「トップアイドル…今でも、なりたいか?」
車を運転しながら、プロデューサーさんは私に聞く
…なりたい…
その希望とは裏腹に、現実という壁が立ちはだかる
トップアイドルになりたい
そのひとことがなかなか口から出てこなかった
純粋に夢を見ていた頃と違って、今は無駄に視野が広くなってしまったのだ
「…って、今それを聞くのはまずかったな、悪い」
無言で俯いたままの私に、プロデューサーさんは軽く謝罪する
SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1408775342
「オーディションのことは明日、反省しよう、今何か言ったところで…意味ないしな」
「今日はちゃんと休養をとって、明日に備えるんだ」
「……はい」
「よし、事務所に着いたぞ」
…俺は車を止めてくるから、先に行っててくれないか…
プロデューサーさんにお礼を言って、私は言われたとおり、先に事務所に入る
「おかえり春香…その、オーディションはどうだったかしら?」
「ううん、ダメだった」
私を待っていてくれたのは千早ちゃん
そう、と肩を落として、私を励ましてくれる
「また、次…がんばればいいのよ」
「うん、千早ちゃんも次のオーディション…がんばってね」
「…ええ」
期待
「なんだ、千早も居たのか」
「はい、お疲れ様です」
車を止めて、後から来たプロデューサーさんも合流する
「どうしたんだ、今日はもう上がりだろう」
「はい…ただ、春香の結果を待っていて」
「ああそうか…結果はもう聞いたのか?」
「…はい」
そうか、と、プロデューサーさんは少し間を置く
私は2人のやりとりを黙って見る
「まぁそう気にするな、全くダメだったわけじゃない…それより、次は千早の番だ」
「春香の分まで、今度は千早が頑張るんだ、ショボくれた顔をするんじゃない」
「は、はい…次は、絶対受かります」
「そうだ、そのいきだぞ千早、元気がうちの取り柄だからな」
2人のやりとりを、微笑みながら私は見守る
これは期待
「ダメならまた次頑張ればいいさ、オーディションは何度でも受けられる」
「下を向いてたら受かるものも受からなくなるからな」
「今日は春香のオーディション、3日後は千早のオーディション、そして更に1週間後は響の…って、響は昨日辞めたか」
3人して、がらーんとした事務所を見渡す
「……だいぶ、減ったな」
静かな事務所にプロデューサーさんの声が響き渡った
「小鳥さんはどうしたんだ?」
「それは、多分…まだ、寝てると」
「そうか…悪いな、千早」
「……いえ」
少しだけ活気がでた事務所も、すぐに静かになる
私は、終始黙ったまま、千早ちゃんとプロデューサーさんのやりとりを含めた事務所の様子を、力なく見ていた
あ
こういう話好きよ
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