男『もう一度今日が来ればいいのに』 (18)

俺は、時間を巻き戻す能力を持っている。
ガキの頃、親に連れて行ってもらった遊園地が楽しくて、

『もう一度今日が来ればいいのに』

そう思って眠りについたら、本当にもう一度『昨日』がやってきた。
俺の『昨日』の記憶は確かにあって、

『こらこら、はしゃぎすぎないの』

そう母さんが言った後に妹が転んで大泣きして、
泣き止ますためにアイスを父さんが買ってきて。
何もかも、同じことが起きた。

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それから、何か気に食わないことがあると時間を巻き戻した。
やり方は簡単、一日の終わりに望むだけ。

『もう一度今日が来ればいいのに』

一日しか時間を戻すことはできないが、それで十分だった。
この能力を使って、いろんなことを自分の都合よくこなしてきた。
これからも、そうやってうまくやっていくつもりだった。

母「ごはんよ?」
男「はーい!」
妹「お兄ちゃんはやく?!」

階下から呼ぶ声に返事をして、ダイニングへと向かう。

母「今日は二人に買い物に付き合ってもらうわよ」
妹「明日のバーベキューの買い出し?」
母「そう!荷物持ち要員としてよろしく?」

さっさと朝食を済ませて、支度をすまし、
母さんの運転する車に乗り込む。

妹「今日は道混んでるね~。前も後ろもいっぱい」

助手席に座る妹が窓から顔を出して、後続車を見ながら言った。

男「そうだな~、休日だとしても多いな」
母「裏道通ろうかしら」

何の変哲もない、いつもの景色。
しかし、それは一瞬で壊れてしまった。

突然の衝撃と回転する視界に、最初何が起きたのかわからなかった。
ただ、揺れる視界がおさまった時、
俺のすぐ目の前に蜘蛛の巣のようなガラスがあった。

わけがわからず、ただ心臓が痛いくらいなっている。
全身が心臓になってしまったかのように、波打つ。

「大丈夫か!?」
「救急車よべ、救急車!」
「警察もよべ!」
「大丈夫ですか!?」

遠くで聞こえる声に答えることができなかった。
蜘蛛の巣の前に、マリオネットのように曲がった白くて赤いもの。
それがなんなのか、認識したくなくて目を閉じた。

白いベッドの上で、天井を見上げた。
なんでこんなことになってしまったんだろう。
この現実を、変えなければ。
俺は目を閉じた。


『もう一度今日がくればいいのに』

母「ごはんよ~」
男「はーい!」
妹「お兄ちゃんはやく~!」

階下から呼ぶ声に返事をして、ダイニングへと向かう。
ああ、また『今日』が始まる。

母「今日は二人に買い物に付き合ってもらうわよ」
妹「明日のバーベキューの買い出し?」
母「そう!荷物持ち要員としてよろしく~」
男「天気もいいし、みんなで自転車で行こうぜ!」
妹「いっぱい買い物するんだから車がいい~」
男「3人いれば大丈夫だって!それに今日は休日だから道路混んでるだろうし」
母「そうね。たまにはいいかしらね」


車に乗らなければ大丈夫。
これで、大丈夫。

さっさと朝食を済ませて、支度をすまし、
青空の下、自転車をこぎ始めた。

妹「風が気持ちいいね~」
母「そうね~」
男「こら妹、ちゃんと前みてこげ」
妹「は~い」

『昨日』曲がった裏道には入らず、大通りを進む。
赤信号で止まり、空を見上げる。

ああ、これで大丈夫

そう思った矢先に、またすべてが壊れた。
交差点を曲がろうとした車が目の前を横切る。

2台の自転車を巻き込んで。


ああ、どうして
どうしてなんだ


『もう一度今日が来ればいいのに』

朝目が覚めた俺は、計画通りに動き始める。

母「ごはんよ~」
男「はーい!」
妹「お兄ちゃんはやく~!」

階下から呼ぶ声に返事をして、ダイニングへと向かう。
何の変哲もない、いつもの景色。
変えたくない、景色。

母「今日は二人に買い物に付き合ってもらうわよ」
妹「明日のバーベキューの買い出し?」
母「そう!荷物持ち要員としてよろしく~」
男「それなんだけどさ、俺一人で行ってくるよ」
妹「え、どうして?一緒に行くよ?」
母「そうよ、荷物いっぱいで大変だし」
男「いや、大丈夫だって。母さんたちは家の掃除でもしててよ」
母「そう?ならお願いしようかしら」

母さんから買い物メモを受け取ると、さっさと朝食を済ませて、支度をすまし、
俺は車に乗り込んだ。

俺一人なら、大丈夫
二人を外に出さなければ、大丈夫

相変わらず道は混んでいたが、俺は裏道を通らなかった。
交差点もなんなく通過した。


今度は、大丈夫か


買い物も無事に済ませて、俺は家へと向かう。
帰りの道も混んでいたが、特になにも起こらなかった。

家に近づくにつれ、騒がしくなる。
青い空に、黒い雲が。

雲?

上へ上へと昇る、不思議な黒い雲。
窓を開けると、風が咳き込む匂いを連れてきた。

男「どうして・・・」

真っ赤に染まる我が家を前に、俺は立ち尽くした。


「男くん!男くん!」

野次馬の中から近所に住む幼馴染が俺を呼んだ。

幼馴染「もうすぐ消防車がつくから!そしたらきっと助かるから!」
男「母さんも妹も、まだ中なのか?」
幼馴染「ここらへんでは見かけてないの・・・きっと」
男「俺、助けに行ってくる」
幼馴染「無理よ!男くんが死んじゃう!」
男「二人が死んでもいいのかよ!」
幼馴染「そ、それでも!それでも!」

幼馴染を振り切り、俺は家へと向かう。
木造二階建ての家は、赤く赤く、燃え盛る。
でも、行かなくちゃ。助けなくちゃ。
意を決して中へ入ろうとすると、すごい勢いで後ろに引き戻された。

「君!なにをしている!」

その勢いで俺は後方へと吹っ飛んだ。
俺を吹っ飛ばした男が俺を見下ろしている。

男「母さんと、妹が、中に」
「消防隊を待とう。この火の勢いだ。君にできることは、今は何もない。」

また、俺は救えなかった。
現実を、変えることができなかった。
今まで、この能力でいろんなことを変えてきた。
なのに、なんで、なんで、今回は、変えられないんだ。
なんで、何度も、俺の目の前で、二人は死んでいくんだ。
でも、諦めちゃだめだ。
俺が、絶対に、救ってみせる。
俺の、大切な家族。


『もう一度今日が来ればいいのに』

ぴっぴっぴっぴっ

鼓動に合わせて、機械音が鳴り響く。
薄暗い部屋に、無機質な音。
一度ため息をついてから、外へ出る。


「また、明日来るからな」




どうしてこんなことになってしまったのだろうか。
何度夜が来ても、何度朝が来ても、
受け止めきれない事実。

家へ帰っても、誰もいない。
真っ暗な部屋に一人。

リビングに立てかけてある写真に写る人は、笑っていた。

「あの日、休日出勤なんてしなかったら、俺も一緒にいけたかなぁ。」



最後に撮った、家族写真。
俺たち4人は、とても幸せそうだった。

終わりです。
読んでくださった方、ありがとうございました。

あぁ、そゆことか

意識不明(?)の男の夢の中での話?
読み返してみても全くわからん

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