「トップアイドル…今でも、なりたいか?」
車を運転しながら、プロデューサーさんは私に聞く
…なりたい…
その希望とは裏腹に、現実という壁が立ちはだかる
トップアイドルになりたい
そのひとことがなかなか口から出てこなかった
純粋に夢を見ていた頃と違って、今は無駄に視野が広くなってしまったのだ
「…って、今それを聞くのはまずかったな、悪い」
無言で俯いたままの私に、プロデューサーさんは軽く謝罪する
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「オーディションのことは明日、反省しよう、今何か言ったところで…意味ないしな」
「今日はちゃんと休養をとって、明日に備えるんだ」
「……はい」
「よし、事務所に着いたぞ」
…俺は車を止めてくるから、先に行っててくれないか…
プロデューサーさんにお礼を言って、私は言われたとおり、先に事務所に入る
「おかえり春香…その、オーディションはどうだったかしら?」
「ううん、ダメだった」
私を待っていてくれたのは千早ちゃん
そう、と肩を落として、私を励ましてくれる
「また、次…がんばればいいのよ」
「うん、千早ちゃんも次のオーディション…がんばってね」
「…ええ」
「なんだ、千早も居たのか」
「はい、お疲れ様です」
車を止めて、後から来たプロデューサーさんも合流する
「どうしたんだ、今日はもう上がりだろう」
「はい…ただ、春香の結果を待っていて」
「ああそうか…結果はもう聞いたのか?」
「…はい」
そうか、と、プロデューサーさんは少し間を置く
私は2人のやりとりを黙って見る
「まぁそう気にするな、全くダメだったわけじゃない…それより、次は千早の番だ」
「春香の分まで、今度は千早が頑張るんだ、ショボくれた顔をするんじゃない」
「は、はい…次は、絶対受かります」
「そうだ、そのいきだぞ千早、元気がうちの取り柄だからな」
2人のやりとりを、微笑みながら私は見守る
「ダメならまた次頑張ればいいさ、オーディションは何度でも受けられる」
「下を向いてたら受かるものも受からなくなるからな」
「今日は春香のオーディション、3日後は千早のオーディション、そして更に1週間後は響の…って、響は昨日辞めたか」
3人して、がらーんとした事務所を見渡す
「……だいぶ、減ったな」
静かな事務所にプロデューサーさんの声が響き渡った
「小鳥さんはどうしたんだ?」
「それは、多分…まだ、寝てると」
「そうか…悪いな、千早」
「……いえ」
少しだけ活気がでた事務所も、すぐに静かになる
私は、終始黙ったまま、千早ちゃんとプロデューサーさんのやりとりを含めた事務所の様子を、力なく見ていた
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