ナレーター「エリートの朝は早い」(30)

<エリートの自宅>

エリートの朝は早い。



──おはようございます。

エリート「おはよう」

──朝ごはんはいつもなにを?

エリート「朝食は取らない主義でね。サプリメントで十分さ」ジャラッ

エリート「“大会”のためにね」ニヤッ



そういうと、エリートは大量の錠剤を口に放り込んだ。

リビングの棚には、トロフィーや賞状がずらりと並んでいた。



──すごい数のトロフィーですね。

エリート「まぁね」

エリート「勉学、スポーツ、格闘技に芸術……あらゆるジャンルで優勝してきたよ」

エリート「ボクって天才だからさ、なんでもできるんだよね」

──これらのトロフィーを獲得したのも、“大会”のためですか?

エリート「そのとおりさ」

朝食を終えると、エリートは家を出る。



──どちらへ?

エリート「トレーニングセンターさ」

エリート「そこでは完璧なトレーニングを受けることができる」

──やはり、“大会”のための?

エリート「もちろんそうさ」

エリート「なにしろ、“大会”はもう間近に迫っているからね」

<トレーニングセンター>

トレーニングセンターにたどり着くと、さっそくエリートはトレーニングを開始する。



筋力トレーニング。

エリート「ふっ、ふっ、ふっ」グッグッ…

持久力トレーニング。

エリート「はっ、はっ、はっ」タッタッタ…

さらにはパズルのような問題を次々解くことになる、頭脳トレーニング。

エリート「…………」ピッポッパッ



エリートはこれらのトレーニングを淡々とこなしていった。

正午間近になると、エリートはトレーニングを終了する。



──お疲れさまです。

エリート「ありがとう」

──それにしても、ここはすごい施設ですね。

エリート「最新式の科学トレーニングを行える施設だからね」

エリート「むろん、スタッフもみんな科学医学に精通した超一流ばかりさ」

──トレーニングは午前中で終了ですか?

エリート「長々とトレーニングをしても、さほど意味はないからね」

エリート「トレーニングで、なにより大切なのは効率さ」

エリート「それほどまでに、ボクは“大会”で優勝したいんだよ」

<エリートの自宅>

午後、自宅に戻ると、エリートはパソコンの電源をつける。



──パソコンで何をされるんですか?

エリート「“大会”で出会う相手の情報収集さ」

エリート「徹底的にデータを集めて、分析し、勝率を100%にするためにね」



画面上に、他の“大会”出場者たちの顔写真やデータが映し出される。

──特に注意してる相手などはいますか?

エリート「いるわけないだろ?」

エリート「次の“大会”に出場する選手はボクを含め8人だが」

エリート「どいつもこいつもボクの相手なんかにはならないね」

エリート「圧倒的大差をつけて、優勝してみせるさ」



自信満々のエリート。自分の優勝をみじんも疑っていない。

──エリートさんの“大会”五連覇を期待してよろしいのでしょうか。

エリート「もちろんさ」

エリート「ボクが優勝する姿を、楽しみに待っていてくれよ」

──しかし、意外な相手に足をすくわれるということも……。

エリート「ないない、ありえない」

エリート「それにね、そういう余計なことは考えちゃダメ」

エリート「それが“大会”で優勝するコツってもんなのさ」



我々の取材にもこころよく応じてくれたエリート。

そしていよいよ、“大会”の日がやってきた。

<大会会場>

会場には大勢の観客が詰めかけていた。



エリート「それじゃ、ボクはこれで失礼するよ」

──がんばって下さい。

エリート「がんばる必要すらないよ」

エリート「ボクの優勝は決まっているんだから」ニヤッ



相変わらずの自信満々な口調で、エリートは大会に臨む。

いよいよ大会が始まった。

大観衆に囲まれた中央舞台に、8人の選手が集う。



巨漢「おいおい……こんなチビどもと試合すんのかよ!?」

サイボーグ「改造された私の武力数値は……以前の10倍!」

能力者「オレ様の“能力”でイチコロだァ!」

ナイフ使い「ヒャ~ッハッハッハァ! 皆殺しだァァァァァ!」

卑劣漢「ヒヒッ……正々堂々など、愚か者のやること……」

ライバル「決勝で会おうぜ!」

女子高生「今日も猛烈アタックをかけてやるんだから!」

エリート「ボクの優勝する確率……100%!」



エリートの五連覇をかけた戦いが、今始まろうとしていた。

身長二メートルを超える、巨漢──



巨漢「ケッ、こんなチビどもと試合しなきゃならねぇとは、ついてねぇな」

巨漢「どいつもこいつもあっという間にペシャンコにしてやるぜ!」

巨漢「オラァッ!」ブオンッ

ズガァンッ!

巨漢「ふっはっはっはっはァ!」



パンチで床に大穴があいた。

肉体の半分以上がメカである、サイボーグ──



サイボーグ「以前はしてやられてしまいましたが──」

サイボーグ「体を機械化したことで、私はさらに強くなりました!」

サイボーグ「科学力こそ最強であるということを思い知らせてあげましょう!」

サイボーグ「ククククク……」キュルルルル…



サイボーグの首が回転した。

魔法のような力を持つ、能力者──



能力者「オレ様の“能力”は、『溶解(ディスソリューション)』!」

能力者「この手で三秒以上触れたものを溶かすことができるのだ!」

能力者「アイスみたいにドロッドロッになァ……!」

能力者「さァ……溶かされたいやつからかかってきやがれ!」



両手をかざし、不敵な笑みを浮かべる。

危険な殺気を放つ、ナイフ使い──



ナイフ使い「ウヒャァ~ヒャッヒャッヒャッヒャ!」

ナイフ使い「ナイフは万能の武器だァ!」

ナイフ使い「刺す、斬る、削ぐ、突く、投げつける──何でもアリィィィ!」

ナイフ使い「今宵も俺のナイフが血に飢えているゥゥゥ~~~~~~!」



目を血走らせ、愛用のナイフをベロベロとなめる。

決して強そうな外見ではない、卑劣漢──



卑劣漢「ヒヒッ……下らないねぇ……」

卑劣漢「ワタシの開発した猛毒で……みんなあの世に送ってやるよォ」

卑劣漢「まともに戦うなんざ、バカのやることさァ……!」

卑劣漢「ヒヒッ……ヒヒヒッ……」



暗くよどんだ目で、他の七人をあざ笑う。

端正な顔立ちと確かな実力を兼ね備えた、ライバル──



ライバル「決勝で会おうぜ!」



これだけいうと、彼は最高の笑顔を浮かべた。

いかにも気が強そうな、女子高生──



女子高生「あたしはアンタのことが好きなの!」

女子高生「あんたのためだったら……あたし死んだっていい!」

女子高生「好きで好きでたまらないのよぉ……!」

女子高生「あんたにだったら……あたしの初めてをあげてもいいよ?」



人目もはばからず、熱烈なアプローチをかける。

そして大会四連覇中の、エリート──



エリート「ボクに敗北はない!」

エリート「効率的な科学トレーニングとサプリメントで作り上げたこの肉体と頭脳」

エリート「ジャンルを問わず数々の大会を制してきた経歴」

エリート「コンピュータはボクの優勝確率は100%だと示している」

エリート「はっきりいって、他の七人など敵でもなんでもない」

エリート「ボクの五連覇は決定事項なのだ!」



いつもながらの自信に満ちた表情で、自己を誇示するエリート。

八人目となる、エリートの自慢話が終わると──

いよいよ優勝者の発表である。



審判長「第75回かませ犬オーラ大会、優勝は──」

審判長「エリート選手!!!」



ワアァァァ……! ワアァァァ……!



“大会”の優勝はエリートに決まった。

みごと、宣言通りの五連覇達成である。

体の大きさと腕力だけがウリの巨漢より──

肉体を機械化して復活し、悦に入っているサイボーグより──

自分の能力をベラベラとしゃべる能力者より──

どうしようもなく言動が陳腐で小物なナイフ使いより──

正々堂々とした人物に倒されるしかない卑劣漢より──

どうせ決勝に来れないライバルより──

決して意中の人と結ばれない運命(さだめ)にある押しが強い女子高生より──



周囲を見下し、過剰なほどの自信を持ち、やたらに豪華な経歴を持つエリートこそが、

参加者の中で最も“かませ犬っぽい”と評価されたのだ。



エリートの“大会”までの努力は報われたのだ。

巨漢「おめでとうございます、エリートさん!」

サイボーグ「今回は自信あったんだけどなぁ、ダメだったかぁ~」

能力者「こんな“能力”じゃなきゃ、握手をさせてもらいたいところですよ!」

ナイフ使い「五連覇おめでとうございます!」

卑劣漢「正々堂々やって負けたんで、悔いはありません!」

ライバル「決勝で会おうぜ!」

女子高生「エリートさん、次はあたしが勝ってみせますからね!」



エリート「ありがとうございます、皆さん……!」



好敵手たちの祝福を受け、肩の荷が下りたのか、エリートもにっこりと微笑んだ。

この瞬間、我々取材班はようやくエリートの素顔を見たような気がした──





~ おわり ~

以上で完結です

もちろん、かませ犬にならないエリートキャラも多いですが…

エリート=実力が保証されてる=物差しとして使いやすい、だからなあ


大会参加者仲よすぎw

なるほど
かませ犬の大会だからあえてあんな態度だったのか

なかなかよかった

いいね


短くて読みやすいし、キレイに落ちてて良かった


落ちで死ぬほど笑った


こういうの好きだ

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