モバP「怪談をしよう」 (29)
桃華「なんですの。帰って来て突然」
P「最近じめじめしてるから気分転換だよ」
幸子「いつやるんですか?」
P「今日だよ。今からだよ。お前達もう用事ないだろ?
ちひろさんもいないしね。今日やろう。見つかると色々言われる。今日やろう。
そうしよう」
みく「でもみくたち三人とPチャンしかいないにゃ。小梅チャンとか呼ばないの?」
P「小梅はダメだ。喜ぶが怖がってくれない。よくない。その分お前らは怖がってくれるからな」
幸子「あ、ボクは……」
P「ようし。準備するぞ。部屋は仮眠室を使おう」
桃華「本当にやりますの?」
P「ああ、やるぞ。今日は泊まっていけ。親御さんには連絡しておこう」ピポパ
幸子「本気なんですか!」
みく「諦めるにゃ。Pチャンの気まぐれは今に始まったことじゃないにゃ」
幸子「うぅ……」
P「連絡は済んだぞ。さぁ仮眠室に移動だ」ゴソゴソ
みく「何やってるにゃ?」
P「雰囲気作りのアイテムを用意してるんだよ。
先に行っててくれ。すぐに準備していく」
みく「わかったにゃ」
桃華「それにしても本当に急ですわね」
みく「大方どこかで怖い話でも聞いてきたんでしょ」
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幸子「ヒィ!」
みく「きゃっ、どうしたの!」
幸子「今! 布団が!」
布団「」モゾモゾ
桃華「……」ガバッ
裕子「んー……」ムニャムニャ
みく「幸子チャーン……」
幸子「だ、だって電気も消えてたしボクが来てから誰も仮眠室に入ってないんですよ!?」
桃華「そういえばわたくしが来てからも入ってないような……」
みく「とりあえず起こすにゃ。ユッコチャンー、おーきーてー」ユサユサ
裕子「んん……、おはよう……ございます」
桃華「いつから寝てらして?」
裕子「午前中のレッスン終わったら眠かったので昼寝を……。あっ、さいきっく昼寝を」
幸子「そこは言い直さなくていいです」
裕子「そろそろおやつ時ですか? あれ、でも外が暗いような」
桃華「もう九時過ぎていますわ」
裕子「」
みく「昨日ちゃんと寝た?」
裕子「幽体離脱の練習をしていたらそっちに熱中しちゃってあまり眠れず……」
桃華「それにレッスンの疲れが合さったというわけですわね」
裕子「ところでみなさんはどうしたのですか?」
幸子「実は……」
P「ようし。みんないるかー。あれ、なんで裕子がいるんだ」
みく「お昼からずっと寝てたみたいにゃ」
P「なるほど」
裕子「あっ! なんですかそのお菓子とかジュースとかは! なにかするんですか!」
桃華「Pちゃまが……」
裕子「おっと言わないでください。当てますから! むむむ……」
幸子「この事務所にそんなにたくさんのお菓子があったんですね」
P「ああ、怪談だしお菓子もいるだろ?」
裕子「ああ! 言わないでくださいよ! やり直しです!」
P「……」
裕子「……ムムム! これは! わかりましたよ。
ずばりこれから怪談をするんですね!」
P「ピンポーン! さいきっく大正解!」
みく「いや、そういうのいいから」
裕子「でもなんでいきなり怪談を?」
P「じめじめしてるからな」
裕子「なるほど」
桃華「今の説明で理解出来ますの……?」
P「じゃあお前らここに車座になれ。俺の場所はここな」
幸子「ところで床に座らず、普通にソファーに座りながらやればいいのでは?」
P「雰囲気だよ。暗い部屋で車座になって、ロウソク一本に頭をつき合わせてやるのがいいんだろ」
裕子「そうですね。確かにそう思います」モグモグ
みく「ユッコチャン、食べ過ぎると太るにゃ」
裕子「お腹が減ってしまったもので……」
P「さてと、準備は出来たし、部屋の電気消すぞー」
幸子「ま、待って下さい! 別に消すことないじゃないですか!
ほら、暗いと手元がわからないですしお菓子食べにくいですよ?」
P「雰囲気作りだよ」パチン
幸子「ヒィ!」
みく「幸子チャン、手握る?」
幸子「かかかかかかかカワイイボクが」
みく「はい、握ろうね」
桃華「本当に真っ暗ですわね。今日は外も曇ってて月の灯りもないですし
まるで世界からここだけが取り残されてしまったような……」
P「いい表現だな」
幸子「お、脅かすのはやめてくださいよ」
裕子「私とも手を握ります?」
幸子「その手、さっきポテチ掴んでましたよね」
P「じゃあ始めるかー。ああ、俺がするからお前らはずっと聞き手だぞ。
そのつもりで」
「……」シーン
P「……エメラルドスプラッシュ!!」
幸子「ヒイイイイィィィ!!」ガタッ
みく「落ち着くにゃ! ただのスタンドにゃ!」
P「気を取り直して改めていくぞー」
幸子「うぅ……」
P「話を一つ。とある一人暮らしの独身惰性の話。
その男性は非常に多忙で家では睡眠を取るぐらいしかしていなかった。
そんな忙殺されるような生活を送っていたある日、一日だけ休暇を取る事が出来た。とは
言っても仕事漬けの日々だったため休日に何をしていいものかわからず仕方なく仕舞っ
てあった昔のテレビゲームを引っ張り出しやることにした。
これが意外にハマってしまい、気付けば就寝時間になってしまった。散らかしっぱなしな
のが多少気になるが片付ける時間が惜しいのでそのまま就寝。翌朝もすぐに出社した。
その日、帰ってくると異変に気付いた。散らかしっぱなしなのは変わらないのだが微妙に
物の位置がずれている。自然にずれたという具合ではない。さては自分の母親が来たの
かとも考えたがその割には書き置きや連絡もないし、そもそも鍵がないので入る事が出
来ないはずだ。不審に思ったが既に夜中。どうこうする時間はないので、また物の位置を
ずらして就寝した。
翌朝。動いていないことを確認してから出社する。そしてその日も夜中に帰宅。早速確認
するとやはりずれている。いや、ずれていると言うよりも散らばっていたのがある程度まと
められている。片付けているような印象にもとれる。しかし誰が? 泥棒にしては他の場所
は荒らされていない。
次の日。男性は仕事場からビデオカメラを借りてきた。長時間録画できるものだ。これで
留守中何が起きているのか録画するのだ。不審者が映れば、それをそのまま警察に証拠
として出すことも出来る。翌日。物を少し散らかし、ビデオカメラをわかりにくいところにセッ
トしてから出社した。
しかしその日、仕事が早く片付き早めに帰宅することが出来た。もしかしたらまだ不審者が
来ていないかもしれない。それならそれで次の日にまた同じことをすればいいかと思い、ま
っすぐ帰宅した。鍵を開けて、位置を確認すると朝と場所が変わっていた。どうやら来た後
のようだ。セットしていたビデオカメラを停止して、震えながらテレビに繋げる。
最初に映っていたのは男性の顔だ。アップだったので少しびっくりする。その後、カメラ外へ
と消えてドアを閉める音がした。ここから早送りにする。何も映らない画面が続き、もうすぐ
男性の帰宅時間になるくらいになった時、カメラに人が映った。慌てて、通常再生に戻す。
入ってきた赤い服を着た少女はベッドの上に寝転んだり、物を片付けたり、寝転んだり、
タンスを物色したり、寝転んだりしている。玄関から音が聞こえてきた。少女がベッドの下に
素早く潜り込む。そして部屋に誰かが入ってきた。男性だ。
朝と同じように男性の顔がアップになり、録画が終わった。
以上」
幸子「」
桃華「け、結構怖いですわね」
裕子「テレポートがあればベッドの下に行かずに済んだものの……」
P「怖いだろ? 実話だぞ」
みく「それってまゆチャンだよね?」
P「……」
みく「男性ってPチャンだよね?」
P「じゃあ次行くかー」
幸子「え、まだあるんですか!?」
P「まだ一個しか話してないじゃんか」
みく「大丈夫。みくが握ってるにゃ」
幸子「うん……」
裕子「桃華ちゃんは大丈夫ですか?」
桃華「もしかしたら頼むかもしれませんわ。
ただその前に口と手を拭いてくださいまし」
P「話を一つ。心霊スポットのトンネルの話。
ある夏のこと。大学生の青年が仲間達と夏の計画を立てていた。旅行。花火。海。山。
候補は色々あるがなかなか決まらず、計画は難航していた。そのとき、仲間の一人がこう言った。
「肝試しってどうだ?」
話を聞くと、ここから車で二時間ほど行った場所に幽霊が出ると噂されるトンネルがあると
いう。車ならば仲間に持っている奴がいるし、何よりもお金はかからない。女の子と行けば
盛り上がるかもしれない。そう考えた青年達は何人かの女の子を誘って、早速行く事にした。
当日。男三女二で陽が沈んでから出発した。もしも嫌がられたらカラオケとかでも行くかと
思っていたが女の子達も結構乗る気で、向かう車中ではそのトンネルの怪談話で盛り上が
った。あと三十分くらいかというところで女の子が一人がこう言った。
「私、霊感とかないんだけどちゃんとわかるのかな?」
それを聞いた四人が口を揃えてこう返す。自分達もないと。じゃあ幽霊には会えないかもね
と到着まで和みムードは続いた。
そのトンネルは車の通りは少ないが入る事は出来るので青年達はそのまま車で中に入る
ことにした。だが入る直前に青年の一人が
「中で何かあったらバックで逃げなきゃいけないし、バックで入ったほうがよくない?」
と提案した。確かにその青年の言うとおり、トンネルは車二台がどうにかスレ違える程度
の幅しかなく、灯りも心なしか薄暗いのでUターンは難しい。そのまま直進してトンネルを
抜ける方法もあるが、そこから地元に帰るのは結構な遠回りになるので出来ればやりたくない。
運転手はトンネル前で切りかえして、バックで侵入した。
トンネルに侵入すると、わいわいしていた車内もさすがに静かになった。
薄暗い明りや、どこからか聞こえる水の落ちる音が雰囲気を変えた。
だけど上から何か降って来るだとか妙な声が聞こえるとか手形が付くということもなく、
呆気なく車はトンネルの中ほどまで来た。ここでクラクションを三回鳴らすと恐怖体験を
するという。運転手の青年は躊躇うことなく三回、長めにクラクションを鳴らす。トンネルの
内部で音が少し反響し、やがて静かになった。車内の人間が息を飲んで、周りを見渡す。
十分後。青年達は何事もなく、トンネルを後にした、
何もなかったねとみんなが残念そうに語る。このまま地元まで帰ってカラオケでも行こう
かという話になり、車を急がせる。やっぱり霊感ないとだめなのかなーとまた来た時と同
じように和みムードになり始めた。そう、その時だった。夜の空に響く、人の声が聞こえたのだ。
パトカーだった。路肩に止めなさいとマイクで言われる。スピードの出しすぎだったのだろうか
と路肩に寄せる。その時、青年の一人がハッとした表情で言った。
「もしかして恐怖体験ってパトカーに捕まるってことか?」
確かに心霊スポットということで人も来るだろうし、中には迷惑行為を働く輩もいるだろう。
だから警察が近くを巡回しているってことも十分にありえる。実際にトンネルで何事もなかった
ので車内でそれに反論する人はいなかった。
やがて車は止まり、後ろから警官がやってくる。運転手は窓を開けて、警官に話しかけようとした。
しかしそれよりも先に警官が慌てた様子で運転手に怒鳴りつける。
「車の屋根に乗っていた女の子はどこにいった!」
以上」
幸子「」
裕子「さいきっく……ですか」
みく「深刻そうな顔で何言ってるにゃ」
桃華「ちょっと場所交代しません? わたくし、前川さんの隣がいいですわ」
裕子「あ、手を握ってほしいのですか? それなら」
桃華「あ、いえ、掘さんは結構です」
裕子「え、ひどくない?」
みく「それはみくのセリフにゃ!」
P「おお、入れ替えならいいぞ。でも車座は崩すなよ?
雰囲気が大事だからなぁ」
みく「Pチャンもうちょっと優しい話にしないと幸子チャンが大変なことになるにゃ」
裕子「もうだいぶ大変な事になっているように見えますけど」
幸子「」
P「怪談は怖くないと意味ないのだが……仕方ない。
話を一つ。アメリカの都市伝説の話。
時は遡ること1931年のこと。
当時、敵機を発見するために用いられていたレーダーは「船体が発する、磁気に反応する」
ものであると考えられていた。そこでとある科学者が「装置を使い、磁気を消せばレーダー
から回避出来るのではないか」という仮説を立てた。この仮説を元に研究は進み、それから
12年後の1943年10月28日。ペンシルベニア州フィラデルフィアの海上にて船を使っての人体
実験が秘密裏に行われた。
船に搭載されたスイッチを入れると、強力な磁場が発生。見事に船はレーダーから姿を消した。
ところがどういうことか。実験開始と同時に海面から光がわきだし、船を包んでいき、次の瞬間。
船は浮きあがった後、光に包まれて姿がぼやけて行き、やがて目の前から完全に姿を消し去っ
たのだ。消えた船はなぜか2500キロ以上離れた町の海に瞬間移動。そして数分後。消えた時
と同じように光に包まれて元の場所に瞬間移動した。
戻ってきた船の乗員はどうなっていたのか。
あるものは凍り、あるものは体が燃え、またあるものは壁の中に吸い込まれたり、鉄甲板に体が
溶け込んだりとほとんどの船員が死亡、もしくは精神異常になり、鉄の隔壁に守られた部屋にいた
一部の人間だけが無事生き残るという大惨事であった。当然ながらこんなことを公に出来るはずも
なく、実験を主導していた人間達はこれを隠蔽した。
この一連の出来事をフィラデルフィア計画と呼ばれている。
以上」
裕子「これはテレポートですねぇ……」
幸子「まぁ確かにサイキックですけど……」
みく「失敗してるにゃ」
桃華「怖くはないですわね」
P「ちなみに前提となっているレーダーの原理がそもそも間違っていることは当時からわかっていたこと
だからその辺も含めて人々の間を伝播した都市伝説らしいな」
幸子「こんな話ならいくらでもいいですよ!」
P「でも怪談っぽくないからダメだな。もっと怖いのにしよう。
話を一つ。山のペンションでの話。
ある山に友人達と旅行しにいった男性がいた。予約した宿は山の中にあるペンション型の宿泊施設で
水道ガス電気は通ってるが、食事などは自炊するというものだった。しかしいざ受付に行ってみると
どうやら予約のミスでダブルブッキングしていることがわかった。代わりの宿を用意すると言うものの
ここから距離がある場所で、山から離れた市街地寄りの場所だった。自然を楽しみに来たのにこれでは
意味ないと受付にいい、空いている部屋はないのかと尋ねた。すると受付は
「あることはあるのだが……」
ととても歯切れの悪いことを言う。男性達が問い詰めると受付はぽつぽつと話し始めた。
ほとんどのペンションは湖に面した広場に建っているのだがそのペンションだけが少し離れた林に一軒だ
け建っている。それだけなら今のようなシーズンであれば、お客を入れるのだがどうやらそれだけではな
いようだ。
「もしかして出るんですか」
友人の一人が尋ねると、受付は頭をかきながら頷いた。
そもそも林には元から廃屋があり、湖のペンションを作る際に雰囲気が損なわれるしどうせだから建て直
そうということで今のペンションになったらしい。しかしいざ客を泊めたら夜中に化け物が出たとクレームが
ついた。実際に受付もそのペンションに宿泊し、目撃している。取り壊そうともしたのだがいざ工事をしよう
とすると何かしらの事故に見舞われるために今現在も放置された状態になっている。
男性達は話し合う。いや、既に答えは決まっているのだ。なにせ化け物が見れる。受付が無事だというこ
とはおそらく何かしらを守れば襲われることもないのだろう。だけどここはひとつ交渉をしたい。友人の
一人が受付に話しかける。
「そこでもいいのだがダブルブッキングはそちらの不手際なわけだし宿泊代は安くならないのか」
受付はそうですねと頷いて、半額にすると言った。これで交渉は成立した。
案内されたペンションは二階建ての立派な建物で、化け物が出るといった雰囲気は微塵もなかった。内装
も綺麗で管理が行き届いている。
「いいですか。これだけは守ってください。夜中十二時近くになったら必ず一階の全ての窓やドアの鍵
を閉めてください。一時間ほどでいなくなりますし、二階は平気のようです。ですが一階だけは必ず
鍵を閉めて、出来ればカーテンなんかも閉めて二階にいるのが安全です。それ以外の時間は問題あり
ません」
「もしも閉め忘れたらどうなるのですか?」
「……わかりません。忘れた人はいないので」
受付はそう言い残して、鍵を渡し去っていった。その後、男性達は夜中を楽しみにしながら過ごした。
そして夜中。言われた通り、全ての窓やドアの鍵を閉めた。カーテンも閉めてある。それまで何が起き
るのか予想しあっていたが、時間が近づくにつれ口数は減っていった。やがて十二時の鐘が鳴った。
最初に聞こえたのは足音だった。獣の足音というよりも普通に靴の履いた人間が歩いているような音だ。
もしかして心配した受付が来たのかと思うくらいの足取りだった。しかし足音は玄関を通り過ぎて、ペン
ションの周りを周回し始めた。ずっと変わらないテンポで。確かに人間や動物の行動としてはおかしい。
だがそれだけなのだ。声や臭いといった物もない。ただ足音だけが聞こえる。その足音だって騒いでれ
ば聞こえないかもしれないほどの音だ。
「なんか思ってたよりつまんないな。カーテン開けてみるか」
「よせよ。受付に言われただろ?」
「でも化け物の目撃情報があるってことは見ても平気ってことだろ?
だったら見てみようぜ」
そういうと止める間もなく、一人がカーテンを開けた。
外は相変わらず薄暗い林だ。足音が段々と迫ってくる。鍵が閉まってることは離れていても確認できる。
そしてついに足音が窓の前まで来た。
それは下だけ見ればなんて事はない普通の人間の足だった。靴を履いた男性と思しき足だ。だけど腰か
ら上には何人もの人間を溶かして固めたような肥大した肉塊があった。腕も頭も足も胴体もばらばらに
くっ付き合わせたようなそれが何個もある目でこっちを見て、足を止めた。明らかにバランスが悪いの
に普通に歩いて窓際まで寄ってくる。外に向かって生えている手で窓をノックし、口々に老若男女の声音
で喋り始めた。
「開けて」「開けて」「開けて」「開けて」「開けて」「開けて」「開けて」「開けて」「開けて」
「開けて」「開けて」「開けて」「開けて」「開けて」「開けて」「開けて」「開けて」「開けて」
「開けて」「開けて」「開けて」「開けて」「開けて」「開けて」「開けて」「開けて」「開けて」
「開けて」「開けて」「開けて」「開けて」「開けて」「開けて」「開けて」「開けて」「開けて」
「開けて」「開けて」「開けて」「開けて」「開けて」「開けて」「開けて」「開けて」「開けて」
「開けて」「開けて」「開けて」「開けて」「開けて」「開けて」「開けて」「開けて」「開けて」
「開けて」「開けて」「開けて」「開けて」「開けて」「開けて」「開けて」「開けて」「開けて」
「開けて」「開けて」「開けて」「開けて」「開けて」「開けて」「開けて」「開けて」「開けて」
「開けて」「開けて」「開けて」「開けて」「開けて」「開けて」「開けて」「開けて」「開けて」
「開けて」「開けて」「開けて」「開けて」「開けて」「開けて」「開けて」「開けて」「開けて」
「開けて」「開けて」「開けて」「開けて」「開けて」「開けて」「開けて」「開けて」「開けて」
「開けて」「開けて」「開けて」「開けて」「開けて」「開けて」「開けて」「開けて」「開けて」
「開けて」「開けて」「開けて」「開けて」「開けて」「開けて」「開けて」「開けて」「開けて」
「開けて」「開けて」「開けて」「開けて」「開けて」「開けて」「開けて」「開けて」「開けて」
「開けて」「開けて」「開けて」「開けて」「開けて」「開けて」「開けて」「開けて」「開けて」
「開けて」「開けて」「開けて」「開けて」「開けて」「開けて」「開けて」「開けて」「開けて」
「開けて」「開けて」「開けて」「開けて」「開けて」「開けて」「開けて」「開けて」「開けて」
「開けて」「開けて」「開けて」「開けて」「開けて」「開けて」「開けて」「開けて」「開けて」
「開けて」「開けて」「開けて」「開けて」「開けて」「開けて」「開けて」「開けて」「開けて」
「開けて」「開けて」「開けて」「開けて」「開けて」「開けて」「開けて」「開けて」「開けて」
「開けて」「開けて」「開けて」「開けて」「開けて」「開けて」「開けて」「開けて」「開けて」
「開けて」「開けて」「開けて」「開けて」「開けて」「開けて」「開けて」「開けて」「開けて」
「開けて」「開けて」「開けて」「開けて」「開けて」「開けて」「開けて」「開けて」「開けて」
「開けて」「開けて」「開けて」「開けて」「開けて」「開けて」「開けて」「開けて」「開けて」
「開けて」「開けて」「開けて」「開けて」「開けて」「開けて」「開けて」「開けて」「開けて」
「開けて」「開けて」「開けて」「開けて」「開けて」「開けて」「開けて」「開けて」「開けて」
「開けて」「開けて」「開けて」「開けて」「開けて」「開けて」「開けて」「開けて」「開けて」
「開けて」「開けて」「開けて」「開けて」「開けて」「開けて」「開けて」「開けて」「開けて」
気付けば朝になっていた。どうやらあの後、失神してしまったようだ。男性は友人達を起こし、すぐに受付
に向かい、宿を引き払った。化け物を見たと話すと、受付は
「見ただけなら無害だからお祓いとかは大丈夫ですよ」
と答えた。そうは言っても気になるので後日、寺で無理を言ってお祓いをしてもらった。
お祓いの終わった帰り、車内で友人がふと思い出したかのように言う。
「なんであのペンション壊さないんだろう」
「そりゃ事故が起きるからって言ってただろ」
「じゃあなんで元々あった廃屋は壊せたんだ? あれは廃屋とは無関係なのか?」
「……さあな。わかんねぇよ」
「そもそも内装だって綺麗過ぎるだろ。普通のペンションと変わりなかったぜ? 化け物が出るなら
人なんて普通泊めないし、荷物置き場とかになるだろ。そもそも見ただけでは問題ないってなんで
言い切れるんだよ」
「どうしたんだよ。何が言いたいんだ」
「あの受付。もしかしてわざとブッキングさせてあそこに客泊めてるんじゃねえか?
化け物の素性も何もかも知っている上で。それでもしも窓を開けたら……」
全ては友人の想像でしかない。だがどちらにしろそれを確認する気はないし、もう二度と行くこともない。
以上」
「…………」
P「普通の足に何人分もの人間の塊なんか付けてたらそりゃバランスも悪いだろうな。ははは」
桃華「あのまだ続けまして?」
P「ああ、まだだ。まだ続くぞ」
裕子「……あっ、あの! プロデューサーさんの後ろにあるペットボトルって中身なんですか!
飲んでいいですか!」
P「だめだよ。雰囲気作りのためだよ。だめだよ」
みく「ペットボトルで作られる雰囲気ってなんにゃ。幸子チャン大丈夫?」
幸子「は、はひ……」
P「じゃあ次の話するか。山は話したから海の話だ。
話を一つ。盆の海の話。
お盆の海に近づいてはいけないってのは一回ぐらい聞いた事はあると思う。霊は水場に集まるって言う
しな。盆という時期柄引き込まれるというイメージがついたのかもしれない。もしかしたら盆にはクラゲが
出てきて危ないから近づくなって意味だったりしてな。だけど確実にそれだけではないんだ。
ある少年が遠い親戚の葬儀に参加するため、海沿いの地方の家まで行った。季節は夏。不謹慎ではある
がまさか海へ旅行に行けるとは思ってなかったので内心ウキウキしていた。着いてみると眼前には人気
のない綺麗な砂浜と海が広がっている。すぐにでも泳ぎたいと思っていたのだが母親に
「葬式の間は入ってはいけない」
と予め釘を刺されていたので我慢することにした。
家には既に何人もの親戚が集まっていた。両親に連れられて挨拶周りをする。最後に今回亡くなった人
の写真の前で手を合わせた。写真が置いてある台は豪華でもなんでもなくとりあえず家にあった丁度い
い台に乗せただけみたいな感じで隣には大きな四角い箱が置いてあるだけだった。
「覚えてないだろうけどあんたここに十年前に来てて、会ったことある人なんだよ」
母親にそう言われて改めて写真を見る。太った中年くらいのアロハシャツの似合いそうなおじさんが笑って
いる。うっすらと頭を撫でられたような記憶があるがあまりはっきりとはしない。
葬式は明日身内だけでやるので今日は自由にしていいと母親が言うので試しに海で泳いでいいか聞いた
ら知らない親戚のおじさんに
「いいか。葬式が終わるまでは絶対に入ったらだめだぞ。なに、明日には終わるから明後日体が焦げる
ほど遊べばいいさ」
と言われ、頭をぐしゃぐしゃされた。なんでだめなのか尋ねたが教えてもらえなかったのでその日は親
戚のおじさんに遊んでもらった。
翌日、葬式が始まった。
お坊さんを呼んで、みんなで座っているものかと思っていたがそういうのではなく、写真のある部屋で
昼間から宴会をするというものだった。途中で昨日仲良くなったおじさんになんでこんな楽しげな葬式
なのか聞くと、昔からここの家系ではそういう葬式をしているのだという。亡くなった人が寂しくないように
憂いを残さないように笑って騒いで送り出すそうだ。
やがて陽が暮れて、夜になっても葬式は続いた。九時ぐらいになるとさすがにみんな疲れてきたのか静
かになった。起きている人が部屋に布団を敷いていく。昨日はみんな別々の部屋に寝たのに今日はみん
な同じ部屋で寝るようだ。酔い潰れている人がいるからだろうかと納得した。大部屋のために全員が寝る
のにも十分な広さはある。しかしなぜか故人の写真と箱を部屋の外に運んでいく。母親に尋ねても答えて
くれない。さらに部屋の襖をきっちり閉めて目張りまでする。一箇所だけ家の奥へと入る襖には目張りを
せずに、トイレ用と書かれた張り紙が張ってあった。さすがに異様な雰囲気を感じたがなんとなく聞けず、母親に
「トイレに行く時は必ず私を起こしていきなさい。一人で言っちゃだめ」
と言われ寝かしつけられた。
しかしこんな異様な雰囲気ではさすがに寝付けず、両親を起こさないように寝返りをうっていると外か
から何かを引きずるような音が聞こえた。さらにびちゃびちゃと水の音もする。音は襖と廊下を挟んだ
すぐ外、さきほど写真と箱を運んだほうから聞こえてきた。その時、なぜそう思ったかわからないがトイレ
に行こうと思い、母の言い付けも無視して、一人で襖を開けてトイレに向かった。トイレまでの道は一直線
で他の場所は全て寝ていた部屋と同じように目張りされている。中に入ったものの別に出る物はなく、
なんとなく顔を上げたら目張りされた小窓があることに気付いた。この小窓からなら外が覗ける。そう思い
何の躊躇いもなく目張りを外し、小窓を開けた。つっかえがあるようで少ししか開かなかったが外から生臭い
臭いが漂ってきた。どうにか先ほどの音の正体を調べようと角度を変えながら覗くと音のした庭が見えてきた。
庭の縁側にはいくつかの壷が並んでおり、何かよくわからないものがその壷を一個ずつ開けているのが
見えた。光源はトイレの灯りと月の光ぐらいしかないのになぜか縁側に並んでおかれたたくさんの壷
やそれを一個ずつ丁寧に蓋を開けているそれの姿もはっきり見えた。それは白い石を纏った餅のような
形をしており、表面は濡れていた。体から飛び出た二本の細く白い棒のような腕で丁寧に壷の蓋を開けて、
中身を体の上でひっくり返している。中から出てきた白い石のようなものを吸収すると代わりに、体に付いて
いた石を壷に入れて、蓋をする。それを端から繰り返しているようだ。次の壷に動く際に、体は地面に引きず
られて、水が滴っている。こちらに気付く様子もなく、その行為を繰り返し、一番端の壷に辿り着いた。今まで
と同じように蓋を開けて、体の上でひっくり返すと今までよりもたくさんの石がそれの上に降り注いだ。
その時、初めて石の正体に気付いた。あれは人の骨だ。それに気付くと今まで平気だったのに足がガクガク
震え、今すぐここに逃げ出したいという恐怖に襲われた。なぜ自分がこれを普通に見ていたのかわからない。
母親の言い付けを守らなかったのも行きたくもないトイレに来たのも目張りしていた窓を開けたのもわからない。
そしてさらに重大なことに気付く。
このトイレは先ほどの音がした庭と逆側についているんだ。なぜあれが見えるのか。
怖いのに目が離せない。それは今までよりも時間をかけて、骨を吸収し、体に付いていた骨を壷に入れて蓋を
した。あの細い腕も全て人の骨だったんだ。それはゆっくりと壷を置き、目のない顔で確かにこちらを見た。
そして少年はそこで気絶した。
翌朝。頬と叩かれる感触と名を呼ぶ声で目を覚ました。目の前には顔が真っ青な家族や親戚たちがいた。
「見たのか?」
その中の一人のおじいさんが問う。何かとは聞かれなかったがすぐにあれだとわかった。少年が頷くと母親が
わっと泣きだし、父親が項垂れた。親戚たちも顔を曇らせる。
その後、昨日の葬式をした部屋まで連れて行かれ、正座をさせられ、話を聞かされた。
あれは遠い昔からこの海に住んでいる神様で、人間は後からこの地にやってきた。最初は先住民である神様
を恐れ、敬い、供物を捧げ、祭っていた人間だったが、そのうち欲深い人間達が神様の領分にまで手を出して
しまった。それを神様はひどく怒った。海からは魚が消え、人間達は飢えに襲われたという。これはどうにかし
ないといけないと人間の代表が神様の怒りを治めるために話をしにいった。その結果。いくつかの取り決めが
代表との間で交わされた。その時の代表がこの家の先祖に当たる。
おじいさんは話をそこで切り、一呼吸置く。
十年の一度。生贄を捧げること。生贄となった人間は必ず八月の始めに死ぬ。そうしたら死体を焼き、骨を壷
に入れて保管する。葬式は八月十五日に上げ、夜になったら縁側に蓋をして壷を置いておく。壷は蓋を開けずに
保管し、十年に一度、その年の生贄と一緒に壷を並べる。生贄は神様が選ぶから葬式の時は必ず親族全員が
集まること。いなかったり、神様の姿を見たり、あるいは葬式の日に海に入ったら生贄が増えるかもしれないから
やってはいけない。
「今まで神様の姿を見たり、海に入ったりと約束を破った人間は何人かいた。そういった人間は大抵生贄の証が
出たがそうでない場合もあった。おそらくは神様の気まぐれだろう。そして今のお前には証である首のアザがある」
母親のすすり泣く声が一層強くなる。父親に渡された鏡で自分の首を見ると紐で首をしめたようなアザが出来て
いた。おじいさんが搾り出すような声で言う。
「生贄になった人間の多くは夜中に誘われるようにどこかに行き、神様の姿を見ている。お前がトイレ
にいたのもそういう理由からだろう。お前は悪くない。悪くないんだ……」
以上」
裕子「え、終わりですか? この後、救いがあったり……」
P「ないよ。いつだって話はハッピーエンドなわけではないんだ」
桃華「……Pちゃま。もうそろそろお開きにしてもよろしいのでは?」
P「だめだよ。まだだよ」
みく「……Pチャン?」
P「まだあるんだ。次の話をしよう。
話を一つ。夢の話。
少女は夢を見ていた。汽車に乗っている夢だ。
木造で出来た車内と体が沈むような柔らかい深緑色の椅子。車内はとても静かだがだいぶ混んでいて、自分の
座っている二人掛けの椅子や向かい合わせになっている席も知らない人が座っている。窓から外を覗くと木々の
間から爛々と輝く遊園地のような建物が見える。夜だというのにそこだけが昼間のように明るい。
「あれってなんですか?」
少女は窓際に座っていた唯一起きている向かいの老人に尋ねた。老人は窓から外を覗き、首をかしげる。
「なんでしょうなぁ」
白いあごひげを撫でながら笑う。そこで少女は目を覚ました。
友人にそれを話すと
「銀河鉄道なんじゃない?」
と適当に流されてしまった。友人に言われて少女はあの汽車がどこに向かっているのかを知らない事に気付いた。
しかし何にしろ同じ夢を見る事はないだろうし、深く考えなくていいかと思い、少女はそれ以降汽車の夢について
考える事は無かった。
しかしその日の夜。少女は同じ汽車の夢を見た。
前と同じように椅子に座っている。向かいにいる人も前回と同じだ。窓の外も前回と変わりない。老人にこの汽車の
行き先を聞こうとしたら、車両を繋ぐドアが開いた。車掌の格好をした若い男性が入ってきて、車両を見渡す。
「これから切符の確認をします。乗客のかたは切符を出して下さい」
男性は明朗な声でそう宣言し、一番手前からチェックを始めた。
少女は慌てて、ポケットを調べるが切符どころか何一つ持っていない。身の回りにも手荷物もなくこのままでは
無賃乗車で捕まってしまう。どうしようと悩んでいるうちに少女は目を覚ました。
この事を同じ友人に話すと怪訝な顔をして
「同じ夢を見たの? 連続で? 電車で旅でもしたいとか思ってるんじゃないの?」
と言われた。夢というのは未だに解明されてないことが多くあるようだが、寝る前にある物事を強く想像していると
その夢を見るという話は聞いた事がある。意識的にはそう思ってなくても私の心の根底では電車やあんな汽車で
どこかへ旅をしたいと思っているのかもしれない。そんな理由で自分を適当に納得させた。
夢の中で目を覚ますと、昨日の続きだった。
車掌は少女の席の前の廊下に既にいて、向かいの老人が何か紙を渡していた。それを車掌がペンチのような道具
でパチンと挟み、老人に返す。次に車掌が少女に手を差し出す。
「すみません。切符持ってないんです」
ごめんなさい、と立ち上がって頭を下げる。しかし返って来た反応は意外なものだった。
「そうですか。ではごゆっくり」
そのまま車掌は隣の席に移る。少女はそれを腰を曲げたまま呆然と見送った。
「起きているからお若いのに切符を持っているのかと思ったのじゃが違ったようじゃの」
老人が朗らかに笑いながら自分の髭を撫でる。そういえば少女の隣にいる人もその向かいの人。いや、立ち上がっ
て車内を見渡すとみんな椅子に座ったまま寝ている。だから静かなのだ。今いち状況が飲み込めずにいると老人が
座るように促すので、着席する。
「この汽車の乗客は普段寝ているんじゃ。そして目を覚ましたとき、この汽車から降りる。切符と
はこの汽車から降りる券、降車券とでも呼ぶ代物のことじゃな」
そう言って老人が少女に降車券を見せる。古い紙には『1930-』と書かれており、その横に穴が空いているだけで他には
何も書かれていない。老人にそれを返すと彼女は夢から目を覚ました。
その日も夢の話を友人にして不思議だよねと話すといつもより神妙な顔で
「古い数字だけが書かれた切符か……」
と独り言のように呟く。少女には友人が何を言っているのかよくわからなかった。
「まもなく到着です」
どこからかそんなアナウンスが聞こえてきた。向かいの老人が立ち上がる。窓の外で流れる風景が段々とゆっくりに
なっていき、鬱蒼と茂っていた林はいつの間にか白く濃い霧に隠れて見えなくなっていた。
「それじゃあお嬢さん。良い旅を」
老人は頭を下げて、廊下を歩いていく。少女も慌てて頭を下げる。降りる人が少ないようで誰かが立ち上がるような音
がしない。席に座って窓から風景を眺めるがこう霧が濃いと何も楽しめない。
床が軋む足音が聞こえて、まだ降りる人がいるんだと廊下を見ると友人の姿があった。思わず友人の名前を呼ぶと
立ち止まって振り返る。
「降りちゃうの?」
「切符があるからね」
友人はバイバイと手を振ってそのまま車両から出て行く。気付けば汽車は停止していた。窓に頭をこするようにつけて
外を覗く。僅かにホームのような足場だけが見える。その先は霧で何も見えない。汽車から降りた人が吸い込まれるよう
に消えていく。そこの友人の姿があった。少女は窓を開けて呼びかけたかったがはめ殺しになっているため開けることが
出来ず、そうこうしている間に友人の姿は消えていた。
この事を友人に話したかったが、その日は友人は欠席で話すことが出来なかった。
再び加速し始めた汽車。窓から外を覗くとまた林と遊園地のような建物が見える。友人達はあそこに行ったのだろうか。
車掌に話を聞くため、少女は車両の先頭に行く事にした。どのぐらいの車両を移動しただろうか。少女はようやく今まで
見た事がない車両に到達した。ここに来るまでの車両に乗っていた乗客はみな眠っていた。中には見知った顔もあった。
それは少女の身の回りの人間だったり、あるいは世界のどこかにいる有名な人でもあった。乗客は日本人だけじゃなく
あらゆる人種を乗せていたのだ。
最後に辿り着いた部屋には椅子が一つと車掌がいるだけで周りは室内と思えないような暗闇が広がっていた。
何を聞くべきか。少し悩んだが、やはり一番大事だと思うことを聞く。
「この汽車はどこへ向かっているのですか」
車掌は微動だにせず、こう答えた。
「未来です」
翌日。登校した少女は友人が死んだことを知った。
そして汽車の夢も見ることがなくなった。
数年後。そのことをすっかり忘れていたある日。大人とも言うべき年齢になった少女は夢を見た。
汽車の夢だ。少し驚いた後、自分のポケットに手を突っ込むとかさりと何かに触れた。
取り出すと古い紙に『2000-』と書かれていた。
以上」
裕子「未来行きの汽車に降りるための券……」
みく「死の暗示、ってことかな」
幸子「眠れなくなったじゃないですか……!」
P「……」
桃華「Pちゃま?」
P「……来る。邪魔が来る」
みく「Pチャンさっきから何かおかしいにゃ」
裕子「何が来るんですか?」
P「怪談を終わらせる邪魔が来る。早く次の話をしよう」
幸子「む、無理に話さなくてもいいんですよ!」
P「無理じゃない。やろう。短い話をしよう。
話を一つ。呪いについての話」
古今東西呪いというのはどこにでも満ち溢れていた。
時には誰かの不幸のために、時には己の幸福のために。その力は行使されてきた。この国にも有名な呪いや儀式
はいくつか存在する。
例えば丑の刻参りや儀式で言えば降霊術のこっくりさんなんかがそれだ。
最近の研究ではそういったものは自己暗示であったり、あるいは無意識の筋肉の運動が起こしているなど様々な結果
が出されている。しかし果たしてそれが本当なのか。もしもそうだとしたらなぜそのような物が何世紀にも渡り行われて
きたのか。疑問に思うだろう。
答えは簡単だ。かつては効果があったからだ。しかしそれは方法の拡散により、効果を失ってしまったのだ。呪術や儀式
は秘匿であるからこそ意味があり、効果を成す。だから今も行われている呪術や儀式は決して衆目に触れられないように
厳重に秘密にされている。科学の光が届かない闇の中にひっそりと。
呪いというのは簡単に言えばゲームのバグと同じで、世界が想定しなかったような行為を行うことで呪いを行使することが
出来る。それは単純な行為から複雑化された儀式など多岐に渡る。もちろん本当に効果のあるような呪いは簡単には
見つかりはしない。一人の人間が一生奇妙なことをし続けても見つからないかもしれない。万が一見つけてもそれの及ぼす
効果や規模はわからない。まさに手探りで探すしかないのだ。現代にも伝わっている効果のある呪術とは何人もの人間が
研究に研究を重ねて来た技術だと言える。まさしく人の怨念が込められた技なのだ。もしくは人外に教えられた外道の技か。
これから生きていく中でオカルトや怪談話を聞いて、人を呪ったりする方法を知ることもあるかもしれない。だがそういった物
はほとんどがでたらめか、あるいは元効果のあった呪術で生きた呪術を知ることはまずない。むしろ気をつけるべきは誰かに
呪われないか。いや、それよりも日常の中で普段と違うちょっとした行動が思いもよらない呪いを引き起こさないように気をつけるべきだろう。
最も気をつけようがないけどな。
以上」
みく「Pチャン。もうやめよう」
P「まだ終わってないぞ」
桃華「……もしかしてこれもその呪いの儀式、だったりしませんわよね」
裕子「百物語、ですか」
P「百も語ってたら朝が来るよ。
そもそも百物語の方法はとてもめんどうなものだ。だからこそ効果が昔はあったかもしれない」
幸子「じゃあ後どのぐらい話すんですか?」
P「あと少しだ。お前達は黙って聞いて怖がればいい。時間がない。次だ。
話を一つ。逢魔時の話。
逢魔時とは夕暮れ時の昼から夜に変わる時間帯のことを差し、昔から魔と遭遇する時間だと言われている。薄暗い夕暮れ時に
向こうからやってくるのは誰なのか。知っている人か知らない人か、あるいは人間以外の何かか。
夜というのは昔からこの世ならざる者達の時間と言われている。故に黄昏時である逢魔時は人とそれ以外が混在する数少ない
時間帯なのだ。だからこの時間にはいくつかの逸話が残されている。
そのうちの一つが入れ替わりだ。逢魔時に道を歩いていると、向こうから誰かがやってくる。手を振っているから友人だと思い、
近づいてみたら顔のない自分だった。そして自分に触れられたら、向こう側に行き、こちらには入れ替わった偽者が残る。こちら側に
来るには顔を手に入れなければいけない。だから人の判別がしにくいこの時間帯を狙うんだ。夜になってしまえば人は灯りをつけて
しまう。灯りの元では顔のないことがすぐにばれてしまう。だから灯りをつけている人間には近寄らない。
顔の手に入れた偽者の行為は様々だ。本物そっくりに動くこともあれば、全く違うことをしたりする。偽者次第だろう。一方の顔を取られた
本物は向こう側で生きていくしかない。もちろん逢魔時に偽者から取り返しに行く事は出来る。しかし成功するはずもなく、魔の住む
人外の世界で一人頭を狂わせて死ぬ。
家族や友人がある日から急に人が変わったり、あるいは微妙な違和感を感じるようになったら
もしかしたら本物は逢魔時の向こう側にいるのかもしれない。
以上」
桃華「なるほど。そういうことでしたのね」
裕子「これはつまり……」
みく「Pチャンは偽者にゃ」
P「……」
幸子「ま、まさかそんなはずないですよね。こんな怪談なんてあるはずないじゃないですか!」
P「なぜないと言いきれる」
幸子「えっ……」
P「話を続けよう」
みく「仕方ないにゃ……こんのぉ!!」ドゴン
P「」バタン
桃華「容赦なく殴りましたわね」
裕子「中身の入ったペットボトルで頭をフルスイングするなんて……。
本物だったら死にますよ」
P「」ムクリ
みく「全く意味なし、かな」
P「話を一つ。百物語の原型の話。
百物語というのは納涼に用いられることのある現代に伝わる儀式もどきの一つである。
百本のロウソクに火を灯し、物語を一つ話すたびにロウソク一本消す。そして全てのロウソクが消えた時、怪異が起こると言われている。
時代と共に方式は段々と簡易化されているし、無論呪いの性質上その効果はない。仮に怪異に遭遇したとしたら極限まで高まった恐怖心が
見せる勘違いだ。しかしこの百物語にはとある由来がある。
ある地方の海沿いの町に伝わる話だ。昔、村の若者達が海を見ながら酒を飲みつつ談笑していると旅人風の男が歩いてきた。もう既に夜も
更けている。そんなに急いでどこへ行くのだと若者が旅人に尋ねると近くで野宿していたのだが眠れないから散歩していたと言う。ならば一緒
に飲もうじゃないかと誘うと男は寄って来てこう言った。自分は語り部をしている。いくつか話をするのでもしもそれが気にいったら酒を少し分けて
くれないか。若者達はその提案に乗り、男に語らせることにした。
男の語り上手で内容は妖怪やあるいは不思議な話ばかりだったがまるで見て来たように語るので思わず若者達は引き込まれてしまった。
いくつかの話が終わり、一段落した時には文句なしで酒を贈呈するほどだった。男は一口だけ酒を飲み、先ほどよりも声を潜めて、
ではとっておきの話をしましょうと言い出した。
呪いというものはこの世に数多に存在するが、これもそのうちの一つである。
まずそれをやるには語り部の背面が海で、なおかつその方角が鬼門でなければいけない。。雨の日でも構わないが基本晴れの日だろう。
聞き手は語り部を含めて車座に座る。最初に必要なのはそれだけだ。
あとは語り部が語るだけでいい。最初がちゃんとしていれば聞き手は動いても構わない。ただし語り部はそこから動いてはいけない。話す内容は
何でもいいわけではない。妖怪や逸話、人外の者が出てくるような不可思議な話のみだ。これを語り部は八話話す。九話目に十物語という怪談
をする。そして最後に死の感覚について話すのだ。この話を全て聞き終えてしまった者は三日以内に死んでしまう。たったこれだけの儀式でだ。
この呪いから逃れるのは簡単。聞かなければいい。どこかで妙な奴がこんな話をして最後の話だ。死の感覚について話そうなんて言い始めた
ら脱兎のごとく逃げれば問題ない。
この儀式の名前を十物語という。
空気が変わったのを若者達は感じた。男の口が裂けたような笑っている。
では最後の話だ。死の感覚について話そう。
若者達が蜘蛛の子を散らすように四方八方に逃げ出す。家に逃げ帰り、世が開けるまで若者は布団に包まっていた。三日後。友人の一人が
死んだ。どうせ嘘だと思い、男の話を全て聞いた友人だった。
この儀式は簡単なのに効果が甚大ではなく大きい。しかし使いこなせれば有益な力になりえると思った村の人間達はこの話を秘匿とし、
万が一漏れたときに嘘だと思われ、広めないために似たようなでっち上げの儀式の話を流布した。それが百物語である。おかげで今となっては
その村のあった町でも十物語について知る人間はほとんどいない。
以上」
裕子「……これ、確か九話目ですよね?」
桃華「物の位置が変わってる話、トンネルの話、アメリカの都市伝説、山のペンションに」
みく「海の神様、夢の中の汽車、呪いについて、逢魔時……そして十物語」
幸子「あ、ああ!! わかりましたよ! カワイイボクにはわかりましたよ! ドッキリですね!
騙されるところでしたね! わかってますよ! 向こうの部屋でちひろさんがドッキリの
看板を持って……あれ」ガチャガチャ
裕子「どうしました?」
幸子「開かないんですけど。え、これ鍵ついてないですよね」ガチャガチャ
P「……」
幸子「Pさん! もう十分ですよね! ほら、ここ開ける様に言ってください!」
P「……」ニタァ
幸子「」バターン
裕子「ああ! 幸子ちゃん!」
幸子「」ブクブク
桃華「そのままにしといてくださいまし。もしかしたら助かるかもしれませんわ」
裕子「……! 待ってください! 十物語には海が必要です! ここには海は……」
みく「これ、さっきのペットボトルだけど多分中身は……」バシャバシャ
桃華「磯の匂い……海水ですわね」
みく「こんな代用品で成立するのかどうかわからないけどこの様子を見る限りでは成立するみたいにゃ」
裕子「ど、どうすれば……」アワアワ
みく「さいきっく怪音波で打ち消すか、それが出来ないなら……諦めるしかないにゃ」
桃華「窓も開きませんわね……」
P「では最後の話を一つ。死の感覚の話」
裕子「」ヒュオオォォォ
裕子「誰か助けてええええぇぇぇぇぇぇ!!!!!!」
バァーン
「「「!?」」」
ちひろ「助けに来ましたよ!」
みく「ちひろさん!?」
P「キィサァアアアマアアアアアアアアアアア!!!」
ちひろ「破ぁ!!」
P「ギャアアアアアアアァァァァァ……」シュオー
ちひろ「うちのアイドルを引き抜こうなんて百万年早いんですよ」
裕子「たす……かった?」
小梅「もう……大丈夫……」
みく「小梅チャン!」
小梅「すぐに気付いたんだけど……邪魔されて遅れた……。
も、もうすぐ……道明寺さんが……」
歌鈴「か、階段で転んで遅れましたー! すぐお祓いします!」
桃華「助かりましたわ……」
その後、向こう側に行ってしまったPチャンは芳乃チャンが連れ戻したにゃ。
事務員のTさんってすごいと思った、にゃ。
以上。
これで移せたから後は頼んだよ
任せろ
長かったが面白かった特にまゆ
乙
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