神「暇だし、世界を回る」 (95)

「う……ぅん……しょっ!」

短い眠りだった、最近間隔が短い気がする。

「あ、神様、起きましたか?」

おや、従者君は不眠不休でも大丈夫で羨ましいね。

彼女が眠ったのはもう思い出せないほど昔に思えるよ。

「うん、まだまだ眠いけどね」

私がスロースターターなのは君がよく知っているだろう?

「早く起きちゃってください、ご飯が冷めてしまいます」

「……メニューは?」

「トロトロ半熟エッグトーストとコーンポタージュで……」

前言撤回。

「早くしよう、冷めてしまっては大変だろう?」

そんなご飯があるなら早く言ってくれればよい物を。

「あ、まだ出来てないんですよ?」

後ろから何か聞こえるな、まぁいい、ご飯だご飯。

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さて、ご飯ごはっ!?

なんだい、この……ダークマターっぽいの。

でも従者君が失敗なんて珍しいなぁ。

まぁいい、味は大丈夫だろ……う……

あれぇ?何でだろうなぁ?いしき……が……と、お……

「神様!それは炭です!」

なんだ、おなかが空きすぎただけか。

「従者君、トロトロ半熟エッグトーストは?コーンポタージュは?」

「だから、さっき出来てないって言いましたよね」

「あらら」

仕方がない、気長に待つか。

そんなこんなで出来上がった物が食卓に並び……

「それじゃあ、いっただっきます!」

「はい、召し上がれ」

ふむふむ、やっぱり卵には塩胡椒がよくあうね。

コーンポタージュも随分濃厚で、寒い朝には欠かせないね。

「それで神様……」

「ふん?」

まぁ、起きたからには聞かされるんだろうけどさぁ。

「まず、神様が眠っている間に新たに3つの世界が生まれ、4つが寿命を迎えました」

「はいはい」

「こちらが資料です」

「どれどれ」

あらら、あそこは寿命だったか。結構美味しいものあったんだけどなぁ。

「寿命を迎えた文化に関しては保護しておきましたが、いかがなされますか?」

「あぁ、いいよいいよ、人生一期一会だからね」

「分かりました」

ふぅん、新しい3つねぇ……お、この世界は大丈夫かな。

うぅ、でもなぁ、食文化は期待できないなぁ。

こっちは平均的、何回か見たことあるパターン。

となると、残り一つは……

「新しく出来た3つの内……」

「うん、わかってるわかってる、これは後でつぶしておくとしよう」

ほっといたら周りに影響が出ちゃうからなぁ、ガンみたいだ。

「えぇ、よろしくお願いします」

「さて、私は少しきゅうけ……」

「では、その右手に持っているグラスと左手のぶどう酒の瓶を置いてください」

ばれたか。仕方がない、我慢するか。

「それでは、私は仕事に戻りますね」

「うん、お疲れさまでしたぁ」

しかし暇だなぁ。眠気覚めちゃったし。

ぶどう酒は持ってかれちゃったしなぁ、どうしようかなぁ。

「!?」

そうだ、別のとこで飲もう。

「じゃあ従者君、行ってくるね!」

「はいはい……ってどこ行くんですか!?」

おや、上から何か聞こえるな、まぁ、幻聴だろう。

よっこらせ、着地。

さぁて、こーこはどーこのー世界かな?

まぁいいか、向こうかこっちに町があるだろう。

おっ酒、おっ酒!

ここはどんなお酒があるかなぁ?

「う、うわぁぁぁーあーあーあ!」

おや、悲鳴だ。だが無視する。

「待ってくれぇ!助けてくれぇ!」

なんでぇ、見えてたのかい。仕方がない、助けてあげよう。

「なに?どうかしたの?」

「追われてるんだ!匿ってくれ!」

お安いご用で。

「ほら、このマントを被るといい、姿が見えなくなるよ」

「おぉ!ありがたい!」

しかしどうして追われてるんだろうね?

「くっ、どこだ!」「確かにこっちへ逃げたはず!」

あらまぁ、可愛らしいお嬢さん方ですこと。

「すみません、そこの方」

「はいなんでしょう?」

「こちらに男が逃げてこなかったか?」

はて?何のことでしょうねぇ?

いや、分かるけどね。

「さぁ?周りをよく見てなかったもんでね」

「そうか……仕方がない、3隊に別れて捜索するぞ!」

うわぁ、なんたるミリタリー。下手な軍隊より訓練されてるよ。

「行くぞぉぉぉ!」

怒濤の羊の如くだね。あれは巻き込まれちゃいけないタイプ。

「行きましたか?」

「うん、多分大丈夫」

「ふぅ、助かったぁ……」

「随分とモテてるねぇ、色男君」

よし、命名は色男だ。

「モテてる訳じゃないよ、優しくしたり、話しかけたりしてたらいつの間にか増えてて……おかげで逃げるのも大変だ」

なんだこいつは……たまげたね、フラグ体質って奴かな。

この子はきっと、夜道で刺されるね、うん、神の宣告だよ。

「どうお礼しようか?やっぱり金?」

「いや、ここから一番近い町を教えておくれよ」

どっち行けばいいやら分からんかったし。

「あぁいいよ、俺についてきな」

「あぁ、頼もしいね」

さて、この辺の世界は魔物が出るはずだけど……武器を持ってないし大丈夫かね?

「ヒィッ!魔物だ!」

やっぱりか、そして彼は使い物にならないと?

……あれ?割とやばい、私も武器無い。

「グルァッ!」

「うわぁ!」

あっちはあっちで随分と楽しく追いかけっこをしているようで……逃げ足早いなぁ。

「た、助けてくれぇ!」

まったくもう……魔法でるかなぁ?

「燃えろ!凍れ!切り刻め!」

お、出た。なんだ、大丈夫じゃないか。さて、魔物の氷像でも見るか。

「……」

あれ?小間切れだけだ。凍ったのって……まさかね。

「……!」

HAHAHAHAHA☆!見ろよあいつの顔、まるでこの世の終わりでも見たような顔だぜ!ヒャッハー☆

……助けよう。

さて、彼を溶かしている間に自己紹介でもしようかね。

おや、人の心の声を聞いておいてばれてないとでも思ったのかい。

まぁ最初っから気づいてましたけどね。

うぅん……けどなぁ、自己紹介といっても何を言えばいいのやら……

まぁ、途中で飽きたのと魔物が増えたせいで世界を滅ぼした神様だって言えば、わかってもらえるかな?

え?第四の壁を越えてくんなって?いいじゃないか神様だし。

……溶けないなぁ、話が持たない。

あ、そうだ。従者君の話をしよう。

従者君はねぇ、料理は上手だし、仕事も出来る。掃除洗濯お任せあれでしかも美人。

まぁ、平たく言えば理想のお嫁さんだね。

あぁ、後は……胸がでかいよ。

ヒトの女性に求める理想をすべてあわせると牛になるとか言われてるけど、私は従者君を推すね。

ただ、おっとりはしてないけど。

あぁ、後は……うぅん……あ、私は今学者風の男の姿だよ。

某荒野と口笛のRPGの3作目のクライヴを思い浮かべてくれると想像しやすいよ。

お、溶けた溶けた。

「う、うぅん……っは!」

「やぁ、お目覚めかい?」

「うん……大丈夫…じゃないけどな」

おや、何かあったんでしょうかねぇ?

「何々?どうしたのさ?」

「いや、凍らされてたような……」

「気のせい気のせい気のせいだよ」

「そ、そうか……」

「さぁ、町へ向かおう、お酒を飲めば忘れるさ」

「着いたぜ、ここが俺の住んでる村だ」

へぇ、良いところだね。のどかそうな所でさ。

「まぁ、王都からは離れてるからさ、何もないけどゆっくりしていきなよ」

「あぁ、もちろんそのつもりだね」

お酒が欲しいからね。

「そうか、そいつはよかった、ここのところ魔物の影響で客も減っちまったからな、歓迎するよ」

「その言い方だと、客商売かい?」

「おう、宿屋の店主をやってるぜ、どうだい?うちで泊まってくか」

「うん、頼むよ」

「おう、それじゃあな、こっちの方にあるからな!」

元気がいいようで、羨ましいね。あの若さで宿屋の店主もやってるしさ。

さて、どうせ酒場は夜にしかやってないだろう。そこらをお散歩でもしてるか……

「神様!」

おっと、懐かしい声が聞こえるね。そうだなぁ、これを聞いたのはつい今朝ぶりになるね。

「神様!無視しないでください!」

はいはい、わかってますよ。

「やぁ、従者君、こんなところであうとは奇遇だね」

「奇遇じゃありません!強い魔法が感知されたのでやっと見つけたんです!」

あらまぁ、そいつは大変だ。

「それで?残念だけど、まだ戻らないよ」

「戻ってきてください、お酒を片づけてくれないと」

「ん?なんでさ」

「お供えのお酒が多すぎて、倉庫を圧迫してるんです、消費しきれないですよ?」

んー、そうだ。いい方法があるじゃないか。

「ブラックホールに投げ込んじゃえ」

「勿体ないです」

「えぇー?いい方法だと思ったのにさ」

それじゃあ、どうしようかなぁ。勿体無くしないようにするには……

あ、そうだ。

「えいっ」

「何したんですか?」

「どこかの世界の酒豪や疲れているのに安酒で済まそうとしているお父さんに無料でお届けさ」

「……まぁ、いいです」

やった。

「あぁ、それと後一つ」

「ん?なに」

まだ何かあるのかいな。あまり小言は聞きたくないけどなぁ。

「わかりづらいです、心の声が」

「あ、はいはい」

「神様の諸国漫遊話が私のせめてもの暇つぶしなんです。もっとわかりやすいように」

「わかったわかったわかってますよ、気をつけますよって」

「お願いしますよ、それじゃあ気をつけていってください」

……行ったか。

さて、分かりやすいようにしよう。

今私が居る場所は、どうやら農場の近くのようだね。

牛や豚、馬が居るから少し臭うけれど、楽しそうなところだ。

そこから少し進むと、大通りが見えてくるね。

活気がある、って訳ではないが笑い声や主婦の道端会議、子供の笑い声が聞こえてくるよ。

商店はまばらにあるくらいで、肉屋とか魚屋は無くて、雑貨を扱うよろず屋や、パン屋が大体だね。

やはり旅人は珍しいのか、店から店主が顔を覗かせてるよ。

魔物がでているなんて考えられないくらい平和な村だ。

「ねぇねぇ、おにーさん」

村の子供に話しかけられたよ。この子はどうやら、お友達と遊んでいる最中のようだ。

「おにーさん、旅人さん?」

「うん、そうだよ」

と私が答えると、ニコニコしながら友達の方に走っていった。

どうやら私が旅人か勇者かを友人と賭けていたようだね。なんか嫌な遊び方だなぁ。

大通りを少し進んで行くと、ほかの建物よりも少し大きな宿屋があるね。

ここが先ほどの彼の宿屋のようだ。

宿屋のドアを開けると、大きな声が響いてきた。

「まったく……あんたは何回言ったらわかるんだ?いい加減気づいてやりなって」

声の高さから察するに女性のようだね。

今度は聞き覚えのある声が聞こえてくる。あの彼の声のようだ。

「気付くったってよぉ、俺って怨まれてるんじゃ……」

彼もつくづく罪な男のようだ。あれだけの女性に好かれておいて、怨まれてるなんて馬鹿じゃないのか。

「そんなんだから……大体ねぇ」「う……あー、えっとぉ」

さらに小言を言おうとする声に、流石にビビったようで話を逸らそうと別の話題を探しているようだね。声が震えているよ。

「あ、あー!お客さんだぜ!接客接客!」

こっちに話を持って来やがった。どうやら女性の方の声の主はスタイルの良い若い女性のようだ。

「あら、いらっしゃいませ、何名ですか?」

見ればわかるだろうとも思ったけれど、素直に答える事にする。

「一人だよ」

「へぇ、珍しいこともあったもんだ、一人旅はやっぱし辛いかい?」

あぁ、考えていなかった。どうしようか……そう悩んでいると昼間の彼が来た。

「おぉ、あんたじゃねぇか!何だよ、暇してたのか?」

ナイスタイミング、と心の中で思いながら、私は答えた。

「うん、やっぱり酒場は夜からだったからね」

「なんだい、知り合いだったのか」

「おう、こいつがさっき話してた恩人だぜ」

恩人?あ、そうか。私恩人だった。しかし……

「?どうしたのさぁ、そんなに見つめて……照れちまうよ」

こんなかわいい子が近くにいて、さらにあんなにいっぱいの子にも慕われていて……ぶん殴りたくなるね。

しかも、その好意に気付かない。どうなってるんだろうね?こいつの頭の中は。

「あぁ、そう言えば自己紹介がまだだったな」

ん?そういえばそうか、名前気になるなとは思っていたんだけど。

「俺は……まぁ、気軽に店主とでも呼んでくれ、でこいつが……」

そう言い掛けると、それを遮るように女性が手を出した。

「自己紹介くらい自分で出来るよ、私はこいつの幼なじみで女将をやってるよ」

へぇ、てことは……

「お二人さん、恋仲って奴かな?」

私がそういうと、二人は顔を真っ赤にしながら思い思いに否定した。

「な、何言ってるんだい!?私たちはそんなんじゃなくて……」

「そ、そうだ!俺達はただの幼なじみだって!」

こいつら……くっついちゃえばいいのに。

まぁ、ここにいる間は退屈しないだろう、なんて思っていた。

「それで、あんたはなんて言うんだ?」

あぁ、私も自己紹介しないとだめか。

「私は神……」

突如として違和感が私を襲った。

視界から色がなくなり、私以外の活動が止まった。

どうやら誰かが時間を止めたらしい。こんなことが出来るのは……

「かーみーさーまー?」

「従者君、私は朝倉じゃないよ」

なんだい従者君、人の自己紹介の邪魔するなんてさ。

「神様、ここでは神様だってばれないようにしてください」

「えぇ、なんでさ?」

「とにかく使っちゃだめです!いいですね!?」

理不尽だ!……なんて言おうとも思ったけれど、従者君の顔に鬼気迫る物がある。やめておくよ。

「わかった、学者だってことにしよう」

「わかってくれたらいいんです、本当にばれないでくださいね」

はいはいわかってますよ。もういいだろう?

「それじゃあ、お願いしますよ」

最後にもう一度確認してから従者君は帰っていった。

しかし……なんで神だってばれちゃいけないんだろうか?

暇を持て余した

……どうやら時間は無事動き出したようだ。二人ともきょとんとした顔でこちらを見ているよ。

「……えぇっとぉ?」

「神……なんだって?」

どうやら、先ほどのは聞こえていたらしい。誤魔化さなきゃ。

「私は……そうそう、神がこの世界にもたらした奇跡を調べる学者だよ」

うん、我ながらうまい誤魔化し方だ。いや、自画自賛かな?

「へぇ、学者だったのか!」

おっ、食いついてくれた。

「とは言っても、ほとんど趣味でやってることだけどね」

「いいじゃねぇか!こう……ロマンって奴があってよ!」

子供のようにはしゃぐ店主とは対照的に女将は胡散臭いとでも言いたげな目でこちらを見てくる。

「あんた、許可証は持ってるのかい?」

え?何それ初耳。うわぁ、失敗したかな。

「どうしたんだい?調査許可証だよ、学者さんなら大概は持ってるものなんだけどねぇ?」

「あぁ、それはねぇ……」

しかし奥さんご安心ください!

こんな時、手元で簡単に目当ての物が作れちゃう!

この不思議な従者の道具袋です!使い方は簡単!

ほしい物を簡単に思い浮かべながら手を突っ込むだけ!

後は全部従者君が1秒から一晩でやってくれます!

「はいこれ、これで満足かな?」

「……確かに本物だね、疑って悪かった」

「ったく、ロマンを追いかける奴に悪い奴はいねぇって!」

それはどうかと思うよ?現にそれは偽造文書だし。

「あぁ、そういえば部屋の鍵を渡してなかったな」

うん?あぁ、確かにそうだ。私何しにきたんだっけ?話に来た訳じゃないことは確かだ。

「ほら学者さん、これがあんたの部屋の鍵だよ、階段上がって右の突き当たりにあるよ」

おや、日当たりが良さそうだ。こいつは良い宿だね。

「ありがとう」

鍵を受け取って階段を上がる。シャワーでも浴びようかな、なんて考えていると誰かにぶつかった。

「おっとごめんよ」

すぐに謝ったけれど返答なし。耳がとがってるってことは……エルフかな?

「……」

そのまま、一言も発さず降りてゆくエルフ。まったく、最近の若いもんは礼儀ってもんがなっとらんわい。

気にせず階段を上がっていくと自分のポッケが軽い。

……あんにゃろう、スリかよ。

グルメな神様

===勇者side===

王都を出て数々の冒険をした俺達は、魔王に通じているという魔族を討伐するべく旅だった。

その旅の途中、小さな村に立ち寄った。

「ふぅ、こんな所に村があったなんて、おかげで助かった」

そう言いながら豪快に水を飲む男、こいつは戦士だ。

彼は旅の途中で立ち寄った剣の国の力自慢で、俺に負けてから旅に加わった。

「戦士さん、こちらもなかなかの物ですよ」

そう言いながら肉を差し出した女、こっちは武闘家だ。

彼女は幼なじみで、俺の旅に初めから着いてきているけなげな奴だ。

「おいおい、酒はないのか?」

この一見してチャラそうな女、これは賢者だ。

どうも賢者としては素行が悪くて、厄介払い、と言われて俺の旅に着いてきた。

「賢者さん、お酒は酒場に行ってください、ここは食堂ですよ」

「そう固いことは言うなよ、武闘家ちゃん」

「しかし賢者よ、ここでは周りに迷惑がかかるぞ、別の所へ行くんだな」

「けっ、相変わらず戦士ちゃんは固いねぇ、やっぱし下の方もガッチガチかなぁ?」

「……勇者よ、何とか言ってやってくれ」

そんな風に談笑をしていると、ふと外から声が聞こえてきた。

「……ぉーい、誰かそいつを、追いかけてくれ!」

どうやら何か事件のようだ。事件を解決するのも勇者の使命だ、と母に言われたことを思い出す。

ほかの三人を席に残し、声の聞こえた方へと走る。

「何があったんですか?」

「スリだよスリ!客が今追いかけてるんだ!」

「どっちの方向ですか?」

「あっちだ!」

店主と思われる男の指した方向へとまた走り出す。

少し行った先で、二人の人影を発見した。

一人は学者風の男、もう一人はエルフの女のようだ。エルフの方は財布を片手に持っている。

俺はエルフを捕まえようと足を踏み入れ……

「捕縛術式展開!」

突如、動けなくなる。他の者が足を止めている中、学者風の男が動き出した。

「まったく……私の財布を盗むとは、少し痛い目見て貰うよ」

刹那、電撃が俺の体を襲った。倒れる間際に学者風の男が何かを言った。

「……あれ?巻き込んじゃった?」

あの野郎ぶん殴ってやる。そう思いながら俺は意識を手放した。

===神side===

あらら、やっちゃった。関係ない奴も巻き込んじゃったよ。

……とりあえず財布を取り返そう。

しかし大丈夫かなぁ?ピクピクしてるけど、口から泡吹いちゃってるよ。

「ケアルガ、ベホマ、リザレクション」

これで良いかな、傷はない。さて、宿に戻るか……

「勇者様!」

……へ?勇者?どっちが?

「貴様、何者だ!」

神様です、とは言えないしなぁ。どうしようかなぁ。

「うーん……意識が戻らないねぇ、何したんだろうねぇ?」

走ってきた三人は、私を敵だと認識したのか臨戦態勢を取った。

こちらがぼけーっとしていると、最初に女の子が飛びかかってきた。

それを受け流すと、大男が背後に回り込んでいて、斧を振り下ろしてくる。

「なになに?何なのさ、私は悪くないよ」

一応弁解してみる。頭に血が上っているから聞き分けてくれるかどうか「死ねぇ!」だめだったか。

まったく、めんどくさいなぁ。

「お前ら!離れな!」

後ろでぶつぶつ言ってた女性が叫ぶ。すると大男が盾で防御し、女の子が後ろにバックステッポした。

「凍てつけ!氷結魔法!」

周りの温度が下がっていく。おぉ、寒い。

魔法は効かないけど、過ごしにくくなるのはイヤだからね。少し眠って貰うよ。

「な!?効いてね、ぇ……」

まず一人目。上から襲ってくる斧を捕まえて……

「が、はっ……」

はい二人目。最後の一人は……

「くっ、なら!」

素早く動いて攪乱するつもりだね。

「大方、足に自信あり、ってところか」

「ぐぅっ……」

殲滅完了……あれ?何やってんだ私。殲滅しちゃだめじゃないか。

「おーい、大丈夫か!」

店主がこっちに駆け寄ってくる。遅いよ君。

「すまないが、運ぶのを手伝ってくれるかい?」

「あぁ、分かった」

取りあえず宿に運ぼう。

よっこらせ、まったく……三人を運ぶのは面倒くさいね。

最後の二人はどうしたかな……ん?

「まったく、体力無いんだから無理すんじゃないよ」

「うぅ……すまん……」

女将さん、流石に三人は担げないのはわかる。ふつうは辛いと思うけどさ。

怪我人二人を引きずって、話す余裕がある奴背負うのはどうかと思うよ?けがさせたの私だけど。

「おや、学者さん、そうだねぇ……上の部屋に寝かせておいてくれないかい?」

「うん、わかったよ」

「ほら、あんたも降りて、もう歩けるだろう?」

「あ、あぁ……」

そう言うと女将は店主を降ろして階段を上がっていった。

なにやら顔が赤いようだったけど、夕日のせいだろうね。店主君の顔が赤いのも夕日のせい。

さて、運んじゃおうか。

部屋に運び終わり、少ししてエルフが目を覚ました。

「……ここは……」

「やあこんにちは、気分はどうだい?」

私はずいぶんと最悪だけどね、と言いたいところだけど……よけいな一言は慎もう。

「おまえは……!」

「おっと、動かないでね?さらに傷が付くよ」

周りにトゲやら何やらいっぱい配置して動きを制限する。

……いや、そういう趣味じゃないよ?けが人が動いちゃ危ないじゃないか。

「くっ、殺せ!」

「えっ?やだよ、それよりも……」

少しもったい付けてから、本題に入る。

「どうしてスリなんかしたのさ、お金に困ってたのかい?」

周りのトゲを少しずつ増やしながら問いかける。

「……」

「沈黙するなら、こっちも考えがあるよ」

この言葉にはビビったようで、重たい口をやっと開いた。

「……金に困ってたんだよ、これで良いだろ?憲兵に突き出すなり何なり好きにしろよ」

「そんなことはしないよ、奪い返せたしさ」

そういった瞬間、彼女の目に少し光が戻ったような気がした。

「それで?どうしてお金に困ってたの?」

さらに踏み込む。ごめんね、他人の話が大好きな性でね。

スロースターターって言葉をパワプロくんポケットで知ったのは俺だけじゃないはず

「私が、私がいた村が襲われて……生き延びたのは……私だけで……」

なるほど、こりゃあずいぶんと重い話だ。涙なしには聞けないね。

「それで、お金に困ってスリなんかをしたのかい」

「あぁ、そうだ」

うぅん、声色は気丈に見せようと頑張ってるようだけど、目に涙が溜まってるよ。

多分どこか決壊すればすぐに泣き出してしまうかな。それは避けたい。

「それなら言ってくれればいいのにさ」

「……へ?」

「可愛らしいお嬢さんが路頭に迷うなんてあっちゃいけない話だよ、どれ、このくらいで良いかい?」

そう言って金貨を大体50枚くらい出す。多分これで一生は安泰な額だと思うけど。

「……その代わりに、私は何をすればいい?一生貴様の慰み者か」

あらら、警戒されちゃってる。別に何にもないんだけどなぁ。あ、でも少し警戒心を持った顔も可愛らしいね。

……やだなぁ、私は変態じゃないよ。分かりやすいように説明してるだけでさ。

「別に何も?このくらい腐るほどあるから邪魔なだけだよ」

「……胡散臭い」

これでもだめなら、そうだなぁ……

「返してほしいなんて思わない、こんなに可愛いお嬢さんに渡せるのなら、私にとってはこんな金貨よりも価値があるんだよ」

「……う……」

ん?俯いちゃった。そんなに臭くない台詞だと思うけどなぁ。少なくとも変な風の精霊が出ない程度には。

「う……あ、ありが……と……う……」

な、泣くなよ、うろたえちゃうぞ私。

「う、ヒック……」

あぁもう、何で泣くのかねぇ?

「どうしたんだい!?」

あ、女将さん、ちょっとこれには深い事情が……

「あんた!何か変なことでもしたんじゃないの!」

弁明させてください。その鬼の形相はやめて。こわい。

女将さんにあの子は任せて、ようやく自室で一息つく。

もう、こんだけ働いたんだから、今日のお酒はきっと美味しいだろうね。

そんなことを思いながらうだうだしていると、ドアをノックされる。

はいはいどなたですか?

ドアを開けると、間違えて巻き込んでしまった子がいた。

「……人違いです」

私は何も見てないよ。

ドアを閉めようとすると隙間に足を挟んでブロックされる。

「まぁまってくれ、俺は話をしたいだけだ」

逃げられないのか。まぁいいや、客人を招き入れる。

===勇者side===

俺をなにかに巻き込んだ男に文句の一つでも言おうと思い、部屋へとやってきた。

しかし……

「……」

「……」

部屋に入って5分、沈黙が続いて話しにくい。

何を話せばいいのかと、ずっと考えていると向こうから切り出してきた。

「しかしねぇ、まさか巻き込んじゃうなんてさ、ごめんね」

ずいぶんと軽い男だ。思い出しただけでも頭にくる。

「あんなことが出来るなら、すぐに捕らえられただろう?なぜあんなに追いかけ回してまで……」

「あぁ、ちょこまか動くからさ、なかなか当てにくくてね、範囲攻撃にしたらあのざまだよ」

範囲攻撃?どうやら軽い言動に反して、実力はかなりあるようだ。

話すことがなくなり、部屋を見渡した。

今日チェックインしたばかりだと聞いていたが、それにしても生活感が少ない。

荷物がほとんどなく、着の身着のまま来たかのようだ。

「そう言えばさぁ、君、勇者なんだって?」

突然そう言われる。少し驚いてしまった。

「あぁ、その通りだ」

簡潔に答えると、さらに掘り下げて聞いてきた。

「貴族の出、ってわけではないようだね」

「あぁ、そうだが」

随分と世間に疎いようで、どうやら風貌通りの学者のようだ。

「へぇ……」

品定めするような視線で俺を見る。常に微笑んでいるが、目の奥は何を考えてるかわからない。

「何を考えてるか分からないって顔だね、私はわかりやすいと思うけどなぁ」

「なっ……!」

思考を読まれた?うろたえていると、男がさらに続ける。

「あはは、君はわかりやすくていいね、鉄面皮を装ってるけどさ、表情を一つ剥がせば考えてることが丸見えだよ?」

俺は警戒心を露わにして、傍らに置いておいた剣に手をかける。すると、やけに剣が軽い。

「危ないな、部屋の中でそんな物を振り回すつもりかい?」

よく見ると鞘だけで中身がない。

どうする?こいつ、魔王の手先か!

「まぁ、落ち着きなよ、お茶でもどうだい?」

どこから取り出したのか、男が茶ををこちらに差し出してくる。

「ふざけるな、罠にはかからんぞ」

「罠じゃないさ、別段どうってことはない、普通の紅茶さ」

男がどこからともなく椅子を取り出し、ゆったりと座った。

「立ったままじゃ辛いだろう、お座りなさいな」

俺の後ろにも椅子が現れ、男と俺の間にテーブルが出現する。

椅子に仕掛けは存在しないようだが万が一が考えられる。俺は椅子には座らず、男と一定の間合いを保っていた。

「まったく、強情だね、ほら」

男が指を下に向けた。すると足の力が抜けて椅子に一気に座る形になってしまった。

そのまま椅子が動き、テーブルを挟んで男と対面になるように座らされる。

椅子の動きが止まり、立ち上がろうとする。しかし、足には力が入らない。

「いいかい?私は人じゃない、けどね、君が魔王と呼んでいるような存在の手先でもない、分かってくれるよね?」

「あ、あぁ……」

ここは頷く。正直言ってよくはわからないが。

「そう、わかってくれてよかったよ、さて、お話はもういいかな?」

男が席を立ち、足を二回踏み鳴らす。すると俺の座っている椅子以外が消えて足にも力が入るようになった。

「あぁ、もういい」

今は部屋に帰って、頭を整理したい。訳の分からないことが多すぎる。

「あぁ、それと後一つ」

「なんだ?」

「女の子なんだから、もう少し言葉遣いを気をつけてもいいんじゃないかな?」

ばれていた。つくづく読めない男だ。

===神side===

ふぅ、少しおちょくりすぎたかな?

……あ、この紅茶従者君のじゃないか!やばいなぁ、怒られる。

まぁ、いいか。後で謝ろう。

そんなこんなで外はもう暗くなり、もう酒場は開いているころだろう時間になってきたよ。

だがまぁ、その前にお風呂だ。さすがに汗がひどい。

浴場に向かうために1階に降りる。

すると、そこには私が気絶させた女の子と女性が椅子に座って談笑していた。

「うわぁっ!」

こちらに気付くなり、驚いて椅子から転げ落ちた。

「……」

こっちはこっちでいや~な視線。歓迎ムードじゃないね。

「おぉ、学者さんじゃねぇか!」

店主君、君の明るさは今ここでは浮いているよ。いや、助かるけどね。

「あ、あの……」

女の子が話しかけてきた。そんなにおどおどしなくていいのに。

「ん?なんだい?」

「いや、いきなり殴りかかってしまったので、それを謝りたいと思って……」

あぁ、そう言うことか。この子はどうやら真面目らしいね。

「別にいいよ、私だって攻撃…「こんな奴に謝る必要はねぇよ」…」

私が話していると、話を遮って女性が少しイライラした様子で言った。

人の話は聞いてよ。まったく、長生きできないよ?

あ、もしかして……

「魔法が効かなかったのが悔しいの?」

「あ?」

おっと、失言だったか。

「てめぇ、ぶっ殺すぞ」

火に油を注いだようで、女性は怒りを露わにして立ち上がった。

「あ、賢者さん!」

女の子が女性を止めようと立ち上がる。女性は賢者と言うらしいね。

「武闘家ちゃん、止めないでくれる?こいつは一回ぶん殴りたい!」

いやん、やめてよ。私喧嘩なんて得意じゃないんだよ。

どうやら向こうはもうすでに準備完了のようだ。

仕方がない、喧嘩なんてしたくないんだけどなぁ。

「死ぬ覚悟は良いか?クソ野郎」

「やだよぉ、私弱いもん」

賢者君が詠唱を開始する。それじゃあこっちも

「あんたら、何やってんだい?」

あ、女将さん。

「見てわかんねぇか!喧嘩だよ!」

賢者君が意識をこちらに向けながら答えると、女将さんが鬼の形相で睨みつける。おぉ、怖い。

「ここでは喧嘩は御法度だよ。やめてくんないかねぇ?」

「うっせぇ!黙って……ウゲッ」

さっすが、主婦の強い味方フライパン&お玉。強力な一撃。

「そこの子、お仲間だろう?部屋まで運んでやってよ」

女将さんが武闘家君に声をかける。武闘家君はぽかーんとしている。動きが見えなかったようだ。

女将さん、あんた人かい?いや、違うね。

まぁ、そんなことはどうでも良いけどね。さぁて、お風呂お風呂。

お風呂へと向かう。実に楽しみだよ。

男湯、と書かれた扉を開けて、脱衣所に出る。

どうやら先客がいるようだ。ちくしょお、一番風呂がよかったなぁ。

服を脱ぎ、腰にタオルを巻き、いざ浴場へ!

ふぅん、結構広いや。泳いだりとかは駄目だけどね。

「む、誰だ!」

声の方向をみると、そこには先ほどの大男がいた。

「むっ、貴様は……」

「あらどうも」

威圧感たっぷりだね。怖い怖い。

しかし、こちらを一瞥した大男はそのまま浴槽に戻っていった。

それじゃあ、こっちも入らせてもらうとするかね。

それ、じゃばあーと。

「貴様、何をしている」

ん?かけ湯がどうかした?

「いやいや、お風呂に入る前に少し体を清めるのさ」

「なぜだ?今から風呂にはいるのにわざわざ……」

なぜって、なんでかねぇ?えーとえーと……

「みんなが入る浴槽だろう?汚いまま入るとお湯がだめになっちゃうよ」

口から出任せだけどね。

しかし、どうやら納得してくれたようだ。

「ふむ、なるほどな、人のためを思っていたのか」

「そういう事さ、ちょっとごめんよっと」

あぁー、生き返る。極楽ってこういう事か。いや、私の家のことだ。

ふと、疑問に思っていたことを口にする。

「ねぇ、君のパーティってさ……」

「なんだ?」

「男一人しかいないよね?ハーレム?」

私が男なら羨ましい限りだね。だけど、戦力的にきついんじゃないかな?

「なにを言っている、勇者も男だろう」

「えっ」

あぁ、なるほどね。女の子が男の子のように振る舞うのはそういう理由か。健気だねぇ。

こういうのなんて言うんだっけ、男装の麗人?違うか。

「確かに勇者は貧弱だが、奴はきっと大きな事を成し遂げるだろう、俺はそう信じる」

「あぁうん……」

うぅん、堅いねぇ。精神というかさぁ。

こんだけ堅いと、そりゃあもう悶々とした日々を過ごしているんじゃないでしょうか。

……良いいたずら考えついちゃった。

「……む?何をしている」

そう言い終わるが早いか、私の指から波状の光が大男に向かって放たれる。

いやぁ、面白いことになりそうだ。

「……ぬ、ぬぅぅ!」

叫びながら、彼は全裸で外へと飛び出した。

ふーんふっふふーん、外から悲鳴が聞こえるけど幻聴だろう。

ん?何かけたかって?自分の欲望に忠実になる魔法だよ。

まぁ、使うと魔物も増えちゃうけどね。その点は心配ない。従者君がやってくれるさ。

いや、私もできるよ?頑張っちゃえば魔物根絶できるよ。

けどねぇ、めんどくさいんだよ。

そういう因果のある世界はさ、早期に潰しておかないと周りに被害がでちゃうのさ。

魔物が増えすぎた場合も同様にね。こうなっちゃうとどうにもできない。

さて、もう少しぬくぬくしたらあがるとするかね。

広間にでると……そこは地獄絵図でした。

筋肉マッスル対子供、どっちが勝つかなんて……明白だね。

まぁ、行為に至る前には魔法も溶けるさ。

さぁて、お酒お酒、ご飯ご飯!

ドアを開けて、外へと出る。

少し寒いくらいだ。まぁ、季節的には秋も終わり頃だろう。

こんな日には、体の温まるような物が食べたいよね。

お鍋にはまだ早いけど、温かいご飯と肉野菜炒めとかさ。

パンだったら、唐辛子を挟んでピリ辛に……

なんて考えていると、酒場へ到着した。

あぁ、ここが桃源郷か。

私は桃源郷への扉を開けた。

しえん

酒場の扉をくぐると、店内に設置された席にまばらに人が居る程度の繁盛具合だった。

まぁ、このくらいがちょうど良いもんだろう。

私はカウンター席に座り、軽食と度数の強いお酒を頼んだ。

「いよぉう、寂しそうだなぁ?兄さん」

酔っ払いに絡まれた。おうふ、酒臭い。

「おぉう、聞いてくれよぉ、俺なぁ……」

そのまま、私はその男の愚痴を延々と聞かされ、男はそのまま眠ってしまった。

話の中に、この町にたびたび出没する吸精鬼がどうたらとか言っていたが、今の私の関心は食べ物にしかいっていないんでね。

「どうぞ、ご注文の品です」

ウェイトレスが料理を運んでくる。あぁ、とてもおいしそうだ。

今回のメニューはキノコの入ったシチューとリキュールです。

さて、このシチュー。口の中が火傷するほど熱いわけでもなく、しかし温いわけでもない。

程良く暖かく、疲れた体に温もりを与えてくれる味だ。

このキノコはどうやら裏の山で自生している物を取ってきているようで、ここまで大きい物は珍しいそうだ。

うぅん、幸せだねぇ。このキノコの弾力。野菜もおいしいし、お肉もいい味出てるよ。

シチューを食べ終わり、リキュールを飲んでいると、誰かが入ってきた。

よく見ると宿屋の主人君のようだ。

彼は私の2個先のカウンター席に座り、ボトルを頼んでいた。どうやら常連のようだ。

「はぁ……」

ため息だ。そんな事していると幸せが逃げるぞ。

「ん?学者さん、来てたんですか」

そりゃぁくるだろう、なんて言いたくなったが我慢する。あくまでも紳士的にいこうか。

「あぁ、君はどうしてため息なんかついているんだい?」

うん、紳士的だ。そうは思わんかね?思わないか。

「……実はね、俺、記憶喪失なんです」

彼はグラスを片手に語り出した。

自分の覚えている範囲の記憶が幼少の頃の記憶だと言うこと。

気がついたら、幼なじみに介抱されていたこと。

どうも、色んな所でフラグが建っていること。

そのフラグの原因を覚えていなく、何回か死にかけたこと。

やっとのことでこの村に逃げて、ここで宿屋を経営できるようになったこと。

うん、心底どうでも良い。

そんな話を聞いているとお酒が無くなった。

どうやら話も一段落ついたようで、帰るようだ。

足元がふらついていて見ていられない。仕方がない。送ってあげよう。

「うぅ……おれぁなぁんもしらねぇんだよぉ!」

叫ぶなよ。うるさいなぁ。

うんざりしながら宿屋に向かって歩いていると、女性が立っていた。

こんな時間にひとりで立っている女性なんて何もない方がおかしいからね。

警戒しながら歩いていると、案の定こちらに向かって歩いて……おっと、手元には大鎌が見えるね。

ひとまず退散しようとするとバリアーが張ってある。逃げ場がない。

「うふふふふ、やっと見つけた……」

あぁ、あの子も目がやばいことになってるね。普通の人ならもう死ねるね。

とりあえず、主人君を隠す。こいつが元凶のようだからね。

「……どこかなぁ?どこにやったの?」

おっと、首が曲がっちゃいけない方向に。

困ったなぁ、お酒が回って気持ち悪い。

「うふふふふ、ねぇ?隠さないで教えてくださる?彼をどこへ、やりましたの!」

女性が鎌を振り回しながら突撃してくる。おぉ、こえぇ。障壁展開。

ガイィィィン……と堅い物がぶつかり合う音が響く。

女性は一瞬驚いたようだが、さらに攻撃を続ける。恐ろしいねぇ。

しつこく鎌を振り回す女性に一つ疑問を投げかける。

「ねぇ、なんで主人君をねらうのさ、理由を教えて頂きたいねぇ」

答えずに彼女は鎌を振り回す。めんどくせ。

どうせあれだろ?記憶喪失の間にフラグ建てられて、そんで病んじゃったんだろ?

女性は怖いねぇ。愛ゆえに人は苦しまなければならん!とかどっかの誰かがいってたけど。

しかし、どうしようか。この猛攻は学者風情じゃ断ち切れないぞ。

さて……どうし「おい!どうしたんだい!」おっと、女将さんじゃないか。

「あんた!大丈夫かい!」

私に駆け寄る女将さん。鎌なんて無かったかのごとく。

……さて、どうしたものかね?

「時よ止まれ!ザ・ワー……」

言い終わる前に発動してしまった。まぁいいや。

障壁を解いて女将さんに近づく。そして肩を一回ぽんとたたく。

「……あ、あれ?どうなってんだい?」

殺意に満ちた表情で身動き一つせず静止している女性を見て、女将さんは現状を把握しきれない様子だ。

「女将さん、私が時を止めたのさ、ゆっくりとお話しするためにね」

私はこの状況を説明した。後で聞かれることのないように理由も付けて。

「……これがあんたの研究結果かい?」

「あぁそうだよ、そうそう」

「で?私と何をお話しするんだい?こんなに回りくどい事して」

なんだい、せっかちだね。今から話しますよぉ。

「じゃあ単刀直入にいくよ、君の正体を教えてちょうだいな」

そう聞くと、女将さんは呆れた様子で頭を振った。

けどね、一瞬ピクッと動いたのは見過ごさないよ?

「さてねぇ?何のことだい?」

「とぼけないでよ、君の正体、最近出没するって言ってた吸精鬼なんだろう?」

「……あんたも人が悪いねぇ、分かってたのかい」

人が悪いって言われちゃった。いやん、傷ついちゃう。

女将さんは正体がばれていることに気づくと、背中から羽を出し、正体を露わにした。

「まぁ落ち着きなよ、君には協力してもらいたいのさ」

「協力?何をすりゃ良いんだい?」

お、乗り気だね。

「何、簡単さ、あの子を眠らせてくれればいい」

そう言って私は今も動き出しそうな女性を指さす。ん?ちょっと動いてる?気のせいだ。

「まぁ、いいけど……一つ良いかい?」

ん?なんだろう?告白かな?

「いつから私の正体に気づいたんだい?」

なんだそんなことか。良いだろう、答えてあげましょう。

あぁ、でもニコニコしたような顔で、しかし内心相手の出方を伺っている表情、可愛いな「くぅだぁけぇちぃれぇ!」あ痛。

……従者君、嫉妬かな?でも爪の間に針はひどい。

おっと、答えなきゃ。

「最初から、オーラが違ってるよ、オーラが」

「……適わないね、全く」

女将さんの顔から、警戒心が消えた。

さて、そろそろ時間を動かすか。

よし、この感覚は何百回やってもなれないけど、動いた動いた。

「き……きひひひひひひひひひ……きぃいえええええええええええええ!」

あ、だめだこれ。壊れてる。奇声を上げながら女性はこちらへと向かってきた。

「作戦変更、君、あれの気を引いておいて」

「……わかった、やってやる」

そう言うと、女将さんは羽を羽ばたかせ空中へと舞い上がった。

「おい、そこのあんた!」

「……くけ?」

「私は、あいつと一緒に住んでいる者だ!」

「……コロス!」

おうおう、人じゃないね。女性は跳躍のみで、女将さんの滞空している高さまで飛び上がり、空中を自在に飛び回った。

おっと、見てる場合じゃない。準備準備。

用意する物は魔法陣一つ、これだけ。

魔法陣を投げやすいように円盤投げの要領で持つ。

「女将さん、動きを止めて」

「へっ?うわぁ!」

突如止まった女将さんに対応しきれず女性がぶつかる。

「……そこだ!」

動きが止まった女性に黒い影が一瞬現れる。

すかさずそこに魔法陣を投げつけ……命中!

そして、間髪入れずに術式を唱え、魔法陣を展開して黒い影を捕らえる。

すると先ほどまで元気に女将さんとはしゃいでいた女性が、糸が切れた操り人形のようにぐにゃっと力が抜けて、地面に真っ逆さまに落ちていった。

「おっと、危ない」

女将さんが空中で女性をキャッチした。いやぁ、惚れちゃいそう。

「おい、あんた、こいつに何したんだい?何かを投げてたっぽいけど」

「ん?あぁ、これのこと?」

そう言いながら、球状に展開した魔法陣を拾い上げる。

「この中身はね、この人の魂が入ってるんだよ」

「……へ?」

さも当然のように言ってしまった。失言失言。

女将さんも、飲み込めていないようだ。

「えぇっとねぇ……魂は知ってるだろ?よくあるあれ」

「あ、うん……」

飲み込めないながらも、話についてくる女将さん。

「でね、その魂ってのが普通は人の中にあるんだけどさ……」

そう言いながら、襲いかかってきた女性を見る。

とても高価そうな服を着ているところから考えて、良いところのお嬢様あたりかな?

「傷が付いちゃうと、体から抜けて周りを漂ってることがあるんだよね」

「……でさぁ、こいつを見てよ」

私は手に持っていた球を女将さんに手渡す。

「……ずいぶん黒いね……まさかこれ!」

核心を悟ったようで、目を見開いて驚愕している。

「結論を言っちゃうと、彼女はもうだめだよ、修復不可能さ」

もう一度女性を見る。先ほどまで顔に浮かんでいた殺気は消え、まるで波一つ無い海面のように穏やかな表情をしている。

……ん?なになに、語彙がないって?良いじゃないか、どうだって。

「そんな……!そんなのって!」

「ごめん、こればかりはどうしようもないさ……私でもね」

後ろの方で、ズルッと何か布がずれた音が聞こえた。

女将さんは、今も吸精鬼スタイルだ。

「……ん……うぅん……」

……………………修羅場の予感。

ちょっと待った、時間停止。

さて、どうしようか。

恐らく店主君は吸精鬼の正体が女将である事を知らないはず。

そして、私と共に居たことと合わせて考えて、私も同族だと思われるだろう。

いや、私はどうでもいい。問題は女将だ。

女将が正体をばれてしまっては大変だろう。

しかし、記憶を書き換えるわけには……いいかな?

再生。

「お、お前!……」

やはり驚いているようだ。素早く近づいて……

「何やってるんだ?こんな所で」

ちょっと待った。え?知ってたの?うそ、私杞憂じゃないか。

「おや、あんたも一緒だったのかい?すまないね、こいつの面倒も見てもらってさ」

女将さん、知ってるなら早くいってよ。

どうやら、彼らはお互いに秘密を知っていたようだ。

「あ、あぁ、何の問題もないよ」

「……?なんだい?しどろもどろになっちゃって」

「何でもないよ、それじゃあね」

「あぁ、また後でな!」

酔いもずいぶん醒めたようで。

さて、宿に戻ろう。

……大変なことになってしまった。

今の状況を説明しよう。

現在、後ろからの斬撃と魔法を避けながら逃げている最中です。

何故でしょうねぇ?それは私が仕掛けたイタズラのせいでございます。

私が仕掛けた戦士君は、あの子だけに留まらず、賢者、はたまた勇者にまで手を広げようとしたらしい。

皆で戦って止めたらしいけどね。

それで、私がすべての元凶だと考えて、帰ってきた私を攻撃してきましたとさ。

面倒くさいねぇ、そのままハーレムでもなんでもやってればいいのに。

まぁ、これじゃあ宿屋にお支払いができないだけだし。

どうやって逃げようかなぁ?

ここで下の人に聞いてみようか。ねぇ?

アンカーを↓に付けるよ。

私はどうやって逃げればいい?

煙幕だ!

おぉ、本当にきた。

従者君に「困ったらアンカーを出せばいいですよ」なんて言われたから何かと思ったけど。

さてさて、煙幕か……おっ、ここに良いものが。

にっひっひ、ヨイショ!

「……!これは!」

「ゲホッ、ゴホッ……」

「吸っちゃいけないよ!グッ……」

……晴れてきたね。さてさて、どうなったかな。

「……」

「ふにゃぁ……」

おっと、こいつは思ったよりも重傷だね。

この煙幕、凄まじい催眠作用で人をふにゃっと再起不能にさせちゃう奴なんだよね。

まぁ、数時間でもとに戻るだろう。

一カ所に集めて、結界張って、これで安全だろう。

……いや、私だってそこまでいやな奴じゃないよ。魔物なんかに襲われたら大変やん?

よし、次の町へとれっつごー。

よしよし、着いたぞ王都。

いやぁ、ここまで長かった。テレポートしたりテレポートしたり……短かった。

取りあえず、どこかの宿……お、従者君からだ。

はいはいもしもし?

「あ、神様!言われた通り宿屋に入金しておきましたよぉ」

そう、それはよかった。

「あと、何かありましたっけ?」

えーとえーと……そうだなぁ、あ、そうだ。

店主君いるでしょ?変な縁を切っておいて。

「え?縁ですか?いいですけど……どうしてですか?」

一宿一飯の恩ってやつだよ。

「わかりましたぁ、それじゃあごゆるりと」

ふぅ、これで大丈夫だろう。

彼には良い思い出を持ってもらいたいね。

さて、宿はとれた。

そんじゃあ、一応はこの国の首都だもの。見て回るか。

ちょうど良い位置に案内板があることだしね。

ふんふん、城を中心に何本か大通りが伸びているね。

一本一本が商業地区や工業地区、住宅街に分かれていて、それらをつなぐ中くらいの通りが何本か伸びているよ。

こうしてみるとまるで蜘蛛の巣だね。

えぇっと、現在地はどうやら……行政地区、兵士の詰め所や役所がある地区のようだ。

……ん?見覚えのある顔が張り出されてる。店主君に似ているね。

何々……『伝説の傭兵ーーー。見覚えのある方は本国役所まで!』……え?蛇?

……ま、まぁ、知り合いの意外な一面もしれたことだし、ほかの所にいこうか。

ここは工業地区。鉄の臭いと鎚を振るう漢の臭いでくらくらしちゃう場所だよ。

さて、なぜここへきたかというとですねぇ……

武器が欲しい。

なんか、神だって事がばれちゃいけないって言ってたからさ、普通の護身用にね、欲しいんだよ。

えぇっとねぇ……ここ。ここにいけば良い物が手にはいるって御告げを今、私が言った。

さぁさぁ、何に出会えるかなぁ?

「ん?なんだよ、客か?」

げっ、柄悪そう。いや、でもこういうのが良い物作ったりす……

……………………………………………………………………………………え?

えぇっとですねぇ、ありのまま今見たことを話しますとねぇ。

ちらりと見えた店の奥で虚ろな目をした少年が手袋とか無しで泣きながら鍛冶をしていた。

虐待?いや、でもこの店主は人間だ。あの子はどちらかと言えばドワーフに近いんじゃないかな?

「おい、買うならさっさとしろよ」

うるせぇ。今良いところなんだから。

取りあえず、そこらにあった短剣を一つ買ってその店を後にした。

さてと、ここから私の時間だね。

先ほどの店の裏に回り、裏口から潜入する。

そこまで広いとはいえないがなかなか繁盛しているようだ。

カーン、カーンと金属のぶつかる音のする方へと進む。

いた、さっきの子だ。

私は少し離れた場所で壁に隠れて様子をうかがう。

やはり泣いている。何故だろうか?

ふぅむ、やっぱり手が痛いのか?それとも精神的にきついのか?

何でだろうなぁ。訳が分かりませんねぇ。

「おい、注文されてた奴は出来てんのか?」

あ、さっきの店員だ。やっぱり柄が悪い。

「……はい」

男の子が震える体で動き出し、どこからか剣を持ち出してきた。

「ふん」

店員は彼から剣を取り上げると、彼の体に蹴りを入れて店へと戻っていった。

ひどいことするなぁ。あーあ、可哀想に。

さてと、帰るか。

===勇者side===

いまだにくらくらとする頭をなんとか抑えて、王都へと足を運ぶ。

どうやら、あの男の出した煙には催眠作用があったらしく、現在、俺と武闘家だけが目を覚ましている。

思い返すと、あの男と出会ってから不運なこと続きに思えてくる。

多少の吐き気と瞼の重みに耐えながら歩いていると、巨大な門が見えてきた。王都の城下町に着いた。

門に近づくと、門兵に呼び止められる。

「貴様等、何のようだ」

マニュアル通りに質問をする兵士に袋の中にあった紋章を見せる。勇者の印と呼ばれる物だ。

「こ、これは!勇者様でしたか!」

驚愕する兵士を後目に、俺と武闘家は住宅街へと歩みを進める。

そうして歩くこと10分、一軒の民家に到着した。

扉を開けると、一人の女性が飛びかかってきた。

「お帰りなさい勇者ちゃん!今日も魔物退治お疲れ様!」

この女性は武闘家のお母さん、ここは武闘家の家だ。

「お母さん、私、もうだめぇ……」

家に帰ってきて安心したのか、武闘家が倒れる。

「あらあら、いったいどうしちゃったの?勇者ちゃん、この子は私が運んでいくから、あなたはお友達をよろしくね」

そう言って叔母さんは武闘家を2階へと運んでいった。

俺は背中に背負っていた戦士と賢者をソファーに降ろし、椅子にどかり、と座った。

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ーーーーーーー
ーーーーー
ーーー


今、俺は魔王の目の前にいる。

魔王はフードをかぶり、顔が見えない状況だ。

仲間は満身創痍、俺も体中傷だらけだ。

「よくぞここまできたな、勇者よ」

魔王が言った。体が震えるような大きな声だ。

「冥土のみやげだ、私の正体をお見せしよう」

そう言うと、魔王は俺の前に一瞬で移動し、フードを取った。

「なっ……!」

そこに居たのは、あのにやけた顔の男だった。

「どうだい?びっくりしたか?それじゃあサヨナラだ」

男はどこからともなく取り出した槍で俺の頭を砕いた。

「う、うわぁぁぁ!」

俺はベッドから跳ね起き、そのまま床に落下した。

どうやら先ほどまでのは夢だったようだ。

「ど、どうしたの?」

俺の悲鳴を聞きつけたのか、叔母さんが部屋に飛び込んできた。

「あ、あぁ、何でもないです」

「あらそう?それなら良いけれど……無理しちゃだめよ?」

「大丈夫ですってば、ほら、もう着替えますから」

叔母さんを部屋から追い出し、寝間着から普段着に着替える。

ひどい夢だった。あんな夢を見るなんて……。

これもあれも全部、魔王とあの男のせいだ。

そんな愚痴を呟きながら、一階に降りる。

一階に降りると既に皆、朝食を食べていた。

「よぉう、お寝坊さん、寝癖がついてるよぉ?」

賢者がこちらに気づいて、寝癖を指摘した。

「あぁ、後で直す」

そう返事をして、朝食を食べ始める。

今日はハムとレタスのサンドイッチのようだ。

朝食を食べていると、叔父さんの読んでいた新聞に目がいった。

「叔父さん、ちょっと見せて」

「あぁ、いいぞ、ほれ」

叔父さんから新聞を受け取り、一面のニュースを読んだ。

……記事の内容は酷い物だった。

工業地区の鍛冶屋で鍛冶士が口内を滅多刺しにされて死んでいたそうだ。

しかし、凶器のナイフは被害者が握っており、被害者自身が刺したような形になっているようだ。

そして、ドワーフが一人行方不明になっていて、それを探しているらしい。

「なんて酷いことを……いったい誰が?」

そう呟くと、叔母さんが渋い顔をしながら言った。

「けどねぇ、そこの鍛冶士さん、評判が悪くてねぇ、恨みを買うのも無理はないわよ」

「だからって、殺していい訳じゃないだろ?」

叔父さんが言い返すと賢者が口を挟んだ。

「けっ、世の中には殺しても良いようなイヤな奴もいるんだよぉ」

「ふむ、その言葉は感心せんな、賢者よ」

「戦士さんの言うとおりです、殺していい人なんて居ません!」

賢者の言葉に戦士と武闘家が反発した。

「はいはい、議論はそこまで、ご飯食べたら身だしなみを整えなさい」

叔母さんに怒られ、俺たちは席を立った。

今日は王都で情報を集める。

もちろん、魔王とそれに繋がっている魔族共についてだ。

今回、俺たちが討伐するよう申し付けられた魔族は、スプリガン。

妖精から魔族に堕ちて、人に危害を与えるように魔王に洗脳された者たちだ。

今俺たちがつかんでいる情報は、この前の村の近くに潜んでいることだけだ。

今回の聞き込みで、敵の特性などが判ればいいんだが……。

そんな風に考え事をしていると、目の前に女性が立っていて、盛大にぶつかってしまった。

「す、すいません!」

頭を下げて謝ると、女性は快く許してくれた。

「いいんですよ、随分と上の空でしたけど、何か考え事ですか?」

そう聞いてきた女性は、背中に荷物を背負い、旅人だと一目でわかる風体だった。

「あ、あぁ、実は……」

俺がスプリガンについて何か知っているかを尋ねると、女性は指を立て、言った。

「スプリガンなら、確か自在に体の大きさを変えれるとか聞きますね」

「ほ、本当ですか!?ありがとうございます!」

スプリガンについての大きな情報に喜んでいると、女性が何かあったのか顔を俯かせる。

「……?どうしました?」

「いえ……ずいぶんと喜ぶねぇ、勇者君」

女性が顔を上げると夢に出てきたあのにやけ顔がそこにあった。

俺はまず目を疑った。目の前にいる奴は幻覚なのかと思ったからだ。

「ねぇねぇ?どうしたのさ?みんなご存じ私だよ?」

次に耳を疑った。声こそ違うが、話し方があの悪魔にそっくりだったからだ。

「ん?おぉい、寝てんの?反応くださいなぁ」

そして確信する。
















「あぁ、なんだ、夢か」

「おい、思いっきり起きてるよ」

===神side===

うぅん、困ったねぇ。

出会い頭に挨拶しただけで寝っ転がっちゃった。

さてどうしようか。

今、私が居るのは、狭い路地裏。

あまり人も通らないし、出入り口もあまりない。

足下には気絶した勇者君。

こんな時はアンカーだよね。

↓の人、私の行動はどうしたらいいかな?

身ぐるみ剥いで放置

……ん?あぁ、きてたのか。

いやぁ、ごめんごめん。従者君とちょっと今後の事をね。

さてさて、身ぐるみ剥いで放置か。こいつはなかなか厄介だ。

うぅん、女の子にそんなことはしたくないなぁ。いや、本当にしたくないんだよ?でも、アンカーは絶対って従者君がさ。

にひひ、まずは鉄製の胸当てからはぎ取っちゃおう。

ふむ、そこまで大きくないようだ。

で、脛当てと膝当てあたりも外して、今の状態は布の服とズボンってとこかな。

さてと、次はメーンディッシュだ。まずは上から。

うん?こいつはサラシか。抑えつけてたようだね。男装するにも我慢が必要なんだね。

だが、これもはぎ取る。

おぉう、なんと言ったらいいのか、メロンだねメロン。

さて、下はパパっと取っちゃって、これでいいだろう。

せめてもの情けだ。透明マントは掛けてやる。

よし、それじゃあドワーフ君も心配だし、そろそろ戻るかね。

よっこいしょういち、っと。

私が今いるのは、昨日凄惨な事件のあった鍛冶屋から30m先の元空き家でございます。

そして、今ここで震えているのが……

「……」

話すことのできないドワーフ君でございます。

しかし、この震えようは……どうしたもんかねぇ?

「君、もう話せるようになったかい?」

「……」

首を振り否定するドワーフ君。

どうすっかなぁ。多分トラウマのせいだと思うけど、言葉を知らない可能性もあるかぁ。

「どれ、私が腕によりをかけてとてもおいしいご飯を作ってあげよう」

「……」

無反応。そういうのもあるのか。

指パッチンで様々な食材を出していく。

「……!」

お、反応があった。それじゃあ今日のメニューは鶏肉と卵で親子丼だね。

はい、それじゃあ親子丼作っていくよ!

まずは鶏肉から。皮を取って一口大に切っていきます。

今回使用するのはムネ肉ですよ。

一口大に切ったら、煮ていきます。

少し煮た後、卵と醤油、ネギを入れてさらに煮ます。

卵が固まれば火を止めてあらかじめ丼に盛っておいたご飯の上に乗せれば完成です。

以上、従者君でした。

……ん?嘘つきだって?行ってることがむちゃくちゃだって?

ふむ、私が腕によりをかけるといったな。あれは嘘だ。

えぇ?だってさぁ、私が作るとカレーがおにぎりになったり、筍がビーフステーキになったりしちゃうもの。

だから従者君に任せたのさ。仕方ないだろう。

さてと、それじゃあいただきます。

「……!」

おぉ、良い食べっぷりだね。それじゃあ私も。

……んー♪出汁と醤油がいい味だしてるね!

しょっぱすぎず、かと言って味が薄いわけでもなく。

そして、このムネ肉!

いいねいいねぇ最っ高だねぇ!

親子丼!食べずにはいられない!

あ、従者君、おかわり。

……ふぅ、おなかいっぱいだ。

どうやら、ドワーフ君もそうみたいだね。

「……」

目を時々擦りながら船を漕いでいるドワーフ君。

眠いらしいね。

手を叩いてベッドを動かし、ドワーフ君を寝かしつける。

……さて、私はまだ寝なくてもいいだろう。

ドワーフ君をそのままベッドに置き、明かりを消して別の部屋へ行く。

先ほどの部屋よりも広い部屋を見つけた。そこへ入ることにしよう。

まずは魔法陣を足元と少し離れたところに2つ用意をする。

そして色々魔術的なのを用意して、呪文を唱える。

……辺りが暗くなり、気温が急激に下がる。

用意したろうそくに氷が付着し、魔法陣に沿って炎が吹き出る。

そうそう、この感じ。いやぁ、懐かしいね。

「……誰だ?」

野太く、脅すような低い声。

召喚されたものは随分と機嫌が悪いようだ。

「やぁ、そこまで痛くはなかっただろう?バーティ、ゲフンゲフン」

ちくしょう、むせた。

おつんつん

「てめぇ……!まぁ、確かに他の奴らよりはいたくねぇけどよ」

目の前の悪魔が炎を消しこちらを向く。姿はガーゴイルにしたらしい。

えぇっと……名前がなんだったっけなぁ?

「で?この俺様に何をして欲しいんだ?……どっかの屋敷からアミュレットを盗む、とかは無しだ」

トラウマかな?まぁ、そんなことはどうでも良い。

「話は簡単さ、この近辺のドワーフの集落を探してきておくれよ」

「はぁ?お前、俺が誰だかわかってんのか?俺はジン族のさか……!ガハッ」

うるさいから顎に一発グーパンチ。ちょっと顎が弾けたけど大丈夫だよね?

「がっ……ごごっ……ゲッ……」

「うるさいなぁ、早く直せよ、バーなんとかさん」

名前を思い出せる範囲で呼んでみる。合ってると良いけどなぁ。

「……あ、あー、うん、畜生、お前肉弾戦は酷いぞ!?そもそもペンタクルから出たら……すいませんでした」

「わかればよろしい」

投げる寸前だった槍を消して、姿勢を戻す。

まったく、始めから素直になればいい物を。

「それじゃあ、バーティミアなんとかさん、やってくれるよね?」

「てめぇ、そこまで出たら後一文字だろうが……はぁ、全くもってデタラメだよなぁ、お前は」

バーティミアなんとかさんが辺りを見回した。

私はそこまでデタラメじゃないと思うけどなぁ。

そりゃあさ、ペンタクルはグニャグニャ。名前は覚えてない。しかも、今はペンタクルの外にいる。

でも私はデタラメじゃないよ?ただただ変なだけで。

「さて、あんまり長居したくないからな、そろそろ……おい!後ろだ!」

バーティなんとかさんに注意され、後ろを振り向く。

そこにはナイフを手にして私に襲いかかるドワーフ君がいた。

バーティミアスさんwwwwwwww

支援

やぁみなさん、私だよ。

さて、今の状況を説明しようか。

えー、今私は……

心臓をえぐられて地に伏しております。

うぅん、割と痛い。

そして私から心臓を取ったドワーフ君は、家の中の金品を漁っているところだね。

「後一つ……後一つ……」

わぁ怖い。

どうやら、私のと昨日の可哀想な鍛冶士、そして後一人犠牲者がでるようだね。

……あー、昨日のは私のせいじゃないよ?

まぁ、ね?昨日の状況だけなら私だって思うのも無理はないけどさ。

バーなんとかさんは探しに行ってくれたようだし、そろそろ起きるか。

「なっ……!」

もちろん、一番最初に驚いたのはドワーフ君だ。

そりゃあ、殺したはずの相手が生きているとびっくりするよね。

「くっ!」

もう一度ナイフを握り直し、私の方へ切りかかるドワーフ君。

やはり切れ味はなかなかの物で、随分と業物な感じがする。

だけどここはやっぱり私。

切られたそばから回復しまくる。

「そんな!?」

やっぱりびっくりするよね。

「どうしたのさ?もっと切りかかってこいよ!」

……うん。この発言は色々と変態チックだね。

そんな発言に驚いたのか、ドワーフ君もナイフを取り落とす。

今のうちだ。

「確保ー!」

「うわぁぁぁ!」

そのままドワーフ君に飛びかかり、上にのしかかる私。

……うん?下腹部辺りに堅い物が。

「なっ……なっ……!」

うぅん、ちょっと私の今の状況を確認しよう。

現在、私は女性の姿で冒険者風な感じだ。

そして、服はナイフで刻まれボロボロ。

……なるほど。男の子だね。

それじゃあ若い子供の欲望を回収するために裸のつきあいでも……。

「おい、何してんだよ」

ちっ、バーなんとかさんめ。もう帰ってきやがった。

「お帰りなさい、ずいぶん早いね、職務放棄?」

「誰がそんなことするかよ、ほら、ドワーフの集落の場所だろ」

おぉ、さすがはバーなんとかさん。仕事が速い。

「じゃあな、もう呼ぶなよ」

はいはい、と二つ返事でバーなんとかさんを返す。

さてと、後はこのいたずら坊主を折檻して返品しよう。

おつつ

===勇者side===

……あいつを一度殴りたいと思っていた。

そのためにはいくらでも探してやるとも思っていた。

あぁ、思っていた。しかし……

「やぁ、こんばんは勇者君」

叔母さんの家になんとか帰ってきて、着替えを探しに俺の部屋に入ったら、奴がいた。

「何しにきた!」

「おやおや?これ、返して欲しくないのかなぁ?」

奴の手には、無くなっていた俺の装備一式があった。

「お前……!」

奴は装備を私に投げ返し、ベッドに腰掛けた。

「いやはや、使用済みは売れなかったよ、残念残念」

「人の装備を勝手に売るな!」

などと押し問答をしていると、階段を上がってくる音がした。

「どうしたんだ勇者、帰ってきていたなら言えばよいだろう」

戦士が部屋の中へ入ってきた。俺はベッドで寝ている。

「あ、あぁ、そうだな」

正直な意見を言えば、素早く出て行って欲しいところだ。

なぜならまだ着替えておらず、毛布の下は一糸纏わぬ姿だからだ。

「もうそろそろ夕飯だ、起きて下へ来い」

そう言いながら、毛布を奪おうとする戦士。

「おいっ!ばかっ!」

俺は抵抗した。

ここでばれては今まで秘密にしてきた意味がない。

何とかして戦士の気を逸らさないといけない。

「へいへい、戦士君、夕飯ってのは本当かい?」

……今だけは、奴に感謝しよう。

おつんつん

「貴様は……風呂場の!」

「おっと、覚えていてくれたかい?嬉しいねぇ」

戦士が奴に気を取られている隙に服を毛布の中に入れる。

「くっ、すまない勇者、少し暴れるぞ」

そう言いながら戦士は腰のナイフを手に取り、奴に切りかかった。

「なんだよ、生理前か?」

奴は見当違いの事をいいながら、戦士の攻撃をかわしていく。

戦士の目をこちらに向けないように動いているような状態だ。

今のうちに着替えを進めていく。

「おいおい、暴れんな」

「うるさいぞ!真っ向から勝負しろ!」

「面倒、嫌だ、脳筋が!」

さらしを巻き終え、下着を穿く。

戦士が奴に攻撃する都度、風で毛布が舞い上がりそうになるのが難関だ。

「この、避けるな!」

「やだよ、魔神剣でも打ってみなよ、空中には当たらないけどね」

すべてを着終えた。もういいと奴に指示を出す。

おつ

「ねぇ戦士君、あれ」

奴が戦士の後ろを指さす。

恐らくはだまし討ちをするつもりだろう。

「そして見る前にズドーンっとね!」

指し示した指のまま戦士の腹に思い切り叩き込んだ。

戦士は声も出せず、苦悶の表情を浮かべている。

「……酷いな」

思わず声が漏れる。それほどの威力だ。

「よし、それじゃあ下に降りようか」

奴は戦士を担ぐと、そのまま部屋を出ていった。

「おい、待てって!」

そう言いながら、俺は後を追った。

下へ降りると、叔母さんが食事の支度をしていた。

テーブルには武闘家と賢者、暖炉前のソファには叔父さんと奴がいた。

「あっ!勇者ちゃん!今ご飯ができるからね!」

叔母さんが元気にそう言った。

いつも思うが、叔母さんは何歳なのだろうか。

俺がこの家に来てから今日まで外見が変わっていない。

何か秘訣でもあるのだろうか。

「あれぇ?勇者君、何か考え事かなぁ?」

奴が話しかけてくる。武闘家達はまだ気づいていない。

「いやはや、君の叔父さんと少し高尚な議論をしていてね」

「なんだよ」

少し気になった。

「春画の局部の隠し方はどれが一番残念か、って議題だよ」

前言撤回だ。これはあまり高尚とは言えな……

「あれれぇ?あまり高尚とは言えないって顔してるねぇ」

こいつはこいつでやはりニヤニヤした表情を崩さない。

そうこうしている間に夕飯ができて、叔母さんがみんなを呼んだ。

夕食がテーブルに並べられ、全員が席に着く。

「……あ、あなたはぁぁぁぁぁぁ!」

武闘家が叫ぶ。

しまった。武闘家達は奴に気づいていなかった。

「あ、あ、あ……」

あまりにも驚きすぎたのか、硬直する武闘家。

賢者も持っていたスプーンを落としてしまった。

「あー、武闘家、落ち着いてくれこいつは……」

「どうもー、戦士君に魔法をかけた張本人でーす」

奴はバカなのか?

武闘家の顔に赤味が増し、賢者の顔に嫌悪感が増した。

どう見ても一触即発の状況だ。

「こら!物を食べるときはいざこざを起こさない!」

おばさんの一声で賢者達が座った。

奴もあまりの剣幕に一瞬怯んだようだ。

「さて、奥さんがこう言っておりますし?いただきます!」

奴がそう言いながら夕食を食べ出す。

他のみんなもそれを見て夕食に取りかかった。

……………

「待て!なぜおまえが食べている!?」

「なんでって……戦士君居ないでしょう?」

こいつ、まさかこれが目的だったんじゃ無いだろうな。

夕食を食べ終えると奴はこう言って立ち去った。

「それじゃあ勇者君、さようなら、困ったときはこのベルを鳴らすといい」

手元に残ったベルは、一切装飾の付いていない質素な物だった。

その後は朝まで眠り、旅の支度を整えた。

「行ってらっしゃい勇者ちゃん!今度はいつ帰ってくるの?」

叔母さんが見送る。今度帰るのは大体1週間後だろうと伝えると叔母さんは、

「そう!それじゃあ、美味しい物をたくさん用意して待ってるわ!」

と言っていた。

スプリガンの居場所は分かっている。そしてその特徴も……不本意だが奴のおかげで分かった。

まずは近くの集落に行くとしよう。ドワーフの集落だ。

===神side===

さてさて、昨日勇者君の家でおゆはんをご馳走になった私、神様は今……

ドワーフの集落で長老とお話をしておりますね。はい。

もちろん、私の隣には顔面がぼっこぼこになったドワーフ君、もといボロ雑巾君がいらっしゃいます。

「すまなんだ、旅の人、我らの同朋がそんな事を……」

どうやらボロ雑巾の所業に驚いているみたいだね。

まったく、ボロ雑巾が変なことをするから他人に迷惑がかかっているんだ。

「実はな、ドワーフ族に伝わる成人の儀式がアルのじゃよ」

何それ、気になる。

話を要約するとだね。

生まれてから15年したドワーフ族の少年は、狩りに出るらしい。

そしてその狩りで取った獲物の心臓を使い、武器を造るそうだ。

で、このボロ雑巾が出掛けてから帰ってこないようで心配していたらしい。

ほんでもって、今に至るらしいね。

……ん?あぁ、心臓を使った造り方?知りたくないし、知っても意味ないよ。

「いやはや、こんな事になるとは……今までこんな事をする輩などおりませんでしたので……」

と、長老さんが言った。ドワーフ族は基本的に純粋らしい。

ボロ雑巾はいったいどうして人を襲ったんだろうか。

「ねぇ、長老さん?この子は人間に恨みでも?」

「?いや、特に無かったはずですがのぉ」

そうなのかぁ。だとするとねぇ……うぅん。焦れったい。

まぁいいや。記憶の方でも読んでやろう。

……あぁ、うん。

取りあえずはボロ雑巾を慰めよう。

「な、なんだよ」

彼は、まぁ、彼の母親に教育をされていたようでね。

その母親ってのがこれはまた随分とダメな奴なんだ。

生き物はすべて下に見ているような屑で、そんな奴の教育なんて……まぁ、解ってくれ。

そしてこんな命を何とも思わない奴が出来ちまったのさ。

その他にもね、虐待やら何やらの記憶はあるけど……そこは割愛で。

「旅の方、こ奴の処分はわしらに決めさせてくれぬか?」

うぅん、どうしようかねぇ。

「だめだね、私が決める」

「何故じゃ!?」

「処分なんて物は無し、私からの私刑があったんだ、それで十分だろう」

境遇を考えても、可哀想だしね。

「う、うぅむ……まぁ、あなたがそう言うのであれば……いいじゃろう」

よし、後はこのボロ雑巾を更生させるために……

「ねぇ、ちょっとこっち向いて」

「なんだよ、嫌だね、言うことなんて聞くものか」

と後ろを見せた隙に人格をちょいちょいっと。

「……あ、あれ?」

これでいいだろう。それじゃあ、私は別の所に行くとするかね。

よっこらせっと。

さてさて、私が今いるのは……。

勇者君たちが魔王と呼んでいる者が統治している国だね。

ん?あれあれ?ドワーフの集落で勇者君と鉢合わせると思ったの?

残念だったね。さっき別れた奴とすぐに会いたくなるほど寂しくはないから。

こっちは割と他民族国家だ。ほら見てよ。さっきの人なんかトカゲ男だよ。変温だねぇ。

こっちはなんかきょろきょろ見ているだけで楽しいところだな。

この村はオーク系が多いね。

ちなみに私はその辺にいそうな学者風悪魔だよ。かっこ良さげだね。

さてと、まずは腹拵えだな……肉は怖そうだ。

食堂に入ると、オークの主人がお出迎えをしてくれた。

「おぉ、客か、何にする?」

そうだなぁ、今日は野菜の気分だし……無難に野菜炒めだな。

「その野菜炒めを一つ頼もうかな」

「はいよ、少し待ってくれ」

ふんふん、周りはそこまで混んでいないようで。

まぁ、店自体少し小さい位だし、味はどうだろうか。

端の方に怪しい3人組が見える、そこから私を挟んで向かい側に賞金稼ぎっぽいのが1人いる。

うぅん、マンガ肉も美味しそうだなぁ。あっちにすればよかったか?

「出来たぞ」

おぉ、きたきた。それじゃあ、いただきまぁす!

おつ

この野菜炒め……美味しい!

このかかっているタレ、味が濃いね。とっても濃い。

でも、けっして野菜の味を壊さず上手く調和しているね。

もうこれだけでご飯3杯はいけちゃうね。

さて、私がご飯を食べている間に怪しい3人組は出たようだ。

うぅ、やっぱりお肉を頼もうかなぁ。

でももうお腹いっぱいだからね、やめておこう。

やることもないしなぁ。何か事件でも……起きないよね。

「お勘定お願い」

「あいよ」

勘定を終わらせてお店を出る。

よし、町の中を探索するか。

町の中を探索していると、ひそひそ話をしている人たちを見つけた。

そんなひそひそ話をしていると、聞きたくなるのが私の性。

そーっと近づく。そーっとそーっと。

「……聞いたか?将軍の話」

「あぁ、気が触れちまって、牢屋ん中なんだろう?」

「へんな妄想ばかりしてるらしいぜ……」

ほうほう、そいつはいい話を聞いたな。

将軍ってやつが気が触れて妄言を吐く。

なぁんか裏がありそうだよねぇ。

なにか知ってはいけない話を知っちゃって口封じとか。

それともこのまま人と争っちゃいけないって話かな。

よし、聞きに行こうかな。

町外れにある拘置所?留置場?まぁ、違いが分からないけど牢屋。

そこの門の前に居るのは私です。

いやはや、さっきから入ろうとは思ってるんだけどさ。

そこの頭の悪い守衛が入れてくんないんだよねぇ。

何聞いてもマニュアル通り、同じ事しか返してくれない。

そう言えばマニュアルってローマで生まれた言葉なんだってね。私知らなかった。

何でも、ローマがいろんなところを征服して町建てるときとかに使ってたらしいね。

まぁ、そんな話はいいんだけどさ。もういっそのことテレポートで入っちゃおうか。

おや、あれは……

「お願いします!中に入れてください!」

「関係者以外の立ち入りは禁止です」

「姉に会いたいんです!」

「関係者以外の立ち入りは禁止です」

少し幼さの残る女性が守衛と押し問答をしている。

フードを深くかぶっているのは日光が苦手なのか、怪しまれたいからか?

どうやら彼女もこの中へ入りたいらしい。

うぅん、面倒事は起こしたくなる主義だからねぇ。

いやぁ、面倒くさい面倒くさい。

「どうしたらいいんだろう……」

あれから数時間後、守衛に追い返されてとぼとぼと歩く女性。

声をかけるなら今がチャンスかな?

「こんばんは、お嬢さん、暗い夜道をお一人様で何してるんだい?」

「ひぇぁ!?だ、誰です!?」

あら?怪しまれてる?

別に怪しいことはしてないつもりだけどなぁ。

「私が誰だか分かっているのです!?」

「いいえ、全く存じ上げておりませんよ」

知らないもの。今あったばかりの人に聞くなんて、どういう神経してるのかな?

この満月の淡い光の中、分かることは良いお召し物を着ていることぐらいかな。

「わ、私は、軍の将軍補佐ですよ!わかったら……」

へぇ、そんな役職持ってたのか。感心したよ。

「そんな事はどうでもいいんです、お嬢さん、少しお茶でもいかがかな?」

取り敢えず、お話ししましょうよ。

おつ

昼は食堂、夜は酒場。そんなオークのご主人が経営する場所へやってきました。

取り敢えず彼女を座らせ、話をすることにしよう。

「何か飲むかい?」

まずは飲み物が先決だね。どれにしようかなぁ、っと。

「あ、あのぉ……私こういった所に来た事が無くて、何を頼めばいいか……」

えぇ……随分と箱入娘だね。親の顔が見てみたい。

そうだなぁ……えぇっと……。

「お酒はいける?」

「あ、あぁ、はい……少しは大丈夫です」

OK、なら……。

「おーい、ご主人、アルコール度数低めのお願いね」

「おう、わかったよ」

まぁ、これで十分だろうか。嫌がる奴に無理矢理飲ませても意味ないしね。

さぁて、お酒も少しは入ったことだ。

「君は何で牢屋の方に行きたかったのさ?」

本題の方に入る。元々こっちが聞きたかったことだもの。

「……姉さんがあの中に居るんです」

姉さん?そう言えばさっきもそんなことを言っていたね。

「そのお姉さんっていうのは……もしかして」

「はい、将軍です」

彼女は俯きながらそう言った。

その姿は儚げで、少し触れただけでも壊れてしまいそうだった。

そう言えば、明るいところで見るのは初めてだね。

肌は透き通るように白く、目の色は椿の赤い方に似てるね。

その口の中にちらりと見える発達した犬歯から察するに……吸血鬼っぽい奴かな。

「姉さんは、きっと正しいことを言ってるんだと思います」

おっと、話を聞いていなかった。

その後、一通り愚痴や不満を私に話し続けた彼女は眠りについてしまった。

愚痴の内容は……まぁ、同僚の事とかだね。

まぁ、そりゃあね。清廉潔白な政治家なんて居ませんし。

さて、おぶるのは良いがそろそろ疲れたよ。

うぅん、変な気配もいっぱいするしなぁ。前後左右斜め全部から見られている気分。

そう言えばこの子、家の場所も聞いていなかったな。

よし、こんな時には……こちらの酔い醒まし。

嫌いなんだよなぁ、これ。なんかさぁ、動物の糞と吐瀉物と3年くらい常温にしたお肉を混ぜ合わせて焦がしたような臭い。

うおぁ、くせぇ。

はい口開けてー。

「……ごぶぉぁ!!!!???!?!!」

おっと、とどめを刺したか。

いやはや、大変だった。

全く、よく考えたらあんなの普通の生物が飲めるわけがないんだよ。

あの後、蘇生したり、彼女の記憶を読んで家まで連れていって着替えさせたり……散々だ。

そんなこんなで現在は、彼女……補佐官君の御自宅です。

そうだなぁ……感想は、思っていたより質素だね。

ほら、将軍とその補佐の御自宅でしょう?なんか高価そうな剣とか鎧とかさ……ありそうじゃん?

それでも家具は良い物を使っているね。

ベッドが柔らかい。めっちゃふかふか。

えっ?ほらこれ、すごくね?めっちゃめり込む、布団に包まれるよ!

……おっと、テンションが上がりすぎた。

まぁ、無理もないよね。彼女と飲んでいたのがもう昨日だもの。

牢獄潜入は明日にして、今日は寝よう。

新しい朝が来た、希望の朝……とでも思っていたか?

よし、今日も色々バッチリだな。

上の階からも誰かが動く音が聞こえる。

この家の住人も起き出したようだね。

今日の予定は牢獄荒らし♪悪人どもをこの世に放つ♪

よぉし、やっちゃうぞ!

「う、うぅ、まだ臭いが残っている気がする……」

あ、起きてきた。

「おはようございます将軍補佐官様々、心地よく寝られていたようで」

「えぇ……すいません、まだ気分が……」

あぁ、ごめん……すごい臭い。

しょうがないね、魔法で何とかいたしましょう。

おつ

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