真姫「墜旋律」 (21)


今回も超短いです
雰囲気だけでも感じてください


イミワカンナイSS達(1分くらいで読み終えるのでよろしければ)

真姫「星の在処」
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真姫「音戯噺」
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心地好い。ゆらゆらとストリングスの海を漂っているような

半分の意識の中にいる私だから、余計に夢見心地でいられるのだろう

感覚全てに優しく溶け込む音を、優雅に奏でている演奏者はそれはとてもとても……



真姫「あら、やっと起きたのね」

にこ「……」

真姫「……ねぇ」

にこ「え? あ、うん……」


思わずその指に見惚れてしまっていた。顔を上げると不思議そうに真姫ちゃんが私をまじまじと見詰めている

そうだ、真姫ちゃんだ。演奏者は真姫ちゃん、私が知っている真姫ちゃん

懸命に頭を働かせようとするが、先程の旋律がまだ鳴りやまない。真姫ちゃんの指はもう鍵盤を押さえてはいないのに

もしかしてこれが刷り込み?


にこ「あんた、ニコをどうするつもりなのよ……」

真姫「は?」

にこ「……何でもない。忘れて」

真姫「頭大丈夫?」

にこ「…ニコが起きるの待っててくれたんだ? 優しいー」

真姫「まぁ……そりゃあね。あまりにも気持ち良さそうに眠ってたんだもの」

にこ「さっきの曲、初めて聴いたと思うんだけど。何て曲?」

真姫「名前なんて無いわ。適当に弾いてただけ」

にこ「…そ」



沈黙。互いの関係性にもよるが、沈黙状態が長くなるにつれて人間の脳というのはストレスを蓄積してしまうらしい

だから人は言葉を紡ぐ。愛とか情なんかを深めるんじゃない、恐怖を打ち消す……ただそれだけの為に語りかけるのだ

私と真姫ちゃん、どっちが先に耐えられなくなるのか。そんなもの、持っている全てのチップを一点賭けで真姫ちゃんに決まっている


真姫「……本当に、大丈夫?」


ほら。心の中でにやつく。

人の感情の起伏に対して敏感な私だ。ましてや相手が真姫ちゃんなら私の勝率は99.9999%を越えているに違いない


──なのに何で、さっきの演奏を別人と勘違いして聴き惚れていたんだろう。音は何の為に、そこに在るの?



にこ「何が?」

真姫「だ、だからその……元気ないみたいだから」

にこ「そう?」

真姫「平気なら、別にいいけど」



再び沈黙。真姫ちゃんを困らせて苛めているつもりはない

ただ、少し悔しかっただけ。私の脳内を埋め尽くしていた音を奏でていたのが真姫ちゃんだったから

今度は隠す気もないくらいの鋭い目付きで睨んできた


にこ「真姫」


少し声に重みをのせて呼んでみる

驚いた様子で目を丸くしていた。そんなこともお構い無しに起き上がり、ピアノの場所へと移動する

そして真姫ちゃんの隣に座った。身体と身体が触れ合う

でも、絶対に目を合わせてはあげない


真姫「何のつもり……?」

にこ「ニコにも教えてよ。さっきの曲」

真姫「はぁ? どうして?」

にこ「弾いてみたいからに決まってるでしょ」

真姫「……嫌よ」


その答えは予想してた。だって真姫ちゃんが素直に聞き入れるわけないから

それに、赦せないんでしょ? 他人が自分より優位に立っているのって


にこ「こんなに可愛いニコがお願いしてるのに?」

真姫「…気に入らないわ」

にこ「ふーん、そっかぁ」

真姫「……何?」

にこ「真姫ちゃんってば、好きな子には意地悪したくなっちゃうタイプなんだ?」

真姫「は、はぁ!? そんな」

にこ「図星? 心臓の音速くなってるみたいだけど」

真姫「わ、私は」

にこ「可愛いんだから。“とっても”」


私は適当に鍵盤を押さえた。丸っきり知識が無いわけではないから、何となくどこら辺とかくらいはわかる

だけど、素人には変わりはない。見よう見まねで弾いてみても上手くいく筈もなく、それを見かねた隣にいるピアニストの手が私の手に被さった


真姫「全然違う。最初は、ここ」

にこ(手、熱い……)

真姫「今のを三回繰り返したら、次は──」


絡み合う指と指。体温が移ったのか、いつしか自分の身体が酷く熱を帯びているのを感じる

何これ。おかしくない? 私は

少しだけ、少しだけ高い場所から真姫ちゃんの首輪に繋がれている鎖を引いていた

その鎖を手繰りすぐ傍まで近付いたけど、しっかりとこの手にはそれが



真姫「ニコちゃん?」

にこ「……」

真姫「風邪でも引いた?」


真姫ちゃんの掌が私の額に触れる


真姫「熱はないみたいね」

にこ「……もう、手遅れよ」

真姫「え?」


フリをしただけで異常なしと決め付けるのは些か早すぎると思う。完全に医療ミスよ。ペナルティを課してあげよう

やっぱり貴女、医者には向いてないわ。私の身体も心も何も見えてない。知ろうとはしてるけど、知った気になってるだけ、知らないことすら知らない

無知。でも全然真姫ちゃんは悪くないよ

本当に、可愛いんだから



私は額を真姫ちゃんの額にくっ付けた。表情を変えないまま

初めて目線を真姫ちゃんに合わせると、向こうは直ぐ様反らしてきた。指は絡み合ったまま。私は真姫ちゃんに


口付けした


真姫「んっ……ちょっと! どういうつもり!?」

にこ「別に普通でしょ? キスくらい」

真姫「ニコちゃん……? どうしたの」

真姫「起きた時からずっと……貴女、おかしいわよ」

にこ「おかしい? ニコが?」

真姫「……えぇ」

にこ「……ふふっ、そうだ。面白い話してあげる」

真姫「……」


にこ「昔々、世界には──」



──世界にはアダムとイヴ、二人の人間しか存在していなかった

世界は二人だけのモノ。羽ばたくことは知らなかったが何よりも自由だった。残酷なくらい自由で、二人を否定する者など存在しない

だがそれは訪れた。いつもと同じ時の流れの中でただただ自然に。イヴだった

イヴはアダムを否定した。貴方は間違っている、と

アダムは笑いながら言った。「仮に僕が間違っているとするなら、君は君自身が本当に正しいと言えるのか」

二人しか存在していない世界で、一方を悪と断言するなら残った一方は紛れもない正義なのか

答えを出す術は何処にもない。正義は悪に屈しない。同じく悪も正義に屈しない

正義とは何か、悪とは何か。そんなもの元々存在などしていない。何の意味なんかないのだ

何故なら、単純明快。二人しかいないから。永遠の螺旋迷宮、辿り着く先は“死”だ

それを悟った二人は創ろうとした。気が遠くなる程の永い永い歴史を重ね、創成した。優しい世界を──



真姫「……つまらない話ね」

にこ「そう言うと思った。でも、ここでニコを否定することに何の意味もないのよ」

真姫「確かに、ね……。だったら、貴女も私を否定する権利なんかないってこと」


真姫ちゃんは私の髪を掻き上げ、額にキスをした。そしてそのまま私の頭を胸に抱き込む

少しだけ癪に障ったが、トクントクンと聴こえる鼓動によって私の脳内に蔓延る悪は綺麗に浄化された


真姫「求めてもいいんでしょ?」

にこ「……うん」

真姫「全部受け入れてくれる。私がどれだけニコちゃんを……それこそ壊してしまうくらいに求めたとしても」

にこ「さすがにそれは…」

真姫「冗談よ。でも、散々おあずけされた分くらいは覚悟してよね」

にこ「はは……」


もう一度、口付けした。深く味わう様に、舌を絡め口内の粘膜をまさぐる

夢中になり、何度も何度も。ここだけ時が止まったみたいに静かだった


太股に垂れ落ちたどちらのモノとも分からぬ涎で、ふと現実に引き戻された

そして思い出したかのように真姫ちゃんに告げる


にこ「さっきの曲弾いて」

真姫「後でいいでしょ。今は」

にこ「あれ聴きながら感じたいのよ。真姫を」

真姫「……はいはい」



片方の手は私の後頭部に回したまま。右手だけで弾いている分、音は軽くて薄い。

流れるメロディーは此処に私を縛り付ける

再び足を踏み入れてしまった。この先、幾度となく彷徨い続けるのだろう


真姫「好きよ」

にこ「……私も。沈められるくらいに」



──そっか。最初から溺れていたんだ


機嫌を良くしたピアニストは人の気も知らないで残酷に鍵盤を叩き続ける

ピアニストとしての音。人間としての愛。彼女はそれしか知らないから

これは私が望んだ事。本望だ

だから私はどこまでも堕ちよう。貴女がそれをやめない限り。飽きない限り。捨てない限り



真姫「愉快な気分よ。自分でも驚くくらい」

にこ「私も。すごく気持ち良い……」

真姫「本当に、この世界が二人だけだったらもっと幸せだったのかしら?」

にこ「……それはもう、壊れちゃうくらいにね」


いつの間にか手に握っていた鎖は消え果てていた。ううん、違う

確かに在る。見える。私の首に繋がれて、鎖は彼女の左手にしっかりと

真姫ちゃんは多分気付いてないんでしょうね。右手で鍵盤を鳴らしながら、左手では無意識に私を逃がさないよう縛り付けている


欲張りさんなんだから。いいよ。あげる


真姫ちゃんが欲しいモノ全部、与えてあげる



真姫「ニコちゃん、愛してる」

にこ「嬉しい。愛されるのはとっても嬉しいわ」




何も知らないピアニストは弾き続ける。名前の無い曲を──





━━fin━━

ほう

乙 今回もいい雰囲気

そろそろ飽きた

ふぅ…

おつ

いいじゃない

ふむふむ

pixivに同じやつがあるけど>1?

>>19
のっけてみた

SSっていうよりポエム

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