけないってことはないんだよ」

P「確かに夢だけ見て何もしないならダメかもしれないけど、アイドルになりたいって夢だけだった蓮実にも今は新しい夢があるんだろ?」

蓮実「は。はい。い、いつの…時代でも…グス、みんながら、あ、愛されるアイドルに…なりだい…でず」ヒックヒック

P「そっか。それじゃ、その夢に向かって、夢を叶える姿を、シンデレラストーリーをファンに見せてやろうな」

蓮実「…はい。…はい!」

P「なんか、ごめんな。語っちゃって」

蓮実「…い、いえ、そんなごどは…」ヒック

P「大丈夫か?」

蓮実「は、はい!す、すぐになぎや―」

P「俺は席を外すから落ち着いたら出てこいな」

蓮実「ありがとう…ございまず…」

事務所

杏「Pさんってさ」

P「杏から話しかけてくるとは珍しいな」

杏「…やっぱり今のなし」

P「悪い悪い。どうした」

杏「プロデューサー辞めても、口が立つからなんでも出来そうだよね」

P「そんなことはないと思うけど…」

杏「あるって。だって」

P「だって?」

杏「ここから先は飴が必要です」

P「参ったな。今は近くにないな」

杏「残念でしたー」

杏(だって、杏がここにいるんだよ? 杏をやる気にさせる人なんていないって普通)

杏「言わないけどね」

P「なんか気になるな」

杏「飴が切れてるなら無理だね」

ガチャ

杏「…Pさんなにしたの?」

P「何もしてないって」

杏「でも、結構泣いた痕あるけど…」

P「まぁ、そうだな」

蓮実「プロデューサーさん」

P「どうした?」

蓮実「私、頑張ります。アイドルになっただけで満足しませんから」

P「そうか。次頑張ろうな」

蓮実「はいっ!」

志希「ねーねー」

P「どうした?」

志希「面白いもの見つけたんだけど」

P「錬金術の本なら読まないぞ」

志希「それはいいって」

P「どうした?」

志希「ほら、前にさプルースト効果の話したじゃん」

P「したな」

志希「ま、まぁ、キミはそれ以外でも一杯記憶に残ってるだんけど…」ゴニョゴニョ

P「恥ずかしいなら言うなって」

志希「あ、赤くなった~」

志希「じゃなくて、音楽を聞くと当時のことを思い出すことあるよね」

P「あるな」

志希「あれって名前があったんだって」

P「そうなのか」

志希「あれ、興味ない?」

P「まぁ、名前なんてなくても意味は分かるからな」

志希「ふーん」

レッスン室

蓮実「…うん!」

菜々「なんか吹っ切れた顔してますね」

蓮実「はいっ!自分らしく行くって決めましたから」

菜々「な、ナナも負けてられません」

蓮実「以前仰ってくれたように、全員がテレビとかで活躍出来る訳じゃないって分かってますけど、出来るだけのことはしたいと思うんです」

数日後

P「今日は大丈夫か?」

蓮実「はい。なんてたってアイドルですから♪」

P「そうか。頑張れ!」

数日後

事務所

ピリリリ

P「はい、もしもし」

ディレクター「あ、どうも。XX局です」

P「あ、どうも。いつもお世話になっております」

ディレクター「長富さんっているじゃない」

P「はい」

ディレクター「セリフもほとんどない役で良ければあるけど出る?」

P「本当ですか?」

ディレクター「うん。この間のオーディション見てさ、俺は光るものを感じてさ」

P「そうですか。それでは、また後日。はい。はい。ありがとうございます」

ちひろ「どうしたんですか?」

蓮実「……」

P「蓮実を使いたいってディレクターがいてさ」

蓮実「……!」

P「あぁ、自分を出し切った成果だな」

蓮実「はいっ!」

車内

蓮実「まだ、自分の心臓の音が大きく聞こえます」

P「初めてだもんな。結果に繋がったのが」

蓮実「はいっ!そうですね」

蓮実「でも…まだ、私のシンデレラストーリーの幕は開いたばかりですから」

蓮実「しっかりと前を見据えて、頑張ります」

P「無理はするなよ」

蓮実「えぇ、無理をしそうになった時は助けを求めても…いいですか?」

P「あぁ、その為のプロデューサーだからな」

蓮実「その時は宜しくお願いします」

蓮実「私決めました」

P「ん?」

蓮実「私の夢です」

P「この間言ってたじゃないか」

蓮実「ま、まぁ、そうなんですけど、改めて決意表明と言いますか…」

P「そうか」

蓮実「私。いつの時代でも皆から愛されるアイドルを目指したいと思います」

P「いいな。いつの時代でもって」

蓮実「はい。ち、ちなみにですね、皆の中にはPさんも入ってるんです」

P「そうか」

蓮実「ですから、Pさんも私を愛して、プロデュースしてくださいねっ!」

P「え?」

蓮実「あ、べ、別に変な意味じゃないですよ!」

蓮実「私は、アイドルの私はファンの皆さんが恋人ですから」

蓮実「きっと、Pさんは私のファンでいてくれますから…その…えっと…」

P「分かってるって」

蓮実「……はい♪」

終わりです。
読んで下さった方ありがとうございます。

そう言えば、ボイス総選挙は結果が出てましたね。

解説らしい解説はないです。

強いてあげるなら、音楽を聞いて記憶が蘇る現象の名前は、ケニーロジャーズ効果だったかなと思います。

英語だったので流し読みした程度なので間違っていたらすみませんが、脳梗塞の患者さんに効果があったとかなんとか…。

そう言えば、最近フレデリカのSSも書きましたので、読んでいただけたら幸いです。

モバP「肩の触れる距離で」
モバP「肩の触れる距離で」 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1418552798/)

乙でしたっ☆
ハスミン、可愛くて芯の強い娘だなあ。

余談ですが、以前コミケに落ちた話をしましたが、2月のサンクリに受かりましたので、本が出せると思います。

私の文章より、絵を描いて下さる方が、皆様とてもお上手ですので、完成した暁には手に取って下されば幸いです。

失礼致しました。

なにかあればどうぞ。

>P「思い出はいつでも綺麗なもの」
なんの曲だっけ?って思ったけど、そばかすにそんな歌詞あったなって1人で勝手に納得した

このシリーズの本編と番外編の境目がなくなりつつある気がしてならない

おつでした

乙です。
みんなアイドルだけど、意外とどんな仕事してるのか想像できないキャラが多い。

ところで、モバP「浪漫と現実のボーダー」って>>1さんの書いたSSでしょうか。

>>55
そうですね。
書きました。

いいSSだった

みんなが見たくない「ありそうな面」を文章に起こしてくれてthx

ハスミン良かったです。
本出来たら是非買わせてもらいますね

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