男「2日遅れで、七夕に願うよ」(30)
ガタガタ…
男「さて、と。こんなもんか?」
男「控え目な笹の枝に、市販の七夕飾りセットをつけてっと…」
男「それに…願いをかいた、短冊はとっくに用意済み」
男「いまの日付は… 7/8 23:28 か…」
男「缶ビール2本ok、椅子もひっぱりだした。それからアンチョビ詰めのピクルスが一瓶」
男「準備は、完璧」
男「…つかまあ、ちょっと早すぎたな。年々、手際がよくなってる気がするわ」
男「……ま。七夕祭りの予定時間まで、のんびり待ちますかね」
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男「…ったく。おせぇな。いつまで待たせんだよ、来るっていった時間すぎてるし」
男「……忙しいトコ時間さいてんのに、わかってんのか、あいつ」
ガタガタッ ガチャ バタンッ
男「はぁ…やっと来た」
女「ごめんっ!遅れた!」
男「待たされた。何してたんだよ、女」
女「帰りがけに、部長に日報にツッコミいれられちゃってさー…はは、ごめんっ」
男「約束ある日くらい、まともな日報かけよ。あるいは余裕もって終わらせらんないのか」
女「仕方ないでしょ!今日はクレーム処理があって対応キツかったんだから!」
男「…なにそれ。おまえ、ほんとに遅刻して悪かったと思ってんのか?」
女「思ってるよ!なによ、男だって前回は大遅刻かましたくせに!」
男「うっせーな…あれは不可抗力だったって言ったろ?」
女「出先で事故渋滞に巻き込まれたってやつ? そもそもがギリギリの時間設定してたじゃない!」
男「あーはいはい、俺が悪ぅございましたー。もういい、忙しかったなら帰って寝れば?」
女「……っ! あーもう、ごめんって。言い過ぎた。ちゃんと反省してるから!」
男「なあ、仕事…事務とかに異動できねぇの、おまえ」
女「…営業職がやりたいの。女だから、ちょっと当たり厳しいけど…せっかく就職できたんだし」
男「飼い殺しの社畜め」
女「ブラック企業のSEにいわれたくない」
男「……」
女「……」
男・女「「あー、時間とか死ねばいいのに」」
男・女「「………」」
女「やだ、もう。ハモったじゃん」クスクス
男「ハモるようなセリフじゃねぇっつの。ふざけんなよ」ハハハハ
女「ごめんね、男。遅刻、ちゃんと気を付けるから許して」チュ
男「俺もいいすぎた。最近忙しかったからカリカリしてたわ」ポンポン
女「えへへ…ありがと。大好き、男。ずっと一緒にいようね」
男「ばーか。…あ、くそ。 願掛けには遅かったかも」
女「え?」
男「ほれ」
ケータイ: 7月8日 0:02
女「あー…せっかく、七夕祭りしようとしてたのに。ごめん、7日過ぎちゃったね…」
男「しゃーねーよ。これで願い叶わなかったら、部長を恨め」クククッ
女「自力でもちゃんと叶えるもんっ!でも部長は恨むっ!あの痩せ河童めー!」
男「それじゃただの八つ当たりじゃねぇか…ほれよ、缶のままでいいだろ?」
女「あ。私の好きなやつだ。買っといてくれたの?」
男「コンビニで売ってたからなー」
女「えへへ…じゃあ、遅れちゃったけどはじめよっか!」
男「まてまて。おまえ、七夕祭りなのに短冊かかねーつもり?」
女「か、かくよっ!忘れてなんかないよ!」
男「缶カクテル飲むだけの宴会するつもりだったくせに、よくゆーわ」
女「違うってば!ちょっとうっかりしただけ!」
男「んじゃほれ。とっとと書け」
スッ…カタン
女「むー。毎年同じ願いなんだし、去年の使い回しでよくない?エコじゃないよ」
男「出たよエコ厨。使い回しの願いとかいやだっつの。ほんとロマンってもんがねぇなお前」
女「男のくせにロマンチックすぎんのよ、男が」
男「ロマ…なんかやだな、それ」
女「書けたー」
短冊: 『男とずっと、仲の良いカップルでいられますように』
男「あ。やっぱり去年と願い事、変えてきたな。意地っ張りめ」
女「去年は『男とずっと一緒にいたい』だったからね。グレードアップしてみた」
男「…おまえ、去年おんなじようなこと言って『男と幸せに過ごしていきたい』に変えてたよな?」
女「えっ。…そうだったっけ。ごめん、覚えてない…」
男「愛されてんだか愛されてないんだか」ハァ
女「ごめんって! まあでもほら! 趣旨が一緒って事で!」
男「しっかし、出会い頭に大喧嘩するカップルの、しかも1日遅れの願いとか叶うのかねぇ」
女「うーん…私は叶うって信じてるよ! ちゃんとやるのが大事だよ!」
男「そーゆーもん?」
女「そーゆーもん! ほらほら、短冊飾るんだから。 そこどけそこどけ、女が通るー♪」
男「おまえガサツすぎだっつの」ハハ
カサカサ…
女「…これでよし!!」パンッパンッ、ナムー
男「合掌って…なんか違うだろ。なにしたいんだよ」ククッ
女「見てわかんない? 願いが叶うように祈ってるの。真剣だから邪魔しないで」ムムムッ
男「……どっちがロマンチストだっつの」ボソ
女「むむー・・・」
男「・・・・・」
女「ブツブツ・・ブツブツ」
男「・・・・・・(いや、必死すぎねえ?)」
女「さて!」 パンッ
男「あー。もういいのか?」
女「充分に祈ったよ!」
男(確かに)
女「これでもし駄目だったら、私の努力が足りないと思っていいよ」アハハハ
男「おう。そんときは遠慮なくそうするわ」ハハハ
女「ちょっ。ひどくない?」ジトー
男「自分でいったくせに?」
男「ま。あれだ」
女「ん?」
男「星がだめでも、その願いなら俺が叶えてやっから。 平気だ」ポンポン
女「出ました、男の俺様発言」クスクス
男「俺様じゃねぇし」ムッ
女「愛されてるっぽくて幸せだから、俺様でいーよ」ニコッ
男(………コンチクショウ、可愛いとか思っちまった)
女「男、おとこっ」チョイチョイ
男「え? ああ、なんだ?」
女「かんぱいっ!」ズイッ
男「…はは。乾杯」
カチンッ!
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男「あれから、四年かー」
男「結局、仕事が忙しくなって、すれ違いが続いて、転勤で遠距離になって」
男「…喧嘩して別れて、そのまんま」
男「やっぱ、こんな縁起の悪いカップルの願いなんか叶えてもらえねーんだって」ハハハハ
男「明らかに、おまえの努力が足んないとか、そんなんじゃねえっつの」
男「お。そろそろいい時間かな…短冊かざんなきゃ」
カサカサ…
男「はは。エコだね、でもさすがにボロボロになっちまうじゃねーか」
男「……当日に祈ってやれないのは、悪いな。なんか少し…やっぱ妬けるんだわ」
男「まあでも。『ちゃんとやるのが大事』って言ってたから、これくらいでいいんじゃねーの?」
男「かといって翌日にやるのは未練たらしすぎる気がしていやなんだけどな。再現みたいで虚しいし」
男「だからまあ、2日遅れで。こっそりとね」
男「よし、7月9日、0:00。 んじゃ、はじめますかねー、七夕祭り」
パキッ、カシュッ…
男「女。たくさん泣かせて悪かったな」
男「織姫に、祈りと謝罪を込めて」
男「2日遅れで、七夕に願うよ」
男「…乾杯」ハハ
ヒラヒラ…
短冊:『女の人生が、幸せでありますように』
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そのころ
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短冊【女の人生が、幸せでありますように】フヨフヨ…
?「…だってさ。どうする?」
?「こいつら、あの縁起悪いやつらじゃん…こうしてやるっ!」
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ゴクゴク…プハ、
男「…なんか、あれだなー。やっぱ未練たらしくて切ないわー」
男「はぁ…。笹、しまおう…」
ガサガサ…
男「よいしょ。とりあえず玄関に置いておけばいいか」
ガタガタ
男「ん?」
ガチャッ、バタン!
女「やほー! 別れたぶり!」テヘ
男「!?」
女「えへへ。…営業、このエリアの担当にしてもらっちゃった! 新規顧客増やそうって提案して!んで、来ちゃった!」
男「…うぇ!? は!? なんで!?」
女「あー、迷惑だった?」
男「い、いや! そんなことはないけど…って、え?! なにこれ!?」
女「それにしても…笹なんか抱えて。…一人でも七夕祭り継続してたの? どれどれ、願い事みーちゃおっ」
男「あっ!? ちょっ、まっ」
ピラ
男「ひぃっ!?」
女「……」
女「……えへへ」ニヤー
男「……っ、いや、その、これは…」
女「………相変わらずの、ロマンチストだっ」クスクス
男「は、はぁ!?」
女「で、これって。誰と幸せになればいいのー?」
男「…だ、だれって……別にこれは…」
女「だーれー?」ニヤニヤ
男「だ、だから…」
女「……」ジッ
男「…あー…」
男「お、俺…?」
女「ぷっ。出ました、男の俺様発言っ! 懐かしーなー!」
男「ち、違っ…! そ、その、今のは…っ!」
女「……うんっ! 愛されてるっぽくて、やっぱり幸せだよ!」ニコッ
ギュッ
男「ハイ!? ちょ、いや、嬉しいけど…マジでなにごと!?」
女「大好き。やっぱり…ずっと一緒にいたいよ、男」
ギュー・・・
男(な…なんだかすごく恥ずかしいし、急展開すぎてわけがわからん! どうなってんだこれぇぇぇっ!?)
女「男。私の願いは、男が叶えてくれるんだよね?」
男「……っ」
男「ああ。俺が叶えてやっから。…もう、平気だ」
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そのころ
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?「ふふーん♪ どうだ! 七夕、ナメんなっ! 思い知ったかー!」フハハハハー
?「はは……俺はなんか、あの男が他人とは思えなくなってきたわ…」
?「なんで?」
?「……販路拡大も重要な仕事とか言い張って、天の川を渡ってきたの誰だよ…」ボソ
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気がついたら七夕が終わってたのが悔しかっただけです
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